【文献】
SONG, G. et al.,Quantitative breath analysis of volatile organic compounds of lung cancer patients,Lung Cancer,Elsevier Ireland Ltd.,2010年 2月,Vol.67/No.2,pp.227-231
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
複数の健康対象から得られた吐出呼気中に含有される複数のカルボニル含有VOCを濃縮する工程であり、複数のカルボニル含有VOCが、反応性化合物と付加物を形成する工程と、
複数の健康対象において、複数のカルボニル含有VOCの付加物を定量して、複数のカルボニル含有VOCの付加物の各々についての健康対象閾値を確立する工程と
を更に含む、請求項1に記載の方法。
対象から吐出呼気を得る工程が、吐出呼気を膨張性ポリマーフィルムデバイスに採取して、呼気サンプルを含む膨張したデバイスを得る工程を含み、複数のカルボニル含有VOCと反応性化合物との付加物を形成する工程が、反応性化学物質を含む化学予備濃縮器に呼気サンプルを通過させる工程を含む、請求項1に記載の方法。
化学予備濃縮器に呼気サンプルを通過させる工程が、膨張したデバイスを化学予備濃縮器の入口に接続する工程と、化学予備濃縮器の出口に減圧をかけて、膨張したデバイスから化学予備濃縮器を通る呼気サンプルの流れを誘導する工程とを含む、請求項5に記載の方法。
複数のカルボニル含有VOCの付加物を定量して、複数のカルボニル含有VOCの付加物の各要素についての対象値を確立する工程が、質量分析計を使用して、複数のカルボニル含有VOCの付加物を分析する工程を含む、請求項1に記載の方法。
b)反応性化学物質の4−HHE付加物についての扁平上皮癌の濃度範囲、反応性化学物質の4−HHE付加物についての腺癌の濃度範囲、及び反応性化学物質の4−HHE付加物についてのNSCLCの濃度範囲を特定する工程
を更に含む、請求項15に記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の一実施形態によれば、対象試料において肺がん疾患状態を検出又はスクリーニングする方法が提供される。
【0019】
一実施形態では、本方法は、対象試料由来の吐出呼気において、肺がんのバイオマーカーである1種又は複数のカルボニル含有揮発性有機化合物(VOC)のレベルを検出する工程と、カルボニル含有VOCのうちの1種又は複数のレベルがそのそれぞれの健康試料閾値を超えて上昇している場合、対象試料を、肺がん疾患状態の可能性を有すると診断する工程とを含む。好ましい実施形態では、カルボニル含有VOCの付加物を分析する。付加物は、反応性化学物質との脱水反応によって形成され、有利には、吐出呼気中のカルボニル含有VOCを分析試験の前に予備濃縮することを可能にする。本発明の実施形態によれば、カルボニル含有VOCバイオマーカーは、2-ブタノン、2-ヒドロキシアセトアルデヒド、3-ヒドロキシ-2-ブタノン、4-ヒドロキシ-2-ヘキセナール、4-ヒドロキシ-2-ノネナール、並びに2-ペンタノン及びペンタナールを含むC
5H
10O化合物の混合物からなる群から選択される。上昇したバイオマーカーの数は、肺がんの可能性と相関し、つまり、上昇したバイオマーカーが増えることは、肺がんの可能性の増加に関連する。
【0020】
別の実施形態では、本方法は、対象試料から吐出呼気を得る工程であり、吐出呼気に、複数のカルボニル含有揮発性有機化合物(VOC)が含まれる工程と、複数のカルボニル含有VOCと反応性化合物との付加物を形成する工程と、複数のカルボニル含有VOCの各々の付加物の各々を定量して、付加物の各々についての対象値を確立する工程と、各対象値を、複数のカルボニル含有VOCの付加物の各々についての健康試料値の範囲であり、健康試料から計算された値に相当する健康試料値の範囲と比較して、そのそれぞれの健康試料値の範囲を超える量の少なくとも3つの対象値の存在を決定し、それによって対象試料における肺がん疾患状態の実質的な可能性を示す工程とを含む。本明細書に記載された方法を使用して検出するのに好適な肺がんの例示的な種類には、小細胞肺がん(SCLC)、非小細胞肺がん(NSCLC)、扁平上皮癌、及び腺癌が含まれるがこれらに限定されない。
【0021】
本発明の実施形態によれば、複数のカルボニル含有VOCは、2-ブタノン、2-ヒドロキシアセトアルデヒド、3-ヒドロキシ-2-ブタノン、4-ヒドロキシ-2-ヘキセナール(「4-HHE」)、4-ヒドロキシ-2-ノネナール(「4-HNE」)、並びに2-ペンタノン及びペンタナールを含むC
5H
10O化合物の混合物からなる群から選択される。
【0022】
本明細書で使用する場合、「健康試料」は、いかなる肺結節(CTスキャンによって示される)をも有さず、診断可能な肺がん疾患状態を有さない、試料と定義される。
【0023】
本明細書で使用する場合、「対象試料」は、肺がん疾患状態の存在/非存在を診断又はスクリーニングする目的で、そこから吐出呼気のサンプルが得られる試料と定義される。対象試料は、コンピュータ断層撮影(CT)を使用して以前にスクリーニングされている場合があり、そこで、疑わしい病変又は結節が検出され、そのそれぞれの健康試料閾値を超える2つ以上、又は3つ以上のバイオマーカー値を利用する、より高い特異度(真陰性)の試験が望まれる。スクリーニングの目的では、対象試料は、CTスキャンを使用してスクリーニングされていない場合があるが、他のリスク因子(例えば、喫煙)を有する場合があり、そのそれぞれの健康試料閾値を超える1つ又は複数のバイオマーカー値を利用する、より高選択性(真陽性)の試験[higher selectivity (true positive) test]が望まれる。
【0024】
本明細書で使用する場合、「健康試料閾値」とは、複数の健康試料に対して試験方法を実施することによって決定された値を意味し、ここで、決定された健康試料閾値を上回る対象値は、肺がん疾患状態を示す。
【0025】
本明細書で使用する場合、「肺がん疾患状態の実質的な可能性」とは、対象試料において肺がん疾患状態が存在する確率が、試験方法の信頼水準に基づいて約80%以上であることを意味するのに対し、「肺がん疾患状態の可能性」とは、対象試料において肺がん疾患状態が存在する確率が、試験方法の信頼水準に基づいて約50%以上であることを意味する。当然ながら、中間レベルの可能性、例えば、約60%以上、又は約70%以上も更に企図される。
【0026】
