【文献】
KUMAR, S. et al.,PEG-Labeled Nucleotides and Nanopore Detection for Single Molecule DNA Sequencing by Synthesis,SCIENTIFIC REPORTS ,2012年,2:684,pp.1-8
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記十分な近接が、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、25、30、35、40、45、50、60、70、80、90、100、150、200、300、400または500ヌクレオチド未満である、請求項1記載の方法。
第3の分子と第1および第2のプローブがssDNAに結合しており、第3の分子に連結されたssDNAが、第1のプローブに連結されたssDNAの領域に相補的な領域を含み、かつ第2のプローブに連結されたssDNAのある領域に相補的である、請求項1記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0022】
詳細な説明
本出願を通じて、本文は、本栄養素、組成物および方法のさまざまな実施態様に言及する。記載された種々の実施態様は、さまざまな例示的実施例を提供するものであり、代替種の記載として解釈されるべきではない。むしろ、本明細書に提供されたさまざまな実施態様の説明は、重複した範囲であってもよいことに留意すべきである。本明細書で述べられる実施態様は単なる例示であり、本発明の範囲を限定するものではない。
【0023】
また、本開示を通じて、さまざまな刊行物、特許および公開特許明細書は、識別のための引用によって参照される。これらの刊行物、特許および公開特許明細書の開示は、本発明が関係する技術水準をより完全に説明するために、参照により本開示に組み入れられる。
【0024】
本明細書および特許請求の範囲で使用する場合、単数形「a」、「an」および「the」は、文脈上他に明確に指示されない限り、複数形の言及を含む。例えば、用語「電極」(an electrode)は、それらの混合物を含めて、複数の電極を含む。
【0025】
本明細書で使用する用語「含む」(comprising)は、デバイスおよび方法が列挙された構成要素または段階を含むが、他の構成要素または段階を排除しない、ことを意味することが意図される。デバイスおよび方法を定義するために使用する場合の「から本質的になる」とは、その組み合わせに対して本質的に重要な他の構成要素または段階を排除することを意味するものとする。「からなる」とは、他の構成要素または段階を排除することを意味するものとする。これらの接続語(transition term)の各々によって定義される実施態様は、本発明の範囲内にある。
【0026】
距離、サイズ、温度、時間、電圧および濃度(範囲を含む)などの全ての数字表示は、これらのパラメータの測定における通常の実験的変動を包含することを意図した近似値であり、その変動は記載された実施態様の範囲内にあることが意図される。必ずしも明記されるわけではないが、全ての数字表示の前に用語「約」が付されることは理解されるべきである。また、必ずしも明記されるわけではないが、本明細書に記載された構成要素は単なる例示であり、その均等物が当技術分野で知られていることも理解されるべきである。
【0027】
本明細書で使用する用語「ナノ細孔」(または単に「細孔」)は、2つの体積を分離する膜中の単一のナノスケールの開口部を指す。細孔は、例えば、脂質二重層膜に挿入されたタンパク質チャンネルであり得るか、あるいはドリリングもしくはエッチングによって、または窒化ケイ素、二酸化ケイ素、グラフェン、もしくはこれらの材料や他の材料の組み合わせ層などの、薄い固体基板を介した電圧パルス法を用いることによって作製され得る。幾何学的には、細孔は、直径が0.1nm以上で1ミクロン以下の寸法を有する;細孔の長さは膜の厚さによって決まり、その膜はサブナノメートルの厚さ、または最大1ミクロンもしくはそれ以上の厚さであってよい。数百ナノメートルよりも厚い膜の場合、ナノ細孔は「ナノチャンネル」と呼ばれることがある。
【0028】
本明細書で使用する「ナノ細孔機器」という用語は、(並行してまたは直列に存在する)1つ以上のナノ細孔を、単一分子事象を検出するための回路と組み合わせたデバイスを指す。具体的には、ナノ細孔機器は、細孔(複数可)を通るイオン電流を測定しながら、細孔(複数可)に規定電圧を印加するために、高感度の電圧クランプ増幅器を使用する。二本鎖DNA(dsDNA)のような単一荷電分子が電気泳動によって細孔を通して捕捉され駆動される場合には、ナノ細孔内に捕捉された分子を特徴付けるために、捕捉事象(すなわち、ナノ細孔を通る分子の移動、またはナノ細孔内の分子の捕捉)を示す測定された電流シフトおよび(電流振幅の)シフト量ならびに該事象の持続時間を使用する。実験中に多くの事象を記録した後、事象の分布を分析して、そのシフト量(すなわち、その電流シグネチャ)に従って対応する分子を特徴付ける。このようにして、ナノ細孔は、生体分子検出のための簡便で、ラベルフリーの、純粋に電気的な単一分子法を提供する。
【0029】
本明細書で使用する用語「事象」は、ナノ細孔を通る検出可能な分子または分子複合体の移動およびそれに関連する測定結果を指す。それは、その電流、持続時間、および/またはナノ細孔内の分子の検出の他の特性によって定義され得る。同様の特性を有する複数の事象は、同一であるかまたは類似の特性(例えば、バルク、電荷)を有する分子または複合体の集団を示している。
【0030】
分子検出
本開示は、分子の検出および定量のための方法およびシステムを提供する。また、該方法およびシステムは、標的分子に結合するプローブの親和性を測定するように構成することもできる。さらに、そのような検出、定量および測定を、多重化された方法で実施して、その効率を大幅に増加させることも可能である。
【0031】
図1は、開示された方法およびシステムの一実施態様を示す。より具体的には、該システムは、検出または定量が望まれる標的モチーフ101を含む標的保有分子(102)を含む。プローブ(103)は、標的保有分子102上の特異的結合モチーフ101に結合することが可能である。標的保有ポリヌクレオチド上に存在する場合のプローブ(107)の検出を補助するために、追加の分子を添加することができる。
【0032】
したがって、溶液中に全て存在する場合、プローブ103は、標的モチーフ101に対する該プローブの特異的認識を介して標的モチーフに結合する。このような結合は、プローブと標的配列を含む複合体の形成を引き起こす。
【0033】
形成された複合体(101/103または101/103/107)は、デバイス(104)によって検出することができ、該デバイスは、その内部空間を3つの体積に分離する2つの細孔(105および106)と、該細孔を通過する物体を同定するように構成された該細孔に隣接するセンサとを含む。この実施態様は、2つのナノ細孔を直列に有するデュアルナノ細孔デバイスである。いくつかの実施態様では、ナノ細孔デバイスは、制御された電圧をナノ細孔に伝える電子部品(該電圧は、いくつかの実施態様では、独立して制御されかつクランプされ得る)を、ナノ細孔を横切る電流を測定するための回路と共に、含む。電圧は、制御された様式でポリヌクレオチドをある容積から別の容積に該細孔を横切って移動するように調整することができる。ポリ核酸は荷電されているか、または電荷を含むように修飾され、細孔における印加された電位差または電圧差は、電圧場に曝された荷電分子に静電気力を加えることによって、荷電された足場の動きを容易にし、かつ制御する。
図1はデュアルナノ細孔デバイスを示すが、上述した原理は、単一ナノ細孔デバイスを用いる本発明の他の実施態様において適用することができる。以下で明記されない限り、細孔またはナノ細孔またはナノ細孔デバイスへの言及は、本発明の精神の範囲内で単一、デュアルまたはマルチ細孔デバイスを包含することが意図される。
【0034】
形成された複合体を含むサンプルがナノ細孔に投入される場合、ナノ細孔は、標的保有分子が該細孔を通過するように構成され得る。標的モチーフが細孔内にあるか、または細孔に隣接している場合には、標的モチーフの結合状態をセンサによって検出することができる。
【0035】
本明細書で使用する標的モチーフの「結合状態」とは、結合モチーフがプローブによって占有されているかどうかを指す。本質的に、結合状態は、結合されているか、結合されていないか、のいずれかである。(i)標的モチーフがフリーで、プローブに結合されていない(
図2の201および204参照)、または(ii)標的モチーフがプローブに結合されている(
図2の202および205を参照)のいずれか。さらに、2つ以上の標的配列が1つの標的保有分子上で検出されることを可能にするために、異なるサイズのプローブまたは異なるプローブ結合部位を有するプローブを使用して、追加の電流プロファイル(例えば、
図2の203および206参照)を与えることができる。
【0036】
標的モチーフの結合状態の検出は、さまざまな方法によって行うことができる。一局面では、標的モチーフのサイズが各状態(すなわち、占有または非占有)で異なるために、標的モチーフが細孔を通過するとき、その異なるサイズは細孔を横切る異なる電流をもたらす。これに関して、電源に接続されて電流を検出できる電極がセンシング機能を果たし得ることから、検出のために別個のセンサを必要としない。したがって、2つの電極は「センサ」として機能し得る。
【0037】
いくつかの局面では、検出を高めるために、作用剤(例えば、
図1の107)が前記複合体に添加される。この作用剤は、プローブまたはポリヌクレオチド/プローブ複合体に結合することができる。一局面では、この作用剤は、検出を容易にするために、負または正のいずれかの電荷を含む。別の局面では、この作用剤は、検出を容易にするために、サイズを付け足す。別の局面では、この作用剤は、フルオロフォアなどの検出可能な標識を含む。
【0038】
これに関連して、結合状態(ii)の同定は、標的保有分子中の標的配列がプローブと複合体を形成していることを示す。言い換えれば、標的配列が検出される。
【0039】
別の実施態様では、結合分子は、インピーダンスの変化によって結合分子を個別に検出するように離間され、その場合、各結合分子は、隣接する結合分子によってマスクされないインピーダンス値を与える。
【0040】
