特許第6702926号(P6702926)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6702926
(24)【登録日】2020年5月11日
(45)【発行日】2020年6月3日
(54)【発明の名称】デンプン液化のための方法
(51)【国際特許分類】
   C12P 19/14 20060101AFI20200525BHJP
   C08B 30/12 20060101ALI20200525BHJP
【FI】
   C12P19/14
   C08B30/12
【請求項の数】6
【外国語出願】
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-221425(P2017-221425)
(22)【出願日】2017年11月17日
(62)【分割の表示】特願2015-526666(P2015-526666)の分割
【原出願日】2013年8月7日
(65)【公開番号】特開2018-75010(P2018-75010A)
(43)【公開日】2018年5月17日
【審査請求日】2017年12月14日
(31)【優先権主張番号】12005775.7
(32)【優先日】2012年8月9日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】397058666
【氏名又は名称】カーギル インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【弁理士】
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【弁理士】
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100139527
【弁理士】
【氏名又は名称】上西 克礼
(74)【代理人】
【識別番号】100164781
【弁理士】
【氏名又は名称】虎山 一郎
(72)【発明者】
【氏名】デレズ・フランク
(72)【発明者】
【氏名】ドゥ・サードレール、ジョス・ウィリー・ギスラン・コルネーユ
(72)【発明者】
【氏名】ケッツマン・ジョースト
(72)【発明者】
【氏名】ナタローニ・ルイージ
【審査官】 星 功介
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第04014743(US,A)
【文献】 特開昭53−009333(JP,A)
【文献】 特開昭49−026438(JP,A)
【文献】 特表2008−517599(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2003/0134396(US,A1)
【文献】 特表平11−506008(JP,A)
【文献】 特表平07−509358(JP,A)
【文献】 米国特許第07915020(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 19/00−19/64
C08B 30/00−30/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
デンプンスラリー中に存在するデンプンの液化のための方法であって、前記デンプンスラリーが、0.05〜9のDEを有し、デンプン分解物を含み、
前記方法が以下の段階:
a.反応器の中に25〜45w/w%の乾燥物の予備液化物を準備する段階;および
b.予備液化物を含有する反応器にデンプンを添加して、ここで、反応器中の温度は20〜85℃の温度で維持され、40w/w%〜80w/w%の乾燥物を含む第2のデンプンスラリーを得る段階;および
c.第2のデンプンスラリーの一部を反応器から取り出し、それを液化段階に送り、取り出した部分をデンプンで置き換えて、反応器中の第2のデンプンスラリーを40w/w%〜80w/w%の乾燥物で維持され、ここで反応器中の温度は20〜70℃に維持される段階、を含み、
1またはそれ以上のデンプン分解酵素が、段階b.および/または段階c.で添加され、前記デンプン分解酵素がα−アミラーゼを含むことを特徴とする、方法。
【請求項2】
段階c.が繰り返されることを特徴とする、請求項に記載の方法。
【請求項3】
段階c.が連続的な方法で行われることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
