(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6702475
(24)【登録日】2020年5月11日
(45)【発行日】2020年6月3日
(54)【発明の名称】ディーゼルエンジン
(51)【国際特許分類】
F02M 25/00 20060101AFI20200525BHJP
F02D 19/08 20060101ALI20200525BHJP
【FI】
F02M25/00 F
F02M25/00 R
F02M25/00 S
F02D19/08 C
【請求項の数】7
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2019-59454(P2019-59454)
(22)【出願日】2019年3月26日
【審査請求日】2019年5月8日
(31)【優先権主張番号】特願2020-508419(P2020-508419)
(32)【優先日】2019年3月8日
(33)【優先権主張国】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004123
【氏名又は名称】JFEエンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080458
【弁理士】
【氏名又は名称】高矢 諭
(74)【代理人】
【識別番号】100076129
【弁理士】
【氏名又は名称】松山 圭佑
(74)【代理人】
【識別番号】100144299
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 崇
(74)【代理人】
【識別番号】100150223
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 修三
(72)【発明者】
【氏名】清水 明
(72)【発明者】
【氏名】桑原 隆晃
【審査官】
種子島 貴裕
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−097419(JP,A)
【文献】
国際公開第2011/136151(WO,A1)
【文献】
国際公開第2011/132604(WO,A1)
【文献】
特開2013−113153(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02M 25/00
F02D 19/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃焼室と、前記燃焼室内に点火源となる燃料油とガス状のアンモニアとを投入する燃料投入手段とを有し、前記燃料投入手段により前記燃焼室内でアンモニア予混合気を形成して混合燃焼させるディーゼルエンジンであって、
前記燃焼室内で、前記燃焼室の中心部よりも前記燃焼室の内側側壁面側のアンモニア濃度が濃くなるようなアンモニア予混合気を形成するよう制御する制御手段を有すると共に、
前記燃焼室にはシリンダヘッドを有し、前記シリンダヘッドにはアンモニア供給経路を設けると共に、前記燃焼室の中心部より前記燃焼室の内側側壁面側の複数個所にアンモニア噴射穴を備え、気化したアンモニアを給気行程で燃焼室内に投入するよう制御することを特徴とするディーゼルエンジン。
【請求項2】
前記制御手段は、燃料油のみによる運転時の空気過剰率より低い空気過剰率となるように調整することを特徴とする請求項1に記載のディーゼルエンジン。
【請求項3】
アンモニアの投入量を調整するガス弁と、燃料油の供給量を調整する燃料噴射弁とを備え、前記制御手段は前記ガス弁及び前記燃料噴射弁のいずれか少なくとも一方を制御することを特徴とする請求項1又は2に記載のディーゼルエンジン。
【請求項4】
アンモニアの投入量は、熱量比で燃料油の供給量の15%以上25%以下となるように調整することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のディーゼルエンジン。
【請求項5】
前記燃焼室内の平均濃度に対する前記燃焼室の内側側壁面でのアンモニア濃度の片寄りを70%以上としたことを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載のディーゼルエンジン。
【請求項6】
前記空気過剰率は、燃料油のみによる運転時の空気過剰率に対して、0.5〜1.0高めるよう調整することを特徴とする請求項2に記載のディーゼルエンジン。
【請求項7】
前記空気過剰率の調整は、過給機の排気バイパスに設けられた調整手段による空気量の調整により行うことを特徴とする請求項2又は6に記載のディーゼルエンジン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディーゼルエンジンに係り、特に、重油や軽油等の燃料油を主燃料とする船舶用ディーゼルエンジンに用いるのに好適な、従来、燃料として使用されなかった、炭素(C)を含まないカーボンフリーであるアンモニアNH
