特許第6702587号(P6702587)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6702587
(24)【登録日】2020年5月11日
(45)【発行日】2020年6月3日
(54)【発明の名称】生物粒子の精製用分離マトリックス
(51)【国際特許分類】
   G01N 30/88 20060101AFI20200525BHJP
   B01J 20/281 20060101ALI20200525BHJP
   B01J 20/22 20060101ALI20200525BHJP
   B01J 20/26 20060101ALI20200525BHJP
   B01J 20/28 20060101ALI20200525BHJP
   B01J 20/34 20060101ALI20200525BHJP
   B01D 15/00 20060101ALI20200525BHJP
   B01D 15/38 20060101ALI20200525BHJP
   B01D 15/42 20060101ALI20200525BHJP
   C12N 1/02 20060101ALI20200525BHJP
   C12Q 1/24 20060101ALI20200525BHJP
   C12Q 1/70 20060101ALI20200525BHJP
【FI】
   G01N30/88 J
   B01J20/281 G
   B01J20/281 X
   B01J20/22 C
   B01J20/26 H
   B01J20/28 Z
   B01J20/34 G
   B01D15/00 K
   B01D15/38
   B01D15/42
   C12N1/02
   C12Q1/24
   C12Q1/70
【請求項の数】12
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2016-555958(P2016-555958)
(86)(22)【出願日】2015年2月18日
(65)【公表番号】特表2017-515099(P2017-515099A)
(43)【公表日】2017年6月8日
(86)【国際出願番号】SE2015050186
(87)【国際公開番号】WO2015137860
(87)【国際公開日】20150917
【審査請求日】2018年2月9日
(31)【優先権主張番号】1450290-0
(32)【優先日】2014年3月14日
(33)【優先権主張国】SE
(73)【特許権者】
【識別番号】516105833
【氏名又は名称】ジーイー・ヘルスケア・バイオプロセス・アールアンドディ・アクチボラグ
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100154922
【弁理士】
【氏名又は名称】崔 允辰
(74)【代理人】
【識別番号】100207158
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 研二
(74)【代理人】
【識別番号】100137545
【弁理士】
【氏名又は名称】荒川 聡志
(74)【代理人】
【識別番号】100105588
【弁理士】
【氏名又は名称】小倉 博
(74)【代理人】
【識別番号】100129779
【弁理士】
【氏名又は名称】黒川 俊久
(74)【代理人】
【識別番号】100113974
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 拓人
(72)【発明者】
【氏名】マロワゼル,ジャン−リュック
(72)【発明者】
【氏名】ブゾン,カロリーナ
(72)【発明者】
【氏名】ラッキ,カロル
(72)【発明者】
【氏名】ノレン,ビヨルン
(72)【発明者】
【氏名】スコグラー,ヘレナ
【審査官】 高田 亜希
(56)【参考文献】
【文献】 特表2000−504625(JP,A)
【文献】 米国特許第06090288(US,A)
【文献】 特表2007−535658(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0151928(US,A1)
【文献】 特表2005−537479(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0065900(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 30/00−30/96
B01D 15/00−15/42
B01J 20/22−20/292
C12N 1/00− 3/00
C12Q 1/00− 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質コア体(101)とコア体(101)を覆う多孔質シェル体(102)とを有する複数の粒子(100)を含んでおり、
a)コア体(101)が、共有結合で結合したリガンド上に50マイクロモル/ml以上の第1級アミンを含んでいて、リガンド1個当たり2個以上の第1級アミンを呈し、
b)シェル体(102)が20マイクロモル/ml未満の第1級アミンしか含まない、
生物粒子の精製用の分離マトリックスであって、
該マトリックスは、10mS/cm以上の導電率を有する水性緩衝液中でマトリックス1ml当たり20mg以上のオボアルブミンを結合することができる、分離マトリックス。
【請求項2】
多孔質コア体(101)とコア体(101)を覆う多孔質シェル体(102)とを有する複数の粒子(100)を含んでおり、
a)コア体(101)が、共有結合で結合したリガンド上に50マイクロモル/ml以上の第1級アミンを含んでいて、リガンド1個当たり2個以上の第1級アミンを呈し、
b)シェル体(102)が20マイクロモル/ml未満の第1級アミンしか含まない、
生物粒子の精製用の分離マトリックスであって、
a)リガンドが第2級又は第3級アミン結合を介してコア体(101)に結合する、
b)リガンドの窒素及び酸素原子含有量が20重量%以上である、
c)第1級アミン窒素の含有量が18重量%以上である、
d)第1級アミンと、窒素原子の合計量との比が、0.5以上である、
e)リガンドがトリス(2−アミノエチル)アミン及びポリアリルアミンからなる群から選択され、アミンを介して結合している、および/または
f)リガンドが、分子量1kDa以上のポリアリルアミンを含む、選択的にはポリアリルアミンが非架橋型である、分離マトリックス。
【請求項3】
多孔質コア体(101)とコア体(101)を覆う多孔質シェル体(102)とを有する複数の粒子(100)を含んでおり、
a)コア体(101)が、共有結合で結合したリガンド上に50マイクロモル/ml以上の第1級アミンを含んでいて、リガンド1個当たり2個以上の第1級アミンを呈し、
