(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1では、製造すべき度付き偏光プラスチックレンズの表面の曲面形状に応じて偏光シートに曲げ加工を施して、非球面の度付き偏光プラスチックレンズを製造しようとしている。
【0006】
しかしながら、偏光シートに曲げ加工を施して、曲面の歪みを抑制しつつレンズ形状に一致する非球面に仕上げるのは容易ではない。このため、特許文献1にあっては、偏光シートに第1次の曲げ加工を施して、最終品よりも曲がり度合が小さな曲面の中間加工品を成形し、この中間加工品に第2次の曲げ加工を施して、所定の非球面の曲面を有する最終品に仕上げており、段階的な曲げ加工により偏光シートに無理な力が加わらないようにしている。
【0007】
一方、成形面に近似した曲面となるように偏光シートに曲げ加工を施しておき、射出成形時の樹脂の熱と充填圧力によって偏光シートを成形面に倣うように変形させつつ、これと一体にレンズ本体が成形されるようにしても、所望の光学面形状を有する偏光プラスチックレンズを製造することができる。
【0008】
しかしながら、本発明者らの検討によれば、このようにして偏光プラスチックレンズを製造するに際し、曲げ加工された偏光シートのカーブが、成形面の曲率より小さい深いカーブとなっていると、製造されたレンズ表面に外観不良である「しわ」が発生し易く、このような「しわ」は、特に、中心側から反ゲート側に寄った位置に発生し易いという知見を得ている。
【0009】
本発明は、このような知見に鑑みてなされたものであり、偏光シートを成形型に装填してインサート成形によって偏光プラスチックレンズを製造するにあたり、レンズ表面のしわの発生が抑制された偏光プラスチックレンズ及びその製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記のような不具合が生じるのは、偏光シートは、射出された溶融樹脂の流動方向に沿ってわずかに伸ばされながら成形面に倣うように変形していくが、偏光シートのカーブが成形面よりも深いと、成形型に装填したときに偏光シートは中心側が成形面に接触した状態にあり、偏光シートが中心側から外周側に向かって成形面に密着していく過程で伸びが妨げられてしまうためであると考えられる。そして、伸びきれなくなった部分に「しわ」が発生してしまい、このときに偏光シートを伸ばそうとする力は、樹脂の充填方向と直交する方向にも作用するが、充填方向に沿った方向の方が大きいため、中心側から反ゲート側に寄った位置に「しわ」が発生し易いと考えられる。
【0011】
本発明者らは、鋭意検討を重ねていったところ、偏光シートに曲げ加工を施すにあたり、その偏光軸に沿った方向と、偏光軸に直交する方向とでは、曲げ加工の精度に差があるという知見を得るに至った。
すなわち、偏光シートを曲げ加工するには、特許文献1にも開示されているように、所望の曲面に形成された型を用意し、この型に熱をかけながら偏光シートを押し付けて曲げ加工するが、このとき偏光軸に沿った方向には、ほぼ狙い通りのカーブに曲げ加工できる傾向があるのに対して、偏光軸と直交する方向では、中心側のカーブが浅く、外周側が深めのカーブに曲がるという傾向があることが分かった。
【0012】
一般に、眼鏡用レンズは、種々の形状の眼鏡フレームに適合できるように円形に成形されており、組み入れる眼鏡フレームの形状に合わせて適宜切り出すようにしている。このため、多くの場合には、眼鏡フレームの上下にはみ出す部分は切り捨てられることから、射出成形法によって眼鏡用のプラスチックレンズを成形するには、眼鏡フレームの形状に合せて切り出す際の上方又は下方となる位置に、ゲートが配置されるように成形型を設計している。そうすると、偏光レンズは偏光軸が水平になるように眼鏡フレームに組み入れることになるので、このように設計された成形型に偏光シートを装填して偏光プラスチックレンズをインサート成形するには、偏光シートの偏光軸が樹脂の充填方向と直交するように成形型に装填することになる。