特許第6702722号(P6702722)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6702722
(24)【登録日】2020年5月11日
(45)【発行日】2020年6月3日
(54)【発明の名称】肝細胞がんの予防及び/又は治療剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/202 20060101AFI20200525BHJP
   A61K 31/4178 20060101ALI20200525BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20200525BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20200525BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20200525BHJP
【FI】
   A61K31/202
   A61K31/4178
   A61P1/16
   A61P35/00
   A61P43/00 121
【請求項の数】11
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-511292(P2015-511292)
(86)(22)【出願日】2014年4月10日
(86)【国際出願番号】JP2014060359
(87)【国際公開番号】WO2014168191
(87)【国際公開日】20141016
【審査請求日】2017年4月3日
【審判番号】不服2018-13597(P2018-13597/J1)
【審判請求日】2018年10月12日
(31)【優先権主張番号】特願2013-81708(P2013-81708)
(32)【優先日】2013年4月10日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】507126487
【氏名又は名称】公立大学法人奈良県立医科大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000163006
【氏名又は名称】興和株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【弁理士】
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【弁理士】
【氏名又は名称】竹林 則幸
(72)【発明者】
【氏名】吉治 仁志
(72)【発明者】
【氏名】福井 博
【合議体】
【審判長】 藤原 浩子
【審判官】 穴吹 智子
【審判官】 渕野 留香
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/061142(WO,A1)
【文献】 国際公開第2002/087503(WO,A1)
【文献】 特表2009−511570(JP,A)
【文献】 ビタミン,1997年,Vol.71,No.5,6,pp.221〜234
【文献】 International Journal of Clinical Oncology,2006年,Vol.11,pp.82−89
【文献】 Cancer Research,2012年,Vol.72, No.17,pp.4459−4471
【文献】 多賀須幸男ら編,今日の治療指針 1999 ポケット判,pp.432〜434,1025,1026,医学書院,平成11年6月4日特許庁情報館受入
【文献】 肝臓,2012年,Vol.53, Suppl.2,p.A568(肝S1−4)
【文献】 浦部晶夫ら編,今日の治療薬(2012年版),p576、577,株式会社南江堂,2012年7月25日第34版第4刷発行
【文献】 肝臓,2011年,Vol.52,Suppl.1,p.A258(O−213)
【文献】 日本消化器病学会雑誌,2012年,Vol.109(臨時増刊号),A76(S4−1)
【文献】 Biochemical Pharmacology,2007年,Vol.73,pp.1405−1411
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K31/00-31/80
CAPLUS
BIOSIS
EMBASE
MEDLINE
JSTPLUS
JMEDPLUS
JST7580
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非環式レチノイド若しくはその塩又はそれらの溶媒和物、及びアンジオテンシンII受容体拮抗薬若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を組み合わせてなる、肝細胞がんの予防及び/又は治療のための医薬であって、
ここで、前記非環式レチノイドは、ペレチノインであり
アンジオテンシンII受容体拮抗薬は、ロサルタンである、上記医薬。
【請求項2】
肝細胞がんの予防及び/又は治療が、肝細胞がん治療後の再発の抑制である、請求項に記載の医薬。
【請求項3】
肝細胞がんが肝炎ウイルスに起因する肝細胞がんである請求項1又は2に記載の医薬。
【請求項4】
肝炎ウイルスがC型肝炎ウイルスである請求項に記載の医薬。
【請求項5】
