【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、生体吸収性高分子からなる多孔質の組織再生基材を製造する方法であって、生体吸収性高分子と、前記生体吸収性高分子に対して相対的に溶解度の低い溶媒1と、前記生体吸収性高分子に対して相対的に溶解度が高く、かつ、前記溶媒1と相溶しない溶媒2と、前記溶媒1及び溶媒2と相溶する共溶媒3とを用いて、前記生体吸収性高分子を溶解した均一溶液を調製する溶解工程と、前記均一溶液を冷却して生体吸収性高分子からなる多孔質体を析出させる析出工程と、前記生体吸収性高分子からなる多孔質体を凍結乾燥して多孔質組織再生基材を得る凍結乾燥工程を有する多孔質組織再生基材の製造方法である。
以下に本発明を詳述する。
【0010】
本発明者らは、生体吸収性高分子の良溶媒と貧溶媒に、更に該良溶媒と貧溶媒とのいずれもと相溶可能な共溶媒を組み合わせた多孔質組織再生基材の製造方法を発明した。共溶媒を組み合わせることにより、良溶媒と貧溶媒との相溶性が不要となることから、良溶媒と貧溶媒との組み合わせの選択肢が大きく広がる。本発明の多孔質組織再生基材の製造方法においては、良溶媒として1,4−ジオキサン、N−メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド等以外の、毒性の低い有機溶媒を選択することもできる。更に、共溶媒を2種以上組み合わせて、該2種以上の共溶媒の配合比を調整することにより、容易に多孔質基材のかさ密度と孔径とを調整することができる。
【0011】
本発明の多孔質組織再生基材の製造方法では、まず、生体吸収性高分子と溶媒1と溶媒2と共溶媒3とを用いて、生体吸収性高分子を溶解した均一溶液を調製する溶解工程を行う。
上記生体吸収性高分子としては、例えば、ポリグリコリド、ポリラクチド、ポリ−ε−カプロラクトン、ラクチド−グリコール酸共重合体、グリコリド−ε−カプロラクトン共重合体、ラクチド−ε−カプロラクトン共重合体、ポリクエン酸、ポリリンゴ酸、ポリ−α−シアノアクリレート、ポリ−β−ヒドロキシ酸、ポリトリメチレンオキサレート、ポリテトラメチレンオキサレート、ポリオルソエステル、ポリオルソカーボネート、ポリエチレンカーボネート、ポリ−γ−ベンジル−L−グルタメート、ポリ−γ−メチル−L−グルタメート、ポリ−L−アラニン、ポリグリコールセバスチン酸等の合成高分子や、デンプン、アルギン酸、ヒアルロン酸、キチン、ペクチン酸及びその誘導体等の多糖類や、ゼラチン、コラーゲン、アルブミン、フィブリン等のタンパク質等の天然高分子等が挙げられる。これらの生体吸収性材料は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0012】
上記溶媒1は、上記生体吸収性高分子に対して相対的に溶解度の低い、いわゆる貧溶媒である。ここで相対的に溶解度の低いとは、上記溶媒2よりも上記生体吸収性高分子を溶解しにくい性質を有することを意味する。
上記溶媒1としては、上記生体吸収性高分子が合成高分子である場合には、例えば、水、メタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール等を用いることができる。なかでも、取り扱い性に優れることから、水が好適である。
【0013】
上記溶媒2は、上記生体吸収性高分子に対して相対的に溶解度の高い、いわゆる良溶媒である。
上記溶媒2は、上記溶媒1と相溶しないものである。ここで相溶しないとは、25℃の室温下で混合、撹拌しても相分離することを意味する。
【0014】
上記溶媒2としては、上記生体吸収性高分子が合成高分子であって、上記溶媒1として水を選択した場合には、例えば、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルアミノケトン、シクロヘサノン、クロロホルム、酢酸エチル、トルエン等の有機溶媒を用いることができる。なかでも、比較的毒性が低いことから、メチルエチルケトン、クロロホルム、等が好適である。
【0015】
上記共溶媒3は、上記溶媒1と溶媒2とのいずれとも相溶する。このような共溶媒3を組み合わせることにより、上記溶媒1と溶媒2とが非相溶であっても相分離法による多孔質組織再生基材を製造することが可能となり、溶媒1と溶媒2との組み合わせの選択肢が飛躍的に広がる。ここで相溶するとは、25℃の室温下で混合、撹拌しても相分離しないことを意味する。
