特許第6703414号(P6703414)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6703414恒温槽付発振器、位置情報算出装置、及び基準信号発生装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6703414
(24)【登録日】2020年5月12日
(45)【発行日】2020年6月3日
(54)【発明の名称】恒温槽付発振器、位置情報算出装置、及び基準信号発生装置
(51)【国際特許分類】
   H03B 5/32 20060101AFI20200525BHJP
   H03L 1/02 20060101ALI20200525BHJP
   H03K 3/011 20060101ALI20200525BHJP
   H03K 3/03 20060101ALI20200525BHJP
【FI】
   H03B5/32 A
   H03L1/02
   H03K3/011
   H03K3/03
【請求項の数】10
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-25310(P2016-25310)
(22)【出願日】2016年2月12日
(65)【公開番号】特開2017-143498(P2017-143498A)
(43)【公開日】2017年8月17日
【審査請求日】2019年1月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000166247
【氏名又は名称】古野電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118784
【弁理士】
【氏名又は名称】桂川 直己
(72)【発明者】
【氏名】宮原 一典
(72)【発明者】
【氏名】山階 克久
【審査官】 橋本 和志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−092302(JP,A)
【文献】 特開2006−222725(JP,A)
【文献】 特開2001−251141(JP,A)
【文献】 特開2007−273420(JP,A)
【文献】 特開2001−355574(JP,A)
【文献】 特開2014−060682(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03B 5/32
H03K 3/011
H03K 3/03
H03L 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
恒温槽内に配置され、所定の周波数の信号を発生させる発振部と、
前記恒温槽内の温度又は当該温度に関連する値を取得する温度取得部と、
前記恒温槽内を加熱する加熱部と、
デジタル回路で構成され、前記温度取得部が取得した温度に基づいて、前記加熱部を制御するための加熱制御信号を生成する制御部と、
を備え
前記加熱部は、演算による回路の発熱を利用して恒温槽内の加熱を行い、
前記発振部はデジタル制御発振器であり、
前記温度取得部は、恒温槽内に配置された前記発振部の出力と、恒温槽外に配置された第2発振部の出力と、を比較することで、温度に関連する値を取得することを特徴とする恒温槽付発振器。
【請求項2】
恒温槽内に配置され、所定の周波数の信号を発生させる発振部と、
前記恒温槽内の温度又は当該温度に関連する値を取得する温度取得部と、
前記恒温槽内を加熱する加熱部と、
デジタル回路で構成され、前記温度取得部が取得した温度に基づいて、前記加熱部を制御するための加熱制御信号を生成する制御部と、
前記発振部の周囲の温度と、当該発振部の温度特性と、を考慮して、当該発振部に設定する発振制御値を補正するための補償値を算出する補償値算出部と、
前記補償値算出部が算出した補償値に基づいて、前記発振制御値を補正して前記発振部に出力する制御値補正部と、
を備えることを特徴とする恒温槽付発振器。
【請求項3】
恒温槽内に配置され、所定の周波数の信号を発生させる発振部と、
前記恒温槽内の温度又は当該温度に関連する値を取得する温度取得部と、
前記恒温槽内を加熱する加熱部と、
デジタル回路で構成され、前記温度取得部が取得した温度に基づいて、前記加熱部を制御するための加熱制御信号を生成する制御部と、
を備え
前記制御部は、前記温度取得部が取得した温度と、前記恒温槽内の目標温度と、の温度差に基づいて、前記加熱制御信号の生成方法を変化させることで、当該温度差に対する追従性を変化させることを特徴とする恒温槽付発振器。
【請求項4】