本明細書で使用する場合、「付加物」又は「コンジュゲート」とは、反応性化合物と、カルボニル含有VOC肺がんバイオマーカーとの反応生成物を表す。これらの付加物は、アルデヒド又はケトンの脱水反応によって形成され、これにより、揮発性の肺がんバイオマーカーが非天然の不揮発性化合物に変換される。
【0027】
既に上記のように、呼気分析は、肺がんの疑いの精密検査を単純化する潜在性を有する開発途上の方式である。しかしながら、本発明の発見までは、複数の要因、例えば、関与するカルボニル含有VOCバイオマーカー化合物の極めて低い濃度、これらの化合物の単離プロセスの複雑性、及び臨床医にとって有用な診断アルゴリズムの欠如により、臨床的有用性を実証している方法はなかった。肺がん患者の呼気分析の以前の報告では、途方に暮れるほど多くの大きく異なる化合物及びプロファイルが得られ、呼気分析の診断的有用性は確立されていない。しかしながら、本発明の実施形態は、選ばれたカルボニル含有VOC、例えば、2-ブタノン、2-ヒドロキシアセトアルデヒド、3-ヒドロキシ-2-ブタノン、4-ヒドロキシ-2-ヘキセナール、4-ヒドロキシ-2-ノネナール、並びに/又は2-ペンタノン及びペンタナールを含むC
5H
10O化合物の混合物に焦点を絞っている。
【0028】
本発明の実施形態によれば、肺がんを検出する方法は、ある特定の肺がんバイオマーカー、即ち、カルボニル含有VOCの選択的な捕捉及び濃縮を含み、これは、
図1に示したように、吐出呼気サンプルの通過を可能にする入口17及び出口19を有する化学予備濃縮器15を含む化学予備濃縮器アセンブリ10に吐出呼気を通過させることによって達成されうる。アセンブリ10は、膨張性ポリマーフィルムデバイス25を更に含み、これは、化学予備濃縮器15の入口17の前に流量計35と流体連結されていてもよい。化学予備濃縮器15の出口19は、下記により詳細に記載するように、圧力計40、バルブ45、及び真空ポンプ50と流体連結されていてもよい。
【0029】
対象試料由来の吐出呼気の1つ又は複数のサンプルは、膨張性ポリマーフィルムデバイス25に採取されうる。吐出呼気サンプル採取に好適な1つの例示的な膨張性ポリマーフィルムデバイスは、1リットルTedlar(登録商標)気体サンプリングバッグ(Sigma-Aldrich Co., LLC社、St. Louis、MO)であり、これは、Teflon(登録商標)バルブを含む。サンプル採取のためには、対象は、Teflon(登録商標)バルブを通してTedlar(登録商標)気体サンプリングバッグに直接息を吐出することができ、これにより、非侵襲的な採取法が実現される。
【0030】
流量計35は、いずれかの特定の種類の流量計に特に限定されない。有利には、流量計35は、化学予備濃縮器15に進入する気体の体積を正確に測定可能であるべきであり、これにより、吐出呼気サンプル中のカルボニル含有VOCの濃度を定量することが可能になりうる。
【0031】
圧力計40、バルブ45、及び真空ポンプ50は、同様に、いずれかの特定の種類に特に限定されない。真空ポンプ50は、真空引きを行い、これは、バルブ45を調整することによって調節でき、又は化学予備濃縮器15から分離できる。圧力計40は、真空ポンプ50及び全体の化学予備濃縮器アセンブリ10の適切な機能及び/又は動作を示すために使用できる。
【0032】
上記のように、吐出呼気中の多くのバイオマーカーの濃度レベルは、多くの標準的な分析法の検出限界未満である。しかしながら、アルデヒド及びケトンのカルボニル官能基と、ある特定の反応性化学物質との化学反応性を利用すると、吐出呼気中のカルボニル含有VOCを分析の前に予備濃縮することができる。従って、吐出呼気中のカルボニル含有VOCを予備濃縮するために有用な1つの好適な予備濃縮器15は、米国特許第8,663,581号に記載されており、これはその全体が本明細書に組み込まれ、本明細書に更に記載されている。米国特許第8,663,581号の教示中で具体化された予備濃縮器及び方法を、本明細書に記載された本発明の実施形態において用いたが、本発明はそれらに特に限定されないことを理解されたい。他の予備濃縮デバイス及び/又は方法は、そのデバイス及び方法が吐出呼気中の必要なカルボニル含有VOCを予備濃縮して分析サンプルを得るのに有効である限り利用されうる。
【0033】
そのため、一実施形態によれば、化学予備濃縮器15は、支持構造体と、支持構造体の表面の反応性化合物の層とを含みうる。本明細書で使用する場合、「反応性化合物」という句は、共有結合によって結び付いた分子化合物、及びイオン結合によって結び付いた塩を含む。反応性化合物は、採取及び予備濃縮に影響するように、カルボニル含有VOCとコンジュゲート又は付加物を形成する。本明細書で使用する場合、「カルボニル含有」とは、アルデヒド及びケトンを指す。
【0034】
一般的に言えば、反応性化合物は、目的のVOCのカルボニル官能基と反応することが可能な反応性末端と、支持構造体の表面への層の形成を可逆的に生じさせることが可能なアンカー部位と、反応性末端及びアンカー部位の間の連結基とを含む。下記の式(I)に表すように、反応性末端は、ヘテロ原子(Z)、連結基(L)、及びアンカー部位(Y)に結合したアミノ基(NH
2)を含み、ここで、Z、L、及びYは、下記に定義されている。本発明の実施形態によれば、反応性化合物は、式(I)の化合物による一般式:
H
2N-Z-L-Y 式(I)
(式中、Zは、NH、NR、又はOであり、Lは、連結基であり、Yは、二置換又は三置換されたN又はP部位であり、Rは、アルキル、アラルキル、アラルケニル、及びアラルキニルからなる群から選択され、これらは各々、置換されていても非置換であってもよく、場合により1個又は複数のヘテロ原子を含有していてもよい)を有する。
【0035】
一実施形態によれば、Yは、-NR
1R
2、又は-NR
1R
2R
3、-PR
1R
2、-PR
1R
2R
4であってもよく、ここで、R
1、R
2、R
4は、独立して、アルキル、アラルキル、アラルケニル、及びアラルキニルからなる群から選択され、これらは各々、置換されていても非置換であってもよく、場合により1個又は複数のヘテロ原子を含有していてもよく、R
3は、H、アルキル、アラルキル、アラルケニル、及びアラルキニルからなる群から選択され、これらは各々、置換されていても非置換であってもよく、場合により1個又は複数のヘテロ原子を含有していてもよい。代替の実施形態では、R
1及びR
2は、一緒になって複素環、例えばピペリジン又はモルホリン部位を形成することもできる。
【0036】
本発明の別の実施形態によれば、反応性化合物は、反応性末端と、カチオン性部位と、それらの間の連結基Lとを含みうる。Yが-NR
