特許第6702723号(P6702723)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ エフ.ホフマン−ラ ロシュ アーゲーの特許一覧

特許6702723クロストリジウム−ディフィシルの検出のための組成物及び方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6702723
(24)【登録日】2020年5月11日
(45)【発行日】2020年6月3日
(54)【発明の名称】クロストリジウム−ディフィシルの検出のための組成物及び方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20200525BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20200525BHJP
   C12M 1/34 20060101ALI20200525BHJP
   C12Q 1/04 20060101ALI20200525BHJP
   C12Q 1/6844 20180101ALI20200525BHJP
【FI】
   C12N15/09ZNA
   C12M1/00 A
   C12M1/34 B
   C12M1/34 Z
   C12Q1/04
   C12Q1/6844
【請求項の数】15
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2015-532420(P2015-532420)
(86)(22)【出願日】2013年9月20日
(65)【公表番号】特表2015-529090(P2015-529090A)
(43)【公表日】2015年10月5日
(86)【国際出願番号】EP2013069556
(87)【国際公開番号】WO2014044788
(87)【国際公開日】20140327
【審査請求日】2016年9月16日
【審判番号】不服2018-14621(P2018-14621/J1)
【審判請求日】2018年11月2日
(31)【優先権主張番号】13/624,032
(32)【優先日】2012年9月21日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】591003013
【氏名又は名称】エフ.ホフマン−ラ ロシュ アーゲー
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN−LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【弁理士】
【氏名又は名称】武居 良太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100164563
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 貴英
(72)【発明者】
【氏名】シ−ダ ワイ.ルー
【合議体】
【審判長】 田村 聖子
【審判官】 天野 貴子
【審判官】 小暮 道明
(56)【参考文献】
【文献】 特表2003−511015(JP,A)
【文献】 特表2010−537648(JP,A)
【文献】 特表2010−514429(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/062897(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/008942(WO,A1)
【文献】 Clinical Microbiology and Infection,2006年,Vol.12,No.2,p.184−186
【文献】 Journal of Clinical Microbiology,2003年,Vol.41,No.2,p.730−734
【文献】 J.Clin.Microbiol.,2003,41(2),pp.730−734
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N15/00
C12M1/00
C12Q1/68
CAplus/BIOSIS/MEDLINE/EMBASE(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンプル中のC.ディフィシルを検出する方法であって:
− 複数のサイクルステップを実施し、ここで、各サイクルステップは、
・ 前記サンプルをtcdBプライマーのセットと接触させて、tcdBの核酸が前記サンプル中に存在する場合には増幅産物を産生することを含む、増幅ステップ;及び
・ 前記増幅産物が産生される場合において、前記増幅産物と、検出可能なtcdBプローブとを接触させることを含む、ハイブリダイズステップ;
を含み、そして
− 前記増幅産物の存在又は不存在を検出すること、ここで前記増幅産物の存在は、前記サンプル中のC.ディフィシルの存在を示し、前記増幅産物の不存在は、前記サンプル中のC.ディフィシルの不存在を示す、
を含み、
ここで前記tcdBプライマーのセットは、
配列番号2で表される配列からなる第一のオリゴヌクレオチドプライマーと、
配列番号4で表される配列からなる第二のオリゴヌクレオチドプライマーと、
を含み、そして
前記検出可能なtcdBプローブは、配列番号9で表される配列からなる、前記方法。
【請求項2】
− 前記ハイブリダイズステップは、ドナー蛍光部位及び対応するアクセプター蛍光部位で標識化されるプローブと前記増幅産物とを接触させることを含み;そして
− 前記検出ステップは、前記プローブのドナー蛍光部位とアクセプター蛍光部位との間の蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)の存在又は不存在を検出することを含み、ここで前記蛍光の存在又は不存在は、前記サンプル中のC.ディフィシルの存在又は不存在を示す、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記増幅は、5’−3’エキソヌクレアーゼ活性を有するポリメラーゼ酵素を用いる、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記ドナー蛍光部位及びアクセプター蛍光部位は、前記ブローブ上においてお互いに5個以下のヌクレオチドの範囲内に存在する、請求項2又は請求項2を引用する請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記アクセプター蛍光部位がクエンチャーである、請求項2、請求項2を引用する請求項3、及び請求項4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記tcdBプローブは、二次構造を形成することができる核酸配列を含み、ここで前記二次構造の形成によって、前記ドナー蛍光部位とアクセプター蛍光部位との間が空間的に近接する、請求項2、請求項2を引用する請求項3、請求項4、及び請求項5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
C.ディフィシルの核酸を検出するためのキットであって:
− 配列番号2で表される配列からなる第一オリゴヌクレオチド;
− 配列番号4で表される配列からなる第二オリゴヌクレオチド;並びに
− 配列番号9で表される配列からなる、検出可能に標識された第三オリゴヌクレオチド
を含む、前記キット。
【請求項8】
検出可能に標識された前記第三オリゴヌクレオチドが、ドナー蛍光部位及び対応するアクセプター蛍光部位を含む、請求項7に記載のキット。
【請求項9】
前記アクセプター蛍光部位がクエンチャーである、請求項8に記載のキット。
【請求項10】
以下の構成要素:ヌクレオシド三リン酸、核酸ポリメラーゼ、及び前記核酸ポリメラーゼの機能のために必要な緩衝液、の少なくとも1つをさらに含む、請求項7〜9のいずれか1項に記載のキット。
【請求項11】
配列番号2で表される配列からなる第一のオリゴヌクレオチドプライマーと、
配列番号4で表される配列からなる第二のオリゴヌクレオチドプライマーと
を含む、オリゴヌクレオチドのセット。
【請求項12】
前記オリゴヌクレオチドの少なくとも1つは、少なくとも1つの修飾ヌクレオチドを含む、請求項11に記載のオリゴヌクレオチドのセット。
【請求項13】
前記オリゴヌクレオチドの少なくとも1つは、少なくとも1つの保存修飾変異(conservatively modified variation)を含む、請求項11又は12に記載のオリゴヌクレオチドのセット。
【請求項14】
