(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
基材と、該基材の表面上に形成された被覆層とを備える被覆切削工具であって、
前記被覆層が、下部層と、該下部層の表面上に形成された中間層と、該中間層の表面上に形成された上部層とを含み、
前記下部層が、Tiの炭化物層、Tiの窒化物層、Tiの炭窒化物層、Tiの炭酸化物層及びTiの炭窒酸化物層からなる群より選択される1種以上の層からなるTi化合物層であり、
前記下部層の平均厚さが、3.0μm以上15.0μm以下であり、
前記中間層が、α型酸化アルミニウム層からなり、
前記中間層の平均厚さが、3.0μm以上15.0μm以下であり、
前記α型酸化アルミニウム層において、下記式(1)で表される(110)面の組織係数TC(110)が、
1.8以上6.5以下であり、
前記上部層が、Tiの炭窒化物層からなり、
前記上部層の平均厚さが、1.5μm以上8.0μm以下であり、
前記上部層における前記Tiの炭窒化物層において、下記式(2)で表される(511)面の組織係数TC(511)が、
3.1以上5.0以下である、被覆切削工具。
【数1】
(式(1)中、I(hkl)は、前記α型酸化アルミニウム層のX線回折における(hkl)面のピーク強度を示し、I
0(hkl)は、α型酸化アルミニウムのJCPDSカード番号10−0173における(hkl)面の標準回折強度を示し、(hkl)は、(012)、(104)、(110)、(113)、(024)、(116)、(214)及び(030)の8つの結晶面を指す。)
【数2】
(式(2)中、I(hkl)は、前記Tiの炭窒化物層のX線回折における(hkl)面のピーク強度を示し、I
0(hkl)は、Tiの炭化物のJCPDSカード番号32−1383における(hkl)面の標準回折強度と、Tiの窒化物のJCPDSカード番号32−1420における(hkl)面の標準回折強度との平均値を示し、(hkl)は、(111)、(200)、(220)、(311)、(422)、及び(511)の6つの結晶面を指す。)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年の切削加工では、高速化、高送り化及び深切り込み化がより顕著となり、従来よりも工具の耐摩耗性及び耐欠損性を向上させることが求められている。特に、近年、鋼の高速切削等、被覆切削工具に負荷が作用するような切削加工が増えており、かかる過酷な切削条件下において、上記酸化アルミニウム被覆工具のように、(110)面に配向した酸化アルミニウム層を有する被覆工具では被覆層の粒子が脱落により、摩耗の進行が早く、工具寿命を長くできないという問題や、欠損が生じるという問題がある。
【0006】
本発明は、この問題を解決するためになされたものであり、優れた耐摩耗性及び耐欠損性を有することによって工具寿命を延長することができる被覆切削工具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上述の観点から、被覆切削工具の工具寿命の延長について研究を重ねたところ、α型酸化アルミニウム層及びTiの炭窒化物層の所定の面における結晶方位を適正化することを含む以下の構成にすると、粒子の脱落を抑制することにより耐摩耗性を向上させることができると共に耐欠損性も向上させることができ、その結果、工具寿命を延長することが可能になるという知見を得て、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は下記のとおりである。
[1]
基材と、該基材の表面上に形成された被覆層とを備える被覆切削工具であって、
前記被覆層が、下部層と、該下部層の表面上に形成された中間層と、該中間層の表面上に形成された上部層とを含み、
前記下部層が、Tiの炭化物層、Tiの窒化物層、Tiの炭窒化物層、Tiの炭酸化物層及びTiの炭窒酸化物層からなる群より選択される1種以上の層からなるTi化合物層であり、
前記下部層の平均厚さが、3.0μm以上15.0μm以下であり、
前記中間層が、α型酸化アルミニウム層からなり、
前記中間層の平均厚さが、3.0μm以上15.0μm以下であり、
前記α型酸化アルミニウム層において、下記式(1)で表される(110)面の組織係数TC(110)が、1.5以上6.5以下であり、
