特許第6703469号(P6703469)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6703469複合成形体用熱可塑性エラストマー組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6703469
(24)【登録日】2020年5月12日
(45)【発行日】2020年6月3日
(54)【発明の名称】複合成形体用熱可塑性エラストマー組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 53/02 20060101AFI20200525BHJP
   C08L 67/02 20060101ALI20200525BHJP
   C08L 77/00 20060101ALI20200525BHJP
   C08L 75/04 20060101ALI20200525BHJP
   C08L 91/00 20060101ALI20200525BHJP
   C08L 53/00 20060101ALI20200525BHJP
   C08L 51/08 20060101ALI20200525BHJP
   B29C 45/00 20060101ALI20200525BHJP
【FI】
   C08L53/02
   C08L67/02
   C08L77/00
   C08L75/04
   C08L91/00
   C08L53/00
   C08L51/08
   B29C45/00
【請求項の数】5
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2016-214209(P2016-214209)
(22)【出願日】2016年11月1日
(65)【公開番号】特開2018-70809(P2018-70809A)
(43)【公開日】2018年5月10日
【審査請求日】2019年2月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000505
【氏名又は名称】アロン化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095832
【弁理士】
【氏名又は名称】細田 芳徳
(72)【発明者】
【氏名】亀井 雄希
(72)【発明者】
【氏名】伊達 憲昭
【審査官】 横山 法緒
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−091385(JP,A)
【文献】 特開平10−130451(JP,A)
【文献】 特開2007−084821(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/135927(WO,A1)
【文献】 特開2016−079226(JP,A)
【文献】 特開2004−143349(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00−101/14
C08K 3/00−13/08
B29C 45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性スチレン系エラストマーA、40℃における動粘度が30〜500mm2/sである軟化剤B、並びにポリエステル系エラストマー及びポリアミド系エラストマーからなる群より選ばれた少なくとも1種の熱可塑性エラストマーCを含有する複合成形体用熱可塑性エラストマー組成物であって、前記熱可塑性スチレン系エラストマーAにおけるスチレン系単量体単位の含有量が45〜80質量%であり、前記熱可塑性スチレン系エラストマーAが制御分布型ブロック共重合体を含有し、前記熱可塑性スチレン系エラストマーA 100質量部に対して、前記軟化剤Bを20〜300質量部、前記熱可塑性エラストマーCを100〜800質量部含む、複合成形体用熱可塑性エラストマー組成物(ただし、ポリウレタン系エラストマーを含むものを除く)
【請求項2】
熱可塑性スチレン系エラストマーAの重量平均分子量が200,000〜500,000である、請求項1記載の複合成形体用熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項3】
さらに、熱可塑性スチレン系エラストマーA 100質量部に対して1〜30質量部の相溶化剤Dを含有する、請求項1又は2記載の複合成形体用熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項4】
A硬度が75以下である、請求項1〜3いずれか記載の複合成形体用熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項5】
請求項1〜4いずれか記載の熱可塑性エラストマー組成物が極性樹脂に熱融着してなる、複合成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子材料、家電、電気機器、医療用具、包装資材、文具・雑貨用品等の各種複合成形品用に適した複合成形体用熱可塑性エラストマー組成物、及び該組成物が極性樹脂に熱融着した複合成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車、電子材料、家電、電気機器、医療用具、包装資材、文具・工具・雑貨用品等の各種成形品に有用な組成物として、ポリエステル系エラストマーとスチレン系エラストマーとを含む熱可塑性エラストマー組成物が提案されている。この熱可塑性エラストマー組成物は、成形品の用途に応じて種々の物性が求められる。例えば、ペングリップや電動工具グリップ等のグリップラバーに用いるためには、良好な成形性をはじめとして、複合材料本体を構成するポリカーボネート等の極性樹脂への熱融着性、良好な触感を得るための高い柔軟性が求められる。
【0003】
特許文献1には、水添スチレン系ブロック共重合体と、ポリエステル系共重合体エラストマーを含み、さらに、炭化水素系ゴム用軟化剤を含有してもよい熱可塑性エラストマー組成物に関する発明が開示されており、通常の水添スチレン系ブロック共重合体にポリエステル系共重合体エラストマーを添加したものでは、特に、柔軟性と熱融着性と成形性のバランスに優れたものがなかったことに対して、水添スチレン系ブロック共重合体として1,2-ビニル結合の割合が50超過〜90重量%の共役ジエン重合体ブロックの水素添加誘導体を含む組成物、いわゆるハイビニルSBSと呼ばれるものを用いると、硬質樹脂に対する融着性が向上し、機能性バランスに優れることが開示されている。
