(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6702642
(24)【登録日】2020年5月11日
(45)【発行日】2020年6月3日
(54)【発明の名称】移動式ホウ酸水供給装置
(51)【国際特許分類】
G21C 9/033 20060101AFI20200525BHJP
G21C 7/22 20060101ALI20200525BHJP
【FI】
G21C9/033
G21C7/22
【請求項の数】14
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-546216(P2017-546216)
(86)(22)【出願日】2016年2月23日
(65)【公表番号】特表2018-514750(P2018-514750A)
(43)【公表日】2018年6月7日
(86)【国際出願番号】US2016019038
(87)【国際公開番号】WO2016140831
(87)【国際公開日】20160909
【審査請求日】2018年12月20日
(31)【優先権主張番号】14/639,288
(32)【優先日】2015年3月5日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】501010395
【氏名又は名称】ウエスチングハウス・エレクトリック・カンパニー・エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100091568
【弁理士】
【氏名又は名称】市位 嘉宏
(72)【発明者】
【氏名】スワンツナー、スティーヴン、アール
(72)【発明者】
【氏名】ヴァンストン、ライアン、ティー
(72)【発明者】
【氏名】フルニエ、ロバート、エス
【審査官】
小野 健二
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2013/0170599(US,A1)
【文献】
国際公開第2013/158691(WO,A1)
【文献】
米国特許第04726715(US,A)
【文献】
特開2012−081397(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21C 9/00−9/06
G21D 1/00−9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
現地で成分を混合してホウ酸水を生成し、原子炉システムに当該ホウ酸水を冷却材として供給できる移動式ホウ酸水供給装置(60)であって、当該移動式ホウ酸水供給装置は、
a)水を供給する第1の供給源(10、32)と、
b)ホウ酸粉末(36)または他の水溶性ホウ素粉末を供給する第2の供給源と、
c)高温で稼働される断熱室(74)を具備し、
当該断熱室(74)は少なくとも1つの溶解タンク(72)を含むものであり、当該溶解タンク(72)は各々が加熱器(80)によって取り囲まれ、当該溶解タンク(72)は更に当該水と当該ホウ酸粉末(36)または他の水溶性ホウ素粉末とを調量し混合してスラリーを生成し、当該スラリーを引き続き攪拌して所望の高濃度で且つ空気混入量1体積%未満である高温のホウ酸水溶液を供給するように構成されており、
当該移動式ホウ酸水供給装置は更に、
d)当該断熱室の外部に配置され、当該高温のホウ酸水溶液と低温の希釈流とが混合されることによって希釈ホウ酸水溶液を供給する希釈タンク(86)と、
e)当該溶解タンク(72)と当該希釈タンク(86)とに接続され、当該高温のホウ酸水溶液を当該希釈タンク(86)へ運ぶ高温流導管(88)と、
f)当該低温の希釈流を当該希釈タンク(86)に接続し、当該低温の希釈流を当該希釈タンク(86)へ運ぶ希釈流導管(90)と、
g)当該希釈タンク(86)の出口ポートに接続され、当該希釈ホウ酸水溶液を原子炉システムへ運ぶ希釈ホウ酸水出口(92)を具備する、移動式ホウ酸水供給装置。
【請求項2】
前記溶解タンク(72)を取り囲む加熱器(80)が当該溶解タンク(72)内のスラリーを加熱する、請求項1の移動式ホウ酸水供給装置(60)。
