【文献】
Journal of Thrombosis and Haemostasis,2014年 2月,Vol.12, No.2,p.206-213, Supporting Information
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本願発明は、FVIII機能代替活性を有する物質存在下において、FVIIIの反応性を測定する方法、例えばFVIII活性、FVIIIインヒビター力価を測定する方法に使用する抗体に関する。また本発明はFVIII機能代替活性を有する物質存在下において、FVIIIの反応性、例えばFVIII活性及びFVIIIインヒビター力価、を測定するためのキット等に含まれる抗体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは上記課題を解決すべく、FVIIIの反応性を測定する検査項目を対象に、本二重特異性抗体の活性を中和する物質を作製し、本二重特異性抗体存在下でも正確性が保たれる測定条件を探索した。その結果本発明者らは、二重特異性抗体に対する中和抗体を適切な濃度(例えば、二重特異性抗体を十分に中和できる濃度)で使用することで、APTTをベースとしたone-stage clotting assayにて、血友病A患者血漿中のFVIII活性を正確に評価できることを見出し、さらにAPTTをベースとしたBethesda assayにて、FVIIIインヒビター保有血友病A患者血漿中のFVIIIインヒビター力価を正確に評価できることも見出した。また本発明者らは、本測定に用いられる、FVIII代替活性を有する二重特異性抗体に対する中和抗体を含むキットを見出すことに成功した。本発明はこのような知見に基づくものであり、以下を提供するものである。
〔1〕凝固第VIII因子の機能代替活性を有する物質を中和する抗体。
〔2〕凝固第VIII因子の機能代替活性を有する物質が、凝固第IX因子および/または活性化凝固第IX因子ならびに凝固第X因子および/または活性化血液凝固第X因子に結合する二重特異性抗体である〔1〕に記載の抗体。
〔3〕前記二重特異性抗体が以下に記載のいずれかの抗体であって、第一のポリペプチドと第三のポリペプチドが会合し、第二のポリペプチドと第四のポリペプチドが会合する二重特異性抗体である〔1〕又は〔2〕に記載の抗体。
第一のポリペプチドが配列番号:9に記載のアミノ酸配列からなるH鎖、第二のポリペプチドが配列番号:11に記載のアミノ酸配列からなるH鎖および第三のポリペプチドと第四のポリペプチドが配列番号:10に記載の共通L鎖からなる二重特異性抗体(Q499-z121/J327-z119/L404-k)。
第一のポリペプチドが配列番号:36に記載のアミノ酸配列からなるH鎖、第二のポリペプチドが配列番号:37に記載のアミノ酸配列からなるH鎖および第三のポリペプチドと第四のポリペプチドが配列番号:38に記載の共通L鎖からなる二重特異性抗体(Q153-G4k/J142-G4h/L180-k)。
〔4〕前記中和する抗体が、凝固第IX因子および/または活性化凝固第IX因子に結合する抗原結合部位を含むFabに結合する抗体であって、
a)重鎖可変領域が、配列番号:12に記載のアミノ酸配列からなるCDR1と、配列番号:13に記載のアミノ酸配列からなるCDR2と、配列番号:14に記載のアミノ酸配列からなるCDR3を含み、
b)軽鎖可変領域が、配列番号:18に記載のアミノ酸配列からなるCDR1と、配列番号:19に記載のアミノ酸配列からなるCDR2と、配列番号:20に記載のアミノ酸配列からなるCDR3を含む、
〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の抗体。
〔5〕a)配列番号1に記載のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域と、
b)配列番号2に記載のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域
を含む〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載の抗体。
〔6〕前記中和する抗体が、凝固第X因子および/または活性化凝固第X因子に結合する抗原結合部位を含むFabに結合する抗体であって、
a)重鎖可変領域が、配列番号:24に記載のアミノ酸配列からなるCDR1と、配列番号:25に記載のアミノ酸配列からなるCDR2と、配列番号:26に記載のアミノ酸配列からなるCDR3を含み、
b)軽鎖可変領域が、配列番号:30に記載のアミノ酸配列からなるCDR1と、配列番号:31に記載のアミノ酸配列からなるCDR2と、配列番号:32に記載のアミノ酸配列からなるCDR3を含む、
〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の抗体。
〔7〕a)配列番号3の重鎖可変領域と、
b)配列番号4の軽鎖可変領域、
を含む〔1〕〜〔3〕、〔6〕のいずれかに記載の抗体。
〔8〕〔1〕〜〔7〕のいずれかに記載の抗体をコードする核酸。
〔9〕〔8〕に記載の核酸が挿入されたベクター。
〔10〕〔8〕に記載の核酸または〔9〕に記載のベクターを含む細胞。
〔11〕〔10〕に記載の細胞を培養することにより、抗体を製造する方法。
〔12〕凝固第IX因子および/または活性化凝固第IX因子に結合する抗原結合部位を含むFabに結合する抗体であって、
a)重鎖可変領域が、配列番号:12に記載のアミノ酸配列からなるCDR1と、配列番号:13に記載のアミノ酸配列からなるCDR2と、配列番号:14に記載のアミノ酸配列からなるCDR3を含み、
b)軽鎖可変領域が、配列番号:18に記載のアミノ酸配列からなるCDR1と、配列番号:19に記載のアミノ酸配列からなるCDR2と、配列番号:20に記載のアミノ酸配列からなるCDR3を含む、
抗体。
〔13〕a)配列番号:1に記載のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域と、
b)配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域
を含む〔12〕に記載の抗体。
〔14〕凝固第X因子および/または活性化凝固第X因子に結合する抗原結合部位を含むFabに結合する抗体であって、
a)重鎖可変領域が、配列番号:24に記載のアミノ酸配列からなるCDR1と、配列番号:25に記載のアミノ酸配列からなるCDR2と、配列番号:26に記載のアミノ酸配列からなるCDR3を含み、
b)軽鎖可変領域が、配列番号:30に記載のアミノ酸配列からなるCDR1と、配列番号:31に記載のアミノ酸配列からなるCDR2と、配列番号:32に記載のアミノ酸配列からなるCDR3を含む、
抗体。
〔15〕a)配列番号:3の重鎖可変領域と、
b)配列番号:4の軽鎖可変領域、
を含む〔14〕に記載の抗体。
〔16〕〔12〕〜〔15〕いずれかに記載の抗体をコードする核酸。
〔17〕〔16〕に記載の核酸が挿入されたベクター。
〔18〕〔16〕に記載の核酸または〔17〕に記載のベクターを含む細胞。
〔19〕〔18〕に記載の細胞を培養することにより、抗体を製造する方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、FVIII代替活性を有する物質の活性の影響を受けずに、FVIII活性及びFVIIIインヒビター力価を測定するために使用する抗体が提供された。FVIII代替活性を有する物質としては、FIXおよび/またはFIXaならびにFXおよび/またはFXaに結合する二重特異性抗体が挙げられる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のFVIIIの活性を測定する方法は、以下の(1)と(2)を接触させる工程を含む。その余は、一般的に用いられているFVIII活性測定方法に従って行うことができる。具体的には実施例においても説明する。
