(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
走査透過電子顕微鏡を用いた測定方法として、円錐状に収束させた電子線を試料上で走査し、この走査と同期させながら、各画素の収束電子回折図形を撮像装置で記録し、試料上の各位置に1対1に対応した複数の収束電子回折図形を取得する手法が提案されている。
【0005】
しかしながら、上記の測定方法を実現するためには、電子線の走査と同期して複数の収束電子回折図形を記録しなければならないため、像(収束電子回折図形)の記録を高速化した撮像装置が必要となる。像の記録時間が長くなってしまうと、装置に対する外乱や温度変化による試料ドリフトの影響が大きくなってしまう。そのため、像の記録時間は短い方が望ましい。
【0006】
本発明は、以上のような問題点に鑑みてなされたものであり、本発明のいくつかの態様に係る目的の1つは、像の記録時間を短縮することができる電子顕微鏡を提供することにある。また、本発明のいくつかの態様に係る目的の1つは、像の記録時間を短縮することができる画像取得方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明に係る電子顕微鏡は、
試料に電子線を照射するための照射系と、
試料を透過した電子で結像する結像系と、
試料を透過した電子を偏向させる電子偏向部と、
試料を透過した電子を検出する検出面を備え、試料を透過した電子で結像された像を記録する撮像部と、
前記電子偏向部を制御する制御部と、
を含み、
前記制御部は、前記照射系における照射条件の変更に応じて、前記検出面における電子の入射領域が変更されるように前記電子偏向部を制御
し、
前記照射条件が第1条件のときの前記入射領域と、前記照射条件が前記第1条件とは異なる第2条件のときの前記入射領域とは、前記検出面において互いに異なる位置に位置し、重ならない。
【0008】
このような電子顕微鏡では、照射条件の変更によって得られた複数の像を、撮像部で1つの画像として(1つの画像上に)記録することができる。したがって、照射条件を変更する毎に像の記録を行う場合と比べて、記録時間を短縮することができる。これは、撮像部において、照射条件を変更して像が得られるごとに画像の読み出しを行う必要がなく、複数の像を一度に読み出すことが可能となるためである。
【0009】
(2)本発明に係る電子顕微鏡において、
前記照射系は、試料を照射する電子線の試料上での照射位置を走査するための位置走査部を含み、
前記照射条件の変更は、前記照射位置の変更であってもよい。
【0010】
このような電子顕微鏡では、試料上の各位置に1対1に対応する複数の像を、撮像部で1つの画像として記録することができる。したがって、照射位置を変更する毎に像の記録を行う場合と比べて、記録時間を短縮することができる。
【0011】
(3)本発明に係る電子顕微鏡において、
前記照射系は、試料を照射する電子線の試料に対する入射角度を走査するための角度走査部を含み、
前記照射条件の変更は、前記入射角度の変更であってもよい。
【0012】
このような電子顕微鏡では、電子線の試料に対する各入射角度に1対1に対応した複数の像を、撮像部で1つの画像として記録することができる。したがって、入射角度を変更する毎に像の記録を行う場合と比べて、記録時間を短縮することができる。
【0013】
(4)本発明に係る電子顕微鏡において、
前記入射領域の形状および大きさを規定する入射領域規定部を含んでいてもよい。
【0014】
このような電子顕微鏡では、撮像部の検出面において隣り合う像が重なることを防ぐことができる。
【0015】
(5)本発明に係る電子顕微鏡において、
前記入射領域規定部は、前記入射領域の形状および大きさに対応する開口部を有するマスクであり、
前記電子偏向部は、前記開口部を通過した電子を偏向させてもよい。
【0016】
このような電子顕微鏡では、撮像部の検出面において隣り合う像が重なることを防ぐことができる。
【0017】
(6)本発明に係る電子顕微鏡において、
前記マスクを移動させるための移動機構を含み、
前記マスクは、大きさの異なる複数の前記開口部を有していてもよい。
【0018】
このような電子顕微鏡では、移動機構によってマスクを移動させることによって開口部を切り替えることができるため、入射領域の大きさを変更することができる。
【0019】
(7)本発明に係る電子顕微鏡において、
前記マスクの後段に配置され、前記入射領域の大きさを制御するための光学系を含んでいてもよい。
【0020】
このような電子顕微鏡では、入射領域の大きさを制御するための光学系を含んでいるため、入射領域の大きさを変更することができる。
【0021】
(8)本発明に係る電子顕微鏡において、
前記電子偏向部は、光軸に沿って配置された複数の偏向器で構成されていてもよい。
【0022】
このような電子顕微鏡では、電子を撮像部の検出面に対して垂直に入射させることができる。これにより、電子偏向部において試料を透過した電子を偏向させても、撮像部の検出面に形成される像のアスペクト比を一定に保つことができる。
【0023】
(9)本発明に係る電子顕微鏡において、
前記撮像部は、
前記照射条件が前記第1条件で得られた像と、前記照射条件が前記第2条件で得られた像とを、1画像として記録してもよい。
【0024】
このような電子顕微鏡では、撮像部が照射条件の変更によって得られた複数の像を、1つの画像として記録するため、照射条件を変更する毎に像の記録を行う場合と比べて、記録時間を短縮することができる。
【0025】
(10)本発明に係る電子顕微鏡において、
前記制御部は、前記撮像部において1画像として記録される複数の像のうち、前記検出面において最初に検出される像と最後に検出される像とが隣り合うように、前記電子偏向部を制御してもよい。
【0026】
このような電子顕微鏡では、複数の像を1画像として記録する処理を繰り返し行う場合に、最後に検出される像が形成される入射領域の位置から、最初に検出される像が形成される入射領域の位置に入射領域を戻すための時間を短縮できる。したがって、複数の像を1画像として記録する処理を繰り返し行う場合に、記録時間を短縮することができる。
【0027】
(11)本発明に係る電子顕微鏡において、
前記検出面は、複数の検出領域に分割され、
前記撮像部は、前記検出領域ごとに、検出された複数の像を1画像として記録してもよい。
【0028】
