(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6703089
(24)【登録日】2020年5月11日
(45)【発行日】2020年6月3日
(54)【発明の名称】MEMSマイクロホン
(51)【国際特許分類】
H04R 19/04 20060101AFI20200525BHJP
【FI】
H04R19/04
【請求項の数】15
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2018-502717(P2018-502717)
(86)(22)【出願日】2017年11月30日
(65)【公表番号】特表2020-502827(P2020-502827A)
(43)【公表日】2020年1月23日
(86)【国際出願番号】CN2017113952
(87)【国際公開番号】WO2019100432
(87)【国際公開日】20190531
【審査請求日】2018年1月19日
(31)【優先権主張番号】201711192077.3
(32)【優先日】2017年11月24日
(33)【優先権主張国】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】517399181
【氏名又は名称】ゴルテック インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000408
【氏名又は名称】特許業務法人高橋・林アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】ゾウ カンボ
(72)【発明者】
【氏名】ワン ジェ
(72)【発明者】
【氏名】ドン ヨンウェイ
【審査官】
堀 洋介
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2017/0260040(US,A1)
【文献】
特開2014−023002(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2015/0001647(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2015/0256913(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2015/0125984(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 19/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
MEMSマイクロホンにおいて、
基板と、
第1の振動板と、
第2の振動板と、
前記第1の振動板と前記第2の振動板との間に形成される密封室と、
前記密封室内に位置し且つ前記第1の振動板及び前記第2の振動板とコンデンサ構造を構成する背極ユニットと、
前記背極ユニットの両側を貫通する複数の貫通孔と、を含み、
前記密封室内に前記MEMSマイクロホンの動作条件下で粘性係数が空気より小さい気体が充填されていることを特徴とするMEMSマイクロホン。
【請求項2】
前記気体は、イソブタン、プロパン、プロピレン、H2、エタン、アンモニア、アセチ
レン、クロロエタン、エチレン、CH3Cl、メタン、SO2、H2S、塩素ガス、CO2、N2O、N2のうちの少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載のMEMSマイクロホン。
【請求項3】
前記密封室は外部環境の圧力と一致することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のMEMSマイクロホン。
【請求項4】
前記密封室の圧力は標準気圧であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のMEMSマイクロホン。
【請求項5】
前記密封室と外部環境の圧力差は0.5atm未満であることを特徴とする請求項1または請求項2または請求項4に記載のMEMSマイクロホン。
【請求項6】
前記密封室と外部環境の圧力差は0.1atm未満であることを特徴とする請求項5に記載のMEMSマイクロホン。
【請求項7】