その結果、曲げ加工の精度が低く、中心側のカーブが浅く、外周側が深めのカーブに曲がる傾向がある偏光軸と直交する方向が、樹脂の充填方向と一致してしまい、これが「しわ」の発生の原因になっていることを本発明者らは見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明に係る偏光プラスチックレンズの製造方法は、成形型に装填された偏光シートと一体にレンズ本体が成形されるようにインサート成形することによって偏光プラスチックレンズを製造するにあたり、樹脂の充填方向と前記偏光シートの偏光軸が直交しないように、前記偏光シートを前記成形型に装填する方法としている。
【0014】
本発明に係る偏光プラスチックレンズは、成形型に装填された偏光シートと一体にレンズ本体が成形されるようにインサート成形された偏光プラスチックレンズであって、レンズの中心を通ってゲート痕の中心に向かう方向と、前記偏光シートの偏光軸が直交していない構成としてある。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、偏光シートを成形型に装填してインサート成形によって偏光プラスチックレンズを製造するにあたり、レンズ表面のしわの発生が抑制された偏光プラスチックレンズを製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0018】
[射出成形装置]
図1は、射出成形装置の一例を示す説明図であり、本実施形態に係る偏光プラスチックレンズの製造方法は、このような射出成形装置を好適に利用して実施することができる。
【0019】
図1に示す射出成形装置は、パーティングラインPLで分割される一対の分割型としての可動型1と固定型2とを有する成形型50と、トグルリンク機構65によって成形型50の開閉及び型締めをする型締装置60と、ホッパー81から投入された原料樹脂を加熱シリンダ82で溶融、混練、計量してノズル85から射出する射出装置80とを備えている。
なお、
図1に示す射出成形装置が備える成形型50の概略を示す断面図を
図2に示す。
【0020】
[射出装置]
図1に示す射出成形装置が備える射出装置80は、先端部にノズル85が形成された加熱シリンダ82を有している。この加熱シリンダ82の内部には、駆動部84によって回転及び進退移動が制御されたスクリューが配設されている。
【0021】
また、加熱シリンダ82の基端側には、ペレット状の原料樹脂を加熱シリンダ82内に投入するためのホッパー81が接続されている。ホッパー81から加熱シリンダ82内に投入された原料樹脂は、加熱シリンダ82内で回転するスクリューによってせん断、粉砕されつつ、せん断熱と加熱シリンダ82が備えるヒーターからの加熱によって溶融、混練されながら、スクリューの先端とノズル85との間に形成されるシリンダ前室に送られて計量され、その後、射出成形に適した粘度に調整されて溶融状態にある所定量の原料樹脂がノズル85から射出される。
【0022】
[型締装置]
図1に示す射出成形装置において、型締装置60は、所定の間隔で架台66に立設された固定ダイプレート61とリヤプレート62との間に複数のタイバー63を架設し、可動ダイプレート64が、タイバー63に案内されて移動可能となるように構成されている。そして、固定ダイプレート61と可動ダイプレート64との間には、成形型50が取り付けられており、リヤプレート62と可動ダイプレート64との間には、トグルリンク機構65が取り付けられている。
これにより、トグルリンク機構65を駆動させると、可動ダイプレート64がタイバー63に案内されて進退し、これに伴って、成形型50の開閉と型締めとがなされるようになっている。
【0023】
