特許第6703476号(P6703476)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ コーニング インコーポレイテッドの特許一覧

特許6703476スフェロイド細胞培養ウェル製品およびその方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6703476
(24)【登録日】2020年5月12日
(45)【発行日】2020年6月3日
(54)【発明の名称】スフェロイド細胞培養ウェル製品およびその方法
(51)【国際特許分類】
   C12M 3/00 20060101AFI20200525BHJP
【FI】
   C12M3/00 Z
   C12M3/00 A
【請求項の数】4
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2016-511776(P2016-511776)
(86)(22)【出願日】2014年4月28日
(65)【公表番号】特表2016-520307(P2016-520307A)
(43)【公表日】2016年7月14日
(86)【国際出願番号】US2014035635
(87)【国際公開番号】WO2014179196
(87)【国際公開日】20141106
【審査請求日】2017年3月31日
【審判番号】不服2019-6728(P2019-6728/J1)
【審判請求日】2019年5月23日
(31)【優先権主張番号】61/817,539
(32)【優先日】2013年4月30日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】14/087,906
(32)【優先日】2013年11月22日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】397068274
【氏名又は名称】コーニング インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100073184
【弁理士】
【氏名又は名称】柳田 征史
(72)【発明者】
【氏名】ベネット,スコット マシュー
(72)【発明者】
【氏名】ダグラス,ブライアン ロッブ
(72)【発明者】
【氏名】ギャニオン,ポール アーネスト ジュニア
(72)【発明者】
【氏名】マーティン,グレゴリー ロジャー
(72)【発明者】
【氏名】スロセク,ポール マイケル
(72)【発明者】
【氏名】タナー,アリソン ジーン
【合議体】
【審判長】 中島 庸子
【審判官】 松浦 安紀子
【審判官】 長井 啓子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/042360(WO,A1)
【文献】 特開2009−50194(JP,A)
【文献】 特開平9−173049(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0129923(US,A1)
【文献】 独国特許出願公開第102009005526(DE,A1)
【文献】 欧州特許出願公開第0307048(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC C12M
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞培養製品において、
チャンバを有するフレームであって、前記チャンバが、
不透明な側壁表面と、
上部開口と、
前記不透明な側壁表面に隣接している、気体透過性で液体不浸透性の透明な底部表面と、
を有している、フレーム、
を備え、前記底部表面の少なくとも一部分が、少なくとも1つの凹状弓形表面を含んでおり、
前記少なくとも1つの凹状弓形表面に、低接着コーティングまたは非接着コーティングをさらに備えていることを特徴とする製品。
【請求項2】
吸引用のピペット先端を受け入れるためのチャンバ分室をさらに含み、該チャンバ分室が、前記チャンバに隣接しかつ該チャンバと流体連通している、表面と、気体透過性の前記透明な底部よりも上方の高度に、該底部から間隔を空けて配置された第2の底部とを有し、さらに前記第2の底部が、使用時に、前記ピペットから分注された流体を、前記透明な底部から離れるように偏向させることを特徴とする請求項記載の製品。
【請求項3】
前記チャンバの一部分の内部に位置する、または補助的な第2のチャンバの一部分の内部に位置する、あるいは前記チャンバと前記補助的な第2のチャンバの両方の一部分の内部に位置する、多孔質膜をさらに含み、該多孔質膜が、前記チャンバの一方または両方の下方部分内の、前記透明な底部近くの第1の細胞材料から、前記チャンバの上方部分内、または前記補助的な第2のチャンバの上方部分内、あるいは両方の前記チャンバの上方部分内の、第2の細胞材料を、隔離または分離することができることを特徴とする請求項1または2記載の製品。
【請求項4】
前記少なくとも1つの凹状弓形表面が、同じ前記チャンバ内の複数の隣接する凹状弓形表面を含むことを特徴とする請求項1からいずれか1項記載の製品。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の説明】
【0001】