前記第1の振動板及び前記第2の振動板それぞれの前記背極ユニットとの間の隙間は0.5〜3μmであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のMEMSマイクロホン。
【請求項8】
前記第1の振動板と前記第2の振動板の間に支持柱がさらに設置され、
前記支持柱は前記背極ユニットにおける前記貫通孔を貫通し且つその両端のそれぞれが前記第1の振動板及び前記第2の振動板に接続されることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載のMEMSマイクロホン。
【請求項9】
前記支持柱の材料は前記第1の振動板および/または前記第2の振動板の材料と同じであることを特徴とする請求項8に記載のMEMSマイクロホン。
【請求項10】
前記支持柱は絶縁材料で形成されることを特徴とする請求項8に記載のMEMSマイクロホン。
【請求項11】
前記背極ユニットは背極板であり、前記背極板と前記第1の振動板及び第2の振動板それぞれとでコンデンサ構造を構成することを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載のMEMSマイクロホン。
【請求項12】
前記背極ユニットは、前記第1の振動板とコンデンサ構造を構成するための第1の背極
板、および前記第2の振動板とコンデンサ構造を構成するための第2の背極板を含み、前記第1の背極板と前記第2の背極板の間に絶縁層が設置されていることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載のMEMSマイクロホン。
【請求項13】
前記密封室は、常温および常圧環境で密封されることを特徴とする請求項1〜12のいずれか1項に記載のMEMSマイクロホン。
【請求項14】
前記第1の振動板及び前記第2の振動板を貫通する放圧孔をさらに含み、
前記放圧孔の孔壁と前記第1の振動板及び前記第2の振動板とが前記密封室を囲んで形成することを特徴とする請求項1〜13のいずれか1項に記載のMEMSマイクロホン。
【請求項15】
前記放圧孔は1つ設置されており、前記第1の振動板及び前記第2の振動板の中部位置に位置する、または、前記放圧孔は複数設置されていることを特徴とする請求項14に記載のMEMSマイクロホン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は音響電気分野に関し、さらに具体的にはマイクロホンに関し、特にMEMSマイクロホンに関する。
【背景技術】
【0002】
MEMS(微小電気機械システム)マイクロホンはMEMS技術により製造されたマイクロホンであり、その中の振動板、背極はMEMSマイクロホン内の重要な部材であり、振動板、背極がシリコンウェハに集積されるコンデンサを構成し、音響電気の変換を実現する。
【0003】
従来のこのようなコンデンサ型マイクロホンでは、振動板と背極の間の圧力を均衡させるために、通常は背極に貫通孔が設置される。しかし、一方、該貫通孔は減衰された毛細管吸音構造を形成し、この構造は音響伝搬経路における音響抵抗を高める。音響抵抗の上昇は、空気の熱雑音が背景雑音の上昇を招き、最終的にSNRを下げることを意味する。さらに、振動板とバックプレートの間の隙間においても空気減衰が発生し、これはマイクロホンノイズの音響インピーダンスのもう一つの重要な影響要素である。以上2つの空気減衰は、通常はマイクロホンノイズに主に寄与するものであり、これは高いSN比(SNR)のマイクロホンを実現する上でのボトルネックである。
【0004】
既存の市場ではダブル振動板のマイクロホン構造が登場し、該マイクロホン構造の2つの振動板はエアシールの密封室を囲んで形成し、2つの振動板の間に貫通孔を有する中央背極が設置されており、該中央背極は2つの振動板の密封室内に位置し、且つ2つの振動板と差動コンデンサ構造を構成する。その中に、2つの振動板の中部位置を支持するための支持柱がさらに設置されている。
【0005】
このような構造のマイクロホンは、特に空気が密封室内にあり、これは従来のマイクロホンと比べてより高い音響インピーダンスを有するため、雑音もより高くなる。また、密封室の圧力が外部の圧力より高いとき、2つの振動板がその外側へ膨らむ現象が生じ、その逆の場合には、背極方向へ変形する(窪む)現象が生じる。このような振動板の間隙の変化により、静的な環境圧力の変化がマイクロホンの性能(例えば感度)に影響する。特に温度が高くなると、周囲の環境と密封室内の圧力の差が大きくなる。
