(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、発明の理解を容易にするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0012】
図1は、実施形態の車両の冷却システム1の構成を説明する図である。なお、
図1中、冷却流路を実線の矢印で示し、信号の流れを破線の矢印で示す。
図1に示すように、車両の冷却システム1(以下、単に冷却システム1と称する)は、エンジン2、ウォーターポンプ10、第1バルブ20、水渡しパイプ22、第2バルブ24、ラジエータ26、ヒータ28、スロットル30、変速機ウォーマ32、サーモスタットバルブ34、チャンバ36、EGRクーラ38、水渡しパイプ40、制御部42、温度センサT1、T2が設けられる。そして、冷却システム1は、これら各部に、冷却流路100(100a〜100r)を介して冷却水を循環させる。
【0013】
エンジン2は、1対のシリンダブロック3(3R、3L)および1対のシリンダヘッド4(4R、4L)を備えており、1対のシリンダブロック3が略水平方向に対向するようにして配置される所謂水平対向エンジンである。そして、エンジン2は、左シリンダブロック3Lおよび左シリンダヘッド4Lによって左バンク(第1のバンク)BLが構成され、右シリンダブロック3Rおよび右シリンダヘッド4Rによって右バンク(第2のバンク)BRが構成される。
【0014】
シリンダブロック3(3R、3L)には、冷却水を分岐させる分離室12(12R、12L)が設けられているとともに、ピストンが摺動可能に収容されたシリンダの周囲にシリンダブロックウォータージャケット(シリンダブロックW/J)14(14R、14L)が形成されている。
【0015】
シリンダヘッド4(4R、4L)には、燃焼室の周囲にシリンダヘッドウォータージャケット(シリンダヘッドW/J)16(16R、16L)が形成されているとともに、不図示の排気ポートの近傍に排気ポート冷却回路18(18R、18L)が形成されている。
【0016】
左分離室12Lは、ウォーターポンプ10から吐出された冷却水を、左シリンダブロックW/J14L、左シリンダヘッドW/J16L、左排気ポート冷却回路(第1の排気ポート冷却回路)18Lに振り分ける。右分離室12Rは、ウォーターポンプ10から吐出された冷却水を、右シリンダブロックW/J14R、右シリンダヘッドW/J16R、右排気ポート冷却回路(第2の排気ポート冷却回路)18R、EGR流路100nに振り分ける。
【0017】
右排気ポート冷却回路18Rおよび左排気ポート冷却回路18Lは、排気ガスの性能改善を目的として設けられる排気ガス冷却用の回路である。左排気ポート冷却回路18Lは、左シリンダヘッド4Lに形成された不図示の排気ポート(第1のバンクの排気ポート)の近傍に設けられる。右排気ポート冷却回路18Rは、右シリンダヘッド4Rに形成された不図示の排気ポート(第2のバンクの排気ポート)の近傍に設けられる。
【0018】
なお、
図1においては、1対のシリンダブロック3(3R、3L)および1対のシリンダヘッド4(4R、4L)は互いに離隔して図示されているが、実施には、1対のシリンダブロック3が対向するように連結されているとともに、右シリンダブロック3Rに対して右シリンダヘッド4Rが連結され、左シリンダブロック3Lに対して左シリンダヘッド4Lが連結される。また、エンジン2の駆動トルクは、不図示の変速機で変速されて車輪に伝達される。
【0019】
ウォーターポンプ10は、ポンプ吐出流路100a、ラジエータ流路100l、バイパス流路100rが接続されている。ウォーターポンプ10は、エンジン2の回転動力により回転駆動し、ラジエータ流路100l、バイパス流路100rから流入した冷却水をポンプ吐出流路100aに吐出する。
【0020】
ポンプ吐出流路100aは、右バンク流入流路100brと左バンク流入流路100blとに分岐する。右バンク流入流路100brは、右バンクBRの入口に設けられた右分離室12Rに接続され、左バンク流入流路100blは、左バンクBLの入口に設けられた左分離室12Lに接続されている。ポンプ吐出流路100aに吐出された冷却水は、右バンク流入流路100brおよび左バンク流入流路100blを介して、右分離室12Rおよび左分離室12Lに流入する。
