特許第6703428号(P6703428)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6703428
(24)【登録日】2020年5月12日
(45)【発行日】2020年6月3日
(54)【発明の名称】電圧非直線抵抗素子及びその製法
(51)【国際特許分類】
   H01C 7/112 20060101AFI20200525BHJP
   C04B 35/453 20060101ALI20200525BHJP
【FI】
   H01C7/112
   C04B35/453
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-63624(P2016-63624)
(22)【出願日】2016年3月28日
(65)【公開番号】特開2017-183330(P2017-183330A)
(43)【公開日】2017年10月5日
【審査請求日】2018年10月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】特許業務法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石川 昌樹
(72)【発明者】
【氏名】早瀬 徹
(72)【発明者】
【氏名】小林 義政
(72)【発明者】
【氏名】森本 健司
【審査官】 木下 直哉
(56)【参考文献】
【文献】 特開平03−155601(JP,A)
【文献】 特開2015−195369(JP,A)
【文献】 特開昭54−036594(JP,A)
【文献】 特開昭55−150203(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01C 7/112
C04B 35/453
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化亜鉛を主成分とする第1層と、
前記第1層に接しており、酸化亜鉛を主成分とし、前記第1層と比べて厚みが薄く体積抵抗率が高い第2層と、
前記第2層のうち前記第1層と接する側とは反対側に接しており、ビスマス酸化物、マンガン酸化物及びコバルト酸化物の3成分からなる第3層と、
を備え
前記第1層の体積抵抗率は6×10-4Ωcm以下であり、
前記第2層の体積抵抗率は前記第1層の体積抵抗率より高く且つ2×10-3Ωcm以下である、
電圧非直線抵抗素子。
【請求項2】
前記第2層の厚みは0.2〜300nmである、
請求項に記載の電圧非直線抵抗素子。
【請求項3】
前記第1層は、Al,Ga及びInからなる群より選ばれた少なくとも1種の金属元素
の酸化物を含有している、
請求項1又は2に記載の電圧非直線抵抗素子。
【請求項4】
請求項1〜のいずれか1項に記載の電圧非直線抵抗素子を製造する方法であって、
(a)Al,Ga及びInからなる群より選ばれた少なくとも1種の金属元素を含有していてもよい酸化亜鉛粉末の成形体を非酸化雰囲気で焼成して酸化亜鉛セラミックス基板を作製する工程と、
(b)前記酸化亜鉛セラミックス基板を酸化雰囲気で焼成して前記酸化亜鉛セラミックス基板の表層を前記酸化亜鉛セラミックス基板の内部に比べて体積抵抗率が高い層に変化させることにより、前記酸化亜鉛セラミックス基板の内部及び表層をそれぞれ前記第1層及び前記第2層とする工程と、
(c)前記第2層の表面に前記第3層を形成する工程と、
を含む電圧非直線抵抗素子の製法。
【請求項5】
請求項1〜のいずれか1項に記載の電圧非直線抵抗素子を製造する方法であって、
(a)Al,Ga及びInからなる群より選ばれた少なくとも1種の金属元素を含有していてもよい酸化亜鉛粉末の成形体を非酸化雰囲気で焼成して酸化亜鉛セラミックス基板を作製する工程と、