一実施態様では、結合プローブは、少なくとも1nm(すなわち、核酸ベースのポリヌクレオチドの場合は約3bp)の距離を離される。別の実施態様では、結合プローブは、少なくとも10nm(すなわち、核酸ベースのポリヌクレオチドの場合は約33bp)の距離を離される。別の実施態様では、結合プローブは、少なくとも100nm(すなわち、核酸ベースのポリヌクレオチドの場合は約333bp)の距離を離される。別の実施態様では、結合プローブは、少なくとも500nm(すなわち、核酸ベースのポリヌクレオチドの場合は約1666bp)の距離を離される。
【0041】
いくつかの局面では、前記方法には、2つの独立したプローブが含まれることをさらに含み、この2つの独立したプローブは、いったんポリヌクレオチドに結合して互いに十分接近していれば、第3の分子に結合することができる。この第3の分子の結合は、異なる移行電流シグネチャをもたらし、したがって、2つの独立したプローブがごく近接しているという証拠を提供する。
【0042】
プローブが近接して結合しているかどうかを判定するメカニズムは、単一塩基対のミスマッチを識別し、したがって一塩基多型(または一塩基変異)を有する対立遺伝子を検出することができる短いプローブの使用を可能にし、また、ゲノム中のユニークなスポットを確立するためのマーカーとして機能する、より長いプローブの使用を可能にする。一実施態様では、特定の配列が特定の標的遺伝子と関連するかどうかを判定するために、2つのプローブが組み合わせて使用される。別の実施態様では、この方法は、プローブをゲノム中の領域のマーカーとして用いることによって構造的再配列を決定するために使用される。別の実施態様では、特定の配列が化学的に(エピジェネティクス的に、例えばメチル化、ヒドロキシメチル化)修飾されて特定の標的遺伝子と関連するかどうかを判定するために、2つのプローブが組み合わせて使用される。
【0043】
一実施態様では、第3の分子は抗体(301)であり、該抗体は、少なくとも2つのプローブがポリヌクレオチド(304)に結合しかつ互いに非常に接近している(0.01nm〜50nm)場合にのみ、プローブ(305および306)に結合する(
図3A)。別の実施態様では、抗体(301)に対するエピトープの半分を(共有結合、イオン結合、水素結合、または他の結合を介して)各プローブ分子(302および303)に連結し、ごく近接して位置する両エピトープに抗体の結合を依存させる;これは、両プローブが互いに十分近くにあることを示す(
図3B)。一実施態様では、各プローブはPNA分子であり、各PNA分子は、抗体に対する結合エピトープのセグメントを含むか、または該セグメントに結合している(共有結合、イオン結合、水素結合、または他の結合)。この実施態様では、抗体が結合してポリヌクレオチドと複合体を形成するように、部分エピトープは十分に近接していなければならない。
【0044】
別の実施態様では、ポリヌクレオチド(304)にごく近接して結合している2つのプローブ(302および303)に結合するための第3の分子として、PEG分子(310)が使用される。いくつかの実施態様では、PEGは、存在する場合に固有のシグネチャを可能にする十分なバルク、電荷または他の特性を与えるように修飾される(
図4)。いくつかの実施態様では、PEGは、近接しているプローブに対する結合親和性を増加させるように修飾される。PEG上のこの結合改変は、例えば、各プローブに結合された遊離の一本鎖DNA(ssDNA)に相補的な、PEGの各末端のssDNA分子であり得る。一実施態様では、プローブへのPEG結合に必要なエネルギー障壁は、両方のssDNAオリゴがプローブに結合されたそれらの相補的配列に結合する場合にのみ満たされる(
図4)。したがって、PEGがまたがる距離にあるプローブは、PEG/プローブ/ポリヌクレオチド複合体の検出を通してナノ細孔内で検出されるが、より遠くに離れているものは検出されない。当業者には理解されるように、ssDNAは、PNAのような合成核酸類似体によって、またはRNAによって置換され得る。
【0045】
いくつかの局面では、2つの独立したプローブは、それらが近接してポリヌクレオチドに結合している場合に、検出を可能にするように修飾される。一実施態様では、プローブの修飾は、プローブのイオン電荷を変えることを含み、その結果、両プローブが近接してポリヌクレオチドに結合し、ナノ細孔を通過するときの電流シグネチャが改変される。この電流シグネチャは、単一のプローブ/ポリヌクレオチド複合体が、第2のプローブに近接することなく、ナノ細孔を通過するときの電流シグネチャとは区別される。一実施態様では、両方のプローブに(例えば、プローブを2-ヒドロキシエチルチオスルホネート(MTSET)で標識することによって)正電荷を加えると、両方のプローブがポリヌクレオチドに沿って空間的に十分に接近している場合、異なる移行電流シグネチャをもたらし、遠く離れてポリヌクレオチドに結合しているプローブとは対照的に、その電荷効果は相加的である。
【0046】
いくつかの局面では、前記方法はさらに、標的集団中のただ1つのユニーク配列への結合を可能にするのに十分長いが、単一の塩基対ミスマッチが存在するだけで標的部位に結合しない能力をも有するプローブを使用することを含む。これはPNAプローブを使用する場合に可能である。示されるように(Strand-Invasion of Extended, Mixed-Sequence B-DNA by γPNAs, G. He, D. Ly et. Al., J Am Chem Soc. 2009 September 2; 131(34): 12088-12090. doi: 10.1021/ja900228j)、20bpのγPNAプローブは、完全に一致した標的配列に効率的に結合することができるが、標的配列とプローブ配列が1塩基だけ異なる場合には、結合が取り消される。31億の塩基を含むヒトゲノムを考えると、20塩基対の配列はランダムに0.003回生じる可能性がある。したがって、研究中の特定の配列に結合するように設計された20塩基対のプローブは、望ましくない位置に結合して偽陽性をもたらす可能性が非常に低い。(
図19cおよび21)に含まれる例は、相補的配列のみに選択的に結合するPNAプローブとPNA-PEGプローブを示す。
【0047】
いくつかの局面では、前記方法はさらに、2つのプローブが十分に近接してポリヌクレオチドに結合される場合に検出可能な信号を発する要素を含む、2つの独立したプローブを用いることをさらに含む。一実施態様では、各プローブはフルオロフォアで標識される(例えば、
図5(315, 316)を参照されたい)。プローブが十分に近接していて検出可能な信号を発生する場合には、発光スペクトルを検出器(317)によって検出する。一実施態様では、2つのプローブは異なる色のフルオロフォアで標識される。プローブが近接している場合、色は一緒に映し出され(または混じり合って新しい色を提供し)、カメラまたは顕微鏡などの外部センサで検出することができ、2つのプローブは空間で接近していることが証明される。関連する実施態様では、一方の蛍光標識プローブが、近接しているときに他方の蛍光標識プローブのエネルギー発光スペクトルに影響を及ぼすように、FRET(またはBRET)型の検出を用いて2つのプローブの近接性を判定する。
【0048】
いくつかの実施態様では、検出可能な標識はフルオロフォアである。フルオロフォアを検出するために、カバーグラスを用いて面内(in-plane)作製されたナノ細孔デバイスを落射蛍光顕微鏡と組み合わせて、二重電流振幅および蛍光信号の検出を可能にすることができる。
図6Aは、このようなデバイスが追加のフルオロフォア標識を検出するためにどのように使用され得るかを示す。ナノ細孔デバイスは、落射蛍光顕微鏡の対物レンズの下に置かれる。ナノ細孔測定が行われるにつれて、該顕微鏡はナノ細孔領域を連続的に画像化している。ナノ細孔領域は、フルオロフォアの励起スペクトルに対応する波長のみが通過できるようにフィルタリングされる広帯域励起源によって照射される。ダイクロイックフィルタは、フルオロフォアの発光スペクトルに対応する波長を選択的に透過させる同時に、他の全ての波長を反射する。フルオロフォアで修飾された結合分子がナノ細孔を通過するとき、フルオロフォアは励起スペクトルを吸収して、発光スペクトルを再放出する。検出器の前にある発光フィルタは、フルオロフォアの発光スペクトルに対応する波長のみが検出されることを保証する。したがって、検出器は、フルオロフォアがナノ細孔を通過するときにのみ信号を出す。
図6Bは、フルオロフォアの放出中に顕微鏡によって観察されたナノ細孔デバイスの上から見下ろした図を示す。
図6Cは、フルオロフォアの検出がナノ細孔からの信号と共にどのように使用され得るかを示す。2つの信号の使用は、生体分子の検出における信頼性を高める。
【0049】
いくつかの局面では、前記方法はさらに、センサによる検出を可能にする、特徴が結合されているプローブの使用を含むが、そうした特徴は切断可能なリンカーを用いてプローブに結合される。したがって、ナノ細孔において互いに識別され得るプローブのセットは標的保有ポリヌクレオチドに結合される。そのプローブのセットがナノ細孔で検出されると、その特徴が切断され、やはり切断可能な検出特徴を有する新たなプローブのセットが添加される(
図7)。全ての配列情報が捕捉された標的分子から抽出されるまで、添加/切断/洗浄サイクルを続けることができる。プローブの検出を助ける分子の例は上述されている。切断可能なリンカーの例は、還元剤切断可能リンカー(TCEPにより切断されるジスルフィドリンカー)、酸切断可能リンカー(ヒドラゾン/ヒドラジド結合)、プロテアーゼにより切断されるアミノ酸配列、エンドヌクレアーゼ(部位特異的制限酵素)により切断される核酸リンカー、塩基切断可能リンカー、または光開裂可能リンカーである[Leriche, Geoffray, Louise Chisholm, and Alain Wagner. "Cleavable linkers in chemical biology." Bioorganic & medicinal chemistry 20, no. 2(2012): 571-582.]。
【0050】
標的モチーフ
標的配列検出法が適用される核酸およびポリペプチドの場合、標的結合モチーフは、プローブ分子によって認識されるヌクレオチドまたはペプチド配列であり得る。標的モチーフは、化学的に修飾(例えば、メチル化)されていてもよく、または他の分子(例えば、アクチベーターまたはリプレッサー)によって占有されていてもよく、プローブの性質に応じて、標的モチーフの状態を解明することができる。いくつかの局面では、標的配列は、プローブをポリヌクレオチドに結合させるための化学的修飾を含む。いくつかの局面では、化学的修飾は、アセチル化、メチル化、SUMO化、グリコシル化、リン酸化、ビオチン化、および酸化からなる群より選択される。
【0051】
プローブ分子
本技術では、プローブ分子は、標的保有ポリヌクレオチドへのその結合によって検出または定量される。