非環式レチノイド若しくはその塩又はそれらの溶媒和物、及びアンジオテンシンII受容体拮抗薬若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を共に含有する配合剤の形態である請求項1〜のいずれか1項に記載の医薬。
【請求項6】
非環式レチノイド若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を含有する製剤、及びアンジオテンシンII受容体拮抗薬若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を含有する製剤の組み合わせを含むキット製剤の形態である請求項1〜のいずれか1項に記載の医薬。
【請求項7】
肝細胞がんの予防及び/又は治療を目的としてアンジオテンシンII受容体拮抗薬若しくはその塩又はそれらの溶媒和物と組み合わせて投与するための、非環式レチノイド若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を含有する医薬であって、
ここで、前記非環式レチノイドは、ペレチノインであり
アンジオテンシンII受容体拮抗薬は、ロサルタンである、上記医薬。
【請求項8】
肝細胞がんの予防及び/又は治療を目的として非環式レチノイド若しくはその塩又はそれらの溶媒和物と組み合わせて投与するための、アンジオテンシンII受容体拮抗薬若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を含有する医薬であって、
ここで、前記非環式レチノイドは、ペレチノインであり
アンジオテンシンII受容体拮抗薬は、ロサルタンである、上記医薬。
【請求項9】
肝細胞がんの予防及び/又は治療が、肝細胞がん治療後の再発の抑制である、請求項7又は8に記載の医薬。
【請求項10】
肝細胞がんが肝炎ウイルスに起因する肝細胞がんである請求項のいずれか1項に記載の医薬。
【請求項11】
肝炎ウイルスがC型肝炎ウイルスである請求項10に記載の医薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肝細胞がんの予防及び/又は治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
平成23年の本邦における悪性新生物による死亡数は35万7千人で死因の1位を占め、そのうち肝細胞がんによる死者は3万人を超えている。
わが国で発生する肝細胞がんの主な原因としては、90%以上はB型肝炎ウイルス又はC型肝炎ウイルス(HCV:以下、本明細書において「HCV」と記載する場合がある。)の持続感染(慢性肝炎)によるものといわれており、ウイルス性肝炎は肝細胞がんの発生に関与する疾患として極めて重要である。また、非アルコール性脂肪性肝炎(Non-alcoholic steatohepatitis:以下、本明細書において、「NASH」と記載することがある。)は、肝臓に脂肪が蓄積することで起こる肝炎であり、脂肪肝に対する酸化ストレス、インスリン抵抗性、炎症性サイトカインなどによって、脂肪肝からの移行や病態の悪化がもたらされる。近年、メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)の増加により、NASHの発症とそれに続く肝組織の線維化、肝硬変、肝細胞がんへと移行する患者が増加することが懸念されており、NASHはウイルス性肝炎とともに、肝細胞がんの発生に関与する疾患として重要である。
【0003】
肝細胞がんの治療としては、肝切除術や肝移植などの外科的治療法、経皮的エタノール注入療法、ラジオ波熱凝固療法又は経皮的マイクロ波凝固療法などの内科的局所療法、経カテーテル動脈塞栓術又は肝動注リザーバー療法などのカテーテル療法、或いは分子標的薬などの化学療法などが挙げられる。しかし、これらの療法を行ないうる現在でさえ、肝細胞がんの再発の頻度は高く、診断から2年以内に28.8%に肝内再発(二次発がん)が認められ(非特許文献1)、再発を繰り返して最終的に多くの患者を死に至らしめている。そのため、肝細胞がんの早期発見、早期治療と共に、今後の重要な課題として慢性肝炎からの肝発がんの抑制並びに肝細胞がん治療後の再発の抑制が挙げられ、治療後の残存肝に対して積極的に再発を抑制する治療を行うことが極めて重要であると考えられる。しかしながら、肝細胞がんの再発抑制に対する治療法としては、いまだ確立されたものはない。
【0004】
肝細胞がんに対する化学療法に用いる医薬としては、例えば、分子標的薬であるソラフェニブ(商品名ネクサバール(登録商標))が用いられている。本剤は切除不能な肝細胞がんの全身化学療法としてのみ用いられるうえ、さまざまな重大な副作用をもたらすことが報告されている。さらに、本剤の肝細胞がんに対する外科的治療又は内科的局所療法後の補助化学療法における有効性及び安全性は確立されていないのが現状であり、肝細胞がんの外科的治療又は内科的局所療法後に用いることができる、有効かつ安全な薬剤が強く望まれていた。
【0005】
(2E,4E,6E,10E)−3,7,11,15−テトラメチルヘキサデカ−2,4,6,10,14−ペンタエン酸(以下、本明細書において、「ペレチノイン」と記載する場合がある。)は非環式レチノイドに分類される化合物であり、臨床において、本化合物の一年間の長期投与により肝細胞がん根治治療後の再発を有意に抑制したことから、肝細胞がん再発抑制作用を有することが確認されている。また、肝機能障害及び他のレチノイドに見られる副作用は殆ど認められず、安全な薬剤である(非特許文献2)。