(1)FVIIIの機能代替活性を有する物質を含む血液由来サンプル
(2)FVIIIの機能代替活性を有する物質を中和する物質
【0017】
FVIII活性測定法
一般的に用いられているFVIII活性測定方法としては、当業者に公知の方法を用いることができるが、例えば凝固時間(aPTT測定)を基本とした、第VIII因子欠乏血漿(Sysmex, Kobe, Japan)を使用したone-stage clotting assay(Casillas et al., (1971) Coagulation 4: 107-11)を用いることができる。one-stage clotting assayは、例えば、以下の方法で実施される。10倍希釈した被験血漿 50 μL、FVIII欠乏血漿 50 μL、及びAPTT試薬 50 μLの3溶液を混合し、37℃、5分間インキュベーション後、カルシウム溶液 50 μLを添加することにより凝固反応を開始させ、凝固するまでの時間を測定する。また、被験血漿の代わりに、正常血漿希釈系列サンプル(10倍希釈した正常血漿中に含まれるFVIII活性を100%とする)を測定し、横軸にFVIII活性、縦軸に凝固時間をプロットした検量線を作成する。検量線から、被験血漿の凝固時間をFVIII活性に換算し、被験血漿中のFVIII活性を算出する。尚、本明細書においては、「FVIII活性の測定」は特に断らない限り、「活性化凝固第VIII因子(FVIIIa)の活性の測定」を含み得るものとして使われる。
【0018】
FVIII活性を測定する方法としては、one-stage clotting assay以外にも、トロンビン生成試験(TGA)、回転トロンボエラストメトリーを用いた測定法、FVIII chromogenic assay、凝固波形解析,トロンビンおよび活性型第X因子生成試験などを用いることができる。本発明のFVIIIインヒビターの力価を測定する方法は、以下の(1)と(2)を接触させる工程を含む。その余は、一般的に用いられているFVIIIインヒビター力価測定方法に従って行うことができる。具体的には実施例においても説明する。
(1)FVIIIの機能代替活性を有する物質を含む血液由来サンプル
(2)FVIIIの機能代替活性を有する物質を中和する物質
【0019】
FVIIIインヒビター力価測定法
一般的に用いられているFVIIIインヒビター力価測定方法としては、当業者に公知の方法を用いることができるが、例えばBethesda assay(Kasper et al., (1975) Thrombos Diath Haemorrh 34:869-872)、ELISA法、Nijmegen Bethesda assay(Nijmegen modification assay)(Verbruggen et al., (1995) Thromb Haemost 73:247-251)を用いることができる。Bethesda assayは、例えば以下の方法で実施される。正常血漿と被験血漿を等量混合した溶液を37℃、2時間インキュベーション後、正常血漿中の残存第VIII因子活性を、活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)をベースとしたone-stage clotting assayにて測定する。正常血漿中の第VIII因子活性の50%を阻害する作用を1ベセスダ(1BU)と規定されており、そのためFVIIIインヒビターの力価はベセスダの単位で算出する。なお、被験血漿中に含まれるFVIIIインヒビター力価が高く、残存第FVIII活性が25 - 75%の範囲に収まらない場合は、緩衝液で適当に希釈した被験血漿を用いて、再度ベセスダ単位を算出した後、希釈倍率を乗じて被験血漿中のFVIIIインヒビター力価を算出する。
【0020】
FVIII
FVIIIは血液凝固に関与する一連の分子の1つであり、トロンビンやFXaにより活性化を受けると補因子活性を呈し、FIXaによるFX活性化反応を促進する。
【0021】
FVIIIインヒビター
FVIIIインヒビターは、20〜30%の血友病A患者において生じる、外来性のFVIIIに対する同種抗体である。また、元は正常であった個体においても、後天的にFVIIIに対して自己抗体を生じ得る。一般に、FVIIIインヒビター同種抗体及び自己抗体の大部分は抗FVIII中和抗体として機能し、FVIII活性を減少させるか、又は消滅させる。
【0022】
FVIII代替活性
本発明のFVIII機能代替活性を有する物質は、FVIII様活性を有する物質と言い換えることもできる。本発明において「FVIIIの機能を代替する」とは、FIXaによるFXの活性化を促進する(FIXaによるFXa産生を促進する)ことを意味する。また、より具体的には、本発明において「FVIIIの機能を代替する」とは、FIXおよび/またはFIXaならびにFXおよび/またはFXaを認識し、FIXaによるFXの活性化を促進する(FIXaによるFXa産生を促進する)ことを意味する。FXa産生促進活性は、例えば、FIXa、FX、合成基質S-2222(FXaの合成基質)、リン脂質から成る測定系で評価することができる。このような測定系は、血友病A症例における疾患の重症度および臨床症状と相関性を示す(Rosen S, Andersson M, Blomba¨ck M et al. Clinical applications of a chromogenic substrate method for determination of FVIII activity. Thromb Haemost 1985; 54: 811-23)。
【0023】
本発明に記載のFVIIIの機能を代替する活性を有する物質の好ましい態様として、FIXおよび/またはFIXaならびにFXおよび/またはFXaに結合する二重特異性抗体を例示することができる。このような抗体は、例えばWO2005/035756、WO2006/109592、WO2012/067176などに記載の方法に従って取得することができる。本発明の二重特異性抗体にはこれらの文献に記載の抗体が含まれる。
【0024】
好ましい二重特異性抗体として、特許文献(WO 2012/067176)に記載の二重特異性抗体であるACE910 (Q499-z121/J327-z119/L404-k)(配列番号:9に記載のアミノ酸配列からなるH鎖と配列番号:10に記載のL鎖が会合し、配列番号:11に記載のアミノ酸配列からなるH鎖と配列番号:10に記載のL鎖が会合している二重特異性抗体)、 hBS23 (Q153-G4k/J142-G4h/L180-k)(配列番号:36に記載のアミノ酸配列からなるH鎖と配列番号:38に記載のL鎖が会合し、配列番号:37に記載のアミノ酸配列からなるH鎖と配列番号:38に記載のL鎖が会合している二重特異性抗体)を挙げることができる。
【0025】
中和
本発明におけるFVIIIの機能代替活性を有する物質を中和する物質における「中和」とは例えばFVIII機能代替活性を有する物質のFVIII機能代替活性を全部または一部阻害することをいう。FVIII機能代替活性のを全部または一部の阻害は、例えばFVIIIの機能代替活性を有する物質が抗体の場合、抗体の抗原への結合を全部または一部阻害することによって実現しうるが、これに限定されるものではない。
【0026】
中和する物質
本発明におけるFVIIIの機能代替活性を有する物質を中和する物質における中和する物質の「物質」とは、例えば、FVIIIの機能代替活性を有する物質に結合するペプチド、ポリペプチド、有機化合物、アプタマー、抗体などを言う。
中和する物質は複数組み合わせて使用することができ、例えば抗体とアプタマーを組み合わせて使用することができる。
【0027】
ポリペプチド