【0004】
特許文献2には、制御分布型のブロック共重合体が、通常のブロックコポリマー配合物の加工性を向上するための流動改質剤として使用でき、水添スチレン系ブロック共重合体に制御分布型のスチレン系ブロック共重合体を併用すると、引張り、伸度、圧縮永久歪等の物理物性を損なうことなく、溶融流動性が著しく増加することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−130451号公報
【特許文献2】特開2007−84821号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ポリエステル系熱可塑性エラストマー及び水添スチレン系熱可塑性エラストマーを含む熱可塑性エラストマー組成物は従来から知られており、硬質樹脂と融着できることも知られているが、その作用機構は明らかではなく、柔軟性の高いものは熱融着強度が低くなる傾向があって、柔軟性と熱融着性を両立させることは困難である。
【0007】
特許文献1において、実際に機能性バランスが優れていることが具体的に開示されている熱可塑性エラストマー組成物は、比較的ポリエステル系エラストマーの添加量が多くて、硬い組成物が主であり、柔軟性を高めるためにポリエステル系エラストマーの添加量を減らすと、熱融着性が著しく悪化してしまうため、高い柔軟性と熱融着性の両立が求められる用途には不十分なものである。また、このように極性の高いポリエステル系エラストマーの添加量を多くすることによって極性樹脂への熱融着性を発現させる機構では、被着体の極性によって熱融着性に大きな差が表れ易いため、極性の異なる異種の樹脂に同時に熱融着させるような複合成形体の用途を考えた場合、一方の樹脂だけに強固に熱融着して他方の樹脂からは剥がれやすいという不具合を生じる恐れがある。
【0008】
また、特許文献2には、制御分布型のスチレン系ブロック共重合体が記載されており、制御分布型ブロック共重合体の化学構造や、その製造方法、また、制御分布型でない通常のブロック共重合体と併用することにより、様々な用途に適する組成物に応用できることが開示されており、増量油、ポリオレフィン樹脂、粘着性付与樹脂等を併用しても良いことが開示されているが、制御分布型ブロック共重合体が、ポリエステル系エラストマーや、ポリアミド系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー等の極性エラストマーと併用できることや、そのとき極性樹脂との熱融着性が向上することについては知られていない。
【0009】
本発明の課題は、柔軟性と極性樹脂への熱融着性の両立した複合成形体用熱可塑性エラストマー樹脂組成物、及び該組成物が極性樹脂に熱融着した複合成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、
〔1〕 熱可塑性スチレン系エラストマーA、40℃における動粘度が30〜500mm2/sである軟化剤B、及びポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、及びポリウレタン系エラストマーからなる群より選ばれた少なくとも1種の熱可塑性エラストマーCを含有する複合成形体用熱可塑性エラストマー組成物であって、前記熱可塑性スチレン系エラストマーAにおけるスチレン系単量体単位の含有量が45〜80質量%であり、前記熱可塑性スチレン系エラストマーAが制御分布型ブロック共重合体を含有し、前記熱可塑性スチレン系エラストマーA 100質量部に対して、前記軟化剤Bを20〜300質量部、前記熱可塑性エラストマーCを100〜800質量部含む、複合成形体用熱可塑性エラストマー組成物、並びに
〔2〕 前記〔1〕記載の熱可塑性エラストマー組成物が極性樹脂に熱融着してなる、複合成形体
に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の複合成形体用熱可塑性エラストマー樹脂組成物は、柔軟性と極性樹脂への熱融着性の両方を高いレベルで両立させるという効果を奏するものである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、熱可塑性スチレン系エラストマーA、軟化剤B、及び熱可塑性エラストマーCを含有するものである。一般に、熱可塑性エラストマー組成物は、柔軟性が高くなるほど、極性樹脂への熱融着性は低下する傾向がある。しかしながら、本発明では、スチレン系単量体単位の含有量が比較的高く、制御分布型ブロックを有する熱可塑性スチレン系エラストマーと、ポリエステル系エラストマー等の熱可塑性極性エラストマーとを併用することにより、柔軟性を損なうことなく、極性樹脂への熱融着性を向上させることができ、さらに、極性樹脂の種類が異なっても熱融着性に大きな差がないことを見出した。
【0013】
熱可塑性スチレン系エラストマーAにおけるスチレン系単量体単位の含有量は、極性樹脂への熱融着性の観点から、45質量%以上であり、好ましくは50質量%以上、より好ましくは55質量%以上であり、柔軟性の観点から、80質量%以下であり、好ましくは75質量%以下、より好ましくは70質量%以下である。熱可塑性スチレン系エラストマーAとして2種以上が併用されている場合は、それぞれの熱可塑性スチレン系エラストマーのスチレン系単量体の含有量の加重平均値を、前記スチレン系単量体単位の含有量とする。本発明において、スチレン系単量体には、スチレンだけでなく、o-メチルスチレン、p-メチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、1,3-ジメチルスチレン、α-メチルスチレン等の炭素数1〜4のアルキル基により置換されたスチレン誘導体も含まれる。
【0014】
熱可塑性スチレン系エラストマーAに含まれる制御分布型ブロック共重合体は、柔軟性と成形性の観点から、ハードセグメントとソフトセグメントを有することが好ましく、例えば、ハードセグメントとしてスチレン系単量体の重合単位であるブロック単位(ブロック単位S)と、ソフトセグメントとして共役ジエンとスチレン系単量体との共重合単位であり、制御分布構造を有するブロック単位(ブロック単位B)とからなるブロック共重合体Zが挙げられる。
【0015】
制御分布型ブロック共重合体におけるハードセグメントとソフトセグメントの質量比(ハードセグメント/ソフトセグメント)は、好ましくは45/55〜80/20、より好ましくは55/45〜70/30である。
【0016】
