特許第6703323号(P6703323)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6703323生体の画像検査のためのROIの設定技術
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6703323
(24)【登録日】2020年5月12日
(45)【発行日】2020年6月3日
(54)【発明の名称】生体の画像検査のためのROIの設定技術
(51)【国際特許分類】
   G01T 1/161 20060101AFI20200525BHJP
【FI】
   G01T1/161 D
【請求項の数】12
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2015-184366(P2015-184366)
(22)【出願日】2015年9月17日
(65)【公開番号】特開2017-58287(P2017-58287A)
(43)【公開日】2017年3月23日
【審査請求日】2018年6月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】300061835
【氏名又は名称】公益財団法人神戸医療産業都市推進機構
(73)【特許権者】
【識別番号】000230250
【氏名又は名称】日本メジフィジックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127188
【弁理士】
【氏名又は名称】川守田 光紀
(72)【発明者】
【氏名】赤松 剛
(72)【発明者】
【氏名】千田 道雄
(72)【発明者】
【氏名】井狩 彌彦
(72)【発明者】
【氏名】三木 秀哉
【審査官】 遠藤 直恵
(56)【参考文献】
【文献】 特表2014−516414(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/013300(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01T 1/161 −1/166
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体の画像検査のためにROIを設定する方法であって、
・ 放射性医薬品を被検者に適用して得られた核医学画像を、陽性テンプレートを使って解剖学的標準化する第1の変換を行うことと;
・ 前記核医学画像を、陰性テンプレートを使って解剖学的標準化する第2の変換を行うことと;
・ 前記第1の変換によって得られる第1の解剖学的標準化画像と、前記陽性テンプレートとの類似度を計算することと;
・ 前記第2の変換によって得られる第2の解剖学的標準化画像と、前記陰性テンプレートとの類似度を計算することと;
・ 前記ROIを設定すべく、前記第1の変換及び前記第2の変換のうち、前記計算される類似度が高い変換の逆変換を、ROIテンプレートに適用することと;
を含み、ここで前記ROIテンプレートは、前記陽性テンプレートと前記陰性テンプレートとの差分に基づいて作成されたものである、方法。
【請求項2】
生体の画像検査のためにROIを設定する方法であって、
・ 放射性医薬品を被検者に適用して得られた核医学画像を、陽性テンプレートを使って解剖学的標準化する第1の変換を行うことと;
・ 前記核医学画像を、陰性テンプレートを使って解剖学的標準化する第2の変換を行うことと;
・ 前記第1の変換によって得られる第1の解剖学的標準化画像と、前記陽性テンプレートとの類似度を計算することと;
・ 前記第2の変換によって得られる第2の解剖学的標準化画像と、前記陰性テンプレートとの類似度を計算することと;
・ 前記第1の解剖学的標準化画像と前記第2の解剖学的標準化画像とのうち、前記計算した類似度が高い方の画像にROIテンプレートを適用し、前記ROIを設定することと;
を含み、ここで前記ROIテンプレートは、前記陽性テンプレートと前記陰性テンプレートとの差分に基づいて作成されたものである、方法。
【請求項3】
・ 前記陽性テンプレートは、前記放射性医薬品による核医学画像検査の対象となる疾患を有する複数の被検者の核医学画像から作成されたものであり、
・ 前記陰性テンプレートは、前記疾患を有しない複数の被検者の核医学画像から作成されたものである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記画像検査はアミロイド沈着に関する検査である、請求項1から3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記放射性医薬品は、アミロイドイメージング用のものである、請求項1から4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記類似度は相互相関係数である、請求項1から5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
システムの処理手段に実行されると、前記システムに、請求項1から6のいずれかに記載の方法を遂行させるように構成されるプログラム命令を備える、コンピュータプログラム。
【請求項8】
処理手段及び記憶手段を備えるシステムであって、前記記憶手段はプログラム命令を格納し、前記プログラム命令は、前記処理手段に実行されると、請求項1から6のいずれかに記載の方法を遂行させるように構成される、システム。
【請求項9】
処理手段及び記憶手段を備えるシステムであって、前記記憶手段はプログラム命令を格納し、前記プログラム命令は、前記処理手段に実行されると、請求項1に記載の方法を遂行させるように構成され、
前記プログラム命令は更に、前記処理手段に実行されると、前記システムに、前記逆変換が適用された前記ROIテンプレートに基づいて、核医学画像にROIを設定すると共に、該核医学画像における該設定したROIの平均SUVRを計算して出力させるように構成される、システム。
【請求項10】
生体の画像検査のためのROIを決定するために使用するROIテンプレートを作成する方法であって、前記方法は、
・ 核医学画像検査の対象となる疾患を有する複数の被検者の各々につき、放射性医薬品を投与して核医学測定を行って得られた、複数の第1の種類の核医学画像にアクセスすることと、
・ 前記複数の第1の種類の核医学画像を、それぞれ解剖学的標準化及び画素値正規化を行った上で加算平均することにより、陽性テンプレートを得ることと;
・ 前記疾患を有さない複数の被検者の各々につき、放射性医薬品を投与して核医学測定を行って得られた、複数の第2の種類の核医学画像にアクセスすることと、
・ 前記複数の第2の種類の核医学画像を、それぞれ解剖学的標準化及び画素値正規化を行った上で加算平均することにより、陰性テンプレートを得ることと;
・ 前記陽性テンプレートから所定の画素値しきい値に基づいて画素を抽出したものと、前記陰性テンプレートから所定の画素値しきい値に基づいて画素を抽出したものとの差分を取ることにより、前記ROIテンプレートを得ることと、
