特許第6703005号(P6703005)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6703005アンモニア貯蔵物質が生じさせる膨張力の減少
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6703005
(24)【登録日】2020年5月11日
(45)【発行日】2020年6月3日
(54)【発明の名称】アンモニア貯蔵物質が生じさせる膨張力の減少
(51)【国際特許分類】
   C01C 1/02 20060101AFI20200525BHJP
   F01N 3/08 20060101ALI20200525BHJP
   F17C 11/00 20060101ALI20200525BHJP
【FI】
   C01C1/02 Z
   F01N3/08 B
   F17C11/00 B
【請求項の数】15
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2017-552866(P2017-552866)
(86)(22)【出願日】2016年4月7日
(65)【公表番号】特表2018-518435(P2018-518435A)
(43)【公表日】2018年7月12日
(86)【国際出願番号】EP2016000573
(87)【国際公開番号】WO2016162123
(87)【国際公開日】20161013
【審査請求日】2019年1月24日
(31)【優先権主張番号】15001018.9
(32)【優先日】2015年4月9日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】513092556
【氏名又は名称】アムミネクス・エミッションズ・テクノロジー・アー/エス
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ラッセ・ビョルフマー・トムセン
(72)【発明者】
【氏名】ウーリッヒ・ヨアヒム・クアード
(72)【発明者】
【氏名】ジョニー・ヨハンセン
(72)【発明者】
【氏名】アガタ・ビアリー
(72)【発明者】
【氏名】トゥーウ・ヨハネセン
【審査官】 宮崎 大輔
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/023841(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0284121(US,A1)
【文献】 特表2013−520386(JP,A)
【文献】 特表2014−516128(JP,A)
【文献】 特開2012−047156(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01C1/00−1/28
B01D53/94
F01N3/08−3/38
F17C11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体アンモニア貯蔵物質が、該貯蔵物質を内部に保持する容器の壁に対して、該貯蔵物質を該容器内のアンモニアで飽和/再飽和させている際に及ぼす機械力の大きさを制御するための方法であって、
その限界未満では前記容器の壁が塑性変形をせず又は前記容器の壁の降伏点における変形の200%を超える変形をしない前記容器内部の液圧(以下、PLIMITとする)又は液力(以下、FLIMITとする)に関する前記容器の機械的強度の限界を決定し、
前記貯蔵物質のアンモニア飽和/再飽和プロセスの温度(以下、TSATとする)と、前記TSATにおける飽和/再飽和中に前記貯蔵物質が発生させる液圧PMAT又は等価な機械力FMATとの間の所定の相関関係を用いて、飽和/再飽和プロセスの最低温度(以下、TSATMINとする)を特定し、TSAT≧TSATMINという条件を満たす温度TSATにおいて飽和/再飽和プロセスを行うことによって、前記貯蔵物質が及ぼすPMAT又はFMATが前記容器のPLIMIT又はFLIMITに関する機械的強度の限界未満に保たれるようにする、方法。
【請求項2】
前記貯蔵物質が密度(以下、DMATとする)を有し、TSATMINの決定において、TSATとPMAT又はFMATとの間の相関関係に加えて、前記貯蔵物質の密度DMATも、より高い密度DMATが一般的に前記固体アンモニア貯蔵物質が前記容器の壁に及ぼすより高い機械力をもたらすものとして考慮し、DMATがアンモニアで完全に飽和されているアンモニア貯蔵物質の密度である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記アンモニア貯蔵物質が、沸点を有する液体冷却媒体によって飽和/再飽和プロセス中に冷却され、前記温度TSATにおける飽和/再飽和プロセスが、TCMBP≧TSAT≧TSATMINという条件を満たし、TCMBPが前記冷却媒体の沸点である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記アンモニア貯蔵物質が、ガス状冷却媒体によって飽和/再飽和プロセス中に冷却され、前記温度TSATにおける飽和/再飽和プロセスが、TCMBP≧TSAT≧TSATMINという条件を満たし、TCMBPが、飽和/再飽和プロセスが前記ガス状冷却媒体によって冷却されて行われる温度の上限である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
CMBPが100℃である、請求項3又は4に記載の方法。
【請求項6】
前記容器が、85℃におけるアンモニアの脱離によって生じる圧力に0.1体積%以下の体積膨張で前記容器が耐えることができるようにする機械的強度を有する、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記貯蔵物質からの85℃におけるアンモニアの脱離によって生じる圧力が12barである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
LIMIT又はFLIMIT、次いでTSATMINが、
既存の容器設計を利用可能とすること、
既存の設計からPLIMIT又はFLIMITの値を知ること、又は、標準的な機械工学プラクティス若しくは液圧測定若しくは機械的シミュレーションを用いてPLIMIT又はFLIMITの値を特定すること、及び、