【0016】
上記共溶媒3としては、上記生体吸収性高分子が合成高分子であって、上記溶媒1として水を、上記溶媒2として有機溶媒を選択した場合には、例えば、アセトン、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、2−ブタノール、イソブタノール、テトラヒドロフラン等を用いることができる。
【0017】
上記溶媒1と溶媒2との配合比は特に限定されないが、溶媒1と溶媒2とが重量比で1:1〜1:100の範囲内であることが好ましい。この範囲内であると、均一な多孔質組織再生基材を製造することができる。より好ましくは、1:10〜1:50の範囲内である。
上記溶媒1と溶媒2との合計と上記共溶媒3の配合比は特に限定されないが、溶媒1と溶媒2との合計と共溶媒3が重量比で1:0.01〜1:0.5の範囲内であることが好ましい。この範囲内であると、均一な多孔質組織再生基材を製造することができる。より好ましくは、1:0.02〜1:0.3の範囲内である。
【0018】
得られる多孔質組織再生基材の孔径は、上記溶媒1と溶媒2との配合比を調整することにより制御することができる。具体的には、上記溶媒1の比率を高くすると得られる多孔質組織再生基材の孔径が大きくなり、上記溶媒2の比率を高くすると得られる多孔質組織再生基材の孔径が小さくなる。しかしながら、溶媒1と溶媒2との配合比を調整する方法では、同時にかさ密度も変動してしまい、任意の孔径とかさ密度を有する多孔質組織再生基材を製造することは困難である。
そこで本発明の多孔質組織再生基材の製造方法では、上記共溶媒3を2種以上組み合わせて用いることが好ましい(以下、共溶媒3に含まれる2種以上の溶媒を「共溶媒3−1」、「共溶媒3−2」、・・・ともいう。)。上記共溶媒3を2種以上組み合わせて、例えば、共溶媒3−1と共溶媒3−2の配合比を調整することにより、得られる多孔質組織再生基材の孔径を制御することができる。即ち、上記溶媒1と溶媒2と共溶媒3の配合比を一定としたまま、共溶媒3に含まれる共溶媒3−1と共溶媒3−2の配合比を調整することにより、得られる多孔質体の孔径を制御することができる。これは、得られる多孔質組織再生基材のかさ密度をほぼ一定として、孔径のみを調整可能なことを意味する。このような本発明の多孔質組織再生基材の製造方法によれば、任意の孔径とかさ密度を有する多孔質組織再生基材を製造することが容易になる。
【0019】
上記生体吸収性高分子と各溶媒の組み合わせとしては特に限定されないが、例えば、上記生体吸収性高分子がラクチド−ε−カプロラクトン共重合体に対して、上記溶媒1が水、溶媒2がメチルエチルケトン、共溶媒3−1がアセトン、共溶媒3−2がエタノールである組み合わせや、上記生体吸収性高分子がポリラクチドに対して、上記溶媒1が水、溶媒2がクロロホルム、共溶媒3−1がテトラヒドロフラン、共溶媒3−2がエタノールである組み合わせや、上記生体吸収性高分子がポリラクチドに対して、上記溶媒1が水、溶媒2がクロロホルム、共溶媒3−1がアセトン、共溶媒3−2がエタノールである組み合わせ等が挙げられる。
【0020】
上記溶解工程においては、生体吸収性高分子と溶媒1と溶媒2と共溶媒3とを用いて、生体吸収性高分子を溶解した均一溶液を調製する。
より具体的に上記均一溶液を調製する方法としては、例えば、生体吸収性高分子と、上記溶媒1、溶媒2及び共溶媒3を含む混合溶媒(以下、単に「混合溶媒」ともいう。)を混合した後、加熱する方法が挙げられる。また、より容易に均一溶液を調製する方法として、例えば、上記混合溶媒を予め加熱し、該加熱した混合溶媒に生体吸収性高分子を加える方法や、生体吸収性高分子をいったん溶媒2に溶解した後、加熱しながら溶媒1及び共溶媒3を加える方法等も挙げられる。
上記混合方法は特に限定されず、例えば、スターラチップ、撹拌棒等を用いた公知の混合方法を用いることができる。
【0021】
上記溶解工程における加熱の温度としては、上記生体吸収性高分子が均一に溶解する温度であれば特に限定されないが、上記溶媒1、溶媒2及び共溶媒3のいずれの沸点よりも低い温度であることが好ましい。沸点以上の温度にまで加熱すると、各溶媒の配合比が変動して、得られる多孔質組織再生基材の孔径、かさ密度を制御できなくなることがある。
【0022】
