特許第6703411号(P6703411)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6703411
(24)【登録日】2020年5月12日
(45)【発行日】2020年6月3日
(54)【発明の名称】アクリル系樹脂フィルム
(51)【国際特許分類】
   C08L 33/04 20060101AFI20200525BHJP
   C08L 51/06 20060101ALI20200525BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20200525BHJP
【FI】
   C08L33/04
   C08L51/06
   C08J5/18CEY
【請求項の数】7
【全頁数】32
(21)【出願番号】特願2016-19344(P2016-19344)
(22)【出願日】2016年2月3日
(65)【公開番号】特開2017-137417(P2017-137417A)
(43)【公開日】2017年8月10日
【審査請求日】2018年12月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山田 浩嗣
(72)【発明者】
【氏名】北山 史延
(72)【発明者】
【氏名】上田 博紀
(72)【発明者】
【氏名】小山 治規
(72)【発明者】
【氏名】中谷 耕太
【審査官】 中村 英司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−059048(JP,A)
【文献】 特開2002−060439(JP,A)
【文献】 特開平04−185663(JP,A)
【文献】 特公昭48−023336(JP,B1)
【文献】 特開昭57−147539(JP,A)
【文献】 米国特許第04508875(US,A)
【文献】 特開2009−030001(JP,A)
【文献】 特開平03−174421(JP,A)
【文献】 特開2007−254726(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0168340(US,A1)
【文献】 特開2015−214713(JP,A)
【文献】 韓国公開特許第10−2015−0139906(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F265/00
C08L 33/04
C08L 51/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス転移温度が115℃以上のアクリル系樹脂、および、グラフト共重合体を含む樹脂組成物を成形して得られるアクリル系樹脂フィルムであって、
前記ガラス転移温度が115℃以上のアクリル系樹脂が40〜98重量部、グラフト共重合体が2〜60重量部(前記ガラス転移温度が115℃以上のアクリル系樹脂および前記グラフト共重合体の合計100重量部)含まれ、
前記ガラス転移温度が115℃以上のアクリル系樹脂が、グルタルイミドアクリル系樹脂、共重合成分としてN−置換マレイミド化合物が共重合されているアクリル系樹脂、環状酸無水物構造単位を含有するアクリル系重合体、ならびに、水酸基および/またはカルボキシル基を含有するアクリル系重合体からなる群から選択される少なくとも一種を含むアクリル系樹脂であり、
前記ガラス転移温度が、示差走査熱量分析装置を用い、試料を200℃まで25℃/分の速度で昇温した後10分間ホールドし、25℃/分の速度で50℃まで温度を下げる予備調整を経て、10℃/分の昇温速度で200℃まで昇温する間の測定を行い、得られたDSC曲線から積分値を求め、その極大点から求めたものであり、
前記グラフト共重合体が、
(I)メタクリル酸アルキルエステル40〜99.99重量%、これと共重合可能な二重結合を有する他の単量体0〜59.99重量%、および、多官能性単量体0.01〜10重量%からなる単量体成分を構成単位に有する硬質重合体(I)の少なくとも一部を、
(II)アクリル酸アルキルエステル60〜99.9重量%、これと共重合可能な二重結合を有する他の単量体0〜39.9重量%、および、多官能性単量体0.1〜5重量%からなる単量体成分を構成単位に有する軟質重合体(II)が被覆し、
(III)メタクリル酸アルキルエステル60〜97.5重量%、シアン化ビニル系単量体2.5〜20重量%、これと共重合可能な二重結合を有する他の単量体0〜37.5重量%、および、多官能性単量体0〜10重量%からなる単量体成分を構成単位に有する硬質重合体(III)が前記硬質重合体(I)および/または軟質重合体(II)にグラフト結合している構造を有する、
アクリル系樹脂フィルム。
【請求項2】
前記硬質重合体(III)が、メタクリル酸アルキルエステル60〜97.5重量%、シアン化ビニル系単量体2.5〜20重量%、アクリル酸アルキルエステル0〜37.5重量%、および、多官能性単量体0〜10重量%からなる単量体成分を構成単位に有する、請求項1に記載のアクリル系樹脂フィルム。
【請求項3】
前記グラフト共重合体が、さらに、
(IV)メタクリル酸アルキルエステル40〜97.5重量%、アクリル酸アルキルエステル0〜57.5重量%、シアン化ビニル系単量体2.5〜20重量%、共重合可能な二重結合を有する他の単量体0〜20重量%、および、多官能性単量体0〜10重量%からなる単量体成分を構成単位に有する硬質重合体(IV)が、前記硬質重合体(I)および/または前記軟質重合体(II)および/または前記硬質重合体(III)にグラフト結合している構造を有する、
請求項1又は2に記載のアクリル系樹脂フィルム。
【請求項4】
前記グラフト共重合体は、前記硬質重合体(III)が、メタクリル酸アルキルエステル60〜97.5重量%、シアン化ビニル系単量体2.5〜20重量%、アクリル酸アルキルエステル0〜37.5重量%、および、多官能性単量体0〜10重量%からなる単量体成分を構成単位に有する硬質重合体であり、前記硬質重合体(IV)がメタクリル酸アルキルエステル40〜97.5重量%、シアン化ビニル系単量体2.5〜20重量%、アクリル酸アルキルエステル0〜57.5重量%、および、多官能性単量体0〜10重量%からなる単量体成分を構成単位に有する硬質重合体である、請求項に記載のアクリル系樹脂フィルム。
【請求項5】
前記アクリル系樹脂フィルムが光学用フィルムである、請求項1〜のいずれか一項に記載のアクリル系樹脂フィルム。
【請求項6】
前記アクリル系樹脂フィルムの厚みが10〜500μmである、請求項1〜のいずれか一項に記載のアクリル系樹脂フィルム。
【請求項7】
ガラス転移温度が115℃以上のアクリル系樹脂、および、グラフト共重合体を含む樹脂組成物を成形してアクリル系樹脂フィルムを製造する方法において、
前記ガラス転移温度が115℃以上のアクリル系樹脂が40〜98重量部、グラフト共重合体が2〜60重量部(前記ガラス転移温度が115℃以上のアクリル系樹脂および前記グラフト共重合体の合計100重量部)含まれ、
前記ガラス転移温度が115℃以上のアクリル系樹脂が、グルタルイミドアクリル系樹脂、共重合成分としてN−置換マレイミド化合物が共重合されているアクリル系樹脂、環状酸無水物構造単位を含有するアクリル系重合体、ならびに、水酸基および/またはカルボキシル基を含有するアクリル系重合体からなる群から選択される少なくとも一種を含むアクリル系樹脂であり、
前記ガラス転移温度が、示差走査熱量分析装置を用い、試料を200℃まで25℃/分の速度で昇温した後10分間ホールドし、25℃/分の速度で50℃まで温度を下げる予備調整を経て、10℃/分の昇温速度で200℃まで昇温する間の測定を行い、得られたDSC曲線から積分値を求め、その極大点から求めたものであり、
(I)メタクリル酸アルキルエステル40〜99.99重量%、これと共重合可能な二重結合を有する他の単量体0〜59.99重量%、および、多官能性単量体0.01〜10重量%からなる単量体成分を構成単位に有する硬質重合体(I)を形成し、
(II)前記硬質重合体(I)の存在下において、アクリル酸アルキルエステル60〜99.9重量%、これと共重合可能な二重結合を有する他の単量体0〜39.9重量%、および、多官能性単量体0.1〜5重量%からなる単量体成分を構成単位に有する軟質重合体(II)を形成し、
(III)前記軟質重合体(II)の存在下において、メタクリル酸アルキルエステル60〜97.5重量%、シアン化ビニル系単量体2.5〜20重量%、これと共重合可能な二重結合を有する他の単量体0〜37.5重量%、および、多官能性単量体0〜10重量%からなる単量体成分を構成単位に有する硬質重合体(III)を形成して、前記グラフト共重合体を得る、
アクリル系樹脂フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアクリル系樹脂フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
アクリル系樹脂フィルムは、優れた透明性、外観、耐候性を有するため、自動車内外装材、携帯電話やスマートフォンなどの電化製品の外装材、建築床材などの建材用内外装材など各種用途に使用されている。中でも、近年、アクリル系樹脂の優れた光学特性を生かし、液晶表示装置や有機EL表示装置等の光学部材に適用されている。また、車載用途など、特に耐熱性が要求される用途に対しては、種々の環化反応によって得られる変性構造単位を有した耐熱性の高いアクリル樹脂が用いられてきている。
【0003】
しかし、これらのアクリル系樹脂は耐衝撃性に劣るため、アクリル系樹脂を成形して得られるフィルムやシートは機械的強度が充分ではないため実用性に欠ける。そのため、アクリル系樹脂にゴム層を有するグラフト共重合体を導入することにより、フィルムの機械的強度を向上させることが一般的に行われている。
【0004】
例えば、特許文献1では、グルタル酸無水物単位を有するアクリル系樹脂に硬質層−軟質層−硬質層の三層構造よりなるゴム含有重合体粒子を配合することにより、優れたトリミング性を有し、かつ高い透明性を有する光学材料成形体を製造することが開示されている。また、特許文献2では、無水マレイン酸単量体単位またはマレイミド単量体単位を有するアクリル系樹脂に硬質層―軟質層―硬質層の順に形成された3層構造以上のゴム質含有粒子を配合し、優れた靭性と高い透明性を有する光学フィルムを製造することが開示されている。
【0005】
一方、これら光学部材に使用されるアクリル系樹脂フィルムには、高い外観性が求められることから、フィルム欠陥の原因となる環境異物や、樹脂製造工程で副生する樹脂状異物を溶融押出等の加工工程で除去するため、例えば、特許文献3のように、ポリマーフィルターなる濾過設備で取り除くことが一般的に行われている。
【0006】
ところが、フィルム原料となる樹脂組成物に上記のようなグラフト共重合体が含まれている場合、グラフト共重合体と基材樹脂との相溶性が充分でない場合には、ポリマーフィルターの滞留部において、グラフト共重合体粒子が凝集物を形成し、これら凝集物がフィルターを閉塞してフィルターライフを短くするばかりか、閉塞に伴う昇圧によって凝集物がフィルターを通り抜け、フィルム欠陥の原因となる場合もある。
【0007】
グラフト共重合体と基材樹脂との相溶性を向上させる手法としては、グラフト共重合体(コア・シェル構造)の最外層、いわゆるシェル部に基材樹脂と相溶する組成を有するグラフト共重合体を用いる手法が一般的である。例えば、特許文献4のように、シェル部にシアン化ビニル系単量体と芳香族ビニル系単量体の構造単位を含む有機微粒子を、ラクトン環構造を有するアクリル系樹脂に添加することで、相溶性を改良し、可撓性に優れるフィルムを得る技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−30001号公報
【特許文献2】特開2012−52023号公報
【特許文献3】特開2007−254727号公報
【特許文献4】特開2007−254726号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、上記特許文献4では、凝集異物に起因したフィルム欠陥を、より高度なレベルで改良しようとした場合には、相溶性の改良がいまだ充分ではない。実用的な改良手法としては、コア・シェル粒子のシェル部に該当する最外層の量を増量、すなわち、相溶性の劣るゴム状の軟質重合体層が基材樹脂に露出しないよう、硬質の重合体層で被覆する手法が一般的に用いられる。しかし、本手法は相溶性の改良効果が高い反面、多段構造グラフト共重合体に占める軟質重合体層の比率も低下することから、フィルム強度が低下するなど、品質面でのバランス維持に課題がある。
【0010】
さらに、多段構造グラフト共重合体を含むアクリル系樹脂組成物を溶融押出法によりフィルム化する場合、成形温度を高くした場合や、多段構造グラフト共重合体をポリマーフィルターを用いて成形する場合には、フィルター滞留部で熱分解した分解ガス、ブリードアウト物がキャストロールを汚染したり、これら熱分解物がダイスやロール表面に付着することにより(目ヤニとも呼ぶ)、得られるアクリル系樹脂フィルムにダイライン、凹み欠陥などの外観不良が発生する課題もあった。
