特許第6702830号(P6702830)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6702830
(24)【登録日】2020年5月11日
(45)【発行日】2020年6月3日
(54)【発明の名称】圧粉磁心、及びコイル部品
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/22 20060101AFI20200525BHJP
   H01F 1/24 20060101ALI20200525BHJP
   H01F 27/255 20060101ALI20200525BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20200525BHJP
   B22F 1/00 20060101ALI20200525BHJP
   B22F 1/02 20060101ALI20200525BHJP
   B22F 3/00 20060101ALI20200525BHJP
【FI】
   H01F1/22
   H01F1/24
   H01F27/255
   C22C38/00 303S
   B22F1/00 Y
   B22F1/02 E
   B22F3/00 B
   B22F1/02 C
【請求項の数】8
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2016-175870(P2016-175870)
(22)【出願日】2016年9月8日
(65)【公開番号】特開2017-69550(P2017-69550A)
(43)【公開日】2017年4月6日
【審査請求日】2019年3月22日
(31)【優先権主張番号】特願2015-189981(P2015-189981)
(32)【優先日】2015年9月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】593016411
【氏名又は名称】住友電工焼結合金株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100147
【弁理士】
【氏名又は名称】山野 宏
(72)【発明者】
【氏名】渡▲辺▼ 麻子
(72)【発明者】
【氏名】上野 友之
【審査官】 鈴木 孝章
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−238842(JP,A)
【文献】 特開2012−212856(JP,A)
【文献】 特開2013−098210(JP,A)
【文献】 特開2009−059954(JP,A)
【文献】 特開2010−209469(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/22
H01F 1/147
H01F 1/24
H01F 27/255
B22F 1/00
B22F 1/02
B22F 3/00
C22C 38/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟磁性粉末を有する圧粉磁心であって、
絶縁被覆を備えていない純鉄からなる裸鉄粉と、
絶縁性を有し、かつ融点が120℃以上である粉末状の潤滑剤と、を備え、
前記軟磁性粉末における前記裸鉄粉の含有量が45質量%超であり、
前記圧粉磁心における前記潤滑剤の含有量が0.05質量%以上0.5質量%以下であり、
前記潤滑剤の平均粒径が1μm以上50μm以下であり、
前記潤滑剤は、前記裸鉄粉を構成する鉄粒子同士の間に点状で存在する圧粉磁心。
【請求項2】
前記圧粉磁心は、長尺片を有し、
前記長尺片の横断面又は縦断面において、前記裸鉄粉は、短径及び長径を有する扁平形状であり、その短径方向を圧縮方向とするとき、
前記長尺片は、その長手方向及び前記圧縮方向の双方に直交する方向の長さが前記裸鉄粉の平均粒径の80倍以下である細幅部を有する請求項1に記載の圧粉磁心。
【請求項3】
前記潤滑剤は、ステアリン酸金属塩を含む請求項1又は請求項2に記載の圧粉磁心。
【請求項4】
前記裸鉄粉は、
平均粒径が40μm以上100μm以下であり、
前記裸鉄粉を構成する鉄粒子のうち粒径が200μm以上の粒子の割合が10質量%以下である請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の圧粉磁心。
【請求項5】
更に、絶縁被覆を備える被覆鉄粉を備え、
前記軟磁性粉末における前記被覆鉄粉の含有量が30質量%以上55質量%未満である請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の圧粉磁心。
【請求項6】
前記裸鉄粉は、酸素の含有量が0.1質量%未満であり、リン、クロム、マンガン、ニッケル、及び銅の合計含有量が0.2質量%未満である請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の圧粉磁心。
【請求項7】
コイルと、磁性コアと、を備えるコイル部品であって、
前記磁性コアの少なくとも一部に請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の圧粉磁心を備えるコイル部品。
【請求項8】
前記圧粉磁心は、長尺片を有し、
前記長尺片の横断面において、前記裸鉄粉は、短径及び長径を有する扁平形状であり、
前記長尺片は、その長手方向が前記コイルの励磁に伴う磁束方向に沿った方向となるように配置されている請求項7に記載のコイル部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧粉磁心、及びコイル部品に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、絶縁被覆を備える被覆鉄粉を主体とし、極僅かな脂肪族系潤滑剤を含有する圧粉磁心が開示されている。この圧粉磁心は、被覆鉄粉と脂肪族系潤滑剤との混合粉末を加圧圧縮した後、脱型した圧縮成形体を熱処理することで得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015−70077号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
コイル部品などに利用される圧粉磁心に対して、低コスト化が望まれている。圧粉磁心の低コスト化の観点から、圧粉磁心の構成材料である被覆鉄粉の使用量を削減し、被覆鉄粉の代わりに絶縁被覆を備えていない安価な裸鉄粉を用いることが望まれている。
【0005】
従来の圧粉磁心は、特許文献1に記載のように、被覆鉄粉を用いることで、絶縁被覆によって圧粉磁心の電気抵抗を高めて、渦電流損失といったコアロスを低減している。被覆鉄粉の代わりに裸鉄粉を用いると、裸鉄粉を構成する各々の鉄粒子同士が結合して大きな導通部分が生じて渦電流の増大を招き易く、コアロスが増大する虞がある。特に、圧粉磁心は、構成する鉄粉の大きさが大きいほど透磁率が向上するが、裸鉄粉の大きさが大きいと更にコアロスの増大を招き易い。
【0006】
そこで、高価な材料の使用量を削減でき、かつ必要な磁気特性を有する圧粉磁心を提供することを目的の一つとする。また、高価な材料の使用量を削減でき、かつ必要な磁気特性を有する圧粉磁心を備えるコイル部品を提供することを別の目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示に係る圧粉磁心は、
