(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6702761
(24)【登録日】2020年5月11日
(45)【発行日】2020年6月3日
(54)【発明の名称】ボールジョイント用グリース組成物
(51)【国際特許分類】
C10M 107/02 20060101AFI20200525BHJP
C10M 169/04 20060101ALI20200525BHJP
C10M 133/16 20060101ALN20200525BHJP
C10M 129/68 20060101ALN20200525BHJP
C10M 129/76 20060101ALN20200525BHJP
C10M 147/02 20060101ALN20200525BHJP
C10M 133/42 20060101ALN20200525BHJP
C10N 20/02 20060101ALN20200525BHJP
C10N 30/00 20060101ALN20200525BHJP
C10N 30/06 20060101ALN20200525BHJP
C10N 40/04 20060101ALN20200525BHJP
C10N 50/10 20060101ALN20200525BHJP
【FI】
C10M107/02
C10M169/04
!C10M133/16
!C10M129/68
!C10M129/76
!C10M147/02
!C10M133/42
C10N20:02
C10N30:00 Z
C10N30:06
C10N40:04
C10N50:10
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-35946(P2016-35946)
(22)【出願日】2016年2月26日
(65)【公開番号】特開2017-149905(P2017-149905A)
(43)【公開日】2017年8月31日
【審査請求日】2019年2月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000162423
【氏名又は名称】協同油脂株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000198271
【氏名又は名称】株式会社ソミック石川
(74)【代理人】
【識別番号】100086771
【弁理士】
【氏名又は名称】西島 孝喜
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【弁理士】
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100084663
【弁理士】
【氏名又は名称】箱田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100093300
【弁理士】
【氏名又は名称】浅井 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100170944
【弁理士】
【氏名又は名称】岩澤 朋之
(72)【発明者】
【氏名】河内 健
(72)【発明者】
【氏名】柿崎 充弘
(72)【発明者】
【氏名】藤原 洋介
(72)【発明者】
【氏名】門奈 知裕
【審査官】
山本 悦司
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−089575(JP,A)
【文献】
特開2013−181154(JP,A)
【文献】
特開2003−020492(JP,A)
【文献】
国際公開第03/006590(WO,A1)
【文献】
特開平06−240274(JP,A)
【文献】
特許第4199109(JP,B2)
【文献】
特開2009−280628(JP,A)
【文献】
特開2016−69409(JP,A)
【文献】
国際公開第2016/158071(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M 101/00−177/00
C10N 20/02
C10N 30/00
C10N 30/06
C10N 40/04
C10N 50/10
