特許第6703010号(P6703010)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6703010生体吸収性ポリマと抗菌剤とからなる植込型医療装置用ポリマカバー、およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6703010
(24)【登録日】2020年5月11日
(45)【発行日】2020年6月3日
(54)【発明の名称】生体吸収性ポリマと抗菌剤とからなる植込型医療装置用ポリマカバー、およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61N 1/375 20060101AFI20200525BHJP
【FI】
   A61N1/375
【請求項の数】6
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2017-562048(P2017-562048)
(86)(22)【出願日】2016年6月17日
(65)【公表番号】特表2018-516133(P2018-516133A)
(43)【公表日】2018年6月21日
(86)【国際出願番号】US2016038032
(87)【国際公開番号】WO2016205611
(87)【国際公開日】20161222
【審査請求日】2017年11月29日
(31)【優先権主張番号】62/181,570
(32)【優先日】2015年6月18日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】505003528
【氏名又は名称】カーディアック ペースメイカーズ, インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 淳
(72)【発明者】
【氏名】シャーウッド、グレゴリー ジェイ.
(72)【発明者】
【氏名】バイロン、メアリー エム.
(72)【発明者】
【氏名】ウルフマン、デイビッド アール.
【審査官】 細川 翔多
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2010/0098744(US,A1)
【文献】 特表2007−507278(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 1/375
A61M 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
植込型医療装置のハウジングを収容する為に形成された皮下ポケット内に、感染を予防する為に植込まれるポリマ装置であって、前記ポリマ装置は、生体吸収性ポリマで形成された構造体であって、長尺形状を備えるとともに、前記皮下ポケットの周長に適合し、且つ、ポリマ繊維にて織成された索状体で形成されている前記構造体と、前記構造体から溶離する抗菌剤とからなり、前記皮下ポケットに植え込まれた際、前記植込型医療装置のハウジングの表面積の20%未満を覆う前記ポリマ装置を製造する方法は、
管状形状を形成する為に、第1生体吸収性ポリマをポリマ繊維として円柱表面上に電子スピニングする工程と、
前記円柱表面から前記ポリマ繊維を取り除く工程と、
前記ポリマ繊維の少なくとも一部の間の間隙内に抗菌剤を配置する工程と、からなり、前記抗菌剤を配置する工程は、プラズマ増強化学蒸着することと、低圧化学蒸着することのうちの少なくともいずれか一方を含む、ポリマ装置を製造する方法。
【請求項2】
前記方法は、前記第1生体吸収性ポリマを電子スピニングする間に、前記円柱表面上に抗菌剤を電子スピニングすることをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記抗菌剤は、前記第1生体吸収性ポリマと共に同軸上に電子スピニングされる、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記方法は、前記ポリマ繊維と共に前記抗菌剤を前記円柱表面上にスプレイすることをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記抗菌剤を配置することは、前記ポリマ繊維を、前記抗菌剤を含む液体に浸漬することを含み、前記液体は、溶液、エマルジョン、および懸濁液のうちの少なくとも1つである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記方法は、前記ポリマ繊維の間の前記間隙内に抗菌剤を配置した後、第2生体吸収性ポリマで前記ポリマ繊維をコートすることをさらに含む、請求項5に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植込型医療用装置に対応して感染を予防することに関する。より詳細には、感染を予防する為に抗菌剤を皮下ポケットに供給するための装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
植込型医療装置は、患者の体内の治療部位において治療を実施するためのハウジングと、リード線またはカテーテルとを含む。例えば、ペースメーカは、ハウジング、または、電子機器とバッテリとを含むパルス発生器と、パルス発生器から治療部位である心臓まで延びるリード線とを備える。別例において、薬剤供給システムは、ハウジング、または、ポンプとバッテリと薬剤の供給器とを含む薬剤供給ポンプと、薬剤供給ポンプから薬剤を必要とする治療部位まで延びるカテーテルとを備える薬剤供給ポンプとを備える。いくつかの場合には、ハウジングが、患者の体内の皮下ポケットに導入される場合がある。