軟磁性粉末を有する圧粉磁心であって、
絶縁被覆を備えていない裸鉄粉と、
融点が120℃以上である粉末状の潤滑剤と、を備え、
前記軟磁性粉末における前記裸鉄粉の含有量が45質量%超であり、
前記圧粉磁心における前記潤滑剤の含有量が0.05質量%以上0.5質量%以下である。
【0008】
本開示に係るコイル部品は、
コイルと、磁性コアと、を備えるコイル部品であって、
前記磁性コアの少なくとも一部に上記本開示に係る圧粉磁心を備える。
【発明の効果】
【0009】
上記の圧粉磁心及び上記のコイル部品は、高価な材料の使用量を削減でき、かつ必要な磁気特性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施形態の圧粉磁心の組織を模式的に示す説明図である。
図2】実施形態の圧粉磁心を模式的に示す説明図である。
図3】実施形態1のコイル部品を示す概略構成図である。
図4】実施形態2のコイル部品を示す概略構成図である。
図5】実施形態3のコイル部品を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[本発明の実施形態の説明]
本発明者らは、高価な材料の使用量を削減でき、かつ必要な磁気特性を有する圧粉磁心を製造するにあたり、絶縁被覆を備えていない裸鉄粉を用いて種々検討を行った。その結果、高融点の粉末状の潤滑剤を添加することで、裸鉄粉の含有量が多くても、裸鉄粉間に潤滑剤が介在されることになり、コアロスの増大が抑制され、かつ良好な磁気特性を有する圧粉磁心が得られる、との知見を得た。最初に本発明の実施形態の内容を列記して説明する。
【0012】
(1)本発明の実施形態に係る圧粉磁心は、
軟磁性粉末を有する圧粉磁心であって、
絶縁被覆を備えていない裸鉄粉と、
融点が120℃以上である粉末状の潤滑剤と、を備え、
前記軟磁性粉末における前記裸鉄粉の含有量が45質量%超であり、
前記圧粉磁心における前記潤滑剤の含有量が0.05質量%以上0.5質量%以下である。
【0013】
上記の圧粉磁心は、裸鉄粉が軟磁性粉末中に45質量%超も含有されており、この裸鉄粉の含有量の分だけ、絶縁被覆を備える被覆鉄粉の使用量を削減できる。裸鉄粉は被覆鉄粉に比較して安価であるため、裸鉄粉の含有量が45質量%超である上記の圧粉磁心は、経済性に優れる。上記の圧粉磁心は、融点が120℃以上である粉末状の潤滑剤が特定の含有量で添加されていることで、この潤滑剤が裸鉄粉間で絶縁材の役割を果たし、裸鉄粉を構成する鉄粒子同士が結合して導通部分が生じることによる渦電流の増大を抑制でき、コアロスの増大を抑制できる。潤滑剤の融点が120℃以上の高融点であることで、圧粉磁心の製造条件や使用条件における高温においても、潤滑剤が溶解し液体化することを抑制でき、裸鉄粉間を安定して絶縁することができる。また、潤滑剤が粉末状であることで、鉄粒子同士の間に点状で絶縁材が存在することになり、被覆鉄粉のように鉄粒子同士の間に膜状で絶縁材が存在する場合に比較して磁束が通り易く、良好な透磁率を確保することができる。
【0014】
(2)上記の圧粉磁心の一例として、
前記圧粉磁心は、長尺片を有し、
前記長尺片の横断面又は縦断面において、前記裸鉄粉は、短径及び長径を有する扁平形状であり、その短径方向を圧縮方向とするとき、
前記長尺片は、その長手方向及び前記圧縮方向の双方に直交する方向の長さが前記裸鉄粉の平均粒径の80倍以下である細幅部を有する形態が挙げられる。
【0015】
圧粉磁心の圧縮方向を判別する指標の一つとして、圧粉磁心の断面において、その断面に存在する裸鉄粉(鉄粒子)の伸び方向を見ること、が挙げられる。圧粉磁心は、原料粉末を加圧圧縮することから、原料粉末を構成する各鉄粒子は圧縮方向に押し潰されて(塑性変形して)、代表的には、圧縮方向と直交する方向に伸びた形状になる。つまり、裸鉄粉が短径及び長径を有する扁平形状である場合、短径方向が圧縮方向であると予想できる。そうすると、長尺片の長手方向及び圧縮方向の双方に直交する方向は、裸鉄粉が伸びた長径方向となる。上記の圧粉磁心は、長尺片が、その長手方向及び圧縮方向の双方に直交する方向の長さが裸鉄粉の平均粒径の80倍以下の細幅部を有する。
【0016】
上記の形状及び寸法の圧粉磁心は、以下の二つの理由により、コアロスの増大を更に抑制し易い。一つ目は、裸鉄粉の短径方向は、各鉄粒子同士の粒界が多くなる傾向にあり、この鉄粒子間に潤滑剤が介在されるため、渦電流が流れ難い。二つ目は、裸鉄粉の長径方向は、各鉄粒子同士の粒界が少なくなる傾向にあり、渦電流が流れ易いが、長尺片の長手方向を磁束方向とした場合には、長尺片の長手方向以外における裸鉄粉の長径方向に沿った長尺片(圧粉磁心)の長さが小さいため、渦電流が流れる長さが小さくなる。以上より、上記の圧粉磁心は、裸鉄粉の長径方向に沿った長さを調整することによって、コアロスの増大を抑制し易い。
【0017】
(3)上記の圧粉磁心の一例として、
前記潤滑剤は、ステアリン酸金属塩を含む形態が挙げられる。
【0018】
融点が120℃以上である潤滑剤として、ステアリン酸金属塩を好適に利用することができる。潤滑剤としてステアリン酸金属塩を含むことで、金型からの脱型時に、成形体と金型との擦れ合い(摩擦)などを低減することができ、脱型性に優れる。
【0019】
(4)上記の圧粉磁心の一例として、
前記裸鉄粉は、平均粒径が40μm以上100μm以下であり、
前記裸鉄粉の構成粒子のうち粒径が200μm以上の粒子の割合が10質量%以下である形態が挙げられる。
【0020】
裸鉄粉は、平均粒径が100μm以下であり、かつ構成粒子(鉄粒子)の粒径が200μm以上の粒子の割合が10質量%以下であることで、鉄粒子同士が結合したとしても大きな導通部分が生じることによる渦電流の増大を抑制し易く、コアロスの増大を抑制し易い。一方、裸鉄粉の平均粒径が40μm以上であることで、製造過程で裸鉄粉を取り扱い易く、圧縮性にも優れる。
【0021】
(5)上記の圧粉磁心の一例として、
更に、絶縁被覆を備える被覆鉄粉を備え、
前記軟磁性粉末における前記被覆鉄粉の含有量が30質量%以上55質量%未満である形態が挙げられる。
【0022】
圧粉磁心が被覆鉄粉を備えることで、裸鉄粉間に被覆鉄粉が存在することになる。よって、裸鉄粉の構成粒子の周囲に被覆鉄粉の絶縁被覆が存在することで、裸鉄粉の構成粒子同士が接触することを抑制し易く、渦電流の増大を抑制でき、コアロスの増大を抑制し易い。軟磁性粉末中の被覆鉄粉の含有量が30質量%以上であることで、絶縁被覆の介在によって絶縁性により優れて、コアロスの増大を抑制し易い。一方、軟磁性粉末中の被覆鉄粉の含有量が55質量%以下であることで、裸鉄粉の含有量を相対的に多くでき、高価な被覆鉄粉の含有量を削減できる。
【0023】
(6)上記の圧粉磁心の一例として、
前記裸鉄粉は、酸素の含有量が0.1質量%未満であり、リン、クロム、マンガン、ニッケル、及び銅の合計含有量が0.2質量%未満である形態が挙げられる。
【0024】
裸鉄粉は、酸素の含有量が0.1質量%未満(0質量%を含む)であり、かつリン、クロム、マンガン、ニッケル、及び銅の合計含有量が0.2質量%未満(0質量%を含む)であると、裸鉄粉内部の不純物が少ないため、ヒステリシス損を低減できる。特に、圧粉磁心の製造過程で圧縮後に熱処理を行わない場合、不純物が少ない裸鉄粉を用いることで、効果的にヒステリシス損を低減できる。更に、不純物が少ない裸鉄粉は変形性に優れるため、裸鉄粉間を隙間なく埋めることで、優れた透磁率の圧粉磁心を得ることができる。
【0025】
(7)本発明の実施形態に係るコイル部品は、