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基油と、増ちょう剤と、添加剤とを含む、ボールジョイント用グリース組成物であって、
前記基油が、基油全量に対して、70質量%以上であって95質量%以下のエチレン−α−オレフィンコポリマーを含んでおり、かつ前記基油の40℃の動粘度が2,000〜6,000mm2/sであり、
前記添加剤が、極性を持つワックスを含む前記グリース組成物。
【請求項2】
極性を持つワックスが、モノアミドワックス及びエステルワックスから選択された少なくとも一種である、請求項1記載のグリース組成物。
【請求項3】
極性を持つワックスが、ステアリン酸アミド及びひまし硬化油から選択された少なくとも一種である、請求項1又は2記載のグリース組成物。
【請求項4】
エチレン−α−オレフィンコポリマーの40℃の動粘度が2,000〜40,000mm2/sである、請求項1〜3のいずれか1項記載のグリース組成物。
【請求項5】
極性を持つワックスの含有率が、グリース組成物全量に対して、1〜20質量%である、請求項1〜4のいずれか1項記載のグリース組成物。
【請求項6】
添加剤が、さらに、ポリテトラフルオロエチレン及びメラミンシアヌレートから選ばれる少なくとも1種の固体潤滑剤を含む、請求項1〜5のいずれか1項記載のグリース組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボールジョイント用グリース組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ボールジョイントは関節の役割をする部品であり、例えば、自動車では、車両の方向を変える操舵装置、車体を支える懸架装置、及びその他のリンク部品に使用されている。
【0003】
図1に、ボールジョイントの代表的な構造の断面を示す。ボールジョイントは、軸方向に延びるスタッド部と、該スタッド部に対して括れ部を介して軸方向に連結したボール部とを有するボールスタッド1と、該ボールスタッドのボール部を回転可能かつ揺動可能に保持するボールシート2と、該ボールシートを収容する有底円筒状のケース3と、該ケースの開口端のカバー溝を介して装着されるダストカバー4とを備えている。
【0004】
ボールジョイントは、ボール部の摺動に伴い、ボールシート2が徐々に摩耗するため、摺動部にグリース組成物が塗布される。該グリース組成物としては、ボールシートの摩耗が少ないグリース組成物が求められる。
【0005】
ダストカバー4は、外部からの粉塵や泥水などの侵入を防ぐため設けられており、内部にグリース組成物が封入されている。しかし、封入されるグリース組成物の種類により、ダストカバーは、膨潤又は収縮して破損することがある。ダストカバーが破損した場合、外部からの粉塵や泥水等の異物が摺動部へ侵入してしまう。そのため、ダストカバーとの適合性に優れるグリース組成物が求められる。
【0006】
近年、ボールジョイントは小型化され、摺動部の高面圧化が進んでいる。そのため、従来のグリース組成物の潤滑性に対する要求よりも、さらに厳しい要求が課されている。また、優れた潤滑性に加えて、ダストカバーとの適合性など、他の諸特性を満足することも必要である。
【0007】
従来のボールジョイント用潤滑剤組成物として、例えば、特許文献1(特開平6−240274号公報)には、基油又はワックス類に、特定のアミドアミン化合物に特定の重合脂肪酸及びオレイン酸を付加して得られた脂肪酸塩を50重量%以上含有する、ボールジョイント用潤滑剤組成物が記載されている。この潤滑剤組成物は、初期作動トルクを低下させると同時に、高速走行時のフラッタ現象を抑制する特性(周波数特性)を有するとされている(段落[0010])。しかし、この潤滑剤組成物では、潤滑性やダストカバーとの適合性を十分に満足することはできない。
【0008】
また、特許文献2(特許第4199109号)には、合成炭化水素油を含む基油と、増ちょう剤と、R
1-NH-R
2-N
2で表される特定の脂肪酸塩とを含む、ボールジョイント用潤滑剤組成物が記載されている。この潤滑剤組成物は、常温での低摩擦性に加えて、低温及び高温でも優れた低摩擦性を示すとされている(段落[0022])。しかし、この潤滑剤組成物も、潤滑性やダストカバーとの適合性を十分に満足することはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平6−240274号公報
