(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
第1電圧は、式(1)を満たすように設定され、第2電圧は、制御可能電圧範囲の下限電圧に設定されていることを特徴とする請求項1または2記載のインバータの制御装置。
第1電圧=m×(制御可能電圧範囲の上限電圧)+n×制御可能電圧範囲の下限電圧)……(1)
式(1)中において、m+n=1、0<m≦1、0≦n<1とする。
モータの回転数およびトルク指令に対応したd軸,q軸電流指令を制御部により導出し、当該導出したd軸,q軸電流指令に基づいてモータを駆動制御する制御方法であって、
制御部において、
比較用電圧値が格納されている電圧マップ部が、モータの回転数およびトルク指令に対応した比較用電圧値を出力する比較用電圧値出力過程と、
電圧比較部が、電圧マップ部から入力され電圧余裕度が乗じられた比較用電圧値と、インバータの直流電源電圧を検出して得た検出電圧値と、を比較する電圧値比較過程と、
第1,第2電流指令テーブルを有した電流指令導出部が、比較用電圧値出力過程の比較結果に基づいてd軸,q軸電流指令を導出する指令導出過程と、
を有し、
第1電流指令テーブルは、インバータによるモータの駆動制御が可能な直流電源電圧の制御可能電圧範囲のうち、任意の第1電圧でモータの運転を行った場合において、回転数およびトルク指令毎に対応して総合効率が最適化されるd軸,q軸電流指令により作成されたものであり、
第2電流指令テーブルは、制御可能電圧範囲のうち、第1電圧よりも小さい任意の第2電圧でモータの運転を行った場合において、回転数およびトルク指令毎に対応して総合効率が最適化されるd軸,q軸電流指令により作成されたものであり、
電圧マップ部の比較用電圧値は、制御可能電圧範囲のうち、回転数およびトルク指令毎におけるモータの運転に必要な最小限電圧値であり、当該回転数およびトルク指令毎に対応して電圧マップ部に格納され、
電流指令導出部は、検出電圧値が制御可能電圧範囲の上限値以下で電圧余裕度が乗じられた比較用電圧値以上の場合には、第1電流指令テーブルにおいて回転数およびトルク指令に対応したd軸,q軸電流指令を導出し、
検出電圧値が制御可能電圧範囲の下限値以上で電圧余裕度が乗じられた比較用電圧値未満の場合には、回転数およびトルク指令に対応した補間処理d軸,q軸電流指令を導出し、
補間処理d軸,q軸電流指令は、第1,第2電流指令テーブルにおいて回転数およびトルク指令に対応したd軸,q軸電流指令をそれぞれ抽出して、当該抽出した各d軸,q軸電流指令において検出電圧値に対応した補間処理をして導出したものであることを特徴とするインバータの制御方法。
【背景技術】
【0002】
電流指令等に応じてモータを駆動制御して運転するインバータの制御装置の一例としては、予め作成された電流指令テーブルを用い、モータの回転数(回転速度)やトルク指令等の入力パラメータに基づいて所望の電流指令を適宜決定し出力できるようにしたものがある。
【0003】
電流指令テーブルは、例えば制御装置に入力される入力パラメータを適宜変更しながら、モータの試験運転等の事前運転(例えばモータが許容する全ての運転条件(モータの回転数(回転速度)やトルク指令等)による事前運転等)を行って作成することが挙げられる。この事前運転において、当該入力パラメータ毎に、総合効率(=インバータ効率×モータ効率)を考慮した所望の電流指令を導出できるようにすることも可能である。
【0004】
しかしながら、電流指令テーブルが、例えばインバータの直流電源電圧を所定の固定電圧(定格電圧等)に設定して作成したものであると、モータの負荷状態等に応じて当該直流電源電圧が変動(例えば定格電圧未満に変動)した場合には、当該変動に適応した電流指令を出力できなくなるおそれがある。
【0005】
