特許第6702979号(P6702979)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6702979人工血管の製造方法、及び、多孔質組織再生基材の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6702979
(24)【登録日】2020年5月11日
(45)【発行日】2020年6月3日
(54)【発明の名称】人工血管の製造方法、及び、多孔質組織再生基材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61L 27/50 20060101AFI20200525BHJP
   A61L 27/58 20060101ALI20200525BHJP
   A61F 2/06 20130101ALI20200525BHJP
【FI】
   A61L27/50 300
   A61L27/58
   A61F2/06
【請求項の数】4
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-533080(P2017-533080)
(86)(22)【出願日】2016年8月2日
(86)【国際出願番号】JP2016072626
(87)【国際公開番号】WO2017022750
(87)【国際公開日】20170209
【審査請求日】2019年5月10日
(31)【優先権主張番号】特願2015-156204(P2015-156204)
(32)【優先日】2015年8月6日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001339
【氏名又は名称】グンゼ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中山 英隆
(72)【発明者】
【氏名】澤井 恒祐
(72)【発明者】
【氏名】新岡 俊治
(72)【発明者】
【氏名】太良 修平
(72)【発明者】
【氏名】黒部 裕嗣
【審査官】 伊藤 基章
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/153340(WO,A1)
【文献】 特開2009−011804(JP,A)
【文献】 特表昭59−501300(JP,A)
【文献】 特開2014−224223(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 27/00
A61F 2/00
C08J 9/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体吸収性材料からなる多孔質のチューブ状の人工血管を製造する方法であって、
生体吸収性高分子と、前記生体吸収性高分子に対して相対的に溶解度の低い溶媒1と、前記生体吸収性高分子に対して相対的に溶解度が高く、かつ、前記溶媒1と相溶しない溶媒2と、前記溶媒1及び溶媒2と相溶する共溶媒3とを用いて、前記生体吸収性高分子を溶解した均一溶液を調製する溶解工程と、
前記均一溶液を、棒状体の表面に塗工する塗工工程と、
前記棒状体の表面の均一溶液を冷却して、棒状体の周りに生体吸収性高分子からなるチューブ状の多孔質体を析出させる析出工程と、
前記チューブ状の多孔質体を凍結乾燥してチューブ状の人工血管を得る凍結乾燥工程を有する
ことを特徴とする人工血管の製造方法。
【請求項2】
棒状体は、金属からなることを特徴とする請求項1記載の人工血管の製造方法。
【請求項3】
更に、チューブ状の多孔質体の表面に、電界紡糸法により生体吸収性材料からなる極細繊維を吐出して、前記チューブ状の多孔質体上に極細繊維不織布層を形成する工程を有することを特徴とする請求項1又は2記載の人工血管の製造方法。
【請求項4】
生体吸収性高分子からなる多孔質の組織再生基材を製造する方法であって、
生体吸収性高分子と、前記生体吸収性高分子に対して相対的に溶解度の低い溶媒1と、前記生体吸収性高分子に対して相対的に溶解度が高く、かつ、前記溶媒1と相溶しない溶媒2と、前記溶媒1及び溶媒2と相溶する共溶媒3とを用いて、前記生体吸収性高分子を溶解した均一溶液を調製する溶解工程と、
前記均一溶液を冷却して生体吸収性高分子からなる多孔質体を析出させる析出工程と、
前記生体吸収性高分子からなる多孔質体を凍結乾燥して多孔質組織再生基材を得る凍結乾燥工程を有し、
前記共溶媒3を2種以上用い、前記2種以上の共溶媒3の配合比を調整することにより、得られる多孔質体の孔径を制御する
ことを特徴とする多孔質組織再生基材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶媒の選択肢が広く、容易に多孔質基材のかさ密度と孔径とを調整可能な多孔質組織再生基材の製造方法、人工血管の製造方法、及び、人工血管に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の細胞工学技術の進展によって、ヒト細胞を含む数々の動物細胞の培養が可能となり、また、それらの細胞を用いてヒトの組織や器官を再構築しようとする、いわゆる再生医療の研究が急速に進んでいる。
