(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
構造物に生じた疲労亀裂に対して前記疲労亀裂の先端部にストップホールを設ける及び/又は前記疲労亀裂の基部と前記先端部以外の経路上にウェッジホールを設けるステップ1と、前記ストップホール及び/又は前記ウェッジホールにくさび荷重が可変のくさび手段をはめ込むステップ2と、前記ストップホールの孔端部又は前記疲労亀裂の先端部の前記構造物の応力変動幅を抑制する前記くさび荷重を付与するステップ3と、前記ストップホールの孔部の開口変位及び/又は前記ウェッジホールの孔部の開口変位に追随し前記くさび手段の緩みを防止するため前記くさび荷重を調節するステップ4とを備えたことを特徴とする疲労亀裂の補修方法。
前記ストップホールの孔部の開口変位及び/又は前記ウェッジホールの孔部の開口変位に追随し前記くさび手段の緩みを防止するため前記くさび荷重を調節するステップ4をさらに備えたことを特徴とする請求項2に記載の疲労亀裂の補修方法。
前記応力の最大値は、前記ストップホールの前記孔部の前記開口変位の最大値及び/又は前記ウェッジホールの前記孔部の前記開口変位の最大値に基づいて求めたことを特徴とする請求項4に記載の疲労亀裂の補修方法。
ねじ切りをした第1ボルト軸と、前記第1ボルト軸と逆方向のねじ切りをした第2ボルト軸と、前記第1ボルト軸と前記第2ボルト軸と嵌合する回転により前記第1ボルト軸と前記第2ボルト軸を伸縮させるナットから前記ねじ機構を構成し、前記ナットにトルクを付与するトルク負荷部材と、前記トルク負荷部材に荷重を付与する載荷機構から前記自動調節手段を構成したことを特徴とする請求項10に記載の疲労亀裂の補修用部材。
複数のリンク部品から成るパンタグラフ型機構と、前記パンタグラフ型機構を伸縮させるボルト機構から前記ねじ機構を構成し、前記ボルト機構にトルクを付与するトルク負荷部材と、前記トルク負荷部材に荷重を付与する載荷機構から前記自動調節手段を構成したことを特徴とする請求項10に記載の疲労亀裂の補修用部材。
斜面を有した第1斜面部品と、前記第1斜面部品上を摺動する斜面を有した第2斜面部品と、前記第2斜面部品を摺動させる前記第1斜面部品に形成されたボルト雌ねじに嵌合するボルトから前記ねじ機構を構成し、前記ボルトにトルクを付与するトルク負荷部材と、前記トルク負荷部材に荷重を付与する載荷機構から前記自動調節手段を構成したことを特徴とする請求項10に記載の疲労亀裂の補修用部材。
テーパ付き雌ねじを有した第1分割雌ねじ部品と、テーパ付き雌ねじを有した第2分割雌ねじ部品と、前記第1分割雌ねじ部品と前記第2分割雌ねじ部品で挟み込む形で構成するテーパ付き雌ねじ部に貫入する方向に回転させることにより前記第1分割雌ねじ部品と前記第2分割雌ねじ部品を外側に押し広げるテーパボルトから前記ねじ機構を構成し、前記テーパボルトにトルクを付与するトルク負荷部材と、前記トルク負荷部材に荷重を付与する載荷機構から前記自動調節手段を構成したことを特徴とする請求項10に記載の疲労亀裂の補修用部材。
前記プーリーの回転角度に基づいて、前記ストップホールの前記孔部の前記開口変位及び/又は前記ウェッジホールの前記孔部の前記開口変位の開口増分を推定可能な読取手段を備えたことを特徴とする請求項16に記載の疲労亀裂の補修用部材。
前記トルク負荷部材が、前記ナット、前記ボルト機構、前記ボルト、又は前記テーパボルトに略一定のトルクを付与することを特徴とする請求項11から請求項17のうちの1項に記載の疲労亀裂の補修用部材。
前記くさび手段が、前記ストップホール及び/又は前記ウェッジホールから脱落することを防止する脱落防止手段を備えたことを特徴とする請求項9から請求項20のうちの1項に記載の疲労亀裂の補修用部材。
前記脱落防止手段が、前記ストップホール及び/又は前記ウェッジホール周囲の前記構造物を挟み込む前記くさび手段に設けた鍔状部であることを特徴とする請求項21に記載の疲労亀裂の補修用部材。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、非特許文献1及び2の方法には、溶接線に沿って進展する亀裂や板の裏側にアクセスできない箇所には適用しにくいという課題がある。
また非特許文献3の方法には、処理速度が10〜20cm/min程度の振動施工を1本の亀裂に対して複数回行う必要があるため時間と手間がかかるという課題、及び板厚を貫通するような長い亀裂の場合には非特許文献1及び2の方法と同様に板の裏側にアクセスできない箇所には適用しにくいという課題がある。更に、叩かれた母材金属の塑性変形による亀裂閉口作用を利用しているため、補修後に疲労強度の向上効果が期待できる繰り返し外荷重の大きさ(振幅)には一定の上限があるという課題もある。
【0010】
また、特許文献1記載の発明は、実際にどの程度の進展防止効果があるのかが不明である。さらに、湾曲面を含む比較的複雑な形状をした孔を現場で複数個、精度良く加工するには相当の時間と手間が必要になるという適用上の課題がある。
【0011】
また、特許文献2記載の発明は、一般に構造物の稼働中に作用する応力の大きさは確率的に分布するものであり、最大応力の値を正しく推定することは容易でないことに加え、仮に推定できたとしてもそれが作用してき裂が開口した状態のまま保持することは、特に大型構造物等においては極めて困難な場合が多いという適用上の課題がある。
【0012】
また、特許文献3記載の発明は、穴に挿入するテーパピン等の圧力負荷治具として内圧を負荷した後のくさび荷重が可変のものを用いるものではなく、補修完了後に過大荷重が加わった場合に圧力負荷治具が過度に緩んだりずれたり外れたりする可能性がある。
【0013】
そこで本発明は、疲労亀裂の先端部に設けたストップホールの孔端部の応力変動幅を抑制し、孔端部からの亀裂再発を防ぐ補修方法、及びその補修方法に用いる補修用部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
請求項1記載に対応した疲労亀裂の補修方法においては、構造物に生じた疲労亀裂に対して疲労亀裂の先端部にストップホールを設ける及び/又は疲労亀裂の基部と先端部以外の経路上にウェッジホールを設けるステップ1と、ストップホール及び/又はウェッジホールにくさび荷重が可変のくさび手段をはめ込むステップ2と、ストップホールの孔端部又は疲労亀裂の先端部の構造物の応力変動幅を抑制するくさび荷重を付与するステップ3と
、ストップホールの孔部の開口変位及び/又はウェッジホールの孔部の開口変位に追随しくさび手段の緩みを防止するためくさび荷重を調節するステップ4とを備えたことを特徴とする。
請求項1に記載の本発明によれば、ストップホール又はウェッジホールの少なくともどちらかにくさび手段をはめ込んでくさび荷重を付与することにより、ストップホールの孔端部又は疲労亀裂の先端部の構造物の応力変動幅を抑制し、孔端部又は疲労亀裂の先端部の構造物からの亀裂再発を防ぐことができる。
また、くさび手段のくさび荷重が可変であるため、ストップホール又はウェッジホールの少なくともどちらかにくさび荷重を変えて作用させることができる。
なお、くさび手段とは、形状がテーパ状を成していなくても、実質的に変位に伴い荷重を変化し得る全ての構造を含むものとする。
また、はめ込んだくさび手段の経時的な緩み、緩みに伴うずれや外れ等を防止してストップホールの孔端部又は疲労亀裂の先端部の構造物の応力変動抑制効果を維持することができる。
なお、はめ込んだくさび手段のある程度の緩みを許容し、経時的な過度の緩み、過度の緩みに伴うずれや外れ等を防止した場合には、実構造物でくさび手段の一切の緩みを防止して開口変位に完全に追随させた場合に発生し得るくさび手段又は母材の座屈や塑性変形等を防止することができる。
【0015】
請求項2記載に対応した疲労亀裂の補修方法においては、構造物に生じた疲労亀裂に対して疲労亀裂の先端部にストップホールを設ける及び/又は疲労亀裂の基部と先端部以外の経路上にウェッジホールを設けるステップ1と、ストップホール及び/又はウェッジホールにくさび荷重が可変のくさび手段をはめ込むステップ2と、ストップホールの孔端部又は疲労亀裂の先端部の構造物の応力変動幅を抑制するくさび荷重を付与するステップ3とを備え、くさび手段を冷却してストップホール及び/又はウェッジホールにはめ込み、くさび荷重を付与することを特徴とする。
請求項2に記載の本発明によれば、ストップホール又はウェッジホールの少なくともどちらかにくさび手段をはめ込んでくさび荷重を付与することにより、ストップホールの孔端部又は疲労亀裂の先端部の構造物の応力変動幅を抑制し、孔端部又は疲労亀裂の先端部の構造物からの亀裂再発を防ぐことができる。
また、くさび手段のくさび荷重が可変であるため、ストップホール又はウェッジホールの少なくともどちらかにくさび荷重を変えて作用させることができる。
また、疲労亀裂を簡便かつ効果的に補修することができる。
【0016】
請求項
3記載の本発明は、ストップホールの孔部の開口変位及び/又はウェッジホールの孔部の開口変位に追随しくさび手段の緩みを防止するためくさび荷重を調節するステップ4をさらに備えたことを特徴とする。
請求項
3に記載の本発明によれば、はめ込んだくさび手段の経時的な緩み、緩みに伴うずれや外れ等を防止してストップホールの孔端部又は疲労亀裂の先端部の構造物の応力変動抑制効果を維持することができる。
なお、はめ込んだくさび手段のある程度の緩みを許容し、経時的な過度の緩み、過度の緩みに伴うずれや外れ等を防止した場合には、実構造物でくさび手段の一切の緩みを防止して開口変位に完全に追随させた場合に発生し得るくさび手段又は母材の座屈や塑性変形等を防止することができる。
【0017】
請求項
4記載の本発明は、くさび荷重は、ストップホールの孔端部又は疲労亀裂の先端部の構造物に作用する応力の最大値以下の範囲で調節することを特徴とする。
請求項
4に記載の本発明によれば、くさび荷重が亀裂再発の原因となることを防止できる。
【0018】
請求項
5記載の本発明は、応力の最大値は、実測及び/又はシミュレーションにより求めたことを特徴とする。
請求項
5に記載の本発明によれば、くさび荷重の調節範囲をより的確なものとすることができる。
【0019】
請求項
6記載の本発明は、応力の最大値は、ストップホールの孔部の開口変位の最大値及び/又はウェッジホールの孔部の開口変位の最大値に基づいて求めたことを特徴とする。
請求項
6に記載の本発明によれば、くさび荷重の調節範囲をより的確なものとすることができる。
【0020】
請求項
7記載の本発明は、くさび荷重の調節は、くさび手段を用いて自動的に行ったことを特徴とする。
請求項
7に記載の本発明によれば、過大荷重による孔部の開口変位に追随してくさび手段を自動的に調節し、くさび手段の緩みを確実に防止できるため、稼働中の最大荷重を推定してそれを負荷した状態で保持する必要がなく、実際の作用荷重に応じて適切なくさび荷重を自動的に付与し、孔端部又は疲労亀裂の先端部の構造物からの亀裂再発を防ぐことができる
。
【0021】
請求項8記載の本発明は、ステップ1からステップ3を構造物の片側からおこなったことを特徴とする。
請求項8に記載の本発明によれば、疲労亀裂が生じた構造物に対して表側と裏側のどちらか一方側からしか作業できない場合であっても補修作業を行うことができる。
【0022】
請求項9記載に対応した疲労亀裂の補修用部材においては、くさび手段と、くさび手段のくさび荷重を自動的に調節する自動調節手段とを備えたことを特徴とする。
請求項9に記載の本発明によれば、ストップホールの孔端部又は疲労亀裂の先端部の構造物の応力変動幅を抑制して孔端部又は疲労亀裂の先端部の構造物からの亀裂再発を防ぐ機能と、過大荷重による孔部の開口変位に追随してくさび手段を自動的に調節し、くさび手段の経時的な緩み、緩みに伴うずれや外れ等を防止する機能とを有する補修用部材を提供することができる。
なお、はめ込んだくさび手段のある程度の緩みを許容し、経時的な過度の緩み、過度の緩みに伴うずれや外れ等を防止する自動調節手段とした場合には、実構造物でくさび手段の一切の緩みを防止して開口変位に完全に追随させた場合に発生し得るくさび手段又は母材の座屈や塑性変形等を防止することができる。
【0023】
請求項10記載の本発明は、くさび手段が、ねじ機構を有することを特徴とする。
請求項10に記載の本発明によれば、ねじ機構を利用してくさび手段の長さ及びくさび荷重を可変とすることができる。
【0024】
請求項11記載の本発明は、ねじ切りをした第1ボルト軸と、第1ボルト軸と逆方向のねじ切りをした第2ボルト軸と、第1ボルト軸と第2ボルト軸と嵌合する回転により第1ボルト軸と第2ボルト軸を伸縮させるナットからねじ機構を構成し、ナットにトルクを付与するトルク負荷部材と、トルク負荷部材に荷重を付与する載荷機構から自動調節手段を構成したことを特徴とする。
請求項11に記載の本発明によれば、くさび手段及び自動調節手段を簡素な構成とすることができる。
【0025】
請求項12記載の本発明は、複数のリンク部品から成るパンタグラフ型機構と、パンタグラフ型機構を伸縮させるボルト機構からねじ機構を構成し、ボルト機構にトルクを付与するトルク負荷部材と、トルク負荷部材に荷重を付与する載荷機構から自動調節手段を構成したことを特徴とする。
請求項12に記載の本発明によれば、くさび手段及び自動調節手段を簡素な構成とすることができる。
【0026】
請求項13記載の本発明は、斜面を有した第1斜面部品と、第1斜面部品上を摺動する斜面を有した第2斜面部品と、第2斜面部品を摺動させる第1斜面部品に形成されたボルト雌ねじに嵌合するボルトからねじ機構を構成し、ボルトにトルクを付与するトルク負荷部材と、トルク負荷部材に荷重を付与する載荷機構から自動調節手段を構成したことを特徴とする。