請求項3に記載の恒温槽付発振器と、
前記恒温槽付発振器が出力した信号又はそれに基づく信号と、リファレンス信号と、の位相を比較し、比較結果に基づいて前記恒温槽付発振器を制御する発振器制御部と、
前記発振器制御部と同じ基板に取り付けられ、GNSS衛星からの測位信号を受信するGNSSアンテナと、
前記発振器制御部と同じ基板に取り付けられ、前記GNSSアンテナが受信した測位信号に基づいて前記リファレンス信号を生成するGNSS受信部と、
前記恒温槽付発振器が出力する信号又は当該信号に基づく信号を基準信号として出力する出力部と、
を備えることを特徴とする基準信号発生装置。
【請求項5】
請求項に記載の恒温槽付発振器であって、
デジタル回路で構成され、前記制御部が出力する加熱制御信号を変調する変調部を備え
前記変調部は、ΔΣ変調を行うことを特徴とする恒温槽付発振器。
【請求項6】
請求項に記載の恒温槽付発振器であって、
デジタル回路で構成され、前記制御部が出力する加熱制御信号を変調する変調部を備え
前記変調部は、パルス幅変調を行うことを特徴とする恒温槽付発振器。
【請求項7】
請求項5又は6に記載の恒温槽付発振器であって、
アナログフィルタを備え、
前記変調部により変調された加熱制御信号は、前記アナログフィルタを通過した後に、前記加熱部に入力されることを特徴とする恒温槽付発振器。
【請求項8】
請求項5又は6に記載の恒温槽付発振器であって、
前記変調部により変調された加熱制御信号は、直接的に前記加熱部に入力されることを特徴とする恒温槽付発振器。
【請求項9】
請求項1、2、3、5、6、7、8の何れか一項に記載の恒温槽付発振器であって、
前記制御部は、外部から受信した内容に応じて、加熱制御信号の生成方法を更新することを特徴とする恒温槽付発振器。
【請求項10】
請求項1、2、3、5、6、7、8、9の何れか一項に記載の恒温槽付発振器と、
前記恒温槽付発振器が出力する信号をクロックとして用い、GNSS衛星からの電波に基づいて、位置情報を取得するGNSS受信部と、
を備えることを特徴とする位置情報算出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として、恒温槽付発振器に関する。詳細には、恒温槽内の温度を制御する構成に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、携帯電話の基地局やデジタル放送の送信局等では、信号を送信するタイミングや周波数の同期を行うために、基準信号発生装置が発生させた基準信号を用いている。基準信号発生装置は、発振器の出力信号と、GNSS受信機から得られる高精度なリファレンス信号と、を同期させることで高精度な出力信号を発生させる。
【0003】
特許文献1には、基準信号発生装置の発振器にリングオシレータを用いた構成が開示されている。また、特許文献2には、積算回路等を備えた数値制御発振器を利用して正弦波信号を生成する構成が開示されている。
【0004】
ところで、発振器は温度特性を有しており、同じ制御量を与えた場合であっても、周囲の温度に応じて異なる周波数の信号が発生する。そのため、従来から、周囲の温度を取得して、当該温度に応じて制御量を補正する構成の温度補償型水晶発振器(TCXO)が知られている。また、発振器を恒温槽で覆い、恒温槽内が一定の温度となるように制御を行う構成の恒温槽付水晶発振器(OCXO)についても知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−45674号公報
【特許文献2】特開2010−273299号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、恒温槽内を一定の温度になるように制御を行う制御部として、従来は、アナログ回路で構成されたループフィルタ等が用いられていた。このループフィルタは、恒温槽内の目標温度と、現在の恒温槽内の温度と、の温度差がゼロになるようにヒータの出力を調整する。
【0007】
しかし、従来のループフィルタは、アナログ回路で構成されるため、雑音が混入することがあった。また、アナログ回路で構成されたループフィルタは、複雑な現代制御等を実装することが困難となることがあった。
【0008】
本発明は以上の事情に鑑みてされたものであり、その目的は、恒温槽付発振器の温度を制御する制御部において、雑音の混入を防止可能であって、現代制御を容易に実装可能な構成を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0009】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0010】