例えば、臨床において人工血管として最も使用されているのはゴアテックス等の非吸収性高分子を用いたものであるが、非吸収性高分子を用いた人工血管は、移植後長期にわたって異物が体内に残存することから、継続的に抗凝固剤等を投与しなければならないという問題があり、小児に使用した場合には成長に伴って改めて手術する必要が生じるという問題もあった。これに対して、再生医療による血管組織の再生が試みられている。
【0003】
再生医療においては、細胞が増殖分化して三次元的な生体組織様の構造物を構築できるかがポイントであり、例えば、基材を患者の体内に移植し、周りの組織又は器官から細胞を基材中に侵入させ増殖分化させて組織又は器官を再生する方法が行われている。
再生医療用の基材として、生体吸収性高分子からなる多孔質基材が提案されている。生体吸収性高分子からなる多孔質基材を再生医療の基材として用いることにより、その空隙部分に細胞が侵入して増殖し、早期に組織が再生される。そして一定期間経過後には分解して生体に吸収されることから、再手術により取り出す必要もない。
【0004】
生体吸収性高分子からなる多孔質基材の製造方法としては、例えば、特許文献1には、水に可溶な塩化ナトリウムや砂糖等の粒子を生体吸収性高分子溶液に添加して凍結乾燥し、その後水洗浄により上記粒子を溶出、除去することによって、多孔質基材を製造する方法が開示されている。
しかしながら、特許文献1に記載された方法では、生体吸収性高分子溶液中に粒子を均一に分散させることが困難であり、粒子の沈降等により得られる多孔質基材の孔径分布が不均一となるという問題があった。また、粒子を完全に除去するためには煩雑な工程が必要となった。更に、生体吸収性高分子溶液が高粘度の場合には、実質的に製造ができないという問題もあった。
【0005】
これに対して、生体吸収性高分子に対する良溶媒と貧溶媒とを混合して均一相を形成させた後、冷却することにより多孔質体を得る、相分離法による多孔質基材の製造方法が提案されている。例えば、特許文献2には、ラクチド−カプロラクトン共重合体を含むポリマーを該ポリマーに対する良溶媒と貧溶媒との混合溶液に溶解させた後、冷却する工程を含む多孔質基材の製造方法が開示されている。また、特許文献3には、ポリ乳酸を、該ポリ乳酸を可溶な有機溶媒、不溶な有機溶媒、及び、水を含む混合溶液に添加し、40〜100℃で加熱して溶解した後、冷却する工程を含む多孔質基材の製造方法が開示されている。
【0006】
生体吸収性高分子からなる多孔質基材においては、組織再生の足場材としての機械的強度や生体吸収挙動、細胞の侵入性、侵入した細胞への栄養の供給等の観点から、その孔径やかさ密度等の制御が極めて重要である。相分離法では、良溶媒と貧溶媒との混合比により、得られる多孔質基材の孔径を調整することができる。しかしながら、この方法で多孔質基材の孔径を調整しようとすると、得られる多孔質基材のかさ密度が大きく変動する。即ち、大孔径の多孔質基材を得ようとすると貧溶媒の比を大きくする必要があるが、相対的に良溶媒の比が小さくなることから、得られる多孔質基材のかさ密度が小さくなってしまう。逆に、小孔径の多孔質基材を得ようとすると、良溶媒の比を大きく、貧溶媒の比を小さくするため、得られる多孔質基材のかさ密度が大きくなってしまう。従って、相分離法により、同一のかさ密度で孔径の異なる多孔質基材を製造することは極めて困難であるという問題があった。また、相分離法では、良溶媒と貧溶媒とが相溶であることが要求される。貧溶媒として取り扱いが容易な水を選択した場合、良溶媒としては1,4−ジオキサン、N−メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド等の限られた選択肢しかない。しかしながら、これらの溶媒は生体に対する毒性が高いことから、臨床応用のためには多孔質基材から溶媒を完全に除去する工程が必須となり、極めて煩雑であるという問題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−49018号公報
【特許文献2】特開2006−291180号公報
【特許文献3】特開2010−260952号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記現状に鑑み、溶媒の選択肢が広く、容易に多孔質基材のかさ密度と孔径とを調整可能な多孔質組織再生基材の製造方法、人工血管の製造方法、及び、人工血管を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、生体吸収性高分子からなる多孔質の組織再生基材を製造する方法であって、生体吸収性高分子と、前記生体吸収性高分子に対して相対的に溶解度の低い溶媒1と、前記生体吸収性高分子に対して相対的に溶解度が高く、かつ、前記溶媒1と相溶しない溶媒2と、前記溶媒1及び溶媒2と相溶する共溶媒3とを用いて、前記生体吸収性高分子を溶解した均一溶液を調製する溶解工程と、前記均一溶液を冷却して生体吸収性高分子からなる多孔質体を析出させる析出工程と、前記生体吸収性高分子からなる多孔質体を凍結乾燥して多孔質組織再生基材を得る凍結乾燥工程を有する多孔質組織再生基材の製造方法である。