前記上部層が、Tiの炭窒化物層からなり、
前記上部層の平均厚さが、1.5μm以上8.0μm以下であり、
前記上部層における前記Tiの炭窒化物層において、下記式(2)で表される(511)面の組織係数TC(511)が、1.5以上5.0以下である、被覆切削工具。
【数1】
(式(1)中、I(hkl)は、前記α型酸化アルミニウム層のX線回折における(hkl)面のピーク強度を示し、I
0(hkl)は、α型酸化アルミニウムのJCPDSカード番号10−0173における(hkl)面の標準回折強度を示し、(hkl)は、(012)、(104)、(110)、(113)、(024)、(116)、(214)及び(030)の8つの結晶面を指す。)
【数2】
(式(2)中、I(hkl)は、前記Tiの炭窒化物層のX線回折における(hkl)面のピーク強度を示し、I
0(hkl)は、Tiの炭化物のJCPDSカード番号32−1383における(hkl)面の標準回折強度と、Tiの窒化物のJCPDSカード番号32−1420における(hkl)面の標準回折強度との平均値を示し、(hkl)は、(111)、(200)、(220)、(311)、(422)、及び(511)の6つの結晶面を指す。)
[2]
前記上部層における前記Tiの炭窒化物層において、前記組織係数TC(511)が、3.0以上5.0以下である、[1]の被覆切削工具。
[3]
前記α型酸化アルミニウム層において、前記組織係数TC(110)が、4.0以上6.5以下である、[1]又は[2]の被覆切削工具。
[4]
前記被覆層全体の平均厚さが、7.5μm以上25.0μm以下である、[1]〜[3]のいずれかの被覆切削工具。
[5]
前記基材が、超硬合金、サーメット、セラミックス及び立方晶窒化硼素焼結体のいずれかである、[1]〜[4]のいずれかの被覆切削工具。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、優れた耐摩耗性及び耐欠損性を有することによって工具寿命を延長することができる被覆切削工具を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、必要に応じて図面を参照しつつ、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について詳細に説明するが、本発明は下記本実施形態に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。なお、図面中、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。更に、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0012】
本実施形態の被覆切削工具は、基材と、基材の表面上に形成された被覆層とを備える被覆切削工具であって、被覆層は、下部層と、下部層の表面上に形成された中間層と、中間層の表面上に形成された上部層とを含み、下部層は、Tiの炭化物層、Tiの窒化物層、Tiの炭窒化物層、Tiの炭酸化物層及びTiの炭窒酸化物層からなる群より選択される1種以上の層からなるTi化合物層であり、下部層の平均厚さは、3.0μm以上15.0μm以下であり、中間層は、α型酸化アルミニウム層からなり、中間層の平均厚さは、3.0μm以上15.0μm以下であり、α型酸化アルミニウム層において、下記式(1)で表される(110)面の組織係数TC(110)は、1.5以上6.5以下であり、上部層は、Tiの炭窒化物層からなり、上部層の平均厚さは、1.5μm以上8.0μm以下であり、上部層におけるTiの炭窒化物層(以下、「TiCN層」とも表記する。)において、下記式(2)で表される(511)面の組織係数TC(511)が、1.5以上5.0以下である。
【0014】
式(1)中、I(hkl)は、前記α型酸化アルミニウム層のX線回折における(hkl)面のピーク強度を示し、I
0(hkl)は、α型酸化アルミニウムのJCPDSカード番号10−0173における(hkl)面の標準回折強度を示し、(hkl)は、(012)、(104)、(110)、(113)、(024)、(116)、(214)及び(030)の8つの結晶面を指す。
【0016】
式(2)中、I(hkl)は、前記Tiの炭窒化物層のX線回折における(hkl)面のピーク強度を示し、I