【0011】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、基材樹脂への相溶性、および、熱安定性を改良した多段構造グラフト共重合体を開発し、強度、ならびに外観性に優れるアクリル系樹脂フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明者らが鋭意検討した結果、特定量のシアン化ビニル系単量体を最外層重合体に含有した多段構造グラフト共重合体と、アクリル系樹脂を成形して得られるアクリル系樹脂フィルムにおいて、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0013】
すなわち、本発明は、ガラス転移温度が115℃以上のアクリル系樹脂、および、多段構造グラフト共重合体を含む樹脂組成物を成形して得られるアクリル系樹脂フィルムであって、前記多段構造グラフト共重合体が、
(I)メタクリル酸アルキルエステル40〜99.99重量%、これと共重合可能な二重結合を有する他の単量体0〜59.99重量%、および、多官能性単量体0.01〜10重量%からなる単量体成分を構成単位に有する硬質重合体(I)の少なくとも一部を、
(II)アクリル酸アルキルエステル60〜99.9重量%、これと共重合可能な二重結合を有する他の単量体0〜39.9重量%、および、多官能性単量体0.1〜5重量%からなる単量体成分を構成単位に有する軟質重合体(II)が被覆し、
(III)メタクリル酸アルキルエステル60〜97.5重量%、シアン化ビニル系単量体2.5〜20重量%、これと共重合可能な二重結合を有する他の単量体0〜37.5重量%、および、多官能性単量体0〜10重量%からなる単量体成分を構成単位に有する硬質重合体(III)が前記硬質重合体(I)および/または軟質重合体(II)にグラフト結合している構造を有する、
アクリル系樹脂フィルムに関する。
【0014】
本発明にかかるアクリル系樹脂フィルムは、前記多段構造グラフト共重合体が、(III)メタクリル酸アルキルエステル60〜97.5重量%、シアン化ビニル系単量体2.5〜20重量%、アクリル酸アルキルエステル0〜37.5重量%、および、多官能性単量体0〜10重量%からなる単量体成分を構成単位に有する硬質重合体(III)が前記硬質重合体(I)および/または軟質重合体(II)にグラフト結合している構造を有していることが好ましい。
【0015】
本発明にかかるアクリル系樹脂フィルムは、前記アクリル系樹脂が、グルタルイミドアクリル系樹脂、共重合成分としてN−置換マレイミド化合物が共重合されているアクリル系樹脂、環状酸無水物構造単位を含有するアクリル系重合体、ならびに、水酸基および/またはカルボキシル基を含有するアクリル系重合体からなる群から選択される少なくとも一種を含むアクリル系樹脂であることが好ましい。
【0016】
本発明にかかるアクリル系樹脂フィルムは、前記多段構造グラフト共重合体が、
(IV)メタクリル酸アルキルエステル40〜97.5重量%、アクリル酸アルキルエステル0〜57.5重量%、、シアン化ビニル系単量体2.5〜20重量%、共重合可能な二重結合を有する他の単量体0〜20重量%、および、多官能性単量体0〜10重量%からなる単量体成分を構成単位に有する硬質重合体(IV)が、前記硬質重合体(I)および/または前記軟質重合体(II)および/または前記硬質重合体(III)にグラフト結合している構造を有していることが好ましい。
【0017】
本発明にかかるアクリル系樹脂フィルムは、前記多段構造グラフト共重合体の硬質重合体(III)、および(IV)が、(III)メタクリル酸アルキルエステル60〜97.5重量%、シアン化ビニル系単量体2.5〜20重量%、アクリル酸アルキルエステル0〜37.5重量%、および、多官能性単量体0〜10重量%からなる単量体成分を構成単位に有する硬質重合体、(IV)メタクリル酸アルキルエステル40〜97.5重量%、シアン化ビニル系単量体2.5〜20重量%、アクリル酸アルキルエステル0〜57.5重量%、および、多官能性単量体0〜10重量%からなる単量体成分を構成単位に有する硬質重合体であることが好ましい。
【0018】
本発明にかかるアクリル系樹脂フィルムは、前記アクリル系樹脂が40〜98重量部、多段構造グラフト共重合体が2〜60重量部(アクリル系樹脂および多段構造グラフト共重合体の合計100重量部)含まれることが好ましい。
【0019】
本発明にかかるアクリル系樹脂フィルムは、光学用フィルムであることが好ましい。
【0020】
本発明にかかるアクリル系樹脂フィルムは、厚みが10〜500μmであることが好ましい。
【0021】
本発明のアクリル系樹脂フィルムの製造方法は、ガラス転移温度が115℃以上のアクリル系樹脂、および、グラフト共重合体を含む樹脂組成物を成形してアクリル系樹脂フィルムを製造する方法において、
前記グラフト共重合体が、
(I)メタクリル酸アルキルエステル40〜99.99重量%、これと共重合可能な二重結合を有する他の単量体0〜59.99重量%、および、多官能性単量体0.01〜10重量%からなる単量体成分を構成単位に有する硬質重合体(I)を形成し、
(II)前記硬質重合体(I)の存在下において、アクリル酸アルキルエステル60〜99.9重量%、これと共重合可能な二重結合を有する他の単量体0〜39.9重量%、および、多官能性単量体0.1〜5重量%からなる単量体成分を構成単位に有する軟質重合体(II)を形成し、
(III)前記軟質重合体(II)の存在下において、メタクリル酸アルキルエステル60〜97.5重量%、シアン化ビニル系単量体2.5〜20重量%、これと共重合可能な二重結合を有する他の単量体0〜37.5重量%、および、多官能性単量体0〜10重量%からなる単量体成分を構成単位に有する硬質重合体(III)を形成して得られる。
【発明の効果】
【0022】
本発明のアクリル系樹脂フィルムは、基材樹脂となるアクリル系樹脂への相溶性、および、熱安定性を改良した多段構造グラフト共重合体を用いるため、ポリマーフィルターを用いた溶融押出成形を行った場合でも、フィルター滞留部で多段構造グラフト共重合体由来の凝集物が形成されることがなく、異物の少ない外観性に優れたアクリル系樹脂フィルムを得ることができる。また、成形時のロール汚染などの生産トラブル、ダイラインや凹み欠陥などのフィルム外観不良の発生も抑制できる。本発明のアクリル系樹脂フィルムは、フィルム強度に優れ、光学特性にも優れることから、光学フィルムに好適である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明のアクリル系樹脂フィルムは、ガラス転移温度115℃以上のアクリル系樹脂、および、多段構造グラフト共重合体を含む樹脂組成物(以下、「本発明の樹脂組成物」と称することがある。)を成形して得られる。
【0024】
(アクリル系樹脂)
本発明の樹脂組成物に使用されるアクリル系樹脂は、ガラス転移温度が115℃以上であり、118℃以上がより好ましく、120℃以上がさらに好ましく、125℃以上が最も好ましい。
【0025】
アクリル系樹脂は、(メタ)アクリル酸エステルを含むビニル系単量体を構成単位とする樹脂であればよく、公知のアクリル系樹脂を使用できる。メタクリル酸エステル由来の構造単位を主として含むものが好ましく、熱安定性の観点から、構成単位としてメタクリル酸メチル30〜100重量%、および、これと共重合可能なビニル系単量体70〜0重量%含有するアクリル系樹脂がより好ましい。
【0026】
メタクリル酸メチルと共重合可能な他のビニル系単量体としては、例えばアルキル残基の炭素数1〜10である(メタ)アクリル酸エステル(ただしメタクリル酸メチルを除く)が好ましい。メタクリル酸メチルと共重合可能な他のビニル系単量体としては、具体的には、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸オクチル、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸エポキシシクロヘキシルメチル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸ジシクロペンタニル、2,2,2−トリフルオロエチルメタクリレート、2,2,2−トリクロロエチルメタクリレート、メタクリル酸イソボロニル、メタクリルアミド、N−メチロ−ルメタクリルアミド等のメタクリル酸エステル類;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸オクチル、アクリル酸グリシジル、アクリル酸エポキシシクロヘキシルメチル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、アクリルアミド、N−メチロ−ルアクリルアミド等のアクリル酸エステル類;メタクリル酸、アクリル酸などのカルボン酸類およびその塩;アクリロニトニル、メタクリロニトリルなどのビニルシアン類;スチレン、α−メチルスチレン、モノクロロスチレン、ジクロロスチレン等のビニルアレーン類;N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、N−メチルマレイミド等のマレイミド類;マレイン酸、フマール酸およびそれらのエステル等;塩化ビニル、臭化ビニル、クロロプレンなどのハロゲン化ビニル類;蟻酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル;エチレン、プロピレン、ブチレン、ブタジエン、イソブチレンなどのアルケン類;ハロゲン化アルケン類;これらのビニル系単量体は単独でまたは2種類以上を併用して使用することができる。
【0027】
光学特性、外観性、耐候性および耐熱性の観点から、アクリル系樹脂には、構造単位としてメタクリル酸メチルが好ましくは30〜100重量%、より好ましくは50〜99.9重量%、さらに好ましくは50〜98重量%含有され、メタクリル酸メチルと共重合可能なモノマーは、好ましくは70〜0重量%、より好ましくは50〜0.1重量%、さらに好ましくは50〜2重量%含有される。
【0028】
耐熱性の向上、および、低複屈折化の観点から、アクリル系樹脂は、グルタルイミドアクリル系樹脂、共重合成分としてN−置換マレイミド化合物が共重合されているアクリル系樹脂、無水グルタル酸、無水マレイン酸、ラクトン環等の環状酸無水物構造単位を含有するアクリル系重合体などの環構造を主鎖に有したアクリル系樹脂、水酸基および/またはカルボキシル基を含有するアクリル系樹脂、メタクリル系樹脂、スチレン単量体およびそれと共重合可能な他の単量体を重合して得られるスチレン含有アクリル系重合体の芳香族環を部分水素添加して得られる部分水添スチレン含有アクリル系重合体が好ましい。これらの中でも、アクリル系樹脂フィルムの耐熱性が向上する点から、ラクトン環含有アクリル系樹脂、マレイミドアクリル系樹脂、グルタルイミドアクリル系樹脂、グルタル酸無水物構造含有アクリル系樹脂、および、マレイン酸無水物構造含有アクリル系樹脂が好ましく、中でも、光学特性にも優れる点から、グルタルイミドアクリル系樹脂が特に好ましい。
【0029】
ラクトン環含有アクリル系樹脂としては特開2004−168882号、特開2006−171464号などの各公報に記載のものが挙げられ、マレイミドアクリル系樹脂としては特開2007−31537号に示されるようなN-置換マレイミド単位を有するアクリル系樹脂が例示され、マレイン酸無水物構造含有アクリル系樹脂としてはWO2009/84541、特開平5−119217等の公報に記載のものが挙げられ、グルタル酸無水物構造含有アクリル系樹脂としては特開2004−70296号、特開2004−307834、特開2008−74918号、WO2007/26659等に記載のものが例示される。
【0030】
グルタルイミドアクリル系樹脂としては、グルタルイミド構造を有するアクリル系樹脂であればよく、下記一般式(1)で表される単位と、下記一般式(2)で表される単位とを有する樹脂が挙げられる。
【0031】
【化1】
【0032】
上記一般式(1)中、RおよびRは、それぞれ独立して、水素または炭素数1〜8のアルキル基であり、Rは、水素、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、または、芳香環を含む炭素数5〜15の置換基である。上記一般式(1)で表される単位を、以下、「グルタルイミド単位」ともいう。
【0033】
上記一般式(1)において、好ましくは、RおよびRはそれぞれ独立して水素またはメチル基であり、Rは、水素、メチル基、ブチル基、シクロヘキシル基であり、より好ましくは、Rはメチル基であり、Rは水素であり、Rはメチル基である。
【0034】
グルタルイミドアクリル系樹脂は、グルタルイミド単位として、単一の種類のみを含んでいてもよいし、上記一般式(1)におけるR、R、およびRのいずれか又は全てが異なる複数の種類を含んでいてもよい。
【0035】
グルタルイミド単位は、下記一般式(2)で表される(メタ)アクリル酸エステル単位をイミド化することにより形成することができる。また、無水マレイン酸等の酸無水物、当該酸無水物と炭素数1〜20の直鎖または分岐のアルコールとのハーフエステル、または、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸(例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、クロトン酸、フマル酸、シトラコン酸)をイミド化することによっても、上記グルタルイミド単位を形成することができる。
