(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前面(18)および後面(16)を有する多焦点レンズ(10)を生産する装置、特に累進眼鏡レンズ用の装置であって、前記多焦点レンズの処方面の設計を作成する手段を備え、前記手段が、請求項1から10のいずれか一項に従って前記処方面の前記設計を作成するように構成された装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、多焦点レンズの処方面の設計を作成する改良された方法を提供することにあり、この方法は、2つの異なる使用状況に対応する2つの基準点における処方面の計算を単純にすることを可能にする。この文脈では、処方面の計算が、処方面の設計の作成であると理解される。本発明の追加の発展形態として、多焦点レンズの処方面の設計を作成する方法であって、通常は非常にコンピュータ集約的である全面最適化を実行する必要なしに遠用部基準点および近用部基準点における所望の処方作用を実現することができる方法を提供することも本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的は、独立請求項の教示によって達成される。従属請求項の主題は本発明の特に有利な構成である。
【0009】
多焦点レンズの処方面の設計を作成する本発明に基づく方法は、第1の使用状況に関する被験者(proband)の眼の少なくとも1つの収差を記述した第1のデータ、および第2の使用状況に関する被験者の眼の少なくとも1つの収差を記述した第2のデータを得るステップS10と、第1および第2のデータから、所定の処方面式の第1のパラメータ・セットおよび第2のパラメータ・セットを決定するステップS20であり、処方面式が、第1のパラメータ・セットに関しては処方面の第1の基準点に割り当てられており、第2のパラメータ・セットに関しては処方面の第2の基準点に割り当てられているステップS20と、第1のパラメータ・セットおよび第2のパラメータ・セットから、処方面の追加の座標における処方面式の追加のパラメータ・セットを補間するステップS30と、第1の基準点における処方エリアの処方面値を、第1のパラメータ・セットに基づいて決定し、第2の基準点における処方エリアの処方面値を、第2のパラメータ・セットに基づいて決定し、処方面の追加の座標における処方エリアの処方面値を、追加のパラメータ・セットに基づいて決定するステップS40とを含む。
【0010】
本発明によれば、第1の基準点および第2の基準点において処方面の最適設定が実行される。本発明によれば、これらの2つの基準点における処方面式の第1および第2のパラメータ・セットから処方面式のパラメータ・セットを補間することによって、これらの2つの基準点間の遷移が達成される。本発明によれば、例えばこれらの2つの基準点間の処方面の処方面値を直接に補間するのではなしに、処方面式を決定するパラメータ・セットを補間することが提案される。このようにすると、これらの2つの基準点間の処方面の光学的に改良された遷移を達成することができる。
【0011】
本発明の方法を用いると、多焦点レンズの処方面の設計を、技術的および光学的に高い品質および合理的な計算労力で作成することができ、それによって、異なる使用状況に対する2つの基準点における最適化が含まれる。
【0012】
好ましいことに、本発明の方法は、コンピュータによって実現される方法(computer−implemented method)である。
【0013】
本発明の方法は特に、累進眼鏡レンズ用の多焦点レンズの処方面の設計を作成するのに適している。多焦点レンズは、異なる視点によって屈折力が異なる眼科レンズであると理解される。
【0014】
処方面は、レンズの前面、レンズの後面、ベース面の重ね合わせる面とすることができ、このベース面は、レンズの前面または後面とすることができる。好ましくは、多焦点レンズの処方面とは反対側の面を、球面、トーリック面、非球面または非トーリック面とすることができる。多焦点レンズの処方面とは反対側の面を、累進面または非累進面とすることもできる。この文脈において、面の座標は特に、古典的な意味における面の座標および面の点であると理解すべきである。
【0015】
本発明の方法を用いると、処方面の追加のオンライン最適化なしで以下の利点も達成することができる。
− 2つの基準点における必要な屈折光学作用の調整
− 基準点における屈折光学作用の実現、および処方面の主ビューイング線上の追加の点におけるごく小さな偏差の達成
− 調整乱視の補正