0(hkl)は、Tiの炭化物のJCPDSカード番号32−1383における(hkl)面の標準回折強度と、Tiの窒化物のJCPDSカード番号32−1420における(hkl)面の標準回折強度との平均値を示し、(hkl)は、(111)、(200)、(220)、(311)、(422)、及び(511)の6つの結晶面を指す。ここで、I
0(111)の平均値は、76であり、I
0(200)の平均値は、100であり、I
0(220)の平均値は、52.5であり、I
0(311)の平均値は、24.5であり、I
0(422)の平均値は、18.5であり、I
0(511)の平均値は、11.5である。
【0017】
本実施形態の被覆切削工具は、上記の構成を備えることにより、負荷が作用するような切削加工条件下でも、粒子の脱落を抑制する。これにより、被覆切削工具の耐摩耗性を向上させることができるとともに耐欠損性も向上させることができる。その結果、本実施形態の被覆切削工具は、被覆切削工具の工具寿命を延長することができる。本実施形態の被覆切削工具の耐摩耗性及び耐欠損性が向上する要因は、以下のように考えられる。ただし、要因は以下のものに限定されない。まず、本実施形態の被覆切削工具は、(110)面に配向し(すなわち、組織係数TC(110)が特定値以上であり)、所定範囲内の膜厚を有するα型酸化アルミニウム層からなる中間層を有することにより、中間層と、Ti化合物層からなる下部層との密着性が優れる。α型酸化アルミニウム層が(110)面に配向すると、中間層と下部層との界面に空孔や大きな欠陥が生じにくいことに起因して、中間層と下部層との密着性が優れると推測されるが、この推測により本発明は何ら限定されない。この結果、被覆切削工具は、耐チッピング性及び耐欠損性に優れる。一方、従来の被覆切削工具では、(110)面に配向したα型酸化アルミニウム層を有すると、耐摩耗性が劣るという問題が生じる。これに対し、本実施形態の被覆切削工具は、α型酸化アルミニウム層からなる中間層の表面に、(511)面に配向し(すなわち、組織係数TC(511)が特定値以上であり)、所定の範囲内の膜厚を有するTiCN層からなる上部層を更に有する。これにより、平滑な表面組織の面積割合が増加し、その結果、局所的に負荷がかかることが抑制されることに主に起因して、α型酸化アルミニウム層の粒子の脱落が抑制される。また、(511)面に配向したTiCN層からなる上部層は、(110)面に配向したα型酸化アルミニウム層との密着性にも優れるため、上部層の厚さを厚くしても、耐チッピング性及び耐欠損性に優れる。
【0018】
図1は、本実施形態の被覆切削工具の一例を示す断面模式図である。被覆切削工具6は、基材1と、基材1の表面に被覆層5が形成されている。被覆層5では、基材1側から、下部層2、中間層3、及び上部層4がこの順序で上方向に積層されている。
【0019】
本実施形態の被覆切削工具は、基材とその基材の表面上に形成された被覆層とを備える。被覆切削工具の種類として、具体的には、フライス加工用若しくは旋削加工用刃先交換型切削インサート、ドリル及びエンドミルを挙げることができる。
【0020】
本実施形態における基材は、被覆切削工具の基材として用いられ得るものであれば、特に限定されない。そのような基材として、例えば、超硬合金、サーメット、セラミックス、立方晶窒化硼素焼結体、ダイヤモンド焼結体及び高速度鋼を挙げることができる。それらの中でも、基材が、超硬合金、サーメット、セラミックス及び立方晶窒化硼素焼結体のいずれかであると、耐摩耗性及び耐欠損性に更に優れるので好ましく、同様の観点から、基材が超硬合金であるとより好ましい。
【0021】
なお、基材は、その表面が改質されたものであってもよい。例えば、基材が超硬合金からなるものである場合、その表面に脱β層が形成されてもよい。また、基材がサーメットからなるものである場合、その表面に硬化層が形成されてもよい。これらのように基材の表面が改質されていても、本発明の作用効果は奏される。
【0022】
