【課題を解決するための手段】
【0013】
固体アンモニア貯蔵物質が、その貯蔵物質を内部に保持する容器の壁に対して、貯蔵物質をその貯蔵容器内のアンモニアで飽和/再飽和させている際に及ぼす機械力の大きさを制御するための方法が提供される。本方法は以下のことを備える:
a. その容器内部の液圧又は液力に関する容器の機械的強度の限界(以下、P
LIMIT又はF
LIMITとする)(その限界未満では、容器の壁は塑性変形をしない又は容器の壁の降伏点における変形の110%、120%、150%、又は200%を超える変形をしない)を決定すること、
b. 以下の二者の間の相関関係、つまり、
i. 貯蔵物質のアンモニア飽和/再飽和プロセスの温度(以下、T
SATとする)と
ii. 前記温度T
SATにおける飽和/再飽和中に貯蔵物質が生じさせる液圧P
MAT又は等価な機械力F
MATと
の間の相関関係を用いて、
飽和/再飽和プロセスの最低温度(以下、T
SATMINとする)を特定し、T
SAT≧T
SATMINという条件を満たす温度T
SATにおいて飽和/再飽和プロセスを行うことによって、貯蔵物質が及ぼすP
MAT又はF
MATが、容器のP
LIMIT又はF
LIMITに関する機械的強度の限界未満に保たれるようにすること。
【0014】
他の態様によると、固体アンモニア貯蔵物質を収容するための容器を設計する方法が提供され、アンモニア飽和/再飽和のプロセス温度T
SATと、貯蔵物質の目標密度D
MATとが固定され、本設計方法の結果は、アンモニア飽和/再飽和の際に物質が結果として及ぼす圧力P
MAT又は力F
MATに耐えることができる容器設計である。本方法は、D
MATとT
MATとP
MAT又はF
MATとの間の既知の関係を用いて、P
MAT又はF
MATの値を求め、その値を用いて、それ未満では容器の壁が塑性変形をしない又は容器の壁の降伏点における変形の110%、120%、150%、又は200%を超える変形をしない液圧限界パラメータP
LIMIT又はF
LIMITに関して測定された容器の機械的強度が、P
MAT又はF
MATの値以上となるように容器を設計する。
【0015】
他の態様によると、アンモニアを脱離及び吸収/再吸収することができる貯蔵密度D
MATで固体アンモニア貯蔵物質で充填された容器が提供される。本容器は、その容器内部の圧力又は力において容器が塑性変形しない又は容器壁の降伏点における変形の110%、120%、150%、又は200%を超える変形をしない限界圧力パラメータP
LIMIT又は限界力パラメータF
LIMITに対応する機械的強度を有する。容器内の貯蔵物質は、飽和/再飽和プロセスによってアンモニアで充填され、その貯蔵物質の飽和/再飽和は、T
SAT≧T
SATMINという条件を満たすプロセス温度T
SATにおいて容器内部の貯蔵物質で行われる。T
SATMINは、貯蔵物質が及ぼすP
MAT又はF
MATが容器のP
LIMIT又はF
LIMITに関する機械的強度の限界未満に保たれる飽和/再飽和プロセスの最低温度である。
【0016】
更に他の態様は、アンモニア貯蔵物質のアンモニア飽和/再飽和プロセスの温度T
SATと、その温度T
SATにおける飽和/再飽和中に貯蔵物質が生じさせる液圧P
MAT又は等価な機械力F
MATとの間の相関関係の使用に関し、その使用は、貯蔵物質が結果として及ぼす圧力P
MAT又は力F
MATが、それ未満では容器が塑性変形しない又は容器壁の降伏点における変形の110%、120%、150%、又は200%を超える変形をしない限界未満に保たれる温度において飽和/再飽和を行うことによって貯蔵物質が及ぼす力又は圧力のレベルに影響を与えるためのものである。
【0017】
本願で示される発明の他の特徴は、本開示の方法及び製品に固有のものであるか、又は、以下の実施形態の詳細な説明及び添付図面から当業者に明らかとなるものである。
【0018】
[本発明の一般的な説明及び任意選択的な実施形態の説明]
圧力及び力は、通常の機械分野での用法のものであり、つまり、圧力は単位面積あたりに及ぼす力である。
【0019】