制御分布型ブロック共重合体におけるスチレン系単量体単位の含有量は、ハードセグメントのスチレン系単量体単位とソフトセグメント中のスチレン系単量体単位の合計量とする。
【0017】
共役ジエンとしては、ブタジエン、イソプレン、1,3-ペンタジエン等が挙げられる。
【0018】
ブロック共重合体Zは、〔ブロック単位S−ブロック単位B〕m−ブロック単位S型の構造を有していることが好ましい。ここで、mは1〜5が好ましいが、本発明では、mが1のトリブロック共重合体が好ましい。
【0019】
ブロック単位Bは、共役ジエン単位を主要構成単位として含有する領域を2個以上、スチレン系単量体単位を主要構成単位として含有する領域を1個以上有し、ブロック単位Sに隣接する両末端は共役ジエン単位を主要構成単位として含有する領域であることが好ましい。
【0020】
ブロック共重合体Zは、共役ジエン単量体単位の不飽和結合の一部又は全部が水素添加されていることが好ましい。共役ジエン単量体単位の不飽和結合を水素添加することにより不飽和結合が減少し、耐熱性、耐候性及び機械的特性が向上する。水素添加率は、80%以上が好ましく、90%以上がより好ましい。本発明において、水素添加率は、熱可塑性スチレン系エラストマーA中の共役ジエン単量体に由来する炭素−炭素二重結合の含有量を、水素添加の前後において、1H-NMRスペクトルによって測定し、該測定値から求めることができる。
【0021】
共役ジエンがブタジエンである、トリブロック構造のブロック共重合体Zの水素添加物は、制御分布SEBSと呼ばれており、制御分布SEBSの市販品としては、例えば、クレイトンポリマー社製のAシリーズ、MDシリーズ等が挙げられる。
【0022】
熱可塑性スチレン系エラストマーAにおける制御分布型ブロック共重合体の含有量は、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上である。
【0023】
なお、制御分布型のブロック共重合体は、当該技術分野において周知のものであり、例えば、特許文献2、特表2013−518170号公報等に記載されている。
【0024】
制御分布型ブロック共重合体以外の熱可塑性スチレン系エラストマーとしては、ブロック単位Bが共役ジエンの重合単位であるブロック共重合体Z’等が挙げられる。
【0025】
ブロック共重合体Z’も、ブロック共重合体Zと同様に、共役ジエン単量体単位の不飽和結合の一部又は全部が水素添加されていることが好ましい。
【0026】
ブロック共重合体Z’の水素添加物の具体例としては、スチレン−エチレン・ブチレンブロック共重合体、スチレン−エチレン・ブチレン−スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン−エチレン・プロピレンブロック共重合体、スチレン−エチレン・プロピレン−スチレンブロック共重合体(SEPS)、スチレン−エチレン−エチレン・プロピレンブロック共重合体、スチレン−(エチレン−エチレン・プロピレン)−スチレンブロック共重合体(SEEPS)、スチレン−イソブチレンブロック共重合体、スチレン−イソブチレン−スチレンブロック共重合体、(α-メチルスチレン)−エチレン・ブチレンブロック共重合体、(α-メチルスチレン)−エチレン・ブチレン−(α-メチルスチレン)ブロック共重合体等が挙げられる。これらは、単独であっても、2種以上の混合物であってもよい。
【0027】
熱可塑性スチレン系エラストマーAの重量平均分子量は、極性樹脂への熱融着性の観点から、好ましくは100,000以上、より好ましくは200,000以上であり、成形性の観点から、好ましくは500,000以下、より好ましくは450,000以下、さらに好ましくは350,000以下である。熱可塑性スチレン系エラストマーAとして2種以上が併用されている場合は、それぞれの熱可塑性スチレン系エラストマーの重量平均分子量の加重平均値を、前記重量平均分子量とする。
【0028】
熱可塑性エラストマー組成物中の熱可塑性スチレン系エラストマーAの含有量は、好ましくは10〜50質量%、より好ましくは15〜35質量%である。
【0029】
軟化剤Bは、例えば、パラフィンオイル、ナフテンオイル、芳香族系オイル等のゴム用軟化剤が挙げられるが、これらのなかでは、熱可塑性スチレン系エラストマーとの親和性が良好で、ブリードが起きにくいという観点から、パラフィンオイルが好ましい。
【0030】
軟化剤Bの40℃での動粘度は、高い方が、加熱溶融時の揮発を防ぎ、耐ブリード性も良くなることから、30mm2/s以上、好ましくは60mm2/s以上、より好ましくは80mm2/s以上であり、極性樹脂への熱融着性向上の観点から、さらに好ましくは150mm2/s以上であり、低い方が取扱いが容易であることから、500mm2/s以下、好ましくは450mm2/s以下、より好ましくは400mm2/s以下である。
【0031】
軟化剤Bの含有量としては、軟化剤Bが少なすぎると組成物の柔軟性が低下し、各種配合成分の分散性が低下する。また、軟化剤Bが多すぎると、オイルブリードが生じやすく、極性樹脂への熱融着性が低下する。これらの観点から、軟化剤Bの含有量は、熱可塑性スチレン系エラストマーA 100質量部に対して、20質量部以上、好ましくは50質量部以上であり、300質量部以下、好ましくは250質量部以下である。
【0032】
また、熱可塑性エラストマー組成物中の軟化剤Bの含有量は、好ましくは5〜45質量%、より好ましくは10〜40質量%である。
【0033】
熱可塑性エラストマーCは、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、及びポリウレタン系エラストマーからなる群より選ばれた少なくとも1種であり、これらのエラストマーのなかでは、熱可塑性スチレン系エラストマーAとの相溶性の観点から、ポリエステル系エラストマーが好ましい。
【0034】
熱可塑性エラストマーCは、ハードセグメントとソフトセグメントとを含むことが好ましい。
【0035】
ポリエステル系エラストマーとしては、ハードセグメントとして芳香族ポリエステルブロックを有し、ソフトセグメントとして脂肪族ポリエーテルブロックを有するポリエステル−ポリエーテルブロック共重合体が好ましい。
【0036】