【請求項3】
前記水を前記第1の供給源(10、32)から所望の場所に移動させるための動力を提供するポンプ(11、34)を具備し、当該ポンプ(11、34)は流量計を備えた容積式ポンプおよび遠心ポンプからなる群から選択される、請求項1の移動式ホウ酸水供給装置(60)。
【請求項4】
前記第2の供給源はホッパー(124)と送りネジ式コンベヤー(110)を具備する、請求項1の移動式ホウ酸水供給装置(60)。
【請求項5】
前記溶解タンク(72)は前記スラリーを空気混入量1体積%未満の溶液の状態に確実になるように十分攪拌できる機械式混合器(73)を具備する、請求項1の移動式ホウ酸水供給装置(60)。
【請求項6】
前記ホッパー(124)の送りネジ式コンベヤー(110)によって前記ホウ酸粉末(36)または他の水溶性ホウ素粉末の体積流量を制御できる、請求項4の移動式ホウ酸水供給装置(60)。
【請求項7】
前記移動式ホウ酸水供給装置(60)は、トラックトレーラー、平台式鉄道貨車、海上輸送用船舶、および空中輸送機から選択されるプラットフォームに搭載される、請求項1の移動式ホウ酸水供給装置(60)。
【請求項8】
水中での前記ホウ酸粉末(36)または他の水溶性ホウ素粉末の溶解を促す化学添加剤を収容するタンク(56)を備える、請求項1の移動式ホウ酸水供給装置(60)。
【請求項9】
前記断熱室(74)の内側を加熱するための環境制御システム(58)を含む、請求項1の移動式ホウ酸水供給装置(60)。
【請求項10】
圧縮空気を前記希釈タンク(86)の内部上方に供給するために、圧縮機(96)が前記希釈タンク(86)に接続された、請求項1の移動式ホウ酸水供給装置(60)。
【請求項11】
運転員による設定値の入力に応答して、前記希釈タンク(86)から排出されるホウ酸の濃度を自動的に制御する制御システム(130)を含む、請求項1の移動式ホウ酸水供給装置(60)。
【請求項12】
前記第2の供給源(124)と前記溶解タンク(72)の境界面への湿分の移動による粉末の凝集を防ぐための空気層を形成する圧縮空気入口(102)を備えた前記ホウ酸粉末(36)または他の水溶性ホウ素粉末の供給システムを含む、請求項4の移動式ホウ酸水供給装置(60)。
【請求項13】
前記溶解タンク(72)が実質的に大気圧に維持される、請求項12の移動式ホウ酸水供給装置(60)。
【請求項14】
前記断熱室(74)が少なくとも3つの溶解タンク(72)を含む、請求項1の移動式ホウ酸水供給装置(60)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2012年4月19日に提出された「移動式ホウ酸水供給システム」と題する米国仮特許出願番号第61/635,315号に基づく優先権を主張する2013年3月11日に提出された「移動式ホウ酸水供給システム」と題する米国従来特許出願番号第13/792,465号の一部継続出願であり、同出願に基づく優先権を主張する。
【背景技術】
【0002】
本発明は、商用原子力発電所へのホウ酸水の供給に関する。
【0003】
近年、日本の福島原子力発電所を襲った津波は、原子炉だけでなく、現地に常設され有意な面積を占める他の多数の供給システムにも損害を与えたが、商用原子力発電事業者は、そのような自然災害および/または人為的災害による損害をなくす、および/または軽減する解決法を探し求めている。検討中のシステムの1つに給水システムがある。給水をホウ酸水に変えることは、原子炉を臨界未満に維持する一助となる液体中性子毒物の供給にとって必要であると通常考えられている。
【0004】
原子炉におけるホウ酸水溶液の使用は早い時期、例えばPansonの米国特許第4,764,337号明細書に教示されており、同明細書には次のような記載がある。