段階b.および段階c.で添加される前記デンプンが、40w/w%〜90w/w%の乾燥物を含むことを特徴とする、請求項1〜のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
段階b.および段階c.で添加される前記デンプンが、天然デンプンを含むことを特徴とする、請求項1〜のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記第2のデンプンスラリーのpHが3.5〜6.5であることを特徴とする、請求項1〜のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本願は、参照によりその全文が本明細書に援用される、2012年8月9日出願の欧州特許仮出願(European Provisional Patent Application)第12005775.7号、「デンプン液化のための方法(PROCESS FOR STARCH LIQUEFACTION)」の利益を主張する。
【0002】
(発明の分野)
本発明は、デンプン分解物を含み、DEが0.05〜9であるデンプンスラリー中に存在するデンプンの液化のための方法に関する。好ましくは、本発明は、デンプン分解物を含むデンプンスラリー中に存在するデンプンの液化のための方法に関し、前記デンプンスラリーは乾燥物を多く含む。さらに好ましくは、本発明は、デンプン分解物を含み、乾燥物を多く含むデンプンスラリー中に存在するデンプンの液化のための連続法に関する。
【背景技術】
【0003】
天然デンプン、すなわち、デンプンを含む材料からの抽出によってその本来の形で回収したデンプンは、多数の価値の高い製品の出発物質である。デンプン加水分解プロセスは、グルコースシロップ、高マルトースシロップ、超高マルトースシロップなどをもたらすことができる。これらのシロップから、結晶デキストロース、ポリオールなどのいくつかの製品を得ることができる。
【0004】
デンプンを加水分解するプロセスは、一般に、デンプンスラリーの形の天然デンプンの液化および糖化を含む。デンプンは、懸濁液(デンプンスラリー)の中に入れられると典型的な挙動をする天然成分である。特定の乾燥物を超えると、スラリーは処理をするのが非常に困難であり、処理装置を塞ぐ原因となり得る。そのため、現行の方法では、液化されるデンプンスラリーは、一般に40重量/重量%(w/w %)までの、好ましくは30〜35w/w%の乾燥物を含む。液化のための蒸気噴射による加熱とその後の糖化のためのフラッシングを考えると、このように製造された液化物(liquefact)も、同程度の乾燥物を含む。しかし、微生物安定性、コスト、加工効率などの理由で、この乾燥物を増加させることが望ましい。製造したグルコースシロップの乾燥物含有量を、例えば60w/w%、70w/w%、80w/w%、85w/w%などの望ましい値にするために、一般に蒸発による、少なくとも1つのさらなる濃縮段階が必要である。この濃縮段階は、通常、高いエネルギー入力を必要とし、そのため費用対効果が低く、環境にも優しくない。工業プロセスのエネルギー消費を低減するには、かなり低いエネルギー消費で、より効率の高いプロセスを提供する必要がある。
【0005】
欧州特許第0806434A1号には、酵素転換デンプンを調製するためのバッチ法が記載されている。
【0006】
米国特許第4,235,965号には、40w/w%までの乾燥物を含むデンプンスラリーから出発し、デンプンを加水分解するバッチ法が記載されている。この方法は非連続バッチ法であり、非常に大量の酵素を必要とする、従ってこの方法は比較的効率が悪く非常に費用がかかる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、好ましくは継続的に稼働する、より高い生産力およびより良好なエネルギーバランスをもつデンプン液化方法が必要とされている。本発明は、そのようなデンプン液化方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、デンプンスラリー中に存在するデンプンの液化のための方法に関し、前記デンプンスラリーは0.05〜9のDEを有し、デンプン分解物を含む。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、デンプンスラリー中に存在するデンプンの液化のための方法に関し、前記デンプンスラリーは0.05〜9のDEを有し、デンプン分解物を含む。
【0010】
従来のデンプン加水分解プロセスは、一般に液化段階とそれに続く糖化段階を含む。
【0011】