【0021】
右分離室12Rは、右ブロック流路100cr、右ヘッド流路100dr、右排気ポート流路100erが接続されており、右分離室12Rに流入した冷却水をこれらの各流路に振り分ける。左分離室12Lは、左ブロック流路100cl、左ヘッド流路100dl、左排気ポート流路100el
、EGR流路100nが接続されており、左分離室12Lに流入した冷却水をこれらの各流路に振り分ける。
【0022】
右ブロック流路100crは、右シリンダブロックW/J14Rに接続されており、冷却水を右シリンダブロックW/J14Rへ流入させる。右ヘッド流路100drは、右シリンダヘッドW/J16Rに接続されており、冷却水を右シリンダヘッドW/J16Rへ流入させる。右排気ポート流路100erは、右排気ポート冷却回路18Rに接続されており、冷却水を右排気ポート冷却回路18Rへ流入させる。
【0023】
左ブロック流路100clは、左シリンダブロックW/J14Lに接続されており、冷却水を左シリンダブロックW/J14Lへ流入させる。左ヘッド流路100dlは、左シリンダヘッドW/J16Lに接続されており、冷却水を左シリンダヘッドW/J16Lへ流入させる。左排気ポート流路100elは、左排気ポート冷却回路18Lに接続されており、冷却水を左排気ポート冷却回路18Lへ流入させる。
【0024】
右シリンダブロックW/J14Rは、冷却水が排出される右ブロック排出流路100frが接続されている。また、左シリンダブロックW/J14Lは、冷却水が排出される左ブロック排出流路100flが接続されている。右ブロック排出流路100frおよび左ブロック排出流路100flは、ブロック排出流路100gに合流する。
【0025】
右シリンダヘッドW/J16Rは、冷却水が排出される右ヘッド排出流路100hrが接続されている。また、左シリンダヘッドW/J16Lは、冷却水が排出される左ヘッド排出流路100hlが接続されている。
【0026】
第1バルブ20は、ブロック排出流路100gおよびバルブ流路100iが接続されており、ブロック排出流路100gおよびバルブ流路100iを連通させる開状態、および、ブロック排出流路100gおよびバルブ流路100iを遮断する閉状態が切り替え可能なON/OFFバルブである。第1バルブ20は、開状態において、ブロック排出流路100gから流入された冷却水をバルブ流路100iに排出する。一方で、第1バルブ20は、閉状態において、ブロック排出流路100gから流入された冷却水を遮断し、バルブ流路100iに排出することはない。
【0027】
水渡しパイプ22は、バルブ流路100i、右ヘッド排出流路100hr、左ヘッド排出流路100hl、第2バルブ流入流路100jが接続されており、バルブ流路100i、右ヘッド排出流路100hr、左ヘッド排出流路100hlから流入した冷却水を第2バルブ流入流路100jに排出する。つまり、水渡しパイプ22は、エンジン2を流通した冷却水を第2バルブ24に流入させる。
【0028】
第2バルブ24は、第2バルブ流入流路100j、水渡し流路100k、ラジエータ流路100l、ヒータ流路100pが接続されたロータリーバルブである。第2バルブ24は、ロータリーが回転することで、詳しくは後述するように、第2バルブ流入流路100jと接続される流路(水渡し流路100k、ラジエータ流路100l、ヒータ流路100p)を切り替える。
【0029】
ラジエータ26は、ラジエータ流路100lの途中に設けられ、冷却水の熱を外部に放熱することで、冷却水を冷却する。ヒータ28は、ヒータ流路100pの途中に設けられ、不図示のヒータスイッチがオンされることで、冷却水の熱を車内に放熱し、車内を温める。
【0030】