【0052】
本方法で使用されるプローブは、ポリヌクレオチド上の部位に特異的に結合することが可能であると理解され、その部位は配列または構造により特徴付けられる。プローブ分子の例には、PNA(タンパク質核酸)、bisPNA、γPNA、PNAのサイズまたは電荷を増加させるPNAコンジュゲートが含まれる。プローブ分子の他の例は、天然もしくは組換えタンパク質、タンパク質融合体、タンパク質のDNA結合ドメイン、ペプチド、核酸、オリゴヌクレオチド、TALEN、CRISPR、PNA(タンパク質核酸)、bisPNA、γPNA、サイズ、電荷、蛍光もしくは官能性を増加させる(例えば、オリゴ標識される)PNAコンジュゲート、または他のPNA誘導体化ポリマー、および化合物からなる群より選択される。
【0053】
いくつかの局面では、プローブはγPNAを含む。γPNAは、ペプチド様主鎖中に、特にN-(2-アミノエチル)グリシン主鎖のγ位置に、単純な修飾を有し、したがってキラル中心が生じる(Rapireddy S., et al., 2007. J. Am. Chem. Soc, 129:15596-600; He G, et al., 2009, J. Am. Chem. Soc, 131:12088-90; Chema V, et al., 2008, Chembiochem 9:2388-91; Dragulescu-Andrasi, A., et al., 2006, J. Am. Chem. Soc, 128:10258-10267)。bisPNAとは異なり、γPNAは、2本のDNA鎖の一方をさらなるハイブリダイゼーションのために利用可能にしたままで、配列制限なしにdsDNAと結合することができる。
【0054】
いくつかの局面では、プローブの機能は、安定した複合体を形成するために、相補的塩基対形成によって標的配列を有するポリヌクレオチドにハイブリダイズすることである。PNA分子はさらに、追加の分子に結合して複合体を形成することができ、該複合体は、バックグラウンド(非プローブ結合ポリヌクレオチドの断面に対応する平均信号振幅である)に比して、検出可能な信号振幅の変化またはコントラストを生じさせるのに十分な大きさの断面表面積を有する。
【0055】
ポリヌクレオチド標的配列のPNA分子への結合の安定性は、それがナノ細孔デバイスによって検出されるために重要である。結合安定性は、標的保有ポリヌクレオチドがナノ細孔を通って移動している期間を通じて維持されなければならない。安定性が弱いか、または不安定である場合、プローブは標的ポリヌクレオチドから分離することがあり、標的保有ポリヌクレオチドがナノ細孔を通り抜けるときに検出されないだろう。
【0056】
特定の実施態様では、プローブの例はPNAコンジュゲートであり、PNAコンジュゲートのPNA部分はヌクレオチド配列を特異的に認識し、コンジュゲート部分は異なるPNAコンジュゲート間のサイズ/形状/電荷の差を増加させる。
【0057】
図8に示すように、リガンドA、B、CおよびDはそれぞれ、DNA分子上の部位に特異的に結合し、これらのリガンドは、それらの幅、長さ、サイズおよび/または電荷によって互いに識別および区別することができる。それらの対応する部位をそれぞれA、B、CおよびDで表すとすると、リガンドの同定は、部位および順序の構成の点で、DNA配列A-B-C-Dの解明につながる。
【0058】
異なる反応性部分を前記リガンドに組み込んで化学的ハンドルを提供することができ、この化学的ハンドルに標識がコンジュゲートされ得る。反応性部分の例としては、限定するものではないが、一級アミン、カルボン酸、ケトン、アミド、アルデヒド、ボロン酸、ヒドラゾン、チオール、マレイミド、アルコールおよびヒドロキシル基、ならびにビオチンが挙げられる。
【0059】
図9Aは、PNAリガンドを示し、該リガンドは、その電荷を増加させ、それ故にナノ細孔による検出を容易にするように修飾されている。具体的には、このリガンドは、PNA分子上の塩基と標的DNA中の塩基との相補的塩基対形成およびフーグスティーン(Hoogsteen)塩基対形成により標的DNA配列に結合するものであるが、ラベリングのための遊離チオール化学的ハンドルを提供するシステイン残基が主鎖に組み込まれている。ここでは、システインはマレイミドリンカーを介してペプチド2-アミノエチルメタンチオスルホネート(MTSEA)に標識付けされ、これは、標識/ペプチドがリガンド電荷を増加させるので、該リガンドがその標的配列に結合するかどうかを検出するための手段を提供する。このより大きな電荷は、非標識PNAと比較して、細孔を通る電流のより大きな変化をもたらす。
【0060】
いくつかの局面では、リガンド結合ポリヌクレオチドとサンプル中に存在する他のバックグラウンド分子の間の変化のコントラストを増加させるために、シュードペプチド主鎖に対して、リガンド(例えばPNA)の全体的なサイズを変化させてコントラストを増加させる修飾を行うことができる。例えば、
図9Bを参照されたい;
図9Bは、ペプチド(303)へのコンジュゲーションをペプチドのN末端アミンを介して可能にするためにSMCCリンカー(302)で修飾されたシステイン残基(301)が組み込まれているPNAを示す。リガンドを(例えば、
図9Aのように)標識することにより電荷を付加することに加えて、非極性アミノ酸の代わりに、より荷電したアミノ酸を選択することは、PNAの電荷を増加させるのに役立ち得る。さらに、小粒子、分子、タンパク質、ペプチドまたはポリマー(例えばPEG)をシュードペプチド主鎖にコンジュゲートして、リガンド-標的保有ポリヌクレオチド複合体のバルクまたは断面表面積を増大させることができる。増大したバルクは、バルクの増加から生じるどのような差動信号をも容易に検出できるように、信号振幅のコントラストを向上させるのに役立つ。シュードペプチド主鎖にコンジュゲートされ得る小粒子、分子、タンパク質、またはペプチドの例には、αヘリックス形成ペプチド、ナノメートルサイズの金粒子またはロッド(例えば、3nm)、量子ドット、ポリエチレングリコール(PEG)が含まれるが、これらに限定されない。分子のコンジュゲーションの方法は当技術分野で周知であり、例えば、米国特許第5,180,816号、第6,423,685号、第6,706,252号、第6,884,780号、および第7,022,673号に記載されており、これらはその全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0061】
上記の実施態様は、システイン残基を介したPEGラベリングについて記載しているが、他の残基を使用することもできる。例えば、リシン残基は、システイン残基と簡単に入れ替えられ、NHSエステルと遊離アミンを用いた結合化学を可能にする。また、PEGは、デンドロン、ビーズもしくはロッドのような、他のバルク追加成分と容易に入れ替えることができる。二官能性リンカーとPNAとの間で、またはデンドロンを直接カップリングする。当業者は、アミノ酸を変更することができ、その特定のアミノ酸に対して結合化学(例えば、セリン反応性イソシアネート)を改変することができるという点で、このシステムの柔軟性を認識するであろう。この反応に使用できる結合化学のいくつかの例を以下の表に挙げる。
【0063】
図3A、3B、4、5、9A、9Bおよび18Aは、検出を容易にするために、または2つのプローブがごく近接していることを検出するために、プローブのサイズを増加させるように、エピトープを含むように、ssDNAオリゴマーを含むように、フルオロフォア、追加の電荷または追加のサイズを含むように、修飾されたPNAプローブを示す。
【0064】
さまざまな反応性部分をプローブに組み込んで、標識を結合させることができる化学的ハンドルを提供することができる。反応性部分の例としては、限定するものではないが、一級アミン、カルボン酸、ケトン、アミド、アルデヒド、ボロン酸、ヒドラゾン、チオール、マレイミド、アルコールおよびヒドロキシル基、ならびにビオチンが挙げられる。
【0065】
化学的ハンドルを組み込むための一般的な方法は、プローブの主鎖に特定のアミノ酸を含めることである。例としては、システイン類(チオレートを提供)、リシン類(遊離アミンを提供)、トレオニン(ヒドロキシルを提供)、グルタミン酸およびアスパラギン酸(カルボン酸を提供)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0066】
いろいろな種類の標識を、反応性部分を用いて付加することができる。これらには以下の標識が含まれる:
1. プローブのサイズを増加させる標識、例えば、ビオチン/ストレプトアビジン、ペプチド、核酸;
2. プローブの電荷を変化させる標識、例えば、荷電ペプチド(6×HIS
(SEQ ID NO:2))、またはタンパク質(例:カリブドトキシン)、または小分子もしくはペプチド(例:MTSET);
3. 蛍光を変化させるかまたは蛍光をプローブに追加する標識、例えば、一般的なフルオロフォア、FITC、ローダミン、Cy3、Cy5;
4. 第3の分子と結合するためのエピトープまたは相互作用部位を提供する標識、例えば、抗体結合用のペプチド。
【0067】
多重化
いくつかの実施態様では、上記のような同じ種類のプローブを含めるのではなく、それぞれが固有の部位または標的モチーフに結合する異なるプローブのコレクションが添加される。
【0068】
このような設定では、複数の異なるプローブを用いて、同じ標的保有ポリヌクレオチド内の複数の異なる標的部位を検出することができる。
図10は、こうした方法を示す。ここでは、二本鎖DNA 1002が、複数の異なる標的モチーフを含み、1003を2コピー、1004を2コピー、そして1005を1コピー含んでいる。
【0069】
本技術は、それぞれが固有の電流プロファイルを(例えば、サイズが異なることにより)提供するプローブ1006、1007および1008を用いることによって、同じ分子内の異なる標的モチーフを検出することができ、標的モチーフ検出を多重化するための手段を提供する。さらに、固有の各プローブがどれだけ多く結合されたかを数えることによって、各標的の数(またはコピー数)を決定することができる。結合に影響する条件を調整することによって、このシステムからは、より詳細な結合動的情報を取得することができる。
【0070】
同様に、多重化は、属性が異なるプローブをいろいろな組み合わせでミックス・アンド・マッチさせたコレクションを用いることによって達成することができ、唯一の必須要件は、異なる配列に結合するプローブが互いに識別可能なことである。例えば、実験は、サイズによって識別できるプローブ、およびサイズによって識別できる追加のプローブを必要としている(
図9A、9Bおよび19)。