本発明の第1の観点によれば、以下の構成の恒温槽付発振器が提供される。即ち、この恒温槽付発振器は、発振部と、温度取得部と、加熱部と、制御部と、を備える。前記発振部は、恒温槽内に配置され、所定の周波数の信号を発生させる。前記温度取得部は、前記恒温槽内の温度又は当該温度に関連する値を取得する。前記加熱部は、前記恒温槽内を加熱する。前記制御部は、デジタル回路で構成され、前記温度取得部が取得した温度に基づいて、前記加熱部を制御するための加熱制御信号を生成する。
【0011】
これにより、制御部をデジタル回路で構成することで、雑音等の影響を軽減することができるので、加熱部の制御を的確に行うことができる。また、I−PD制御、H∞制御、ファジー制御、及びこれらを組み合わせた制御等(現代制御)を比較的容易に実装できる。
【0012】
前記の恒温槽付発振器においては、前記制御部は、外部から受信した内容に応じて、加熱制御信号の生成方法を更新することが好ましい。
【0013】
これにより、本願では制御部がデジタル回路で構成されるため、FPGAによるハードウェアの更新や、ネットワークを介したソフトウェアの更新等により、加熱制御信号の生成方法を容易に更新できる。従って、使用する発振部の変更や、生成方法の改善等に柔軟に対応することができる。
【0014】
前記の恒温槽付発振器においては、前記制御部は、前記温度取得部が取得した温度と、前記恒温槽内の目標温度と、の温度差に基づいて、当該温度差に対する追従性を変化させることが好ましい。
【0015】
これにより、例えば温度差が小さいときは追従性を低くすることで、温度を安定させる(温度変化を小さくする)ことができる。一方、温度差が大きいときは追従性を高くすることで、当該温度差を素早くゼロに近づけることができる。
【0016】
前記の恒温槽付発振器においては、デジタル回路で構成され、前記制御部が出力する加熱制御信号を変調する変調部を備えることが好ましい。
【0017】
これにより、制御部だけでなく変調部もデジタル回路で構成することで、加熱制御信号に雑音が混入することを一層抑制することができる。
【0018】
前記の恒温槽付発振器においては、前記変調部は、ΔΣ変調を行うことが好ましい。
【0019】
これにより、安価な構成で高い分解能を発揮させることができる。
【0020】
前記の恒温槽付発振器においては、前記変調部は、パルス幅変調を行うことが好ましい。
【0021】
これにより、安価な構成で高い分解能を発揮させることができる。
【0022】
前記の恒温槽付発振器においては、以下の構成とすることが好ましい。即ち、この恒温槽付発振器は、アナログフィルタを備える。前記変調部により変調された加熱制御信号は、前記アナログフィルタを通過した後に、前記加熱部に入力される。
【0023】
これにより、加熱制御信号に含まれるスプリアスを軽減することができる。
【0024】
前記の恒温槽付発振器においては、前記変調部により変調された加熱制御信号は、直接的に前記加熱部に入力されることが好ましい。
【0025】
これにより、加熱部がパルス幅等で制御可能であれば、部品点数を減らして、安価かつコンパクトな構成が実現できる。
【0026】
前記の恒温槽付発振器においては、前記加熱部は、演算による回路の発熱を利用して恒温槽内の加熱を行うことが好ましい。
【0027】
これにより、制御部等に加えて、加熱部もデジタル回路で構成できるので、アナログフィルタ等を省略して部品点数を減らすことができる。
【0028】
前記の恒温槽付発振器においては、以下の構成とすることが好ましい。即ち、前記発振部はデジタル制御発振器である。前記温度取得部は、恒温槽内に配置された前記発振部の出力と、恒温槽外に配置された第2発振部の出力と、を比較することで、温度に関連する値を取得する。
【0029】
これにより、恒温槽付発振器を全てデジタル化することができる。従って、コンパクトかつ安価な構成が実現できる。
【0030】
前記の恒温槽付発振器においては、以下の構成とすることが好ましい。即ち、この恒温槽付発振器は、補償値算出部と、制御値補正部と、を備える。前記補償値算出部は、前記発振部の周囲の温度と、当該発振部の温度特性と、を考慮して、当該発振部に設定する発振制御値を補正するための補償値を算出する。前記制御値補正部は、前記補償値算出部が算出した補償値に基づいて、前記発振制御値を補正して前記発振部に出力する。
【0031】
これにより、恒温槽による温度補償だけでなく、補償値算出部による温度補償が行われることとなるので、温度変化に基づく周波数変化の影響を一層軽減することができる。
【0032】