請求項13に記載の本発明によれば、くさび手段及び自動調節手段を簡素な構成とすることができる。
【0027】
請求項14記載の本発明は、テーパ付き雌ねじを有した第1分割雌ねじ部品と、テーパ付き雌ねじを有した第2分割雌ねじ部品と、第1分割雌ねじ部品と第2分割雌ねじ部品で挟み込む形で構成するテーパ付き雌ねじ部に貫入する方向に回転させることにより第1分割雌ねじ部品と第2分割雌ねじ部品を外側に押し広げるテーパボルトからねじ機構を構成し、テーパボルトにトルクを付与するトルク負荷部材と、トルク負荷部材に荷重を付与する載荷機構から自動調節手段を構成したことを特徴とする。
請求項14に記載の本発明によれば、くさび手段及び自動調節手段を簡素な構成とすることができる。
【0028】
請求項15記載の本発明は、トルク負荷部材を、アームをもって構成したことを特徴とする。
請求項15に記載の本発明によれば、アームの回転及びてこの原理を利用してトルクを付与することができる。
【0029】
請求項16記載の本発明は、トルク負荷部材を、プーリーをもって構成したことを特徴とする。
請求項16に記載の本発明によれば、プーリーの回転を利用してトルクを付与することができ、付与するトルクを一定にしやすくなる。
【0030】
請求項17記載の本発明は、プーリーの回転角度に基づいて、ストップホールの孔部の開口変位及び/又はウェッジホールの孔部の開口変位の開口増分を推定可能な読取手段を備えたことを特徴とする。
請求項17に記載の本発明によれば、開口増分を容易に推定することが可能となり、構造物に作用した荷重の推定や、ストップホールやウェッジホールからの再発亀裂の有無の判定等において有用な情報を取得することができる。
【0031】
請求項18記載の本発明は、トルク負荷部材が、ナット、ボルト機構、ボルト、又はテーパボルトに略一定のトルクを付与することを特徴とする。
請求項18に記載の本発明によれば、くさび荷重の管理が容易となる。
【0032】
請求項19記載の本発明は、載荷機構を、弾性体をもって構成したこと特徴とする。
請求項19に記載の本発明によれば、載荷機構の弾性を利用してトルク負荷部材に荷重を付与することができる。
【0033】
請求項20記載の本発明は、載荷機構を、重錘をもって構成したこと特徴とする。
請求項20に記載の本発明によれば、重力を利用してトルク負荷部材に荷重を付与することができる。
【0034】
請求項21記載の本発明は、くさび手段が、ストップホール及び/又はウェッジホールから脱落することを防止する脱落防止手段を備えたことを特徴とする。
請求項21に記載の本発明によれば、くさび手段の不慮の脱落を防止することができる。
【0035】
請求項22記載の本発明は、脱落防止手段が、ストップホール及び/又はウェッジホール周囲の構造物を挟み込むくさび手段に設けた鍔状部であることを特徴とする。
請求項22に記載の本発明によれば、くさび手段自体に設けた鍔状部で構造物を挟み込むことでくさび手段の不慮の脱落を防止することができる。
【発明の効果】
【0036】
本発明の疲労亀裂の補修方法によれば、ストップホール又はウェッジホールの少なくともどちらかにくさび手段をはめ込んでくさび荷重を付与することにより、ストップホールの孔端部又は疲労亀裂の先端部の構造物の応力変動幅を抑制し、孔端部又は疲労亀裂の先端部の構造物からの亀裂再発を防ぐことができる。
また、くさび手段のくさび荷重が可変であるため、ストップホール又はウェッジホールの少なくともどちらかにくさび荷重を変えて作用させることができる。
【0037】
また、ストップホールの孔部の開口変位及び/又はウェッジホールの孔部の開口変位に追随しくさび手段の緩みを防止するためくさび荷重を調節するステップ4をさらに備え
ることで、はめ込んだくさび手段の経時的な緩み、緩みに伴うずれや外れ等を防止してストップホールの孔端部又は疲労亀裂の先端部の構造物の応力変動抑制効果を維持することができる。
なお、はめ込んだくさび手段のある程度の緩みを許容し、経時的な過度の緩み、過度の緩みに伴うずれや外れ等を防止した場合には、実構造物でくさび手段の一切の緩みを防止して開口変位に完全に追随させた場合に発生し得るくさび手段又は母材の座屈や塑性変形等を防止することができる。
【0038】
また、くさび荷重は、ストップホールの孔端部又は疲労亀裂の先端部の構造物に作用する応力の最大値以下の範囲で調節する場合には、くさび荷重が亀裂再発の原因となることを防止できる。
【0039】
また、応力の最大値は、実測及び/又はシミュレーションにより求めた場合には、くさび荷重の調節範囲をより的確なものとすることができる。
【0040】
また、応力の最大値は、ストップホールの孔部の開口変位の最大値及び/又はウェッジホールの孔部の開口変位の最大値に基づいて求めた場合には、くさび荷重の調節範囲をより的確なものとすることができる。
【0041】
また、くさび荷重の調節は、くさび手段を用いて自動的に行った場合には、過大荷重による孔部の開口変位に追随してくさび手段を自動的に調節し、くさび手段の緩みを確実に防止できるため、稼働中の最大荷重を推定してそれを負荷した状態で保持する必要がなく、実際の作用荷重に応じて適切なくさび荷重を自動的に付与し、孔端部又は疲労亀裂の先端部の構造物からの亀裂再発を防ぐことができる。
【0042】
また、くさび手段を冷却してストップホール及び/又はウェッジホールにはめ込み、くさび荷重を付与する
ことで、疲労亀裂を簡便かつ効果的に補修することができる。
【0043】
また、ステップ1からステップ3を構造物の片側からおこなった場合には、疲労亀裂が生じた構造物に対して表側と裏側のどちらか一方側からしか作業できない場合であっても補修作業を行うことができる。
【0044】
本発明の疲労亀裂の補修用部材によれば、ストップホールの孔端部又は疲労亀裂の先端部の構造物の応力変動幅を抑制して孔端部又は疲労亀裂の先端部の構造物からの亀裂再発を防ぐ機能と、過大荷重による孔部の開口変位に追随してくさび手段を自動的に調節し、くさび手段の経時的な緩み、緩みに伴うずれや外れ等を防止する機能とを有する補修用部材を提供することができる。
なお、はめ込んだくさび手段のある程度の緩みを許容し、経時的な過度の緩み、過度の緩みに伴うずれや外れ等を防止する自動調節手段とした場合には、実構造物でくさび手段の一切の緩みを防止して開口変位に完全に追随させた場合に発生し得るくさび手段又は母材の座屈や塑性変形等を防止することができる。
【0045】
また、くさび手段が、ねじ機構を有する場合には、ねじ機構を利用してくさび手段の長さ及びくさび荷重を可変とすることができる。
【0046】
また、ねじ切りをした第1ボルト軸と、第1ボルト軸と逆方向のねじ切りをした第2ボルト軸と、第1ボルト軸と第2ボルト軸と嵌合する回転により第1ボルト軸と第2ボルト軸を伸縮させるナットからねじ機構を構成し、ナットにトルクを付与するトルク負荷部材と、トルク負荷部材に荷重を付与する載荷機構から自動調節手段を構成した場合には、くさび手段及び自動調節手段を簡素な構成とすることができる。
【0047】
また、複数のリンク部品から成るパンタグラフ型機構と、パンタグラフ型機構を伸縮させるボルト機構からねじ機構を構成し、ボルト機構にトルクを付与するトルク負荷部材と、トルク負荷部材に荷重を付与する載荷機構から自動調節手段を構成した場合には、くさび手段及び自動調節手段を簡素な構成とすることができる。
【0048】
また、斜面を有した第1斜面部品と、第1斜面部品上を摺動する斜面を有した第2斜面部品と、第2斜面部品を摺動させる第1斜面部品に形成されたボルト雌ねじに嵌合するボルトからねじ機構を構成し、ボルトにトルクを付与するトルク負荷部材と、トルク負荷部材に荷重を付与する載荷機構から自動調節手段を構成した場合には、くさび手段及び自動調節手段を簡素な構成とすることができる。
【0049】
また、テーパ付き雌ねじを有した第1分割雌ねじ部品と、テーパ付き雌ねじを有した第2分割雌ねじ部品と、第1分割雌ねじ部品と第2分割雌ねじ部品で挟み込む形で構成するテーパ付き雌ねじ部に貫入する方向に回転させることにより第1分割雌ねじ部品と第2分割雌ねじ部品を外側に押し広げるテーパボルトからねじ機構を構成し、テーパボルトにトルクを付与するトルク負荷部材と、トルク負荷部材に荷重を付与する載荷機構から自動調節手段を構成した場合には、くさび手段及び自動調節手段を簡素な構成とすることができる。
【0050】
また、トルク負荷部材を、アームをもって構成した場合には、アームの回転及びてこの原理を利用してトルクを付与することができる。
【0051】
また、トルク負荷部材を、プーリーをもって構成した場合には、プーリーの回転を利用してトルクを付与することができ、付与するトルクを一定にしやすくなる。
【0052】
また、プーリーの回転角度に基づいて、ストップホールの孔部の開口変位及び/又はウェッジホールの孔部の開口変位の開口増分を推定可能な読取手段を備えた場合には、開口増分を容易に推定することが可能となり、構造物に作用した荷重の推定や、ストップホールやウェッジホールからの再発亀裂の有無の判定等において有用な情報を取得することができる。
【0053】
また、トルク負荷部材が、ナット、ボルト機構、ボルト、又はテーパボルトに略一定のトルクを付与する場合には、くさび荷重の管理が容易となる。
【0054】
また、載荷機構を、弾性体をもって構成した場合には、載荷機構の弾性を利用してトルク負荷部材に荷重を付与することができる。
【0055】
また、載荷機構を、重錘をもって構成した場合には、重力を利用してトルク負荷部材に荷重を付与することができる。
【0056】
また、くさび手段が、ストップホール及び/又はウェッジホールから脱落することを防止する脱落防止手段を備えた場合には、くさび手段の不慮の脱落を防止することができる。
【0057】
また、脱落防止手段が、ストップホール及び/又はウェッジホール周囲の構造物を挟み込むくさび手段に設けた鍔状部である場合には、くさび手段自体に設けた鍔状部で構造物を挟み込むことでくさび手段の不慮の脱落を防止することができる。
【発明を実施するための形態】
【0059】
以下に、本発明の実施形態による疲労亀裂の補修方法及び補修用部材について説明する。
【0060】
図1は本発明の第一実施形態による疲労亀裂の補修方法及び補修用部材を示す概要図である。
【0061】
本実施形態による疲労亀裂の補修方法は、船舶、海洋構造物又は橋梁等の構造物の母材板1に生じた疲労亀裂2に対して、まず、疲労亀裂2の先端部にストップホール3を設ける(ステップ1)。
ステップ1の後、ストップホール3にくさび荷重が可変のくさび手段4をはめ込む(ステップ2)。
【0062】
本実施形態では、補修用部材であるくさび手段4は、ねじ機構10を有する。ねじ機構10は、ボルト軸11とナット12で構成されている。
ボルト軸11は、第1ボルト軸11Aと第2ボルト軸11Bから成る。第1ボルト軸11A及び第2ボルト軸11Bの一端は、ねじ切りされて溝が形成されている。第1ボルト軸11Aのねじ切りされた一端がナット12の一方の側に螺合され、第2ボルト軸11Bのねじ切りされた一端がナット12の他方の側に螺合されることで、第1ボルト軸11Aと第2ボルト軸11Bとは、ナット12を介して直列に接続されている。
第2ボルト軸11Bの一端は、第1ボルト軸11Aと逆方向にねじ切りされている。また、ナット12の内面は、第1ボルト軸11Aと第2ボルト軸11Bに螺合する部分とは逆方向にねじ切りされている。従って、第1ボルト軸11A及び第2ボルト軸11Bは、ナット12を一方に回転させた場合には共にナット12から押し出され、ナット16を他方に回転させた場合には共にナット12に引き込まれる。この構造により、ストップホール3の孔端部に付与するくさび荷重を可変としている。
ステップ2では、第1ボルト軸11A及び第2ボルト軸11Bのねじ切りされた一端の反対側の他端がストップホール3の孔端部に当接するようにはめ込む。このとき
図1に示すように、くさび手段4が疲労亀裂2に対して略垂直に立設するようにストップホール3内に配置することが好ましい。
【0063】
ステップ2の後、第1ボルト軸11A及び第2ボルト軸11Bが共にナット12から押し出される方向にトルクN1をかけてナット12を回転させることにより、ストップホール3の孔端部がねじ機構10のボルト軸11に押され、ストップホール3の孔端部にくさび荷重Wが付与される(ステップ3)。
【0064】
ここで、有限要素解析によるストップホール孔端部の応力変動抑制効果の検証結果を説明する。
図2はくさび手段をストップホールにはめ込んだ場合の有限要素モデル、
図3及び
図4は有限要素解析の結果を示す図である。
ストップホール3をくさび手段4で補強した場合の孔端部における応力変動抑制効果を、有限要素解析により検証した。解析には、汎用構造解析ソフトウェアMarc Mentat(バージョン2015.0.0)を用いた。解析は平面応力解析とし、くさび手段4のはめ込み部分には接触要素を用いた。
くさび手段4をはめ込んだ場合の有限要素モデルを
図2に示す。100mm×100mmの正方形の鋼板(板厚10mm、ヤング率205.8GPa)に、疲労亀裂2をモデル化したスリットと直径20mmのストップホール3を設け、ストップホール3内にはくさび手段4をはめ込んである。くさび手段4の材質は板と同じく鋼としたが、剛性を高めるために板厚は20mmとした。
解析ではモデルの右辺を対称面としてX方向に拘束し、スリットの両端にストップホール3を1個ずつ設けた場合を想定して解析を行った。便宜上くさび手段4の下端部はストップホール3の下端部に固着させ、くさび手段4の上端部およびストップホール3の上端部に接触解析用の接触要素を設けた。くさび手段4の熱膨張係数には異方性を持たせ、節点温度を上昇させるとY方向にのみ膨張するようにしておき、熱応力解析によってくさび荷重の発生を模擬した。解析では、くさび手段4の熱膨張により0.4%のY方向歪が発生するように設定した。また、鋼板に加えるY方向の引張荷重としては、モデルの上下辺に60MPaの引張応力が生じるように負荷を行った。