− 距離および近接に対するリスティングのルール(Listing’s Rule)の考慮
− 個々の近用部処方の補正、特に近用乱視の量および軸方向位置の補正(例えばD.Mething著「Bestimmen von Sehhilfen」、第2版、1996年の4.5章、117ページを参照されたい)
− 設計屈折誤差のオン/オフまたは変更
− 遠用部基準点および近用部基準点におけるDNEye(登録商標)処方の調整、特に、客観的な測定データ(例えば収差計測定、自動屈折計測定などを用いた波面測定によって得られた測定データなど)が組み込まれた計算における処方の調整
− 使用位置が最適化されたレンズの位置測定レンズへの転換、およびこの逆
− 一般的なフリーフォーム面の基準点に対する生産補正を記述する可能性
− 遠用範囲と近用範囲で異なる面乱視の可能性、特に乱視の異なる軸方向位置および/または異なる量の可能性
【0016】
この文脈では、処方面式を、パラメータ・セット、すなわち少なくとも1つのパラメータを使用して処方面を記述するのに適した任意のタイプの式と理解すべきである。本発明によれば、単一の処方面式を用いて処方面全体を記述することができ、この処方面式のパラメータは、処方面の座標によって異なることが好ましく、その際、知覚面式のパラメータは制御された方式で変化する。
【0017】
この文脈では、補間を、所定の座標における少なくとも2つの所定の値(ここでは第1および第2のパラメータ・セット)に基づいて、別の座標における追加の値を計算する任意の方式と理解すべきである。特に、補間という用語は、線形補間および非線形補間を含むことが意図されている。さらに、補間という用語は、2つの所定の値間の値の計算だけでなく、所定の値の範囲を超える値の計算(外挿と呼ばれることもある)、および所定の値間の直接接続線の次の値の計算も含むことが意図されている。
【0018】
好ましくは、ステップS40において、u/v座標系における処方面値z(u,v)を、下式に基づく処方面のアロー・ハイト(arrow height)によって決定することができる。
【数1】
上式で、経線曲率(meridional curvature)
【数2】
およびr
2=u
2+v
2である。この式によれば、それぞれの経線断面(meridional section)が円によって記述される。
【0019】
座標(u,v)は、座標(x,y)および経線断面の軸方向位置αから計算される。このu/v座標系は、対応するそれぞれの処方面式の向きに依存することが好ましい。対応するそれぞれのu/v座標系では、対応するそれぞれの処方面式を特に単純に指定することができる。座標軸uおよびvは、対応するそれぞれの処方面式の主断面の方向である。全てのu/v座標系の原点は常に同じであり、対応するそれぞれの面(前面または後面)のx/y座標系の原点と一致する。
【0020】
好ましくは、例えば欧州特許第1240541号明細書に示されているように、処方面式を、トロイダル式、または解析によって図示可能な非トーリック面の式とすることもできる。
【0021】
好ましくは、ステップS30で、処方面式の追加のパラメータ・セットの補間を、u/v座標系に対して共通のz軸を軸にして所定の角度だけ回転させたx/y座標系で実行することができる。特に好ましくは、ステップS30で、処方面式の追加のパラメータ・セットの補間を、屈折力ベクトル(power vector)のパラメータ空間で実行することができる。
【0022】
本発明の好ましい一構成では、ステップS30で、処方面式の追加のパラメータ・セットの補間を、パラメータの屈折力ベクトル表記法(power vector notation)で実行することができる。
【0023】
好ましくは、ステップS30で、処方面式の追加のパラメータ・セットの補間を、以下の屈折力ベクトル式を用いて実行することができる。
【数3】
上式で、P
c(x,y)は、任意の座標(x,y)における屈折力ベクトルを表し、P
cFは、第1のパラメータ・セットから計算された屈折力ベクトルを表し、P
cNは、第2のパラメータ・セットから計算された屈折力ベクトルを表し、f(x,y)は変換関数(transfer function)である。
【0024】
好ましくは変換関数f(x,y)を、y軸に沿った関数値が0から1までの値範囲にある非線形関数とすることができる。
【0025】
好ましくは、変換関数f(x,y)を二重漸近関数(double asymptotic funciton)とすることができる。
【0026】
本発明の好ましい一構成では、変換関数f(x,y)を、
【数4】
によって定義することができる。上式で、y