【0071】
多重化のさらなる方法は、異なる種からの核酸のコレクションを含むサンプルを問い合わせる(interrogate)ために、互いから定位置の既知配列でポリヌクレオチドに結合するプローブを設計することを含む。この方法の例として、3種の異なる既知配列のバクテリアの水源を検査する場合、2つのプローブは、種Aについては1000塩基対離れて、種Bについては3000bp離れて、種Cについては5000塩基対離れて配置され得る。1000塩基対および3000塩基対離れているプローブが検出された場合には、種Aと種Bが存在するが、検出可能な程度に種Cは存在しない。設計された間隔のこの同じ方法を用いて、特定の標的サンプル中の既知配列または変異配列の検出を多重化することもできる。
【0072】
ナノ細孔デバイス
提供されるナノ細孔デバイスは、デバイスの内部空間を2つの体積に分離する構造体に開口部を形成する細孔を含み、例えばセンサを用いて、該細孔を通過する物体を(例えば、物体を示すパラメータの変化を検出することによって)同定するように構成されている。本明細書に記載の方法に使用されるナノ細孔デバイスは、PCT公開WO/2013/012881にも開示されており、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0073】
ナノ細孔デバイスの細孔(複数可)は、ナノスケールまたはミクロスケールのものである。一局面では、各細孔は、小分子もしくは大きな分子または微生物が通過することができるサイズを有する。一局面では、各細孔は少なくとも約1nmの直径である。あるいは、各細孔は、少なくとも約2nm、3nm、4nm、5nm、6nm、7nm、8nm、9nm、10nm、11nm、12nm、13nm、14nm、15nm、16nm、17nm、18nm、19nm、20nm、25nm、30nm、35nm、40nm、45nm、50nm、60nm、70nm、80nm、90nmまたは100nmの直径である。
【0074】
一局面では、該細孔は約100nm以下の直径である。あるいは、該細孔は、約95nm、90nm、85nm、80nm、75nm、70nm、65nm、60nm、55nm、50nm、45nm、40nm、35nm、30nm、25nm、20nm、15nm、または10nm以下の直径である。
【0075】
いくつかの局面では、各細孔は、少なくとも約100nm、200nm、500nm、1000nm、2000nm、3000nm、5000nm、10000nm、20000nm、または30000nmの直径である。一局面では、該細孔は約100000nm以下の直径である。あるいは、該細孔は、約50000nm、40000nm、30000nm、20000nm、10000nm、9000nm、8000nm、7000nm、6000nm、5000nm、4000nm、3000nm、2000nmまたは1000nm以下の直径である。
【0076】
一局面では、該細孔は、約1nm〜約100nmの直径、あるいは約2nm〜約80nm、または約3nm〜約70nm、または約4nm〜約60nm、または約5nm〜約50nm、または約10nm〜約40nm、または約15nm〜約30nmの直径を有する。
【0077】
いくつかの局面では、ナノ細孔デバイスの細孔(複数可)は、大きな微生物または細胞を検出するための、より大きなスケールのものである。一局面では、各細孔は、大きな細胞または微生物が通過することができるサイズを有する。一局面では、各細孔は少なくとも約100nmの直径である。あるいは、各細孔は、少なくとも約200nm、300nm、400nm、500nm、600nm、700nm、800nm、900nm、1000nm、1100nm、1200nm、1300nm、1400nm、1500nm、1600nm、1700nm、1800nm、1900nm、2000nm、2500nm、3000nm、3500nm、4000nm、4500nm、または5000nmの直径である。
【0078】
一局面では、該細孔は約100,000nm以下の直径である。あるいは、該細孔は、約90,000nm、80,000nm、70,000nm、60,000nm、50,000nm、40,000nm、30,000nm、20,000nm、10,000nm、9000nm、8000nm、7000nm、6000nm、5000nm、4000nm、3000nm、2000nm、または1000nm以下の直径である。
【0079】
一局面では、該細孔は、約100nm〜約10000nmの直径、あるいは約200nm〜約9000nm、または約300nm〜約8000nm、または約400nm〜約7000nm、または約500nm〜約6000nm、または約1000nm〜約5000nm、または約1500nm〜約3000nmの直径を有する。
【0080】
いくつかの局面では、ナノ細孔デバイスは、該細孔を横切ってポリマー足場を動かす手段および/または該細孔を通過する物体を同定する手段をさらに含む。さらなる詳細は以下に提供され、2細孔デバイスとの関連において記載される。
【0081】
単一細孔のナノ細孔デバイスと比較して、2細孔デバイスは、該細孔を横切るポリマー足場の移動の速度および方向を良好に制御するように、より容易に構成することができる。
【0082】
特定の実施態様では、ナノ細孔デバイスは複数のチャンバを含み、各チャンバは少なくとも1つの細孔を介して隣接チャンバと連通している。これらの細孔のうち、2つの細孔、すなわち第1の細孔と第2の細孔は、ポリマー足場の少なくとも一部が第1の細孔から第2の細孔へ移動することができるように、配置される。さらに、該デバイスは、移動中にポリマー足場を同定することが可能なセンサを含む。一局面では、同定は、ポリマー足場の個々の構成成分を同定することを伴う。別の局面では、同定は、ポリマー足場に結合された融合分子および/または標的アナライトを同定することを伴う。単一のセンサが使用される場合、その単一センサは、細孔を横切るイオン電流を測定するための、細孔の両端に配置された2つの電極を含むことができる。別の実施態様では、単一センサは電極以外の構成要素を含む。
【0083】
一局面では、前記デバイスは、2つの細孔を介して接続された3つのチャンバを含む。3つより多いチャンバを有するデバイスは、3チャンバデバイスの両側に、または3つのチャンバのいずれか2つの間に、1つ以上の追加のチャンバを含めるように容易に設計することができる。同様に、チャンバを接続するために、2つより多い細孔を該デバイスに含めることができる。
【0084】
一局面では、複数のポリマー足場が1つのチャンバから次のチャンバに同時に移動することができるように、2つの隣接チャンバ間に2つ以上の細孔が存在し得る。このようなマルチ細孔設計は、該デバイスにおけるポリマー足場分析のスループット(処理量)を高めることができる。
【0085】
いくつかの局面では、前記デバイスは、ポリマー足場を1つのチャンバから別のチャンバに移動させる手段をさらに含む。一局面では、その移動は、ポリマー足場を第1の細孔と第2の細孔の両方に同時に投入する結果となる。別の局面では、前記手段はさらに、両方の細孔を通って同じ方向にポリマー足場を移動させることを可能にする。
【0086】
例えば、3チャンバ2細孔デバイス(「2細孔」デバイス)では、チャンバの各々は、チャンバ間の細孔のそれぞれに別々の電圧を印加することができるように、電源に接続するための電極を含むことができる。
【0087】
本開示の一実施態様によれば、上部チャンバと、中間チャンバと、下部チャンバとを備えたデバイスが提供され、ここで、上部チャンバは第1の細孔を介して中間チャンバと連通しており、中間チャンバは第2の細孔を介して下部チャンバと連通している。このようなデバイスは、デュアル細孔デバイス(Dual-Pore Device)と題する米国特許出願公開第2013-0233709号に以前に開示された寸法または他の特性のいずれかを有していてよく、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0088】
図7Aに示すいくつかの実施態様では、前記デバイスは、上部チャンバ705(チャンバA)、中間チャンバ704(チャンバB)、および下部チャンバ703(チャンバC)を含む。これらのチャンバは、それぞれ別個の細孔(711または712)を有する2つの分離層または膜(701および702)によって分離されている。さらに、各チャンバは、電源に接続するための電極(721、722または723)を含む。上部、中間および下部チャンバの注記は、相対的な見地からであり、例えば、上部チャンバが地面に対して中間または下部チャンバの上に配置されること、またはその逆であることを示していない。
【0089】
細孔711および712の各々は、独立して、小分子もしくは大きな分子または微生物が通過することができるサイズを有する。一局面では、各細孔は少なくとも約1nmの直径である。あるいは、各細孔は、少なくとも約2nm、3nm、4nm、5nm、6nm、7nm、8nm、9nm、10nm、11nm、12nm、13nm、14nm、15nm、16nm、17nm、18nm、19nm、20nm、25nm、30nm、35nm、40nm、45nm、50nm、60nm、70nm、80nm、90nmまたは100nmの直径である。
【0090】
一局面では、該細孔は約100nm以下の直径である。あるいは、該細孔は、約95nm、90nm、85nm、80nm、75nm、70nm、65nm、60nm、55nm、50nm、45nm、40nm、35nm、30nm、25nm、20nm、15nm、または10nm以下の直径である。
【0091】
一局面では、該細孔は、約1nm〜約100nmの直径、あるいは約2nm〜約80nm、または約3nm〜約70nm、または約4nm〜約60nm、または約5nm〜約50nm、または約10nm〜約40nm、または約15nm〜約30nmの直径を有する。
【0092】
他の局面では、各細孔は、少なくとも約100nm、200nm、500nm、1000nm、2000nm、3000nm、5000nm、10000nm、20000nm、または30000nmの直径である。一局面では、各細孔は50,000nm〜100,000nmの直径である。一局面では、該細孔は約100000nm以下の直径である。あるいは、該細孔は、約50000nm、40000nm、30000nm、20000nm、10000nm、9000nm、8000nm、7000nm、6000nm、5000nm、4000nm、3000nm、2000nmまたは1000nm以下の直径である。
【0093】
いくつかの局面では、該細孔は実質的に丸い形状を有する。本明細書で使用する「実質的に丸い」とは、円筒の形態の少なくとも約80または90%である形状を指す。いくつかの実施態様では、該細孔は、正方形、長方形、三角形、楕円形、または六角形の形状である。