「原子力蒸気発生器の二次冷却水システムの炭素鋼の腐食を防止するか少なくとも抑制するために、ホウ酸を使用することが以前から知られている。特にホウ酸は、原子力蒸気発生器内の細管と細管支持板の界面におけるへこみとして知られる現象の発生を最小限に抑えるために用いられてきた。ホウ酸単独でもへこみに帰結するタイプの炭素鋼の腐食の防止に大変有用であることが判明しているが、原子力分野への応用には、システムを改良して信頼性を高めるための継続的な研究が欠かせない。ホウ酸単独よりも更に強酸であるホウ酸ジオール化合物が知られている。・・・ホウ酸とジオール化合物とが反応し、ホウ酸自体よりも酸の特性が顕著なホウ酸ジオール錯体が生成されることによって、ホウ酸が活性化するようである。しかしながら、・・・そのようなホウ酸ジオール錯体が腐食を防止できることは示唆されていない。ましてや、ホウ酸ジオール錯体が原子力蒸気発生器内の炭素鋼の腐食の抑制に有用である点については何の開示もない。」
【0005】
重要なことだが、米国特許第8,233,581号明細書および第5,171,515号明細書(それぞれ、Conner等、および、Panson等)により教示されるように、ホウ酸を中性子束の一部を抑制する減速材として使用できることが近年判明している。別の分野において、Brown等による米国特許第4,225,390号明細書は、原子力発電所用のホウ素制御システムが複雑であることを示している。
【0006】
現在稼働中のホウ酸水供給システムは、原子炉冷却系に使用する冷却材への注入前、ホウ酸と水を所望の濃度に混合する相当な大きさの常設バッチタンクを使用するが、このタンクは全部が敷地内にあり、それを「現地で使える」状態に保つための大規模な補助機器を必要とする。
【0007】
現在のホウ酸水供給システムの主な欠点は、ホウ酸を混合して水溶液を比較的高濃度に保つための、常設のモーター駆動攪拌器および加熱器を含む付属コンポーネントを有する、非常に大規模な常設バッチタンクを必要とすることである。このように、現在のホウ酸水供給システムには、広い空間、すなわち広い設置面積、および大量の電力を必要とするという問題がある。バッチタンクにこのような要求があると、現在のホウ酸水供給システムを可搬式あるいは移動式に変えるのは容易でなく、現地に常設されることになる。かくして、原子力発電所のホウ酸水供給システムを、設置面積が小さく、移動し易く、発電所に据付られた機器が作動不能かすぐに使用できない期間にエネルギーと資源をより効率的に利用するシステムに変える必要がある。
【発明の概要】
【0008】
上記問題を解決し、上記要求に応えるのは、現地で成分を混合してホウ酸水を生成し、原子炉システムに当該ホウ酸水を冷却材として供給できる移動式ホウ酸水供給装置である。当該移動式装置は、水源への接続部と、H
2BO
3粉末または他の水溶性ホウ素粉末源と、水を加熱する加熱器と、水を所望の場所に移動させるためのポンプまたは他の動力と、水とH
2BO
3粉末または他の水溶性ホウ素粉末源とを調量し混合して、あらかじめ選定され、調量され、適当な濃度を有する初期水/ホウ酸スラリーを生成し、当該スラリーを引き続き混合して、ホウ酸水溶液を提供する混合器と、希釈タンクと、混合器と希釈タンクとの間に接続され、比較的高温のホウ酸水溶液を希釈タンクへ運ぶ高温流導管と、希釈タンクを比較的高温のホウ酸水溶液より低温の希釈流に接続する希釈流導管と、希釈タンクの出口ポートに接続され、希釈流と高温のホウ酸水溶液の混合物を所望の濃度と流量で原子炉システムへ運ぶ希釈ホウ酸水出口とを有する移動式輸送手段から成る。
【0009】
一実施態様において、加熱器は、混合器内で水/ホウ酸スラリーを加熱する。ポンプは流量計を有する容積式ポンプと遠心ポンプから成る群から選ばれ、H
2BO
3粉末源はホッパーと送りネジ式コンベヤーであることが好ましい。ホッパーと送りネジ式コンベヤーはH
2BO
3粉末の体積流量または質量流量を制御でき、混合器は、大気圧に保たれた状態で、スラリーを空気混入量1体積%未満の溶液の状態に確実になるように十分撹拌できる機械式混合器であることが望ましい。
【0010】
別の実施態様において、移動式輸送システムは、トラックトレーラー、平台式鉄道貨車、海上輸送用船舶、または空中輸送機から選択される。移動式ホウ酸水供給装置は、水中のH
2B0
3粉末の溶解を促進するための化学添加剤を含むタンクを備えることが好ましい。
【0011】