このような電子顕微鏡では、1つの検出領域で像の検出を行っている間に他の検出領域では像の読み出しを行うことができるため、記録時間を短縮することができる。
【0029】
(12)本発明に係る電子顕微鏡において、
前記照射系において電子線を遮断するための電子線遮断部を含み、
前記制御部は、さらに、前記電子偏向部が前記入射領域を変更している間に、試料に電子線が照射されないように前記電子線遮断部を制御してもよい。
【0030】
このような電子顕微鏡では、入射領域を変更している間に、撮像部の検出面に電子が入射することを防ぐことができる。
【0031】
(13)本発明に係る画像取得方法は、
試料に電子線を照射し、試料を透過した電子を検出する電子顕微鏡における画像取得方法であって、
試料に照射される電子線の照射条件の変更に応じて、撮像部の検出面における電子の入射領域が変更されるように試料を透過した電子を偏向する工程を含
み、
前記照射条件が第1条件のときの前記入射領域と、前記照射条件が前記第1条件とは異なる第2条件のときの前記入射領域とは、前記検出面において互いに異なる位置に位置し、重ならない。
【0032】
このような画像取得方法では、照射条件の変更によって得られた複数の像を、撮像部で1つの画像として記録することができる。したがって、照射条件を変更する毎に像の記録を行う場合と比べて、記録時間を短縮することができる。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また、以下で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0035】
1. 第1実施形態
1.1. 電子顕微鏡の構成
まず、第1実施形態に係る電子顕微鏡について図面を参照しながら説明する。
図1は、第1実施形態に係る電子顕微鏡100を模式的に示す図である。
【0036】
電子顕微鏡100は、走査透過電子顕微鏡(STEM)である。すなわち、電子顕微鏡100は、電子プローブ(収束した電子線)で試料S上を走査し、試料Sを透過した電子を検出して走査透過電子顕微鏡像(STEM像)を得るための装置である。
【0037】
また、電子顕微鏡100では、円錐状に収束した電子線で試料S上を走査し、試料Sを透過した電子でつくられた収束電子回折図形を撮像装置28で記録して、試料S上の各位置に1対1に対応した複数の収束電子回折(convergent−beam electron diffraction、CBED)図形を取得することができる。すなわち、電子顕微鏡100では、STEM像の各画素に1対1に対応した複数の収束電子回折図形を取得することができる。
【0038】
電子顕微鏡100は、
図1に示すように、電子源10と、収束レンズ12と、走査コイル13(位置走査部の一例)と、対物レンズ14と、試料ステージ16と、試料ホルダー17と、中間レンズ18と、投影レンズ20と、マスク22(入射領域規定部の一例)と、電子偏向部24と、STEM検出器26a,26bと、撮像装置28と、制御部30と、PC(パーソナルコンピュータ)40と、を含む。
【0039】
電子源10は、電子線を発生させる。電子源10は、例えば、陰極から放出された電子を陽極で加速し電子線を放出する電子銃である。
【0040】
収束レンズ12は、電子源10から放出された電子線を収束する。収束レンズ12は、図示はしないが、複数の電子レンズで構成されていてもよい。
【0041】
走査コイル13は、電子線を偏向させて、収束レンズ12および対物レンズ14で収束された電子線(電子プローブ)で試料S上を走査するためのコイルである。すなわち、走査コイル13は、電子線の試料S上での照射位置を走査(位置走査)するためのコイルである。
【0042】
対物レンズ14は、電子線を試料S上に収束させて、電子プローブを形成するためのレンズである。また、対物レンズ14は、試料Sを透過した電子を結像する。
【0043】
収束レンズ12、走査コイル13、および対物レンズ14は、電子線を収束して試料Sに照射するための照射系4を構成している。
【0044】
試料ステージ16は、試料Sを保持する。図示の例では、試料ステージ16は、試料ホルダー17を介して、試料Sを保持している。試料ステージ16は、試料Sを水平方向や鉛直方向に移動させたり、試料Sを傾斜させたりすることができる。
【0045】
中間レンズ18および投影レンズ20は、試料Sを透過した電子をSTEM検出器26a,26bに導く。また、中間レンズ18および投影レンズ20は、対物レンズ14によって結像された像をさらに拡大し、撮像装置28上に結像する。対物レンズ14、中間レンズ18、および投影レンズ20は、試料Sを透過した電子で結像する結像系6を構成している。
【0046】
マスク22は、撮像装置28の検出面29における電子の入射領域の形状および大きさ(面積)を規定するためのマスクである。マスク22は、試料Sを透過した電子の一部を通過させる開口部23を有している。マスク22の開口部23の形状および大きさは、入射領域の形状および大きさに対応している。開口部23の形状は、例えば、四角形である。マスク22は、投影レンズ20の後段(電子の流れの下流側、後方)に配置されている。なお、マスク22は、試料S(または対物レンズ14)よりも後方に配置されていれば、その位置は特に限定されない。
【0047】
撮像装置28の検出面29における電子の入射領域とは、電子線が試料S上のある照射位置に照射されたときに、検出面29において当該照射位置から透過した電子が入射する領域をいう。マスク22を用いることで、検出面29において電子が入射する領域(入射領域)を制限することができる。
【0048】
電子偏向部24は、試料Sを透過した電子を二次元的に偏向させる。電子偏向部24は、マスク22の後段に配置されており、マスク22(開口部23)を通過した電子を偏向させる。電子偏向部24は、例えば、電界により電子を偏向させる静電偏向器(静電偏向板)である。なお、電子偏向部24は、磁界により電子を偏向させる電磁偏向器であって
もよい。
【0049】
明視野STEM検出器26aは、試料Sを透過した電子のうち、散乱されずに透過した電子、および所定の角度以下で散乱した電子を検出する。明視野STEM検出器26aは光軸上に配置されているが、撮像装置28を使用する場合には光軸上から退避させることができる。明視野STEM検出器26aで検出された電子の強度信号(検出信号)は、走査信号に同期して画像化される。これにより、明視野STEM像が生成される。生成された明視野STEM像は、PC40の画面上に表示される。