sはスケーリング因子(scaling factor)である。
【0027】
好ましくは、変換関数f(x,y)のスケーリング因子y
sを、4mmから15mmまでの値範囲にあるスケーリング因子とすることができる。
【0028】
本発明の一実施形態では、好ましくは、変換関数f(x,y)のスケーリング因子y
sを、x座標によって決まるスケーリング因子y
s(x)とすることができる。本発明の好ましい一構成では、x座標によって決まる、変換関数f(x,y)のスケーリング因子y
s(x)を、
【数5】
によって定義することができる。上式で
【数6】
であり、この式で、Δxは、このガウス曲線の半値全幅である。
【0029】
好ましい他の構成では、この変換関数が、基準点において零に等しい、xおよびyの偏導関数を有する。さらに、基準点におけるxおよびyに関する変換関数のヘッセ行列(Hesse matrix)が零行列である場合、すなわち、さらに、xおよびyの第2の偏導関数xおよびyの混合導関数が零に等しい場合には特に有利である。この場合には、基準点における重ね合せ面の曲率特性を、このトーラス式の係数から直接に読み取ることができる。
【0030】
本発明はさらに、前面および後面を有する多焦点レンズを生産する方法であって、処方面の設計が、上記の本発明の方法に従って作成される方法に関する。
【0031】
本発明はさらに、前面および後面を有する多焦点レンズを生産する装置であって、多焦点レンズの処方面の設計を作成する手段を備え、この手段が、本発明の処方面の設計の前述の作成用に構成された装置に関する。
【0032】
本発明はさらに、コンピュータ上にロードされ、コンピュータ上で実行されたときに、本発明の多焦点レンズの処方面の設計を作成する前述の方法を実行するように構成された、コンピュータ・プログラム製品またはコンピュータ・プログラムに関する。
【0033】
本発明はさらに、その上にコンピュータ・プログラムが記憶された記憶媒体であって、このコンピュータ・プログラムが、コンピュータ上にロードされ、コンピュータ上で実行されたときに、本発明の多焦点レンズの処方面の設計を作成する前述の方法を実行するように構成された記憶媒体に関する。
【0034】
本発明の他の態様によれば、多焦点レンズが後面および前面を有し、この多焦点レンズの処方面が、第1の使用状況に関する被験者の眼の少なくとも1つの収差が補正される第1の基準点、および第2の使用状況に関する被験者の眼の少なくとも1つの収差が補正される第2の基準点を含み、処方面の追加の座標における処方面の処方面値が、所定の処方面式の追加のパラメータ・セットの補間によって、第1の基準点における処方面式の第1のパラメータ・セットおよび第2の基準点における処方面式の第2のパラメータ・セットから決定されるような態様で、処方面の設計が構成されている。
【0035】
好ましくは、処方面の設計が、前述の本発明の方法によって作成される。
【0036】
本発明の上記の利点、特徴および可能な用途ならびに追加の利点、特徴および可能な用途は、添付図面を参照した例示的な実施形態の以下の説明からより完全に理解される。
【発明を実施するための形態】
【0038】
図1は、被験者または眼鏡装用者の眼12の前の累進眼鏡レンズの多焦点レンズ10を示す。多焦点レンズ10は、眼12の方を向いた後面16と、眼から遠ざかる方向を向いた反対側の前面18とを有する。
図1には、後面16のベース平面17および前面18のベース平面19が示されている。通常は、前面18のベース平面19が眼鏡の座標系を形成または定義する。この座標系で、例えば遠用部基準点および近用部基準点が指定される。
【0039】
x/y/z座標系の例も示されている。この例では、x/y平面が、頂点Sにおいて前面19と接する平面を形成することが好ましい。したがって、多焦点レンズ10の前面18および/または後面16は、座標(x,y)におけるz方向の面値によって記述することができる。類似して、多焦点レンズ10の後面16および前面18を、u/v/z座標系の座標(u,v)におけるz方向の面値によって記述することもできる。u/v/z座標系は、x/y/z座標系に対してz軸を軸に所定の角度だけ回転されている。
【0040】
眼鏡レンズ10は、垂直線に対して、例えば約8°の前傾角VNだけ傾けられていることが好ましく、前面18の頂点Sは、零ビューイング方向20よりも約4mm低いことが好ましい。零ビューイング方向20は、センタリング・ポイント(centering point)B
zのところで前面18を通り抜ける。
【0041】