【0065】
有限要素解析の結果を
図3及び
図4に示す。このうち
図3はくさび手段4による補強なしの場合を、
図4はくさび手段4による補強ありの場合をそれぞれ示している。
くさび手段4による補強なしの場合、引張荷重がゼロの時に孔端部の(Y方向)引張応力は
図3(a)の通りゼロであり、これに上述した(Y方向)引張荷重を載荷すると孔端部の引張応力は
図3(b)の通り693MPaとなり、これがそのまま引張荷重による孔端部引張応力の変動幅となる。
一方、くさび手段4で補強した場合には、引張荷重がゼロの状態でも、
図4(a)に示す通り、くさび手段4によるくさび荷重が孔部に作用して、孔端部には初期引張応力383MPaが生じている。この状態のまま引張荷重が作用すると孔端部には引張応力が生じるが、くさび手段4による初期応力は逆に解放されるため、孔端部の引張応力は
図4(b)の通り676MPaとなり、補強無しの場合の
図3(b)に近い値となる。しかしながら、補強した場合の初期応力値は
図4(a)の通り383MPaであるため、引張荷重載荷に伴う孔端部引張応力の変動幅は両者の差分676−383=293MPaであり、補強なしの場合の693MPaと比べると約58%減となって大幅に抑制されることが分かる。
従って、ステップ1からステップ3を行うことにより、ストップホール3の孔端部の応力変動幅を抑制し、孔端部からの亀裂再発を防ぐことができる。
【0066】
なお、
図1に示すように、ボルト軸11のうちストップホール3の孔端部と接触する部分、すなわち第1ボルト軸11A及び第2ボルト軸11Bの他端は、ストップホール3の孔端部の形状と整合するように曲面状に加工しておくことが好ましい。このように加工しておくことでボルト軸11がストップホール3の孔端部に密接し、くさび手段4がストップホール3からずれたり脱落したりすることを防止できる。
また、例えば、第1ボルト軸11A及び第2ボルト軸11Bの他端を母材板1の両側からストップホール3の孔端部を挟み込む形状にするなど、くさび手段4には、ストップホール3からのずれや脱落を防止する脱落防止手段を設けることが好ましい。これにより、仮に母材板1に疲労亀裂2を開く方向の荷重が作用してストップホール3が荷重方向(
図1の上下方向)に広がってくさび荷重Wがゼロとなり、ボルト軸11とストップホール3の孔端部との接触が緩んでも、くさび手段4がずれたり脱落したりすることを防止できる。
また、一般的に母材板1の裏側から作業を行うことはアクセスの問題等により容易ではないため、施工者は、ステップ2においてストップホール3にくさび手段4をはめ込む作業を表側からしか行えない場合も多いと考えられる。表側からしか作業を行えない場合、くさび手段4の構成部品を誤って母材板1の反対側(裏側)に落下させてしまうと、落下した構成部品を回収できない可能性がある。また、構成部品の落下は危険である。このような事態を避けるため、くさび手段4をストップホール3にはめ込む前に、くさび手段4の構成部品を十分な強度を有するワイヤー又はチェーン等を用いて母材板1等に係止しておき、構成部品の落下を防止することが好ましい。なお、くさび手段4の構成部品のなかで最も大きな最大構成部品を母材板1に係止しておき、その他の構成部品は最大構成部品に係止してもよい。ここで、ワイヤー又はチェーン等を母材板1や構成部品等に係止する方法は任意であり、応力的に問題のない箇所に開けた穴に通したり、係止用のフック又はねじを別途設けたりすることによって係止してもよいし、母材板1や構成部品が強磁性体である場合には磁石を用いて係止してもよい。
【0067】
母材板1に過大な荷重が作用してストップホール3の孔部の開口変位が大きくなった場合には、第1ボルト軸11A及び第2ボルト軸11Bが共にナット12から押し出される方向にナット12を回転させることにより、くさび手段4を伸ばしてくさび荷重を調節する(ステップ4)。
このようにストップホール3の孔部の開口変位に追随してくさび荷重を調節することで、ボルト軸11とストップホール3との接触が過度に緩むことを防止して、くさび手段4によるストップホール3の孔端部の応力変動抑制効果を維持することができる。
なお、このくさび荷重は、ストップホール3の孔端部に作用する応力の最大値以下の範囲で調節することが好ましい。これにより、くさび荷重が亀裂再発の原因となることを防止できる。
また、応力の最大値は、実測又はシミュレーションの少なくとも一つにより求めるか、ストップホール3の孔部の開口変位の最大値に基づいて求めることが好ましい。これにより、くさび荷重の調節範囲をより的確なものとすることができる。
【0068】
以上、第一実施形態による疲労亀裂の補修方法及び補修用部材は、母材板1に作用する荷重の程度が把握できており、またその荷重の程度が、本実施形態で付与したくさび荷重Wによってストップホール3の孔端部の応力変動幅が十分に抑制できる範囲内と予測される場合において特に有効である。
【0069】
図5は本発明の第二実施形態による疲労亀裂の補修方法及び補修用部材を示す概要図であり、
図5(a)は母材板に過大荷重が作用した状態を示し、
図5(b)はくさび手段がストップホールの変形に追随して延伸した状態を示し、
図5(c)は過大荷重が除荷された状態を示している。なお、上述した実施形態と同一機能部材には同一符号を付して説明を省略する。
【0070】
本実施形態における補修用部材は、ねじ機構10を有するくさび手段4と自動調節手段5である。
自動調節手段5は、ナット12にトルクを付与するトルク負荷部材21と、トルク負荷部材21に荷重を付与する載荷機構22とで構成されている。
本実施形態では、トルク負荷部材21をレンチ(スパナ)等のアームとし、載荷機構22を弾性体であるばね(コイルばね)としている。トルク負荷部材21をアームをもって構成することで、アームの回転及びてこの原理を利用してナット12にトルクを付与することができる。また、載荷機構22を弾性体をもって構成することで、載荷機構22の弾性を利用してトルク負荷部材21に荷重を付与することができる。なお、弾性体としては、ばね以外にゴム、エアシリンダ等を用いることができる。また、トルク負荷部材21の一端には、ナット12に係合する係合部21Aが設けられている。
【0071】
本実施形態による疲労亀裂の補修方法は、第一実施形態による疲労亀裂の補修方法と同様に、母材板1に生じた疲労亀裂2の先端部にストップホール3を設け(ステップ1)、ストップホール3にくさび手段4をはめ込み(ステップ2)、第1ボルト軸11A及び第2ボルト軸11Bが共にナット12から押し出される方向にトルクN1をかけてナット12を回転させることにより、ストップホール3の孔端部にくさび荷重Wを付与する(ステップ3)。
【0072】
ステップ3の後、ナット12にトルク負荷部材21の係合部21Aを係合させる。これにより、ナット12とトルク負荷部材21が連結した状態となる。また、載荷機構22の一端をトルク負荷部材21の他端に接続し、載荷機構22の他端を母材板1又は母材板1との相対的位置が変化しない壁面などの固定部6に接続し、載荷機構22が自然長よりも縮んだ状態で保持する。これによりトルク負荷部材21に荷重Fが作用し、第1ボルト軸11A及び第2ボルト軸11Bが共にナット12から押し出される方向のトルクN2が負荷される。
ここで、トルクN2はステップ3で付与されるトルクN1(
図1参照)よりもはるかに小さく、ゼロでないくさび荷重Wが生じている状態においてはトルクN2によってナット12が回転することはない大きさとする。
【0073】
母材板1に疲労亀裂2が開口する方向の過大荷重が作用してストップホール3が荷重方向に大きく延伸し、ステップ3でストップホール3の孔端部に負荷しておいたくさび荷重Wがゼロとなり、ボルト軸11とストップホール3の孔端部との間に僅かでも間隙が生じかけた場合(
図5(a))には、予め負荷されているトルクN2によって直ちにナット12が回転し、第1ボルト軸11A及び第2ボルト軸11Bの他端がストップホール3の孔端部に接触するまで第1ボルト軸11A及び第2ボルト軸11Bがナット12から押し出される(
図5(b))。
また、過大荷重が除荷された状態となった場合は、荷重方向に延伸していたストップホール3の形状が元に戻ろうとするのに対し、ねじ型くさび部材10のナット12は回転せず、第1ボルト軸11A及び第2ボルト軸11Bの長さは押し出された
図5(b)の状態のままである。従って、結果として完全除荷時にはストップホール3の孔端部にくさび荷重W’が生じるが、第1ボルト軸11A及び第2ボルト軸11Bは初期はめ込み時(
図1の状態)よりも押し出されているため、くさび荷重W’の値は過大荷重が作用する前のくさび荷重Wよりも大きくなっている(
図5(c))。
このようにして、本実施形態によれば、ステップ3でねじ型くさび部材10をはめ込んだ後にボルト軸11とストップホール3の孔端部との間に間隙が生じるような過大荷重が母材板1に作用したとしても、トルク負荷部材21及び載荷機構22の作用により第1ボルト軸11A及び第2ボルト軸11Bがナット12から押し出されて第1ボルト軸11A及び第2ボルト軸11Bの他端とストップホール3の孔端部との接触が保持され、過大荷重の除荷後に再び同程度の過大荷重が作用した場合にも緩みを生じないだけの適切なくさび荷重W’が自動的に付与される。
これにより、母材板1に過大な荷重が作用してストップホール3の孔部の開口変位が大きくなった場合に、開口変位に追随してくさび手段4を自動的に調節し、くさび手段4の緩みを防止できるため、稼働中の最大荷重を推定してそれを負荷した状態で保持する必要がなく、過大荷重除荷後には実際の作用荷重に応じて自動的に調節された適切なくさび荷重を付与し、孔端部の亀裂再発を防ぐことができる。
なお、トルク負荷部材21が、ナット12に略一定のトルクを付与することが好ましい。トルクを略一定にすることによって、ストップホール3の孔端部に付与されるくさび荷重の管理が容易となる。
【0074】
ここで、載荷機構22の押し出しストローク特性としては、ナット12がどれだけ回転しても常に追随して一定以上の荷重Fを負荷し続ける特性、すなわちナット12に一定以上のトルクN2を負荷し続ける特性とするか、あるいはナット12の回転量ひいては第1ボルト軸11A及び第2ボルト軸11Bの押し出し量に上限を設けておき、載荷機構22が一定のストローク分だけ動いて第1ボルト軸11A及び第2ボルト軸11Bが所定量押し出された場合には、それ以上の荷重をトルク負荷部材21に負荷しなくなるような特性、すなわち、予め定めた上限を超えるような過大荷重作用時にはねじ型くさび部材10とストップホール3の孔端部との間隙をある程度許容する特性とするかは、当該部分に加わる外荷重の大きさや疲労亀裂2の長さ、外荷重の除荷時に生じる最大くさび荷重とねじ型くさび部材10及びストップホール3の強度の関係、補修の対象としている構造自体の諸特性(板厚、冗長性、座屈強度など)を勘案しながら、適宜選択することが好ましい。
なお、第1ボルト軸11A及び第2ボルト軸11Bの押し出し量に上限を設けた場合、すなわち、ある程度の緩みを許容し経時的な過度の緩み、過度の緩みに伴うずれや外れ等を防止する特性とした場合には、一定以上のトルクN2を負荷し続ける特性とし、一切の緩みを防止して開口変位に完全に追随させた場合に発生し得るねじ型くさび部材10又は母材板1の座屈や塑性変形等を防止することができる。
【0075】
以上、第二実施形態による疲労亀裂の補修方法及び補修用部材は、補修用部材が簡素な構成でありながら、ストップホール3の孔端部応力変動幅を抑制して孔端部からの亀裂再発を防ぐ機能と、過大荷重による孔部の開口変位に追随してくさび手段4を自動的に調節する機能とを有しているため、母材板1に作用する荷重の程度が不明な場合や、過大荷重の負荷が予想され、ステップ3で付与したくさび荷重Wでは孔端部の応力変動幅を十分に抑制することができないと予測される場合において特に有効である。
【0076】
図6は本発明の第三実施形態による疲労亀裂の補修方法及び補修用部材を示す概要図であり、
図6(a)は正面図、
図6(b)は右側面図である。なお、上述した実施形態と同一機能部材には同一符号を付して説明を省略する。また、構造を分かりやすくするため
図6(b)においては一部を断面で表している。
【0077】
本実施形態では、補修用部材であるくさび手段4は、ねじ機構100を有する。ねじ機構100は、パンタグラフ型機構110と、パンタグラフ型機構110を伸縮させるボルト機構120で構成されている。
パンタグラフ型機構110は、一対のリンク部品111と、一対のリンク部品111の間に配置された第1ピン部品112、第2ピン部品113、第3ピン部品114、及び第4ピン部品115から成る。
第1ピン部品112及び第2ピン部品113は、リンク部品111の長手方向中央位置にリンク部品111の長手方向と直交する方向へ直列に離間配置されている。第3ピン部品114はリンク部品111の一端に、第4ピン部品115はリンク部品111の他端に配置されている。
リンク部品111は、第1プレート111A、第2プレート111B、第3プレート111C、及び第4プレート111Dから成る。
第1プレート111Aの一端は第3ピン部品114に接続され、他端は第1ピン部品112に接続されている。第2プレート111Bの一端は第1ピン部品112に接続され、他端は第4ピン部品115に接続されている。第3プレート111Cの一端は第3ピン部品114に接続され、他端は第2ピン部品113に接続されている。第4プレート111Dの一端は第2ピン部品113に接続され、他端は第4ピン部品115に接続されている。