【0050】
暗視野STEM検出器26b、試料Sで特定の角度で散乱された電子を検出する。暗視野STEM検出器26bは、円環状の検出器である。暗視野STEM検出器26bで検出された電子の強度信号(検出信号)は、走査信号に同期して画像化される。これにより、暗視野STEM像(例えば、高角度散乱暗視野像(high−angle annular dark−field scanning microscope image:HAADF−STEM像))が生成される。生成された暗視野STEM像は、PC40の画面上に表示される。
【0051】
撮像装置28は、結像系6によって結像された像を撮影する。結像系6によって結像される像には、電子回折図形(収束電子回折図形)も含まれる。撮像装置28は、電子を検出する検出面29を備えている。撮像装置28は、検出面29で試料Sを透過した電子を検出して、試料Sを透過した電子で結像された像(電子回折図形)を記録する。撮像装置28は、例えば、CMOS(Complementary MOS)イメージセンサーまたはCCD(Charge−Coupled Device)イメージセンサーを含んで構成されている。撮像装置28では、CMOSイメージセンサー、CCDイメージセンサー等のイメージセンサーを用いて、像の記録を行う。
【0052】
撮像装置28は、シンチレーターおよび光ファイバーを含んで構成されていてもよい。すなわち、撮像装置28は、電子をシンチレーターで光子に変換し、この光子を光ファイバーによってCMOSイメージセンサーまたはCCDイメージセンサーに転送して像の記録を行ってもよい。また、撮像装置28は、電子を、直接、CMOSイメージセンサーまたはCCDイメージセンサーで検出して像の記録を行ってもよい。撮像装置28で記録された像(電子回折図形)データは、制御部30を介して、PC40に送られる。
【0053】
制御部30は、電子顕微鏡100を構成する各部材10,12,13,14,16,18,20,24,28を制御する。制御部30の機能は、専用回路により実現してもよいし、プロセッサ(CPU等)でプログラムを実行することにより実現してもよい。
【0054】
1.2. 電子顕微鏡の動作
次に、電子顕微鏡100の動作について説明する。以下では、電子顕微鏡100において、試料S上の各位置に1対1に対応した複数の収束電子回折図形を取得する処理について説明する。
【0055】
電子顕微鏡100では、電子源10から放出された電子線は、収束レンズ12および対物レンズ14で円錐状に絞られて試料Sに照射される。そして、試料Sを透過した電子は、対物レンズ14、中間レンズ18および投影レンズ20を介して、撮像装置28の検出面29に入射し検出される。
【0056】
ここで、試料Sを透過した電子は、対物レンズ14の後焦点面において収束電子回折図形を形成する。この対物レンズ14の後焦点面に形成された収束電子回折図形は、中間レンズ18、および投影レンズ20で拡大されて撮像装置28の検出面29上に結像される
。そのため、撮像装置28において、収束電子回折図形を記録することができる。
【0057】
電子顕微鏡100では、試料S上で円錐状に絞られた電子線を走査して(すなわち電子線を位置走査して)、試料S上の各照射位置で収束電子回折図形を記録する。
【0058】
このとき、仮に、照射位置が変更される毎に、撮像装置28で収束電子回折図形を記録する場合、記録に時間がかかってしまう。例えば、高速化されたカメラであっても、1つの像(収束電子回折図形)を記録するために要する時間(記録時間)は250μ秒程度である。光電子増倍管(PMT)とシンチレーターを組み合わせた一般的なSTEM検出器での電子の強度信号の記録時間が40μ秒程度であることを考えると、高速化されたカメラであっても記録速度は遅い。
【0059】
そのため、電子顕微鏡100では、制御部30が試料Sに照射される電子線の位置走査に応じて、撮像装置28の検出面29における電子の入射領域が変更されるように電子偏向部24を制御する。これにより、撮像装置28において、複数の収束電子回折図形を1画像として記録することができるため、読み出し時間を短くすることができ、記録時間を短縮することができる。
【0060】
図2は、電子顕微鏡100のマスク22および電子偏向部24の機能を説明するための図である。なお、
図2では、マスク22、電子偏向部24、および撮像装置28以外の部材の図示を省略している。
図3は、撮像装置28の検出面29を模式的に示す図である。なお、
図3には、互いに直交する2つの軸としてX軸およびY軸を図示している。
【0061】
図2に示すように、試料Sを透過した電子は、マスク22(開口部23)を通過する。電子がマスク22を通過することにより、不要な電子がカットされて、検出面29における電子の入射領域2の形状および大きさが規定される。
【0062】
マスク22を通過した電子は、電子偏向部24で偏向される。制御部30は、試料Sに照射される電子線の位置走査に応じて(すなわち、試料Sを照射する電子線の試料S上での照射位置の変更に応じて)、検出面29における電子の入射領域2が変更されるように電子偏向部24を制御する。この結果、マスク22を通過した電子は、試料S上での照射位置に応じて互いに異なる入射領域2に入射し、各入射領域2において照射位置に対応する収束電子回折図形が形成される。これにより、撮像装置28の検出面29において、複数の収束電子回折図形が検出される。
【0063】
制御部30は、撮像装置28の検出面29において、収束電子回折図形が複数行複数列に検出されるように電子偏向部24を制御する。
【0064】
制御部30は、例えば、入射領域2を
図3に示す矢印の順番で移動させる(変更させる)。具体的には、まず、入射領域2を、初期位置A(検出面29の−X軸方向および−Y軸方向の端の位置)から、+X軸方向に移動させる。そして、入射領域2を、検出面29の+X軸方向の端まで移動させると、次に、+Y軸方向に移動させて、同様に、−X軸方向の端から+X軸方向の端まで移動させる。これを繰り返すことで、入射領域2を終了位置B(検出面29の+X軸方向および+Y軸方向の端の位置)まで移動させる。これにより、撮像装置28の検出面29において収束電子回折図形が複数行複数列に検出される。
【0065】