1R
2R
3又は-PR
1R
2R
4である場合、反応性化合物は、カチオン性塩であり、これは、アニオン性対イオンである
-Aを更に含みうる。従って、カチオン性部位は、カチオン性窒素、例えばアンモニウムイオン、又はカチオン性リン、例えばホスホニウムを含みうる。
【0037】
Yがリンである場合、R
1、R
2、及びR
4は、全てアリール基、例えばフェニルであってもよい。Yが窒素である場合、R
1、R
2、及びR
3は、アルキルであってもよく、これらは各々、置換されていても非置換であってもよく、場合により1個又は複数のヘテロ原子を含有していてもよい。代替の実施形態では、Yが窒素である場合、R
1、R
2は、アルキルであってもよく、これらは各々、置換されていても非置換であってもよく、場合により1個又は複数のヘテロ原子を含有していてもよく、R
3は、Hであってもよい。
【0038】
本発明の実施形態によれば、反応性末端は、ヒドラジン又はアミノオキシ基を含みうる。例えば、Zは、窒素、例えばNH又はNRであり、それによってヒドラジン末端を形成してもよい。或いは、Zは、酸素であり、それによってアミノオキシ末端を形成してもよい。ヒドラジン又はアミノオキシ末端は、反応性化合物の反応性官能基を形成し、従って、アルデヒド及びケトンは、脱水又は縮合反応によってヒドラジン又はアミノオキシ官能基と反応する。従って、反応性化学物質の反応性末端及びVOCのカルボニル官能基は、カルボニル含有VOC肺がんバイオマーカーの付加物を形成する縮合反応に対して相補的な反応物である。
【0039】
本発明の実施形態によれば、式(I)の反応性化合物の間で形成されるコンジュゲート又は付加物は、ヒドラゾン(Z=Nの場合)又はオキシム(Z=Oの場合)である。いずれの付加物形態においても、共有結合によりVOCをアンカー部位に固定し、それによってカルボニル含有VOC肺がんバイオマーカーを分析の前に予備濃縮する。
【0040】
反応性化合物において、連結基Lは、反応性末端をアンカー部位に共有結合させる。反応性化合物は、その連結基によって特に限定されない。しかしながら、反応性末端の近傍における置換の増加は、立体障害を増加させ、それによって化合物の反応性に影響しうる。従って、所望の場合、置換を変化させることにより、アルデヒド及びケトン分析物の区別が可能になりうる。本発明の実施形態によれば、連結基は、非イオン性セグメントを含んでいてもよく、これは、置換された若しくは非置換のアルキル、置換された若しくは非置換のアリール、又はエーテルであってもよい。例えば、連結基Lは、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、又はオクチルセグメントであってもよい。連結基Lは、エーテル、例えばポリエチレングリコール(PEG)を含んでいてもよい。
【0041】
反応性化合物が塩である場合、反応性化合物のアニオン性要素(A)は、正荷電部位を平衡させる負荷電種である。別の実施形態によれば、Aは、強酸の共役塩基であってもよい。例えば、Aは、ハロゲン化物イオン、例えば臭化物イオン又は塩化物イオンであってもよい。別の実施形態によれば、Aは、弱酸の共役塩基であってもよい。例えば、Aは、カルボキシレート、例えばベンゾエートであってもよい。一実施形態では、Zは、Oであり、Yは、窒素であり、反応性化合物は、式(II)の化合物による一般式:
【0043】
(式中、L、R
1、R
2、R
3、及びAは、上記に定義されている)を有する。別の実施形態では、R
1、R
2、及びR
3のうちの少なくとも1つは、メチル基であり、Aは、ハロゲン化物イオンである。
【0044】
反応性化合物はまた、複数の反応性末端を含むことができると想定される。例えば、R
1、R
2、及びR
3のうちの少なくとも1つは、置換された又は非置換のアルキルであり、これは、少なくとも2個のヘテロ原子を含み、一般式-L
1-Z-NH
2(式中、L
1は、アンモニア性窒素及びZの間の連結基である)を有していてもよい。
【0045】
スキーム1に示したように、Lがエチルである式(II)による例示的な反応性化合物(4)は、3工程の合成順序によって得ることができる。アミノアルコール(1)を光延条件下N-ヒドロキシフタルイミド(2)で最初に処理し、次に、これに続いてハロゲン化アルキル(R
3-X)を使用して四級化して保護塩(3)を得ることによって、アミノアルコール(1)を対応するフタロイル保護アミノオキシアンモニウム塩(3)に転換することができる。ヒドラジン分解によってフタロイル基を除去して、反応性化合物(4)を得る。例示的な反応性化合物を下記のTable 1(表1)に示す。
【0048】
更に別の実施形態では、Zは、Oであり、Yは、窒素であり、反応性化合物は、式(III)の化合物による一般式:
【0050】
を有する。一般式(III)による反応性化合物は、スキームIに示した合成順序において四級化工程(2)を省くことによって調製することができる。例えば、Lがエチルである式(III)による例示的な反応性化合物は、2工程の合成順序によって得ることができる。アミノアルコール(1)を光延条件下N-ヒドロキシフタルイミド(2)で最初に処理することによって、アミノアルコール(1)をその対応するフタロイル保護アミノオキシに転換することができる。ヒドラジン分解によってフタロイル基を除去して、式(III)による第三級アミン反応性化合物を得る。例示的な第三級アミン反応性化合物は、N-[2-(アミノオキシ)エチル]-モルホリン(AMA)である。
【0051】
一実施形態によれば、第三級アミン基をアンカー基として使用することができる。代替の実施形態では、第三級アミン反応性化合物は、プロトン酸による処理によって、そのブレンステッド塩に転換することができる。例えば、式(III)の第三級アミン反応性化合物は、好適な有機溶媒に溶解し、酸で処理して、式(II)(式中、R
3は、Hであり、Aは、その酸の共役塩基である)の反応性化合物を調製することができる。
【0052】
反応性化合物は、1種又は複数の溶媒に溶解し、次いで、支持構造体の表面に付着させてもよい。溶媒は特に限定されないが、反応性化合物を支持構造体の表面に残したまま蒸発することができるべきである。好適な溶媒には、極性プロトン性溶媒、極性非プロトン性溶媒、又はそれらの組合せが含まれる。例示的な極性プロトン性溶媒には、水及びアルコール、例えばメタノール及び/又はエタノールが含まれるがこれらに限定されない。例示的な極性非プロトン性溶媒には、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、及びニトロメタンが含まれるがこれらに限定されない。反応性化合物は、反応性化合物と少なくとも1種の溶媒とを組み合わせることによって得られる液体として提供することもでき、次いで、これを支持構造体の表面に塗布する。溶媒を除去すると、それによって反応性化合物が支持構造体の表面に層として付着する。