具体例として、車載用インバータにおいては、蓄電池等のバッテリを直流電源として適用されることが多く、この場合、モータの負荷状態の他に残存容量によって、直流電源電圧が変動してしまうことが考えられる。そして、直流電源電圧の変動に応じた電流指令を出力できなくなると、モータの駆動制御を所望通りに実施できないことや故障等(焼損等)を招く可能性がある。
【0006】
このような場合を想定し、例えば特許文献1の制御装置(以下、単に従来制御装置と適宜称する)においては、インバータの直流電源電圧を2つの固定電圧に設定して作成した2種類の電流指令テーブルを、備えている。
【0007】
この従来制御装置では、例えば直流電源電圧の検出電圧値に応じて、2種類の電流指令テーブルを適宜適用し、当該検出電圧値が2つの固定電圧の両者間の範囲内であれば補間処理を実施して、電流指令を出力できるようにしている。
【0008】
また、2つの固定電圧のうち大きい方には、直流電源電圧において正常な電圧範囲の下限電圧(例えば直流電源の残存容量が十分な場合において、モータを駆動制御して通常運転が可能な直流電源電圧の範囲のうち下限電圧)を適用している。そして、当該2つの固定電圧のうち小さい方には、当該直流電源電圧においてモータの駆動制御が可能な最低限の電圧(例えば直流電源電圧の残存容量が低減した場合において、モータを安全に駆動制御して安全優先の運転ができる最低限の電圧)を適用している。
【0009】
ここで、インバータの効率に着目すると、インバータ出力電圧と直流電源電圧とが近似(例えば変調率が1に近似;以下、単に近似状態と適宜称する)しているほど、高効率になり易いとされている。また、直流電源電圧の変動に対し、インバータの駆動制御の最終的な電圧指令を適宜補正して電流指令を一定にする場合には、例えばインバータ出力電圧を一定にできるような電流指令を出力して適宜駆動制御する手法が採られている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従来制御装置において、直流電源電圧が正常な電圧範囲の下限電圧は、モータの運転状況によって変動(すなわち、入力パラメータによって変動)し得る。例えば、モータの回転数やトルク指令が比較的高い場合よりも、当該回転数やトルク指令が低い場合の方が、当該電圧範囲の下限電圧は低電圧方向に偏倚する傾向がある。
【0012】
すなわち、従来制御装置においては、例えば回転数やトルク指令が比較的低く補間処理が不要の場合(つまり、モータの駆動制御不能や故障等(焼損等)を招くおそれがない場合)であっても、直流電源電圧の検出電圧値が2つの固定電圧の両者間の範囲内であれば、補間処理を実施してしまうことになる。
【0013】
また、例えば最大トルクを発生させるような電流指令テーブルでは、入力パラメータの回転数が比較的低い領域にある場合には所定の電流指令を出力し、当該回転数が比較的高い領域にある場合にはインバータ出力電圧が一定となるような電流指令を出力することが考えられるが、これら両出力の境界は、直流電源電圧によって異なる。
【0014】
このため、補間処理においては、近似状態にすることが困難となる場合があり、インバータ効率を低下させてしまうおそれもある。したがって、必要性の高い補間処理は適宜実施し、必要性の低い補間処理は実施しないようにすることが好ましい。
【0015】
本発明は、かかる技術的課題を鑑みてなされたものであって、必要性の低い補間処理を実施しないように抑制して総合効率向上に貢献する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
この発明の一態様は、インバータによって駆動制御されるモータの回転数およびトルク指令に対応して、d軸,q軸電流指令を導出する制御部を備えた制御装置である。
【0017】
この制御装置の制御部は、回転数およびトルク指令に対応した比較用電圧値を出力する電圧マップ部と、電圧マップ部から入力され電圧余裕度が乗じられた比較用電圧値と、インバータの直流電源電圧を検出して得た検出電圧値と、を比較する電圧比較部と、第1,第2電流指令テーブルを有し、電圧比較部の比較結果に基づいてd軸,q軸電流指令を導出する電流指令導出部と、を備えたものである。