を含む、方法。
【請求項11】
システムの処理手段に実行されると、前記システムに、請求項10に記載の方法を遂行させるように構成されるプログラム命令を備える、コンピュータプログラム。
【請求項12】
処理手段及び記憶手段を備えるシステムであって、前記記憶手段はプログラム命令を格納し、前記プログラム命令は、前記処理手段に実行されると、請求項10に記載の方法を遂行させるように構成される、システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、生体の画像検査のためのROIの設定に関する発明を開示し、例えば、ROIの設定手法や、ROIの設定に用いることのできるテンプレートの作成手法について、開示する。
【背景技術】
【0002】
アミロイドβ蛋白の大脳皮質への集積は、アルツハイマー病に関係があることが判っており、アルツハイマー病の鑑別診断や治療効果判定のために、アミロイド集積の定量評価を行うことが研究されている。
【0003】
このような研究結果を紹介している非特許文献1は、Adaptiveアトラス(Adaptive atlas)なるものを用いる手法を開示している。Adaptiveアトラスは次のように作られる。アミロイドマーカーとして11C-PiBを使って複数の被検者に対してPETを施行し、それぞれの被検者からPiB画像(11C-PiBを使って得たPET画像)を得る。得られたPiB画像をMRI画像に基づいて解剖学的に標準化した上で、大脳新皮質領域のSUVRの大きさによって2つのグループに分け、一方のグループから陽性アトラス(positive atlas)を、他方のグループから陰性アトラス(negative atlas)を作成しておく。そして、新規の被検者のPiB画像のアミロイド沈着を調べる場合、まずはそのPiB画像のために、陽性アトラスと陰性アトラスとの線形結合によりAdaptiveアトラスを作成する。この線形結合の重み付けを、調査の対象とするPiB画像毎に個別に決定することを特徴とする。非特許文献1は、この個別に決定されたAdaptiveアトラスを用い、対応するPiB画像の解剖学的標準化を行って、既存の脳地図であるAAL parcellationを用いて大脳新皮質領域を抽出し、そのSUVRを計算することを開示している。
【0004】
非特許文献1は、平均アトラス(Mean atlas)なるものを用いる手法も開示している。この手法は非特許文献2にも詳しく記載されているが、まず、複数の被検者からPiB画像を単に位置合わせして重ね合わせることで、平均アトラスを作成する。そして、調査の対象とするPiB画像をこのアトラスに位置合わせし、既存の脳地図であるAAL parcellationを用いて大脳新皮質領域を抽出し、そのSUVRを計算する。
【非特許文献1】Bourgeat et al. - 2014 - Comparison of MR-less PiB SUVR quantification methods
【非特許文献2】Edison et al. - 2013 - Comparison of MRI based and PET template based approaches in the quantitative analysis of amyloid imaging with PIB-PET
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
現在のアミロイド集積の定量評価は、アミロイドβ蛋白に集積する放射性薬剤を用いて、被検者にPETを施行すると共に、同じ被検者に対してMRIをも施行し、アミロイド沈着の様子を画像化したPET画像を、MRI画像を用いて解剖学的に標準化し、特定の領域を選択して、その画素値の様子を調べる方法が主流である。
【0006】
現在は、アミロイド沈着の定量評価を行うことは、臨床研究のレベルでしか行われておらず、一般的な診療としては行われていない。その理由の一つは、アミロイド沈着の定量評価を行うために、PETのみならず、MRIも必要とするためである。なぜなら、上述のように、PET画像の解剖学的標準化や、評価対象領域(ROI)の設定のために、MRI画像を必要とするからである。PET装置だけでなくMRI装置を導入することは、多くの診療機関にとって費用や維持の負担が過大である。また、検査を受ける必要のある者にとっても、PET検査に加えてMRI検査を受けることは、大きな負担となる。これは、MRIを撮影するためには、比較的長い時間じっとしている必要があり、認知症患者にとっては困難なタスクであるからである。このため、アミロイド沈着の定量評価をPET検査のみで行えるようにすることが希求されている。
【0007】
さらに、アミロイド集積評価のための既存の手法は、アミロイド沈着の様子を調べる領域を抽出するために、AAL parcellationのような既存の脳地図を用いている。しかし、これら既存の脳地図は、脳の解剖学的な構造を良く表現していると考えられるものの、放射性医薬品の集積の様子に基づいて作成された地図ではない。このため、PET検査において解析の対象とする領域(ROI)の設定のために既存の脳地図を使用することは、最適とはいえない可能性がある。
【0008】
更に、既存の手法では、オリジナルのアミロイドイメージング画像を解剖学的標準化した上で(すなわち変形した上で)、ROIを設定し、ROIの画素値やSUVR等を調べていた。しかし、解剖学的標準化を行えば、画素値が変わることは避けられない。このため、なるべくオリジナルの画像にROIを設定したいという要望があった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題の少なくとも一つを解決すべく、次のような方法を開示する。この方法は、生体の画像検査のためにROIを設定する方法であって、
・ 放射性医薬品を被検者に適用して得られた核医学画像を、陽性テンプレートを使って解剖学的標準化する第1の変換を行うことと;
・ 前記核医学画像を、陰性テンプレートを使って解剖学的標準化する第2の変換を行うことと;
・ 前記第1の変換によって得られる第1の解剖学的標準化画像と、前記陽性テンプレートとの類似度を計算することと;
・ 前記第2の変換によって得られる第2の解剖学的標準化画像と、前記陰性テンプレートとの類似度を計算することと;
・ 前記ROIを設定すべく、前記第1の変換及び前記第2の変換のうち、前記計算される類似度が高い変換の逆変換を、ROIテンプレートに適用することと;
を含む。
【0010】
実施形態によっては、前記陽性テンプレートは、前記放射性医薬品による核医学画像検査の対象となる疾患を有する複数の被検者の核医学画像から作成されたものであってもよい。
【0011】
実施形態によっては、前記陰性テンプレートは、前記疾患を有しない複数の被検者の核医学画像から作成されたものであってもよい。
【0012】
