特許第6703454号(P6703454)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6703454
(24)【登録日】2020年5月12日
(45)【発行日】2020年6月3日
(54)【発明の名称】コイル形ワイヤーソー
(51)【国際特許分類】
   B24B 27/06 20060101AFI20200525BHJP
   B24D 11/00 20060101ALI20200525BHJP
   B28D 1/08 20060101ALI20200525BHJP
   B23D 61/18 20060101ALI20200525BHJP
【FI】
   B24B27/06 H
   B24B27/06 E
   B24D11/00 G
   B28D1/08
   B23D61/18
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-148516(P2016-148516)
(22)【出願日】2016年7月28日
(65)【公開番号】特開2018-15844(P2018-15844A)
(43)【公開日】2018年2月1日
【審査請求日】2019年7月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】514128412
【氏名又は名称】株式会社ダイアテック
(74)【代理人】
【識別番号】100091465
【弁理士】
【氏名又は名称】石井 久夫
(72)【発明者】
【氏名】谷本 明良
【審査官】 山村 和人
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−172564(JP,A)
【文献】 特許第5831860(JP,B1)
【文献】 特開2002−126990(JP,A)
【文献】 特開2002−66901(JP,A)
【文献】 特開2006−102905(JP,A)
【文献】 特開2002−166347(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 27/06
B23D 61/18
B24D 11/00
B28D 1/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
可撓性を有する芯線(11)と、
コイル状をなし、上記芯線(11)に外嵌され、外表面に砥粒(12A)が固着された砥粒コイル(12)と、
該砥粒コイル(12)の両端にて上記芯線(11)に固定され、上記砥粒コイル(12)をその自由長よりも短い圧縮状態にて位置決めするとともに上記砥粒コイル(12)の内側を上記芯線(11)の外側に接触させる位置決めスペーサー(13)と、
上記芯線(11)及び砥粒コイル(12)に対し、上記砥粒コイル(12)の隣接するコイル形状の間の凹所が切り屑排出凹所(12B)となるような加圧状態の被覆構造をなし、上記砥粒コイル(12)を上記芯線(11)に対する位置決め姿勢に位置決め保持する位置決め層(14)と、
を備えたことを特徴とするコイル形ワイヤーソー。
【請求項2】
短コイル状をなし、隣接する上記位置決めスペーサー(13)の間にて上記芯線(11)に外嵌され、外表面に砥粒が固着され、そのコイル形状の間の凹所が切り屑排出凹所となるように上記芯線とともに上記位置決め層(14)によって加圧状態で被覆され位置決め保持された短砥粒コイル(15)と、
該短砥粒コイル(15)の切除された芯線(11)の対向する両端部分を相互に結合することによってワイヤーソーを無端状に連結するためのジョイント(16)と、さらに備えた請求項1記載のコイル形ワイヤーソー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はコイル形ワイヤーソーに関し、特に砥粒コイルが芯線の軸線方向や直径方向に変位するのを抑制し、砥粒コイルの切削圧を切断対象に効率よく伝えることができるようにしたワイヤーソーに関する。
【背景技術】
【0002】
最近、原子力発電所の廃炉問題が注目を集めているが、かかる廃炉には建屋などの鉄筋コンクリート構造物の解体を必要とする。建屋などの解体には爆破、ウォータージェットあるいは切断ブレードなど種々な方法が知られているが、廃炉建屋の解体にはワイヤーソーを用いた方法が提案されている。
【0003】
従来、表面に砥粒を固着した超硬質ビーズを製造し、複数の超硬質ビーズを芯線に所定のピッチで固着してワイヤーソー(以下、このタイプのワイヤーソーを「ビーズ形ワイヤーソー」という)を構成し、このビーズ形ワイヤーソーを切断対象、例えば鉄筋コンクリート構造物に巻き付け、ビーズ形ワイヤーソーに張力を掛けながらビーズ形ワイヤーソーを走行させることによってコンクリート構造物を解体するという方法が知られている(特許文献1)。
【0004】
しかし、ビーズ形ワイヤーソーでは超硬質ビーズの砥粒層を厚くし、ワイヤーソーの長寿命化を図ろうとすると、超硬質ビーズの外径も大きくなって切削抵抗や騒音の増加につながるばかりでなく、寿命切れ間近になるとビーズ径が減少して切断幅が狭くなり、新しいワイヤーソーを用いて切断し直す必要があった。
【0005】