撮像装置28は、検出面29で検出された複数の収束電子回折図形を、1画像として記録する。すなわち、撮像装置28は、検出面29で検出された複数の収束電子回折図形を、一度に読み出す。
図3に示す例では、撮像装置28は、24個の収束電子回折図形を、1画像として記録する。具体的には、撮像装置28では、検出面29において、位置走査
に応じて収束電子回折図形が次々と検出されるが、あらかじめ設定された数の収束電子回折図形が検出されるまで読み出しは行われない。そして、あらかじめ設定された数(
図3に示す例では24個)の収束電子回折図形が検出されると、撮像装置28は検出された複数(24個)の収束電子回折図形を一度に読み出す。これにより、複数の収束電子回折図形が1画像として記録される。
【0066】
例えば、1つの画像(収束電子回折図形)の画素数をn×nとし、撮像装置28の画素数をN×Nとすると、撮像装置28に記録できる画像数は、理想的には(N/n)
2となるが、画像と画像の間には、数画素の間隔を置く必要がある。この間隔の画素数をpとすると、実際に撮像装置28で記録できる画像数mは、m=(N/(n+p))
2となる。
【0067】
撮像装置28において、複数の収束電子回折図形を1画像として記録する処理を繰り返し行うことで、多数の収束電子回折図形を高速に記録することができる。
【0068】
なお、撮像装置28において、像(収束電子回折図形)の検出は、イメージセンサーの画素(フォトダイオード)で入射した電子を電荷に変換して蓄積することで行われる。画素(フォトダイオード)に蓄積された電荷は、例えば電圧として読み出される。このように、像を検出して、検出した像を読み出すことで、像を記録することができる。
【0069】
図4は、ピクセルクロック信号、水平ブランキング信号、垂直ブランキング信号、およびトリガー信号を示す図である。
【0070】
水平ブランキング信号は、試料S上で2次元的に走査される電子線の水平方向の走査におけるブランキング期間(電子線を遮断する期間)を示す信号である。水平ブランキング信号は、電子線の水平方向の走査における始まりと終わりを示している。
【0071】
垂直ブランキング信号は、試料S上で2次元的に走査される電子線の垂直方向の走査におけるブランキング期間を示す信号である。垂直ブランキング信号は、電子線の1フレームの始まりと終わりを示している。
【0072】
制御部30は、ピクセルクロック信号、水平ブランキング信号、および垂直ブランキング信号に同期させて、電子偏向部24を動作させる制御を行う。これにより、電子偏向部24は、
図4に示すトリガー信号で示されるタイミングで試料Sを透過した電子線を偏向させる。
【0073】
撮像装置28で記録された複数の収束電子回折図形を含む画像の画像データは、例えば、制御部30を介してPC40に送られる。PC40では、画像データから複数の収束電子回折図形を取り出し、取り出された収束電子回折図形を、試料S上の位置に1対1に対応させる。これにより、試料S上の各位置に1対1に対応した複数の収束電子回折図形を取得することができる。
【0074】
ここで、
図2に示すように、マスク22を通過した電子は、電子偏向部24で偏向されて検出面29に対して斜め方向から入射する場合がある。この場合、撮像装置28で記録される収束電子回折図形は、台形状に歪む。したがって、PC40は、各収束電子回折図形に対して、台形状の歪みを補正する処理を行ってもよい。
【0075】
PC40は、試料S上の各位置に1対1に対応した複数の収束電子回折図形から、様々な画像を生成する。
【0076】
例えば、試料S上の各位置に1対1に対応した複数の収束電子回折図形において、各収
束電子回折図形から高角度に非弾性散乱された電子の強度情報を取り出すことで、HAADF−STEM像を生成することができる。
【0077】
また、例えば、試料S上の各位置に1対1に対応した複数の収束電子回折図形において、各収束電子回折図形からダイレクトビームディスク(透過波に対応するディスク)の光軸周辺部(例えば12〜24mrad)の電子の強度情報を取り出すことで、ABF−STEM像(annular bright−field scanning transmission electron microscope image)を生成することができる。
【0078】
また、例えば、試料S上の各位置に1対1に対応した複数の収束電子回折図形から、高コントラストのSTEM像を生成することができる。これは、特に、高分子や生体試料のように、通常のSTEM像では低いコントラストしか得られない試料に対して有効である。
【0079】
第1実施形態に係る電子顕微鏡100は、例えば、以下の特徴を有する。
【0080】
電子顕微鏡100では、試料Sを透過した電子を偏向させる電子偏向部24を含み、制御部30は、試料Sを照射する電子線の位置走査(試料S上での照射位置の変更)に応じて、撮像装置28の検出面29における電子の入射領域2が変更されるように電子偏向部24を制御する。そのため、撮像装置28では、試料S上の各位置に1対1に対応した複数の収束電子回折図形を、1つの画像として記録することができる。したがって、試料S上の各位置に1対1に対応した複数の収束電子回折図形を記録する際に、例えば、照射位置を変更して収束電子回折図形を得るごとに記録を行う場合と比べて(すなわち照射位置を変更して1つの収束電子回折図形が検出された後、当該1つの収束電子回折図形の読み出しを行う場合と比べて)、記録時間を短縮することができる。これは、多くの画素を持つ撮像装置28を用いると、1つの収束電子回折図形ごとに読み出しをする必要がなく、複数の収束電子回折図形を一度に読み出すことが可能となるためである。
【0081】
また、電子顕微鏡100では、試料S上の各位置に1対1に対応した複数の収束電子回折図形を記録するための専用の高速カメラを搭載する必要がなく、通常のTEM像を観察するためのCMOSカメラやCCDカメラを用いて収束電子回折図形を記録することができる。
【0082】
電子顕微鏡100では、撮像装置28の検出面29における電子の入射領域2の大きさを規定するマスク22を含む。そのため、撮像装置28の検出面29において、隣り合う収束電子回折図形が重なることを防ぐことができる。
【0083】
第1実施形態に係る画像取得方法は、試料Sに照射される電子線の位置走査に応じて、撮像装置28の検出面29における電子の入射領域2が変更されるように試料Sを透過した電子を偏向する工程を含む。そのため、試料S上の各位置に1対1に対応した複数の収束電子回折図形を撮像装置28で1つの画像として記録することができ、記録時間を短縮することができる。