以下に本発明を詳述する。
【0010】
本発明者らは、生体吸収性高分子の良溶媒と貧溶媒に、更に該良溶媒と貧溶媒とのいずれもと相溶可能な共溶媒を組み合わせた多孔質組織再生基材の製造方法を発明した。共溶媒を組み合わせることにより、良溶媒と貧溶媒との相溶性が不要となることから、良溶媒と貧溶媒との組み合わせの選択肢が大きく広がる。本発明の多孔質組織再生基材の製造方法においては、良溶媒として1,4−ジオキサン、N−メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド等以外の、毒性の低い有機溶媒を選択することもできる。更に、共溶媒を2種以上組み合わせて、該2種以上の共溶媒の配合比を調整することにより、容易に多孔質基材のかさ密度と孔径とを調整することができる。
【0011】
本発明の多孔質組織再生基材の製造方法では、まず、生体吸収性高分子と溶媒1と溶媒2と共溶媒3とを用いて、生体吸収性高分子を溶解した均一溶液を調製する溶解工程を行う。
上記生体吸収性高分子としては、例えば、ポリグリコリド、ポリラクチド、ポリ−ε−カプロラクトン、ラクチド−グリコール酸共重合体、グリコリド−ε−カプロラクトン共重合体、ラクチド−ε−カプロラクトン共重合体、ポリクエン酸、ポリリンゴ酸、ポリ−α−シアノアクリレート、ポリ−β−ヒドロキシ酸、ポリトリメチレンオキサレート、ポリテトラメチレンオキサレート、ポリオルソエステル、ポリオルソカーボネート、ポリエチレンカーボネート、ポリ−γ−ベンジル−L−グルタメート、ポリ−γ−メチル−L−グルタメート、ポリ−L−アラニン、ポリグリコールセバスチン酸等の合成高分子や、デンプン、アルギン酸、ヒアルロン酸、キチン、ペクチン酸及びその誘導体等の多糖類や、ゼラチン、コラーゲン、アルブミン、フィブリン等のタンパク質等の天然高分子等が挙げられる。これらの生体吸収性材料は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0012】
上記溶媒1は、上記生体吸収性高分子に対して相対的に溶解度の低い、いわゆる貧溶媒である。ここで相対的に溶解度の低いとは、上記溶媒2よりも上記生体吸収性高分子を溶解しにくい性質を有することを意味する。
上記溶媒1としては、上記生体吸収性高分子が合成高分子である場合には、例えば、水、メタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール等を用いることができる。なかでも、取り扱い性に優れることから、水が好適である。
【0013】
上記溶媒2は、上記生体吸収性高分子に対して相対的に溶解度の高い、いわゆる良溶媒である。
上記溶媒2は、上記溶媒1と相溶しないものである。ここで相溶しないとは、25℃の室温下で混合、撹拌しても相分離することを意味する。
【0014】
上記溶媒2としては、上記生体吸収性高分子が合成高分子であって、上記溶媒1として水を選択した場合には、例えば、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルアミノケトン、シクロヘサノン、クロロホルム、酢酸エチル、トルエン等の有機溶媒を用いることができる。なかでも、比較的毒性が低いことから、メチルエチルケトン、クロロホルム、等が好適である。
【0015】
上記共溶媒3は、上記溶媒1と溶媒2とのいずれとも相溶する。このような共溶媒3を組み合わせることにより、上記溶媒1と溶媒2とが非相溶であっても相分離法による多孔質組織再生基材を製造することが可能となり、溶媒1と溶媒2との組み合わせの選択肢が飛躍的に広がる。ここで相溶するとは、25℃の室温下で混合、撹拌しても相分離しないことを意味する。
【0016】
上記共溶媒3としては、上記生体吸収性高分子が合成高分子であって、上記溶媒1として水を、上記溶媒2として有機溶媒を選択した場合には、例えば、アセトン、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、2−ブタノール、イソブタノール、テトラヒドロフラン等を用いることができる。
【0017】
上記溶媒1と溶媒2との配合比は特に限定されないが、溶媒1と溶媒2とが重量比で1:1〜1:100の範囲内であることが好ましい。この範囲内であると、均一な多孔質組織再生基材を製造することができる。より好ましくは、1:10〜1:50の範囲内である。
上記溶媒1と溶媒2との合計と上記共溶媒3の配合比は特に限定されないが、溶媒1と溶媒2との合計と共溶媒3が重量比で1:0.01〜1:0.5の範囲内であることが好ましい。この範囲内であると、均一な多孔質組織再生基材を製造することができる。より好ましくは、1:0.02〜1:0.3の範囲内である。