ここで、トグルリンク機構65は、図示しないモータに接続されたボールねじ72の回転に伴って、螺着されたクロスヘッド73がボールねじ72に沿って移動するようになっている。そして、クロスヘッド73が可動ダイプレート64側に移動すると、連結リンク74によってトグルリンク71が直線状に伸びて、可動ダイプレート64が固定ダイプレート61に近づくように移動(前進)する。これとは反対に、クロスヘッド73がリヤプレート62側に移動すると、連結リンク74によってトグルリンク71が内方へ屈曲して、可動ダイプレート64が固定ダイプレート61から離れるように移動(後退)する。
【0024】
[成形型]
図2は、本実施形態に用いる成形型50の概略を示す断面図であり、
図1に示す成形型50を、その中心軸を通る紙面に垂直な面で切り取った断面を示す断面図に相当し、型閉じした初期の状態を示している。また、
図3は、
図2のA−A断面図、
図4は、
図2のB−B断面図である。
【0025】
これらの図に示す例では、可動型1の型本体4が、型取付部材16を介して可動ダイプレート64に固定されており、固定型2の型本体8が、型取付部材15を介して固定ダイプレート61に固定されている。これによって、型締装置60の固定ダイプレート61と可動ダイプレート64との間に、成形型50が取り付けられるようになっている。
【0026】
可動型1の型本体4は、二つのインサートガイド部材5と、これらを保持する型板6,7とを有している。インサートガイド部材5の内部には、成形しようとするプラスチックレンズの一方の面(図示する例では、凹面側の面)に対応する成形面が形成されたインサート11が、パーティングラインPLに対して直角方向へ摺動可能となるように収納されている。
また、固定型2の型本体8は、二つのインサートガイド部材9と、型板10とを有しており、インサートガイド部材9は、型板10と型取付部材15とによって保持されている。インサートガイド部材9の内部には、成形しようとするプラスチックレンズの他方の面(図示する例では、凸面側の面)に対応する成形面が形成されたインサート12が、パーティングラインPLに対して直角方向へ摺動可能となるように収納されている。
【0027】
このような可動型1と固定型2とを有する成形型50は、可動型1と固定型2との間に、可動型1側のインサート11と固定型2側のインサート12のそれぞれに形成された成形面を含むキャビティ3が形成されている。
なお、可動型1と固定型2との間には、所定形状のプラスチックレンズを成形するための二つキャビティ3とともに、ゲートGを介して各キャビティ3に接続された樹脂流路としてのランナ49が形成されるようになっている。そして、固定型2の型板10には、ランナ49に直角に接続されるスプルー48を形成するスプルーブッシュ47が取り付けられている。
【0028】
また、可動型1側の型取付部材16には、インサート11のそれぞれに対応させて油圧シリンダ19が設けられており、ピストン20に連結されたピストンロッド21が、油圧シリンダ19の一端側に固定されたバックインサート22内を貫通している。そして、それぞれのピストンロッド21の先端に設けられたT字クランプ部材23が、インサート11の背面(成形面が形成された面とは反対側の面)に形成されたT字溝24に係脱自在に係合されている。
【0029】
これによって、成形型50を型開きした状態で、各油圧シリンダ19のピストンロッド21を前進させて、それぞれのピストンロッド21の先端に設けられたT字クランプ部材23をインサートガイド部材5から突出させることで、成形しようとするプラスチックレンズに応じてインサート11を交換できるようになっている。各油圧シリンダ19のピストンロッド21が後退すると、T字クランプ部材23に取り付けられたインサート11は、インサートガイド部材5の内部に収納される。
【0030】
同様に、固定型2側の型取付部材15にも、インサート12のそれぞれに対応させて油圧シリンダ26が設けられており、ピストン27に連結されたピストンロッド28が、型取付部材15内を貫通している。そして、それぞれのピストンロッド28の先端に設けられたT字クランプ部材29が、インサート12の背面(成形面が形成された面とは反対側の面)に形成されたT字溝30に係脱自在に係合されている。
【0031】