【0003】
患者の体内の皮下ポケットに医療装置を植込むことは、本質的に患者を院内感染の危険に晒す。例えば、ペースメーカや植込型心臓除細動器の植込みに係る平均院内感染率は、約3%である。感染した場合には、ハウジングと関連するリード線またはカテーテルを含む植込型医療装置を完全に取り除かなければならない。取り除いた後は、感染が治癒され、且つ、患者は、交換用医療装置の植込みに耐えられるまで十分に回復しなければならない。このような感染に伴うコストは、本質的意味においてだけでなく、患者が受ける身体的精神的ストレスの観点からも大きい。
【0004】
必要とされていることは、医療装置の動作を妨げることなく、皮下ポケット内に医療装置を植込むことで生じる感染を防止する為の方法である。
【発明の概要】
【0005】
第1例は、感染を防止する為に、植込型医療装置のハウジングを収容する為に形成された皮下ポケットに植込むように構成されたポリマ装置である。ポリマ装置は、生体吸収性(bioresorbable)ポリマから成る構造体と、同構造体から溶離するように構成された抗菌剤とを含む。ポリマ装置は、皮下ポケット内に植込まれた際に、植込型医療装置のハウジングの表面積の約20%未満をカバーする。
【0006】
第2例において、前記構造体は長尺形状を有し、皮下ポケットの周長の大部分に適合する、第1例のポリマ装置。
第3例において、前記構造体は、管状形状を備え、リード線とカテーテルの少なくとも一方の周囲に適合し、リード線またはカテーテルは、植込型医療装置のハウジングから治療部位まで延びる、第1例のポリマ装置。
【0007】
第4例において、前記管状形状は、リード線およびカテーテルの少なくとも一方の周囲に生体吸収性ポリマのリボンを巻くことによって形成される、第2例に記載のポリマ装置。
【0008】
第5例において、前記抗菌剤は、生体吸収性ポリマ内に配置される、例1〜4のいずれか1つのポリマ装置。
第6例において、前記構造体は、前記生体吸収性ポリマによって形成された複数のポリマ繊維を含む、第1〜5例のいずれか1つのポリマ装置。
【0009】
第7例において、前記抗菌剤は、ポリマ繊維によって形成された間隙内に配置される、第7例のポリマ装置。
第8例は、第1〜7例のいずれか1つに記載のポリマ装置に係る製造方法である。方法は、管状形状を形成する為に、第1生体吸収性ポリマをポリマ繊維として円柱表面上に電子スピニングすることと、円柱表面からポリマ繊維を取り除くことと、ポリマ繊維の少なくとも一部の間の間隙内に抗菌剤を配置することとを含む。
【0010】
第9例において、方法は、第1生体吸収性ポリマを電子スピニングする間に、円柱表面上に抗菌剤を電子スピニングすることをさらに含む、第8例に記載の方法。
第10例において、抗菌剤は、第1生体吸収性ポリマと共に同軸上に電子スピニングされる、第9例の方法。
【0011】
第11例において、方法は、ポリマ繊維と共に、抗菌剤を円柱表面上にスプレイすることをさらに含む、第8例の方法。
第12例において、抗菌剤を配置することは、抗菌剤をプラズマ増強化学蒸着すること、低圧化学蒸着すること、および大気圧蒸着することの少なくともいずれか1つを含む、第8〜11例のいずれか1つの方法。
【0012】
第13例において、抗菌剤を配置することは、抗菌剤を含む液体にポリマ繊維を浸すことを含み、液体は、溶液、エマルジョン、および懸濁液のうちの少なくとも1つである、第8〜12例のいずれか1つの方法。
【0013】
第14例において、方法は、ポリマ繊維間の間隙内に抗菌剤を配置した後、第2生体吸収性ポリマでポリマ繊維をコートすることをさらに含む、第13例の方法。
第15例は、医療装置を植込むことによって生じる感染を防止する方法である。方法は、医療装置のハウジングを収容する為に形成された皮下ポケット内に少なくとも実質的にポリマ装置を導入することと、皮下ポケットに医療装置のハウジングを導入することとを含む。ポリマ装置は、生体吸収性ポリマ構造体と、ポリマ構造体から溶離するように構成された抗菌剤とを含む。ポリマ装置は、医療装置のハウジングの表面積の約20%未満を被覆する。
【0014】
第16例において、抗菌剤は、ポリマ構造体が生体吸収される際に、ポリマ構造体から溶離する、第15の方法。
第17例において、ポリマ装置は、管状形状を備え、ポリマ装置を導入することは、少なくとも1本のリード線、または少なくとも1本のカテーテルを、ポリマ装置に通過させることと、少なくとも1本のリード線またはカテーテルが、植込型医療装置のハウジングから治療部位まで延びるように、少なくとも1本のリード線またはカテーテルを医療装置のハウジングに連結することとを含む、第15または16の方法。
【0015】
第18例において、ポリマ装置を導入することは、ポリマ装置の端部が、リード線またはカテーテルが貫通する血管に隣接またはその内部に位置するように、少なくとも1本のリード線または少なくとも1本のカテーテルに沿ってポリマ装置の位置を調節することを含む、第16例の方法。
【0016】
第19例において、ポリマ装置は、ポリマテープとして形成され、ポリマ装置を導入することは、少なくとも1本のリード線または少なくとも1本のカテーテルの周囲に管状形状を形成する為に、ポリマテープで少なくとも1本のリード線または少なくとも1本のカテーテルを巻くことと、リード線またはカテーテルが植込型医療装置のハウジングから治療部位に延びるように、少なくとも1本のリード線または少なくとも1本のカテーテルを医療装置のハウジングに接続することを含む、第15または16例の方法。
【0017】
第20例において、ポリマ装置は、ポリマ装置の端部が、リード線またはカテーテルが通過する血管に隣接、または、血管内に位置するように導入される、第19例の方法。