【0036】
グルタルイミドアクリル系樹脂において、グルタルイミド単位の含有量は特に限定されず、例えば、Rの構造等を考慮して適宜決定することができる。しかしながら、グルタルイミド単位の含有量は、グルタルイミドアクリル系樹脂全量のうち1.0重量%以上が好ましく、3.0重量%〜90重量%がより好ましく、5.0重量%〜60重量%がさらに好ましい。グルタルイミド単位の含有量が上記範囲より少ないと、得られるグルタルイミドアクリル系樹脂の耐熱性が不足したり、透明性が損なわれたりする傾向がある。逆に上記範囲よりも多いと、不必要に耐熱性および溶融粘度が高くなり、成形加工性が悪くなったり、フィルム加工時の機械的強度が極端に低くなったり、透明性が損なわれたりする傾向がある。
【0037】
グルタルイミド単位の含有量は以下の方法により算出される。
【0038】
H−NMR BRUKER AvanceIII(400MHz)を用いて、樹脂のH−NMR測定を行い、樹脂中のグルタルイミド単位またはエステル単位などの各モノマー単位それぞれの含有量(mol%)を求め、当該含有量(mol%)を、各モノマー単位の分子量を使用して含有量(重量%)に換算する。
【0039】
例えば、上記一般式(1)においてRがメチル基であるグルタルイミド単位とメチルメタクリレート単位からなる樹脂の場合、3.5から3.8ppm付近に現れるメタクリル酸メチルのO−CHプロトン由来のピークの面積aと、3.0から3.3ppm付近に現れるグルタルイミドのN−CHプロトン由来のピークの面積bから、以下の計算式によりグルタルイミド単位の含有量(重量%)を求めることができる。
[メチルメタクリレート単位の含有量A(mol%)]=100×a/(a+b)
[グルタルイミド単位の含有量B(mol%)]=100×b/(a+b)
[グルタルイミド単位の含有量(重量%)]=100×(b×(グルタルイミド単位の分子量))/(a×(メチルメタクリレート単位の分子量)+b×(グルタルイミド単位の分子量))
なお、モノマー単位として上記以外の単位を含む場合においても、樹脂中の各モノマー単位の含有量(mol%)と分子量から、同様にグルタルイミド単位の含有量(重量%)を求めることができる。
【0040】
本発明のアクリル系樹脂フィルムを例えば光学フィルム用途に使用する場合、グルタルイミド単位の含有量は、複屈折を抑制しやすいため20重量%以下が好ましく、15重量%以下がより好ましく、10重量%以下がさらに好ましい。
【0041】
【化2】
【0042】
上記一般式(2)中、RおよびRは、それぞれ独立して、水素または炭素数1〜8のアルキル基であり、Rは、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、または芳香環を含む炭素数5〜15の置換基である。上記一般式(2)で表される単位を、以下、「(メタ)アクリル酸エステル単位」ともいう。なお、本願において「(メタ)アクリル」とは、「メタクリルまたはアクリル」を指すものとする。
【0043】
上記一般式(2)において、好ましくは、RおよびRはそれぞれ独立して水素またはメチル基であり、Rは水素またはメチル基であり、より好ましくは、Rは水素であり、Rはメチル基であり、Rはメチル基である。
【0044】
グルタルイミドアクリル系樹脂は、(メタ)アクリル酸エステル単位として、単一の種類のみを含んでいてもよいし、上記一般式(2)におけるR、RおよびRのいずれか又は全てが異なる複数の種類を含んでいてもよい。
【0045】
グルタルイミドアクリル系樹脂は、必要に応じて、下記一般式(3)で表される単位(以下、「芳香族ビニル単位」ともいう)をさらに含んでいてもよい。
【0046】
【化3】
【0047】
上記一般式(3)中、Rは、水素または炭素数1〜8のアルキル基であり、Rは、炭素数6〜10のアリール基である。
【0048】
上記一般式(3)で表される芳香族ビニル単位としては特に限定されないが、スチレン単位、α−メチルスチレン単位が挙げられ、スチレン単位が好ましい。
【0049】
グルタルイミドアクリル系樹脂は、芳香族ビニル単位として、単一の種類のみを含んでいてもよいし、RおよびRのいずれか又は双方が異なる複数の単位を含んでいてもよい。
【0050】
グルタルイミドアクリル系樹脂において、芳香族ビニル単位の含有量は特に限定されないが、グルタルイミドアクリル系樹脂全量のうち0〜50重量%が好ましく、0〜20重量%がより好ましく、0〜15重量%が特に好ましい。芳香族ビニル単位の含有量が上記範囲より多いと、グルタルイミドアクリル系樹脂の十分な耐熱性を得ることができない。
【0051】
ただし、耐折り曲げ性および透明性の向上、フィッシュアイの低減、さらに耐溶剤性または耐候性の向上といった観点から、グルタルイミドアクリル系樹脂は芳香族ビニル単位を含まないことが好ましいことがある。
【0052】
グルタルイミドアクリル系樹脂には、必要に応じ、グルタルイミド単位、(メタ)アクリル酸エステル単位、および芳香族ビニル単位以外のその他の単位がさらに含まれていてもよい。
【0053】
その他の単位としては、例えば、アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド系単位、グルタル無水物単位、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル系単位等が挙げられる。
【0054】
これらのその他の単位は、その単位を構成する単量体を、グルタルイミドアクリル系樹脂及び/又は、グルタルイミドアクリル系樹脂を製造する際の原料となる樹脂に対し共重合することで導入したものでもよい。また、前記のイミド化反応を行う際に、これらその他の単位が副生してグルタルイミドアクリル系樹脂に含まれることとなったものでもよい。
【0055】
グルタルイミドアクリル系樹脂の重量平均分子量は特に限定されないが、1×10〜5×10の範囲にあることが好ましい。上記範囲内であれば、成形加工性が低下したり、フィルム加工時の機械的強度が不足したりすることがない。一方、重量平均分子量が上記範囲よりも小さいと、フィルムにした場合の機械的強度が不足する傾向がある。また、上記範囲よりも大きいと、溶融押出時の粘度が高く、成形加工性が低下し、成形品の生産性が低下する傾向がある。
【0056】
グルタルイミドアクリル系樹脂は、(メタ)アクリル酸エステル系樹脂にイミド化剤を反応させることよってイミド反応を行うことで得られ、特開2005−23272号公報、特開2010−26102号公報、特開2011−138119号公報等に記載の製法により得られる。
【0057】
グルタルイミドアクリル系樹脂の酸価は特に限定されないが、0.50mmol/g以下であることが好ましく、0.45mmol/g以下であることがより好ましい。下限は特に制限されないが、0mmol/g以上が好ましく、0.05mmol/g以上が好ましく、0.10mmol/g以上が特に好ましい。酸価が上記範囲内であれば、耐熱性、機械物性、および成形加工性のバランスに優れたグルタルイミドアクリル系樹脂を得ることができる。一方、酸価が上記範囲より大きいと、フィルム成形のための溶融押出時に樹脂の発泡が起こりやすくなり、成形加工性が低下し、成形品の生産性が低下する傾向がある。なお、酸価は、例えば特開2005−23272号公報に記載の滴定法などにより算出することが可能である。
(グラフト共重合体)
本発明に用いられるグラフト共重合体(以下、「本発明のグラフト共重合体」を称することがある。)は、基材樹脂への相溶性、および、熱安定性に優れるため、アクリル系樹脂と配合した熱可塑性樹脂組成物として、ポリマーフィルターを用いて溶融押出成形を行った場合でも、フィルター滞留部でグラフト共重合体由来の凝集物が形成されることがなく、異物が少ない外観性に優れたアクリル系樹脂フィルムを得ることができる。また、成形時のロール汚染などの生産トラブル、ダイラインや凹み欠陥などのフィルム外観不良の発生も抑制できる。また、本発明のグラフト共重合体を含むアクリル系樹脂フィルムは、フィルム強度に優れ、光学特性にも優れるため、光学フィルムに好適である。
【0058】
本発明のグラフト共重合体は、多段重合によって得られる重合体であり、重合体粒子の存在下に、単量体混合物を重合して得られる重合体層を有する重合体である。一般に、多層構造グラフト共重合体や、多段重合グラフト共重合体や、いわゆるコアシェル型ポリマーと言われることもある。
【0059】
本発明のグラフト共重合体は、
(I)メタクリル酸アルキルエステル40〜99.99重量%、これと共重合可能な二重結合を有する他の単量体0〜59.99重量%、および、多官能性単量体0.01〜10重量%からなる単量体成分を重合して硬質重合体(I)を形成し、
(II)前記硬質重合体(I)の存在下において、アクリル酸アルキルエステル60〜99.9重量%、これと共重合可能な二重結合を有する他の単量体0〜39.9重量%、および、多官能性単量体0.1〜5重量%からなる単量体成分を重合して軟質重合体(II)を形成し
(III)前記軟質重合体(II)の存在下において、メタクリル酸アルキルエステル60〜97.5重量%、シアン化ビニル系単量体2.5〜20重量%、これと共重合可能な二重結合を有する他の単量体0〜37.5重量%、および、多官能性単量体0〜10重量%からなる単量体成分を重合して得られる、グラフト共重合体である。
【0060】
ここでいう「軟質」とは、重合体のガラス転移温度が20℃未満であることを意味する。軟質層の衝撃吸収能力を高め、耐割れ性などの耐衝撃性改良効果を高める観点から、重合体のガラス転移温度が0℃未満であることが好ましく、−20℃未満であることがより好ましい。
【0061】
また、ここでいう「硬質」とは、重合体のガラス転移温度が20℃以上であることを意味する。重合体のガラス転移温度が20℃未満の場合、グラフト重合体を配合した樹脂組成物、および成形体の耐熱性が低下したり、またグラフト重合体の製造工程で粗大化や塊状化が起こり易くなるなどの問題が発生する。
【0062】
本願において、「軟質」および「硬質」の重合体のガラス転移温度は、ポリマーハンドブック[Polymer Hand Book(J.Brandrup,Interscience 1989)]に記載されている値を使用してFoxの式を用いて算出した値を用いることとする(例えば、ポリメチルメタクリレートは105℃であり、ポリブチルアクリレートは−54℃である)。
【0063】
硬質重合体(I)に用いられる前記メタクリル酸アルキルエステルは、アルキル基の炭素数が1〜4のメタクリル酸アルキルエステルが好ましく、たとえばメタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチルおよびメタクリル酸t−ブチルなどが挙げられる。これらは単独で使用してもよく、あるいは2種以上組み合わせて使用してもよいが、メタクリル酸メチルであることが特に好ましい。
【0064】
メタクリル酸アルキルエステルと共重合可能な二重結合を有する他の単量体としては、アルキル基の炭素数が1〜12のアクリル酸アルキルエステル、芳香族ビニル系単量体、およびその他の共重合性モノマーよりなる群から選ばれた1種または2種以上の単量体であることが好ましい。アルキル基の炭素数が1〜12のアクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸n−オクチル、アクリル酸2−エチルヘキシルなどが挙げられる。芳香族ビニル系単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、クロロスチレン、その他のスチレン誘導体などが挙げられる。また、その他の共重合性モノマーとしては、例えば、メタクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ベンジルなどの(メタ)アクリル酸エステル類、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどの不飽和ニトリル系単量体、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸などのα,β−不飽和カルボン酸類、酢酸ビニル、エチレンやプロピレンなどのオレフィン系単量体、塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニリデンなどのハロゲン化ビニル系単量体、N−エチルマレイミド、N−プロピルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、N−o−クロロフェニルマレイミドなどのマレイミド系単量体などが挙げられる。これらはいずれも単独または2種以上組み合わせて用いられる。
【0065】