【0018】
得られる多孔質組織再生基材の孔径は、上記溶媒1と溶媒2との配合比を調整することにより制御することができる。具体的には、上記溶媒1の比率を高くすると得られる多孔質組織再生基材の孔径が大きくなり、上記溶媒2の比率を高くすると得られる多孔質組織再生基材の孔径が小さくなる。しかしながら、溶媒1と溶媒2との配合比を調整する方法では、同時にかさ密度も変動してしまい、任意の孔径とかさ密度を有する多孔質組織再生基材を製造することは困難である。
そこで本発明の多孔質組織再生基材の製造方法では、上記共溶媒3を2種以上組み合わせて用いることが好ましい(以下、共溶媒3に含まれる2種以上の溶媒を「共溶媒3−1」、「共溶媒3−2」、・・・ともいう。)。上記共溶媒3を2種以上組み合わせて、例えば、共溶媒3−1と共溶媒3−2の配合比を調整することにより、得られる多孔質組織再生基材の孔径を制御することができる。即ち、上記溶媒1と溶媒2と共溶媒3の配合比を一定としたまま、共溶媒3に含まれる共溶媒3−1と共溶媒3−2の配合比を調整することにより、得られる多孔質体の孔径を制御することができる。これは、得られる多孔質組織再生基材のかさ密度をほぼ一定として、孔径のみを調整可能なことを意味する。このような本発明の多孔質組織再生基材の製造方法によれば、任意の孔径とかさ密度を有する多孔質組織再生基材を製造することが容易になる。
【0019】
上記生体吸収性高分子と各溶媒の組み合わせとしては特に限定されないが、例えば、上記生体吸収性高分子がラクチド−ε−カプロラクトン共重合体に対して、上記溶媒1が水、溶媒2がメチルエチルケトン、共溶媒3−1がアセトン、共溶媒3−2がエタノールである組み合わせや、上記生体吸収性高分子がポリラクチドに対して、上記溶媒1が水、溶媒2がクロロホルム、共溶媒3−1がテトラヒドロフラン、共溶媒3−2がエタノールである組み合わせや、上記生体吸収性高分子がポリラクチドに対して、上記溶媒1が水、溶媒2がクロロホルム、共溶媒3−1がアセトン、共溶媒3−2がエタノールである組み合わせ等が挙げられる。
【0020】
上記溶解工程においては、生体吸収性高分子と溶媒1と溶媒2と共溶媒3とを用いて、生体吸収性高分子を溶解した均一溶液を調製する。
より具体的に上記均一溶液を調製する方法としては、例えば、生体吸収性高分子と、上記溶媒1、溶媒2及び共溶媒3を含む混合溶媒(以下、単に「混合溶媒」ともいう。)を混合した後、加熱する方法が挙げられる。また、より容易に均一溶液を調製する方法として、例えば、上記混合溶媒を予め加熱し、該加熱した混合溶媒に生体吸収性高分子を加える方法や、生体吸収性高分子をいったん溶媒2に溶解した後、加熱しながら溶媒1及び共溶媒3を加える方法等も挙げられる。
上記混合方法は特に限定されず、例えば、スターラチップ、撹拌棒等を用いた公知の混合方法を用いることができる。
【0021】
上記溶解工程における加熱の温度としては、上記生体吸収性高分子が均一に溶解する温度であれば特に限定されないが、上記溶媒1、溶媒2及び共溶媒3のいずれの沸点よりも低い温度であることが好ましい。沸点以上の温度にまで加熱すると、各溶媒の配合比が変動して、得られる多孔質組織再生基材の孔径、かさ密度を制御できなくなることがある。
【0022】
本発明の多孔質組織再生基材の製造方法では、次いで、均一溶液を冷却して生体吸収性高分子からなる多孔質体を析出させる析出工程を行う。冷却することにより、不溶となった上記生体吸収性高分子からなる多孔質体が析出する。これは、上記生体吸収性高分子が結晶化され析出する前に、上記生体吸収性高分子が結晶化する温度以上で、液体状態の生体吸収性高分子と各溶媒とがまず熱力学的不安定性により相分離(液−液相分離)するためと考えられる。
【0023】
上記析出工程における冷却の温度としては、生体吸収性高分子からなる多孔質体を析出できる温度であれば特に限定されないが、4℃以下であることが好ましく、−24℃以下であることがより好ましい。
なお、得られる多孔質組織再生基材の孔径は冷却速度にも影響される。具体的には、冷却速度が速いと孔径が小さくなり、冷却速度が遅いと孔径が大きくなる傾向がある。従って、特に孔径の小さい多孔質組織再生基材を得る場合には、冷却温度を低く設定して急速に冷却することが考えられる。
【0024】
本発明の多孔質組織再生基材の製造方法では、次いで、得られた生体吸収性高分子からなる多孔質体を凍結乾燥して多孔質組織再生基材を得る凍結乾燥工程を行う。凍結乾燥の条件としては特に限定されず、従来公知の条件で行うことができる。
上記凍結乾燥工程は、上記冷却工程後にそのまま行ってもよいが、溶媒として用いた各種有機溶媒を除去する目的で、予めエタノールや水等に多孔質体を浸漬して置換してから、凍結乾燥を行ってもよい。
【0025】
本発明の多孔質組織再生基材の製造方法を用いれば、毒性の高い溶媒を用いることなく、容易にかさ密度と孔径とを調整して多孔質組織再生基材を得ることができる。
