(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6703389
(24)【登録日】2020年5月12日
(45)【発行日】2020年6月3日
(54)【発明の名称】成形品の製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 45/00 20060101AFI20200525BHJP
B29C 70/06 20060101ALI20200525BHJP
A43B 5/06 20060101ALI20200525BHJP
A43B 13/04 20060101ALI20200525BHJP
C08J 5/06 20060101ALI20200525BHJP
B29K 77/00 20060101ALN20200525BHJP
B29K 105/12 20060101ALN20200525BHJP
【FI】
B29C45/00
B29C70/06
A43B5/06
A43B13/04 A
C08J5/06CFG
B29K77:00
B29K105:12
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-206403(P2015-206403)
(22)【出願日】2015年10月20日
(65)【公開番号】特開2017-77340(P2017-77340A)
(43)【公開日】2017年4月27日
【審査請求日】2018年9月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】501041528
【氏名又は名称】ダイセルポリマー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087642
【弁理士】
【氏名又は名称】古谷 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100098408
【弁理士】
【氏名又は名称】義経 和昌
(72)【発明者】
【氏名】朝見 芳弘
(72)【発明者】
【氏名】横山 盛之
【審査官】
酒井 英夫
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭60−202154(JP,A)
【文献】
特開平01−241406(JP,A)
【文献】
国際公開第2014/007213(WO,A1)
【文献】
特開2003−293570(JP,A)
【文献】
特開昭53−106752(JP,A)
【文献】
特開平07−308205(JP,A)
【文献】
特開2011−105836(JP,A)
【文献】
国際公開第2014/050303(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 45/00,70/06,
C08J 5/06,
A43B 13/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミド樹脂組成物を射出成形する厚みが0.5〜2mmの成形品の製造方法であって、
前記ポリアミド樹脂組成物が、炭素繊維束に相対粘度1.4〜2.9のポリアミド樹脂が付着一体化されたものが長さ0.5〜25mmに切断されたポリアミド樹脂付着炭素繊維束を含むものであり、
前記ポリアミド樹脂組成物中の炭素繊維の含有割合が0.5〜8質量%であり、
前記成形品に含まれる炭素繊維長が0.5〜2.5mmであり、
前記成形品が靴を含む履き物の底部品である、成形品の製造方法。
【請求項2】
前記ポリアミド樹脂組成物が、炭素繊維束に相対粘度1.4〜2.9のポリアミド樹脂が付着一体化されたものが長さ0.5〜25mmに切断されたポリアミド樹脂付着炭素繊維束と、前記ポリアミド樹脂と同じポリアミド樹脂および/または前記ポリアミド樹脂と異なるポリアミド樹脂を含むものである、請求項1記載の成形品の製造方法。
【請求項3】
前記ポリアミド樹脂組成物中の炭素繊維の含有割合が0.5〜5質量%である、請求項1または2記載の成形品の製造方法。
【請求項4】
前記ポリアミド樹脂がポリアミド12を含むものである、請求項1〜3のいずれか1項記載の成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、屈曲疲労性が良く、靴などの履き物の底部品として適している成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ジョギングシューズなどのスポーツシューズなどの靴底は、製造時および実際に履いて使用するときにおいて、繰り返して屈曲されることから、屈曲に対する強度の目安である屈曲疲労性が良いことが求められる。
【0003】
特許文献1には、担持する靴底組成として合成樹脂から成るマトリックスとこの合成樹脂内に加工された繊維とから成り、かつ他の靴底体と溶接或いは化学的な結合により互いに結合されている少なくとも一つの繊維複合部が使用されている靴底(特にスポーツ靴のための靴底)の発明が記載されている。
しかし、特に屈曲疲労性を向上させるための手段は記載されていない。
【0004】
特許文献2には、履物類の底に使用できる、繊維強化層を有している履物用の複合材要素の発明が記載されており、前記繊維強化層は、履く人の特徴および使用目的に応じた所望の屈曲性を靴底に与えるように構成されていることが記載されている(段落番号0008)。