本発明の多孔質組織再生基材の製造方法では、次いで、均一溶液を冷却して生体吸収性高分子からなる多孔質体を析出させる析出工程を行う。冷却することにより、不溶となった上記生体吸収性高分子からなる多孔質体が析出する。これは、上記生体吸収性高分子が結晶化され析出する前に、上記生体吸収性高分子が結晶化する温度以上で、液体状態の生体吸収性高分子と各溶媒とがまず熱力学的不安定性により相分離(液−液相分離)するためと考えられる。
【0023】
上記析出工程における冷却の温度としては、生体吸収性高分子からなる多孔質体を析出できる温度であれば特に限定されないが、4℃以下であることが好ましく、−24℃以下であることがより好ましい。
なお、得られる多孔質組織再生基材の孔径は冷却速度にも影響される。具体的には、冷却速度が速いと孔径が小さくなり、冷却速度が遅いと孔径が大きくなる傾向がある。従って、特に孔径の小さい多孔質組織再生基材を得る場合には、冷却温度を低く設定して急速に冷却することが考えられる。
【0024】
本発明の多孔質組織再生基材の製造方法では、次いで、得られた生体吸収性高分子からなる多孔質体を凍結乾燥して多孔質組織再生基材を得る凍結乾燥工程を行う。凍結乾燥の条件としては特に限定されず、従来公知の条件で行うことができる。
上記凍結乾燥工程は、上記冷却工程後にそのまま行ってもよいが、溶媒として用いた各種有機溶媒を除去する目的で、予めエタノールや水等に多孔質体を浸漬して置換してから、凍結乾燥を行ってもよい。
【0025】
本発明の多孔質組織再生基材の製造方法を用いれば、毒性の高い溶媒を用いることなく、容易にかさ密度と孔径とを調整して多孔質組織再生基材を得ることができる。
得られた多孔質組織再生基材は、例えば、血管、神経等の再生に特に好適に用いることができる。
なかでも、本発明の多孔質組織再生基材の製造方法により得られたチューブ状の人工血管は、極めて優れた性能を発揮することができる。
以下、本発明の多孔質組織再生基材の製造方法を用いた人工血管の製造についてより詳しく説明する。
【0026】
上記チューブ状の人工血管の製造方法は、本発明の多孔質組織再生基材の製造方法と同様に溶解工程→析出工程→凍結乾燥工程により行うが、溶解工程の後、析出工程の前にチューブ状に成形するための工程を行う。
具体的には、上記溶解工程で得られた均一溶液を、棒状体の表面に塗工する塗工工程を行った後に、棒状体の表面の均一溶液を冷却して、棒状体の周りに生体吸収性高分子からなるチューブ状の多孔質体を析出させる析出工程を行う。
【0027】
上記棒状体は、多孔質体をチューブ状に成形するための部材であり、得られた多孔質体から抜き取ったときに棒状体の直径が得られるチューブ状の人工血管の内径に略該当する。
ここで本発明者らは、上記棒状体として、特にステンレスや樹脂被覆ステンレス等の金属からなる棒状体を用いた場合には、得られたチューブ状の人工血管を移植したときに、肥厚化や石灰化の起こりにくい、極めて正常な血管が再生されることを見出した。
これは、上記棒状体の表面の均一溶液を冷却して、棒状体の周りに生体吸収性高分子からなるチューブ状の多孔質体を析出させる析出工程を行う際に、熱伝導性の高い金属からなる棒状体に接するチューブの内側部分では急速に冷却されるため、その周りの部分(以下、「多孔質層」ともいう。)に比べて相対的に孔径の小さい層(以下、「スキン層」ともいう。)が形成されるためと考えられる。血管が再生されるためには、人工血管全体としては細胞が侵入できる充分な孔径の孔が形成されている必要がある。一方、直接血流と接する内側部分では、肥厚化や石灰化の原因となる血小板の付着を防止することが重要である。チューブ状の人工血管の内側に上記スキン層が形成されることにより、血流と接する内側部分では血小板の付着を防止でき、かつ、その他の部分では細胞が容易に侵入できるため、正常な血管が再生されるものと考えられる。
更に、棒状体の種類や冷却方法を調整することにより、内側にスキン層を有し、かつ、該スキン層の周りの多孔質層の孔径が外側にいくに従い大きくなる形態の人工血管も製造することができる。(この態様のチューブ状の人工血管の断面の電子顕微鏡写真を
図4に示した。)なお、逆に、外側にスキン層を有し、かつ、該スキン層の内側の多孔質層の孔径が内側にいくに従い大きくなる形態の人工血管も製造することも可能である。
【0028】
上記均一溶液を棒状体の表面に塗工する方法としては特に限定されず、例えば、棒状体を均一溶液中に1回又は複数回ディップする方法や、上記棒状体の直径よりも内径の大きな筒状体の中に棒状体を配置し、棒状体と筒状体との隙間に上記均一溶液を流し込む方法等が挙げられる。