そのようなプロセスでは、液化段階に入るデンプンスラリーは最大40重量/重量%(w/w%)の乾燥物を含む。この乾燥物を超えると、デンプンスラリーは加工をするのが非常に困難であり、処理装置に損害を与ることがある。これは特に、デンプンが天然デンプンを含む場合である。従来方法において、デンプンスラリーは本質的に天然デンプンで構成される。このため、デンプンスラリーの乾燥物は、最大40w/w%、一般に30w/w%〜35w/w%の数値で維持される。
【0012】
液化は高温で、80℃から160℃まで、好ましくは90℃から110℃前後まで蒸気噴射を通じて直接加熱することにより行われ、前記蒸気の圧力は9〜12バールである。これらの温度で、デンプンはゼラチン化し、粘度が増加する。このため、同様に、デンプンスラリーの乾燥物含有量を30w/w%〜35w/w%の数値で維持することが必要である。また、蒸気噴射による加熱、すなわち直接加熱も必要である。これは非常に迅速なデンプンスラリーの加熱をもたらし、粘度の増加を制限し、良好なデンプン液化を許容する。加熱が間接加熱によって行われる場合、デンプンにはゼラチン化する時間があるので、粘度増加が非常に重要となり、ポンピングおよびさらなる加工を非常に複雑なものにする。
【0013】
液化の間、デンプンスラリー中に存在するデンプンは、一般に酵素の作用によってデキストロースオリゴマーに分解される。液化の後、液化したデンプンスラリー(液化物)は、一般に糖化酵素の作用によって糖化されて、デキストロース含有液、マルトース含有液などを生じる。
【0014】
本発明の目的において、デンプンの植物学的起源は制限されない。本発明で用いるデンプンの適した起源は、トウモロコシ、エンドウ、ジャガイモ、サツマイモ、モロコシ、バナナ、大麦、小麦、米、サゴ、アマランス、タピオカ、クズウコン、カンナ、およびそれらの低アミロース(約10重量%以下のアミロース、好ましくは5重量%以下のアミロースを含有)または高アミロース(少なくとも約40重量%のアミロースを含有)種である。これらの作物の遺伝子組み換え品種もデンプンの適した起源である。しかし、好ましくは、デンプンは穀物、より好ましくは小麦および/またはトウモロコシに由来する。従って、用いられる用語デンプンは、本発明の目的において、天然デンプンを意味する。天然デンプンを上述の植物からどのように抽出するかは、当分野で周知である。しかし、本発明のどのプロセス段階においても加工デンプンが添加され得ることは除外されない。加工デンプンとは、化学修飾デンプン、酵素修飾デンプン、熱処理によるかまたは物理的処理により修飾されたデンプンをさす。用語「化学修飾」には、限定されるものではないが、架橋、劣化を抑制するためのブロック基による修飾、親油性基の添加による修飾、アセチル化デンプン、ヒドロキシエチル化およびヒドロキシプロピル化デンプン、無機エステル化デンプン、カチオン性、アニオン性および酸化デンプン、双性イオン性デンプン、酵素によって修飾されたデンプンおよびそれらの組合せが含まれる。熱処理には例えばアルファ化が含まれる。
【0015】
本発明の方法によれば、液化段階に入るデンプンスラリーは、デンプン分解物をすでに含む。本発明の目的において、デンプン分解物は、デンプンの酸および/または酵素加水分解に起因し、マルトデキストリン、デキストロース、デキストロースオリゴマー、マルトースなどの1またはそれ以上であり得ることが理解される。そのような産物は水溶性である。
【0016】
液化段階に入るデンプンスラリーは、以下を含む方法によって得ることができる:
1.第1のデンプンスラリーを準備する
2.第1のデンプンスラリーを予備液化して予備液化物を得る、および
3.所望によりデンプンおよび/または1またはそれ以上のデンプン分解酵素を予備液化物に添加して第2のデンプンスラリーを得る、前記第2のデンプンスラリーが液化段階に送られるデンプンスラリーである。
【0017】
第1のデンプンスラリーは、25w/w%〜45w/w%、好ましくは30w/w%〜45w/w%、より好ましくは35w/w%〜45w/w%、さらにより好ましくは40w/w%〜45w/w%、さらに一層好ましくは40w/w%〜45w/w%超の乾燥物を含むスラリーを得るために、例えば天然デンプンと水を混合することによって調製することができる。デンプンは、乾燥粉末の形であってもスラリーの形であってもよい。デンプンは、40w/w%〜90w/w%の乾燥物を含むことができる。好ましくは、デンプンは、80w/w%〜90w/w%の乾燥物を含む天然デンプンである。
【0018】