本実施形態における被覆層全体の平均厚さは、7.5μm以上25.0μm以下であると好ましい。平均厚さが7.5μm以上であると、耐摩耗性が向上し、25.0μm以下であると、被覆層の基材との密着性及び耐欠損性が向上する。同様の観点から、被覆層の平均厚さは、8.0μm以上23.0μm以下であるとより好ましく、10.0μm以上20.0μm以下であることが更に好ましい。なお、本実施形態の被覆切削工具における各層及び被覆層全体の平均厚さは、各層又は被覆層全体における3箇所以上の断面から、各層の厚さ又は被覆層全体の厚さを測定して、その相加平均値を計算することで求めることができる。
【0023】
[下部層]
本実施形態の下部層は、Tiの炭化物層(以下、「TiC層」とも表記する。)、Tiの窒化物層(以下、「TiN層」とも表記する。)、Tiの炭窒化物層(以下、「TiCN層」とも表記する。)、Tiの炭酸化物層(以下、「TiCO層」とも表記する。)及びTiの炭窒酸化物層(以下、「TiCNO層」とも表記する。)からなる群より選択される1種以上の層からなるTi化合物層である。被覆切削工具が、基材とα型酸化アルミニウム(以下、「α型Al
2O
3」とも表記する。)を含有する中間層との間に、下部層を備えると、耐摩耗性及び密着性が向上する。
【0024】
下部層は、1層で構成されていてもよく、複層(例えば、2層又は3層)で構成されてもよいが、複層で構成されていることが好ましく、2層又は3層で構成されていることがより好ましく、3層で構成されていることが更に好ましい。下部層が3層で構成されている場合には、基材の表面上に、TiC層又はTiN層を第1層として有し、第1層の表面上に、TiCN層を第2層として有し、第2層の表面上に、TiCNO層又はTiCO層を第3層として有してもよい。それらの中では、下部層が基材の表面上にTiN層を第1層として有し、第1層の表面上に、TiCN層を第2層として有し、第2層の表面上に、TiCNO層を第3層として有してもよい。
【0025】
本実施形態の下部層の平均厚さは、3.0μm以上15.0μm以下である。平均厚さが3.0μm以上であることにより、耐摩耗性が向上する。一方、下部層の平均厚さが15.0μm以下であることにより、被覆層の剥離が抑制されることに主に起因して耐欠損性が向上する。同様の観点から、下部層の平均厚さは、3.5μm以上12.0μm以下であることがより好ましく、3.5μm以上10.0μm以下であることが更に好ましい。
【0026】
第1層(TiC層又はTiN層)の平均厚さは、耐摩耗性及び耐欠損性を一層向上する観点から、0.05μm以上1.0μm以下であることが好ましい。同様の観点から、平均厚さは、0.10μm以上0.50μm以下であることがより好ましく、0.15μm以上0.30μm以下であることが更に好ましい。
【0027】
第2層(TiCN層)の平均厚さは、耐摩耗性及び耐欠損性を一層向上する観点から、2.0μm以上20.0μm以下であることが好ましい。同様の観点から、平均厚さは、2.5μm以上15.0μm以下であることがより好ましく、3.0μm以上10.0μm以下であることが更に好ましい。
【0028】
第3層(TiCNO層又はTiCO層)の平均厚さは、耐摩耗性及び耐欠損性を一層向上する観点から、0.1μm以上1.0μm以下であることが好ましい。同様の観点から、平均厚さは、0.2μm以上0.5μm以下であることがより好ましい。
【0029】
Ti化合物層は、上記の1種以上の層からなる層であるが、本発明の作用効果を奏する限りにおいて、上記元素以外の成分を微量含んでもよい。
【0030】
[中間層]
本実施形態の中間層は、α型酸化アルミニウム層からなる。α型酸化アルミニウム層は、α型酸化アルミニウムからなる。
【0031】
本実施形態のα型酸化アルミニウム層の平均厚さは、3.0μm以上15.0μm以下である。α型酸化アルミニウム層の平均厚さが、3.0μm以上であると、被覆切削工具のすくい面における耐クレーター摩耗性が一層向上する傾向にあり、15.0μm以下であると被覆層の剥離がより抑制され、被覆切削工具の耐欠損性が一層向上する傾向にある。同様の観点から、α型酸化アルミニウム層の平均厚さは、3.0μm以上12.0μm以下であることがより好ましく、3.5μm以上10.0μm以下であることが好ましく、4.0μm以上10.0μm以下であることが更に好ましい。
【0032】