結晶膨張によって生じる力、つまりはアンモニアを吸収/再吸収している間の金属アンミン錯体の機械力を、流体が及ぼす液圧として概念的に記述することができることが分かった。より重要な点として、つまり、本発明の肝として、この機械力F
MAT又は等価な液圧P
MATが、飽和又は再飽和中のアンモニア貯蔵物質の温度レベルと強く相関していることが分かった。飽和/再飽和温度が上昇すると、P
MATが下がることが観測された。
【0020】
また、アンモニア貯蔵物質を保持する又は閉じ込めるユニット内の力(又は圧力)と物質の密度との間には関連性がある。他の全てのパラメータを一定に保って、密度を増大させると、より高い力をもたらす可能性につながる。
【0021】
決定的な科学的説明はまだ得られていないが、本発明の発見の裏に潜む定性的な理由付けは以下のとおりである。即ち、バター等の物質は低温において非常に硬いが、温度が上昇すると軟らかくなる。物質は軟らかいと、その物質が長距離力を生じさせることは難しい。フォークで軟らかい(暖かい)バターを押すと、フォークは比較的簡単にバターに突き刺さる。バターが非常に冷たい場合、フォークはほとんどバターに突き刺さることができず、むしろフォークでバターを押すと、バターが動いてしまう。この類推を用いて、本発見を説明することができる。物質が暖かいと、アンモニアを吸収する際の結晶構造の局所的膨張力は長距離スケール(センチメートル)にわたって伝わらず、むしろ、はるかに短い長さスケールにおいて物質中に局所的に散逸してしまう。より硬い、つまりより低温の物質では、力は長距離効果を有することができるので、容器の壁に対して高いレベルの力(又は対応する圧力)を及ぼす。
【0022】
本開示では、この側面を革新的且つ建設的に利用して、本発明の目標、つまり、顧客にとって魅力的な特性及びコストを有するロバストで耐久性のある製品を得る。
【0023】
本発明で示される結果から、物質力(圧力)の低下の適切なレベルが典型的には室温を超える飽和温度T
SATにおいて観測されることが分かった。再飽和(又は飽和)プロセスは、高速で効率的な飽和プロセスとするため能動的な冷却を必要とするので、通常は、「可能な限り低温」という方法を用いて、再充填プロセスを加速させる。この直感的な方法に反して、本発明の方法は、冷却が暖かい流体で行わる際に最も魅力的な特徴を有する。
【0024】
本開示では、この側面を適用して、耐久性のあるアンモニア貯蔵カートリッジを魅力的な特定及びコスト効率的な再充填プロセスと組み合わせる。
【0025】
アンモニア貯蔵物質が、貯蔵容器内のアンモニアで飽和/再飽和されている際に、本方法は、一つ以上の金属容器内に閉じ込められている際にアンモニアを可逆的に吸収及び脱離させることができる固体アンモニア貯蔵金属アンミン錯体の膨張力を減少させることを備え、その物質は、アンモニアでの飽和又は再飽和中において、その物質を封入している金属容器自体の変形をなくすか低減するレベルにまで膨張力の大きさを低下させるプロセス条件に保たれる。
【0026】
一部実施形態では、T
SATMINの決定は、T
SATとP
MAT又はF
MATとの間の相関関係を用い、また、アンモニア貯蔵物質D
MATの密度との相関関係も含み、D
MATは、アンモニアで完全に飽和しているアンモニア貯蔵物質に基づいて計算される。
【0027】
一部実施形態では、飽和/再飽和中に液体冷却媒体を用い、また、実際的な理由から、T
SATには、冷却媒体の沸点(T
CMBP,冷却媒体沸点)によって定められる上限が存在し、T
CMBP≧T
SAT≧T
SATMINとなる。例えば、T
CMBPは略100℃である。
【0028】
他の実施形態では、アンモニア貯蔵物質は、ガス状冷却媒体によって飽和/再飽和プロセス中に冷却される。温度T
SATにおける飽和/再飽和プロセスは、T
CMBP≧T
SAT≧T
SATMINという条件を満たし、T
CMBPは、飽和/再飽和プロセスがガス状冷却媒体で冷却されて行われる温度の上限である。例えば、この場合も、T
CMBPは略100℃であり得る。
【0029】
一部実施形態では、本方法は、公の法的な目標、例えば非特許文献1に含まれる目標等から導かれた機械的強度(P
LIMIT、F