本発明の第2の観点によれば、前記の恒温槽付発振器と、前記恒温槽付発振器が出力する信号をクロックとして用い、GNSS衛星からの電波に基づいて位置情報を取得するGNSS受信部と、を備える位置情報算出装置が提供される。
【0033】
これにより、本願の恒温槽付発振器は温度特性の影響が小さいので、衛星捕捉時に、発振部自身の周波数ズレをあまり考慮しなくて良い。従って、GNSS受信部の周波数のサーチ範囲が広くなるため、TTFF(初期位置算出時間)を短縮することができる。
【0034】
本発明の第3の観点によれば、以下の構成の基準信号発生装置が提供される。即ち、この基準信号発生装置は、発振器制御部と、出力部と、を備える。前記発振器制御部は、位相を比較し、比較結果に基づいて前記恒温槽付発振器を制御する。前記出力部は、前記恒温槽付発振器が出力する信号又は当該信号に基づく信号を基準信号として出力する。
【0035】
これにより、恒温槽内の温度を的確に制御できるので、基準信号発生装置の設置箇所の温度変化の影響を軽減可能な基準信号発生装置が実現できる。
【0036】
前記の基準信号発生装置においては、以下の構成とすることが好ましい。即ち、この基準信号発生装置は、GNSSアンテナと、GNSS受信部と、を備える。前記GNSSアンテナは、前記発振器制御部と同じ基板に取り付けられ、GNSS衛星からの測位信号を受信する。前記GNSS受信部は、前記発振器制御部と同じ基板に取り付けられ、前記GNSSアンテナが受信した測位信号に基づいてリファレンス信号を生成する。
【0037】
これにより、GNSSアンテナと基板とを接続するケーブルを配設する必要がなくなるため、基準信号発生装置の設置コストを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
図1】本発明の一実施形態に係る基準信号発生装置の構成を示すブロック図。
図2】恒温槽付発振器の構成を示すブロック図。
図3】恒温槽付発振器の第1変形例を示すブロック図。
図4】恒温槽付発振器の第2変形例を示すブロック図。
図5】電圧制御発振器の代わりに用いられるリングオシレータを説明する図。
図6】恒温槽付発振器の第3変形例を示すブロック図。
図7】恒温槽付発振器が位置情報算出装置に適用される例を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0039】
次に発明の実施の形態について説明する。初めに、図1を参照して、基準信号発生装置10の全体構成について説明する。図1は、本実施形態の基準信号発生装置10を概略的に示したブロック図である。
【0040】
本実施形態の基準信号発生装置10は、携帯電話の基地局、地上デジタル放送の送信局及びWiMAX(Worldwide Interoperability for Microwave Access)の通信設備等に用いられるものであり、接続されるユーザ側の機器に基準タイミング信号や基準周波数信号を提供するものである。以下に、基準信号発生装置10の各部の構成について説明する。
【0041】
図1に示すように、本実施形態の基準信号発生装置10は、GPS受信部21と、発振器制御部22と、恒温槽付発振器23と、分周部24と、を備える。発振器制御部22、恒温槽付発振器23、及び分周部24は、PLL回路44を構成している。
【0042】
基準信号発生装置10の入力部41には、GPSアンテナ(GNSSアンテナ)11が接続されている。GPSアンテナ11がGPS衛星(GNSS衛星)から受信した測位用信号は、この入力部41を介して、GPS受信部21へ入力される。GPS受信部21は、この測位用信号に基づいて測位計算を行うことで、リファレンス信号(1秒に1回のパルス信号)を生成する。このリファレンス信号は、協定世界時(UTC)の1秒に正確に同期するように適宜較正されている。
【0043】
恒温槽付発振器23は、外部から印加される電圧(発振制御値)によって出力する周波数を変更可能に構成されている。この恒温槽付発振器23の出力信号は、基準周波数信号として出力部42から外部のユーザ側のシステムへ出力されるとともに、分周部24に入力される。なお、恒温槽付発振器23の詳細については後述する。
【0044】
分周部24は、恒温槽付発振器23から入力される基準周波数信号を分周して高い周波数から低い周波数に変換し、得られた位相比較用信号を発振器制御部22へ出力するように構成されている。また、この位相比較用信号は、基準タイミング信号(1PPS信号)として出力部43から外部のユーザ側のシステムに対しても出力される。例えば、恒温槽付発振器23が出力する基準周波数が10MHzである場合、分周部24は、恒温槽付発振器23が出力する10MHzの信号を分周比1/10000000で分周して、1Hzの位相比較用信号を生成する。