これによって、成形型50を型開きした状態で、各油圧シリンダ26のピストンロッド28を前進させて、それぞれのピストンロッド28の先端に設けられたT字クランプ部材29をインサートガイド部材9から突出させることで、成形しようとするプラスチックレンズに応じてインサート12を交換することができるようになっている。各油圧シリンダ26のピストンロッド28が後退すると、T字クランプ部材29に取り付けられたインサート12は、インサートガイド部材9の内部に収納される。
【0032】
また、可動型1の型本体4を可動ダイプレート64に固定するに際して、型本体4は、
図3に示すように、第一部材16Aと、第二部材16Bとからなる型取付部材16にボルト17で取り付けられている。このとき、可動型1の型本体4と型取付部材16との間には、ボルト17の外周に挿入された複数の皿ばね17Aが介装されており、可動型1の型本体4と型取付部材16との間に隙間Sが形成されるようになっている。
【0033】
この隙間Sは、成形型50が閉じられた後に可動ダイプレート64がさらに前進し、ガイドピン18でガイドされた型取付部材16が、皿ばね17Aの弾性力に抗して押圧されることにより閉じられるようになっている。これに伴って、図示する例では、型取付部材16に設けられた各油圧シリンダ19が、バックインサート22を介してインサート11を押圧するようになっている。これにより、型締めがなされる際のキャビティ3の容積を可変とし、キャビティ3内に射出充填された溶融樹脂をインサート11によって加圧圧縮できるようにしてある。
なお、ガイドピン18は、成形型50の開閉動作もガイドするように、固定型2側に突出して、固定型2に穿設された挿通孔に挿通されるようになっている。
【0034】
また、可動型1側の型取付部材16に設けられた油圧シリンダ19の他端側には、受圧部材32が取り付けられている。そして、型取付部材16に形成された孔33から挿入されたエジェクトロッド34が受圧部材32を押圧すると、油圧シリンダ19、バックインサート22及びインサート11も押圧され、キャビティ3内で成形されたレンズが押し出されるようになっている。
これとともに、型取付部材16の中央には、成形型50の開閉方向と平行に進退可能にエジェクトピン35が配置されている。型取付部材16に形成された孔37から挿入されたエジェクトロッド38によって、エジェクトピン35に取り付けられた受圧部材36が押圧されると、エジェクトピン35が押し出される。
したがって、型開きに際しては、エジェクトロッド34,38を前進させることによって、成形品の取り出しがなされるようになっている。
【0035】
なお、
図4に示すように、受圧部材36には、エジェクトリターンピン41の外周に巻回されたばね42のばね力が図中左向きに作用している。また、特に図示しないが、受圧部材32にも、図中左向きのばね力が作用するように、同様の構造とされている。これにより、エジェクトロッド34,38が後退すると、受圧部材32,36も後退して待機位置に戻るようになっている。
【0036】
また、成形型50は、
図4に示すように、射出装置80のノズル85を閉塞するノズルシャット機構90を有している。ノズルシャット機構90は、スプルーブッシュ47によって形成されるスプルー48内に突出する遮断部材としてのノズルシャットピン91を有している。このノズルシャットピン91は、接続片92を介して油圧シリンダ93のピストンロッド94に接続されており、油圧シリンダ93は、シリンダ取付板95によって型取付部材15に固定されている。これにより、スプルーブッシュ47にノズル85が圧接した状態において、油圧シリンダ93を駆動させると、ノズルシャットピン91がスプルー48内に突出してノズル85を閉塞し、樹脂の逆流を阻止するようになっている。
【0037】
[偏光プラスチックレンズの製造方法]
本実施形態にあっては、以上のような射出成形装置を用いて、成形型50に装填された偏光シートSと一体にレンズ本体が成形されるようにインサート成形することによって偏光プラスチックレンズを製造する。