配列番号9で表される配列からなる、検出可能な標識をされた第三のオリゴヌクレオチドをさらに含む、請求項11〜13のいずれか1項に記載のオリゴヌクレオチドのセット。
【請求項15】
前記オリゴヌクレオチドが、40個以下のヌクレオチドを有する、請求項11〜14のいずれか1項に記載のオリゴヌクレオチドのセット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の技術分野
本発明は、微生物の診断分野に関し、より具体的にはクロストリジウム-ディフィシル(Clostridium difficile)の検出に関する。
【背景技術】
【0002】
クロストリジウム-ディフィシル(「C.ディフィシル(C. difficile)」又は「C.ディフ(C. diff)」)は、重篤な下痢及び他の腸疾患を引き起こしうる嫌気性のグラム陽性胞子形成細菌である。C.ディフィシルの胞子は病院で見つかることが多く、胞子は直接感染症を引き起こすことはできないが、摂取された場合に活性な感染型に変換しうる。C.ディフィシル感染症は、単純な下痢から顕著な罹患率及び死亡率を伴う偽膜性大腸炎まで、広範囲の臨床症候群を含む。抗生物質起因性大腸炎は、腸内細菌叢中の競合細菌が抗生物質によって一掃されたときに発症する、C.ディフィシルにより引き起こされる結腸の感染症である。それは、入院中の患者が感染する最も一般的な感染症である。
【0003】
C.ディフィシルによる感染症の大部分は、65歳以上の人の間並びに病院及び老人ホームなどの保健施設における患者の間で発症する。1996年から2009年まで、65歳以上の入院者のC.ディフィシル感染率は200%増大し、65〜74歳では175%、75〜84歳では198%、そして、85歳以上では201%の増大であった。85歳以上の患者の間のC.ディフィシル感染率は、他の年齢群よりも著しく高かった(National Hospital Discharge Survey, Annual Files, 1996年〜2009年)。
【0004】
一般に、C.ディフィシル大腸炎の診断は、便サンプル中のC.ディフィシルにより産生される毒素を検出する検査を含む。A毒素(tdcA)及びB毒素(tdcB)と呼ばれる、大腸炎を引き起こすことのできる2つの異なるC.ディフィシル毒素がある。これらの毒素の診断検査は市販されている。しかしながら、これらの検査は完璧ではなく、(C.ディフィシルが無い場合に毒素を発見する)偽陽性の検査結果及び(C.ディフィシルが存在する場合に毒素を発見しない)偽陰性の検査結果となる可能性がある。例えば、C.ディフィシルとC.ソルデリイ(C.sordellii)間の交差反応の可能性が知られている。「Cloning and characterization of the cytotoxin L−encoding gene of Clostridium sordellii: homology with Clostridium difficile cytotoxin B」Green他、Gene、1995年、161:57〜61頁を参照のこと。したがって、培養よりも感度が高く、偽陽性又は偽陰性の結果をより生じにくい、C.ディフィシルの検出のための分子検査を開発する大きな臨床的必要性が依然としてある。
【発明の概要】
【0005】
本発明の実施態様は、生物学的サンプル又は非生物学的サンプル中のC.ディフィシルの存在又は不存在の迅速な検出方法に関する。本発明は、少なくとも1つの循環ステップを実施することを含み、該ステップは、増幅ステップ及びハイブリダイズステップを含んでよい。さらに、本発明は、C.ディフィシルの検出のために設計されたプライマー、プローブ及びキットに関する。C.ディフィシルの検出のために本発明の方法において標的とされる遺伝子は、C.ディフィシルB毒素(tcdB)遺伝子である。例えば、毒素産生C.ディフィシルに特異的であり、エンテロトキシン陰性でサイトトキシン陽性のいくつかのクロストリジウム-ソルデリイ菌株を除く他のクロストリジウム種には存在しないと判断されたため(Green他、J. Med. Microbiol. 1996年、44:60〜64頁)、サイトトキシンBをコードするtcdBが選ばれた。毒素産生C.ディフィシル菌株の間でのtcdB遺伝子の多様性は、参照菌株VPI10463であるToXを含む31種もの毒素遺伝子変異型(toxinotype)をこれまでもたらしている。tcdB遺伝子は、宿主細胞膜への結合に関与するC末端ドメイン、インターナリゼーションに関与する中間部分及びN末端触媒(毒性)部分を有する、一本鎖タンパク質をコードする(Rupnik他、Microbiology、2005年、151(1):199〜208頁)。
【0006】
一態様において、本発明は、サンプル中のC.ディフィシルを検出する方法を提供し、該方法は、サンプルをtcdBプライマーのセットと接触させて、C.ディフィシルがサンプル中に存在する場合には増幅産物を産生することを含む、増幅ステップを行い;増幅産物と1又は2以上の検出可能なtcdBプローブとを接触させることを含む、ハイブリダイズステップを行い;そして、上記増幅産物の存在又は不存在を検出すること、ここで増幅産物の存在は、サンプル中のC.ディフィシルの存在を示し、増幅産物の不存在は、サンプル中のC.ディフィシルの不存在を示す、を含む。一実施態様において、tcdBプライマーのセットにおける各プライマーは、配列番号1、2、3、4、5、及び6からなる群から選択されるヌクレオチドの配列又はその相補配列を含むか、又はそれからなり;そして、上記1又は2以上の検出可能なtcdBプローブは、配列番号7、8及び9からなる群から選択されるヌクレオチドの配列を含むか、又はそれからなる。いくつかの実施態様においては、ハイブリダイズステップは、増幅産物とドナー蛍光部位及び対応するアクセプター蛍光部位で標識されるプローブとを接触させることを含む。上記方法はさらに、プローブのドナー蛍光部位とアクセプター蛍光部位の間の蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)の存在又は不存在を検出することを含んでよい。蛍光の存在又は不存在は、サンプル中のC.ディフィシルの存在又は不存在を示す。
【0007】
一態様において、増幅は、5’−3’エキソヌクレアーゼ活性を有するポリメラーゼ酵素を用いることができる。ある実施態様において、上記第一蛍光部位及び第二蛍光部位は、プローブの長さに沿って、お互いに5個以下のヌクレオチドの範囲内に (within no more than 5 nucleotides of each other) 存在してよい。別の態様において、tdcBプローブは、二次構造を形成することができる核酸配列を含む。そのような二次構造の形成により、一般に、第一蛍光部位と第二蛍光部位との間が空間的に近接する。この方法のある実施態様において、プローブ上の第二蛍光部位はクエンチャーであることができる。
【0008】
別の態様において、本発明は、個人からの生物学的サンプル中のC.ディフィシルの存在又は不存在を検出する方法を提供する。そのような方法は、一般に、少なくとも1つのサイクルステップを実施することを含み、これは、増幅ステップ及び色素結合ステップを含む。典型的に、増幅ステップは、サンプルと一対のtcdBプライマーとを接触させて、tcdBの核酸分子がサンプル中に存在する場合にはtcdBの増幅産物を生成することを含み、色素結合ステップは、tcdBの増幅産物と二本鎖DNA結合色素とを接触させることを含む。そのような方法は、二本鎖DNA結合色素の増幅産物への結合の存在又は不存在を検出することも含み、ここで、結合の存在は、サンプル中のC.ディフィシルの存在を示し、結合の不存在は、サンプル中のC.ディフィシルの不存在を示す。代表的な二本鎖DNA結合色素は、エチジウムブロマイドである。さらに、そのような方法は、tcdBの増幅産物と二本鎖DNA結合色素との間の融解温度を決定することも含むことができ、ここで、該融解温度がC.ディフィシルの存在又は不存在を確認する。
【0009】
さらなる態様において、本発明は、C.ディフィシル(tcdB標的)の核酸を検出するためのキットを提供する。該キットは、配列番号1、2及び3からなる群から選択される配列又はその相補配列を含むか又はそれからなる、第一オリゴヌクレオチド;配列番号4、5及び6からなる群から選択される配列又はその相補配列を含むか又はそれからなる第二オリゴヌクレオチド;並びに、配列番号7、8及び9からなる群から選択される配列又はその相補配列を含むか又はそれからなる、第三オリゴヌクレオチドを含むことができる。ある実施態様において、第一オリゴヌクレオチド及び第二オリゴヌクレオチドは、プライマーオリゴヌクレオチドであり、一方、検出可能に標識された第三オリゴヌクレオチドは、プローブオリゴヌクレオチドである。