【0053】
本発明の実施形態によれば、化学予備濃縮器の支持構造体は、溶媒除去の後に反応性化合物が保持されうる表面を提供する。反応性化合物を支持構造体の表面に保持するのに寄与する結合力は、下記で更に論じるように、反応性化合物のアンカー部位(例えばアンモニウム基)部分と支持構造体の表面の官能基、例えばヒドロキシルとの間の相互作用である。
【0054】
支持構造体の構成は、いずれかの特定の構成によって特に限定されないが、存在する場合、入口及び出口の構造、形状、並びにアレイパターン等の特徴は、反応性化合物の所望の化学分析物を捕捉する効率に影響しうる。従って、支持構造体は、表面積及び流動動態を最適化するように構成することもできる。
【0055】
図2Aを参照すると、2本のフューズドシリカチューブに接続された予備濃縮器を示す写真が提示されており、これは、そのサイズを示すために米国10セント硬貨に載せて示されている。
図2Bには、
図2Aに示した予備濃縮器内のマイクロピラーアレイを示す走査電子顕微鏡写真が提示されている。予備濃縮器の他の表面構成を使用してもよい。
【0056】
支持構造体は、反応性化合物と適合し、化合物を付着させるのに使用される溶媒媒体に実質的に不溶性である、任意の材料を含みうる。より詳細には、支持構造体の表面は、支持構造体の下層部分と同じであっても異なっていてもよいが、製造にMEMS法を使用することを容易にする、誘電体及び半導体からなる群から選択される材料を含みうる。例えば、表面材料は、ケイ素、多結晶ケイ素、酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸窒化ケイ素、炭化ケイ素、チタン、酸化チタン、窒化チタン、酸窒化チタン、炭化チタン、アルミニウム、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、酸窒化アルミニウム、炭化アルミニウム、又はそれらの組合せであってもよい。有利には、反応性化合物は、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化アルミニウム、又はそれらの組合せを含む支持構造体表面に対して、非常に優れた結合を示す。
【0057】
支持構造体の表面は、反応性化合物を支持構造体に接着するための結合力に影響しうる。例えば、ウェハーのケイ素表面の熱酸化又は二酸化ケイ素の付着は、マイクロピラーのSiO
2表面のシラノール基の密度及び/又は帯電を制御しうる。
【0058】
化学予備濃縮器15は、支持構造体を取り囲むハウジングを更に含んでいてもよく、ハウジングは、入口17及び出口19を有する。一実施形態によれば、化学予備濃縮器は、支持構造体の表面に向けられた気流導管を含む。気流導管は、管状デバイスを含むことができ、これは、支持構造体に接合されていないか、又は支持構造体中へ製作されてもよい。出口19及び/又は入口17は、サンプリングポンプと連結するように構成し、それによってハウジングの外側の気体サンプルの一部分が入口を通ってハウジング中へ移動することを容易にすることもできる。
【0059】
反応性化合物は、任意の好適な方法によって支持構造体の表面に塗布されうる。一実施形態では、第1の溶媒と反応性化合物とを含む液体を支持構造体の表面と接触させ、第1の溶媒を減圧下で蒸発させることによって除去する。所望の場合、第1の溶媒を真空乾燥機で蒸発させてもよい。例えば、反応性化合物の希薄溶液を、単に担体溶媒として働く約0.5mLの第1の溶媒に溶解した約3.5mgの反応性化合物から調製することができる。約10μL〜約20μLの希薄溶液を予備濃縮器に加え、次いで、第1の溶媒を減圧下で除去して、予備濃縮器に反応性化合物をおよそ0.07〜0.14mg装入できるようにする。第1の溶媒を除去した後、化学予備濃縮器はカルボニル含有VOCバイオマーカーを濃縮する準備が整う。
【0060】
実際には、化学予備濃縮器に測定された体積の吐出呼気サンプルを通過させ、カルボニル含有VOCが、支持構造体の表面に保持された反応性化学物質との付加物を形成し、それによって効果的に、付加物の濃縮サンプルが得られる。曝露を停止した後、化学予備濃縮器を、VOC付加物を溶解することが可能な第2の溶媒で処理して、支持構造体の表面からのVOC付加物の除去を容易にし、分析試験のためのVOC付加物の濃縮サンプルを得てもよい。好適な溶媒には、極性プロトン性溶媒、極性非プロトン性溶媒、又はそれらの組合せが含まれる。例示的な極性プロトン性溶媒には、水及びアルコール、例えばメタノールが含まれるがこれらに限定されない。例示的な極性非プロトン性溶媒には、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、及びニトロメタンが含まれるがこれらに限定されない。所望の場合、第2の溶媒の少なくとも一部分を蒸発させることによって、溶出された濃縮サンプルを更に濃縮してもよい。
【0061】
VOC付加物の濃縮サンプルの少なくとも一部分は、VOC付加物を同定及び定量するために分析されうる。1つの例示的な分析ツールは質量分析であり、これは、クロマトグラフィーを伴って又は伴わずに実施されうる。例えば、コンジュゲートは、質量分析と連結された高速液体クロマトグラフィー(HPLC-MS)又は質量分析と連結されたガスクロマトグラフィー(GC-MS)を使用して分析されうる。中性の化学的コンジュゲート、例えば、一般式(III)による第三級アミン反応性化合物を使用して得られるものは、GC-MSを使用して容易に分析できる。第三級アミン反応性化合物の1つの有益な特徴は、酸によりプロトン化され、正電荷を形成するその能力であり、これは、下記で論じるフーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴-質量分析(FT-ICR-MS)による分析にとりわけよく適している。FT-ICR-MS及びGC-MSの結果を比較することによって、全てのケトン及びアルデヒド付加物を一般的に同定及び/又は定量することができる。他の分析法、例えばレーザー分光法等もまた、バイオマーカー付加物の定量に対して有用でありうることを理解されたい。内部標準を利用して、同定及び/又は定量プロセスを補助することもできる。
【0062】