予備液化物は、実際には第1のデンプンスラリーであり、これは、デンプン分解物が第1のデンプンスラリーに添加されたためか、または第1のデンプンスラリーの天然デンプンの一部が分解したために、この時点でデンプン分解物を含んでいる。予備液化物のDE(デキストロース当量)は、約0.05〜約9、好ましくは0.05〜8、好ましくは0.05〜7、より好ましくは0.05〜6、さらにより好ましくは1〜5である。DEは、Lane Eynon公定法で測定することができる。好ましくは、予備液化物は、少なくとも3、好ましくは少なくとも6、より好ましくは少なくとも10、さらにより好ましくは少なくとも20の溶解性レベルを有する。溶解性レベルは、このように可溶化され分解されたデンプンの量の指標である。予備液化物の溶解性レベルは、本明細書の測定方法の項に記載される試験Aに従って測定される。
【0019】
予備液化物は、第1のデンプンスラリーと同様の乾燥物、すなわち25w/w%〜45w/w%、好ましくは30w/w%〜45w/w%、より好ましくは35w/w%〜45w/w%、さらにより好ましくは40w/w%〜45w/w%、さらに一層好ましくは40w/w%〜45w/w%超の乾燥物を含む。
【0020】
予備液化物を得るための第1のデンプンスラリーの予備液化は、上に規定されるように、デンプン分解物を第1のデンプンスラリーに添加することによって行うことができる。前記デンプン分解物は、粉末の形および/または溶液の形であってよい。この場合、第1のデンプンスラリーを準備することおよび第1のデンプンスラリーを予備液化することは、単一の段階で、デンプン分解物を天然デンプンおよび水と混合することにより行うこともできる。デンプン分解物は、粉末の形および/または溶液の形であってよく、天然デンプンは、粉末の形および/またはスラリーの形であってよい。あるいは、かつ好ましくは、デンプン分解物は、第1のデンプンスラリーの酸および/または酵素による予備液化によって「現場で」製造される。好ましくは、予備液化は20〜85℃の温度での酵素処理を含み、一般に前記温度は、第1のデンプンスラリーを調製するために使用する天然デンプンのゲル化温度よりも低いかまたは最大10℃高い。
【0021】
酵素による予備液化は、1またはそれ以上のデンプン分解酵素を第1のデンプンスラリーに添加することを含む。1またはそれ以上の酵素は、例えばα−アミラーゼ、β−アミラーゼ、グルコアミラーゼ、プルラナーゼまたはこれらの組合せであってよい。添加する酵素の量は、例えばDEが0.05〜9である予備液化物を得るために、当業者によって容易に決定される。好ましくは、例えば少なくとも3、好ましくは少なくとも6、より好ましくは少なくとも10、さらにより好ましくは少なくとも20の可溶化レベルをさらに有する予備液化物を得るためである。
【0022】
酵素による予備液化は、好ましくは20℃〜85℃、より好ましくは25℃〜75℃、さらにより好ましくは30℃〜70℃、最も好ましくは35℃〜60℃の温度で行われる。例えば、第1のデンプンスラリーの初期温度は、40℃〜50℃であってよい。
【0023】
好ましくは、第1のデンプンスラリーを、まず使用する酵素または酵素カクテルに最適なpH値にする。一般に、5〜6.5のpHが一般のα−アミラーゼに使用される。pHは、当分野で公知の任意の適した方法によって、例えば初期pHが所望のpH値よりも低いか高いかに応じて酸または塩基を添加することにより、変更することができる。当業者は、第1のデンプンスラリーのpHをどのように適合させるかが容易に分かる。
【0024】
予備液化は、好ましくは反応器で行われる。撹拌器の有無にかかわらず、プロップフロー(prop flow)の有無にかかわらず、例えば槽、プラグフロー反応器などのあらゆる種類の適した反応器で使用することができる。好ましくは、1またはそれ以上の入口および1またはそれ以上の出口を有する密閉反応器を使用することができる。1またはそれ以上の入口および1またはそれ以上の出口は、反応器の上側および/または下側に位置していてよい。入口および出口の両方は、反応器の流入および流出を容易に手動でまたは自動的に調節することができるようになっている。
【0025】
酵素の作用によって、第1のデンプンスラリーは、デンプン分解物を含むデンプンスラリーに、従って上に規定されるように予備液化物に変換される。
【0026】
予備液化物は、以下のように液化段階に送ることができる:予備液化物の一部を反応器から取り出して液化段階に送り、反応器中のスラリーを25w/w%〜45w/w%、好ましくは30w/w%〜45w/w%、より好ましくは35w/w%〜45w/w%、さらにより好ましくは40w/w%〜45w/w%、さらに一層好ましくは40w/w%〜45w/w%超の乾燥物で維持するために;またはその乾燥物を80w/w%まで増加させるために、取り出した部分をデンプン、好ましくは天然デンプンで置き換える。