図1の例示的な実施形態では、多焦点レンズ10の前面18が、一例として球面として設計されており、後面18が処方面を形成している。後面18は、後述するようにして最適に調整されている。あるいは、処方面を、前面18、前面18の重ね合せ面または後面16の重ね合せ面とすることもできる。あるいは、処方面の反対側の面を、非球面、トーリック面または非トーリック面とすることもできる。さらに、処方面の反対側の面を、任意に、累進面または非累進面とすることができる。
【0042】
図1はさらに、本質的に水平線20に沿って眼鏡装用者が視線を遠くに向けている第1の使用状況を示している。水平線20が前面18を横切る点は通常、センタリング・ポイントと呼ばれており、この点を、遠用部基準点B
F(本発明の第1の基準点)と同一とすることができる。しかしながら、遠用部基準点B
Fはしばしば、垂直方向にさらに上方に、レンズの遠用部エリア内の例えばy=8mmのところに配置される。
図1はさらに、近用ビューイング方向21に沿って眼鏡装用者が視線を近くに向けている第2の使用状況も示している。近用ビューイング方向21が前面18を横切る点は、近用部基準点B
N(本発明の第2の基準点)と呼ばれている。以下では、添字Fが、場合によって、第1の使用状況または遠用部基準点B
Fを指し、添字Nが、第2の使用状況または近用部基準点B
Nを指す。
【0043】
本発明の多焦点レンズ10は、遠用部基準点B
Fと近用部基準点B
Nの両方において、それを、第1の使用状況における眼鏡装用者の眼12の収差と第2の使用状況における眼鏡装用者の眼12の収差の両方をそれが同時に補正することができるような方式で計算することができることによって区別される。さらに、処方面は、2つの基準点B
FとB
Nの間の処方面の連続遷移を達成することができるように構成される。
【0044】
次に、
図2から5を参照して、多焦点レンズ10の処方面の改良された設計を作成する本発明の例示的な実施形態に基づく方法をより詳細に説明する。好ましいことに、反復最適化法を使用する必要がない。好ましいことに、この方法は、コンピュータによって実現される方式で実行される。
【0045】
図2に示されているように、第1のステップS10で、第1の使用状況に関する眼鏡装用者の眼12の収差を記述した第1のデータm
Fを、例えば眼鏡士(optician)または眼科医が提供する。この第1のデータm
Fは、眼鏡士または眼科医によって直接に測定された測定データであることが好ましい。さらに、第2の使用状況に関する眼12の収差を記述した第2のデータm
Nを提供する。第2のデータm
Nも、眼鏡士または眼科医が直接に測定することができる。あるいは、1つまたは複数の第2のデータm
Nを、眼鏡士または眼科医によって測定または決定されたデータから計算によって、例えば加入によって得ることもできる。測定されたデータ/値からの第2のデータm
Nの計算は特に、いわゆる(特に近接(proximity)のための)リスティング・ルールに基づく眼のモデルに関して実行することができる。リスティング・ルールは、眼のよせ運動位置(vergence position)の関数として眼の向きを記述する。第1および第2のデータm
F、m
Nは、例えば試験レンズの助けを借りて主観的に得られ(主観的屈折)、球(sphere)、円柱(cylinder)および軸(axis)(SZA)からなる処方として供給される。あるいは、適当な測定機器によって眼の波面の収差を検出すること、したがって客観的屈折を決定することもできる。それらの客観的屈折を主観的屈折と組み合わせることもできる。
【0046】
第2の方法ステップS20で、第1および第2のデータm
F、m
Nから、第1の基準点B
Fにおいて処方面を記述した処方面式の第1のパラメータ・セット(c
uF,c
vF,α
F)、および第2の基準点B
Nにおける処方面式の第2のパラメータ・セット(c
uN,c
vN,α
N)を決定する。
【0047】
これらのデータからのこれらのパラメータ・セットの決定は、例えば以下のように実行することができる。
【0048】
この計算は、零点法(zero−point method)、例えば単一ニュートン反復法を使用して、6つの次元で実行されることが好ましい。この6つの独立変数は、パラメータ・セット(c
uF,c
vF,α
F)および(c
uN,c
vN,α
N)である。
【0049】
基準点B
FおよびB
Nにおいて、頂点球(vertex ball)における眼鏡レンズの実際の値を、所与のパラメータ・セット(c
uF,c
vF,α
F)、(c
uN,c
vN,α
N)を用い、知られている光線法(ray method)および波追跡法(wavetracing method)を使用して計算し、眼鏡レンズ値S