【0018】
第1電流指令テーブルは、インバータによるモータの駆動制御が可能な直流電源電圧の制御可能電圧範囲のうち、任意の第1電圧でモータの運転を行った場合において、回転数およびトルク指令毎に対応して総合効率が最適化されるd軸,q軸電流指令により作成されたものであり、第2電流指令テーブルは、制御可能電圧範囲のうち、第1電圧よりも小さい任意の第2電圧でモータの運転を行った場合において、回転数およびトルク指令毎に対応して総合効率が最適化されるd軸,q軸電流指令により作成されたものである。電圧マップ部の比較用電圧値は、制御可能電圧範囲のうち、回転数およびトルク指令毎におけるモータの運転に必要な最小限電圧値であり、当該回転数およびトルク指令毎に対応して電圧マップ部に格納されたものである。
【0019】
そして、電流指令導出部は、検出電圧値が制御可能電圧範囲の上限値以下で比較用電圧値以上の場合には、第1電流指令テーブルにおいて回転数およびトルク指令に対応したd軸,q軸電流指令を導出し、検出電圧値が制御可能電圧範囲の下限値以上で比較用電圧値未満の場合には、回転数およびトルク指令に対応した補間処理d軸,q軸電流指令を導出し、補間処理d軸,q軸電流指令は、第1,第2電流指令テーブルにおいて回転数およびトルク指令に対応したd軸,q軸電流指令をそれぞれ抽出して、当該抽出した各d軸,q軸電流指令において検出電圧値に対応した補間処理をして導出したものであることを特徴とする。
【0020】
また、電流指令導出部は、第1,第2電流指令テーブルの他に、一つ以上の中間電流指令テーブルを有し、中間電流指令テーブルは、第1電圧よりも小さく第2電圧よりも大きい任意の中間電圧でモータの運転を行った場合において、回転数およびトルク指令毎に対応して総合効率が最適化されるd軸,q軸電流指令により作成されたものであり、検出電圧値が制御可能電圧範囲の下限値以上で比較用電圧値未満の場合、かつ当該検出電圧値が第1電圧,第2電圧,中間電圧のうち何れかの近似する同士の各電圧間にある場合には、回転数およびトルク指令に対応した補間処理d軸,q軸電流指令を導出し、補間処理d軸,q軸電流指令は、第1,第2電流指令テーブルおよび中間電流指令テーブルのうち、前記近似する同士の各電圧に係る各電流指令テーブルから、前記2つの電圧に係る各電流指令テーブルから、回転数およびトルク指令に対応したd軸,q軸電流指令をそれぞれ抽出して、当該抽出した各d軸,q軸電流指令において検出電圧値に対応した補間処理をして導出したものであることを特徴とするものでも良い。
【0021】
また、第1電圧は、式(1)を満たすように設定され、第2電圧は、制御可能電圧範囲の下限電圧に設定されていることを特徴とするものでも良い。
【0022】
第1電圧=m×(制御可能電圧範囲の上限電圧)+n×制御可能電圧範囲の下限電圧)……(1)
式(1)中において、m+n=1、0<m≦1、0≦n<1とする。
【0023】
また、モータの運転は、力行運転と回生運転を含み、直流電源は、モータの回生運転による回生電力を蓄電し、式(1)中において、m>nを満たすことを特徴とするものでも良い。
【0024】
他の態様は、モータの回転数およびトルク指令に対応したd軸,q軸電流指令を制御部により導出し、当該導出したd軸,q軸電流指令に基づいてモータを駆動制御する制御方法であり、前記一態様による制御装置と同様の制御構成によって実現することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0025】