実施形態によっては、前記ROIテンプレートは、前記陽性テンプレートと前記陰性テンプレートとの差分に基づいて作成されたものであってもよい。
【0013】
上記の方法によれば、核医学検査で実際に使用される放射性医薬品を用いて作成したテンプレートを用いてROIを設定するために、当該放射性医薬品の集積を調べるROIを、適切に設定することが可能になる。特に、上記の陽性テンプレート、陰性テンプレート、ROIテンプレートという、3種類のテンプレートを、上記のように使うことにより、ROIを適切に設定することが可能になる。
【0014】
更に、解剖学的標準化の逆変換をROIテンプレートに適用することによって、画像検査に使用するROIの設定を行うため、検査の対象となるオリジナルの画像に対して直接にROIの設定を行うことが可能となる。従って、オリジナルの画像の画素値を変えることなしに、ROIの画素値の解析を行うことが可能となる。
【0015】
加えて、上記の方法は、核医学画像にROIを設定するために、MRIを施行することを必要としない。従って、医療施設の設備負担や患者の検査負担を抑えることが可能である。
【0016】
後に、上記の方法をアミロイドイメージングへ応用した時の試験データを紹介するが、上記の方法で設定されたROIは、MRI及び既存の脳地図を用いて設定された従来法によるROIよりも、安定性や部分容積効果の観点から好ましいと思えるものである。また、上記の方法に基づいて設定したROIに基づいて、アルツハイマー病の有無の鑑別を行った結果、経験豊かな医師による視覚評価と同等の鑑別能が得られている。
【0017】
なお、「前記第1の変換及び前記第2の変換のうち、前記計算される類似度が高い変換の逆変換を、ROIテンプレートに適用する」との処理を、「前記第1の解剖学的標準化画像と前記第2の解剖学的標準化画像とのうち、前記計算した類似度が高い方の画像にROIテンプレートを適用する」との処理に置き換えることによって、ROIの設定を行ってもよい。
【0018】
上記の方法は、陽性テンプレート、陰性テンプレート、ROIテンプレートという3種類のテンプレートを用いることを特徴とするが、本願は、これらのテンプレートを作成する方法も開示する。好適な具現化形態において、この方法は、
・ 核医学画像検査の対象となる疾患を有する複数の被検者の各々につき、放射性医薬品を投与して核医学測定を行って得られた、複数の第1の種類の核医学画像にアクセスすることと、
・ 前記複数の第1の種類の核医学画像を、それぞれ解剖学的標準化及び画素値正規化を行った上で加算平均することにより、陽性テンプレートを得ることと;
・ 前記疾患を有さない複数の被検者の各々につき、放射性医薬品を投与して核医学測定を行って得られた、複数の第2の種類の核医学画像にアクセスすることと、
・ 前記複数の第2の種類の核医学画像を、それぞれ解剖学的標準化及び画素値正規化を行った上で加算平均することにより、陰性テンプレートを得ることと;
・ 前記陽性テンプレートから所定の画素値閾値に基づいて画素を抽出したもの(例えば陽性テンプレートから所定の閾値以上の画素値を有する画素を抽出したもの)と、前記陰性テンプレートから所定の画素値閾値に基づいて画素を抽出したもの(例えば陰性テンプレートから所定の閾値以上の画素値を有する画素を抽出したもの)との差分を取ることにより、前記ROIテンプレートを得ることと、
を含む。
【0019】
本願発明は、アルツハイマー病の鑑別診断や治療効果判定のためのアミロイドイメージングにおいて、解析の対象とする領域を、MRIを必要とすることなくPETのみで適切に設定することを目的としてなされたものである。しかしながら、結果として得られた本願発明は、この目的に限らず、核医学診断において広く用いられることができるものとなった。特に、放射性医薬品の集積パターンで疾患の有無を分類できるような分野において、生体画像の解析対象領域を設定するために、広く用いることが可能である。
【0020】
従って、上記の方法において、「生体」とは、例えば人間の脳皮質であることができるが、それに限らず、例えば人間の線条体や海馬であることができる。
【0021】
また、上記の方法において、「放射性医薬品」とは、例えばアミロイドイメージング用の放射性医薬品、例えば、11Cで標識したピッツバーグ化合物B (11C-PIB([N-methyl-11C]2-(4'-methylaminophenyl)-6-hydroxybenzothiazole))や、18Fで標識した薬剤(18F-florbetapir,18F-Flutemetamolなど)であることができるが、それに限らず、例えば18F-FDOPA, 11C-Raclopride, 123I-FP-CIT, 123I-IMPであることができる。
【0022】
また、上記の方法において、「画像検査」とは、例えばMRI検査や核医学画像検査を含むことができる。また、「核医学画像検査」とは、例えばPET検査であることができ、例えばアミロイドの沈着を調べるアミロイドイメージング検査であることができる。「核医学画像」とは、例えばPET画像であることができ、例えばアミロイドの沈着を画像化したアミロイドイメージング画像であることができる。「核医学画像検査」「核医学画像」とは、実施形態によっては、SPECT検査、SPECT画像であることができる。
【0023】
更に、上記の方法において、「核医学画像検査の対象となる疾患」とは、例えばアルツハイマー病であることができるが、それに限らず、例えばレビー小体型認知症やパーキンソン病であることができる。
【0024】
本願発明の好適な具現化形態には、上記の方法を遂行するように構成される装置や、CPUなどの処理手段に実行されると装置に上記の方法を遂行させるように構成されるコンピュータプログラムなどが含まれる。
【0025】
現時点で好適と考えられる本願発明の具現化形態のいくつかを、特許請求の範囲に含まれる請求項に特定している。しかしこれらの請求項に特定される構成が、本願明細書及び図面に開示される新規な技術思想の全てを含むとは限らない。出願人は、現在の請求項に記載されているか否かに関わらず、本願明細書及び図面に開示される新規な技術思想の全てについて、特許を受ける権利を有することを主張するものであることを記しておく。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】生体の画像検査のためのROIを決定するために使用するテンプレートのセットを作成するシステムのハードウェア構成を説明するための図である。
図2】生体の画像検査のためのROIを決定するために使用するテンプレートのセットを作成する実施例の流れを説明するための図である。
図3】陽性テンプレート及び陰性テンプレートの一例を示す図である。
図4A-4C】図4Aは、例示的な陽性テンプレートに閾値によるカットオフ処理を加えたものを図示したものであり、図4Bは、例示的な陰性テンプレートに閾値によるカットオフ処理を加えたものを図示したものであり、図4Cは、これらの差分に基づいて作成されたROIテンプレートを図示したものである。