b)シェル体(102)が20マイクロモル/ml未満の第1級アミンしか含まない、
生物粒子の精製用の分離マトリックスであって、
c)シェル体(102)が1〜10μmの平均厚さを有する、
d)シェル体(102)が、粒子(100)の直径又は球相当径の0.5〜6%の平均厚さを有する、
e)シェル体(102)が、球状タンパク質に対して60〜1000kDaの分子量カットオフを有する、および/または、
f)粒子(100)が実質的に球形である
分離マトリックス。
【請求項4】
10mS/cm以上の導電率を有する水性緩衝液中でマトリックス1ml当たり20mg以上のオボアルブミンを結合することができる、請求項2又は3記載の分離マトリックス。
【請求項5】
a)リガンドが第2級又は第3級アミン結合を介してコア体(101)に結合する、
b)リガンドの窒素及び酸素原子含有量が20重量%以上である、
c)第1級アミン窒素の含有量が18重量%以上である、
d)第1級アミンと、窒素原子の合計量との比が、0.5以上である、
e)リガンドがトリス(2−アミノエチル)アミン及びポリアリルアミンからなる群から選択され、アミンを介して結合している、および/または
f)リガンドが分子量1kDa以上のポリアリルアミンを含む、選択的にはポリアリルアミンが非架橋型である、
請求項3に記載の分離マトリックス。
【請求項6】
a)リガンドが第2級又は第3級アミン結合を介してコア体(101)に結合する、
b)リガンドの窒素及び酸素原子含有量が20重量%以上である、
c)第1級アミン窒素の含有量が18重量%以上である、
d)第1級アミンと、窒素原子の合計量との比が、0.5以上である、
e)リガンドが、トリス(2−アミノエチル)アミン及びポリアリルアミンからなる群から選択され、アミンを介して結合している、および/または
f)リガンドが、分子量1kDa以上のポリアリルアミンを含む、選択的にはポリアリルアミンが非架橋型である、且つ
g)シェル体(102)が1〜10μmの平均厚さを有する、
h)シェル体(102)が、粒子(100)の直径又は球相当径の0.5〜6%の平均厚さを有する、
i)シェル体(102)が、球状タンパク質に対して60〜1000kDaの分子量カットオフを有する、および/または
j)粒子(100)が実質的に球形である
請求項1記載の分離マトリックス。
【請求項7】
生物粒子の精製方法であって、
a)請求項1乃至請求項6のいずれか1項記載の分離マトリックスを用意する工程と、
b)前記マトリックスを、生物粒子及び1種以上の夾雑タンパク質を含む液体に、夾雑タンパク質がマトリックスに結合するように接触させる工程と、
c)液体をマトリックスから分離し、精製生物粒子とともに液体を回収する工程と、
を含む、生物粒子の精製方法。
【請求項8】
液体が10mS/cm以上の導電率を有する、請求項7記載の方法。
【請求項9】
d)有機溶媒を15%未満の割合で含む再生液にマトリックスを接触させることによってマトリックスを再生する工程と、
e)工程a)〜c)を1回以上繰り返す工程と
をさらに含む、請求項7又は請求項8記載の方法。
【請求項10】
a)再生液はアルカリを含む、
b)工程d)の後のマトリックス中の残留タンパク質含有量が100μg/ml未満である、
c)生物粒子がウイルス、ウイルス様粒子、細胞、オルガネラ、及びプラスミドからなる群から選択される、
d)少なくとも40mg/ml以上の上記夾雑タンパク質がマトリックスと結合する、
e)液体は、緩衝物質を含み、選択的には、緩衝カチオン及び/又は1価の緩衝アニオンを含み、および/または
f)液体のpHは6.0〜8.5である
請求項9記載の方法。
【請求項11】
夾雑タンパク質はアルブミンであり、生物粒子はインフルエンザウイルスを含み、液体は受精卵に由来する尿膜腔液を含む請求項7乃至10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
請求項1乃至6のいずれか1項に係る分離マトリックスの製造方法であって、
a)複数の多孔質多糖粒子を提供する工程と、
b)共有結合によって上記粒子に結合した、少なくとも50マイクロモル/mlのアリル基を得るために、上記粒子をアリル化剤と反応させる工程と、
c)上記粒子を最長30分の期間にわたってハロゲンと反応させ、その後、アルカリ性水溶液と反応させる工程と、
d)複数の第1級アミンを含むリガンド前駆体を残ったアリル基と結合させる工程と
を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は生物粒子の精製用分離マトリックスに関し、特にワクチン抗原(例えばウイルス粒子)の精製用分離マトリックスに関する。本発明はまた、生物粒子の精製における分離マトリックスの用途、生物粒子の精製方法、及び分離マトリックスの製造方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
多くのワクチンでは、抗原を構成する粒子の大きさはタンパク質分子よりかなり大きい。これに該当するものとして、例えば、ウイルス、ウイルス様粒子、細菌、及びプラスミドの抗原が挙げられる。これらの抗原の製造工程において、抗原は抗原よりかなり小さいタンパク質や他の夾雑種を含んだ状態で製造される。そうした種の例として、例えば、卵由来抗原のための卵タンパク質、宿主細胞タンパク質、並びに細胞培養物中で製造される抗原のための培地成分が挙げられる。そのようなタンパク質は含有量が多く、しかもアレルギー反応を引き起こす等の恐れがあるため、抗原の処理プロセスにおいて取り除くことが必要である。
【0003】
大きさに基づいて抗原と夾雑タンパク質とを分離する処理には従来からサイズ排除クロマトグラフィーが用いられてきた。しかし、処理能力や処理コストに対する要求の高まりにより、代替方法が研究されている。近年、あるタイプのクロマトグラフィー媒体が利用可能となっている。その媒体では、正電荷と親水性部分をともに有するリガンドによってクロマトグラフィービーズの内側のコアが機能化される一方、外側のシェルは不活性であり、かつその孔径はウイルス抗原より小さい。夾雑タンパク質はシェルを貫通してコアに侵入可能であり、タンパク質はそこでリガンドによって強く結合される。他方、ウイルス粒子は結合されずにカラムを通過するため、フロースルー中に回収することができる。そのような媒体はCapto(商標)Core700の名称でGE Healthcare Bio−Sciences ABから市販されている。同様の媒体は国際公開第9839364号、同2009131526号、及び米国特許第7208093号にも記載されている。なお、これらの特許文献はその全体が参照によって本願明細書に援用されている。
