【0013】
前記皮膚角層試料の採取、角層試料の処理及び角層試料の調製、画像解析データ取得と、皮膚状態の評価は、以下のように行うことが好ましい。
(工程1)角層剥離手段を用いて、皮膚より角層試料を採取する。
(工程2)工程1で採取した角層試料を、剥離面を上方にして透明板に貼り付ける。
(工程3)ポリアミンに対して特異的な結合能を有する5(6)−カルボキシテトラメチルローダミングリシンプロパギルエステルを含む溶液を滴下した後、一定時間静置する。
(工程4)工程3で得られた角層試料を水によって洗浄する。
(工程5)工程4で洗浄した角層試料を風乾して蛍光顕微鏡観察試料(標本)とする。
(工程6)工程5で得られた蛍光顕微鏡観察試料を、励起光560nm、蛍光光580nmの観察条件で蛍光顕微鏡観察して蛍光画像データとして取得する。
(工程7)工程6で取得した蛍光画像の蛍光輝度をピクセルごとに黒から白の順序の0〜255グレーレベルで表示し試験試料のポリアミンの指標とする。
(工程8)工程8は、次のA又はBいずれかの方法によってキメスコアを決定する工程である。
A.多数の被験者から採取した角層試料の前記ポリアミンの指標値と、被験者の皮膚のキメの粗さ、キメの形状、キメの流れにくさ、キメスコアに基づく相関式から回帰直線をもとめ、この回帰直線から工程6で得られたポリアミン指標に対応する被験者の皮膚のキメの粗さ、キメの形状、キメの流れにくさ、キメスコアを決定する。
B.多数の被験者から採取した角層試料の前記ポリアミンの指標値と目視評価スコアに基づく相関式から回帰直線をもとめ、この回帰直線から工程6で得られたポリアミン指標に対応する被験者のキメスコアを決定する。
【実施例】
【0029】
以下に試験例を示し、本発明を具体的に説明する。
<試験1>
本試験においては、皮膚角層のポリアミン量を染色により検出する方法によって角層中のポリアミンを直接観察した例を示す。
1.蛍光顕微鏡観察用試料の調製
皮膚の角層剥離用粘着テープとして2.5cm×2.5cmの角質チェッカー(アサヒバイオメッド社)を用いた。
年齢46歳〜55歳の女性被験者19名の頬部より前記の角質チェッカーを用いて、テープストリッピング法により角層を採取した。
採取した角層を透明スライドガラス上にのせ、PolyamineRED(フナコシ株式会社)を500μlジメチルスルフォオキシド(DMSO)で溶解し1640μMに調製した。この希釈液は、小分け分注して−20℃保存した。
この凍結保存試薬を、使用直前に、さらに蒸留水にて1000倍に希釈(1.64μM)し、染色に用いた。
角層チェッカーの角層採取面に、前記1.64μMのPolyamineRED染色液を50ml滴下し、30秒反応させた後、精製水を用いて充分洗浄した。風乾後、観察試料とした。
【0030】
2.蛍光顕微鏡観察
Olympus BX63蛍光顕微鏡を用いて、顕微鏡付属の蛍光ユニットWIGフィルターで励起波長:560nm、蛍光波長:585nmで、視野倍率10〜20倍で観察し、デジタルカメラにより画像を撮影した。
【0031】
3.画像解析
得られた画像を、米国国立衛生研究所 (NIH)で公開されているImageJマニュアルにしたがって画像解析を行った。蛍光を有する角層細胞の領域を抽出するため、背景部分及び角層の重層部分を除いて、蛍光測定閾値を設定した。この閾値の輝度の平均した数値を、1画像あたりの輝度値とした。
【0032】
4.結果
全19例の被験者の、角層の蛍光観察画像及び、被験者の個体番号、並びに画像の輝度を
図1に示した。なお各画像は、蛍光顕微鏡観察にあたって、従来専門の研究員が行なっている観察基準に沿って、目視による蛍光強度評価1(低い)、評価2(普通)、評価3(強い)の3段階に分類した。
【0033】
また、被験者のID、目視評価、画像の輝度を下記の表1に一覧表として示した。
【0034】
【表1】
【0035】
このデータを、X軸を目視判定評価値、Y軸を輝度値とした二次元配置でプロットしたところ
図2に示すような散布図を得た。
図2から、皮膚角層のポリアミン染色の画像から読み取ることのできた蛍光輝度の値は、蛍光顕微鏡観察における目視評価に代替できるものと考えられた。