【0094】
細孔711および712の各々は、独立して、深さ(すなわち、2つの隣接する体積の間に延びる細孔の長さ)を有する。一局面では、各細孔は少なくとも約0.3nmの深さを有する。あるいは、各細孔は、少なくとも約0.6nm、1nm、2nm、3nm、4nm、5nm、6nm、7nm、8nm、9nm、10nm、11nm、12nm、13nm、14nm、15nm、16nm、17nm、18nm、19nm、20nm、25nm、30nm、35nm、40nm、45nm、50nm、60nm、70nm、80nm、または90nmの深さを有する。
【0095】
一局面では、各細孔は約100nm以下の深さを有する。あるいは、深さは、約95nm、90nm、85nm、80nm、75nm、70nm、65nm、60nm、55nm、50nm、45nm、40nm、35nm、30nm 、25nm、20nm、15nm、または10nm以下である。
【0096】
一局面では、該細孔は、約1nm〜約100nmの深さ、あるいは約2nm〜約80nm、または約3nm〜約70nm、または約4nm〜約60nm、または約5nm〜約50nm、または約10nm〜約40nm、または約15nm〜約30nmの深さを有する。
【0097】
いくつかの局面では、ナノ細孔は膜を通して延びている。例えば、該細孔は、脂質二重層膜に挿入されたタンパク質チャンネルであってもよいし、あるいは、二酸化ケイ素、窒化ケイ素、グラフェン、またはこれらの材料もしくは他の材料の組み合わせから形成された層などの固体基板を通してドリリング、エッチングまたは他の方法で細孔を形成することによって作製してもよい。いくつかの局面では、ナノ細孔の長さまたは深さは、2つのさもなくば別々の体積を接続するチャンネルを形成するように十分に大きくする。いくつかのこのような局面では、各細孔の深さは、100nm、200nm、300nm、400nm、500nm、600nm、700nm、800nm、または900nmより大きい。いくつかの局面では、各細孔の深さは、2000nmまたは1000nm以下である。
【0098】
一局面では、該細孔は、約10nm〜約1000nmの距離をあけて配置される。いくつかの局面では、細孔間の距離は、1000nm、2000nm、3000nm、4000nm、5000nm、6000nm、7000nm、8000nm、または9000nmより大きい。いくつかの局面では、該細孔は、30000nm、20000nm、または10000nm以下の距離をあけて配置される。一局面では、距離は、少なくとも約10nm、あるいは少なくとも約20nm、30nm、40nm、50nm、60nm、70nm、80nm、90nm、100nm、150nm、200 250nm、または300nmである。別の局面では、距離は、約1000nm、900nm、800nm、700nm、600nm、500nm、400nm、300nm、250nm、200nm、150nm、または100nm以下である。
【0099】
さらに別の局面では、細孔間の距離は、約20nm〜約800nm、約30nm〜約700nm、約40nm〜約500nm、または約50nm〜約300nmである。
【0100】
2つの細孔は、それらがチャンバ間の流体連通を可能にし、それらの間の規定のサイズおよび距離を有する限り、任意の位置に配置することができる。一局面では、細孔は、それらの間に直接の遮断物がないように配置される。さらに、一局面では、
図7Aに示すように、これらの細孔は実質的に同軸である。
【0101】
一局面では、
図7Aに示すように、前記デバイスは、チャンバ703、704および705内のそれぞれ電極721、722および723を介して、1つ以上の電源に接続される。いくつかの局面では、電源は、各細孔に電圧を供給しかつ各細孔を通る電流を独立して測定することができる、電圧クランプまたはパッチクランプを含む。これに関して、電源および電極の配置は、両電源のための共通接地に中間チャンバを設定することができる。一局面では、電源(複数可)は、上部チャンバ705(チャンバA)と中間チャンバ704(チャンバB)との間に第1の電圧V
1を、中間チャンバ704と下部チャンバ703(チャンバC)との間に第2の電圧V
2を印加するように構成されている。
【0102】
いくつかの局面では、第1の電圧V
1および第2の電圧V
2は、独立して調整可能である。一局面では、中間チャンバは、2つの電圧に対して接地となるように調整される。一局面では、中間チャンバは、中間チャンバ内の細孔の各々と電極との間にコンダクタンス(伝導性)を与えるための媒体を含む。一局面では、中間チャンバは、中間チャンバ内の細孔の各々と電極との間に抵抗を与えるための媒体を含む。こうした抵抗をナノ細孔抵抗と比べて十分に小さく保つことは、細孔における前記2つの電圧および電流を切り離すのに有用であり、電圧の独立した調整に役立つ。
【0103】
電圧の調整は、チャンバ内の荷電粒子の移動を制御するために使用することができる。例えば、両方の電圧が同じ極性に設定された場合には、適切に荷電された粒子を、上部チャンバから中間チャンバに、そして下部チャンバに、またはその逆の方向に、順次移動させることができる。いくつかの局面において、2つの電圧が反対の極性に設定された場合には、荷電粒子を上部または下部チャンバから中間チャンバに移動させて、そこに保持することができる。
【0104】
前記デバイスにおける電圧の調整は、両方の細孔を同時に横切るのに十分な長さの、荷電ポリマー足場のような、大きな分子の移動を制御するのに特に有用であり得る。このような局面では、該分子の移動の方向および速度は、以下に記載されるような電圧の相対的な大きさおよび極性によって制御することができる。
【0105】
前記デバイスは、液体サンプル、特に生物学的サンプル、および/またはナノ加工に適する材料を保持するのに適した材料を含むことができる。一局面では、このような材料として、限定するものではないが、シリコン、窒化ケイ素、二酸化ケイ素、グラフェン、カーボンナノチューブ、Ti0
2、Hf0
2、A1
20
3、もしくは他の金属層、またはこれらの材料の任意の組み合わせなどの、誘電材料が挙げられる。いくつかの局面では、例えば、約0.3nmの厚さのグラフェン膜の単一シートを細孔保持膜として使用することができる。
【0106】
マイクロ流体であるデバイス、および2細孔のマイクロ流体チップの実装を収容するデバイスは、さまざまな手段および方法によって作製することができる。2つの平行な膜からなるマイクロ流体チップの場合、両方の膜を単一のビームで同時に穿孔して2つの同心の細孔を形成することができるが、膜の各側に異なるビームを使用することもまた、任意の適切なアラインメント技術と併せて可能である。一般的に言えば、ハウジングはチャンバA〜Cの密封された分離を確実にする。
図7Bに示す一局面では、ハウジングは、電圧電極721、722および723ならびにナノ細孔711および712間に最小のアクセス抵抗を提供し、各電圧が主に各細孔に印加されることを確実にする。
【0107】
一局面では、前記デバイスは、スペーサによって接続された2つの平行な膜から構成されたマイクロ流体チップ(「デュアルコアチップ」(Dual-core chip)と表示)を含む。各膜は、膜の中心を通る単一ビームによって開けられた細孔を含む。さらに、前記デバイスは、該チップ用のテフロン(登録商標)ハウジングを有することが好ましい。このハウジングは、チャンバA〜Cの密封された分離を確実にし、かつ電極に最小のアクセス抵抗を提供して、各電圧が主に各細孔に印加されることを確実にする。
【0108】
より具体的には、細孔保持膜は、厚さ5〜100nmのシリコン、窒化ケイ素、または二酸化ケイ素の窓を有する透過型電子顕微鏡(TEM)グリッドを用いて作製することができる。スペーサは、膜を分離するために使用することができ、SU-8、フォトレジスト、PECVD酸化物、ALD酸化物、ALDアルミナ、またはAg、AuもしくはPtなどの蒸着金属材料のような絶縁体を使用して、膜間のチャンバBのさもなくば水性の部分の内部の小体積を占有する。ホルダーは、チャンバBの最大の体積割合からなる水性浴中に取り付けられる。チャンバAおよびCは、膜シールに通じるより大きな直径のチャンネル(アクセス抵抗が低い)によってアクセス可能である。
【0109】
集束した電子ビームまたはイオンビームは、膜を貫通する細孔を、当然それらを整列させて、開けるために使用することができる。細孔はまた、各層に正しいビーム集束を適用することによって、より小さなサイズに改造する(縮小させる)こともできる。単一ナノ細孔ドリリング法は、所与の方法に可能なドリル深さおよび膜の厚さを考慮して、2つの膜に細孔の対を開けるために使用することもできる。また、ミクロ細孔を所定の深さまであらかじめ開けておき、その後膜の残部にナノ細孔を開けることは、膜の厚さをさらに精密化することが可能である。
【0110】
別の局面では、ハイブリッド細孔を形成するための固体ナノ細孔への生物学的ナノ細孔の挿入は、2細孔法においていずれか一方または両方の細孔に使用することができる。生物学的細孔は、イオン電流測定の感度を増加させることができ、例えばシークエンシングのために、一本鎖ポリヌクレオチドのみを2細孔デバイスで捕捉して制御しようとする場合に有用である。
【0111】
前記デバイスの細孔に存在する電圧により、荷電分子はチャンバ間の細孔を通って移動することができる。移動の速度および方向は、電圧の大きさおよび極性によって制御され得る。さらに、2つの電圧のそれぞれは独立して調整され得るので、荷電分子の移動の方向および速度は、各チャンバ内での微調整が可能である。
【0112】
1つの例は、両細孔の深さと2細孔間の距離を合わせた距離よりも長い鎖長を有する、DNAのような荷電ポリマー足場に関する。例えば、1000bpのdsDNAは、長さが約340nmであり、2つの深さ10nmの細孔が20nm離れて存在する広がり40nmよりも実質的に長くなる。第1の段階では、ポリヌクレオチドは、上部チャンバまたは下部チャンバのいずれかに投入される。約pH7.4の生理学的条件下でのその負電荷のために、ポリヌクレオチドは、電圧が加えられた細孔を横切って移動することができる。したがって、第2の段階では、両方の細孔を横切ってポリヌクレオチドを連続して移動させるために、2つの電圧が、同じ極性でかつ同じまたは類似の大きさで、細孔に印加される。
【0113】
ポリヌクレオチドが第2の細孔に達する時点あたりで、一方または両方の電圧を変化させることができる。2つの細孔間の距離はポリヌクレオチドの長さよりも短くなるように選択されるので、ポリヌクレオチドが第2の細孔に到達するとき、それは第1の細孔内にもある。したがって、第1の細孔での電圧の極性の迅速な変化は、