知った又は特定したPLIMIT又はFLIMITを用いて、PMAT又はFMATがPLIMIT又はFLIMITを超えないようにする積載密度DMATと、TSAT≧TSATMIN又はTCMBP≧TSAT≧TSATMINという飽和/再飽和条件を決定することから決定される、請求項2から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
SATMINの決定が、実験データ点を得て従属変数PMATと独立変数TSATとの間の経験的関係又は相関関係を求める実験的マッピング方法を含み、前記実験的マッピング方法が、
アンモニア貯蔵物質の少なくとも一つのサンプルを作製すること、
該物質が飽和/再飽和されている際にサンプルホルダーの壁に対して該物質が及ぼすPMATを測定することができるサンプルホルダー内においてアンモニアの脱離及び再飽和の実験を異なる複数の温度レベルTSATにおいて行うこと、及び、
実験データ点を用いて、関数又は補間公式PMAT=f(TSAT)又はFMAT=f(TSAT)を生成することを備える、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
SATMINの決定が、実験データ点を得て従属変数PMAT又はFMATと独立変数TSAT及びDMATとの間の経験的関係又は相関関係を求める実験的マッピング方法を含み、前記実験的マッピング方法が、
既知の密度DMATを有するアンモニア貯蔵物質の少なくとも一つのサンプルを作製すること、
該物質が飽和/再飽和されている際にサンプルホルダーの壁に対して該物質が及ぼすPMATを測定することができるサンプルホルダー内においてアンモニアの脱離及び再飽和の実験を異なる複数の温度レベルTSATにおいて行うこと、及び、
実験データ点を用いて、異なる密度DMATを有する複数サンプルを測定する場合における関数又は補間公式PMAT=f(TSAT,DMAT)又はFMAT=f(TSAT,DMAT)を生成することを備える、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
SATMINの決定が、アンモニア貯蔵物質と、アンモニア自体と、飽和状態の貯蔵物質とを記述するパラメータを用いるコンピュータシミュレーションを介して、PMAT又はFMATとTSATとDMATとの間の関係を求めることによって行われる、請求項2から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記容器内部の液圧PLIMIT又は液力FLIMITに関する前記容器の機械的強度の限界が、その限界未満では前記容器の壁が前記容器の壁の降伏点における変形の110%、120%、又は150%を超える変形をしないという限界である、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
固体アンモニア貯蔵物質を収容するための容器の設計方法であって、アンモニアの飽和/再飽和のプロセス温度TSATと該貯蔵物質の目標密度DMATとが固定されていて、該設計方法の結果は、アンモニアの飽和/再飽和の際に該物質が結果として及ぼす圧力PMAT又は力FMATに耐えることができる容器設計であり、TSATとDMATとPMAT又はFMATとの間の既知の関係を用いて、PMAT又はFMATの値を求め、該値を、その液圧限界パラメータ未満では前記容器の壁が塑性変形をしない又は前記容器の壁の降伏点における変形の200%を超える変形をしないという液圧限界パラメータPLIMIT又はFLIMITに関して測定された前記容器の機械的強度が、PMAT又はFMATの値以上となるように前記容器を設計するために用いる、方法。
【請求項14】
請求項1から12のいずれか一項に記載の方法に従う請求項13に記載の方法。
【請求項15】
アンモニア貯蔵物質のアンモニア飽和/再飽和プロセスの温度TSATと、前記温度TSATにおける飽和/再飽和中に該貯蔵物質が及ぼす液圧PMAT又は等価な機械力FMATとの間の相関関係の使用であって、該貯蔵物質が結果として及ぼす圧力PMAT又は力FMATが、その限界未満では容器が塑性変形しない又は容器の壁の降伏点における変形の200%を超える変形をしないという限界未満に保たれる温度において飽和/再飽和を行うことによって、貯蔵物質が及ぼす力又は圧力のレベルに影響を与えるための使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体アンモニア貯蔵物質中のアンモニア貯蔵に関し、また、例えば、固体アンモニア貯蔵物質がその貯蔵物質を保持する容器の壁に対して及ぼす機械力の大きさを制御するための方法に関する。また、本発明は、固体アンモニア貯蔵物質を収容するための容器を設計する方法、固体アンモニア貯蔵物質で充填された容器、そして、アンモニア貯蔵物質のアンモニア飽和/再飽和プロセスの温度と、飽和/再飽和中に貯蔵物質が発生させる液圧又は等価な機械力との間の相関関係の使用にも関する。
【背景技術】
【0002】
無水アンモニアは、多くの応用で広く用いられている化学物質である。一例は、燃焼プロセスからの排気ガス中のNOの選択触媒還元(SCR,selective catalytic reduction)用の還元剤としての使用である。
【0003】
大抵のエンドユーザー応用、特に自動車応用において、圧力容器内での純粋な加圧無水アンモニアとしてのアンモニアの貯蔵は危険過ぎる。閉じられた金属容器中に保持された固体物質中への分子状アンモニアの吸収を含む貯蔵方法は、安全上の危険性を回避して、携帯型や分散型の応用においてガス状アンモニアの使用を可能にすることができる。排出技術、特に比較的低い排気温度で街中を走る車両について、固体貯蔵物質を保持するカートリッジ/容器から直接投与されるアンモニアガスの使用は、従来の尿素水溶液(例えば、AdBlue(登録商標)の商品名で流通している32.5%尿素水溶液)の使用よりも、SCR触媒を介してはるかに良好なNO除去性能を与える。
【0004】
金属アンミン塩は、可逆的なアンモニアの吸収/脱離を可能にする物質であり、アンモニア用の固体貯蔵媒体として使用可能である(例えば、特許文献1を参照)。車両の特定の明確なパッケージング又は設置ボリュームに統合される金属容器(又は所謂カートリッジ)に物質が運ばれると、NO還元のためにアンモニアが徐々に放出される(特許文献2)。
【0005】
金属アンミン錯体を保持するこのようなカートリッジが車両で用いられる場合、アンモニアが徐々に枯渇していき、脱ガスされた塩物質が金属カートリッジ中に残る。再使用するためには、カートリッジをアンモニアで飽和(再飽和)させなければならない。このようなユニットの一回限りの使用は高価過ぎて、持続可能な解決策とならない。
【0006】