第21例において、ポリマ装置を導入することは、皮下ポケットの周長の大部分にポリマ装置を適合させることを含む、第15例の方法。
【0018】
第22例は、電気刺激治療を実施するための動作回路を含むハウジングと、ハウジングに接続されてハウジングから治療部位まで延びる少なくとも一本の長尺状のリード線と、第1〜7例に記載のいずれか1つに係るポリマ装置とを含む植込型医療装置。
【0019】
第23例は、電気刺激治療を実施するための動作回路を含むハウジングと、ハウジングに接続されてハウジングから治療部位まで延びる少なくとも一本の長尺状のリード線と、ポリマ装置と、を含む植込型医療装置である。ポリマ装置は、管状形状を有し、少なくとも1本の長尺状リード線の一部の周囲に適合するように構成される。ポリマ装置は、生体吸収性ポリマ構造体と同構造体から溶離するように構成された抗菌剤とを含む。
【0020】
第24例において、前記管状形状は、少なくとも1本の長尺状リード線の周りに生体吸収性ポリマのリボンを巻くことによって形成される、第23例の植込型医療装置。
第25例において、前記構造体は、生体吸収性ポリマで形成された複数のポリマ繊維を含む、第23例の植込型医療装置。
【0021】
第26例において、前記抗菌剤は、ポリマ繊維間の間隙内に配置される、第25例の植込型医療装置。
第27例において、前記抗菌剤は、生体吸収性ポリマ内に配置される、第23〜26例のいずれか1つの植込型医療装置。
【0022】
第28例において、前記植込型医療装置は、ハウジングに連結された複数の長尺状リード線をさらに含み、ポリマ装置は、複数の長尺状リード線の一部の周囲に適合するように構成される、第23〜27例のいずれか1つの植込型医療装置。
【0023】
多数の実施形態が開示されているが、当業者であれば、本願発明に係る例示の実施形態を示し、且つ、説明する以下の詳細な説明から、本願発明に係るその他の実施形態は明白であろう。したがって、図面及び詳細な説明は、例示であって、限定ではないと理解されたい。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本願発明の実施形態に係る患者の体内に皮下的に植込まれた植込型医療装置を示す概略図。
図2】本願発明の実施形態に係るポリマ装置を含む図1の植込型医療装置を示す概略図。
図3】本願発明の実施形態に係るポリマ装置を含む別の植込型医療装置を示す概略図。
図4】患者の体内に皮下的に植込まれた図1のポリマ装置を含む植込型医療装置の一部を示す拡大概略図。
図5】本願発明の実施形態に係る患者の体内に皮下的に植込まれた植込型医療装置の一部とポリマ装置とを示す拡大概略図。
図6】本願発明の実施形態に係る患者の体内に皮下的に植え込まれた植込型医療装置の一部とポリマ装置とを示す拡大概略図。
図7】様々な溶剤混合物で電子スピニングすることによって形成された生体吸収性ポリマ構造体を示す写真。
図8】様々な溶剤混合物で電子スピニングすることによって形成された生体吸収性ポリマ構造体を示す写真。
図9】様々な溶剤混合物で電子スピニングすることによって形成された生体吸収性ポリマ構造体を示す写真。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明は、様々な変更形態や変化形態が可能であるが、特別な実施形態が、例示の方法によって図面に示され、以下の詳細な説明で説明されている。しかしながら、この意図は、本願発明を記載した特定の実施形態に限定することではない。むしろ、その意図は、添付の請求項によって定義されているように、本願発明の範囲に入る全ての変更形態、均等形態、及び変化形態を包含させることにある。
【0026】
図1は、感染を防止する為に、皮下ポケット内に植込まれた植込型医療装置とポリマ装置とを用いた医療応用の例示であって、限定例ではない例を示す。用途および位置は、単なる例示であって、本願発明に係る実施形態を備える植込型医療装置は、様々な生体構造の位置において使用され、且つ、様々な目的で使用することが可能である。
【0027】
図1は、本願発明の実施形態に係る植込型医療装置を示す概略図である。図1は、心臓の調律管理システムの形式を有する植込型医療装置(IMD:implantable medical device)10の例を示す。図1に示すように、IMD10は、ハウジング12と、ハウジング12を患者の心臓18内部の治療部位につなぐ複数本のリード線14,16を備える。ハウジング12は、例えば、ペースメーカまたはパルス発生器であって、電子回路(図示略)とバッテリ(図示略)とを備える。リード線14,16は、必要に応じて、ハウジング12と心臓18との間で電気パルスおよび信号を伝達する為に伝導体と電極(図示略)とを含む。図1に示すように、心臓18は、右心室20と右心房22とを有する。心臓18に血液を供給する主要な一連の静脈は、左腋窩静脈24を含み、左腋窩静脈24は左鎖骨下静脈26に合流し、左鎖骨下静脈26は左腕頭静脈28に合流する。左腕頭静脈28は、上大静脈30に合流して右心房22に血液を供給する。
【0028】
図1にさらに示すように、複数本のリード線14,16は、血管への入り口32を通って血管系に入る。いくつかの実施形態では、血管への入り口32は、左腋窩静脈24の壁に形成される。別の実施形態では、血管への入り口32は、左鎖骨下静脈26の壁に形成される。複数本のリード線14,16は、左腋窩静脈24から延び、左鎖骨下静脈26と、左腕頭静脈28と、上大静脈30とを通って、心臓18に延びる。心臓18内では、リード線14は、右心室20内に植込まれ、リード線16は、右心房22に植込まれている。したがって、右心室20と右心房22とは、リード線14,16を用いて、ハウジング12から伝達された電気パルスの形式でIMD10からの治療を受け取る心臓18内の治療部位となる。いくつかの実施形態では、ハウジング12は、治療を成功させる為に、皮下ポケット34を取り囲む組織に対して電気接地を必要とする場合がある。