また、ビーズ形ワイヤーソーでは超硬質ビーズが切断対象物に対して断続的に接触して切断を行うので、断続的な騒音が発生して生活環境を悪化させ、住宅地などにおける夜間工事が規制される原因となっていた。
【0006】
さらには、切断中に超硬質ビーズが切削抵抗などによって芯線の取付け位置からずれると、超硬質ビーズが次々と芯線の取付け位置から次々とずれて数珠状になる一方、芯線が露出するという現象が起こることがあり、かかる現象が発生すると芯線が破断し、超硬質ビーズの破損が生じて飛散するおそれがある。
【0007】
これに対し、表面に砥粒を固着した砥粒コイルを芯線に螺旋状に嵌装し、これを被覆層で被覆するようにしたワイヤーソー(以下、「コイル形ワイヤーソー」という)が提案されている(特許文献2、特許文献3、特許文献4、特許文献5)。
【0008】
また、外周に砥粒が固着された複数の筒状ビーズを芯線に間隔をあけて固定し、筒状ビーズの間に弾性円筒体を嵌装し、弾性円筒体の外周面には嵌込み溝を螺旋状に形成し、表面に砥粒を固着した砥粒コイルを嵌込み溝に嵌装するようにしたコイル形ワイヤーソーも提案されている(特許文献6)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005−153071号公報
【特許文献2】特開2002−66901号公報
【特許文献3】特開2002−126990号公報
【特許文献4】特開2002−172564号公報
【特許文献5】特開2006−102905号公報
【特許文献6】特開2002−166347公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、特許文献2〜5記載のコイル形ワイヤーソーでは砥粒コイルを被覆層で被覆しているものの、砥粒コイルが走行抵抗を受けると芯線に沿って軸線方向に容易に変位して砥粒コイルの切削圧が切断対象物に伝わり難く、適切な切削が難しかった。
【0011】
また、特許文献6記載のコイル形ワイヤーソーでは特許文献2〜5記載のコイル形ワイヤーソーに比較して砥粒コイルの変位は少ないものの、弾性円筒体の一部が砥粒コイルと芯線との間に介在された構造となっているので、砥粒コイルが走行抵抗や切削抵抗を受けると、砥粒コイルが芯線の軸線方向だけでなく、径方向にも変位し、砥粒コイルの切削圧が弾性円筒体に吸収されてしまい、これも適切な切削が難しかった。
【0012】
本発明はかかる問題点に鑑み、砥粒コイルが芯線の軸線方向や直径方向に変位するのを抑制し、砥粒コイルの切削圧を切断対象に効率よく伝えることができるようにしたコイル形ワイヤーソーを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
そこで、本発明に係るコイル形ワイヤーソーは、可撓性を有する芯線と、コイル状をなし、上記芯線に外嵌され、外表面に砥粒が固着された砥粒コイルと、該砥粒コイルの両端にて上記芯線に固定され、上記砥粒コイルをその自由長よりも短い圧縮状態にて位置決めするとともに上記砥粒コイルの内側を上記芯線の外側に当接させる位置決めスペーサーと、上記芯線及び砥粒コイルに対し、上記砥粒コイルの隣接するコイル形状の間の凹所が切り屑排出凹所となるような加圧状態の被覆構造をなし、上記砥粒コイルを上記芯線に対する位置決め姿勢に位置決め保持する位置決め層と、を備えたことを特徴とする。
【0014】
本発明の特徴の1つは砥粒コイルを芯線に外嵌し、その両端に位置決めスペーサーで固定して砥石コイルを自由長よりも短い圧縮状態に位置決めし、砥粒コイルの内側を芯線に外側に当接させ、その砥石コイルの位置決め姿勢を樹脂製の位置決め層によって位置決め保持するようにした点にある。
【0015】
これにより、砥粒コイルはワイヤーソーの走行方向に対しても、又ワイヤーソーの径方向に対しても確実に位置決め保持される結果、砥粒コイルが走行抵抗や切削抵抗を受けても、芯線の軸線方向や径方向に対する砥粒コイルの変位は少なく、砥粒コイルの切削圧を効率よく切断対象物に伝えることができ、確実な切断が可能となる。
【0016】
また、隣接する位置決めスペーサーの間に短い砥粒コイルを嵌装した構造を採用すると、例えば適切な箇所に設けた短い砥粒コイルを切除するとともに芯線を切断して露出させ、芯線の両端部を対向させてジョイントで結合すると、切断機能を主として発揮する砥粒コイルを切断することなく、ワイヤーソーを所望の長さでもって無端状に連結することができる。
【0017】
すなわち、短コイル状をなし、隣接する位置決めスペーサーの間にて芯線に外嵌され、外表面に砥粒が固着され、そのコイル形状の間の凹所が切り屑排出凹所となるように芯線とともに上記位置決め層によって加圧状態で被覆され位置決めされた短砥粒コイルと、短砥粒コイルの切除された芯線の対向する両端部分を相互に結合することによってワイヤーソーを無端状に連結するためのジョイントと、さらに備えるのが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明に係るコイル形ワイヤーソーの好ましい実施形態を示す図である。
図2】上記実施形態を示す要部拡大図である。
図3】上記実施形態における砥粒コイルの構造を示す図である。
図4】上記実施形態におけるワイヤーソーの無端状への連結方法を模式的に示す図である。