スロットル30は、ヒータ流路100pにおけるヒータ28よりも上流側で分岐するスロットル流路100qの途中に設けられ、アクセルペダルの踏み込み量に応じて不図示のアクチュエータにより開度が調整され、エンジン2に供給される空気量を調整する。スロットル30は、スロットル流路100qを流れる冷却水により暖機される。スロットル流路100qは、ヒータ28よりも下流側でヒータ流路100pに合流し、ヒータ流路100pはバイパス流路100rに合流する。
【0031】
左排気ポート冷却回路18Lは、冷却水が排出される左排気ポート排出流路(第1流路)100mlが接続されている。また、左排気ポート排出流路100mlの途中には、変速機ウォーマ32が設けられている。変速機ウォーマ32は、左排気ポート排出流路100mlを流通する冷却水と、不図示の変速機に供給されるオイルとの間で熱交換を行う油水熱交換器である。
【0032】
サーモスタットバルブ34は、チャンバ36に連結されるとともに、左排気ポート排出流路100mlにおける変速機ウォーマ32よりも下流側に設けられている。サーモスタットバルブ34は、左排気ポート排出流路100mlを流れる冷却水の温度が予め設定された第1温度閾値(例えば65℃)以上になると、変速機ウォーマ32から排出された冷却水をチャンバ36を介して水渡しパイプ40に流通させる開状態となる。一方、サーモスタットバルブ34は、左排気ポート排出流路100mlを流れる冷却水の温度が第1温度閾値未満である場合は、変速機ウォーマ32から排出された冷却水を水渡しパイプ40に流通させない閉状態となる。
【0033】
右排気ポート冷却回路18Rは、冷却水が排出される右排気ポート排出流路(第2流路)100mrが接続されている。右排気ポート排出流路100mrは、エンジン2の右バンクBRから左バンクBLに向かって延伸され、下流側の端部が左排気ポート排出流路100mlにおける変速機ウォーマ32よりも上流側の箇所(
図1の符号A)に接続されている。
【0034】
EGRクーラ38は、左分離室12Lに接続されるEGR流路100nの途中に設けられる。EGRクーラ38は、エンジン2から排出される排気ガスの一部をエンジン2の吸気流路に循環させるEGRの途中で、排気ガスを冷却する。
【0035】
水渡しパイプ40は、EGR流路100n、左排気ポート排出流路100ml、水渡し流路100k、バイパス流路100rが接続されている。水渡しパイプ40は、EGR流路100n、左排気ポート排出流路100mlおよび水渡し流路100kから流入した冷却水をバイパス流路100rに排出する。
【0036】
制御部42は、中央処理装置(CPU)、プログラム等が格納されたROM、ワークエリアとしてのRAM等を含む半導体集積回路で構成されている。制御部42には、温度センサT1、T2が接続されており、これら温度センサT1、T2から送信される信号に基づいて、第1バルブ20および第2バルブ24を制御する。
【0037】
温度センサT1は、右シリンダブロック3R内に設けられ、右シリンダブロックW/J14Rを流通した冷却水の温度を計測する。温度センサT2は、左シリンダヘッド4L内に設けられ、左シリンダヘッドW/J16Lを流通した冷却水の温度を計測する。
【0038】
次に、制御部42による制御処理について説明する。ここでは、まず、第2バルブ24におけるロータリーの回転角度と開口率との関係について説明した後、制御部42による制御処理を説明する。
【0039】
図2は、第2バルブ24におけるロータリーの回転角度と開口率との関係を示す図である。なお、
図2において、ラジエータ流路100lに対する開口率を破線で示し、ヒータ流路100pに対する開口率を細線(実線)で示し、水渡し流路100kに対する開口率を太線(実線)で示す。
【0040】
図2に示すように、第2バルブ24は、ロータリーの回転角度が0°である状態を基準として、正方向および負方向にロータリーが回転可能である。第2バルブ24は、ロータリーの回転角度が0°である場合(
図2中「A」)には、ラジエータ流路100l、ヒータ流路100pおよび水渡し流路100kに対する開口率が全て0%であり(閉じた状態であり)、ラジエータ流路100l、ヒータ流路100pおよび水渡し流路100kのいずれにも冷却水を排出することはない。