すなわち、皮膚角層の5(6)−Carboxytetramethylrhodamine Glycine propagyl esterで蛍光染色したとき、顕微鏡画像の輝度を画像解析処理によって読み取るだけで、熟練した研究者と同等に、角層試料中のポリアミン量の多寡を瞬時に読み取ることが可能となった。
【0036】
<試験2(皮膚角層ポリアミンを指標とする皮膚のキメ評価)>
試験1で被験者とした19名について、角層試料採取部位の近傍におけるキメの状態を特開2017−140206号公報に記載の肌理評価システムを参考に、マイクロスコープを用いたキメ評価を行った。
(1)評価方法
マイクロスコープ(株式会社モリテックス製)、撮像ソフト(アイスコープビューワー Ver3.0)を用いて拡大画像の撮像を行った。得られた画像は画像データとしてコンピュータに取りこみ、緑成分のみ抜き出し256諧調のモノクロ画像に変換した。3次関数でフィッティングして、うねり取り処理(うねり面のZ座標を0とする)を行った。
このモノクロ画像の各画素における濃淡を示す値(Z(x、y))から、肌理パラメータSa’、PSm’、Str’を算出し、下記重回帰式を用いてキメスコアを算出した。
キメスコア=−38.649×Sa’−0.287×PSm’+2.884×Str’+19.460
1)キメの粗さ:前記算出したSa’(肌の凹凸に関する疑似算術平均高さ)を測定値として、数値が大きいほどキメが粗い状態を意味する。
2)キメの形状:前記算出したPSm’(疑似輪郭曲線要素の平均長さ)を測定値として、数値が小さいほどキメが細かい状態を意味する。
3)キメの流れにくさ:前記算出したStr’(疑似表面性状のアスペクト比)を測定値として、数値が小さいほどキメが流れている状態を意味する。
4)キメスコア:キメの目視スコアの理論値であり前記重回帰式にあてはめ算出した結果を測定値として、数値が大きいほど目視スコアの数字が高く、キメがよいことを意味する。
【0037】
(2)評価結果
各項目の測定結果及び蛍光輝度値を下記の表2に示す。
【0038】
【表2】
【0039】
表2に示す各項目の測定データ、及び試験1で得た、角層のポリアミン染色による蛍光輝度データを重回帰分析することで、前記の1)キメの粗さ、2)キメの形状、3)キメの流れにくさ、4)キメスコアとの相関係数を求めた。
各項目の相関係数及び回帰直線の回帰式は次のとおりである。
【0040】
キメの粗さと蛍光輝度の相関係数R=−0.432
回帰式:y=−0.0005x+0.1861
キメの形状と蛍光輝度の相関係数R=−0.216
回帰式:y=−0.0379x+26.502
キメの流れにくさと蛍光輝度の相関係数R=0.312
回帰式:y=0.002x+0.328
キメスコアと蛍光輝度の相関係数R=0.372
回帰式:y=0.0467x+−1.926
【0041】
また、各評価項目と輝度データの二次元配置の散布図、回帰直線を
図3〜6に示す。
各項目の相関係数Rと
図3〜6から、キメの粗さと蛍光輝度は逆相関、キメの形状と蛍光輝度は逆相関、キメの流れにくさと蛍光輝度は正の相関、キメスコアと蛍光輝度は正の相関であることがわかった。
【0042】
<試験3(皮膚角層ポリアミン(ポリアミン平均輝度値)と目視キメ評価(キメ目視スコア)の相関試験)>
(1)試験方法
26歳〜49歳の男性の左右頬部より、角層チェッカー(アサヒバイオメッド社)を用いた角層を、同部位よりSKIN CAST(アール・エス・アイ社)を用いたレプリカを、各15検体採取した。
角層のポリアミン染色は、0.5枚の角層チェッカーの角層採取面にDMSOで調製した1.64μMのPolyamineRED(フナコシ株式会社)を滴下し、30秒反応させた後に蒸留水中で洗浄、風乾後に、オールインワン蛍光顕微鏡 BZ−X800(株式会社キーエンス)で画像を撮影した。
取得した画像から、Image J(NIH)を用いて、背景部分及び角層の重層部分を除く蛍光測定閾値の範囲内の画素を抽出し、角層ポリアミン染色の平均輝度値を算出した。また、採取した皮膚のレプリカはマイクロスコープ(VL−7EXII、スカラ株式会社製)を用いて30倍の拡大画像の撮像を行い、得られた画像からキメの目視スコアを作成した。
キメの目視スコアとは、キメが細かく、規則正しく、等方性であると、キメの状態がいいと判断される。この拡大画像のキメの細かさ、規則正しさ、等方性を、専門判定者が総合的に数値化して目視スコア実測値を作成したものをいう。このスコア数値が高い程肌が滑らかであり、見た目の肌年齢が若いことを表している。なお目視スコアとレプリカ画像を対応させたものを