【0084】
1.3. 電子顕微鏡の変形例
次に、第1実施形態に係る電子顕微鏡の変形例について説明する。なお、以下では、上述した電子顕微鏡100の例と異なる点について説明し、同様の点については説明を省略する。
【0085】
(1)第1変形例
まず、第1変形例に係る電子顕微鏡について説明する。
図5は、第1変形例に係る電子顕微鏡のマスク22の機能を説明するための図である。
図6は、第1変形例に係る電子顕微鏡の撮像装置28の検出面29を模式的に示す図である。なお、
図6では、上述した
図3に示す例よりも大きい開口部23を用いた場合を図示している。
【0086】
上述した電子顕微鏡100では、
図2に示すように、マスク22は1つの開口部23を有していた。
【0087】
これに対して、第1変形例に係る電子顕微鏡では、
図5に示すように、互いに大きさ(面積)の異なる複数の開口部23を有している。
【0088】
また、第1変形例に係る電子顕微鏡は、マスク22を移動させるマスク移動機構102を有している。マスク移動機構102によってマスク22を移動させることにより、開口部23を切り替えることができる。すなわち、マスク移動機構102によって、所望の開口部23を光軸上に配置することができる。
【0089】
マスク移動機構102は、パルスモーター等でマスク22を移動させる機構であってもよいし、手動でマスク22を移動させる機構であってもよい。
【0090】
第1変形例に係る電子顕微鏡では、マスク22は互いに大きさの異なる複数の開口部23を有しており、マスク移動機構102は、マスク22を移動させることができる。上述したように、開口部23の大きさは、入射領域2の大きさに対応している。そのため、マスク移動機構102によってマスク22を移動させて開口部23を切り替えることにより、撮像装置28の検出面29における電子の入射領域2の大きさ(面積)を変更することができる。
【0091】
例えば、
図6に示す例では、
図3に示す例と比べて、面積が大きい開口部23を用いているため、入射領域2の面積が大きい。入射領域2の面積を大きくすることで、得られる収束電子回折図形の画像データのピクセル数を多くすることができ、収束電子回折図形のより詳細な解析が可能となる。
【0092】
また、例えば、入射領域2の大きさを変えることにより、検出面29上に配置できる入射領域2の数を変えることができるため、撮像装置28において1画像として記録できる収束電子回折図形の数を変えることができる。
【0093】
(2)第2変形例
次に、第2変形例に係る電子顕微鏡について説明する。
図7は、第2変形例に係る電子顕微鏡のマスク22および電子偏向部24の機能を説明するための図である。
【0094】
上述した電子顕微鏡100では、
図1に示すように、マスク22は投影レンズ20の後段に配置されていた。
【0095】
これに対して、第2変形例に係る電子顕微鏡では、
図7に示すように、マスク22は、対物レンズ14の後焦点面に配置されている。マスク22を対物レンズ14の後焦点面に配置することで、中間レンズ18および投影レンズ20の励磁を変えることよって、入射領域2の大きさ(面積)を変えることができる。
【0096】
なお、マスク22の位置は、対物レンズ14の後焦点面に限定されず、例えば、マスク22を対物レンズ14の後焦点面と共役な面に配置してもよい。この場合にも同様に、中間レンズ18および投影レンズ20の励磁を変えることよって、入射領域2の大きさを変
えることができる。
【0097】
なお、
図7に示す例では、対物レンズ14の後焦点面にマスク22を配置して、中間レンズ18および投影レンズ20を入射領域2の大きさを制御するためのレンズとして機能させたが、
図8に示すように、投影レンズ20の後段にマスク22を配置するとともに、マスク22の後段に入射領域2の大きさを制御するための光学系104を配置してもよい。光学系104は、複数の電子レンズ(図示の例では電子レンズ104a,104b)で構成されていてもよい。
【0098】
第2変形例に係る電子顕微鏡では、電子の入射領域2の大きさを制御するための光学系を含むため、入射領域2の大きさ(面積)を変更することができる。そのため、第2変形例に係る電子顕微鏡では、上述した第1変形例に係る電子顕微鏡と同様の作用効果を奏することができる。
【0099】
(3)第3変形例
次に、第3変形例に係る電子顕微鏡について説明する。
図9は、第3変形例に係る電子顕微鏡のマスク22および電子偏向部24の機能を説明するための図である。
【0100】
上述した電子顕微鏡100では、
図2に示すように、電子偏向部24は、1つの偏向器で構成されていた。
【0101】
これに対して、第3変形例に係る電子顕微鏡では、電子偏向部24は、電子顕微鏡(結像系6)の光軸に沿って配置された2段の偏向器24a,24bで構成されている。
【0102】
電子偏向部24が2段の偏向器24a,24bで構成されていることにより、
図9に示すように、マスク22を通過した電子を2回偏向することができる。これにより、電子を検出面29に対して垂直に入射させることができる。
【0103】
なお、
図2に示す例では、電子偏向部24が、2段の偏向器24a,24bで構成されている例について説明したが、電子偏向部24は、光軸に沿って配置された3段以上の偏向器で構成されていてもよい。
【0104】
第3変形例に係る電子顕微鏡では、電子偏向部24は、光軸に沿って配置された多段の偏向器で構成されているため、電子を検出面29に対して垂直に入射させることができる。したがって、撮像装置28で記録される収束電子回折図形は台形状に歪まない。よって、第3変形例に係る電子顕微鏡では、PC40において各収束電子回折図形に対して台形状の歪みを補正する処理を行わなくてもよい。
【0105】
(4)第4変形例
次に、第4変形例に係る電子顕微鏡について説明する。
図10は、第4変形例に係る電子顕微鏡200を模式的に示す図である。
【0106】
第4変形例に係る電子顕微鏡200では、
図10に示すように、電子源10から放出される電子線を遮断して、電子線が試料Sに照射されない状態をつくる電子線遮断部210を備えている。電子線遮断部210は、照射系4に組み込まれている。電子線遮断部210は、電子源10の後段(電子源10と収束レンズ12との間)に配置されている。
【0107】