さらに別の実施態様において、混合器と実質的な長さの高温流導管は断熱室の中に維持され、希釈タンクは断熱室の外側に置かれる。移動式ホウ酸水供給装置は、圧縮空気を希釈タンクの内部上方に供給するように希釈タンクに接続された圧縮機を備えることが好ましく、当該圧縮機は、粉末源と混合器の境界面への湿分の移動による粉末の凝集を防ぐ空気層を形成するように、H
2BO
3粉末供給システムに接続されることが望ましい。移動式ホウ酸水供給装置は、運転員による設定値の入力に応答して、希釈タンクから排出されるホウ酸の濃度を自動的に制御する制御システムも備える。
【0012】
自動車、鉄道、または船によって輸送できる連続流装置は、多種多様な壊滅的事象に晒されることがある原子力施設に隣接して一連の大規模構築物を建設しなくても、補助的な供給メカニズムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
本発明を一層明瞭に理解できるよう、添付の図面を参照して、簡便な実施形態の例を説明する。
【0014】
【
図1】本発明の移動式ホウ酸水供給システムの一実施態様のブロック図である。
【0015】
【
図2】
図1に示す適当な機器コンポーネントを搭載し、原子力複合施設内へ直接運び込むと、ホウ酸水溶液をオプションである複数の常設されたタンクの1つに給送できる移動式ホウ酸水溶液プラットフォームとなる移動式平台トラック輸送装置の概略図であるが、これらの機器コンポーネントの組み合わせが占める設置面積は原子力発電所施設のほんの一部に過ぎない。
【0016】
【
図3】本発明の別の実施態様による溶解タンクおよび付属の高温流体ラインより成るシステムの一部の概略図であり、本実施態様の断熱室の境界を示している。
【0017】
【
図4】
図3に示す溶解タンクを収容する断熱室の拡大システム図であり、並列に接続されたそうしたタンク3基と付属の高温流体ラインを示している。
【0018】
【
図5】
図3と
図4に示す実施態様のシステム全体の概略図である。
【0019】
【
図6】
図5に略示するシステムによって実施されるプロセスの制御システムの動作の概要を示すシステムフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明のホウ酸水供給システムは、現在のシステムの制約を解消し、商用原子力発電所のホウ酸水供給・貯蔵システムが受けるかも知れない損害を回避および/または軽減するための解決法を提供する。本発明の一実施態様によれば、例えば燃料交換用貯水タンクの補給能力を備えた移動式ホウ酸水供給システムが提供される。かかるシステムは保管も輸送も容易にできるものでなければならない。本発明のホウ酸水供給システムは、海上輸送、陸送、または空輸による移動が可能であるため、本丸に展開させ、ホウ酸水を必要とする近傍の任意の現場に移動させることができる。これは、原子力発電所におけるホウ酸のバッチ操作に使用される従来技術のホウ酸水供給システムに対する設計特性上の非常に大きな改良である。本発明のホウ酸水供給システムは必要最小限の個数の機器により構成され、それら機器の1つ以上はサイズおよび電力消費が最小となるように選択された設計になっている。かくして、このシステムは、トラック、列車、または船舶による移動式の使用例に理想的である。このシステムはサイズが比較的小さいので、常設の使用例にも好適である。
【0021】
図1は本発明の一実施態様によるホウ酸水供給システム60を示す。
図1から分かるように、このシステムは、調量された流体源13を提供するための流量制御装置12を備えた容積式ポンプまたは遠心ポンプ等の水ポンプ11と、粉末状のホウ酸を直接処理することにより大規模なバッチタンクを不要にする、送りネジ式ホッパー14を備えたスラリー用漏斗16およびエダクター18から成るシステムと、十分な時間をかけて機械的に十分に攪拌することによりホウ酸を確実に溶液の状態にする機械式混合器20とを含む。本実施態様において、機械式混合器20は、望ましくない空気混入の可能性を減らして下流で1体積%未満にする。機械式混合器は、オプションであるが、流量分布を調節する上流のオリフィス/バルブを備えることができる。この実施態様では、調量ネジが、ホッパーからH