【0045】
発振器制御部22には、前記リファレンス信号と、この位相比較用信号と、が入力される。発振器制御部22は、これらの信号の位相を比較して位相差を求め、その位相差に基づく信号(位相差信号)を生成する。また、発振器制御部22は、この位相差信号の高周波成分の遮断及び雑音の除去を行った後に、位相差信号を恒温槽付発振器23へ出力する。なお、発振器制御部22は、両信号の比較結果を出力する構成であれば良く、信号の処理方法は任意である。
【0046】
以上に説明した構成によって、PLL回路44のループが構成され、リファレンス信号としての1PPS信号に出力信号が同期するように恒温槽付発振器23が制御される。従って、GPS受信部21が1PPS信号を生成して基準信号発生装置10に供給し、当該1PPS信号に対してPLLがロックしている限り、経時変化や周囲の温度変化等に起因して恒温槽付発振器23の特性の変動が生じたとしても、基準信号発生装置10の基準信号を高精度に保つことができる。
【0047】
次に、恒温槽付発振器23について詳細に説明する。図2は、恒温槽付発振器23の構成を示すブロック図である。図3は、恒温槽付発振器23の第1変形例を示すブロック図である。
【0048】
図2に示すように、恒温槽付発振器23は、第1温度補償部50と、第2温度補償部60と、を備えている。第1温度補償部50は、恒温槽による温度補償を実現する構成であり、OCXOに相当する部分である。第2温度補償部60は、補償値を算出して温度補償を実現する構成であり、TCXOに相当する部分である。
【0049】
初めに、第1温度補償部50について説明する。第1温度補償部50は、電圧制御発振器(発振部)30と、温度センサ(温度取得部)51と、目標値出力部52と、減算部53と、制御部54と、変調部55と、アナログフィルタ56と、ヒータ(加熱部)57と、を備えている。
【0050】
電圧制御発振器30は、水晶振動子を共振器として使用したVCXO(Voltage Controlled Crystal Oscillator)であり、外部から印加される電圧(発振制御値)のレベルによって出力する周波数を変更可能に構成されている。なお、電圧制御発振器30は、恒温槽内に配置されている。
【0051】
温度センサ51は、恒温槽内の温度を検出するセンサである。本実施形態では、電圧制御発振器30の特性等に応じて、恒温槽内の目標温度が予め設定されている。目標値出力部52は、この目標温度を出力する。減算部53は、目標値出力部52が出力する目標温度から、温度センサ51が出力する温度を減算する等して、目標温度との差(温度差)を求め、制御部54へ出力する。
【0052】
制御部54は、デジタル回路で構成されている。具体的には、制御部54は、FPGA(Field−Programmable Gate Array)やCPU等で構成されている。制御部54は、現在の温度が目標温度に近づくように、ヒータ57をデジタル制御するための加熱制御信号を生成する。
【0053】
変調部55は、制御部54とともにデジタル回路で構成されている。変調部55が行う変調としては、例えばΔΣ変調やパルス幅変調が考えられる。変調部55により変調された加熱制御信号は、アナログフィルタ56によってアナログ信号として出力される。なお、ΔΣ変調やパルス幅変調とアナログフィルタ56によってD/A変換を行うことで、従来のD/Aコンバータを使用する場合と比較して、分解能を向上させることができるとともに、安価な構成とすることができる。
【0054】
ヒータ57は、恒温槽内に配置されている。ヒータ57は、例えば、トランジスタ及び抵抗で構成されており、加熱制御信号に応じた電流を流すことで恒温槽内を加熱することができる。なお、トランジスタとしては、FET(電界効果トランジスタ)等を利用することができる。また、抵抗に代えてコイルを利用することもできる。
【0055】
ところで、恒温槽内の温度が目標温度より低い場合、制御部54は、ヒータ57を動作させる指示を行う。しかし、ヒータ57の出力を大きくすると、ヒータ57が動作してから実際に恒温槽内の温度が上昇するまではタイムラグがあること等から、恒温槽内の温度が目標温度を超えてしまうことがある(オーバーシュート)。更に、ヒータ57の出力が大きい場合は、恒温槽内の温度と目標温度との差が小さいときに、恒温槽内の温度が上下して安定しないことがある(ハンチング)。一方で、ヒータ57の出力を小さくすると、恒温槽内の温度が目標温度になるまでの時間が長くなってしまう。
【0056】