なお、得られるチューブ状の多孔質体は、析出工程において若干収縮することから、棒状体や筒状体の抜き取りは容易であるが、予め棒状体や筒状体の表面にコーティング等の滑り加工を施しておいてもよい。
【0029】
生体吸収性材料からなる多孔質のチューブ状の人工血管を製造する方法であって、生体吸収性高分子と、上記生体吸収性高分子に対して相対的に溶解度の低い溶媒1と、上記生体吸収性高分子に対して相対的に溶解度が高く、かつ、上記溶媒1と相溶しない溶媒2と、上記溶媒1及び溶媒2と相溶する共溶媒3とを用いて、上記生体吸収性高分子を溶解した均一溶液を調製する溶解工程と、上記均一溶液を、棒状体の表面に塗工する塗工工程と、上記棒状体の表面の均一溶液を冷却して、棒状体の周りに生体吸収性高分子からなるチューブ状の多孔質体を析出させる析出工程と、上記チューブ状の多孔質体を凍結乾燥してチューブ状の人工血管を得る凍結乾燥工程を有する人工血管の製造方法もまた、本発明の1つである。
【0030】
生体吸収性材料からなる多孔質のチューブ状の人工血管であって、最内層に相対的に孔径が小さなスキン層を有し、該スキン層の周りに相対的に孔径が大きな多孔質層を有する人工血管もまた本発明の1つである。
本発明の人工血管を移植することにより、肥厚化や石灰化の起こりにくい、極めて正常な血管を再生することができる。
【0031】
本発明の人工血管の内径は特に限定されないが、一般的な血管の内径から、好ましい下限は0.5mm、好ましい上限は8.0mm程度である。また、上記人工血管の外径は特に限定されないが、一般的な血管の外径から、好ましい下限は1.0mm、好ましい上限は10.0mm程度である。
とりわけ内径が2.0〜5.0mm程度の抹消血管の再生にも利用可能な人工血管は、従来の方法では製造が困難であったが、本発明の人工血管の製造方法によれば容易に製造することができる。
【0032】
上記スキン層は、その内部に微小な孔や穴を多数含有する、本発明の人工血管の最内部の表面付近の層であって、例えば
図4や後述する実験例4で得られたチューブ状の人工血管の断面の電子顕微鏡写真に係る
図1に示すように、本発明の人工血管の断面において、断面中央部付近の平均孔径(例えば、25μm程度)よりも相対的に小さい平均孔径(例えば、1μm程度)が生成している層を意味する。
【0033】
上記スキン層の役割は、必ずしも明確ではない。しかしながら、例えば、人工血管をナノファイバーで形成し、その表面の平滑性を向上させることにより、血栓の原因となる血小板の付着量が抑制される傾向がin vitroにて見出されている(Acta Biomaterialia 8 (2012) 4349−4356)。また、孔径が小さい表面を有するポリマー表面はハスの葉効果により表面接触角が向上し血栓の原因となる血小板の付着量が抑制されることがin vitroにて見出されている(Colloids Surf B Biointerfaces 2014 Feb1;114:28−35)。これらを勘案すると、本発明の人工血管が最内層に上記スキン層を有することにより、内側表面の平滑性が向上し、かつ、ハスの葉効果により、血栓の過剰形成が抑制されることで、結果的に内膜が形成されやすくなり、肥厚化や石灰化が起こり難くなると考えられる。
【0034】
上記スキン層の孔構造を構成する孔の孔径の好ましい下限は0.5μm、好ましい上限は20μmである。上記スキン層の孔構造を構成する孔の孔径がこの範囲内であると、肥厚化や石灰化を防止する効果が特に発揮される。上記スキン層の孔構造を構成する孔の孔径のより好ましい下限は1μm、より好ましい上限は18μmであり、更に好ましい下限は3μm、更に好ましい上限は15μmである。
【0035】
上記スキン層の厚みは、上記多孔質層との境界が必ずしも明確ではないが、好ましい下限は0.1μm、好ましい上限は30μmである。スキン層の厚みがこの範囲内であると、肥厚化や石灰化の起こりにくい、極めて正常な血管を再生できる。上記スキン層の厚みが0.1μm未満であると、スキン層の周りに相対的に孔径が大きな多孔質層を均一に形成させることが困難となることがあり、30μmを超えると、細胞浸潤性が乏しくなり、結果的に組織再生が遅れ気味になることがある。上記スキン層の厚さのより好ましい下限は0.5μm、より好ましい上限は20μmである。
【0036】