ハードセグメントである芳香族ポリエステルブロックは、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、1,4-又は2,6-ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルジカルボン酸、4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4’-ジフェニルスルホンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸又はそのアルキルエステルの1種又は2種以上と、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、4,4’-ジヒドロキシジビフェニル、2,2-ビス(4’-β-ヒドロキシエトキシジフェニル)プロパン等のジオールの1種又は2種以上との重縮合体であることが好ましい。
【0037】
ソフトセグメントである脂肪族ポリエーテルブロックは主としてポリアルキレンエーテルグリコールからなることが好ましい。ポリエステル−ポリエーテルブロック共重合体のソフトセグメントである脂肪族ポリエーテルブロックの重量平均分子量は、400〜60,000が好ましい。脂肪族ポリエーテルブロックの重量平均分子量は、熱可塑性スチレン系エラストマーAと同様に、ゲルパーミエーションクロマトグラフにより、ポリスチレン換算で分子量を測定し、重量平均分子量を求める。
【0038】
前記ポリエステル−ポリエーテルブロック共重合体の市販品としては、例えば、「Keyflex」(LGケミカル社製、商品名)、「ペルプレン」(東洋紡績(株)製、商品名)、「ハイトレル」(東レ・デュポン(株)製、商品名)、「フレクマー」(日本合成化学工業(株)製、商品名)等が挙げられる。
【0039】
ポリアミド系エラストマーとしては、ハードセグメントとしてポリアミドブロックを有し、ソフトセグメントとしてポリエーテルブロック又はポリエステルブロックを有するものが好ましく、ハードセグメントとしてポリアミドブロックを有し、ソフトセグメントとしてポリエーテルブロックを有するポリアミド−ポリエーテルブロック共重合体がより好ましい。
【0040】
ハードセグメントであるポリアミドブロックとしては、ナイロン6,66,11,12等が挙げられる。
【0041】
ソフトセグメントであるポリエーテルブロックは、ポリエステル系エラストマーのソフトセグメントと同様に、脂肪族ポリエーテルブロックであることが好ましい。
【0042】
ポリアミド−ポリエーテルブロック共重合体としては、例えば、式(I):
【0043】
【化1】
【0044】
(式中、PAはハードセグメントであるポリアミドブロック、PGはソフトセグメントであるポリエーテルブロックを示す)
で表される共重合体が挙げられる。
【0045】
式(I)で表されるポリアミド−ポリエーテルブロック共重合体は、例えば、(イ)ジアミンとジカルボン酸の塩、ラクタム類、又はアミノジカルボン酸(PA構成成分)、(ロ)ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール等のポリオキシアルキレングリコール(PG構成成分)、及び(ハ)ジカルボン酸を重縮合させることによって得られる。
【0046】
なお、式(I)で表されるポリアミド−ポリエーテルブロック共重合体は、米国特許第3,044,978号明細書等に開示されているように、それ自体は公知の物質である。
【0047】
式(I)で表されるポリアミド−ポリエーテルブロック共重合体の市販品としては「ペバックス」(アルケマ社製、商品名)、「ダイアミド−PAE」(ダイセル・ヒュルス社製、商品名)、「UBEポリアミドエラストマー」(宇部興産(株)製、商品名)、「ノバミッドPAE」(三菱化学(株)製、商品名)、「グリラックスA」(大日本インキ化学工業(株)製、商品名)、「グリロンELX、ELY」(エムスジャパン(株)製、商品名)等がある。
【0048】
ポリウレタン系エラストマーとしては、ハードセグメントとしてジイソシアネート化合物と短鎖グリコールとの縮合体であるポリウレタンブロックを有し、ソフトセグメントとしてポリエステルブロック又はポリエーテルブロックを有するポリウレタン系ブロック共重合体が好ましい。
【0049】
短鎖グリコールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール等の炭素数2〜5のアルキレングリコール等が挙げられる。
【0050】
ジイソシアネート化合物としては、フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等の公知慣用のものが使用される。ハードセグメントとソフトセグメントのジイソシアネート化合物は同一であっても異なっていてもよい。
【0051】
ポリエステルブロックとしては、ポリアルキレンアジペート、ポリカプロラクトン、ポリカーボネート等が挙げられる。
【0052】
ポリエーテルブロックとしては、ポリエチレングリコール、ポリ(1,2-及び1,3-プロピレンオキシド)グリコール、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、ポリ(ヘキサメチレンオキシド)グリコール等の分子量が400〜6,000のポリ(アルキレンオキシド)グリコール等が挙げられる。
【0053】
前記のポリエステルブロック及びポリエーテルブロックは、前記ジイソシアネート化合物との縮合結合部を含んでいてもよい。
【0054】
ポリウレタン系ブロック共重合体としては、例えば、式(II):
【0055】
【化2】
【0056】
(式中、Aはハードセグメントであるジイソシアネート化合物と短鎖グリコールとの縮合体ブロック、Bはソフトセグメントであるポリエステルブロック又はポリエーテルブロックであり、Yはジイソシアネート化合物の残基を示す)
で表される共重合体が挙げられる。
【0057】
ポリウレタン系エラストマーの市販品としては、「エラストラン」(武田バーディッシュウレタン社製、商品名)、「ミラクトラン」(日本ミラクトラン(株)製、商品名)、「レザミンP」(大日精化工業(株)製、商品名)、「ユーファインP」(旭硝子(株)製商品名)等が挙げられる。
【0058】
熱可塑性エラストマーCは、ソフトセグメントが多い方が熱融着性の面では有利になるが、耐摩耗性の面からはハードセグメントが多い方が好ましい。かかる観点から、熱可塑性エラストマーCにおけるハードセグメントとソフトセグメントとの質量比(ハードセグメント/ソフトセグメント)は、好ましくは10/90〜30/70、より好ましくは13/87〜28/72、さらに好ましくは15/85〜25/75である。
【0059】
熱可塑性エラストマーCのA硬度は、好ましくは50〜98、より好ましくは60〜95、さらに好ましくは70〜90である。