ボルト機構120は、第1ピン部品112の中央部に設けられた孔を貫通し、第2ピン部品113の中央部に設けられた雌ねじに螺合している。
【0078】
本実施形態による疲労亀裂の補修方法は、第一実施形態による疲労亀裂の補修方法と同様に、母材板1に生じた疲労亀裂2の先端部にストップホール3を設け(ステップ1)、ストップホール3にくさび荷重が可変のくさび手段4をはめ込み(ステップ2)、ストップホール3の孔端部にくさび荷重を付与する(ステップ3)。以下に、母材板1を基準として施工者のいる側を表側、反対側を裏側として説明する。
【0079】
ステップ2では、第1ピン部品112側が表側となるように、すなわちボルト機構120の頭部が表側にくるように、くさび手段4をストップホール3にはめ込む。くさび手段4は収縮した状態とする。このとき、
図6に示すように、くさび手段4が疲労亀裂2に対して略垂直に立設するようにストップホール3内に配置することが好ましい。
【0080】
ステップ2の後、ボルト機構120の頭部に締め込む方向のトルクN1をかけて回転させると、表側に位置するリンク部品111と裏側に位置するリンク部品111の中央部は互いに引き寄せられ、それにつれて所謂パンタグラフジャッキと同様の原理によりくさび手段4は長手方向に延伸し、ストップホール3の孔端部が第3ピン部品114及び第4ピン部品115に押され、ストップホール3の孔端部にくさび荷重Wが付与される(ステップ3)。
これにより、ストップホール3の孔端部の応力変動幅を抑制し、孔端部からの亀裂再発を防ぐことができる。
母材板1に過大な荷重が作用してストップホール3の孔部の開口変位が大きくなった場合には、くさび手段4を延伸してくさび荷重を調節する(ステップ4)。
【0081】
なお、第3ピン部品114及び第4ピン部品115は、ストップホール3の孔端部と接する端部の曲率がストップホール3の曲率と略同一となる形状寸法に加工しておくことが好ましい。このように加工しておくことで、ボルト機構120を軽く締めた状態でくさび手段4を適用対象のストップホール3にはめ込んだときに第3ピン部品114及び第4ピン部品115の端部曲面がストップホール3の孔端部にぴったりと密接して整合するため、くさび手段4がストップホール3からずれたり脱落したりすることを防止できる。
また、例えば、第3ピン部品114及び第4ピン部品115の端部を母材板1の両側からストップホール3の孔端部を挟み込む形状にするなど、くさび手段4には、ストップホール3からのずれや脱落を防止する脱落防止手段を設けることが好ましい。これにより、仮に母材板1に疲労亀裂2を開く方向の荷重が作用してストップホール3が荷重方向(
図6の上下方向)に広がってくさび荷重Wがゼロとなり、パンタグラフ機構とストップホール3との接触が緩んでも、くさび手段4がずれたり脱落したりすることを防止できる。
また、第一実施形態で説明したように、くさび手段4をストップホール3にはめ込む前に、くさび手段4の構成部品を十分な強度を有するワイヤー、チェーン又は磁石等を用いて母材板1等に係止しておくことは、構成部品の落下防止対策として有効である。
【0082】
以上、第三実施形態による疲労亀裂の補修方法及び補修用部材は、母材板1に作用する荷重の程度が把握できており、またその荷重の程度が、本実施形態で付与したくさび荷重Wによってストップホール3の孔端部の応力変動幅が十分に抑制できる範囲内と予測される場合において特に有効である。
【0083】
図7は本発明の第四実施形態による疲労亀裂の補修方法及び補修用部材を示す概要図であり、
図7(a)は母材板に過大荷重が作用した状態を示し、
図7(b)はくさび手段がストップホールの変形に追随して延伸した状態を示し、
図7(c)は過大荷重が除荷された状態を示している。なお、上述した実施形態と同一機能部材には同一符号を付して説明を省略する。
【0084】
本実施形態における補修用部材は、ねじ機構100を有するくさび手段4と自動調節手段5である。
自動調節手段5は、ボルト機構120にトルクを付与するトルク負荷部材131と、トルク負荷部材131に荷重を付与する載荷機構132とで構成されている。
本実施形態では、トルク負荷部材131をレンチ(スパナ)等のアームとし、載荷機構132を高強度ロープに吊り下げた重錘としている。トルク負荷部材131をアームをもって構成することで、アームの回転及びてこの原理を利用してボルト機構120にトルクを付与することができる。また、載荷機構132を重錘をもって構成することで、重力を利用してトルク負荷部材131に荷重を付与することができる。なお、トルク負荷部材131の一端には、ボルト機構120に係合する係合部131Aが設けられている。
【0085】
本実施形態による疲労亀裂の補修方法は、第三実施形態による疲労亀裂の補修方法と同様に、母材板1に生じた疲労亀裂2の先端部にストップホール3を設け(ステップ1)、ストップホール3にくさび手段4をはめ込み(ステップ2)、ボルト機構120の頭部に締め込む方向のトルクN1をかけて回転させてくさび手段4を延伸させることにより、ストップホール3の孔端部にくさび荷重を付与する(ステップ3)。
【0086】
ステップ3の後、ボルト機構120にトルク負荷部材131の係合部131Aを係合させる。これにより、ボルト機構120とトルク負荷部材131が連結した状態となる。また、トルク負荷部材131の他端に載荷機構132を接続する。これによりトルク負荷部材131に荷重Fが作用し、くさび手段4が延伸する方向のトルクN2がボルト機構120に負荷される。
ここで、トルクN2はステップ3で付与するトルクN1(
図6参照)よりもはるかに小さく、ゼロでないくさび荷重Wが生じている状態においてはトルクN2によってボルト機構120が回転することはない大きさとする。
【0087】
母材板1に疲労亀裂2が開口する方向の過大荷重が作用してストップホール3が荷重方向に大きく延伸し、ステップ3でストップホール3の孔端部に負荷しておいたくさび荷重Wがゼロとなり、第3ピン部品114及び第4ピン部品115とストップホール3との間に僅かでも間隙が生じかけた場合(
図7(a))には、予め負荷されているトルクN2によって直ちにボルト機構120が回転し、第3ピン部品114及び第4ピン部品11がストップホール3の孔端部に接触するまでパンタグラフ型機構110が延伸する(
図7(b))。
また、過大荷重が除荷された状態となった場合は、過大荷重により延伸していたストップホール3の形状が元に戻ろうとするのに対し、ボルト機構120は回転せず、くさび手段4は延伸した
図7(b)の状態のままである。従って、結果として完全除荷時にはストップホール3の孔端部にくさび荷重W’が生じるが、くさび手段4は初期はめ込み時(
図6の状態)よりも延伸しているため、くさび荷重W’の値は過大荷重が作用する前のくさび荷重Wよりも大きくなっている(
図7(c))。
このようにして、本実施形態によれば、ステップ3でくさび手段4をはめ込んだ後に第3ピン部品114及び第4ピン部品115とストップホール3の孔端部との間に間隙が生じるような過大荷重が母材板1に作用したとしても、トルク負荷部材131及び載荷機構132の作用によりパンタグラフ型機構110が延伸されて第3ピン部品114及び第4ピン部品115とストップホール3の孔端部との接触が保持され、過大荷重の除荷後に再び同程度の過大荷重が作用した場合にも緩みを生じないだけの適切なくさび荷重W’が自動的に付与される。
これにより、母材板1に過大な荷重が作用してストップホール3の孔部の開口変位が大きくなった場合に、開口変位に追随してくさび手段4を自動的に調節し、くさび手段4の緩みを防止できるため、稼働中の最大荷重を推定してそれを負荷した状態で保持する必要がなく、過大荷重除荷後には実際の作用荷重に応じて自動的に調節された適切なくさび荷重を付与し、孔端部の亀裂再発を防ぐことができる。
なお、トルク負荷部材131が、ボルト機構120に略一定のトルクを付与することが好ましい。トルクを略一定にすることによって、ストップホール3の孔端部に付与されるくさび荷重の管理が容易となる。
【0088】
ここで、載荷機構132のストローク特性としては、ボルト機構120がどれだけ回転しても常に追随して一定以上の荷重Fを負荷し続ける特性、すなわちボルト機構120に一定以上のトルクN2を負荷し続ける特性とするか、あるいはボルト機構120の回転量ひいてはリンク機構の延伸量に上限を設けておき、載荷機構132が一定のストローク分だけ動いてパンタグラフ型機構110が所定量延伸された場合には、それ以上の荷重を負荷しなくなるような特性、すなわち、予め定めた上限を超えるような過大荷重作用時にはくさび手段4とストップホール3の孔端部との間隙をある程度許容する特性とするかは、当該部分に加わる外荷重の大きさや疲労亀裂2の長さ、外荷重の除荷時に生じる最大くさび荷重とくさび手段4及びストップホール3の強度の関係、補修の対象とする構造自体の諸特性(板厚、冗長性、座屈強度など)を勘案しながら、適宜選択することが好ましい。
なお、リンク機構の延伸量に上限を設けた場合、すなわち、ある程度の緩みを許容し経時的な過度の緩み、過度の緩みに伴うずれや外れ等を防止する特性とした場合には、一定以上のトルクN2を負荷し続ける特性とし、一切の緩みを防止して開口変位に完全に追随させた場合に発生し得るくさび手段4又は母材板1の座屈や塑性変形等を防止することができる。
【0089】
以上、第四実施形態による疲労亀裂の補修方法及び補修用部材は、補修用部材が簡素な構成でありながら、ストップホール3の孔端部応力変動幅を抑制して孔端部からの亀裂再発を防ぐ機能と、過大荷重による孔部の開口変位に追随してくさび手段4を自動的に調節する機能とを有しているため、母材板1に作用する荷重の程度が不明な場合や、過大荷重の負荷が予想され、ステップ3で付与したくさび荷重Wでは孔端部の応力変動幅を十分に抑制することができないと予測される場合において特に有効である。
【0090】
図8は本発明の第五実施形態による疲労亀裂の補修方法及び補修用部材を示す概要図であり、
図8(a)は正面図、
図8(b)は右側面図である。なお、上述した実施形態と同一機能部材には同一符号を付して説明を省略する。また、構造を分かりやすくするため
図8(b)においては一部を断面で表している。
【0091】
本実施形態では、補修用部材であるくさび手段4は、ねじ機構200を有する。ねじ機構200は、ボルト雌ねじが形成された第1斜面部品210と、第1斜面部品210上に摺動可能に当接する第2斜面部品220と、第1斜面部品210のボルト雌ねじに螺入されるボルト230で構成されている。
第1斜面部品210は側面視略L字状であり、母材板1と平行に配置する平行部211とストップホール3に挿入するはめ込み部212から成る。ボルト雌ねじは平行部211に形成されている。はめ込み部212の第2斜面部品220との接触面は斜面となっている。
第2斜面部品220は四角形状であり、第1斜面部品210のはめ込み部212との接触面は斜面となっている。第2斜面部品220の斜面の傾斜角度は、第1斜面部品210の斜面の傾斜角度と同じであり両者は密接している。また、第1斜面部品210及び第2斜面部品220の斜面の角度は、45度よりも小さい。
第1斜面部品210に形成されたボルト雌ねじは第1斜面部品210の平行部211を貫通しており、ボルト230の軸部はボルト雌ねじよりも長い。従って、ボルト雌ねじに螺入されたボルト230の軸部は、第1斜面部品210の平行部211を貫通し、先端が第2斜面部品220に当接して第2斜面部品220をストップホール3に押し込むことができる。なお、本実施形態ではボルト230として六角穴付ボルトを用いているが、用いることができるボルトの種類は任意であり、六角穴付ボルトに限定されるものではない。
また、第2斜面部品220に当接するボルト230の先端に角があると第2斜面部品220に摺過傷や圧痕が生じやすくなったり、ボルト230が滑らかに回転できなかったりするため、
図8(b)に示すように、ボルト230の先端は、適度な曲率を有する球面状又は楕円面状に仕上げられていることが好ましい。
【0092】
本実施形態による疲労亀裂の補修方法は、第一実施形態による疲労亀裂の補修方法と同様に、母材板1に生じた疲労亀裂2の先端部にストップホール3を設け(ステップ1)、ストップホール3にくさび荷重が可変のくさび手段4をはめ込み(ステップ2)、ストップホール3の孔端部にくさび荷重を付与する(ステップ3)。
【0093】
ステップ2では、第1斜面部品210及び第2斜面部品220をストップホール3にはめ込む。このとき、
図8に示すように、第1斜面部品210が疲労亀裂2に対して略垂直に立設するようにストップホール3内に配置することが好ましい。
【0094】
ステップ2の後、ボルト230に締め込む方向のトルクN1をかけて回転させると、第2斜面部品220が第1斜面部品210のボルト雌ねじから突出したボルト230の軸部先端に押され、第1斜面部品210と第2斜面部品220は互いに離れる方向に移動するが、両者の接触面は移動方向とは一定の(45度よりも小さい)角度を成す斜面となっているため、所謂斜面の原理により両者の接する斜面にはボルト軸力よりも大きい抗力が生じ、その反力としてくさび手段4と接するストップホール3の孔端部にはくさび荷重Wが付与される(ステップ3)。
これにより、ストップホール3の孔端部の応力変動幅を抑制し、孔端部からの亀裂再発を防ぐことができる。
母材板1に過大な荷重が作用してストップホール3の孔部の開口変位が大きくなった場合には、第2斜面部品220をボルト230で押してくさび手段4を延伸させることにより、くさび荷重を調節する(ステップ4)。
【0095】
ここで、くさび手段4が長期間にわたって安定的に機能するためには、ボルト230による支えがなくても、くさび荷重Wによって第2斜面部品220が滑り出さないことが好ましいが、この場合、斜面の傾斜角度αは下式(1)の条件を満たす必要がある。