【0027】
液化段階の前に、さらなる段階を実施することができる。例えば、このさらなる段階は、必要であれば酵素の添加ならびに温度および/またはpHの調節を含むことができる。
【0028】
好ましくは、液化物の一部を取り出し、それを液化段階に送り、取り出した部分をデンプンと、またはデンプンおよび酵素と置き換える段階は、同時に、同じ速度で、そして好ましくは連続的に、このプロセスの間に実質的に中断されることなく行われる。この時点で、このプロセスは連続的な方法で動作を開始することができる。本発明の目的において、連続的とは、加工時間の間に実質的な中断がないことを意味する。前記加工時間は、5分から数時間であり得る。
【0029】
しかし、好ましくは、予備液化物が得られれば、その乾燥物を30w/w%〜80w/w%の数値まで増加させるために、デンプンをそれに添加することができる。好ましくはデンプンは天然デンプンを含み、より好ましくはデンプンは天然デンプンからなる。また、デンプンを1またはそれ以上の予備液化酵素と同時に添加することもできる。
【0030】
従って、本発明の方法は、さらに好ましくは、以下の段階を含むことを特徴とする:
a.反応器の中に25w/w%〜45w/w%の乾燥物の予備液化物を準備する段階;および
b.デンプン、好ましくは天然デンプンを、予備液化物を含有する反応器に20〜85℃の温度で添加して、30w/w%〜80w/w%の乾燥物を含む第2のデンプンスラリーを得る段階;および
c.第2のデンプンスラリーの一部を反応器から取り出し、それを液化段階に送り、取り出した部分をデンプン、好ましくは天然デンプンで置き換えて、反応器中の第2のデンプンスラリーを30w/w%〜80w/w%の乾燥物で維持する段階。
【0031】
好ましくは、さらに、段階b.および/または段階c.において、1またはそれ以上のデンプン分解酵素を添加することもできる。
【0032】
段階b.および/または段階c.のデンプンおよび1またはそれ以上のデンプン分解酵素は、添加の前に一緒に混合されてもよいし、それらは別々に、同時に、または順次添加されてもよい。さらに、それらはいくつかの段階で、または連続的に添加されてもよい。好ましくは、それらは同時に、連続的に、すなわち添加の開始から添加の終わりまで実質的に中断されることなく、事前に混合されることなく添加される。
【0033】
従って、好ましくは、本発明は、デンプンスラリー中に存在するデンプンの液化のための方法に関し、前記デンプンスラリーは、
−第1のデンプンスラリーの予備液化によって得られるデンプン分解物材料を含むこと(前記予備液化は20〜85℃の温度での酵素処理を含む)、および
−30w/w%〜80w/w%の乾燥物を含むことを特徴とする。
【0034】
第2のデンプンスラリー、すなわち液化されるデンプンスラリーは、30w/w%から80w/w%まで、好ましくは35w/w%〜80w/w%の乾燥物を含むことができる。好ましくは、第2のデンプンスラリーは、多くの乾燥物、つまり40w/w%〜80w/w%、より好ましくは40超〜70w/w%、さらにより好ましくは45w/w%〜60w/w%、さらに一層好ましくは45w/w%〜55w/w%、さらに一層好ましくは48w/w%〜52w/w%または50w/w%〜55w/w%を含む。デンプン分解物が存在するために、第2のデンプンスラリーの乾燥物は、前に記載したプロセスの制限に直面することなく、天然デンプンだけを使用する従来プロセスのものよりも多いことがあり得る。
【0035】
好ましくは、上に規定される1またはそれ以上のデンプン分解酵素も、段階b.およびまたは段階c.で添加される。好ましくは、pH 3.5〜6.5の最適作用条件をもつ酵素が選択される。添加する酵素の量は、当業者によって容易に決定され、反応器中のデンプンスラリーのDEを0.05〜9の数値で維持するような量であるべきである。好ましくは、反応基中のデンプンスラリーの溶解性指数を少なくとも3、好ましくは少なくとも6、より好ましくは少なくとも10、さらにより好ましくは少なくとも20の数値で維持するような量であるべきである。好ましくはさらに、1またはそれ以上のデンプン分解酵素は熱安定性であって、その後の液化段階中の加熱段階に耐える。
【0036】