従って、工業関連応用では、アンモニア貯蔵物質を保持するカートリッジが何回も飽和/再飽和可能であることを要する。例えば、バーベキュー用のプロパンボトルと比較して、顧客は、新品のプロパンタンク(例えば、価格80ユーロ)を毎回購入するのではなく、最初にタンクを購入して、後は再充填されたユニット(価格10〜15ユーロ)を入手する。
【0007】
金属アンミン錯体はここ数年間研究されてきたが、難しい物質であることがわかってきた。これは、場合によって、適切な熱伝達を得るのに添加剤や内部金属箔構造を要し、また、塩結晶格子が、アンモニアの吸収時に例えば四倍に膨張し得ることは既知の事実である。
【0008】
金属容器中の枯渇したアンモニア貯蔵物質の飽和又は再飽和は、車両上では事実上不可能である。何故ならば、再飽和には数分間よりも大分かかり(冷却による吸収熱の除去には数時間かかり得る)、車両の隣で利用可能な無水アンモニアを要するからである。結果として、枯渇したカートリッジを、次の使用前に再飽和させなければならない。エンドユーザーのコストを最小にするため、飽和/再飽和プロセスは効率的でなければならず、また、より重要な点として、カートリッジ/ユニットを何回も使用できるようにしなければならない。
【0009】
電池の再充電の場合と同様に、カートリッジの再充填プロセスの重要な側面は、カートリッジを時間と共に使用不能にしてしまうユニットの劣化を防止することである。カートリッジの耐久性に大きな影響を有する物理的効果として観測されるのは、飽和/再飽和中の塩の膨張である。この膨張は、特許文献3でも言及されているように、高い機械力をもたらし、それが今度は、カートリッジの金属壁を変形させたり、熱伝達を改善するための内部構造を損傷させたりし得る。数回の再充填/脱ガスサイクルにおいて、カートリッジの形状や性能は、そのカートリッジが使用不能となるレベルにまで劣化し得て、また、その変形により、カートリッジ用のボリュームや設置空間にフィットしなくなる。このような膨張力は、カートリッジの壁を非常に厚くするか、又は物質の目標貯蔵密度を大幅に下げること(例えば、理論的な最大密度の50%や75%未満に下げること)によって、ある程度は軽減され得る。厚壁のカートリッジは高価であり且つ重くなる一方、目標貯蔵密度の大幅な減少(単位体積当たりの塩積載量の減少)は、車両の総容量の利用率を悪くするので、カートリッジを、アンモニア積載ユニットとしては工業的に魅力のないものにする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】国際公開第2006/012903号
【特許文献2】欧州特許出願公開第2181963号明細書
【特許文献3】国際公開第2010/025947号
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】The United Nations standardization document ST/SG/AC.10/C.3/88, 12 December 2013, “Report of the Sub-Committee of Experts on the Transport of Dangerous Goods on its forty-fourth session”, Chapter 3.3
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
そこで、高貯蔵密度と、低重量と、高耐久性という工業的に重要な三つのパラメータの組み合わせ(低所有コスト)を可能にする解決策が必要とされている。アンモニア貯蔵製品に対して三つ全てが証明されない限りは、最適なSCRでのNO還元用にアンモニアガスが直接投与可能であるという大きな環境的利益を享受することができる市場において居場所を見つけることは難しい。
【課題を解決するための手段】
【0013】
固体アンモニア貯蔵物質が、その貯蔵物質を内部に保持する容器の壁に対して、貯蔵物質をその貯蔵容器内のアンモニアで飽和/再飽和させている際に及ぼす機械力の大きさを制御するための方法が提供される。本方法は以下のことを備える:
a. その容器内部の液圧又は液力に関する容器の機械的強度の限界(以下、PLIMIT又はFLIMITとする)(その限界未満では、容器の壁は塑性変形をしない又は容器の壁の降伏点における変形の110%、120%、150%、又は200%を超える変形をしない)を決定すること、
b. 以下の二者の間の相関関係、つまり、
i. 貯蔵物質のアンモニア飽和/再飽和プロセスの温度(以下、TSATとする)と
ii. 前記温度TSATにおける飽和/再飽和中に貯蔵物質が生じさせる液圧PMAT又は等価な機械力FMAT
の間の相関関係を用いて、
飽和/再飽和プロセスの最低温度(以下、TSATMINとする)を特定し、TSAT≧TSATMINという条件を満たす温度TSATにおいて飽和/再飽和プロセスを行うことによって、貯蔵物質が及ぼすPMAT又はFMATが、容器のPLIMIT又はFLIMITに関する機械的強度の限界未満に保たれるようにすること。
【0014】
他の態様によると、固体アンモニア貯蔵物質を収容するための容器を設計する方法が提供され、アンモニア飽和/再飽和のプロセス温度TSATと、貯蔵物質の目標密度DMATとが固定され、本設計方法の結果は、アンモニア飽和/再飽和の際に物質が結果として及ぼす圧力PMAT又は力FMATに耐えることができる容器設計である。本方法は、DMATとTMATとPMAT又はFMATとの間の既知の関係を用いて、PMAT又はFMATの値を求め、その値を用いて、それ未満では容器の壁が塑性変形をしない又は容器の壁の降伏点における変形の110%、120%、150%、又は200%を超える変形をしない液圧限界パラメータPLIMIT又はFLIMITに関して測定された容器の機械的強度が、PMAT又はFMATの値以上となるように容器を設計する。
【0015】
他の態様によると、アンモニアを脱離及び吸収/再吸収することができる貯蔵密度DMATで固体アンモニア貯蔵物質で充填された容器が提供される。本容器は、その容器内部の圧力又は力において容器が塑性変形しない又は容器壁の降伏点における変形の110%、120%、150%、又は200%を超える変形をしない限界圧力パラメータPLIMIT又は限界力パラメータFLIMITに対応する機械的強度を有する。容器内の貯蔵物質は、飽和/再飽和プロセスによってアンモニアで充填され、その貯蔵物質の飽和/再飽和は、TSAT≧TSATMINという条件を満たすプロセス温度TSATにおいて容器内部の貯蔵物質で行われる。TSATMINは、貯蔵物質が及ぼすPMAT又はFMATが容器のPLIMIT又はFLIMITに関する機械的強度の限界未満に保たれる飽和/再飽和プロセスの最低温度である。