【特許文献2】特許第4199109号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、摺動部においてボールシートの摩耗を低減でき、かつダストカバーとの適合性にも優れるグリース組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは鋭意検討した結果、基油の種類及び動粘度、並びに、添加剤の種類を選定したグリース組成物により、上記の課題を解決できることを見出し、本発明を完成した。
【0012】
すなわち、本発明の要旨は、以下のとおりである。
(1) 基油と、増ちょう剤と、添加剤とを含む、ボールジョイント用グリース組成物であって、前記基油が、エチレン-α-オレフィンコポリマーを含んでおり、かつ前記基油の40℃の動粘度が2,000〜6,000mm
2/sであり、前記添加剤が、極性を持つワックスを含む、前記グリース組成物。
(2) 極性を持つワックスが、モノアミドワックス及びエステルワックスから選択された少なくとも一種である、(1)記載のグリース組成物。
(3) 極性を持つワックスが、ステアリン酸アミド及びひまし硬化油から選択された少なくとも一種である、(1)又は(2)記載のグリース組成物。
(4) エチレン-α-オレフィンコポリマーの40℃の動粘度が2,000〜40,000mm
2/sである、(1)〜(3)のいずれかに記載のグリース組成物。
(5) エチレン-α-オレフィンコポリマーの含有率が、基油全量に対して、70質量%以上である、(1)〜(4)のいずれかに記載のグリース組成物。
(6) 極性を持つワックスの含有率が、グリース組成物全量に対して、1〜20質量%である、(1)〜(5)のいずれかに記載のグリース組成物。
(7) 添加剤が、さらに、ポリテトラフルオロエチレン及びメラミンシアヌレートから選ばれる少なくとも1種の固体潤滑剤を含む、(1)〜(6)のいずれかに記載のグリース組成物。
【発明の効果】
【0013】
本発明のグリース組成物は、従来のグリース組成物よりも、ボールスタッドとボールシート(例えば、樹脂製ボールシート)の間の潤滑性(例えば、樹脂潤滑性)に優れる。また、本発明のグリース組成物は、上記の潤滑性に加えて、ダストカバーとの適合性、低温での低トルク性、周波数依存性などの他の特性を同時に満足することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、ボールジョイントの代表的な構造を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[ボールジョイント用グリース組成物]
本発明のボールジョイント用グリース組成物は、基油と増ちょう剤と添加剤とを含んでいる。以下、各成分について説明する。
【0016】
(基油)
本発明では、ボールジョイントのボールスタッド(金属部材)とボールシート(樹脂又はエラストマー部材)の間の摺動による、ボールシート(樹脂又はエラストマー部材)の摩耗を低減して潤滑性を向上させる観点から、基油は、少なくともエチレン-α-オレフィンコポリマーを含んでいる。エチレン-α-オレフィンコポリマーを使用すれば、低温での低トルク性に優れる。また、エチレン-α-オレフィンコポリマーにより、周波数依存性も満足させることができる。自動車用ボールジョイントに封入されるグリース組成物の基油として好適である。
【0017】
エチレン-α-オレフィンコポリマーは、エチレンと炭素数3以上のα-オレフィンとの共重合体である限り特に制限されない。前記α−オレフィンとしては、オクテン、デセン、ドデセン等の直鎖状又は分岐鎖状のα−オレフィンが例示できる。これらのα−オレフィンは、単独で又は二種以上組み合わせて使用してもよい。
【0018】
エチレン-α-オレフィンコポリマーの40℃の動粘度は、特に制限されないが、例えば、2,000〜40,000mm
2/sの範囲から選択でき、3,000〜35,000mm
2/s(例えば、4,000〜30,000mm
2/s)が好ましく、5,000〜25,000mm