多官能性単量体としては、架橋剤または架橋性単量体として知られているものを使用できる。架橋性単量体としては、アリルメタクリレート、アリルアクリレート、ジアリルマレエート、ジアリルフマレート、ジアリルイタコネート、ジアリルフタレート、モノアリルマレエート、モノアリルフマレート、1,3ブチレンジメタクリレート、ブタジエン、ジビニルベンゼン、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレートなどであることが好ましい。これらは単独または2種以上組み合わせて用いられるが、アリルメタクリレート単独、またはアリルメタクリレートと他の多官能性単量体との組合せで用いることことがさらに好ましい。
【0066】
硬質重合体(I)の重合時には、連鎖移動剤を使用してもよい。連鎖移動剤としては、一般に知られているものが使用できるが、n−ブチルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、n−ヘキサデシルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、n−テトラデシルメルカプタン、などの1級メルカプタン系連鎖移動剤、またsec−ブチルメルカプタン、sec−ドデシルメルカプタンなどの2級メルカプタン系連鎖移動剤、t−ドデシルメルカプタンなどの3級メルカプタン系連鎖移動剤、および、メルカプタン化合物、2−エチルヘキシルチオグリコレート、エチレングリコールジチオグリコレート、トリメチロールプロパントリス(チオグリコレート)、ペンタエリスリトールテトラキス(チオグリコレート)などのチオグリコール酸エステル、チオフェノール、テトラエチルチウラムジスルフィド、ペンタンフェニルエタン、アクロレイン、メタクロレイン、アリルアルコール、四塩化炭素、臭化エチレン、α−メチルスチレンダイマーなどのスチレンオリゴマー、テルピノレンなどが挙げられる。これらは単独または2種以上組み合わせて用いても良い。グラフト共重合体の熱安定性を高める観点から、1級メルカプタン系連鎖移動剤であることが好ましく、なかでも、n−オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタンであることがより好ましく、さらにはn−オクチルメルカプタンであることが特に好ましい。
本発明の連鎖移動剤の総使用量は、0.01〜6.0重量部であることが好ましく、前記重合体(I)の重合における連鎖移動剤の使用量が、前記重合体(I)の単量体混合物100重量部に対して0.03〜6.0重量部であることが好ましい。
【0067】
硬質重合体(I)を構成する単量体成分の比率は、メタクリル酸アルキルエステル40〜99.99重量%、これと共重合可能な二重結合を有する他の単量体0〜59.99重量%、および、多官能性単量体0.01〜10重量%であるが、メタクリル酸アルキルエステル60〜99.9重量%、これと共重合可能な二重結合を有する他の単量体0〜39.99重量%、および、多官能性単量体0.01〜7重量%からなることが好ましく、
メタクリル酸アルキルエステル80〜99.9重量%、これと共重合可能な二重結合を有する他の単量体0〜19.99重量%、および、多官能性単量体0.01〜5重量%からなることがより好ましい。
【0068】
硬質重合体(I)において、メタクリル酸アルキルエステルの比率が40重量%未満の場合、透明性、色調、低複屈折性などのアクリル系樹脂の有する優れた特徴が発現しない。また、多官能性単量体の比率が、0.01重量%未満では得られる樹脂組成物(成形体)の透明性が低下し、また、10重量%を超えるとアクリル系樹脂フィルムの強度(衝撃強度改善効果)が低下する。
【0069】
硬質重合体(I)を構成する単量体成分の比率を上記範囲に設定すれば、主成分であるメタクリル酸アルキルエステルのジッピング解重合が抑制されやすく、本発明のグラフト共重合体の熱安定性を高くすることが可能になるため、高温成形やポリマーフィルター成形にも耐えうるアクリル系樹脂組成物を得ることができる。このような硬質重合体(I)を含むグラフト重合体をアクリル系樹脂に配合した場合に得られるアクリル系樹脂フィルムは、透明性、色調など光学特性を損なうことなく使用することが可能となる。
【0070】
本発明のグラフト共重合体は、前記硬質重合体(I)の存在下において、アクリル酸アルキルエステルを主とする単量体成分を重合して軟質重合体(II)を形成することで、前記硬質重合体(I)の一部を軟質重合体(II)が被覆されている架橋重合体が形成される。
【0071】
軟質重合体(II)に用いられる前記アクリル酸アルキルエステルは、アルキル基の炭素数が1〜12のアクリル酸アルキルエステルが好ましく、例えば、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸n−オクチル、アクリル酸2−エチルヘキシルなどが挙げられる。これらアクリル酸エステルは、単独で使用しても良く、また2種以上を組み合わせて使用しても良い。アクリル酸アルキルエステルとしては、アクリル酸n−ブチルが好ましく、アクリル酸n−ブチルとアクリル酸エチルや、アクリル酸n−ブチルとアクリル酸2−エチルへキシルとの組合せも好ましい。軟質重合体(II)に用いられる、前記アクリル酸アルキルエステルと共重合可能な二重結合を有する他の単量体、および、多官能性単量体については、前記硬質重合体(I)に記載したものと同じものがあげられる。
【0072】
軟質重合体(II)を構成する単量体成分の比率は、アクリル酸アルキルエステル60〜99.9重量%、これと共重合可能な二重結合を有する他の単量体0〜39.9重量%、および、多官能性単量体0.1〜5重量%であり、
アクリル酸アルキルエステル60〜89.9重量%、これと共重合可能な二重結合を有する他の単量体10〜39.9重量%、および、多官能性単量体0.1〜3重量%であることがより好ましい。
【0073】
軟質重合体(II)において、アクリル酸アルキルエステルの比率が60重量%未満、あるいは、アクリル酸アルキルエステルと共重合可能な二重結合を有する他の単量体が39.9重量%を越える場合には、アクリル系樹脂フィルムの強度が低下する。多官能性単量体の比率が、0.1重量%未満ではアクリル系樹脂フィルムの透明性や強度が低下する。また、多官能性単量体の比率が5重量部を超えても、アクリル系樹脂フィルムの強度が低下する。
【0074】
軟質重合体(II)を構成する単量体成分の比率を上記範囲に設定すれば、グラフト重合体をアクリル系樹脂に配合した場合に得られるアクリル系樹脂フィルムは、透明性、色調など光学特性を損なうことなく、高い強度を発現することができる。
【0075】
本発明のグラフト共重合体は、上記架橋重合体の存在下において、メタクリル酸アルキルエステルを主とする単量体成分を重合することにより、前記架橋構造体(前記硬質重合体(I)および/または軟質重合体(II)に硬質重合体(III)がグラフト結合した構造を有する。
【0076】
硬質重合体(III)に用いられる前記メタクリル酸アルキルエステルは、アルキル基の炭素数が1〜4のメタクリル酸アルキルエステルが好ましく、たとえばメタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチルおよびメタクリル酸t−ブチルなどが挙げられる。これらは単独で使用してもよく、あるいは、2種以上組み合わせて使用してもよいが、メタクリル酸メチルであることが特に好ましい。
【0077】
シアン化ビニル系単量体は、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、フマロニトリル、マレオニトリルなどの不飽和ニトリル系単量体などが挙げられるが、他の単量体成分との重合性に優れ、かつ、基材樹脂となるアクリル系樹脂とグラフト共重合体との相溶性を確保できる観点から、アクリロニトリルであることが好ましい。
【0078】
前記共重合可能な二重結合を有する他の単量体は、アルキル基の炭素数が1〜12のアクリル酸アルキルエステル、芳香族ビニル系単量体、およびその他の共重合性単量体よりなる群から選ばれた1種または2種以上の単量体であることが好ましく硬質重合体(I)、および、軟質重合体(II)において例示したものと同じものを用いることができる。基材樹脂となるアクリル系樹脂とグラフト共重合体との相溶性を確保し、かつ、フィルム強度を発現させる観点から、アルキル基の炭素数が1〜12のアクリル酸アルキルエステルであることが好ましく、特にアクリル酸n−ブチルが好ましく、アクリル酸n−ブチルとアクリル酸エチルや、アクリル酸n−ブチルとアクリル酸2−エチルへキシルとの組合せも好ましい。
【0079】
多官能性単量体は、上述した例示が同様に好ましく使用できる。また、硬質重合体(III)の形成時において、前記例示の連鎖移動剤を使用することもできる。
【0080】
硬質重合体(III)を構成する単量体成分の比率は、メタクリル酸アルキルエステル60〜97.5重量%、シアン化ビニル系単量体2.5〜20重量%、これと共重合可能な二重結合を有する他の単量体0〜37.5重量%、および、多官能性単量体0〜10重量%であり、
メタクリル酸アルキルエステル70〜97.5重量%、シアン化ビニル系単量体2.5〜10重量%、これと共重合可能な二重結合を有する他の単量体0〜27.5重量%、および、多官能性単量体0〜5重量%であることが好ましく、
メタクリル酸アルキルエステル80〜97.5重量%、シアン化ビニル系単量体2.5〜8重量%、これと共重合可能な二重結合を有する他の単量体0〜17.5重量%、および、多官能性単量体0〜3重量%であることがより好ましい。
【0081】
硬質重合体(III)において、メタクリル酸アルキルエステルの比率が60重量%未満の場合には、基材樹脂であるアクリル系樹脂とグラフト共重合体との相溶性が悪くなり、当該グラフト共重合体を配合したアクリル系樹脂組成物をポリマーフィルターで溶融押出成形した際に、ポリマーフィルター内で滞留することによって、グラフト共重合体由来の凝集物が発生しやすくなり、フィルム欠陥の多いアクリル系樹脂フィルムが得られるため、好ましくない。また、シアン化ビニル系単量体が2.5重量%未満の場合、メタクリル酸アルキルエステルと同様、基材樹脂であるアクリル系樹脂と重合グラフト共重合体との相溶性が悪くなり、フィルム欠陥の多いアクリル系樹脂フィルムが得られるほか、フィルム強度の改良効果が得られないため好ましくない。シアン化ビニル系単量体が20重量%を超える場合には、基材樹脂であるアクリル系樹脂とグラフト共重合体との相溶性が悪くなり、フィルム欠陥の多いアクリル系樹脂フィルムが得られるため、好ましくない。
【0082】
硬質重合体(III)にシアン化ビニル系単量体を特定量配合することで基材樹脂であるアクリル系樹脂とグラフト共重合体の相溶性が向上する理由については明確ではないものの、本発明にかかるアクリル系樹脂フィルムは、例えば、グルタルイミドアクリル系樹脂、共重合成分としてN−置換マレイミド化合物が共重合されているアクリル系樹脂、環状酸無水物構造単位を含有するアクリル系重合体、ならびに、水酸基および/またはカルボキシル基を含有するアクリル系重合体からなるアクリル系樹脂であり、極性を有する置換基や官能基を相当量含むアクリル系樹脂であることから、極性を有するシアン化ビニル系単量体をグラフト共重合体に特定量配合することにより、グラフト共重合体の最外層である硬質重合体(III)と、基材樹脂であるアクリル系樹脂の極性が一致する、または近くなることで相溶性が向上するものと推定される。
【0083】
一方、グラフト共重合体を基材樹脂中に均一に分散させる観点においては、グラフト共重合体自身による凝集も抑制する必要がある。基材樹脂であるアクリル系樹脂と極性を一致させる、または、近くすることにより、基材樹脂との相溶性を高めることができるものの、例えば、極性が比較的高い置換基や官能基を相当量含む場合には、グラフト共重合体同士の親和性も高まることで、凝集しやくなる場合もある。
【0084】
従い、本発明はそのような現象に鑑み、検討を行った結果、グラフト共重合体中の硬質重合体(III)にシアン化ビニル系単量体を特定量配合したグラフト共重合体を用いることで、基材樹脂であるアクリル系樹脂とグラフト共重合体の相溶性を高めながら、かつ、グラフト共重合体同士の凝集も抑制することができ、良好な分散性が確保できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0085】
硬質重合体(III)に含まれる多官能性単量体が10重量%を越える場合には、基材樹脂であるアクリル系樹脂とグラフト共重合体との相溶性が悪くなり、フィルム欠陥の多いアクリル系樹脂フィルムが得られるほか、フィルム強度も低下するため好ましくない。
【0086】
本発明のグラフト共重合体は、上述の架橋構造体の存在下において、上述の硬質重合体(III)の形成後に、さらに(IV)メタクリル酸アルキルエステル40〜97.5重量%、アクリル酸アルキルエステル0〜57.5重量%、シアン化ビニル系単量体2.5〜20重量%、共重合可能な二重結合を有する他の単量体0〜20重量%、および、多官能性単量体0〜10重量%からなる単量体成分を重合して形成することで、硬質重合体(IV)が、前記硬質重合体(I)および/または前記軟質重合体(II)および/または前記硬質重合体(III)に結合している構造を有していても良い。グラフト共重合体とアクリル系樹脂との相溶性を確保し、併せて、グラフト共重合体が配合されたアクリル系樹脂フィルムのフィルム強度を高めることができる構造として、好適に例示されうる。