【0006】
また、支持柱の設置は振動板の剛性を高くし、振動板が音圧の状態を良好に表すことができなくなり、振動板の振動の感度を下げることで、一定の程度でマイクロホンの性能に影響する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的はMEMSマイクロホンの新たな手段を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の手段は、基板と、間に密封室が形成される第1の振動板、第2の振動板と、密封室内に位置し且つ第1の振動板、第2の振動板とコンデンサ構造を構成し、その両側を貫通する複数の貫通孔が設置されている背極ユニットと、を含み、前記密封室内に粘性係数が空気より小さい気体が充填されているMEMSマイクロホンを提供する。
【0009】
前記気体は、イソブタン、プロパン、プロピレン、H2、エタン、アンモニア、アセチレン、クロロエタン、エチレン、CH3Cl、メタン、SO2、H2S、塩素ガス、CO2、N2O、N2のうちの少なくとも1種であるようにしてもよい。
【0010】
前記密封室は外部環境の圧力と一致するようにしてもよい。
【0011】
前記密封室の圧力は標準気圧であるようにしてもよい。
【0012】
前記密封室と外部環境の圧力差は0.5atm未満であるようにしてもよい。
【0013】
前記密封室と外部環境の圧力差は0.1atm未満であるようにしてもよい。
【0014】
前記第1の振動板、第2の振動板それぞれの背極ユニットとの間の隙間は0.5〜3μmであるようにしてもよい。
【0015】
前記第1の振動板と第2の振動板の間に支持柱がさらに設置されており、前記支持柱は背極ユニットにおける貫通孔を貫通し且つその両端それぞれが第1の振動板、第2の振動板に接続されるようにしてもよい。
【0016】
前記支持柱の材料は第1の振動板および/または第2の振動板の材料と同じであるようにしてもよい。
【0017】
前記支持柱は絶縁材料で形成されるようにしてもよい。
【0018】
前記背極ユニットは背極板であり、前記背極板と第1の振動板、第2の振動板それぞれとでコンデンサ構造を構成するようにしてもよい。
【0019】
前記背極ユニットは、第1の振動板とコンデンサ構造を構成するための第1の背極板、および第2の振動板とコンデンサ構造を構成するための第2の背極板を含み、前記第1の背極板と第2の背極板の間に絶縁層が設置されているようにしてもよい。
【0020】
前記密封室は、常温および常圧環境で密封されるようにしてもよい。
【0021】
第1の振動板、第2の振動板を貫通する放圧孔をさらに含み、前記放圧孔の孔壁と第1の振動板、第2の振動板とが前記密封室を囲んで形成するようにしてもよい。
【0022】
前記放圧孔は1つ設置されており、第1の振動板、第2の振動板の中部位置に位置する、または、前記放圧孔は複数設置されるようにしてもよい。
【0023】
本発明のMEMSマイクロホンは、密封室内に粘性係数が空気より小さい気体を充填することにより、2つの振動板が背極に対し運動する際の音響抵抗を大幅に低減することでマイクロホンのノイズを低減することができる。同時に、密封室内の圧力を外部環境の圧力と一致させることができるように、低粘性係数の気体を用いて充填することにより、圧力差による振動板のたわみ問題を回避し、マイクロホンの性能を保証する。
【0024】
以下の図面を参照した本発明の例示的実施例についての詳しい説明により、本発明のその他の特徴およびその利点が明確になる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
明細書の一部を構成する図面は、本発明の実施例を示し、且つ明細書とともに本発明の原理を解釈するために用いる。
【
図1】本発明におけるマイクロホンの第1の実施の態様の構成を示す模式図である。
【
図2】本発明におけるマイクロホンの第2の実施の態様の構成を示す模式図である。
【
図3】本発明におけるマイクロホンの第3の実施の態様の構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
ここで、図面を参照しながら本発明の様々な例示的実施例を詳しく説明する。特に断らない限り、これら実施例において説明する部材およびステップの相対的配置、数式および数値は本発明の範囲を限定するものではないことに注意すべきである。