【0004】
大半の抗原は、製造時のイオン強度が生理的条件下で正常とされる値に近い。すなわち、約0.1〜0.2mol/lであり、これは約10〜20mS/cmの導電率に相当する。こうした条件下では、既存製品の結合容量、特に電荷相互作用の仕組みに基づく結合容量に限界がある。したがって、供給材料をクロマトグラフィー媒体に送る前に希釈や緩衝液交換をしなくて済むように、高塩条件での結合容量を高めることが望ましいと思われる。
【0005】
さらに、クロマトグラフィー媒体は再利用して分離サイクルを何度も行うことが望ましい。そのためには、サイクルとサイクルの間に媒体を清浄化(再生とも言う)して吸着タンパク質を除去することが必要になる。疎水性部分が存在するとそれが困難な場合があり、アルコール等の溶媒の追加が必要なことがある。これは作業時に火災及び爆発の危険性を生む。高イオン強度での結合容量を高めるためにリガンドの疎水性を高める場合に、この問題はいっそう悪化する。
【0006】
以上のように、夾雑タンパク質を除去してワクチン抗原及びその他の生物粒子を高イオン強度において精製可能にするとともに、再利用の前に安全かつ容易な清浄化を可能にする新しいマトリックスが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2013028330号
【発明の概要】
【0008】
本発明の一態様は、多量のタンパク質を高イオン強度において結合でき、かつ生物粒子をフロースルー画分中に回収できる、再生可能な分離マトリックスを提供することである。これは請求項1に規定される分離マトリックスを用いて実現される。
【0009】
ひとつの利点は、マトリックスが100〜200mM以上のイオン強度において、一般的な夾雑タンパク質に対して依然として高い結合容量を有することである。さらなる利点は、マトリックスがウイルス粒子もしくはウイルス様粒子を結合しないこと、及び無溶媒再生液の使用によって広範囲の強吸着性夾雑タンパク質が容易に除去でき、マトリックスが簡単に再利用できることである。
【0010】
本発明の第2の態様は、生物粒子の分離方法を提供することである。これは特許請求の範囲に規定される方法を用いて実現される。この方法の利点として、多量の夾雑タンパク質を高イオン強度において結合できること、及びマトリックスが容易に再生できること、が挙げられる。
【0011】
本発明の第3の態様は、生物粒子の精製用分離マトリックスの用途を提供することである。これは特許請求の範囲に規定される方法を用いて実現される。
【0012】
本発明の第4の態様は、生物粒子の精製に好適な分離マトリックスの製造方法を提供することである。これは特許請求の範囲に規定される方法を用いて実現される。
【0013】
本発明のさらなる好適な実施形態は従属請求項に記載されている。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明のマトリックスの概略的な構造図である。
図2】リガンドに関する例として、a)リガンド前駆体であるトリス(2−アミノエチル)アミン、b)トリス(2−アミノエチル)アミンが結合したリガンド、c)リガンド前駆体である1,3−ジアミノ−2−プロパノール、d)1,3−ジアミノ−2−プロパノールが結合したリガンド、e)リガンド前駆体であるポリアリルアミン、f)ポリアリルアミンが結合したリガンドを示す図である。
図3】本発明の合成経路の例として、a)アリル化、b)臭素化、c)不活性化、d)結合を示す図である。
図4】次に示す異なる再生液で再生した後の、大腸菌汚染されたCapto(商標)Core700の抽出物についてチップ電気泳動データを示す図である。レーン1:分子量マーカー;同2:1M NaOH;同3:2M NaOH;同4:2M NaOH+30% 2−プロパノール;同5:30% 2−プロパノール;同6:1M NaOH+20% 1−プロパノール;同7:1M NaOH+10% 1−プロパノール;同8:1M NaOH+5% 1−プロパノール;同9:20% 1−プロパノール;同10:0.5M NaOH/10mM HCl/0.5M NaOH;同11:1M NaOH/10mM HCl/1M NaOH;同12:20%プロピレングリコール;同13:40%プロピレングリコール;同14:1M NaOH+20%プロピレングリコール;同15:1M NaOH+40%プロピレングリコール;同16:8M尿素/1M NaOH;同17:1M尿素/1M NaOH;同18:8M尿素;同19:8M尿素+0.1Mクエン酸;同20:8M尿素+1M NaCl+0.1Mクエン酸。
図5】次に示す異なる再生液で再生した後の、大腸菌汚染されたポリアリルアミンプロトタイプの抽出物についてチップ電気泳動データを示す図である。レーン1:1M NaOH;同2:2M NaOH;同3:1M NaOH+30% 2−プロパノール;同4:1M NaOH+20% 1−プロパノール;同5:8M尿素;同6:8M尿素+0.1Mクエン酸;同7:6M塩酸グアニジン;同8:0.5M NaOH+1M NaCl;同9:1M NaOH/10mM HCl/0.5M NaOH;同10:1M尿素/1M NaOH;同11:再生なし;同12:分子量マーカー。
図6】次に示す異なる再生液で再生した後の、大腸菌汚染されたトリス(2−アミノエチル)アミンプロトタイプの抽出物についてチップ電気泳動データを示す図である。レーン1:1M NaOH;同2:2M NaOH;同3:1M NaOH+30% 2−プロパノール;同4:1M NaOH+20% 1−プロパノール;同5:8M尿素;同6:8M尿素+0.1Mクエン酸;同7:6M塩酸グアニジン;同8:0.5M NaOH+1M NaCl;同9:1M NaOH/10mM HCl/0.5M NaOH;同10:1M尿素/1M NaOH;同11:再生なし;同12:分子量マーカー。
【発明を実施するための形態】
【0015】
一態様において、本発明は、図1図2に示すように、生物粒子の精製用分離マトリックスを開示している。同分離マトリックスは複数の粒子100を含む。粒子100は、多孔質コア体101と、コア体を覆う多孔質シェル体102とを有する。好適には、上記複数個における各粒子100は、多孔質シェル体102によって覆われる多孔質コア体101を有しうる。コア体101は、共有結合で結合したリガンド上に50マイクロモル/ml以上の第1級アミンを含んでいて、リガンド1個当たり2個以上の第1級アミンを呈する。シェル体102は20マイクロモル/ml未満(例えば、10マイクロモル/ml未満、又は1マイクロモル/ml未満)の第1級アミンを含む。ここで「呈する」とは、リガンドが付加状態にあるときにリガンドがリガンド1個当たり2個以上の第1級アミンを有することを意味する。コア体よりもリガンド含有量が低いシェル体が存在することは、例えば顕微鏡検査によって検出できる。粒子は、酸性の蛍光染料(例えば、フルオレセイン)、又は第1級アミン類に対して反応性を有する蛍光染料(例えば、5−カルボキシフルオレセインスクシンイミジルエステル)と接触させればよく、蛍光発生の空間分布は共焦点顕微鏡で測定することができる。或いは、粒子を染色して樹脂中に埋め込み、ミクロトームで薄片を作成して従来型の顕微鏡で観察してもよい。いずれの方法でも、2領域における相対的なリガンド濃度はデンシトメトリと絶対濃度によって評価できる。絶対濃度は、例えば、当該技術分野で周知の滴定による方法又は分光的な方法によって決定された、マトリックスの全リガンド含有量を乗じることによって計算できる。