[式1]
tanα<μ ・・・(1)
但し、μは第1斜面部品210と第2斜面部品220との間の最大静止摩擦係数であり、その値は両斜面部品の素材や斜面の加工、表面粗度等によって決まり、使用時に斜面を潤滑するか否かによっても変化する。
一般に、両斜面が金属面同士だと、潤滑なしの場合でμ=0.4程度、潤滑ありの場合でμ=0.1〜0.2程度と考えられるため、式(1)の条件は、潤滑なしの場合でtanα<1/2.5、潤滑ありの場合でtanα<1/10〜1/5程度となる。但し、金属面を非常に平滑に仕上げた場合には摩擦係数がかなり小さくなることもあるので、斜面の傾斜角度αの値は場合に応じて適宜設定することが好ましい。
【0096】
なお、第1斜面部品210及び第2斜面部品220のうちストップホール3の孔端部と接する部分は、ストップホール3の孔端部の形状と整合するように曲面状に加工しておくことが好ましい。このように加工しておくことで、第1斜面部品210及び第2斜面部品220がストップホール3の孔端部に密接し、くさび手段4がストップホール3からずれたり脱落したりすることを防止できる。
また、例えば、第1斜面部品210のはめ込み部212を母材板1の両側からストップホール3の孔端部を挟み込む形状にするなど、くさび手段4には、ストップホール3からのずれや脱落を防止する脱落防止手段を設けることが好ましい。これにより、仮に母材板1に疲労亀裂2を開く方向の荷重が作用してストップホール3が荷重方向(
図8の上下方向)に広がってくさび荷重Wがゼロとなり、くさび手段4とストップホール3との接触が緩んでも、くさび手段4がずれたり脱落したりすることを防止できる。
また、第一実施形態で説明したように、くさび手段4をストップホール3にはめ込む前に、くさび手段4の構成部品を十分な強度を有するワイヤー、チェーン又は磁石等を用いて母材板1等に係止しておくことは、構成部品の落下防止対策として有効である。
【0097】
以上、第五実施形態による疲労亀裂の補修方法及び補修用部材は、母材板1に作用する荷重の程度が把握できており、またその荷重の程度が、本実施形態で付与したくさび荷重Wによってストップホール3の孔端部の応力変動幅が十分に抑制できる範囲内と予測される場合において特に有効である。
【0098】
図9は本発明の第六実施形態による疲労亀裂の補修方法及び補修用部材を示す概要図であり、
図9(a)は母材板に過大荷重が作用した状態を示し、
図9(b)はくさび手段がストップホールの変形に追随して延伸した状態を示し、
図9(c)は過大荷重が除荷された状態を示している。なお、上述した実施形態と同一機能部材には同一符号を付して説明を省略する。
【0099】
本実施形態における補修用部材は、ねじ機構200を有するくさび手段4と自動調節手段5である。
自動調節手段5は、ボルト230にトルクを付与するトルク負荷部材241と、トルク負荷部材241に荷重を付与する載荷機構242とで構成されている。
本実施形態では、トルク負荷部材241を六角棒スパナ(レンチ)等のアームとし、載荷機構242を高強度ロープに吊り下げた重錘としている。トルク負荷部材241をアームをもって構成することで、アームの回転及びてこの原理を利用してボルト230にトルクを付与することができる。また、載荷機構242を重錘をもって構成することで、重力を利用してトルク負荷部材241に荷重を付与することができる。なお、トルク負荷部材241の一端には、ボルト230に係合する係合部241Aが設けられている。
【0100】
本実施形態による疲労亀裂の補修方法は、第五実施形態による疲労亀裂の補修方法と同様に、母材板1に生じた疲労亀裂2の先端部にストップホール3を設け(ステップ1)、ストップホール3にくさび手段4をはめ込み(ステップ2)、ボルト230に締め込む方向のトルクN1をかけて回転させて、第2斜面部品220をボルト230の先端で押すことにより、ストップホール3の孔端部にくさび荷重を付与する(ステップ3)。
【0101】
ステップ3の後、ボルト230にトルク負荷部材241の係合部241Aを係合させる。これにより、ボルト230とトルク負荷部材241が連結した状態となる。また、トルク負荷部材241の他端に載荷機構242を接続する。これによりトルク負荷部材241に荷重Fを作用し、第2斜面部品220が第1斜面部品210の上にせり上がる方向のトルクN2がボルト230に負荷される。
ここで、トルクN2はステップ3で付与するトルクN1(
図8参照)よりもはるかに小さく、ゼロでないくさび荷重Wが生じている状態においてはトルクN2によってボルト230が回転することはない大きさとする。
【0102】
母材板1に疲労亀裂2が開口する方向の過大荷重が作用してストップホール3が荷重方向に大きく延伸し、ステップ3でストップホール3の孔端部に負荷しておいたくさび荷重Wがゼロとなり、第1斜面部品210及び第2斜面部品220とストップホール3との間に僅かでも間隙が生じかけた場合(
図9(a))には、予め負荷されているトルクN2によって直ちにボルト230が回転し、第1斜面部品210及び第2斜面部品220がストップホール3の孔端部に接触するまで第2斜面部品220が第1斜面部品210の上にせり上がる(
図9(b))。
また、過大荷重が除荷された状態となった場合は、過大荷重により延伸していたストップホール3の形状が元に戻ろうとするのに対し、ボルト230は回転せず、第2斜面部品220は第1斜面部品210の上にせり上がった
図9(b)の状態のままである。従って、除荷時にはストップホール3の孔端部にくさび荷重W’が生じるが、第2斜面部品220は初期はめ込み時(
図8の状態)よりも第1斜面部品210の上にせり上がっているため、くさび荷重W’の値は過大荷重が作用する前のくさび荷重Wよりも大きくなっている(
図9(c))。
このようにして、本実施形態によれば、ステップ3でくさび手段4をはめ込んだ後に第1斜面部品210及び第2斜面部品220とストップホール3の孔端部との間に間隙が生じるような過大荷重が母材板1に作用したとしても、トルク負荷部材241及び載荷機構242の作用により第2斜面部品220が第1斜面部品210の上にせり上がってくさび手段4とストップホール3との接触が保持され、過大荷重の除荷後に再び同程度の過大荷重が作用した場合にも緩みを生じないだけの適切なくさび荷重W’が自動的に付与される。
従って、母材板1に過大な荷重が作用してストップホール3の孔部の開口変位が大きくなった場合に、開口変位に追随してくさび手段4を自動的に調節し、くさび手段4の緩みを防止できるため、稼働中の最大荷重を推定してそれを負荷した状態で保持する必要がなく、過大荷重除荷後には実際の作用荷重に応じて自動的に調節された適切なくさび荷重を付与し、孔端部の亀裂再発を防ぐことができる。
なお、トルク負荷部材241が、ボルト230に略一定のトルクを付与することが好ましい。トルクを略一定にすることによって、ストップホール3の孔端部に付与されるくさび荷重の管理が容易となる。
【0103】
ここで、載荷機構242の押し出しストローク特性としては、ボルト230がどれだけ回転しても常に追随して一定以上の荷重Fを負荷し続ける特性、すなわちボルト230には一定以上のトルクN2を負荷し続ける特性とするか、あるいはボルト230の回転量ひいては第2斜面部品220のせり上がり量に上限を設けておき、一定の長さだけせり上がった場合には、載荷機構242がそれ以上の荷重を負荷しなくなるような特性、すなわち、予め定めた上限を超えるような過大荷重作用時にはくさび手段4とストップホール3との間隙をある程度許容する特性とするかは、当該部分に加わる外荷重の大きさや疲労亀裂2の長さ、外荷重の除荷時に生じる最大くさび荷重とくさび手段4及びストップホール3の強度の関係、補修の対象とする構造自体の諸特性(板厚、冗長性、座屈強度など)を勘案しながら、適宜選択することが好ましい。
なお、第2斜面部品220のせり上がり量に上限を設けた場合、すなわち、ある程度の間隙(緩み)を許容し経時的な過度の間隙の広がり、過度の間隙の広がりに伴うずれや外れ等を防止する特性とした場合には、一定以上のトルクN2を負荷し続ける特性とし、一切の間隙の広がりを防止して開口変位に完全に追随させた場合に発生し得るくさび手段4又は母材板1の座屈や塑性変形等を防止することができる。
【0104】
以上、第六実施形態による疲労亀裂の補修方法及び補修用部材は、補修用部材が簡素な構成でありながら、ストップホール3の孔端部応力変動幅を抑制して孔端部からの亀裂再発を防ぐ機能と、過大荷重による孔部の開口変位に追随してくさび手段4を自動的に調節する機能とを有しているため、母材板1に作用する荷重の程度が不明な場合や、過大荷重の負荷が予想され、ステップ3で付与したくさび荷重Wでは孔端部の応力変動幅を十分に抑制することができないと予測される場合において特に有効である。
【0105】
図10は本発明の第七実施形態による疲労亀裂の補修方法及び補修用部材を示す概要図であり、
図10(a)は正面図、
図10(b)は右側面図である。なお、上述した実施形態と同一機能部材には同一符号を付して説明を省略する。また、構造を分かりやすくするため
図10(b)においては一部を断面で表している。
【0106】
本実施形態では、補修用部材であるくさび手段4として、熱膨張型くさび部材300を用いる。熱膨張型くさび部材300は、熱膨張後の寸法がストップホール3の孔部寸法よりも大きくなるように作製されている。
【0107】
本実施形態による疲労亀裂の補修方法は、第一実施形態による疲労亀裂の補修方法と同様に、母材板1に生じた疲労亀裂2の先端部にストップホール3を設け(ステップ1)、ストップホール3にくさび荷重が可変のくさび手段4をはめ込み(ステップ2)、ストップホール3の孔端部にくさび荷重を付与する(ステップ3)。
【0108】
ステップ2では、液体窒素等により冷却して収縮させた状態の熱膨張型くさび部材300をストップホール3にはめ込む。このとき、
図10に示すように、熱膨張型くさび部材300が疲労亀裂2に対して略垂直に立設するようにストップホール3内に配置することが好ましい。
【0109】
ステップ2の後、はめ込んだ熱膨張型くさび部材300を自然に又は強制的に常温に戻して熱膨張させると、ストップホール3の孔端部が熱膨張型くさび部材300に押され、ストップホール3の孔端部にくさび荷重Wが付与される(ステップ3)。
これにより、ストップホール3の孔端部の応力変動幅を抑制し、孔端部からの亀裂再発を防ぐことができる。
母材板1に過大な荷重が作用してストップホール3の孔部の開口変位が大きくなった場合には、より大きく膨張する熱膨張型くさび部材300に交換してくさび荷重を調節する(ステップ4)。
【0110】
以上、第七実施形態による疲労亀裂の補修方法及び補修用部材は、母材板1に作用する荷重の程度が把握できており、またその荷重の程度が、本実施形態で付与したくさび荷重Wによってストップホール3の孔端部の応力変動幅が十分に抑制できる範囲内と予測される場合において特に有効である。
【0111】
図11は本発明の第八実施形態による疲労亀裂の補修方法及び補修用部材を示す概要図であり、
図11(a)は背面図、
図11(b)は右側面図である。なお、上述した実施形態と同一機能部材には同一符号を付して説明を省略する。また、構造を分かりやすくするため
図11(b)においては一部を断面で表している。
【0112】
本実施形態では、補修用部材であるくさび手段4は、ねじ機構400を有する。ねじ機構400は、一端にテーパ付き雌ねじを有した第1分割雌ねじ部品410と、一端にテーパ付き雌ねじを有した第2分割雌ねじ部品420と、先細のテーパボルト430で構成されている。
第1分割雌ねじ部品410と第2分割雌ねじ部品420とは、テーパ付き雌ねじが形成されている一端側が向かい合うようにストップホール3に配置される。二つのテーパ付き雌ねじが向かい合うことによって、テーパボルト430を挟み込む形となるテーパ付き雌ねじ部440が構成される。
なお、本実施形態ではテーパボルト430として六角穴付テーパボルトを用いているが、用いることができるテーパボルトの種類は任意であり、六角穴付テーパボルトに限定されるものではない。
【0113】
本実施形態による疲労亀裂の補修方法は、第一実施形態による疲労亀裂の補修方法と同様に、母材板1に生じた疲労亀裂2の先端部にストップホール3を設け(ステップ1)、ストップホール3にくさび荷重が可変のくさび手段4をはめ込み(ステップ2)、ストップホール3の孔端部にくさび荷重を付与する(ステップ3)。
【0114】
ステップ2では、第1分割雌ねじ部品410と第2分割雌ねじ部品420を、テーパ付き雌ねじが形成されている一端側を向かい合わせにしてストップホール3にはめ込むことでテーパ付き雌ねじ部440を構成し、テーパ付き雌ねじ部440にテーパボルト430の軸部を嵌合する。このとき、
図11に示すように、くさび手段4が疲労亀裂2に対して略垂直に立設するようにストップホール3内に配置することが好ましい。
【0115】
ステップ2の後、テーパボルト430にテーパ付き雌ねじ部440に貫入する方向(締め込む方向)のトルクN1をかけて回転させると、第1分割雌ねじ部品410と第2分割雌ねじ部品420はテーパボルト430に押されて互いに離れる方向に押し広げられて移動しようとするが、第1分割雌ねじ部品410の他端及び第2分割雌ねじ部品420の他端はストップホール3の孔端部と接しているため反力が生じ、ストップホール3の孔端部にはくさび荷重Wが付与される(ステップ3)。
これにより、ストップホール3の孔端部の応力変動幅を抑制し、孔端部からの亀裂再発を防ぐことができる。
母材板1に過大な荷重が作用してストップホール3の孔部の開口変位が大きくなった場合には、テーパボルト430を締め込んでくさび手段4を延伸させることにより、くさび荷重を調節する(ステップ4)。
【0116】