BF(基準点B
Fにおける球面)、Z
BF(基準点B
Fにおける円柱)、A
BF(基準点B
Fにおける軸)、S
BN(基準点B
Nおける球面)、Z
BN(基準点B
Nにおける円柱)およびA
BN(基準点B
Nにおける軸)を得る。
【0050】
次いで、これらの実際の値と目標値(=B
Fに対する処方値S
F、Z
F、A
FおよびB
Nに対するS
N、Z
N、A
N)とを比較して、ニュートン法の従属変数を得る。
ΔS
F=S
BF−S
F、ΔZ
F=Z
BF−Z
F、ΔA
F=A
BF−A
F
ΔS
N=S
BN−S
N、ΔZ
N=Z
BN−Z
N、ΔA
N=A
BN−A
N
【0051】
経験によれば、このニュートン反復法は所望の結果に非常に速く到達する。言うまでもなく、零点法のための面パラメータおよびマッピング特性を、屈折力ベクトル表記法で定式化してもよく、または異なる零点法を使用することもできる。
【0052】
知られているように、アロー・ハイトz(u,v)(u/v座標系内の点または座標における本発明の処方面値は、処方面の点または座標(u,v)において決定され、uは、第1の処方の主断面の方向、vは、第2の主断面の方向である)は、下式に従って決定される。
【数7】
上式で、経線曲率
【数8】
およびr
2=u
2+v
2である。この式によれば、それぞれの経線断面が円として指定される。
【0053】
処方面は、3つの自由度c
u、c
v、α(パラメータ・セット)を有する。その結果、この面アプローチを用いると、ちょうど3つの条件を満たすことができ、遠用部基準点B
Fにおける処方SZA
Fまたは近用部基準点B
Nにおける処方SZA
Nを設定することができる。しかしながら、このようにして決定された処方面のアロー・ハイトz(u,v)の例えばy座標の関数としての直接変換は一般に、満足な結果につながらない。
【0054】
しかしながら、本発明によれば、xおよびyに従属した主曲率上の経線円ならびに主曲率方向を用いたこの面アプローチ・トーラスの一般化によって、この問題を解決することができる。本発明は以下の考慮事項に基づく。
【0055】
トーラスのパラメータ(c
u,c
v,α)は、達成される処方によって直接に与えられるものではないが、これらのパラメータは、そのトーラスが眼鏡レンズに接する頂点のおけるトーラスのパラメータである。このように定義されたトーラスは、所望の点、例えば基準点B
FおよびB
Nにおけるアロー・ハイト、プリズムおよびカーブ特性の変化を生じさせる。特に、この所望の点におけるレンズの使用の特性は一意的に(c
u,c
v,α)に依存する。B
Fにおける所望の補正につながるそれらの値は第1のパラメータ・セットであり、B
Nにおける補正のための対応する値は第2のパラメータ・セットである。
【0056】
基準点B
FおよびB
Nにおける補正のための2つのトーリック面の値(c
u,c
v,α)を、容易に記述でき必要なターゲットを調整する滑らかな面が2つの基準点B
FおよびB
Nに生じるような形で互いに対して変換する。具体的には、方法ステップS30で、第1のパラメータ・セット(c
uF,c
vF,α
F)および第2のパラメータ・セット(c
uN,c
vN,α
N)から、処方面の追加の座標(u,v)における処方面式の追加のパラメータ・セット(c
u,c
v,α)を決定する。
【0057】
図3を参照して、方法ステップS30を実行する好ましい補間法をより詳細に説明する。
【0058】
図3の補間法では、いわゆる屈折力ベクトル表記法を使用する。ステップS32で、第1のパラメータ・セット(c
uF,c
vF,α
F)および第2のパラメータ・セット(c
uN,c
vN,α
N)を、下式に従って屈折力ベクトルに転換する。
【数9】
および
【数10】
【0059】
ステップS34で、これらの2つの屈折力ベクトル
【数11】
と
【数12】
の間の補間を実行する。この補間は、屈折力ベクトルのパラメータ空間で実行されることが好ましい。曲率屈折力ベクトルの選択されたパラメータ空間は、パラメータがレンズのカーブ特性を実質的に直接に記述するため特に有利である。したがって、遠用部基準点B
Fから近用部基準点B
Nへの曲率の遷移を、単純にかつ特に直接に実施することができる。これは特に、変換関数が、基準点B
F、B
Nにおいて零である、xおよびyの偏導関数を有し、基準点B
NおよびB
Fにおいて零行列である、xおよびyに関するヘッセ行列を含む場合、すなわち、さらに、xおよびyの第2の偏導関数ならびにxとyの混合導関数が零に等しい場合である。この場合、有利には、基準点における重ね合せ面の曲率特性を、処方面式の係数において直接に得ることができる。