【0029】
図1に示すように、ハウジング12は、患者の胸部の皮下ポケット34内に植込まれる。ハウジング12から血管への入り口32まで延びるリード線14,16の一部も、皮下ポケット34内に配置される。リード線14,16の余剰分は、皮下ポケット34内のハウジング12の周囲に巻回されてもよい。
【0030】
図1に示すように、IMD10は、下記に説明するように、IMD10を植え込むことで生じる感染を防止する為に、皮下ポケット34内に植込まれるポリマ装置36も含む。ポリマ装置36は、生体吸収性のポリマで形成される構造体と抗菌剤とを含む。いくつかの実施形態では、生体吸収性ポリマは、ポリ(乳酸‐co‐グリコール酸)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリ‐L‐乳酸(PLLA)、または、ポリ(ラクチド‐co−グリコリド)‐ブロック‐ポリエチレングリコール(PLGA‐b‐PEG)または、上記ポリマの組み合わせが含まれる。いくつかの実施形態では、ポリマ装置36は、完全に生体吸収性である。ここで用いるように、生体吸収性(bioresorbable)ポリマは、生体から完全に除去される程度まで、生体系によって崩壊されうるポリマである。これは、生体系によって崩壊されるが、体内から必ずしも完全に除去されるとは限らないポリマである生体吸収性(bioabsorbable)ポリマとは異なる。
【0031】
抗菌剤は、ポリマ装置26の構造体から溶離するように構成される。いくつかの実施形態では、抗菌剤は、生体吸収性ポリマ内に配置される。つまり、抗菌剤は、生体吸収性ポリマが崩壊して、抗菌剤が放出されるように、生体吸収性ポリマと一体化される。例えば、抗菌剤が、ポリマ装置36を形成する前に生体吸収性ポリマ内に混合された銀塩である場合には、銀イオンは、生体吸収性ポリマが崩壊した際に放出される。いくつかの実施形態では、抗菌剤は、硝酸銀または、塩化銀などの銀塩を含む。別の実施形態では、抗菌剤は、銀のナノ粒子を含む。また別の実施形態では、抗菌剤は、抗菌作用を有する他の金属、例えば金または銅などの塩、またはナノ粒子を含む。このような実施形態では、抗菌剤は、生体吸収ポリマが生体吸収される際に、生体吸収ポリマ装置36から溶離する。
【0032】
別の実施形態では、ポリマ装置36の構造体は、生体吸収性ポリマで形成される複数本の繊維を含む。抗菌剤は、複数本の繊維によって形成された間隙内に配置される。このような実施形態では、抗菌剤は、間隙内に固体として、または間隙内に液体として、または間隙内にエマルジョンとして、または間隙内に懸濁液として供給される。抗菌剤は、バンコマイシン、ミノサイクリン、ゲンタマイシン、またはリファンピン、または上述の抗菌剤のいずれかなど、当業者が知る抗生物質、または抗生物質の組み合わせを含む。いくつかの実施形態では、抗菌剤は、生体吸収ポリマ装置36が実質的に生体吸収される前に、繊維間の間隙からほぼ完全に溶離し得る。例えば、抗菌剤は、数日でほぼ完全に溶離するが、生体吸収性ポリマ装置26は数週間実質的に生体吸収されない場合もある。別の実施形態では、抗菌剤は、生体吸収性ポリマ装置36の生体吸収性に大体比例して生体吸収性のポリマ装置36の間隙から溶離する。例えば、抗菌剤は、数日でほぼ完全に溶離し、生体吸収性ポリマ装置36も数日で実質的に生体吸収される。
【0033】
図1は、皮下的に植込まれたペースメーカのハウジングとリード線システムの形式を有するIMD10の例を示しているが、内在性の生理学的な電気的活動を検出すること、または患者の組織に治療用の刺激を供給すること、または、特定の治療部位に対して別の治療を実施することの為に皮下ポケットに植込まれたどのような植込型医療装置においても、様々な実施形態を実施することが可能である。例えば、実施形態は、皮下的に植込まれた植込型心臓除細動器(ICD:implantable cardioverter defibrillator)のハウジングとリード線システムと共に使用される。このようなシステムは、患者の胸部の皮下ポケットに植込まれたハウジングと、皮下ポケットから前胸部までの皮下経路を横切るリード線とを含む。実施形態は、ICDのハウジングを含む皮下ポケット内で、および、リード線が横切る皮下経路に沿って使用される。別のこのような植込型医療装置は、これらに限定されるものではないが、いくつか例を挙げるとすると、心臓除細動器、または心臓再同期化治療装置、またはリードレスペーシング装置、または心臓内リード線、または心臓上リード線、または、脊髄刺激や脳深部刺激装置のハウジングおよび対応するリード線などの神経刺激システム、及び植込型薬剤ポンプなどが含まれる。
【0034】
図2は、本願発明の実施形態に係るポリマ装置36を含む図1のIMD10を示す概略図である。図2に示すように、IMD10は、ハウジング12に連結されたヘッダ38をさらに含む。ヘッダ38は、複数個の端子ピン受承ポート40a,40bを有し、端子ピン受承ポート40a,40bは、ハウジング12内の電気回路(図示略)に対して電気的に接続されている。リード線14,16は、複数個の端子ピン42a,42bを含む。端子ピン42a,42bは、リード線14,16をハウジング12に接続する目的で、端子ピン受承ポート40a,40bの中に挿入される。図2に示すように、ポリマ装置36は、リード線14,16がポリマ装置36を貫通して通過するように、リード線14と16の周囲に適合する管状形状を有する。いくつかの実施形態では、ポリマ構造体は、弾性的であり、外科医が移動しないように努力しなくとも、ポリマ装置36がリード線14、16に沿って動くことがないようにリード線14,16の周囲にぴったりと適合するように形成される。いくつかの実施形態において、特定の患者に対して所望される場合に、外科医が、ポリマ装置36を配置することができれば、感染の防止および患者の快適性の観点で良い結果に繋がりうる。いくつかの実施形態では、ポリマ装置36は、外科医が、特定の患者に対して所望される場合に、ポリマ装置36を配置することをさらに容易にする為に可撓性である。