(b)前記酸化亜鉛セラミックス基板の表面に、酸化亜鉛を主成分とし前記酸化亜鉛セラミックス基板に比べて厚みが薄く体積抵抗率が高い酸化亜鉛層を成膜することにより、前記酸化亜鉛セラミックス基板及び酸化亜鉛層をそれぞれ前記第1層及び前記第2層とする工程と、
(c)前記第2層の表面に前記第3層を形成する工程と、
を含む電圧非直線抵抗素子の製法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電圧非直線抵抗素子及びその製法に関する。
【背景技術】
【0002】
電圧非直線抵抗素子(バリスタ素子)は、電圧非直線抵抗体を一対の電極で挟んだ構造の素子であり、電子回路などを異常電圧から保護する素子として、湿度センサ、温度センサ等の各種センサに広く利用されている。この種の電圧非直線抵抗素子として、特許文献1には、酸化亜鉛を主成分とする領域と、ビスマス−アルカリ土類−銅の複合酸化物を含む領域との接合部を有する素子が開示されている。この電圧非直線抵抗素子は、以下の製法により製造される。まず、酸化亜鉛粉体を通常の成形方法によって成型し、大気中にて1250℃で2時間焼成する。その後、焼結体の両面を研磨し、とくにその一方の面についてはアルミナ微粉を用いて鏡面研磨を行う。その後有機溶剤で十分洗浄した後、高周波スパッタリング装置を用いて、酸化亜鉛焼結体の鏡面研磨した面上にBi−アルカリ土類−Cu酸化物のスパッタリング膜を形成する。次に870℃の酸素雰囲気中で24時間の熱処理を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特公平7−111922号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電圧非直線指数は、保護したい回路に電圧非直線抵抗素子を並列に接続した場合において、正常動作時に回路側に流れる電流量を示す指標である。電圧非直線指数が大きいほど、正常動作時に回路側に電流が流れるため、省エネルギー化を図ることができる。しかしながら、特許文献1の電圧非直線抵抗素子は、電圧非直線指数が約8しかなく、省エネルギー化を十分測ることができないという問題があった。
【0005】
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであり、酸化亜鉛領域に他の金属酸化物領域が接している構造の電圧非直線抵抗素子において、従来に比べて電圧非直線指数を大きくすることを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の電圧非直線抵抗素子は、
酸化亜鉛を主成分とする第1層と、
前記第1層に接しており、酸化亜鉛を主成分とし、前記第1層に比べて厚みが薄く体積抵抗率が高い第2層と、
前記第2層のうち前記第1層と接する側とは反対側に接しており、酸化亜鉛とは異なる金属酸化物を主成分とする第3層と、
を備えたものである。
【0007】
この電圧非直線抵抗素子では、酸化亜鉛を主成分とする第1層と酸化亜鉛とは異なる金属酸化物を主成分とする第3層との間に、酸化亜鉛を主成分とし、第1層に比べて厚みが薄く体積抵抗率が高い第2層が存在している。この第2層の存在により、電圧非直線指数が従来に比べて大きくなる。その結果、通常時すなわち低電圧時には、保護すべき回路と並列に接続される電圧非直線抵抗素子に電流が流れにくく、省エネルギー化を図ることができる。
【0008】
なお、主成分とは、最も多く含まれる成分のことをいい、例えば質量割合が最も高い成分のことをいう。
【0009】
本発明の電圧非直線抵抗素子において、前記第1層の体積抵抗率は1×10-2Ωcm以下であり、前記第2層の体積抵抗率は1×103Ωcm以下であることが好ましい。こうすれば、電圧非直線指数が十分大きくなる。第1層の体積抵抗率は6×10-4Ωcm以下であり、第2層の体積抵抗率は2×10-3Ωcm以下であることがより好ましい。こうすれば、保護すべき回路と並列に接続される電圧非直線抵抗素子にサージ電圧を印加したとき、電圧非直線抵抗素子に大きな電流を流すことができる。そのため、回路の保護効果が高まる。
