特許第6702773号(P6702773)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6702773金属粉末成形体の製造方法、及び金属粉末成形体
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  • 特許6702773-金属粉末成形体の製造方法、及び金属粉末成形体 図000008
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6702773
(24)【登録日】2020年5月11日
(45)【発行日】2020年6月3日
(54)【発明の名称】金属粉末成形体の製造方法、及び金属粉末成形体
(51)【国際特許分類】
   B22F 3/02 20060101AFI20200525BHJP
   B22F 1/00 20060101ALI20200525BHJP
   C08K 3/08 20060101ALI20200525BHJP
   C08L 5/00 20060101ALI20200525BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20200525BHJP
【FI】
   B22F3/02 M
   B22F1/00 R
   B22F1/00 P
   B22F1/00 N
   B22F1/00 M
   B22F1/00 L
   B22F1/00 K
   B22F1/00 S
   C08K3/08
   C08L5/00
   C08K3/04
【請求項の数】14
【全頁数】28
(21)【出願番号】特願2016-68407(P2016-68407)
(22)【出願日】2016年3月30日
(65)【公開番号】特開2016-194154(P2016-194154A)
(43)【公開日】2016年11月17日
【審査請求日】2018年10月12日
(31)【優先権主張番号】特願2015-73976(P2015-73976)
(32)【優先日】2015年3月31日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088616
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 一平
(74)【代理人】
【識別番号】100154829
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 成
(72)【発明者】
【氏名】松井 紫甫
(72)【発明者】
【氏名】高橋 博紀
(72)【発明者】
【氏名】野嵜 聖晃
(72)【発明者】
【氏名】石田 弘樹
【審査官】 米田 健志
(56)【参考文献】
【文献】 特表2003−535980(JP,A)
【文献】 特開2006−342391(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00〜8/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属粉末を10質量%以上含む原料粉末と、バインダーとを混合し混練して、金属粉末成形原料を作製する成形原料作製工程と、
前記金属粉末成形原料をプレス成形し、金属粉末成形体を作製する成形体作製工程と、を含み、
前記バインダーとして炭素数が20個以下の糖類及び溶媒を少なくとも用い、前記成形原料作製工程において、前記原料粉末100質量部に対して、前記バインダーを3.5〜20質量部加えて、前記金属粉末成形原料を作製する、金属粉末成形体の製造方法であって、
前記炭素数が20個以下の糖類が、トレハロースである、金属粉末成形体の製造方法
【請求項2】
前記バインダー100質量部中に占める、前記炭素数が20個以下の糖類の質量の比率が、20〜80質量部である、請求項1に記載の金属粉末成形体の製造方法。
【請求項3】
前記バインダー100質量部中に占める、前記溶媒の質量の比率が、20〜80質量部である、請求項1又は2に記載の金属粉末成形体の製造方法。
【請求項4】
前記成形原料作製工程において、前記炭素数が20個以下の糖類を固体の状態で用いる、請求項1〜3のいずれか一項に記載の金属粉末成形体の製造方法。
【請求項5】
前記原料粉末が、炭素粉末を含む、請求項1〜のいずれか一項に記載の金属粉末成形体の製造方法。
【請求項6】
前記炭素粉末が、前記原料粉末100質量部に対して、15質量部未満である、請求項に記載の金属粉末成形体の製造方法。
【請求項7】
前記成形体作製工程において、前記金属粉末成形原料にかけるプレス圧力が、5〜200MPaである、請求項1〜のいずれか一項に記載の金属粉末成形体の製造方法。
【請求項8】
前記金属粉末が、粒子径10〜1000nmの微粒の金属粒子、粒子径100〜1000μmの粗粒の金属粒子、又は粒子径10〜1000nmの微粒の金属粒子及び粒子径100〜1000μmの粗粒の金属粒子を主原料として含む、請求項1〜のいずれか一項に記載の金属粉末成形体の製造方法。
【請求項9】
前記金属粉末が、珪素、モリブデン、タングステン、ベリリウム、クロム、鉄、アルミニウム、ニッケル、マンガン、銀、銅、バナジウム、コバルト、タンタル、ニオブ、チタン、及びマグネシウムからなる群から選択される少なくとも1種類の金属を含む粉末である、請求項1〜のいずれか一項に記載の金属粉末成形体の製造方法。
【請求項10】
成形原料をプレス成形した成形体からなり、
前記成形体が、金属粉末を10質量%以上含む原料粉末と、炭素数が20個以下の糖類を含むバインダーとを含有し、
前記原料粉末100質量部に対して、前記炭素数が20個以下の糖類を、0.7〜16質量部含む、金属粉末成形体であって、
前記炭素数が20個以下の糖類が、トレハロースである、金属粉末成形体
【請求項11】
前記原料粉末が、炭素粉末を含む、請求項10に記載の金属粉末成形体。
【請求項12】
前記炭素粉末が、前記原料粉末100質量部に対して、15質量部未満である、請求項11に記載の金属粉末成形体。
【請求項13】
前記金属粉末が、粒子径10〜1000nmの微粒の金属粒子、粒子径100〜1000μmの粗粒の金属粒子、又は粒子径10〜1000nmの微粒の金属粒子及び粒子径100〜1000μmの粗粒の金属粒子を主原料として含む、請求項1012のいずれか一項に記載の金属粉末成形体。
【請求項14】
前記金属粉末が、珪素、モリブデン、タングステン、ベリリウム、クロム、鉄、アルミニウム、ニッケル、マンガン、銀、銅、バナジウム、コバルト、タンタル、ニオブ、チタン、及びマグネシウムからなる群から選択される少なくとも1種類の金属を含む粉末である、請求項1013のいずれか一項に記載の金属粉末成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属粉末成形体の製造方法、及び金属粉末成形体に関する。更に詳しくは、原料粉末の混合性、及び流動性が高く、且つ、金型に付着しにくく、形状保持性に優れた金属粉末成形体を製造することが可能な金属粉末成形体の製造方法に関する。また、組成が均一で、形状保持性に優れた金属成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に金属粉末成形とは、原料粉末をプレス成形することにより所望の形状の金属粉末成形体に成形することである。金属粉末成形は、加工費を低減しつつ、大量生産可能であること、超硬合金等の難削材料であっても所望の形状に成形可能であること、成形体の材質・組成を原料粉末の配合により調整しやすいこと等の利点がある。そして、金属粉末成形体は、成形体のままで用いられるものや、成形後に焼成され、焼成体として用いられるものがある。特に、複雑形状や微細構造の金属粉末成形体を成形体のままで用いる場合には、焼成体に比べてチッピング等が起こりやすくなるため、金属粉末成形体に高い形状保持性が求められる。また、金属粉末成形体が、成形体のままで用いられない場合であっても、安定した状態で搬送や保管を行うためには、高い形状保持性が求められる。また、金属粉末成形体を成形体のままで用いる場合には、主原料が持つ性質を十分に発揮させるために、出来るだけ主原料の割合を高めることが求められることもある。
【0003】
形状保持性の高い金属粉末成形体の製造方法としては、例えば、以下のようなものがある。主原料である金属粗粒に金属微粒を混ぜて粒子同士の接触点を増やし、さらにバインダーや多量の溶媒等を添加し、湿式混合した上で、造粒工程において造粒機を用いて顆粒とし、この顆粒をプレス成形する方法である(例えば、特許文献1、及び2)。しかしながら、特許文献1に記載の金属粉末成形体の製造方法は、湿式混合する工程が含まれており、余分な溶媒を蒸発させるために大きなエネルギーを必要とすることがあった。また、湿式混合する工程において溶媒を多量に必要とし、溶媒としての水を嫌う原料粉末の場合には有機溶媒を使用する必要があるため、高コストとなることもあった。また、顆粒を作る造粒工程を必要とするため、工程が煩雑となることがあった。更に、主原料である金属粗粒に金属微粒を混ぜる際に、不純物が混合しやすく、特許文献1に記載の金属粉末成形体の主原料の割合が低いことがあった。
【0004】