【0010】
一実施態様において、キットは、ドナー蛍光部位及び対応するアクセプター蛍光部位で既に標識されたプローブを含むことができるか、又はプローブを標識するための蛍光性(fluorophoric)部位を含むことができる。ある実施態様において、アクセプター蛍光部位はクエンチャーである。キットは、ヌクレオシド三リン酸、核酸ポリメラーゼ及び核酸ポリメラーゼの機能のために必要な緩衝液、の少なくとも1つを含むこともできる。キットは、添付文書及びサンプル中のC.ディフィシルの存在又は不存在を検出するためにプライマー、プローブ及び蛍光性部位を使用するための指示も含むことができる。
【0011】
一態様において、本発明は、配列番号1、2、3、4、5、6、7、8及び9から選択されるヌクレオチドの配列又はその相補配列を含むか、又はそれからなるオリゴヌクレオチドを提供し、該オリゴヌクレオチドは、100個以下のヌクレオチドを有する。ある実施態様において、オリゴヌクレオチドは、40個以下のヌクレオチドを有する。別の態様において、本発明は、配列番号1、2、3、4、5、6、7、8及び9の1つ又はその相補配列に対して少なくとも70%(例えば、少なくとも75%、80%、85%、90%又は95%)の配列同一性を有する核酸を含むオリゴヌクレオチドを提供し、該オリゴヌクレオチドは、100個以下、より特別には、40個以下のヌクレオチドを有する。ある実施態様において、オリゴヌクレオチドは、配列番号1、2、3、4、5、6、7、8及び9の1つ又はその相補配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有する。一般に、これらのオリゴヌクレオチドは、これらの実施態様においてプライマー核酸、プローブ核酸などであってよい。これらの実施態様の或るものにおいて、オリゴヌクレオチドは、40個以下のヌクレオチド(例えば、35個以下のヌクレオチド、30個以下のヌクレオチドなど)を有する。いくつかの実施態様において、オリゴヌクレオチドは、例えば、未修飾ヌクレオチドに比べて核酸ハイブリダイゼーションの安定性を変更するために、少なくとも1つの修飾ヌクレオチドを含む。場合により、オリゴヌクレオチドは、少なくとも1つの標識部位及び/又は少なくとも1つのクエンチャー部位を含む。いくつかの実施態様において、オリゴヌクレオチドは少なくとも1つの保存修飾変異(conservative modified variation)を含む。
【0012】
さらに別の態様において、本発明は、一対のオリゴヌクレオチドプライマーを提供し、ここで、第一オリゴヌクレオチドプライマーは、配列番号1、2及び3からなる群から選択される配列又はその相補配列を含むか、又はそれからなり、さらにここで、第二オリゴヌクレオチドプライマーは、配列番号4、5及び6からなる群から選択される配列又はその相補配列を含むか、又はそれからなる。これらの実施態様の或るものにおいて、オリゴヌクレオチドの少なくとも1つは、40個以下のヌクレオチド(例えば、35個以下のヌクレオチド、30個以下のヌクレオチド)を有する。いくつかの実施態様において、上記オリゴヌクレオチドの少なくとも1つは、例えば、未修飾ヌクレオチドに比べて核酸ハイブリダイゼーションの安定性を変更するために、少なくとも1つの修飾ヌクレオチドを含む。いくつかの実施態様において、オリゴヌクレオチドの少なくとも1つは、少なくとも1つの保存修飾変異を含む。
【0013】
別段の定めのない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語及び科学用語は、本発明が属する分野の当業者によって一般に理解されるのと同じ意味を有する。本発明の実施又は試験において、本明細書に記載されたものと同様の又は同等の方法及び材料が使用可能であるが、好適な方法及び材料が以下に記載される。さらに、該材料、方法及び実施例は、単に例示であって限定することを意図しない。
【0014】
本発明の1又は2以上の実施態様の詳細は、添付の図面及び以下の記載に示される。本発明の他の特徴、目的及び利益は、図面及び詳細な説明、並びに特許請求の範囲から明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1A】C.ディフィシルの毒素Bのための様々なプライマー対により産生されたPCR産物のゲルデータ及びC.ソルデリイとの交差反応性のレベルを示す。CDB203BZ/CD202BZ(図1A)。
図1B】C.ディフィシルの毒素Bのための様々なプライマー対により産生されたPCR産物のゲルデータ及びC.ソルデリイとの交差反応性のレベルを示す。CDN211BZ/CDB214N(図1B)。
図1C】C.ディフィシルの毒素Bのための様々なプライマー対により産生されたPCR産物のゲルデータ及びC.ソルデリイとの交差反応性のレベルを示す。CDB205BZ/CDB204BZ(図1C)。
図2A】様々なプライマー対:CDB203BZ/CD202BZ(図2A)、CDN211BZ/CDB214N(図2B)及びCDB205BZ/CDB204BZ(図2C)によるC.ディフィシルTox 0及びC.ソルデリイのゲノムDNAの増幅におけるCDB242HQ6プローブのPCR増殖曲線を示す。
図2B】様々なプライマー対:CDB203BZ/CD202BZ(図2A)、CDN211BZ/CDB214N(図2B)及びCDB205BZ/CDB204BZ(図2C)によるC.ディフィシルTox 0及びC.ソルデリイのゲノムDNAの増幅におけるCDB242HQ6プローブのPCR増殖曲線を示す。
図2C】様々なプライマー対:CDB203BZ/CD202BZ(図2A)、CDN211BZ/CDB214N(図2B)及びCDB205BZ/CDB204BZ(図2C)によるC.ディフィシルTox 0及びC.ソルデリイのゲノムDNAの増幅におけるCDB242HQ6プローブのPCR増殖曲線を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
発明の詳細な説明
サンプル中のC.ディフィシルを検出するためのリアルタイムアッセイが本明細書に記載される。C.ディフィシルを検出するためのプライマー及びプローブが、そのようなプライマー及びプローブを含有する製品又はキットとして提供される。他の方法に比べて増大した、C.ディフィシル検出のためのリアルタイムPCRの感度、並びにサンプルの封じ込め及び増幅産物のリアルタイム検出を含む、リアルタイムPCRの改善された特徴は、臨床検査室におけるC.ディフィシル感染症の日常的診断のためのこの技術の実施を実行可能とする。
【0017】
上記方法は、一対のtdcBプライマーを用いて、サンプルからのtcdB核酸分子の一部を増幅することを含む、少なくとも1つのサイクルステップを実施することを含む。本明細書で使用される「tcdBプライマー」は、tcdBをコードする核酸配列に特異的にアニールし、適切な条件下でそこから合成を開始するオリゴヌクレオチドプライマーをさす。tcdBプライマーはそれぞれ、各増幅産物がtcdBに対応する核酸配列を含有するように、tcdB核酸分子内又はそれに隣接する標的にアニールする。tcdB核酸がサンプル中に存在するならばtcdB増幅産物が産生され、したがって、tcdB増幅産物の存在はサンプル中のC.ディフィシルの存在を示す。増幅産物は、1又は2以上の検出可能なtcdBプローブに相補的な核酸配列を含有するはずである。各サイクルステップは、増幅ステップ、ハイブリダイゼーションステップ及び検出ステップを含み、検出ステップにおいて、サンプルは、サンプル中のC.ディフィシルの存在又は不存在の検出のための1又は2以上の検出可能なtcdBプローブと接触させられる。
【0018】
本明細書で使用されるとおり、用語「増幅すること」は、テンプレート核酸分子(例えば、tcdB核酸分子)の一方又は両方の鎖に相補的な核酸分子を合成するプロセスをさす。核酸分子を増幅することは、典型的に、テンプレート核酸を変性させること、プライマーの融解温度未満の温度において、プライマーをテンプレート核酸にアニールさせること、及びプライマーから酵素により伸長させて、増幅産物を生成することを含む。増幅は、典型的に、デオキシリボヌクレオシド三リン酸、DNAポリメラーゼ酵素(例えば、Platinum(登録商標)Taq)並びに適切な緩衝液及び/又はポリメラーゼ酵素の最適な活性のための補因子(例えば、MgCl2及び/又はKCl)の存在を必要とする。
【0019】