【0010】
本発明の電圧非直線抵抗素子において、前記第2層の厚みは0.2〜300nmであることが好ましい。こうすれば、電圧非直線指数が十分大きくなる。
【0011】
本発明の電圧非直線抵抗素子において、前記第1層は、Al,Ga及びInからなる群より選ばれた少なくとも1種の金属元素の酸化物を含有していてもよい。このような3価の金属イオンを添加することにより、酸化亜鉛を主成分とする第1層の体積抵抗率を比較的容易に低抵抗にすることができる。
【0012】
本発明の電圧非直線抵抗素子において、前記第3層は、Sr,Bi及びPrからなる群より選ばれた1種の金属元素の酸化物を主成分とし、Si,Cr,Mn,Co,Ni,Zn,Sb及びLaからなる群より選ばれた少なくとも1種の金属元素の酸化物を含有していることが好ましい。こうすれば、主成分である金属酸化物に添加する他の金属酸化物の金属種や添加量を変化させることにより、種々の特性を持つ電圧非直線抵抗素子とすることができる。
【0013】
本発明の電圧非直線抵抗素子の製法は、
上述したいずれかの電圧非直線抵抗素子を製造する方法であって、
(a)Al,Ga及びInからなる群より選ばれた少なくとも1種の金属元素を含有していてもよい酸化亜鉛粉末の成形体を非酸化雰囲気で焼成して酸化亜鉛セラミックス基板を作製する工程と、
(b)前記酸化亜鉛セラミックス基板を酸化雰囲気で焼成して前記酸化亜鉛セラミックス基板の表層を前記酸化亜鉛セラミックス基板の内部に比べて体積抵抗率が高い層に変化させることにより、前記酸化亜鉛セラミックス基板の内部及び表層をそれぞれ前記第1層及び前記第2層とするか、又は、
前記酸化亜鉛セラミックス基板の表面に、酸化亜鉛を主成分とし前記酸化亜鉛セラミックス基板に比べて厚みが薄く体積抵抗率が高い酸化亜鉛層を成膜することにより、前記酸化亜鉛セラミックス基板及び酸化亜鉛層をそれぞれ前記第1層及び前記第2層とする工程と、
(c)前記第2層の表面に前記第3層を形成する工程と、
を含むものである。
【0014】
この製法によれば、上述した電圧非直線抵抗素子を容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】電圧非直線抵抗素子10の断面図。
図2】電圧非直線抵抗素子10の製造工程図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の好適な実施形態について、図面を参照しながら以下に説明する。図1は本実施形態の電圧非直線抵抗素子10の断面図である。
【0017】
電圧非直線抵抗素子10は、電圧非直線抵抗体(抵抗体と略す)20と、この抵抗体20を挟み込む一対の電極14,16とを備えている。
【0018】
抵抗体20は、酸化亜鉛を主成分とする第1層21と、同じく酸化亜鉛を主成分とする第2層22と、酸化亜鉛とは異なる金属酸化物を主成分とする第3層23とが積層された構造のものである。第2層22は、第1層21に接しており、厚みが第1層21より薄く、キャリア濃度が第1層21より低い。第3層23は、第2層22に接している。なお、第1層21の側面21a及び下面21bは、第1層21と同じ組成であってもよいし第2層22と同じ組成であってもよい。
【0019】
第1層21の体積抵抗率は、好ましくは1.0×10-2Ωcm以下、より好ましくは1.0×10-3Ωcm以下、更に好ましくは6.0×10-4Ωcm以下である。第2層22の体積抵抗率は、第1層21の体積抵抗率より高く、好ましくは1×103Ωcm以下、より好ましくは3×102Ωcm以下、更に好ましくは2×10-3Ωcm以下である。第2層22の厚みは、特に限定するものではないが、0.2〜300nmが好ましく、0.2〜10nmがより好ましく、1〜10nmが更に好ましい。第1層21は、Al,Ga及びInからなる群より選ばれた少なくとも1種の金属元素の酸化物を含有していてもよい。第3層23は、Sr,Bi及びPrからなる群より選ばれた1種の金属元素の酸化物を主成分とし、Si,Cr,Mn,Co,Ni,Zn,Sb及びLaからなる群より選ばれた少なくとも1種の金属元素の酸化物を含有していることが好ましい。