以上の点を考慮して、本実施形態では、現在の温度と目標温度との差(温度差)に応じて、追従性を変化させる制御を行う。具体的には、温度差が所定以上小さいときは、PID制御等により加熱制御信号を生成することで、上記のオーバーシュート及びハンチング等を防止できる。一方、温度差が所定よりも大きいときは、ヒータ57の出力を最大にする(追従性を高くする)ように加熱制御信号を生成することで、PID制御を行うよりも素早く目標温度に近づけることができる。なお、ここで説明した制御は一例であり、H∞制御、ファジー制御、及びそれらを組み合わせた制御等を行うこともできる。特に、本実施形態は御部54がデジタル回路で構成されているので、このような現代制御を比較的容易に実装できる。
【0057】
更に、御部54がデジタル回路で構成されているので、工場出荷後であっても、加熱制御信号の生成方法を容易に変更することができる。具体的には、御部54がFPGAである場合、FPGAの構成を再定義(再構成)することで、加熱制御信号の生成方法を変更できる。また、御部54がCPUで構成される場合、CPUが実行するプログラムを、ネットワークを介して更新することで、加熱制御信号の生成方法を変更できる。
【0058】
なお、アナログフィルタ56は必須ではなく、ヒータ57がパルス幅により制御可能である場合は、図3に示すようにアナログフィルタ56を省略した構成であっても良い(第1変形例)。この場合、スプリアスが除去できないが、部品点数を減らせるという利点がある。
【0059】
次に、第2温度補償部60について説明する。図2に示すように、第2温度補償部60は、電圧制御発振器30と、温度センサ61と、補償値算出部62と、制御値補正部63と、変調部64と、アナログフィルタ65と、を備えている。
【0060】
温度センサ61は、電圧制御発振器30の周囲の温度を検出するセンサである。なお、温度センサ61を省略し、温度センサ51の検出結果を利用することもできる。
【0061】
補償値算出部62は、電圧制御発振器30の周囲の温度により生じる周波数のズレを予め補正するための補償値を算出する。この補償値は、温度センサ61の検出結果と、電圧制御発振器30の温度特性と、に基づいて、算出される。なお、電圧制御発振器30の温度特性は、予め記憶したテーブル等を使用し続けても良いし、当該テーブルを更新して使用しても良い。
【0062】
制御値補正部63は、制御部54と同様にデジタル回路で構成されており、発振器制御部22が出力した制御電圧(発振制御値)に、この補償値を加えることにより、発振制御値を補正する。この発振制御値は、デジタル回路で構成された変調部64により適宜変調され、アナログフィルタ65を通過させることで、アナログ信号として電圧制御発振器30へ出力される。電圧制御発振器30は、この発振制御値に応じた周波数の信号を出力信号として出力する。
【0063】
第2温度補償部60は、以上のように構成される。なお、第2温度補償部60は、図4に示すように構成されていても良い(第2変形例)。第2変形例の第2温度補償部60は、目標温度を出力する目標値出力部66と、目標温度と温度センサ61が検出した温度の温度差を算出する減算部67と、を備えている。また、制御値補正部63は、減算部67が出力した温度差を打ち消すように、発振制御値を補正して出力する。
【0064】
このように、本実施形態では、第1温度補償部50及び第2温度補償部60を備え、かつ、それぞれがデジタル制御を行うため、基準信号発生装置10の設置箇所の温度変化に対して耐性を持たせることができる。
【0065】
また、上記では、水晶発振器である電圧制御発振器30を発振部とする例を説明したが、発振部はこれに限られず、ルビジウム発振器、数値制御発振器、リングオシレータ、及びLC−DCO(デジタル制御LC発振器)等を利用することができる。以下、リングオシレータ及びLC−DCOについて説明する。なお、以下のリングオシレータ及びLC−DCOは公知の構成であるため、簡単に説明する。図5は、電圧制御発振器30の代わりに用いられるリングオシレータ31,32、又はLC−DCO33(発振部)を説明する図である。なお、以下の説明において、制御値補正部63が出力する発振制御値は、制御電圧ではなく、それぞれのリングオシレータ又はLC−DCOを制御するための値である。
【0066】
図5(a)に示すリングオシレータ31は、インバータ71と、遅延素子72と、セレクタ73と、を備えている。インバータ71は、信号のHIとLOWを反転させる。遅延素子72は、信号を所定時間だけ遅延させる。また、リングオシレータ31は、段数に応じて通過する遅延素子72の数が異なるように構成された複数段の回路を有している。この複数段の回路を通過した信号は、それぞれセレクタ73へ出力される。