【0006】
一方、アンジオテンシンII受容体拮抗剤(以下、本明細書において、「ARB」(Angiotensin Receptor Blocker)と記載する場合がある。)は、昇圧物質アンジオテンシンIIと拮抗し、アンジオテンシンIIがアンジオテンシンII受容体に結合することを阻害することにより血圧の降下作用を示す薬物であり、ロサルタン、カンデサルタン、テルミサルタン、バルサルタン、オルメサルタン、イルベサルタン、アジルサルタン等が降圧剤として臨床的に用いられている。ARBは単に降圧作用のみならず、抗炎症作用、内皮機能改善作用、心血管リモデリング抑制作用、酸化ストレス抑制作用、増殖因子抑制作用、インスリン抵抗性改善作用等の様々な作用により、心血管疾患、腎疾患、動脈硬化等にも有用であることが、臨床もしくは基礎試験において多数報告されている(非特許文献3、4)。
【0007】
ARBの癌治療効果についてはいくつか報告があるものの(特許文献1〜3)、ARBとレチノイドとを組み合わせて肝細胞がんの予防及び/又は治療に用いた例は報告されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001-002587
【特許文献2】WO2002/087503号パンフレット
【特許文献3】WO2010/061142号パンフレット
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】第18回全国原発性肝癌追跡調査報告、日本肝癌研究会(2009)
【非特許文献2】N. Eng. J. Med., 334(24), 1561-1567(1996)
【非特許文献3】AMER. J. Hypertension, 18, 720-730(2005)
【非特許文献4】Current Hypertension Report, 10, 261-267(2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、肝細胞がんの予防及び/又は治療に有用な医薬を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは前記の課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、ペレチノインなどの非環式レチノイドとアンジオテンシンII受容体拮抗薬とを併用することにより、両者の肝細胞がん発がん抑制作用が飛躍的に増強されること、そのため、非環式レチノイドとアンジオテンシンII受容体拮抗薬の組み合わせが、肝細胞がんの予防及び/又は治療において高い効果を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明により、非環式レチノイド若しくはその塩又はそれらの溶媒和物、及びアンジオテンシンII受容体拮抗薬若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を組み合わせてなる肝細胞がんの予防及び/又は治療のための医薬が提供される。
【0012】
すなわち、本発明は、以下に示す発明に関する。
[1] 非環式レチノイド若しくはその塩又はそれらの溶媒和物、及びアンジオテンシンII受容体拮抗薬若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を組み合わせてなる、肝細胞がんの予防及び/又は治療のための医薬。
[2] 非環式レチノイドがペレチノインである前記[1]に記載の医薬。
[3] アンジオテンシンII受容体拮抗薬が、ロサルタン、カンデサルタン、テルミサルタン、バルサルタン、オルメサルタン、イルベサルタン又はアジルサルタンである、前記[1]又は[2]に記載の医薬。
[4] 肝細胞がんの予防及び/又は治療が、肝細胞がん治療後の再発の抑制である、前記[1]〜[3]のいずれか1項記載の医薬。
[5] 肝細胞がんが肝炎ウイルスに起因する肝細胞がんである前記[1]〜[4]のいずれか1項記載の医薬。
[6] 肝炎ウイルスがC型肝炎ウイルスである前記[5]に記載の医薬。
[7] 非環式レチノイド若しくはその塩又はそれらの溶媒和物、及びアンジオテンシンII受容体拮抗薬若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を共に含有する単一製剤(配合剤)の形態である前記[1]〜[6]のいずれか1項記載の医薬。
[8] 非環式レチノイド若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を含有する製剤、及びアンジオテンシンII受容体拮抗薬若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を含有する製剤の組み合わせを含むキット製剤の形態である前記[1]〜[6]のいずれか1項記載の医薬。
[9] 肝細胞がんの予防及び/又は治療を目的としてアンジオテンシンII受容体拮抗薬若しくはその塩又はそれらの溶媒和物と組み合わせて投与するための、非環式レチノイド若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を含有する医薬。
[10] 下記(1)及び(2);
(1)非環式レチノイド若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を含有する、肝細胞がんの予防及び/又は治療のための医薬;