図7Cに示すように、ポリヌクレオチドを第2の細孔から引き離す力を発生させるだろう。
【0114】
2つの細孔が同一の電圧-力の作用を有し、かつ|V
1|=|V
2|+δVであると仮定すると、値δV>0(または<0)は、V
1(またはV
2)方向での調節可能な動きに応じて調整され得る。実際には、各細孔での電圧誘起力は、V
1=V
2の場合に同一ではないが、キャリブレーション実験により、所与の2細孔チップに対して等しい引っ張り力をもたらす適切なバイアス電圧を特定することができる;その後、そのバイアス電圧の変動を方向制御のために使用することができる。
【0115】
この時点で、第1の細孔での電圧誘起力の大きさが第2の細孔での電圧誘起力の大きさよりも小さい場合、ポリヌクレオチドは、両方の細孔を第2の細孔に向かって、しかしより遅い速度で、横断し続ける。これに関して、ポリヌクレオチドの移動の速度および方向は、両方の電圧の極性および大きさによって制御され得ることが容易に理解される。以下でさらに説明するように、このような移動の微調整制御は広い用途を有する。
【0116】
したがって、一局面では、ナノ細孔デバイスを通る荷電ポリマー足場の移動を制御するための方法が提供される。この方法は以下の段階を伴う:(a)荷電ポリマー足場を含むサンプルを、上記実施態様のいずれかのデバイスの上部チャンバ、中間チャンバまたは下部チャンバの1つに投入する段階であって、該デバイスは、上部チャンバと中間チャンバとの間に第1電圧を供給し、中間チャンバと下部チャンバとの間に第2電圧を供給するための、1つ以上の電源に接続されている、段階;(b)該ポリマー足場がチャンバ間を移動するように初期の第1電圧および初期の第2電圧を設定し、それによって該ポリマー足場を第1および第2の両方の細孔を横切って位置付ける段階;ならびに(c)両方の電圧が荷電ポリマー足場を中間チャンバから引き離す力を発生させるように第1電圧と第2電圧を調整する段階(電圧競合モード)であって、2つの電圧は制御された条件下で大きさが異なり、その結果、荷電ポリマー足場がいずれかの方向にかつ制御された様式で両細孔を横切って移動する、段階。
【0117】
段階(c)において電圧競合モードを確立するために、各細孔で各電圧によってもたらされる相対的な力は、使用される2細孔デバイスごとに決定されるべきである。それは、キャリブレーション実験を用いて、ポリヌクレオチドの動きに対する異なる電圧値の影響を観察することによって行うことができ、これは、ポリヌクレオチドにおける既知の位置および検出可能な特性を感知することによって測定され得る。こうした特性の例は、本開示で詳しく後述される。前記力が各共通電圧で同等である場合、例えば、各細孔で同じ電圧値(接地された中間チャンバに対して上部および下部チャンバにおいて共通の極性を有する)を使用すると、熱擾乱(thermal agitation)の非存在下ではゼロの正味の運動が生じる(ブラウン運動の存在と影響については後述する)。前記力が各共通電圧で同等でない場合、等しい力を達成するには、共通電圧でより弱い力を受ける細孔でのより大きな電圧の特定と使用を伴う。電圧競合モードのキャリブレーションは、2細孔デバイスごとに、特定の荷電ポリマーまたは分子(その特性は各細孔を通過するときに前記力に影響を与える)に対して行うことができる。
【0118】
一局面では、荷電ポリマー足場を含有するサンプルを上部チャンバに投入し、その荷電ポリマー足場を上部チャンバから中間チャンバに引っ張るように初期の第1電圧を設定し、そして該ポリマー足場を中間チャンバから下部チャンバに引っ張るように初期の第2電圧を設定する。同様に、サンプルを最初に下部チャンバに投入し、荷電ポリマー足場を中間チャンバおよび上部チャンバに引っ張ることができる。
【0119】
別の局面では、荷電ポリマー足場を含有するサンプルを中間チャンバに投入し、その荷電ポリマー足場を中間チャンバから上部チャンバに引っ張るように初期の第1電圧を設定し、その荷電ポリマー足場を中間チャンバから下部チャンバに引っ張るように初期の第2電圧を設定する。
【0120】
一局面では、段階(c)で調整された第1電圧および第2電圧は、2つの電圧間の差分/微分の約10倍〜約10,000倍の大きさである。例えば、2つの電圧は、それぞれ90mVと100mVであり得る。2つの電圧の大きさ、約100mVは、それらの間の差分/微分10mVの約10倍である。いくつかの局面では、前記電圧の大きさは、それらの間の差分/微分の少なくとも約15倍、20倍、25倍、30倍、35倍、40倍、50倍、100倍、150倍、200倍、250倍、300倍、400倍、500倍、1000倍、2000倍、3000倍、4000倍、5000倍、6000倍、7000倍、8000倍、または9000倍である。いくつかの局面では、前記電圧の大きさは、それらの間の差分/微分の約10000倍、9000倍、8000倍、7000倍、6000倍、5000倍、4000倍、3000倍、2000倍、1000倍、500倍、400倍、300倍、200倍、または100倍以下である。
【0121】
一局面では、段階(c)における第1電圧と第2電圧に対するリアルタイムまたはオンライン調整は、数百メガヘルツまでのクロックレートで、専用のハードウェアおよびソフトウェアを使用するアクティブ制御またはフィードバック制御によって行われる。第1もしくは第2または両方の電圧の自動制御は、第1もしくは第2または両方のイオン電流測定値のフィードバックに基づく。
【0122】
センサ
特定の実施態様では、本発明のナノ細孔デバイスは、標的モチーフの結合状態の同定を行うために、1つ以上のセンサを含む。
【0123】
前記デバイスに使用されるセンサは、荷電ポリマーなどの分子または粒子を同定するのに適したどのようなセンサであってもよい。例えば、センサは、荷電ポリマーまたは荷電ポリマーの1つ以上の個々の成分に関連した電流、電圧、pH、光学的特性または滞留時間を測定することによって、荷電ポリマーを同定するように構成され得る。いくつかの実施態様では、センサは、分子または粒子、特に荷電ポリマー(例えば、ポリヌクレオチド)が細孔を通って移動するときに、細孔を通るイオン電流を測定するための、細孔の相対する側に配置された一対の電極を含む。
【0124】
特定の実施態様では、センサは、前記ポリマーまたは前記ポリマーの成分(もしくは単位)の光学的特性を測定する。このような測定の一例は、特定の単位に固有の吸収帯の赤外(または紫外)分光法による同定を含む。
【0125】
滞留時間の測定結果が使用される場合、それらは、検出装置を通過するのにかかる時間の長さに基づいて、その単位のサイズを特定の単位に関連付けるであろう。
【0126】
いくつかの実施態様では、センサは、プローブのそれぞれと異なる非共有結合を形成する試薬により官能化される。これに関して、ギャップはより大きくてもよく、効果的な測定がまだ可能である。例えば、5nmのギャップを用いて、約5nmの長さがあるプローブ/標的複合体を検出することができる。官能化されたセンサによるトンネルセンシングは、「認識トンネリング」(recognition tunneling)と呼ばれる。走査型トンネル顕微鏡(STM)を認識トンネリングと共に使用すると、標的モチーフに結合したプローブが容易に同定される。
【0127】
したがって、本技術の方法は、ナノ細孔チャンネルの一方または両方に、または該細孔の間にそれぞれ位置する1つ以上の認識トンネリング部位に対する荷電ポリヌクレオチド(例えば、DNA)送達速度の制御を提供することができる。また、電圧の制御は、各プローブ/標的複合体がロバスト同定のために十分な持続時間にわって各部位に存在することを確実にすることができる。
【0128】
本開示のデバイスおよび方法におけるセンサは、金、白金、グラフェン、もしくはカーボン、または他の適切な材料を含むことができる。特定の局面では、センサはグラフェン製の部品を含む。グラフェンは導電体および絶縁体として作用することができ、それゆえグラフェンを通りナノ細孔を横切るトンネル電流は、移動しているDNAを配列することができる。
【0129】
いくつかの実施態様では、トンネルギャップは約1nm〜約20nmの幅を有する。一局面では、ギャップの幅は、少なくとも約1nm、あるいは少なくとも約1.5、2、2.5、3、3.5、4、4.5、5、6、7、8、9、10、12または15nmである。別の局面では、ギャップの幅は、約20nm以下、あるいは約19、18、17、16、15、14、13、12、11、10、9、8、7、6、5、4、3または2nm以下である。いくつかの局面では、その幅は、約1nm〜約15nm、約1nm〜約10nm、約2nm〜約10nm、約2.5nm〜約10nm、または約2.5nm〜約5nmである。
【0130】
いくつかの実施態様では、センサは電気センサである。いくつかの実施態様では、センサは、プローブが固有の蛍光シグネチャを生じる標識を有する場合、蛍光検出手段を検出する。出口の放射線源を使用して、そのシグネチャを検出することができる。
【0131】
本発明を上記の実施態様に関連して説明してきたが、前述の説明および以下の実施例は例示を意図したものであり、本発明の範囲を限定するものではないことを理解すべきである。本発明の範囲内の他の局面、利点および変更は、本発明が属する技術分野の当業者には明らかであろう。
【実施例】
【0132】
実施例1−固体ナノ細孔実験におけるDNA単独
ナノ細孔機器は、オープン細孔を通るイオン電流I
0を測定しながら、細孔に電圧Vを印加するために、高感度の電圧クランプ増幅器を使用する。二本鎖DNA(dsDNA)などの単一荷電分子が、電気泳動によって細孔を通して捕捉され駆動される場合、その事象を特徴付けるために、測定されたI
0からI
Bへの電流シフト、シフト量ΔI=I
0−I
Bおよび持続時間t
Dが使用される。実験中に多くの事象を記録した後、ΔI対t
Dプロット上の事象の分布は、該プロット上の集団内の対応する分子を特徴付けるために分析される。このようにして、ナノ細孔は、生体分子センシングのための、簡便でラベルフリーの、純粋に電気的な単一分子法を提供する。
【0133】
窒化ケイ素(SiN)基板内に作製された単一のナノ細孔は、厚さ100nmのSiN膜中の直径40nmの細孔であり(
図11A)、固体のナノ細孔の一例として示される。
図11Bにおいて、代表的な電流トレースは、1M KClを含有する緩衝液中200mVで、厚さ10nmのSiN中の直径11nmのナノ細孔を1列縦隊(折り畳まれていない)で通過する5.6kbのdsDNAによって引き起こされた遮断事象を示す。0.3M以上のKCl濃度の場合にDNAが細孔を通過するとき電流は減衰されるが、0.3M未満のKCl濃度の場合にDNAが細孔を通過すると、電流は増強される。平均オープンチャンネル電流はI