【0035】
いくつかの実施形態では、ポリマ装置36は、ポリマ装置36の長さを軸方向に延びる中空の開口を有する長尺形状を形成する為に、生体吸収性ポリマ構造体と抗菌剤とを一緒に除去することによって形成されてもよい。いくつかの実施形態では、ポリマ装置36は、管状形状を有する。いくつかの実施形態では、ポリマ装置36は、ポリマ装置36の長さを軸方向に延びる中空の開口を有する長尺形状を形成する為に、生体吸収性のポリマ構造体と抗菌剤とを成形することによって形成される。別の実施形態では、生体吸収性ポリマ構造体が除去され、または成形された後に、浸漬すること、または被覆すること、またはスプレイすることによって、抗菌剤が、液体形状で表面に施されてもよい。いくつかの実施形態では、抗菌剤は、当該技術分野で知られている蒸着技術(例えば、原子層堆積法、プラズマ増強化学蒸着法など)によって施されてもよい。いくつかの実施形態では、生体吸収性ポリマ構造体の表面上に施される抗菌剤は、抗菌剤を封入して抗菌剤の溶離速度を緩慢にする為に、ポリエチレングリコール(PEG)などの1つ以上の追加の生体吸収性ポリマでさらに被覆されてもよい。いくつかの実施形態では、追加の生体吸収性ポリマは、生体吸収性ポリマ構造体を形成するポリマと同じ種類であってもよい。別の実施形態では、追加の生体吸収性ポリマは、生体吸収性ポリマ構造体を形成するポリマとは異なる種類であってもよい。
【0036】
いくつかの実施形態において、ポリマ装置36は、管状形状を形成する為に、ポリマ繊維を押出しマンドレル等の円柱表面上のポリマ繊維として電子スピニング、または電子スプレイした後、ポリマ装置36を押出しマンドレルから取り除くことによって形成される。抗菌剤は、抗菌剤を含む固体、または溶液、またはエマルジョン、または懸濁液を間隙内に配置することによって、電子スピンまたは電子スプレイされた繊維によって形成された間隙内に配置する。例えば、固体は、プラズマ増強化学蒸着法、または低圧化学蒸着法、または大気圧蒸着法によって配置する。いくつかの実施形態では、抗菌剤を含む溶液、およびエマルジョン、並びに懸濁液は、浸漬すること、または浸すこと、またはスプレイすること、またはスピンコートすることによって配置しうる。いくつかの実施形態では、抗菌剤を封入する為に、抗菌剤は、電子スピンまたは電子スプレイ工程の間にスプレイされる。
【0037】
さらに別の実施形態では、ポリマ装置36は、管状形状を形成する為に、押出しマンドレル等の円柱表面上に生体吸収性ポリマをポリマ繊維として抗菌剤と共に電子スピンすることまたは電子スプレイした後、ポリマ装置36を押出しマンドレルから取り除くことによって形成する。いくつかの実施形態では、抗菌剤は、生体吸収性ポリマと共に、同軸上に電子スピニング、または電子スプレイされる。抗菌剤は、抗菌剤を含む固体、または溶液、またはエマルジョン、または懸濁液を間隙内に配置することによって電子スピン、または電子スプレイされた繊維によって形成された間隙内に配置されてもよい。間隙内に配置された抗菌剤の溶離速度は、繊維間の間隙を調節することによって制御することができ、間隙を大きくするほど溶離速度を速くすることができる。繊維間の間隙は、溶剤の構成要素など、電子スピンによる配置または電子スプレイによる配置の工程パラメータを調節することによって制御する。
【0038】
図2に関して上述した実施形態において、1個のポリマ装置36は、両方のリード線14,16の周囲を巻くとして説明されている。しかしながら、実施形態は、ポリマ装置36がリード線14,16のいずれか一方のみの周囲を巻くものも含むと解される。加えて、実施形態は、各ポリマ装置36が、リード線14,16のうちの少なくとも1つの周囲を巻く複数のポリマ装置36を含む場合もある。
【0039】
図3は、本願発明の実施形態に係るポリマ装置を含む別の植込型医療装置を示す概略図である。図3は、IMD110を示す。IMD110は、ポリマ装置36の代わりに、ポリマ装置136を備えること以外は上述のIMD10と同一である。ポリマ装置136は、ポリマ装置136が、最初にリボンまたはテープの形状などの、薄く、長く、そして比較的幅の狭い形状で形成された後、ポリマ装置136を通過するようにリード線14,16の周囲に適合する管状形状を形成する為に、リード線14,16の周囲に巻きつけられる以外は、上述のポリマ装置36と似ている。いくつかの実施形態では、ポリマ構造体は、弾性があり、且つ、ポリマ装置136がリード線14,16の周囲にぴったりと適合するようにリード線14,16の周囲に巻きつけられるように形成される。このようにぴったりと適合する為に、ポリマ装置136は、外科医が動かないように努力しなくとも、リード線14,16に沿ってそう簡単に移動することはない。
【0040】
いくつかの実施形態において、ポリマ装置136は、連続的な、オープンリール式の電子スピニング、または押出しによって形成される。いくつかの実施形態では、ポリマ装置136は、大きな直径のドラム上にバッチ処理することによって形成された後、長さに切断される。いくつかの実施形態では、ポリマ装置136は、12インチ(1インチ:25.4mm)と18インチ間の長さのロールで供給される。