(2)前記医薬を、アンジオテンシンII受容体拮抗薬若しくはその塩又はそれらの溶媒和物と組み合わせて投与することを指示する指示書;
を含むキットの形態である、前記[9]に記載の医薬。
[11] 肝細胞がんの予防及び/又は治療を目的として非環式レチノイド若しくはその塩又はそれらの溶媒和物と組み合わせて投与するための、アンジオテンシンII受容体拮抗薬若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を含有する医薬。
[12] 下記(1)及び(2);
(1)アンジオテンシンII受容体拮抗薬若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を含有する、肝細胞がんの予防及び/又は治療のための医薬;
(2)前記医薬を、非環式レチノイド若しくはその塩又はそれらの溶媒和物と組み合わせて投与することを指示する指示書;
を含むキットの形態である、前記[11]に記載の医薬。
[13] 非環式レチノイドがペレチノインである前記[9]〜[12]のいずれか1項記載の医薬。
[14] アンジオテンシンII受容体拮抗薬が、ロサルタン、カンデサルタン、テルミサルタン、バルサルタン、オルメサルタン、イルベサルタン又はアジルサルタンである、前記[9]〜[13]のいずれか1項記載の医薬。
[15] 肝細胞がんの予防及び/又は治療が、肝細胞がん治療後の再発の抑制である、前記[9]〜[14]のいずれか1項記載の医薬。
[16] 肝細胞がんが肝炎ウイルスに起因する肝細胞がんである前記[9]〜[15]のいずれか1項記載の医薬。
[17] 肝炎ウイルスがC型肝炎ウイルスである前記[16]に記載の医薬。
【0013】
[18] 非環式レチノイド若しくはその塩又はそれらの溶媒和物の有効量と、アンジオテンシンII受容体拮抗薬若しくはその塩又はそれらの溶媒和物の有効量とを、必要とする患者に同時に又は時間を変えて別々に投与する工程を含む、肝細胞がんの予防及び/又は治療方法。
[19] 非環式レチノイドがペレチノインである前記[18]に記載の方法。
[20] アンジオテンシンII受容体拮抗薬が、ロサルタン、カンデサルタン、テルミサルタン、バルサルタン、オルメサルタン、イルベサルタン又はアジルサルタンである、前記[18]又は[19]に記載の方法。
[21] 肝細胞がんの予防及び/又は治療が、肝細胞がん治療後の再発の抑制である、前記[18]〜[20]のいずれか1項記載の方法。
[22] 肝細胞がんが肝炎ウイルスに起因する肝細胞がんである前記[18]〜[21]のいずれか1項記載の方法。
[23] 肝炎ウイルスがC型肝炎ウイルスである前記[22]に記載の方法。
【0014】
[24] 肝細胞がんの予防及び/又は治療のための医薬の製造のための、非環式レチノイド若しくはその塩又はそれらの溶媒和物、及びアンジオテンシンII受容体拮抗薬若しくはその塩又はそれらの溶媒和物の組み合わせの使用。
[25] 非環式レチノイドがペレチノインである前記[24]に記載の使用。
[26] アンジオテンシンII受容体拮抗薬が、ロサルタン、カンデサルタン、テルミサルタン、バルサルタン、オルメサルタン、イルベサルタン又はアジルサルタンである、前記[24]又は[25]に記載の使用。
[27] 肝細胞がんの予防及び/又は治療が、肝細胞がん治療後の再発の抑制である、前記[24]〜[26]のいずれか1項記載の使用。
[28] 肝細胞がんが肝炎ウイルスに起因する肝細胞がんである前記[24]〜[27]のいずれか1項記載の使用。
[29] 肝炎ウイルスがC型肝炎ウイルスである前記[28]に記載の使用。
【0015】
[30] 肝細胞がんの予防及び/又は治療を目的としてアンジオテンシンII受容体拮抗薬若しくはその塩又はそれらの溶媒和物と組み合わせて投与するための、非環式レチノイド若しくはその塩又はそれらの溶媒和物。
[31] 非環式レチノイドがペレチノインである前記[30]に記載の非環式レチノイド若しくはその塩又はそれらの溶媒和物。
[32] アンジオテンシンII受容体拮抗薬が、ロサルタン、カンデサルタン、テルミサルタン、バルサルタン、オルメサルタン、イルベサルタン又はアジルサルタンである、前記[30]又は[31]に記載の非環式レチノイド若しくはその塩又はそれらの溶媒和物。
[33] 肝細胞がんの予防及び/又は治療が、肝細胞がん治療後の再発の抑制である、前記[30]〜[32]のいずれか1項記載の非環式レチノイド若しくはその塩又はそれらの溶媒和物。
[34] 肝細胞がんが肝炎ウイルスに起因する肝細胞がんである前記[30]〜[33]のいずれか1項記載の非環式レチノイド若しくはその塩又はそれらの溶媒和物。
[35] 肝炎ウイルスがC型肝炎ウイルスである前記[34]に記載の非環式レチノイド若しくはその塩又はそれらの溶媒和物。
【0016】
[36] 肝細胞がんの予防及び/又は治療を目的として非環式レチノイド若しくはその塩又はそれらの溶媒和物と組み合わせて投与するための、アンジオテンシンII受容体拮抗薬若しくはその塩又はそれらの溶媒和物。
[37] 非環式レチノイドがペレチノインである前記[36]に記載のアンジオテンシンII受容体拮抗薬若しくはその塩又はそれらの溶媒和物。
[38] アンジオテンシンII受容体拮抗薬が、ロサルタン、カンデサルタン、テルミサルタン、バルサルタン、オルメサルタン、イルベサルタン又はアジルサルタンである、前記[36]又は[37]に記載のアンジオテンシンII受容体拮抗薬若しくはその塩又はそれらの溶媒和物。