【0016】
更に他の態様は、アンモニア貯蔵物質のアンモニア飽和/再飽和プロセスの温度TSATと、その温度TSATにおける飽和/再飽和中に貯蔵物質が生じさせる液圧PMAT又は等価な機械力FMATとの間の相関関係の使用に関し、その使用は、貯蔵物質が結果として及ぼす圧力PMAT又は力FMATが、それ未満では容器が塑性変形しない又は容器壁の降伏点における変形の110%、120%、150%、又は200%を超える変形をしない限界未満に保たれる温度において飽和/再飽和を行うことによって貯蔵物質が及ぼす力又は圧力のレベルに影響を与えるためのものである。
【0017】
本願で示される発明の他の特徴は、本開示の方法及び製品に固有のものであるか、又は、以下の実施形態の詳細な説明及び添付図面から当業者に明らかとなるものである。
【0018】
[本発明の一般的な説明及び任意選択的な実施形態の説明]
圧力及び力は、通常の機械分野での用法のものであり、つまり、圧力は単位面積あたりに及ぼす力である。
【0019】
結晶膨張によって生じる力、つまりはアンモニアを吸収/再吸収している間の金属アンミン錯体の機械力を、流体が及ぼす液圧として概念的に記述することができることが分かった。より重要な点として、つまり、本発明の肝として、この機械力FMAT又は等価な液圧PMATが、飽和又は再飽和中のアンモニア貯蔵物質の温度レベルと強く相関していることが分かった。飽和/再飽和温度が上昇すると、PMATが下がることが観測された。
【0020】
また、アンモニア貯蔵物質を保持する又は閉じ込めるユニット内の力(又は圧力)と物質の密度との間には関連性がある。他の全てのパラメータを一定に保って、密度を増大させると、より高い力をもたらす可能性につながる。
【0021】
決定的な科学的説明はまだ得られていないが、本発明の発見の裏に潜む定性的な理由付けは以下のとおりである。即ち、バター等の物質は低温において非常に硬いが、温度が上昇すると軟らかくなる。物質は軟らかいと、その物質が長距離力を生じさせることは難しい。フォークで軟らかい(暖かい)バターを押すと、フォークは比較的簡単にバターに突き刺さる。バターが非常に冷たい場合、フォークはほとんどバターに突き刺さることができず、むしろフォークでバターを押すと、バターが動いてしまう。この類推を用いて、本発見を説明することができる。物質が暖かいと、アンモニアを吸収する際の結晶構造の局所的膨張力は長距離スケール(センチメートル)にわたって伝わらず、むしろ、はるかに短い長さスケールにおいて物質中に局所的に散逸してしまう。より硬い、つまりより低温の物質では、力は長距離効果を有することができるので、容器の壁に対して高いレベルの力(又は対応する圧力)を及ぼす。
【0022】
本開示では、この側面を革新的且つ建設的に利用して、本発明の目標、つまり、顧客にとって魅力的な特性及びコストを有するロバストで耐久性のある製品を得る。
【0023】
本発明で示される結果から、物質力(圧力)の低下の適切なレベルが典型的には室温を超える飽和温度TSATにおいて観測されることが分かった。再飽和(又は飽和)プロセスは、高速で効率的な飽和プロセスとするため能動的な冷却を必要とするので、通常は、「可能な限り低温」という方法を用いて、再充填プロセスを加速させる。この直感的な方法に反して、本発明の方法は、冷却が暖かい流体で行わる際に最も魅力的な特徴を有する。
【0024】
本開示では、この側面を適用して、耐久性のあるアンモニア貯蔵カートリッジを魅力的な特定及びコスト効率的な再充填プロセスと組み合わせる。
【0025】
アンモニア貯蔵物質が、貯蔵容器内のアンモニアで飽和/再飽和されている際に、本方法は、一つ以上の金属容器内に閉じ込められている際にアンモニアを可逆的に吸収及び脱離させることができる固体アンモニア貯蔵金属アンミン錯体の膨張力を減少させることを備え、その物質は、アンモニアでの飽和又は再飽和中において、その物質を封入している金属容器自体の変形をなくすか低減するレベルにまで膨張力の大きさを低下させるプロセス条件に保たれる。
【0026】
一部実施形態では、TSATMINの決定は、TSATとPMAT又はFMATとの間の相関関係を用い、また、アンモニア貯蔵物質DMATの密度との相関関係も含み、DMATは、アンモニアで完全に飽和しているアンモニア貯蔵物質に基づいて計算される。
【0027】
一部実施形態では、飽和/再飽和中に液体冷却媒体を用い、また、実際的な理由から、TSATには、冷却媒体の沸点(TCMBP,冷却媒体沸点)によって定められる上限が存在し、TCMBP≧TSAT≧TSATMINとなる。例えば、TCMBPは略100℃である。
【0028】
他の実施形態では、アンモニア貯蔵物質は、ガス状冷却媒体によって飽和/再飽和プロセス中に冷却される。温度TSATにおける飽和/再飽和プロセスは、TCMBP≧TSAT≧TSATMINという条件を満たし、TCMBPは、飽和/再飽和プロセスがガス状冷却媒体で冷却されて行われる温度の上限である。例えば、この場合も、TCMBPは略100℃であり得る。
【0029】
一部実施形態では、本方法は、公の法的な目標、例えば非特許文献1に含まれる目標等から導かれた機械的強度(PLIMIT、FLIMIT)に基づくものであり、非特許文献1によると、吸着又は吸収されたアンモニアを収容する各容器は、85℃で発生する圧力に0.1%以下の体積膨張で耐えることができ、85℃の温度における圧力は12bar未満とされる。そこで、こうした実施形態の一部では、アンモニア貯蔵容器は、85℃において脱離したアンモニアが発生させる圧力に0.1体積%以下の体積膨張で容器が絶えることを可能にする機械的強度を有する。
【0030】
一部実施形態では、PLIMIT又はFLIMIT、次いでTSATMINが以下のことから決定される:
a. 既存の容器設計を利用可能とすること、
b. 既存の設計からPLIMIT又はFLIMITの値を知ること、又は、(i)標準的な機械工学プラクティス、(ii)液圧測定、若しくは(iii)機械的シミュレーションを用いてPLIMIT又はFLIMITの値を特定すること、
c. 知った又は特定したPLIMIT又はFLIMITを用いて、PMAT又はFMATがPLIMIT又はFLIMITを超えないように、積載密度DMATと、TSAT≧TSATMIN又はTCMBP≧TSAT≧TSATMINという飽和/再飽和条件とを決定すること。
【0031】
一部実施形態では、TSATMINを決定する方法は、実験的マッピング方法を含み、その方法では、実験データ点を得て、従属変数PMATと独立変数TSATとの間の経験的関係又は相関関係を求める。マッピング方法は以下のことを備える:
a. アンモニア貯蔵物質の少なくとも一つのサンプルを作製すること;
b. 物質が飽和/再飽和されている際に物質がサンプルホルダーの壁に及ぼすPMATを測定することができるサンプルホルダー中でアンモニアの脱離及び再飽和の実験を行うこと(この方法は異なる複数の温度レベルTSATで行われる);
c. 実験データ点を用いて、関数又は補間公式PMAT=f(TSAT)又はFMAT=f(TSAT)を生成すること。
【0032】
代わりに、異なる複数の密度DMATが考慮される一部実施形態では、TSATMINを決定する方法は、実験的マッピング法を含み、その実験的マッピング法では、実験データ点を得て、従属変数PMAT又はFMATと独立変数TSAT及びDMATとの間の経験的関係又は相関関係を求める。マッピング法は以下のことを備える:
a. 既知の密度DMATを有するアンモニア貯蔵物質の少なくとも一つのサンプルを作製すること;
b. 物質が飽和/再飽和されている際に物質がサンプルホルダーの壁に及ぼすPMATを測定することができるサンプルホルダー中でアンモニアの脱離及び再飽和の実験を行うこと(この方法は異なる複数の温度レベルTSATで行われる);
c. 実験データ点を用いて、異なる密度DMATを有するサンプルを測定する場合の関数又は補間公式PMAT=f(TSAT,DMAT)又はFMAT=f(TSAT,DMAT)を生成すること。
【0033】
上記実施形態の一変形例では、TSATMINを決定する方法は、アンモニア貯蔵物質、アンモニア自体及び飽和状態のその物質を記述するパラメータを用いるコンピュータシミュレーションを介してPMAT又はFMATとTMATと、また任意でDMATとの間の関係を求めることによって行われる。これらパラメータは、飽和状態及び非飽和状態における物質の状態を記述し、これらパラメータの影響は温度の関数であり、物質の密度の入力で、そのモデルは、密度、物質パラメータ、飽和温度等の入力変数に基づいて、従属変数PMAT(又はFMAT)のレベルを推定又は予測することができる。このようなコンピュータモデルは多様な方法で構築可能であり、一例は、従来の有限要素法(FEM)シミュレーションを用いることである。
【0034】
比較的弱いカートリッジ設計を補うために、高密度が魅力的である場合に、又は、飽和プロセスの期間がほとんど又は全く重要ではない場合には、TSATMINよりも大幅に高く温度TSATを上げることが有利となり得る。
【0035】
力の大幅な減少が60〜80℃を超える温度で得られる場合であっても、力の減少が十分となる低温(TSATMIN近傍)を保つことによって、圧力PSATを受けている際にアンモニアを吸収している貯蔵物質の良好な熱勾配を可能にして、プロセス期間を削減する。典型的には、アンモニアガス圧PSATは、圧力PSATを受けている際の貯蔵物質の平衡温度に対して10℃以上の差に対応する勾配を与えるのに十分高いことが少なくとも必要である。例えば、55℃において、固体貯蔵物質からのアンモニアの平衡脱離圧は略2.5barであり(SrClについて)、PSAT=2.5barを用いると、吸収のための駆動力が存在せず、熱が除去されないので、ゼロに等しい吸収率が与えられる。
【0036】
また、本発明の他の態様では、既存のハードウェアの要請により、プロセス条件TSAT及び貯蔵物質の目標密度DMATが最初に固定されている方法が検討され、この他の態様の結果は、アンモニア飽和/再飽和の際に物質が結果として及ぼす圧力又は力PMAT又はFMATに耐えることができる容器設計であり、その方法では、
a. 温度TSAT及び貯蔵物質の目標密度DMATを知り、
b. DMATとTSATとPMAT又はFMATとの間の既知の関係を用いて、PMAT又はFMATの値を求め、この値を、それ未満では容器の壁が塑性変形をしない又は容器壁の降伏点における変形の110%、120%、150%、又は200%を超える変形をしない液圧限界パラメータPLIMIT又はFLIMITに関して測定された容器の機械的強度が、PMAT又はFMATの値以上となるように容器を設計するのに用いる。
【0037】
アンモニア貯蔵物質が及ぼす機械力を制御する方法に関して上述した多様な特徴及び任意選択的な変形例は、他の態様、つまり、固体アンモニア貯蔵物質を収容するための容器の設計方法にも適用される。
【0038】
本発明は、アンモニアの脱離及び(再)吸収を可能とする貯蔵密度DMATの固体アンモニア貯蔵物質を保管するための容器の態様も含み、その容器は、その容器内部の圧力又は力において容器が塑性変形をしない又は容器壁の降伏点における変形の110%、120%、150%、又は200%を超える変形をしない限界圧力パラメータPLIMIT又は限界力パラメータFLIMITに対応する機械的強度を有する。容器内の貯蔵物質は、飽和/再飽和プロセスによってアンモニアで充填されていて、貯蔵物質の飽和/再飽和は、TSAT≧TSATMINという条件を満たすプロセス温度TSATにおいて容器内部の貯蔵物質で行われ、TSATMINは、貯蔵物質が及ぼすPMAT又はFMATが容器のPLIMIT又はFLIMITに関する機械的強度の限界未満に保たれる飽和/再飽和プロセスの最低温度である。
【0039】
アンモニア貯蔵物質が及ぼす機械力を制御する方法及び容器を設計する方法に関して上述した多様な特徴及び任意選択的な変形例は、他の態様、つまり、固体アンモニア貯蔵物質で充填された容器にも適用される。
【0040】
最後に、本発明の範囲は、アンモニア飽和/再飽和プロセスの温度TSATと、(任意選択的にアンモニア貯蔵物質の貯蔵密度DMATと、)その温度TSATにおける飽和/再飽和中に貯蔵物質が生じさせる液圧PMAT又は等価な機械力FMATとの間の相関関係又は関係の使用でもあり、その使用は、アンモニアを吸収することができる物質を収容する容器の設計又は製造のためのものであり、より具体的には、貯蔵物質が結果として及ぼす圧力PMAT又は力FMATが、それ未満では容器が塑性変形をしない又は容器壁の降伏点における変形の110%、120%、150%、又は200%を超える変形をしない限界未満に保たれる温度において飽和/再飽和を行うことによって、貯蔵物質が及ぼす力又は圧力のレベルに影響を与えることである。
【0041】
本願で説明される方法は、初期製品、つまり、貯蔵物質のその場(in‐situ)での飽和によってアンモニアで充填された容器/カートリッジの作製にも有利であることに留意されたい。特許文献3で言及されている全ての複雑なプロセス条件を回避することによって、本発明は、最初の飽和の前にはカートリッジ内部に飽和していない貯蔵物質が配置され、(金属)カートリッジシェル内部で初めて飽和されるというその場(in‐situ)飽和カートリッジの単純な製造を可能にする。