コイルと、磁性コアと、を備えるコイル部品であって、
前記磁性コアの少なくとも一部に上記(1)から(6)のいずれか1つに記載の圧粉磁心を備える。
【0026】
上記のコイル部品は、高価な被覆鉄粉の使用量を削減でき、かつコアロスの増大を抑制でき、良好な透磁率を有する。
【0027】
(8)上記のコイル部品の一例として、
前記圧粉磁心は、長尺片を有し、
前記長尺片の横断面において、前記裸鉄粉は、短径及び長径を有する扁平形状であり、
前記長尺片は、その長手方向が前記コイルの励磁に伴う磁束方向に沿った方向となるように配置されている形態が挙げられる。
【0028】
圧粉磁心の圧縮方向によっては、圧粉磁心をその長手方向が磁束に沿った方向となるように配置することで、良好な透磁率を確保し易い。圧粉磁心の横断面において裸鉄粉が短径及び長径を有する扁平形状であるということは、圧粉磁心の長手方向に裸鉄粉の長径が沿うということになる。裸鉄粉の長径方向は、裸鉄粉の構成粒子(鉄粒子)同士の粒界が少なくなることで、磁束が通り易いため、圧粉磁心の長手方向に裸鉄粉の長径が沿うことで、良好な透磁率を確保できることになる。
【0029】
[本発明の実施形態の詳細]
本発明の実施形態の詳細を、以下に説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。図中の同一符号は、同一名称物を示す。
【0030】
〔圧粉磁心〕
実施形態の圧粉磁心1は、軟磁性粉末を有する成形体であり、図1に示すように絶縁被覆を備えていない鉄粒子から構成される裸鉄粉20を比較的多量に含有する。圧粉磁心1は、更に潤滑剤30を備える。また、圧粉磁心1は、鉄粒子12の外周が絶縁被覆14で覆われた被覆鉄粒子から構成される被覆鉄粉10を備える。圧粉磁心1は、代表的には、原料粉末Pが圧縮成形されて、各粉末10,20を構成する各粉末粒子が塑性変形して潤滑剤30を介して相互に噛み合うなどして、形状が保持される。以下、各構成を詳細に説明する。
【0031】
・裸鉄粉(鉄粒子)
・・組成
実施形態の圧粉磁心1は、磁性成分を純鉄とすることを特徴の一つとする。鉄粒子を純鉄とすることで、圧粉磁心1は、透磁率や飽和磁束密度が高い。また、鉄粒子を純鉄とすることで、圧粉磁心1は、原料粉末Pの塑性変形性に優れて成形し易く製造性にも優れる、緻密化し易く磁気特性(特に透磁率)を高め易い、粉末粒子同士が潤滑剤30を介して十分に噛み合って機械的強度に優れる、という効果を奏する。更に、鉄粒子を純鉄とすることで、鉄合金と比較して安価であり、経済性にも優れる。実施形態の圧粉磁心1は、必須成分である裸鉄粉20、及び任意成分である被覆鉄粉10の鉄粒子12のいずれも純鉄とする。
【0032】
裸鉄粉20は、不純物量が少ないことを特徴の一つとする。裸鉄粉20の鉄粒子を構成する純鉄は、99質量%以上がFeであり、残部は不可避不純物とする。純鉄中の不可避不純物が少ないほど、ヒステリシス損を低減できる。裸鉄粉20は、酸素(O)の含有量が0.1質量%未満であり、かつリン(P)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)の合計含有量が0.2質量%未満であることが好ましい。この範囲であれば、不純物の含有に起因するヒステリシス損を低減し易く、透磁率を向上し易い。上記元素の含有量は少ないほど好ましく、Oの含有量は、0.08質量%以下、更に0.07質量%以下、特に0.06質量%以下であることが好ましい。P,Cr,Mn,Ni,Cuの合計含有量は、0.18質量%以下、更に0.17質量%以下、特に0.16質量%以下であることが好ましい。
【0033】
不純物の含有量は、例えば、高周波誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析の他、熱分析や赤外線分光分析などを行って、総合的に判断することが挙げられる。これらの分析は、裸鉄粉20のみを対象として行う。圧粉磁心1に被覆鉄粉10を含む場合でも、圧粉磁心の製造過程で成形工程の後に熱処理を行わないため、圧粉磁心1を粉砕して裸鉄粉20と被覆鉄粉10とを取り出すことは容易であり、例えば、電子顕微鏡を用いて取り出した粉末の表面にエネルギー分散型X線分光法(EDX)を行い、被覆の有無を調べることで、裸鉄粉20を判別することができる。
【0034】
圧粉磁心1における裸鉄粉20の組成、被覆鉄粉10の組成、潤滑剤30の組成は、製造過程で圧縮後に熱処理を行わないことで、原料粉末P(被覆鉄粉100、裸鉄粉200、潤滑剤300)の組成を実質的に維持する。
【0035】
・・含有量
軟磁性粉末における裸鉄粉20の含有量は、45質量%超であることを特徴の一つとする。裸鉄粉20の含有量が45質量%超であることで、相対的に後述する被覆鉄粉10の使用量を削減できる。裸鉄粉20の含有量が多いほど、相対的に被覆鉄粉10の使用量をより削減でき、低コスト化を実現できる。軟磁性粉末における裸鉄粉20の含有量は、50質量%以上、更に60質量%以上、65質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、特に100質量%とすることができる。ただ、裸鉄粉20の含有量が多くなるほど、裸鉄粉20を構成する鉄粒子同士の結合による渦電流損(コアロス)が増加し易い。よって、鉄粒子同士の絶縁の確保が重要となる(詳細は後述する)。裸鉄粉20の含有量が100質量%未満の場合、軟磁性粉末の残部は、後述する被覆鉄粉10である。圧粉磁心1の軟磁性粉末の質量は、圧粉磁心1の質量から後述する潤滑剤30の質量(その他の添加材を含む場合には潤滑剤及び添加材の合計質量)を除した値とする。
【0036】
・・大きさ
裸鉄粉20は、比較的小さい鉄粒子を含むことを特徴の一つとする。具体的には、裸鉄粉20の平均粒径は、40μm以上100μm以下であることが好ましい。裸鉄粉20の平均粒径が100μm以下であることで、鉄粒子同士が結合したとしても大きな導通部分が生じることによる渦電流の増大を抑制でき、コアロスの増大を抑制できる。また、裸鉄粉20間に後述する潤滑剤30が介在し易く、潤滑剤30によって絶縁性を高めることができることからも、コアロスの増大を抑制できる。裸鉄粉20の平均粒径は、95μm以下、更に90μm以下、特に85μm以下とすることができる。
【0037】
裸鉄粉20の平均粒径は、40μm以上であることで、製造過程で裸鉄粉200を取り扱い易く、流動性に優れる上に変形性に優れる。そのため、変形によって強度を高め易い上に、製造性にも優れる。また、圧縮性に優れるため、圧粉磁心1の密度を高め易く、透磁率などの磁気特性にも優れる。裸鉄粉20の平均粒径は、50μm以上、更に60μm以上、特に70μm以上とすることができる。
【0038】
裸鉄粉20は、大き過ぎる粉末粒子が少ないことが好ましい。具体的には、裸鉄粉20を100質量%として、粒径が200μm以上である裸鉄粉20を構成する鉄粒子の割合が10質量%以下であることが好ましい。更に、裸鉄粉20のうち、粒径が180μm以上である鉄粒子の割合が10質量%以下、特に、粒径が150μm以上である鉄粒子の割合が10質量%以下であることが好ましい。上記の大き過ぎる鉄粒子が少ない圧粉磁心1は、粗大粒の存在に伴う渦電流の増大を抑制でき、コアロスの増大を抑制できる。この点から、圧粉磁心1における裸鉄粉20のうち、粒径が200μm以上(好ましくは180μm以上、150μm以上)である鉄粒子の割合は、5質量%以下、更に3質量%以下、2質量%以下、1質量%以下、特に実質的に存在しないことが好ましい。なお、上記の大き過ぎる粉末粒子が少ない圧粉磁心1は、代表的には、粒径が200μm以上(好ましくは180μm以上、150μm以上)の鉄粒子が少ない裸鉄粉200を原料粉末Pに用いることで製造できる。このような裸鉄粉200は、粒度分布の幅が狭くなるため、製造過程で金型内における裸鉄粉200の移動や原料粉末Pの圧縮を均一的に行い易い。