以上示したように本発明によれば、必要性の低い補間処理を実施しないように抑制して総合効率向上に貢献することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の実施形態によるインバータの制御装置および制御方法は、従来制御装置にように単に検出電圧値が2つの固定電圧の両者間の範囲内である場合に補間処理を実施するものとは、全く異なるものである。
【0028】
すなわち、本実施形態によるインバータの制御装置等は、制御可能電圧範囲(インバータによるモータの駆動制御が可能な直流電源電圧の制御可能電圧範囲)のうち任意の第1,第2電圧(第1電圧>第2電圧)でモータの運転を行った場合(総合効率を最適化できるように運転を行った場合)のd軸,q軸電流指令により作成した第1,第2電流指令テーブルを、適用する。また、前記制御可能電圧範囲のうち、回転数およびトルク指令毎におけるモータの運転に必要な最小限電圧値を、比較用電圧値として適用する。
【0029】
そして、モータの回転数およびトルク指令に対応した比較用電圧値と、インバータの直流電源電圧を検出して得た検出電圧値と、の比較結果に基づいて補間処理(直線補間,折線補間等による補間処理)の要否を判断し、補間処理をしていないd軸,q軸電流指令、または当該補間処理をしたd軸,q軸電流指令(以下、単に補間処理d軸,q軸電流指令と適宜称する)を適宜導出して出力する制御構成である。
【0030】
この本実施形態のような制御構成によれば、例えば回転数やトルク指令が比較的低い場合(従来制御装置では補間処理をしてしまうような場合)であっても、検出電圧値が制御可能電圧範囲の上限値以下で比較用電圧値以上であれば、第1電流指令テーブルにおいて回転数およびトルク指令に対応したd軸,q軸電流指令を導出して出力(後述
図2では導出機能部13aから出力)する。
【0031】
また、検出電圧値が制御可能電圧範囲の下限値以上で比較用電圧値未満の場合には、回転数およびトルク指令と、検出電圧値と、に対応して補間処理した補間処理d軸,q軸電流指令を導出して出力(後述
図2では導出機能部13bから出力)することができる。
【0032】
すなわち、本実施形態のような制御構成によれば、必要性の低い補間処理を実施しないように抑制でき、総合効率向上に貢献可能となる。
【0033】
本実施形態のインバータの制御装置および制御方法は、前述のようにモータの回転数およびトルク指令に対応した比較用電圧値と、インバータの直流電源電圧を検出して得た検出電圧値と、の比較結果に基づいて補間処理の要否を判断して当該補間処理を適宜実施し、回転数およびトルク指令に対応したd軸,q軸電流指令を導出できる制御構成であれば、種々の分野(例えばインバータの駆動制御技術,モータ技術,電源技術等の分野)の技術常識を適宜適用して設計することが可能であり、その一例として以下に示すものが挙げられる。
【0034】
≪本実施形態によるインバータの制御装置の構成例≫
図1は、本実施形態の一例であるインバータの制御装置10を説明するための回路構成図である。
図1に示す制御装置10は、トルク制御部1と、
図1中の破線ブロックで示す電流制御系と、を主として備えており、モータ6に供給する電流を励磁電流成分とトルク電流成分との2軸に分離した制御構成となっている。
【0035】
トルク制御部1は、例えば後述
図2に示すように電圧マップ部11,電圧比較部12,電流指令導出部13,テーブルTb1およびTb2を備えており、モータ6の回転数(回転速度)ωと、トルク指令T
*と、インバータ5の直流電源(図示省略)電圧を検出して得た検出電圧値V
dcと、を入力パラメータとし、当該モータ6に流すd軸電流指令(励磁電流指令)I
d*,q軸電流指令(トルク電流指令)I
q*を導出できるように構成されている。
【0036】
トルク指令T
*,モータ6,直流電源においては、種々の態様を適用することが可能であり、特に限定されるものではない。例えば制御装置10が電気自動車に適用されるものである場合、トルク指令T