本発明におけるポリペプチドとは、通常、10アミノ酸程度以上の長さを有するペプチド、およびタンパク質を指す。また、通常、生物由来のポリペプチドであるが、特に限定されず、例えば、人工的に設計された配列からなるポリペプチドであってもよい。また、天然ポリペプチド、あるいは合成ポリペプチド、組換えポリペプチド等のいずれであってもよい。さらに、上記のポリペプチドの断片もまた、本発明のポリペプチドに含まれる。
【0028】
有機化合物
本発明における有機化合物は、例えば低分子化合物であり、好ましくは分子量が1000以下である。
【0029】
アプタマー
「アプタマー」は、ポリペプチドなどの標的分子に特異的に結合する核酸分子を指す。例えば、本発明のアプタマーは、FVIII代替活性を有する物質に特異的に結合することができるRNAアプタマーであることができる。アプタマーの生成および治療的使用は当分野において十分に確立されている。例えば、アプタマーはSELEX法(米国特許第5475096号、同5580737号、同5567588号、同5707796号、同5763177号、同6699843号などを参照)を用いることで取得可能である。
【0030】
抗体
FVIIIの機能代替活性を有する物質に結合する抗体としては、例えばFVIIIの機能代替活性を有する物質がFIXおよび/またはFIXaならびにFXおよび/またはFXaに結合する二重特異性抗体の場合、FIXに結合する抗原結合部位を含むFabに結合する抗体、FIXaに結合する抗原結合部位を含むFabに結合する抗体、FXに結合する抗原結合部位を含むFabに結合する抗体、FXaに結合する抗原結合部位を含むFabに結合する抗体、FIXおよび/またはFIXaに結合する抗原結合部位を含むFabならびにFXおよび/またはFXaに結合する抗原結合部位を含むFabに結合する二重特異性抗体からなる群から選ばれる抗体を挙げることができる。上記抗体を単独で使用することができ、また複数組み合わせて使用することができる。例えば、1種類の抗原に結合する抗原結合部位を含むFabに結合する抗体を複数、例えばFIXに結合する抗原結合部位を含むFabに結合する抗体を複数種類、使用することもできる。FVIIIの機能代替活性を有する物質がFIXおよび/またはFIXaならびにFXおよび/またはFXaに結合する二重特異性抗体の場合、例えば以下の組み合わせで使用することができる。
(a) FIXに結合する抗原結合部位を含むFabに結合する抗体とFXに結合する抗原結合部位を含むFabに結合する抗体
(b) FIXaに結合する抗原結合部位を含むFabに結合する抗体とFXに結合する抗原結合部位を含むFabに結合する抗体
(c) FIXに結合する抗原結合部位を含むFabに結合する抗体とFIXaに結合する抗原結合部位を含むFabに結合する抗体
(d) FIXに結合する抗原結合部位を含むFabに結合する抗体、FXに結合する抗原結合部位を含むFabに結合する抗体及びFIXaに結合する抗原結合部位を含むFabに結合する抗体
【0031】
FIXおよび/又はFIXaに結合する抗原結合部位を含むFabに結合する抗体としては、例えばAQ8、AQ1、AQ512抗体を挙げることができる。可変領域の塩基配列とそれから予測されるアミノ酸配列は、GENETYX Ver.9 (GENETYX CORPORATION)にて解析した。
AQ8のH鎖可変領域のアミノ酸配列及び核酸配列は以下の配列番号で示される。
アミノ酸配列:配列番号:1
核酸配列:配列番号:5
AQ8のL鎖可変領域のアミノ酸配列及び核酸配列は以下の配列番号で示される。
アミノ酸配列:配列番号:2
核酸配列:配列番号:6
AQ8のH鎖CDR1〜3のアミノ酸配列及び核酸配列は以下の配列番号で示される。
CDR1アミノ酸配列:配列番号:12
CDR2アミノ酸配列:配列番号:13
CDR3アミノ酸配列:配列番号:14
CDR1核酸配列:配列番号:15
CDR2核酸配列:配列番号:16
CDR3核酸配列:配列番号:17
AQ8のL鎖CDR1〜3のアミノ酸配列及び核酸配列は以下の配列番号で示される。
CDR1アミノ酸配列:配列番号:18
CDR2アミノ酸配列:配列番号:19
CDR3アミノ酸配列:配列番号:20
CDR1核酸配列:配列番号:21
CDR2核酸配列:配列番号:22
CDR3核酸配列:配列番号:23
【0032】
FXおよび/又はFXaに結合する抗原結合部位を含むFabに結合する抗体としては、例えばAJ540、AJ541、AJ522、AJ114、AJ521抗体を挙げることができる。可変領域の塩基配列とそれから予測されるアミノ酸配列は、GENETYX Ver.9 (GENETYX CORPORATION)にて解析した。
AJ540のH鎖可変領域のアミノ酸配列及び核酸配列は以下の配列番号で示される。
アミノ酸配列:配列番号:3
核酸配列:配列番号:7
AJ540のL鎖可変領域のアミノ酸配列及び核酸配列は以下の配列番号で示される。
アミノ酸配列:配列番号:4
核酸配列:配列番号:8
AJ540のH鎖CDR1〜3のアミノ酸配列及び核酸配列は以下の配列番号で示される。
CDR1アミノ酸配列:配列番号:24
CDR2アミノ酸配列:配列番号:25
CDR3アミノ酸配列:配列番号:26
CDR1核酸配列:配列番号:27
CDR2核酸配列:配列番号:28
CDR3核酸配列:配列番号:29
AJ540のL鎖CDR1〜3のアミノ酸配列及び核酸配列は以下の配列番号で示される。
CDR1アミノ酸配列:配列番号:30
CDR2アミノ酸配列:配列番号:31
CDR3アミノ酸配列:配列番号:32
CDR1核酸配列:配列番号:33
CDR2核酸配列:配列番号:34
CDR3核酸配列:配列番号:35
【0033】
「抗体」という用語は、最も広い意味で使用され、所望の生物学的活性を示す限り、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、二量体、多量体、多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)、抗体誘導体及び抗体修飾物であってもよい(Miller K et al. J Immunol. 2003, 170(9), 4854-61)。抗体は、マウス抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体であってもよく、または他の種由来であっても、人工的に合成したものであってもよい。本明細書中に開示される抗体は、免疫グロブリン分子の任意のタイプ(例えば、IgG、IgE、IgM、IgDおよびIgA)、クラス(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1およびIgA2)またはサブクラスであり得る。免疫グロブリンは、任意の種(例えば、ヒト、マウスまたはウサギ)由来であり得る。尚、「抗体」、「免疫グロブリン」及び「イムノグロブリン」なる用語は互換性をもって広義な意味で使われる。
【0034】
「抗体誘導体」とは抗体の一部、好ましくは抗体の可変領域、または少なくとも抗体の抗原結合領域を含む。抗体誘導体には、例えばFab、Fab'、F(ab')2、Fv断片、線状抗体、一本鎖抗体(scFv)、sc(Fv)
2、Fab
3、ドメイン抗体 (dAb)(国際公開第2004/058821号、国際公開第2003/002609号)、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ、ミニボディ及び抗体誘導体から形成される多重特異性抗体が含まれるが、それらに限定されるわけではない。ここで、「Fab」は一本の軽鎖、ならびに一本の重鎖のCH1領域および可変領域から構成される。また、「Fv」は最小の抗体誘導体であり、完全な抗原認識領域と抗原結合領域を含む。また抗体誘導体は例えばIgG抗体のFcとの融合体であってもよい。例えば、米国特許第5641870号明細書、実施例2;Zapata G et al. Protein Eng.1995, 8(10), 1057-1062 ; Olafsen T et al. Protein Eng. Design & Sel. 2004, 17(4):315-323 ; Holliger P et al. Nat. Biotechnol. 2005, 23(9);1126-36;Fischer N et al. Pathobiology. 2007, 74(1):3-14 ; Shen J et al. J Immunol Methods. 2007, 318, 65-74 ; Wu et al. Nat Biotechnol. 2007, 25(11), 1290-7を参照できる。