また、段落番号0040の冒頭には「複合材要素14の屈曲性に影響を与える別の要因は、各繊維強化層の構造および厚さである。いくつかの実施形態においては、各繊維強化層は、樹脂部材と繊維含有部材とを備える。」と記載されている。
しかし、繊維強化層の厚さについては具体的な記載はなく、さらに多数の樹脂と多数の繊維が例示されているが、具体的な組み合わせと効果の関係は記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−168503号公報
【特許文献2】特開2014−511143号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、剛性および屈曲疲労性が良く、繰り返して屈曲が加えられるような用途に適している成形品の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、ポリアミド樹脂組成物を射出成形する厚みが0.5〜2mmの成形品の製造方法であって、
前記ポリアミド樹脂組成物が、炭素繊維束に相対粘度1.4〜2.9のポリアミド樹脂が付着一体化されたものが長さ0.5〜25mmに切断されたポリアミド樹脂付着炭素繊維束を含むものであり、
前記ポリアミド樹脂組成物中の炭素繊維の含有割合が0.5〜8質量%であり、
前記成形品に含まれる炭素繊維長が0.5〜2.5mmである、成形品の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の製造方法で得られた成形品は、剛性が良いため、負荷に対する耐性が優れており、屈曲疲労性も良いため、製造時および使用時において繰り返して屈曲された場合でも、破損することがない。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<ポリアミド樹脂組成物>
ポリアミド樹脂組成物に含まれているポリアミド樹脂付着炭素繊維束は、炭素繊維が長さ方向に揃えて束ねられたものに、ポリアミド樹脂が付着一体化されたものが0.5〜25mmの長さに切断されたのである。
【0010】
ポリアミド樹脂付着炭素繊維束は、付着状態によって次の3つの形態に分けることができる。
(I)炭素繊維束の中心部までポリアミド樹脂が浸透され(含浸され)、炭素繊維束を構成する中心部の炭素繊維間にまでポリアミド樹脂が入り込んだ状態のもの(以下「ポリアミド樹脂含浸炭素繊維束」という)。
(II)炭素繊維束の表面のみがポリアミド樹脂で覆われた状態のもの(以下「ポリアミド樹脂表面被覆炭素繊維束」という)。
(III)それらの中間のもの(炭素繊維束の表面がポリアミド樹脂で覆われ、表面近傍のみにポリアミド樹脂が含浸され、中心部にまでポリアミド樹脂が入り込んでいないもの)(以下「ポリアミド樹脂一部含浸炭素繊維束」という)。
本発明では、(III)のポリアミド樹脂含浸炭素繊維束が好ましい。
(I)〜(III)の形態の樹脂付着繊維束は、特開2013−107979号公報に記載されている(但し、前記公報では、ポリアミド樹脂は使用されていない)。
【0011】
ポリアミド樹脂は、相対粘度1.4〜2.9のものであり、相対粘度1.4〜2.0のものが好ましい。
ポリアミド樹脂は脂肪族ポリアミドが好ましく、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド610、ポリアミド11、ポリアミド12などを使用することができるが、ポリアミド12が好ましい。
【0012】
炭素繊維束は、特開2014−181418号公報の実施例1〜4のサイジング剤塗布炭素繊維、特開2012−56980号公報に記載されたトウプリプレグ用エポキシ樹脂組成物に含有される炭素繊維、東レ(株)製の製品名「トレカT700SC−12000(T700SC−12K)」、東レ(株)製の製品名「トレカT700GC−12000(T700GC−12K)」などを使用することができる。
【0013】
ポリアミド樹脂付着炭素繊維束の長さは0.5〜25mmであり、好ましくは3.0〜20mmであり、より好ましくは5.0〜15mmである。
ポリアミド樹脂付着炭素繊維束の長さと炭素繊維の長さは同じである。
【0014】
ポリアミド樹脂組成物は、上記のポリアミド樹脂付着炭素繊維束のみからなるもののほか、上記のポリアミド樹脂付着炭素繊維束と別に混合したポリアミド樹脂を含む混合物からなるものを使用することができる。
ポリアミド樹脂組成物が混合物からなるものであるときは、ポリアミド樹脂付着炭素繊維束と別に混合したポリアミド樹脂は、同じものでもよいし、異なっているものでもよいが、相対粘度が1.6以上のものが好ましい。
【0015】
ポリアミド樹脂組成物中の炭素繊維の含有割合は0.5〜8質量%であり、好ましくは0.5〜5質量%であり、より好ましくは0.5〜3質量%であり、残部割合がポリアミド樹脂の含有割合である。
【0016】
ポリアミド樹脂組成物は、本発明の課題を解決できる範囲内にて、公知の他の成分、例えば、難燃剤、難燃助剤、熱安定剤、滑剤、光安定剤、酸化防止剤、着色剤、離型剤、帯電防止剤を含有することができる。
【0017】
<成形品の製造方法>
本発明の成形品の製造方法は、上記したポリアミド樹脂組成物を使用して、射出成形法を適用して製造することができる。
ポリアミド樹脂組成物に含まれるポリアミド樹脂付着炭素繊維束の長さ(即ち、炭素繊維の長さ)は0.5〜25mmであるが、射出成形機により溶融混練するときと、金型に射出成形するときに折れて短くなる。