利用される反応性化合物が一般式(II)によるカチオン性塩である場合、コンジュゲートを分析する別の有用な方法は、FT-ICR-MSである。カチオン性官能基はまた、ナノエレクトロスプレー法を使用した[+]イオンFT-ICR-MSにおいて並外れて高い感度を付与する。この並外れて高い感度により、フェムトモル〜アトモル範囲の検出限界が可能になる。この感度は、最も高感度のGC-MSでさえ一般的に検出のために100〜1,000フェムトモル以上を要することと比べても、桁違いに良好である。更に、VOCが不揮発性になるため、最終の分析溶液を濃縮(例えば乾固)し、非常に少量の溶媒で溶かすことができる。加えて、ナノエレクトロスプレーFTMSは、数マイクロリットルのサンプル体積しか必要としない。
【0063】
更に、FT-ICR-MSはまた、化学イオン化(CI)又は光イオン化(PI)と連結させ、負[-]イオンモードで動作させることもできる。[-]イオンモードでの動作は、カチオン相を排除し、化学予備濃縮器中に保持された他の化学物質の分析を可能にする。いずれのモードにおいても、反応性化合物のVOC付加物は、溶媒で溶解することによって予備濃縮器の構造支持体表面から脱着させ、続いて直接FT-ICR-MS分析を行うことができる。
【0064】
健康な対象対照、喫煙者対象対照、並びに良性肺疾患及び早期肺がんを有する対象から得ることができる、カルボニル含有VOC付加物の濃縮サンプルを、FT-ICR-MSを使用して分析し、定量することができる。次いで、統計的方法、例えばウィルコクソン検定を使用して分析結果を対象群間で比較して、対象群間の統計的有意差を決定することができる。本発明の実施形態によれば、特定のカルボニル含有VOCバイオマーカー(即ち、2-ブタノン、2-ヒドロキシアセトアルデヒド、3-ヒドロキシ-2-ブタノン、4-ヒドロキシ-2-ヘキセナール、4-ヒドロキシ-2-ノネナール、並びに2-ペンタノン及びペンタナールを含むC
5H
10O化合物の混合物)は、肺がん患者の吐出呼気中に統計的に有意な上昇したレベルで存在すると特定された。
【0065】
本明細書において、本発明者らは、シリコンマイクロリアクター化学予備濃縮器を使用して、吐出呼気中に含有されるカルボニル含有VOCの付加物を形成するカルボニル含有VOCを捕捉し、肺がんの病期及び組織型に関連する特定のカルボニル含有VOCを同定/定量する、定量分析を記載している。本明細書に記載された方法は、対象患者に十分な量の吐出呼気を提供すること、例えば、1リットルTedlarバッグを吐出呼気で満たすことのみを必要とする。次いで、吐出呼気サンプルを更に加工し、例えば質量分析によって、定量的に分析することができる。
【0066】
本明細書に記載された方法は、肺がんが酸化ストレス及びオキシダーゼ酵素を誘導し、これが、吐出呼気中の高濃度の特定のカルボニル含有VOCを生成するという、想定される原理を前提としている。カルボニル含有VOCは、生化学的経路において中間体として生成され、一部のものは、所与の経路、例えば、フリーラジカルによって誘導される脂質酸化に特有でありうる。従って、空気及び吐出呼気中の微量のカルボニルVOCの捕捉及び分析のために本発明者らが以前に開発したシリコンマイクロリアクター化学予備濃縮器技術を使用して、吐出呼気中のカルボニル含有VOC肺がんバイオマーカーを同定することに本研究の焦点を絞った。
【0067】
本明細書に従って、肺がん疾患状態を検出するための方法の非限定的な実施例をこれから下記に開示する。これらの実施例は、単に例示を目的としたものであり、本発明の範囲又は本発明を実施できる様式を限定するとみなされるべきではない。他の実施例は、当業者には理解されよう。
【実施例】
【0068】
化学予備濃縮器。
化学予備濃縮器(又はシリコンマイクロリアクター)は、標準的な微小電気機械システム(MEMS)製作法、例えば、Li, M.等(2012) Preconcentration and Analysis of Trace Volatile Carbonyl Compounds、Anal. Chem. 84:1288〜1293頁及び米国特許第8,663,581号に記載されたものを使用して、4インチ(10.16cm)シリコンウェハーから製作した。マイクロリアクター(
図2A)は、マイクロ流体チャネルを画定するマイクロピラーのアレイ(
図2Bに見られる)を含む。マイクロピラーは、寸法50μm×50μm×250μmの高アスペクト比を有し、これは乾式反応性イオンエッチング(DRIE)によって作成される。マイクロピラーの中心間の距離は100μmである。チャネルサイズは7mm×5mmであり、マイクロリアクター内の総容積は約5μLである。マイクロリアクターは、5000本を超える四角いマイクロピラーを含み、これは約260mm2の総マイクロピラー表面積に相当する。マイクロリアクターの入口及び出口に、シリカ系結合剤を使用して、外径190μm、内径100μmの不活性化フューズドシリカチューブを取り付けた(
図2Aを参照されたい)。
【0069】
2-(アミノオキシ)-N,N,N-トリメチルエタンアンモニウム(ATM)ヨージド[Table 1(表1)中の構造4a]によるチャネル及びマイクロピラーの表面機能化は、既知濃度のメタノール溶液中のATMヨージドを1つの接続ポートからマイクロリアクターに注入し、続いて溶媒を真空下で蒸発させることによって実施した。酸化ケイ素マイクロピラーのわずかに負の表面電荷により、カチオン性ATMのマイクロピラー表面への静電結合が可能になる。ATMは、高い反応性でオキシム化によって吐出呼気中の微量のカルボニル含有VOCと化学選択的に反応する。
【0070】
吐出呼気試料の採取及び加工。
空気及び吐出呼気のサンプルを1リットルTedlar(登録商標)バッグ(Sigma-Aldrich社、米国)に採取した。吐出呼気サンプルの採取のための詳細な研究プロトコールは、ルイビル大学の治験審査委員会(IRB)によって承認された。健康な喫煙者及び非喫煙者対照(n=88)並びに肺結節を有する患者(n=129)の吐出呼気サンプルを分析し、全てのカルボニル含有化合物の濃度を決定した。肺結節を有する患者の全ての臨床診断は、吐出呼気サンプルの採取の後に行い、肺がん及び良性肺結節の臨床診断結果を、吐出呼気サンプルの分析結果に基づく結論と比較した。
【0071】
吐出呼気のサンプル採取のためには、対象は、Teflon(登録商標)チップを通してTedlar(登録商標)バッグに直接呼気を吐出することになり、こうして、患者に容易に受け入れられる非侵襲的な採取法が実現された。吐出呼気の採取の後、Tedlar(登録商標)バッグを、1本のフューズドシリカチューブを介してマイクロリアクターの入口ポートに接続した。マイクロリアクターの出口ポートを、