【0041】
また、第2バルブ24は、ロータリーが正方向に回転され、
図2中「B」の回転角度になると、ヒータ流路100pに対する開口率が100%となり(開いた状態であり)、ヒータ流路100pにのみ最大流量の冷却水が排出される。そして、第2バルブ24は、ロータリーがさらに正方向に回転され、
図2中「C」の回転角度になると、ヒータ流路100pおよび水渡し流路100kに対する開口率が100%となり、ヒータ流路100pおよび水渡し流路100kに冷却水が排出される。つまり、
図2中「C」の回転角度では、ラジエータ流路100lに冷却水が流通せず、水渡し流路100kおよび水渡しパイプ40を介してバイパス流路100rに冷却水が流通することになるので、バイパス流路100rは、ラジエータ26を迂回して冷却水を流通させる流路であるとも言える。
【0042】
そして、第2バルブ24は、
図2中「C」からロータリーがさらに正方向に回転されると、
図2中「D」の範囲において、水渡し流路100kに対する開口率が100%から0%に減少するとともに、ラジエータ流路100lに対する開口率が0%から100%に増加する。なお、第2バルブ24は、
図2中「D」の範囲において、ヒータ流路100pに対する開口率が100%のまま維持される。したがって、第2バルブ24は、
図2中「D」の範囲において、ヒータ流路100pに冷却水を排出するとともに、水渡し流路100kおよびラジエータ流路100lに対して中間開度で(開口率に応じて)冷却水を排出することになる。つまり、第2バルブ24は、
図2中「D」の範囲において、ラジエータ26およびバイパス流路100rに流通させる冷却水の流量を中間開度によって調整可能である。
【0043】
また、第2バルブ24は、
図2中「D」の範囲の回転角度から、さらにロータリーが正方向に回転され、
図2中「E」の回転角度になると、ヒータ流路100pおよびラジエータ流路100lに対する開口率が100%となり、ヒータ流路100pおよびラジエータ流路100lに冷却水が排出される。つまり、
図2中「E」の回転角度では、バイパス流路100rに冷却水が流通せず、ラジエータ流路100l(ラジエータ26)に冷却水が流通することになるので、ラジエータ26に冷却水が最も流通することになる。
【0044】
一方、第2バルブ24は、
図2中「A」の回転角度(回転角度が0°)からロータリーが負方向に回転された場合、ヒータ流路100pに対する開口率は常に0%となる。また、第2バルブ24は、
図2中「F」の回転角度になると、水渡し流路100kに対する開口率が100%となり、水渡し流路100kにのみ冷却水が排出される。
【0045】
そして、第2バルブ24は、
図2中「F」からロータリーがさらに負方向に回転されると、
図2中「G」の範囲において、水渡し流路100kに対する開口率が100%から0%に減少するとともに、ラジエータ流路100lに対する開口率が0%から100%に増加する。したがって、第2バルブ24は、
図2中「G」の範囲において、ラジエータ26およびバイパス流路100rに流通させる冷却水の流量を中間開度によって調整可能である。
【0046】
また、第2バルブ24は、
図2中「G」の範囲の回転角度から、さらにロータリーが負方向に回転され、
図2中「H」の回転角度になると、ラジエータ流路100lに対する開口率が100%となり、ラジエータ流路100lに冷却水が排出される。
【0047】
このように、第2バルブ24は、ロータリーが正方向または負方向のどちらに回転されるかによって、ヒータ流路100pに冷却水を排出するか否かを調整することが可能である。また、第2バルブ24は、ロータリーが正方向および負方向のどちらに回転される場合であっても、回転角度によって、水渡し流路100kおよびラジエータ流路100lに対する開口率を調整することが可能である。つまり、第2バルブ24は、回転角度によって、バイパス流路100rおよびラジエータ26に流通させる冷却水の流量を調整することが可能である。
【0048】