LIMIT)に基づくものであり、非特許文献1によると、吸着又は吸収されたアンモニアを収容する各容器は、85℃で発生する圧力に0.1%以下の体積膨張で耐えることができ、85℃の温度における圧力は12bar未満とされる。そこで、こうした実施形態の一部では、アンモニア貯蔵容器は、85℃において脱離したアンモニアが発生させる圧力に0.1体積%以下の体積膨張で容器が絶えることを可能にする機械的強度を有する。
【0030】
一部実施形態では、P
LIMIT又はF
LIMIT、次いでT
SATMINが以下のことから決定される:
a. 既存の容器設計を利用可能とすること、
b. 既存の設計からP
LIMIT又はF
LIMITの値を知ること、又は、(i)標準的な機械工学プラクティス、(ii)液圧測定、若しくは(iii)機械的シミュレーションを用いてP
LIMIT又はF
LIMITの値を特定すること、
c. 知った又は特定したP
LIMIT又はF
LIMITを用いて、P
MAT又はF
MATがP
LIMIT又はF
LIMITを超えないように、積載密度D
MATと、T
SAT≧T
SATMIN又はT
CMBP≧T
SAT≧T
SATMINという飽和/再飽和条件とを決定すること。
【0031】
一部実施形態では、T
SATMINを決定する方法は、実験的マッピング方法を含み、その方法では、実験データ点を得て、従属変数P
MATと独立変数T
SATとの間の経験的関係又は相関関係を求める。マッピング方法は以下のことを備える:
a. アンモニア貯蔵物質の少なくとも一つのサンプルを作製すること;
b. 物質が飽和/再飽和されている際に物質がサンプルホルダーの壁に及ぼすP
MATを測定することができるサンプルホルダー中でアンモニアの脱離及び再飽和の実験を行うこと(この方法は異なる複数の温度レベルT
SATで行われる);
c. 実験データ点を用いて、関数又は補間公式P
MAT=f(T
SAT)又はF
MAT=f(T
SAT)を生成すること。
【0032】
代わりに、異なる複数の密度D
MATが考慮される一部実施形態では、T
SATMINを決定する方法は、実験的マッピング法を含み、その実験的マッピング法では、実験データ点を得て、従属変数P
MAT又はF
MATと独立変数T
SAT及びD
MATとの間の経験的関係又は相関関係を求める。マッピング法は以下のことを備える:
a. 既知の密度D
MATを有するアンモニア貯蔵物質の少なくとも一つのサンプルを作製すること;
b. 物質が飽和/再飽和されている際に物質がサンプルホルダーの壁に及ぼすPMATを測定することができるサンプルホルダー中でアンモニアの脱離及び再飽和の実験を行うこと(この方法は異なる複数の温度レベルT
SATで行われる);
c. 実験データ点を用いて、異なる密度D
MATを有するサンプルを測定する場合の関数又は補間公式P
MAT=f(T
SAT,D
MAT)又はF
MAT=f(T
SAT,D
MAT)を生成すること。
【0033】
上記実施形態の一変形例では、T
SATMINを決定する方法は、アンモニア貯蔵物質、アンモニア自体及び飽和状態のその物質を記述するパラメータを用いるコンピュータシミュレーションを介してP
MAT又はF
MATとT
MATと、また任意でD
MATとの間の関係を求めることによって行われる。これらパラメータは、飽和状態及び非飽和状態における物質の状態を記述し、これらパラメータの影響は温度の関数であり、物質の密度の入力で、そのモデルは、密度、物質パラメータ、飽和温度等の入力変数に基づいて、従属変数P
MAT(又はF
MAT)のレベルを推定又は予測することができる。このようなコンピュータモデルは多様な方法で構築可能であり、一例は、従来の有限要素法(FEM)シミュレーションを用いることである。
【0034】
比較的弱いカートリッジ設計を補うために、高密度が魅力的である場合に、又は、飽和プロセスの期間がほとんど又は全く重要ではない場合には、T
SATMINよりも大幅に高く温度T
SATを上げることが有利となり得る。
【0035】
力の大幅な減少が60〜80℃を超える温度で得られる場合であっても、力の減少が十分となる低温(T
SATMIN近傍)を保つことによって、圧力P
SATを受けている際にアンモニアを吸収している貯蔵物質の良好な熱勾配を可能にして、プロセス期間を削減する。典型的には、アンモニアガス圧P