3を燃焼させ、温室効果ガスである二酸化炭素CO
2削減に特に有効なディーゼルエンジンに関する。
【背景技術】
【0002】
アンモニアは燃焼させた場合、カーボンフリーであり、CO
2の発生を伴わないため、内燃機関、特にディーゼルエンジンでの燃焼が試みられてきた。しかし、アンモニアは着火温度が例えば重油の250〜380℃に比べて651℃と高く、難燃性であるため、燃焼率が悪く、投入アンモニアの20%以上が未燃分として排出されるのが現状であった。
【0003】
これを解決するために、アンモニアの一部を触媒などを用いて改質、水素とし、これをアンモニアと同時に燃焼室に投入し、燃焼性に優れる水素を着火源としてアンモニア燃焼効率を上げる試みがなされている。
【0004】
例えば、特許文献1では、高温水素リッチアンモニアと燃焼用空気を燃焼させるため、水素リッチアンモニアの原料として尿素水を供給し、尿素水から高温のアンモニアを生成すると共に、アンモニアの一部を水素と窒素に添加して、高温の水素リッチガスを生成することによりカーボンフリー動力装置を構成している。つまり尿素水から高温のアンモニアを生成すると共に、アンモニアの一部を水素と窒素に添加して高温の水素リッチガスを生成する水素リッチアンモニア生成リアクタに関するものである。
【0005】
また、特許文献2では、アンモニアを改質して水素を含む改質ガスを生成し、アンモニアに加え改質ガスをアンモニア燃焼内燃機関の燃焼室内に供給するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第5315493号公報
【特許文献2】特許第5310945号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、比較的簡単な構成でアンモニアの燃焼率を高めてCO
2を削減するディーゼルエンジンを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の
第1の形態によれば、燃焼室と、前記燃焼室内に点火源となる燃料油とガス状のアンモニアとを投入する燃料投入手段とを有し、前記燃料投入手段により前記燃焼室内でアンモニア予混合気を形成して混合燃焼させるディーゼルエンジンであって、前記燃焼室内で、前記燃焼室の中心部よりも前記燃焼室の内側側壁面側のアンモニア濃度が濃くなるようなアンモニア予混合気を形成するよう制御する制御手段を有する
と共に、前記燃焼室にはシリンダヘッドを有し、前記シリンダヘッドにはアンモニア供給経路を設けると共に、前記燃焼室の中心部より前記燃焼室の内側側壁面側の複数個所にアンモニア噴射穴を備え、気化したアンモニアを給気行程で燃焼室内に投入するよう制御するものである。
【0009】
これにより、特殊な触媒を用いた水素への改質装置等を具備してアンモニアを水素等と混焼させる必要がなく、簡単な構成でアンモニアの燃焼率を高めてCO
2を削減するディーゼルエンジンを提供できる。
【0010】
好ましくは、第2の形態として
、前記第1の形態において、前記制御手段は、燃料油のみによる運転時の空気過剰率より低い空気過剰率となるように調整しても良い。
【0012】
また好ましくは第
3の形態として、前記第1
又は第
2の形
態において、アンモニアの投入量を調整するガス弁と、燃料油の供給量を調整する燃料噴射弁とを備え、前記制御手段は前記ガス弁及び前記燃料噴射弁のいずれか少なくとも一方を制御しても良い。
【0013】
また好ましくは第
4の形態として、前記第1乃至第
3の形態のいずれかにおいて、アンモニアの投入量は、熱量比で燃料油の供給量の15%以上25%以下となるように調整しても良い。
【0014】
また好ましくは第
5の形態として、前記第1乃至第
4の形態のいずれかにおいて、前記燃焼室内の平均濃度に対する前記燃焼室
の内側側壁面でのアンモニア濃度の片寄りを70%以上としても良い。
【0015】
また好ましくは第
6の形態として、前記第2の形態において、前記空気過剰率は、燃料油のみによる運転時の空気過剰率に対して、0.5〜1.0高めるよう調整しても良い。
【0016】
また好ましくは第
7の形態として、前記第2又は第
6の形態において、前記空気過剰率の調整は、過給機の排気バイパスに設けられた調整手段による空気量の調整により行うようにしても良い。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】発明者らが実験に用いたディーゼルエンジンのシリンダヘッド周辺の概略構成を示す断面図
【
図2】発明者らの実験による空気過剰率変更による燃焼温度分布の変化を示す図
【
図3】同じく空気過剰率λ=2.0、1.7での温度分布と筒内圧を比較して示す図
【