【0016】
ある実施形態では、マトリックスは、10mS/cm以上(例えば、20mS/cm以上)の導電率を有する水性緩衝液中でマトリックス1ml当たり20mg以上のオボアルブミン(例えば、30mg以上又は40mg以上のオボアルブミン)を結合することができる。10mS/cmの値は約0.1MのNaClに、また20mS/cmの値は約0.2MのNaClに相当する。細胞培養物、卵の液状部分、血漿、牛乳等、大半の生理的システムは導電率が上記の範囲内にあるため、オボアルブミンによって例示されるように、これらの条件下において高いタンパク質結合容量を有することは有利である。マトリックスは、さらに高い導電率、例えば、20〜30又は30〜40mS/cm等においても結合が可能である。このような高い導電率は、例えば、液体がイオン交換マトリックスもしくはHICマトリックスからの溶出液である場合に関心を引く。結合容量の試験は、トリス緩衝液中かつpH7.5において、また実施例に記載するような接触時間が60分の静的な結合容量試験を用いることで好適に実施できる。
【0017】
ある実施形態では、上記リガンドは、リガンド1個当たり少なくとも2つ(例えば、少なくとも3つ、又は少なくとも4つ)の第1級アミンを呈する。リガンド1個について利用可能な第1級アミンの数は、高イオン強度での結合容量にとって有利に作用するようであり、少なくとも2つであるべきだと思われる。アミノメチル基H2N−CH2−やアミノエチル基H2N−CH2−CH2−のように、第1級アミンが第1級炭素原子に結合し、かつもう1つの炭素原子との間が単結合の場合は、さらに有利となりうる。その場合、第2級もしくは第3級炭素原子に結合する第1級アミンに比べてタンパク質に容易にアクセスできる。リガンドは分子量が異なってもよく、単量体でも重合体でもよく、またより大きな構造体の一部を形成するものであってもよい。
【0018】
ある実施形態では、リガンドは第2級又は第3級アミン結合を介してコア体に結合する。アミン結合は化学的に安定であり、リガンド前駆体のアミンと支持材料(例えば、エポキシドやハロヒドリン等)の求電子基との結合によって容易に形成される。リガンド前駆体が3以上の第1級アミンを含み、かつ1つの第1級アミンを消費して付加結合を形成し、結合先のマトリックスにおいてリガンド1個当たり残る2以上の第1級アミンが呈されるような種となれば好適である。
【0019】
ある実施形態では、上記リガンドにおける窒素原子と酸素原子の合計含有量は20重量%以上である。付加されたリガンドにおける第1級アミン窒素の含有量は18重量%以上とすれば好都合である。第1級アミンと窒素原子の合計量との比は、0.5以上(例えば、0.7以上又は0.9以上)でありうる。こうした比では、リガンドは親水性となる、すなわち、タンパク質と不可逆的に結合することがなく、第1級アミンの含有量は、高イオン強度において高い結合容量を実現できるほど十分に高くなる。
【0020】
ある実施形態では、リガンドは、トリス(2−アミノエチル)アミン及びポリアリルアミンからなる群から選択される。これらのリガンドは親水性であり、アミンを介して付加される場合であっても複数の第1級アミンを呈する。リガンドは、例えば、分子量が1kDa以上(例えば、5kDa以上又は10kDa以上)のポリアリルアミンを含みうる。ポリアリルアミンは非架橋型であり、それによって移動性とタンパク質へのアクセスを実現すれば好適である。付加は一点付加であっても多点付加であってもよい。一点付加は、例えば、グラフト重合やポリアリルアミンの反応性末端基を介した結合によって実現できる。多点付加は、当該技術分野で周知の方法によって、ポリアリルアミンをコア体の求電子基もしくはアルデヒドに、アミンを介して結合することによって実現できる。
【0021】
ある実施形態では、シェル体は平均厚さが1〜10μm(例えば、1〜6μm)である。シェルの厚さを最小限とすることで、リガンドと結合する生物粒子が分離マトリックス粒子の外部では得られないようにしている。他方、コア体内のタンパク質に対する結合容量を最大化するために、シェルの厚さは大きすぎないようにするのが好適である。粒子は実質的に球形であり、例えば、体積加重平均直径は15〜400μmである。その場合、シェル体の平均厚さは粒子の体積加重平均直径の0.5〜6%となりうる。粒子が非球形の場合、シェル体の平均厚さは粒子の球相当径の0.5〜6%となりうる。粒子の平均球形度は、ある所与の粒子の表面積に対する球(その粒子と体積が同じもの)の表面積の比として定義され、上記粒子では少なくとも0.9(例えば、少なくとも0.97)でありうる。シェルの厚さは、上述のように、染色した粒子に対する顕微鏡検査によって決定できる。分離マトリックスの粒子は、例えば後述の方法に従って製造できる。その場合、シェルの厚さは部分不活性化プロセスによって制御できる。
【0022】
ある実施形態では、シェル体は、球状タンパク質に対する分子量カットオフ値が60〜1000kDa(例えば、100〜1000kDa、又は400〜800kDa)である。これは夾雑タンパク質を粒子へ、及び粒子から、高速に質量輸送できる一方、生物粒子がコア体に到達するのを防止する点で有利である。カットオフ値は、例えば、分子量が異なるタンパク質がリガンドに結合する条件下においてそれらのタンパク質に対する結合容量を比較することによって測定できる。
【0023】
第2の態様において、本発明は、生物粒子の精製方法を開示する。その方法は、
a)上に開示した任意の実施形態に係わる分離マトリックスを提供する工程と、
b)上記マトリックスを、生物粒子及び1種以上の夾雑タンパク質を含む液体に、上記夾雑タンパク質が上記マトリックスに結合するように接触させる工程と、
c)上記液体を上記マトリックスから分離し、精製された生物粒子とともに上記液体を回収する工程と、
を含む。
【0024】