【0041】
図4は、図1に示したように患者の体内に皮下的に植込まれたポリマ装置36を含むIMD10の一部を示す拡大概略図である。図4は、皮下ポケット34内においてリード線14,16の周囲に適合したポリマ装置36を示す。リード線14,16は、血管への入り口32を通って、左腋窩静脈24に入る。図4に示すように、ポリマ装置36は、ハウジング12の表面積を覆うことはない。別の実施形態では、ポリマ装置36は、リード線14,16がハウジング12の周囲を巻くようにハウジング12に隣接して配置される場合には、ハウジング12の表面積の一部を覆う場合がある。しかしながら、いずれの実施形態においても、ポリマ装置36が、以下に述べるようにハウジング12の表面積の20%以上を覆うことはない。
【0042】
動作中に、ポリマ装置36が一旦皮下ポケット34内に配置されると、内部の抗菌剤が同構造体から溶離して、皮下ポケット34内の感染を防止する。いくつかの実施形態では、抗菌剤は、ポリマ装置36の構造体の生体吸収に比較的関係なく溶離する。つまり、抗菌剤は、ポリマ装置の構造体が生体吸収される前に、ポリマ装置36から完全に溶離する場合がある。別の実施形態では、抗菌剤は、ポリマ装置36の構造体の生体吸収性にしたがって溶離する。別の実施形態では、抗菌剤の溶離は、構造体の生体吸収とは独立して溶離することと、構造体の生体吸収と共に溶離することとの組み合わせである。
【0043】
ポリマ装置36の構造体が生体吸収されると、皮下ポケット34が完全に治癒した後は、ポリマ装置36は残らない。ポリマ装置36は、完全に生体吸収された後、患者の体内から消失する為、患者に対して長期間の不快症状、または合併症を引き起こすことはないであろう。
【0044】
上述したように、いくつかの実施形態では、IMD10は、治療を成功させる為に、ハウジング12と皮下ポケット34の周囲の組織との間で電気接地を必要とする場合がある。ハウジング12の表面積の大部分を覆ういずれの材料または装置も、IMD10の電気接地に干渉する可能性がある。この干渉は、生体吸収されることなどによって、ハウジングの表面積を覆う材料または装置が変化して、大きさが変化またはドリフトした場合には、特に問題になる可能性がある。しかしながら、ポリマ装置36がハウジング12の表面積を覆うのは20%未満である為、ポリマ装置36の生体吸収が、IMD10の動作や治療提供能力に問題となる変化をもたらすことはないと思われる。
【0045】
ここで説明したように、植込まれる際に、ハウジング12の表面積は、ポリマ装置36で覆われる。ポリマ装置36によって覆われるIMD10の面積の割合は、ポリマ装置36と物理的に実質的に接触するハウジング12の面積を求めることによって決定することができる。ハウジング12の総面積は、ハウジング12の外表面の総計である。ハウジング12の総面積は、ハウジング12に接続されるヘッダ38などの部品を含まない。ポリマ装置36によって覆われるIMD10の面積の割合は、ポリマ装置36と物理的に実質的に接触するハウジング12の面積をハウジング12の総面積で割ったものであり、その割合はパーセントで表示される。
【0046】
いくつかの実施形態では、ポリマ装置36は、ハウジング12の表面積の15%未満、または10%未満、または5%未満、または1%未満を覆う。いくつかの実施形態では、ポリマ装置36は、ハウジングの表面積を覆うことはない。ハウジング12の表面積の20%未満を覆うことによって、ポリマ装置36の生体吸収が、IMD10によって実施される治療を妨げるほどの大きなIMD10の電気接地の変化を引き起こすことはないであろう。
【0047】
図5は、皮下ポケット34内のリード線14,16周囲に適合したポリマ装置36を含む本願発明の実施形態に係るIMD10の一部を示す拡大概略図である。図5の実施形態は、ポリマ装置36の端部が、図5に示すように、左腋窩静脈24に隣接またはその内部に位置するようにリード線14、16に沿って調節されている以外は、図4の実施形態と同一である。いくつかの実施形態では、ポリマ装置36は、すくなくとも「実質的に」皮下ポケット34内に位置する。いくつかの実施形態では、この「実質的に」とは、ポリマ装置34の少なくとも約80%が、皮下ポケット34内に存在することを意味する。別の実施形態では、「実質的に」とは、ポリマ装置36の少なくとも約85%、または約90%、または約95%、または約99%が皮下ポペット34内に存在することを意味する。いくつかの実施形態では、ポリマ装置36全体が皮下ポケット34内に完全に位置し、ポリマ装置36の端部は、血管への入り口32に隣接する左液窩静脈24に物理的に接する。
【0048】
動作中に、ポリマ装置36が一旦左液窩静脈24に隣接またはその内部に位置すると、内部の抗菌剤は、構造体から溶離して感染源を防止するが、抗菌剤は、血管への入り口32を通って血管系に入るまで、皮下ポケット内でまず検出されるであろう。ポリマ装置36は、皮下ポケット34内に実質的に配置される為、その内部の抗菌剤は、構造体から溶離して皮下ポケット34内において感染を防止することができる。
【0049】
図6は、植込型医療装置の一部と、本願発明の実施形態に係る患者の体内に皮下的に植込まれるポリマ装置とを示す拡大概略図である。図6は、図1に関してIMD10について上述したように、患者の体内に植込まれたIMD210を示す。IMD210は、ポリマ装置36を含まない以外は、IMD10と同一である。図6の実施形態は、ポリマ装置236を含む。ポリマ装置236は、上述したポリマ装置36と同じ材料で形成され、生体吸収性ポリマと構造体から溶離するように構成された抗菌剤から成る構造体とを含む。ポリマ装置236は、長尺形状を有する。図6の実施形態で示すように、ポリマ装置236は、織成されたポリマ繊維の索状体の形状をなす。ポリマ繊維は、電子スピニングすること、または電子スプレイすることによって形成される。別の実施形態では、ポリマ装置236は、ポリマの押出し長さの形状をなす。