【0060】
熱可塑性エラストマーCの含有量としては、熱可塑性エラストマーCが多いほど極性樹脂との熱融着性が良くなる。また、熱可塑性エラストマーCが少ない方が柔軟性に優れる。これらの観点から、熱可塑性エラストマーCの含有量は、熱可塑性スチレン系エラストマーAの100質量部に対して、100質量部以上、好ましくは120質量部以上であり、800質量部以下、好ましくは600質量部以下、より好ましくは400質量部以下である。
【0061】
また、熱可塑性エラストマー組成物中の熱可塑性エラストマーCの含有量は、好ましくは20〜85質量%、より好ましくは30〜75質量%である。
【0062】
熱可塑性スチレン系エラストマーA、軟化剤B、及び熱可塑性エラストマーCの総含有量は、熱可塑性エラストマー組成物中、好ましくは75質量%以上、より好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上である。
【0063】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、極性樹脂との熱融着性向上の観点から、さらに、相溶化剤Dを含有していてもよい。
【0064】
相溶化剤Dは、熱融着性向上効果に優れることから、酸変性水添熱可塑性スチレン系エラストマーD1、酸変性オレフィン系熱可塑性エラストマーD2、及びスチレン系エラストマーとウレタン系エラストマーのグラフトポリマーD3からなる群より選ばれた少なくとも1種のエラストマーが好ましい。
【0065】
酸変性水添熱可塑性スチレン系エラストマーD1としては、スチレン系単量体からなる重合体のスチレンブロック単位と、共役ジエンからなる重合体の共役ジエンブロック単位とからなるブロック共重合体の水素添加物を酸変性させたものが好ましい。
【0066】
スチレンブロック単位を構成するスチレン系単量体としては、スチレン、o-メチルスチレン、p-メチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、1,3-ジメチルスチレン、α-メチルスチレン等が挙げられる。
【0067】
共役ジエンブロック単位を構成する共役ジエンとしては、ブタジエン、イソプレン、1,3-ペンタジエン等が挙げられる。
【0068】
ブロック共重合体は、スチレンブロック単位からなるハードセグメントと、共役ジエンブロック単位とからなるソフトセグメントとからなり、全体の物性を決定する観点から、ブロック共重合体におけるスチレン系単量体単位の含有量は、好ましくは5〜70質量%、より好ましくは10〜60質量%、さらに好ましくは20〜50質量%である。
【0069】
ブロック共重合体の水素添加は、一部であっても、全部であってもよいが、水素添加することにより不飽和結合が減少し、耐熱性、耐候性及び機械的特性が得られる。それらの観点から、水素添加率は、80%以上が好ましく、90%以上がより好ましい。
【0070】
ブロック共重合体の水素添加物の具体例としては、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体、スチレン−エチレン・プロピレン−スチレンブロック共重合体、スチレン−エチレン−エチレン・プロピレン−スチレンブロック共重合体、スチレン−イソブチレン−スチレンブロック共重合体、スチレン−ブタジエンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、ピリジン−ブタジエンゴム、スチレン−イソプレンゴム、スチレン−エチレン共重合体、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体、ポリ(α-メチルスチレン)-ポリブタジエン−ポリ(α-メチルスチレン)、ポリ(α-メチルスチレン)-ポリイソプレン−ポリ(α-メチルスチレン)、エチレン−プロピレン共重合体、スチレン−クロロプレンゴム等が挙げられる。これらは、単独であっても、2種以上の混合物であってもよいが、原料調製及び作業性の観点から、スチレン−エチレン・ブチレン−スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン−エチレン・プロピレン−スチレンブロック共重合体(SEPS)、スチレン−エチレン−エチレン・プロピレン−スチレンブロック共重合体(SEEPS)、及びスチレン−イソブチレン−スチレンブロック共重合体(SIBS)からなる群より選ばれた少なくとも1種であることが好ましい。
【0071】
ブロック共重合体の水素添加物の酸変性は、特に限定されるものではないが、例えば、水素添加物にカルボキシル基又は酸無水物基を導入することによって行うことができる。上記のカルボキシル基又は酸無水物基の導入は、それ自体公知の方法に従って行うことができる。具体的には、例えば、水素添加物と、アクリル酸、メタクリル酸等で例示される不飽和モノカルボン酸;マレイン酸、フマール酸、ハイミック酸、イタコン酸等で例示される不飽和ジカルボン酸;無水マレイン酸、無水ハイミック酸、無水イタコン酸等で例示される不飽和ジカルボン酸の無水物とを、有機過酸化物の存在下に、溶媒の存在下又は非存在下に加熱して、グラフト反応させることにより得ることができる。また、商業的に入手することもできる。
【0072】
酸変性水添熱可塑性スチレン系エラストマーD1の酸変性量は、相溶性及び作業性の観点から、好ましくは0.1〜10質量%、より好ましくは0.3〜5.0質量%、さらに好ましくは0.5〜3.0質量%である。
【0073】
酸変性水添熱可塑性スチレン系エラストマーD1の重量平均分子量は、耐熱性の観点から、50,000以上が好ましく、溶融物の流動性及びゴム弾性の観点から、200,000以下が好ましい。これらの観点から、酸変性水添熱可塑性スチレン系エラストマーD1の重量平均分子量は、好ましくは50,000〜200,000である。酸変性水添熱可塑性スチレン系エラストマーD1は、1種のみが用いられていてもよく、2種以上が併用されていてもよい。2種以上が併用されている場合は、それらの加重平均値が上記範囲内であることが好ましく、それぞれが上記範囲内であることがより好ましい。
【0074】
酸変性水添熱可塑性スチレン系エラストマーD1のA硬度は、好ましくは30〜97、より好ましくは50〜93、さらに好ましくは70〜90である。
【0075】