液体は、例えば、卵からの尿膜腔液、細胞培養上清、細胞溶解物等でありえ、その導電率は10mS/cm以上、或いはときに15mS/cm以上でさえありうる。このことは、液体を大幅に希釈する必要がないことを意味する。1種類以上の夾雑タンパク質に加え、例えばDNA及び/又はエンドトキシン等の他の夾雑物がマトリックスに結合しえ、したがって除去されうる。上記方法はクロマトグラフィーの方法でありうる。このとき、マトリックスはカラム内に充・される。しかし、上記方法は、バッチ吸着法(例えば、磁性マトリックスを使用)であってもよいし、例えば、拡張床吸着法(例えば、高密度充・剤粒子を含むマトリックスを使用)であってもよい。マトリックスをカラム内の充・層として用いる場合、カラムは1mm〜1m(例えば、1cm〜30cm、又は1cm〜10cm)の層高さを有しうる。充・層は本発明のマトリックスのみを含むものでありうるが、他のマトリックスとの混合層も想定される。
【0025】
ある実施形態では、上記方法は、
d)上記マトリックスを再生液に接触させることによって上記マトリックスを再生する工程と、
e)工程a)〜c)を1回以上(例えば、5回以上、10回以上又は50回以上)繰り返す工程と、
をさらに含む。再生液は有機溶媒を含まないか、又は可燃性溶媒を含むがその含有量が15重量%未満(例えば、5重量%未満、又は1重量%未満)であれば好適である。これは、処理において高価な防爆型装置及び場所を使う必要がないという点で有利である。これはまた、より環境に優しい処理を実現する。
【0026】
ある実施形態では、再生液は、例えば0.1〜2Mの濃度(例えば0.5〜2M)のアルカリ(NaOH等)を含む。アルカリ、特にNaOHは、タンパク質を加水分解する点、及び洗浄及び中性化後に有毒となりうる残留物を一切残さない点で、有用な清浄化剤である。
【0027】
ある実施形態では、工程d)後のマトリックス中の残留タンパク質含有量は、マトリックス1ml当たり100μg未満である。残留タンパク質の量は、0.5%SDS+28mM DTT抽出液中での沸騰による全抽出と、チップ電気泳動による抽出タンパク質の検出によって決定できる。これについては実施例に記載の通りである。
【0028】
ある実施形態では、生物粒子は、ウイルス、ウイルス様粒子、細胞、細胞小器官(オルガネラ)、及びプラスミドからなる群から選択される。
【0029】
ある実施形態では、40mg以上/ml(例えば、60mg以上/ml)の上記夾雑タンパク質がマトリックスと結合する。マトリックスに多量の液体を添加できれば好都合であり、この新しいマトリックスではそれが可能である。周知のように、添加はマトリックスの結合容量を超えないものとする。結合容量を超えると破過現象が発生し、その結果、除去性能が低くなることが予想される。
【0030】
ある実施形態では、液体は緩衝物質を含む。この緩衝物質は、例えば、緩衝カチオン(例えば、トリス、ビス−トリス、トリシン、又はピペラジン)、及び/又は1価の緩衝アニオン(例えば、酢酸イオン、乳酸イオン等)を含みうる。液体が、例えばリン酸イオン等の多価アニオンを含まなければ好都合でありうる。多価アニオンは一部の条件下においてリガンドと強く相互作用しすぎるおそれがあるためである。
【0031】
ある実施形態では、液体のpHは6.0〜8.5(例えば、6.5〜8.5、又は6.5〜8.0)である。生存生物粒子の精製を行う場合、それらはpHの影響をきわめて受けやすいため、pHの使用可能範囲は限られる。
【0032】
ある実施形態では、夾雑タンパク質はアルブミン(例えば、オボアルブミン又は血清アルブミン)である。アルブミンは、卵由来の供給材料にも細胞培養物にも含まれる、一般的な夾雑タンパク質である。
【0033】
ある実施形態では、生物粒子はインフルエンザウイルスを含む。液体は、例えば受精卵に由来する尿膜腔液を含んでもいいし、或いは細胞培養上清又は細胞溶解物を含んでもよい。
【0034】
ある実施形態では、上記方法は、工程b)の前に、クロスフロー濾過(例えば、限外濾過及び/又は精密濾過)によって上記液体をコンディショニングする工程a’)をさらに含みうる。精密濾過(例えば中空ファイバを用いたもの)は、クロマトグラフィーカラムの目詰まりを起こしうる粒子状物質の除去に用いうる。所望の場合、生物粒子の濃度を高めるために、液体をマトリックスに添加する前に液体にさらに限外濾過を実施してもよい。
【0035】
ある実施形態では、上記方法は、工程c)の後に、イオン交換クロマトグラフィー(例えば、カチオン交換クロマトグラフィー)を行う工程c’)をさらに含みうる。何らかの正電荷汚染物質が残っている場合は後続のカチオン交換工程によって除去すればよい。後続の工程は、機能性のコア体と不活性のシェル体とを備えたマトリックスに対してさらにフロースルー精製を行う工程をも含みうる。
【0036】
第3の態様において、本発明は、生物粒子の精製用上記分離マトリックスの用途を開示する。生物粒子は、例えば、ウイルス、ウイルス様粒子、細胞、オルガネラ、及びプラスミドからなる群から選択される。この用途は例えば上で開示した方法に含まれうる。
【0037】
第4の態様において、本発明は、上記の分離マトリックスの製造方法を開示する。その方法は、
a)複数の多孔質多糖粒子(例えば架橋アガロースゲル粒子)を提供する工程と、
b)共有結合によって上記粒子に付加した、少なくとも50、少なくとも100、又は少なくとも200マイクロモル/mlのアリル基を得るために、上記粒子をアリル化剤と反応させる工程と、
c)上記粒子を最長30分の期間にわたってハロゲンと反応させ、その後、アルカリ性水溶液と反応させる工程と、
d)複数の第1級アミンを含むリガンド前駆体を残ったアリル基と結合させる工程と、
を含む。
【0038】
アリル化剤は、例えば、アリルグリシジルエーテル、又はハロゲン化アリル(例えば臭化アリル)でありうる。ハロゲンは好適には臭素であり、水溶液中に添加できる。工程b)において、アリル基は粒子全体にわたって均一に導入される一方、工程b)では臭素との接触時間が短いため、各粒子の最外部にあるアリル基と臭素との反応しか起こらない。臭素との反応によってブロモヒドリンが形成される。これは水性アルカリ中で親水性かつ非反応性のジオールに変化し、不活性のシェル体が形成されることになる。アルカリ水溶液が多価アルコールを含む場合、その多価アルコールがブロモヒドリンと反応し、親水性かつ非反応性部分として非流動化しうる。このような方法は、シェル体の細孔構造の微調整にも使用できる。内部のアリル基は未反応のまま残り、後にコア体となる部分に含まれるリガンドの結合に使用できる。シェル体の厚さは、第一に、工程c)で用いられるハロゲンとの接触時間及びハロゲンの量によって制御することができる。
【0039】