【0038】
偏光プラスチックレンズは、通常、レンズ表面に偏光シートSが一体となるように製造される。このため、本実施形態では、固定型2側のインサート12に形成された成形面の外形形状に合せて切り抜くとともに、当該成形面に応じて曲げ加工が施された偏光シートSを用意しておき、かかる偏光シートSを成形型50の固定型2側に装填するが、これに限定されない。
【0039】
偏光シートSに曲げ加工を施すにあたり、その偏光軸Aに沿った方向と、偏光軸Aに直交する方向とでは、曲げ加工の精度に差があり、偏光軸Aに沿った方向では、ほぼ狙い通りのカーブに曲げ加工できる傾向があるのに対して、偏光軸Aと直交する方向では、中心側のカーブが浅く、外周側が深めのカーブに曲がるという傾向があるのは前述した通りである。
本実施形態では、このような偏光シートSの曲げ特性を勘案して、樹脂の充填方向と偏光シートSの偏光軸Aが直交しないように、偏光シートSを成形型50に装填する。例えば、樹脂の充填方向に対する偏光軸Aの傾きが、好ましくは45°以下、より好ましくは30°以下、さらに好ましくは20°以下、特に好ましくは10°以下、最も好ましくは5°以下となるように偏光シートSを成形型50に装填する。このようにすることで、曲げ加工の精度が高い偏光軸Aに沿った方向に沿って樹脂が充填さるようになり、製造されたレンズ表面に外観不良である「しわ」が発生するのを良好に抑制し、高品質の偏光プラスチックレンズを製造することができる。
【0040】
ここで、樹脂の充填方向とは、射出された溶融樹脂がゲートGを通ってキャビティ3内に充填されていく方向をいい、より具体的には、ゲートG直近のランナ49の中心線をゲートG側から反ゲート側に延長した方向をいうものとし、かかる方向を
図5に一点鎖線で示す。
なお、
図5は、可動型1側から固定型2のパーティング面をみた要部概略図であって、偏光シートSを固定型2側に装填した一例を示しており、偏光シートSの偏光軸Aを模式的に太線で示している。
【0041】
このようにして偏光シートSを成形型50に装填するに際し、偏光シートSの位置決めをするには、特に図示しないが、例えば、偏光シートSの周縁に位置決めタブを形成するとともに、これと係合する切欠きを成形型50側に形成するなどして、先に本出願人が特願2014−067743で提案したようにして偏光シートSを位置決めすることができる。
【0042】
また、本実施形態で製造する偏光プラスチックレンズは、特に限定されず、度付きのレンズであっても、度なしのレンズであってもよい。レンズ形状も球面、非球面のいずれであってもよく、単焦点レンズ、累進屈折力レンズ、多重焦点レンズのいずれであってもよい。ただし、例えば、累進屈折力レンズや多重焦点レンズなどのように光学面形状に方向性があるレンズを製造する場合には、製造された偏光プラスチックレンズは、偏光軸Aが水平になるように眼鏡フレームに組み入れられることを考慮する必要がある。このような場合には、成形型50の可動型1側のインサート11と固定型2側のインサート12のそれぞれに形成される成形面は、これらを成形型50に収納して固定したときに、成形されるレンズの光学面形状の方向が、成形型50に装填する偏光シートSの偏光軸Aの方向に適した方向となるように形成する。
本実施形態で製造する偏光プラスチックレンズとしては、しわ抑制の効果がより優れる点から、単焦点レンズが好適に挙げられる。
【0043】
また、本実施形態では、曲げ加工の精度の高い偏光軸Aに沿った方向のカーブが、これに対応する方向に沿った成形面のカーブに一致(ただし、誤差の範囲で概ね一致する場合を含む)するように曲げ加工を施した偏光シートSを用いることで、製造されたレンズ表面に外観不良である「しわ」が発生するのをより良好に抑制することができるが、これに限定されない。