図11は、電子線遮断部210の機能を説明するための図である。
【0108】
電子線遮断部210は、偏向器212と、絞り214と、を含んで構成されている。偏
向器212は、電子源10から放出された電子線を偏向する。偏向器212は、静電偏向器であってもよいし、電磁偏向器であってもよい。絞り214は、電子源10から放出された電子を通過させる絞り孔を有している。
【0109】
試料Sに電子線を照射する場合、偏向器212は、電子線が絞り214の絞り孔を通過するように電子線を偏向させる(または電子線を偏向させない)。これにより、電子源10から放出された電子線は、試料Sに照射される。
【0110】
一方、試料Sに電子線を照射しない場合、偏向器212は、電子線が絞り214で遮断されるように(電子線が絞り孔を通過しないように)、電子線を偏向させる。これにより、電子源10から放出された電子線は絞り214で遮断され、試料Sに電子線が照射されない(ブランキング)。
【0111】
制御部30は、電子偏向部24が入射領域2を変更している間に、試料Sに電子線が照射されないように電子線遮断部210を制御する。例えば、
図12に示すように、検出面29において、入射領域2aから入射領域2bに変更している間には、制御部30は、電子源10から放出される電子線が遮断されるように電子線遮断部210を制御する。制御部30は、電子線遮断部210によるブランキングを、
図4に示すピクセルクロック信号に同期させてもよい。これにより、電子偏向部24が入射領域2を変更している間に、試料Sに電子線が照射されないように電子線遮断部210を制御することができる。
【0112】
第4変形例に係る電子顕微鏡200では、制御部30は、電子偏向部24が入射領域2を変更している間に、試料Sに電子線が照射されないように電子線遮断部210を制御する。そのため、電子顕微鏡200では、電子偏向部24が入射領域2を変更している間に、撮像装置28の検出面29に電子が入射することを防ぐことができる。
【0113】
(5)第5変形例
次に、第5変形例に係る電子顕微鏡について説明する。
図13は、第5変形例に係る電子顕微鏡における入射領域2を移動させる順番を説明するための図である。
【0114】
上述した電子顕微鏡100では、制御部30は、
図3に示す矢印の順番で入射領域2を移動させていた。
【0115】
これに対して、第5変形例に係る電子顕微鏡では、制御部30は、入射領域2を
図13に示す矢印の順番で移動させる。
【0116】
図13に示すように、制御部30は、撮像装置28において1画像として記録される複数の収束電子回折図形のうち、最初に検出される収束電子回折図形と最後に検出される収束電子回折図形とが隣り合うように、電子偏向部24を制御する。
【0117】
なお、最初に検出される収束電子回折図形と最後に検出される収束電子回折図形とが隣り合う場合とは、最初に検出される収束電子回折図形と最後に検出される収束電子回折図形との間に他の収束電子回折図形がない場合をいう。
【0118】
最初に検出される収束電子回折図形と最後に検出される収束電子回折図形とが隣り合うように電子偏向部24を制御することにより、複数の収束電子回折図形を1画像として記録する処理を繰り返し行う場合に、記録時間を短縮することができる。
【0119】
例えば、
図3に示す例では、最初に検出される収束電子回折図形と最後に検出される収束電子回折図形とが隣り合っていないため、複数の収束電子回折図形を1画像として記録
する処理を繰り返し行う場合に、入射領域2を終了位置Bから初期位置Aに戻すために時間がかかってしまう。これに対して、
図13に示す例では、最初に検出される収束電子回折図形と最後に検出される収束電子回折図形とが隣り合っているため、複数の収束電子回折図形を1画像として記録する処理を繰り返し行う場合に、入射領域2を終了位置Bから初期位置Aに戻すための時間を短縮できる。したがって、記録時間を短縮することができる。
【0120】
制御部30は、
図13に示すように、入射領域2を初期位置Aから−X軸方向に移動させて−X軸方向の端まで移動させた後、+Y軸方向に移動させる。そして、次に、入射領域2を−X軸方向の端から+X軸方向に移動させる。すなわち、制御部30は、入射領域2を+X軸方向に移動させた後、Y軸方向に移動させた場合、次に入射領域2を−X軸方向(逆方向)に移動させる。同様に、入射領域2を−X軸方向に移動させた後、Y軸方向に移動させた場合、次に入射領域2を+X軸方向に移動させる。すなわち、制御部30は、入射領域2を、X軸方向に往復させながらY軸方向に移動させる。これにより、例えば、
図3に示すようにX軸に沿って一方向に移動させながらY軸方向に移動させる場合と比べて、入射領域2の移動距離を短くできる。
【0121】
図示の例では、制御部30は、入射領域2を、X軸方向に往復させながら+Y軸方向に移動させた後、X軸方向に往復させながら−Y軸方向に移動させている。これにより、最初に検出される収束電子回折図形と最後に検出される収束電子回折図形とを隣り合わせることができ、かつ、入射領域2の移動距離を短くできる。
【0122】
第5変形例に係る電子顕微鏡では、制御部30は、撮像装置28において1画像として記録される複数の収束電子回折図形のうち、最初に検出される収束電子回折図形と最後に検出される収束電子回折図形とが隣り合うように、電子偏向部24を制御する。そのため、第5変形例に係る電子顕微鏡では、複数の収束電子回折図形を1画像として記録する処理を繰り返し行う場合に、入射領域2を終了位置Bから初期位置Aに戻すための時間を短縮できる。したがって、複数の収束電子回折図形を1画像として記録する処理を繰り返し行う場合に、記録時間を短縮することができる。
【0123】
(6)第6変形例
次に、第6変形例に係る電子顕微鏡について説明する。
図14は、第6変形例に係る電子顕微鏡における撮像装置28の検出面29を模式的に示す図である。
【0124】
上述した電子顕微鏡100では、
図3に示すように、撮像装置28は1つの検出面29を有し、1つの検出面29で検出された複数の収束電子回折図形を1画像として記録した。
【0125】
これに対して、第6変形例に係る電子顕微鏡では、撮像装置28の検出面29は、複数の検出領域29a,29bに分割されており、撮像装置28は、検出領域29a,29bごとに、検出された複数の収束電子回折図形を1画像として記録する。そのため、2つの検出領域29a,29bにおいて読み出しを交互に行うことが可能であり、一方の検出領域29aで検出を行っている間に、他方の検出領域29bでは読み出しを行うことができる。