【0039】
・潤滑剤
実施形態の圧粉磁心1は、高融点の粉末状の潤滑剤30を含むことを特徴の一つとする。圧粉磁心1における潤滑剤30は、主として、上述した裸鉄粉20間に介在することで、裸鉄粉20を構成する鉄粒子同士を絶縁する絶縁材(例えば、体積固有抵抗が1kΩ・cm以上)として機能する。また、製造過程における原料粉末Pを構成する粉末粒子同士の擦れ合い、脱型時の成形体と金型との擦れ合い(摩擦)などを低減する機能も有する。
【0040】
・・組成
潤滑剤30は、融点が120℃以上であることを特徴の一つとする。潤滑剤30が、融点120℃以上と高融点であることで、圧粉磁心1の製造条件や使用条件における高温においても、潤滑剤30が溶解し液体化することを抑制でき、裸鉄粉20の鉄粒子間に粉末状で存在することができる。よって、安定して各鉄粒子間を絶縁することができる。潤滑剤30が粉末状で各鉄粒子間に存在することで、鉄粒子同士の間に点状で絶縁材が存在することになり、後述する被覆鉄粉10のように鉄粒子同士の間に膜状で絶縁材が存在する場合に比較して磁束が通り易く、良好な透磁率を確保することができる。
【0041】
融点が120℃以上である潤滑剤30として、例えば、ステアリン酸金属塩を利用することができる。具体的なステアリン酸金属塩は、ステアリン酸亜鉛(融点120℃〜125℃程度)、ステアリン酸リチウム(融点210℃〜220℃程度)などが挙げられる。潤滑剤30としてステアリン酸金属塩を含有する場合、一種又は複数種含むことができる。
【0042】
潤滑剤30として、更に脂肪酸アミドを含むことができる。脂肪酸アミドは、代表的には融点が70℃以上150℃以下程度、更に90℃以上120℃以下程度である。潤滑剤30として比較的融点が低い脂肪酸アミドを含むことで、溶解して液体化した脂肪酸アミドは粉末間に均一的に配置され易い。よって、圧縮性及び脱型性に優れる上に、上記粉末状の高融点の潤滑剤に加えて更に絶縁性を高めることができる。具体的な脂肪酸アミドは、ステアリン酸アミド(融点100℃程度)、パルミチン酸アミドなどが挙げられる。
【0043】
潤滑剤30は、複数種の潤滑剤を含有する場合、ステアリン酸金属塩の含有割合が高い方が好ましい。ステアリン酸金属塩は、融点が高いため溶解し液体化することを抑制でき、裸鉄粉20の鉄粒子間に粉末状で存在し易いからである。複数種の潤滑剤を含有する場合には、潤滑剤の合計含有量を100質量%として、ステアリン酸金属塩の含有量を25質量%以上100質量%以下とすることが挙げられる。圧粉磁心1における潤滑剤30が特定の成分となるように、原料粉末Pにおける潤滑剤300の成分を調整するとよい。
【0044】
・・含有量
圧粉磁心1における潤滑剤30の含有量は、0.05質量%以上0.5質量%以下であることを特徴の一つとする。潤滑剤30の含有量が0.05質量%以上であることで、裸鉄粉20の鉄粒子間に十分に介在できる。よって、鉄粒子同士が結合して導通部分が生じることによる渦電流の増大を抑制でき、コアロスの増大を抑制できる。圧粉磁心1における潤滑剤30の含有量は、0.1質量%以上、更に0.2質量%以上とすることができる。潤滑剤30の含有量は、裸鉄粉20の含有量と実質的に相関関係にある。例えば、裸鉄粉20の含有量が多くなると、鉄粒子間の絶縁箇所が多くなるため、潤滑剤30の含有量を多くすることで、コアロスの増大を抑制できる。一方、裸鉄粉20の含有量が少ないと、鉄粒子間の絶縁箇所が少なくなるため、潤滑剤30の含有量を少なくすることで、圧粉磁心1の軟磁性粉末の割合の低下を抑制できる。
【0045】
圧粉磁心1における潤滑剤30の含有量は、0.5質量%以下であることで、潤滑剤30の過多による軟磁性粉末の割合の低下を抑制でき、磁気特性の低下を抑制できる。例えば、軟磁性粉末における裸鉄粉20の含有割合が100質量%(軟磁性粉末の全量が裸鉄粉20)であった場合、圧粉磁心1における潤滑剤30の含有量は上限の0.5質量%とすることが挙げられる。圧粉磁心1における潤滑剤30の含有量は、0.45質量%以下、更に0.40質量%以下とすることができる。
【0046】
・・大きさ
潤滑剤30は、粉末状として存在する。原料粉末Pの潤滑剤300として粉末状のものを利用すれば、圧縮成形後にも潤滑剤30は粉末状で存在し得る。潤滑剤30は、裸鉄粉20よりも小さいことが好ましい。具体的には、潤滑剤30の平均粒径は、1μm以上50μm以下が好ましい。潤滑剤30の平均粒径が1μm以上であることで、裸鉄粉20の各鉄粒子同士を十分に絶縁することができる。また、製造過程で潤滑剤30を取り扱い易い。
【0047】
潤滑剤30の平均粒径が50μm以下であることで、各鉄粒子間に介在され易く、各鉄粒子の周囲に実質的に均一に配され易い。潤滑剤30は、各鉄粒子の周囲に実質的に均一に配されていることで、コアロスの増加を抑制し易い。潤滑剤30の平均粒径は、40μm以下、更に30μm以下とすることができる。
【0048】
潤滑剤30は、圧縮成形時に変形して、裸鉄粉20の鉄粒子や後述する被覆鉄粉10の被覆鉄粒子に沿った任意の形状で存在したり、分割されてより小さな粉末状になったり、潤滑剤の他の粒子と結合してより大きな粉末状になって存在したりする。
【0049】
・被覆鉄粉
被覆鉄粉10は、上述した裸鉄粉20の鉄粒子と同様の鉄粒子12の外周が絶縁被覆14で覆われた被覆鉄粒子から構成される。絶縁被覆14は、主として、鉄粒子12同士の直接接触を妨げて、圧粉磁心1の電気抵抗を高める絶縁材として機能する。絶縁被覆14は、鉄粒子12間や鉄粒子12と裸鉄粉20の鉄粒子との間を絶縁できれば、鉄粒子12の全表面を覆っていなくてもよく、鉄粒子12の一部が露出されるような存在状態を許容する。
【0050】
絶縁被覆14の構成材料は、種々の絶縁材料をとり得る。例えば、金属元素を含む化合物や非金属元素を含む化合物が挙げられる。前者は、Fe,Al,Ca,Mn,Zn,Mg,V,Cr,Y,Ba,Sr,及び希土類元素(Yを除く)などから選択された1種以上の金属元素と、酸素、窒素、及び炭素から選択された1種以上の化合物(例えば、金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物)、ジルコニウム化合物、アルミニウム化合物などが挙げられる。後者は、燐化合物、珪素化合物などが挙げられる。その他、燐酸金属塩化合物(代表的には、燐酸鉄や燐酸マンガン、燐酸亜鉛、燐酸カルシウムなど)、硼酸金属塩化合物、珪酸金属塩化合物、チタン酸金属塩化合物などの金属塩化合物が挙げられる。燐酸金属塩化合物を絶縁被覆14として備える圧粉磁心1は、絶縁被覆14を良好に備えて絶縁性に優れ、渦電流損が低く、ひいてはコアロスが低い。燐酸金属塩化合物は変形性に優れるため、燐酸金属塩化合物の絶縁被覆140を備える被覆鉄粉100を原料粉末Pに用いた場合、燐酸金属塩化合物は、成形時に鉄粒子120の変形に追従して容易に変形して損傷し難い上に、鉄に対する密着性が高いため、成形時などで鉄粒子120の表面から脱落し難いからである。一方、燐酸金属塩化合物に含まれるリンが鉄粒子12に拡散することで、コアロスが増大する恐れがある。そのため、圧粉磁心1全体に含まれるリンの含有量は1000質量ppm以下、更に600質量ppm以下が好ましいと考えられる。リン量が所望の値となるように鉄粒子120の成分や、絶縁被覆140の成分、厚さを調整するとよい。