用語「プライマー」は、本分野の当業者に知られたとおりに本明細書で使用され、オリゴマー化合物、主にオリゴヌクレオチドと呼ばれるが、テンプレート依存性DNAポリメラーゼによるDNA合成を「開始」することができる修飾オリゴヌクレオチドとも呼ばれ、すなわち、オリゴヌクレオチドなどの3’末端は、3’−5’ホスホジエステル結合を確立するテンプレート依存性DNAポリメラーゼによってさらなる「ヌクレオチド」がそこへ結合されうる、遊離の3’−OH基を提供し、これによって、デオキシヌクレオシド三リン酸が用いられ、ピロリン酸が放出される。したがって、おそらく目的とする機能以外には、本発明による「プライマー」、「オリゴヌクレオチド」又は「プローブ」の間に基本的な相違はない。
【0020】
用語「ハイブリダイズすること」は、1又は2以上のプローブを増幅産物へアニールすることをさす。ハイブリダイゼーション条件は、典型的に、プローブの融解温度未満の温度を含むが、それはプローブの非特異的なハイブリダイゼーションを回避する。
【0021】
用語「5’−3’エキソヌクレアーゼ活性」は、典型的に核酸鎖合成と関連し、それによってヌクレオチドが核酸鎖の5’末端から除去される核酸ポリメラーゼの活性をさす。
【0022】
用語「耐熱性ポリメラーゼ」は、熱に対して安定なポリメラーゼ酵素をさし、すなわち、該酵素は、テンプレートに相補的なプライマー伸長産物の形成を触媒し、二本鎖テンプレート核酸の変性をもたらすのに必要な時間、高温に供された場合に不可逆的に変性しない。一般に、合成は各プライマーの3’末端で開始し、テンプレート鎖に沿って5’から3’の方向に進行する。耐熱性ポリメラーゼは、サーマス-フィアバス(Thermus fiavus)、T.ルーバー(T.ruber)、T.サーモフィルス(T.thermophilus)、T.アクアティクス(T.aquaticus)、T.ラクテウス(T.lacteus)、T.ルベンス(T.rubens)、バシラス-ステアロサーモフィルス(Bacillus stearothermophilus)及びメタノサーマス-フェルビドゥス(Methanothermus fervidus)から単離されている。それにもかかわらず、耐熱性でないポリメラーゼも、該酵素が補充されるという条件でPCRアッセイにおいて使用されることができる。
【0023】
用語「その相補配列」は、所与の核酸と同じ長さであり、かつ、正確に相補的な核酸をさす。
【0024】
核酸に関して使用される場合の用語「延長(extension)」又は「伸長(elongation)」は、追加のヌクレオチド(又は他の類似分子)が核酸に組み込まれる場合をさす。例えば、核酸は場合により、典型的に核酸の3’末端にヌクレオチドを付加するポリメラーゼなどの、ヌクレオチドを組み込む生体触媒により延長される。
【0025】
2つ以上の核酸配列に関して、用語「同一の」又は「同一性」パーセントは、比較され、例えば、当業者に利用可能な配列比較アルゴリズムを用いて又は目視検査によって測定された対応が最大となるように整列化されたときに、同一であるか又は特定のパーセンテージの同一のヌクレオチドを有する、2つ以上の配列又は部分配列をさす。配列同一性パーセント及び配列類似性パーセントを決定するために好適な代表的アルゴリズムは、BLASTプログラムであって、Altschul他、(1990)「Basic local alignment search tool」、J. Mol. Biol. 215:403〜410頁、Gish他、(1993)「Identification of protein coding regions by database similarity search」、Nature Genet. 3:266〜272頁、Madden他、(1996)「Applications of network BLAST server」 Meth. Enzymol. 266:131〜141、Altschul他、(1997)「Gapped BLAST and PSI−BLAST:a new generation of protein database search programs」Nucleic Acids Res. 25:3389〜3402頁、及びAhang他、(1997)「PowerBLAST: A new network BLAST application for interactive or automated sequence analysis and annotation」、Genome Res. 7:649〜656頁に記載されている。
【0026】
オリゴヌクレオチドに関する「修飾ヌクレオチド」は、オリゴヌクレオチド配列の少なくとも1つのヌクレオチドが、該オリゴヌクレオチドに所望の性質を与える異なるヌクレオチドによって置換されている改変をさす。本明細書に記載のオリゴヌクレオチドにおいて置換されることのできる代表的な修飾ヌクレオチドは、例えば、C5−メチル−dc、C5−エチル−dC、C5−メチルdU、C5−エチル−dU、2,6−ジアミノプリン、C5−プロピニル−dC、C5−プロピニル−dU、C7−プロピニル−dA、C7−プロピニル−dG、C5−プロパルギルアミノ−dC、C5−プロパルギルアミノ−dU、C7−プロパルギルアミノ−dA、C7−プロパルギルアミノ−dG、7−デアザ−2−デオキシキサントシン、ピラゾロピリミジン類似体、シュード−dU、ニトロピロール、ニトロインドール、2’−o−メチルリボ−U、2’−o−メチルリボ−C及びN4−エチル−dC、N6−メチル−dAなどを含む。本発明のオリゴヌクレオチドおいて置換されることのできる他の多くの修飾ヌクレオチドは、本明細書で言及されるか、本分野で知られている。ある実施態様において、修飾ヌクレオチド置換は、オリゴヌクレオチドの融解温度(Tm)を、対応する未修飾オリゴヌクレオチドの融解温度(Tm)に比べて変更する。さらに実例を示すと、ある修飾ヌクレオチド置換は、本発明のいくつかの実施態様において、(プライマー二量体の形成を最小化するなどの)非特異的な核酸増幅を低減することができ及び/又は意図する標的アンプリコンの収率を増大させることなどができる。これらのタイプの核酸修飾の例は、米国特許第6,001,611号などに記載されている。
【0027】
C.ディフィシル核酸及びオリゴヌクレオチド
本発明は、例えば、tcdB遺伝子の一部を増幅することによってC.ディフィシルを検出する方法を提供する。C.ディフィシルからのtcdB遺伝子の核酸配列は、入手可能である(例えば、Genbank寄託番号AM180355を参照のこと)。具体的には、tcdB核酸分子を増幅し、検出するためのプライマー及びプローブが本発明によって提供される。
【0028】
C.ディフィシルの検出のために、tcdB核酸分子を増幅するためのプライマー及びプローブが提供される。本明細書で例示されるもの以外のtcdB核酸も、サンプル中のC.ディフィシルを検出するために使用されることができる。例えば、機能的変異体が、特異性及び/又は感受性に関して当業者により日常的方法を用いて評価されることができる。代表的な機能的変異体は、本明細書に開示されたtcdB核酸における、例えば、1又は2以上の欠失、挿入及び/又は置換を含みうる。
【0029】
より具体的には、本発明のオリゴヌクレオチドは各々、配列番号1、2、3、4、5、6、7、8及び9から選択される配列、実質的に同一のその変異体であって、配列番号1、2、3、4、5、6、7、8及び9の1つに対して、例えば、少なくとも80%、90%もしくは95%の配列同一性を有する上記変異体、又は配列番号1、2、3、4、5、6、7、8及び9並びに該変異体の相補配列を有する核酸を含む。
【0030】
【表1】
【0031】
【表2】
【0032】
【表3】
【0033】
本発明の一実施態様において、C.ディフィシルを含有することが疑われる生物学的サンプル中のC.ディフィシルの検出を提供するために、特別な一組のtcdBプライマー及びプローブが使用される。該一組のプライマー及びプローブは、配列番号1、2、3、4、5、6、7、8及び9からなる群から選択される核酸配列を含むか又はそれからなる、tcdBに特異的な少なくとも1つのプライマー及びプローブを含んでよい。本発明の別の実施態様において、tcdBのためのプライマー及びは、配列番号1、2、3、4、5、6、7、8及び9のうちの任意のプライマーの機能的に活性な変異体を含むか又はそれからなる。
【0034】
配列番号1、2、3、4、5、6、7、8及び9のうちの任意のプライマー及び/又はプローブの機能的に活性な変異体は、本発明の方法において該プライマー及び/又はプロ−ブを使用することによって同定されうる。配列番号1、2、3、4、5、6、7、8及び9のうちの任意のプライマー及び/又はプローブの機能的に活性な変異体は、配列番号1、2、3、4、5、6、7、8及び9の各配列に比べて同様の又はより高い特異性及び感受性を提供するプライマーに関する。
【0035】