【0060】
この実施形態では、ステップS34の補間を、変換関数f(x,y)を使用し、以下の屈折力ベクトル式によって実行する。
【数13】
【0061】
与えられたそれぞれの変換関数f(x,y)に関して、第1および第2のパラメータ・セットを含む上記の屈折力ベクトル式では、6つの自由パラメータ(c
uF、c
vF、α
F、c
uN、c
vN、α
N)が使用可能である。基準点B
FとB
Nの両方で完全な補正が必要な場合、それらの6つの条件により、6つのパラメータを数値的に明確に決定することができる。あるいは、このアプローチを用いて、2つ以上の条件を要求することもできる。しかしながら、その場合、この問題は、6つの自由パラメータに対する6つ以上の条件で過度に決定されるため、その問題をもはや明確に解決することはできなくなる。しかしながら、零点法ではなく、より一般的な最小化法(minimization method)が使用される場合には、最適条件は、好ましくは条件に重みを割り当てることによって、全ての条件に近い最適値を、数値的に見つけることができる。
【0062】
変換関数f(x,y)は、例えば下式によって与えられる。
【数14】
上式で、y
sはスケーリング因子である。
【0063】
図5は、この変換関数のy軸方向に沿ったx=0に対する推移、すなわち変換関数
【数15】
の推移を、異なるスケーリング因子について示す。具体的には、曲線f1は、y
s=5mmに対する変換関数f(y,x=0)を示し、曲線f2は、y
s=15mmに対する変換関数f(y,x=0)を示し、曲線f3は、y
s=20mmに対する変換関数f(y,x=0)を示す。
【0064】
上記の関数式および
図5から分かるように、変換関数f(x,y)は特に、y軸に沿った関数値f(x=0,y)が、−∞<y<+∞に対して0から1までの値範囲にある非線形関数、および二重漸近関数である。このarctan関数の増大はスケーリング因子によって制御される。y
sが小さいほど、この変換関数は中心y
0において急勾配になり、遠用部値から近用部値への遷移が速く起こる。
【0065】
y軸(x=0mm)に沿った屈折力ベクトル
【数16】
の垂直遷移に関して、
【数17】
および4mm≦y
s≦15mmの値は、良好な結果を与える。
【0066】
さらに、例示的な計算は、y座標だけによって決まる因子f(y)を用いると、周辺遷移帯においてより高い面勾配が生じることがあり、それによって時に結像特性が悪化することがあることを示した。例えばx座標によって決まるスケーリング因子y
s(x)を使用するときにはレリーフ(releif)が可能である。本発明の一構成では、x座標によって決まる、変換関数f(x,y)のスケーリング因子y
s(x)が例えば、
【数18】
よって与えられ、上式で
【数19】
であり、この式で、Δxが、このガウス曲線の半値全幅である(Δx=13mmに関して、Δxは例えばb=243.82を与える)。
【0067】
ステップS34でこのように実行された屈折力ベクトルの補間の後、次のステップS36で、補間された屈折力ベクトル
【数20】
を、以下の関係式によってパラメータ・セットに逆変換する。
【数21】
、
【数22】
、
【数23】
、
【数24】
【0068】
再び
図2を参照する。ステップS40で、処方エリアの第1の基準点B
Fにおけるアロー・ハイトz(u,v)を、第1のパラメータ・セット(c
uF,c
vF,α
F)に基づいて以下の関係式によって決定し、第2の基準点B
Nにおけるアロー・ハイトz(u,v)を、第2のパラメータ・セット(c
uN,c
vN,α
N)に基づいて以下の関係式によって決定する。
経線曲率:
【数25】
アロー・ハイト:
【数26】
【0069】
さらに、ステップS40で、処方面の追加の座標(u,v)における アロー・ハイトz(u,v)も、u/v座標系への回転の後の補間されたパラメータ・セットに基づいて、下式に従って決定する。
u=xcos(α)+ysin(α)、v=−xsin(α)+ycos(α)、r
2=u
2+v
2
【0070】
本発明の補間法の追加の説明のため、
図4は、第1の基準点B
FのトーラスT
cFと第2の基準点B
NにおけるトーラスT
cNとの間の滑らかな遷移を表す処方面T
R(破線、例えば重ね合せ面の形態をとる)を一例として示す。処方面T
Rは、変換関数f(x,y)が小さい第2の基準点T
cNにおけるトーラス、および変換関数f(x,y)が大きい第1の基準点T
cFにおけるトーラスに適合する。座標系の追加の点(x,y)における処方面T