ある実施形態では、支持体粒子は実質的に球形で、体積平均直径は15〜400μm(例えば30〜100μm)である。支持体粒子は、例えば、デキストラン、アガロース、寒天、カラギーナン、アルギナート、セルロース、コンニャクその他の好適な多糖類から形成されうる。アガロース、アガロース誘導体(例えば、ヒドロキシエチルアガロース)、寒天、及びセルロースは特に好適でありうる。好適な多孔率及び剛性を有するものが都合よく作製できるからである。支持体粒子は架橋されたものでありえ、その方法は、エピクロロヒドリンやジエポキシド等の架橋剤による直接的な架橋でもいいし、米国特許第6602990号に記載されるような2段階架橋でもよい。後者の方法は高い剛性を実現する。
【0040】
ある実施形態では、リガンド前駆体は1分子当たり3以上の第1級アミンを有する。リガンド前駆体は、最初にアリル基を水性ハロゲン(aqueous halogen)(例えば臭素)と反応させた後にアルカリ性条件下でリガンド前駆体と反応させることによってアリル基に結合する。
【0041】
ある実施形態では、リガンド前駆体は、トリス(2−アミノエチル)アミン及びポリアリルアミン(例えば、分子量が5kDa以上、例えば10kDa以上のポリアリルアミン)からなる群から選択される。
【実施例】
【0042】
実施例1:プロトタイプの合成
支持体粒子
使用した支持体粒子は高度に架橋したアガロースビーズであった。これは米国特許第6602990号に記載される方法によって調製した。なお、同明細書はその全体が参照によって本願明細書に援用されている。ビーズの体積加重平均直径(D50,v)は88μmであり、孔径分布は、分子量110kDaのデキストラン分子が細孔容積の69%を使用できるというものであった。これは、次の文献に記載される方法に従って測定したときに、ビーズにおけるデキストラン110kDaのKdが0.69であったと表現することもできる:『Handbook of Process Chromatography,A Guide to Optimization,Scale−Up and Validation』(1997)Academic Press,San Diego.Gail Sofer&Lars Hagel編。ISBN0−12−654266−X、368ページ。
【0043】
アリル化
中間体5803
400mL(g)の支持体粒子をゲル体積の6倍量の蒸留水で洗浄した後、ゲル体積の3倍量の50%NaOHで洗浄した。次に、ゲルを完全に吸い取り2Lの丸底フラスコに移した。50%NaOHを775mL添加して機械式翼攪拌を行い、フラスコを50℃の水浴中に浸漬した。30分後、アリルグリシジルエーテル(AGE)を128mL添加した。反応は17時間にわたって進行した。ゲルをゲル体積と同量の蒸留水、ゲル体積の5倍量のエタノール、さらにゲル体積の8倍量の蒸留水で順に洗浄した。
【0044】
中間体5840
120mL(g)の支持体粒子をゲル体積の6倍量の蒸留水で洗浄した後、真空によって乾燥させ、250mLの丸底フラスコに移した(90.7g)。50%NaOHを149.3mL添加(11.8M)して機械式翼攪拌を行い、フラスコを50℃の水浴中に浸漬した。30分後、AGEを36mL添加した。反応は17時間にわたって進行した。ゲルをゲル体積と同量の蒸留水、ゲル体積の3倍量のエタノール、さらにゲル体積の8倍量の蒸留水で順に洗浄した。
【0045】
中間体6383
蒸留水に入れた200mL(g)のアリル化した支持体粒子5803を、ガラスフィルタ上でゲル体積の3倍量の50%NaOH水溶液によって洗浄した。次に、ゲルを完全に吸い取り1Lの丸底フラスコに移した。50%NaOH水溶液を388mL添加して機械式翼攪拌を行い、フラスコを50℃の水浴中に浸漬した。30分後、アリルグリシジルエーテルを64mL添加すると、反応は16時間にわたって進行した。ゲルをゲル体積と同量の蒸留水、ゲル体積の5倍量のエタノール、さらにゲル体積の8倍量の蒸留水で順に洗浄した。
【0046】
中間体3266A
256mL(g)の支持体粒子をガラスフィルタ上で蒸留水によって、そして50%NaOH水溶液によって洗浄した。次に、ゲルを完全に吸い取り1Lの丸底フラスコに移した。50%NaOH水溶液を200mL添加して機械式翼攪拌を行い、フラスコを50℃の水浴中に浸漬した。30分後、AGEを200mL添加すると、反応は17時間にわたって進行した。ゲルを蒸留水、エタノール、さらに蒸留水で洗浄した。
【0047】
部分臭素化とシェルの不活性化
中間体6478
192g(mL)のアリル化した支持体粒子6383を1728mLの蒸留水とともに3Lの丸底フラスコにすべて移し、機械的攪拌を行った。1000μLの臭素を200mLの水に加えた溶液を調製した。この臭素溶液(88μmのビーズの5μmのシェルに含まれるアリル基の量に相当)を300rpmの攪拌速度で約2分間かけてゆっくり添加した。20分後、ゲルをゲル体積の10倍量の蒸留水で洗浄した。
【0048】
196g(mL)の部分的に活性化したゲルを1Lの丸底フラスコにすべて移した。蒸留水175.3gと50%NaOH(1M)20.7mLとを添加して機械的攪拌を行った。フラスコを50℃の水浴中に沈めると、反応は18.5時間にわたって進行した。次に、ゲルをゲル体積10倍量の蒸留水で洗浄した。2×1mLの滴定を行って残留アリルの含有量を調べた。
【0049】
中間体5860
115g(mL)のアリル化した支持体粒子5840を1035mLの蒸留水とともに2Lの丸底フラスコにすべて移し、機械的攪拌を行った。408μLの臭素を100mLの水に加えた溶液を調製した。この臭素溶液(88μmビーズの5.5μmのシェルに含まれるアリルの量に相当)を250rpmの攪拌速度で約2分間かけてゆっくり添加した。Eフラスコから注ぐ際に一部の臭素が操作中に失われた。次に、プラスチックピペットを用いて添加を行った。20分後、ゲルをゲル体積の10倍量の蒸留水で洗浄した。
【0050】
116g(mL)の部分的に活性化したゲルを500mLの丸底フラスコにすべて移した。蒸留水104gと50%NaOH(1M)12.25mLとを添加して機械的攪拌を行った。フラスコを50℃の水浴中に沈めると、反応は16.5時間にわたって進行した。次に、ゲルをゲル体積の10倍量の蒸留水で洗浄した。2×1mLの滴定を行って残留アリルの含有量を調べた。
【0051】
中間体3266B
260g(mL)のアリル化した支持体粒子3266Aを2300mLの蒸留水とともに3Lの丸底フラスコにすべて移し、機械的攪拌を行った。3.55gの臭素を250mLの水に加えた溶液を調製した。この臭素溶液を攪拌しながらゆっくり添加した。5分後、ゲルを蒸留水で洗浄した。
【0052】
部分的に活性化したゲルを1Lの丸底フラスコにすべて移した。2M NaOH水溶液を250mL添加して機械的攪拌を行った。フラスコを50℃の水浴中に沈めると、反応は17時間にわたって進行した。次に、ゲルを蒸留水で洗浄した。2×1mLの滴定を行って残留アリルの含有量を調べた。
【0053】
コアの臭素化