図4D】紹介された実施例で作成された例示的なROIテンプレートを示す図である。
図5】生体画像にROIを設定するシステムのハードウェア構成を説明するための図である。
図6】生体画像にROIを設定する実施例の流れを説明するための図である。
図7】相互相関係数の計算領域の例を説明するための図である。
図8】実施例で決定されたROIを、例示的なアミロイドイメージングPET画像の断面画像に重ね合わせたものの例を描いた図である。
図9図8と同じ断面画像に、MRI及び解剖学的な脳地図を用いて設定したROIを重ねたものを示す図である。
図10】実施例で決定されたROIを用いた、アルツハイマー病の罹患可能性の大小の自動判定の結果と、経験豊富な医師による手動判断との関係を示す図である。
【実施例の詳細説明】
【0027】
以下、添付図面を参照しつつ、好適な実施例を用いて、本願に開示される技術思想をより詳しく説明する。本願に開示される技術思想には、大きく分けて二つの側面があり、一つは生体の画像検査のためのROIを決定するために使用するテンプレートのセットを作成することに関し、もう一つは、そのテンプレートのセットを用いて、生体の画像検査のためにROIを設定することに関する。まずは前者の側面から説明する。
【0028】
図1は、上記のテンプレートセットを作成するハードウェアの例である、システム100の主な構成を説明するための図である。図1に描かれるように、システム100は、ハードウェア的には一般的なコンピュータと同様であり、CPU102,主記憶装置104,大容量記憶装置106,ディスプレイ・インターフェース107,周辺機器インタフェース108,ネットワーク・インターフェース109などを備えることができる。一般的なコンピュータと同様に、主記憶装置104としては高速なRAM(ランダムアクセスメモリ)を使用することができ、大容量記憶装置106としては、安価で大容量のハードディスクやSSDなどを用いることができる。システム100には、情報表示のためのディスプレイを接続することができ、これはディスプレイ・インターフェース107を介して接続される。またシステム100には、キーボードやマウス、タッチパネルのようなユーザインタフェースを接続することができ、これは周辺機器インタフェース108を介して接続される。ネットワーク・インターフェース109は、ネットワークを介して他のコンピュータやインターネットに接続するために用いられることができる。
【0029】
大容量記憶装置106には、オペレーティングシステム(OS)110や、上記のテンプレートセットを作成するための命令を備えるプログラム120,126、これらのプログラムによって使用されるMRIテンプレート122,脳地図データ124などが格納されていることができる。システム100の最も基本的な機能は、OS110がCPU102に実行されることにより提供される。また、上記のテンプレートセットを作成するための特徴的な処理は、プログラム120,126に含まれるプログラム命令群の少なくとも一部がCPU102に実行されることにより提供される。よく知られているように、プログラムの実装形態には様々なものがあり、それらのバリエーションは全て、本願で開示される発明の範囲に含まれるものである。
【0030】
大容量記憶装置106にはさらに、上記のテンプレートセットを作成するために使用されるPET画像データ131a,132a,...,141a,142a,...や、対応するMRI画像データ131b,132b,...,141b,142b,...、上記のテンプレートセットに含まれる陽性テンプレート150a、陰性テンプレート150b、ROIテンプレート150cなども格納されていることができる。
【0031】
システム100は、図1に描かれた要素の他にも、電源や冷却装置など通常のコンピュータシステムが備える装置と同様の構成を備えることができる。コンピュータシステムの実装形態には、記憶装置の分散・冗長化や仮想化、複数CPUの利用、CPU仮想化、DSPなど特定処理に特化したプロセッサの使用、特定の処理をハードウェア化してCPUに組み合わせることなど、様々な技術を利用した様々な形態のものが知られている。本願で開示される発明は、どのような形態のコンピュータシステム上に搭載されてもよく、コンピュータシステムの形態によってその範囲が限定されることはない。本明細書に開示される技術思想は、一般的に、(1)処理手段に実行されることにより、当該処理手段を備える装置またはシステムに、本明細書で説明される各種の処理を遂行させるように構成される命令を備えるプログラム、(2)当該処理手段が当該プログラムを実行することにより実現される装置またはシステムの動作方法、(3)当該プログラム及び当該プログラムを実行するように構成される処理手段を備える装置またはシステムなどとして具現化されることができる。前述のように、ソフトウェア処理の一部はハードウェア化される場合もある。
【0032】
また、システム100の製造販売時や起動時には、データ131a,132a,131b,132b等は、大容量記憶装置106の中に記憶されていない場合が多いことに注意されたい。これらのデータは、例えば周辺機器インタフェース108やネットワーク・インターフェース109を介して外部の装置からシステム100に転送されるデータであってもよい。実施形態によっては、データ(テンプレート)150a〜150cは、プログラム120,126がCPU102に実行されることを通じて形成されたものであってもよい。また、プログラム120,126やOS110の実装形態によっては、PET画像データやMRI画像データ、テンプレート等の少なくともいずれかは、大容量記憶装置106に格納されず、主記憶装置104にしか格納されない場合もある。本願で開示される発明の範囲は、これらのデータの存在の有無によって限定されるものではないことを、念のために記しておく。
【0033】
次に、図2のフローチャートを用いて、生体の画像検査のためのROIを決定するために使用するテンプレートのセットを作成する方法200の流れを説明する。このテンプレートセットは、当該画像検査の対象となる疾患を有する複数の被検者の核医学画像データから作成された陽性テンプレートと、当該疾患を有さない複数の被検者の核医学画像データから作成された陰性テンプレートと、画像検査に使用するROIのテンプレートであるROIテンプレートとの3つのテンプレートからなる。一例であるが、方法200で作成されるテンプレートセットは、アルツハイマー病の鑑別や治療効果判定の目的で施行される、アミロイドイメージング検査のために使用されるものであってもよい。このテンプレートセットは、例えば、アミロイドイメージング画像上に、検査で分析されるべき適切なROIを自動的に設定することを可能とする。
【0034】