α型酸化アルミニウム層において、式(1)で表される(110)面の組織係数TC(110)が1.5以上6.5以下である。組織係数TC(110)が1.5以上であると、α型酸化アルミニウム層と、下部層(特にTiの炭窒化物層)との密着性が向上するため、耐チッピング性及び耐欠損性に優れる。一方、組織係数TC(110)が6.5を超えた被覆切削工具を作成することは製造上困難である。同様の観点から、組織係数TC(110)は、1.8以上であることが好ましく、2.0以上であることがより好ましく、3.0以上であることが更に好ましく、4.0以上であることが特に好ましい。
【0033】
中間層は、α型酸化アルミニウム層からなる層であるが、本発明の作用効果を奏する限りにおいて、α型酸化アルミニウム(α型Al
2O
3)以外の成分を微量含んでもよい。
【0034】
[上部層]
本実施形態の上部層は、Tiの炭窒化物層(TiCN層)からなる。
【0035】
本実施形態の上部層の平均厚さは、1.5μm以上8.0μm以下である。その平均厚さが1.5μm以上であることにより、α型酸化アルミニウム層の粒子の脱落を抑制する効果が向上し、平均厚さが8.0μm以下であることにより、耐欠損性が向上する。同様の観点から、上部層の平均厚さは、1.5μm以上5.0μm以下であることがより好ましい。
【0036】
上部層において、式(2)で表される(511)面の組織係数TC(511)が1.5以上5.0以下である。組織係数TC(511)が1.5以上であると、平滑な表面組織の面積割合が増加することに起因して切削抵抗が低下する。その結果、粒子の脱落が抑制され、被覆切削工具の耐摩耗性が向上する。また、組織係数TC(511)が1.5以上であると、上部層は、(110)面に配向したα型酸化アルミニウム層との密着性が向上することに起因して、上部層の膜厚を厚くしても耐チッピング性及び耐欠損性に優れる。一方、組織係数TC(511)が5.0を超えることは製造上困難である。同様の観点から、組織係数TC(511)は、1.6以上であることが好ましく、2.0以上であることがより好ましく、2.5以上であることが更に好ましく、3.0以上であることが特に好ましい。
【0037】
上部層は、TiCN層からなる層であるが、本発明の作用効果を奏する限りにおいて、TiCN以外の成分を微量含んでもよい。
【0038】
本実施形態の被覆切削工具における被覆層を構成する各層の形成方法として、例えば、以下の方法を挙げることができる。ただし、各層の形成方法はこれに限定されない。
【0039】
基材の表面上に特定のTiの化合物層である下部層を形成する。下部層は、例えば、以下の方法により形成される。
【0040】
例えば、Tiの窒化物層(以下、「TiN層」とも表記する。)からなるTi化合物層は、原料組成をTiCl
4:5.0〜10.0mol%、N
2:20〜60mol%、H
2:残部とし、温度を850〜950℃、圧力を300〜400hPaとする化学蒸着法で形成することができる。
【0041】
Tiの炭化物層(以下、「TiC層」とも表記する。)からなるTi化合物層は、原料組成をTiCl
4:1.5〜3.5mol%、CH
4:3.5〜5.5mol%、H
2:残部とし、温度を950〜1050℃、圧力を70〜80hPaとする化学蒸着法で形成することができる。
【0042】
Tiの炭窒化物層(以下、「TiCN層」とも表記する。)からなるTi化合物層は、原料組成をTiCl
4:5.0〜7.0mol%、CH
3CN:0.5〜1.5mol%、H
2:残部とし、温度を800〜900℃、圧力を60〜80hPaとする化学蒸着法で形成することができる。
【0043】
Tiの炭窒酸化物層(以下、「TiCNO層」とも表記する。)からなるTi化合物層は、原料組成をTiCl
4:3.0〜4.0mol%、CO:0.5〜1.0mol%、N
2:30〜40mol%、H
2:残部とし、温度を950〜1050℃、圧力を50〜150hPaとする化学蒸着法で形成することができる。
【0044】
Tiの炭酸化物層(以下、「TiCO層」とも表記する。)からなるTi化合物層は、原料組成をTiCl
4:1.0〜2.0mol%、CO:2.0〜3.0mol%、H
2:残部とし、温度を950〜1050℃、圧力を50〜150hPaとする化学蒸着法で形成することができる。
【0045】
下部層の表面上にα型酸化アルミニウム層からなる中間層を形成する。中間層は、例えば、以下の方法により形成される。
【0046】