【0067】
セレクタ73には、複数段の回路を通過した信号と、制御値補正部63が出力した発振制御値と、が入力されている。セレクタ73は、この発振制御値に応じて選択した信号を出力する。出力された信号は、帰還されてインバータ71によって反転する。この処理を繰り返すことにより、パルス信号を生成することができる。なお、このパルス信号は、セレクタ73が出力する信号を変更することで、周波数を調整可能である。このパルス信号は、出力信号として出力される。
【0068】
図5(b)に示すリングオシレータ32は、インバータ71及び遅延素子72に加え、電源74を備えている。電源74は、制御値補正部63が出力する発振制御値に応じて、インバータ71及び遅延素子72に供給する電圧を変化させる。インバータ71及び遅延素子72に供給する電圧が変化すると、これらの遅延時間も変化する。以上により、周波数を調整可能なパルス信号を生成することができる。このパルス信号は、出力信号として出力される。
【0069】
図5(c)に示すLC−DCO33は、セレクタ75と、キャパシタ76と、スイッチ77と、共振部78と、インバータ79と、を備えている。セレクタ75は、制御値補正部63が出力する発振制御値に応じて、スイッチ77のスイッチを切り替える。これにより、共振部78の同調周波数を変化させることができる。また、共振部78が出力する信号は、インバータ79で反転された後に再び共振部78に入力される。以上により、周波数を調整可能なパルス信号を生成することができる。このパルス信号は、出力信号として出力される。
【0070】
次に、上記ではアナログ回路で構成された温度センサ51、温度センサ61、及びヒータ57をデジタル化した構成の第3変形例について説明する。図6は、恒温槽付発振器23の第3変形例を示すブロック図である。
【0071】
本変形例の恒温槽付発振器23は、ヒータ57に代えて、加熱用演算部(加熱部)85を備えている。加熱用演算部85は、カウンタ等で構成されており、制御部54が出力した加熱制御信号に応じて適当な演算を行う。加熱用演算部85は、この演算時に発生する熱を利用して加熱を行う構成である。なお、加熱用演算部85が発生させる熱量は平均処理速度に依存するため、加熱部の出力を調整することができる。
【0072】
また、本変形例の恒温槽付発振器23は、温度センサ51及び温度センサ61に代えて、第2DCO(第2発振部)82、比較部83及び直線化補償部84を備えており、電圧制御発振器30に代えて第1DCO(デジタル制御発振器、発振部)81を備えている。第1DCO81と第2DCO82は同等の構成であるが、第1DCO81は恒温槽の内部に配置され、第2DCO82は恒温槽の外部に配置される。また、上述のように発振器の出力信号は温度依存性があるため、第1DCO81の出力信号と、第2DCO82の出力信号と、を比較することで、恒温槽内の温度を推定することができる。
【0073】
このようにして推定された温度は、直線性を有する方が利用し易いため、直線化補償部84によって直線性を有するように変換される。なお、直線化補償部84は必須ではなく、省略することもできる。直線化補償部84によって変換された温度は、上記と同様に目標温度と比較され、上記と同様の制御が行われる。
【0074】
このように、ヒータ57と温度センサ61等をデジタル化することにより、恒温槽付発振器23の全てをデジタル化することができる。従って、半導体チップ上で恒温槽付発振器23を実現する等して、恒温槽付発振器23をコンパクトかつ安価にすることができる。
【0075】
次に、上記の恒温槽付発振器23を用いた他の例について説明する。図7は、恒温槽付発振器23が位置情報算出装置15に適用される例を示すブロック図である。
【0076】
図7に示す位置情報算出装置15は、GPSアンテナ11が取得した測位信号に基づいて位置情報を求める装置である。位置情報算出装置15は、上述のGPS受信部21及び恒温槽付発振器23から構成されている。本変形例の恒温槽付発振器23は、GPS受信部21へクロックを提供するための装置である。
【0077】
ところで、位置情報算出装置15のGPS受信部21は、電源がONになると、GPS衛星が送信した電波を取得して、自機の位置を求める処理を行う。具体的には、GPS受信部21は、GPS衛星が送信した電波に含まれている信号と、恒温槽付発振器23が生成したクロックに基づく信号と、の相関性を求める。そして、両信号が同期するまで自身が生成する信号の周波数を変化させる。
【0078】