80g(mL)のアリル化したコア用支持体粒子6478を、80mLの水及び3.2gの酢酸ナトリウムとともに500mLのEフラスコにすべて移した。次に、黄色い色が消えなくなるまで臭素の水溶液を添加した。ギ酸ナトリウム(約2g)を添加して過剰な臭素をなくした。ゲルはゲル体積の10倍量の蒸留水で洗浄した。
アリル及び残留アリルの滴定(不活性化したシェルの厚さを決定するため)
・ゲルを水で洗浄する。
・1.0mLのゲルを立方体で測定し、それを9mLの蒸留水とともに吸引フラスコに移す。
・臭素を水に溶かした飽和溶液を、過剰なBr2による黄色い色が消えなくなるまで添加する。
・サンプルを磁気攪拌しながら5分間、放置する。
・サンプルを磁気攪拌しながら真空(水吸引)下に置き、過剰な臭素を除去する。
・次に、フラスコを10mLの蒸留水ですすぎ、サンプルを滴定ビーカーに移す。
・アリル含有量を間接的に測定するため、濃硝酸を2、3滴、加えてから、0.1M AgNO3による滴定を開始する。
・結果はゲル1ml当たりのマイクロモル数で与えられる。
・理論上のシェル厚は、部分臭素化及び不活性化後の残留アリル含有物がシェルに囲まれたコア内にすべて存在し、かつシェルはアリル基を含まないと仮定したモデルを用いて計算される。ビーズの直径が88μmで、シェルの厚さがxμmのとき、臭素化・不活性化の前後におけるアリル含有量の比は443/(44−x)3であり、この式からxが得られる。
【0054】
【表1】
リガンドの結合
1,3−ジアミノ−2−プロパノールの結合
24.8gの1,3−ジアミノ−2−プロパノール(270mmol、34当量)を100mLの丸底フラスコに移した。フラスコを60℃の水浴中に沈め、75分間リガンドを溶解させた。
【0055】
30mL(g)の活性アリル化コア用支持体粒子6478(7.92mmolアリル、1当量)をフラスコにすべて移し、機械式翼攪拌(230rpm)を行った。反応は17時間にわたって進行した。フラスコを冷却した後にpHを測定したら約12であった。ゲルをゲル体積の12倍量の蒸留水で洗浄した。
【0056】
トリス(2−アミノエチル)アミンの結合
40mL(g)の活性アリル化コア用ベースマトリックス6478(10.56mmolアリル、1当量)を250mLの丸底フラスコにすべて移した。39.6mLのトリス(2−アミノエチル)アミン(264.3mmol、25当量)を添加し、機械式翼攪拌(200rpm)を行った。反応は17時間にわたって進行した。pHを測定すると8.8であった。ゲルをゲル体積の10倍量の蒸留水で洗浄した。
【0057】
ポリアリルアミンの結合
37mL(g)の活性アリル化コア用ベースマトリックス3266Bを250mLの丸底フラスコにすべて移した。分子量15kDaのポリアリルアミン(Aldrich、283215)11.3gを20mlの蒸留水+2mlの50%NaOH水溶液に溶かし、上記のフラスコに添加した。機械式翼攪拌(200rpm)を行い、50℃で17時間にわたって反応させた。ゲルを0.5M HCl、1mM HCl、及びゲル体積の10倍量の蒸留水で順に洗浄した。
【0058】
アミン含有量の滴定
・ゲルを水で洗浄する。
・ゲルを0.5M HClで3回洗浄した後、1mM HClで3回洗浄する。
・1.0mLのゲルを立方体で測定し、19mLの蒸留水とともに滴定カップに移す。
・アミン含有量を間接的に測定するため、濃硝酸を2、3滴、加えてから、0.1M AgNO3による滴定を開始する。
・結果はゲル1ml当たりのマイクロモル数で与えられる。
【0059】
【表2】
実施例2:プロトタイプでのタンパク質に対する結合容量
空の96ウェルフィルタプレートの各ウェルに6μLのゲルを充・した。プレート実験では表3に記載の方法を用いた。定温放置後の洗浄回数は、非結合タンパク質を洗い落とすのに必要な内容に応じて2回と3回の間で変動した。
【0060】
【表3】
分析
280nmにおける吸光度と校正曲線から計算した濃度とによって非結合タンパク質を分析する。
【0061】
結合されたタンパク質の量は、添加したタンパク質と非結合タンパク質との量の差から計算する。
【0062】
濃度から各ウェルの容量を計算する。
【0063】
最大結合容量はg/Lで表す。これは、UV測定を伴わないキュベットでの各実験に対してタンパク質溶液を調製する際の計算に基づく。
【0064】
他のUV吸収材料による干渉を排除するため、タンパク質を添加しない無添加実験を各シリーズについて実施した。
【0065】
PAAでのBSA及びオボアルブミンに対する結合容量の結果
プロトタイプ:ポリアリルアミン
イオン容量:210μmol/ml
タンパク質1:BSA2g/l、IP約4.7
タンパク質2:オボアルブミン2g/l、IP約4.7
緩衝系1:40mMトリス pH7.2〜8.2
緩衝系2:20mMピペラジン pH6
塩:NaCl
【0066】
【表4】
表4に示すように、ポリアリルアミンプロトタイプは250mM NaClのときにBSAに対する結合容量が最大となった。1250mM NaClではポリアリルアミンプロトタイプはBSAに対して結合容量を示さない。このことは、BSAの塩溶出が良好に可能であることを示している。
【0067】
【表5】
緩衝系としてピペラジンを用いる場合、表5の列Aと列Eに示すように、ポリアリルアミンは無塩のときにBSAとオボアルブミンの両方に対して最大の結合容量を示す。ただし、結合容量は250mM NaClを添加した場合もまだ良好である。
【0068】
プロトタイプ:ポリアリルアミン
イオン容量:210μmol/ml
タンパク質:オボアルブミン2g/l、IP約4.7
緩衝系:20〜40mMリン酸塩 pH7〜7.5
塩:NaCl
【0069】
【表6】
プロトタイプ:ポリアリルアミン
イオン容量:210μmol/ml
タンパク質1:オボアルブミン4g/l、IP約4.7
タンパク質2:BSA4g/L、IP約4.7
緩衝系:40mMトリス pH7.2〜8.2
塩:NaCl
【0070】
【表7】
表6では、ポリアリルアミンは塩の添加がないときにオボアルブミンに対する結合容量が最大となっている。リン酸塩系ではpHによる影響は見られない。
【0071】
表6と表7を比較すると、ポリアリルアミンはリン酸塩緩衝系よりもトリス緩衝系を用いたときのほうがオボアルブミンに対する結合容量が高いことが明らかである。
【0072】
表7のトリス系では、ポリアリルアミンに対する結合容量はpHの低下とともに向上している。オボアルブミンに対する結合容量に対するpHの影響はBSAの場合よりも大きい。
【0073】
プロトタイプ:ポリアリルアミン
イオン容量:210μmol/ml
タンパク質:オボアルブミン2g/l、IP約4.7
緩衝系:40mMトリス pH7.2〜7.5
塩:NaCl
【0074】