ステップ202は方法200の開始を示す。ステップ204では、テンプレートの元になるデータの収集を行う。ここでは、アルツハイマー病を罹患していないことが判明している被検者と、アルツハイマー病に罹患していることが判明している被検者とをそれぞれ複数人集める。特定の個人のデータに結果が引きずられないように、アルツハイマー病に罹患している被検者もしていない被検者も、なるべく多くの人数を集めることが好ましい。そして、これらの被検者それぞれについて、アミロイドイメージングに使用する放射性医薬品(例えば11C-PiBや、18F-Flutemetamol等)を用いてPETを施行し、PET画像を作成する。併せて、これらの被検者それぞれについて、MRIを施行してMRI画像を作成する。作成した画像データは適切な記憶手段に格納しておく。
【0035】
本例では、作成したPET画像データ及びMRI画像データを補助記憶装置106に格納しておくこととしている。図1において、符号131a及び131bは、それぞれ、一番目のAD被検者(アルツハイマー病に罹患している被検者)のPET画像データ及びMRI画像データを表し、132a及び132bは、それぞれ二番目のAD被検者のPET画像データ及びMRI画像データを表し、133a及び133bは、それぞれ三番目のAD被検者のPET画像データ及びMRI画像データを表している。また、符号141a及び141bは、それぞれ、一番目の非AD被検者(アルツハイマー病に罹患していない被検者)のPET画像データ及びMRI画像データを表し、142a及び142bは、それぞれ二番目の非AD被検者のPET画像データ及びMRI画像データを表し、143a及び143bは、それぞれ三番目の非AD被検者のPET画像データ及びMRI画像データを表している。図1には、AD被検者、非AD被検者、それぞれ3人分のPET画像データ及びMRI画像データしか描かれていないが、実際にテンプレートを作成する場合は、もっと多くの被検者を用いてもよく、また、その方が好ましい。これは、被検者の数(すなわちデータの数)が少ないと、最終的に作成されるテンプレートにおいて、特定の被検者のデータの影響が強くなりすぎるからである。
【0036】
符号206−216で表されるループでは、ステップ204でデータ収集を行った被検者のPET画像データ及びMRI画像データに対して、ステップ208−214の処理を行う。ステップ208−214の処理の目的は、ステップ204でデータ収集を行った全ての被検者のPET画像データを、それらの位置や形状、サイズが一致するように移動・変形することであり、それによって、ステップ218で、これらのPET画像データの加算平均を行えるようにすることである。ループ206−216の繰り返しの各回において、異なる被検者の画像データが処理され、ステップ204でデータ収集を行った全部の被検者のデータの処理が終わると、ループを抜ける。実施形態によっては、ループ206−216の処理は、陽性・陰性テンプレート作成プログラム120(図1参照)に含まれるプログラム命令の少なくとも一部がCPU102に実行されることにより、装置100が遂行する処理である。ステップ218の処理についても同様である。
【0037】
ステップ208では、特定の被検者のMRI画像データ(以下、例として画像データ131bとする)を、適当なMRIテンプレートに一致するよう解剖学的標準化する。すなわち、当該MRI画像データの位置や形状、サイズを、当該MRIテンプレートに一致するように移動・変形する。このMRIテンプレートとして、例えば、本願の技術分野でしばしば用いられるMNI(Montreal Neurological Institute) T1テンプレートを用いてもよい。この解剖学的標準化処理を行うために、CPU102は、陽性・陰性テンプレート作成プログラム120のプログラム命令の少なくとも一部に従い、補助記憶装置106からMNI T1テンプレートであるMRIテンプレート122をロードしてもよい。また、この標準化処理を行うことのできるプログラムは既に入手可能であり、例えばPMOD(PMOD Technologies Ltd製)やSPM(http://www.fil.ion.ucl.ac.uk/spm/)のようなプログラムを使うことが可能である。実施形態によっては、陽性・陰性テンプレート作成プログラム120は、このような既存のプログラムを利用して作られてもよい。標準化処理が成功すると、プログラム120のプログラム命令の少なくとも一部は、画像データ131bの標準化に要した変換情報を記憶するように、CPU102を動作させる。これらの変換情報は、多くの場合マトリクスの形式で表すことができ、データ131bの回転角度や局所的な移動量等の情報を含むデータであることができる。
【0038】
ステップ210では、ステップ208で処理されたMRI画像データに対応するPET画像データの、当該MRI画像データへのレジストレーション(画像の位置合わせ)が行われる。すなわち、例えばステップ208で処理されたMRI画像データが図1の画像データ131bであった場合、PET画像データ131aについて、これを画像データ131bにレジストレーションする。すなわち、PET画像データ131aを、その位置や形状、サイズがMRI画像データ131bに一致するように移動する。このようなレジストレーションを行うことのできるプログラムも既に入手可能であり、例えば上記のPMODやSPMのようなプログラムを使うことが可能である。実施形態によっては、陽性・陰性テンプレート作成プログラム120は、このような既存のプログラムを利用して作られてもよい。
【0039】
ステップ212では、ステップ210でMRI画像にレジストレーションされたPET画像データ(例えば画像データ131a)に対して、ステップ208で得られた解剖学的標準化のための変換情報(例えばマトリクス)を適用する。それによって、PET画像データ(例えば画像データ131a)に示される生体画像の位置や形状、サイズが、MRIテンプレート122に示される生体画像に合致したものとなる。
【0040】
ステップ214では、ステップ212で変換されたPET画像データの画素値を正規化する。この正規化処理を行うために、CPU102は、陽性・陰性テンプレート作成プログラム120のプログラム命令の少なくとも一部に従い、補助記憶装置106から脳地図データ124をロードし、それを使って、ステップ212で解剖学的標準化されたPET画像データから正規化の基準となる領域を抽出する。この処理で用いる脳地図データとしては、本願の技術分野で一般的に使用されている脳地図データを使うことができ、例えば、AAL(Automatic-anatomical-labeling) ROIを使うことができる。この脳地図データ124とMRIテンプレート122との位置・形状合わせは、予めなされていることが好ましい。アミロイドイメージングの場合、正規化の基準とする領域としては、例えば小脳であることができる。これは、アミロイドイメージングに用いられる放射性医薬品については、小脳への集積量が、アルツハイマー病の有無にあまり依存しないからである。同様の理由で、橋を基準領域としてもよい。
【0041】