図4】同じく空気過剰率変更による筒内圧を比較して示す図
【
図6】同じくアンモニアの層状度による筒内圧、熱発生率を比較して示す図
【
図11】同じくアンモニア噴射穴の配置を示す平面図
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施形態及び実施例に記載した内容により限定されるものではない。また、以下に記載した実施形態及び実施例における構成要件には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。更に、以下に記載した実施形態及び実施例で開示した構成要素は適宜組み合わせてもよいし、適宜選択して用いてもよい。
【0019】
発明者らは、
図1に示す如く、機械式燃料噴射装置を備えたディーゼルエンジンにおいて、アンモニアをガス弁であるアンモニア噴射弁26から給気管20に噴霧し、エンジン給気と混合させてアンモニア−空気予混合気(単に予混合気とも称する)を作り、燃料噴射弁24から噴射した主燃料である重油や軽油等の燃料油を点火源として混合燃焼させる手法を解析的なアプローチで検討した。
【0020】
図1において、10はシリンダ、12はピストン、14はシリンダヘッド、16は給気弁、18は排気弁、22は排気管である。
【0021】
具体的には、実機ベース(ボア×ストローク=400mm×500mm、4ストローク)の燃焼室をモデル化し、燃焼シミュレーションを実施した。給気管20へガス態でアンモニアを熱量比20%供給し、燃料噴射弁24からの主燃料油(重油又は軽油)噴射によりアンモニア予混合気の燃焼を行うものとした。予混合気アンモニアの濃度分布、主燃料油噴射圧力、噴射パターン、空気過剰率をパラメータに、排ガス特性、効率、未燃アンモニアの影響度を調査した。調査結果を表1に示す。
【0023】
アンモニアが供給されず、重油100%運転(case1)となった場合と同等の空気過剰率λ=3.2において、アンモニアNH
3を熱量比で20%投入した場合(case4)、未燃アンモニアは37%と約60%の燃焼率に留まった。ここで、λ=2.5と過濃側に調整した場合(case5)において計算を実施し、未燃アンモニア27%と約10%燃焼率が改善することを確認した。これは、燃焼温度の高温化に伴い、
図2に示す如く、アンモニア予混合気の燃焼範囲が広がったことによるものと考えられる。これより、空気過剰率λを低減させ、未燃アンモニア量の減少率及び諸性能の変化を把握するため、λ=3.2(case4)、λ=2.5(case5)、λ=2.0(case5−1)、λ=1.7(case5−2)における計算を行った。計算条件としては、予混合気を均一濃度とし、主燃料油噴射時期は9.5deg BTDCに固定した。
【0024】
なお高温の燃焼温度としては、そのディーゼルエンジンの仕様や環境温度などによっても変動するが、アンモニアの着火温度よりも十分高く、燃焼率が上がる温度、一つの目安として、例えば1500K程度の燃焼温度を指すものである。
【0025】
結果として、case5−1でλ=2.0とリッチ(燃料過濃)側に調整することにより、未燃アンモニアが21%に減少することがわかった。また、効率、NO
xは共にλ=2.0〜3.2の範囲では大きな変化はみられなかった。
【0026】
しかし、case5−2でλ=1.7までリッチ側に調整した場合、空気量不足及び圧縮圧力の低下により急激な燃焼遅れを生じ、燃焼最高圧力は2.5MPa低下し、それに伴い効率は7%悪化した。ただし、燃焼温度は高温を維持し、未燃アンモニアは22%とλ=2.0とほぼ同等となった。また、燃焼最高温度はλ=2.0(case5−1)より70℃高く長時間維持されるため、NO
x値が400ppmほど高くなっている。更に、効率低下分、未燃アンモニア量は同等であるが、CO
2の削減率も15%程度悪化している。これより、20%アンモニア混合燃焼では、λ=2.0前後が最適であるとの結果が得られた。
【0027】
空気過剰率λ変更による燃焼温度分布の変化を
図2に、λ=2.0(case5−1)、λ=1.7(case5−2)での温度分布と筒内圧比較を横軸にエンジンのクランク角度deg、縦軸に筒内圧を取った
図3に、空気過剰率λ変更による筒内圧比較を
図4に示す。
【0029】
同一燃料噴射時期において空気過剰率λを変更した場合、λを下げるに従い圧縮圧力が低下するため、主燃料噴射時期を同一とした場合、燃焼最高圧力も低下傾向となる。効率を維持し、燃焼温度を維持するために、λに合わせた(空気量もしくは給気圧力)燃料噴射時期に調整する必要がある。λ=2.5、噴射時期17.5deg BTDCとλ=2.0、噴射時期19.5deg BTDCの比較を行った。燃焼最高圧力は1MP程度差はあるものの、通常ディーゼルと同等値となり、後者調整の場合、熱発生率より良好な燃焼が得られているのがわかる。それに伴い未燃アンモニアも11.5%と半減した。これより、燃料噴射時期を各燃焼条件に合わせ調整し、燃焼最高圧力を基本仕様ディーゼルと同等に維持することが望ましいことがわかった。