得られた多孔質組織再生基材は、例えば、血管、神経等の再生に特に好適に用いることができる。
なかでも、本発明の多孔質組織再生基材の製造方法により得られたチューブ状の人工血管は、極めて優れた性能を発揮することができる。
以下、本発明の多孔質組織再生基材の製造方法を用いた人工血管の製造についてより詳しく説明する。
【0026】
上記チューブ状の人工血管の製造方法は、本発明の多孔質組織再生基材の製造方法と同様に溶解工程→析出工程→凍結乾燥工程により行うが、溶解工程の後、析出工程の前にチューブ状に成形するための工程を行う。
具体的には、上記溶解工程で得られた均一溶液を、棒状体の表面に塗工する塗工工程を行った後に、棒状体の表面の均一溶液を冷却して、棒状体の周りに生体吸収性高分子からなるチューブ状の多孔質体を析出させる析出工程を行う。
【0027】
上記棒状体は、多孔質体をチューブ状に成形するための部材であり、得られた多孔質体から抜き取ったときに棒状体の直径が得られるチューブ状の人工血管の内径に略該当する。
ここで本発明者らは、上記棒状体として、特にステンレスや樹脂被覆ステンレス等の金属からなる棒状体を用いた場合には、得られたチューブ状の人工血管を移植したときに、肥厚化や石灰化の起こりにくい、極めて正常な血管が再生されることを見出した。
これは、上記棒状体の表面の均一溶液を冷却して、棒状体の周りに生体吸収性高分子からなるチューブ状の多孔質体を析出させる析出工程を行う際に、熱伝導性の高い金属からなる棒状体に接するチューブの内側部分では急速に冷却されるため、その周りの部分(以下、「多孔質層」ともいう。)に比べて相対的に孔径の小さい層(以下、「スキン層」ともいう。)が形成されるためと考えられる。血管が再生されるためには、人工血管全体としては細胞が侵入できる充分な孔径の孔が形成されている必要がある。一方、直接血流と接する内側部分では、肥厚化や石灰化の原因となる血小板の付着を防止することが重要である。チューブ状の人工血管の内側に上記スキン層が形成されることにより、血流と接する内側部分では血小板の付着を防止でき、かつ、その他の部分では細胞が容易に侵入できるため、正常な血管が再生されるものと考えられる。
更に、棒状体の種類や冷却方法を調整することにより、内側にスキン層を有し、かつ、該スキン層の周りの多孔質層の孔径が外側にいくに従い大きくなる形態の人工血管も製造することができる。(この態様のチューブ状の人工血管の断面の電子顕微鏡写真を図4に示した。)なお、逆に、外側にスキン層を有し、かつ、該スキン層の内側の多孔質層の孔径が内側にいくに従い大きくなる形態の人工血管も製造することも可能である。
【0028】
上記均一溶液を棒状体の表面に塗工する方法としては特に限定されず、例えば、棒状体を均一溶液中に1回又は複数回ディップする方法や、上記棒状体の直径よりも内径の大きな筒状体の中に棒状体を配置し、棒状体と筒状体との隙間に上記均一溶液を流し込む方法等が挙げられる。
なお、得られるチューブ状の多孔質体は、析出工程において若干収縮することから、棒状体や筒状体の抜き取りは容易であるが、予め棒状体や筒状体の表面にコーティング等の滑り加工を施しておいてもよい。
【0029】
生体吸収性材料からなる多孔質のチューブ状の人工血管を製造する方法であって、生体吸収性高分子と、上記生体吸収性高分子に対して相対的に溶解度の低い溶媒1と、上記生体吸収性高分子に対して相対的に溶解度が高く、かつ、上記溶媒1と相溶しない溶媒2と、上記溶媒1及び溶媒2と相溶する共溶媒3とを用いて、上記生体吸収性高分子を溶解した均一溶液を調製する溶解工程と、上記均一溶液を、棒状体の表面に塗工する塗工工程と、上記棒状体の表面の均一溶液を冷却して、棒状体の周りに生体吸収性高分子からなるチューブ状の多孔質体を析出させる析出工程と、上記チューブ状の多孔質体を凍結乾燥してチューブ状の人工血管を得る凍結乾燥工程を有する人工血管の製造方法もまた、本発明の1つである。
【0030】
生体吸収性材料からなる多孔質のチューブ状の人工血管であって、最内層に相対的に孔径が小さなスキン層を有し、該スキン層の周りに相対的に孔径が大きな多孔質層を有する人工血管もまた本発明の1つである。
本発明の人工血管を移植することにより、肥厚化や石灰化の起こりにくい、極めて正常な血管を再生することができる。
【0031】
本発明の人工血管の内径は特に限定されないが、一般的な血管の内径から、好ましい下限は0.5mm、好ましい上限は8.0mm程度である。また、上記人工血管の外径は特に限定されないが、一般的な血管の外径から、好ましい下限は1.0mm、好ましい上限は10.0mm程度である。
とりわけ内径が2.0〜5.0mm程度の抹消血管の再生にも利用可能な人工血管は、従来の方法では製造が困難であったが、本発明の人工血管の製造方法によれば容易に製造することができる。
【0032】
上記スキン層は、その内部に微小な孔や穴を多数含有する、本発明の人工血管の最内部の表面付近の層であって、例えば図4や後述する実験例4で得られたチューブ状の人工血管の断面の電子顕微鏡写真に係る図1に示すように、本発明の人工血管の断面において、断面中央部付近の平均孔径(例えば、25μm程度)よりも相対的に小さい平均孔径(例えば、1μm程度)が生成している層を意味する。