図2Aに示したように、マイクロリアクター上の他のフューズドシリカチューブを介して真空ポンプに接続した。カルボニル含有VOCの捕捉のための
図1に示した分析アセンブリ10は、気体呼気サンプルをTedlar(登録商標)バッグからATMで被覆された予備濃縮器15を通して引き込むための真空ポンプ50を含む。吐出呼気サンプルを予備濃縮器15を通して引き込み、真空によって排出した後、予備濃縮器15の接続を切断した。最後に、ATM-VOC付加物を100μLの冷メタノールで予備濃縮器15から溶出して、99%のATM-VOC回収率を得た。溶出された溶液をFT-ICR-MSによって直接分析した。メタノール中の既知量のATM-アセトン-d6を、内部標準として溶離液に添加した。吐出呼気中の全てのカルボニル化合物の濃度は、相対的存在量を内部標準物質としての添加されたATM-アセトン-d6の存在量と比較することによって決定した。
【0072】
FT-ICR-MS機器。
エレクトロスプレーチップ(ノズル内径5.5μm)を備えたTriVersa NanoMateイオン源(Advion BioSciences社、Ithaca、NY)を装着したハイブリッドリニアイオントラップ-FT-ICR-MS(Finnigan LTQ FT、Thermo Electron社、Bremen、ドイツ)によって溶離液を分析した。TriVersa NanoMateは、正イオンモードで、ヘッド圧なしで2.0kVを印加することによって動作させた。最初に、1分間にわたり低分解能のMSスキャンを取得してイオン化の安定性を確保し、その後、FT-ICR分析器を使用して高質量精度データを収集した。800m/zで100,000の目標質量分解能で、8.5分間FT-MSスキャンを取得した。AGC(自動利得制御)最大イオン時間を500ms(しかし、典型的には<10msを利用した)に設定し、各保存されたスペクトルについて5回の「μスキャン」を取得したため、各変換及び保存されたスペクトルについてのサイクル時間は、約10秒であった。FT-ICR質量スペクトルを、QualBrowser 2.0(Thermo Electron社)を使用して精密質量リストとしてスプレッドシートファイルにエクスポートし、典型的には、観察されたピークを全てエクスポートした。ATM及びATM-VOC付加物は、最初に内部標準の観察質量に基づいて小さな(典型的には<0.0005)線形補正を適用することによって、その正確な質量に基づいて帰属した。
【0073】
統計データ分析
吐出呼気サンプル中の測定されたカルボニルVOC濃度を、健康な対照、NSCLC、SCLC、及び良性肺結節を有する患者の群に分けた。NSCLC群を腺癌及び扁平上皮癌の下位群に更に分け、ウィルコクソン検定によって分析して、2つの群間の統計的有意差を決定した。ウィルコクソン検定は、Minitabバージョン16.0を使用して実施した。
【0074】
結果及び考察
ATMで被覆された予備濃縮器によるカルボニル捕捉の効率を、最初に単一のカルボニル標準物質及びカルボニル標準物質の混合物を使用することによって特徴付けた。捕捉効率は、予備濃縮器を通って流れるVOC混合物の速度、並びにATM/カルボニル化合物のモル比によって影響される。最適化された予備濃縮器の微細構造及び動作条件下で、微量のケトン及びアルデヒドについて98%を超える捕捉効率が達成された。
【0075】
吐出呼気分析の前に、研究室の空気、診療室の空気、及び路上の空気のサンプル由来のカルボニルVOCの濃度を決定した。次いで、88人の健康な対照(45人の喫煙者、43人の非喫煙者)及び肺結節を有する147人の患者由来の吐出呼気サンプル中のカルボニルVOCの濃度を測定した。健康な対象及び肺結節を有する患者の吐出呼気サンプル中のC1(ホルムアルデヒド)〜C12由来のカルボニル含有VOCを検出した。
【0076】
同定された特定のカルボニル含有VOCバイオマーカーは、喫煙に関連しないことが更に実証された。更に、早期肺がんに対し、それを良性肺疾患からは区別するかたちで、高い特異度及び感度を示した。更に、PETスキャニングと比較して、肺がんの診断に対する同様の感度が実証されたが、肺がんではなく良性疾患の同定においてより高い特異度が実証され、それによってがんを有したことのない患者に対する侵襲的手技が回避される潜在性がある。
【0077】
研究した147人の対象患者及び88人の健康な志願者において、臨床的関連性が実証された。合計107人の対象患者は肺がんを有しており、40人は良性肺疾患を有していた。最初の10人の肺がん患者のFT-ICR-MSスペクトルを慎重に検討し、正常対照(即ち、健康な対象志願者)と比較した。この研究では、肺がん患者において上昇したレベルで存在した4種のカルボニル化合物を、肺がんバイオマーカーとして特徴付け、残りの患者において更に前向きに研究した。これらは、2-ブタノン、2-ヒドロキシアセトアルデヒド、3-ヒドロキシ-2-ブタノン、及び4-ヒドロキシ-2-ヘキセナール(4-HHE)であった。平均すると、これらの選ばれた4種の化合物は全て、健康な対照集団と比較して、がん群において有意に上昇していた(P値各<0.0001)が、2つの群の値の範囲には重なりが存在した。
【0078】
肺結節を有する147人の患者の診断は、呼気サンプルの採取の後に、生検又は切除のいずれかによって行った。肺がんの病理学的診断が107人の患者において確認され、良性結節が40人の患者において確認された。5人の患者は、呼気サンプルの採取の後少なくとも6カ月間の結節サイズの縮小に基づいて、良性肺結節であると臨床的に診断された。107人の肺がん患者は、SCLC8人、NSCLC97人、小及び非小細胞肺がんの組合せ1人、並びにカルチノイド腫瘍1人から構成された。
【0079】
2-ブタノン濃度(
図3A中のATM-C
4H
8O)は、典型的には、肺がん患者の吐出呼気中の全てのカルボニル含有VOCのうちで最も高い。アセトアルデヒド濃度(
図3B中のATM-C
2H
4O)は、健康な喫煙者において最も高く、これは恐らく煙草の煙中のその存在量に起因する。健康な非喫煙者は、典型的には、その吐出呼気中の最も高濃度のカルボニル化合物としてアセトン(
図3C中のATM-C
3H
6O)を有する。
図3はまた、肺がん患者が、健康な喫煙者(
図3B)及び非喫煙者(
図3C)よりも、明らかに高濃度の2-ブタノン及び3-ヒドロキシ-2-ブタノン(ATM-C
4H
8O
2、Mw=189.15982)を有する(