2/s(例えば、6,000〜20,000mm
2/s)がより好ましく、7,000〜17,000mm
2/s(例えば、9,850〜15,000mm
2/s)が特に好ましい。エチレン-α-オレフィンコポリマーの40℃の動粘度が上記の範囲にあれば、潤滑性のみならず、低温での低トルク性も向上させることができる。なお、40℃の動粘度は、JIS K 2283に準拠した方法により測定される。
【0019】
基油は、エチレン-α-オレフィンコポリマー単独で構成してもよく、エチレン-α-オレフィンコポリマーとそれ以外の基油を組み合わせて構成してもよい。基油の全量に対するエチレン-α-オレフィンコポリマーの含有率は、特に制限されないが、60質量%以上(例えば、65〜95質量%)が好ましく、70質量%以上(例えば、70〜90質量%)がより好ましい。
【0020】
エチレン-α-オレフィンコポリマー以外の基油としては、合成炭化水素油(例えば、ポリ(1-デセン)などのポリα-オレフィン、ポリブテン)、エーテル系合成油(例えば、アルキルジフェニルエーテル、ポリプロピレングリコール)、エステル系合成油(例えば、ジエステル、ポリオールエステル)、シリコーン油、フッ素油などの各種合成油が使用可能である。これらの基油は、単独で又は二種以上組み合わせて使用してもよい。これらの基油のうち、合成炭化水素油が好ましく、ポリ(1-デセン)などのポリα-オレフィン(PAO)がより好ましい。
【0021】
エチレン-α-オレフィンコポリマー以外の基油の40℃の動粘度は、特に制限されないが、例えば、10〜200mm
2/sの範囲から選択でき、15〜100mm
2/sが好ましく、19〜50mm
2/sがより好ましい。
【0022】
潤滑性の観点から、油膜厚さを確保する必要があり、基油全体の動粘度は高いことが望ましい。また、周波数依存性の観点からも、複素弾性率を高くする必要があり、基油全体の動粘度は高いことが望ましい。従って、基油の40℃の動粘度は、少なくとも2,000mm
2/s以上とする必要があり、2,200mm
2/s以上が好ましく、2,400mm
2/s以上がより好ましく、2,600mm
2/s以上が特に好ましい。
【0023】
一方、低温での低トルク性の観点から、基油全体の動粘度は低いことが望ましい。従って、基油の40℃の動粘度は、少なくとも6,000mm
2/s以下であり、5,500mm
2/s以下が好ましく、5,400mm
2/s以下が特に好ましい。
【0024】
グリース組成物の全量に対する基油の含有率は、特に制限されないが、例えば、50〜99質量%の範囲から選択でき、70〜98質量%が好ましく、80〜95質量%がより好ましく、89〜93質量%が特に好ましい。
【0025】
(増ちょう剤)
本発明では、全ての増ちょう剤が使用可能である。増ちょう剤としては、石けん系増ちょう剤、ウレア系増ちょう剤(例えば、脂肪族ジウレア、脂環族ジウレア、芳香族ジウレア)、無機系増ちょう剤(例えば、有機化クレイやシリカ)、有機系増ちょう剤(例えば、ポリテトラフルオロエチレン)などが例示できる。これらの増ちょう剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの増ちょう剤のうち、石けん系増ちょう剤、脂肪族ジウレア系増ちょう剤[例えば、4,4'-ジフェニルメタンジイソシアネートと脂肪族アミン(オクチルアミン及び/又はステアリルアミンなど)との反応生成物]が好ましく、特に、石けん系増ちょう剤が好ましい。
【0026】
石けん系増ちょう剤は、脂肪酸のアルカリ金属塩(リチウム塩、ナトリウム塩など)又はアルカリ土類金属塩(カルシウム塩など)をベースとする。好ましい石けん系増ちょう剤は、脂肪酸のリチウム塩をベースとする、リチウム石けん系増ちょう剤である。
【0027】
リチウム石けん系増ちょう剤としては、リチウム石けん[例えば、高級脂肪酸のリチウム塩(例えば、リチウムステアレート、リチウムヒドロキシステアレート)]、リチウム複合石けん[例えば、高級脂肪酸のリチウム塩(例えば、リチウムステアレート、リチウムヒドロキシステアレート)と二塩基酸のリチウム塩との複合塩]などが例示できる。
【0028】