小脳を基準領域として用いる場合、脳地図データ124において小脳に対応する領域と同じ領域の画素群を、ステップ212で解剖学的標準化されたPET画像データから抽出し、その画素群の画素値の平均値を算出する。そしてこの平均値で、PET画像データの各画素の画素値を割ることで、正規化を行う。なお、このような処理によって正規化された画素値は、本願の技術分野で一般的に、SUV(Standardized Uptake Value)またはSUVR(Standardized Uptake Value Ratio)と称される。
【0042】
符号206−216で表されるループを抜けると、このループで処理された全てのPET画像データの生体画像の位置や形状、サイズが揃えられ、また各画素値がSUVR化されている。
【0043】
ステップ218では、上記のループで処理された全てのPET画像データのうち、AD被検者由来のもの全てについて、加算平均を行う。これによって、前述の陽性テンプレートが作成される。また、符号206−216で表されるループで処理された全てのPET画像データのうち、非AD被検者由来のもの全てについても加算平均を行う。これによって、前述の陰性テンプレートが作成される。これらのテンプレートは、陽性テンプレート150a、陰性テンプレート150bとして、それぞれ補助記憶装置106に保存されてもよい。
【0044】
図3に、作成した陽性テンプレート及び陰性テンプレートの一例を示す。この陽性テンプレートは11人のAD被検者のアミロイドイメージング画像を用いて作成され、陰性テンプレートは8人の非AD被検者のアミロイドイメージング画像を用いて作成されたものである。
【0045】
ステップ220では、前のステップで作成した陽性テンプレートと陰性テンプレートとの差分を取ることにより、前述のROIテンプレートを作成する。実施形態によっては、ステップ220の処理は、ROIテンプレート作成プログラム126(図1参照)に含まれるプログラム命令の少なくとも一部がCPU102に実行されることにより、装置100が遂行する処理であってもよい。作成されたROIテンプレートは、ROIテンプレート150cとして、それぞれ補助記憶装置106に保存されてもよい。
【0046】
実施形態によっては、陽性テンプレートと陰性テンプレートとの単なる差分を取るのではなく、これらのテンプレートに次のような処理を加えてから、差分を取ってもよい。まず、陽性テンプレートにつき、画素値(SUVR)が所定の閾値以上である画素のみを残し、その他の画素は全て画素値0またはNULLとしてしまう。陽性テンプレートにこのような処理を加えたデータを画像化したものの例の一部を図4Aに示す。同様に、陰性テンプレートについても、画素値(SUVR)が所定の閾値以上である画素のみを残し、その他の画素は全て画素値0またはNULLとしてしまう。陰性テンプレートにこのような処理を加えたデータを画像化したものの例の一部を図4Bに示す。最後に、これらのデータの差分を取り、さらに一定の閾値以上の画素値を有する画素によって形成されるクラスターの輪郭を抽出し、ROIテンプレートとする。このような処理によって作成されたROIテンプレートの例の一部を図4Cに示す。なお、好ましい態様において、陽性テンプレートと陰性テンプレートのそれぞれにつき、上記処理(閾値によるカットオフ処理)にて残った画素の画素値を、全て同じ値とする。この様な処理を行う事により、陽性テンプレートと陰性テンプレートとの間で画素値の重なった部分は必ず0の値となり、より良好なROIテンプレートを作成する事ができる。
【0047】
本願発明者は、上記のように、SUVRが一定以上のである画素を使ってROIテンプレートを作成することが、核医学画像の定量化分析に好影響を与えることを見出した。また本願発明者は、この閾値として、アミロイドイメージングの場合、陽性テンプレート、陰性テンプレートとも、1.7程度が好適であることも見出した。ただしこの閾値は固定的なものではなく、陽性テンプレートと陰性テンプレートとで別の閾値をもちいてもよい。最適な閾値は、使用する放射性医薬品や核医学画像化装置の違いに依存して変化する可能性があるので、個々の施設で最適な値を探索してもよい。
【0048】
図4Dにステップ220により作成されたROIテンプレートの一例を示す。各断面画像上に黒の実線で囲まれた領域が、当該断面画像上のROIを表している。このROIテンプレートは、図3に例示された陽性テンプレート及び陰性テンプレートに、図4A図4Bを用いて説明した上述のカットオフ処理を適用して差分を取り、作成したものである。
【0049】
このROIテンプレートは、アミロイドイメージング検査で実際に使用される放射性医薬品を用いて得られたアミロイドイメージング画像を使って作成されたテンプレートであるために、アミロイドイメージング画像に対してこのテンプレートで設定されたROIは、解剖学的な脳地図を用いて設定される従来のROIよりも、アミロイド蓄積の様子を直接的に反映していると考えられる。また、PET画像を用いて作成したテンプレートであるので、PET装置による放射線の検出のされ方が反映されていると考えられる。この点、解剖学的な脳地図を用いて設定される従来のROIは、放射線の検出のされ方が何ら考慮されていない。これらの事情により、アミロイドイメージング検査において、上記のROIテンプレートを用いてROIを設定する場合、解剖学的な脳地図を用いて設定する従来の方法よりも、より適切なROIを設定することが可能になる。
【0050】
また、上記のROIテンプレートが、解剖学的な脳地図を用いた従来のテンプレートよりも、アミロイド蓄積の様子を直接的に反映していることを考慮すれば、このROIテンプレートを用いて、MRI画像上にROIを設定することも有用であろう。なぜなら、アミロイド蓄積に異常が存在するかもしれない領域を特定して、その形態の変化を観察することが可能となるからである。従って、本願発明によるROIテンプレートは、核医学画像検査におけるROI設定に有用であるのみならず、MRIやCTのような形態画像検査にも有用である。
【0051】
上記のROIテンプレートは、PiB画像を例にとって作成されたものであるが、同様のROIテンプレートを、他の放射性医薬品を使った核医学画像についても作成することができる。特に、放射性医薬品の集積パターンが疾患の有無で明確に異なり、かつ、疾患の有無で集積パターンが変化しない領域を有する場合には、同様のROIテンプレートを作成する事ができる。そのようなROIテンプレートは、放射性医薬品の蓄積の様子に直接的に基づくROIを設定することを可能とし、また、核医学検査装置の放射線検出のありかたが考慮されたROIを設定することを可能とするため、単に解剖学的な脳地図を用いてROIを設定する従来法に比べて、より適切なROIを設定することを可能とする。
【0052】