酸変性オレフィン系熱可塑性エラストマーD2としては、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン等のα−オレフィン共重合体エラストマー、これらと非共役ジエンとの共重合エラストマー、これらの2種以上の混合物等が挙げられ、これらのものの少なくとも一部が酸変性されたものである。これらの中では、エチレン−α−オレフィン共重合体の酸変性物及びプロピレン−α−オレフィン共重合体の酸変性物が好ましい。
【0076】
酸変性処理は、酸変性水添熱可塑性スチレン系エラストマーD1と同様に行うことができる。
【0077】
酸変性オレフィン系熱可塑性エラストマーD2の酸変性量は、相溶性及び作業性の観点から、好ましくは0.1〜10質量%、より好ましくは0.3〜5.0質量%である。
【0078】
酸変性オレフィン系熱可塑性エラストマーD2のA硬度は、好ましくは95以下、より好ましくは10〜90、さらに好ましくは20〜90である。
【0079】
スチレン系エラストマーとウレタン系エラストマーのグラフトポリマーD3としては、1個のスチレン系エラストマーブロックと1個のポリウレタンエラストマーブロックを有するジブロック共重合体であっても、スチレン系エラストマーとポリウレタンエラストマーブロックが合計で3個又は4個以上結合したポリブロック共重合体であってもよいが、耐熱性に優れ、加熱溶融時に悪臭を放出しない観点から、1個のスチレン系エラストマーと1個のポリウレタンエラストマーブロックが結合したジブロック共重合体が好ましい。市販品としては、(株)クラレ製のクラミロン(登録商標)TUポリマー等が挙げられる。
【0080】
相溶化剤Dは、多すぎると相分離が形成し難くなるため、相溶化剤を用いる場合は、相分離構造を損なうことなく熱融着性を向上させる観点から、熱可塑性スチレン系エラストマーA 100質量部に対して、好ましくは1〜30質量部、より好ましくは5〜20質量部である。
【0081】
また、熱可塑性エラストマー組成物中の相溶化剤Dの含有量は、好ましくは0.5〜20質量%、より好ましくは1〜5質量%である。
【0082】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、他の熱可塑性樹脂や熱可塑性エラストマーを含有していてもよい。なかでも極性エラストマーは、連続相である熱可塑性エラストマーCに取り込まれ、組成物全体の柔軟性や熱融着性を向上させることができる。極性エラストマーとしては、特に制限されないが、例えばNBR(ニトリルゴム)、ポリウレタンゴム、エピクロルヒドリンゴム等が挙げられる。
【0083】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で、カーボンブラック、シリカ、炭素繊維、ガラス繊維等の補強剤、無機充填剤、絶縁性熱伝導性フィラー、顔料、水和金属化合物、赤燐、ポリリン酸アンモニウム、アンチモン、シリコーン等の難燃剤、帯電防止剤、増粘剤、粘着付与剤、架橋剤、架橋助剤、熱安定剤、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、ブロッキング防止剤、シール性改良剤、離型剤、着色剤、香料等の各種添加剤を含有していてもよい。
【0084】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、熱可塑性スチレン系エラストマーA、軟化剤B、及び熱可塑性エラストマーC、さらに必要に応じて相溶化剤D等を含む原料を混合し、冷却により固化させて得られる。
【0085】
本発明でいう「混合」とは、各種成分が良好に混合される方法であれば特に限定されず、各種成分を溶解可能な有機溶媒中に溶解させて混合してもよいし、溶融混練によって混合してもよいが、原料の混合は、熱可塑性エラストマーCが溶融する条件下で行うことが好ましい。
【0086】
熱可塑性エラストマーCが溶融する条件下とは、例えば、熱可塑性エラストマーCの融点を基に定義することができ、静置状態で融点以上であれば溶融する条件であるが、溶融混練法では必ずしも静置状態で測定された融点ではなく、融点よりも低い温度で溶融することもあり、温度が高いほど溶融粘度が小さくなって混合しやすくなるが、あまり高いと熱分解が起きる恐れがある。これらの観点から、混練を伴うときの好ましい溶融温度範囲は、融点に対して-30℃〜+100℃であり、より好ましくは融点に対して-20℃〜+50℃である。
【0087】
溶融混練する場合には、一般的な押出機を用いることができ、混練状態の向上のため、二軸の押出機を使用することが好ましい。押出機への供給は、予めヘンシェルミキサー等の混合装置を用いて各種成分を混合したものを一つのホッパーから供してもよいし、二つのホッパーにそれぞれの成分を仕込みホッパー下のスクリュー等で定量しながら供してもよい。
【0088】
熱可塑性エラストマー組成物を構成する原料を混合して得られる生成物は、用途に応じて、ペレット、粉体、シート等の形状とすることができる。例えば、押出機によって溶融混練してストランドに押出し、冷水中で冷却しつつカッターによって円柱状や米粒状等のペレットに切断される。得られたペレットは、通常、射出成形、押出成形によって所定のシート状成形品や金型成形品とする。また、溶融混練物をルーダー等でペレットにし成形加工原料とすることもできる。シート状の熱可塑性エラストマー組成物に、台紙等を貼付した中間製品としてもよい。
【0089】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物のA硬度は、柔軟性の観点から、好ましくは75以下、より好ましくは65以下、さらに好ましくは60以下である。また、好ましくは20以上、より好ましくは25以上、さらに好ましくは30以上である。
【0090】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物の温度230℃、荷重2.16kgでのメルトマスフローレイトは、接着性及び流動性の観点から、0.5〜100g/10minが好ましく、1〜10g/10minがより好ましい。
【0091】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物を、常法に従って、適宜加熱成形することにより、成形体が得られる。本発明の熱可塑性エラストマー組成物を加熱成形して得られる成形体の用途は、特に限定されるものではなく一般的なスチレン系エラストマー、ポリオレフィン系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、アクリル系エラストマーやポリエステル系エラストマー等が用いられる分野に用いることができる。