【0087】
前記硬質重合体(IV)を構成する単量体成分の比率は、メタクリル酸アルキルエステル40〜97.5重量%、アクリル酸アルキルエステル0〜57.5重量%、シアン化ビニル系単量体2.5〜20重量%、共重合可能な二重結合を有する他の単量体0〜20重量%、および、多官能性単量体0〜10重量%からなることが好ましく、
メタクリル酸アルキルエステル40〜87.5重量%、アクリル酸アルキルエステル10〜57.5重量%、、シアン化ビニル系単量体2.5〜10重量%、共重合可能な二重結合を有する他の単量体0〜15重量%、および、多官能性単量体0〜5重量%からなることが更に好ましく、
メタクリル酸アルキルエステル40〜77.5重量%、アクリル酸アルキルエステル20〜57.5重量%、、シアン化ビニル系単量体2.5〜8重量%、共重合可能な二重結合を有する他の単量体0〜10重量%、および、多官能性単量体0〜3重量%からなることが特に好ましい。
【0088】
メタクリル酸アルキルエステルが40重量%未満の場合は、グラフト共重合体とアクリル系樹脂との相溶性が低下する可能性がある。また、アクリル酸アルキルエステルが57.5重量%を越える場合には、グラフト共重合体が配合されたアクリル系樹脂フィルムのフィルム強度が向上するものの、グラフト共重合体とアクリル系樹脂との相溶性が低下する可能性がある。シアン化ビニル系単量体が2.5重量%未満の場合には、グラフト共重合体とアクリル系樹脂との相溶性が低下するうえ、フィルム強度改良効果も低下する場合がある。
【0089】
本発明のグラフト共重合体は、硬質重合体(III)を構成する単量体成分の比率が、(III)メタクリル酸アルキルエステル60〜97.5重量%、シアン化ビニル系単量体2.5〜20重量%、アクリル酸アルキルエステル0〜37.5重量%、および、多官能性単量体0〜10重量%であり、硬質重合体(IV)を構成する単量体成分の比率が、(IV)メタクリル酸アルキルエステル40〜97.5重量%、シアン化ビニル系単量体2.5〜20重量%、アクリル酸アルキルエステル0〜57.5重量%、および、多官能性単量体0〜10重量%からなることが、グラフト共重合体とアクリル系樹脂との相溶性を維持し、かつ、フィルム強度改良効果が得られる観点からも好ましい。
【0090】
本発明のグラフト共重合体の硬質重合体(I)に対する軟質重合体(II)の重量比率は10:90〜60:40であることが好ましく、15:85〜40:60であることがより好ましい。硬質重合体(I)および軟質重合体(II)を有する架橋構造体に対する硬質重合体(III)の重量比率は、30:70〜90:10であることが好ましく、50:50〜80:20であることがより好ましい。
【0091】
本発明のグラフト共重合体が硬質重合体(IV)を含む場合には、硬質重合体(I)および軟質重合体(II)の架橋構造体に対する硬質重合体(III)および硬質重合体(IV)の重量比率は、30:70〜90:10であることが好ましく、50:50〜80:20であることがより好ましい。
【0092】
グラフト共重合体の硬質重合体(I)に対する軟質重合体(II)の重量比率において、硬質重合体(I)の重量比率が10:90を下回る、あるいは、60:40を上回る場合には、グラフト共重合体をアクリル系樹脂に配合した場合のアクリル系樹脂フィルムの強度改良効果が低くなるため、好ましくない。
【0093】
硬質重合体(I)および軟質重合体(II)を有する架橋構造体に対する硬質重合体(III)の重量比率が30:70を下回る場合、グラフト共重合体をアクリル系樹脂に配合した場合のアクリル系樹脂フィルムの強度改良効果が低くなるため、好ましくない。硬質重合体(I)および軟質重合体(II)を有する架橋構造体に対する硬質重合体(III)の重量比率が90:10を上回る場合は、グラフト共重合と基材樹脂であるアクリル系樹脂との相溶性が低下し、ポリマーフィルターを用いた溶融押出成形を行った際、グラフト共重合体由来の凝集物の低減効果が得られにくくなるため、好ましくない。
【0094】
本発明のグラフト共重合体が硬質重合体(IV)を含む場合において、硬質重合体(I)及び軟質重合体(II)を有する架橋構造体に対する硬質重合体(III)および硬質重合体(IV)の重量比率が30:70を下回る場合についても、グラフト共重合体をアクリル系樹脂に配合した場合のアクリル系樹脂フィルムの強度改良効果が低くなるため、好ましくない。硬質重合体(I)および軟質重合体(II)を有する架橋構造体に対する硬質重合体(III)および硬質重合体(IV)の重量比率がの重量比率が90:10を上回る場合についても、グラフト共重合と基材樹脂であるアクリル系樹脂との相溶性が低下し、ポリマーフィルターを用いた溶融押出成形を行った際、グラフト共重合体由来の凝集物の低減効果が得られにくくなるため、好ましくない。
【0095】
本発明に使用されるグラフト共重合体は、公知の乳化剤を用いて通常の乳化重合により製造することができる。例えば、アルキルスルファオン酸ナトリウム、アルキルベンゼンスルフォン酸ナトリウム、ジオクチルスルフォコハク酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、脂肪酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸ナトリウムなどのリン酸エステル塩等の陰イオン界面活性剤や、非イオン性界面活性剤等が示される。これらの界面活性剤は、単独で用いてもよく、2種以上併用しても良い。アクリル系樹脂およびグラフト共重合体を含む樹脂組成物および成形体の熱安定性を確保し、かつ、ポリマーフィルターを用いた溶融押出成形時のフィルター昇圧挙動の抑制、フィルム成形時のキャストロール表面への付着物抑制といった種々の加工品質をバランス良く改良できる観点から、特にはポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸ナトリウムなどのリン酸エステル塩(アルカリ金属、又はアルカリ土類金属)、および、ジオクチルスルフォコハク酸ナトリウムを用いて重合することが好ましい。
【0096】
本発明のグラフト共重合体を得る重合で使用される重合開始剤は、10時間半減期温度が100℃以下の重合開始剤であることが、アクリル系樹脂およびグラフト共重合体を含む樹脂組成物および成形体の熱安定性を向上させる観点から好ましい。当該重合開始剤は、10時間半減期温度が100℃以下の重合開始剤であれば特に限定されないが、過硫酸塩であることが好ましく、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウムなどが挙げられる。なかでも、過硫酸カリウムであることが特に好ましい。
【0097】
さらには、前記重合開始剤を実質的に熱分解機構のみでラジカルを発生させて重合することが好ましい。当該手法で重合を行えば、特許第3960631の実施例記載のようなレドックス分解機構による重合手法に比べて、メタクリル酸エステルを主体とする重合体中でhead−to−head結合など比較的結合エネルギーが低い結合の形成を抑制することができる。このため、成形加工時など高温にさらされた場合でも、重合体が解重合することが少なく、グラフト共重合体の熱安定性を向上させることができる。
【0098】
上記観点から、重合開始剤の10時間半減期温度は100℃以下が好ましく、90℃以下がさらに好ましく、80℃以下がよりさらに好ましく、75以下であることが特に好ましい。
【0099】
前記重合開始剤の総使用量は、グラフト共重合体を構成する単量体成分の総量100重量部に対して、0.01から1.0重量部であることが好ましく、0.01〜0.6重量部であることがより好ましく、0.01〜0.2重量部であることが特に好ましい。
【0100】
例えば、グラフト共重合体が、硬質重合体(I)、軟質重合体(II)、硬質重合体(III)の三段階の重合段階により得られる場合、グラフト共重合体を構成する各重合段階個々の単量体混合物を100重量部とした場合、前記重合開始剤は、硬質重合体(I)の重合段階において0.01〜1.85重量部、軟質重合体(II)の重合段階において0.01〜0.6重量部、硬質重合体(III)の重合段階において0.01〜0.90重量部であることが好ましい。なかでも、各重合段階個々の単量体混合物を100重量部とした場合、前記重合開始剤は、硬質重合体(I)の重合段階において0.01〜0.2重量部、軟質重合体(II)の重合段階において0.01〜0.4重量部、硬質重合体(III)の重合段階において0.01〜0.2重量部であることが特に好ましい。
【0101】
また、前記硬質重合体(I)の重合段階における重合開始剤の使用量が、重合開始剤の総使用量に対して1重量部を超えて29重量部以下であることが好ましい。
【0102】
本発明のグラフト共重合体のグラフト率は、0%〜100%が好ましく、10%〜70%がさらに好ましく、20%〜50%が特に好ましい。なお、グラフト率は後述のグラフト率を求める計算式に基づく。グラフト率が0%未満の場合、硬質重合体(I)と軟質重合体(II)から構成される架橋重合体層が、硬質重合体(III)、および、硬質重合体(IV)によって、うまく被覆できていない状態、すなわち、基材樹脂となるアクリル系樹脂との相溶性に劣る架橋重合体層が露出することになるため、グラフト共重合体とアクリル系樹脂との相溶性が低下するため、好ましくない。
【0103】
グラフト率が100%を超える場合には、硬質重合体(I)と軟質重合体(II)から構成される架橋重合体層を、硬質重合体(III)、および、硬質重合体(IV)が被覆することにより、相対的にグラフト共重合体に占める架橋重合体の比率が低下するため、グラフト共重合体をアクリル系樹脂に配合したアクリル系樹脂組成物の強度が低下するため、好ましくない。
【0104】
グラフト共重合体のうち、硬質重合体(I)と軟質重合体(II)から構成される架橋重合体の重合ラテックスの体積平均粒子径は、80〜450nmであることが好ましく、さらには100〜350nmあるのが好ましく、200〜300nmが特に好ましい。体積平均粒子径が80nm未満では、アクリル系樹脂組成物の強度が十分に得られ難く、450nmを越えるとアクリル系樹脂に配合した組成物の良好な透明性が得られ難い。
【0105】
このようにして得られたグラフト共重合体ラテックスは、噴霧乾燥、あるいは一般的に知られるように、塩または酸を添加することで凝固を行ない、そののち、熱処理を実施したのちに濾過洗浄し乾燥を行ない、粉末状のグラフト共重合体が得られる。粉末状のグラフト共重合体を得る方法としては、特に好ましくは塩を用いて凝固を行う方法である。使用する塩は特に限定されないが、塩化カルシウムなどのカルシウム塩、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウムなどのマグネシウム塩など、2価の塩が好ましく、グラフト共重合体の熱安定性を損ねないために、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウムなどのマグネシウム塩を用いることが特に好ましい。
【0106】
必要であれば凝固時に通常加えられる酸化防止剤や紫外線吸収剤などを加えてもよい。また、必要に応じて凝固操作前のグラフト共重合体ラテックスを、濾過フィルターで濾過し、重合スケールや環境異物を取り除くことにより、これらに起因するフィシュアイや異物欠陥などを低減させ、本発明の樹脂組成物およびフィルムの外観性を向上させることができる。
濾過フィルターは、グラフト共重合体の重合ラテックス粒子以外を捕捉、濾過できるものであれば特に制限されないが、例えば、金属を用いたウェッジワイヤーや焼結金網、テフロン(登録商標)などを用いた膜、不織布を用いた濾布等が挙げられるが、濾材ライフ、コストの観点から不織布を用いた濾布を好適に使用することができる。また、濾過面積や、濾材の交換、ハウジング設備の洗浄性の観点から、カートリッジタイプの濾過フィルターが好ましい。カートリッジタイプの濾過フィルターとしては、プリーツタイプ、メンブレンタイプ、糸巻きタイプ、ロールタイプ等が例示されうるが、グラフト共重合体の重合ラテックス粒子を通過させ、かつ、重合過程で副生するミクロンサイズの重合スケールや環境異物を捕捉する分級性や、濾材ライフの観点から、特に繊維径の異なる数種類の不織布をロール状に形成したロールタイプの濾過フィルターを好適に用いることができる。濾材の材質としては、ナイロン、ポリオレフィン、グラスファイバーなどが例示されうるが、濾過精度、コスト、また、濾材の破損なくロングラン性に優れている観点などから、ポリプロピレンを好適に使用することができる。
【0107】
ここで、グラフト共重合体の重合ラテックス粒子を通過させ、かつ、重合過程で副生するミクロンサイズの重合スケールや環境異物を捕捉する分級性の観点から、濾過フィルターの濾過精度は1〜20μmであることが好ましく、1〜10μmがより好ましい。濾過精度が20μmを超える場合には、重合過程で副生するミクロンサイズの重合スケールを効果的に取り除くことができない。濾過精度が1μm未満の場合には、頻繁に濾材が目詰まりし、大きく生産性を低下させるため好ましくない。
【0108】