*は当該電機自動車のアクセル操作等に応じて与えられるものが挙げられ、モータ6は力行運転および回生運転が可能なものが挙げられ、直流電源は蓄電池等の充放電可能なバッテリが挙げられる。
【0037】
破線ブロックで示す電流制御系において、電流制御部2は、トルク制御部1から出力されたd軸,q軸電流指令I
d*,I
q*と、後述の回転座標変換部3から出力された電流検出値I
d,I
qと、を比較し、当該比較結果および回転数ωに基づいてd軸,q軸電圧指令V
d*,V
q*を導出できるように構成されている。
【0038】
回転座標変換部3は、モータ6の2相電流検出値I
u,I
wとV相電流計算値I
v(=−I
u−I
w)をモータ6の磁極位相θに基づいて変換し、d,q軸電流検出値I
q,I
dを導出できるように構成されている。
【0039】
逆回転座標変換部4は、電流制御部2から出力されたd軸,q軸電圧指令V
d*,V
q*を磁極位相θに基づいて変換し、三相電圧指令V
u*,V
v*,V
w*を導出できるように構成されている。
【0040】
インバータ5は、逆回転座標変換部4から出力された三相電圧指令V
u*,V
v*,V
w*に基づいて出力電圧制御を行うことにより、モータ6を駆動制御(電機子電流を制御)して、当該モータ6において所望の運転をできるように構成されている。
【0041】
検出部61は、例えばエンコーダによって構成され、モータ6のロータ位置信号を発生し、この信号から位置検出器62にて磁極位相θを導出し、速度検出器63にて回転数ωを導出できるように構成されている。
【0042】
〈トルク制御部1の構成例〉
図2はトルク制御部1の構成例を示すものである。以下、
図1に示すものと同様のものには、同一符号を適用する等により、その詳細な説明を適宜省略する。
【0043】
図2に示すトルク制御部1は、電圧マップ部11,電圧比較部12,電流指令導出部13を主として備えており、電流指令導出部13には、所望の第1,第2電流指令テーブルTb1,Tb2が格納されている。
【0044】
この第1,第2電流指令テーブルTb1,Tb2には、それぞれ任意の第1,第2電圧において、総合効率が最適化されるd軸,q軸電流指令I
d*,I
q*のテーブルデータが、回転数ωおよびトルク指令T
*毎に対応するように格納されている(つまり第1,第2電流指令テーブルTb1,Tb2は、回転数ωおよびトルク指令T
*をパラメータとしたテーブルとなっている)。
【0045】
第1,第2電流指令テーブルTb1,Tb2は、例えばインバータ5の直流電源電圧をそれぞれ任意の第1,第2電圧に設定して、トルク制御部1に入力される回転数ωとトルク指令T
*に対応するd軸,q軸電流指令I
d*,I
q*を適宜変更させるインバータ5とモータ6の事前運転を行い、その都度総合効率を計測して、総合効率が最高値×kとなるときのd軸,q軸電流指令I
d*,I
q*を探索することによって作成することが可能である(kは余裕係数で、k=0.9〜1程度とする。最高値よりも若干低い総合効率のときのd軸,q軸電流指令I
d*,I
q*をテーブルに格納してもよく、この場合でも総合効率は最適化されているとみなす)。
【0046】
第1,第2電圧は、例えばインバータ5によるモータ6の駆動制御が可能な直流電源電圧の範囲(以下、単に制御可能電圧範囲と適宜称する)において、第1電圧>第2電圧の関係式を満たすように、それぞれ任意の電圧に設定することが挙げられる。
【0047】
具体例としては、制御可能電圧範囲の上限電圧V
highと下限電圧V
lowとの間で、第1電圧を下記式(1)を満たすように設定し、第2電圧を下限電圧V
lowに設定することが挙げられる。なお、式(1)中において、m+n=1、0<m≦1、0≦n<1とする。
【0048】
第1電圧=m×(制御可能電圧範囲の上限電圧)+n×制御可能電圧範囲の下限電圧)……(1)
式(1)を満たす第1電圧の具体例としては、後述の
図3に示すように、上限電圧V
highと下限電圧V