【0092】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物を用いた成形体の製造に用いられる装置は、成形材料を溶融できる任意の成形機を用いることができる。例えば、ニーダー、押出成形機、射出成形機、プレス成形機、ブロー成形機、ミキシングロール等が挙げられる。
【0093】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、複合成形体用材料として用いられるものであり、様々な材料に融着するため、異種材料からなる部材の張り合わせにも好適に用いることができる。例えば、金属、セラミック、ガラス及び極性樹脂からなる群より選ばれた少なくとも1種の部材に融着させるために用いられ、特に極性樹脂等に対して良好な接着性を示す。
【0094】
金属としては、特に限定されず、例えば、アルミニウム、アルミニウム合金、ステンレス、鉄、銅、亜鉛めっき鋼、マグネシウム、マグネシウム合金等、また各種めっき処理品等が挙げられる。
【0095】
極性樹脂としては、例えば、ポリカーボネート、ポリエステル系樹脂、ポリメチルメタクリレート等のポリ(メタ)アクリレート系樹脂、ポリエチレンオキサイド系樹脂、ポリプロピレンオキサイド系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ABS樹脂等のポリスチレン系樹脂、ポリビニルエーテル系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、LCP(液晶ポリマー)、アイオノマー等の極性樹脂、これらの2種以上の混合物等が挙げられる。
【0096】
本発明において、融着は、本発明の熱可塑性エラストマー組成物の融点以上の熱を加えて、融液にした後、融点以下の温度にして固化することで、融着対象の界面に固着する現象をいう。熱を加えるには、熱プレス機、加熱ロール機、熱風発生機、加熱蒸気、超音波ウェルダー、高周波ウェルダー、レーザー等を用いることができる。従って、融着部の界面が複雑な立体形状であっても、複雑な立体形状にうまくなじみ成形一体化することができる。
【0097】
従って、本発明の熱可塑性エラストマー組成物は部材と一体となって複合成形体とすることもできる。これにより、複雑な接合面を有する部材や、互いに異なる形状の接合面を有する部材の複合化も可能となる。
【0098】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物が部材に熱融着した複合成形体は、射出成形、射出圧縮成形、インサート成形、多色成形、真空成形、圧空成形、ブロー成形、熱プレス成形、発泡成形、レーザー融着成形、押出成形等の方法により、成形加工して得ることができるが、本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、接着剤のように自身が粘着性を有するものではなく、取り扱いが容易であるため、射出成形にも適用することができる。
【0099】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物が部材に熱融着した複合成形体としては、熱可塑性エラストマー組成物からなる成形体に極性樹脂がインサートされたインサート成形体、熱可塑性エラストマー組成物と、極性樹脂とを多色成形して得られる複合成形体等が挙げられる。
【0100】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、用途に応じて各種成形品として用いることができるが、ポリカーボネート等の極性樹脂の熱融着性に優れ、柔軟性も良好であることがから、ペングリップ、電動工具グリップ、歯ブラシグリップ等のグリップラバー等に好適に用いることができる。
【実施例】
【0101】
以下に、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によってなんら限定されるものではない。実施例及び比較例で使用した原料の各種物性は、以下の方法により測定した。
【0102】
<熱可塑性スチレン系エラストマー>
〔スチレン系単量体単位の含有量〕
核磁気共鳴装置(ドイツ国BRUKER社製、DPX-400)によって、プロトンNMR測定を行い、スチレンの特性基の定量を行うことによってスチレン及び/又はスチレン誘導体の含有量を決定する。他の単量体単位の含有量もプロトンNMR測定により求めることができる。
【0103】
〔ハードセグメント/ソフトセグメント(質量比)〕
ハードセグメントとソフトセグメントの質量比は、核磁気共鳴装置(ドイツ国BRUKER社製、DPX-400)を用いて、重クロロホルム溶媒中、3〜5vol%濃度、25℃でプロトンNMR測定を行い、分子構造中の各種酸素に隣接するメチレンピークのシグナル強度比から算出する。
【0104】
〔重量平均分子量(Mw)〕
以下の測定条件で、ゲルパーミエーションクロマトグラフにより、ポリスチレン換算で分子量を測定し、重量平均分子量を求める。
【0105】
測定装置
・ポンプ:JASCO(日本分光(株))製、PU-980
・カラムオーブン:昭和電工(株)製、AO-50
・検出器:日立製、RI(示差屈折計)検出器 L-3300
・カラム種類:昭和電工(株)製「K-805L(8.0×300mm)」及び「K-804L(8.0×300mm)」各1本を直列使用
・カラム温度:40℃
・ガードカラム:K-G(4.6×10mm)
・溶離液:クロロホルム
・溶離液流量:1.0ml/min
・試料濃度:約1mg/ml
・試料溶液ろ過:ポリテトラフルオロエチレン製0.45μm孔径ディスポーザブルフィルタ
・検量線用標準試料:昭和電工(株)製ポリスチレン
【0106】
<軟化剤>
〔動粘度〕
JIS Z 8803に従って、40℃の温度で測定する。
【0107】
<熱可塑性エラストマー>
〔ハードセグメント/ソフトセグメント(質量比)〕
ハードセグメントとソフトセグメントの質量比は、核磁気共鳴装置(ドイツ国BRUKER社製、DPX-400)を用いて、重クロロホルム溶媒中、3〜5vol%濃度、25℃でプロトンNMR測定を行い、分子構造中の各種酸素に隣接するメチレンピークのシグナル強度比から算出する。
【0108】
〔A硬度〕
JIS K 6253 タイプAにて測定をする。
【0109】
〔融点〕
示差走査熱量測定(DSC)装置を用い、JIS K 7121で規定される方法に準拠して10℃/minで昇温して得られる融解ピークの温度を融点とする。融解ピークが複数表れる場合は、より低い温度で表れる融解ピークを融点とする。
【0110】
<相溶化剤>