デンプンおよび1またはそれ以上のデンプン分解酵素は、存在する場合、添加の前に一緒に混合されてもよいし、それらは別々に、同時にまたは順次に添加されてもよい。さらに、それらはいくつかの段階で、または連続的に添加されてよい。好ましくは、それらは同時に、連続的に、すなわち添加の開始から添加の終わりまで実質的に中断されることなく、事前に混合されることなく添加される。
【0037】
反応器中の温度は、20〜85℃、好ましくはより好ましくは25〜75℃、さらにより好ましくは30〜70℃、さらにより好ましくは35〜60℃の数値で維持される。温度は、例えば反応器の内容物を所望の温度で維持するために、正常な温度で循環する水を有するダブルジャケット付反応器の使用によるなど当分野で公知の任意の方法で維持されてよい。
【0038】
好ましくは、反応器中の第2のデンプンスラリーは混合される。混合は、当分野で公知の任意の適した方法、例えば静的ミキサーによるなどによって実現することができる。
【0039】
第2のデンプンスラリーのpHは、使用する1またはそれ以上のデンプン分解酵素によって決まる。当業者は、使用する酵素に応じてどのpHを得るべきかが容易に分かるであろう。好ましくは、pH 3.5〜6.5の最適作用条件をもつ酵素が選択される。
【0040】
第2のデンプンスラリーの粘度は、同じ乾燥物、温度およびpHで本質的に天然のデンプンを含むデンプンスラリーの粘度よりも低い。この粘度低下作用により、上で説明されるような従来の液化方法と比較して、より多くの乾燥物を含むデンプンスラリーを加工することが可能になる。
【0041】
第2のデンプンスラリーの一部は、反応器の出口を経由して反応器から取り出され、液化段階に送られる。取り出された部分は、第2のデンプンスラリーの乾燥物を30w/w%〜80w/w%の数値で維持するために、デンプンによるかまたはデンプンおよびデンプン分解酵素(置き換え材料)によって置き換えられる。好ましくは、取り出しおよび置き換えは、反応器中の第2のデンプンスラリーの平均滞留時間が5分〜5時間、好ましくは30分〜3時間、より好ましくは2時間〜3時間となるような速度で行われる。好ましくは、第2のデンプンスラリーの取り出しおよび置き換えは同時に行われる。好ましくは、反応器中の第2のデンプンスラリーの乾燥物が変化しないが、上に説明されるように30w/w%〜80w/w%である同じ数値で維持されるように、取り出される第2のデンプンスラリーの量は、添加される置き換え材料の量と等しい。より好ましくは、第2のデンプンスラリーの一部を取り出し、それを液化段階に送り、取り出した部分をデンプンで、またはデンプンおよび酵素で置き換える段階は、連続的に、そのプロセスの間に実質的に中断されることなく行われる。この時点で、このプロセスは連続的な方法で動作している。従って、より好ましくは、予備液化物を得てその乾燥物を増加させて第2のデンプンスラリーを得ると、プロセスは連続的な方法で動作する:デンプンまたはデンプンおよび酵素は連続的に反応器に添加され、第2のデンプンスラリーの一部が連続的に液化に送られ、このようにプロセスの段階c.が繰り返される。本発明の目的において、連続的とは、加工時間の間に実質的な中断がないことを意味する。前記加工時間は、5分から数時間であってよい。
【0042】
所望により、液化段階の前に、さらなる段階を実施することができる。例えばこのさらなる段階は、必要であれば酵素の添加ならびに温度および/またはpHの調節を含むことができる。
【0043】
液化は、デンプン工業で周知のプロセスであり、液化条件(時間、温度など)は当業者に明らかである。液化の間、第2のデンプンスラリーは、一般に90〜255℃、好ましくは90〜150℃、より好ましくは90〜130℃、さらにより好ましくは90〜110℃の温度となる。加熱は、ジェットクッカーで直接蒸気噴射によって行うことができる。驚くことに、本発明の方法によって、加熱を間接加熱によっても行うことができる。
【0044】
蒸気噴射による液化には、デンプンスラリーに水を加えるという欠点がある。この余分な水は、プロセスの後の段階で液化物から取り除かれねばならない。これは、エネルギーを要し、コストがかかり、効率的でなく、環境に優しくない。驚くことに、液化に入るデンプンスラリー中にデンプン分解物が存在することが、液化中の加熱を間接加熱によって、例えばコンパブロックを用いて行うことができるという利点を有することが見出された。間接加熱は、水をデンプンスラリーに加えないので、上に列挙される欠点を除去する。間接加熱は、当分野で公知の任意の適した方法によって行われてよい。従って、本発明の方法は、液化段階が第2のデンプンスラリーの間接加熱によって、90〜255℃、好ましくは90〜150℃、より好ましくは90〜130℃、さらにより好ましくは90〜110℃で行われることをさらに特徴とする。