SATは、圧力P
SATを受けている際の貯蔵物質の平衡温度に対して10℃以上の差に対応する勾配を与えるのに十分高いことが少なくとも必要である。例えば、55℃において、固体貯蔵物質からのアンモニアの平衡脱離圧は略2.5barであり(SrCl
2について)、P
SAT=2.5barを用いると、吸収のための駆動力が存在せず、熱が除去されないので、ゼロに等しい吸収率が与えられる。
【0036】
また、本発明の他の態様では、既存のハードウェアの要請により、プロセス条件T
SAT及び貯蔵物質の目標密度D
MATが最初に固定されている方法が検討され、この他の態様の結果は、アンモニア飽和/再飽和の際に物質が結果として及ぼす圧力又は力P
MAT又はF
MATに耐えることができる容器設計であり、その方法では、
a. 温度T
SAT及び貯蔵物質の目標密度D
MATを知り、
b. D
MATとT
SATとP
MAT又はF
MATとの間の既知の関係を用いて、P
MAT又はF
MATの値を求め、この値を、それ未満では容器の壁が塑性変形をしない又は容器壁の降伏点における変形の110%、120%、150%、又は200%を超える変形をしない液圧限界パラメータP
LIMIT又はF
LIMITに関して測定された容器の機械的強度が、P
MAT又はF
MATの値以上となるように容器を設計するのに用いる。
【0037】
アンモニア貯蔵物質が及ぼす機械力を制御する方法に関して上述した多様な特徴及び任意選択的な変形例は、他の態様、つまり、固体アンモニア貯蔵物質を収容するための容器の設計方法にも適用される。
【0038】
本発明は、アンモニアの脱離及び(再)吸収を可能とする貯蔵密度D
MATの固体アンモニア貯蔵物質を保管するための容器の態様も含み、その容器は、その容器内部の圧力又は力において容器が塑性変形をしない又は容器壁の降伏点における変形の110%、120%、150%、又は200%を超える変形をしない限界圧力パラメータP
LIMIT又は限界力パラメータF
LIMITに対応する機械的強度を有する。容器内の貯蔵物質は、飽和/再飽和プロセスによってアンモニアで充填されていて、貯蔵物質の飽和/再飽和は、T
SAT≧T
SATMINという条件を満たすプロセス温度T
SATにおいて容器内部の貯蔵物質で行われ、T
SATMINは、貯蔵物質が及ぼすP
MAT又はF
MATが容器のP
LIMIT又はF
LIMITに関する機械的強度の限界未満に保たれる飽和/再飽和プロセスの最低温度である。
【0039】
アンモニア貯蔵物質が及ぼす機械力を制御する方法及び容器を設計する方法に関して上述した多様な特徴及び任意選択的な変形例は、他の態様、つまり、固体アンモニア貯蔵物質で充填された容器にも適用される。
【0040】
最後に、本発明の範囲は、アンモニア飽和/再飽和プロセスの温度T
SATと、(任意選択的にアンモニア貯蔵物質の貯蔵密度D
MATと、)その温度T
SATにおける飽和/再飽和中に貯蔵物質が生じさせる液圧P
MAT又は等価な機械力F
MATとの間の相関関係又は関係の使用でもあり、その使用は、アンモニアを吸収することができる物質を収容する容器の設計又は製造のためのものであり、より具体的には、貯蔵物質が結果として及ぼす圧力P
MAT又は力F
MATが、それ未満では容器が塑性変形をしない又は容器壁の降伏点における変形の110%、120%、150%、又は200%を超える変形をしない限界未満に保たれる温度において飽和/再飽和を行うことによって、貯蔵物質が及ぼす力又は圧力のレベルに影響を与えることである。
【0041】
本願で説明される方法は、初期製品、つまり、貯蔵物質のその場(in‐situ)での飽和によってアンモニアで充填された容器/カートリッジの作製にも有利であることに留意されたい。特許文献3で言及されている全ての複雑なプロセス条件を回避することによって、本発明は、最初の飽和の前にはカートリッジ内部に飽和していない貯蔵物質が配置され、(金属)カートリッジシェル内部で初めて飽和されるというその場(in‐situ)飽和カートリッジの単純な製造を可能にする。
【0042】
以下、添付図面を参照して、例示的な実施形態を説明する。