【0035】
抗体修飾物としては、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)等の各種分子と結合した抗体を挙げることができる。本発明の抗体には、これらの抗体修飾物も包含される。本発明の抗体修飾物においては、結合される物質は限定されない。このような抗体修飾物を得るには、得られた抗体に化学的な修飾を施すことによって得ることができる。これらの方法はこの分野において既に確立されている。
【0036】
「二重特異性」抗体は、異なるエピトープを認識する可変領域を同一の抗体分子内に有する抗体をいう。二重特異性抗体は2つ以上の異なる抗原を認識する抗体であってもよいし、同一抗原上の異なる2つ以上のエピトープを認識する抗体であってもよい。二重特異性抗体には、wholeの抗体だけでなく抗体誘導体が含まれていてもよい。本発明の抗体には、二重特異性抗体も含まれる。なお、本明細書において、抗FIXa/FX二重特異性抗体は、FIXa及びFXに結合する二重特異性抗体と同義で用いられる。
【0037】
遺伝子組換え抗体の作成方法
抗体としては、遺伝子組換え技術を用いて産生した組換え型抗体を用いることができる。組換え型抗体は、それをコードするDNAをハイブリドーマ、または抗体を産生する感作リンパ球等の抗体産生細胞からクローニングし、ベクターに組み込んで、これを宿主(宿主細胞)に導入し産生させることにより得ることができる。
【0038】
抗体は、ヒト抗体、マウス抗体、ラット抗体など、その由来は限定されない。またキメラ抗体やヒト化抗体などの遺伝子改変抗体でもよい。
【0039】
ヒト抗体の取得方法は既に知られており、例えば、ヒト抗体遺伝子の全てのレパートリーを有するトランスジェニック動物を目的の抗原で免疫することで目的のヒト抗体を取得することができる(国際特許出願公開番号WO 93/12227, WO 92/03918,WO 94/02602, WO 94/25585,WO 96/34096, WO 96/33735参照)。
【0040】
遺伝子改変抗体は、既知の方法を用いて製造することができる。具体的には、たとえばキメラ抗体は、免疫動物の抗体のH鎖、およびL鎖の可変領域と、ヒト抗体のH鎖およびL鎖の定常領域からなる抗体である。免疫動物由来の抗体の可変領域をコードするDNAを、ヒト抗体の定常領域をコードするDNAと連結し、これを発現ベクターに組み込んで宿主に導入し産生させることによって、キメラ抗体を得ることができる。
【0041】
ヒト化抗体は、再構成(reshaped)ヒト抗体とも称される改変抗体である。ヒト化抗体は、免疫動物由来の抗体のCDRを、ヒト抗体の相補性決定領域へ移植することによって構築される。その一般的な遺伝子組換え手法も知られている(欧州特許出願公開番号EP 239400、国際特許出願公開番号WO 96/02576、Sato K et al, Cancer Research 1993, 53: 851-856、国際特許出願公開番号WO 99/51743参照)。
【0042】
二重特異性抗体(bispecific抗体)は、二種の異なる抗原に対して特異性を有する抗体である。
【0043】
二重特異性抗体はIgGタイプのものに限られないが、例えばIgGタイプ二重特異性抗体はIgG抗体を産生するハイブリドーマ二種を融合することによって生じるhybrid hybridoma(quadroma)によって分泌させることが出来る(Milstein C et al. Nature 1983, 305: 537-540)。また目的の二種のIgGを構成するL鎖及びH鎖の遺伝子、合計4種の遺伝子を細胞に導入することによって共発現させることによって分泌させることが出来る。
【0044】
この際H鎖のCH3領域に適当なアミノ酸置換を施すことによってH鎖についてヘテロな組合せのIgGを優先的に分泌させることも出来る(Ridgway JB et al. Protein Engineering 1996, 9: 617-621、Merchant AM et al. Nature Biotechnology 1998, 16: 677-681、WO2006/106905、Davis JH et al. Protein Eng Des Sel. 2010, 4: 195-202.)。
【0045】
また、L鎖に関しては、H鎖可変領域に比べてL鎖可変領域の多様性が低いことから、両H鎖に結合能を与え得る共通のL鎖が得られることが期待され、本発明の抗体は、共通のL鎖を有する抗体であってもよい。この共通L鎖と両H鎖遺伝子を細胞に導入することによってIgGを発現させることで効率の良い二重特異性IgGの発現が可能となる。
【0046】
エピトープ
本発明におけるFVIIIの機能代替活性を有する物質を中和する物質の一実施形態である抗体は、当該抗体が結合するエピトープと重複するエピトープに結合する抗体、より好ましくは同じエピトープに結合する抗体も包含する。
【0047】
ある抗体が他の抗体と重複するエピトープ又は同じエピトープを認識するか否かは、両者のエピトープに対する競合によって確認することができる。抗体間の競合は、競合結合アッセイによって評価することができ、その手段として酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)、蛍光エネルギー転移測定法(FRET)や蛍光微量測定技術(FMAT(登録商標))などが挙げられる。抗原に結合した該抗体の量は、重複するエピトープ又は同一のエピトープへの結合に対して競合する候補競合抗体(被検抗体)の結合能に間接的に相関している。すなわち、重複するエピトープ又は同一のエピトープに対する被検抗体の量や親和性が大きくなるほど、該抗体の抗原への結合量は低下し、抗原への被検抗体の結合量は増加する。具体的には、抗原に対し、適当な標識をした該抗体と、被検抗体と、を同時に添加し、標識を利用して結合している該抗体を検出する。抗原に結合した該抗体量は、該抗体を予め標識しておくことで、容易に測定できる。この標識は特には制限されないが、手法に応じた標識方法を選択する。標識方法は、具体的には蛍光標識、放射標識、酵素標識などが挙げられる。
【0048】
ここでいう「重複するエピトープに結合する抗体」又は「同一のエピトープに結合する抗体」とは、標識該抗体に対して、非標識の該抗体の結合により結合量を50%低下させる濃度(IC
50)に対して、被検抗体が非標識該抗体のIC
50の通常、100倍、好ましくは80倍、さらに好ましくは50倍、さらに好ましくは30倍、より好ましくは10倍高い濃度で少なくとも50%、標識該抗体の結合量を低下させることができる抗体である。なお、抗体が認識するエピトープの解析は当業者に公知の方法により行うことが可能であり、例えばウェスタンブロッティング法などにより行うことが可能である。
【0049】
抗体の製造方法
本発明の抗体は当業者に公知の方法により製造することができる。具体的には、目的とする抗体をコードするDNAを発現ベクターへ組み込む。その際、発現制御領域、例えば、エンハンサー、プロモーターの制御のもとで発現するよう発現ベクターに組み込む。次に、この発現ベクターにより宿主細胞を形質転換し、抗体を発現させる。その際には、適当な宿主と発現ベクターの組み合わせを使用することができる。
【0050】