まず、基材の表面上に、1層以上のTi化合物層からなる下部層を形成する。その後、基材から最も離れた層の表面を酸化する(以下、この工程を「酸化処理工程」とも表記する。)。その後、酸化処理を施した層の表面上にα型酸化アルミニウム層の核を形成し(以下、この工程を「核形成工程」とも表記する。)、その核が形成された状態で、α型酸化アルミニウム層を形成する(以下、この工程を「成膜工程」とも表記する。)。
【0047】
酸化処理工程において、基材から最も離れた層の表面の酸化は、原料組成をCO
2:0.1〜1.0mol%、H
2:残部とし、温度を800〜900℃、圧力を50〜70hPaとする条件により行われる。このときの酸化処理時間は、3〜10分であることが好ましい。
【0048】
核形成工程において、α型酸化アルミニウム層の核は、原料組成をAlCl
3:2.0〜4.0mol%、CO
2:0.5〜2.0mol%、HCl:1.5〜2.5mol%、H
2S:0.1〜0.3mol%、H
2:残部とし、温度を800〜900℃、圧力を200〜300hPaとする化学蒸着法で形成される。
【0049】
そして、成膜工程において、α型酸化アルミニウム層は、原料組成をAlCl
3:2.0〜4.0mol%、CO
2:3.0〜7.0mol%、HCl:1.5〜2.5mol%、H
2S:0.5〜0.8mol%、H
2:残部とし、温度を950〜1050℃、圧力を60〜120hPaとする化学蒸着法で形成される。
【0050】
α型酸化アルミニウム層における組織係数TC(110)を所定範囲内とするためには、例えば、以下のようにすればよい。すなわち、核形成工程において、低温条件(例えば、上記の範囲内)となるようにしたり、高圧条件(例えば、上記の範囲内)となるようにしたり、原料組成中のCO
2濃度を小さくしたり、原料組成中のH
2S濃度を小さくしたりすればよい。また、成膜工程において、高温条件(例えば、上記の範囲内)となるようにしたり、低圧条件(例えば、上記の範囲内)となるようにしたり、原料組成中のCO
2濃度を大きくしたり、原料ガス組成中のH
2S濃度を大きくしたりすればよい。
【0051】
α型酸化アルミニウム層からなる中間層の表面上にTiCN層からなる上部層を形成する。上部層は、例えば、以下の方法により形成される。
【0052】
TiCN層は、原料組成をTiCl
4:8.0〜10.0mol%、CH
3CN:0.5〜2.0mol%、N
2:5.0〜10.0mol%、H
2:残部とし、温度を950〜1050℃、圧力を70〜90hPaとする化学蒸着法で形成することができる。
【0053】
TiCN層における組織係数TC(511)を所定範囲内とするためには、例えば、以下のようにすればよい。すなわち、上部層形成工程において、高温条件(例えば、上記の範囲内)となるようにしたり、原料ガス組成中のTiCl
4濃度を大きくしたり(例えば、TiCl
4濃度を上記の範囲内とする)すればよい。尚、原料組成中のCH
3CN濃度が大きすぎたり、中間層の組織係数(110)が小さすぎたりすると、組織係数TC(511)を高めることができない傾向にある。
【0054】
本実施形態の被覆切削工具の被覆層における各層の厚さは、被覆切削工具の断面組織を、光学顕微鏡、走査型電子顕微鏡(SEM)、又はFE−SEM等を用いて観察することにより測定することができる。なお、本実施形態の被覆切削工具における各層の平均厚さは、刃先稜線部から被覆切削工具のすくい面の中心部に向かって50μmの位置の近傍において、各層の厚さを3箇所以上測定し、その相加平均値として求めることができる。また、各層の組成は、本実施形態の被覆切削工具の断面組織から、エネルギー分散型X線分光器(EDS)や波長分散型X線分光器(WDS)等を用いて測定することができる。
【実施例】
【0055】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0056】
基材として、JIS規格CNMG120412形状を有し、88.5WC−8.2Co−1.5TiN−1.5NbC−0.3Cr
3C
2(以上質量%)の組成を有する超硬合金製の切削インサートを用意した。この基材の刃先稜線部にSiCブラシにより丸ホーニングを施した後、基材の表面を洗浄した。
【0057】