[39] 肝細胞がんの予防及び/又は治療が、肝細胞がん治療後の再発の抑制である、前記[36]〜[38]のいずれか1項記載のアンジオテンシンII受容体拮抗薬若しくはその塩又はそれらの溶媒和物。
[40] 肝細胞がんが肝炎ウイルスに起因する肝細胞がんである前記[36]〜[39]のいずれか1項記載のアンジオテンシンII受容体拮抗薬若しくはその塩又はそれらの溶媒和物。
[41] 肝炎ウイルスがC型肝炎ウイルスである前記[40]に記載のアンジオテンシンII受容体拮抗薬若しくはその塩又はそれらの溶媒和物。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、優れた肝細胞がんの予防及び/又は治療のための医薬が提供できる。特に、後記の実施例において詳述するように、非環式レチノイドとアンジオテンシンII受容体拮抗薬とを組み合わせることにより、肝細胞がん発がん抑制作用が飛躍的に向上する。したがって、両者を組み合わせて使用する本発明の医薬は、予後の悪い肝細胞がんの再発率を低下させることができるという優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】各群におけるGST−P陽性前癌病変の典型例である。
図2】各群におけるGST−P陽性前癌病変面積である。
図3】各群におけるGST−P陽性前癌病変数(1cm2あたり)である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本明細書における用語の定義は以下の通りである。本明細書で用いるすべての技術用語及び科学用語は、特に断らない限り、本発明が属する技術分野の当業者に一般に理解される意味で解釈すべきである。
【0020】
本発明は、一つの態様として、非環式レチノイド若しくはその塩又はそれらの溶媒和物、及びアンジオテンシンII受容体拮抗薬若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を組み合わせてなる、肝細胞がんの予防及び/又は治療のための医薬(以下、当該態様の医薬を「本発明の組み合わせ医薬」と称することがある。)を提供するものである。すなわち、本発明の組み合わせ医薬は、肝細胞がんの予防及び/又は治療のための医薬であって、非環式レチノイド若しくはその塩又はそれらの溶媒和物と、アンジオテンシンII受容体拮抗薬若しくはその塩又はそれらの溶媒和物とを組み合わせたものであり、これらの成分は、同時に又は時間を変えて投与することができる。
【0021】
レチノイドとはビタミンA(レチノール)とその類縁化合物であり、生体内では形態形成、細胞の分化及び増殖制御などの作用を有している。レチノイドは構造的特徴により環式レチノイド及び非環式レチノイドに分類される(レチノイド・カルテノイド、14-20(1997)、南山堂)。環式レチノイドとしては、前記レチノールの他、レチナール、オールトランスレチノイン酸(トレチノイン)、9−シスレチノイン酸(アリトレチノイン)、13−シスレチノイン酸(イソトレチノイン)等が挙げられる。また、広義には、ビタミンAとは全く類似しない化学構造を持つ化合物でも、レチノイン酸受容体と結合親和性を示す合成化合物を含めてレチノイドと称する。
【0022】
本発明において「非環式レチノイド」としては、前記した広義のレチノイドのうち分子内に環構造を有しないものを意味する。当該非環式レチノイドとしては具体的には例えば、ゲラニルゲラノイン酸、ペレチノイン、2,3−ジヒドロゲラニルゲラノイン酸、4,5−ジデヒドロ−10,11−ジヒドロゲラニルゲラノイン酸、4,5,8,9−テトラデヒドロゲラニルゲラノイン酸、4,5−ジデヒドロ−10,11,14,15−テトラヒドロゲラニルゲラノイン酸、14,15−ジヒドロゲラニルゲラノイン酸、メトプレン酸、ハイドロプレン酸、フィタン酸等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を組み合わせて使用できる。なお、非環式レチノイドの一つであるゲラニルゲラノイン酸は薬草中に含まれる成分で膜脂質のセラミドレベルを増加させること、並びに肝臓癌細胞のアポトーシスを引き起こすことから癌の予防治療薬として期待できることが報告されている(J. Lipid Res.,45 1092-1103 (2004))。
【0023】
本発明においては非環式レチノイドの塩を用いてもよい。当該塩としては例えば、非環式レチノイドを塩基性化合物として扱う場合は、無機酸(例えば、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸等)や有機酸(例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸、マレイン酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、アスパラギン酸、グルタミン酸等)との酸付加塩等が挙げられる。非環式レチノイドを酸性化合物として扱う場合には、無機塩(例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩、バリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩等)や有機塩(例えば、ピリジニウム塩、ピコリニウム塩、トリエチルアンモニウム塩等)が挙げられる。