【0033】
上記スキン層の役割は、必ずしも明確ではない。しかしながら、例えば、人工血管をナノファイバーで形成し、その表面の平滑性を向上させることにより、血栓の原因となる血小板の付着量が抑制される傾向がin vitroにて見出されている(Acta Biomaterialia 8 (2012) 4349−4356)。また、孔径が小さい表面を有するポリマー表面はハスの葉効果により表面接触角が向上し血栓の原因となる血小板の付着量が抑制されることがin vitroにて見出されている(Colloids Surf B Biointerfaces 2014 Feb1;114:28−35)。これらを勘案すると、本発明の人工血管が最内層に上記スキン層を有することにより、内側表面の平滑性が向上し、かつ、ハスの葉効果により、血栓の過剰形成が抑制されることで、結果的に内膜が形成されやすくなり、肥厚化や石灰化が起こり難くなると考えられる。
【0034】
上記スキン層の孔構造を構成する孔の孔径の好ましい下限は0.5μm、好ましい上限は20μmである。上記スキン層の孔構造を構成する孔の孔径がこの範囲内であると、肥厚化や石灰化を防止する効果が特に発揮される。上記スキン層の孔構造を構成する孔の孔径のより好ましい下限は1μm、より好ましい上限は18μmであり、更に好ましい下限は3μm、更に好ましい上限は15μmである。
【0035】
上記スキン層の厚みは、上記多孔質層との境界が必ずしも明確ではないが、好ましい下限は0.1μm、好ましい上限は30μmである。スキン層の厚みがこの範囲内であると、肥厚化や石灰化の起こりにくい、極めて正常な血管を再生できる。上記スキン層の厚みが0.1μm未満であると、スキン層の周りに相対的に孔径が大きな多孔質層を均一に形成させることが困難となることがあり、30μmを超えると、細胞浸潤性が乏しくなり、結果的に組織再生が遅れ気味になることがある。上記スキン層の厚さのより好ましい下限は0.5μm、より好ましい上限は20μmである。
【0036】
上記多孔質層は、上記スキン層以外の層であって、例えば図4や後述する実験例4で得られたチューブ状の人工血管の断面の電子顕微鏡写真に係る図1に示すように、本発明の人工血管の断面において、断面中央部付近(平均孔径が例えば、25μm程度)を含む層を意味する。
上記多孔質層の孔構造は、上記スキン層と比較すると非常に疎な構造であり、上記スキン層と連通している。更に好ましい孔構造は、大きさのそろった連通孔(連通された空隙)が存在するものであり、特に好ましい孔構造は、大きさのそろった連通孔(連通された空隙)が存在するとともに孔壁自体にも少なくとも1つ以上の孔や穴が存在するものである。
【0037】
上記多孔質層の孔構造を構成する孔の孔径の好ましい下限は1μm、好ましい上限は500μmである。上記多孔質層の孔構造を構成する孔の孔径が1μm未満であると、細胞浸潤性が乏しくなることがあり、500μmを超えると、細胞浸潤性は良好になるものの、人工血管を通過して排出されてしまう細胞もあり、結果的に組織再生が遅れ気味になることがある。上記多孔質層の孔構造を構成する孔の孔径のより好ましい下限は5μm、好ましい上限は400μmであり、更に好ましい下限は10μm、更に好ましい上限は300μmである。
上記多孔質層の孔壁自体の少なくとも1つ以上の孔や穴の最大径は、上記多孔質層の孔構造を構成する孔径と同じか、それ以下であることが好ましい。上記多孔質層の孔壁自体の少なくとも1つ以上の孔や穴の最大径の好ましい上限は500μmであり、より好ましい上限は400μm、更に好ましい上限は300μmである。
【0038】
本発明の人工血管は、上記多孔質層上に、生体吸収性高分子からなる、繊維径10〜5000nmの極細繊維からなる極細繊維不織布層を有することが好ましい。このような極細繊維不織布層を設けることにより、血流の圧力によって血液が漏れ出すことを防止することができ、また、移植後に外部からの圧迫に対して充分な強度を発揮して、キンキング(折れる現象)によって血管が閉塞するのを防止することができる。
【0039】
上記極細繊維不織布層を構成する生体吸収性高分子としては特に限定されず、上述の合成高分子や天然高分子等を用いることができる。
なかでも、上記極細繊維不織布層を構成する生体吸収性高分子として生体吸収性の異なる2種以上の生体吸収性高分子を組み合わせて用いることが好ましい。上記極細繊維不織布層を設けることにより人工血管の強度を向上させることができる一方、極細繊維不織布層により細胞の侵入が妨げられ、血管再生が遅延したり、石灰化の原因となったりすることがある。生体吸収性の異なる2種以上の生体吸収性高分子を組み合わせて極細繊維不織布層を構成することにより、この点を著しく改善することができる。