【0126】
本変形例では、撮像装置28の検出面29は、第1検出領域29aと、第2検出領域29bと、に分割されている。第1検出領域29aでは、複数の収束電子回折図形が検出され、この複数の収束電子回折図形が1画像として記録される。同様に、第2検出領域29bでは、複数の収束電子回折図形が検出され、この複数の収束電子回折図形が1画像として記録される。
【0127】
撮像装置28では、第1検出領域29aにおいて収束電子回折図形の検出を行っている間に、第2検出領域29bにおいて収束電子回折図形の読み出しを行うことができる。また、撮像装置28では、第2検出領域29bにおいて収束電子回折図形の検出を行っている間に、第1検出領域29aにおいて収束電子回折図形の読み出しを行うことができる。
【0128】
なお、ここでは、撮像装置28の検出面29を2つに分割する例について説明したが、分割数は特に限定されず、検出面29を3つ以上に分割してもよい。
【0129】
第6変形例に係る電子顕微鏡では、撮像装置28の検出面29は、複数の検出領域に分割されており、撮像装置28は、検出領域29a,29bごとに、検出された複数の収束回折図形を1画像として記録する。そのため、上述したように、1つの検出領域29aで収束電子回折図形の検出を行っている間に他の検出領域29bでは収束電子回折図形の読み出しを行うことができるため、記録時間を短縮することができる。
【0130】
2. 第2実施形態
2.1. 電子顕微鏡の構成
次に、第2実施形態に係る電子顕微鏡について図面を参照しながら説明する。
図15は、第2実施形態に係る電子顕微鏡300を模式的に示す図である。以下、第2実施形態に係る電子顕微鏡において、第1実施形態に係る電子顕微鏡100の構成部材と同様の機能を有する部材については同一の符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0131】
上述した電子顕微鏡100では、試料Sに照射する電子線を位置走査して、試料S上の各位置に1対1に対応した複数の収束電子回折図形を取得した。
【0132】
これに対して、電子顕微鏡300では、試料Sに照射する電子線を角度走査して、試料Sに対する電子線の各入射角度に1対1に対応した複数の透過画像(試料Sの透過像)を取得する。なお、電子線の角度走査とは、試料Sに対する電子線の入射角度を変えることをいう。
【0133】
電子顕微鏡300では、
図15に示すように、試料Sを照射する電子線を角度走査するための偏向器302(角度走査部の一例)を含んで構成されている。偏向器302は、電子顕微鏡300の照射系4に組み込まれている。偏向器302は、試料Sに照射される電子線を偏向する。偏向器302は、静電偏向器であってもよいし、電磁偏向器であってもよい。
【0134】
2.2. 電子顕微鏡の動作
次に、電子顕微鏡300の動作について説明する。以下では、電子顕微鏡300において、電子線の試料Sに対する各入射角度に1対1に対応した複数の透過画像を取得する処理について説明する。
【0135】
図16は、電子顕微鏡300の動作を説明するための図である。なお、
図16では、マスク22、電子偏向部24、および撮像装置28以外の部材の図示を省略している。
【0136】
電子顕微鏡300では、電子源10から放出された電子線は、収束レンズ12で平行化されて平行ビーム(または略平行ビーム)として試料Sに照射される。そして、試料Sを透過した電子は、対物レンズ14、中間レンズ18および投影レンズ20を介して、撮像装置28の検出面29で検出される。
【0137】
ここで、試料Sを透過した電子は、対物レンズ14の像面において透過像を形成する。
この対物レンズ14の像面に形成された透過像は、中間レンズ18、および投影レンズ20で拡大されて撮像装置28の検出面29上に結像される。そのため、撮像装置28において、透過画像を記録することができる。
【0138】
電子顕微鏡300では、試料S上における電子線の照射位置を固定したまま、偏向器302で電子線を角度走査して、電子線の試料Sに対する各入射角度に1対1に対応した複数の透過画像を記録する。
【0139】
電子顕微鏡300では、制御部30が試料Sに照射される電子線の角度走査に応じて、撮像装置28の検出面29における電子の入射領域2が変更されるように電子偏向部24を制御する。これにより、撮像装置28において、電子線の試料Sに対する各入射角度に1対1に対応した複数の透過画像を1画像として記録することができるため、記録時間を短縮することができる。
【0140】
具体的には、
図16に示すように、マスク22を通過した電子は、電子偏向部24で偏向される。制御部30は、試料Sに照射される電子線の角度走査に応じて(すなわち電子線の試料Sに対する入射角度の変更に応じて)、検出面29における電子の入射領域2が変更されるように電子偏向部24を制御する。この結果、マスク22を通過した電子は、電子線の入射角度に応じて互いに異なる入射領域2に入射し、各入射領域2において入射角度に対応する強度を持った透過画像が形成される。これにより、撮像装置28の検出面29において、複数の透過画像が検出される。
【0141】
撮像装置28は、検出面29で検出された複数の透過画像を、1画像として記録する。すなわち、撮像装置28は、検出面29で検出された複数の透過画像を、一度に読み出す。
【0142】
撮像装置28で記録された複数の透過画像を含む画像の画像データは、制御部30を介してPC40に送られる。PC40では、画像データから複数の透過画像を取得し、取得された透過画像を、電子線の入射角度に1対1に対応させる。これにより、試料Sに対する電子線の各入射角度に1対1に対応した複数の透過画像を取得することができる。
【0143】
PC40は、試料Sに対する電子線の各入射角度に1対1に対応した複数の透過画像の強度から、ロッキングパターン(電子チャネリングパターン)を生成する。具体的には、対物レンズ絞りによりダイレクトスポットを選択した後、複数の透過画像から、対物レンズ絞りで選択された位置の強度の角度分布の情報を得ることで、明視野のロッキングパターンを生成することができる。また、電子回折から対物レンズ絞りにより所望の回折スポット(回折波に対応するスポット)を選択した後、複数の画像から、対物レンズ絞りで選択された位置の強度の角度分布の情報を得ることで暗視野のロッキングパターンを生成することができる。このように、本実施形態では、1回の測定で試料のロッキングパターンを2次元的に捕らえることができる。