【0030】
次に、アンモニア層状度の影響について調べた。
【0031】
主燃料油噴射による燃焼において、シリンダ内壁面(以下、単に壁面とも称する)近傍で燃焼温度が上昇するので、難燃性であるアンモニア−空気予混合気において、壁面付近でのアンモニア濃度を上昇させることが未燃アンモニア減少に有効ではないか、と推定した。そこで、その有効性を検証するため、表2に示す如く、シリンダ燃焼室
の中心部と壁面部の濃度差(層状度と称する)を±20%(case8−1)、±70%(直線濃度傾斜:case8−4)及び±80%(燃焼室トップ希薄:case8−5)の3つの場合において燃料計算を実施した。なお、計算において、λ=2.0、燃料噴射時期19.5、BTDCは共通とした。
【0033】
層状度±20%のcase8−1では、未燃アンモニアは11.5%で均一混合気と比較して減少はほとんどみられなかったが、層状度±70%まで上げた場合(case8−4)は、未燃アンモニア6.2%と大幅な改善効果が得られた。また、層状度±80%のcase8−5では、未燃アンモニア量は±70%条件のcase8−4
と同等であったが、燃焼効率が若干良好となり、効率で1.7%ポイント向上した。その他排ガス成分では、case8−4、case8−5共に亜酸化窒素N
2Oを115ppm、粒子状物質PMは0.005g/KWhと特にPMの大幅な低減を示した。
【0034】
λ=2.0におけるアンモニア層状度による筒内圧、熱発生率を横軸をエンジンクランク角度degとして
図6に比較して示す。
【0035】
アンモニア−空気予混合気の生成は、均一予混合気を得るには、
図1に示したシリンダヘッド14前の給気管20にガス弁であるアンモニア噴射弁26を装備してアンモニアを供給し、それにより給気管20内にて混合を行い、より均一な状態にて給気弁16を通しシリンダ10へ供給する手法がとられる。
【0036】
しかしながら、このような従来の予混合気生成手法では、たとえノズル付きガス弁でスワールを形成しても予混合気の不均一度(層状度)形成は20%前後が限度であり、燃焼室高温部で燃焼させるべきアンモニアの量が不十分で、未燃アンモニアが10〜20%程度残っていた。
【0037】
本発明は、燃料油を主体とするディーゼルエンジンにアンモニアをガス弁により空気と同時に流量制御して供給し、燃料油燃焼の主燃焼が行われ、燃焼温度が高くなるシリンダ内壁面においてアンモニア濃度を過濃とし、燃焼効率を向上させる。
【0038】
アンモニアの層状度(濃度差の度合、片寄り)は、ディーゼル主燃焼域の高温部において、70%以上と極端な偏差をつける。これは、通常の予混合気生成のように燃焼室手前にてガスミキサーを設置したり、または、
図1に示したように各シリンダ給気管20近傍でのアンモニア投入では成立させることができない。
【0039】
そこで、本実施形態は、アンモニア燃焼ディーゼルエンジンにおいて、
図7に示す如く、シリンダヘッド14にアンモニア供給経路(アンモニアラインと称する)40を設け、燃焼室中心部より燃焼室の内側側壁面側の複数個所(本実施形態では
図8及び
図9に例示する2個所)に形成したアンモニア噴射穴52より気化したアンモニアを給気行程において投入し、従来方式ではできなかった70%以上の層状度を実現している。
【0040】
なおここでいうアンモニア噴射穴が複数個所形成される位置としては、燃焼室中心から燃焼室の内側側壁面までの距離を100%としたとき、70%〜90%の距離範囲内に位置するものが好ましい。
【0041】
また併せて、燃焼温度を高温とするため、空気過剰率を従来値よりΔλ=0.5〜1.0過濃とする。
【0042】
前記アンモニアライン40は、アンモニアタンク42と、ガス遮断弁44と、ガス調圧弁46と、ガス弁48と、パイプ49と、逆止弁50と、コネクタ51と、アンモニア噴射穴52を含んで構成されている。
【0043】
図において、30は、燃料油タンク32、燃料供給ポンプ34、電磁弁36を含む燃料油ラインである。また、60は、吸気ライン62、排気タービン64Aにより回転される吸気タービン64Bを備えた過給機64、排気ライン66、その途中の排気タービン64Aの前後を結ぶバイパスライン67に設けられた排気バイパス弁68を含む給排気系である。
【0044】
前記電磁弁36は、燃料油噴射制御装置38により制御され、前記ガス弁48はアンモニアガス弁制御装置54により制御され、前記燃料油噴射制御装置38、前記アンモニアガス弁制御装置54及び前記排気バイパス弁68は、統括制御装置70により制御される。
【0045】
ここで、前記燃料油噴射制御装置38、前記アンモニアガス弁制御装置54、前記排気バイパス弁68、前記統括制御装置70により制御手段が構成される。