lowとの平均(すなわち式(1)がm=n=0.5の場合)である平均電圧V
aveに設定することが挙げられる。
【0049】
電圧マップ部11は、回転数ωおよびトルク指令T
*に対応した比較用電圧値V
coのマップデータが格納されており、当該回転数ωおよびトルク指令T
*が入力される毎に、対応する比較用電圧値を適宜導出し出力できるように構成(比較用電圧値出力過程を実行できるように構成)されているものである。
【0050】
マップデータは、例えばインバータ5の直流電源電圧が制御可能電圧範囲の状態で、回転数ωおよびトルク指令T
*を適宜変化させながら事前運転を行って作成することが可能である。具体的には、事前運転において回転数ωおよびトルク指令T
*毎のモータ6の運転に必要な最小限電圧値を検出して、これら各最小限電圧値をそれぞれ比較用電圧値V
coとし、回転数ωおよびトルク指令T
*に対応するようにマップデータ化して作成することが挙げられる。
【0051】
電圧比較部12は、電圧マップ部11から出力された比較用電圧値V
coと、検出電圧値V
dcと、の両者が入力され、当該両者の比較結果を導出して出力できるように構成(電圧比較過程を実行できるように構成)されているものである。電圧マップ部11から入力される比較用電圧値V
coにおいては、例えば過渡的な制御の安定性を加味した電圧余裕度(1以上の係数)を乗じたうえで適用しても良い。
図2のトルク制御部1の場合、電圧余裕度が記録されている記録部14を備えており、乗算器15を介して、比較用電圧値V
coに電圧余裕度を乗じることが可能な構成となっている。
【0052】
電流指令導出部13は、導出機能部13a,13bを備えており、電圧比較部12の比較結果と、検出電圧値V
dcと、の両者が入力され、当該比較結果に基づいて補間処理の要否を判断したうえで、回転数ωおよびトルク指令T
*に対応したd軸,q軸電流指令I
d*,I
q*を適宜導出して出力できるように構成(指令導出過程を実行できるように構成)されているものである。
【0053】
電流指令導出部13による補間処理の要否判断は、例えば電圧比較部12の比較結果において、検出電圧値V
dcが制御可能電圧範囲の上限電圧V
high以下で比較用電圧値V
co以上の場合(以下、単に、V
dc≧V
coの場合と適宜称する)に、当該補間処理が不要であるものと判断する。また、検出電圧値V
dcが制御可能電圧範囲の下限電圧V
low以上で比較用電圧値V
co未満の場合(以下、単にV
dc<V
coの場合と適宜称する)には、当該補間処理が必要であるものと判断する。
【0054】
補間処理が不要であるものと判断した場合には、導出機能部13aが機能し、第1電流指令テーブルTb1から、回転数ωおよびトルク指令T
*に対応したd軸,q軸電流指令I
d*,I
q*を適宜導出し、
図1に示した電流制御部2に出力する。
【0055】
また、補間処理が必要であると判断した場合には、導出機能部13bが機能し、まず、第1,第2電流指令テーブルTb1,Tb2から、回転数ωおよびトルク指令T
*に対応したd軸,q軸電流指令I
d*,I
q*をそれぞれ抽出する。その後、当該抽出した各d軸,q軸電流指令I
d*,I
q*において、検出電圧値V
dcに対応した補間処理をすることにより、補間処理d軸,q軸電流指令I
d*,I
q*を導出し、
図1に示した電流制御部2に出力する。
【0056】
以上示した電流指令導出部13による補間処理および要否判断等は、種々の方法(例えば特許文献1に示す方法)により実行することが可能であり、具体的には以下に示す実施例1〜3のように実行することが挙げられる。なお、
図1,
図2に示したものと同様のものには、同一符号を適用する等により、その詳細な説明を適宜省略する。
【0057】
〈実施例1〉
実施例1では、電流指令導出部13において、第1,第2電圧をそれぞれ平均電圧V
ave,下限電圧V
lowに設定して第1,第2電流指令テーブルTb1,Tb2を作成し、