このとき、一般的に発振器は温度特性の影響により周波数がズレていることがあるため、GPS受信部は、当該ズレ量を考慮して周波数を変化させる。この点、本実施形態の恒温槽付発振器23は温度特性の影響を殆ど無視できるので、周波数のズレを考慮しなくて良い。従って、GPS受信部21の周波数のサーチ範囲を狭くすることができる。そのため、GPS衛星が送信した電波を素早く取得することができるので、TTFF(初期位置算出時間)を短縮することができる。
【0079】
なお、PLL回路44がデジタル回路で構成されている場合は、恒温槽付発振器23の出力する信号をクロックとして供給しても良い(図7(a)を参照)。また、直前の測位演算結果である周波数ドリフトを記憶しておいて、恒温槽付発振器23の出力信号の中心周波数のズレを解消するように制御することもできる(図7(b)を参照)。また、図7(c)に示すように、GPS受信部21用及び入力部41用の両方に恒温槽付発振器23を配置しても良い(図7(c)を参照)。
【0080】
以上に説明したように、恒温槽付発振器23は、電圧制御発振器30と、温度センサ51と、ヒータ57と、制御部54と、を備える。電圧制御発振器30は、恒温槽内に配置され、所定の周波数の信号を発生させる。温度センサ51は、前記恒温槽内の温度又は当該温度に関連する値を取得する。ヒータ57は、前記恒温槽内を加熱する。制御部54は、デジタル回路で構成され、温度センサ51が取得した温度に基づいて、ヒータ57を制御するための加熱制御信号を生成する。
【0081】
これにより、制御部54をデジタル回路で構成することで、雑音等の影響を軽減することができるので、ヒータ57の制御を的確に行うことができる。また、I−PD制御、H∞制御、ファジー制御、及びこれらを組み合わせた制御等(現代制御)を比較的容易に実装できる。
【0082】
以上に本発明の好適な実施の形態及び変形例を説明したが、上記の構成は例えば以下のように変更することができる。
【0083】
上記実施形態及び変形例では、発生させる周波数を変更可能な恒温槽付発振器23を例に挙げて説明したが、一定の周波数を出力する恒温槽付発振器にも本発明を適用することができる。この場合、発振器制御部22による発振制御値の出力は不要である。
【0084】
図3においてアナログフィルタ56を省略した構成を説明したが、この構成は、電圧制御発振器30をリングオシレータ31,32やLC−DCO33に変更した例にも適用できる。また、図4において第2温度補償部60の変形例を説明したが、この構成は、電圧制御発振器30をリングオシレータ31,32やLC−DCO33に変更した例にも適用できる。
【0085】
上記実施形態及び変形例では、位相差を比較するPLL回路44を用いているが、周波数差を比較するFLL回路を用いることもできる。
【0086】
上記実施形態では、GPSアンテナ11は、所定のケーブルを介して、PLL回路44等が形成された基板と接続される構成である。これに代えて、この基板にGPSアンテナ11が直接的に取り付けられる構成であっても良い。この場合、ケーブルが不要となるので、基準信号発生装置の設置コストを低減できる。
【0087】
上記実施形態及び変形例は、GPS衛星からの信号に基づいてリファレンス信号を生成する構成であるが、GNSS(Global Navigation Satellite System)を利用する構成であれば、適宜変更することができる。例えば、GLONASS衛星やGALILEO衛星からの信号に基づいてリファレンス信号を生成する構成に変更することができる。また、外部装置からのリファレンス信号を取得する構成としても良い。
【0088】
GPS受信部21は、1PPSに代えて、PP2S等の1Hz以外の信号をリファレンス信号として生成する構成に変更することができる。また、GPS受信部21は、基準信号発生装置10の内部ではなく外部に配置されていても良い。
【0089】
基準信号発生装置10が備える各部は、ハードウェアとして構成することに代えて、ソフトウェアにより構成することもできる。
【符号の説明】
【0090】
10 基準信号発生装置
21 GPS受信部
22 発振器制御部
23 恒温槽付発振器
24 分周部
30 電圧制御発振器(発振部)
31,32 リングオシレータ(発振部)
33 LC−DCO
50 第1温度補償部
51 温度センサ(温度取得部)
52 目標値出力部
53 減算部
54 制御部
55 変調部
56 アナログフィルタ
57 ヒータ(加熱部)
60 第2温度補償部
81 第1DCO(発振部)
82 第2DCO(第2発振部)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7