例えば、相対的に生体吸収性の高いポリグリコリドと、相対的に生体吸収性の低いポリラクチドとを組み合わせて極細繊維不織布層を構成する。この場合、特に強度が求められる移植直後の比較的初期においては、2種の生体吸収性高分子のいずれもが分解せずに存在することから、高い強度向上効果を発揮できる。その後、徐々に生体吸収性の高いポリグリコリドが分解され吸収されていくに従って、極細繊維不織布層に空隙が生成する。この空隙により細胞の侵入が容易となり、血管再生が促進され、石灰化を防止することができる。
【0040】
上記極細繊維不織布層の厚みの好ましい下限は10μm、好ましい上限は300μmである。上記極細繊維不織布層の厚みがこの範囲内であると、充分な強度向上効果を発揮することができる。
【0041】
上記多孔質層上に極細繊維不織布層を形成する方法は特に限定されないが、電界紡糸法が好適である。電界紡糸法は、ノズルとコレクタ電極の間に高電圧をかけた状態で、ノズルから生体吸収性高分子を溶解した溶液をターゲットに向けて吐出する方法である。ノズルから発射された溶液は、電気力線に沿って極細繊維状となり、ターゲット上に付着する。
【0042】
本発明の人工血管の製造方法では、上記棒状体として金属からなる導電性の棒状体を用いることにより、該棒状体をコレクタ電極とすることができる。このとき、チューブ状の人工血管が形成された棒状体を回転させ、ノズルを複数回往復させながら吐出することにより、上記極細繊維不織布層を形成することができる。
【0043】
本発明の人工血管は、更に、ヘパリン等の血栓の形成を防止する剤や、bFGF等の血管の再生を促進する成長因子等を含有してもよい。更に、移植に先立って、間葉系幹細胞等の細胞を播種してもよい。
【発明の効果】
【0044】
本発明によれば、溶媒の選択肢が広く、容易に多孔質基材のかさ密度と孔径とを調整可能な多孔質組織再生基材の製造方法、人工血管の製造方法、及び、人工血管を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
図1】実験例4で得られたチューブ状の人工血管の断面の電子顕微鏡写真である。
図2】実験例4で得られたチューブ状の人工血管を用いて再生した血管のHE染色像である。
図3】実験例4で得られたチューブ状の人工血管を用いて再生した血管のフォンコッサ染色像である。
図4】内側にスキン層を有し、かつ、該スキン層の周りの多孔質層の孔径が外側にいくに従い大きくなる形態の人工血管の断面の電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0046】
以下に実施例を挙げて本発明の態様を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例にのみ限定されるものではない。
【0047】
(実験例1)
(1)多孔質組織再生基材の製造
25℃の室温下にて、L−ラクチド−ε−カプロラクトン共重合体(モル比50:50)0.25gと、溶媒1として水0.3mL、溶媒2としてメチルエチルケトン2.0mL、共溶媒3としてアセトン(共溶媒3−1)とエタノール(共溶媒3−2)との混合物1.0mLを含有する混合溶液に混合した。L−ラクチド−ε−カプロラクトン共重合体を溶解しない不均一溶液が得られた。
次いで、得られた不均一溶液を直径3.3mmのガラス管に入れて60℃に加熱したところ、L−ラクチド−ε−カプロラクトン共重合体が溶解した均一溶液が得られた。
次いで、得られた均一溶液を冷凍庫内に入れることにより4℃又は−24℃に冷却したところ、L−ラクチド−ε−カプロラクトン共重合体からなる多孔質体が析出した。
得られた多孔質体を、50mLのエタノール槽中に4℃又は−24℃、12時間浸漬し、次いで、50mLの水槽中に25℃、12時間浸漬して洗浄を行った。
その後、−40℃の条件で凍結乾燥を行い、直径3.0mm、高さ15mmの円柱状の多孔質組織再生基材を得た。
共溶媒3−1と共溶媒3−2の比を0.8:0.2と0.5:0.5の2通りとして、多孔質組織再生基材を製造した。
【0048】
(2)多孔質基材の孔径及びかさ密度の測定
以下の方法により得られた多孔質基材の孔径及びかさ密度を測定した。
結果を表1に示した。
【0049】
(2−1)孔径の測定
円柱状の多孔質組織再生基材を切断し、その断面の中央付近を倍率1000倍又は8000倍の電子顕微鏡写真で撮影した。得られた電子顕微鏡像の任意の10点の孔の直径(長径)を測定し、その平均値を平均孔径とした。
【0050】
(2−2)かさ密度の測定
得られた血管基材の体積と重量を測定し、質量を体積で除してかさ密度を算出した。各々3回の測定を行い、その平均値をかさ密度とした。
【0051】
【表1】
【0052】
(実験例2)
25℃の室温下にて、ポリラクチド0.5gと、溶媒1として水0.15mL、溶媒2としてクロロホルム6.0mL、共溶媒3としてテトラヒドロフラン(共溶媒3−1)とエタノール(共溶媒3−2)との混合物1.0mLを含有する混合溶液を60℃にて加熱しながら混合したところポリラクチドが溶解した均一溶液が得られた。