【0051】
その他の絶縁被覆14の構成材料として、例えば、種々の樹脂や、高級脂肪酸塩などが挙げられる。具体的な樹脂は、ポリアミド系樹脂、シリコーン樹脂などが挙げられる。ポリアミド系樹脂は、ナイロン6、ナイロン66などが挙げられる。
【0052】
絶縁被覆14の厚さは、例えば、10nm以上1μm以下が挙げられる。上記厚さが10nm以上であれば、鉄粒子間(被覆鉄粉10の鉄粒子12間や、鉄粒子12と裸鉄粉20の鉄粒子との間)の絶縁を良好に確保できる。上記厚さが1μm以下であれば、絶縁被覆14が少なく、圧粉磁心1中の磁性成分の割合の低下を抑制でき、透磁率を高め易い。より好ましい厚さは20nm以上100nm以下である。圧粉磁心1中の絶縁被覆14の厚さは、組成分析(透過型電子顕微鏡及びエネルギー分散型X線分光法を利用した分析装置(TEM−EDX))により得られる膜組成と、誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP−MS)により得られる元素量とを鑑みて相当厚さを導出し、更に、TEM写真によって絶縁被覆14を直接観察して、先に導出された相当厚さのオーダーが適正な値であることを確認して決定される平均的な厚さとする。絶縁被覆14の厚さは、原料粉末Pの絶縁被覆140の厚さを概ね維持する。
【0053】
・・含有量
軟磁性粉末における被覆鉄粉10の含有量は、30質量%以上55質量%未満とすることが挙げられる。軟磁性粉末中の被覆鉄粉の含有量が30質量%以上であることで、絶縁被覆14の介在によって絶縁性により優れて、コアロスの増大を抑制し易い。軟磁性粉末における被覆鉄粉10の含有量は、35質量%以上、更に40質量%以上とすることができる。一方、軟磁性粉末中の被覆鉄粉の含有量が55質量%未満であることで、裸鉄粉の含有量を相対的に多くでき、被覆鉄粉の含有量を削減できる。よって、軟磁性粉末における被覆鉄粉10の含有量は、50質量%以下、更に45質量%以下とすることができる。
【0054】
・・大きさ
被覆鉄粉10は、比較的大きい粉末粒子を含む。被覆鉄粉10が大きいことで、圧粉磁心1は、磁路を十分に確保できて高い透磁率を有することができる。具体的には、被覆鉄粉10の平均粒径は150μm以上400μm以下が好ましい。被覆鉄粉10の平均粒径が150μm以上であることで、高透磁率に加えて、コアロスを低くし易い。被覆鉄粉10の平均粒径は、180μm以上、更に200μm以上とすることができる。
【0055】
被覆鉄粉10の平均粒径は、400μm以下であることで、鉄粒子12の大径化による鉄粒子12内に生じる渦電流損の増大を招き難く、コアロスを低くできる。被覆鉄粉10の平均粒径は、350μm以下、更に300μm以下とすることができる。
【0056】
・その他の含有物
圧粉磁心1は、その他の添加材として、樹脂などを含有することができる。具体的には、ポリアセタール(POM)、ポリアミド(PA)、ポリカーボネート(PC)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、変性ポリフェニレンエーテル(m−PPE)、ポリフェニレンスルファイド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルイミド(PEI)などのエンジニアリングプラスチックが挙げられる。添加材の含有量は、圧粉磁心1を100質量%として、0超0.5質量%以下が好ましい。この範囲で樹脂などを含むことで、成形性や保形性を高められ、かつ樹脂の含有による磁性成分の割合の低下を防止できる。特に、ポリアミド系樹脂は、裸鉄粉20の鉄粒子同士を絶縁する絶縁材として機能することができる。ポリアミド系樹脂は、潤滑剤30と同様に各粉末粒子間に粉末状に存在する形態や、被覆鉄粉10の絶縁被覆14として存在する形態などが挙げられる。粉末の場合には、原料粉末Pに樹脂粉末を混合するとよい。
【0057】
・形状
実施形態の圧粉磁心1は、種々の形状の金型を用いることで、種々の形状をとり得る。代表的には、対向する二面を端面とする柱状体、両端面を貫通する貫通孔を有する筒状体が挙げられる。より具体的には、円柱、円筒、円環(厚さが薄いもの)、直方体などの角柱、端面が枠状の角筒などが挙げられる。その他、一つ又は複数の段差を有する形状や、端部に一つ又は複数のフランジ部を備える形状といった外形が凹凸形状の異形の柱状体や筒状体などとすることができる。
【0058】
具体的な形状として、圧粉磁心1は、長尺片1L(図2)を有するものが挙げられる。この長尺片1Lは、長さLと幅Wとの比L/Wが10以上であるものが挙げられる。つまり、圧粉磁心1は細長い形状である。長尺片1Lは、その横断面又は縦断面において、裸鉄粉20を構成する鉄粒子が短径及び長径を有する扁平形状である。この鉄粒子を観察することによって、長尺片1L(圧粉磁心1)の圧縮方向を判別することができる。圧粉磁心1は、原料粉末Pを加圧圧縮することから、原料粉末Pを構成する各粉末粒子は圧縮方向に押し潰されて(塑性変形して)、代表的には、圧縮方向と直交方向に伸びた形状になる。よって、鉄粒子が短径及び長径を有する扁平形状である場合、短径方向(伸びた方向と直交する方向)が圧縮方向であると予想できる。
【0059】
図2に示す長尺片1Lでは、横断面及び縦断面において、裸鉄粉20は、各鉄粒子が短径及び長径を有する横方向に延びた形状(図2の下側に示す拡大図)となった例を示す。つまり、図2に示す長尺片1Lは、上下方向に圧縮された圧縮成形体である。よって、長尺片1Lは、上下面に沿った切断面(水平断面)においては、各鉄粒子は上記長径を有するほぼ円形(図2の上側に示す拡大図)となっている。つまり、裸鉄粉20の各鉄粒子は、長尺片1Lの長さL方向及び幅W方向に長径を有し、高さH方向に短径を有する。
【0060】
圧粉磁心1は、長尺片1Lの長手方向が圧縮方向と直交する方向となる細長い形状であることが好ましい。この圧粉磁心1を後述するコイル部品とするとき、長尺片1Lの長手方向がコイルの励磁に伴う磁束方向に沿った方向となるように配置することが好ましい。裸鉄粉20を構成する鉄粒子の長径方向は、鉄粒子同士の粒界が少ないために磁束が通り易い。よって、上記磁束方向が長いことで、より良好な透磁率を確保できる。
【0061】
また、圧粉磁心1は、長尺片1Lの長手方向と圧縮方向の双方に直交する方向の長さWが短い細幅部を有することが好ましい。この細幅部の長さWは、裸鉄粉20の平均粒径の80倍以下である。裸鉄粉20を構成する鉄粒子は扁平形状であるため、この裸鉄粉20の平均粒径は、各面積の円相当径とする。鉄粒子の長径方向は、鉄粒子同士の粒界が少ないために渦電流が流れ易いという問題があるが、渦電流が流れる長さ自体が小さいことで、コアロスの増大を抑制できる。鉄粒子の短径方向は、鉄粒子同士の粒界が多くなる傾向にあり、この鉄粒子間に潤滑剤30が介在されるため、渦電流は流れ難い。
【0062】
その他に、長尺片1L(圧粉磁心1)の圧縮方向は、長手方向に沿った方向(図2の長さLの方向)であってもよい。この場合、裸鉄粉20を構成する鉄粒子は、長尺片1Lの長手方向に短径を有し、長手方向に直交する方向に長径を有する。よって、圧粉磁心1は、圧縮方向と直交する方向の長さ(例えば、図2の幅Wや高さH、横断面の対角線の少なくとも一つ)が裸鉄粉20の平均粒径の80倍以下であることが好ましい。
【0063】