【表8】
この場合も、ポリアリルアミンとトリスがオボアルブミンに対して高い結合容量を示すことがわかる(表参照)。結合容量は塩の添加によって低下するが、それでもまだ高い。
【0075】
ポリアリルアミンプロトタイプ及びCapto(商標)Core700でのオボアルブミンに対する結合容量の比較
プロトタイプ:ポリアリルアミン
イオン容量:210μmol/ml
参照媒体:Capto(商標)Core700
イオン容量:40〜85μmol/ml
タンパク質:オボアルブミン3g/l、IP約4.7
緩衝系:40mMトリス pH7.2〜7.5
塩:NaCl
【0076】
【表9】
Capto(商標)Core700(Ge Healthcare Bio−Sciences AB)は市販の製品である。これは、体積加重平均直径が85〜90μmの、高度に架橋したアガロースビーズと、分子量カットオフ値が700kDaの不活性シェルと、アミン窒素を介して結合したオクチルアミンリガンドによって誘導体化されたコアとをベースとする。シェル構造は現在調製されているプロトタイプときわめて類似しており、例えばウイルス粒子との間で相互作用が実質的にないことが知られている。
【0077】
トリス緩衝系の場合、オボアルブミンに対する結合容量はポリアリルアミンのほうが優れている。
【0078】
ポリアリルアミンのまとめ
ポリアリルアミンを用いる場合、リガンドに対する等電点(IP)は好適に検討され、緩衝液のpHはリガンドのIPに近くない。そのためそれは帯電しない。ポリアリルアミンのIPは8.7程度である。
【0079】
ポリアリルアミンはオボアルブミン及びBSAに対してきわめて良好に作用する。オボアルブミンはこれまで最も多く試験されており、トリス緩衝系を使うとリン酸塩緩衝液より結合容量が上がることが明確である。BSAに対する結合容量は1.25M NaClにおいてゼロである(表4参照)。これは塩を溶出できることを示している。BSAとオボアルブミンの特性は類似しているため、オボアルブミンも塩によってポリアリルアミンから溶出できそうである。
1,3−ジアミノ−2−プロパノールプロトタイプ及びトリス(2−アミノエチル)アミンプロトタイプでの結果
プロトタイプ:1,3−ジアミノ−2−プロパノール
リガンド密度:84μmol/ml
プロトタイプ:トリス(2−アミノエチル)アミン
リガンド密度:55μmol/ml
タンパク質溶液:オボアルブミン2g/L、IP約4.7
緩衝系1:50mMトリス pH7.4
緩衝系2:50mMリン酸塩 pH7.2
塩:NaCl
1ウェル当たりのマトリックス量:6μL
【0080】
【表10】
列Aからわかるように、1,3−ジアミノ−2−プロパノールプロトタイプ及びトリス(2−アミノエチル)アミンプロトタイプは高い塩濃度において結合する。オボアルブミンに対する結合容量はトリス(2−アミノエチル)アミンのほうが高く、オボアルブミンの結合に対してはいずれのプロトタイプもトリスのほうが効果的である。
【0081】
実施例3:汚損プロトタイプの清浄化
この研究はウェルのサイズが800μLの96ウェルフィルタプレートを用いて行った。プレートのすべてのウェルに20μLのマトリックスを充・し、大腸菌のホモジネートで汚染した。複数種類の再生液を用いて清浄化を行い、ビーズにまだ残留する汚染物質を、24mMジチオスレイトール(DTT)及び0.5%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)とともに沸騰させて溶解した後、Caliper HT Protein LabChipシステムにおいてチップ電気泳動で解析した。
【0082】
大腸菌溶解物
媒体の汚染には大腸菌ホモジネートを用いた。凍結した大腸菌ホモジネートを解凍し、ガラス繊維フィルタ、続いて0.45μmのメンブレンフィルタによって分級した。
【0083】
プレート実験
空のフィルタプレートの各ウェルに20μLのゲルを充・した。プレート実験では表に記載した方法を用いた。1枚のプレートを各溶液で3回処理した。CIPにおける定温放置時間は15分であった。
【0084】
【表11】
ビーズの遠心処理が終わったら、フィルタプレートの上に回収プレートを接続してゴムバンドで固定し、媒体片を回収プレートに移した。積み重ねたプレートを上下逆にしてフィルタプレートが上になるようにし、5分間遠心処理した(972xg)。次に、回収プレートのすべてのウェルに200μLのCaliperサンプル緩衝液を添加した。ウェルをマイクロホイルシールで覆い、マイクロプレートシェーカに2分間かけた。プレートを加熱室(104℃)に5分間入れた。加熱後、サンプルをさらに2分間シェイクして2分間の遠心処理(500xg)を行い、ゲル粒子を沈殿させた。40μLの上清をPCRプレート(円錐底面)に慎重に移した。ゲル片をフィルタプレートから回収プレートに移す間にサンプルの順序が反転しているので、ここでピペットを使って列Hのサンプルを列Aに移動する等、順序を元に戻した。夾雑しているかもしれないゲル粒子を沈降させるため、PCRプレートを1分間遠心処理(500xg)した。これでプレートをCaliperチップ電気泳動装置(Caliper Life Sciences Inc.、米国)に入れる準備が整った。
【0085】
Caliper LabChip電気泳動
HT Protein LabChip(商標)Kitのユーザガイド(Caliper Life Sciences Inc.、2010年11月)に従い、チップ、バッファストリップ、及び分子量マーカーを用意した。HT Protein Express 200 High Sensitivityのプログラムを実行した。
【0086】
結果を図4図6に示す。Capto(商標)Core700上では、イソプロパノールを含有する溶液のみがすべての汚染物質を除去するのに実際に有効であった。一方、ポリアリルアミンプロトタイプ上では、8M尿素を除くすべての溶液は効率的な不純物除去を示した。また、ジアミノプロパノールとトリスアミノエチルアミンプロトタイプも、8M尿素及び8M尿素+クエン酸を除くすべての溶液によって効率的に清浄化できた。
【0087】
本明細書は、最良の形態を含む例を用いて本発明を開示している。また、装置もしくはシステムの作製と使用、並びに内包される方法の実施を含め、当業者が本発明を実施できるように書かれている。本発明の特許可能範囲は特許請求の範囲によって規定されるとともに、当業者が想到する他の例を含みうる。そのような他の例は、特許請求の範囲の文言とは異ならない構造要素を有する場合、或いは特許請求の範囲の文言と大差のない等価な構造要素を有する場合に、特許請求の範囲の範囲内にあるものと考えられる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6