これらのリチウム石けん系増ちょう剤のうち、リチウムステアレート、リチウムヒドロキシステアレートが好ましく、特に、リチウムヒドロキシステアレートが好ましい。リチウムヒドロキシステアレートは、リチウムステアレートよりも少ない量で同じちょう度を得ることができるため、増ちょう剤に起因する撹拌抵抗を低減でき、良好な低トルク性が得られる。
【0029】
グリース組成物の全量に対する増ちょう剤の含有率は、特に制限されないが、例えば、10質量%以下の範囲から選択でき、1〜8質量%であるのが好ましく、2〜5質量%であるのがより好ましい。
【0030】
(添加剤)
(A)極性を持つワックス
本発明では、潤滑性に加えて、ダストカバー(例えば、クロロプレンゴム製ダストカバー)との適合性を満足させる観点から、添加剤は、少なくとも極性を持つワックスを含んでいる。なお、グリース組成物に全くワックスが配合されていない場合や、グリース組成物に極性を持たないワックスを含んでいる場合は、ダストカバー材中の可塑剤がグリースに溶出するため、ダストカバーが収縮して硬化し、ダストカバーとの適合性を十分に満足させることができない。
【0031】
極性を持つワックスは、特に制限されないが、例えば、モノアミドワックス(1つのアミド結合を有するワックス)、エステルワックス(少なくとも1つのエステル結合を有するワックス)、ケトンワックス、酸化ポリエチレンワックス、これらの組み合わせが挙げられる。これらのワックスのうち、モノアミドワックス及び/又はエステルワックスが好ましい。モノアミドワックス及びエステルワックスを組み合わせて使用する場合、モノアミドワックスとエステルワックスとの含有比(質量比)は、例えば、1/99〜99/1の範囲から選択でき、10/90〜90/10が好ましく、20/80〜80/20がより好ましい。
【0032】
前記モノアミドワックスとしては、高級脂肪酸アミド、例えば、ステアリン酸アミド、オレイン酸アミド、これらの組み合わせなどが例示できる。前記エステルワックスとしては、高級脂肪酸エステル、例えば、モンタン酸エステル、ひまし硬化油などが例示できる。極性を持つワックスのうち、ステアリン酸アミド及びひまし硬化油から選択された少なくとも一種が好ましく、特に、ひまし硬化油が好ましい。
【0033】
グリース組成物の全量に対する極性を持つワックスの含有率(複数の極性を持つワックスを使用する場合は総含有率)は、特に制限されないが、例えば、1〜20質量%の範囲から選択でき、2〜15質量%が好ましく、3〜10質量%(例えば、5〜10質量%)がより好ましい。極性を持つワックスの含有量が少なすぎると、ダストカバー材に浸透するワックスが不十分となり、ダストカバーの収縮を抑制できない恐れがある。また、極性を持つワックスの含有量が多すぎると、グリースが硬くなり、低温での低トルク性が劣化する恐れがある。
【0034】
(B)その他の添加剤
本発明のグリース組成物は、極性を持つワックスに加えて、さらに他の添加剤を含んでいてもよい。他の添加剤としては、本発明の効果を阻害しない限り、特に制限はなく、固体潤滑剤、酸化防止剤、錆止め剤、金属腐食防止剤、油性剤、耐摩耗剤、極圧剤などが例示できる。これらの添加剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用してもよい。これらの添加剤のうち、固体潤滑剤、酸化防止剤が好ましい。
【0035】
(B1)固体潤滑剤
グリース組成物に固体潤滑剤を配合すれば、潤滑性をさらに向上させることができる。固体潤滑剤としては、フッ素系、硫黄系、炭素系等の各種固体潤滑剤が使用可能である。具体的には、ポリテトラフルオロエチレン、メラミンシアヌレート、二硫化モリブデン、グラファイトなどが例示できる。これらの固体潤滑剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用してもよい。これらの固体潤滑剤のうち、ポリテトラフルオロエチレン及びメラミンシアヌレートから選択された少なくとも一種が好ましく、特に、ポリテトラフルオロエチレンとメラミンシアヌレートの組み合わせが好ましい。該組み合わせにおいて、ポリテトラフルオロエチレンとメラミンシアヌレートの含有比(質量比)は、例えば、前者/後者=30/70〜30/70の範囲から選択でき、40/60〜60/40(例えば、50/50〜60/40)が好ましい。
【0036】