圧粉磁心1の圧縮方向を判別する指標の一つとして、裸鉄粉20(鉄粒子)の伸び方向以外に、外形が挙げられる。圧粉磁心1は、代表的には一軸型の金型を用いた成形体であることから、その外形は、上記金型から抜出可能な形状に限られる。例えば、貫通孔を有する圧粉磁心(図3のコア片10fなど)であれば、貫通孔の軸方向が圧縮方向であると予想できる。更に、圧粉磁心1の圧縮方向を判別する指標の一つとして、例えば、摺接痕の有無が挙げられる。圧粉磁心1の外周面を形成するダイとの接触面や、貫通孔を有する場合には圧粉磁心の内周面を形成するロッドとの接触面に、ダイからの成形体の抜き取り時やロッドの抜き取り時に成形体とダイやロッドとが摺接して、摺接痕が残存し得る。つまり、摺接痕がある面は、ダイやロッドによって形成された面、摺接痕が無い面がパンチによって形成された端面、と予想できる。そして、対向配置される一対の端面に直交する方向が圧縮方向であると予想できる。
【0064】
・密度
実施形態の圧粉磁心1の一例として、密度が7.3g/cm以上7.7g/cm以下を満たすものが挙げられる。密度が7.3g/cm以上であれば、相対密度((見掛け密度/真密度)×100。真密度=純鉄粉の密度)が92%以上と緻密であり、透磁率が高く、強度に優れる。密度が高いほど、透磁率や強度が高まることから、圧粉磁心1の密度は、7.35g/cm以上、更に7.4g/cm以上を満たすことが好ましい。一方、圧粉磁心1の密度が7.7g/cm以下であれば、比較的低い成形圧力で製造されて、被覆鉄粉を含有する場合には成形時の絶縁被覆の損傷が低減されているといえ、コアロスを低くできる。従って、圧粉磁心1の密度は、7.65g/cm以下、更に7.6g/cm以下とすることができる。
【0065】
・特性
実施形態の圧粉磁心1は、コイルに組み付けてコイル部品としたとき、そのコイル部品として必要な磁気特性を有する。例えば、圧粉磁心1の交流透磁率は、測定条件を1.0T/1kHzとするとき、350以上、更に400以上、特に420以上が挙げられる。また、コアロスは、300W/kg以下、更に280W/kg以下、特に250W/kg以下が挙げられる。
【0066】
〔コイル部品〕
実施形態の圧粉磁心1は、磁路の構成部材として利用できる。例えば、巻線を螺旋状に巻回してなるコイルと、このコイルが配置されて磁路を構成する磁性コアと、を備えるコイル部品において、磁性コアの少なくとも一部に圧粉磁心1を利用できる。図3図5は、コイル部品の一例を示す。図中、同一符号は同一名称物を示す。
【0067】
図3に示す実施形態1のコイル部品1Aは、磁性コア10Aとして、貫通孔10hを有する枠状のコア片10fと、このコア片10fの内側に配置されるI字状のコア片10iと、を備える。枠状は、正方形の枠状であってもよいし、長方形の枠状であってもよい。磁性コア10Aは、I字状のコア片10iの各端面が、枠状のコア片10fの対向する二つの内面に対向するように組み合わせて、図3の左図に二点鎖線で示すような閉磁路を構成する。ここでは、I字状のコア片10iの一方の端面と、枠状のコア片10fと、の間にギャップGを備えると共に、I字状のコア片10iの外周にコイルCが嵌め込まれる例を示す。
【0068】
磁性コア10Aの一部、例えばコイルCが配置されない枠状のコア片10fを実施形態の圧粉磁心1とすることができる。つまり、枠状のコア片10fは、4つの角棒片を有することになる。4つの角棒片の各々が圧粉磁心1の長尺片1Lに対応する。枠状のコア片10fは、貫通孔10hの軸方向が圧縮方向となるため、裸鉄粉20を構成する鉄粒子の長径方向が磁束方向に沿って配置されることになる。よって、枠状のコア片10fには磁束が通り易いため、良好な透磁率を確保できる。また、枠状のコア片10fは、長手方向及び圧縮方向の双方に直交する方向の長さ(枠状のコア片10fの内面から外面に亘る長さ)が、比較的小さい(裸鉄粉20の平均粒径の80倍以下である)ことが好ましい。そうすることで、コアロスの増大を抑制することもできる。I字状のコア片10iは、従来のように被覆鉄粉で構成される(裸鉄粉を0質量%超45質量%以下の範囲で含有していてもよい)圧粉磁心とすることが好ましい。もちろんI字状のコア片10iを実施形態の圧粉磁心1としてもよい。
【0069】
図4に示す実施形態2のコイル部品1Bは、磁性コア10Bとして、I字状のコア片10iと、U状のコア片10pと、を備える。この磁性コア10Bは、両コア片10i,10pを組み合わせて枠状の閉磁路を構成するO字型の磁性コアである(図4の左図)。ここでは、両コア片10i,10p間にギャップGを備えると共に、I字状のコア片10iにコイルCが配置される例を示す。この例では、U状のコア片10pを実施形態の圧粉磁心1とすることが好ましい。もちろんI字状のコア片10iを実施形態の圧粉磁心1としてもよい。
【0070】
図5に示す実施形態3のコイル部品1Cは、磁性コア10Cとして、四つのI字状のコア片10i〜10iを備える。磁性コア10Cは、これら四つのコア片10i〜10iを組み合わせて枠状の閉磁路を構成するO字型の磁性コアである(図5の左図)。ここでは、図5の左右方向に並列される二つのコア片10i,10iと、これら二つのコア片10i,10iの端部同士を連結する別の一つのコア片10iとの間にギャップGを備えると共に、上述の並列される二つのコア片10i,10iにコイルC,Cがそれぞれ配置される例を示す。実施形態2のコイル部品1Bのように、いずれか一つのコア片10iにのみコイルCを備えることもできる。この例では、コイルCが配置されないI字状のコア片10iを実施形態の圧粉磁心1とすることが好ましい。もちろん全てのI字状のコア片10iを実施形態の圧粉磁心1としてもよい。
【0071】
図3図5に示す磁性コア10A〜10C、コア片10i,10f,10pの形状は例示であり、公知の形状に適宜変更できる。例えば、角部を丸めた湾曲面を有する形状などが挙げられる。また、図3図5に示すような単純な形状ではなく、一つ又は複数の段差を有する形状や、端部に一つ又は複数のフランジ部を備える形状、などのように凹凸のある外形を有する異形の立体とすることができる。コイル部品に備えるコア片数は適宜変更でき、図3図5は例示である。
【0072】
コイルCを構成する巻線は、導体の外周に絶縁層を備える被覆線が挙げられる。導体は、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金などの導電性材料から構成される線材が挙げられる。線材は、断面円形状の丸線や断面矩形状の平角線などが挙げられる。絶縁層の構成材料は、エナメルや、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)樹脂、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂、シリコーンゴムなどが挙げられる。公知の巻線を利用できる。コイル部品に備えるコイルCの数は適宜変更でき、図3図5は例示である。
【0073】
ギャップGは、所望の磁気特性が得られるように、適宜設けることができる。例えば、ギャップGを備えていない形態とすることができる。また、ギャップGは、非磁性材料からなるギャップ材を用いた形態の他、エアギャップとすることができる。
【0074】
〔圧粉磁心の製造方法〕
実施形態の圧粉磁心1は、例えば、以下の準備工程と、成形工程と、を備え、成形工程後に熱処理を行わない製造方法によって製造できる(図1)。
【0075】
・準備工程