ここで、主原料とバインダー等とを混合し、粉末成形原料とする方法としては、湿式混合の他に、乾式混合がある。乾式混合とは、主原料とバインダー等とを混合する際に添加する溶媒の量が、湿式混合に比べて少ない混合方法であり、混合後に溶媒を蒸発させる工程や造粒工程を経ずに、粉末成形原料をプレス成形することができる。
【0005】
このような乾式混合を用いた粉末成形体の製造方法としては、以下のようなものがある。粉末成形体の主原料の粒度を小さくし、粒子同士を結着する賦形剤(バインダー)やプレス成型時の流動性を良化させる(潤滑剤等として機能する)添加剤等を多くすることで、主原料である粉末の流動性を確保しながら成形しやすくする粉末成形体の製造方法がある(例えば、特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−31552号公報
【特許文献2】特許第4947613号公報
【特許文献3】特許第4841564号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、特許文献3に記載された発明においては、粒度を制限し、多量の賦形剤、バインダー、流動化剤等を添加することで、粉末成形体を連続プレス成形によって得る事ができる。しかしながら、特許文献3に記載の方法では、粒度が大きい粉末である粗粒を主原料とする場合に、粉末成形体の強度が低く、形状保持性が得にくいという問題があった。また、珪素、モリブデン、タングステン、ベリリウム、クロム、炭化タングステン等の硬い金属粉末を粉末成形原料の主原料とする場合に、粉末成形体の強度が低く、形状保持性が得にくいという問題があった。また、このような特許文献3に記載の方法では、粉末成形体の形状保持性が十分でないため、複雑形状や微細構造の金属粉末成形体を製造することが困難であった。一般に、金属粉末成形体の形状保持性を高くするためには、金属粉末成形原料の質量に対する、賦形剤、及びバインダーの質量の比、流動化剤の質量の比、バインダーに含まれる水の質量の比、又は流動化剤の質量の比、及び水の質量の比の双方、のいずれかを増大させることが考えられる。しかしながら、これらを増大すると、金属粉末成形原料を混合する際にダマが生じやすく、金属粉末成形原料の混合性が悪化してしまうという問題があった。また、金属粉末成形原料の混合性の悪化により、金属粉末成形原料の金型への付着が激しくなることがあった。また、混合性の悪化により、金属粉末成形原料の流動性も悪化するために、連続成形が困難になることがあった。更に、混合性の悪化により、プレス成形後の金属粉末成形体の組成や密度が不均一になることがあった。このように、従来の粉末成形体の製造方法により金属粉末成形体を製造する場合においては、得られる金属粉末成形体の形状保持性向上と、金属粉末成形原料の混合性を向上し、優れた成形性を実現することとは、二律背反の関係にあった。このため、両者を同時に解決することは非常に困難であった。
【0008】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものである。本発明によれば、原料粉末の混合性、及び流動性が高く、且つ、金型に付着しにくく、形状保持性に優れた金属粉末成形体を製造することが可能な金属粉末成形体の製造方法が提供される。また、組成が均一で、形状保持性に優れた金属成形体が提供される。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、以下に示す、金属粉末成形体の製造方法、及び金属粉末成形体が提供される。
【0010】
[1] 金属粉末を10質量%以上含む原料粉末と、バインダーとを混合し混練して、金属粉末成形原料を作製する成形原料作製工程と、前記金属粉末成形原料をプレス成形し、金属粉末成形体を作製する成形体作製工程と、を含み、前記バインダーとして炭素数が20個以下の糖類及び溶媒を少なくとも用い、前記成形原料作製工程において、前記原料粉末100質量部に対して、前記バインダーを3.5〜20質量部加えて、前記金属粉末成形原料を作製する、金属粉末成形体の製造方法であって、
前記炭素数が20個以下の糖類が、トレハロースである、金属粉末成形体の製造方法
【0011】
[2] 前記バインダー100質量部中に占める、前記炭素数が20個以下の糖類の質量の比率が、20〜80質量部である、前記[1]に記載の金属粉末成形体の製造方法。
【0012】
[3] 前記バインダー100質量部中に占める、前記溶媒の質量の比率が、20〜80質量部である、前記[1]又は[2]に記載の金属粉末成形体の製造方法。
【0013】
[4] 前記成形原料作製工程において、前記炭素数が20個以下の糖類を固体の状態で用いる、前記[1]〜[3]のいずれかに記載の金属粉末成形体の製造方法。
【0015】
] 前記原料粉末が、炭素粉末を含む、前記[1]〜[]のいずれかに記載の金属粉末成形体の製造方法。
【0016】
] 前記炭素粉末が、前記原料粉末100質量部に対して、15質量部未満である、前記[]に記載の金属粉末成形体の製造方法。
【0017】
] 前記成形体作製工程において、前記金属粉末成形原料にかけるプレス圧力が、5〜200MPaである、前記[1]〜[]のいずれかに記載の金属粉末成形体の製造方法。
【0018】
] 前記金属粉末が、粒子径10〜1000nmの微粒の金属粒子、粒子径100〜1000μmの粗粒の金属粒子、又は粒子径10〜1000nmの微粒の金属粒子及び粒子径100〜1000μmの粗粒の金属粒子を主原料として含む、前記[1]〜[]のいずれかに記載の金属粉末成形体の製造方法。
【0019】
] 前記金属粉末が、珪素、モリブデン、タングステン、ベリリウム、クロム、鉄、アルミニウム、ニッケル、マンガン、銀、銅、バナジウム、コバルト、タンタル、ニオブ、チタン、及びマグネシウムからなる群から選択される少なくとも1種類の金属を含む粉末である、前記[1]〜[]のいずれかに記載の金属粉末成形体の製造方法。
【0020】
10] 成形原料をプレス成形した成形体からなり、前記成形体が、金属粉末を10質量%以上含む原料粉末と、炭素数が20個以下の糖類を含むバインダーとを含有し、前記原料粉末100質量部に対して、前記炭素数が20個以下の糖類を、0.7〜16質量部含む、金属粉末成形体であって、
前記炭素数が20個以下の糖類が、トレハロースである、金属粉末成形体
【0022】
11] 前記原料粉末が、炭素粉末を含む、前記[10]に記載の金属粉末成形体。
【0023】
12] 前記炭素粉末が、前記原料粉末100質量部に対して、15質量部未満である、前記[11]に記載の金属粉末成形体。
【0024】
13] 前記金属粉末が、粒子径10〜1000nmの微粒の金属粒子、粒子径100〜1000μmの粗粒の金属粒子、又は粒子径10〜1000nmの微粒の金属粒子及び粒子径100〜1000μmの粗粒の金属粒子を主原料として含む、前記[10]〜[12]のいずれかに記載の金属粉末成形体。
【0025】
14] 前記金属粉末が、珪素、モリブデン、タングステン、ベリリウム、クロム、鉄、アルミニウム、ニッケル、マンガン、銀、銅、バナジウム、コバルト、タンタル、ニオブ、チタン、及びマグネシウムからなる群から選択される少なくとも1種類の金属を含む粉末である、前記[10]〜[13]のいずれかに記載の金属粉末成形体。
【発明の効果】
【0026】
本発明の金属粉末成形体の製造方法は、金属粉末成形原料を、ダマを生じることなく均一に混合することができるため、金属粉末成形原料の混合性が高い。また、金属粉末成形体の混合性が高いため、金属粉末成形原料の流動性も高い。また、プレス成形する際に、金型に金属粉末成形原料が付着する金型付着が生じにくい。更に、形状保持性に優れ、且つ組成が均一な金属粉末成形体を製造することができる。
【0027】
より具体的には、本発明の金属粉末成形体の製造方法は、成形原料作製工程と、成形体作製工程とを含む。成形原料作製工程は、金属粉末を10質量%以上含む原料粉末と、バインダーとを混合し混練して、乾式混合により金属粉末成形原料を作製する工程である。そして、バインダーとして炭素数が20個以下の糖類及び溶媒を少なくとも用い、成形原料作製工程において、当該原料粉末100質量部に対して、バインダーを3.5〜20質量部加える。成形体作製工程は、成形原料作製工程で作製された金属粉末成形原料をプレス成形し、金属粉末成形体を作製する工程である。本発明の金属粉末成形体の製造方法は、上記のような成形原料作製工程であることにより、金属粉末成形原料の混合性が高く、組成が均一な金属粉末成形体を作製することができる。また、金属粉末成形原料に対する金属粉末の割合を高くすることもできる。また、金属粉末成形原料の流動性が高いため、成形体作製工程において、金属粉末成形原料を金型に流しやすい。また、金属粉末成形原料は、金型付着しにくい。また、プレス成形後の金属粉末成形体の形状保持性が高いため、複雑形状や微細構造の金属粉末成形体も製造することができる。例えば、従来の粉末成形体の製造方法では、粒子径の大きい粗粒の金属粉末を用いた場合には、複雑形状や微細構造の実現が困難であったが、本発明の金属粉末成形体の製造方法によれば、粗粒の金属粉末を用いた場合であっても、複雑形状や微細構造の実現が可能となる。また、従来の粉末成形体の製造方法では、1ミクロン以下のような粒子径の小さい微粒の金属粉末を用いた場合には、金属粉末の混合が困難であったが、本発明の金属粉末成形体の製造方法によれば、微粒の金属粉末を用いた場合であっても、金属粉末の混合を良好に行うことができる。