変異体は、例えば、配列番号1、2、3、4、5、6、7、8及び9の各配列の5’末端及び/又は3’末端における1又は2以上のヌクレオチドの付加、欠失又は置換などの、1又は2以上のヌクレオチドの付加、欠失又は置換によって、配列番号1、2、3、4、5、6、7、8及び9の配列と相違してよい。上で詳述したとおり、プライマー(及び/又はプローブ)は、化学的に修飾されてよい、すなわち、プライマー及び/又はプローブは、修飾ヌクレオチド又は非ヌクレオチド化合物を含んでよい。その場合、プローブ(又はプライマー)は、修飾オリゴヌクレオチドである。「修飾ヌクレオチド」(又は「ヌクレオチド類似体」)は、何らかの修飾によって天然の「ヌクレオチド」とは異なるが、依然として、塩基若しくは塩基様化合物、ペントフラノシル糖若しくはペントフラノシル糖様化合物、リン酸部分若しくはリン酸様部分、又はそれらの組合せからなる。例えば、「標識」が、「ヌクレオチド」の塩基部分に結合されてよく、それによって、「修飾ヌクレオチド」が得られる。「ヌクレオチド」中の天然の塩基も、7−デスアザプリンなどによって置換されてよく、それによって、同様に「修飾ヌクレオチド」が得られる。用語「修飾ヌクレオチド」又は「ヌクレオチド類似体」は、本願において交換可能に使用される。「修飾ヌクレオシド」(又は「ヌクレオシド類似体」)は、「修飾ヌクレオチド」(又は「ヌクレオチド類似体」)について上で概説した方法による何らかの修飾によって、天然のオリゴヌクレオシドとは異なる。
【0036】
tcdBをコードする核酸分子、例えば、tcdBの別の部分をコードする核酸、を増幅する修飾オリゴヌクレオチド及びオリゴヌクレオチド類似体を含むオリゴヌクレオチドは、例えば、OLIGO(Molecular Biology Insights Inc., Cascade、Colo.)などのコンピュータプログラムを使用して設計されることができる。増幅プライマーとして使用されるオリゴヌクレオチドを設計するときの重要な特徴は、例えば、(電気泳動などによる)検出を容易化するための適切なサイズの増幅産物、一対のプライマーのメンバーに関する類似した融解温度、及び各プライマーの長さ(すなわち、プライマーは、配列特異的にアニールするため及び合成を開始するために十分に長い必要があるが、オリゴヌクレオチド合成の間にフィデリティーが減少するほど長い必要はない)。典型的に、オリゴヌクレオチドプライマーは、8〜50ヌクレオチドの長さ(例えば、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30、32、34、36、38、40、42、44、46、48又は50ヌクレオチドの長さ)である。
【0037】
本発明の方法は、C.ディフィシルの存在又は不存在を検出するために、一組のプライマーに加えて1又は2以上のプローブを使用してよい。用語「プローブ」は、定義された所定のストリンジェンシーでそれらが「標的核酸」、本発明の場合にはtcdB(標的)核酸、に特異的に(すなわち、優先的に)ハイブリダイズすることを可能とする特異的なヌクレオチド配列を設計又は選択によって含有する、合成により又は生物学的に生成された核酸(DNA又はRNA)をさす。「プローブ」は、それが標的核酸を検出することを意味する「検出プローブ」と呼ばれることができる。
【0038】
本発明によれば、tcdBプローブは、少なくとも1つの蛍光標識で標識されることができる。一実施態様において、tcdBプローブは、蛍光色素などのドナー蛍光部位及びクエンチャーなどの対応するアクセプター蛍光部位で標識されることができる。
【0039】
本発明の一実施態様において、少なくとも1つのプローブは、蛍光部位及び(標識を含まず示される)配列番号7、8及び9からなる群から選択される核酸配列を含むか又はそれからなる。
【0040】
ハイブリダイゼーションプローブとして使用されるオリゴヌクレオチドを設計することは、プライマーの設計と同様のやり方で実施されることができる。本発明の実施態様は、増幅産物の検出のために単一のプローブ又は一対のプローブを使用してよい。実施態様によって、プローブ(複数可)の使用は、少なくとも1つの標識及び/又は少なくとも1つのクエンチャー部位を含んでよい。プライマーと同様に、プローブは通常、類似する融解温度を有し、各プロ−ブの長さは、配列特異的なハイブリダイゼーションが起こるのに十分でなくてはならないが、合成の間にフィデリティーが減少するほど長くてはならない。一般に、オリゴヌクレオチドプローブは15〜30(例えば、16、18、20、22、24又は25)ヌクレオチドの長さである。
【0041】
本発明の構築物は、(配列番号1、2、3、4、5、6、7、8及び9などの)tcdB核酸分子を含有するベクターを含む。本発明の構築物は、例えば、コントロールテンプレート核酸分子として使用されることができる。本発明における使用に好適なベクターは、市販されており及び/又は本分野において日常的な組換え核酸技術の方法によって産生される。tcdB核酸分子は、例えば、化学合成、C.ディフィシルからの直接クローニング又はPCR増幅によって得られることができる。
【0042】
典型的に、本発明の方法における使用に好適な構築物は、tcdB核酸分子(例えば、配列番号1、2、3、4、5、6、7、8及び9の1又は2以上の配列を含有する核酸分子)に加えて、所望の構築物及び/又は形質転換体を選択するための(抗生物質耐性遺伝子などの)選択マーカーをコードする配列及び複製の起点を含む。ベクター系の選択は、通常、宿主細胞の選択、複製効率、選択可能性、誘導可能性及び回収の容易性を含むが、これらに限定されない数種の因子に依存する。
【0043】
tcdB核酸分子を含有する本発明の構築物は、宿主細胞中で増幅させることができる。本明細書で使用されるとおり、宿主細胞という用語は、原核生物並びに酵母、植物及び動物細胞などの真核生物を含むことを意味する。原核生物宿主は、E.コリ(E.coli)、サルモネラ・ティフィムリウム(Salmonella typhimurium)、セラチア・マルセッセンス(Serratia marcescens)及びバシラス・スブチリス(Bacillus subtilis)を含んでよい。真核生物宿主は、S.セレビシアエ(S.cerevisiae)、S.ポンベ(S.pombe)、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)などの酵母、COS細胞又はチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞などの哺乳動物細胞、昆虫細胞及びアラビドプシス・タリアーナ(Arabidopsis thaliana)及びニコチアナ・タバクム(Nicotiana tabacum)などの植物細胞を含む。本発明の構築物は、本分野の当業者に一般に知られた任意の技術を用いて宿主細胞中に導入されることができる。例えば、リン酸カルシウム沈殿、エレクトロポーレーション、ヒートショック、リポフェクション、マイクロインジェクション及びウイルス媒介核酸導入は、核酸を宿主細胞中に導入するための一般的な方法である。さらに、裸DNAが細胞に直接送達されることができる(例えば、米国特許第5,580、859及び同第5,589,466号を参照のこと)。
【0044】
ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)
米国特許第4,683,202号、同第4,683,195号、同第4,800,159号及び同第4,965,188号は、慣用のPCR技術を開示する。典型的に、PCRは、選択された(DNA又はRNAなどの)核酸テンプレートに結合する2つのオリゴヌクレオチドプライマーを使用する。本発明において有用なプライマーは、tcdB核酸配列内で核酸合成の開始点として作用することのできるオリゴヌクレオチドを含む(例えば、配列番号1、2、3、4、5及び6)。プライマーは、慣用方法によって制限消化物から精製されることができるか、又は合成により生成されることができる。最大効率のためにはプライマーは一本鎖であることが好ましいが、二本鎖であることもできる。二本鎖プライマーは、最初に変性される、すなわち、鎖を分離するために処理される。二本鎖核酸を変性させるための1つの方法は、加熱による。
【0045】
テンプレート核酸が二本鎖である場合、PCRにおいてテンプレートとして使用される前に2つの鎖を分離することが必要である。鎖の分離は、物理的、化学的又は酵素的手段を含む任意の好適な変性方法によって達成されることができる。核酸鎖を分離する1つの方法は、その大部分が変性される(例えば、50%、60%、70%、80%、90%又は95%超が変性される)まで核酸を加熱することを含む。テンプレート核酸を変性させるために必要な加熱条件は、例えば、緩衝液の塩濃度及び変性される核酸の長さ及びヌクレオチド組成に依存するが、典型的には、温度及び核酸の長さなどの反応の特徴に依存する時間の間、約90℃〜約105℃の範囲にわたる。典型的に、変性は約30秒〜4分(例えば、1分〜2分又は1.5分)の間、実施される。