続いて、制御部42による制御処理について説明する。制御部42は、温度センサT1、T2によって計測される冷却水の温度に基づいて、第1バルブ20の開閉状態を制御するとともに、第2バルブ24のロータリーの回転角度を制御する。
【0049】
制御部42は、温度センサT1によって計測される、右シリンダブロックW/J14Rを流通した冷却水の温度(以下、ブロック温度と呼ぶ)が、予め設定された第2温度閾値(例えば110℃)未満の場合には、第1バルブ20を閉状態にし、右シリンダブロックW/J14Rおよび左シリンダブロックW/J14Lに冷却水を流通させない。これにより、制御部42は、エンジン2の早期暖機を図る。
【0050】
また、制御部42は、ブロック温度が第2温度閾値(例えば110℃)以上の場合には、第1バルブ20を開状態にし、右シリンダブロックW/J14Rおよび左シリンダブロックW/J14Lに冷却水を流通させるようにして、エンジン2を冷却する。
【0051】
また、制御部42は、ヒータスイッチのオンオフ、および、温度センサT2によって計測される、左シリンダヘッドW/J16Lを流通した冷却水の温度(以下、ヘッド温度と呼ぶ)に基づいて、第2バルブ24のロータリーの回転角度を決定し、決定した回転角度となるように第2バルブ24(ロータリー)を
図2中「A」〜「H」のいずれかの状態に制御する。このように、制御部42は、第2バルブ24のロータリーの回転角度を制御することにより、ラジエータ流路100l、ヒータ流路100p、およびバイパス流路100rに対する冷却水の流通を制御する。
【0052】
例えば、制御部42は、ヘッド温度が50℃未満のとき、ヒータスイッチがオンであれば第2バルブ24のロータリーの回転角度を
図2中「C」の状態に制御し、ヒータスイッチがオフであれば第2バルブ24のロータリーの回転角度を
図2中「F」の状態に制御する。このように、制御部42は、ヘッド温度が50℃未満のときにはラジエータ流路100lに冷却水を流通させないようにして、エンジン2の早期暖機を図る。
【0053】
また、制御部42は、ヘッド温度が50℃〜110℃のとき、ヒータスイッチがオンであれば第2バルブ24のロータリーの回転角度を「D」の状態に制御し、ヒータスイッチがオフであれば第2バルブ24のロータリーの回転角度を
図2中「G」の状態に制御する。このように、制御部42は、ヘッド温度が50℃〜110℃のときには、冷却水の温度に応じて第2バルブ24のロータリーの回転角度を中間開度で制御する。
【0054】
また、制御部42は、ヘッド温度が110℃以上のとき、ヒータスイッチがオンであれば第2バルブ24のロータリーの回転角度を
図2中「E」の状態に制御し、ヒータスイッチがオフであれば第2バルブ24のロータリーの回転角度を
図2中「H」の状態に制御する。このように、制御部42は、ヘッド温度が110℃以上のときにはラジエータ流路100lにのみ冷却水を流通させるようにして、エンジン2を最大限で冷却する。
【0055】
ところで、冷却システム1では上記したように、左排気ポート冷却回路18Lと変速機ウォーマ32とを同一の流路(左排気ポート排出流路100ml)に配置するとともに、この流路における変速機ウォーマ32よりも下流側にサーモスタットバルブ34を配置した。そして、このサーモスタットバルブ34により、左排気ポート冷却回路18Lおよび変速機ウォーマ32に対する冷却水の流通状態を制御する構成とした。
【0056】
このように、冷却システム1では、一つのサーモスタットバルブ34で左排気ポート冷却回路18Lおよび変速機ウォーマ32に対する冷却水の流通状態を制御することにより、バルブの数を削減するとともに、車両のコスト低減と軽量化が実現されている。この点について、本実施形態の冷却システム1と比較例の車両の冷却システム50の構成を対比しながら説明する。
【0057】
図3は、本実施形態の冷却システム1の要部構成を説明する図であり、特に上記効果を説明するために必要な構成のみを抽出して示した図である。一方、
図4は、比較例の車両の冷却システム50について、
図3に対応する要部構成を説明する図である。
【0058】