【0028】
本発明の金属粉末成形体は、組成が均一で、形状保持性が高い。このため、複雑形状や微細構造の金属粉末成形体とすることができる。また、金属粉末成形原料全体の質量に対する金属粉末の質量の割合を高くすることもできる。
【0029】
より具体的には、本発明の金属粉末成形体は、成形原料をプレス成形した成形体からなる。また、当該成形体が、金属粉末を10質量%以上含む原料粉末と、炭素数が20個以下の糖類を含むバインダーとを含有し、原料粉末100質量部に対して、炭素数が20個以下の糖類を0.7〜16質量部含む。このように構成することにより、組成が均一で形状保持性の高い、複雑形状や微細構造の金属粉末成形体とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】本発明の金属粉末成形体の第一実施形態を模式的に示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。したがって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施の形態に対し適宜変更、改良等が加えられたものも本発明の範囲に入ることが理解されるべきである。
【0032】
(1)金属粉末成形体の製造方法
本発明の金属粉末成形体の製造方法の第一実施形態について、以下に説明する。
【0033】
本実施形態の金属粉末成形体の製造方法は、成形原料作製工程と、成形体作製工程とを含む。成形原料作製工程は、金属粉末を10質量%以上含む原料粉末と、バインダーとを混合し混練して、金属粉末成形原料を作製する工程である。そして、バインダーとして炭素数が20個以下の糖類及び溶媒を少なくとも用い、成形原料作製工程において、原料粉末100質量部に対して、バインダーを3.5〜20質量部加える。また、成形体作製工程は、成形原料作製工程で作製した金属粉末成形原料をプレス成形し、金属粉末成形体を作製する工程である。
【0034】
成形原料作製工程は、乾式混合により金属粉末成形原料を作製するものである。このため、本実施形態の金属粉末成形体の製造方法においては、成形原料作製工程の後に、溶媒を蒸発させる工程や造粒工程を要しない。即ち、本実施形態の金属粉末成形体の製造方法においては、成形原料作製工程によって得られた金属粉末成形原料を、そのまま、成形体作製工程に供して、プレス成形により金属粉末成形体を製造する。したがって、本実施形態の金属粉末成形体の製造方法によれば、極めて簡便に、且つ低コストに、金属粉末成形体を製造することができる。
【0035】
成形原料作製工程に用いられる原料粉末は、金属粉末を10質量%以上含むものである。原料粉末中の金属粉末は、10〜100質量%であることが好ましく、50〜100質量%であることが更に好ましく、90〜99質量%であることが特に好ましい。原料粉末中の金属粉末が、10質量%未満であると、原料粉末中の金属粉末の量が少なすぎて、所望の金属特性を有する金属粉末成形体を得ることが困難になる。
【0036】
バインダーとして、炭素数が20個以下の糖類及び溶媒を少なくとも用いる。そして、バインダーを、原料粉末100質量部に対して、3.5〜20質量部加えることにより、得られる金属粉末成形体の形状保持性の向上と、金属粉末成形原料の混合性や流動性が優れることによる、成形性の向上とが、共に実現される。即ち、炭素数が20個以下の糖類及び溶媒を含むバインダーが、3.5質量部よりも少ないと、プレス成形時において、原料粉末を十分に結合させることができず、得られる金属粉末成形体の形状保持性が低下する。また、バインダーが20質量部よりも多いと、バインダーが過剰となり、金属粉末成形原料の混合性や流動性が悪くなり、連続成形性(生産性)が大きく低下する。また、バインダーが過剰となる場合には、金属粉末成形原料が金型に付着しやすくなるため、良好なプレス成形性の実現が困難になることがある。なお、バインダーとして炭素数が20個以下の糖類を用いず、原料粉末100質量部に対して、バインダーを3.5〜20質量部を加えたとしても、得られる金属粉末成形体の形状保持性の向上と、金属粉末成形原料の混合性や流動性が優れることによる、成形性の向上との両立は困難である。例えば、バインダーとして炭素数が20個以下の糖類を用いない場合には、金属粉末成形原料にダマができやすく、金属粉末成形原料の混合性が著しく悪化する。したがって、混合性を改善するためには、バインダーの減量が必要となるが、バインダーを減量した場合には、金属粉末成形原料の形状保持性の改善を図ることはできない。
【0037】
炭素数が20個以下の糖類及び溶媒を含むバインダーは、原料粉末100質量部に対して、3.5〜20質量部である。炭素数が20個以下の糖類及び溶媒を含むバインダーは、原料100質量部に対して、5.1〜15質量部であることが好ましく、5.5〜10質量部であることが更に好ましく、5.5〜7.5質量部が特に好ましい。
【0038】
金属粉末は、珪素、モリブデン、タングステン、ベリリウム、クロム、鉄、アルミニウム、ニッケル、マンガン、銀、銅、バナジウム、コバルト、チタン、ニオブ、タンタル、及びマグネシウムからなる群から選択される少なくとも1種類の金属を含む粉末であることが好ましい。また、金属粉末は、珪素、モリブデン、タングステン、ベリリウム、クロム、及びコバルトからなる群から選択される少なくとも1種類の金属を含む粉末であることがより好ましい。更に、金属粉末は珪素であることが特に好ましい。なお、金属粉末の表面が酸化し、表面の少なくとも一部に金属酸化物が生成している場合にも、金属粉末という。ただし、金属粉末の内部まで酸化されたセラミックのような粉末は、金属酸化物粉末であり、金属粉末とはいわない。
【0039】
金属粉末は、珪素、モリブデン、タングステン、ベリリウム、クロム、鉄、アルミニウム、ニッケル、マンガン、銀、銅、バナジウム、コバルト、チタン、ニオブ、タンタル、及びマグネシウムからなる群から選択される少なくとも2種類の金属を含む金属合金粉末であることも好ましい。また、金属粉末は、珪素、モリブデン、タングステン、ベリリウム、クロム、及びコバルトからなる群から選択される少なくとも2種類の金属を含む金属合金粉末であることが更に好ましい。なお、金属合金粉末の表面が酸化し、表面の少なくとも一部に金属酸化物が生成している場合にも、金属合金粉末という。ただし、金属合金粉末の内部まで酸化されたセラミックのような粉末は、金属合金酸化物粉末であり、金属合金粉末とはいわない。
【0040】
金属粉末は、モリブデン、タングステン、ベリリウム、クロム、鉄、アルミニウム、ニッケル、マンガン、銀、銅、バナジウム、コバルト、チタン、ニオブ、タンタル、及びマグネシウムからなる群から選択される少なくとも1種類の金属を含む金属珪化物粉末であることも好ましい。また、金属粉末は、モリブデン、タングステン、鉄、マンガン、バナジウム、及びニオブからなる群から選択される少なくとも1種類の金属を含む金属珪化物粉末であることがより好ましい。
【0041】
金属粉末は、それぞれ平均粒子径の異なる2種類以上の金属粉末を用いてもよい。また、金属粉末は、構成元素が異なる2種類以上の金属粉末を用いてもよい。また、金属粉末の平均粒子径としては、特に制限はない。一般に、微粒の金属粒子からなる金属粉末を主原料として含む金属粉末を用いた場合には、粗粒の金属粒子からなる金属粉末を主原料として含む金属粉末を用いた場合に比べて、金属粉末成形原料の混合性、及び流動性が、悪化することがある。また、一般に、粗粒の金属粒子からなる金属粉末を主原料として含む金属粉末を用いた場合には、微粒の金属粒子からなる金属粉末を主原料として含む金属粉末を用いた場合に比べて、粉末同士の接触点が、少ないため、金属粉末成形体の形状保持性が低くなることがある。なお、「主原料」とは、金属粉末100質量%に占める比率が、80質量%以上であるものをいう。本実施形態の金属粉末成形体の製造方法は、金属粉末の主原料として、微粒の金属粒子からなる金属粉末を用いた場合にも、金属粉末成形原料の混合性、及び流動性が低下することを抑制することができる。また、金属粉末の主原料として、粗粒の金属粒子からなる金属粉末を用いた場合にも、金属粉末成形体の形状保持性を高くすることができる。なお、本明細書において、金属粉末の平均粒子径は、以下の方法によって測定した値とする。まず、金属粉末を構成する金属粒子を、粒子径が250μm超の粒子と、粒子径が250μm以下の粒子とに、分級する。金属粒子の分級は、ふるいによって行うことができる。分級された「粒子径が250μm超の粒子からなる粉末」については、ふるいによる粒子径分析を行って、当該金属粉末の粒子径分布曲線を求める。分級された「粒子径が250μm超の粒子からなる粉末」について、ふるいにより、粒子径分布曲線を求める際には、例えば、350μm、500μm、750μm、及び1000μmのふるいを用い、それぞれの粒度(粒子径)の粒子の質量を求めることができる。また、分級された「粒子径が250μm以下の粒子」については、レーザー回折法による粒子径分析を行って、当該金属粉末の粒子径分布曲線を求める。次に、ふるいによる粒子径分析により求めた粒子径分布曲線と、レーザー回折法により求めた粒子径分布曲線とを重ね合せて、金属粉末の粒子径分布曲線とし、金属粉末の平均粒子径を求める。なお、金属粉末を構成する全ての金属粒子の粒子径が、明らかに250μm以下である場合には、ふるいによる粒子径分析を省略してもよい。以下、「微粒の金属粒子からなる金属粉末」、及び「粗粒の金属粒子からなる金属粉末」のことを、それぞれ、「微粒の金属粒子」、及び「粗粒の金属粒子」ということがある。