【0027】
以下の少なくとも1つの例示的実施例についての記述は、実際には単なる説明にすぎず、本発明およびその応用または使用に対するいかなる限定でもない。
【0028】
当業者が既知の技術および設備について詳しく述べることはないが、適宜の状況において、既知の技術および設備は明細書の一部とみなすものとする。
【0029】
ここで示し述べる全ての例において、いかなる具体的な値も例示的なものにすぎず、限定するものではないと解釈されるべきである。したがって、例示的実施例のその他の例は異なる値を有してもよい。
【0030】
類似する符号およびアルファベットは以下の図面において同様の項目を示すことから、ひとたびある項目が1つの図面において定義されれば、それ以降の図面ではそれについてさらに述べる必要はないことに注意すべきである。
【0031】
図1を参照する。本発明が提供するMEMSマイクロホンは、ダブル振動板マイクロホン構造である。具体的には、基板1、および基板1に形成される第1の振動板3、第2の振動板2ならびに背極ユニットを含む。本発明の振動板および背極ユニットは堆積、エッチングの方式により基板1に形成されてもよく、基板1には単結晶シリコン材料を用いてもよく、振動板、背極ユニットには単結晶シリコンまたは多結晶シリコン材料を用いてもよく、このような材料の選択および堆積の工程は当業者の公知の常識であり、ここでは具体的に説明しない。
【0032】
図1を参照する。基板1の中部領域に背面キャビティが設置されている。第2の振動板2と基板1の間の絶縁性を保証するために、第2の振動板2と基板1の間の接続位置に絶縁層が設置されており、該絶縁層には当業者に公知のシリカ材料を用いてもよい。
【0033】
該実施例では、本発明の背極ユニットは背極板4であり、背極板4にその両側を貫通する複数の貫通孔5が設置されている。背極板4は、第2の振動板2との間に所定の隙間を有し、両者がコンデンサ構造を構成するように、第1の支持部9により支持され第2の振動板2の上方に配置されてもよい。第1の振動板3は、背極板4との間に所定の隙間を有し、両者がコンデンサ構造を構成するように、第2の支持部8により支持され背極板4の上方に配置されてもよい。第1の支持部9および第2の支持部8に絶縁性の材質を用いることで、支持する役割を果たすと同時に、さらに2つの振動板と背極板との間の絶縁を保証することができる。このような構造方式および材料の選択は当業者の公知の常識であり、ここでは具体的に説明しない。
【0034】
背極板4は第1の振動板3、第2の振動板2の間に設置され、三者がサンドイッチのような構造を構成する。上記のように形成される2つのコンデンサ構造はマイクロホンの精度を高めるための差動コンデンサ構造を構成でき、これはダブル振動板のマイクロホンの構造的特色であり、ここでは具体的に説明しない。
【0035】
好ましくは、背極板4が第1の振動板3、第2の振動板2の中心位置に設置される。つまり、背極板4から第1の振動板3までの距離が背極板4から第2の振動板2までの距離に等しい。本発明の一つの具体的な実施の態様では、背極板4から2つの振動板までの距離がそれぞれ0.5〜3μmであってもよいが、ここでは具体的に説明しない。
【0036】
図1を参照すると、第1の振動板3、第2の振動板2の間に密封室aが形成されている。該実施例では、密封室aの上下両側が第1の振動板3および第2の振動板2であり、その左右両側が第1の支持部9および第2の支持部8であり、それらは共同で密封された密封室aを囲んで形成する。
【0037】
具体的には製造するときに、例えば従来のMEMS工程により堆積、エッチングを行うことができ、その後第1の振動板3および第2の振動板2を解放するために、第1の振動板3に設置される腐食孔を介して内部の犠牲層を腐食することができる。最後に、第1の振動板3における腐食孔を塞ぐことで密封室aを形成する。
【0038】
上記は例示的方式で第1の振動板3に腐食孔を設置して腐食するものを挙げたにすぎないが、当然ながら当業者であれば、腐食孔は第2の振動板2に設置することもできる。工程で可能であれば、当然腐食孔は第1の支持部9または第2の支持部8に設置することもできる。内部の犠牲層を腐食した後は、密閉された密封室aを形成するために腐食孔を塞いでもよい。例えば密封室aの辺縁に設置される腐食孔を塞ぐために、密封室aの辺縁位置に閉塞部を形成してもよい。