【0046】
二本鎖テンプレート核酸が熱により変性させられる場合、反応混合物は、各プライマーのtcdB核酸上のその標的配列へのアニーリングを促進する温度まで放冷される。アニーリングのための温度は、通常、約35℃〜約65℃(例えば、約40℃〜約60℃;約45℃〜約50℃)である。アニーリング時間は、約10秒〜約1分(例えば、約20秒〜約50秒;約30秒〜約40秒)であることができる。次いで、反応混合物は、ポリメラーゼの活性が促進される又は最適化される温度、すなわち、アニールされたプライマーから延長が起こって、テンプレート核酸に相補的な生成物を産生するために十分な温度に調節される。温度は、核酸テンプレートにアニールされる各プライマーから延長産物を合成するために十分でなければならないが、その相補的テンプレートからの延長産物を変性させるほど高くてはならない(例えば、延長のための温度は、一般に、約40℃〜約80℃(例えば、約50℃〜約70℃;約60℃)の範囲に及ぶ)。延長時間は、約10秒〜約5分(例えば、約30秒〜約4分;約1分〜約3分;約1分30秒〜約2分)であることができる。
【0047】
PCRアッセイは、RNA又はDNA(cDNA)などのC.ディフィシル核酸を使用することができる。テンプレート核酸は、精製される必要はなく;それは、ヒト細胞中に含有されるC.ディフィシル核酸などの複雑な混合物の小部分であってよい。C.ディフィシル核酸は、Diagnostic Molecular Microbiology. Principles and Applications (Persing他(編)、1993年、American Society for Microbiology, Washington D.C.)に記載されたものなどの日常的技術によって生物学的サンプルから抽出されてよい。核酸は、プラスミド又は細菌、酵母、ウイルス、オルガネラ又は植物若しくは動物などの高等生物を含む天然の供給源などの任意の数の供給源から得られることができる。
【0048】
オリゴヌクレオチドプライマー(例えば、配列番号1、2、3、4、5及び6)は、プライマーの伸長を誘導する反応条件下でPCR試薬と混合される。例えば、鎖延長反応は、一般に、50mM KCl、10mM Tris-HCl(pH8.3)、15mM MgCl2、0.001%(w/v)ゼラチン、0.5〜1.0μgの変性テンプレートDNA、50pmolの各オリゴヌクレオチドプライマー、2.5UのTaqポリメラーゼ及び10% DMSOを含む。通常、反応は、dATP、dCTP、dTTP、dGTP又は1若しくは2以上のその類似体をそれぞれ、150〜320μM含有する。
【0049】
新たに合成された鎖は、反応の後続のステップにおいて使用されることのできる二本鎖分子を形成する。鎖の分離、アニーリング及び伸長のステップは、標的tcdB核酸分子に対応する所望の量の増幅産物を産生するために必要な回数、繰り返される。反応における制限因子は、反応中に存在するプライマー、耐熱性酵素及びヌクレオシド三リン酸の量である。サイクルステップ(すなわち、変性、アニーリング及び伸長)は、少なくとも1回繰り返されることが好ましい。検出における使用のために、サイクルステップの数はサンプルの性質などに依存する。サンプルが核酸の複雑な混合物である場合、検出に十分な標的配列を増幅するために、より多くのサイクルステップが必要とされる。一般に、サイクルステップは、少なくとも約20回繰り返されるが、40、60又は100回でも繰り返されてよい。
【0050】
蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)
FRET技術(例えば、米国特許第4,996,143号、同第5,565,322号、同第5,849,489号及び同第6,612,603号を参照のこと)は、ドナー蛍光部位及び対応するアクセプター蛍光部位がお互いに一定の距離以内に位置するとき、可視化されることができるか又は別の方法で検出され及び/又は定量化されることのできるエネルギー移動が該2つの蛍光部位の間に起こるという概念に基づく。ドナーは、典型的に、ドナーが好適な波長の光照射によって励起された場合、エネルギーをアクセプターに移動させる。アクセプターは、典型的に、移動されたエネルギーを異なる波長の光放射の形態で再放射する。
【0051】
一例において、オリゴヌクレオチドプローブは、ドナー蛍光部位及び移動されたエネルギーを光以外の形態で消散させる、対応するクエンチャーを含有することができる。プローブが完全である場合、ドナー蛍光部位からの蛍光発光が消光されるように、エネルギー移動は典型的に上記2つの蛍光部位の間で発生する。ポリメラーゼ連鎖反応の延長ステップの間、増幅産物に結合したプローブは、ドナー蛍光部位の蛍光発光がそれ以上消光されないように、Taq Polymeraseなどの5’−3’エキソヌクレアーゼ活性によって切断される。この目的のための代表的なプローブは、例えば、米国特許第5,210、015号、同第5,994,056号及び同第6,171,785号に記載されている。よく使用されるドナー−アクセプター対は、FAM−TAMRA対である。よく使用されるクエンチャーは、DABCYL及びTAMRAである。よく使用されるダーククエンチャーは、BlackHole Quenchers(商標)(BHQ)、(Biosearch Technologies, Inc., Novato, Cal.)、Iowa Black(商標)、(Integrated DNA Tech., Inc., Coralville, Iowa)、BlackBerry(商標)Quencher 650(BBQ−650)、(Berry & Assoc., Dexter, Mich.)を含む。
【0052】
別の例において、それぞれが蛍光部位を含有する2つのオリゴヌクレオチドプローブは、該オリゴヌクレオチドプローブのtcdB標的核酸配列への相補性により決定される特定の位置において増幅産物にハイブリダイズすることができる。適切な位置における増幅産物核酸へのオリゴヌクレオチドプローブのハイブリダイゼーションに際して、FRETシグナルが生成される。ハイブリダイゼーション温度は、約10秒〜約1分の間、約35℃〜約65℃の範囲に及ぶ。
【0053】
蛍光の分析は、例えば、(適切なダイクロイックミラー及び特定の範囲における蛍光発光をモニターするためのフィルターを含む)光子計数落射蛍光顕微鏡システム、光子計数光電子増倍システム又は蛍光光度計を用いて実施されることができる。エネルギー移動を開始するための励起は、アルゴンイオンレーザー、高輝度水銀(Hg)アークランプ、光ファイバー光源、又は所望の範囲における励起のために適切にフィルター処理された他の高輝度光源によって実施されることができる。
【0054】
ドナー及び対応するアクセプター蛍光部位に関して本明細書で使用される「対応する」は、ドナー蛍光部位の励起スペクトルと重複する発光スペクトルを有するアクセプター蛍光部位をさす。アクセプター蛍光部位の発光スペクトルの最大波長は、ドナー蛍光部位の励起スペクトルの最大波長よりも少なくとも100nm大きくなくてはならない。したがって、効率的な非放射型エネルギー移動がその間で発生し得る。
【0055】
蛍光ドナー及び対応するアクセプター部位は、一般に、(a)高効率のフォルスター型エネルギー移動;(b)大きな最終ストークスシフト(>100nm);(c)可視スペクトルの赤色部分(>600nm)への可能な限りの発光のシフト;及び(d)ドナーの励起波長における励起により発生したラマン水蛍光発光よりも大きな波長への発光のシフト、に関して選択される。例えば、ドナー蛍光部位は、レーザー光線(例えば、ヘリウム−カドミウムの442nm又はアルゴンの488nm)に近いその励起極大、高い消散 係数、高い量子収率及び対応するアクセプター蛍光部位の励起スペクトルとその蛍光発光との良好な重複を有するものが選択されうる。対応するアクセプター蛍光部位は、高い消散係数、高い量子収率、ドナー蛍光部位の発光とその励起との良好な重複及び可視スペクトルの赤色部分(>600nm)における発光を有するものが選択されうる。
【0056】