なお、第1分割雌ねじ部品410の他端及び第2分割雌ねじ部品420の他端のうちストップホール3の孔端部と接する部分は、ストップホール3の孔端部の形状と整合するように曲面状に加工しておくことが好ましい。このように加工しておくことで第1分割雌ねじ部品410及び第2分割雌ねじ部品420がストップホール3の孔端部に密接し、くさび手段4がストップホール3からずれたり脱落したりすることを防止できる。
また、例えば、第1分割雌ねじ部品410の他端及び第2分割雌ねじ部品420の他端を母材板1の両側からストップホール3の孔端部を挟み込む形状にするなど、くさび手段4には、ストップホール3からのずれや脱落を防止する脱落防止手段を設けることが好ましい。これにより、仮に母材板1に疲労亀裂2を開く方向の荷重が作用してストップホール3が荷重方向(
図11の上下方向)に広がってくさび荷重Wがゼロとなり、ねじ機構400とストップホール3との接触が緩んでも、くさび手段4がずれたり脱落したりすることを防止できる。
また、第一実施形態で説明したように、くさび手段4をストップホール3にはめ込む前に、くさび手段4の構成部品を十分な強度を有するワイヤー、チェーン又は磁石等を用いて母材板1又は最大構成部品に係止しておくことは、構成部品の落下防止対策として有効である。
【0117】
以上、第八実施形態による疲労亀裂の補修方法及び補修用部材は、母材板1に作用する荷重の程度が把握できており、またその荷重の程度が、本実施形態で付与したくさび荷重Wによってストップホール3の孔端部の応力変動幅が十分に抑制できる範囲内と予測される場合において特に有効である。
【0118】
図12は本発明の第九実施形態による疲労亀裂の補修方法及び補修用部材を示す概要図であり、
図12(a)は母材板に過大荷重が作用した状態を示し、
図12(b)はくさび手段がストップホールの変形に追随して延伸した状態を示し、
図12(c)は過大荷重が除荷された状態を示している。なお、上述した実施形態と同一機能部材には同一符号を付して説明を省略する。
【0119】
本実施形態における補修用部材は、ねじ機構400を有するくさび手段4と自動調節手段5である。
自動調節手段5は、テーパボルト430にトルクを付与するトルク負荷部材451と、トルク負荷部材451に荷重を付与する載荷機構452とで構成されている。
本実施形態では、トルク負荷部材451を六角棒スパナ(レンチ)等のアームとし、載荷機構452を高強度ロープに吊り下げた重錘としている。トルク負荷部材451をアームをもって構成することで、アームの回転及びてこの原理を利用してテーパボルト430にトルクを付与することができる。また、載荷機構452を重錘をもって構成することで、重力を利用してトルク負荷部材451に荷重を付与することができる。なお、トルク負荷部材451の一端には、テーパボルト430に係合する係合部451Aが設けられている。
【0120】
本実施形態による疲労亀裂の補修方法は、第八実施形態による疲労亀裂の補修方法と同様に、母材板1に生じた疲労亀裂2の先端部にストップホール3を設け(ステップ1)、ストップホール3にくさび手段4をはめ込み(ステップ2)、テーパボルト430に締め込む方向のトルクN1をかけて回転させて、第1分割雌ねじ部品410と第2分割雌ねじ部品420との間隔を押し広げることにより、ストップホール3の孔端部にくさび荷重を付与する(ステップ3)。
【0121】
ステップ3の後、テーパボルト430にトルク負荷部材451の係合部451Aを係合させる。これにより、テーパボルト430とトルク負荷部材451が連結した状態となる。また、トルク負荷部材451の他端に載荷機構452を接続する。これによりトルク負荷部材451に荷重Fを作用させ、第1分割雌ねじ部品410と第2分割雌ねじ部品420との間隔を押し広げる方向のトルクN2がテーパボルト430に負荷される。
ここで、トルクN2はステップ3で付与するトルクN1(
図11参照)よりもはるかに小さく、ゼロでないくさび荷重Wが生じている状態においてはトルクN2によってテーパボルト430が回転することはない大きさとする。
【0122】
母材板1に疲労亀裂2が開口する方向の過大荷重が作用してストップホール3が荷重方向に大きく延伸し、ステップ3でストップホール3の孔端部に負荷しておいたくさび荷重Wがゼロとなり、第1分割雌ねじ部品410及び第2分割雌ねじ部品420とストップホール3の孔端部との間に僅かでも間隙が生じかけた場合(
図12(a))には、予め負荷されているトルクN2によって直ちにテーパボルト430が回転し、第1分割雌ねじ部品410の他端及び第2分割雌ねじ部品420の他端がストップホール3の孔端部に接触するまで第1分割雌ねじ部品410と第2分割雌ねじ部品420との間隔が押し広げられる(
図12(b))。
また、過大荷重が除荷された状態となった場合は、過大荷重により延伸していたストップホール3の形状が元に戻ろうとするのに対し、テーパボルト430は回転せず、第1分割雌ねじ部品410と第2分割雌ねじ部品420との間隔は押し広げられた
図12(b)の状態のままである。従って、除荷時にはストップホール3の孔端部にくさび荷重W’が生じるが、第1分割雌ねじ部品410と第2分割雌ねじ部品420との間隔は初期はめ込み時(
図11の状態)よりも広がっているため、くさび荷重W’の値は過大荷重が作用する前のくさび荷重Wよりも大きくなっている(
図12(c))。
このようにして、本実施形態によれば、ステップ3でくさび手段4をはめ込んだ後に第1分割雌ねじ部品410及び第2分割雌ねじ部品420とストップホール3の孔端部との間に間隙が生じるような過大荷重が母材板1に作用したとしても、トルク負荷部材451及び載荷機構452の作用により第1分割雌ねじ部品410と第2分割雌ねじ部品420との間隔が押し広げられてくさび手段4とストップホール3の孔端部との接触が保持され、過大荷重の除荷後に再び同程度の過大荷重が作用した場合にも緩みを生じないだけの適切なくさび荷重W’が自動的に付与される。
従って、母材板1に過大な荷重が作用してストップホール3の孔部の開口変位が大きくなった場合に、開口変位に追随してくさび手段4を自動的に調節し、くさび手段4の緩みを防止できるため、稼働中の最大荷重を推定してそれを負荷した状態で保持する必要がなく、過大荷重除荷後には実際の作用荷重に応じて自動的に調節された適切なくさび荷重を付与し、孔端部の亀裂再発を防ぐことができる。
なお、トルク負荷部材451が、テーパボルト430に略一定のトルクを付与することが好ましい。トルクを略一定にすることによって、ストップホール3の孔端部に付与されるくさび荷重の管理が容易となる。
【0123】
ここで、載荷機構452の押し出しストローク特性としては、テーパボルト430がどれだけ回転しても常に追随して一定以上の荷重Fを負荷し続ける特性、すなわちテーパボルト430には一定以上のトルクN2を負荷し続ける特性とするか、あるいはテーパボルト430の回転量ひいては第1分割雌ねじ部品410と第2分割雌ねじ部品420との間隔が押し広げられる量に上限を設けておき、一定の長さだけ押し広げられた場合には、載荷機構452がそれ以上の荷重を負荷しなくなるような特性、すなわち、予め定めた上限を超えるような過大荷重作用時にはくさび手段4とストップホール3の孔端部との間隙をある程度許容する特性とするかは、当該部分に加わる外荷重の大きさや疲労亀裂2の長さ、外荷重の除荷時に生じる最大くさび荷重とくさび手段4及びストップホール3の強度の関係、補修の対象とする構造自体の諸特性(板厚、冗長性、座屈強度など)を勘案しながら、適宜選択することが好ましい。
なお、第1分割雌ねじ部品410と第2分割雌ねじ部品420との間隔が押し広げられる量に上限を設けた場合、すなわち、ある程度の間隙(緩み)を許容し経時的な過度の間隙の広がり、過度の間隙の広がりに伴うずれや外れ等を防止する特性とした場合には、一定以上のトルクN2を負荷し続ける特性とし、一切の間隙の広がりを防止して開口変位に完全に追随させた場合に発生し得るくさび手段4又は母材板1の座屈や塑性変形等を防止することができる。
【0124】
以上、第九実施形態による疲労亀裂の補修方法及び補修用部材は、補修用部材が簡素な構成でありながら、ストップホール3の孔端部応力変動幅を抑制して孔端部からの亀裂再発を防ぐ機能と、過大荷重による孔部の開口変位に追随してくさび手段4を自動的に調節する機能とを有しているため、母材板1に作用する荷重の程度が不明な場合や、過大荷重の負荷が予想され、ステップ3で付与したくさび荷重Wでは孔端部の応力変動幅を十分に抑制することができないと予測される場合において特に有効である。
【0125】
図13は自動調節手段の他の例を示す概要図であり、
図13(a)は正面図、
図13(b)は右側面図である。なお、構造を分かりやすくするため
図13(b)においては一部を断面で表している。
本例では、第六実施形態の補修用部材(
図9参照)において、ボルト230にトルクN1を生じせしめるトルク負荷部材を、アームを用いて構成されたトルク負荷部材241に代えて、プーリーを用いて構成されたトルク負荷部材541としている。すなわち、本例における自動調節手段5は、ボルト230にトルクを付与するトルク負荷部材541と、トルク負荷部材541に荷重を付与する載荷機構542とで構成されている。なお、トルク負荷部材541の一端には、ボルト230に係合する係合部541Aが設けられている。
トルク負荷部材541にはワイヤーの一端が固定され、ワイヤーの他端には載荷機構542としての重錘が吊るされている。本例は、トルク負荷部材541がプーリーで構成されている点において第六実施形態と差異があるが、本例においても、ステップ3でくさび手段4をはめ込んだ後に第1斜面部品210及び第2斜面部品220とストップホール3の孔端部との間に間隙が生じるような過大荷重が母材板1に作用したとしても、トルク負荷部材541及び載荷機構542の作用により第2斜面部品220が第1斜面部品210の上にせり上がってねじ機構200とストップホール3の孔端部との接触が保持され、過大荷重の除荷後に再び同程度の過大荷重が作用した場合にも緩みを生じないだけの適切なくさび荷重W’が自動的に付与されるという原理は、第六実施形態の場合と全く同じである。
なお、プーリーにはワイヤーを何周か巻き付けておくことが好ましい。ワイヤーを何周か巻き付けておくことにより、ボルト230の回転角度が大きくなってもボルト230に作用するトルクが失われることがない。他方、ボルト230の回転角度が360度を超えないと予め分かっている場合には、プーリー及びワイヤーの代わりに歯車及びチェーンを用いてもよい。
【0126】
トルク負荷部材がアームで構成されている場合は、アームの角度によってボルト等に作用するトルクが変化する場合があるが、本例のようにトルク負荷部材がプーリー(滑車)で構成されている場合は、常に一定のトルクをボルト等にかけることができる。ボルト等に付与されるトルクが常に一定であれば、くさび荷重の管理が容易となる。
【0127】
トルク負荷部材541(プーリー)の外周には、目盛り543が設けられている。この目盛り543を適切な方法によって読み取ることにより、トルク負荷部材541の回転角度、即ちボルト230の回転角度を容易に把握できる。いま、ボルト230のピッチをp(mm)、ボルト230の回転角度をΔθ(deg)、第1斜面部品210及び第2斜面部品220の斜面の傾斜角度をα(deg)、くさび手段4の上下方向長さの増分(=ストップホール3の開口増分)をΔL(mm)とすると、下式(2)の関係が成り立つ。
[式2]
ΔL=p×(Δθ/360)×tanα ・・・(2)
よって、トルク負荷部材541の目盛り543からボルト230の回転角度Δθを読み取ることにより、ストップホール3の開口増分ΔLを容易に推定することが可能となり、母材板1に作用した荷重の推定や、ストップホール3からの再発亀裂の有無の判定等において有用な情報を取得することができる。
なお、本例では、プーリーで構成されたトルク負荷部材を第六実施形態に適用した場合を説明したが、同様に第四実施形態及び第九実施形態に適用することもできる。すなわち、第四実施形態又は第九実施形態のトルク負荷部材を、アームの代わりにプーリーで構成することができる。
【0128】
図14は自動調節手段のさらに他の例を示す概要図であり、
図14(a)は正面図、
図14(b)は右側面図である。なお、構造を分かりやすくするため
図14(b)においては一部を断面で表している。
本例では、第六実施形態の補修用部材(
図9参照)において、自動調節手段5を、アーム及び重錘に代えて、渦巻きばね641を用いて構成している。
渦巻きばね641の一端には、ボルト230に係合する係合部641Aが設けられている。渦巻きばね641の一端は係合部641Aによってボルト230の頭部に固定されており、他端は調節具642を介して第1斜面部品210の平行部211に固定されている。調節具642は、渦巻きばね641の巻き締め具合を調節するためのものである。調節具642によって渦巻きばね641の巻き締め具合を調節することにより、ボルト230の頭部に適切なトルクN1を作用させることができる。
本例は、自動調節手段5が渦巻きばね641を用いて構成されている点において第六実施形態と差異があるが、ステップ3でくさび手段4をはめ込んだ後に第1斜面部品210及び第2斜面部品220とストップホール3の孔端部との間に間隙が生じるような過大荷重が母材板1に作用したとしても、自動調節手段5の作用により第2斜面部品220が第1斜面部品210の上にせり上がってくさび手段4とストップホール3との接触が保持され、過大荷重の除荷後に再び同程度の過大荷重が作用した場合にも緩みを生じないだけの適切なくさび荷重W’が自動的に付与されるという原理は、第六実施形態の場合と全く同じである。
【0129】