Rのアロー・ハイトを、追加のトーラスT
c(点線)によって計算する。それらの頂点は、上に述べたとおりに屈折力ベクトル空間で補間される。
【0071】
次に、処方面の設計を作成する前述の方法の有利な効果またはこのように生産された多焦点レンズの有利な効果を
図6から16を参照して説明する。それぞれの場合に、副
図Aは、主ビューイング線に沿った乱視欠陥(実線)および屈折欠陥(破線)を示し、副
図Bは、使用位置における乱視欠陥を示し、副
図Cは、後面の面乱視を示す。
【0072】
図6から8に示された構成1から3はそれぞれ、球面である前面および後面を有する、最新のフリーフォーム技術の多焦点レンズ、特に本出願の出願人のProgressive Life Free(登録商標)累進眼鏡レンズに関する。
【0073】
構成1に基づく従来の多焦点レンズは、処方Sph3.0dptおよび加入1.5dptを有する、タイプProgressive Life Free 1.6のプレハブ・ブランク(prefabricated blank)を表す。球面である前面は、基本曲線BK6.0dptを有し、前面にD
1=6.82dptの面屈折力を有する。この多焦点レンズはさらに、屈折率n=1.597および中心厚さd
M=3.8mmを有する。累進後面は、使用位置において最適化されており、標準パラメータ、角膜頂点間距離HSA=15mm、前傾角VN=8°およびフレーム・ラップ角FSW=0°を有する。
図6A〜Cから分かるように、この従来の多焦点レンズは、良好でバランスのよい結像特性を有する。
【0074】
構成2の従来の多焦点レンズは、構成1のブランクに基づき、構成1と同じ処方を有するが、使用位置に対するパラメータ(以後、使用位置パラメータ)が異なる(HSA=12mm、VN=2°、FSW=4°)。遠用部基準点B
Fにおける完全な補正の調整のため、処方面を形成するために、ブランクの累進後面上に重ね合せトーラスが形成されている。
【0075】
図7から、使用位置パラメータがわずかに変更されるフレーム内でこの累進眼鏡レンズを使用したときには、変化した使用位置パラメータが、B
Fに対する累進後面上の重ね合せトーラスによって考慮された場合でも、特に近用部エリアにおいて、結像特性がかなり悪化する可能性があることが分かる。y
BN=−14mmの高さであっても、近用部エリアにおける乱視欠陥は、0.5dptのもはや許容できない値まで増大し(
図7B参照)、加入も0.25dptだけ増大する(近用部エリアにおける約0.25dptの正の屈折欠陥。
図7A参照)。
【0076】
本発明に基づく構成3の多焦点レンズも、構成1に基づくブランクに基づく。構成3は、構成1と同じ処方および構成2と同じ使用位置パラメータを有する。しかしながら、構成2とは対照的に、本発明の構成3では、新たな使用位置パラメータを用いた完全な補正を、遠用部基準点B
Fだけでなく近用部基準点B
Nでも調整するために、累進後面に補間重ね合せトーラスが形成されている。
【0077】
図8から分かるように、本発明に従って設計された処方面を用いると、遠用部エリアの劣化をもたらすことなく、近用部基準点B
Nでも完全な補正を調整することができる。このとき、後面は、近用部エリアで0.5dptよりも大きな面乱視を示しており(
図8C参照)、これは、新たな面タイプによる欠陥補正のために導入されたものである。
【0078】
図9から13に示された構成4から8も同様に、それぞれ、球面である前面および後面を有する、最新のフリーフォーム技術の多焦点レンズ、特に本出願の出願人のProgressive Life Free(登録商標)累進眼鏡レンズに関する。
【0079】
構成4に基づく従来の多焦点レンズは、処方Sph0.5dptおよび加入1.0dptを有する、タイプProgressive Life Free 1.6のプレハブ・ブランクを表す。球形である前面は、BK5.0およびD1=5.686dptを有する。このレンズはさらに、屈折率n=1.597および中心厚さd
M=2.0mmを有する。累進後面は、使用位置において最適化されており、標準パラメータ、HSA=15mm、VN=8°およびFSW=0°を有する。
図9から分かるように、この従来のブランクも、この目的のために最適化された累進後面のため、良好でバランスのよい結像特性を示す。
【0080】
構成5の従来の多焦点レンズは、構成4のブランクに基づき、構成4と同じ処方を有するが、使用位置パラメータが異なる(HSA=12mm、VN=0°、FSW=10°)。遠用部基準点B
Fにおける完全な補正の調整のため、ブランクの累進後面上に重ね合せトーラスが形成されている。