【0042】
金属粉末が、粒子径10〜1000nmの微粒の金属粒子を主原料として含むものであってもよい。金属粉末が、このような粒子径10〜1000nmの微粒の金属粒子を、主原料として含む場合には、例えば、金属粉末として、平均粒子径10〜1000nmの微粒粉末を用いることが好ましく、平均粒子径10〜500nmの微粒粉末を用いることが更に好ましく、平均粒子径10〜100nmの微粒粉末を用いることが特に好ましい。本実施形態の金属粉末成形体の製造方法においては、金属粉末として、粒子径10〜1000nmの微粒の金属粒子を主原料として含み、平均粒子径が1000nm以下である微粒粉末を用いた場合にも、金属粉末成形原料の混合性、及び流動性の悪化を抑制することができる。なお、金属粉末全体の質量に対する、所定の粒子径の金属粒子の質量の比率(質量%)については、レーザー回折法によって求めることができる金属粒子の粒子径分布から、算出することができる。
【0043】
金属粉末が、粒子径100〜1000μmの粗粒の金属粒子を主原料として含むものであってもよい。金属粉末が、このような粒子径100〜1000μmの粗粒の金属粒子を、主原料として含む場合には、例えば、金属粉末として、平均粒子径100〜1000μmの粗粒粉末を用いることが好ましく、平均粒子径150〜800μmの粗粒粉末を用いることが更に好ましく、平均粒子径200〜500μmの粗粒粉末を用いることが特に好ましい。本実施形態の金属粉末成形体の製造方法においては、金属粉末として、粒子径100〜1000μmの粗粒の金属粒子を主原料として含み、平均粒子径が100μm以上である粗粒粉末を用いた場合にも、金属粉末成形体の形状保持性を高くすることができる。なお、金属粉末全体の質量に対する、所定の粒子径の金属粒子の質量の比率(質量%)については、ふるいによる粒子径分析、又はレーザー回折法によって求めることができる金属粒子の粒子径分布から、算出することができる。
【0044】
金属粉末が、粒子径10〜1000nmの微粒の金属粒子及び粒子径100〜1000μmの粗粒の金属粒子を主原料として含むものであってもよい。主原料における、粒子径10〜1000nmの微粒の金属粒子の質量と、粒子径100〜1000μmの粗粒の金属粒子の質量との質量比率に、特に制限はない。
【0045】
成形原料作製工程においては、バインダー100質量部中に占める、炭素数が20個以下の糖類の質量の比率が、20〜80質量部であることが好ましく、40〜70質量部であることが更に好ましく、50〜70質量部であることが特に好ましい。バインダー100質量部中に占める、炭素数が20個以下の糖類の質量の比率が、20質量部より少ないと、金属粉末成形原料の混合性が悪化し、流動性が悪くなることがある。また、バインダー100質量部中に占める、炭素数が20個以下の糖類の質量の比率が、80質量部より多いと、炭素数が20個以下の糖類が溶媒に溶け切らず、得られる金属粉末成形体の形状保持性が低下することがある。
【0046】
炭素数が20個以下の糖類としては、非還元性二糖類、及び糖アルコールが挙げられる。また、非還元性二糖類、及び糖アルコールとしては、下記に示す非還元性二糖類、及び糖アルコールが挙げられる。
【0047】
非還元性二糖類としては、α−グルコースとβ−フルクトースとが1,2−グリコシド結合したものであるスクロース、α−グルコースとα−グルコースとが1,1−グリコシド結合したものであるトレハロース、β−グルコースとβ−グルコースとが1,1−グリコシド結合したものであるイソトレハロース、α−グルコースとβ−グルコースとが1,1−グリコシド結合したものであるネオトレハロース、及び、α−ガラクトースとβ−フルクトースとが1,2−グリコシド結合したものであるガラクトスクロースが挙げられる。上述した非還元性二糖類の中でも、トレハロース、ネオトレハロースが好ましく、トレハロースが特に好ましい。ここで、非還元性二糖類とは、塩基性溶液中で還元性のあるアルデヒド基、又はケトン基を形成しない二糖類のことである。上述した非還元性二糖類の中でも、トレハロースは、特に高い水和力を有している。このため、例えば、溶媒が水を含む場合には、水が、トレハロースにより、金属粉末成形原料中により均一に分散される。即ち、水分子は、溶媒中の水分子同士の間に形成される水素結合よりも、トレハロースと水分子との間に形成される水素結合等の溶媒和により安定化される。そのため、トレハロースは、金属粉末成形体を作製するための金属粉末成形原料のより好適なバインダーとなる。
【0048】
糖アルコールとしては、エリスリトール、ソルビトール、キシリトール、マンニトール、マルチトール、ラクチトール等が挙げられる。上述した糖アルコールの中でも、エリスリトール、ソルビトール、キシリトール、及び、マンニトールが好ましく、エリスリトール、ソルビトール、及び、キシリトールがより好ましく、キシリトールが特に好ましい。
【0049】
炭素数が20個以下の糖類としては、上述した炭素数が20個以下の糖類のうち1種類を選定してバインダーとして用いてもよく、2種類以上を選定してバインダーとして用いてもよい。
【0050】
成形原料作製工程においては、バインダー100質量部中に占める、溶媒の質量の比率が、20〜80質量部であることが好ましく、30〜60質量部であることが更に好ましく、30〜50質量部であることが特に好ましい。このように構成することにより、炭素数が20個以下の糖類を十分に溶媒に馴染ませることができ、プレス成形時において、原料粉末を十分に結合させることができる。「馴染む」とは、「炭素数が20個以下の糖類が溶媒に溶解すること、炭素数が20個以下の糖類が溶媒に溶解せずに分散されること、又はその双方」を意味する。
【0051】
溶媒としては、水、又は有機溶媒が好ましい。また、水と有機溶媒とを混合した混合溶媒であることも好ましい。溶媒が混合溶媒である場合には、混合溶媒は、水を0質量%より多く80質量%より少なく含み、有機溶媒を100質量%より少なく20質量%より多く含むことが好ましい。また、混合溶媒は、水を0質量%より多く60質量%より少なく含み、有機溶媒を100質量%より少なく40質量%より多く含むことが更に好ましい。更に、混合溶媒は、水を0質量%より多く、30質量%より少なく含み、有機溶媒を100質量%より少なく70質量%より多く含むことが特に好ましい。溶媒として、有機溶媒、又は混合溶媒を用いる場合には、溶媒に水がほとんど含まれない、溶媒に水が全く含まれない、又は溶媒に含まれる水の質量割合が小さくなる。このため、水と反応する物質(水を嫌う物質)が原料粉末に含まれていても、金属粉末成形体を製造することができる。
【0052】
有機溶媒としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、2−プロパノール、ノルマルブタノール、ヘキサン、メタノール、エタノール、四塩化炭素、アセトン、ベンゼン、酢酸エチル、及びトルエンが好ましい。
【0053】
バインダーは、炭素数が20個以下の糖類、及び溶媒以外の他のバインダーとして、その他の成分を含んでいてもよい。その他の成分としては、セルロース系のバインダー、及びポリビニルアルコールが挙げられる。セルロース系のバインダーとしては、メチルセルロース、ヒドロキシプロポキシルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、及びカルボキシメチルセルロースが好ましい。
【0054】
バインダーが上述のその他の成分(即ち、炭素数が20個以下の糖類、及び溶媒以外の成分)を含む場合には、バインダー100質量部に対して、その他の成分が0.1〜30質量部であることが好ましく、5〜25質量部であることが更に好ましく、10〜20質量部であることが特に好ましい。
【0055】
原料粉末は、金属粉末以外の他の粉末を含んでいてもよい。他の粉末としては、例えば高級脂肪酸金属塩、硼素、粉末ガラス、及び炭素粉末を挙げることができる。また、これらの他の粉末のうち、金属粉末の粒子同士の潤滑剤として機能する、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸リチウム、及び炭素粉末は、金属粉末の粒子同士の潤滑剤として機能するため、プレス成形時に金属粉末原料を均一な密度で押し固めることができ、プレス成形した後の金属粉末成形体の形状保持性を高くすることができる。
【0056】
また、原料粉末は、他の粉末として、有機成形助剤、造孔剤等を含んでいてもよい。有機成形助剤は、原料粉末の混合性を更に高める分散剤、金属粉末の粒子同士の潤滑剤等として機能する。有機成形助剤としては、界面活性剤、シリコン油、グリセリン、流動パラフィン、及びフェノール樹脂等を挙げることができる。界面活性剤としては、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、及び双生界面活性剤等を挙げることができる。造孔剤としては、発泡樹脂、及び吸水性樹脂等を挙げることができる。
【0057】