ところで、方法200で作成された他の二つのテンプレートである陽性テンプレート及び陰性テンプレートが何に使われるかを説明していない。これらは、ROIテンプレートを使って個別の生体画像にROIを設定する際に、利用することのできるテンプレートである。以下、本願に開示される技術思想の第二の側面である、生体画像にROIを設定する手法について説明するが、その中で、陽性テンプレート及び陰性テンプレートの使われ方も説明される。
【0053】
以下、図5以降を用いて、本願に開示される技術思想の第二の側面である、生体画像にROIを設定する手法について説明する。図5は、生体画像にROIを設定する処理を遂行するハードウェアの例である、システム500の主な構成を説明するための図である。図示されるように、システム500のハードウェア的な構成は、図1に例示したシステム100と同様であり、すなわち一般的なコンピュータと同様である。従って、システム100と同じ要素については同じ符号を付し、説明を省略する。
【0054】
システム100とは異なるシステム500の特徴の一つは、システム500が、ROI設定プログラム520を有する点である。ROI設定プログラム520は、CPU102に実行されることによりシステム500に後述の処理を遂行させるプログラム命令を備える。システム500の別の特徴に、陽性テンプレート150a、陰性テンプレート150b、ROIテンプレート150cの三つのテンプレートを有していることである。これら三つのテンプレートは、図2で例示した処理によって作成されたものであってよい。実施形態によっては、プログラム520やテンプレート150a〜150cは、補助記憶装置106に保存されてもよい。実施形態によっては、これらのプログラムやテンプレートは、システム500とネットワーク等で接続された外部機器に格納されていてもよい。
【0055】
ROI設定プログラム520は、CPU102に実行されることにより、生体画像データ530にROIを設定する処理をシステム500に遂行させるように構成される。生体画像データ530は、例えば、アミロイドイメージングのために作成されたPET画像であることができる。すなわち、例えば、11C-PIBや18F-Flutemetamolのような放射性医薬品を被検者に投与してPETを施行し、得られた画像データであってもよい。画像データ530は、図5に例示されるように、例えば補助記憶装置106に保存されてもよいし、システム500とネットワーク等で接続された外部機器に格納されていてもよい。
【0056】
図6を用いて、ROI設定プログラム520がCPU102に実行されることにより、システム500が遂行する処理600の流れを説明する。ステップ602は処理の開始を表す。ステップ604では、陽性テンプレート150a、陰性テンプレート150b、ROIテンプレート150c、PET画像データ530がロードされる。すなわち、これらのデータが補助記憶装置106から主記憶装置104にコピーされる。ステップ606では、PET画像データ530を、陽性テンプレート150a及び陰性テンプレート150bのそれぞれに対して、解剖学的標準化する。すなわち、PET画像データ530に表示されている頭部画像の形状を、陽性テンプレート150aまたは陰性テンプレート150bの形状に合致するように変形させる。前述のように、このような解剖学的標準化処理を行うことのできるプログラムは既に入手可能であり、例えば前述のPMODやSPMのようなプログラムを使うことが可能である。
【0057】
ステップ608では、ステップ606における解剖学的標準化処理後の画像データ及び変換データを、続く処理のために格納する。図5には、画像データ530を陽性テンプレート150aに対して解剖学的標準化した画像データが、画像データ530aとして例示されている。また、画像データ530を画像データ530aに変換するためのデータが、変換データ540aとして例示されている。このような変換データは、例えばマトリクスとして表すことができる。同様に図5には、画像データ530を陰性テンプレート150bに対して解剖学的標準化した画像データが、画像データ530bとして例示されている。また、画像データ530を画像データ530bに変換するためのデータ(例えば変換マトリクス)が、変換データ540bとして例示されている。なお、画像データ530aや530b、変換データ540aや540bは、補助記憶装置106に格納されているように例示されているが、実際の実施例の場合には、主記憶装置104に格納される場合が多いかもしれない。
【0058】
ステップ610では、陽性テンプレート150aを使用して解剖学的標準化した画像データ530aと、当該陽性テンプレート150aとの間の類似度が計算される。また、陰性テンプレート150bを使用して解剖学的標準化した画像データ530bと、当該陰性テンプレート150bとの間の類似度も計算される。この類似度は、例えば相互相関係数であることができる。例えば、画像データ530aと陽性テンプレート150aとの相互相関係数rは、次のように計算することができる。

ここでAmnは画像データ530aの画素mnの画素値を表し、Bmnは陽性テンプレート150aの画素mnの画素値を表す。オーバーラインが付されたAは、相互相関係数が計算される範囲における画像データ530aの画素値平均を表し、オーバーラインが付されたBは、相互相関係数が計算される範囲における陽性テンプレート150aの画素値平均を表す。
【0059】
相互相関係数rを計算する範囲は、画像データ530aの全範囲でも良いが、実施形態によっては、その一部の範囲だけで計算してもよい。例えば、図7に描かれるように、小脳の上から頭頂葉までの範囲で相互相関係数を計算することとしてもよい。また、本願発明者が見いだしたところによれば、画像データ530aの全範囲を用いるよりも、小脳の上から頭頂葉までの範囲で相互相関係数を計算した方が、最終的なROIの決定に好影響を及ぼすことを見出した。しかし、相互相関係数を計算する範囲は小脳の上から頭頂葉までの範囲に限定されず、その他の範囲を用いても構わない。
【0060】
画像データ530bと陰性テンプレート150bとの相互相関係数も、同様にして計算することができる。
【0061】
ステップ612では、ステップ610で計算した2つの相互相関係数のうち、どちらの値が高かったかが判定される。そして、陽性テンプレート150a及び陰性テンプレート150bのうち、相互相関係数の値が高かった方のテンプレートに関して、ステップ608でなされた変換の逆変換を、ROIテンプレート150cに適用する。これによって、画像データ530に適用されるROIが決定される。
【0062】
すなわち、例えば、ステップ610で計算した2つの相互相関係数のうち、画像データ530aと陽性テンプレート150aとの間で計算した相互相関係数が高い場合は、ステップ612において、ステップ608で格納された変換データ540a及び540bのうち、画像データ530を陽性テンプレートに解剖学的標準化したときの変換データである変換データ540aが選択される。そして、この変換データ540aに基づいて、画像データ530を画像データ530aに解剖学的標準化したときの逆変換が求められる。そしてこの逆変換が、ROIテンプレート150cに適用される。