濾過フィルターは、濾過効率を高め、濾材ライフを延命化できる観点から、2段以上設けることが好ましい。ここで、濾過フィルターの段数は、例えば、カートリッジに複数本のロールタイプフィルターを内蔵した濾過フィルターのように、濾過フィルターとして一体となったものを1段と数えることが好ましい。
これら濾過フィルターの接続方法としては、グラフト共重合体のラテックスの送液方向に複数段、直列、および並列に接続する方法や、並列に接続したものを直列に接続する方法などが挙げることができる。これらは濾過効率を高め、濾材ライフを延命化できる接続方法であれば、直列、並列、種々組み合わせたいずれの接続方法であっても良い。ここで、直列に複数段接続する利点としては、上流側の濾過フィルターを濾過精度が大きい粗濾過フィルター、下流側の濾過フィルターを濾過精度の小さい主濾過フィルターとして機能させることで、予め粗大な異物を除去し、主濾過フィルターの濾過効率と濾材ライフを延命化できる点が挙げられる。また、並列に接続したものを直列に接続する方法の利点としては、並列に並べた濾過フィルター1段あたりの通過流量が低減されることで濾過効率が上がり、濾材ライフも延命化できる点が挙げられる。 アクリル系樹脂とグラフト共重合体との配合比率はフィルムの用途により異なるが、アクリル系樹脂とグラフト共重合体との合計100重量%において、アクリル系樹脂40〜98重量%、グラフト共重合体2〜60重量%とすることが好ましく、アクリル系樹脂50〜95重量部、グラフト共重合体5〜50重量%がより好ましく、アクリル系樹脂55〜95重量部%、グラフト共重合体5〜45重量%が特に好ましい。アクリル系樹脂が40重量%未満ではアクリル系樹脂のもつ特性が失われる場合があり、一方、98重%を越えるとフィルム強度が充分に改善されない場合がある。
【0109】
本発明の樹脂組成物には、必要に応じて、光安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、熱安定剤、艶消し剤、光拡散剤、着色剤、染料、顔料、帯電防止剤、熱線反射剤、滑剤、可塑剤、フィラー等の公知の添加剤、または、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂等その他の樹脂を含有しても良い。
【0110】
本発明の樹脂組成物は、配向複屈折を調整する意味合いで、特許第3648201号や特許第4336586号に記載の複屈折性を有する無機微粒子や、特許第3696649号に記載の複屈折性を有する、分子量5000以下、好ましくは1000以下の低分子化合物を適宜配合してもよい。
【0111】
(製膜)
本発明のアクリル系樹脂フィルムは、本発明の樹脂組成物を公知の成形方法で得てよい。例えば、通常の溶融押出法であるインフレーション法やTダイ押出法、あるいはカレンダー法、更には溶剤キャスト法等により良好に成形される。中でも、成形性、生産性、コストの観点から、本発明のアクリル系樹脂組成物は、溶剤を使用しない溶融押出法で成形されることが好ましい。
【0112】
以下、本発明のアクリル系樹脂フィルムの製造方法の一実施形態として溶融押出法により成形してアクリル系樹脂フィルムを製造する方法について詳細に説明する。
【0113】
本発明の樹脂組成物を溶融押出法によりフィルムに成形する場合、まず、本発明の樹脂組成物を、押出機に供給し、該樹脂組成物を加熱溶融させる。押出機に供給する際、樹脂組成物の各成分を粒状のままで、または、予め押出機により樹脂組成物をペレット状にしたものを、押出機に供給してもよい。
【0114】
本発明の樹脂組成物は、押出機に供給する前に、予備乾燥することが好ましい。このような予備乾燥を行うことにより、押出機から押し出される樹脂の発泡を防ぐことができる。
【0115】
予備乾燥の方法は特に限定されるものではないが、例えば、原料(すなわち、本発明のアクリル系樹脂組成物)をペレット等の形態にして、熱風乾燥機等を用いて行うことができる。
【0116】
本発明の樹脂組成物をフィルムに成形するための押出機は、好ましくは加熱溶融時に発生する揮発分を除去するための脱揮装置を一つ以上有しているものが好ましい。脱気装置を有する事により、樹脂の発泡や分解劣化反応によるフィルム外観の悪化を軽減することができる。
【0117】
本発明の樹脂組成物をフィルムに成形するための溶融押出に際しては、押出機のシリンダに、樹脂材料の供給とともに、窒素やヘリウムなどの不活性ガスを供給する事が好ましい。不活性ガスの供給により、系中の酸素の濃度を低下させ、酸化劣化に伴う分解、架橋、黄変等の外観や品質の劣化を軽減することができる。
【0118】
次に、押出機内で加熱溶融された樹脂組成物を、ギアポンプやフィルターを通して、Tダイに供給する。このとき、ギアポンプを用いれば、樹脂の押出量の均一性を向上させ、厚みムラを低減させることができる。一方、樹脂組成物中に含まれる異物を除去し、欠陥の無い外観性に優れたフィルムを得るため、ポリマーフィルターなる濾過設備を用いることができる。ポリマーフィルターの種類としては、溶融ポリマーからの異物除去が可能なリーフディスク型フィルター、キャンドル型フィルター、パック型フィルター等が挙げられるが、特に、耐圧性に優れ、濾過面積を確保し、濾過効率と濾材ライフのバランスが良好に取れる観点から、リーフディスク型フィルターを使用することが好ましい。リーフディスク型フィルターのフィルターエレメントとしては、ファイバータイプ、パウダータイプ、あるいはそれらの複合タイプを使用することが好ましい。フィルターはペレット化時、もしくはフィルム化時に使用する押出機等に好適に使用することができる。
【0119】
ここで、ポリマーフィルターは、濾材によって異物を捕捉できる反面、その構造上の特徴から溶融ポリマーが滞留しやすく、特に、溶融粘度が高い場合や、吐出量が低い条件で成形した場合などには、滞留した溶融ポリマーがフィルター内で滞留、熱劣化する傾向があり、これらの劣化物が時間経過と共に徐々にポリマーフィルターを通り抜け、フィルム欠陥の原因となる課題があった。特に、樹脂組成物にグラフト共重合体のような有機微粒子が含まれている場合には、グラフト共重合体と基材樹脂との相溶性が充分でない場合には、グラフト共重合体粒子がポリマーフィルター内で滞留、熱劣化することで凝集物を形成、これら凝集物がフィルターを閉塞して濾材ライフが短くなるばかりか、閉塞に伴う昇圧により凝集物がフィルターを徐々に通り抜け、フィルム欠陥の原因となる課題があった。本発明のグラフト共重合体は、そのような課題に鑑みてなされたものであり、グラフト共重合体を本発明の開示の構造とすることで、基材樹脂との相溶性を改良し、外観性に優れるフィルムを得ることができる。
【0120】
ここで、グラフト共重合体の凝集物に起因するフィルム欠陥の数は少ない程、外観性に優れるフィルムとして好ましいが、0〜10個/m2が好ましく、0〜5個/m2がより好ましい。
【0121】
前記手法により、ポリマーフィルターを通過するなどして異物を除去された樹脂組成物は、Tダイに供給され、シート状の溶融樹脂として、Tダイから押し出される。該シート状の溶融樹脂は、複数本の冷却ロールを用いて冷却される。通常、Tダイは、溶融樹脂が最上流側(ダイに近い方)の最初のキャストロールに接触するように配置する。一般的には2本の冷却ロールが用いられている。キャストロールの温度は50℃〜160℃、さらに60℃〜120℃であることが好ましい。この後、キャストロールからフィルムを剥ぎ取り、ニップロールを経た後、巻き取る。なお、キャストロールに樹脂を密着させる方法としては、タッチロール方式、ニップロール方式、静電印加方式、エアーナイフ方式、バキュームチャンバー方式、カレンダー方式、スリーブ式などが挙げられ、フィルムの厚さ、用途に従って、適切な方式が選択される。光学歪みの小さい光学フィルムを形成する場合は、タッチロール方式、その中でも特に、金属スリーブの二重筒構造の弾性ロールを用いることが望ましい。タッチロールの温度は40℃〜120℃、さらに50℃〜100℃が好ましい。
【0122】
必要に応じて、フィルムを成形する際、フィルム両面をロールまたは金属ベルトに同時に接触させる(挟み込む)ことにより、特にガラス転移温度付近の温度に加熱したロールまたは金属ベルトに同時に接触させることにより、表面性のより優れたフィルムを得ることも可能である。
【0123】
上記シート状の溶融樹脂を挟み込む2つの冷却ロールの内、一方は、表面が平滑な剛体性の金属ロールであり、もう一方は、表面が平滑な弾性変形可能な金属製弾性外筒を備えたフレキシブルロールであることが好ましい。
【0124】
このような剛体性の金属ロールと金属製弾性外筒を備えたフレキシブルロールとで、上記シート状の溶融樹脂を挟み込んで冷却して成膜することにより、表面の微小な凹凸やダイライン等が矯正されて、表面が平滑で厚みムラが5μm以下であるフィルムを得ることができる。
【0125】
本発明のアクリル系樹脂フィルムは未延伸フィルムとしても靭性が高く柔軟性に富むものであるが、さらに延伸してもよく、これにより、アクリル系樹脂フィルムの機械的強度の向上、膜厚精度の向上を図ることができる。
【0126】
本発明のアクリル系樹脂フィルムを延伸する場合は、本発明の樹脂組成物を一旦、未延伸状態のフィルムに成形し、その後、一軸延伸または二軸延伸を行うことにより、延伸フィルム(一軸延伸フィルムまたは二軸延伸フィルム)を製造することができる。
【0127】
本明細書では、説明の便宜上、本発明の樹脂組成物をフィルム状に成形した後、延伸を施す前のフィルム、すなわち未延伸状態のフィルムを「原料フィルム」と称する。
【0128】
原料フィルムを延伸する場合、原料フィルムを成形後、直ちに、該原料フィルムの延伸を連続的に行ってもよいし、原料フィルムを成形後、一旦、保管または移動させて、該原料フィルムの延伸を行ってもよい。
【0129】
なお、原料フィルムに成形後、直ちに該原料フィルムを延伸する場合、フィルムの製造工程において、原料フィルムの状態が非常に短時間(場合によっては、瞬間)にて延伸してもよく、一旦原料フィルムを製造したのち、時間を開けて延伸してもよい。
【0130】
本発明のアクリル系樹脂フィルムを延伸フィルムとする場合は、上記原料フィルムは延伸されるのに充分な程度のフィルム状を維持していればよく、完全なフィルムの状態である必要はない。
【0131】
原料フィルムを延伸する方法は、特に限定されるものではなく、従来公知の任意の延伸方法を用いればよい。具体的には、例えば、ロール差速を利用した縦延伸、テンターなる加熱炉において、フィルムを把持したクリップが所定の拡縮倍率でレールを動くことによる縦延伸、横延伸、および縦横同時二軸延伸、および、これらを組み合わせた逐次二軸延伸等を用いることができる。
【0132】
原料フィルムを延伸するとき、原料フィルムを一旦、延伸温度より0.5℃〜5℃、好ましくは1℃〜3℃高い温度まで予熱した後、延伸温度まで冷却して延伸することが好ましい。
【0133】
上記範囲内で予熱することにより、原料フィルムの厚みを精度よく保つことができ、また、延伸フィルムの厚み精度が低下したり、厚みムラが生じたりすることがない。また、原料フィルムがロールに貼り付いたり、自重で弛んだりすることがない。
【0134】
一方、原料フィルムの予熱温度が高すぎると、原料フィルムがロールに貼り付いたり、自重で弛んだりするといった弊害が発生する傾向にある。また、原料フィルムの予熱温度と延伸温度との差が小さいと、延伸前の原料フィルムの厚み精度を維持しにくくなったり、厚みムラが大きくなったり、厚み精度が低下したりする傾向がある。
【0135】
原料フィルムを延伸するときの延伸温度は、特に限定されるものではなく、製造する延伸フィルムに要求される機械的強度、表面性、および厚み精度等に応じて、変更すればよい。
【0136】
一般的には、DSC法によって求めた原料フィルムのガラス転移温度をTgとした時に、(Tg−30℃)〜(Tg+30℃)の温度範囲とすることが好ましく、(Tg−20℃)〜(Tg+20℃)の温度範囲とすることがより好ましく、(Tg)〜(Tg+20℃)の温度範囲とすることがさらに好ましい。
【0137】
延伸温度が上記温度範囲内であれば、得られる延伸フィルムの厚みムラを低減し、さらに、伸び率、引裂伝播強度、および耐揉疲労等の力学的性質を良好なものとすることができる。また、フィルムがロールに粘着するといったトラブルの発生を防止することができる。
【0138】
一方、延伸温度が上記温度範囲よりも高くなると、得られる延伸フィルムの厚みムラが大きくなったり、伸び率、引裂伝播強度、および耐揉疲労等の力学的性質が十分に改善できなかったりする傾向がある。さらに、フィルムがロールに粘着するといったトラブルが発生しやすくなる傾向がある。
【0139】
また、延伸温度が上記温度範囲よりも低くなると、得られる延伸フィルムのヘイズが大きくなったり、極端な場合には、フィルムが裂けたり、割れたりするといった工程上の問題が発生したりする傾向がある。
【0140】
上記原料フィルムを延伸する場合、延伸倍率は特に限定されるものではなく、製造する延伸フィルムの機械的強度、表面性、および厚み精度等に応じて、決定すればよい。延伸温度にも依存するが、延伸倍率は、一般的には、1.1倍〜3倍の範囲で選択することが好ましく、1.3倍〜2.5倍の範囲で選択することがより好ましく、1.5倍〜2.3倍の範囲で選択することがさらに好ましい。延伸倍率が上記範囲内であれば、フィルムの伸び率、引裂伝播強度、および耐揉疲労等の力学的性質を大幅に改善することができる。