【0045】
液化の後、糖化が行われてよい。液化したデンプンは、糖化酵素、例えばグルコアミラーゼまたはアミログルコシダーゼなどの働きによってデキストロースに分解される。糖化の後、第2のデンプンスラリーと同様のまたは多少多くの(化学増加に起因)乾燥物、すなわち40w/w%〜80w/w%の乾燥物を含む高デキストロース含有液が得られる。従って、本発明の方法によって得られるデキストロース含有液は、従来のデンプン加水分解プロセスによって得られるデキストロース含有液よりもはるかに多くの乾燥物を含む。所望の乾燥物でデキストロースシロップを得るためには、一層少ない水を除去しなければならない。従って蒸発がより少ない〜蒸発のない段階が必要であり得る。それによってよりコスト効率が高く、より環境に優しい方法が得られる。所望により、デキストロースは、例えば結晶化を通じて結晶デキストロースの形で回収することができる。
【0046】
あるいは、デキストロースの異性化を行ってフルクトースを得ることができる。
【0047】
あるいは、液化の後、マルトースへの糖化を行うことができる。従来方法によって得られるマルトース液のものと比較してはるかに多くの乾燥物を含むマルトース含有液が得られる。マルトース含有液は、第2のデンプンスラリーと同様のまたは多少多くの(化学増加に起因)乾燥物、すなわち40w/w%〜80w/w%の乾燥物を含む。ここでも同様に、蒸発がより少ない〜蒸発のない段階が必要であり得る。
【0048】
その上に、またはあるいは、任意のその他の適した処理を液化段階の後に行うことができる。
【0049】
最も好ましくは、本発明は、以下を含む方法に関する:
−反応器において、第1のデンプンスラリーを30〜35w/w%の乾燥物で20〜85℃の温度での酵素による予備液化に供して予備液化物を得ること、および
−天然デンプンおよび1またはそれ以上のデンプン分解酵素を予備液化物に添加して、40w/w%〜55w/w%の乾燥物を含む第2のデンプンスラリーを得ること;および −第2のデンプンスラリーの一部を反応器から取り出してそれを液化段階に送り、取り出された部分を天然デンプンおよび1またはそれ以上のデンプン分解酵素で置き換えて、反応器中の第2のデンプンスラリーを40w/w%〜55w/w%の乾燥物で維持すること、および
−取り出した部分を90〜130℃の温度で液化して液化物を得ること、および
−液化したデンプンスラリーをデキストロースまたはマルトース含有シロップに糖化させること。
なお、本願は、特許請求の範囲に記載の発明に関するものであるが、他の態様として以下も包含し得る。
1.デンプンスラリー中に存在するデンプンの液化のための方法であって、前記デンプンスラリーが、0.05〜9のDEを有し、デンプン分解物を含むことを特徴とする、方法。
2.前記デンプンスラリーの可溶化レベルが、少なくとも3、好ましくは少なくとも6、より好ましくは少なくとも10、さらにより好ましくは少なくとも20であることを特徴とする、上記1に記載の方法。
3.前記デンプンスラリーの全乾燥物が、30w/w%〜80w/w%、好ましくは40w/w%〜80w/w%であることを特徴とする、上記1または2に記載の方法。
4.前記デンプン分解物が、マルトデキストリン、デキストロース、マルトースなどの1またはそれ以上であることを特徴とする、上記1〜3のいずれか一項に記載の方法。
5.前記デンプン分解物が、20〜85℃の温度で、酵素処理を含む予備液化によって得られることを特徴とする、上記1〜4のいずれか一項に記載の方法。
6.以下の段階:
a.反応器の中に25〜45w/w%の乾燥物の予備液化物を準備する段階;および
b.予備液化物を含有する反応器にデンプンを20〜85℃の温度で添加して、30w/w%〜80w/w%の乾燥物を含む第2のデンプンスラリーを得る段階;および
c.第2のデンプンスラリーの一部を反応器から取り出し、それを液化段階に送り、取り出した部分をデンプンで置き換えて、反応器中の第2のデンプンスラリーを30w/w%〜80w/w%の乾燥物で維持する段階、を含むことを特徴とする、上記1〜5のいずれか一項に記載の方法。
7.1またはそれ以上のデンプン分解酵素が、段階b.および/または段階c.で添加されることを特徴とする、上記6に記載の方法。
8.段階c.が繰り返されることを特徴とする、上記6または7に記載の方法。
9.段階c.が連続的な方法で行われることを特徴とする、上記6〜8のいずれか一項に記載の方法。