0=9.6nAであり、平均事象振幅I
B=9.1nAであり、平均事象持続時間t
D=0.064msである。ナノ細孔を通るdsDNA分子の移動からの振幅シフトは、ΔI=I
0−I
B=0.5nAである。
図11Cにおいて、散布図は、16分にわたって記録された1301の事象すべてについての|ΔI|対t
Dを示す。
【0134】
実施例2−標的配列検出のためのPNAおよびビオチンを含む捕捉分子
本発明者らは、操作されたポリマー足場による溶液中の化合物の結合を検出できるようにするアプローチを実証した。我々は、ニュートラアビジンに結合するビオチン部分を含むように修飾されたPNAプローブを提供する。ニュートラアビジンはバルク(嵩)を増加させ、そのためPNAを大きなナノ細孔(例えば、直径15〜30nm)内で検出できるようにする。特に、我々は、12-merのペプチド核酸(PNA)プローブ分子に結合するように5.6kbのdsDNA足場を設計したが、各PNAプローブは、ニュートラアビジンに結合するための3つのビオチン化部位を有する(
図12A)。我々は、PNAプローブに結合する25の異なる部位(結合モチーフ)を有するように該dsDNA足場を設計した(
図12B)。ポリマー足場のみ、遊離ニュートラアビジン、またはプローブ/DNA複合体のいずれかを含む溶液を用意した(
図13)。各集団から得られた電流事象シグネチャ(
図13)は、DNA/PNA/ニュートラアビジン複合体が、他のバックグラウンド事象タイプ(例えば、未結合DNA単独、ニュートラアビジン単独、PNA/ニュートラアビジン単独)を超えて検出可能な移行電流シグネチャを引き起こし、したがって、ナノ細孔デバイスで同定され得ることを示す。この実施例の残りの部分では、DNA/PNA/ニュートラアビジン複合体が高い信頼性をもってナノ細孔により検出され得ることを示す。
【0135】
特定のDNA配列に結合するプローブは、前記足場全体にわたって25回反復されるユニークな配列
に結合するタンパク質核酸分子(PNA)である。この実験で用いたPNAは、配列
GAA
*AGT
*GAA
*AGT
(SEQ ID NO:1)
(ここで、
*は、ビオチンがリシンアミノ酸にカップリングすることによってγ位でPNA主鎖に組み込まれたことを示す)
を有し、したがって、各PNAは3つのビオチン分子を有し、3つのニュートラアビジン分子に結合する可能性がある(PNABio)。PNAを結合させるために、60nMの足場を95℃で2分間加熱し、60℃に冷却し、15mM NaCl中で、足場上の予想されるPNA結合部位に対して10倍過剰のPNAと共に1時間インキュベートし、その後4℃に冷却した。過剰のPNAを10mMトリスpH8.0に対して2時間透析して除去する(20k MWCO, Thermo Scientific社)。次いで、このDNA/PNA複合体を、(透析中にPNAが60%減少したと仮定して)足場に結合された予想されるビオチン部位に対して10倍過剰のニュートラアビジンタンパク質(Pierce/Thermo Scientific社)により標識する。この反応を上記のように電気泳動して、純度、濃度および潜在的な凝集を評価する。
【0136】
図14A〜Bは、DNA単独(D)、ニュートラアビジン単独(N)およびD/P/N試薬(DPN)の3つの別個の実験からのΔI対t
D分布を比較するデータを示す。D/P/N実験における最大の|ΔI|事象は、D/P/N複合体に起因すると考えられ(
図13)、それらの結合状態(すなわち、未結合、PNAが結合した足場、およびPNAとニュートラアビジンが結合した足場)に基づいて事象をタグ付けするための簡単な基準を提供する。具体的には、ある事象について|ΔI|>4nAであるならば、その事象に、D/P/N複合体に対応するものという旗で信号を出すことができる。
図14Aのデータセットでは、D/P/N実験における9.3%(390)の事象は|ΔI|>4nAを有し、対照におけるD事象の0.46%およびN事象の0.16%が4nAを超えるにすぎない。1M KClおよび200mVで、直径7nmの細孔を用いた別の実験(データは示さず)では、0.4nM濃度のPNAおよびニュートラアビジンのみを用いた対照において、4nAを超えた事象は皆無(0%)であった。数学的基準を適用すると、確率変数Q={旗付き事象の割合}は二項分布を有し、これと他の統計モデリングツールを用いて、このデータセットの99%信頼区間をQ=9.29±1.15%と計算することができる。9.29%>0.46%(最大偽陽性%)はQの99%信頼区間内に十分に満たされるため、8分足らずのデータ収集で陽性の試験結果が得られる。実際、最初の60秒のデータのみでこのデータセットに対して同じ99%の信頼性が達成される。ゲルシフト(
図14C)は、足場DNAの移動がニュートラアビジン依存的に遅くなることを示す;これは、全てのDNAが標識され、ほぼ均質な集団が生成されるように見えたので、この予備的実験において10倍濃度を使用するように誘導した。
【0137】
実施例3−DNA足場へのVsprRタンパク質の結合およびナノ細孔検出
VspRタンパク質は、配列特異的に高いマイクロモル親和性でdsDNAに直接結合するコレラ菌(V. cholerae)由来の90kDaタンパク質である(文献: Yildiz, Fitnat H., Nadia A. Dolganov, and Gary K. Schoolnik. "VpsR, a Member of the Response Regulators of the Two-Component Regulatory Systems, Is Required for Expression of Biosynthesis Genes and EPSETr-Associated Phenotypes in Vibrio cholerae O1 E1 Tor." Journal of bacteriology 183, no. 5 (2001): 1716-1726を参照されたい)。ナノ細孔技術を用いた標的配列検出のこの実施例では、VspRは、部位特異的DNA結合ドメインを有するプローブ分子として作用する。この実験では、存在するDNA中の特定の配列を検出するためにタンパク質を使用するモデルとして、DNA足場上のVspRの検出を示した。DNA足場は10のVspR特異的結合部位を含んでいた(
図15)。dsDNA結合に対するVspRの親和性を維持するために、0.1M KClを用いたが、この塩濃度では、ナノ細孔を通るVspR結合足場の移動がナノ細孔を通る電流を高める(
図16)。VspRタンパク質を含有する溶液は、記録緩衝液中に18nMの濃度で、そしてラベリング(結合段階)の間に180nMの濃度で提供した。これは、結果的に、DNA上の結合部位に対して18倍過剰のVspRタンパク質をもたらす。この実験はpH8.0で行った(VspRタンパク質のpIは5.8である)。KdとDNA濃度を考慮すると、DNAの0.1〜1%のみがVspRによって完全に占有され、より多くの割合が部分的に占有され、不明であるが残りの割合のDNAは完全に未結合のままである。ナノ細孔実験中に遊離のVspRタンパク質も溶液中に存在する。
【0138】
2つの代表的な事象を
図16Aおよび
図16Bに示す。VspRを用いた実験では、VspRの濃度は18nM(1.6mg/L)、10nMの結合部位であった。足場の濃度は1nMであり、結果として6.6秒毎に捕捉された。細孔サイズは、直径および長さが15nmである。電圧は-100mVであり、負電圧は負電流を生じることに留意されたい;こうして、VspR結合DNA事象について示されるように(
図16B)、上方シフトは減衰事象に対応するが、下方シフトは、未結合DNA足場事象について示されるように(
図16A)、正のシフトを生じる。これは
図2における理想的な信号パターンおよび条件と一致しており、DNA事象(
図16A)は、融合分子が結合したDNA事象(
図16B)と比較して、より速い持続時間および反対の極性を有する。したがって、この図からの重要な観察は、VspR結合事象が、未結合DNA事象と比較して、反対の信号極性を有し、そのため特定のDNA配列が存在することを容易に検出可能に示すということである。
図17は、細孔を通過するVspR結合足場と一致する、10のより代表的な電流減衰事象を示す。10分にわたる記録の間に90のこのような事象があり、これは6.6秒毎に1つのVspR結合事象に対応していた。これらの事象は、振幅50〜150pA、持続時間0.2〜2ミリ秒の減衰であった。上述したように、下方事象は電流増強事象に対応し、上方事象は
図16〜17における電流減衰事象に対応し、このシフト方向は、ベースラインが表示目的のためにゼロに設定されても維持される。
【0139】
実施例4−配列特異的プローブ合成および標的配列結合
この実施例では、関心対象の標的配列への結合のためのPNAプローブの作製を示し、その際、PNAプローブに追加された特性は、ナノ細孔における検出感度の増加を可能にするものである。
【0140】
3個のシステイン残基を含むbisPNAプローブを作製した。bisPNAプローブは、CTTTCCCの標的配列を含むDNA配列に、標的DNA分子上のこの標的配列の位置で結合することができるPNAの配列を含む。bisPNAプローブはまた、bisPNAプローブ上の3個のシステイン残基でマレイミド-PEG-Meにより標識して、ナノ細孔内での標的DNA分子に結合した該プローブの検出を向上させた。PNA-PEGプローブは、100倍過剰量のリンカー(メチル-PEG(10kDa)-マレイミド)をbisPNA (Lys-Lys-Cys-PEG3-JTTTJJJ-PEG-Cys-PEG-CCCTTTC-PEG-Cys-Lys-Lys)と共に還元条件下でインキュベートすることによって作製した。リンカーのマレイミド部分は、pH7.4でPNAの遊離チオールと反応し、こうしてPEG化PNAが生成される。リシンの添加は、その特異的コグネイトDNA配列に対する試薬親和性を増加させ、それによって、それを高塩条件(1M LiCl)下で結合したままにすることができる。dsDNA分子上の標的配列に結合した、得られたPNA-PEGプローブを
図18Aに示す。
【0141】
DNA-PEGプローブのDNA分子上のその標的配列への結合を確認するために、PEGプローブの異なるバージョンをDNAと共にインキュベートし、得られた溶液を用いてゲルシフトアッセイを行った。このアッセイでは、