図3に示すように、冷却システム1では、ウォーターポンプ10から吐出された冷却水が、左右の分離室12R、12Lにおいて、左右の排気ポート冷却回路18R、18Lに振り分けられる。左排気ポート冷却回路18Lは、左排気ポート排出流路100mlが接続されており、この左排気ポート排出流路100mlに変速機ウォーマ32、サーモスタットバルブ34およびチャンバ36が配置されている。チャンバ36から排出された冷却水は、水渡しパイプ40に流入する。
【0059】
また、右排気ポート冷却回路18Rは、右排気ポート排出流路100mrが接続されており、この右排気ポート排出流路100mrの下流側の端部が、左排気ポート排出流路100mlにおける変速機ウォーマ32よりも上流側に接続されている(
図3の符号A)。また、左分離室12LにはEGR流路100nが接続されており、左分離室12LからEGR流路100nに流入した冷却水が、EGRクーラ38を流通して水渡しパイプ40に流入する。水渡しパイプ40では、左排気ポート排出流路100mlおよびEGR流路100nを流通した冷却水が合流し、合流した冷却水がバイパス流路100rを介してウォーターポンプ10に戻される。
【0060】
一方、比較例の車両の冷却システム50では、
図4に示すように、右排気ポート冷却回路18Rに接続される右排気ポート排出流路50mrと、左排気ポート冷却回路18Lに接続される左排気ポート排出流路50mlとが、符号Bの箇所で合流する。そして、左排気ポート排出流路50mlにおける合流箇所Bよりも下流側に、左排気ポート排出流路50mlおよび右排気ポート排出流路50mrに対する冷却水の流通を制御するコントロールバルブ52を配置している。
【0061】
また、左分離室12Lには、変速機ウォーマ32およびサーモスタットバルブ34が配置される変速機流路50pが接続されている。そして、サーモスタットバルブ34およびコントロールバルブ52を流通した冷却水がチャンバ36で合流し、水渡しパイプ40に流入する。水渡しパイプ40には、さらにEGR流路100nを流通した冷却水が流入し、これらの冷却水が合流してバイパス流路100rに排出され、ウォーターポンプ10に戻される。
【0062】
ここで、左右の排気ポート冷却回路18R、18Lは、排気ガスの性能改善を目的としてエンジンの排気ポート近傍に設けられるが、これらの回路に例えばエンジン始動直後の温度の低い冷却水を流通させると、排気ガスの温度が急速に低下する。排気ガスの温度が低下すると、エンジンの排気流路に設けられて排気ガスの不純物を浄化する触媒の温度が活性温度まで達しにくくなる。そのため、これら排気ポート冷却回路18R、18Lに対しては、温度の低い冷却水は流通させず、ある程度まで温度が上昇した冷却水を流通させたいという要請がある。
【0063】
また、変速機ウォーマ32は、変速機に供給されるオイルと冷却水とを熱交換させて、オイルの温度を制御するために設けられる。しかし、エンジン2の暖機性能の悪化に伴う燃費への影響を防ぐため、冷却水を変速機ウォーマ32よりもエンジン2に対して優先的に流通させ、エンジン2の暖機がある程度まで進行してから変速機ウォーマ32に冷却水を流通させたいという要請がある。
【0064】
このように、排気ポート冷却回路18R、18Lと変速機ウォーマ32とは、冷却水の流通制御に関して相異なる要請があるため、従来は
図4に示すように、それぞれに対する冷却水の流通を制御するバルブを個別に設ける構成としていた。そのため、バルブの数が増加し、車両全体としての重量が増加していた。
【0065】
一方、排気ポート冷却回路18R、18Lと変速機ウォーマ32とは、エンジン始動直後の冷間運転時には冷却水を流通させず、ある程度まで冷却水の温度が上昇してから冷却水を流通させたいという点では共通している。
【0066】
そこで、冷却システム1では、
図3に示すように、排気ポート冷却回路18R、18Lと変速機ウォーマ32とを同一の流路(
図3では左排気ポート排出流路100ml)に配置し、この流路における変速機ウォーマ32の下流側にサーモスタットバルブ34を設けて、冷却水が所定の温度閾値以上となったときに左排気ポート排出流路100mlに冷却水を流通させるようにした。