また、本発明においては非環式レチノイド又はその塩の溶媒和物を用いてもよい。当該溶媒和物を形成する溶媒としては、水のほか、生理学的に許容される有機溶媒、例えばエタノール、アセトン、酢酸エチル、ヘキサンなどを用いることができるが、これらに限定されるものではない。
また、複数種の非環式レチノイドを組み合わせて使用する場合においては、各種レチノイドの塩や溶媒和物の種類は同一でも異なっていてもよい。
なお、非環式レチノイド若しくはその塩又はそれらの溶媒和物、特に前記した化合物はいずれも公知の化合物であり、公知の方法により製造できる。例えば、ペレチノインは特開昭56−140949号公報に記載の方法により製造することができる。また、本発明においては、市販の非環式レチノイドを用いてもよい。
【0024】
本発明において「非環式レチノイド若しくはその塩又はそれらの溶媒和物」としては、ペレチノイン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物が好ましく、ペレチノインが特に好ましい。
【0025】
本発明において「アンジオテンシンII受容体拮抗薬」としては、例えばロサルタン、カンデサルタン、テルミサルタン、バルサルタン、オルメサルタン、イルベサルタン又はアジルサルタン等が挙げられる。
【0026】
本発明においてはアンジオテンシンII受容体拮抗薬の塩を用いてもよい。当該塩としては例えば、アンジオテンシンII受容体拮抗薬を塩基性化合物として扱う場合は、無機酸(例えば、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸等)や有機酸(例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸、マレイン酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、アスパラギン酸、グルタミン酸等)との酸付加塩等が挙げられる。アンジオテンシンII受容体拮抗薬を酸性化合物として扱う場合には、無機塩(例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩、バリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩等)や有機塩(例えば、ピリジニウム塩、ピコリニウム塩、トリエチルアンモニウム塩等)との塩基付加塩が挙げられる。
また、本発明においてはアンジオテンシンII受容体拮抗薬又はその塩の溶媒和物を用いてもよい。当該溶媒和物を形成する溶媒としては、水のほか、生理学的に許容される有機溶媒、例えばエタノール、アセトン、酢酸エチル、ヘキサンなどを用いることができるが、これらに限定されるものではない。
なお、アンジオテンシンII受容体拮抗薬若しくはその塩又はそれらの溶媒和物は公知の方法により製造できるほか、市販のアンジオテンシンII受容体拮抗薬を用いてもよい。
【0027】
本発明において「アンジオテンシンII受容体拮抗薬若しくはその塩又はそれらの溶媒和物」としては、ロサルタン、カンデサルタン、テルミサルタン、バルサルタン、オルメサルタン、イルベサルタン又はアジルサルタンから選ばれるアンジオテンシンII受容体拮抗薬若しくはその塩又はそれらの溶媒和物が好ましく、特に、ロサルタン、オルメサルタン又はアジルサルタンが好適に使用される。
【0028】
本発明における非環式レチノイド若しくはその塩又はそれらの溶媒和物とアンジオテンシンII受容体拮抗薬若しくはその塩又はそれらの溶媒和物の組み合わせ比率は特に限定されず、所望の肝細胞がんの予防及び/又は治療効果が達成されるように適宜選択することができる。
【0029】
本発明において「肝細胞がんの予防及び/又は治療」とは、肝細胞がんの発生の予防、肝細胞がんの進展の抑制、肝細胞がんの治療、及び肝細胞がん治療後の再発の抑制を包含する概念である。本発明の医薬は、肝細胞がん治療後の再発の抑制、特に肝細胞がん根治後の再発の抑制の医薬として好適に使用できる。ここで、肝細胞がんの治療方法としては、例えば、肝切除術、全肝移植又は部分移植等の外科的治療法;経皮的エタノール注入療法(PEIT)、経皮的マイクロ波凝固療法(PMCT)、ラジオ波熱凝固療法(RFA)等の経皮的局所療法;肝動脈化学療法(TAI);ゼラチンスポンジ、多孔性ゼラチン粒、エンボスフェア(Embosephere;トリスアクリル・ゼラチン球状粒子)、superabsorbent polymer microspheres(SAP−MS)、HepaSphere、Embozene(特殊フッ素コーティングアクリル系ハイドロゲル)、ポリビニルアルコール等の塞栓物質を用いて動脈内を塞栓する肝動脈塞栓療法(TAE);エピルビシン塩酸塩、シスプラチン、ドキソルビシン塩酸塩、マイトマイシンC等の抗癌剤を用いたリピオドリゼーション後に前述の塞栓物質を用いて行う、又は薬剤(抗癌剤)溶出性ビーズ(drug−eluting beads;DEB)を用いて行う、肝動脈化学塞栓療法(TACE);グリチルリチン酸、小柴胡湯、インターフェロン、ペグインターフェロン、リバビリン、5−フルオロウラシル、シスプラチン、オキサリプラチン、ドキソルビシン塩酸塩、エピルビシン塩酸塩、ミトキサントロン塩酸塩、エトポシド、イリノテカン塩酸塩、ゲムシタビン塩酸塩、ドセタキセル水和物、ソラフェニブトシル酸塩、エルロチニブ塩酸塩、ピタバスタチンカルシウム等の薬物療法等が挙げられる。
【0030】