金属粉末の金属粒子同士の潤滑剤として機能する他の粉末は、原料粉末100質量部に対して、15質量部未満であることが好ましく、0.5質量部以上、10質量部未満であることが更に好ましく、0.5質量部以上、5質量部未満であることが特に好ましい。他の粉末が、原料粉末100質量部に対して、15質量部以上であると、組成が均一になりにくく、所望の特性の金属粉末成形体を得にくくなることがある。
【0058】
金属粉末の金属粒子同士の潤滑剤として機能する他の粉末が炭素粉末である場合には、以下のような炭素粉末であることが好ましい。炭素粉末は、炭素微粒粉末、活性炭素粉末、顆粒状活性炭素粉末、炭素ヤーン粉末、炭素フェルト粉末、グラッシーカーボン粉末、鱗片状黒鉛粉末、塊(鱗)状黒鉛粉末、土状黒鉛粉末、及び熱分解黒鉛粉末であることが好ましい。炭素粉末は、天然黒鉛由来のものであっても人造黒鉛由来のものであってもよい。
【0059】
上述した炭素粉末のうち、天然黒鉛由来のものが好ましい。天然黒鉛由来の炭素粉末の密度、及び平均粒子径は、それぞれ下記の範囲の密度、及び平均粒子径であることが好ましい。密度1.45〜2.25g/cm、平均粒子径1〜500μmの炭素粉末が好ましく、密度1.6〜2.2g/cm、平均粒子径10〜300μmの炭素粉末が更に好ましく、密度1.8〜2.1g/cm、平均粒子径20〜200μmの炭素粉末が特に好ましい。なお、平均粒子径の値はレーザー回折法により測定した値である。
【0060】
成形原料作製工程において、原料粉末とバインダーとを混合し混練して金属粉末成形原料と作製する方法としては、特に制限はなく、例えば、ミキサー等を用いることができる。ミキサーとしては、愛工舎製作所製のケンミックスミキサー(品番:KMM−770)等を挙げることができる。
【0061】
成形原料作製工程において、炭素数が20個以下の糖類を、溶媒に溶質として予め溶解させた後、バインダーとして原料粉末に添加してもよいし、固体の状態の炭素数が20個以下の糖類と原料粉末とを混合した後に、溶媒を、原料粉末と炭素数が20個以下の糖類との混合物に添加してもよい。以下、「固体の状態の炭素数が20個以下の糖類と原料粉末とを混合し混合物とした後に、当該混合物に溶媒を添加する」ことを、「炭素数が20個以下の糖類を固体の状態で用いる」ということがある。固体状の炭素数が20個以下の糖類を用いる場合は、炭素数が20個以下の糖類を溶媒に溶質として予め溶解させる必要がなく、炭素数が20個以下の糖類の溶液を管理する必要もない。したがって、作業性や低コスト化の観点からは、成形原料作製工程において、固体状の炭素数が20個以下の糖類を用いることが好ましい。
【0062】
成形体作製工程において、金属粉末成形原料を金型に流し、プレス成形した後、金型から取り出し、金属粉末成形体とする。金型には、所望の金属粉末成形体の形状となるように設計された金型を用いることが好ましい。金型の材質としては、金型鋼、超硬合金、及びセラミック等が好ましい。また、金型表面は、これらの材質の溶射、CVDコートがされたものであることも好ましい。
【0063】
成形体作製工程において、金属粉末成形原料にかけるプレス圧力が、5〜200MPaであることが好ましく、10〜100MPaであることが更に好ましく、40〜80MPaであることが特に好ましい。成形体作製工程において、金属粉末成形原料にかけるプレス圧力が、5MPaより小さいと、金属粉末成形体を固めることができなくなることがあり、200MPaより大きいと、金型の磨耗が激しくなることがある。
【0064】
本実施形態の金属粉末成形体の製造方法は、成形体作製工程によって得られた金属粉末成形体を乾燥する、成形体乾燥工程を更に含んでいてもよい。乾燥方法について特に制限は無く、自然乾燥でも構わないが、40〜160℃の熱風乾燥機内で乾燥することが好ましい。このような成形体乾燥工程を行うことにより、得られる金属粉末成形体の形状保持性を向上させることができる。
【0065】
(2)金属粉末成形体
本発明の金属粉末成形体の第一実施形態について、以下に説明する。
【0066】
図1に示すように、本実施形態の金属粉末成形体1は、成形原料をプレス成形した成形体からなる。また、当該成形体が、金属粉末を10質量%以上含む原料粉末と、炭素数が20個以下の糖類を含むバインダーとを含有し、原料粉末100質量部に対して、炭素数が20個以下の糖類を0.7〜16質量部含んでいる。図1は、本発明の金属粉末成形体の第一実施形態を模式的に示す斜視図である。
【0067】
上述したように、本実施形態の金属粉末成形体は、金属粉末を10質量%以上含む原料粉末と、炭素数が20個以下の糖類を含むバインダーとを含有している。そして、原料粉末100質量部に対して、炭素数が20個以下の糖類を0.7〜16質量部含んでいる。このため、金属粉末成形体は、組成が均一であり、形状保持性が高い。また、形状保持性が高いため、必要に応じて、複雑形状や微細構造の金属粉末成形体とすることもできる。更に、必要に応じて、金属粉末成形原料の質量に対する金属粉末の質量の比率を高くすることもできる。
【0068】
「原料粉末100質量部に対する、金属粉末の質量の比率」は、以下の方法で測定することができる。まず、金属粉末成形体を粉砕し、粉末の一部を試験粉末とする。次に、試験粉末について、エネルギー分散型X線装置(EDX)を用いて、定性・定量分析を行い、金属粉末成形体に含まれる金属粉末の種類を決定し、「試験粉末100質量部に対する、金属粉末の質量の比率」を求める。そして、「試験粉末100質量部に対する、金属粉末の質量の比率」を、「金属粉末成形体100質量部に対する金属粉末の質量の比率」とする。また、「原料粉末100質量部に対する、炭素数が20個以下の糖類の質量の比率」は、以下の方法で測定することができる。まず、試験粉末を80℃の乾燥雰囲気において、60分以上乾燥する。そして、乾燥後の試験粉末を、KBr粉末を用いて希釈し、フーリエ変換型赤外分光装置(FT−IR)を用いて、定性・定量分析を行い、「試験粉末100質量部に対する、炭素数が20個以下の糖類の質量の比率」を求める。そして、「試験粉末100質量部に対する炭素数が20個以下の糖類の質量の比率」を、「原料粉末100質量部に対する、金属粉末の質量の比率」とする。
【0069】
成形体は、炭素数が20個以下の糖類を含むバインダーを含有している。そして、成形体は、原料粉末100質量部に対して、炭素数が20個以下の糖類を0.7〜16質量部含んでいる。成形体は、原料粉末100質量部に対して、2.0〜10.5質量部含むことが好ましく、2.8〜7質量部含むことが更に好ましく、2.8〜5.3質量部含むことが特に好ましい。
【0070】
原料粉末は、金属粉末を10質量%以上含むものである。原料粉末中の金属粉末は、10〜100質量%であることが好ましく、50〜100質量%であることが更に好ましく、90〜99質量%であることが特に好ましい。原料粉末中の金属粉末が、10質量%未満であると、原料粉末中の金属粉末の量が少なすぎて、所望の金属特性が得られないことがある。
【0071】
炭素数が20個以下の糖類を含むバインダーは、原料粉末100質量部に対して、1.1〜16質量部であることが好ましく、2.0〜10.5質量部であることが更に好ましく、2.8〜7質量部であることがより更に好ましく、2.8〜5.3質量部であることが特に好ましい。
【0072】
金属粉末は、珪素、モリブデン、タングステン、ベリリウム、クロム、鉄、アルミニウム、ニッケル、マンガン、銀、銅、バナジウム、コバルト、チタン、ニオブ、タンタル、及びマグネシウムからなる群から選択される少なくとも1種類の金属を含む粉末であることが好ましい。また、金属粉末は、珪素、モリブデン、タングステン、ベリリウム、クロム、及びコバルトからなる群から選択される少なくとも1種類の金属を含む粉末であることがより好ましい。更に、金属粉末は珪素であることが特に好ましい。なお、金属粉末の表面が酸化し、表面の少なくとも一部に金属酸化物が生成している場合にも、金属粉末という。ただし、金属粉末の内部まで酸化されたセラミックのような粉末は、金属酸化物粉末であり、金属粉末とはいわない。
【0073】
金属粉末は、珪素、モリブデン、タングステン、ベリリウム、クロム、鉄、アルミニウム、ニッケル、マンガン、銀、銅、バナジウム、コバルト、チタン、ニオブ、タンタル、及びマグネシウムからなる群から選択される少なくとも2種類の金属を含む金属合金粉末であることも好ましい。また、金属粉末は、珪素、モリブデン、タングステン、ベリリウム、クロム、及びコバルトからなる群から選択される少なくとも2種類の金属を含む金属合金粉末であることが更に好ましい。なお、金属合金粉末の表面が酸化し、表面の少なくとも一部に金属酸化物が生成している場合にも、金属合金粉末という。ただし、金属合金粉末の内部まで酸化されたセラミックのような粉末は、金属合金酸化物粉末であり、金属合金粉末とはいわない。
【0074】
金属粉末は、モリブデン、タングステン、ベリリウム、クロム、鉄、アルミニウム、ニッケル、マンガン、銀、銅、バナジウム、コバルト、チタン、ニオブ、タンタル、及びマグネシウムからなる群から選択される少なくとも1種類の金属を含む金属珪化物粉末であることも好ましい。また、金属粉末は、モリブデン、タングステン、鉄、マンガン、バナジウム、及びニオブからなる群から選択される少なくとも1種類の金属を含む金属珪化物粉末であることがより好ましい。
【0075】