〔スチレン系単量体単位の含有量〕
核磁気共鳴装置(ドイツ国BRUKER社製、DPX-400)によって、プロトンNMR測定を行い、スチレンの特性基の定量を行うことによってスチレン及び/又はスチレン誘導体の含有量を決定する。他の単量体単位の含有量もプロトンNMR測定により求めることができる。
【0111】
〔重量平均分子量(Mw)〕
以下の測定条件で、ゲルパーミエーションクロマトグラフにより、ポリスチレン換算で分子量を測定し、重量平均分子量を求める。
【0112】
測定装置
・ポンプ:JASCO(日本分光(株))製、PU-980
・カラムオーブン:昭和電工(株)製、AO-50
・検出器:日立製、RI(示差屈折計)検出器 L-3300
・カラム種類:昭和電工(株)製「K-805L(8.0×300mm)」及び「K-804L(8.0×300mm)」各1本を直列使用
・カラム温度:40℃
・ガードカラム:K-G(4.6×10mm)
・溶離液:クロロホルム
・溶離液流量:1.0ml/分
・試料濃度:約1mg/ml
・試料溶液ろ過:ポリテトラフルオロエチレン製0.45μm孔径ディスポーザブルフィルタ
・検量線用標準試料:昭和電工(株)製ポリスチレン
【0113】
〔A硬度〕
JIS K 6253で規定される方法に準拠して測定する。
【0114】
〔酸変性量〕
変性する前のベース材料と有機酸のブレンド物を0.1mmのスペーサーを用いてプレスしIRを測定し、特徴的なカルボニル(1600〜1900cm-1)の吸収量と有機酸の仕込量から検量線を作成し、酸変性体のプレス板のIR測定(IR測定器:堀場製作所製FT-210)を行い、変性量(酸含有量)を決定する。
【0115】
実施例1〜13及び比較例1〜9(実施例8は参考例である)
(1) 熱可塑性エラストマー組成物(ペレット)の作製
パラフィンオイル以外の表1〜4に示す材料をドライブレンドし、これにパラフィンオイルを含浸させて混合物を作製した。その後、混合物を下記の条件で、押出機で溶融混練して、ストランドに押出し、冷水中で冷却しつつカッターによって、直径3mm程度、厚さ3mm程度に切断し、熱可塑性エラストマー組成物のペレットを製造した。
【0116】
〔溶融混練条件〕
押出機:KZW32TW-60MG-NH(商品名、(株)テクノベル製)
シリンダー温度:180〜220℃
スクリュー回転数:300r/min
【0117】
実施例及び比較例で使用した表5〜7に記載の原料の詳細は以下の通り。
なお、G1651は特許文献1で開示されたa1−2成分と同じもの(1,2-結合の割合が37質量%)であり、G1641は、ブタジエン単量体単位における1,2-結合の割合が67質量%であって、特許文献1で開示されたa1−1成分とほぼ同じ分析値を示した。
【0118】
【表1】
【0119】
【表2】
【0120】
【表3】
【0121】
【表4】
【0122】
(2) 熱可塑性エラストマー組成物の成形体の作製
ペレットを、下記の条件で射出成形し、厚さ2mm×幅125mm×長さ125mmのプレートを作製した。
【0123】
〔射出成形条件〕
射出成形機:100MSIII-10E(商品名、三菱重工業(株)製)
射出成形温度:200℃
射出圧力:30%
射出時間:3sec
金型温度:40℃
【0124】
なお、射出成形後、金型からプレートを抜き出す際の状態から、下記の評価基準に従って、成形性を評価した。結果を表5〜7に示す。
【0125】
〔成形性の評価基準〕
◎:金型からの離形性が非常に良い。
○:金型からの離形性が良い。
△:金型に密着して離形性は劣るが、外すことは容易。
×:金型に密着してしまって外し難い。
【0126】
実施例及び比較例で得られた組成物について、下記の評価を行った。なお、結果を表5〜7に示す。
【0127】
〔流動性〕
ASTM D1238に準拠して、230℃、2.16kgの条件で、メルトマスフローレイト(MFR)を測定する。
【0128】
〔柔軟性〕
射出成形から1日経過したプレート(125mm角プレート)を用い、JIS K 6253で規定される方法に準拠してデュロメータA硬度を測定した。A硬度は、75以下が好ましい。
【0129】
〔熱融着性〕
厚さ4mm×幅25mm×長さ125mmの金型内に下記の極性樹脂をインサートし、下記条件で、実施例及び比較例で得られた熱可塑性エラストマー組成物を射出成形し、短冊状の融着試験片を作製した。
【0130】
<インサート材(極性樹脂)>
(1) サイズ:厚さ2mm×幅25mm×長さ120mm
(2) 種類
・全ての実施例及び比較例
PC(ポリカーボネート):三菱エンジニアリングプラスチック(株)製、ユーピロンH-3000
・実施例1、4、5、8
ABS:デンカ(株)製、GR-2000
PMMA(ポリメチルメタクリレート):三菱レイヨン(株)製、アクリペットMD001
【0131】
<射出成形条件>
射出成形機:三菱重工業(株)製、100MSIII-10E
射出成形温度:240℃
射出圧力:98MPa、射出速度:50%、保持圧:20%、保持時間:10sec
射出時間:2sec
金型温度:40℃
【0132】
得られた融着試験片を用い、JIS K6854-2「接着剤はく離接着強さ試験方法(180度はく離)」に準拠し、雰囲気温度23℃で剥離強度を測定した。熱可塑性エラストマー層をたわみ性被着材、極性樹脂層を剛性被着材として、エラストマー層を180°方向に50mm/minで引張試験を行い、表皮材層と基材層の剥離強度(単位:N/25mm)を測定した。剥離強度は、80N/25mm以上が好ましい。
【0133】
【表5】
【0134】
【表6】
【0135】
【表7】
【0136】
以上の結果より、実施例1〜13の熱可塑性エラストマー組成物は、比較例1〜9の熱可塑性エラストマー組成物と対比して良好な柔軟性を有し、かつ極性樹脂への熱融着性に優れていることが分かる。
1,2-結合の割合が高いスチレン系エラストマーを使用した比較例2は、1,2-結合の割合が低いスチレン系エラストマーを使用した比較例1に対して、極性樹脂への熱融着性が向上しているものの、その差は僅差であり、実施例1〜13において、極性樹脂への熱融着性が顕著に向上していることは明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0137】
本発明の複合成形体用熱可塑性エラストマー組成物は、自動車、電子材料、家電、電気機器、医療用具、包装資材、文具・雑貨用品等の各種成形品に有用であり、さらにはグリップ、チューブ、パッキン、ガスケット、クッション体、フィルム、シート等の各種部材に用いられる。