【0020】
電極14は、第1層21の外表面に接触するように形成され、電極16は第3層23の外表面に接触するように形成されている。電極14,16は、酸化亜鉛セラミックスと良好なオーミック性を示す電気伝導性のよい材料であれば特に限定されるものでなく、例えば、金、銀、白金、アルミなどが挙げられる。
【0021】
次に、電圧非直線抵抗素子10の製造例を以下に説明する。図2は電圧非直線抵抗素子10の製造工程図である。
【0022】
・酸化亜鉛セラミックス薄板の作製(図2の工程(a)参照)
酸化亜鉛セラミックス薄板31の体積抵抗率は、好ましくは1.0×10-2Ωcm以下、より好ましくは1.0×10-3Ωcm以下であり、更に好ましくは6.0×10-4Ωcm以下である。こうした酸化亜鉛セラミックス薄板31は、酸化亜鉛セラミックスにドーパントとしてAl,Ga,Inなどの3価のイオンを固溶させたり、酸化亜鉛粉末を非酸化雰囲気で焼成して酸素欠陥を導入したりすることにより、得ることができる。ドーパントを固溶させた酸化亜鉛セラミックス薄板31を得るには、まず、酸化亜鉛粉末にAl23,Ga23,In23などの3価の金属酸化物粉末を0.05〜2.0質量%となるように混合し、所定形状の成形体となるように成形する。次に、この成形体を、非酸化雰囲気(例えば窒素雰囲気やアルゴン雰囲気)下、900〜1200℃で数時間保持した後、さらに1300〜1500℃に昇温して数時間焼成する。こうすることにより、酸化亜鉛セラミックス薄板31を比較的容易に得ることができる。目的とするキャリア濃度や体積抵抗率にするには、酸化亜鉛粉末に混合する3価の金属酸化物粉末の質量%を調整したり、焼成温度を調整したりすればよい。また、原料に用いる酸化亜鉛粉末は、平均粒径(レーザー回折法、以下同じ)が0.02〜5μmであることが好ましい。3価の金属酸化物粉末は、平均粒径が0.01〜0.5μmであることが好ましい。一方、酸化亜鉛粉末を非酸化雰囲気で焼成して体積抵抗率の低い酸化亜鉛セラミックス薄板31を得るには、例えば、酸化亜鉛粉末を非酸化雰囲気(例えば窒素雰囲気やアルゴン雰囲気)下、1300〜1500℃で数時間保持して焼成する。こうした酸化亜鉛セラミックス薄板31は、同様の方法で作製した酸化亜鉛セラミックスブロックから切り出すこともできる。
【0023】
・高体積抵抗層の作製(図2の工程(b)参照)
(その1)
酸化亜鉛セラミックス薄板31を酸化雰囲気(例えば酸素雰囲気や大気雰囲気)で焼成して、酸化亜鉛セラミックス薄板の各面の表層を酸化亜鉛セラミックス薄板の内部に比べて体積抵抗率が高い層に変化させる。その結果、酸化亜鉛セラミックス薄板31の内部が第1層21になり、各面の表層が第2層22となる。第1層21及び第2層22の体積抵抗率は、上述した通りである。焼成温度は好ましくは600〜1000℃、より好ましくは700〜900℃である。焼成時間は、第1層21及び第2層22の体積抵抗率が上述した数値範囲に入るように適宜設定すればよく、例えば0.1〜1時間の範囲で設定してもよい。
【0024】
(その2)
酸化亜鉛セラミックス薄板31の上面に、酸化亜鉛を主成分とし酸化亜鉛セラミックス薄板31に比べて厚みが薄く体積抵抗率が高い酸化亜鉛層を成膜する。その結果、酸化亜鉛セラミックス薄板31及び酸化亜鉛層がそれぞれ第1層21及び第2層22となる。第1層21及び第2層22の体積抵抗率は、上述した通りである。酸化亜鉛層が酸化亜鉛単体の場合、例えば、酸化亜鉛をターゲットとして酸化亜鉛セラミックス薄板上にスパッタにより酸化亜鉛層を形成してもよい。スパッタのほかに真空蒸着やイオンプレーティングなどを用いてもよい。酸化亜鉛層が副成分を含む場合、酸化亜鉛のほかに副成分もターゲットとして用い、多元同時スパッタにより酸化亜鉛セラミックス薄板上に酸化亜鉛層を形成してもよい。あるいは、酸化亜鉛粉末を含有するペーストを酸化亜鉛セラミックス薄板に塗布、乾燥し、比較的低温(例えば200〜700℃、好ましくは200〜500℃)で熱処理して酸化亜鉛層としてもよい。