偏光シートのカーブが成形面よりも深いと、成形型に装填したときに偏光シートは中心側が成形面に接触した状態にあり、偏光シートが中心側から外周側に向かって成形面に密着していく過程で伸びが妨げられてしまい、伸びきれなくなった部分に「しわ」が発生してしまうと考えられるのは前述した通りである。これに対して、偏光シートのカーブが成形面の曲率より大きい浅めのカーブになっている場合には、成形型に装填したときに偏光シートは中心側が成形面から浮いた状態にあり、偏光シートは伸びが妨げられずに成形面に倣うように変形していくことができると考えられる。このため、偏光シートを成形面に倣うように変形させることができる程度に、偏光軸Aに沿った方向のカーブが、これに対応する方向に沿った成形面のカーブよりも浅くなるように曲げ加工が施された偏光シートSを用いても、「しわ」の発生を抑制することが可能であり、かかる偏光シートSを、似たような光学面形状を有する偏光プラスチックレンズを製造する際に共通に利用してもよい。
【0044】
このような本実施形態に係る偏光プラスチックレンズの製造方法は、より具体的には、
図6のフローチャートに示す各ステップ(ST1〜ST10)を順に行うことで実施することができる。
【0045】
ST1において、樹脂加圧条件の設定を行う。これは、予め、適正な圧力をキャビティ3内の樹脂に付加するために、成形しようとする偏光プレスチックレンズの特性(レンズ形状及びレンズ度数など)に応じて、型締め力を調整するためのものである。
【0046】
ST2において、計量を行う。射出装置80において、ホッパー81から投入されたペレット状の原料樹脂は、加熱シリンダ82内で回転するスクリューによって、せん断、粉砕されつつ、せん断熱と加熱シリンダ82が備えるヒーターからの加熱によって溶融、混練されながら、スクリューの先端とノズル85との間に形成されるシリンダ前室に送られて計量される。ここでは、キャビティ3、ランナ49及びスプルー48に充填されるのに必要な量の溶融樹脂を計量する。
なお、原料樹脂としては、この種のプラスチックレンズの成形に一般に使用されるポリカーボネート樹脂やアクリル樹脂などの熱可塑性樹脂を用いることができる。
【0047】
ST3において、前述したようにして偏光シートSが装填された成形型50をパーティングラインPLで型閉じする。具体的には、トグルリンク機構65を駆動して、クロスヘッド73を前進させると、トグルリンク71A,71Bが伸びて、可動ダイプレート64が固定ダイプレート61に向かって前進することによって、成形型50の型閉じを行う。このとき、可動型1の型本体4と型取付部材16との間に介装された皿ばね17Aが圧縮されない状態で隙間Sを保って、固定型2及び可動型1をパーティングラインPLで型閉じする。この状態では、隙間Sは最大開き量に設定されている。
【0048】
ST4において、キャビティ容積の設定を行う。ST3で可動型1と固定型2とをパーティングラインPLで密着させた状態から、さらにクロスヘッド73を予め設定した位置(キャビティ容積設定位置)まで前進させる。これにより、トグルリンク71A,71Bが伸びて、可動ダイプレート64が固定ダイプレート61に向かって移動され、キャビティ拡大位置まで移動される。キャビティ拡大量は、クロスヘッド位置の設定により決定される。これにより、成形型50の隙間Sはキャビティ拡大分を残して縮小される。このとき、キャビティ3の容積(肉厚)は、成形されるレンズ容積(肉厚)、つまり、取出し成形品の肉厚より大きく拡大された状態にある。また、皿ばね17Aは圧縮されるため、その反力として、幾分かの型締め力が発生している。
【0049】
ST5において、射出を行う。ST2で計量された溶融樹脂を射出ノズル85の通路を通じて成形型50に射出する。つまり、射出装置80の加熱シリンダ82内に導入して計量した溶融樹脂を射出する。すると、溶融樹脂が加熱シリンダ82の先端に形成されたノズル85から射出され、スプルー48、ランナ49、ゲートGを通じてキャビティ3内に充填されていく。溶融樹脂がキャビティ3に充填されるとき、射出速度は一定制御されている。
【0050】