【0050】
ポリマ繊維236は、皮下ポケット34内に植込まれるように構成され、且つ、皮下ポケット34の周長の大部分に適合するように構成される。図6に示すように、ポリマ装置236は、皮下ポケット34の周長のほぼ全体に適合する場合がある。いくつかの実施形態では、大部分とは、皮下ポケット34の周長の少なくとも50%を意味する。別の実施形態では、大部分とは皮下ポケット34の周長の少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも100%を意味する。いくつかの実施形態では、ポリマ装置236は、ポリマ装置236が皮下ポケット34の周長の100%の周囲に適合し、且つ、ポリマ装置236の両端部が互いにオーバーラップするように皮下ポケット34の周長よりも長い場合がある。いくつかの実施形態では、外科医は、所望により、皮下ポケット34の周長に適合させる為に、ポリマ装置236を特定の長さに切断することができる。外科医が、特定の患者に対してポリマ装置236の特別の長さにすることができることによって、感染防止、および患者の快適性という観点において、より良い結果に結びつく可能性がある。
【0051】
動作時において、ポリマ装置236が一旦皮下ポケット34の周長の大部分に適合されると、内部の抗菌剤が構造体から溶離して皮下ポケット34内の感染を防止する。上述のポリマ装置36のように、ポリマ装置236の構造体が生体吸収されると、皮下ポケット34が完全に治癒した後は、ポリマ装置236は残らないであろう。つまり、ポリマ装置236は、完全に生体吸収される。ポリマ装置236が完全に生体吸収されるため、患者に対して長期間の不快症状または感染症状を生じることなく、ポリマ装置236は、患者の体内から排除される。
【0052】
ポリマ装置36のように、ポリマ装置236は、ハウジング12の表面積の20%未満を覆いうる。ここで説明したように、植込まれる際に、ハウジング12の表面積は、ポリマ装置236によって覆われる。いくつかの実施形態では、ポリマ装置236は、ハウジング12の表面積の15%未満、10%未満、5%未満、1%未満を覆いうる。いくつかの実施形態では、図6に示した実施形態のように、ポリマ装置236は、ハウジング12の表面積を覆わない場合もある。ハウジング12の表面積の20%未満を覆うことによって、ポリマ装置236が生体吸収されても、IMD210によって提供される治療を妨げるほどの大きなIMD210の電気接地の変化を生じることはないであろう。
【0053】
ポリマ装置236は、生体吸収性ポリマと抗菌剤とから形成される構造体を含む。いくつかの実施形態において、生体吸収性ポリマには、ポリ(乳酸‐co‐グリコール酸)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリ‐L‐乳酸(PLLA)、ポリ(ラクチド‐co−グリコリド)‐ブロック‐ポリエチレングリコール(PLGA‐b−PEG)、または上記ポリマの組み合わせが含まれる。いくつかの実施形態では、ポリマ装置236は、完全に生体吸収される。
【0054】
抗菌剤は、ポリマ装置236の構造体から溶離するように構成されうる。いくつかの実施形態では、抗菌剤は、生体吸収性ポリマ内に配置される。つまり、抗菌剤は、生体吸収性ポリマが崩壊されて抗菌剤が放出されるように、生体吸収性ポリマに一体化されてもよい。例えば、抗菌剤が、ポリマ装置236を形成する前に生体吸収性ポリマに混合された銀塩である場合には、銀イオンは、生体吸収性ポリマが崩壊された際に放出される。いくつかの実施形態において、抗菌剤は、硝酸銀または塩化銀などの銀塩を含む。別の実施形態では、抗菌剤は、金または銅等の、抗菌作用を有する他の金属の塩またはナノ粒子を含む。このような実施形態では、抗菌剤は、生体吸収性ポリマが生体吸収された際に、生体吸収性ポリマ装置236から溶離する。
【0055】
別の実施形態では、ポリマ装置236の構造体は、生体吸収性ポリマで形成された複数の繊維を含む。抗菌剤は、複数の繊維によって形成された間隙内に配置される。このような実施形態では、抗菌剤は、間隙内の固体、または間隙内の溶液、または間隙内のエマルジョン、または間隙内の懸濁液として供給される。抗菌剤は、バンコマイシン、またはミノサイクリン、またはゲンタマイシン、またはリファンピン、または上述の抗菌剤のいずれかなど、当該分野で知られているどのような抗生物質または抗生物質の組み合わせを含んでもよい。いくつかの実施形態では、抗菌剤は、生体吸収性ポリマ装置236が実質的に生体吸収される前に、ほぼ完全に繊維間の間隙から溶離する。例えば、抗菌剤は、数日でほぼ完全に溶離されるが、生体吸収性ポリマ繊維236は、数週間、実質的に生体吸収されない場合もある。別の実施形態では、抗菌剤は、生体吸収性ポリマ236の生体吸収にほぼ比例して生体吸収性ポリマ装置236の間隙から溶離する。例えば、抗菌剤は、数日でほぼ完全に溶離し、生体吸収性ポリマ装置236も数日で実質的に生体吸収される。
【0056】