金属粉末は、それぞれ平均粒子径の異なる2種類以上の金属粉末からなるものであってもよい。また、金属粉末は、構成元素が異なる2種類以上の金属粉末からなるものであってもよい。また、金属粉末の平均粒子径としては、特に制限はない。一般に、微粒の金属粒子からなる金属粉末を主原料として含む金属粉末を用いた場合には、粗粒の金属粒子からなる金属粉末を主原料として含む金属粉末を用いた場合に比べて、金属粉末成形原料の混合性、及び流動性が、悪化することがある。また、一般に、粗粒の金属粒子からなる金属粉末を主原料として含む金属粉末を用いた場合には、微粒の金属粒子からなる金属粉末を主原料として含む金属粉末を用いた場合に比べて、粉末同士の接触点が少ないため、金属粉末成形体の形状保持性が低くなることがある。なお、「主原料」とは、金属粉末100質量%に占める比率が、80質量%以上であるものをいう。本実施形態の金属粉末成形体は、金属粉末の主原料として、微粒の金属粒子からなる金属粉末を用いた場合にも、金属粉末成形原料の混合性、及び流動性が低下することを抑制することができる。また、金属粉末の主原料として、粗粒の金属粒子からなる金属粉末を用いた場合にも、金属粉末成形体の形状保持性を高くすることができる。なお、平均粒子径は、上述したふるいによる粒子径分析、及びレーザー回折法により測定した値である。
【0076】
金属粉末が、粒子径10〜1000nmの微粒の金属粒子を主原料として含むものであってもよい。金属粉末が、このような粒子径10〜1000nmの微粒の金属粒子を、主原料として含む場合には、例えば、金属粉末として、平均粒子径10〜1000nmの微粒粉末を用いることが好ましく、平均粒子径10〜500nmの微粒粉末を用いることが更に好ましく、平均粒子径10〜100nmの微粒粉末を用いることが特に好ましい。本実施形態の金属粉末成形体は、金属粉末が、粒子径10〜1000nmの微粒の金属粒子を主原料として含み、平均粒子径が1000nm以下である微粒粉末であっても、その製造過程において、金属粉末成形原料の混合性、及び流動性が悪化し難い。なお、金属粉末全体の質量に対する、所定の粒子径の金属粒子の質量の比率(質量%)については、レーザー回折法によって求めることができる、金属粒子の粒子径分布から、算出することができる。
【0077】
金属粉末が、粒子径100〜1000μmの粗粒の金属粒子を主原料として含むものであってもよい。金属粉末が、このような粒子径100〜1000μmの粗粒の金属粒子を、主原料として含む場合には、例えば、金属粉末として、平均粒子径100〜1000μmの粗粒粉末を用いることが好ましく、平均粒子径150〜800μmの粗粒粉末を用いることが更に好ましく、平均粒子径200〜500μmの粗粒粉末を用いることが特に好ましい。本実施形態の金属粉末成形体は、金属粉末が、粒子径100〜1000μmの粗粒の金属粒子を主原料として含み、平均粒子径が100μm以上である粗粒粉末であっても、金属粉末成形体の形状保持性を高くすることができる。なお、金属粉末全体の質量に対する、所定の粒子径の金属粒子の質量の比率(質量%)については、ふるいによる粒子径分析、又はレーザー回折法によって求めることができる、金属粒子の粒子径分布から、算出することができる。
【0078】
金属粉末が、粒子径10〜1000nmの微粒の金属粒子及び粒子径100〜1000μmの粗粒の金属粒子を主原料として含むものであってもよい。主原料における、粒子径10〜1000nmの微粒の金属粒子の質量と、粒子径100〜1000μmの粗粒の金属粒子の質量との質量比率に、特に制限はない。
【0079】
炭素数が20個以下の糖類としては、非還元性二糖類、及び糖アルコールが挙げられる。また、非還元性二糖類、及び糖アルコールとしては、下記に示す非還元性二糖類、及び糖アルコールが挙げられる。
【0080】
非還元性二糖類としては、α−グルコースとβ−フルクトースとが1,2−グリコシド結合したものであるスクロース、α−グルコースとα−グルコースとが1,1−グリコシド結合したものであるトレハロース、β−グルコースとβ−グルコースとが1,1−グリコシド結合したものであるイソトレハロース、α−グルコースとβ−グルコースとが1,1−グリコシド結合したものであるネオトレハロース、及び、α−ガラクトースとβ−フルクトースとが1,2−グリコシド結合したものであるガラクトスクロースが挙げられる。上述した非還元性二糖類の中でも、トレハロース、ネオトレハロースが好ましく、トレハロースが特に好ましい。ここで、非還元性二糖類とは、塩基性溶液中で還元性のあるアルデヒド基、又はケトン基を形成しない二糖類のことである。
【0081】
糖アルコールとしては、エリスリトール、ソルビトール、キシリトール、マンニトール、マルチトール、ラクチトール等が挙げられる。上述した糖アルコールの中でも、エリスリトール、ソルビトール、キシリトール、及び、マンニトールが好ましく、エリスリトール、ソルビトール、及び、キシリトールがより好ましい。なお、原料粉末の流動性の観点からは、エリスリトールが特に好ましい。
【0082】
バインダーは、炭素数が20個以下の糖類、及び溶媒以外の他のバインダーとして、その他の成分を含んでいてもよい。その他の成分としては、セルロース系のバインダー、及びポリビニルアルコールが挙げられる。セルロース系のバインダーとしては、メチルセルロース、ヒドロキシプロポキシルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、及びカルボキシメチルセルロースが好ましい。
【0083】
バインダーが上述のその他の成分(即ち、炭素数が20個以下の糖類以外の成分)を含む場合には、バインダー100質量部に対して、その他の成分が0.1〜60質量部であることが好ましく、10〜50質量部であることが更に好ましく、30〜40質量部であることが特に好ましい。
【0084】
原料粉末は、金属粉末以外の他の粉末を含んでいてもよい。金属粉末以外の他の粉末としては、上述した金属粉末成形体の製造方法の実施形態にて説明した他の粉末と同様のものを挙げることができる。また、原料粉末に含まれる他の粉末の配合量などについても、上述した金属粉末成形体の製造方法の実施形態にて説明した値と同様であることが好ましい。
【0085】
他の粉末が炭素粉末である場合には、金属粉末成形体の製造方法の項にて説明した炭素粉末を採用することが好ましく、炭素粉末の密度及び平均粒子径についても同様とすることが好ましい。
【0086】
金属粉末成形体の形状については特に制限はなく、例えば、金型内の空間の形状に応じて適宜決定される。これまでに説明したように、金属粉末成形体を作製するための金属粉末成形原料は、金型に付着し難い。したがって、本実施形態の金属粉末成形体は、金型からの離型性が極めて良好であるため、複雑形状や、微細構造を有する形状の成形体とすることも可能である。例えば、金属粉末成形体の形状は、角柱形状や円柱形状の比較的に単純な形状のものであってもよいし、その外表面の凹凸等を有する形状や、薄肉部を有する形状のものであってもよい。例えば、金属粉末成形体は、局所的な厚さが、3mm以下の部位を有するものであってもよい。
【0087】
本実施形態の金属粉末成形体は、金属粉末成形体の形状が保持できればこの限りでは無いが、曲げ強度が、0.5MPa以上であることが好ましい。ここで、曲げ強度は、プレス成形時に加圧された方向を荷重負荷方向とする3点曲げ強さのことであり、インストロン社製の材料試験機(型番:5900シリーズ)を用いて測定した値である。曲げ強度の測定は、金属粉末成形体から、「プレス成形時に加圧された方向における金属粉末成形体の長さ」×10mm×40mmの試験片を切り出して行うものとする。プレス成形時に加圧された方向は、例えば、金属粉末成形体が円柱形状である場合には、底面の方向がプレス成形時に加圧された方向であると判別することができる。プレス成形時に加圧された方向が不明である場合には、金属粉末成形体の一の面に垂直な方向を、プレス成形時に加圧された方向であると仮定し、上記のような試験片を切り出して、曲げ強度を測定する。また、金属粉末成形体の残余の面に垂直な方向についても、同様にプレス成形時に加圧された方向であると仮定し、上記のような試験片を切り出して曲げ強度を測定する。そして、測定された曲げ強度の最大値を、当該金属粉末成形体の曲げ強度とする。金属粉末成形体の曲げ強度は、1.0MPa以上であることが更に好ましく、3.0MPa以上であることが特に好ましい。このように構成することにより、金属粉末成形体の形状保持性を向上することができる。なお、本実施形態の金属粉末成形体においては、金属粉末成形原料に含まれるバインダーの結合力によって、金属粉末同士が結合し、その形状が維持されている。このため、本実施形態の金属粉末成形体は、曲げ強度の上限値が、5〜10MPa程度である。また、金属粉末成形体の曲げ強度は、金属粉末成形体中に含まれる液体の含有比率によって変化することがある。このため、金属粉末成形体の曲げ強度の測定を行う際には、測定対象の金属粉末成形体を、以下の方法で乾燥した後に行うものとする。測定対象の金属粉末成形体を、熱風乾燥機を用いて、80℃の乾燥雰囲気において、60分以上乾燥する。このような乾燥を行うことにより、金属粉末成形体の質量に占める金属粉末成形体中の液体の質量の比率を、1質量%以下とする。ここで、金属粉末成形体中の液体とは、金属粉末成形体の製造時に、金属粉末成形原料中に含まれる溶媒等の液体のことである。
【実施例】
【0088】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0089】