【0025】
・金属酸化物層の作製(図2の工程(c)参照)
金属酸化物層(第3層23)は、酸化ビスマス単体であってもよいが、酸化ビスマスを主成分とし他の酸化物(例えばSb23,Cr23,MnO,CoO,ZnO,SiO2など)を副成分として含んでいてもよい。酸化ビスマス層が酸化ビスマス単体の場合、例えば、酸化ビスマスをターゲットとして第2層22上にスパッタにより酸化ビスマス層を第3層23として形成してもよい。スパッタのほかに真空蒸着やイオンプレーティングなどを用いてもよい。あるいは、酸化ビスマス粉末を含有するペーストを第2層22に塗布、乾燥し、比較的低温(例えば200〜700℃、好ましくは200〜500℃)で熱処理して酸化ビスマス層を第3層23として形成してもよい。一方、酸化ビスマス層が副成分を含む場合、酸化ビスマスのほかに副成分もターゲットとして用い、多元同時スパッタにより第2層22上に酸化ビスマス層を第3層23として形成してもよい。あるいは、酸化ビスマス粉末のほかに副成分の粉末を含有するペーストを第2層22に塗布、乾燥し、比較的低温で熱処理して酸化ビスマス層を第3層23として形成してもよい。酸化ビスマスの代わりに、酸化ストロンチウムや酸化プラセオジムを用いてもよい。
【0026】
・電極14,16の作製(図2の工程(d)参照)
電極14,16は、第1層21〜第3層23からなる抵抗体20の両面に電極材料を蒸着したりスパッタすることにより、作製することができる。電極材料としては、金、銀、白金、アルミなどが挙げられる。あるいは、板状の電極14,16を用意し、それらを抵抗体20の各面に導電性接合材を介して接合してもよい。
【0027】
以上詳述した電圧非直線抵抗素子10によれば、酸化亜鉛を主成分とする第1層21と酸化亜鉛とは異なる金属酸化物を主成分とする第3層23との間に、酸化亜鉛を主成分とし、第1層21に比べて厚みが薄く体積抵抗率が高い第2層22を設けている。この第2層22を設けることにより、電圧非直線指数が従来に比べて大きくなる。その結果、通常時すなわち低電圧時には、保護すべき回路と並列に接続される電圧非直線抵抗素子10に電流が流れにくく、省エネルギー化を図ることができる。
【0028】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0029】
例えば、上述した電圧非直線抵抗素子10では1つの抵抗体20の両面に電極14,16を設けたが、抵抗体20を複数積層した積層体の両面に電極を設けてもよい。こうした積層型の抵抗体を用いることにより、バリスタ電圧を制御することが可能となり、用途に適したバリスタ電圧の電圧非直線抵抗素子を得ることができる。
【実施例】
【0030】
[実施例1]
酸化亜鉛(平均粒径1.5um)に酸化ガリウム(平均粒径0.02μm)を1質量%添加し、湿式混合した後、蒸発乾燥し、目開き75μmの篩にて篩通しした後、成形した。成形体を、脱脂後、N2雰囲気にて1100℃で5時間保持後、さらに1300℃に昇温して5時間焼成を行い、酸化亜鉛セラミックスブロックを作製した。この酸化亜鉛セラミックスブロックの体積抵抗率は6.0×10-4Ωcmであった。なお、体積抵抗率は、四端子法にて測定した。
【0031】