【0081】
しかしながら、
図10から分かるように、この重ね合せトーラスは、遠用部基準点B
Fにおける既に小さな偏差を補正することができるだけである。累進トーリック後面は、構成4の基本後面とほとんど変わらない。近用部エリアでは、約0.25dptの乱視欠陥(
図10B参照)および約半分の大きさの屈折欠陥(
図10A参照)が生じる。
【0082】
本発明に基づく構成6の多焦点レンズも、構成4に基づくブランクに基づく。構成6は、構成4と同じ処方および構成5と同じ使用位置パラメータを有する。しかしながら、構成5とは対照的に、本発明の構成3では、新たな使用位置パラメータを用いた完全な補正を、遠用部基準点B
Fだけでなく近用部基準点B
Nでも調整するために、累進後面に補間重ね合せトーラスが形成されている。
【0083】
図11から分かるように、本発明の処方面を用いると、遠用部エリアの劣化をもたらすことなく、近用部基準点B
Nでも完全な補正を設定することができる。後面は、今/このとき、近用部エリアで約0.25dptの面乱視を示しており(
図11C参照)、これは、新たな面タイプによる誤り補正のために導入されたものである。
【0084】
構成7の従来の多焦点レンズもやはり構成4のブランクに基づく。構成7は、構成4と同じ遠用部処方および同じ使用位置パラメータを有するが、0°において0.5dptの近用乱視を有する。
【0085】
図12から分かるように、この従来の累進後面は近用乱視を補正することができない。この眼の近用乱視は、レンズの近用部エリアにおける乱視欠陥として1:1で提示される(
図12B参照)。現状技術によれば、後面の個々のオンライン最適化が実施されるべきである。
【0086】
本発明に基づく構成8の多焦点レンズもやはり構成4に基づくブランクに基づく。構成8は、構成5と同じ遠用部処方および同じ使用位置パラメータを有する。従来の構成7とは対照的に、本発明の構成8では、0.5dptの個々の近用乱視に対する完全な補正を、遠用部基準点B
Fと近用部基準点B
Nの両方で設定するために、累進後面に補間重ね合せトーラスが形成されている。
【0087】
図13から分かるように、本発明の処方面を用いると、近用部基準点B
Nにおいて完全な補正を設定することに加えて、個々の近用乱視の完全な補正も、オンライン最適化を必要とせずに設定することができる。本発明のこの累進トーリック後面は、近用部エリアで約0.50dptの面乱視を示しており(
図13C参照)、これは、近用乱視の補正のために導入されたものである。
【0088】
図14から16に示された構成9から11はそれぞれ、累進前面およびトーリック処方面を有する多焦点レンズに関する。
【0089】
構成9に基づく従来の多焦点レンズは、処方Sph0.5dptおよび加入1.0dptを有するプレハブ・ブランクを表す。前面は、累進基本曲線BK4.0を有する。処方面の働きをする球面である後面は、使用位置において最適化されており、標準パラメータ、HSA=13mm、VN=7°およびFSW=0°を有する。
図14から分かるように、この従来のブランクは、ベース曲線エリアの中心に関しておよび標準使用状況で使用されたときに、良好な結像特性を示す。球面である後面は面乱視を持たず、したがって対応する
図14Cは提供されていない。
【0090】
構成10の従来の多焦点レンズは、構成9のブランクに基づき、異なる処方(Sph−1.00dpt、円柱3.00dpt、軸0°、加入1.00dpt)および異なる使用位置パラメータ(HSA=13mm、VN=0°およびFSW=10°)を有する。
【0091】
図15から分かるように、一定の面乱視を有するこの従来のトーリック眼鏡レンズ後面は、遠用部基準点B
Fでのみ処方を実現することができる。近用部エリアでは、乱視処方、調整乱視および使用位置パラメータの変化に起因する斜束(oblique bundle)の乱視の組み合わせによって、非常に大きな誤差が生じる(
図15A参照)。
【0092】
しかしながら、本発明の着想は、所与の累進ベース面上の重ね合せ面だけでなく、トーリック処方面にも適用することができる。この場合、遠用部基準点B
Fと近用部基準点B
Nの両方で完全な補正を常に達成することができる。
【0093】
構成11の本発明の多焦点レンズは構成9のブランクに基づく。構成9は、従来の構成10と同じ処方および同じ使用位置パラメータを有するが、後面は、本発明に従って設計されている。
図16から分かるように、本発明に従って設計された後面は、乱視処方および調整乱視の場合であっても、オンライン最適化なしで、近用部基準点B
Nにおいても処方値を完全に処理することができる。