【0063】
逆に、例えば、ステップ610で計算した2つの相互相関係数のうち、画像データ530bと陰性テンプレート150bとの間で計算した相互相関係数が高い場合は、ステップ612において、画像データ530を陰性テンプレートに解剖学的標準化したときの変換データである変換データ540bが選択される。そして、この変換データ540bに基づいて、画像データ530を画像データ530bに解剖学的標準化したときの逆変換が求められる。そしてこの逆変換が、ROIテンプレート150cに適用される。
【0064】
この逆変換が適用されるため、ROIテンプレートの形状は、画像データ530中の脳形状に合致するように変形されている。従って、この変形されたROIテンプレートを用いれば、画像データ530を変形することなく、その上にROIを設定することができる。このように変形されたROIテンプレート150cを、ROI情報550として格納してもよい(ステップ614)。
【0065】
上記の処理で決定されたROIを、例示的なアミロイドイメージングPET画像の断面画像に重ね合わせたものの例を、図8に示した。黒の実線で囲まれている領域が、決定されたROIである。
【0066】
従来技術との比較のために、図9に、図8と同じ断面画像に、MRI及び解剖学的な脳地図を用いて設定したROIを重ねたものを示した。図9においても、黒の実線で囲まれている領域がROIである。上述の実施形態で設定された図8のROIと従来技術による図9のROIとを比べると、例えば視覚野付近でROIとして抽出されている領域が異なるなど、両者はかなり異なっている。また、従来技術による図9のROIは、頭皮または骨にもROIが設定されるなど、明らかにエラーと思われるROIも存在する。これらの相違は、上述の実施形態で設定されたROIが、実際の核医学画像を用いて決定されたROIであるのに対し、従来技術により設定されるROIは、解剖学的な知見により決定されたものに過ぎないことから生じたものであると考えられる。すなわち、従来技術により設定されるROIは、核医学的な所見が含まれていないために、上記のエラーが生じているものと考えられる。無論、核医学画像にROIを設定するにおいては、本願の実施形態で設定されたROIの方が好ましいのは言うまでもない。
【0067】
また、従来技術によるROIは、本願の実施形態で設定されたROIよりも必要以上に詳細な構造を有しており、ROI内の画像解析に多くの計算資源を必要とするだけでなく、部分容積効果も大きくならざるを得ないと思われる。このような不利益が生じるのは、従来技術によるROIが、核医学画像化装置による放射線の検出のされ方を考慮せずに設定されるからであると思われる。本願の実施形態で設定されるROIの方が、従来技術により設定されるものよりも好ましいと言える。
【0068】
以下はオプションの処理の説明となる。図6のステップ616では、ステップ612で設定したROIを、解析対象の画像データ530の任意の断面に重ねて表示してもよい。また、ステップ618では、設定したROIに基づいて何らかの解析を行ってもよい。例えば、ROI内の画素の画素値の積算値や平均値を算出し、表示・出力してもよい。画像データ530について、特定の基準領域(例えば小脳)のROI内の画素の画素値の平均値で画像データの各画素の画素値を割ることで、ROI内の平均SUVR値が算出し、さらに例えば、この値に基づいて、解析対象の画像データ530が作成された被検者に、ADが存在するか否かを自動的に判定してもよい。ステップ620は処理の終了を示す。
【0069】
本願の手法により設定されるROIによる、AD鑑別能をテストするため、AD,非AD合わせて34例のアミロイドイメージング画像について、本願の手法によりROIを設定し、ROI内の平均SUVRを算出した。結果を図10に示す。図10に示されるように、SUVRの閾値を1.7とすると、経験を積んだ医師の視覚評価と同等の精度で、AD画像(アルツハイマーを発症していると思われる被検者の画像)と非AD画像(アルツハイマーを発症していないと思われる被検者の画像)とを鑑別することができた。
【0070】
本願に開示される技術思想によれば、生体の画像検査のためのROIを、MRI画像なしに設定することが可能となるため、医療機関及び患者の両方にとって、負担の少ない検査が可能となる。また、解剖学的な情報ではなく機能的な情報に基づいてROIが設定されるため、特に機能検査においては従来技術により設定されるものよりも好適なROIを設定することが可能となる。更に、原画像上にROIを設定することが可能であるため、原画像の画素値を変更することなく解析を行うことが可能となる。本願に開示される技術思想は、様々な医療画像化装置に使用されることができ、また、画質や分解能にも影響を受けずに使用することができる。
【0071】
以上、好適な実施例を用いて本願発明を詳しく説明してきたが、上記の説明や添付図面は、本願発明の範囲を限定する意図で提示されたものではなく、むしろ、法の要請を満たすために提示されたものである。本願発明の実施形態には、ここで紹介されたもの以外にも、様々なバリエーションが存在する。例えば、明細書又は図面に示される各種の数値もいずれも例示であり、これらの数値は発明の範囲を限定する意図で提示されたものではない。 明細書又は図面に紹介した各種の実施例に含まれている個々の特徴は、その特徴が含まれることが直接記載されている実施例と共にしか使用できないものではなく、ここで説明された他の実施例や説明されていない各種の具現化例においても、組み合わせて使用可能である。特にフローチャートで紹介された処理の順番は、紹介された順番で実行しなければならないわけではなく、実施者の好みや必要性に応じて、順序を入れ替えたり並列的に同時実行したり、さらに複数のブロックを一体不可分に実装したり、適当なループとして実行したりするように実装してもよい。これらのバリエーションは、全て、本願で開示される発明の範囲に含まれるものであり、処理の実装形態によって発明の範囲が限定されることはない。請求項に特定される処理の記載順も、処理の必須の順番を特定しているわけではなく、例えば処理の順番が異なる実施形態や、ループを含んで処理が実行されるような実施形態なども、請求項に係る発明の範囲に含まれるものである。現在の特許請求の範囲で特許請求がなされているか否かに関わらず、出願人は、発明の思想を逸脱しない全ての形態について、特許を受ける権利を有することを主張するものであることを記しておく。
【符号の説明】
【0072】
100 システム
102 CPU
104 主記憶装置
106 補助記憶装置
107 ディスプレイ・インターフェース
108 周辺機器インタフェース
109 ネットワーク・インターフェース
120 陽性・陰性テンプレート作成プログラム
126 テンプレート作成プログラム
520 設定プログラム
530 生体画像データ
図1
図2
図3
図4A-4C】
図4D
図5
図6
図7
図8
図9
図10