本発明の医薬は、前記肝細胞がんの予防・治療方法の前後や同時に投与することができる。ここで、肝細胞がん治療の方法は特に限定されず、前記の方法を施すことができ、又2種以上を組み合わせて施し得る。本発明においては、外科的治療法又は内科的局所療法が好ましい。
【0031】
また、本発明における肝細胞がんの背景は特に限定されず、例えば、慢性肝炎あるいは肝硬変(ウイルス性、アルコール性、脂肪肝、非アルコール性、カビ毒等)が挙げられ、本発明は、好適には肝炎ウイルスに起因する肝細胞がん(好ましくは肝炎ウイルス陽性肝細胞がん)、より好適にはB型肝炎ウイルス及びC型肝炎ウイルスから選ばれる1種以上のウイルスに起因する肝細胞がん(好ましくはB型肝炎ウイルス及びC型肝炎ウイルスから選ばれる1種以上のウイルスに陽性の肝細胞がん)、特に好適にはC型肝炎ウイルスに起因する肝細胞がん(好ましくはC型肝炎ウイルス陽性肝細胞がん)に適用し得る。後記実施例に具体的に開示されているとおり、本発明の医薬はC型肝炎ウイルスに起因する肝細胞がん治療後の患者に対して優れた再発抑制作用を奏し、予後が改善されることが明らかとなった。従って、本発明の医薬は、C型肝炎ウイルスに起因する肝細胞がん治療後の再発の抑制のための医薬として特に好適に使用できる。
また、本発明の医薬は、肝細胞がん治療後の再発を抑制することができるので、再発肝がんの再治療における再度の侵襲を回避でき、本発明の医薬は肝細胞がん治療後の再発の抑制のための医薬として好適に使用できる。
【0032】
本発明の組み合わせ医薬の形態は特に限定されず、具体的には例えば、以下の(I)、(II)の形態が挙げられる。
(I)非環式レチノイド若しくはその塩又はそれらの溶媒和物、及びアンジオテンシンII受容体拮抗薬若しくはその塩又はそれらの溶媒和物の両成分を共に含有する単一製剤(配合剤)の形態。
(II)非環式レチノイド若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を含有する製剤と、アンジオテンシンII受容体拮抗薬若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を含有する製剤とをそれぞれ別個の製剤として有する形態。
なお、当該(II)に係る形態の場合においては、各製剤を同時に投与するか、又は適宜の時間間隔をあけて別々に投与してもよく、所望の肝細胞がんの予防及び/又は治療効果が達成されるように、適切な投与計画を採用することが可能である。また、当該(II)に係る形態の場合においては、両製剤を単一包装中に含む組み合わせのキット製剤として提供することもできる。
【0033】
本発明の医薬の投与経路は特に限定されず、経口投与又は非経口投与のいずれであってもよい。前記(II)に係る形態においては、一方を経口投与製剤とし、他方を非経口投与製剤とすることもできる。経口投与製剤としては、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤等が挙げられる。非経口投与製剤としては、例えば、注射剤、坐剤、吸入薬、経皮吸収剤、皮膚外用剤、点眼剤、点鼻剤等が挙げられる。これらの投与形態のうち、好ましい投与形態は経口投与製剤であり、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤等が特に好ましい。
経口投与製剤、非経口投与製剤は、公知の製剤添加物を用いて、例えば、第15改正日本薬局方 製剤総則等に記載の公知の方法に基づいて製造することができる。
【0034】
本発明の医薬の投与量は特に限定されず、患者の年齢、体重、症状、投与形態、投与回数等の種々の条件に応じて適宜投与量を増減することができるが、例えば、非環式レチノイドがペレチノインである場合には、成人に対して、ペレチノインをフリー体として一日あたり10mg〜10g、好ましくは100mg〜5g、さらに好ましくは300mg〜1g、特に好ましくは500mg〜900mg投与することが好ましい。アンジオテンシンII受容体拮抗薬は、一日あたり0.1mg〜200mg、好ましくは1mg〜100mg投与することが好ましい。投与間隔としては、前記の投与量を1日1回又は複数回に分けて投与することができる。
【0035】
また、本発明は、別の態様として、肝細胞がんの予防及び/又は治療を目的としてアンジオテンシンII受容体拮抗薬若しくはその塩又はそれらの溶媒和物と組み合わせて投与するための、非環式レチノイド若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を含有する医薬を提供するものである。当該態様の医薬は、成分として非環式レチノイド若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を含有するものであり、肝細胞がんの予防及び/又は治療を目的としてアンジオテンシンII受容体拮抗薬若しくはその塩又はそれらの溶媒和物と同時に又は時間を変えて投与されるものである。当該態様の医薬の具体的態様としては、例えば、肝細胞がんの予防及び/又は治療のためのキットであって、下記(1)及び(2);
(1)非環式レチノイド若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を含有する、肝細胞がんの予防及び/又は治療のための医薬;
(2)前記医薬を、アンジオテンシンII受容体拮抗薬若しくはその塩又はそれらの溶媒和物と組み合わせて投与することを指示する指示書;