本例によれば、自動調節手段5に重錘を用いる必要がなく、渦巻きばね641が弛緩して広がるスペースさえ確保できればよいため、重錘を用いた自動調節手段5の設置スペースよりも小さいスペースであっても設置することができる。また、重錘の落下防止対策等が不要となる。
また、渦巻きばね641の長さを適切に選定することにより、ボルト230の回転角度が大きくなってもボルト230に作用するトルクが失われないように設定することができる。
なお、本例では、渦巻きばねを用いた自動調節手段を第六実施形態に適用した場合を説明したが、同様に第四実施形態及び第九実施形態に適用することもできる。すなわち、第四実施形態又は第九実施形態の自動調節手段を、アーム及び重錘の代わりに渦巻きばねを用いて構成することができる。
【0130】
図15は自動調節手段のさらに他の例を示す概要図であり、
図15(a)は正面図、
図15(b)は右側面図である。なお、構造を分かりやすくするため
図15(b)においては一部を断面で表している。
本例では、第六実施形態の補修用部材(
図9参照)において、自動調節手段5を、アーム及び重錘に代えて、コイルばね741を用いて構成している。
コイルばね741は、ボルト230と第2斜面部品220との間に位置する。コイルばね741の一端はボルト230の先端に接し、他端は第2斜面部品220の側面に接する。
くさび手段4をストップホール3にはめ込んだ後、ボルト230に締め込む方向のトルクをかけて回転させ、コイルばね741の縮み具合を調節することにより、第2斜面部品220の側面に適切な押圧力P1を作用させることができ、これによりストップホール3の孔端部にはくさび荷重が付与される。
本例は、自動調節手段5がコイルばね741を用いて構成されている点において第六実施形態と差異があるが、ステップ3でくさび手段4をはめ込んだ後に第1斜面部品210及び第2斜面部品220とストップホール3の孔端部との間に間隙が生じるような過大荷重が母材板1に作用したとしても、自動調節手段5の作用により第2斜面部品220が第1斜面部品210の上にせり上がってねじ機構200とストップホール3との接触が保持され、過大荷重の除荷後に再び同程度の過大荷重が作用した場合にも緩みを生じないだけの適切なくさび荷重W’が自動的に付与されるという原理は、第六実施形態の場合と全く同じである。
なお、コイルばね741に代えて、皿ばね又はゴム等、圧縮時に弾性力を蓄えることができる部材を用いることもできる。また、二つの強力な磁石を、互いに反発しあう同極(N極とN極、S極とS極)を向かい合わせに近接して並べ、磁力による反発力をコイルばね741の弾性力の代わりとして用いることもできる。
【0131】
本例によれば、くさび手段4の外形寸法よりも内側に自動調節手段5(コイルばね741)を収めることができるため、比較的狭隘な構造箇所であっても、くさび手段4及び自動調節手段5を設置することができる。
また、コイルばね741の長さを適切に選定することにより、第2斜面部品220の移動量が大きくなっても押圧力P1が失われないように設定することができる。
【0132】
図16は脱落防止手段の例を示す概要図であり、
図16(a)は正面図、
図16(b)は右側面図である。なお、構造を分かりやすくするため
図16(b)においては一部を断面で表している。
本例では、第五実施形態の補修用部材(
図8参照)において、くさび手段4には、脱落防止手段が設けられている。
脱落防止手段は、第1斜面部品210の底面から突出した一対の鍔状部250と、第1斜面部品210と第2斜面部品220とを連結する連結材260とを備える。
鍔状部250は、一方の鍔状部250Aと他方の鍔状部250Bとを有する。一方の鍔状部250Aと他方の鍔状部250Bとの間には、母材板1の厚みよりもやや大きい空間が設けられている。一方の鍔状部250Aを母材板1の裏側に配置し、他方の鍔状部250Bを母材板1の表側に配置し、一方の鍔状部250Aと他方の鍔状部250Bとの間の空間に母材板1を位置させることで、一方の鍔状部250Aと他方の鍔状部250Bによって母材板1(ストップホール3の孔端部)を両側から挟みこむことができる。また、他方の鍔状部250Bには固定用ボルト250Cが螺入するボルト雌ねじが形成されている。このボルト雌ねじは他方の鍔状部250Bを貫通しており、固定用ボルト250Cの軸部はボルト雌ねじよりも長い。
図16(b)に示すように、固定用ボルト250Cをボルト雌ねじに螺入して先端を母材板1に当接させることにより、第1斜面部品210を母材板1にしっかりと固定することができる。
連結材260は、例えばワイヤー又はチェーン等である。第1斜面部品210及び第2斜面部品220のそれぞれに設けた貫通穴に1本の連結材260を通した後、連結材260の一端側と他端側を繋ぐことによって、連結材260を環状としている。なお、連結材260の一端を第1斜面部品210に固定し、他端を第2斜面部品220に固定することによって、第1斜面部品210と第2斜面部品220を連結することもできる。
鍔状部250によって母材1に固定された第1斜面部品210に第2斜面部品220を連結材260で連結することで、第2斜面部品220がストップホール3から脱落することを防止できる。
【0133】
図17は脱落防止手段の他の例を示す概要図であり、
図17(a)は背面図、
図17(b)は右側面図である。なお、構造を分かりやすくするため
図17(b)においては一部を断面で表している。
本例では、第八実施形態の補修用部材(
図11参照)において、くさび手段4には、脱落防止手段が設けられている。
脱落防止手段は、第1分割雌ねじ部品410の他端の両側から突出した一対の第1の鍔状部450と、第2分割雌ねじ部品420の他端の両側から突出した一対の第2の鍔状部460とを備える。
第1の鍔状部450は、一方の突出部450Aと他方の突出部450Bとを有する。また、第2の鍔状部460は、一方の突出部460Aと他方の突出部460Bとを有する。一方の突出部450A、460Aと他方の突出部450B、460Bとの間には、それぞれ母材板1の厚みよりもやや大きい空間が設けられている。一方の突出部450A、460Aを母材板1の裏側に配置し、他方の突出部450B、460Bを母材板1の表側に配置し、一方の突出部450A、460Aと他方の突出部450B、460Bとの間の空間に母材板1を位置させることで、第1の鍔状部450及び第2の鍔状部460によって母材板1(ストップホール3の孔端部)を両側から挟みこむことができる。
なお、脱落防止手段は、第1分割雌ねじ部品410又は第2分割雌ねじ部品420と一体的に製作されていてもよいし、樹脂等を用いて製作して第1分割雌ねじ部品410の他端及び第2分割雌ねじ部品420の他端に貼り付けてもよい。
【0134】
なお、
図16及び
図17を用いて、脱落防止手段の例として、脱落防止手段を第五実施形態(
図8)、第八実施形態(
図11)に適用した場合を説明したが、この脱落防止手段は、同様に第一から四、六、七、九実施形態に適用することもできる。
【0135】
図18は、本発明の第十実施形態による疲労亀裂の補修方法及び補修用部材を示す概要図である。なお、上述した実施形態と同一機能部材には同一符号を付して説明を省略する。
上述した第一から第九実施形態においては、疲労亀裂2の先端部に設けたストップホール3にくさび手段4を適用することを説明したが、くさび手段4は、疲労亀裂2の基部及び先端部以外の亀裂経路上に設けたドリル孔であるウェッジホール7に適用してもよい。また、ストップホール3とウェッジホール7を併設して両方に適用してもよい。
更に、ウェッジホール7の数は任意であり、疲労亀裂2が長い場合などには亀裂経路上に複数設けてもよい。その場合は、補修用部材に自動調節手段5を設けておけば、ウェッジホール7の位置によって疲労亀裂2の開口量に大小があっても、自動調節手段5によってくさび手段4が亀裂開口に追随して延伸し、各ウェッジホール7の位置における最適な初期くさび荷重が自動的に付与される。
図18は、母材板1に生じた疲労亀裂2について、疲労亀裂2の先端部にストップホール3を、亀裂経路上にウェッジホール7を1個ずつ設け、それぞれに対してねじ機構200を有するくさび手段4を適用して補修を行う例を示すものである。これにより構造物の応力変動幅を抑制し、亀裂再発を防ぐことができる。
また、ウェッジホール7にくさび手段4を適用する場合においても、くさび手段4に脱落防止手段を設けることが、構成部品の落下防止対策として有効である。
【0136】
なお、上述した第一から第十実施形態による疲労亀裂の補修方法は、ステップ1からステップ3を構造物の片側から行うことができる。したがって、疲労亀裂が生じた構造物に対して表側と裏側のどちらか一方側からしか作業できない場合であっても補修作業を行うことができる。
【0137】
図19は、本発明による孔端部応力の変動幅抑制効果を示す図であり、縦軸は孔端部応力σ、横軸は引張荷重Pである。
疲労亀裂2の先端に設けたストップホール3について、下記(1)〜(3)の場合のそれぞれにつき、ストップホールの孔端部応力σの変動範囲Δσがどう変化するかを模式的に示したものである。
(1)くさび手段4による補強をしない場合
(2)第一、三、五、七、八実施形態のいずれかによる補修方法及び補修用部材で補強した場合
(3)第二、四、六、九実施形態のいずれかによる補修方法及び補修用部材で補強した場合
【0138】
(1)くさび手段4による補強をしない場合
母材板1に生じた疲労亀裂2を開口させる方向に作用する引張荷重P(
図19の横軸)がゼロの時にはストップホール3の孔端部応力σ(
図19の縦軸)もゼロであり、引張荷重Pが増加するとσは線形に上昇し、
図19においてσ−P関係のグラフは原点と最大荷重点Bとを結ぶ直線となる(但し孔端部の塑性変形はないものとする)。
この場合、孔端部応力σの変動範囲Δσ=最大応力σ
max−最小応力ゼロ=σ
maxとなる(
図19中の「補強無しΔσ」)。
【0139】
(2)第一、三、五、七、八実施形態のいずれかによる補修方法及び補修用部材で補強した場合
引張荷重Pがゼロの時でもストップホール3の孔端部にはくさび部材のくさび荷重による初期応力σ
wが生じている(点A)。その状態で引張荷重Pが増加すると、孔端部応力σは線形に上昇していくが、くさび手段4とストップホール3との接触が保たれているうちは孔部の見かけ剛性がくさび手段4の分だけ大きくなるため、応力上昇の傾きは(1)の場合よりも緩やかになる(点A→点S)。
点Sにおいて、くさび手段4が最初に緩む引張荷重P
sが作用するとすれば、それ以上の引張荷重が作用する領域ではくさび手段4によるくさび荷重がゼロとなるので、孔部の見かけ剛性はくさび手段4のない(1)の場合と同じになり、σ−P関係のグラフ(直線)の傾きも等しくなる(点S→点B)。
点Bにおいて最大引張荷重P
maxが作用し、以降は除荷されるとすると、今度は上記載荷過程の逆の点B→点S→点Aという経路を辿ることになる。従って、孔端部応力の変動範囲Δσ’=最大応力σ
max−初期応力σ
wとなり、(1)のΔσよりもσ
w分だけ抑制される(
図19中の「補強ありΔσ’」)。
【0140】
(3)第二、四、六、九実施形態のいずれかによる補修方法及び補修用部材で補強した場合
始めに点A→点S→点Bという経路で孔端部応力が上昇する過程は(2)と同様だが、点S→点Bの過程でくさび手段4の端部がストップホール3の変形(引張荷重方向の伸び)に追随し、ストップホールの孔端部との間に緩みが生じないようにくさび手段4が自動的に延伸するため、最大荷重点Bから除荷過程に移行すると直ちにくさび手段4がストップホール3の変形(引張荷重方向の収縮)を妨げるくさびとして作用して両者の間にはくさび荷重が発生し、その値は除荷過程の進行と共に増大していく。結果として孔部の見かけ剛性は点A〜点Sの領域と同様にくさび手段4の分だけ大きくなり、除荷過程(点B→点C)のσ−P関係のグラフ(直線)の傾きは点S→点Aの傾きと等しくなり、引張荷重がゼロとなり除荷が完了する点Cにおいては、(2)で付与された初期応力σ
wよりも大きい値に自動調節された初期応力σ
w’が付与されることになる。従って、孔端部応力の変動範囲Δσ’’=最大応力σ
max−自動調節された初期応力σ
w’となり、(2)のΔσ’よりも更に(σ
w’−σ
w)分だけ大きく抑制される(
図14中の「自動調節後Δσ’’」)。
一般に構造物の稼働中に作用する外荷重の大きさは確率的に分布するものであり、最大(過大)荷重の値を確定論的に正しく推定することは容易でないことに加え、仮に推定できたとしてもそれが作用して疲労亀裂2が開口した状態のまま保持することは、特に大型構造物においては極めて困難な場合が多いのに対し、この(3)の場合は、稼働中に作用する最大(過大)荷重P
maxに応じてくさび手段4が自動的に延伸し、除荷時の適切な初期応力σ
w’も自動的に付与されるため、くさび手段4によるストップホール3補強の適用性および有効性が格段に向上する。
【0141】
なお、ここでは亀裂先端に設けたストップホール3をくさび手段4で補強した場合の孔端部応力σの変動幅抑制効果について述べたが、第十実施形態のように亀裂進展経路に設けたウェッジホール5をくさび手段4で補強した場合についても、亀裂先端部あるいは亀裂先端部に設けたストップホール3端部の応力σに対して同様の変動幅抑制効果が期待できる。
また、第一、三、五、七、八実施形態において、母材板1に過大な荷重が作用してストップホール3の孔部の開口変位が大きくなった場合に、手動で開口変位に追随してくさび手段4を調節し、くさび手段4の緩みを防止した場合にも(3)と同様の効果を得ることができる。
なお、上記した第一から第十実施形態に対応する図は、その概要を示すものであり、実際に本発明を実施する場合に必要な構成は適宜採用ができる。