2BO
3粉末または他の水溶性ホウ素粉末源を受けることにより、比較的高精度(0.5%)で体積流量を制御することができる。混合器は、可能であれば、ネジ回転数とppmとを相関させてもよい。この実施態様では、H
2BO
3粉末の質量流量は約23ポンド/分(約10.43kg/分)である。
【0022】
他の実施態様において、本発明のホウ酸水供給システム60には、ホウ酸の水溶液化を促進するのに必要な溶媒温度および化学的作用を提供するために、加熱器41と化学添加剤タンクを含むオプションもある。
【0023】
図1(および
図2)から分かるように、現地の水源が利用可能であれば装置の境界外というオプションもある水源10(32)の水を、オプションであるポンプ11(34)により、熱交換器12(41)に圧入する。加熱された水13(45)を流し込み漏斗16またはそれに類するもの42に通して、供給されるH
2BO
3の粒状粉末14(36)とともに調量することにより、水溶性のH
2BO
3スラリー36’が得られる。ポンプが水源、すなわち、公共の水道、河川、湖等の近くにあれば、ポンプ11は不要であるかも知れない。このスラリー36’を追加の加熱された水13と共にエダクター18または類似の装置に差圧により吸引させ、混合することにより均質なスラリーにし、さらに混合器20(44)で加熱する。検知器22によりホウ素濃度を監視して、所望のホウ素濃度の溶液が得られるようにする。流れ要素24は溶液の流量を調量する。ドロドロしたスラリーの一部をバルブ28を介して収集器26(36’)へ、そして最終的には、オプションである原子炉用保留給水タンク30(50)へ移動させる。スラリーを直接原子炉システムに圧入してもよい。
【0024】
図2は、
図1に完全に基づいており、例えば平台式トラックや、鉄道貨車のような他の輸送手段40である配送プラットフォームを示している。輸送手段40は、水タンク32、粒状粉末タンク/供給源36、送りネジ式粉末給送器38、水ポンプ34、水加熱器41、水調量システム42、バルブ43、混合器44、廃水スラリータンク36’、高水溶性スラリー加熱器46を搭載することにより、ホウ酸水溶液48を生成してオプションの貯蔵タンク50に送り込み、バルブ52を介してホウ酸水供給ライン54に流入させる。この供給ライン54のホウ酸水はバルブ69を介してオプションの最小量貯蔵タンク70に流入する。オプションの添加剤タンク56が示されている。オプションの加熱器/空気調節装置58、電力制御機能システム66、追加の監視装置64、およびトラックカバー構造物68も示されている。
【0025】
図3は、
図1と
図2に示すシステムの一部をさらに改良したものを示す。
図3に示す改良システムは、水中でホウ酸粉末を高温で溶かす溶解タンク(
図2に関して混合器44と記載したもの)を1基以上収容する断熱室74(点線で示す)を含む。溶解タンク72は、スラリーを溶液の状態に、また、空気混入量を1体積%未満にするに十分な撹拌力を有する機械式混合器73を具備することが好ましい。
図3に示す溶解タンク72Cは、粉末状のH
2BO
3を処理して所望の濃度のホウ酸にするための3つの並列トレイン(
図4および
図5に示す)の一部である。複数のトレインを用いる目的は、所望の体積流量を達成しながら、システムの可搬性とプロセス効率の改善を実現することである。溶解タンクは、加熱器80によって取り囲まれ、圧力検出器82と温度検出器84により監視される。溶解タンク72および付属設備は収容する液体中のホウ酸の沈殿を防止するため高温で運転しなければならないから、断熱室74は加熱器76と送風機78で調整される高温で稼動される。断熱室74全体を高温で稼動させると有利なのは、そうしないと、当該システムを多数の場所で局所的に加熱する必要があり、故障が発生する可能性が高くなるからである。
【0026】