ベクターの例としては、M13系ベクター、pUC系ベクター、pBR322、pBluescript、pCR-Scriptなどが挙げられる。また、cDNAのサブクローニング、切り出しを目的とした場合、上記ベクターの他に、例えば、pGEM-T、pDIRECT、pT7などを用いることができる。
【0051】
抗体を生産する目的においてベクターを使用する場合には、特に、発現ベクターが有用である。発現ベクターとしては、例えば、宿主をJM109、DH5α、HB101、XL1-Blueなどの大腸菌とした場合においては、大腸菌で効率よく発現できるようなプロモーター、例えば、lacZプロモーター(Wardら, Nature (1989) 341, 544-546;FASEB J. (1992) 6, 2422-2427)、araBプロモーター(Betterら, Science (1988) 240, 1041-1043)、またはT7プロモーターなどを持っていることが不可欠である。このようなベクターとしては、上記ベクターの他にpGEX-5X-1(Pharmacia社製)、「QIAexpress system」(QIAGEN社製)、pEGFP、またはpET(この場合、宿主はT7 RNAポリメラーゼを発現しているBL21が好ましい)などが挙げられる。
【0052】
また、ベクターには、ポリペプチド分泌のためのシグナル配列が含まれていてもよい。ポリペプチド分泌のためのシグナル配列としては、大腸菌のペリプラズムに産生させる場合、例えばpelBシグナル配列(Lei, S. P. et al J. Bacteriol. (1987) 169, 4397)を使用すればよい。宿主細胞へのベクターの導入は、例えば塩化カルシウム法、エレクトロポレーション法を用いて行うことができる。
【0053】
大腸菌発現ベクターの他、本発明の抗体を製造するためのベクターとしては、例えば、哺乳動物由来の発現ベクター(例えば、pcDNA3(Invitrogen社製)や、pEGF-BOS (Nucleic Acids. Res.1990, 18(17),p5322)、pEF、pCDM8)、昆虫細胞由来の発現ベクター(例えば「Bac-to-BAC baculovirus expression system」(GIBCO BRL社製)、pBacPAK8)、植物由来の発現ベクター(例えばpMH1、pMH2)、動物ウィルス由来の発現ベクター(例えば、pHSV、pMV、pAdexLcw)、レトロウィルス由来の発現ベクター(例えば、pZIPneo)、酵母由来の発現ベクター(例えば、「Pichia Expression Kit」(Invitrogen社製)、pNV11、SP-Q01)、枯草菌由来の発現ベクター(例えば、pPL608、pKTH50)が挙げられる。
【0054】
CHO細胞、COS細胞、NIH3T3細胞等の動物細胞での発現を目的とした場合には、細胞内で発現させるために必要なプロモーター、例えばSV40プロモーター(Mulliganら, Nature (1979) 277, 108)、MMTV-LTRプロモーター、EF1αプロモーター(Mizushimaら, Nucleic Acids Res. (1990) 18, 5322)、CAGプロモーター(Gene. (1991) 108, 193)、CMVプロモーターなどを持っていることが不可欠であり、形質転換細胞を選抜するための遺伝子を有すればさらに好ましい。形質転換細胞を選抜するための遺伝子としては、例えば、薬剤(ネオマイシン、G418など)により判別できるような薬剤耐性遺伝子がある。このような特性を有するベクターとしては、例えば、pMAM、pDR2、pBK-RSV、pBK-CMV、pOPRSV、pOP13などが挙げられる。
【0055】
さらに、遺伝子を安定的に発現させ、かつ、細胞内での遺伝子のコピー数の増幅を目的とする場合には、核酸合成経路を欠損したCHO細胞にそれを相補するDHFR遺伝子を有するベクター(例えば、pCHOIなど)を導入し、メトトレキセート(MTX)により増幅させる方法が挙げられ、また、遺伝子の一過性の発現を目的とする場合には、SV40 T抗原を発現する遺伝子を染色体上に持つCOS細胞を用いてSV40の複製起点を持つベクター(pcDなど)で形質転換する方法が挙げられる。複製開始点としては、また、ポリオーマウィルス、アデノウィルス、ウシパピローマウィルス(BPV)等の由来のものを用いることもできる。さらに、宿主細胞系で遺伝子コピー数増幅のため、発現ベクターは選択マーカーとして、アミノグリコシドトランスフェラーゼ(APH)遺伝子、チミジンキナーゼ(TK)遺伝子、大腸菌キサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(Ecogpt)遺伝子、ジヒドロ葉酸還元酵素(dhfr)遺伝子等を含むことができる。
【0056】
これにより得られた本発明の抗体は、宿主細胞内または細胞外(培地など)から単離し、実質的に純粋で均一な抗体として精製することができる。抗体の分離、精製は、通常の抗体の精製で使用されている分離、精製方法を使用すればよく、何ら限定されるものではない。例えば、クロマトグラフィーカラム、フィルター、限外濾過、塩析、溶媒沈殿、溶媒抽出、蒸留、免疫沈降、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動、等電点電気泳動法、透析、再結晶等を適宜選択、組み合わせれば抗体を分離、精製することができる。
【0057】
クロマトグラフィーとしては、例えばアフィニティークロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、ゲル濾過、逆相クロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィー等が挙げられる(Strategies for Protein Purification and Characterization: A Laboratory Course Manual. Ed Daniel R. Marshak et al., Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1996)。これらのクロマトグラフィーは、液相クロマトグラフィー、例えばHPLC、FPLC等の液相クロマトグラフィーを用いて行うことができる。アフィニティークロマトグラフィーに用いるカラムとしては、Protein Aカラム、Protein Gカラムが挙げられる。例えば、Protein Aを用いたカラムとして、Hyper D, POROS, Sepharose FF(GE Amersham Biosciences)等が挙げられる。本発明は、これらの精製方法を用い、高度に精製された抗体も包含する。
【0058】
得られた抗体は、均一にまで精製することができる。抗体の分離、精製は通常の蛋白質で使用されている分離、精製方法を使用すればよい。例えばアフィニティークロマトグラフィー等のクロマトグラフィーカラム、フィルター、限外濾過、塩析、透析、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動、等電点電気泳動等を適宜選択、組合せれば、抗体を分離、精製することができる(Antibodies : A Laboratory Manual. Ed Harlow and David Lane, Cold Spring Harbor Laboratory, 1988)が、これらに限定されるものではない。アフィニティークロマトグラフィーに用いるカラムとしては、Protein Aカラム、Protein Gカラムなどが挙げられる。
【0059】
サンプル取得方法