図3A)ことを示す。ウィルコクソン統計検定により、2-ブタノン(p<0.0001)、3-ヒドロキシ-2-ブタノン(p<0.0001)、2-ヒドロキシアセトアルデヒド(p<0.0001)、及び4-HHE(p<0.0005)の濃度は、健康な対照群よりも、肺がん患者の群の吐出呼気サンプル中で有意に高いことが示された。吐出呼気サンプル中の同定された肺がんのVOCを、標準物質としてSigma-Aldrich社及びCayman Inc.社に発注した同じ化合物を使用して、FT-ICR-MS/MSによって確認した。健康な対照の群、肺がんを有する患者の群、及び良性肺結節を有する患者の群についての、これらの4種のVOCの濃度範囲をTable 2(表2)に提示する。
【0080】
【表2】
【0081】
これらの4種のカルボニル含有VOC肺がんバイオマーカーの濃度範囲には重なりが存在する。とりわけ、2-ブタノン、3-ヒドロキシ-2-ブタノン、及び2-ヒドロキシアセトアルデヒドは、周囲空気中に存在する。しかしながら、空気中のこれらの3種のVOCの濃度は、吐出呼気中に見出されるよりも少なくとも10倍低かった。加えて、4-HHEは、空気中で検出されなかった。吐出呼気サンプル中のこれらのカルボニルVOCの濃度に対する呼吸気(tidal breath)又は周囲の空気の影響は無視することができる。従って、これらのカルボニル種は、主として肺胞からの呼気に由来し、その濃度は、がんの存在によって増加すると推測された。
【0082】
Table 3(表3)は、肺結節を有する129人の患者についての、Table 2(表2)に示した肺がんの濃度範囲内にある4種のカルボニルVOCの総数を掲載している。4種のカルボニルVOCを肺がんを示唆する濃度で吐出している全ての患者(n=29)が、肺がんであると診断され、3種のカルボニルVOCを肺がんを示唆する濃度で吐出している35人の患者のうち34人が、肺がんであると診断された。4種のカルボニルVOCのいずれも肺がんを示唆する濃度で有さない2人のがん患者が存在した。4種のカルボニルVOCのうちの少なくとも2種の上昇が肺がんを示唆するとする単純且つ実用的な診断規則を定めることによって、89.8%の感度及び81.3%の特異度が得られた。これらの結果は、臨床応用のために非常に有望であるが、肺がんの診断のための更に信頼性の高い方法を開発するために、肺結節を有するはるかに多数の患者を試験することが有利でありうる。
【0083】
【表3】
【0084】
カルボニル含有VOC肺がんバイオマーカーが肺がんの病期に関連しうるかどうかを決定するため、NSCLCのI期の患者34人、II期の患者16人、III期の患者24人、及びIV期の患者11人における2-ブタノン、3-ヒドロキシ-2-ブタノン、2-ヒドロキシアセトアルデヒド、及び4-HHEの濃度もまた、ウィルコクソン検定によって分析した。3-ヒドロキシ-2-ブタノン、2-ヒドロキシアセトアルデヒド、及び4-HHEの濃度は、肺がんの病期に関連しないと思われた。しかしながら、
図4Aに示したように、2-ブタノンの濃度は、I期の肺がんに関連しうる。I期の肺がんを有する患者の吐出呼気サンプル中の2-ブタノンの濃度は、健康な対照及び良性肺結節を有する患者における濃度よりも有意に高かったが、II〜IV期の肺がんを有する患者における濃度よりも低かった。IIからIV期の肺がんを有する患者において、2-ブタノン濃度の有意差は存在しないと思われる。
【0085】
これらのカルボニル含有VOC肺がんバイオマーカーと、NSCLCのがん組織型との間に関係がある可能性を判定するため、腺癌を有する33人の患者、扁平上皮癌を有する32人の患者、及び低分化NSCLC又は2種類のNSCLCの組合せのいずれかを有する15人の患者(
図4B中でONSCLCとして標識される)における4種のVOCバイオマーカーの濃度について更なる分析を実施した。扁平上皮癌を有する患者は、腺癌を有する患者よりも、有意に高い4-HHEの濃度を有する(p=0.03)(
図4B)。しかしながら、腺癌の群とONSCLC群との間には、4-HHEの濃度の有意差は観察されなかった。また、異なる病期の腺癌又は扁平上皮癌いずれかの患者において、4-HHEの濃度の有意差は観察されなかった(
図6)。
【0086】
呼気分析結果をSCLCを有する患者の将来の診断に使用するために、限局期SCLCを有する5人の患者及び進行期SCLCを有する4人の患者の呼気サンプル中の全てのカルボニルVOCの濃度を分析し、NSCLCを有する患者(n=88)と比較した。SCLC患者における2-ブタノン、3-ヒドロキシ-2-ブタノン、2-ヒドロキシアセトアルデヒド、及び4-HHEの濃度は、NSCLC患者群と比較して有意差はなかった(
図7)。しかしながら、
図5は、SCLC患者について、4-HNE(p<0.0001)及びC
5H
10O(p=0.0001)の濃度の有意な増加が存在することを示す。GC-MS分析を使用して、吐出呼気中のC
5H
10Oが2-ペンタノン及びペンタナールの混合物であることを決定した。4-HNEは、脂質過酸化によって生成される最も研究されている不飽和アルデヒドのうちの1つであり、最近の証拠により、肺がん発生の考えられる誘因として炎症性起源が指摘されている。4-HHE及び4-HNEはいずれも、肺がんの異常調節によって誘導されうる、脂質過酸化の生成物として認識されている。従って、2-ブタノン、3-ヒドロキシ-2-ブタノン、2-ヒドロキシアセトアルデヒド、及び4-HHEに加えて、4-HNE及びC
5H
10Oもまた、肺がん疾患状態を診断、病期分類、及び/又はその組織型を同定するための有用なカルボニル含有VOCバイオマーカーでありうる。
【0087】
2-ブタノン、3-ヒドロキシ-2-ブタノン、2-ヒドロキシアセトアルデヒド、及び4-HHEの濃度の上昇を早期(I及びII)のNSCLCの診断に使用できることを立証するため、がんの切除の前及び後のI及びII期のNSCLCを有する15人の患者から得られた吐出呼気サンプルを分析し、比較した。切除の前に、カルボニル含有VOCバイオマーカーパネルのプロファイルは、典型的な肺がん患者のもの(即ち、
図3Aと同様)であり、記されたVOCの濃度は、肺がんを示唆する上昇した範囲内にあった。がん切除及び術後少なくとも2週間の期間の後、吐出呼気中のVOCプロファイルは、健康な対照のものと同様(
図8に示した通り)であり、4種のVOC肺がんバイオマーカーの濃度は、健康な対照の範囲内にあった。
【0088】