上記多孔質層は、上記スキン層以外の層であって、例えば
図4や後述する実験例4で得られたチューブ状の人工血管の断面の電子顕微鏡写真に係る
図1に示すように、本発明の人工血管の断面において、断面中央部付近(平均孔径が例えば、25μm程度)を含む層を意味する。
上記多孔質層の孔構造は、上記スキン層と比較すると非常に疎な構造であり、上記スキン層と連通している。更に好ましい孔構造は、大きさのそろった連通孔(連通された空隙)が存在するものであり、特に好ましい孔構造は、大きさのそろった連通孔(連通された空隙)が存在するとともに孔壁自体にも少なくとも1つ以上の孔や穴が存在するものである。
【0037】
上記多孔質層の孔構造を構成する孔の孔径の好ましい下限は1μm、好ましい上限は500μmである。上記多孔質層の孔構造を構成する孔の孔径が1μm未満であると、細胞浸潤性が乏しくなることがあり、500μmを超えると、細胞浸潤性は良好になるものの、人工血管を通過して排出されてしまう細胞もあり、結果的に組織再生が遅れ気味になることがある。上記多孔質層の孔構造を構成する孔の孔径のより好ましい下限は5μm、好ましい上限は400μmであり、更に好ましい下限は10μm、更に好ましい上限は300μmである。
上記多孔質層の孔壁自体の少なくとも1つ以上の孔や穴の最大径は、上記多孔質層の孔構造を構成する孔径と同じか、それ以下であることが好ましい。上記多孔質層の孔壁自体の少なくとも1つ以上の孔や穴の最大径の好ましい上限は500μmであり、より好ましい上限は400μm、更に好ましい上限は300μmである。
【0038】
本発明の人工血管は、上記多孔質層上に、生体吸収性高分子からなる、繊維径10〜5000nmの極細繊維からなる極細繊維不織布層を有することが好ましい。このような極細繊維不織布層を設けることにより、血流の圧力によって血液が漏れ出すことを防止することができ、また、移植後に外部からの圧迫に対して充分な強度を発揮して、キンキング(折れる現象)によって血管が閉塞するのを防止することができる。
【0039】
上記極細繊維不織布層を構成する生体吸収性高分子としては特に限定されず、上述の合成高分子や天然高分子等を用いることができる。
なかでも、上記極細繊維不織布層を構成する生体吸収性高分子として生体吸収性の異なる2種以上の生体吸収性高分子を組み合わせて用いることが好ましい。上記極細繊維不織布層を設けることにより人工血管の強度を向上させることができる一方、極細繊維不織布層により細胞の侵入が妨げられ、血管再生が遅延したり、石灰化の原因となったりすることがある。生体吸収性の異なる2種以上の生体吸収性高分子を組み合わせて極細繊維不織布層を構成することにより、この点を著しく改善することができる。
例えば、相対的に生体吸収性の高いポリグリコリドと、相対的に生体吸収性の低いポリラクチドとを組み合わせて極細繊維不織布層を構成する。この場合、特に強度が求められる移植直後の比較的初期においては、2種の生体吸収性高分子のいずれもが分解せずに存在することから、高い強度向上効果を発揮できる。その後、徐々に生体吸収性の高いポリグリコリドが分解され吸収されていくに従って、極細繊維不織布層に空隙が生成する。この空隙により細胞の侵入が容易となり、血管再生が促進され、石灰化を防止することができる。
【0040】
上記極細繊維不織布層の厚みの好ましい下限は10μm、好ましい上限は300μmである。上記極細繊維不織布層の厚みがこの範囲内であると、充分な強度向上効果を発揮することができる。
【0041】
上記多孔質層上に極細繊維不織布層を形成する方法は特に限定されないが、電界紡糸法が好適である。電界紡糸法は、ノズルとコレクタ電極の間に高電圧をかけた状態で、ノズルから生体吸収性高分子を溶解した溶液をターゲットに向けて吐出する方法である。ノズルから発射された溶液は、電気力線に沿って極細繊維状となり、ターゲット上に付着する。
【0042】
本発明の人工血管の製造方法では、上記棒状体として金属からなる導電性の棒状体を用いることにより、該棒状体をコレクタ電極とすることができる。このとき、チューブ状の人工血管が形成された棒状体を回転させ、ノズルを複数回往復させながら吐出することにより、上記極細繊維不織布層を形成することができる。
【0043】
本発明の人工血管は、更に、ヘパリン等の血栓の形成を防止する剤や、bFGF等の血管の再生を促進する成長因子等を含有してもよい。更に、移植に先立って、間葉系幹細胞等の細胞を播種してもよい。