【0046】
アンモニアは、アンモニアタンク42に液状で貯留されるが、気化され、ガス態にて供給される。ガス調圧弁46でガス圧が調整され、ガス弁48で規定の熱量比(20%前後)に流量調整され、
図10に例示する所定の給気タイミングでエンジンに供給される。ガス弁48は各シリンダ10に装備され、該ガス弁48により制御されるアンモニアは、
図8に示すパイプ49で分配され、コネクタ51を通って複数の噴射穴52に送られる。該コネクタ51の部分には、燃焼時に燃焼ガスが逆流しないように逆止弁50が設けられている。
【0047】
該逆止弁50は、
図11に詳細に示す如く、2つのポペット50A、50Bを有するダブルポペットの逆止弁とされている。ここで、ダブルポペットとしているのは、長期使用においてシール部に摩耗が生じ、リークが発生する可能性があるので、これを防ぐためである。
【0048】
図12(A)にポペット50Aの例を示す如く、各ポペット50A、50Bの側面には穴50Cが開けられており、
図12(B)に示すNH
3投入時、
図12(C)に示す逆止時のように、ポペット50A、50Bが図の左右に動いてNH
3の逆流を防止する。即ち、
図12(B)に示すNH
3投入時は、NH
3圧力に押されてポペット50A、50Bが、ストッパー50Dに当たるまで図の右方向に動くので、シート部50Eとの隙間を通り、NH
3が右方向に流れる。一方、
図12(C)に示す逆止時は、筒内圧力によりポペット50A、50Bは左方向に押され、シート部50Eに着座してシールされる。
【0049】
本実施形態では、ダブルポペットの逆止弁を用いているのでリークの発生を確実に防止できる。なお、逆止弁の種類はこれに限定されない。
【0050】
以上のようにして、アンモニア噴射穴52から給気行程で投入されたアンモニアは、壁面にて層状度70%以上となることが可能となる。なお、アンモニア噴射穴52の数は2に限定されず、例えば
図9に破線で示した4、又は6等とすることができる。
【0051】
ディーゼル主燃料は、燃料油噴射制御装置38により規定の熱量比(80%前後)に流量調整され、燃料噴射弁24より規定のタイミングで噴射される。
【0052】
空気過剰率λは、過給機64の排気タービン64A側に設けられた排気バイパス弁68により排気通過量を調整し、規定の値に調整する。即ち、空気を減らして空気過剰率λを過濃とするには、排気バイパス
弁68を
開き気味として吸気タービン64Bの回転数を下げ、空気量を減らす。
【0053】
予混合気の層状度は、
図13に例示する如く、アンモニア−空気予混合気濃度平均値より中心部−70%前後、壁面部+70%前後となるようにする。
【0054】
燃焼温度は壁面部において高温となり、この付近にアンモニアを集中させることにより、アンモニア燃焼率が上がる。
【0055】
なお、前記実施形態においては、機械式燃料噴射装置を用いていたが、電子噴射式のコモンレール燃料噴射装置を用いることも可能である。アンモニアラインや
給排気系の構成も実施形態に限定されない。
【0056】
また、前記実施形態においては、本発明が船舶用のディーゼルエンジンに用いられていたが、本発明の適用対象はこれに限定されず、軽油を燃料とするディーゼルエンジンや、ディーゼルエンジンのような圧縮着火と、ガソリンエンジンのような火花着火を組み合わせたエンジンにも同様に適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
アンモニアを輸送するアンモニアタンカーのエンジンとして用いるのに特に有効であるが、適用対象はこれに限定されない。
【符号の説明】
【0058】
10…シリンダ
12…ピストン
14…シリンダヘッド
16…給気弁
18…排気弁
20…給気管
22…排気管
24…燃焼噴射弁
30…燃料油ライン
32…燃料油タンク
34…燃料供給ポンプ
36…電磁弁
38…燃料油噴射制御装置
40…アンモニアライン
42…アンモニアタンク
44…ガス遮断弁
46…ガス調圧弁
48…ガス弁
50…逆止弁
52…アンモニア噴射穴
54…アンモニアガス弁制御装置
60…給排気系
62…吸気ライン
64…過給機
66…排気ライン
68…排気バイパス弁
70…統括制御装置
【要約】
【課題】アンモニアの燃焼率を高めて未燃アンモニアを減少させ、CO
2削減を図る。
【解決手段】燃焼室と、前記燃焼室内に点火源となる燃料油とガス状のアンモニアとを投入する燃料投入手段とを有し、前記燃料投入手段により前記燃焼室内でアンモニア予混合気を形成して混合燃焼させるディーゼルエンジンであって、前記燃焼室内で、前記燃焼室の中心部よりも前記燃焼室の内側側壁面側のアンモニア濃度が濃くなるようなアンモニア予混合気を形成するよう制御する制御手段を有すると共に、前記制御手段は、燃料油のみによる運転時の空気過剰率より低い空気過剰率となるように調整する。
【選択図】
図13