【0141】
(アクリル系樹脂フィルム)
本発明のアクリル系樹脂フィルムは、光学フィルムとして使用することも可能である。特に、偏光子保護フィルムに適用する場合、光学異方性が小さいことが好ましい。特に、アクリル系樹脂フィルムの面内方向の光学異方性だけでなく、厚み方向の光学異方性についても小さいことが好ましい。つまり、面内位相差および厚み方向位相差の絶対値が共に小さいことが好ましい。面内位相差の絶対値は、好ましくは10nm以下、より好ましくは6nm以下、さらに好ましくは3nm以下である。厚み方向位相差の絶対値は、好ましくは20nm以下、より好ましくは10nm以下、さらに好ましくは5nm以下である。このような位相差を有するアクリル系樹脂フィルムは液晶表示装置の偏光板が備える偏光子保護フィルムとして好適である。
【0142】
位相差は複屈折をベースに算出される指標値であり、面内位相差(Re)および厚み方向位相差(Rth)は、それぞれ、以下の式により算出することができる。3次元方向について完全光学等方である理想的なフィルムでは、面内位相差Re、厚み方向位相差Rthがともに0となる。
【0143】
Re=(nx−ny)×d
Rth=((nx+ny)/2−nz)×d
上記式中において、nx、ny、およびnzは、それぞれ、面内において伸張方向(ポリマー鎖の配向方向)をX軸、X軸に垂直な方向をY軸、フィルムの厚さ方向をZ軸とし、それぞれの軸方向の屈折率を表す。また、dはフィルムの厚さを表し、nx−nyは配向複屈折を表す。なお、溶融押出フィルムの場合は、MD方向がX軸、さらに延伸フィルムの場合は延伸方向がX軸となる。
【0144】
本発明のアクリル系樹脂フィルムの厚みは10〜500μmであることが好ましく、10〜300μmであることがさらに好ましく、10〜100μmであることが特に好ましい。フィルムの厚みが上記範囲内であれば、当該フィルムを用いて真空成形を実施する際に変形しにくく、深絞り部での破断が発生しにくいという利点があり、さらに、光学特性が均一で、透明性が良好なフィルムを製造することができる。一方、フィルムの厚みが上記範囲を超えると、成形後のフィルムの冷却が不均一になり、光学的特性が不均一になる傾向がある。また、フィルムの厚みが上記範囲を下回ると、フィルムの取扱が困難になることがある。
【0145】
本発明のアクリル系樹脂フィルムは、全光線透過率(80μm)が85%以上であることが好ましく、88%以上がより好ましく、90%以上がさらに好ましい。全光線透過率が上述の範囲であれば、透明性が高いため、光透過性が要求される光学部材、加飾用途、インテリア用途、真空成形用途に好適である。
【0146】
本発明のアクリル系樹脂フィルムは、ガラス転移温度が115℃以上であることが好ましく、118℃以上がより好ましく、120℃以上がさらに好ましく、125℃以上が最も好ましい。ガラス転移温度が上述の範囲であれば、耐熱性に優れたアクリル系樹脂フィルムを得ることができる。
【0147】
本発明のアクリル系樹脂フィルムは、ヘイズ(80μm)が2.0%以下であることが好ましく、1.5%以下がより好ましく、1.3%以下がさらに好ましい。ヘイズが上述の範囲であれば、透明性が高いため、光透過性が要求される光学部材、加飾用途、インテリア用途、真空成形用途に好適である。
【0148】
(用途)
本発明のアクリル系樹脂フィルムは、必要に応じて、公知の方法によりフィルム表面の光沢を低減させることができる。例えば、樹脂組成物に無機充填剤または架橋性高分子粒子を混練する方法等で実施することが可能である。また、得られるフィルムをエンボス加工により、フィルム表面の光沢を低減させることも可能である。
【0149】
本発明のアクリル系樹脂フィルムは、必要に応じて、粘着剤等により別のフィルムをラミネートしたり、表面にハードコート層等のコーティング層を形成させたりして用いることができる。
【0150】
本発明のアクリル系樹脂フィルムは、耐熱性、透明性、柔軟性などの性質を利用して、各種用途に使用することができる。例えば、自動車内外装、パソコン内外装、携帯内外装、太陽電池内外装、太陽電池バックシート;カメラ、VTR、プロジェクター用の撮影レンズ、ファインダー、フィルター、プリズム、フレネルレンズ、レンズカバーなどの映像分野、CDプレイヤー、DVDプレイヤー、MDプレイヤーなどにおける光ディスク用ピックアップレンズなどのレンズ分野、CD、DVD、MDなどの光ディスク用の光記録分野、有機EL用フィルム、液晶用導光板、拡散板、バックシート、反射シート、偏光子保護フィルム、偏光フィルム透明樹脂シート,位相差フィルム,光拡散フィルム、プリズムシートなどの液晶ディスプレイ用フィルム、表面保護フィルムなどの情報機器分野、光ファイバ、光スイッチ、光コネクターなどの光通信分野、自動車ヘッドライト、テールランプレンズ、インナーレンズ、計器カバー、サンルーフなどの車両分野、眼鏡、コンタクトレンズ、内視鏡用レンズ、滅菌処理の必要な医療用品などの医療機器分野、道路標識、浴室設備、床材、道路透光板、ペアガラス用レンズ、採光窓、カーポート、照明用レンズ、照明カバー、建材用サイジングなどの建築・建材分野、電子レンジ調理容器(食器)、家電製品のハウジング、玩具、サングラス、文房具などに使用することができる。また、転写箔シートを使用した成形品の代替用途としても使用できる。
【0151】
本発明のアクリル系樹脂フィルムは、金属、プラスチックなどの基材に積層して用いることができる。アクリル系樹脂フィルムの積層方法としては、積層成形や、鋼板などの金属板に接着剤を塗布した後、金属板にフィルムを載せて乾燥させ貼り合わせるウエットラミネ−トや、ドライラミネ−ト、エキストル−ジョンラミネ−ト、ホットメルトラミネ−トなどがあげられる。
【0152】
プラスチック部品にフィルムを積層する方法としては、フィルムを金型内に配置しておき、射出成形にて樹脂を充填するインサート成形またはラミネートインジェクションプレス成形や、フィルムを予備成形した後に金型内に配置し、射出成形にて樹脂を充填するインモールド成形などがあげられる。
【0153】
本発明のアクリル系樹脂フィルムの積層体としては、自動車内装材,自動車外装材などの塗装代替用途、窓枠、浴室設備、壁紙、床材などの建材用部材、日用雑貨品、家具や電気機器のハウジング、ファクシミリ、ノートパソコン、コピー機などのOA機器のハウジング、携帯電話、スマートフォン、タブレットなどの端末の液晶画面の前面板や、照明用レンズ、自動車ヘッドライト、光学レンズ、光ファイバ、光ディスク、液晶用導光板などの光学部材、電気または電子装置の部品、滅菌処理の必要な医療用品、玩具またはレクリエーション品目などに使用することができる。
【0154】
特に、本発明のアクリル系樹脂フィルムは、耐熱性および光学特性に優れる点では、光学用フィルムに好適であり、各種光学部材に用いられうる。例えば、携帯電話、スマートフォン、タブレットなどの端末の液晶画面の前面板、照明用レンズ、自動車ヘッドライト、光学レンズ、光ファイバ、光ディスク、液晶用導光板、拡散板、バックシート、反射シート、偏光フィルム透明樹脂シート、位相差フィルム、光拡散フィルム、プリズムシート、表面保護フィルム、光学的等方フィルム、偏光子保護フィルムや透明導電フィルム等液晶表示装置周辺や、有機EL装置周辺、光通信分野等の公知の光学的用途に適用できる。
【実施例】
【0155】
以下、本発明を実施例にて具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。以下で「部」および「%」は、特記ない限り、「重量部」および「重量%」を意味する。
【0156】
(グラフト共重合体の粒子径)
本実施例におけるグラフト共重合体の粒子径は、硬質重合体(I)、軟質重合体(II)までの重合段階で得られる架橋重合体層からなる重合体ラテックスの体積平均粒子径を指す。重合体ラテックスの状態で計測し、株式会社 日立ハイテクノロジーズのU−5100形レシオビーム分光光度計を用いて、546nmの波長の光散乱を用いて求めた。
【0157】
(重合転化率)
重合において得られた重合体の重合転化率を以下の方法で求めた。
【0158】
約2gの重合体ラテックスを採取・精秤し、それを熱風乾燥機中で120℃、1時間乾燥し、その乾燥後の重量を固形分量として精秤した。次に、乾燥前後の精秤結果の比率を試料中の固形分比率として求めた。最後に、この固形分比率を用いて、以下の計算式により重合転化率を計算した。なお、この計算式において、多官能性単量体は仕込み単量体として取り扱った。
重合転化率(%)={(仕込み原料総重量×固形分比率−水および単量体以外の原料総重量)/仕込み単量体重量}×100
(グラフト率)
グラフト共重合体のラテックスを凝固、脱水・洗浄、乾燥して取得したパウダー1gをメチルエチルケトン50mlに溶解させ、遠心分離機(日立工機(株)製、CP60E)を用い、回転数30000rpmにて1時間遠心分離を行い、不溶分と可溶分を分離した(遠心分離作業を合計3セット実施した)。得られた不溶分を用いて、次式よりグラフト率を算出した。
【0159】
グラフト率(%)= {(メチルエチルケトン不溶分の重量−架橋重合体を構成する単量体成分の重量)/架橋重合体を構成する単量体成分の重量}×100
ここで、架橋重合体を構成する単量体成分の重量とは、すなわち、硬質重合体(I)と軟質重合体(II)を構成する各単量体成分の重量の総和に相当する。
【0160】
(熱安定性<グラフト共重合体の重量減少温度>
グラフト共重合体の1%、及び5%重量減少温度は以下の通り測定した。まず、得られたグラフト重合体の粉末を80℃で1晩予備乾燥させた。その後、SIIテクノロジー製EXSTAR TG/DTA7200を用いて、窒素気流下、30℃から465℃まで10℃/分まで昇温し、その際の重量減少率を測定した。初期重量から、1%、および5%重量減少した温度を、それぞれ1%重量減少温度、5%重量減少温度とした。
【0161】
(イミド化率)
イミド化率の算出は、IRを用いて下記の通り行った。生成物のペレットを塩化メチレンに溶解し、その溶液について、SensIR Tecnologies社製TravelIRを用いて、室温にてIRスペクトルを測定した。得られたIRスペクトルより、1720cm−1のエステルカルボニル基に帰属する吸収強度(Absester)と、1660cm−1のイミドカルボニル基に帰属する吸収強度(Absimide)との比からイミド化率(Im%(IR))を求めた。ここで、「イミド化率」とは、全カルボニル基中のイミドカルボニル基の占める割合をいう。
【0162】
(グルタルイミド単位の含有量)
H−NMR BRUKER AvanceIII(400MHz)を用いて、樹脂のH−NMR測定を行い、樹脂中のグルタルイミド単位またはエステル単位などの各モノマー単位それぞれの含有量(mol%)を求め、当該含有量(mol%)を、各モノマー単位の分子量を使用して含有量(重量%)に換算した。
【0163】
(酸価)
得られたグルタルイミドアクリル樹脂0.3gを37.5mlの塩化メチレンおよび37.5mlのメタノールの混合溶媒の中で溶解した。フェノールフタレインエタノール溶液を2滴加えた後に、0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液を5ml加えた。過剰の塩基を0.1N塩酸で滴定し、酸価を添加した塩基と中和に達するまでに使用した塩酸との間のミリ当量で示す差で算出した。
【0164】
(屈折率)
グルタルイミドアクリル樹脂の屈折率は、それぞれの組成物をシート状に加工し、JIS K7142に準じて、アタゴ社製アッベ屈折計2Tを用いて、ナトリウムD線波長における屈折率(nD)を測定した。
【0165】
(ガラス転移温度)
セイコーインスツルメンツ製の示差走査熱量分析装置(DSC)SSC−5200を用い、試料を一旦200℃まで25℃/分の速度で昇温した後10分間ホールドし、25℃/分の速度で50℃まで温度を下げる予備調整を経て、10℃/分の昇温速度で200℃まで昇温する間の測定を行い、得られたDSC曲線から積分値を求め(DDSC)、その極大点からガラス転移温度を求めた。
【0166】
(全光線透過率・ヘイズ値)
フィルムの全光線透過率、ヘイズ値は、(株)日本電色工業 NDH−300Aを用い、JIS K7105に記載の方法にて測定した。また、内部ヘイズは、フィルムの表面散乱の影響を排除したヘイズ値のことを意味し、空気の代わりに純水を入れた石英セルの中にフィルムを入れ、上記と同様の方法で測定した。
【0167】
(膜厚)
フィルムの膜厚は、デジマティックインジケーター(株式会社ミツトヨ製)を用いて測定した。
【0168】
(面内位相差Reおよび厚み方向位相差Rth)
実施例および比較例で得られた膜厚40μmのフィルムから、40mm×40mmの試験片を切り出した。この試験片の面内位相差Re、および厚み方向位相差Rthを、自動複屈折計(王子計測株式会社製 KOBRA−WR)を用いて、温度23±2℃、湿度50±5%において、波長590nmの条件で測定した。
【0169】
(グラフト共重合体の相溶性評価:滞留キャピロリボン評価)