【0042】
以下、添付図面を参照して、例示的な実施形態を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0043】
図1】アンモニア飽和中の物質の膨張圧PMATを、冷却媒体の温度TSATに対してプロットして示す。
図2】データ点と、PMATとTSAT及びDMATの異なる複数の組み合わせとの間の結果としてのモデル相関関係を示す。
図3】アンモニア貯蔵容器の正規化された変形・対・再飽和サイクル数を示す。
図4】弾性変形及び塑性変形の図を示す。
図5】TSATの適切な制御で容器内部のアンモニアで貯蔵物質を再飽和させるプロセスの一例を示す。
図6】PMAT又はFMATとTSATと適切であればDMATとの間の関係を求めて、TSATMINを決定するコンピュータシミュレーション方法の一例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0044】
温度レベルTSATは、冷却媒体の温度によって決定される。何故ならば、カートリッジは、アンモニアの吸収時に発熱するからである。TSATMINを満たしたままで異なる冷却媒体を選択することが可能である。
【0045】
図1は、膨張圧を監視することができる容器中に保持された物質サンプルの飽和中における、アンモニア飽和中の物質膨張圧PMATを冷却媒体温度TSATに対してプロットして示す。物質が及ぼす機械圧は、温度TSATに強く依存する。複数測定を同じサンプルについて行ったが、アンモニアガス飽和圧PSATを変化させた。これは、PMATの効果が、アンモニアガス圧ではなくて温度の強力な効果であることを示す。
【0046】
ここで、図1は、データ点と、貯蔵物質のアンモニア飽和/再飽和プロセスの温度TSATと、その温度TSATにおける飽和/再飽和中に貯蔵物質が発生させる液圧PMAT(等価な機械力FMATが等価な方法で使用可能である)との間の経験的相関関係(データ点に基づく)とを示す。
【0047】
それ未満ではカートリッジの壁が塑性変形をしない又は容器の壁の降伏点における変形の110%、120%、150%又は200%よりも大きな変形をしないPLIMIT又はFLIMITに関する所定のカートリッジの機械的強度に対する所定の限界では、この種の相関関係を用いて、貯蔵物質が及ぼすPMAT又はFMATがカートリッジの機械的強度の限界未満に保たれているという飽和/再飽和プロセスの最低温度TSATMINが特定される。TSATMINが見つかると、TSAT≧TSATMINという条件を満たす温度TSATで飽和/再飽和プロセスが行われる。
【0048】
代わりに、飽和/再飽和が行われる温度TSATは予め決定されて固定され得る。この場合、図1に示される上述のタイプの相関関係は、結果として物質が及ぼす圧力PMAT又は力FMATに耐えることができる固体アンモニア貯蔵物質用カートリッジの設計に用いられる。TSATとPMAT又はFMATとの間の関係は、所定の値のTSATに対応するPMAT又はFMATの値を見つけるのに用いられる。そして、見つけたPMAT又はFMATの値は、それ未満ではカートリッジの壁が塑性変形をしない又は容器の壁の降伏点における変形の110%、120%、150%又は200%よりも大きな変形をしない液圧限界パラメータPLIMIT又はFLIMITに関して測定されたカートリッジの機械的強度がPMAT又はFMATの値以上となるようにカートリッジを設計するのに用いられる。
【0049】
図2は、図1と同様のデータ点と、PMATとTSATとの間の結果としての経験的モデル相関関係を、異なる複数のアンモニア貯蔵物質密度DMATについて示し、DMATは、“A”から“D”で表される四つの異なるレベルのDMAT(A≒1.0g/cm、B≒1.13g/cm、C≒1.25g/cm、D≒1.3g/cm)について図2のTSATの関数としてPMATを表すパラメータである。脱ガス状態のアンモニア貯蔵物質はSrClであり、完全に飽和した状態ではSr(NHClである。基準点として、物質がその飽和状態にある際の密度を計算する。各密度レベルについて、TSATとの強い相関関係が存在する。小型物質サンプルに対して行われる実験的モデルデータを最良に記述するモデル方程式は、PMAT=A×exp(B×TSAT+C×DMAT)というものであるが、良好なデータ再現を与えるあらゆる種類の数学的記述が想定される。PLIMIT‐1、PLIMIT‐2、PLIMIT‐3として三つの例証が示されていて、特定のPLIMIT‐3は、PLIMIT‐1及びPLIMIT‐2とは別の密度と関連していて、結果として、必要とされる飽和温度TSATMINはX軸上に位置する。PMATがPLIMITを超えないようにするため、TSATがTSATMIN以上、つまりTSAT≧TSATMINでなければならないことが分かる。
【0050】
それ未満ではカートリッジの壁が塑性変形をしない又は容器の壁の降伏点における変形の110%、120%、150%又は200%よりも大きな変形をしないPLIMIT又はFLIMITに関する所定のカートリッジの機械的強度の所定の限界、及び、カートリッジ内のアンモニア貯蔵物質の所定の目標密度DMATでは、この種の相関関係を用いて、貯蔵物質が及ぼすPMAT又はFMATがカートリッジの機械的強度の限界未満に保たれている飽和/再飽和プロセスの最低温度TSATMINが特定される。所定のPLIMIT及びDMATについてTSATMINが見つかると、TSAT≧TSATMINという条件を満たす温度TSATにおいて飽和/再飽和プロセスが行われる。
【0051】
代わりに、本方法が行われる温度TSATは予め決定されて固定され得る。また、カートリッジ内のアンモニア貯蔵物質の多様な利用可能目標密度DMATのうちの一つが与えられる場合、図2に示される上述のタイプの相関関係は、物質が結果として及ぼす圧力PMAT又は力FMATに耐えることができる固体アンモニア貯蔵物質用のカートリッジの設計に用いられる。TSATとDMATとPMAT又はFMATとの間の関係は、所定の値のTMAT及びDMATに対応するPMAT又はFMATの値を見つけるのに用いられる。そして、決定されたPMAT又はFMATの値は、それ未満ではカートリッジの壁が塑性変形をしない又は容器の壁の降伏点における変形の110%、120%、150%又は200%よりも大きな変形をしない液圧限界パラメータPLIMIT又はFLIMITに関して測定されたカートリッジの機械的強度がPMAT又はFMATの値以上となるようにカートリッジを設計するのに用いられる。