図7に示す。
そして同一部位で得られたポリアミン染色の平均輝度値とキメの目視スコア相関を評価計算した。
【0043】
(2)結果
下記表3に輝度値/画像(平均輝度値)とキメの目視スコアを示す。
【0044】
【表3】
【0045】
表3のデータに基づくキメ目視スコア(y)と平均輝度値(x)の相関係数及び回帰式は次のとおりである。
キメ目視スコアとポリアミン平均輝度値の相関係数R=0.77
回帰式:y=0.0664x−1.0233
このように、キメ目視スコアと皮膚角層のポリアミン平均輝度値は、高い相関性があることが分かった。
【0046】
以上の試験1、試験2、試験3の結果から、角層中のポリアミン量の多寡を、5(6)−カルボキシテトラメチルローダミンで蛍光標識することで容易に測定することが可能となった。またこの5(6)−カルボキシテトラメチルローダミンで角層中のポリアミンを選択的に蛍光標識すると、蛍光量を指標として皮膚のキメを容易に評価できることが明らかとなった。
【0047】
<試験4(化学分析による角層中のポリアミン量の測定)>
(1)試験方法
6歳〜49歳の男女20名の左右頬部より各1枚、角層チェッカー(アサヒバイオメッド社)により角層を採取した。採取した角層の角層テープは、1枚を4等分し、1.75枚を抽出に、0.25枚を染色による定量に用いた。
1)ポリアミン定量
ガラスビーズを入れた蒸留水500μlへ採取した角層テープを入れ、ビーズ式細胞破砕装置(株式会社トミー精工)を用い、4500rpm180secの条件で角層中タンパク質を抽出した。本角層抽出液にLC−MS(液体クロマトグラフィー質量分析)用誘導体化処理を行った。誘導体化処理はダンシルクロリドのアセトン溶液(10mg/ml)300μlを添加し、攪拌後、飽和炭酸ナトリウム水溶液50μlを添加し、再び攪拌後に室温にて一晩静置した。翌日、プロリン水溶液(100mg/ml)50μlを添加し、室温で30分間静置後、トルエン500μlを加えて攪拌し、遠心後に分取したトルエン層を窒素により乾固し、アセトン:水=1:1混液100μlに溶解した。誘導化処理サンプルをLC−MSで分析し、ポリアミンを定量した。LC−MS分析条件を以下に示す。
【0048】
カラム:Capcell Pak UG120 2.0 x 100mm 5μm (株式会社大阪ソーダ)
カラム温度:40℃
移動相A:0.01M 酢酸アンモニウム/水
移動相B:アセトニトリル
イオン化法:ESI(正イオン検出モード)
検出法:SIMモード
m/z:555(プトレシン)、845(スペルミジン)、1135(スペルミン)
【0049】
上記角層抽出液より一部を分取し、Pierce BCA protein assay kit (Thermo SCIENTIFIC)を用いて角層中総タンパク量の測定を行った。同時に精製ウシ血清アルブミンを標準品として検量線を作成し、吸光度からタンパク量を算出した。LC−MSによる各ポリアミン (プトレシン、スペルミジン、スペルミン)の合計値を総蛋白量で除した値を、総ポリアミン量とした。
【0050】
2)ポリアミン染色
上記で述べたとおり、分割した0.25枚の角層チェッカーの角層採取面にDMSOで調整した1.64μMのPolyamineRED(フナコシ株式会社)を滴下し、30秒反応させた後に蒸留水中で洗浄、風乾後に、Olympus BX63蛍光顕微鏡、WIGフィルター(励起波長:560nm、蛍光波長585nm)で観察して画像を取得した。
取得した画像は、Image J(NIH)を用いて、背景部分及び角層の重層部分を除く蛍光測定閾値の範囲内の画素を抽出し、1画像あたりの角層のポリアミン染色の平均輝度値を算出し、3視野の平均を分析値と比較した。
【0051】
(2)結果
20名の角層をポリアミン染色による平均輝度値及び化学分析を行った結果を下記の表4に示す。
【0052】
【表4】
【0053】
表4に基づいて得られた散布図を
図9に示す。
相関を確認したところ、輝度値と総ポリアミン量に相関関係が見られた(
図9)。この結果より、角層ポリアミン染色の輝度値は、ポリアミンの化学的分析値に代替できることが明らかとなった。すなわち、角層中のポリアミンを化学的分析を行うことで皮膚のキメの状態を評価可能である。