グリース組成物全量に対する固体潤滑剤の含有率(複数の固体潤滑剤を使用する場合は総含有率)は、特に制限されないが、例えば、0.1〜10質量%の範囲から選択でき、0.5〜8質量%が好ましく、1〜5質量%がより好ましい。
【0037】
(B2)酸化防止剤
酸化防止剤としては、グリースの酸化劣化を抑制することが知られている成分、例えば、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤などが使用可能である。フェノール系酸化防止剤及びアミン系酸化防止剤は、それぞれ単独で使用してもよいが、両者を組み合わせて使用するのが好ましい。該組み合わせにおいて、フェノール系酸化防止剤とアミン系酸化防止剤の含有比(質量比)は、例えば、前者/後者=30/70〜30/70の範囲から選択でき、40/60〜60/40(例えば、50/50〜60/40)が好ましい。
【0038】
前記フェノール系酸化防止剤としては、オクタデシル‐3‐(3,5‐ジ‐t‐ブチル‐4‐ヒドロキシフェニル)プロピオネートが好ましい。前記アミン系酸化防止剤としては、アルキルジフェニルアミンが好ましい。
【0039】
グリース組成物全量に対する酸化防止剤の含有率(複数の酸化防止剤を使用する場合は総含有率)は、特に制限されないが、例えば、0.1〜10質量%の範囲から選択でき、0.5〜8質量%が好ましく、1〜5質量%がより好ましい。
【0040】
(ちょう度)
本発明のグリース組成物の混和ちょう度は、例えば、250〜350であり、280〜320(例えば、300〜320)であるのが好ましい。なお、混和ちょう度は、JIS K 2220に定義されるとおり、試料を規定の混和器で60往復混和した直後に測定される値である。
【0041】
[ボールジョイント]
ボールジョイントは、上記のグリース組成物が封入された構造を有する。
【0042】
より具体的には、ボールジョイントは、例えば、
図1に示すように、軸方向に延びるスタッド部と、該スタッド部に対して括れ部(つなぎ部)を介して軸方向に連結したボール部とを有するボールスタッド1と、該ボールスタッドのボール部を回転可能かつ揺動可能に保持するボールシート2と、該ボールシートを収容する有底円筒状のケース3と、該ケースの開口端のカバー溝を介して装着されるダストカバー4とを備えている。
【0043】
ボールスタッド1の材質は金属であり、金属の種類としては、スチール(鋼)などが挙げられる。ボールシート2の材質は樹脂又はエラストマーである。樹脂の種類としては、ポリエチレン(PE)などの汎用樹脂;ポリアセタール(POM)、ポリアミド(PA)、ポリカーボネート(PBT)などのエンジニアリングプラスチック;ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)などのスーパーエンジニアリングプラスチックなどが挙げられる。エラストマーの種類としては、ポリエステルエラストマー、ポリウレタンエラストマーなどが挙げられる。
【0044】
上記のボールジョイントにおいて、ボールスタッド1とボールシート2の間が摺動する。ボールスタッド1の材質は金属であり、ボールシート2の材質は樹脂又はエラストマーであるから、両者が摺動すると、ボールシートが摩耗する。上記のグリース組成物は、例えば、ボールスタッドとボールシートの間に封入することができ、該封入により、ボールシートの摩耗を顕著に低減することができる。
【0045】
ダストカバー4の材質は、ゴム(クロロプレンゴムなど)やエラストマー(ポリウレタンエラストマーなど)である。従来のグリース組成物をダストカバー内に封入すると、ダストカバーが膨潤又は収縮して破損し、外部からの粉塵や泥水等の異物が摺動部へ侵入するという問題があった。しかし、本発明のグリース組成物は、ダストカバーの膨潤又は収縮を抑制できるため、ダストカバー内に封入して、摺動部にグリースを供給したり、カバー形状を保持することができる。
【0046】
なお、ボールジョイントの構造は、
図1に示した構造に限定されず、当業者であれば、種々の設計変更が可能である。例えば、ボールシートを2ピース(ベアリングシートとクッションシート)で構成することも可能である。本発明のグリース組成物は、様々な構造のボールジョイントに適用できる。
【0047】