【0144】
第2実施形態に係る電子顕微鏡300では、試料Sを透過した電子を偏向させる電子偏向部24を含み、制御部30は、試料Sを照射する電子線の角度走査に応じて、撮像装置28の検出面29における電子の入射領域2が変更されるように電子偏向部24を制御する。そのため、撮像装置28では、電子線の試料Sに対する各入射角度に1対1に対応した複数の透過画像を、1つの画像として記録することができる。したがって、試料Sに対する電子線の各入射角度に1対1に対応した複数の透過画像を記録する際に、例えば、入射角度を変更して透過画像を得るごとに記録を行う場合と比べて、記録時間を短縮することができる。
【0145】
第2実施形態に係る画像取得方法は、試料Sに照射される電子線の角度走査に応じて、撮像装置28の検出面29における電子の入射領域2が変更されるように試料Sを透過した電子を偏向する工程を含む。そのため、電子線の試料Sに対する各入射角度に1対1に対応した複数の透過画像を、撮像装置28で1つの画像として記録することができ、記録時間を短縮することができる。
【0146】
なお、第2実施形態においても、上述した第1実施形態の各変形例を適用できる。
【0147】
3. その他
なお、本発明は上述した実施形態に限定されず、本発明の要旨の範囲内で種々の変形実施が可能である。
【0148】
例えば、上述した第1実施形態では、電子線の位置走査に応じて、撮像装置28の検出面29における電子の入射領域2が変更されるように電子偏向部24を制御した。すなわち、第1実施形態では、電子顕微鏡100の照射系4における照射条件の変更として、試料Sを照射する電子線の試料S上での照射位置を変更した。
【0149】
また、上述した第2実施形態では、電子線の角度走査に応じて、撮像装置28の検出面29における電子の入射領域2が変更されるように電子偏向部24を制御した。すなわち、第2実施形態では、電子顕微鏡300の照射系4における照射条件の変更として、試料Sを照射する電子線の試料Sに対する入射角度を変更した。
【0150】
なお、本発明において、電子線の照射条件の変更は、照射位置の変更、および入射角度の変更に限定されず、照射系4に組み込まれる様々な光学素子の条件の変更であってもよい。すなわち、本発明に係る電子顕微鏡では、照射系4における照射条件の変更に応じて得られる複数の像(回折図形)を、制御部30が照射系4における照射条件の変更に応じて、撮像装置28の検出面29における電子の入射領域2が変更されるように電子偏向部24を制御する。これにより、複数の像(回折図形)を記録するための記録時間を短縮することができる。
【0151】
また、上述した第1実施形態では、制御部30は、
図3に示す矢印の順番で入射領域2を移動させており、また、第5変形例に係る電子顕微鏡では、制御部30は、
図13に示す矢印の順番で入射領域2を移動させたが、本発明において、入射領域2を移動させる順番はこれらの例に限定されない。
【0152】
例えば、
図17に示すように、撮像装置28の検出面29を2つの検出領域29a,29bに分割した場合に、制御部30は、撮像装置28において第1検出領域29aにおいて最後に検出される収束電子回折図形と、第2検出領域29bにおいて最初に検出される収束電子回折図形とが隣り合うように、電子偏向部24を制御してもよい。これにより、入射領域2を第1検出領域29aの終了位置B1から第2検出領域29bの初期位置A2に移動させるための時間を短縮できる。
【0153】
また、制御部30は、撮像装置28において第2検出領域29bにおいて最後に検出される収束電子回折図形と、第1検出領域29aにおいて最初に検出される収束電子回折図形とが隣り合うように、電子偏向部24を制御してもよい。これにより、入射領域2を第2検出領域29bの終了位置B2から第1検出領域29aの初期位置A1に移動させるための時間を短縮できる。
【0154】
制御部30は、
図17に示すように、検出領域29a,29bにおいて入射領域2を偶数行偶数列に配列する場合には、
図17に示す矢印の順番で入射領域2を移動させてもよ
い。また、例えば、
図18に示すように、検出領域29a,29bにおいて入射領域2を、奇数行偶数列に配列する場合には、
図18に示す矢印の順番で入射領域2を移動させてもよい。
【0155】
また、例えば、
図19に示すように、検出領域29a,29bにおいて入射領域2を奇数行奇数列に配列する場合には、
図19に示す矢印の順番で入射領域2を移動させてもよい。また、例えば、
図20に示すように、検出領域29a,29bにおいて入射領域2を偶数行奇数列に配列する場合には、
図20に示す矢印の順番で入射領域2を移動させてもよい。
【0156】
図18〜
図19に示す例においても、入射領域2を第2検出領域29bの終了位置B2から第1検出領域29aの初期位置A1に移動させるための時間を短縮でき、かつ、入射領域2を第2検出領域29bの終了位置B2から第1検出領域29aの初期位置A1に移動させるための時間を短縮できる。
【0157】
上記の例では、撮像装置28の検出面29の分割数が2個の場合を示したが、分割数が4個の場合でも同様に入射領域2を移動させることができる。
【0158】
このような電子顕微鏡によれば、一方の検出領域29aで像の検出を行っている間に、他方の検出領域29bでは像の読み出しを行うことができるため、各検出領域29a,29bで複数の像を1画像として記録する処理を繰り返し行う場合に、各検出領域29aにおいて最後に検出される像が形成される入射領域2の位置から、最初に検出される像が形成される入射領域2の位置に、入射領域2を戻すための時間を短縮できる。したがって、入射領域2を一方の検出領域から他方の検出領域に移動させる距離を短くできるため、記録時間を短縮することができる。
【0159】
なお、上述した実施形態及び変形例は一例であって、これらに限定されるわけではない。例えば各実施形態及び各変形例は、適宜組み合わせることが可能である。
【0160】
本発明は、実施の形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法および結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。