【0052】
図3は本発明の特徴の証拠を示す。NH脱ガスとNH再飽和の連続的なサイクルを受けるカートリッジについてデータが示されている。この例では、試験されたカートリッジはシリンダー状でアルミニウム製である。これらカートリッジで用いられている特定の設計では、端部キャップが最も弱い点を示し、塑性変形せずに少なくとも1.7MPaのガス圧(図2のPLIMIT‐2に対応する、つまりPLIMIT=1.7MPa)に耐えることができるようにされている。この例ではアンモニア貯蔵物質密度は略1.13g/cmであり、図2のDMAT‐Aに対応するはずである。そして、図2から、分析が略38℃のTSATMINを与えていることが見て取れる。従来の再飽和プロセスでは、アンモニアガス圧は略7〜8barであり、冷却媒体の水は略20℃(TSAT≒20℃)に保たれて、カートリッジからのアンモニア吸収熱の除去による急速冷却、つまりTSATMIN(≒38℃)未満での冷却とされていた。試験から、これらユニットをPLIMIT=1.7MPaよりもはるかに低い圧力(脱ガス用の脱離圧=2〜4bar(0.2〜0.4MPaに対応)、飽和圧=7〜8bar(0.7〜0.8MPaに対応))で一貫して動作させた場合であっても、カートリッジは数回の飽和サイクル後において非弾性変形して、カートリッジが設置ボリュームにフィットしなくなるので、例えば10回の再充填に到達する前に使用不能となり得ることが観測された。このことは、同じタイプの二つの異なるユニットについて示されている。
【0053】
本発明の方法をこの例(即ち、同じ密度(つまり同じTSATMIN)で同じ貯蔵物質で充填された同じタイプのカートリッジ)に適用して、以下のことが分かった。同じ試験を行ったが、冷却媒体を略55℃(TSAT≒55℃)に保ち、つまりTSATMIN≒38℃よりも高く保った。図3のグラフの下部は、本発明の方法に係るプロセス及び設計制限が満たされている場合の脱ガス/再充填サイクルを示す。飽和プロセス条件を満たすこと(三角形)で、従来の方法(白四角及び黒四角の点)では数サイクル後に観測されていた大きな塑性変形がなくなっていることが見て取れる。
【0054】
図4は、金属部材、例えば容器に対する歪み(変形)と応力との間の関係の例を示す。容器の塑性変形(「非弾性変形」とも称される)は、物質が生じさせる応力が所謂降伏点におけるレベルを超える容器壁に対する歪みを与える場合に、生じる。物質は、その応力(FMAT又はPMATによって生じる)によって変形する(歪む)。TSAT>TSATMINの場合、物質が生じさせる応力は減少して、容器は弾性変形領域内にある。
【0055】
図4に概略的に示されるように、弾性変形領域では、応力と歪みとの間の関係はほぼ線形であるが、塑性変形領域では、歪みと応力との関係はほぼ平坦になっている(応力が増大しなくても物質が変形し続けることを意味する)。線形関係と平坦関係との間の移行部は、典型的には連続的に変化する傾斜を有し、つまり、傾斜の変化は急激ではないが、有限の歪み範囲に広がる。「降伏点」は、物質が塑性変形し始める応力として定義され、より具体的には、降伏点は、典型的に、線形関係の部分から平坦関係の部分への移行部の直前に存在する(歪みが増大する方向で見た場合)。
【0056】
本願で説明される一部実施形態では、圧力PLIMIT又は力FLIMITに関する容器の機械的強度の限界は、それ未満では容器の壁が塑性変形をしない、つまり降伏点を超える変形が存在しない容器内部の圧力又は力として定義される。
【0057】
しかしながら、他の実施形態では、僅かな塑性変形、つまり、完全に平坦になる前の平坦な塑性変形領域への移行部内において降伏点を超える歪みは許容可能である。こうした実施形態では、圧力PLIMIT又は力FLIMITに関する容器の機械的強度は、「最大許容可能塑性変形」と称される応力‐歪み図の移行領域内の点(つまり、「MPD」)を超える変形を生じさせない圧力又は力として定義される。点MPDは、それを超えると意図した物理的応用にフィットしなくなる特定の容器に対する許容可能な最大の塑性変形として定義される。理想的には、塑性変形は存在しないが(前段落で述べたように)、一部の特別な状況では、僅かな塑性変形が許容可能である。このような場合、パラメータMPDは、降伏点における歪み(=応力)の110、120、150、又は200%となり得る。例えば、直径100mmのサンプル容器が、降伏点をわずかに下回る0.5mmで弾性変形することができる場合(これは依然として通常形状に戻れることを意味する)、降伏点における歪みの200%の歪みでのMPDは最大1mmであり、結果としての最大直径は101mmとなる。
【0058】
図5は、上記種類のアンモニア貯蔵物質で内部が充填された複数の容器の再飽和の例を示す。貯蔵容器は、冷却媒体(例えば、冷水)で充填されたトラフに浸漬され、冷却媒体によって冷却される。冷却媒体の温度は、目標飽和温度TSATに達するように媒体の温度を制御する適切なデバイス、例えば、冷却媒体温度を測定するセンサーと、測定温度を目標温度と比較して測定温度と目標温度との間の差を相殺するように冷却媒体の温度又は流れを調整するフィードバックコントローラーで制御される。飽和中の容器からの熱伝達を増大させるように冷却媒体の運動を生じさせる一般的な方法が適用可能であり、例えば、ポンプやプロペラを用いてトラフ中の冷却媒体の循環を能動的に生じさせる。アンモニアは、貯蔵容器内部に加圧ガスとして供給される。
【0059】
図6は、TSATと、DMATと結果としての圧力PMAT(又はFMAT)との間の関係を推定又は予測するシミュレーション方法の図を示す。アンモニアとアンモニア貯蔵物質(吸収したアンモニアの有無)を記述する関連パラメータ(「熱力学的入力」と称される)と、独立変数と、アンモニア貯蔵物質の密度DMATを、有限要素法(FEM,finite element method)シミュレーション等のコンピュータモデルに投入する。例えば、コンピュータモデルは、TSAT及び所定のDMATの関数としてPMAT(又はFMAT)を出力する。これは、貯蔵物質が及ぼすPMAT(又はFMAT)が、容器のPLIMIT又はFLIMITに関する機械的強度の限界未満に保たれている飽和/再飽和プロセスの最低温度TSATMINを特定することを可能にする。
【0060】
[更なる例]
[例1:多様な温度における飽和からの力を決定して、所定のカートリッジに対する最小飽和温度TSATMINを見つけるための方法]
温度と、物質密度と、アンモニア貯蔵物質からの飽和力との間の関係を決定するため、一般的な方法に従って、複数の実験を行った。
【0061】