図3に示すような電圧変化に対する電流指令値特性(関数特性)を有するものとする。なお、
図3(および後述の
図4)においては、図中の実線が電流指令値となる。
【0058】
そして、V
dc<V
coの場合には導出機能部13bが機能し、第1,第2電流指令テーブルTb1,Tb2から、下記式(2)(3)に基づいて、回転数ωおよびトルク指令T
*に対応した補間処理d軸,q軸電流指令I
d*,I
q*を導出することが挙げられる。なお、i
dave,i
qaveは第1電流指令テーブルTb1のテーブル値とし、i
dlow,i
qlowは第2電流指令テーブルTb2のテーブル値とする。
【0059】
I
d*=i
dlow+(i
dave−i
dlow)×(V
dc−V
low)÷(V
ave−V
low)……(2)
I
q*=i
qlow+(i
qave−i
qlow)×(V
dc−V
low)÷(V
ave−V
low)……(3)
なお、式(2)(3)は、第1電圧が平均電圧V
aveの場合の式である。第1電圧が平均電圧V
ave以外の場合では、式(2)(3)のV
aveには式(1)で求めた第1電圧を用いる。
【0060】
図3において、V
dc≧V
coの場合には補間処理は不要であるため、導出機能部13aが機能し、単に第1電流指令テーブルTb1から、回転数ωおよびトルク指令T
*に対応したd軸,q軸電流指令I
d*,I
q*を適宜導出する。
【0061】
本実施例1のように電流指令導出部13による補間処理および要否判断等を行うことにより、例えば従来制御装置の場合と比較すると、必要性の高い補間処理は適宜実施し、必要性の低い補間処理は実施しないように抑制でき、総合効率に貢献可能であることが判る。
【0062】
〈実施例2〉
実施例2では、電流指令導出部13において、第1,第2電流指令テーブルTb1,Tb2の両者を備える他に、当該両者の中間的な電流指令テーブル(以下、単に中間電流指令テーブルと適宜称する)を一つ以上備えたものとする。なお、実施例1に示すものと同様のものには、同一符号を適用する等により、その詳細な説明を適宜省略する。
【0063】
中間電流指令テーブルは、例えばインバータ5の直流電源電圧を第1電圧よりも小さく第2電圧よりも大きい任意の中間電圧(中間電流指令テーブルが複数ある場合には、それぞれ異なる中間電圧)に設定して、トルク制御部1に入力される回転数ωとトルク指令T
*を適宜変更しながらモータ6の事前運転を行い、当該事前運転におけるd軸,q軸電流指令I
d*,I
q*を当該回転数ωおよびトルク指令T
*に対応するようにテーブルデータ化して作成することが可能である。
【0064】
ここで、第1,第2電圧をそれぞれ平均電圧V
ave,V
lowに設定して第1,第2電流指令テーブルTb1,Tb2を作成し、2種類の中間電圧をそれぞれ第1,第2中間電圧V
mid1,V
mid2に設定(V
mid1>V
mid2を満たすように設定)して第1,第2中間電流指令テーブル(図示省略)を作成したものとすると、例えば
図4に示すような電圧変化に対する電流指令値特性(関数特性)を有することとなる。
【0065】
図4に示す電流指令値特性(関数特性)を有した電流指令導出部13では、V
dc≧V
coの場合に補間処理が不要であるものと判断して、導出機能部13aが機能する。そして、導出機能部13aにより、第1電流指令テーブルTb1から、回転数ωおよびトルク指令T
*に対応したd軸,q軸電流指令I
d*,I
q*を適宜導出し、
図1に示した電流制御部2に出力する。
【0066】
一方、V
dc<V
coの場合、かつ検出電圧値V
dcが第1電圧(
図4の場合は平均電圧V
ave),第2電圧(
図4の場合は下限電圧V
low),第1中間電圧V
mid1,第2中間電圧V
mid2のうち何れかの近似する同士の各電圧間にある場合には、当該近似する同士の各電圧に係る各電流指令テーブルを適用した補間処理が必要であると判断する。例えば、V