得られた酸化亜鉛セラミックスブロックを5mm×5mm×1mmの板状に切り出して酸化亜鉛セラミックス薄板を得た。この薄板の上面を研磨、洗浄したのち、酸素雰囲気の下、800℃で0.5時間保持することにより、各面の表層が酸化された酸化亜鉛セラミックス薄板を得た。表層は、体積抵抗率が2.0×10-3Ωcm、厚みが0.2(nm)であった。酸化亜鉛セラミックス薄板のうち表層を除く内部が第1層に相当し、表層が第2層に相当する。なお、第2層の体積抵抗率は、四端子法(端子間距離10μm)にて測定した。第2層の厚みは、次のようにして求めた。すなわち、別途、酸化亜鉛セラミックス薄板を酸素(18O)雰囲気の下、上記と同じ条件(800℃で0.5時間)で保持した後、2次イオン質量分析計を用いて酸化亜鉛セラミックス薄板の18Oの深さ方向分布を測定し、第2層の厚みを求めた。酸化亜鉛セラミックス薄板中の酸素原子は16Oで構成されているのに対し、16Oの同位体である18Oの雰囲気で熱処理すると18Oにより酸化されるため、第2層の厚みは18Oの深さ方向分布から求めることができる。
【0032】
次に、ビスマス、マンガン、コバルトからなる酸化物をターゲットとして用い(金属元素比として、ビスマス:マンガン:コバルト=60:20:20)、高周波プラズマスパッタリングを行い、酸化亜鉛セラミックス薄板の上面にビスマス、マンガン、コバルトからなる酸化物のスパッタ膜(厚さ0.3μm)を成膜した。このスパッタ膜が第3層に相当する。このようにして3層構造からなる抵抗体を得た。スパッタにはULVAC機工製RFS−200を用いた。成膜条件は以下のとおり。ターゲットサイズ:直径80mm、RF出力:40W,ガス圧(O2):5.0Pa,成膜時間:120分。
【0033】
得られた抵抗体の両面にAl蒸着電極を設け、電圧非直線抵抗素子を得た。この電圧非直線抵抗素子の両電極に電圧を印加して電流−電圧特性を測定した。なお、酸化亜鉛セラミックス薄板側に設けられた電極を陽極とし、酸化ビスマスのスパッタ膜に設けられた電極を陰極とした。電流−電圧特性は、IEC61051−1に則り、Agilent Technologies社製、Agilent B2901Aを用いて測定した。電流−電圧特性から、1μA〜1mAの電圧非直線指数を、下記式(1)を用いて求めた。式(1)中、V1μAは電流1μAのときの電圧、V1mAは電流1mAのときの電圧である。このようにして求めた電圧非直線指数は24であった。実施例1の特徴や電圧非直線指数を表1に示した。なお、表1には後述する実施例2〜4、比較例1〜3の特徴や電圧非直線指数も示した。
電圧非直線指数=log(1μA/1mA)/log(V1μA/V1mA)…(1)
【0034】
【表1】
【0035】
[実施例2]
実施例1において、上面を研磨、洗浄した酸化亜鉛セラミックス薄板を、酸素雰囲気の下、900℃で0.5時間保持した以外は、実施例1と同様にして電圧非直線抵抗素子を作製した。第2層の厚みは2nmであった。得られた素子の電流−電圧特性から1μA〜1mA間の電圧非直線指数を求めたところ、24であった。実施例2の特徴や電圧非直線指数を表1に示した。
【0036】
[実施例3]
実施例1において、酸化亜鉛に添加する酸化ガリウムの量を0.05質量%に変更した以外は、実施例1と同様にして電圧非直線抵抗素子を作製した。第1層及び第2層の体積抵抗率は、それぞれ6×10-3Ωcm、3×10-2Ωcmであった。得られた素子の電流−電圧特性から1μA〜1mA間の電圧非直線指数を求めたところ、18であった。実施例3の特徴や電圧非直線指数を表1に示した。
【0037】
[実施例4]
実施例1と同様の方法で酸化亜鉛セラミックスブロックを作製し、そこから酸化亜鉛セラミック薄板を切り出した。次に、酸化亜鉛をターゲットとして用い、高周波プラズマスパッタリングを行い、酸化亜鉛セラミックス薄板の上面に厚みが300nmの酸化亜鉛のスパッタ膜を成膜した。酸化亜鉛セラミックス薄板が第1層に相当し、酸化亜鉛のスパッタ膜が第2層に相当する。スパッタにはULVAC機工製RFS−200を用いた。成膜条件は以下のとおり。ターゲットサイズ:直径80mm,RF出力:40W,ガス圧(N2):5.0Pa,成膜時間:150分。