図5】上記実施形態を使用したワイヤーソー切断装置の1例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を図面に示す具体例に基づいて詳細に説明する。図1ないし図5は本発明に係るコイル形ワイヤーソの好ましい実施形態を示す。図において、コイル形ワイヤーソー10では例えば外径6mm以下の撚り芯線11に自由長が定寸(例えば300mm)以下、例えば100mmの砥粒コイル12が外嵌されるとともに、その両端に位置決めスペーサー13が外嵌され、砥粒コイル12の自由長よりも短い圧縮状態となるような位置にてカシメられることによって位置決めスペーサー13は芯線13に固定され、砥粒コイル12は圧縮状態に保持されることによってその内側の大部分が芯線11の外側に当接されている。
【0020】
また、芯線11には位置決めスペーサー13に隣接して短い寸法の砥粒コイル15が外嵌され、砥粒コイル14の自由長よりも短い圧縮状態に保持されかつ砥粒コイル14の内側の大部分が芯線11の外側に当接されるような位置にて位置決めスペーサー13がカシメられることによって固定されている。
【0021】
同様に、位置決めスペーサー13、砥粒コイル12、位置決めスペーサー13、短砥粒コイル14及び位置決めスペーサー13の組合せが芯線11に繰り返して取付けれている。
【0022】
この砥粒コイル12、15は樹脂、好ましくは耐熱性、耐摩耗性、耐屈曲性に優れた樹脂によって加圧状態で被覆され、この被覆樹脂層は砥粒コイル12、15を位置決めスペーサー13による砥粒コイル12、15の芯線11に対する位置決め位置及び姿勢に位置決めし保持する位置決め層14として機能するようになっている。この位置決め層14は合成樹脂材料をワイヤー形状を模した熱プレス金型によって加熱加圧成型されている。
【0023】
また、位置決め層14の、砥粒コイル12、15の隣接するコイル形状の間の凹所は切り屑排出凹所12B、15Bとなっている。
【0024】
ここで、砥粒コイル12、14はばね鋼線、ステンレス鋼線、チタン合金線など、曲げ弾性、圧縮弾性、引っ張り弾性に優れた材料の金属線が用いられ、この金属線の芯線11と当接している部分を除く表面(外表面)にはダイヤモンド砥粒が焼結、めっき、ロウ付け、電着などによって固着されている。なお、ダイヤモンド砥粒以外の超硬質砥粒、例えば窒化ケイ素砥粒やアルミナ砥粒を用いることもできる。
【0025】
本例のコイル形ワイヤーソー10を用いて切断対象物20を切断する場合、図4(a)に示されるように、コイル形ワイヤーソー10の適切な二箇所の短砥粒コイル15の位置決めスペーサー13の近傍で芯線11を切断して図4の(b)(c)に示されるように短砥粒コイル15を除去し、コイル形ワイヤーソー10の両端を対向させて当接させ、両端部分をジョイント16で連結すると、所望の長さを有する無端状のコイル形ワイヤーソー10が得られる。
【0026】
次に、このコイル形ワイヤーソー10を切断対象物、例えば鉄筋コンクリート構造物20に切断予定のラインによって掛けわたし、左右のガイドプーリーを経て駆動プーリーに無端状にかつ捻じりを与えられて張架する。
【0027】
駆動プーリーにはサーボータ等の駆動モータの駆動軸が減速ギア群を経て連結され、駆動プーリーの走行速度はコントローラによって制御されるようになっている。
【0028】
本例のコイル型ワイヤーソーの切断性能(単位時間当りの切断効率とワイヤー寿命)をダイヤモンド砥粒を用いたビーズ型ワイヤーソーと比較した。切断対象物の寸法:φ170mmの丸棒、材質:純銅、SS400、SUS304、ワイヤーソー装置:11Kw駆動モータのワイヤーソー装置、使用ワイヤー長:6m、ワイヤー送り速度:本例10m/s、従来20m/s(ワイヤー送り速度を10m/sに設定すると実用的な切断効率が得ることができないことから、20m/sとした。)。
【0029】
〔単位時間当りの切断効率〕
本例のコイル型ワイヤーソーの単位時間当りの切断効率(ワイヤー寿命内での平均)を求め、従来のビーズ型ワイヤーソーと比較したところ、
従来ワイヤーソー 本例ワイヤーソー
純銅 10cm2/min 25cm2/min
SS400 10cm2/min 25cm2/min
SUS304 4cm2/min 10cm2/min
であった。
【0030】
〔ワイヤー寿命〕
本例のコイル型ワイヤーソーの、単位時間当りの切断効率が最大切断効率の30%程度に落ちた時点のワイヤー寿命を求め、従来のビーズ型ワイヤーソーと比較したところ、
従来ワイヤーソー 本例ワイヤーソー
純銅 180cm2/m 600cm2/m以上
SS400 250cm2/m 500cm2/m
SUS304 100cm2/m 500cm2/m
であった。
【0031】
次に、ワイヤーソーの走行試験を行った。試験は、図5に示されるように、切断対象物を厚さ12mm、400×700mmの角パイプとし、切断を行ったところ、従来のビーズ形ワイヤーソーではダイヤモンドビーズが切断対象物に引っ掛かり、ワイヤーソーが破断したのに対し、本例のコイル形ワイヤーソーではスムーズに切断を完了することができた。
【符号の説明】
【0032】
10 コイル形ワイヤーソー
11 芯線
12、15 砥粒コイル
12A ダイヤモンド砥粒
12B、15A 切り屑排出凹所
13 位置決めスペーサー
14 位置決め層
図1
図2
図3
図4
図5