【0067】
このようにして、冷却システム1では、排気ポート冷却回路18R、18Lと変速機ウォーマ32に対して冷却水を連通させ制御するバルブを変速機ウォーマ32下流の一つのみにすることで、バルブの数を削減するとともに車両のコスト低減と軽量化を実現している。また、冷却システム1では、排気ポート冷却回路18R、18Lにおいて排気ガスを冷却し、温度が上昇した冷却水を、変速機ウォーマ32に流通させることで、変速機に用いられるオイルを速やかに昇温することができる。
【0068】
なお、冷却システム1では、左排気ポート排出流路100mlの冷却水が所定の温度閾値(例えば65℃)以上になると、サーモスタットバルブ34が開状態となり、排気ポート冷却回路18R、18Lおよび変速機ウォーマ32に同時期に冷却水が流通するようになる。そこで、サーモスタットバルブ34が開状態となる温度閾値は、エンジンの排ガス性能や暖機性能の観点から、排気ポート冷却回路18R、18Lおよび変速機ウォーマ32に冷却水を流通させても差し支えない最低限の温度に設定しておくとよい。
【0069】
また、冷却システム1では、右排気ポート冷却回路18Rに接続されている右排気ポート排出流路100mrを、左排気ポート排出流路100mlにおける変速機ウォーマ32の上流側に接続させることで、変速機ウォーマ32に流通させる冷却水の流量を増加させることができる。
【0070】
具体的に説明すると、冷却システム1では、変速機ウォーマ32に対して流通させるべき冷却水の流量と、排気ポート冷却回路18R、18Lに対して流通させるべき冷却水の流量との間に若干の誤差があり、一般に、変速機ウォーマ32に対する必要流量の方が、排気ポート冷却回路18R、18Lに対する必要流量よりも多い。したがって、左排気ポート排出流路100mlに流通させる冷却水だけでは、変速機ウォーマ32に対する必要流量を賄えない場合がある。
【0071】
そこで、冷却システム1では、左排気ポート排出流路100mlにおける変速機ウォーマ32の上流側に、右排気ポート排出流路100mrの下流側の端部を接続させ、両流路の冷却水を合流させることにより、変速機ウォーマ32に対して不足する冷却水の流量を補う。これにより、簡単かつ安価な構成で、変速機ウォーマ32に対して不足する冷却水の流量を補うことができる。
【0072】
また、冷却システム1では、EGRクーラ38が配されるEGR流路100nが、左排気ポート排出流路100mlとは独立した流路となっている。EGRクーラ38は、エンジンの吸気流路に戻す排気ガスの温度を下げ、燃費を改善することを目的として設けられるため、上述の排気ポート冷却回路18R、18Lや変速機ウォーマ32とは異なり、冷却水を常時流通させておきたいという要請がある。
【0073】
そこで、冷却システム1では上記のように、EGR流路100nを左排気ポート排出流路100mlとは独立した流路構成とし、EGR流路100nには常時冷却水を流通させるようにしている。このようにして、冷却システム1では、EGRシステムによる燃費の改善効率に影響を及ぼさないようにしている。
【0074】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0075】
例えば、上記実施形態で説明した冷却システム1において、過給機やEGRバルブなどをさらに設け、これらのデバイスに冷却水を流通させる流路を別途設けるようにしてもよい。
【0076】
また、上記実施形態では、排気ポート冷却回路18R、18Lおよび変速機ウォーマ32に対する冷却水の流通状態を切り替えるバルブとしてサーモスタットバルブ34を設ける構成を説明したが、このバルブは制御部42で開閉の制御を行うことができる電子制御バルブであってもよい。
【0077】
また、上記実施形態では、エンジン2が複数のバンクを備える水平対向エンジンである場合を例示して説明したが、エンジン2の形式についてはこれに限られない。例えば、エンジン2が水平対向エンジンと同様に複数のバンクを備えるV型エンジンである場合にも、冷却システム1を適用することができる。