FRET技術において様々なアクセプター蛍光部位とともに使用されることのできる代表的なドナー蛍光部位は、フルオレセイン、Lucifer Yellow、B−フィコエリトリン、9−アクリジンイソチオシアネート、Lucifer Yellow VS、4−アセトアミド−4’−イソチオシアナトスチルベン−2,2’−ジスルホン酸、7−ジエチルアミノ−3−(4’−イソチオシアナトフェニル)−4−メチルクマリン、スクシミニジル1−ピレンブチレート及び4−アセトアミド−4’−イソチオシアナトスチルベン−2,2’−ジスルホン酸誘導体を含む。代表的なアクセプター蛍光部位は、使用されるドナー蛍光部位に依存して、LC Red 640、LC Red 705、Cy5、Cy5.5、LissaminローダミンBスルホニルクロライド、テトラメチルローダミンイソチオシアネート、ローダミンxイソチオシアネート、エリスロシンイソチオシアネート、フルオレセイン、ジエチレントリアミン五酢酸又は(ユーロピウム又はテルビウムなどの)ランタニドイオンの他のキレートを含む。ドナー及びアクセプター蛍光部位は、例えば、Molecular Probes(Junction City, Oreg.)又はSigma Chemical Co.(St. Louis Mo.)から入手可能である。
【0057】
ドナー及びアクセプター蛍光部位は、リンカーアームを介して適切なプローブオリゴヌクレオチドに結合されることができる。リンカーアームはドナー及びアクセプター蛍光部位の間の距離に影響するため、各リンカーアームの長さは重要である。本発明の目的のためのリンカーアームの長さは、ヌクレオチド塩基から蛍光部位までのオングストローム(Å)で表した距離である。一般に、リンカーアームは、約10Å〜約25Åである。リンカーアームは、PCT国際特許出願公開第WO84/03285号に記載された種類のものであってよい。PCT国際特許出願公開第WO84/03285号は、リンカーアームを特定のヌクレオチド塩基に結合するための方法及び蛍光部位をリンカーアームに結合するための方法も記載する。
【0058】
LC Red 640−NHS−エステルなどのアクセプター蛍光部位は、(ABI(Foster City, Calif)Glen Research(Sterling, Va.)から入手可能な)C6−ホスホラミダイトと組み合わされて、LC Red 640−ホスホラミダイトなどを生成することができる。フルオレセインなどのドナー蛍光部位をオリゴヌクレオチドにカップリングするために頻繁に使用されるリンカーは、チオ尿素リンカー(FITC由来のもの、例えば、Glen Research又はChemGene(Ashland,Mass.)からのフルオレセインCPG)、アミド−リンカー(フルオレセインNHS−エステル由来のもの、例えば、BioGenex(San Ramon, Calif.)からのフルオレセインCPG)又はオリゴヌクレオチド合成後にフルオレセイン−NHS−エステルのカップリングを必要とする3’−アミノ−CPGを含む。
【0059】
クロストリジウム-ディフィシルの検出
本発明は、生物学的サンプル又は非生物学的サンプル中のC.ディフィシルの存在又は不存在を検出するための方法を提供する。請求項に記載の方法は、ランからランへの持ち越し汚染などのサンプル汚染、感受性などの偽陰性及び特異性などの偽陽性の問題を回避することができる。上記方法は、一対のtcdBプライマーを用いてサンプルからのtcdB核酸分子の一部を増幅すること及びFRET検出ステップを含む少なくとも1つのサイクルステップを実施することを含む。複数のサイクルステップが、好ましくはサーモサイクラー中で実施される。本発明の方法は、tcdBの存在を検出するためのtcdBプライマー及びプローブを用いて実施されることができ、tcdBの検出は、サンプル中のC.ディフィシルの存在を示す。
【0060】
本明細書に記載のとおり、FRET技術を利用した標識ハイブリダイゼーションプローブを用いて、増幅産物が検出されることができる。1つのFRETフォーマットは、増幅産物の存在又は不存在、したがって、C.ディフィシルの存在又は不存在を検出するためにTaqMan(登録商標)技術を利用する。TaqMan(登録商標)技術は、2つの蛍光部位で標識された1つの一本鎖ハイブリダイゼーションプローブを利用する。第一蛍光部位が好適な波長の光で励起されたとき、吸収されたエネルギーは、FRETの原理にしたがって、第二蛍光部位に移動される。第二蛍光部位は、一般に、クエンチャー分子である。PCR反応のアニーリングステップの間、標識されたハイブリダイゼーションプローブは、標的DNA(すなわち、増幅産物)に結合し、後続の伸長相の間にTaqポリメラーゼの5’−3’エキソヌクレアーゼ活性によって分解される。その結果、励起された蛍光部位及びクエンチャー部位が、お互いに空間的に分離される。結論として、クエンチャーの不存在下における第一蛍光部位の励起に際して、第一蛍光部位からの蛍光発光が検出されることができる。例として、ABI PRISM(登録商標)7700 Sequence Detection System(Applied Biosystems, Foster City, CA)は、TaqMan(登録商標)技術を使用し、サンプル中のC.ディフィシルの存在又は不存在を検出するための、本明細書に記載の方法を実施するのに好適である。
【0061】
FRETと併せた分子標識も、本発明のリアルタイムPCR法を用いて増幅産物の存在を検出するために使用されることができる。分子標識技術は、第一蛍光部位及び第二蛍光部位によって標識されたハイブリダイゼーションプローブを使用する。第二蛍光部位は、一般にクエンチャーであり、蛍光標識は、典型的にプローブの各末端に配置される。分子標識技術は、(ヘアピンなどの)二次構造の形成を許容する配列を有するプローブオリゴヌクレオチドを使用する。プローブ内での二次構造形成の結果として、両蛍光部位は、プローブが溶液中にあるとき、空間的に近接する。標的核酸(すなわち、増幅産物)へのハイブリダイゼーション後、プローブの二次構造は破壊されて、好適な波長の光による励起後に第一蛍光部位の発光が検出できるように、蛍光部位がお互いに分離される。
【0062】
別の一般的フォーマットのFRET技術は、2つのハイブリダイゼーションプローブを利用する。各プローブは異なる蛍光部位で標識されることができ、一般に、(増幅産物などの)標的DNA分子内でお互いに密接してハイブリダイズするように設計される。ドナー蛍光部位、例えば、フルオレセインは、LightCycler(登録商標)機器の光源により、470nmにおいて励起される。FRETの間、フルオレセインはそのエネルギーをLightCycler(登録商標)−Red 640(LC Red 640)又はLightCycler(登録商標)−Red−705(LC Red 705)などのアクセプター蛍光部位へ移動させる。次いで、アクセプター蛍光部位は、より長波長の光を放射し、これは、LightCycler(登録商標)機器の光検出システムによって検出される。効率的なFRETは、蛍光部位が直接局所的に近接している場合及びドナー蛍光部位の発光スペクトルがアクセプター蛍光部位の吸収スペクトルと重複する場合にのみ起こる。発光シグナルの強度は、元の標的DNA分子の数(例えば、C.ディフィシルゲノムの数)と相関させられ得る。tcdB核酸の増幅が起こり、増幅産物が産生される場合、ハイブリダイズステップは、プローブ対のメンバー間にFRETに基づく検出可能なシグナルを生じさせる。
【0063】
一般に、FRETの存在は、サンプル中のC.ディフィシルの存在を示し、FRETの不存在は、サンプル中のC.ディフィシルの不存在を示す。しかしながら、不十分な検体採取、輸送の遅れ、不適切な輸送条件又は一定の採取用スワブの使用(アルギン酸カルシウム又はアルミニウムシャフト)は、すべて、試験結果の成功及び/又は正確性に影響しうる条件である。本明細書に記載の方法を用いて、例えば、45回以内のサイクルステップにおけるFRETの検出は、C.ディフィシル感染症を示す。
【0064】
本発明の方法の実施において使用可能な代表的な生物学的サンプルは、皮膚スワブ、鼻スワブ、創傷スワブ、血液培養、皮膚及び軟組織感染物を含むが、これらに限定されない。生物学的サンプルの採取及び貯蔵方法は、本分野の当業者に知られている。生物学的サンプルは、(本分野で知られた核酸抽出の方法及び/又はキットなどによって)処理されて、C.ディフィシル核酸を放出するか、又はいくつかの場合には、生物学的サンプルは、PCR反応構成要素及び適切なオリゴヌクレオチドと直接的に接触させられることができる。
【0065】
融解曲線の解析は、サイクルプロフィールに含まれ得る追加のステップである。融解曲線の解析は、DNAが、融解温度(Tm)と呼ばれる特徴的温度で融解することに基づき、これは、DNA二本鎖の半分が一本鎖に分離された温度として定義される。DNAの融解温度は、主にそのヌクレオチド組成に依存する。したがって、G及びCヌクレオチドに富むDNA分子は、豊富なA及びTヌクレオチドを含むものよりも高いTmを有する。シグナルが消える温度を検出することによって、プローブの融解温度が決定されることができる。同様に、シグナルが生じる温度を検出することによって、プローブのアニーリング温度が決定されることができる。tcdB増幅産物からのtcdBプローブの融解温度(複数可)により、サンプル中のC.ディフィシルの存在又は不存在を確認することができる。