前の段落で述べたように、溶解タンク72ではホウ酸が高温で水に溶解する。流体は高温なので、蒸発が起き、これが固体粉末の添加経路100に影響を及ぼす可能性がある。本実施態様は、粉末取扱設備と溶解タンクの境界面に湿分が移動して粉末が凝集するのを防ぐための空気層が形成されるようにする。圧縮機96により供給される圧縮空気が、粉末経路100の当該境界面102に流入する。溶解タンクの設計は、空気の注入があるが大気圧を保持できるようにする有向流の場を採用しており、これによりタンクの構造要件が緩和される。これは、単一の排気ラインを有する密閉タンクに逆止弁120を組み合わせて、粉末の凝集を防止しつつ大気圧を維持することにより、達成される。溶解タンクを大気圧に保つことにすればタンク壁の肉厚を減らせるので、バンドヒーター80から溶解タンク72の内部への熱伝達が促進される。
【0027】
図3に示す改良システムは、断熱室の外側にある希釈タンク86を含む。希釈タンクの中では、2つの流れ、すなわち、高温で高濃度の流れと低温で希釈された流れが合流する。高温の流れは入口88から、また、低温の流れは入口90から希釈タンク86に流入する。2つの流れが希釈タンク86の下部のバルク溶液部に流れ込む前に直接ぶつかると、温度勾配が発生して、高濃度の流れの温度が、溶解が起こって配管が塞がる可能性のある温度まで低下する。この2つの流れがバルク溶液部でぶつかる場合には、析出の問題は発生しない。入口で2つの流れが直接ぶつかるのを避けるために、圧縮機96が空気入口98を通して希釈タンクの上部に圧縮空気の領域を形成し維持する。この領域により、注入される2つの流れが溶解タンク86に最初に流入するとき熱的に相互作用しないように分離される。この圧縮空気は、タンクの内容物をタンクの底部から所望の場所へ排出するための原動力も提供する。希釈タンクの設計には、2つの流れが圧縮空気の層を通り抜けるときに空気が過剰に混入しないようにする特徴が含まれており、これにより空気圧縮機のサイズ選定要件が緩和される。これらの特徴には、タンク出口から流出する空気の垂直方向の混入量を制限するための背が高くて薄型のタンクを使用すること、空気の混入をさらに防ぐために希釈流の流速を速めるよう噴射ノズルを使用すること、空気の混入を最小限に抑えるために転流板を使用すること、および垂直方向の空気の混入をさらに減らすために2つの噴射ノズルの向きを約30度反対方向にすること、などがある。後者の構成は噴射ノズルにかかる力の一部を相殺する。空気の混入を減らすために上記すべての特徴を同時に採用する必要はないことを理解すべきである。
【0028】
このように、本システムには、溶解タンク72の中の高温源と希釈流が含まれ、それらは希釈タンク86内で混じり合う。溶解タンク内の濃度と希釈タンクに流れ込む2つの流れ(88および90)は可変であり、ユーザーの入力に基づいて最適化することができる。液体の流量、粉末の流量、および溶解タンクの水位などの適当な測定値は、プロセスの最適化を決定するための入力情報を提供する。
【0029】
溶解タンク72内の液体の体積は、加熱された流れ88に関する積算計の測定値により示される。積算計の測定値は、参照記号104で表示される流量検出器92と溶解タンク72内にある参照記号106で表示される圧力変換器82の組み合わせによって提供される。積算計による流量測定値は、流体の熱的条件およびタンクに加えられる粉末の量により補正しなければならない。圧力変換器106は、溶液の密度により補正しなければならない。これらの補正が施されると、添加されたホウ酸、水酸化リチウム、および水の量が想定通りである限り、2つのパラメーターは測定の不確かさの範囲内で調和するはずである。水酸化リチウムは、H
2BO
3粉末の溶解を促すために加えられる。プログラマブル・ロジック・コントローラーがリアルタイムで密度による補正を行うロジックを内蔵し、このプロセスを制御する。不確かさの範囲外におけるこれらのパラメーターの変動は、ホウ素濃度が目標値から外れた可能性があることを示唆している。このプロセス測定値は、所望の濃度のホウ酸水を確実に提供するために用いられる。溶解タンク72内の最適な高濃度目標値は、ユーザーが入力する流量と濃度に基づき、エネルギー使用量、断熱室の熱損失、および溶解タンクのポンプの有効吸込ヘッドの余裕などの関連する制約を最小限にするように設定することができる。