(実施例1)
まず、以下の成形原料作製工程により、金属粉末成形原料を作製した。まず、金属粉末と、他の粉末としての炭素粉末とを混合し、原料粉末を調製した。金属粉末としては、硬くてプレス成形がしにくい珪素(Si)を選択し、それぞれ平均粒子径が異なる第一の金属粉末、及び第二の金属粉末として、2種類の珪素粉末を用いた。第一の金属粉末として、平均粒子径500μmの珪素(Si)の粉末を用い、第二の金属粉末として、平均粒子径15μmの珪素(Si)の粉末を用いた。金属粉末は、第一の金属を85質量%、第二の金属を15質量%含むように調製した。炭素粉末としては、平均粒子径が50μmであり、密度が2.05g/ccである炭素質材料を用いた。原料粉末は、金属粉末100質量%に対して、炭素粉末を3質量%を混合し、調製した。金属粉末の平均粒子径は、上述したふるいによる粒子径分析、及びレーザー回折法により測定した値である。また、他の粉末の平均粒子径の値は、レーザー回折法により測定した値である。レーザー回折測定においては、SHIMADZU社製のレーザー回折式粒子径分布測定装置(品番:SALD−7100)を用いた。
【0090】
表1に、第一の金属粉末の種類、第一の金属粉末の平均粒子径(μm)、金属粉末の質量に占める第一の金属粉末の質量の割合(質量%)、第二の金属粉末の種類、第二の金属粉末の平均粒子径(μm)、及び金属粉末の質量に占める第二の金属粉末の質量の割合(質量%)を示す。また、表1に、他の粉末の種類、他の粉末の平均粒子径(μm)、原料粉末の質量に占める他の粉末の質量の割合(質量%)を示す。また、表1の「他の粉末の質量の割合(質量%)」の欄は、「原料粉末の質量に占める他の粉末の質量の割合(質量%)」を示す。なお、表1の「第一の金属粉末の種類」、及び「第二の金属粉末の種類」の欄において、金属粉末として、珪素の粉末を用いた場合は、「Si」と記載する。表1の「他の粉末の種類」の欄において、他の粉末として、炭素粉末を用いた場合は、「C」と記載する。
【0091】
次に、得られた原料粉末100質量部に、炭素数が20個以下の糖類及び溶媒を含むバインダー10質量部を加え、ミキサーを用いて混合し混練し、金属粉末成形原料を作製した。炭素数が20個以下の糖類としては、トレハロースを用いた。溶媒としては、水を用いた。実施例1にて用いたバインダーは、バインダー100質量部に対して、トレハロースを50質量部含み、水を50質量部含むものであった。
【0092】
表2に、原料粉末100質量部に対するバインダーの質量部(質量部)を示す。また、表2に、炭素数が20個以下の糖類の種類、溶媒の種類、及びバインダーの配合処方を示す。なお、バインダーの配合処方とは、バインダー100質量部中に占める、各成分の質量の比率(質量部)のことである。表2の「原料粉末に対する糖の比率(質量部)」の欄は、「原料粉末の質量に対する炭素数が20個以下の糖類の質量の比率(質量部)」を示す。また、表2の「バインダー(質量部)」の欄は、「原料粉末100質量部に対するバインダーの質量部」を示す。
【0093】
次に、以下の成形体作製工程により、金属粉末成形原料からなる金属成形体を作製した。まず、所定の金型を用いて金属粉末成形原料をプレス成形した。その後、プレス成形した金属粉末成形原料を金型から取り出し、金属成形体を作製した。プレス成形の際に、金属粉末成形原料にかけたプレス圧力は、50MPaであった。金型の空間の形状は、円柱形状とし、円柱の高さが7〜8mmとなるようにプレス成形した。
【0094】
【表1】
【0095】
【表2】
【0096】
また、表3にプレス成形の際に、金属粉末成形原料にかけたプレス圧力(MPa)、及び金型形状を示す。なお、表3においては、金属粉末成形原料にかけたプレス圧力(MPa)を「プレス圧力(MPa)」と表記した。金型の空間の形状については、円柱形状とし、円柱の高さが7〜8mmである形状をA、円柱の高さが4〜6mmである形状をB、円柱の高さが2〜3mmである形状をCとした。
【0097】
(金属粉末成形原料の混合性)
成形原料作製工程によって作製した金属粉末成形原料について、以下の基準に基づき、金属粉末成形原料の混合性の評価を行った。結果を表3に示す。表3においては、金属粉末成形原料の混合性を「混合性」と表記した。以下、「金属粉末成形原料の混合性」を、単に「混合性」ということがある。なお、下記の混合性の評価における金属粉末成形原料とバインダーとの混合には、愛工舎製作所製のケンミックスミキサー(品番:KMM−770)を用いた。
評価A:「金属粉末成形原料とバインダーとの混合時において、5分間混合を行った後に、金属粉末成形原料にダマや水分の不均一が見られず均一に混ざりあった状態となった場合」を、評価「A」とする。
評価B:「金属粉末成形原料とバインダーとの混合時において、10分間混合を行った後に、金属粉末成形原料にダマや水分の不均一が見られず均一に混ざりあった状態となった場合」を、評価「B」とする。
評価C:「金属粉末成形原料とバインダーとの混合時において、10分間混合を行った後に、金属粉末成形原料にダマや水分の不均一が出来、良好に混ぜることが出来なかった状態となった場合」を、評価「C」とする。
【0098】
(金属粉末成形原料の流動性)
成形体作製工程において、以下の基準に基づき、金属粉末成形原料の流動性の評価を行った。結果を表3に示す。表3においては、金属粉末成形原料の流動性を「流動性」と表記した。以下、「金属粉末成形原料の流動性」を、単に「流動性」ということがある。なお、下記の流動性の評価における供給ホッパーとしては、吐き出し口約25mm×約80mm、容量約10Lの四角錘形状のホッパーを用いた。また、下記の流動性の評価における「ブリッジを組む」とは、「供給ホッパーの排出口で金属粉末成形原料の粒子同士がアーチ構造を形成して、排出口が閉塞し、金属粉末成形原料が排出されない」ことをいう。評価A:「供給ホッパーを通して、金型に金属粉末成形原料を供給する際に、供給ホッパー内でブリッジを組まずに、滞りなく金型に金属粉末成形原料を充填することが出来た場合」を、評価「A」とする。
評価B:「供給ホッパーを通して、金型に金属粉末成形原料を供給する際に、供給ホッパー内の一部でブリッジを組むことがあるものの、金型に均一な量の金属粉末成形原料を充填することは出来た場合」を、評価「B」とする。
評価C:「供給ホッパーを通して、金型に金属粉末成形原料を供給する際に、供給ホッパー内の一部でブリッジを組むことがあり、供給ホッパーからの金属粉末成形原料の出方が不均一になり、金型に充填される金属粉末成形原料の量が不均一になった場合」を、評価「C」とする。
評価D:「供給ホッパー内で金属粉末成形原料の動きが悪く、供給ホッパーから金属粉末成形原料が出ず、金型に金属粉末成形原料を充填することが出来なかった場合、即ちプレス成形が出来なかった場合」を、評価「D」とする。
【0099】
(金属粉末成形体の離型性)
成形体作製工程において、以下の基準に基づき、金属粉末成形体の離型性の評価を行った。結果を表3に示す。表3においては、金属粉末成形体の離形性を「離形性」と表記した。以下、「金属粉末成形原料の離形性」を、単に「離形性」ということがある。
評価A:「金属粉末成形原料を連続で10回以上プレス成形した後においても、離型後の金型の内面に、金属粉末成形原料の付着が見られなかった場合」を、評価「A」とする。評価B:「金属粉末成形原料を連続で5回以上10回未満プレス成形した後において、離型後の金型の内面に、金属粉末成形原料の付着が見られた場合」を、評価「B」とする。評価C:「金属粉末成形原料を連続で5回未満プレス成形した後において、離型後の金型の内面に、金属粉末成形原料の付着が見られた場合」を、評価「C」とする。
【0100】
(金属粉末成形体の曲げ強度)
得られた金属粉末成形体について、以下の基準に基づき、曲げ強度の評価を行った。結果を表3に示す。表3においては、3点曲げ試験により得られた「金属粉末成形体の強度」を「曲げ強度」と表記した。曲げ強度については、インストロン社製の材料試験機(型番:5900シリーズ)を用いて、3点曲げ試験により、破壊試験を行い、測定した。また、曲げ強度の測定は、金属粉末成形原料をプレス成形し、金属粉末成形体とし、金型から取り出した後に、金属粉末成形体を、熱風乾燥機を用いて乾燥させた。次に、円柱状の金属粉末成形体から、10mm×40mm×円柱の高さの大きさである試験片を切り出した。そして、試験片の円柱の高さ方向(別言すれば、プレス成形時の加圧方向)を荷重負荷方向とし、3点曲げ試験を行った。金属粉末成形体の乾燥は、80℃の乾燥雰囲気において、60分以上行った。以下、「金属粉末成形原料の曲げ強度」を、単に「曲げ強度」ということがある。
評価A:「曲げ強度の測定結果が、3MPa以上である場合」を、評価「A」とする。
評価B:「曲げ強度の測定結果が、0.5MPa以上、3MPa未満である場合」を、評価「B」とする。なお、評価「B」において、より曲げ強度が高いものを、評価「B+」とする。
評価C:「曲げ強度の測定結果が、0.5MPa未満である場合」を、評価「C」とする。なお、評価「C」において、より曲げ強度が高いものを、評価「C+」とする。
評価D:「プレス成形後の金属粉末成形体の形状が定まらず、曲げ強度を測定できない場合」を、評価「D」とする。
【0101】
(総合評価)