また、くさび手段4は、ねじ機構に代えて、油圧機構やばね機構等を用いて、又はこれらの機構を組み合わせて構成することもできる。また、ねじ機構は、ねじを用いてくさび荷重を付与できるあらゆる機構を含むことができる。
【実施例1】
【0142】
疲労亀裂の補修方法及び補修用部材の効果を検証した静的載荷試験を実施例1として説明する。なお、本実施例では、上記した第五実施形態による疲労亀裂の補修方法及び補修用部材を用いた。
【0143】
図20は試験に用いた平板試験片を示す図である。
平板試験片1Aは、板厚12mmのJIS SM400B鋼板を板厚10mmまで研削した母材板から機械加工したものであり、
図20に示すように、中央部に切欠き2A及び円孔3Aを有する。切欠き2Aは疲労亀裂2を、円孔3Aは疲労亀裂先端部に設けたストップホール3をそれぞれ模擬したものである。
【0144】
図21は試験に用いたくさび手段を示す図である。
ねじ機構200を有するくさび手段4は、JIS SUS316ステンレス鋼を用いて製作した。
図21に示すように、ねじ機構200は、ボルト雌ねじが形成された第1斜面部品210と、第1斜面部品210上に摺動可能に当接する第2斜面部品220と、第1斜面部品210のボルト雌ねじに螺入されるボルト230で構成されている。ボルト230は六角穴付ボルトであり、ピッチは0.7mmである。なお、斜面の傾斜角度αはtanα=1/7とした。
【0145】
試験機には、電気−油圧サーボ式疲労試験機(株式会社島津製作所製、動的容量10tonf)を用いた。
平板試験片1Aを試験機の油圧チャックに装着した後、中央部の円孔3Aにくさび手段4を装着した。ボルト230の締め込み量としては、ボルト230が完全に弛緩した状態から六角レンチを用いてボルト230を締め込み方向に回していき、球面状のボルト先端部が第2斜面部品220の側面に当接してボルト230を回す際に抵抗を感じるようになった状態を起点として、更に締め込み方向に角度225度だけ回転させ、初期締め込みとした。なお、ボルト230のピッチが0.7mmなので、初期締め込みによるボルト230の軸方向進行量は0.7×225/360=0.44mmとなる。
【0146】
静的載荷試験は、平板試験片1Aの切欠き2Aと反対側の円孔3Aの孔端部にゲージ長2mmの単軸歪ゲージを貼付し、静的載荷試験中の円孔端歪を計測した。
静的載荷試験では、平板試験片1Aの長手方向の引張荷重Pをゼロから最大引張荷重P
max=14.5kNまで漸増させた後に再びゼロまで漸減させる過程を1サイクルとし、くさび手段4を用いない場合については1サイクル、くさび手段4を用いた場合には2サイクル、それぞれ載荷を行った。
【0147】
図22は円孔端歪と引張荷重の関係を示す図である。
図22においては、くさび手段4を用いない場合と用いた場合のそれぞれについて、円孔端歪εと引張荷重Pの関係を示している。「くさび手段あり」(くさび手段4を用いた場合)の黒塗りプロット点が縦軸上に散在しているのは、引張荷重ゼロの状態で行ったボルト230の初期締め込みに伴って円孔端歪εが上昇していく過程を表している。
図22において、白抜きプロット点は「くさび手段なし」(くさび手段4を用いない場合)の結果である。引張荷重P=0においてゼロだった円孔端歪εが、引張荷重Pの上昇に伴ってほぼ線形に増加し、最大引張荷重P
max到達後の除荷過程においてはその増加過程をほぼ逆に辿るような過程を経て減少していくことが見てとれる。
一方、「くさび手段あり」の黒塗りプロット点を見ると、上述した通りボルト230の初期締め込みによって円孔端歪εは顕著に増加し、初期締め込み完了時の円孔端歪εの値は700μであった。その後、引張荷重Pが上昇すると、円孔端歪εは上に凹の僅かな非線形性を示しながらも、「くさび手段なし」の場合よりも緩やかな勾配で増加し、最大引張荷重P
max到達後の除荷過程においてはその上昇過程をほぼ逆に辿るような過程を経て減少し、引張荷重P=0においては初期締め込み完了時の円孔端歪εを僅かに上回る値(719μ)まで減少している。ここで、円孔3Aの孔端部における疲労被害の第一支配因子である円孔端歪範囲を求めると、
・くさび手段4を用いない場合の円孔端歪範囲Δε
0=1450μ
・くさび手段4を用いた場合の円孔端歪範囲Δε
w=849μ
であり、くさび手段4を用いることにより、円孔端歪範囲がくさび手段4を用いない場合の58.6%にまで大幅に低減されることが判明した。
【実施例2】
【0148】
疲労亀裂の補修方法及び補修用部材の効果を検証した静的載荷試験を実施例2として説明する。なお、本実施例では、上記した第六実施形態による疲労亀裂の補修方法及び補修用部材を用いた。但し、トルク負荷部材は、アームではなくプーリーを用いて構成した。
【0149】
試験に用いた平板試験片は、実施例1に用いた平板試験片1Aと同一仕様であるから
図20を参照されたい。
また、試験に用いたくさび手段は、実施例1に用いたくさび手段4と同一仕様であるから
図21を参照されたい。
【0150】
図23は試験に用いたトルク負荷部材を構成するプーリーの半分を示す図であり、
図23(a)は右側面図、
図23(b)は正面図である。
プーリー(トルク負荷部材)541は、JIS A5052アルミニウム合金の円板を加工し、中心の穴にくさび手段4のボルト230の頭部を嵌入して固定した。
【0151】
試験機には、電気−油圧サーボ式疲労試験機(株式会社島津製作所製、動的容量10tonf)を用いた。
平板試験片1Aを試験機の油圧チャックに装着した後、中央部の円孔3Aにくさび手段4を装着した。プーリー541の中心に貫入したボルト230にトルクを負荷する際には、プーリー541に開けた小キリ穴541Bに、大キリ穴541C側に結び目を作って固定したワイヤーを模したタコ糸を通してプーリー541の外周に2〜3重に巻き付けた後、タコ糸を斜め上方に延ばし、適当な高さに水平に設置した金属製の丸棒に引っ掛けてタコ糸の方向を鉛直下向きに変え、タコ糸の先端に載荷機構542としての重錘を吊り下げることにより張力を発生させ、プーリー541を回転させることによってボルト230にトルクを発生させた。なお、プーリー541の外周近傍が視野に入るようにCCDスコープを設置し、プーリー541の目盛り543を適宜読み取ることにより、プーリー541の回転量を計測した。
ボルト230の初期締め込み量としては、ボルト230が完全に弛緩した状態からプーリー541及びプーリー541に固定されたボルト230を締め込み方向に回していき、球面状のボルト先端部が第2斜面部品220の側面に当接してボルト230を回す際に抵抗を感じるようになった状態を起点として、タコ糸の先端に430g分の重錘542を吊り下げたところ、プーリー541は締め込み方向に角度54.2度だけ回転した。なお、ボルト230のピッチは0.7mmなので、重錘542の吊り下げによるボルト230の軸方向進行量は0.7×54.2/360=0.11mmとなる。
【0152】
静的載荷試験は、平板試験片1Aの切欠き2Aと反対側の円孔3Aの孔端部にゲージ長2mmの単軸歪ゲージを貼付し、静的載荷試験中の円孔端歪を計測した。
静的載荷試験では、平板試験片1Aの長手方向の引張荷重Pをゼロから最大引張荷重P
max=14.5kNまで漸増させた後に再びゼロまで漸減させる工程を1サイクルとし、くさび手段4を用いた場合について3サイクルの載荷を行った。
【0153】
図24はプーリー回転角度と引張荷重の関係を示す図である。
図24は、くさび手段4を用いた場合について、プーリー回転角度θと引張荷重Pの関係を示している。上述したように、ボルト230が完全に弛緩した状態からプーリー541及びプーリー541に固定されたボルト230を締め込み方向に回していき、球面状のボルト先端部が第2斜面部品220の側面に当接してボルト230を回す際に抵抗を感じるようになった状態を起点(θ=0°)として、タコ糸の先端に430g分の重錘542を吊り下げたところ、プーリー541は締め込み方向に角度54.2度だけ回転した。その後、引張荷重Pを漸増させていくと、平板試験片1Aの円孔3Aが平板試験片1Aの長手方向に引き延ばされ、ボルト先端部からの圧力を側面に受け続けている第2斜面部品220は円孔3Aの変形に追随する形で第1斜面部品210の上にせり上がり、同時に第2斜面部品220が移動した分だけボルト230は締め込み方向に回転してプーリー541の回転角度が増大していく。
図24を見ると、1サイクル目の荷重上昇過程におけるプーリー541の回転角度と引張荷重Pの関係はほぼ線形であり、くさび手段4が荷重増大に伴う円孔3Aの変形にぴったりと追随し、延伸していることが分かる。
引張荷重Pが最大引張荷重P
maxに達し、その後の除荷過程に入ると、くさび手段4は式(1)の関係を満たしているため、引き延ばされた円孔3Aが元の形状に戻ろうとしてくさび手段4の上下端に圧縮荷重が加わっても、第1斜面部品210と第2斜面部品220との間の摩擦力により第2斜面部品220が第1斜面部品210の上を滑り出すことはなく、またボルト230が緩む方向に回転することもないので、プーリー541の回転角度はほぼ一定となる。
図24を見ると、引張荷重Pをゼロに戻した後(1サイクル目完了後)、2サイクル目を載荷してもプーリー541の回転角度はほぼ一定であり、最大引張荷重P
max載荷時にわずかに増加した後は、3サイクル目の除荷完了までほぼ一定値を保っていることが分かる。
【0154】
図25は、くさび手段4を用いない場合と、くさび手段4を用いた場合のそれぞれについて、円孔端歪εと引張荷重Pの関係を示す図である。なお、くさび手段4を用いない場合のデータは、実施例1で取得したデータ(
図22参照)をそのまま用いている。
図25において、白抜きプロット点は、「くさび手段なし」(くさび手段4を用いない場合)の結果を示している。引張荷重P=0においてゼロだった円孔端歪εが、引張荷重Pの上昇に伴ってほぼ線形に増加し、最大引張荷重P
max到達後の除荷過程においてはその増加過程をほぼ逆に辿るような過程を経て減少していくことが分かる。
一方、黒塗りプロット点は、「くさび手段あり」(くさび手段4を用いた場合)の結果を示している。重錘542の吊り下げによってプロット点は縦軸上を若干上昇し、吊り下げ完了時の円孔端歪εの値は283μであった。その後、引張荷重Pが上昇すると、円孔端歪εは「くさび手段なし」の場合と平行にほぼ線形に増加し、最大引張荷重P
max到達時の円孔端歪εの値は1698μであった。一方、その後の除荷過程においては、荷重上昇時の円孔3Aの変形(伸び)にぴったりと追随してくさび手段4が延伸しているので、荷重が除荷されても円孔3Aは元の形状に戻る(収縮する)ことができず、円孔端歪εは「くさび手段なし」の場合よりも緩やかな勾配で減少し、1サイクル目の除荷完了時には円孔端歪ε=991μとなっている。その後、2サイクル目、3サイクル目においては、荷重上昇過程・除荷過程のいずれにおいても、プロット点は上記の緩やかな勾配の上に位置し、両サイクルの除荷完了時における円孔端歪εの値はいずれも1014μであった。ここで、円孔3Aの孔端部における疲労被害の第一支配因子である円孔端歪範囲を求めると、
・くさび手段4を用いない場合の円孔端歪範囲Δε
0=1450μ
・くさび手段4を用いた場合の円孔端歪範囲Δε
w=684μ
であり、くさび手段4及びプーリー541を用いることにより、母材板1に作用する引張荷重による円孔3Aの変形にくさび手段4が追随して延伸し、円孔端歪範囲Δεがくさび手段4を用いない場合の47.2%にまで大幅に低減されることが判明した。
【実施例3】
【0155】
疲労亀裂の補修方法及び補修用部材の効果を検証した疲労試験を実施例3として説明する。なお、本実施例では、上記した第六実施形態による疲労亀裂の補修方法及び補修用部材を用いた。但し、トルク負荷部材は、アームではなくプーリーを用いて構成した。
【0156】
試験に用いた平板試験片は、実施例1に用いた平板試験片1Aと同一仕様であるから
図20を参照されたい。
また、試験に用いたくさび手段は、実施例1に用いたくさび手段4と同一仕様であるから
図21を参照されたい。
また、試験に用いたプーリー(トルク負荷部材)は、実施例2に用いたプーリー541と同一仕様であるから
図23を参照されたい。
【0157】
試験機には、電気−油圧サーボ式疲労試験機(株式会社島津製作所製、動的容量10tonf)を用いた。
平板試験片1Aを試験機の油圧チャックに装着した後、中央部の円孔3Aにくさび手段4を装着した。なお、本試験では実施例2の場合よりもプーリー541の回転量及び重錘542の移動距離が大きくなるため、プーリー541に巻き付けるタコ糸の長さ及びプーリー541から重錘542に至る経路を適宜調整した。
ボルト230の初期締め込み量としては、ボルト230が完全に弛緩した状態からプーリー541及びプーリー541に固定されたボルト230を締め込み方向に回していき、球面状のボルト先端部が第2斜面部品220の側面に当接してボルト230を回す際に抵抗を感じるようになった状態を起点として、タコ糸の先端に430g分の重錘542を吊り下げたところ、プーリー541は締め込み方向に角度99.5度だけ回転した。なお、ボルト230のピッチは0.7mmなので、重錘542の吊り下げによるボルト230の軸方向進行量は0.7×99.5/360=0.19mmとなる。
【0158】
疲労試験は荷重制御で行い、切欠き2Aや円孔3Aの無い断面における公称応力レンジΔσ
n=27MPa、応力比R=0(引張側の完全片振り)、荷重周波数f=3.6Hzとした。
【0159】
図26は、疲労試験結果を示している。平板試験片1Aの円孔3Aにくさび手段4を装着し、プーリー541及び重錘542によって、プーリー541に固定されたボルト230に一定のトルクをかけて試験を行った実施例3では、平板試験片1Aのみで試験を行った比較例1と比べて、円孔端歪範囲Δεは28%にまで低減され、破断寿命N
fは9倍以上と大幅に延伸されることが判明した。