表1に記載の配合比率でアクリル系樹脂とグラフト共重合体とを混練して得られたアクリル系樹脂組成物のペレットを、東洋精機社製キャピログラフ1Dを使用し、炉体温度270℃にて、ピストン降下速度0.5m/minで90分間かけて、キャピラリー長10mm、スリット形状0.35×5mmのリボンダイスから低速吐出させ、リボン状樹脂を得た。株式会社キーエンス社製のマイクロスコープVHX−1000を使用し、得られたリボン状樹脂の表面を倍率100倍で観察した。
【0170】
本評価は、ポリマーフィルター内において、アクリル系樹脂組成物が滞留した状態を再現するモデル実験である。アクリル系樹脂とグラフト共重合体の相溶性が悪い場合には、時間経過と共に、グラフト共重合体が凝集し、リボン状樹脂の表面に凝集物由来の凹凸が発生し、表面性が悪化する。表面状態をマイクロスコープで目視観察し、その状態を、悪い→良好の順に、×、○、◎で評価した。
【0171】
(アクリル系樹脂フィルムの引張評価)
実施例および比較例で得られたアクリル系樹脂フィルムを用いて引張試験を行い、引張伸度、降伏応力、破断点応力を求めた。引張試験は、ISO527−3(JIS K 7127)に準拠し、試験片は試験片タイプ5、標線間距離40mm、チャック間距離80mm、MD方向にて、テストスピード200mm/minの条件で実施した。
【0172】
(アクリル系樹脂フィルムのカッター評価)
実施例および比較例で得られたアクリル系樹脂フィルムを用い、フィルムにカッターで傷を入れ、傷の両端部に発生したクラック数をカウントした。
【0173】
(アクリル系樹脂フィルムの異物数)
フィルム成形を開始してから5時間目に取得したアクリル系樹脂フィルムを用い、株式会社キーエンス社製のマイクロスコープVHX−1000を使用し、以下の要領でフィルム中の異物数をカウントした。まず、A4サイズにカットしたアクリル系樹脂フィルムに対し、照度4200ルクスの光源を照射しながら、目視にて、実体の核は無いが、凸状の光学的歪みを与えうるフィルム欠陥の数をカウントした。これら欠陥は、フィルムのTEM観察によって、重合グラフト共重合体の凝集物が原因であることがわかっている。A4サイズで得られた異物数を単位m換算し、mあたりのフィルム異物数として算出した。なお、フィルム表面の付着ゴミ、フィルム搬送時のキズなどの欠陥はカウントから除いた。 (アクリル系樹脂フィルムの外観性)
実施例、及び比較例で得られたアクリル系樹脂フィルムの外観を以下の観点で目視評価した。
○:ダイライン、凹み欠陥が無い。
△:ダイライン、凹み欠陥が僅かに見られる。
×:ダイライン、凹み欠陥が見られる。
【0174】
(製造例1)
<グルタルイミドアクリル系樹脂(A)の製造>
ポリメタクリル酸メチルを原料樹脂として、イミド化剤としてモノメチルアミンを用いて、グルタルイミドアクリル系樹脂(A)を製造した。
【0175】
グルタルイミドアクリル系樹脂(A)の製造においては、押出反応機を2台直列に並べたタンデム型反応押出機を用いるが、第1押出機、第2押出機共に直径が75mm、L/D(押出機の長さLと直径Dの比)が74の噛合い型同方向二軸押出機を使用し、定重量フィーダー(クボタ(株)製)を用いて、第1押出機の原料供給口に原料樹脂を供給した。
【0176】
第1押出機、第2押出機における各ベントの減圧度はおよそ−0.090MPaとした。更に、直径38mm、長さ2mの配管で第1押出機と第2押出機を接続し、第1押出機の樹脂吐出口と第2押出機の原料供給口を接続する部品内圧力制御機構には定流圧力弁を用いた。
【0177】
第2押出機から吐出された樹脂(ストランド)は、冷却コンベアで冷却した後、ペレタイザでカッティングしペレットとした。ここで、第1押出機の樹脂吐出口と第2押出機の原料供給口を接続する部品内圧力調整、又は押出変動を見極めるために、第1押出機の吐出口、第1押出機と第2押出機間の接続部品の中央部、および、第2押出機の吐出口に樹脂圧力計を設けた。
【0178】
第1押出機において、原料樹脂としてポリメタクリル酸メチル樹脂(Mw:10.5万)を使用し、イミド化剤として、モノメチルアミンを用いてイミド樹脂中間体1を製造した。この際、押出機の最高温部の温度は280℃、スクリュー回転数は55rpm、原料樹脂供給量は150kg/時間、モノメチルアミンの添加量は原料樹脂100部に対して2.0部とした。定流圧力弁は第2押出機の原料供給口直前に設置し、第1押出機のモノメチルアミン圧入部圧力を8MPaになるように調整した。
【0179】
第2押出機において、リアベント及び真空ベントで残存しているイミド化剤及び副生成物を脱揮したのち、エステル化剤として炭酸ジメチルを添加しイミド樹脂中間体2を製造した。この際、押出機の各バレル温度は260℃、スクリュー回転数は55rpm、炭酸ジメチルの添加量は原料樹脂100部に対して3.2部とした。更に、ベントでエステル化剤を除去した後、ストランドダイから押し出し、水槽で冷却した後、ペレタイザでペレット化することで、グルタルイミドアクリル系樹脂(A)を得た。
【0180】
得られたグルタルイミドアクリル系樹脂(A)は、一般式(1)で表されるグルタミルイミド単位と、一般式(2)で表される(メタ)アクリル酸エステル単位が共重合したアクリル系樹脂である。
【0181】
グルタルイミドアクリル系樹脂(A)について、上記の方法に従って、イミド化率、グルタルイミド単位の含有量、酸価、ガラス転移温度、および、屈折率を測定した。その結果、イミド化率は13%、グルタルイミド単位の含有量は7重量%、酸価は0.4mmol/g、ガラス転移温度は125℃、屈折率は1.50であった。
【0182】
(製造例2)
<グラフト共重合体(B1)の製造>
撹拌機付き8L重合装置に、以下の物質を仕込んだ。
脱イオン水 180部
ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸 0.002部
ホウ酸 0.4725部
炭酸ナトリウム 0.04725部
水酸化ナトリウム 0.0076部
重合機内を窒素ガスで充分に置換した後、内温を80℃にし、過硫酸カリウム0.021部を2%水溶液で入れ、次いで、メタクリル酸メチル84.6重量%、アクリル酸ブチル5.9重量%、スチレン7.9重量%、メタクリル酸アリル0.5重量%、n−オクチルメルカプタン1.1重量%からなる単量体混合物21部にポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸を0.07部加えた混合液を63分かけて連続的に添加した。さらに60分重合を継続することにより、硬質重合体(I)の重合物を得た。重合転化率は99.0%であった。
【0183】
その後、水酸化ナトリウム0.021部を2%水溶液で、過硫酸カリウム0.062部を2%水溶液で添加し、次いで、アクリル酸ブチル72.8重量%、スチレン25.7重量%、メタクリル酸アリル1.5重量%からなる単量体混合物39部にポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸0.25部加えた混合液を117分かけて連続的に添加した。添加終了後、過硫酸カリウム0.012部を2%水溶液で添加し、120分重合を継続し、重合物を得た。重合転化率は99.0%であり、平均粒子径は234nmであった。
【0184】
その後、過硫酸カリウム0.04部を2%水溶液で添加し、メタクリル酸メチル93.7重量%、アクリル酸ブチル2.5重量%、アクリロニトリル3.8重量%からなる単量体混合物26.1部を78分かけて連続的に添加した。さらに30分重合を継続し、重合物を得た。重合転化率は99.8%であった。
【0185】
その後、メタクリル酸メチル72.2重量%、アクリル酸ブチル24重量%、アクリロニトリル3.8重量%からなる単量体混合物13.9部を42分かけて連続的に添加した。さらに60分重合を継続し、グラフト共重合体(B1)のラテックスを得た。重合転化率は100.0%であった。
【0186】
得られた重合ラテックスを硫酸マグネシウムで凝固し、熱処理、脱水、洗浄、乾燥を行い、白色粉末状のグラフト共重合体(B1)を得た。グラフト重合体(B1)のグラフト率は33.0%であった。
【0187】
(製造例3)
<グラフト共重合体(B2)の製造>
製造例2において、硬質重合体(III)の単量体混合物として、メタクリル酸メチル89.9重量%、アクリル酸ブチル2.5重量%、アクリロニトリル7.6重量%からなる単量体混合物26.1部を使用し、硬質重合体(IV)の単量体混合物として、メタクリル酸メチル68.4重量%、アクリル酸ブチル24重量%、アクリロニトリル7.6重量%からなる単量体混合物13.9部をを使用するようにした以外は、製造例2と同様にして、白色粉末状のグラフト共重合体(B2)を得た。グラフト重合体(B2)の架橋重合体の平均粒子径は235nmであり、グラフト率は33.2%であった。
【0188】
(製造例4)
<グラフト共重合体(B3)の製造>
製造例2において、軟質重合体(III)の単量体混合物としてメタクリル酸メチル97.5重量%、アクリル酸ブチル2.5重量%からなる単量体混合物26.1部を使用し、硬質重合体(IV)の単量体混合物としてメタクリル酸メチル76重量%、アクリル酸ブチル24重量%からなる単量体混合物13.9部を使用するようにした以外は製造例2と同様にして、白色粉末状のグラフト共重合体(B3)を得た。グラフト重合体(B3)の架橋重合体の平均粒子径は234nmであり、グラフト率は32.8%であった。
【0189】
(製造例5)
<グラフト共重合体(B4)の製造>
製造例2において、軟質重合体(III)の単量体混合物としてメタクリル酸メチル95.6重量%、アクリル酸ブチル2.5重量%、アクリロニトリル1.9重量%からなる単量体混合物26.1部を使用し、硬質重合体(IV)の単量体混合物としてメタクリル酸メチル74.1重量%、アクリル酸ブチル24重量%、アクリロニトリル1.9重量%からなる単量体混合物13.9部を使用するようにした以外は製造例2と同様にして、白色粉末状のグラフト共重合体(B4)を得た。グラフト重合体(B4)の架橋重合体の平均粒子径は232nmであり、グラフト率は33.1%であった。
【0190】
(実施例1)
直径40mmのフルフライトスクリューを用いた単軸押出機を用い、押出機の温度調整ゾーンの設定温度を255℃、スクリュー回転数を52rpmとし、アクリル系樹脂(A)80.7部、グラフト共重合体(B1)19.3部、酸化防止剤(BASF社製IRGANOX1010)0.6部、紫外線吸収剤(株式会社ADEKA製アデカスタブLA−F70)0.8部からなる混合物を、、10kg/hrの割合で供給した。押出機出口に設けられたダイスからストランドとして出てきた樹脂を水槽で冷却し、ペレタイザでペレット化した。
【0191】
得られたペレットを、目開き5μmのリーフディスクフィルターを備えた、出口にTダイを接続した単軸押出機を用い、押出機の温度調整ゾーンの設定温度を260℃、スクリュー回転数を20rpmとし、ペレットを10kg/hrの割合で供給し、溶融押出することにより、膜厚40μmのアクリル系樹脂フィルムを得た。これらアクリル系樹脂フィルムについて前記の測定方法により各種物性を評価し、評価結果を表1に示す。
【0192】
(実施例2)
実施例1において、グラフト共重合体(B1)の代わりに、グラフト共重合体(B2)を使用した以外は、実施例1と全く同様の方法にて、膜厚40μmのアクリル系樹脂フィルムを得た。得られたアクリル系樹脂フィルム各種物性の評価結果を表1に示す。
【0193】
(比較例1)
実施例1において、グラフト共重合体(B1)の代わりに、グラフト共重合体(B3)を使用した以外は、実施例1と全く同様の方法にて、膜厚40μmのアクリル系樹脂フィルムを得た。得られたアクリル系樹脂フィルムの各種物性の評価結果を表1に示す。
【0194】
(比較例2)
実施例1において、グラフト共重合体(B1)の代わりに、グラフト共重合体(B4)を使用した以外は、実施例1と全く同様の方法にて、膜厚40μmのアクリル系樹脂フィルムを得た。得られたアクリル系樹脂フィルムの各種物性の評価結果を表1に示す。
【0195】
【表1】
【0196】
表1に示すように、グラフト共重合体の単量体混合物の組成、層構造が当該請求の範囲にあるグラフト共重合体B1、B2をアクリル系樹脂(A)に配合して得られたアクリル系樹脂フィルムは、光学特性に優れ、光学フィルムに好適に使用できる。また、カッター評価のクラック数が減少するなど、フィルム強度も改善されていることがわかる。
【0197】
グラフト共重合体とアクリル系樹脂との相溶性にも優れることから、ポリマーフィルターを用いた溶融押出成形を行った場合でも、フィルター滞留部でグラフト共重合体由来の凝集物が形成されることがなく、異物が少ない外観性に優れたアクリル系樹脂フィルムが得られていることがわかる。
【0198】
(グラフト重合体の熱安定性評価)
製造例2〜5で得られたグラフト共重合体B1〜B4につき、先に記載の熱安定性評価を実施した。結果を表2に示した。
【0199】
【表2】
【0200】
表2に示すように、グラフト共重合体の単量体混合物の組成、層構造が当該請求の範囲にあるグラフト共重合体B1、B2は、熱安定性にも優れることがわかる。当該グラフト共重合体をアクリル系樹脂(A)に配合して得られたアクリル系樹脂フィルムは、表1に示すように、ダイラインや凹み欠陥などのフィルム外観不良の発生も抑制できていることがわかる。