10.段階b.および段階c.で添加される前記デンプンが、40w/w%〜90w/w%の乾燥物を含むことを特徴とする、上記6〜9のいずれか一項に記載の方法。
11.段階b.および段階c.で添加される前記デンプンが、天然デンプンを含むことを特徴とする、上記6〜10のいずれか一項に記載の方法。
12.前記デンプン分解酵素がα−アミラーゼを含むことを特徴とする、上記7〜11のいずれか一項に記載の方法。
13.前記第2のデンプンスラリーのpHが3.5〜6.5であることを特徴とする、上記6〜12のいずれか一項に記載の方法。
【0050】
測定方法
試験A:デンプン分解物を含むデンプンスラリーの溶解性レベルの測定。
約40℃のデンプン分解物を含む100mlのデンプンスラリーを、Macherey−Nagel(MN)614 1/4直径150mm襞濾紙を通して濾過する。20℃の濾液の屈折率を屈折計ATAGO DR−A1で測定する。屈折計により屈折率からブリックス値(°Brix value)が導かれる、この°Brixは、溶解性レベルに相当する。
【実施例】
【0051】
実施例1:液化P110329
0.03w/w%のα−アミラーゼ、ジェネンコア製Spezyme Alpha PF(以前はGC358として公知)を、ダブルジャケット付槽において47℃で32w/w%の乾燥物を含む第1の小麦デンプンスラリーに添加する。pHは、約5.7である。
【0052】
温度を47℃から54℃に上昇させ、2時間20分間維持する。可溶化レベルが12.5%の予備液化物が得られる。
【0053】
次に、小麦デンプン(乾燥物88%)を徐々に添加して、51.6w/w%の乾燥物を含む第2のデンプンスラリーを得る。0.03w/w%のα−アミラーゼ、Spezyme Alpha PFおよび0.034%のα−アミラーゼ、Liquozyme Supra 2.8Xも徐々に添加する。この添加段階は30分で行われる。温度は、常に54℃で維持される。第2のデンプンスラリーの可溶化レベルを19.5%で測定する。
【0054】
第2のデンプンスラリーは、130L/時の速度で槽を出る。同時に、90kg/時の乾燥小麦デンプン(乾燥物88%)および73L/時の水が槽に添加される。この時点で、このプロセスは、新鮮なデンプン、酵素を添加することにより連続的な方法で動作していて、第2のデンプンスラリーを液化段階に放出する。これは、従来のプロセスで到達できるよりも多くの乾燥物を含む。
【0055】
槽を出る第2のデンプンスラリーは、54℃の温度であり、蒸気噴射によって温度が107℃まで上昇するジェットクッカーに運ばれる。次にそれは107℃の温度で10分間維持される。その後、気圧フラッシュ(atmospheric flash)の後、温度は約98℃に低下する。液化物のDEは、約12で測定され、乾燥物は約48w/w%で測定される。
【0056】
さらなる液化は、前記液化物を60分間回収すること、および、60分間23.3のDEが得られるまで95℃〜98℃で保持することによって実現される。この段階の液化物は、デンプン陰性であり、連続的にさらなる加工段階に送ることができる。
【0057】
実施例2:液化P120131
0.01w/w%のα−アミラーゼSpezyme Alpha PFおよび0.01w/w% Liquozyme Supra 2.8Xを、ダブルジャケット付槽において35℃で44.7w/w%の乾燥物を含む第1の小麦デンプンスラリーに添加する。pHは、約5.6である。
【0058】
温度を150分間35℃で維持する。可溶化レベルが5.1%の予備液化物が得られる。
【0059】
予備液化物は、130L/時の速度で槽を出る。同時に、乾燥物45w/w%のデンプンスラリーが130L/時の速度で槽に添加される。
【0060】
槽を出る備液化物は、35℃の温度であり、連続的に第2の槽に送られる。乾燥物ベースで0.0085%のLiquozyme Supra 2.8Xを第2の槽に添加する。第2の槽における平均滞留時間は、20分である。この混合物は、蒸気噴射によって温度が107℃まで上昇するジェットクッカーに連続的に運ばれ、次にそれは107℃の温度で10分間維持される。その後、気圧フラッシュの後、温度は約98℃に低下する。液化物のDEは、約4.9で測定され、乾燥物は約42.3w/w%で測定される。
【0061】
さらなる液化は、前記液化物を45分間回収すること、および、15分間12.9のDEが得られるまで95℃〜98℃で保持することによって実現される。この段階の液化物は、デンプン陰性であり、連続的な方法でさらなる加工段階に送られる。