結論として、ATMで被覆されたシリコンマイクロリアクターを使用して、濃度が上昇している場合には肺がんであると信頼性をもって診断する、吐出呼気中の4種のカルボニル含有VOCが同定された。具体的には、呼気中の2-ブタノン、3-ヒドロキシ-2-ブタノン、2-ヒドロキシアセトアルデヒド、及び4-HHEの濃度は、それぞれのATM-VOC付加物のFT-ICR-MS分析によって容易に定量され、これらの付加物の濃度の、健康な患者、又は更に良性肺結節を有する患者における濃度に対する上昇は、肺がんの存在を示す。2-ブタノンの濃度を使用して、I期の肺がんを、IIからIV期までの肺がんと識別することができる。更に、4-HHEの濃度を使用して、扁平上皮癌を腺癌及び他のNSCLCと識別することもでき、4-HNE及びC
5H
10Oの濃度を使用して、SCLC患者をNSCLC患者と識別することもできる。これらの知見は、肺がんの診断のための正確な非侵襲的手段として即時の応用性を有する。更なる研究により、これらがCTスキャニングと併せて肺がんの早期検出の有効な手段であり、切除後の肺がんの再発のモニタリングにおける有効な手段であることが示されうる。
【0089】
悪性腫瘍のリスクを決定するための方法は、所与の患者において上昇した肺がんバイオマーカーの数をカウントすることによって得られた。上昇したマーカーとは、そのマーカーについての対照集団の範囲よりも高いもののことであると定義した。良性疾患を有する患者と、早期及び末期がんを有する患者との間の結果を比較した。対象患者の吐出呼気サンプル中で3種又は4種の肺がんバイオマーカーが上昇していた場合、患者ががんを有する見込みは約95%であった。反対に、肺がんバイオマーカーのうちの0又は1種のみが上昇していた場合、良性疾患の確率は85%であった。肺がんバイオマーカーのうちの2種、3種、又は4種が上昇していた場合、感度及び特異度は80%を超えた。これらの結果は、早期と末期の両方の肺がんについて当てはまり、一貫していた。これらの結果は、吐出呼気分析が、早期肺がんを、X線写真上同様であると思われる良性疾患と識別しうることを実証した。
【0090】
更に、81人の患者についての早期肺がん対良性疾患の診断において、吐出呼気分析(BA)をPETスキャンと比較すると、呼気分析は、同様の感度を有していた(BA83%、PET90%)が、より高い特異度を有していた(BA74%、PET39%)。そのため、吐出呼気分析は、全体として、肺がんの診断において、PETよりも正確であることが見出された。
【0091】
受信者動作特性(ROC)分析:
図9〜
図11は、肺がん患者を比較対象群に対して識別するための、吐出呼気中で検出された9種のカルボニル化合物の受信者動作特性(ROC)曲線を示す。ROC曲線は、試験の感受性と特異度との間に存在する関係のグラフ表現であり、これは、実際の全陽性のうちの真陽性の割合を、実際の全陰性のうちの偽陽性の割合に対してプロットすることによって生成される。
図9には、良性肺結節を有する40人の患者と比較した、肺がんを有する107人の患者の評価についてのROC曲線を示す。
図10には、43人の健康な非喫煙者対照と比較した、肺がんを有する107人の患者の評価についてのROC曲線を示す。また
図11には、45人の健康な喫煙者対照と比較した、肺がんを有する107人の患者の評価についてのROC曲線を示す。ROC曲線を作成するためのRの様々なパッケージが存在するが、本明細書に提示した結果は、Caret Rパッケージ、バージョン5.15-023を利用した。(Kuhn M.「Caret: Classification and Regression Training」Rパッケージバージョン5.15-023、2012を参照されたい。)感度、特異度、全体的な正確度、及び受信者動作特性(ROC)曲線下面積(AUC)を、9種のカルボニル化合物について比較する。本発明の研究に基づけば、2-ブタノン、2-ペンタノン及びペンタナールの混合物、並びに3-ヒドロキシ-2-ブタノンは、肺がん患者を良性肺結節患者と識別するための単一マーカーとしての使用で、より高い特異度を示すようである。3-ヒドロキシ-2-ブタノン及び2-ブタノンは、肺がんを良性肺結節、非喫煙者及び喫煙者対照と識別する上で85%よりも高い感度及び80%の特異度を達成する。
【0092】
Table 4(表4)は、肺がんの単一種スクリーニングに使用されうる9種のカルボニル含有VOCバイオマーカーのうちの6種についての閾値(カットオフ値)(吐出呼気1リットル当たりのナノモルの単位で表される)を提示している。カルボニル含有VOCバイオマーカーの感度もまた示されている。肺がんを非喫煙者及び喫煙者群からスクリーニングするための2-ブタノン及び3-ヒドロキシ-2-ブタノンを使用した信頼水準(肺がんに対する感度)は、約85%であった。C5カルボニル化合物(ペンタナール及び2-ペンタノンの混合物)を使用すると、感度は約80%であるのに対し、2-ヒドロキシアセトアルデヒド、4-ヒドロキシ-2-ヘキセナール、及び4-ヒドロキシ-2-ノネナールの感度は、それぞれ約62%、約67%、及び約72%である。感度及び特異度は、各個々のマーカーのカットオフ(閾値)濃度に依存する。
【0093】
【表4】
【0094】
このように、本発明の別の実施形態によれば、対象試料において肺がん疾患状態をスクリーニングする非侵襲的方法が提供される。本方法は、対象試料由来の吐出呼気において、肺がんのバイオマーカーである1種又は複数のカルボニル含有VOCのレベルを検出する工程と、カルボニル含有VOCのうちの1種又は複数のレベルがそのそれぞれの閾値を超えて上昇している場合、対象試料を、肺がん疾患状態の60%を超える可能性を有すると確定する工程とを含む。Table 4(表4)に示したように、感度は、異なるVOCバイオマーカーを使用することによって増加しうる。この研究では、わずか5人の肺がん対象が上昇したバイオマーカーを有さなかったのに対し、102人の肺がん対象がTable 4(表4)に掲載された少なくとも1種の上昇したバイオマーカーを有していたことに更に注目されたい。従って、Table 4(表4)から選択されるバイオマーカーの少なくとも1つの上昇したレベルについての対象試料のスクリーニングは、約95%の感度を示した。
【0095】
本発明を実施形態の説明によって例示し、また例示的な実施形態をかなり詳細に説明してきたが、添付の特許請求の範囲の範囲をそのような詳細に制限したり何らかのかたちで限定したりすることは本発明者らの意図するところではない。追加の有利な点及び変更は、当業者には容易に想到されよう。従って、本発明は、そのより広範な態様では、示され記載された特定の詳細、代表的な装置及び方法、並びに例示的な実施例に限定されない。従って、本発明者らの一般的発明概念の範囲から逸脱することなく、そのような詳細から逸脱することができる。