混合性の評価結果、流動性の評価結果、離型性の評価結果、曲げ強度の評価結果から、以下の評価基準により、優、良、可、不可の総合評価を行った。結果を表3に示す。
評価「優」:「混合性、流動性、離形性、及び曲げ強度の4つの評価結果の全ての評価結果がA、又はBであり、且つ、Bが2個以下である場合」を、評価「優」とする。
評価「良」:「混合性、流動性、離形性、及び曲げ強度の4つの評価結果の全ての評価結果がA、又はBであり、且つ、Bが3個以上である場合」を、評価「良」とする。
評価「可」:「混合性、流動性、離形性、及び曲げ強度の4つの評価結果の全ての評価結果がA、B、又はCであり、且つ、Cが1個以上である場合」を、評価「可」とする。
評価「不可」:「混合性、流動性、離形性、及び曲げ強度の4つの評価結果のうち、Dが1個以上である場合」を、評価「不可」とする。
【0102】
【表3】
【0103】
(実施例2〜6、9〜13、及び32〜35)
実施例2〜6、9〜13、及び32〜35では、バインダーの配合処方を、それぞれ表2に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で金属粉末成形体を作製した。
【0104】
(比較例1〜3)
比較例1〜3では、バインダーの配合処方を、それぞれ表2に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で金属粉末成形体を作製した。
【0105】
(実施例7及び8、並びに14〜16)
実施例7及び8、並びに14〜16では、原料粉末の配合処方、及びバインダーの配合処方を、それぞれ表2に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で金属粉末成形体を作製した。
【0106】
(実施例17)
実施例17では、原料粉末、及びバインダーの配合処方を以下のように変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で金属粉末成形体を作製した。原料粉末が含む金属粉末として、タングステン(W)の粉末と、ニッケル(Ni)の粉末とを用いた。第一の金属粉末として、平均粒子径0.5μmのタングステン(W)の粉末を用い、第二の金属粉末として、平均粒子径0.5μmのニッケル(Ni)粉末を用いた。原料粉末の配合処方、及びバインダーの配合処方は、それぞれ表4及び表5に示すような配合とした。なお、表4の「第一の金属粉末」、及び「第二の金属粉末」の欄において、金属粉末として、タングステン、ニッケルの粉末を用いた場合は、それぞれ「W」、「Ni」と記載する。
【0107】
(実施例18及び19)
実施例18及び19では、原料粉末、及びバインダーの配合処方を、それぞれ以下のように変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で金属粉末成形体を作製した。原料粉末が含む金属粉末として、タングステン(W)の粉末と、銅(Cu)の粉末とを用いた。第一の金属粉末として、平均粒子径0.5μmのタングステン(W)の粉末を用い、第二の金属粉末として、平均粒子径1μmの銅(Cu)の粉末を用いた。原料粉末の配合処方、及びバインダーの配合処方は、それぞれ表4及び表5に示すような配合とした。なお、表4の「第二の金属粉末」の欄において、金属粉末として銅の粉末を用いた場合は、「Cu」と記載する。
【0108】
(実施例20〜22)
実施例20〜22では、プレス成形の際に、金属粉末成形原料にかけたプレス圧力を、それぞれ表6に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で金属粉末成形体を作製した。なお、実施例20〜22では、実施例1に対して、原料粉末の配合処方、及びバインダーの配合処方に変更はないが、原料粉末の配合処方に表4に示す。
【0109】
(実施例23〜25)
実施例23〜25では、バインダーが含むその他の成分として、メチルセルロースを用い、バインダーの配合処方を、それぞれ表5に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で金属粉末成形体を作製した。なお、実施例23〜27では、実施例1に対して、原料粉末の配合処方に変更はないが、原料粉末の配合処方を表4に示す。
【0110】
(比較例4及び5)
比較例4及び5では、バインダーが含むその他の成分として、メチルセルロースを用い、バインダーの配合処方を、表5に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で金属粉末成形体を作製した。なお、比較例1では、実施例1に対して、原料粉末の配合処方に変更はないが、原料粉末の配合処方を表4に示す。
【0111】
(実施例26)
実施例26では、溶媒として混合溶媒Aを用い、バインダーの配合処方を表5に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で金属粉末成形体を作製した。混合溶媒Aは、水を50質量%、エタノール(純度:99.5質量%以上)を50質量%含むものであった。なお、実施例26では、実施例1に対して、原料粉末の配合処方に変更はないが、原料粉末の配合処方に表4に示す。
【0112】
(実施例27)
実施例27では、溶媒として混合溶媒Bを用い、バインダーの配合処方を表5に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で金属粉末成形体を作製した。混合溶媒Bは、水を20質量%、エタノール(純度:99.5質量%以上)を80質量%含むものであった。なお、実施例27では、実施例1に対して、原料粉末の配合処方に変更はないが、原料粉末の配合処方に表4に示す。
【0113】
(実施例28〜31)
実施例28〜31では、バインダーの配合処方、「プレス成形の際に、金属粉末成形原料にかけたプレス圧力」、及び金型の空間の形状を、それぞれ表5及び表6に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で金属粉末成形体を作製した。なお、実施例28〜31では、実施例1に対して、原料粉末の配合処方に変更はないが、原料粉末の配合処方を表4に示す。
【0114】
(実施例36〜38)
実施例36〜38では、バインダーの配合処方を表5に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で金属粉末成形体を作製した。実施例36では、炭素数が20個以下の糖類として、エリスリトールを用いた。実施例37では、炭素数が20個以下の糖類として、ソルビトールを用いた。実施例38では、炭素数が20個以下の糖類として、キシリトールを用いた。溶媒としては、それぞれ、水を用いた。実施例36〜38にて用いたバインダーは、バインダー100質量部に対して、上記した各糖類を50質量部含み、水を50質量部含むものであった。なお、実施例36〜38では、実施例1に対して、原料粉末の配合処方に変更はないが、原料粉末の配合処方を表4に示す。以下、実施例36〜38を参考例36〜38とする。
【0115】
実施例2〜38の金属粉末成形体、及び比較例1〜5の金属粉末成形体についても、混合性、流動性、離形性、及び曲げ強度の評価を行った。結果を表3及び表6に示す。また、金型に金属粉末成形原料を供給することが出来ず、離形性、及び曲げ強度を評価できなかったものについては、該当欄に「−」と示す。
【0116】
【表4】
【0117】
【表5】
【0118】
【表6】
【0119】
(結果)
表3及び6に示すように、実施例1〜38の金属粉末成形体は、総合評価において良好な結果を得ることができた。特に、実施例1〜6、及び32〜35を比較した場合、バインダーの配合量が3.5〜7.5質量部の実施例3、4、6、32〜34は、混合性、流動性、及び離型性の各評価において、全て「A」の評価であった。また、曲げ強度の評価については、バインダーの配合量が5.1〜20質量部であると、「B」以上の評価であり、バインダーの配合量が5.5〜20質量部であると、「B+」以上の評価であった。また、実施例36〜38のように、炭素数が20個以下の糖類として、エリスリトール、ソルビトール、及びキシリトールを用いた場合においても、トレハロースを用いた場合と同様に良好な結果を得ることができた。エリスリトールを用いた場合には、流動性において特に良好な結果が得られた。
【0120】
比較例1の金属粉末成形体は、原料粉末100質量部に対する、バインダーの質量部が20質量部より多いため、総合評価において不可となった。
【0121】
比較例2の金属粉末成形体は、バインダーが、炭素数が20個以下の糖類を含んでいないため、総合評価において不可となった。
【0122】
比較例3の金属粉末成形体は、バインダーが溶媒を含んでいないため、総合評価において不可となった。
【0123】
比較例4、及び5の金属粉末成形体は、バインダーがその他の成分として、メチルセルロースを含んでいたが、炭素数が20個以下の糖類を含んでいないため、総合評価において不可となった。
【産業上の利用可能性】
【0124】
本発明の金属粉末成形体の製造方法は、形状保持性に優れた金属粉末成形体を製造する方法として利用することができる。また、本発明の金属粉末成形体は、各種金属を含む金属の成形体として利用することができる。
【符号の説明】
【0125】
1:金属粉末成形体。
図1