本発明において、血液由来サンプルは好ましくは被験者から採取された血液由来サンプルである。このような血液由来サンプルは、FVIII代替活性を有する物質を投与された被験者から取得することができる。被験者としては、体内のいずれかの部位に出血性の症状を伴う患者(出血性疾患患者)が挙げられる。主な出血部位としては、関節内、筋肉内、皮下、口腔内、頭蓋内、消化管、鼻腔内などが挙げられるがこれらに限定されない。出血性疾患患者としては、好ましくはFVIII及び/又はFVIIIaの活性の低下あるいは欠損が原因の出血性疾患患者が挙げられる。FVIII及び/又はFVIIIaの活性の低下あるいは欠損が原因の出血性疾患患者としては、出血性の症状を有する患者であって、先天的あるいは後天的に、FVIII及びFVIIIaのいずれか一方又は両方の活性が低下または欠損した患者を例示することができる。FVIII、FVIIIaの活性の低下としては、健常者と比較して、これらの活性が好ましくは40%未満(例えば40%未満、30%未満、20%未満、10%未満)、より好ましくは10%未満(例えば10%未満、9%未満、8%未満、7%未満、6%未満)、さらに好ましくは5%未満(例えば5%未満、4%未満、3%未満、2%未満)、特に好ましくは1%未満の患者が挙げられるがこれらに限定されない。
【0060】
より具体的には、このような疾患の例として、血友病(血友病A、血友病B)、後天性血友病及び、フォンビルブランド因子(vWF)の機能異常又は欠損に起因するフォンビルブランド病から選ばれる疾患が挙げられるがこれらに限定されない。血液由来サンプルには、血清、血漿、または全血が含まれる。本発明においては、血漿サンプルを使用することが好ましい。被験者からの血液由来サンプルの取得方法は当業者に周知である。
【0061】
キット
本発明の抗体を用いたFVIIIの反応性を測定する方法に必要なバッファーなど各種の試薬類は、あらかじめパッケージングしてキットとして供給することができる。本発明のキットには、バッファーのほか、血液中のFVIII活性やFIX活性が正常なヒトから単離された血漿サンプル、FVIII代替活性を有する物質、FVIII活性測定に使用可能なもの、FVIIIインヒビター力価測定に使用可能なものなどを含むことができる。またキットに含まれる各種の試薬は、その使用態様に応じて粉末状あるいは液状とすることができる。またこれらを適当な容器に収納し、適時に使用することができる。
【0062】
本発明の抗体を使用した方法を用いて、例えば、FVIIIの機能代替活性を有する物質を投与した患者の重症度を診断することができる。本発明の抗体を使用した方法を用いてFVIIIの反応性を測定し、その測定結果に基づき、患者の重症度及び/またはインヒビター力価を診断・判定することができる。診断・判定方法は当業者に公知の方法により行うことができる。
【0063】
本発明の抗体を使用した方方法を用いて、例えば、FVIIIの機能代替活性を有する物質及びFVIII製剤を投与した患者におけるFVIII製剤の薬理活性をモニタリングすることができる。モニタリングは当業者に公知の方法により行うことができる。
【0064】
本発明の抗体を含むキットは、例えば、FVIIIの機能代替活性を有する物質を投与した患者の重症度を診断するキットとして用いることができる。本発明の抗体を含むキットを用いてFVIIIの反応性を測定し、その測定結果に基づき、患者の重症度及び/またはインヒビター力価を診断・判定することができる。診断・判定方法は当業者に公知の方法により行うことができる。
【0065】
本発明の抗体を含むキットは、例えば、FVIIIの機能代替活性を有する物質及びFVIII製剤を投与した患者におけるFVIII製剤の薬理活性をモニタリングするキットとして用いることができる。モニタリングは当業者に公知の方法により行うことができる。
【0066】
例えば、本発明は、患者を治療する方法であって、
(a) 第一の投与量のFVIIIの機能代替活性を有する物質を投与する工程;
(b) 患者のFVIIIの反応性をモニタリングする工程;
(c) 観測されたFVIIIの反応性に基づいて、FVIIIの機能代替活性を有する物質の第二の投与量を決定する工程、及び
(d) 第二の投与量のFVIIIの機能代替活性を有する物質を該患者に投与する工程;
を含む方法を用いることができる。
【0067】
また、例えば、本発明は、患者を治療する方法であって、
(a) 第一の投与間隔でFVIIIの機能代替活性を有する物質を投与する工程;
(b) 患者のFVIIIの反応性をモニタリングする工程;
(c) 観測されたFVIIIの反応性に基づいて、FVIIIの機能代替活性を有する物質の第二の投与間隔を決定する工程、及び
(d) 第二の投与間隔でFVIIIの機能代替活性を有する物質を該患者に投与する工程;
を含む方法を用いることができる。
【0068】
また、例えば、患者を治療する方法であって、FVIIIの反応性をモニタリングし、FVIIIの反応性に応じて凝固第VIII因子の機能代替活性を有する物質を投与する量または/および投与間隔を変える、患者を治療する方法を用いることができる。
【0069】
FVIIIの機能代替活性を有する物質は、好ましくは、FIXおよび/またはFIXaならびにFXおよび/またはFXaに結合する二重特異性抗体である。さらに好ましくは以下に記載の抗体であって、第一のポリペプチドと第三のポリペプチドが会合し、第二のポリペプチドと第四のポリペプチドが会合する二重特異性抗体である。
第一のポリペプチドが配列番号:9に記載のアミノ酸配列からなるH鎖、第二のポリペプチドが配列番号:11に記載のアミノ酸配列からなるH鎖および第三のポリペプチドと第四のポリペプチドが配列番号:10に記載の共通L鎖からなる二重特異性抗体(Q499-z121/J327-z119/L404-k)、又は第一のポリペプチドが配列番号:36に記載のアミノ酸配列からなるH鎖、第二のポリペプチドが配列番号:37に記載のアミノ酸配列からなるH鎖および第三のポリペプチドと第四のポリペプチドが配列番号:38に記載の共通L鎖からなる二重特異性抗体(Q153-G4k/J142-G4h/L180-k)
【0070】
投与量は、例えば前記二重特異性抗体の場合、0.001〜100mg/kgである。好ましくは、約0.001 mg/kg、約0.003 mg/kg、約0.005 mg/kg、約0.01 mg/kg、約0.03 mg/kg、約0.05 mg/kg、約0.1 mg/kg、約0.3 mg/kg、約0.5 mg/kg、約1 mg/kg、約3 mg/kg、約5 mg/kg 、約10 mg/kg 、約20 mg/kg、約30 mg/kg、約40 mg/kg、約50 mg/kg、約60 mg/kg、約70 mg/kg、約80 mg/kg、約90 mg/kg、約100 mg/kgである。投与間隔は、例えば前記二重特異性抗体の場合、少なくとも1日以上である。好ましくは、1日、2日、3日、4日、5日、6日、1週間、2週間、3週間、4週間、5週間、6週間、7週間、8週間、9週間、10週間、11週間、12週間、13週間、14週間、15週間、16週間、17週間、18週間、19週間、20週間、21週間、22週間、23週間、24週間、25週間、1カ月、2カ月、3カ月、4カ月、5カ月、6カ月、7カ月、8カ月、9カ月、10カ月、11カ月、1年である。投与量はモニタリングの前後で同じであってもよく、異なっていてもよい。投与間隔はモニタリングの前後で同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0071】
本発明の抗体を使用した方法又は本発明の抗体を含むキットの対象となる患者は、例えば、血友病A、後天性血友病A、フォンビルブランド病、ならびにFVIIIおよび/またはFVIIIaに対するインヒビターが出現している血友病Aの患者である。
【0072】
本明細書において用いる場合、「・・・を含む(comprising)」との表現により表される態様は、「本質的に・・・からなる(essentially consisting of)」との表現により表される態様、ならびに「・・・からなる(consisting of)」との表現により表される態様を包含する。