ST6において、樹脂を型内に封じ込める。T5で所定量の樹脂を射出した後、溶融樹脂の射出充填が完了する直前に、クロスヘッド73をさらに前進させる。そして、射出充填が完了した後には、直ちにノズルシャット機構90によってスプルー48内にノズルシャットピン91を突出させてノズル85を閉塞する。これにより、充填された溶融樹脂は、圧縮加圧された状態で成形型50内に封じ込められる。
【0051】
ST7において、樹脂加圧を行う。ST6でクロスヘッド73の前進を開始し、クロスヘッド73が原点(ゼロ位置)まで前進して停止すると、トグルリンク71A,71Bは伸びきるため、成形型51内に封じ込められた溶融樹脂は圧縮加圧される。
【0052】
ST8において、冷却を行う。これには、成形型50の各部(インサート、インサートガイド部材など)の温度が、成形するレンズ特性に応じてTg点以下の設定された温度になるように、金型温度調節装置51によって温調流体の温度制御を行う。圧縮加圧された状態のまま成形型50内に封じ込められた溶融樹脂を冷却すると、キャビティ3に射出充填された原料樹脂は、加圧圧縮された状態で冷却が進行していくにつれ、固化、収縮していき、所定の容積のプラスチックレンズが成形される。
【0053】
ST9において、離型動作を行う。離型動作では、トグルリンク機構65のクロスヘッド73をリヤプレート62に向かって後退させて成形型50の型開きを行う。
【0054】
ST10において、成形品エジェクト動作を行う。クロスヘッド73を最後まで後退させると、可動ダイプレート64と固定ダイプレート61との間隔は最大となり、成形型50はパーティングラインPLより分割されて型開きがなされる。この型開きに際して、エジェクトロッド34,38を前進させて、成形された偏光プラスチックレンズの取り出しを行う。
【0055】
このようにして成形された偏光プラスチックレンズは、
図7に示すように、キャビティ3によって成形されたレンズ部102と、ランナ49によって成形された連結部103と、スプルー48によって成形された棒状部104とがつながった状態で成形型50から取り出される。そして、成形型50から取り出された後は、レンズ部102を切り離して、これに必要な後処理を施して最終製品に仕上げられてから偏光プラスチックレンズとして市場に供される。
なお、
図7では、偏光シートSの偏光軸Aを模式的に示している。
【0056】
レンズ部102に残る連結部103から切り離した痕跡は、一般に、ゲート痕と称される。このようなゲート痕は、通常、研磨処理を施すなどして目視では判別できないようにすることが多いが、射出成形法によって成形されたレンズには、ゲート痕の周りに他の部分と異なる歪みが生じている。このような歪みを調べることでゲート痕の位置を特定することが可能であり、このような歪みが生じている部位も含めてゲート痕というものとする。
【0057】
本実施形態において製造された偏光プラスチックレンズは、レンズの中心を通ってゲート痕の中心に向かう方向と、偏光シートSの偏光軸Aが直交していないことを特徴とする。例えば、偏光シートSと一体にインサート成形された偏光プラスチックレンズは、偏光シートSの偏光軸Aが水平になるように眼鏡フレームに組み入れることになるので、眼鏡フレームに組み入れる際の左右方向側にゲート痕が位置することになり、レンズの中心を通ってゲート痕の中心に向かう方向に対する偏光軸Aの傾きが、好ましくは45°以下、より好ましくは30°以下、さらに好ましくは20°以下、特に好ましくは10°以下、最も好ましくは5°以下とされた偏光プラスチックレンズは、レンズ表面に外観不良である「しわ」の発生が抑止された、高品質の偏光プラスチックレンズであるといえる。
【0058】
以上、本発明について、好ましい実施形態を示して説明したが、本発明は、前述した実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の範囲で種々の変更実施が可能であることはいうまでもない。
【0059】
例えば、前述した実施形態では、偏光プラスチックレンズを二個取り用の成形型50を用いて製造する例を示したが、一個取り又は三個取り以上の多数個取りとしてもよい。