【0038】
こうして得られた酸化亜鉛スパッタ膜の体積抵抗率は3×102(Ωcm)、厚みは300(nm)であった。次に、実施例1と同様の方法でビスマス、マンガン、コバルトからなる酸化物を酸化亜鉛スパッタ膜の上に成膜した。このスパッタ膜が第3層に相当する。このようにして3層構造からなる抵抗体を得た。得られた抵抗体の両面にAl蒸着電極を設け、電圧非直線抵抗素子を得た。この素子の電流−電圧特性から1μA〜1mA間の電圧非直線指数を求めたところ、11であった。実施例4の特徴や電圧非直線指数を表1に示した。
【0039】
なお、体積抵抗率は、ガラス基板上に酸化亜鉛スパッタ膜を実施例2と同じ組成、成膜条件で形成し、その酸化亜鉛スパッタ膜付きのガラス基板を用いて東陽テクニカ社製(商品名:ResiTest8300)にて測定した。第2層の厚みは、3層構造体をTEM(透過型電子顕微鏡)にて観察して測定した。TEMでは、第1層と第2層とは酸化亜鉛の結晶方位が異なるため両層の境界を区別でき、第2層と第3層とは元素種類が異なるため境界を区別できた。
【0040】
[実施例5]
実施例1において、第3層を成膜するにあたり、ビスマス、コバルトからなる酸化物(金属元素比として、ビスマス:コバルト=50:50)をターゲットとして用いた以外は、実施例1と同様にして電圧非直線抵抗素子を作製した。この素子の電流−電圧特性から1μA〜1mA間の電圧非直線指数を求めたところ、11であった。実施例5の特徴や電圧非直線指数を表1に示した。
【0041】
[実施例6]
実施例1において、第3層を成膜するにあたり、プラセオジム、コバルトからなる酸化物(金属元素比として、プラセオジム:コバルト=50:50)をターゲットとして用いた以外は、実施例1と同様にして電圧非直線抵抗素子を作製した。この素子の電流−電圧特性から1μA〜1mA間の電圧非直線指数を求めたところ、10であった。実施例6の特徴や電圧非直線指数を表1に示した。
【0042】
[比較例1]
実施例1において、酸化亜鉛セラミック薄板の各面の表層を酸化する工程を省略した以外は、実施例1と同様の方法で抵抗体を作製した。この抵抗体は、第2層のない2層構造体である。この抵抗体の両面にAl蒸着電極を設け、電圧非直線抵抗素子を得た。この素子の電流−電圧特性から1μA〜1mA間の電圧非直線指数を求めたところ、3であった。比較例1の特徴や電圧非直線指数を表1に示した。
【0043】
[比較例2]
実施例1において、酸化亜鉛セラミックスブロックの原料として、酸化ガリウムを添加せず酸化亜鉛のみを用いて酸化亜鉛セラミックスブロックを作製し、そのブロックから酸化亜鉛セラミックス薄板を切り出した以外は、実施例1と同様の方法で電圧非直線抵抗素子を作製した。酸化亜鉛セラミックス薄板の内部(第1層)に比べて、酸化亜鉛セラミックス薄板の表層(第2層)の方が体積抵抗率が低かった。得られた電圧非直線抵抗素子の電流−電圧特性から1μA〜1mA間の電圧非直線指数を求めたところ、8であった。比較例2の特徴や電圧非直線指数を表1に示した。
【0044】
[比較例3]
実施例2において、酸化亜鉛セラミックス薄板の上面に酸化亜鉛のスパッタ膜を成膜するにあたり、スパッタ膜の厚みを1mmとした以外は、実施例2と同様の方法で電圧非直線抵抗素子を作製した。この素子の電流−電圧特性から1μA〜1mA間の電圧非直線指数を求めたところ、7であった。比較例3の特徴や電圧非直線指数を表1に示した。
【0045】
なお、上述した実施例は本発明の一例に過ぎず、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0046】
10 電圧非直線抵抗素子、14,16 電極、20 抵抗体、21 第1層、22 第2層、23 第3層、31 酸化亜鉛セラミックス薄板。
図1
図2