本明細書において明示的に引用される全ての特許および参考文献の内容は全て本明細書に参照として取り込まれる。
本発明は、以下の実施例によってさらに例示されるが、下記の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0073】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に制限されるものではない。
〔実施例1〕抗FIXa/FX二重特異性抗体に対する抗体の作製及び可変領域の配列決定
特許文献3(WO 2012/067176)に記載の二重特異性抗体であるACE910 (Q499-z121/J327-z119/L404-k)(配列番号:9に記載のアミノ酸配列からなるH鎖と配列番号:10に記載のL鎖が会合し、配列番号:11に記載のアミノ酸配列からなるH鎖と配列番号:10に記載のL鎖が会合している二重特異性抗体)に対する抗体作製を試みた。遺伝子組み換え手法及びPepsin消化を用い、抗FIXa側、抗FX側それぞれのFabで構成されたF(ab')2を作製した。
【0074】
マウス及びラットに、抗FIXa-F(ab')2または抗FX-F(ab')2を免疫した。マウスまたはラットより摘出した脾臓あるいはラットリンパ節より得られた細胞とマウスミエローマ細胞を常法に従い細胞融合し、ハイブリドーマを作製した。ハイブリドーマの培養上清はACE910の抗FIXa-armまたは抗FX-armへの結合を検出するELISAで評価し、最終的にACE910の抗FIXa-armにのみに結合し、抗FX-armには結合しないマウス抗体AQ8、AQ1、ラット抗体AQ512、及びACE910の抗FX-armにのみ結合し、抗FIXa-armには結合しないラット抗体AJ540、AJ114、AJ521、AJ522、AJ541を選択した。さらに、AQ8抗体またはAJ540抗体の可変領域の塩基配列を解析した。AQ8およびAJ540の可変領域の塩基配列とそれから予測されるアミノ酸配列は、GENETYX Ver.9 (GENETYX CORPORATION)にて解析した。
【0075】
〔実施例2〕リコンビナントマウス抗体AQ8およびリコンビナントラット-ウサギキメラ抗体AJ540の発現ベクターの作製
リコンビナントマウス抗体AQ8は、実施例1で得られたAQ8抗体の可変領域の配列に既知のマウスIgG2bの定常領域配列(重鎖: EMBL accession No. J00461, 軽鎖: EMBL accession No. V00807)を組み合せて抗体遺伝子の全長を作製し、発現ベクターに挿入した。同様に、リコンビナントラット-ウサギキメラ抗体AJ540は、AJ540抗体の可変領域に既知のラビットIgG (重鎖: EMBL accession No. L29172,軽鎖: EMBL accession No. X00231)を組み合せて作製した。作製した発現クローンプラスミドをHEK293細胞に導入し、大量培養及びProtein Aおよびゲルろ過による精製を行い、リコンビナントマウス抗体AQ8 (rAQ8-mIgG2b)およびリコンビナントラット-ウサギキメラ抗体AJ540 (rAJ540-rbtIgG)を作製した。
【0076】
〔実施例3〕rAQ8-mIgG2bおよびrAJ540-rbtIgGを用いた抗FIXa/FX二重特異性抗体中和下でのone-stage clotting assayの実施
10又は100 U/dLのリコンビナントFVIII(コージネイトFS、バイエル薬品株式会社)を含むFVIII欠乏血漿(George King)に、抗FIXa/FX二重特異性抗体ACE910を、0又は300 μg/mLとなるように添加した。さらに各調製した血漿を、イミダゾールバッファー(協和メデックス)で10倍希釈する群と、rAQ8-mIgG2bおよびrAJ540-rbtIgGをそれぞれ300 μg/mLとなるように添加したイミダゾールバッファーで10倍希釈する群の2群に分けて、測定用サンプル溶液を調製した。尚、ACE910を十分に中和するのに必要な量のrAQ8-mIgG2bおよびrAJ540-rbtIgGを加えた。組合せの詳細は以下に示す。
【0077】
【表1】
【0078】
また、凝固時間をFVIII活性に換算する検量線用に、標準血漿であるコアグトロールN(シスメックス)をイミダゾールバッファーにて10、20、40、80、160倍希釈した溶液を調製した(検量線用溶液のそれぞれのFVIII活性は93、46.5、23.3、11.6、5.81%とした)。測定用サンプル溶液又は検量線用溶液 50 μL、第VIII因子欠乏ヒト血漿(シスメックス) 50 μL、及びトロンボチェックAPTT-SLA(シスメックス) 50 μLを混合し、37℃5分間インキュベーションした。インキュベーション後、0.02 mol/L塩化カルシウム溶液(シスメックス) 50 μLを添加して凝固を開始し、血液凝固自動測定装置KC4デルタ(Stago)で凝固時間を測定した。
【0079】
検量線用溶液の各FVIII活性における凝固時間から、測定用サンプルの凝固時間をFVIII活性に換算した。
【0080】
結果
結果を
図1に示した。抗FIXa/FX二重特異性抗体を添加した10又は100 U/dLのリコンビナントFVIIIを含むFVIII欠乏血漿をバッファーで希釈した場合 (#3、#7)、検量線の範囲以上のFVIII活性を示し、正しく測定することができなかった。一方、抗FIXa/FX二重特異性抗体を添加した10又は100 U/dLのリコンビナントFVIIIを含むFVIII欠乏血漿に対して抗FIXa/FX二重特異性抗体に対する2種類の抗体を含むバッファーで希釈した場合(#4、#8)、抗FIXa/FX二重特異性抗体無添加群(#1、#5)と同様のFVIII活性を示した。したがって、抗FIXa/FX二重特異性抗体に対する抗体は二重特異性抗体の活性を完全に中和することにより、二重特異性抗体が存在しているにもかかわらず血漿中のFVIII活性を正確に測定できることを示した。なお、10又は100 U/dLのリコンビナントFVIIIを含むFVIII欠乏血漿に対して抗FIXa/FX二重特異性抗体に対する2種類の抗体のみを含むバッファーで希釈した場合(#2、#6)、抗FIXa/FX二重特異性抗体無添加群(#1、#5)と同様のFVIII活性を示したことから、抗FIXa/FX二重特異性抗体に対する抗体は二重特異性抗体に対して特異的な中和作用を有することが分かった。
【0081】
〔実施例4〕AQ1とAJ541、又はAQ1とAJ522による抗FIXa/FX二重特異性抗体中和下でのone-stage clotting assayの実施
10 U/dLのリコンビナントFVIII(コージネイトFS、バイエル薬品株式会社)を含むFVIII欠乏血漿(George King)に、抗FIXa/FX二重特異性抗体ACE910を、0又は10 μg/mLとなるように添加した。さらに各調製した血漿を、イミダゾールバッファー(協和メデックス)で10倍希釈する群と、AQ1およびAJ541をそれぞれ100 μg/mLとなるように添加したイミダゾールバッファーで10倍希釈する群、AQ1とAJ522をそれぞれ100 μg/mLとなるように添加したイミダゾールバッファーで10倍希釈する群の3群に分けて、測定用サンプル溶液を調製した。尚、ACE910を十分に中和するのに必要な量のAQ1、AJ541、AJ522を加えた。組合せの詳細は以下に示す。
【0082】
【表2】
【0083】