【0030】
図4は、H
2BO
3供給回路108がそれぞれ対応する溶解タンク72に接続されているシステムを示す概略図である。H
2BO
3粉末は、ネジ式コンベヤーモーター112を用いる調量ネジ式コンベヤー110から、同心レジューサー111と粉末隔離用仕切弁114を通って、溶解タンク72の頂部に供給される。粉末レベル指示器113は粉末の有無を判定する。同心レジューサー111は、粉末のせん断応力を均等に分布させるとともに粉末の移動を助けるために用いられる。粉末が添加ライン100を通して溶解タンク72A、72B、72Cに加えられると、粉末隔離用仕切弁114が閉じられ、気流を供給するために空気層隔離弁116または118が開けられる。隔離弁116および118は空気圧縮機96(
図3と
図5に示す)を粉末供給ラインに接続し、空気層が溶解タンク72に形成されるようにする。逆止弁120は、溶解タンク内の圧力を大気圧または大気圧近傍に維持するための空気層の排気経路になるタンク過充填防止導管である。弁122は、溶解タンクの入口弁である。
【0031】
図5は、
図3と
図4を組み合わせたものであり、さらに、粉末をネジ式コンベヤー110に供給する機械振動ホッパー124を示している。このホッパーは、粉末の移動を助ける振動装置126を有する。
図5は、バックアップ用空気接続部128およびその他の補助設備も示している。
【0032】
図3、4、および5に示す実施態様は、物理現象とシステム構成に基づく制御計算と設定値情報を含むロジック・コントローラー130を組み込んでいる。このロジック・コントローラーは、ユーザーが入力する情報を受信し、所望の成果を提供するように設備を操作する。独特なシステムロジックには、ユーザーの入力情報に基づく起動プロセス、制御弁位置、およびユーザーの入力情報とスキッド状態に基づく制御の選定、最適な溶解タンク濃度設定値の選定、調量ネジ式コンベヤーの制御による粉末注入の制御、ユーザーの入力情報とスキッド状態に基づくポンプ流量の制御、プロセスサイクルに基づく隔離弁および設備の制御、ならびに計測フィードバックに基づく希釈タンク圧力の制御、などがある。ユーザーの入力情報が最初の制御目標値を規定する。例えば、高いホウ素濃度水の排出が必要とわかれば、希釈タンク濃度の設定値がわかり、制御弁の位置を推定することができる。運転員は、エラーの可能性を減らすために、制御システムの代わりに最初の制御弁位置を決定することができる。システムの制御ロジックには、関連するパラメーターに関する制約を緩和するように最適化されるタンク濃度を決定する機能も含まれる。
図6は、制御システムのフローチャート概要である。最初のユーザー入力情報(例えば、流量、濃度、運転配列)は132で入力され、最初の目標値(例えば、弁の位置、流量目標値、溶解タンクのホウ酸濃度、溶解タンクのホウ酸温度、ネジ式コンベヤーの目標値)は134で決定される。その後、溶解タンクに粉末と水が充填される。次に、ブロック138において、計測器(流量計、圧力検出器、および温度検出器)から入力が受信され、ブロック140において、これらの検出器の出力に基づいて溶解タンク内の濃度が目標通りであるか否かの判定が行われる。この判定を行うために、ブロック142はブロック140に(試験データに基づく)ホウ酸の温度と密度の相互関係を提供する。濃度が目標通りであれば、システムはブロック144において溶液を排出する準備が整っていることを確認する。ブロック140が濃度が目標通りでないと判定すれば、ブロック146が適切な調整を行い、目標値に達するまでブロック140による判定が繰り返される。
【0033】
ホウ酸水を輸送し概ね一定量供給するというこの多能な供給手段は、ホウ酸水を現地で貯蔵する脆弱な方式に比べて、きわめて安全であるだけでなく、経済的合理性を有する。
【0034】
本発明を好ましい実施態様について説明してきたが、本発明の工程から逸脱することなく、種々の変形、付加、および変更をなすことが可能である。現在の好ましい実施態様について説明したが、添付の特許請求の範囲内で、本発明を異なる態様で具現できることが理解されるべきである。