所定の質量の乾燥SrCl粉末を反応器ボリューム内に入れ、次いで反応器を閉じた。SrClの質量を決定し、SrClがアンモニアで飽和した後の特定の密度DMATを得た。これは、密度に反応器の容積を掛けて、完全に飽和したSr(NHClのモル質量で割って、SrClのモル質量を掛けることによって決定された。
【0062】
閉じた反応器は、周囲空気を除去するために排気され、次いで或る圧力のアンモニアガスを受けた。アンモニアの取り込みに続いて、反応器を計量することで、SrClがアンモニアで完全に飽和されることを保証した。取り込み中に、反応器の一端に作用する飽和中のSrClの力をロードセルで測定した。反応器壁の温度をペルチェ素子を用いて能動的に制御した。
【0063】
完全に飽和した後、反応器を加熱して、流出口の圧力を大気圧をわずかに上回るように固定し、反応器からアンモニアを脱ガスした。或る圧力のアンモニアを再び加えて物質を再飽和させる前に、一定時間にわたって物質を脱ガスした。このようにして、サンプルは複数間リサイクル可能であり、複数の温度点において力の測定を行うことができた。
【0064】
多様な温度及び密度について力の完全なマップを作成するため、複数回にわたって多様な質量のSrClを反応器に投入し、その各々で多様な温度点でのサイクルを行った。
【0065】
この方法は、アンモニアを可逆的に吸収することができるあらゆる関連物質に対して行うことができるものである。適切なアンモニア貯蔵物質の他の例はCaClや、BaClや、純粋な又は塩の混合物としての他の金属アンミン錯体である。金属アンミン錯体の一般式はM(NHであり、ここでMは金属イオンであり、Xはアンモニアの配位数(0から8又は一部塩では12)であり、Hはハロゲン化物(例えば、塩化物イオン)であり、Yは錯体中の塩化物イオンの数である。飽和状態において、SrCl及びCaCl塩は、8個のアンモニア分子を吸収して、Sr(NHCl、Ca(NHClとなる。
【0066】
それ未満ではカートリッジの壁が塑性変形をしない又は容器の壁の降伏点における変形の110%、120%、150%又は200%よりも大きな変形をしないPLIMIT又はFLIMITに関する所定のカートリッジの機械的強度の所定の限界、及び、カートリッジ内のアンモニア貯蔵物質の所定の目標密度DMATでは、この種の関係を用いて、貯蔵物質が及ぼすPMAT又はFMATがカートリッジの機械的強度の限界未満に保たれている飽和/再飽和プロセスの最低温度TSATMINが特定される。所定のPLIMIT及びDMATについてTSATMINが見つかると、TSAT≧TSATMINという条件を満たす温度TSATにおいて飽和/再飽和プロセスが行われる。
【0067】
[例2:固定された飽和、温度及び貯蔵物質密度に基づいた金属壁厚さの決定]
20℃の温度でカートリッジを再充填するように再充填プロセスを画定した。与えられたアンモニア貯蔵物質密度は1175g/cmであり、これは、物質圧力PMAT=3.2MPaを与える。カートリッジはシリンダー状であり、流通している特定の車両に対して利用可能な空間の要求のため、178mmの外径を有する。深絞りアルミニウム合金鋳造でカートリッジを作製することに決定した。深絞り後、アルミニウム合金は170MPaの降伏力を有していて、「降伏力」又は「降伏点」は、物質が塑性変形し始める応力として定義される。降伏点の前では物質は弾性変形して、印加された応力が取り除かれると元々の形状に戻る。降伏点を超えると、変形の一部は永続的で不可逆的なものとなる。
【0068】
シリンダーの最小シェル厚さを以下の薄壁仮定によって決定することができる:
【数1】
【0069】
[例3]
特定の設計圧力及び設計温度、許容可能な応力(容器物質に因る)及び必要な容器半径(容積に因る)を所与として、一般的な方法は、ASME Boiler and Pressure Vessel Code(ASME Section VIII Division1)等の設計ルールに従うルールによる設計方法である。
【0070】
ASME設計コードは、R/t≧10(R=容器半径、t=壁厚)の薄壁設計について、シリンダー状シェルの最小壁厚要求に対する以下の設計式を与える:
周方向応力を考慮すると、
t=P×Ro/(S×E+0.4×P)
縦応力を考慮すると、
t=P×Ro/(2×S×E+1.4×P)
t=壁厚(インチ)
P=設計圧力(psi)
Ro=外側半径(インチ)
S=許容可能応力(psi)
E=溶接継手効率因子
【0071】
同様に、許容可能な圧力を、ASMEコード及びルールによる設計方法を用いて計算することができる。設計温度、許容可能な応力(容器物質に因る)、容器半径(容積に因る)及び壁厚を所与として、以下の式が許容可能な最大圧力を与える:
周方向応力を考慮すると、
P=S×E×t/(Ro−0.4×t)
縦応力を考慮すると、
P=2×S×E×t/(Ro−1.4×t)
【0072】
例えば、薄壁深絞りシリンダー状アルミニウムシェルについて、所定の容器物質及び幾何学的形状に基づいて、許容可能な圧力が計算される:
t=3mm=0.118インチ
Ro=98mm=3.504インチ
S=133.3MPa=16437.6psi(170MPaにおけるアルミニウム合金の降伏強度と、ASMEコードに従って通常1.5の安全因子に基づく)
E=1
周方向応力に基づく許容可能な圧力:
P=(16437.6psi×1×0.118インチ)/(3.504インチ−0.4×0.118インチ)=561.6psi=3.9MPa
縦応力に基づく許容可能な圧力:
P=(2×16437.6psi×0.118インチ)/(3.504インチ−1.4×0.118インチ)=1163.0psi=8.0Mpa
【0073】
上記計算からの最低値をとって、許容可能な圧力が3.9MPaと与えられる。
【0074】
更に、上述のように、計算では、設計安全因子が1.5である。これは、許容可能な圧力を3.9MPa/1.5=2.6MPaにする。DMAT‐Cの密度について図2の相関関係を用いると、この特定の値のDMATに対して飽和/再飽和プロセスが略40℃で行われる際の最低温度TSATMINの値が得られる。
【0075】
本明細書で言及されている全ての文献及び既存のシステムは参照として本願に組み込まれる。
【0076】
本発明の教示に従って構成される特定の方法及び製品について本願で説明してきたが、本特許が及ぶ範囲はそれに限定されるものではない。逆に、本特許は、文言上又は均等論の下で添付の特許請求の範囲内に公正に落とし込まれる本発明の教示の全ての実施形態に及ぶ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6