図18Bに示すように、4つのサンプルを泳動させた。レーン1はDNAのみ、レーン2はDNA+PNA、レーン3はDNA+PNA-PEG (10kDa)、レーン4はDNA+PNA-PEG (20kDa)である。レーン2〜4における上方シフトは、DNAに結合されたbisPNA種と一致する。丸で囲った種はDNA/PNA-PEGであり、四角で囲った種は、ラベリング実験において残存PNA(PEGなし)として存在するレーン3および4のDNA/PNAである。ゲルシフトアッセイの結果は、PNAへのPEGの結合に関わらず、標的配列を含むDNAと、該標的配列に相補的なコグネイトDNA配列を有するPNAプローブとの複合体形成を示す。こうして、本発明者らは、ナノ細孔において検出され得る配列特異的プローブの複合体形成の成功をここに示す。
【0142】
次に、PNAプローブのその標的DNA配列に対する特異性を示すためのアッセイを行った。ここでは、PNAプローブ(PEGなし)を、標的配列なしのDNA(レーン2)、PNAプローブとの一塩基ミスマッチを有する標的配列を含むDNA(レーン3)、および完全な標的配列を含むDNA(レーン4)を含有するサンプルと共にインキュベートし、ゲルシフトアッセイを用いて各サンプルを分析した。その結果を
図18Cに示す。レーン1はDNAマーカーである。これらの結果から示されるように、正確な標的配列の一致を有するDNA(レーン4)はPNAに結合するが、一塩基ミスマッチ配列を有する標的配列を含むDNA(レーン3)および標的配列なしのDNA(標的配列に代わるランダム配列)(レーン2)はPNA結合を示さない。したがって、ゲルシフトアッセイは、PNAが、標的配列中にただ1つのミスマッチを有するDNAにさえも結合することなく、その標的配列を含むDNAに特異的に結合することを示す。
【0143】
実施例5−修飾された配列特異的プローブを用いたナノ細孔における標的配列の検出
この実施例では、PEG修飾された配列特異的PNAプローブに結合した、標的配列を含むDNA分子の検出を示す。
【0144】
ここでは、PEGの結合とPEGの長さに基づいて異なる嵩高さを有する3種類のPNAプローブを用意した。1) PEGを含まないPNA、2) 5kDaのPEGに結合したPNA、および3) 10kDaのPEGに結合したPNAの3種類のプローブを使用した。各プローブを、標的配列を含むDNAと混合し、PNAプローブに結合したDNAの検出を観察するためにナノ細孔の中に通した。サンプル中の各複合体の濃度は、1M LiCl緩衝液中2nMであった。サンプルを100mVの印加電圧下でナノ細孔の中に通した。その結果を
図19A〜19Eに示す。
【0145】
観察された代表的な個々の事象は、それぞれの種類のプローブに結合したDNAについて
図19Aに示される。DNA/bisPNA事象からの事象シグネチャを左側に示す。各PNAに結合された3本までのPEG(5kDaのサイズのPEG)を有するDNA/bisPNA-PEG複合体からの事象シグネチャを中央に示す。各PNAに結合された3本までのPEG(10kDaのサイズのPEG)を有するDNA/bisPNA-PEG複合体からの事象シグネチャを右側に示す。それぞれの事象シグネチャは、同定された複合体の移動中に、ナノ細孔を通る電流の遮断によって測定した。
図19Aにおいて、分子描写は、目視比較のためのスケールに拡大した線状PEGおよびDNAを示す。プローブのサイズ(バルク)が増加すると、事象シグネチャが変化する。
【0146】
本発明者らは、事象の集団を分析して、各データセットにおける全ての事象についての平均コンダクタンスシフト(dG)対持続時間の散布図を作成した。
図19Bに示すように、我々の実験から、事象平均コンダクタンス(電圧で割った平均電流シフト)対事象持続時間(幅)の散布図を作成した。この散布図は、DNA/PNA、DNA/PNA-PEG(5kDa)、およびDNA/PNA-PEG(10kDa)が、それらの事象持続時間および平均コンダクタンスに基づいて、明確に区別される重複集団を与えることを示している。我々は、異なる複合体間の各事象について観察された平均コンダクタンスシフト(dG)の差を示すためのヒストグラムを作成した(
図19C)。我々はまた、異なる複合体間で観察された事象持続時間の差を示すためのヒストグラムを作成した(
図19D)。
【0147】
実施例6−ヒト嚢胞性線維症を検出するためのナノ細孔における突然変異cftr遺伝子標的配列の検出
本発明者らは、修飾されたPNAプローブの標的配列への結合の特異性、ならびにナノ細孔デバイスで該プローブを用いて標的配列を検出する能力を示した。ここでは、患者由来のサンプルにおいて疾患を引き起こす突然変異、具体的には嚢胞性線維症、を検出するための、ナノ細孔デバイスでの修飾PNAプローブの使用を検討する。
【0148】
修飾されたPNAプローブ(PNA-PEGプローブ)を(実施例4に記載の方法に従って)作製したが、該修飾PNAプローブは、嚢胞性線維症を引き起こす突然変異(ΔF508)を有するcftr遺伝子を含む標的DNA配列に特異的に結合するPNA分子を含む。PNAプローブに結合させたPEGは、5kDaであった。嚢胞性線維症の突然変異を含むDNAを、その突然変異に特異的なPEG化PNAと共にインキュベートした。次に、サンプルを26nmの細孔を有するナノ細孔デバイスに入れ、ナノ細孔を通る移動事象を記録して分析した。
【0149】
DNA分子に結合したPNA-PEGプローブの移動に相関する移動事象シグネチャは、嚢胞性線維症を引き起こす突然変異(ΔF508)を有するDNAを含むサンプルにおいて観察された。代表的な事象シグネチャを
図20Aに示す。DNAのみまたはDNA/PNAのみを含むサンプル(すなわち、PEG-PNAを含まない)を用いた実験は、バックグラウンドを超える明確な移動事象を与えず、DNAに結合したPNA-PEGプローブを正確に同定する細孔の能力、および本明細書で提供される修飾プローブによってもたらされる検出の向上を示した。標的突然変異遺伝子とPNA-PEGプローブを含むサンプルからの記録された事象のセットについては、それらの事象を平均コンダクタンスシフトおよび持続時間によって特徴付けて、分析した。
図20Bは、記録された各事象についての平均コンダクタンスシフト対持続時間のプロットを示す。
図20Cおよび
図20Dは、それぞれ、各事象の平均コンダクタンスシフトおよび持続時間によって検出された事象を特徴付けるための対応するヒストグラムを示す。分析されたデータは、ナノ細孔を通るDNA/PNA-PEG(5kDa)複合体の移動の予測データに一致し、ナノ細孔デバイスでのcftr突然変異標的配列の結合および同定に成功したことを示す。
【0150】
また、ΔF508 cftr遺伝子突然変異に特異的なPNA-PEG(5kDa)プローブを含むサンプルについて、野生型cftr配列を有する300bp DNAを含むサンプル(レーン2)およびΔF508 cftr遺伝子突然変異を有する300bp DNAを含むサンプル(レーン3)を用いて、ゲルシフトアッセイを行った(
図20E)。このデータは、PNA-PEGプローブがΔF508標的配列にのみ特異的に結合するが、野生型配列には結合しないことを示す。
【0151】
したがって、一塩基cftr遺伝子突然変異(ΔF508)を有するDNAが成功裏に検出されて、例えばヒト患者における診断または治療の適応のため、サンプル中のポリ核酸の特定の配列を検出するための本発明者らのシステムの使用がここに実証された。
【0152】
実施例7−ナノ細孔でのPNA-PEGプローブによる感染性細菌の検出
この実施例では、ナノ細孔デバイスを用いて、サンプル中の細菌DNAの存在を検出するための修飾プローブの使用を検討する。
【0153】
スタフィロコッカス・ミティス(Staphylococcus mitis) (S.ミティス)細菌DNAに特異的に結合することができるPNA分子を含むプローブを合成した。このbisPNAは、S.ミティス細菌種に特異的である配列に相補的な配列を含む。
【0154】
このアッセイでは、細菌DNAに結合したときにナノ細孔での検出を可能にするために、PNAプローブを10kDa PEGに結合させる。そのPNAプローブを細菌DNAと混合し、このサンプルに対してゲルシフトアッセイを行って結合を観察した。
図21Aは、ゲルシフトアッセイの結果を示し、レーン1は細菌DNAをPNAプローブなしで含み、レーン2は細菌DNAをPNAプローブと共に含む。観察された結果は、PNA/PEG(10kDa)プローブがS.ミティス細菌DNAに結合したことを示す。
【0155】
次に、ナノ細孔での検出のために2つのサンプルを調製した。第1のサンプルは、細菌DNAをPEG修飾されたPNAプローブと共に含んでいた(DNA/bisPNA-PEG)。第2のサンプルは、細菌DNAのみを含んでいた。これらのサンプルを2回の連続した実験においてナノ細孔デバイスを通過させ、その結果生じる事象を分析した。
図21Bは、2つの連続した実験において記録された全事象についての、垂直軸上の平均コンダクタンスシフト(dG)対水平軸上の持続時間の散布図を示す。タグ付きサンプル1(四角)およびタグなしサンプル2(丸)から特徴付けられた事象が示される。
【0156】
タグ付き分子は一貫してバックグラウンド閾値(破線)より上にあり、タグなし分子は破線の下にあって、バックグラウンド集団と一致する。種々のバックグラウンド実験(PEGを含まないDNA/PNA、ろ過血清など)からの分子の集団を用いて、タグ付け事象に旗信号を出すための閾値(線)を確立する。バックグラウンド事象はここには示されない。サンプル中の細菌DNAを正確に検出するためには、高度に特異的なプローブを用いて該DNAをタグ付けしなければならない。
【0157】
これらの結果は、S.ミティス細菌DNAのPNA/PEG結合集団がバックグラウンド事象から識別可能であるが、DNAのみおよびDNA/PNAのみはそうでないことを示す。したがって、本発明者らの修飾PNA-PEG配列特異的プローブは、サンプル中のS.ミティス細菌DNAの存在または非存在の確実な検出を可能にする。
【0158】
他の実施態様
使用された単語は限定ではなく説明のための単語であり、本発明の真の範囲および精神から逸脱することなく、そのより広い面において、添付の特許請求の範囲内で変更が可能であることを理解すべきである。
【0159】
本発明は、いくつかの記載した実施態様に関してかなり長くかつ相当詳しく説明されているが、本発明はそのような詳細事項もしくは実施態様または任意の特定の実施態様に限定されるべきではなく、本発明は、先行技術を考慮して特許請求の範囲の最も広い可能な解釈を提供するように、したがって、本発明の意図された範囲を効果的に包含するように、添付の特許請求の範囲を参照して解釈されるべきである。
【0160】
本明細書で言及された全ての刊行物、特許出願、特許および他の参考文献は、その全体が参照により組み入れられる。矛盾する場合は、定義を含めて、本明細書が優先するものとする。さらに、セクションの見出し、材料、方法、および実施例は、単なる例示であり、限定することを意図したものではない。