いくつかの実施形態では、ポリマ装置236は、長尺形状を形成する為に、生体吸収性ポリマ構造体と抗菌剤とを一緒に取り除くことによって形成される。別の実施形態では、ポリマ装置236は、長尺形状を形成する為に、生体吸収性ポリマ構造体と抗菌剤とを共に成形することによって形成される。別の実施形態では、生体吸収性ポリマ構造体は、まず除去または成形されて、その後、浸漬すること、または被覆すること、またはスプレイすることによって、抗菌剤が、液体の形式で表面上に配置される。いくつかの実施形態では、抗菌剤は、当該分野で知られる蒸着技術(例えば原子層堆積法、プラズマ増強化学蒸着法など)によって配置される。いくつかの実施形態では、生体吸収性ポリマ構造体の表面上に配置された抗菌剤は、抗菌剤を封入し、且つ、溶離性を高める為に、ポリエチレングリコール(PEG)などの1つ以上の追加の生体吸収性ポリマでさらにコートされる場合がある。いくつかの実施形態では、追加の生体吸収性ポリマは、生体吸収性ポリマ構造体を形成するポリマと同じ種類である。別の実施形態では、追加のポリマは、生体吸収性ポリマ構造体を形成したポリマとは異なる種類である。
【0057】
いくつかの実施形態では、ポリマ装置236は、ポリマ繊維として生体吸収性ポリマを電子スピニングまたは電子スプレイした後、ポリマ繊維をポリマ装置236の構造体に織ることによって形成される。抗菌剤は、抗菌剤を含む固体、または溶液、またはエマルジョン、または懸濁液を間隙内に配置する方法によって、電子スピンまたは電子スプレイされた繊維によって形成された間隙内に配置される。例えば、固体は、プラズマ化学蒸着法、または低圧化学蒸着法、または大気圧蒸着法によって配置される。溶液、エマルジョン、および懸濁液は、浸漬すること、または浸すこと、またはスプレイすること、またはスピンコートすることによって配置される。いくつかの実施形態では、抗菌剤は、抗菌剤を封入する為に、電子スピニング工程、または電子スプレイ工程の間にスプレイされる場合もある。
【0058】
さらに別の実施形態では、ポリマ装置236は、生体吸収性ポリマをポリマ繊維として抗菌剤と共に電子スピニングすること、および電子スプレイすることによって形成されたのち、ポリマ繊維は、ポリマ装置236用の構造体に織られる。いくつかの実施形態では、抗菌剤は、生体吸収ポリマと共に、同軸上に電子スピン又は電子スプレイされる。抗菌剤は、抗菌剤を含む固体、または溶液、またはエマルジョン、または懸濁液を間隙内に配置することによって電気スピンニングまたは電気スプレイされた繊維によって形成された間隙内に配置されてもよい。間隙内に配置された抗菌剤の溶離速度は、繊維間の間隔を調節することによって制御することができ、間隔が大きいほど溶離速度は速くなる。繊維間の間隙は、溶剤の構成要素などの電子スピニング配置工程、または電子スプレイ配置工程の工程パラメータを調整することによって制御する。
【0059】
上記の実施形態は、パルス発生器と一対のリード線を有する心臓調律管理システムの形式を有する植込型医療装置を例に説明されている。しかしながら、実施形態は、薬剤ポンプとカテーテルを有する薬剤供給システムなどの別の植込型医療装置を包囲してもよいと解される。
【0060】
本願発明の範囲を逸脱することなく、説明した例示の実施形態に対して様々な変更及び追加が可能である。例えば、上述した実施形態が、特定の要素に言及していても、本願発明の範囲には、要素の異なる組み合わせを有する実施形態や記載した要素の全てを含まない実施形態も含まれる。したがって、本願発明の範囲には、請求項およびそのすべての均等物の範囲に入る全ての代替形態、変更形態、および変化形態が含まれることが意図されている。
実施例
以下の例は、例示であって限定することを意図してない。
生体吸収性ポリマ構造の準備
複数の生体吸収性ポリマの構造体は、標的表面上にテトラヒドロフラン(THF)およびジメチルホルムアミド(DMF)を様々な比で混合した溶剤に溶解したポリ(乳酸‐co‐グリコール酸)(PLGA)を電子スピニングすることによって準備した。THFとDMFの割合を変えることによって、様々な繊維サイズと繊維間間隙を作成した。繊維間の間隙を調節することによって、間隙内に入りこんだ抗菌剤の溶離速度を制御する。
【0061】
各例は、重量/体積ベースの比率で50%のポリマを溶剤混合液に加えたものを用いて電子スピニングを行った(例えば、10mlの溶剤混合液に溶解された5gのポリマは、50重量/体積%をなす)。スピニングは、23℃の温度で、22〜23%の相対湿度を有する空気中で実施した。溶解されたポリマは、22ゲージの電子スピニングノズルを通過して約0.3ml/時間の流速で電子スピニングした。電子スピニングするノズルと標的表面間の距離は、約15cmであった。
【0062】
図7は、THFとDMFを2:1で混合した溶剤を用いて、上述の電子スピニングによって形成した生体吸収性ポリマ構造体を示す写真である。この構造体は、約1000倍拡大されている。
【0063】
図8は、THFとDMFを1:1で混合した溶剤を用いて、上述の電子スピニングによって形成した生体吸収性ポリマ構造体を示す写真である。構造体は、約1000倍拡大されている。図8に示す構造体は、図7に示した構造体に比べて、平均繊維直径がより細く、平均繊維間間隙がより狭くなっている。
【0064】
図9は、THFとDMFを1:2で混合した溶剤を用いて、上述の電子スピニングによって形成した生体吸収性ポリマ構造体を示す写真である。構造体は、約1000倍拡大されている。図9に示す構造体は、図8に示した構造体に比べて、平均繊維直径はより細く、平均繊維間間隙はより狭くなっている。
【0065】
このように、繊維間の平均間隙は、DMFに対するTHFの割合を低下させると減少し、DMFに対するTHFの割合を変化させることによって調節することが可能である。このようにして、繊維間の間隙内に配置した抗菌剤の溶離速度も調節することが可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9