【0039】
背極板4に複数の貫通孔5が設置されることで、背極板4により隔てられる密封室aが貫通孔5を介して連通できる。密封室a内には粘性係数が空気より小さい気体が充填されている。
【0040】
粘性係数が表すのは力を受けたとき気体分子間の相互作用で生じる内摩擦力であり、さらに粘性係数は通常温度、圧力と関係する。したがって粘性係数が空気より小さい気体とは、同等条件下の粘性係数が空気より小さい気体を指す。該同等条件とは、例えばマイクロホンの動作条件範囲内であってもよく、例えば−20℃〜100℃などであるが、当然ながらマイクロホンには極端な環境で動作する必要があるものもあり、マイクロホンの応用分野により定められる。
【0041】
例えば標準気圧条件下で、0℃のときの空気の粘性係数μ(空気0℃)は略1.73×10
-5Pa・sであり、水素の0℃のときの粘性係数μ(水素0℃)は略0.84×10
-5Pa・sであり、空気の0℃のときの粘性係数よりはるかに小さい。20℃のとき、空気の粘性係数μ(空気20℃)は略1.82×10
-5Pa・sであり、水素の粘性係数μ(水素20℃)は略0.88×10
-5Pa・sであり、空気の20℃のときの粘性係数よりはるかに小さい。
【0042】
気体の粘性係数μは温度の上昇に伴い大きくなるが、上記のデータから、水素の20℃のときの粘性係数μ(水素20℃)は空気の0℃のときの粘性係数μ(空気0℃)よりもはるかに小さいことがわかる。
【0043】
したがって、密封室aの気体の粘性係数が小さくなるように、密封室a内に水素を充填してもよい。これは2つの振動板の背極に対する運動時の音響抵抗を下げることで、マイクロホンノイズを低減することに相当する。
【0044】
従来技術において、粘性係数が空気より低い気体は多く、マイクロホンの動作条件下で空気の粘性係数より小さい気体を選択でき、例えばイソブタン、プロパン、プロピレン、H
2、エタン、アンモニア、アセチレン、クロロエタン、エチレン、CH
3Cl、メタン、SO
2、H
2S、塩素ガス、CO
2、N
2O、N
2のうちの少なくとも1種を選択できる。
【0045】
気体の粘性係数μはマイクロホンの音響抵抗Raと直接的な関係を有する。マイクロホンの音響抵抗は主に振動板と背極板の隙間の間の音響抵抗Ra.gapおよび背極板における貫通孔の位置の音響抵抗Ra.holeを含む。そのうち、
【0048】
つまり、マイクロホンの音響抵抗は以下である。
【0050】
上記公式から、気体の粘性係数μとマイクロホンの音響抵抗Raは正比例する。つまり、密封室a内の気体の粘性係数μが小さいほど、マイクロホンの音響抵抗Raも小さいことがわかる。
【0051】
また、マイクロホンの雑音パワースペクトル密度PSD(f)は4KTRaに正比例し、ここでfは周波数、Kはボルツマン定数、Tは温度(単位はケルビン)である。信号対雑音比SNR計算式における雑音N(幅)はPSDの所望の周波数帯域内(例えば20Hz〜20kHz)の重み付き積分の平方根である。したがって雑音N(幅)と気体粘性係数μの平方根は正比例の関係をなす。
【0052】
上記の計算式に基づき、密封室a内の気体の粘性係数μが半分に下がると、音響抵抗Raも半分に下がることから、雑音Nは10×log(1/2)=−3dBに変わり、これは高性能のMEMSマイクロホンでは得難いものである。
【0053】
低粘性係数の気体を用いて密封室を充填することのもう一つの利点は、密封室a内の圧力と外部環境圧力を同一に保持できることである。例えば水素を充填して密封する場合、水素雰囲気内で、且つ常温(室温)、常圧(または大気圧近く)の環境において密封し外部の環境圧力を補償することができる。つまり密封後の密封室aと外部環境の圧力差を0とすることで、静止状態のときに第1の振動板3および第2の振動板2を平坦に保持でき、膨らむまたは窪む問題が発生しない。これは2つの振動板間の支持柱の使用を避け、マイクロホンの感度を高めることができ、マイクロホンの音響性能を保証する。
【0054】
外部環境の圧力は変化するが、封止後の密封室a内の圧力は固定的で変わらない。しかし、密封室a内の圧力をできる限り外部の環境圧力に近づけるには、例えば密封室aの圧力を標準気圧として選択することができる。これにより、振動板の圧力差によるたわみ度合いを低減するように、密封室aと外部環境の圧力差をできる限り減らすことができ、マイクロホンの性能(感度)を保証できる。