以上のとおり、本発明のグリース組成物は、摺動部におけるボールシートの摩耗を抑制でき、かつダストカバーとの適合性にも優れているため、ボールジョイント用グリース組成物として、好適に使用できる。また、本発明のグリース組成物は、低温での低トルク性にも優れている。さらに、本発明のグリース組成物は、周波数依存性を満足させることができる。そのため、自動車用ボールジョイントに使用されるグリース組成物として、好適に使用できる。
【実施例】
【0048】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0049】
<試験グリース>
1.リチウム石けんグリース
(実施例1〜4、6〜8、比較例1〜2)
表1及び表2に示す基油中で、リチウム石けんを混合、加熱及び溶解し、冷却してベースグリースとした。ワックスの所定量を基油と混合し、それをベースグリースに加えてよく混ぜた。さらに所定量の酸化防止剤をベースグリースに加えてよく混ぜた。最後に3本ロールミルで混練して、混和ちょう度300(JIS K 2220)のグリース組成物を製造した。
(実施例9)
表1に示す基油中で、リチウム石けんを混合、加熱及び溶解し、冷却してベースグリースとした。ワックスの所定量を基油と混合し、それをベースグリースに加えてよく混ぜた。さらに所定量の固体潤滑剤と酸化防止剤をベースグリースに加えてよく混ぜた。最後に3本ロールミルで混練して、混和ちょう度300(JIS K 2220)のグリース組成物を製造した。
2.ウレアグリース
(実施例5)
表1に示す基油中で、ジフェニルメタンジイソシアネートとアミン(オクチルアミン及びステアリルアミン)とを反応させ、昇温、冷却してベースグリースとした。ワックスの所定量を基油と混合し、それをベースグリースに加えてよく混ぜた。さらに所定量の酸化防止剤をベースグリースに加えてよく混ぜた。最後に3本ロールミルで混練して、混和ちょう度300(JIS K 2220)のグリース組成物を製造した。
【0050】
<樹脂潤滑性>
各試験グリースを金属(AISI 52100スチール)円板に適用し、下記の試験条件で摺動部材(ポリアセタール)を上記円板上で摺動させることにより、SRV試験(ASTM D7420-10 準拠)を行った。各試験グリースの樹脂潤滑性を下記の判定基準により評価した。
(試験条件)温度:50℃、振幅:0.1mm、周波数:50Hz、時間:12h
荷重:先ずは50Nで30秒間の慣らし試験を行った後に1500Nに上げる。
(判定基準)摩耗量は1.0mg以下を合格とし、1.0mg超は不合格とした。
0.4mg以下:◎(合格)、
0.4mg超1.0mg以下:○(合格)、
1.0mg超:×(不合格)
【0051】
<ダストカバーとの適合性(対CR材性)>
各試験グリースについて、下記の試験条件でブーツ材浸漬試験を行い、浸漬前後のCR(クロロプレンゴム)材の体積変化を測定し、ダストカバーとの適合性を下記の判定基準により評価した。
(試験条件)試験片:CRゴム、温度:120℃、時間:168h
(判定基準)体積変化率が±15.0%以内の物を合格とし、±15.0%超を不合格とした。
±10.0%以内:◎(合格)、
±10.0超±15.0%以内:○(合格)、
±15.0%超:×(不合格)
【0052】
<低温低トルク性>
各試験グリースについて、下記の試験条件で低温トルク試験(JIS K 2220 18.)を行い、下記の判定基準により、低温低トルク性を評価した。
(試験条件)温度:−30℃
(判定基準)起動トルクが500mN・m以下および回転トルクが300mN・m以下を合格とし、起動トルクが500mN・m超および回転トルクが300mN・m超を不合格とする。
起動トルク400mN・m以下、回転トルク240mN・m以下:◎(合格)
起動トルク400mN・m超500mN・m以下、回転トルク240mN・m超300mN・m以下:○(合格)
起動トルク500mN・m超、回転トルク300mN・m超:×(不合格)
【0053】
【表1】
【0054】
【表2】
【0055】
表1及び表2から明らかなように、実施例のグリース組成物は、比較例のグリース組成物と対比して、樹脂潤滑性及びダストカバーとの適合性に優れている。また、実施例のグリース組成物は、低温低トルク性も満足する。