を含むキットが挙げられる。当該指示書としては、具体的には、効能・効果や用法・用量などに関する説明事項を記載したいわゆる能書(添付文書)などが挙げられる。
なお、当該態様における各文言の意義、各成分の使用量、製剤化のための事項等は前記と同様である。
【0036】
さらに、本発明は、別の態様として、肝細胞がんの予防及び/又は治療を目的として非環式レチノイド若しくはその塩又はそれらの溶媒和物と組み合わせて投与するための、アンジオテンシンII受容体拮抗薬若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を含有する医薬を提供するものである。当該態様の医薬は、成分としてアンジオテンシンII受容体拮抗薬若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を含有するものであり、肝細胞がんの予防及び/又は治療を目的として非環式レチノイド若しくはその塩又はそれらの溶媒和物と同時に又は時間を変えて投与されるものである。当該態様の医薬の具体的態様としては、例えば、肝細胞がんの予防及び/又は治療のためのキットであって、下記(1)及び(2);
(1)アンジオテンシンII受容体拮抗薬若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を含有する、肝細胞がんの予防及び/又は治療のための医薬;
(2)前記医薬を、非環式レチノイド若しくはその塩又はそれらの溶媒和物と組み合わせて投与することを指示する指示書;
を含むキットが挙げられる。当該指示書としては、具体的には、効能・効果や用法・用量などに関する説明事項を記載したいわゆる能書(添付文書)などが挙げられる。
なお、当該態様における各文言の意義、各成分の使用量、製剤化のための事項等は前記と同様である。
【実施例】
【0037】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は下記の実施例に限定されることはない。
【0038】
実施例1
[使用薬物]
非環式レチノイドとしては公知の方法で製造したペレチノインを、アンジオテンシンII受容体拮抗薬としてはロサルタン(万有製薬株式会社)を用いた。
[方法]
ラット肝発癌モデルとして、diethylnitrosamine(DEN)+部分肝切除モデルを用いた。具体的には、6週齢の雄性F344ラットに対し、200mg/kgのDEN又は生理食塩水(対照)を腹腔内投与し、投与後3週目に2/3肝切除を施し、8週目に評価した。薬物又は溶媒であるダイズ油(対照)は、2週目すなわち肝切除1週前より経口投与を開始した。群構成は、ペレチノイン単独投与群(40mg/kg/day及び10mg/kg/dayの2用量)、ロサルタン単独投与群(30mg/kg/day)、両者併用群(ペレチノイン用量に応じた2群)、溶媒投与群及びDEN非投与の対照群(negative control)の計7群(n=7)とし、glutathione S-transferase placental form(GST-P)陽性前癌病変に対するこれら薬物の効果について検討した。
【0039】
[結果]
GST-P陽性前癌病変に対する薬物投与の結果を図1図3に示す。図中、DENはdiethylnitrosamine(DEN)+部分肝切除モデルであることを示し、ARBはロサルタン投与(30mg/kg/day)を、ACR(10)はペレチノイン10mg/kg/day投与を、ACR(40)はペレチノイン40mg/kg/day投与をそれぞれ示す。図1は、各群における前癌病変の典型例を示す。図1から明らかなように、diethylnitrosamine(DEN)+部分肝切除によって惹起された前癌病変(DEN)は、ロサルタン単独投与(DEN+ARB)、ペレチノイン単独投与(10mg/kg/day(DEN+ ACR(10))、40mg/kg/day(DEN+ ACR(40))によりそれぞれ縮小し、両者の併用投与(DEN+ACR(10)+ARB、DEN+ACR(40)+ARB)はそれぞれの単独投与に比べてより顕著に縮小していることが判明した。図2は、前癌病変の平均面積を示し、図3は1cm2あたりの病変数を示す。図2図3から明らかなように、diethylnitrosamine(DEN)+部分肝切除によって惹起された前癌病変面積並びにその数(control)は、ロサルタン単独投与(ARB)、ペレチノイン単独投与(10mg/kg/day(ACR(10))、40mg/kg/day(ACR(40))によりそれぞれ有意に縮小並びに減少し、ペレチノイン単独投与においては用量反応が認められた。さらに、両者の併用投与(ACR(10)+ARB,ACR(40)+ARB)においては、それぞれの単独投与に比べて用量依存的にかつ有意に縮小並びに減少していることが判明した。
以上の結果から、非環式レチノイド若しくはその塩又はそれらの溶媒和物、及びアンジオテンシンII受容体拮抗薬若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を組み合わせることにより、優れた肝細胞がんの予防及び/又は治療効果が発揮されることが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明の医薬は、肝細胞がんの予防及び/又は治療のための医薬として利用可能であることから、産業上の利用可能性を有している。
図1
図2
図3