dc<V
coの場合、かつ検出電圧値V
dcが第1中間電圧V
mid1と第2中間電圧V
mid2との間にある場合には、第1,第2中間電流指令テーブルを適用した補間処理が必要であると判断する。
【0067】
そして、導出機能部13bが機能し、まず、第1,第2中間電流指令テーブルから、回転数ωおよびトルク指令T
*に対応したd軸,q軸電流指令I
d*,I
q*をそれぞれ抽出する。その後、当該抽出した各d軸,q軸電流指令I
d*,I
q*において、検出電圧値V
dcに対応した補間処理をすることにより、補間処理d軸,q軸電流指令I
d*,I
q*を導出し、
図1に示した電流制御部2に出力する。
【0068】
補間処理d軸,q軸電流指令I
d*,I
q*の導出は、下記式(4)〜(9)に基づく。なお、i
dmid1,i
qmid1は第1中間電流指令テーブルのテーブル値とし、i
dmid2,i
qmid2は第2中間電流指令テーブルのテーブル値とする。
【0069】
・V
mid1≦V
dc<V
coの場合
I
d*=i
dmid1+(i
dave−i
dmid1)×(V
dc−V
mid1)÷(V
ave−V
mid1)……(4)
I
q*=i
qmid1+(i
qave−i
qmid1)×(V
dc−V
mid1)÷(V
ave−V
mid1)……(5)
・V
mid2≦V
dc<V
mid1の場合
I
d*=i
dmid2+(i
dmid1−i
dmid2)×(V
dc−V
mid2)÷(V
mid1−V
mid2)……(6)
I
q*=i
qmid2+(i
qmid1−i
qmid2)×(V
dc−V
mid2)÷(V
mid1−V
mid2)……(7)
・V
low≦V
dc<V
mid2の場合
I
d*=i
low+(i
dmid2−i
dlow)×(V
dc−V
low)÷(V
mid2−V
low)……(8)
I
q*=i
low+(i
qmid2−i
qlow)×(V
dc−V
low)÷(V
mid2−V
low)……(9)
なお、式(4)〜(9)は、第1電圧が平均電圧V
aveの場合の式である。第1電圧が平均電圧V
ave以外の場合では、式(4)〜(9)のV
aveには式(1)で求めた第1電圧を用いる。
【0070】
本実施例2のように電流指令導出部13による補間処理および要否判断等を行うことにより、実施例1と同様の作用効果を奏する他に、以下に示すことが言える。すなわち、実施例1よりも多い電流指令テーブルによって補間処理を行うため、当該実施例1と比較すると、例えばインバータ5の直流電源電圧の変動に対して、より綿密に対応した駆動制御をできる可能性がある。
【0071】
〈実施例3〉
実施例3においては、モータ6の運転が力行運転と回生運転を含み、インバータ5の直流電源が当該モータ6の回生運転による回生電力を蓄電できるものとする。また、第1電圧においては、式(1)中においてm>nを満たすように(つまり、第1電圧>平均電圧V
aveとなるように)設定する。
【0072】
本実施例3によれば、実施例1,2と同様の作用効果を奏する他に、以下に示すことが言える。すなわち、例えばモータ6の回生運転が多くなるような状況では、回生電力によって直流電源が蓄電されて直流電源電圧が高めになる期間が長くなるため、例えば第1電圧を平均電圧V
aveに設定した場合と比較すると、よりモータ6の運転状況に対応した駆動制御をできる可能性がある。
【0073】
以上、本発明において、記載された具体例に対してのみ詳細に説明したが、本発明の技術思想の範囲で多彩な変更等が可能であることは、当業者にとって明白なことであり、このような変更等が特許請求の範囲に属することは当然のことである。
【解決手段】インバータ5によるモータ6の駆動制御が可能な直流電源電圧の制御可能電圧範囲のうち、任意の第1,第2電圧でモータ6の運転を行った場合のd軸,q軸電流指令I