このとき、炭素繊維が短いと折れにくくなり、長いと折れやすくなる。通常の1回の射出成形(例えば、実施例に記載のISO多目的試験片A型形状品の射出成形)の場合は、炭素繊維の長さが0.5mm程度であれば折れることはなく、炭素繊維の長さが25mmであれば2.5mm以下程度になり、0.5mmよりも短くなることはない。
【0018】
本発明の製造方法で得られる成形品は、厚さ0.1〜2mmであり、好ましくは厚さ0.5〜2mmである。
成形品の厚さが0.1〜2mmであると、剛性および疲労屈曲性を高めることができる。
【0019】
本発明の製造方法で得られる成形品は、曲げ弾性率(ISO178)が1600MPa以上であることが好ましく、より好ましくは1600〜3000MPa、さらに好ましくは1650〜3000MPaである。
前記曲げ弾性率は、成形品がポリアミド樹脂と炭素繊維のみからなる組成物からえられたものの数値である。
【実施例】
【0020】
実施例及び比較例で使用した成分は以下のとおりである。
(ポリアミド樹脂)
・PA−1:ポリアミド12、相対粘度1.6、商品名L1600(ダイセルエボニック(株)製)
・PA−2:ポリアミド12、相対粘度1.9、商品名L1940(ダイセルエボニック(株)製)
【0021】
(炭素繊維)
・CF−1:製品名「トレカT700SC−12000」(普通CF)、東レ(株)製、エポキシ化合物(収束剤)で被覆された炭素繊維ロービング
・CF−2:製品名「トレカT700GC−12000」(高強度CF)、東レ(株)製、エポキシ化合物(収束剤)で被覆された炭素繊維ロービング
・CF−3:CFチョップドストランド、短繊維6mm、HTC413、東邦テナックス(株)製
【0022】
<相対粘度>
温度25℃、96質量%硫酸中にPA12を1g/100mlの濃度で溶解させて測定する。
【0023】
<試験片作製方法>
下記条件にてISO多目的試験片A型形状品(厚み2mm)を作製した。
装置:(株)日本製鋼所製、J−150EII
シリンダー温度280℃
金型温度:100℃
スクリュー:長繊維専用スクリュー
スクリュー径:51mm
ゲート形状:20mm幅サイドゲート
射出圧力:55〜80%
射出時間:1.0〜1.5sec
保持圧力:40%
保持時間:10sec
背圧:10%
【0024】
<繊維長(重量平均繊維長)>
上記試験片から約3gの試料を切出し、硫酸により樹脂を溶解して炭素繊維を取り出した。取り出した繊維の一部(500本)から重量平均繊維長を求めた。計算式は、特開2006−274061号公報の段落0044、0045に記載のものを使用した。
【0025】
<引張強度(MPa)>
ISO527に準拠して測定した。
<曲げ強度(MPa)>
ISO178に準拠して測定した。
<曲げ弾性率(MPa)>
ISO178に準拠して測定した。
【0026】
<屈曲疲労性>
ISOダンベル形試験片を射出成形した後、両端を切断してストレート部分(幅10mm、厚み2mm)を試験片として試験機(ロスフレキシングテスター:(株)安田精機製作所)に取り付けた。
その後、下記条件で試験をして、前記試験片(10×2mm)が破損しなかった場合を〇、破損した場合を×とした。
角度:90°
試験槽温度:−3℃
試験速度:103回/分
繰返回数:5万回
【0027】
製造例1(ポリアミド樹脂含浸炭素繊維束の製造)
実施例1〜3および比較例2、3で使用したポリアミド樹脂含浸炭素繊維束1、2は、次の方法で製造した。
表1に示す炭素繊維束をクロスヘッドダイに通した。そのとき、クロスヘッドダイには、2軸押出機(シリンダー温度280℃)から溶融状態の表1に示すPA12を表1に示す量供給し、その溶融物を炭素繊維ロービング(CF−1またはCF−2)に含浸させた。
その後、クロスヘッドダイ出口の賦形ノズルで賦形し、整形ロールで形を整えた後、ペレタイザーにより長さ9mmに切断し、円柱状のポリアミド12含浸繊維束を得た。
円柱状のポリアミド12含浸繊維束を長さ方向に切断して確認したところ、炭素繊維が長さ方向にほぼ平行になっていた。
【0028】
製造例2(比較用CF−3含有樹脂ペレット)
PA−1の80質量%とCF−3の20質量%をタンブラーブレンダーにて混合後、押出機(250℃)で溶融混練してCF−3含有樹脂ペレットを得た。
【0029】
【表1】
【0030】
実施例1〜3、比較例1〜4
表2に示す成分を混合して組成物を得た。
得られた各組成物を使用して、上記した各測定を実施した。結果を表2、表3に示す。
【0031】
【表2】
【0032】
実施例1〜3は、剛性(引張強度、曲げ強度、曲げ弾性率)が優れており、軽く、屈曲疲労性も優れていた。このため、靴底、特に瞬間的に大きな負荷が繰り返してかかるようなスポーツシューズの靴底部品として適している。
比較例1は、炭素繊維を含んでいないため、剛性が劣っていた。
比較例2、3は、炭素繊維の含有量が多いため、剛性は高いが、屈曲疲労性が悪かった。
比較例4は、炭素繊維として短繊維を使用したものであるため、曲げ弾性率が低くなっていた。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明の製造方法により得られた成形品は、製造時および使用時に屈曲されるような用途に適しており、例えば、各種靴、特にジョギングシューズ、ウォーキングシューズなどのスポーツシューズ、その他、サンダル、スリッパ、草履などの履き物の底部品として適している。
特に本発明の製造方法により得られた成形品は、スポーツシューズにおける革靴の中物に相当するミッドソール、踵を構成するウエッジソール、靴の底面全体を被い接地性を高め、磨耗を防ぐアウトソールのそれぞれの全部または一部として適している。