準備工程では、裸鉄粉200と、潤滑剤300と、を準備する。裸鉄粉200は、平均粒径が40μm以上100μm以下であり、粒径が200μm以上の鉄粒子の割合が10質量%以下である粉末とする。潤滑剤300は、平均粒径が1μm以上50μm以下である融点が120℃以上(例えば、ステアリン酸金属塩)の粉末とする。被覆鉄粉10を含む圧粉磁心1を製造する場合には、平均粒径が150μm以上400μm以下であり、粒径が75μm以下の粉末粒子の割合が10質量%以下である被覆鉄粉100を準備する。
【0076】
上記の製造方法では成形後に熱処理を行わないため、得られた成形体(圧粉磁心1)の構成成分は、上述のように原料粉末Pの構成成分を実質的に維持する。また、原料粉末Pは成形によって若干変形するものの、圧粉磁心1を構成する粉末粒子の大きさ及び配合割合は、原料粉末Pに含まれる粉末粒子の大きさ及び配合割合に依存し、概ね維持する傾向にある。そのため、原料粉末Pの成分、大きさ、配合割合などの詳細な説明は省略する。圧粉磁心1に含む被覆鉄粉10、潤滑剤30、裸鉄粉20について述べた各事項は、原料粉末Pに含む被覆鉄粉100、潤滑剤300、裸鉄粉200にそれぞれ適用できる。その他の事項を以下に述べる。
【0077】
裸鉄粉200及び被覆鉄粉100に用いる純鉄粉は、ガスアトマイズ法や水アトマイズ法といったアトマイズ法などの公知の方法によって製造できる。被覆鉄粉100の絶縁被覆140の形成には、例えば、燐酸塩化成処理といった化成処理、溶剤の吹きつけ、前駆体を用いたゾルゲル処理などが利用できる。シリコーン系有機化合物の被覆を形成する場合、有機溶剤を用いた湿式被覆処理や、ミキサーによる直接被覆処理などを利用できる。被覆鉄粉100として、市販の被覆鉄粉を利用できる。裸鉄粉200の大きさや被覆鉄粉100の大きさは、純鉄粉を粉砕するなどしてその大きさを調整したり、裸鉄粉200や被覆鉄粉100を篩法などによって分級したりすることで調整できる。
【0078】
原料粉末Pにおける裸鉄粉200及び被覆鉄粉100について、大きさや特定の粒径の質量割合は、市販の粒度測定装置を用いることで測定できる。簡易的な測定として、特定の粒径の質量割合は、篩を用いて分級すると共に、選別した特定の粒径の粉末粒子の質量を測定することが挙げられる。
【0079】
原料粉末Pの混合には、V型ミキサーやダブルコーンミキサーといった適宜な混合機を利用できる。この混合は、被覆鉄粉100の絶縁被覆140を損傷しない程度に行うことが好ましい。
【0080】
・成形工程
成形工程では、準備工程で準備した原料粉末Pを金型に充填して加圧圧縮し、圧粉磁心1を製造する。
【0081】
金型は、代表的には、貫通孔を有するダイと、原料粉末Pを加圧圧縮する一対のパンチと、を備えるものが挙げられる。詳しくは、ダイの内周面の一部と、一方のパンチの一面(他方のパンチとの対向面)とで有底筒状を形成し、この有底筒状内の空間に原料粉末Pを充填して両パンチによって加圧圧縮して、所望の形状に成形する。そして、ダイから抜き出した成形体が圧粉磁心1である。貫通孔を有する筒状や環状の圧粉磁心(図3のコア片10fなど)を製造する場合には、金型として、ダイの貫通孔に挿通配置されて、成形体の貫通孔を形成するロッドを備えるものを利用するとよい。段差を有する形状の成形体を成形する場合には、一対のパンチをそれぞれ、複数に分割した組物を利用することができる。金型の構成は、公知の構成を利用できる。
【0082】
成形圧力は、例えば、1200MPa未満、更に1000MPa以下、更には800MPa以下とすることができる。上述のように原料粉末Pが圧縮変形性に優れるため、成形圧力を500MPa以上、更に550MPa以上、更には600MPa以上とすることで、緻密化、高密度化を図れる。
【0083】
金型をある程度加熱した状態(連続成形に起因する加工熱でもよい)で成形することができる。この場合、被覆鉄粉100や裸鉄粉200の成形性を高めたり、潤滑剤300をある程度軟化して流動し易くしたりして、圧縮成形性を高められる。そのため、成形圧力をより低くできる。金型を加熱する場合には、金型温度は、潤滑剤の融点をTとするとき、例えば、(T/2)℃以上T℃未満が挙げられる。例えば、融点Tが120℃〜200℃であれば、60℃〜100℃程度が挙げられる。この範囲であれば、成形性に優れる上に、潤滑剤300が溶解し液体化することを抑制でき、圧粉磁心1の潤滑剤30が裸鉄粉20間に粉末状で介在することができる。
【0084】
水冷装置などを用いて金型をより低い温度(例えば、室温以下)に保持することができる。この場合、寸法精度に優れる成形体を得易い。
【0085】
成形時の雰囲気は、例えば、大気雰囲気が挙げられる。裸鉄粉200は潤滑剤300に接することで、酸素を含む雰囲気としても、鉄成分の酸化を相当程度防止できる。大気雰囲気は、制御が容易であるため、作業性に優れる。
【0086】
金型において、原料粉末Pや成形体と接触する領域に離型コーティングを施すことができる。離型コーティングは、例えば、DLC、TiN、TiC、CrN、及びTi−X−N(但しXは、C,Al,Cr,Mo,及びWから選択される少なくとも1種の元素)から選択される少なくとも1種が挙げられる。離型コーティングの形成には、公知の物理蒸着法、化学蒸着法、アーク法などを利用でき、特にスパッタリング法を好適に利用できる。離型コーティングを行うことで、脱型性をより向上できる。
【0087】
〔用途〕
実施形態の圧粉磁心1は、各種のコイル部品(例えば、リアクトル、トランス、モータ、チョークコイル、アンテナ、燃料インジェクタ、点火コイルなど)の磁性コアに利用することができる。実施形態のコイル部品1A,1B,1Cは、リアクトル、トランス、モータ、チョークコイル、アンテナ、燃料インジェクタ、点火コイルなどに利用することができる。
【0088】
[試験例1]
裸鉄粉を含む混合粉末を圧縮成形してなる圧粉磁心を作製し、得られた各圧粉磁心の透磁率及びコアロスを調べた。
【0089】
・試料No.1−1〜1−6
各試料の原料粉末として、裸鉄粉と潤滑剤とを含む混合粉末を用いる。試料No.1−4以外の試料は、原料粉末として、更に被覆鉄粉を含む。裸鉄粉は、純鉄から構成される鉄粒子(Feが99質量%以上、残部が不可避不純物)の集まりである。この裸鉄粉は、分級した。裸鉄粉の平均粒径(μm)と、裸鉄粉を構成する鉄粒子が200μm以上の粒子の割合(質量%)を測定した。特定の粒径の鉄粒子の割合は、分級前の鉄粒子の総重量を100質量%とした場合の各粒度の割合を示す。粒度分布は、市販のレーザ回折・散乱式粒子径・粒度分布測定装置を用いて測定した。裸鉄粉の平均粒径は、上記粒度分布測定装置で測定し、積算重量(質量)が50%となる粒径、すなわち50%粒径(質量)とする。その結果、裸鉄粉の平均粒径は、73μmであり、鉄粒子が200μm以上の粒子の割合は1質量%以下であった。
【0090】
被覆鉄粉は、純鉄から構成される鉄粒子(Feが99質量%以上、残部が不可避不純物)の周囲に、燐酸鉄から構成される絶縁被覆(平均厚さ約20nm〜100nm)を備える被覆鉄粒子の集まりである。被覆鉄粉も、上述の裸鉄粉と同様に分級すると共に、平均粒径(μm)と、被覆鉄粉を構成する粒子の粒径が75μm以下の粒子の割合(質量%)を測定した。その結果、被覆鉄粉の平均粒径は、240μmであり、粒子が75μm以下の粒子の割合は7質量%以下であった。
【0091】
裸鉄粉と被覆鉄粉との配合割合は、両粉末の合計量(軟磁性粉末の全量)を100質量%とした場合に、裸鉄粉及び被覆鉄粉を表1に示す含有量とした。
【0092】