【0066】
サーモサイクラーの各ランの中で、コントロールサンプルも同様にサイクル処理される(cycled)。ポジティブコントロールサンプルは、例えば、コントロールプライマー及びコントロールプローブを用いて、C.ディフィシル核酸の(tcdB以外の)コントロールテンプレートを増幅することができる。ポジティブコントロールサンプルは、例えば、tcdB核酸分子を含有するプラスミド構築物も増幅することができる。そのようなプラスミドコントロールは、(サンプル内などの)内部で又は患者サンプルと並行する別のサンプルのランにおいて増幅されることができる。サーモサイクラーの各ランは、例えば、C.ディフィシルテンプレートDNAを欠くネガティブコントロールも含むことができる。そのようなコントロールは、増幅、ハイブリダイゼーション及び/又はFRET反応の成功又は失敗の指標である。したがって、コントロール反応は、例えば、配列特異的にアニールし、伸長を開始するプライマーの能力並びに配列特異的にハイブリダイズし、FRETを起こさせるプローブの能力を容易に決定することができる。
【0067】
ある実施態様において、本発明の方法は、汚染を回避するためのステップを含む。例えば、サーモサイクラーの1つのランと次のランの間の汚染を低減又は排除するためにウラシル−DNAグリコシラーゼを利用する酵素的方法は、米国特許第5,035,996号、同第5,683,896号及び同第5,945,313号に記載されている。
【0068】
本発明の方法を実施するために、FRET技術と併せた慣用のPCR法が使用されることができる。一実施態様において、LightCycler(登録商標)機器が使用される。以下の特許出願は、LightCycler(登録商標)技術において使用されるリアルタイムPCRを記載する:PCT国際特許出願公開第WO97/46707号、同第WO97/46714号及び同第WO97/46712号。
【0069】
LightCycler(登録商標)は、PCワークステーションを用いて操作されることができ、Windows(登録商標) NTオペレーティングを使用することができる。サンプルからのシグナルは、機器が光学ユニットの上に順次キャピラリーを配置するのに従って得られる。ソフトウエアは、各測定の直後にリアルタイムで蛍光シグナルを表示することができる。蛍光の取得時間は、10〜1000ミリ秒(msec)である。各サイクルステップの後、すべてのサンプルについて蛍光の定量的表示対サイクル数が、持続的に更新されることができる。生成されたデータは、さらなる分析のために保存されることができる。
【0070】
FRETの代わりとして、蛍光DNA結合色素(例えば、SYBR(登録商標)Green又はSYBR(登録商標)Gold(Molecular Probes))などの二本鎖DNA結合色素を用いて増幅産物が検出されることができる。二本鎖核酸との相互作用に際して、そのような蛍光DNA結合色素は、好適な波長の光による励起後に蛍光シグナルを放射する。核酸インターカレーター性色素などの二本鎖DNA結合色素も使用されることができる。二本鎖DNA結合色素が使用される場合、増幅産物の存在の確認のために融解曲線解析が通常実施される。
【0071】
本発明が1又は2以上の市販の機器の構成によって限定されないことは理解される。
【0072】
製品/キット
本発明は、さらに、C.ディフィシルを検出するための製品又はキットを提供する。本発明による製品は、C.ディフィシルを検出するために使用されるプライマー及び/又はプローブを、好適な包装材料とともに含むことができる。C.ディフィシルの検出のための代表的なプライマー及びプローブは、tcdB核酸分子にハイブリダイズすることができる。さらに、キットは、固体支持体、緩衝液、酵素及びDNA標準品などのDNAの固定化、ハイブリダイゼーション及び検出のために必要な適切に包装された試薬及び材料を含んでもよい。プライマー及びプローブを設計する方法は本明細書に記載され、tcdB核酸分子を増幅し、それにハイブリダイズするプライマー及びプローブの代表例が提供される。
【0073】
本発明の製品は、プローブを標識するための1又は2以上の蛍光部位も含むことができ、或いは、キットとともに供給されるプローブが標識されることができる。例えば、製品は、tcdBプローブの一方を標識するためのドナー蛍光部位及び他方のtcdBプローブを標識するためのアクセプター蛍光部位をそれぞれ含んでもよい。好適なFRETドナー蛍光部位及び対応するアクセプター蛍光部位が、上で提供される。
【0074】
本発明の製品は、サンプル中のC.ディフィシルを検出するためのtcdBプライマー及びプローブを使用するための指示をそこに有する添付文書又は包装ラベルも含むことができる。製品はさらに、本明細書に開示された方法を実施するための試薬(例えば、緩衝液、ポリメラーゼ酵素、補因子又は汚染を予防するための作用物質)を含んでもよい。そのような試薬は、本明細書に記載の市販の機器の1つに特有なものであってよい。
【0075】
本発明は、以下の実施例においてさらに説明されるが、これは、特許請求の範囲に記載された発明の範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0076】
以下の実施例及び図面は、本発明の理解を助けるために提供され、その真の範囲は添付の特許請求の範囲に示される。本発明の精神を離れることなく、示される手順において改変が行われ得ることは理解されるであろう。
【0077】
実施例1
C.ソルデリイとの交差反応性
【0078】
3つの活性化したマスターミックス(MMx)は、以下のプライマーセット:a)CDB203BZ/CDB202BZ(配列番号2及び4のアルキル化型−両プライマーは3’末端塩基において(ベンジル)アルキル化されている、b)CDB211BZ/CDB214N、フォワードプライマーは(ベンジル)アルキル化されており、リバースプライマーはアルキル化されていない、及びc)CDB205BZ/CDB204BZ(配列番号3及び5のアルキル化型−両プライマーは3’末端塩基において(ベンジル)アルキル化されている、からなり、検出のための裸のプローブである同じプローブCDB242HQ6(配列番号9)を用いて試験した。
【0079】
テンプレートを含まないコントロール緩衝液とともに、3回繰り返しのインプット量1+E3ゲノム相当数(genomic equivalent)(ge)のTox0並びに6回繰り返しのインプット量1+E6geの専在種(exclusivity species)C.ソルデリイ11279及び11266のゲノムDNAテンプレートを、LC480 Instrumentにおいて3つの活性化したMMxにより増幅した。100bpの分子量マーカーとともに各テンプレートについて反応をゲル上で行った(図1A〜C)。
【0080】
ゲルデータは、ポジティブコントロールテンプレートに関して、最も特異的なPCR産物が、CDB211BZ/124N、次にCDB203BZ/202BZ、そしてCDB205BZ/204BZから生成し;ネガティブコントロールは、3つのプライマーセットによりいかなるPCR特異的産物も明らかにしなかったが、非特異的産物がプライマー対CDB211BZ/214Nについての現象であった。3つのプライマー対の中で、CDB211BZ/214Nのみが、テンプレートとして2つのC.ソルデリイ単離物11272及び11266を用いて可視的な特異的PCR産物を生成した。CDB203BZ/202BZは、時にはC.ソルデリイのゲノムテンプレートに対するPCR特異的産物を産生するが、該産物の収量はCDB211BZ/214Nとは決して一致しなかった。(NC:テンプレートを含まないコントロール、PC:C.diff Tox 0ゲノムDNA、分子量マーカーとしての100bpラダー)
【0081】
プライマー対CDB211BZ/214NによりC.ソルデリイの増幅が起こったが(図1B)、プローブは、いかなる増殖曲線も生じないC.ソルデリイに対する差別化が可能であった。
【0082】
以上の発明は、明確性及び理解の目的のために詳細に記載されたが、本開示を読むことにより、本分野の当業者には、本発明の真の範囲を離れることなく、様々な形態及び細部の変更が行われ得ることが明らかである。例えば、上記のすべての技術及び装置は、様々な組合せで使用されることができる。
図1A
図1B
図1C
図2A
図2B
図2C
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]