基材の表面を洗浄した後、被覆層を化学蒸着法により形成した。まず、基材を外熱式化学蒸着装置に装入し、表1に示す原料組成、温度及び圧力の条件の下、表5に組成を示す第1層(TiN層又はTiC層)を、表5に示す平均厚さになるよう、基材の表面に形成した。次いで、表1に示す原料組成、温度及び圧力の条件の下、表5に組成を示す第2層(TiCN層)を、表5に示す平均厚さになるよう、第1層の表面に形成した。次に、表1に示す原料組成、温度及び圧力の条件の下、表5に組成を示す第3層(TiCNO層又はTiCO層)を、表5に示す平均厚さになるよう、第2層の表面に形成した。これにより、3層から構成された下部層を形成した。次に、表1に示す原料組成、温度及び圧力の条件の下、酸化処理を施した。酸化処理時間は7分であった。次いで、表2に示す原料組成、温度及び圧力の条件の下、酸化処理を施した第3層の表面にα型酸化アルミニウムの核を形成した。さらに、表3に示す原料組成、温度及び圧力の条件の下、第3層及びα型酸化アルミニウム(α型Al
2O
3)の核の表面に、表5に組成を示す中間層(α型酸化アルミニウム層)を、表5に示す平均厚さになるよう形成した。最後に、表4に示す原料組成、温度及び圧力の条件の下、表5に組成を示す上部層(TiCN層)を、表5に示す平均厚さになるよう、α型酸化アルミニウム層の表面に形成した。こうして、発明品1
、2、4、6〜10、12〜14、参考品1〜3及び比較品1〜9の被覆切削工具を得た。
【0058】
試料の各層の厚さを下記のようにして求めた。すなわち、FE−SEMを用いて、被覆切削工具の刃先稜線部からすくい面の中心部に向かって50μmの位置の近傍における断面での3箇所の厚さを測定し、その相加平均値を平均厚さとして求めた。得られた試料の各層の組成は、被覆切削工具の刃先稜線部からすくい面の中心部に向かって50μmまでの位置の近傍の断面において、EDSを用いて測定した。
【0059】
【表1】
【0060】
【表2】
【0061】
【表3】
【0062】
【表4】
【0063】
【表5】
【0064】
得られた発明品1
、2、4、6〜10、12〜14、参考品1〜3及び比較品1〜9
について、Cu−Kα線を用いた2θ/θ集中法光学系のX線回折測定を、出力:50kV、250mA、入射側ソーラースリット:5°、発散縦スリット:2/3°、発散縦制限スリット:5mm、散乱スリット:2/3°、受光側ソーラースリット:5°、受光スリット:0.3mm、BENTモノクロメータ、受光モノクロスリット:0.8mm、サンプリング幅:0.01°、スキャンスピード:4°/min、2θ測定範囲:20°〜155°とする条件で行った。装置は、株式会社リガク製のX線回折装置(型式「RINT TTRIII」)を用いた。X線回折図形からα型酸化アルミニウム層及びTiCN層の各結晶面のピーク強度を求めた。得られた各結晶面のピーク強度から、α型酸化アルミニウム層における組織係数TC(110)及びTiCN層における組織係数TC(511)を求めた。結果を表6に示す。
【0065】
【表6】
【0066】
得られた発明品1
、2、4、6〜10、12〜14、参考品1〜3及び比較品1〜9を用いて、下記の条件にて切削試験を行った。
【0067】
[切削試験]
被削材:S45Cの1本溝入り丸棒、
切削速度:280m/min、
送り:0.30mm/rev、
切り込み:1.8mm、
クーラント:有り、
評価項目:試料が欠損に至ったとき又は最大逃げ面摩耗幅が0.3mmに至ったときを工具寿命とし、工具寿命までの加工時間を測定した。また、切削加工開始から10分経過時における損傷状態をSEMで確認した。ただし、切削加工開始から10分経過する前に試料が欠損した場合、損傷状態は、その時点で欠損したことを示す。
【0068】
切削試験(摩耗試験)の工具寿命に至るまでの加工時間について、25分以上を「A」、20分以上25分未満を「B」、20分未満を「C」として評価した。この評価では、「A」が最も優れており、次に「B」が優れており、「C」が最も劣っていることを意味し、「A」又は「B」であれば切削性能に優れることを意味する。得られた評価の結果を表7に示す。
【0069】
【表7】
【0070】
表7に示す結果より、発明品の摩耗試験の評価は、「B」以上の評価であった。一方、比較品の評価は、摩耗試験が、「C」であった。よって、発明品の耐摩耗性は、比較品と比べて、総じて、より優れていることが分かる。以上の結果より、発明品は、耐摩耗性及び耐欠損性に優れる結果、工具寿命が長いことが分かった。