次いで、得られた均一溶液を冷凍庫内に入れることにより−80℃に冷却したところ、ポリラクチドからなる多孔質体が析出した。
得られた多孔質体を、50mLのエタノール槽中に−70℃、12時間浸漬し、次いで、50mLの水槽中に25℃、12時間浸漬して洗浄を行った。
その後、−40℃の条件で凍結乾燥を行い、多孔質組織再生基材を得た。
共溶媒3−1と共溶媒3−2の比を0.9:0.1と0.1:0.9の2通りとして、多孔質組織再生基材を製造した。
実験例1と同様の方法により、得られた多孔質基材の孔径及びかさ密度を測定した。
結果を表2に示した。
【0053】
【表2】
【0054】
(実験例3)
60℃に加熱しながら、ポリラクチド0.5gを溶媒2としてクロロホルムに溶解させた後、加熱状態を維持したまま共溶媒3としてアセトン(共溶媒3−1)を、次にエタノール(共溶媒3−2)を計2.8mLになるように加え、更に溶媒1として水を0.22mL加え、均一溶液を得た。次いで得られた均一溶液を冷凍庫内に入れることにより−80℃に冷却したところ、ポリラクチドからなる多孔質体が析出した。
得られた多孔質体を、50mLのエタノール槽中に−70℃、12時間浸漬し、次いで、50mLの水槽中に25℃、12時間浸漬して洗浄を行った。
その後、−40℃の条件で凍結乾燥を行い、多孔質組織再生基材を得た。
共溶媒3−1と共溶媒3−2の比を1.8:1.0と1.0:1.8の2通りとして、多孔質組織再生基材を製造した。
実験例1と同様の方法により、得られた多孔質基材の孔径及びかさ密度を測定した。
結果を表3に示した。
【0055】
【表3】
【0056】
(実験例4)
(1)人工血管の製造
25℃の室温下にて、L−ラクチド−ε−カプロラクトン共重合体(モル比50:50)0.25gと、溶媒1として水0.2 mL、溶媒2としてメチルエチルケトン2.5mL、共溶媒3としてアセトン0.8mL及びエタノール0.2mLを含有する混合溶液に混合した。L−ラクチド−ε−カプロラクトン共重合体を溶解しない不均一溶液が得られた。
次いで、得られた不均一溶液を60℃に加熱したところ、L−ラクチド−ε−カプロラクトン共重合体が溶解した均一溶液が得られた。
直径0.6mmのフッ素コーティングを施したステンレスからなる棒状体を、内径1.1mmのガラス管の中に配置し、該棒状体とガラス管との隙間に得られた均一溶液を流し込んだ。その状態で、冷凍庫内に入れることにより−30℃に冷却したところ、棒状体の周りにL−ラクチド−ε−カプロラクトン共重合体からなる多孔質体が析出した。得られた多孔質体を、50mLのエタノール槽中に−30℃、12時間浸漬し、次いで、50mLの水槽中に25℃、12時間浸漬して洗浄を行った。
その後、−40℃の条件で凍結乾燥を行い、チューブ状の多孔質体を得た。
【0057】
ポリグリコリドとポリラクチドをヘキサフルオロイソプロパノールに溶解して、ポリグリコリド濃度が10重量%、ポリラクチド濃度が10重量%のヘキサフルオロイソプロパノール溶液をそれぞれ調製した。
チューブ状の多孔質体が形成された棒状体をコレクタ電極として、電界紡糸装置を用いて、棒状体の表面に該ヘキサフルオロイソプロパノール溶液を吐出させた。このとき、棒状体を回転させ、調整されたヘキサフルオロイソプロパノール溶液をそれぞれ二つのノズルに充填させ複数回往復させながら吐出することにより極細繊維不織布層を形成した。
なお、電界紡糸の条件は、電圧−40kV、ノズル径23Gとした。
最後に、棒状体を引き抜いて、外径約1090μm、内径約610μmのチューブ状の人工血管を得た。
【0058】
得られたチューブ状の人工血管の断面の電子顕微鏡写真を図1に示した。
チューブ状の人工血管は、最内層に相対的に孔径が小さなスキン層(実験例1と同様の方法により測定した平均孔径が4.3μm)、該スキン層の周りに相対的に孔径が大きな多孔質層(同平均孔径が23.2μm)及び該多孔質層上に極細繊維不織布層を有する3層構造であった。
【0059】
(2)血管組織再生性の評価
実験例4で得られた人工血管について、以下の方法にて動物実験による評価を行った。マウスの腹部大動脈の一部を切除し、実験例4で得られた人工血管に置換した。計10検体の試験を行い、術後8週間の次点で10検体全てが生存し、血管の閉塞等は全く認められなかった。
【0060】
術後8週目に、ペントバルビタール過剰量の腹腔内投与によりマウスを安楽死せしめ、埋稙部分を摘出した。得られた標本をヘマトキシリン−エオシン染色(HE染色)した顕微鏡写真像を図2に示した。また、石灰化評価のためにフォンコッサ染色した顕微鏡写真像を図3に示した。
図2及び図3より、肥厚化や石灰化のない、極めて正常な血管が再生されることが確認できる。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明によれば、溶媒の選択肢が広く、容易に多孔質基材のかさ密度と孔径とを調整可能な多孔質組織再生基材の製造方法、人工血管の製造方法、及び、人工血管を提供することができる。
図1
図2
図3
図4