潤滑剤は、ステアリン酸亜鉛(融点120℃〜125℃)の粉末を用いた。ステアリン酸亜鉛は、原料粉末(軟磁性粉末と潤滑剤との合計)を100質量%とするとき、表1に示す含有量とした。試料No.4以外の試料は、ステアリン酸亜鉛に加えて、更にステアリン酸アミド(融点:約100℃)の粉末を含有した。ステアリン酸アミドは、原料粉末(軟磁性粉末と潤滑剤との合計)を100質量%とするとき、表1に示す含有量とした。各潤滑剤の平均粒径は、上述の裸鉄粉と同様に粒度分布測定装置で測定した。その結果、ステアリン酸亜鉛(市販品)は、平均粒径が30μmであり、ステアリン酸アミド(市販品)は、平均粒径が45μmであった。
【0093】
金型に混合粉末を充填して加圧圧縮し、角柱状の成形体(図2を参照)を成形した。試料No.1−1〜1−4は、長さL:30mm、幅W:3mm、高さH:5mmの成形体となるように、高さH方向に沿って圧縮した。試料No.1−5は、長さL:30mm、幅W:3mm、高さH:5mmの成形体となるように、長さL方向に沿って圧縮した。試料No.1−6は、長さL:30mm、幅W:7.3mm、高さH:5mmの成形体となるように、高さH方向に沿って圧縮した。成形条件は、雰囲気を大気雰囲気とし、成形圧力は686MPa〜882MPa(7ton/cm〜9ton/cm)から選択し、金型温度は50℃〜60℃から選択した。得られた成形体には、熱処理を施していない。
【0094】
・試料No.1−11
原料粉末として、被覆鉄粉と潤滑剤とを含み、裸鉄粉を含まない混合粉末を用いた試料である。つまり、全軟磁性粉末が被覆鉄粉である。潤滑剤は、ステアリン酸アミドを0.3質量%含有し、高融点の潤滑剤は含有していない。その他の条件については、試料No.1−1と同様である。
【0095】
・試料No.1−12,1−13
原料粉末として、裸鉄粉と被覆鉄粉と潤滑剤とを含む混合粉末を用いた試料である。裸鉄粉と被覆鉄粉との配合割合は、両粉末の合計量(軟磁性粉末の全量)を100質量%とした場合に、裸鉄粉を表1に示す含有量とした。潤滑剤は、ステアリン酸アミドを0.3質量%含有し、高融点の潤滑剤は含有していない。その他の条件については、試料No.1−1と同様である。
【0096】
作製した試料No.1−1〜1−6,1−11〜1−13の成形体(圧粉磁心)について、潤滑剤量を以下のようにして測定した。成形体をそれぞれ、粉砕機によって粉砕し(大気雰囲気)、原料に用いた粉末程度の大きさにした粉末を1g秤量する。秤量した1gの粉末にアセトンを添加した混合液を得る。この混合液から、超音波抽出によって潤滑剤(ここではステアリン酸亜鉛、ステアリン酸アミド)を溶解して回収する。回収した潤滑剤をガスクロマトグラフによって、定性・定量を行った。即ち、粉砕粉末1gあたりの潤滑剤量x(g)を求め、成形体の質量y(g)を用いて、成形体の質量に占める潤滑剤の質量割合((x×y)/y)×100を求めた。この潤滑剤量は、成形体を100質量%とする割合である。その結果、いずれの成形体も、原料粉末と同等の含有量の潤滑剤(ステアリン酸亜鉛やステアリン酸アミド)を含んでいた。
【0097】
試料No.1−1〜1−6,1−11〜1−13の成形体(圧粉磁心)4個を四角枠状(図3に示す枠状のコア片10fと同等の形状)に組み合わせ、この四角枠状部材の内側にI字状のコア片を配置し、I字状のコア片に同一の巻線を巻回して測定用部材(コイル部品)を作製する(図3のコイル部品1Aを参照)。作製した測定用部材及びAC−BHカーブトレーサを用いて、励起磁束密度Bmを1T、測定周波数を1kHzとしたときについて、AC−BHカーブの傾きから試料の交流透磁率を求めると共に、試料の渦電流損(渦損)とヒステリシス損(ヒス損)とを求めた。渦損とヒス損との合計である鉄損をコアロスとする。測定結果を表1に併せて示す。
【0098】
表1における「圧縮方向・磁束方向」とは、圧縮方向と磁束方向との関係を示しており、圧縮方向と磁束方向とが直交している場合には「直交」、圧縮方向と磁束方向とが同方向である場合には「平行」としている。表1における「幅/粒径」とは、圧粉磁心の幅W(図2を参照)を裸鉄粉の平均粒径で除した値である。裸鉄粉の平均粒径は、圧粉磁心の横断面又は縦断面に存在する裸鉄粉を構成する鉄粒子の短径及び長径を測定し、この鉄粒子の面積の円相当径とする。
【0099】
【表1】
【0100】
表1に示すように、裸鉄粉を比較的多量に含む試料No.1−1〜1−6の圧粉磁心は、いずれも透磁率が350以上、かつコアロスが300W/kg以下であり、全軟磁性粉末が被覆鉄粉で構成された試料No.1−11と同等程度であることがわかった。つまり、軟磁性粉末として、被覆鉄粉の代わりに絶縁被覆を備えていない裸鉄粉を用いたとしても、潤滑剤として高融点の潤滑剤を含有することで必要な磁気特性を有する圧粉磁心とできることがわかった。これは、高融点の潤滑剤を含有することで、圧粉磁心の製造条件や使用条件における高温においても、潤滑剤が溶解し液体化することなく、裸鉄粉間に介在することで、裸鉄粉間を絶縁しているからと考えられる。例えば、高融点の潤滑剤を含有した試料No.1−2は、高融点の潤滑剤を含有していない試料No.1−13と比較して、透磁率も高く、コアロスも低減している。試料No.1−13では、裸鉄粉間に絶縁材として潤滑剤が介在していないため、裸鉄粉を構成する鉄粒子同士が結合して導通部分が生じてしまい、渦電流が増大したと考えられる。
【0101】
特に、圧粉磁心の圧縮方向と、コイルの励磁に伴う磁束方向とが直交方向である試料No.1−1〜1−4,1−6は、透磁率が高い傾向にあることがわかる。これは、裸鉄粉を構成する鉄粒子の長径方向は鉄粒子同士の粒界が少ないが、この長径方向が上記磁束方向と平行であることで、磁束が通り易くなったためと考えられる。
【0102】
[試験例2]
裸鉄粉に含有される不純物の含有量の違いによる透磁率及びコアロスを調べた。
【0103】
・試料No.2−1〜2−4
表2に示す不純物を含む裸鉄粉を準備した。この不純物は、O,P,Cr,Mn,Ni,Cuである。裸鉄粉と被覆鉄粉との配合割合は、両粉末の合計量(軟磁性粉末の全量)を100質量%とした場合に、裸鉄粉:50質量%、被覆鉄粉:50質量%とした。潤滑剤の含有量は、原料粉末(軟磁性粉末と潤滑剤との合計)を100質量%とした場合に、ステアリン酸亜鉛:0.2質量%、ステアリン酸アミド:0.1質量%とした。その他の条件(粉末の粒径、被覆鉄粉の絶縁被覆の厚さ、成形条件など)は、試料No.1−1と同様とした。
【0104】
試料No.2−1〜2−4の成形体(圧粉磁心)を試料No.1−1と同様の形状に組み合わせ、測定用部材(コイル部品)を作製し、試料No.1−1と同様に透磁率及びコアロスを測定した。その結果を表2に併せて示す。
【0105】
【表2】
【0106】
表2に示すように、裸鉄粉の不純物が少ない圧粉磁心ほど、透磁率が高く、コアロスが小さいことがわかる。特に、Oの含有量が0.10質量%以下で、かつP,Cr,Mn,Ni,Cuの合計含有量が0.20質量%以下である試料No.2−3,2−4は、透磁率が450以上、かつコアロスが215W/kg以下と、非常に高透磁率で、かつ低コアロスであることがわかる。これは、裸鉄粉の不純物の含有量が少ないことで、裸鉄粉が変形し易くなり、充填性が向上し、かつヒステリシス損が低減されたからと考えられる。
【符号の説明】
【0107】
1 圧粉磁心 1L 長尺片
10 被覆鉄粉 12 鉄粒子 14 絶縁被覆
20 裸鉄粉 30 潤滑剤
P 原料粉末
100 被覆鉄粉 120 鉄粒子 140 絶縁被覆
200 裸鉄粉 300 潤滑剤
1A,1B,1C コイル部品
10A,10B,10C 磁性コア
10i I字状のコア片 10f 枠状のコア片
10p U状のコア片
10h 貫通孔
G ギャップ C コイル
図1
図2
図3
図4
図5