【0055】
また、製造工程が原因で、密封室a内の圧力と外部環境の圧力に誤差を有することがあるが、このような誤差は好ましくは0.5atm(標準気圧)未満にすべきであり、さらに好ましくは0.1atm(標準気圧)未満にすべきである。
【0056】
当然ながら、密封室aと外部環境の圧力差による振動板のたわみ問題を解決するために、2つの振動板の間に支持柱6を設置してもよい。
図2を参照する。支持柱6は背極板4における貫通孔5を貫通し、且つその両端がそれぞれ第1の振動板3および第2の振動板2に接続される。支持柱6は複数設置されてもよく、2つの振動板の間に均一に分布することで、密封室aと外部環境に圧力差が存在するとき、2つの振動板の間に接続される支持柱6が振動板のたわみを支えることができる。
【0057】
密封室aと外部環境の圧力差は製造工程によるものである可能性があるが、このような工程の誤差による圧力差は大きくはない。またはマイクロホンの使用時に外部環境の圧力も変化するが、このような変化も大きくはない。したがって少数の支持柱6を選択してもよく、またはアスペクト比の大きい支持柱6、即ち細長い支持柱6を選択して支持してもよい。これは大量の支持柱、アスペクト比の小さい支持柱を用いる場合に対し、マイクロホンの音響性能(感度)を顕著に高めることができる。
【0058】
本発明の支持柱には第1の振動板3および/または第2の振動板2と同じ材料を選択してもよく、例えば堆積の際には一層ずつ堆積、一層ずつエッチングする方式により第1の振動板3および第2の振動板2の間に支持柱6を形成するとともに、後続の腐食により解放することができ、これは当業者の公知の常識であり、ここでは具体的に説明しない。
【0059】
第1の振動板3および第2の振動板2には、コンデンサの1つの極板とするため、導電性材質を用いる必要がある。支持柱6に第1の振動板3および/または第2の振動板2と同じ導電材質を用いると、第1の振動板3および第2の振動板2をショートさせることになる。この場合、背極ユニットはダブル電極構造を用いる必要がある。
【0060】
図3を参照する。背極ユニットは、第1の振動板3とコンデンサ構造を構成するための第1の背極板11、および第2の振動板2とコンデンサ構造を構成するための第2の背極板12を含み、第1の背極板11と第2の背極板12の間に絶縁層13が設置されている。第1の背極板11、絶縁層13および第2の背極板12は積層され共同で背極ユニットを構成でき、背極ユニットの剛性を高める。
【0061】
第1の振動板3と第1の背極板11が構成するコンデンサをC1と記し、第2の振動板2と第2の背極板12が構成するコンデンサをC2と記すとき、コンデンサC1、コンデンサC2が差動コンデンサ構造を形成する。
【0062】
本発明の別の具体的な実施の態様では、第1の振動板3および第2の振動板2の間の絶縁を保証するために、支持柱6には絶縁材料を選択してもよく、このとき
図2に示すような単一背極板4の構造を用いてもよく、ここでは具体的に説明しない。
【0063】
また好ましくは、ダブル振動板が振動時の外部環境、背面キャビティとの音響抵抗を減らすために、第1の振動板3および第2の振動板2を貫通する放圧孔10をさらに含む。
図1、
図2に示すとおり、第1の振動板3と第2の振動板2の間に密封室aを形成していることから、放圧孔10と密封室aの連通を回避するために、第1の振動板3および第2の振動板2とで上記密封室aを囲んで形成するように放圧孔10の孔壁を設置するということに注意すべきである。
【0064】
一つの具体的な実施の態様では、放圧孔10は1つ設置されてもよく、第1の振動板3および第2の振動板2の中心位置に位置する。さらに放圧孔10は、第1の振動板3および第2の振動板2の水平方向に分布するように複数設置されてもよい。放圧孔10を密封室a内から隔てるために、各放圧孔10はいずれも密封室aの容積を占める必要があり、ここでは具体的に紹介しない。
【0065】
上記の例により本発明のいくつかの特定の実施例を詳しく説明したが、当業者は、以上の例は説明するためのものにすぎず、本発明の範囲を限定するものではないと理解されるはずである。当業者では、本発明の範囲および主旨を逸脱しない状況で、以上の実施例について変更を行うことができると理解されるはずである。本発明の範囲は添付の請求の範囲により限定される。