また、凝固時間をFVIII活性に換算する検量線用に、標準血漿であるコアグトロールN(シスメックス)をイミダゾールバッファーにて10、20、40、80、160、320、640倍希釈した溶液を調製した(検量線用溶液のそれぞれのFVIII活性は102、51.0、25.5、12.8、6.38、3.19、1.59%とした)。測定用サンプル溶液又は検量線用溶液 50 μL、第VIII因子欠乏ヒト血漿(シスメックス) 50 μL、及びトロンボチェックAPTT-SLA(シスメックス) 50 μLを混合し、37℃5分間インキュベーションした。インキュベーション後、0.02 mol/L塩化カルシウム溶液(シスメックス) 50 μLを添加して凝固を開始し、血液凝固自動測定装置KC4デルタ(Stago)で凝固時間を測定した。
検量線用溶液の各FVIII活性における凝固時間から、測定用サンプルの凝固時間をFVIII活性に換算した。
【0084】
結果
結果を
図2に示した。抗FIXa/FX二重特異性抗体ACE910を添加した10 U/dLのリコンビナントFVIIIを含むFVIII欠乏血漿をバッファーで希釈した場合 (#4)、検量線の範囲以上のFVIII活性を示し、正しく測定することができなかった。一方、抗FIXa/FX二重特異性抗体ACE910を添加した10 U/dLのリコンビナントFVIIIを含むFVIII欠乏血漿に対して抗FIXa/FX二重特異性抗体に対する2種類の抗体AQ1とAJ541を含むバッファーで希釈した場合(#5)又は抗FIXa/FX二重特異性抗体に対する2種類の抗体AQ1とAJ522を含むバッファーで希釈した場合(#6)、抗FIXa/FX二重特異性抗体無添加群(#1)と同様のFVIII活性を示した。したがって、二重特異性抗体ACE910の活性を完全に中和する抗FIXa/FX二重特異性抗体に対する抗体として、rAQ8-mIgG2bおよびrAJ540-rbtIgGだけでなく、別の抗体の組み合わせでも有効であった。
【0085】
〔実施例5〕AQ512とAJ114、又はAQ512とAJ521による抗FIXa/FX二重特異性抗体中和下でのone-stage clotting assayの実施
10 U/dLのリコンビナントFVIII(コージネイトFS、バイエル薬品株式会社)を含むFVIII欠乏血漿(George King)に、抗FIXa/FX二重特異性抗体hBS23を、0又は10 μg/mLとなるように添加した。さらに各調製した血漿を、イミダゾールバッファー(協和メデックス)で10倍希釈する群と、AQ512およびAJ114をそれぞれ100 μg/mLとなるように添加したイミダゾールバッファーで10倍希釈する群、AQ512とAJ521をそれぞれ100 μg/mLとなるように添加したイミダゾールバッファーで10倍希釈する群の3群に分けて、測定用サンプル溶液を調製した。尚、hBS23を十分に中和するのに必要な量のAQ512、AJ114、AJ521を加えた。組合せの詳細は以下に示す。
【0086】
【表3】
【0087】
また、凝固時間をFVIII活性に換算する検量線用に、標準血漿であるコアグトロールN(シスメックス)をイミダゾールバッファーにて10、20、40、80、160、320、640倍希釈した溶液を調製した(検量線用溶液のそれぞれのFVIII活性は102、51.0、25.5、12.8、6.38、3.19、1.59%とした)。測定用サンプル溶液又は検量線用溶液 50 μL、第VIII因子欠乏ヒト血漿(シスメックス) 50 μL、及びトロンボチェックAPTT-SLA(シスメックス) 50 μLを混合し、37℃5分間インキュベーションした。インキュベーション後、0.02 mol/L塩化カルシウム溶液(シスメックス) 50 μLを添加して凝固を開始し、血液凝固自動測定装置KC4デルタ(Stago)で凝固時間を測定した。
検量線用溶液の各FVIII活性における凝固時間から、測定用サンプルの凝固時間をFVIII活性に換算した。
【0088】
結果
結果を
図3に示した。抗FIXa/FX二重特異性抗体hBS23を添加した10 U/dLのリコンビナントFVIIIを含むFVIII欠乏血漿をバッファーで希釈した場合 (#4)、検量線の範囲以上のFVIII活性を示し、正しく測定することができなかった。一方、抗FIXa/FX二重特異性抗体hBS23を添加した10 U/dLのリコンビナントFVIIIを含むFVIII欠乏血漿に対して抗FIXa/FX二重特異性抗体に対する2種類の抗体AQ512とAJ114を含むバッファーで希釈した場合(#5)又は抗FIXa/FX二重特異性抗体に対する2種類の抗体AQ512とAJ521を含むバッファーで希釈した場合(#6)、抗FIXa/FX二重特異性抗体無添加群(#1)と同様のFVIII活性を示した。ACE910とは異なる二重特異性抗体hBS23でも、その活性を完全に中和することにより、二重特異性抗体が存在しているにもかかわらず血漿中のFVIII活性を正確に測定できたため、本アプローチは様々なFVIII代替活性を有する二重特異性抗体に対して有効であることを示した。
【0089】
〔実施例6〕rAQ8-mIgG2bおよびrAJ540-rbtIgGを用いた抗FIXa/FX二重特異性抗体中和下でのベセスダ法の実施
第VIII因子欠乏ヒト血漿(含FVIIIインヒビター)(George King Bio-Medical)に抗FIXa/FX二重特異性抗体ACE910を、0又は300 μg/mLとなるように添加した。さらに各調製した血漿を0.25% (w/v)ウシ血清アルブミン(Sigma-Aldrich)含有イミダゾールバッファー(協和メデックス) (以下BSA-imidazole)にて25倍希釈又は30倍希釈した。標準血漿であるコアグトロールN(シスメックス)にrAQ8-mIgG2bおよびrAJ540-rbtIgGを無添加、又はそれぞれ300 μg/mLとなるように添加した。
調製した各血漿のうちの2種類を以下の組合せ(計8種類)で等量混合し、37℃、2時間インキュベーションした。
【0090】
【表4】
【0091】
インキュベーション後、さらに混合溶液をBSA-imidazoleにて10倍希釈し、測定用サンプル溶液を調製した。また、凝固時間をFVIII活性値に換算する検量線作成用に、コアグトロールNをBSA-imidazoleにて20、40、80、160、320倍希釈した溶液を調製した(検量線用溶液のそれぞれのFVIII活性は100、50、25、12.5、6.25%とした)。
【0092】
測定用サンプル溶液又は検量線用溶液 50 μL、第VIII因子欠乏ヒト血漿(シスメックス) 50 μL、及びトロンボチェックAPTT-SLA(シスメックス) 50 μLを混合し、37℃で3分間インキュベーションした。インキュベーション後、0.02 mol/L塩化カルシウム溶液(シスメックス) 50 μLを添加して凝固を開始し、血液凝固自動測定装置KC4デルタ(Stago)で凝固時間を測定した。
【0093】
検量線用溶液の各FVIII活性における凝固時間から、測定用サンプルの凝固時間をFVIII活性に換算した。さらに残存FVIII活性が50%のときに1ベセスダとして、測定用サンプル中のベセスダ値を算出後、25倍及び30倍をかけた値の平均値を各サンプル原液中のインヒビター力価として算出した。
【0094】
結果
結果を
図4に示した。抗FIXa/FX二重特異性抗体のみを含むFVIIIインヒビター血漿(#3)では、検量線のFVIII 100%以上の活性を示したことから、FVIIIインヒビター力価が測定できなかった。
一方、抗FIXa/FX二重特異性抗体及び抗FIXa/FX二重特異性抗体に対する2種類の抗体を含むFVIIIインヒビター血漿(#4)では、無添加のインヒビター血漿(#1)と同様のFVIIIインヒビター力価を示した。したがって、抗FIXa/FX二重特異性抗体に対する抗体は二重特異性抗体の活性を完全に中和することにより、二重特異性抗体が存在しているにもかかわらず血漿中のFVIIIインヒビター力価を正確に測定できることを示した。なお、2種類の抗FIXa/FX二重特異性抗体に対する抗体のみを含むFVIIIインヒビター血漿(#2)は、#1と同様の結果を示したことから、抗FIXa/FX二重特異性抗体に対する抗体は二重特異性抗体に対して特異的な中和作用を有することが分かった。