本出願は、その内容が引用されその全体が参照することにより本書に組み込まれる、2013年11月22日に出願された米国特許出願第14/087906号および2013年4月30日に出願された米国仮特許出願第61/817539号の、優先権の利益を主張するものである。
【0002】
本書において述べられるいずれの刊行物または特許文献も、その全開示が参照することにより組み込まれる。
【技術分野】
【0003】
本開示は、一般に細胞培養ウェル製品、およびこの製品を作製および使用する方法に関する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
実施形態において本開示は、例えばスフェロイド細胞塊を培養および分析するためのウェル製品を提供する。このウェル製品は少なくとも1つのチャンバを含み、チャンバは、不透明な側壁と、透明で丸みを帯びたまたは凹状の底部表面とを有し、かつこの透明な底部は気体透過性である。
【0005】
実施形態において本開示は、ウェル製品を作製する方法、およびスフェロイド細胞培養に、または細胞分析に、ウェル製品を使用する方法を提供する。
【0006】
実施形態において、本開示はさらに、不透明な壁と気体透過性透明丸底とを備えたウェルまたはチャンバを有する、マルチウェルプレート製品、および、この丸底マルチウェルプレート製品を作製する方法を提供する。例えば光学的に透明な底部窓などの透明丸底により、培養されるスフェロイド細胞塊の都合の良い微視的可視化または検査が可能になる。
【0007】
実施形態において本開示は、ベースを有するウェルプレートを提供し、このベースが、側壁から頂点(すなわちウェルのまさに底部)の丸みまで例えば45°または略同じテーパ角などの円錐状またはテーパした形状を有して、不透明な側壁と、例えば顕微鏡または類似の装置などでのスフェロイド細胞培養の光学的可視化のための、光学的に透明な窓またはベースとを有する、丸底のウェルまたはマルチウェルプレートを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】事前形成または成形された構成要素を結合して、開示される製品の例を作製する方法を概略的に示した図
図2A】不透明なスリーブまたはチャンバ壁表面と事前形成された透明ベースインサートとを有する、開示される製品を作製する代わりの方法を示した図
図2B】不透明なスリーブまたはチャンバ壁表面と事前形成された透明ベースインサートとを有する、開示される製品を作製する代わりの方法を示した図
図2C】不透明なスリーブまたはチャンバ壁表面と事前形成された透明ベースインサートとを有する、開示される製品を作製する代わりの方法を示した図
図3】開示される製品を歪み印刷を用いて作製する、別の代わりの方法を示した図
図4】代わりの例示的製品400のフレームにおける、単一ウェルまたは単一チャンバの断面図
図5図4の例示的製品の態様の、一部上面または平面図
図6】例示的な灌流プレート装置600の態様の透視図
図7】例示的なマルチスフェロイドウェル製品700の態様の断面図
図8図7のマルチスフェロイドウェル製品700の例示的製品の態様の、一部上面または平面図
図9A】異なる形状を有するウェル底部に接触して遮断する、射出成形ピンの組合せ900を示した断面図
図9B】異なる形状を有するウェル底部に接触して遮断する、射出成形ピンの組合せ900を示した断面図
図10A】ピンによる遮断の代わりの設計の断面図
図10B】ピンによる遮断の代わりの設計の断面図
図11A】異なる形状を有する代わりのウェル底部内の、細胞スフェロイドの画像
図11B】異なる形状を有する代わりのウェル底部内の、細胞スフェロイドの画像
図11C】異なる形状を有する代わりのウェル底部内の、細胞スフェロイドの画像
図11D】異なる形状を有する代わりのウェル底部内の、細胞スフェロイドの画像
【発明を実施するための形態】
【0009】
本開示の種々の実施形態を、図面があればそれを参照して詳細に説明する。種々の実施形態の参照は、本発明の範囲を限定するものではなく、本発明は本書に添付される請求項の範囲によってのみ限定される。さらに、本明細書に明記される任意の例は限定的なものではなく、請求される発明の多くの考えられる実施形態のいくつかを単に明記したものである。
【0010】
実施形態において、開示される装置およびこの装置を作製および使用する開示される方法は、例えば後述されるものを含む1以上の有利な特徴または態様を提供する。請求項のいずれかにおいて挙げられる特徴または態様は、一般に本発明の全ての面に適用可能である。いずれか1つの請求項において挙げられる任意の単一または複数の特徴または態様は、任意の他の請求項において挙げられる、任意の他の特徴または態様と組み合わせてもよいし、あるいは置き換えてもよい。
【0011】
定義
「含む」または類似する用語は、包含するが限定しないことを意味し、すなわち含むものであって排他的なものではない。
【0012】
本開示の実施形態の説明において採用される、例えば組成物における成分の量、濃度、容積、プロセス温度、プロセス時間、収量、流量、圧力、粘度、および同様の値、およびその範囲、または構成要素の寸法、および同様の値、およびその範囲、を修飾する「約」は、例えば、材料、組成物、合成物、濃縮物、構成部品、製造物品、または使用配合物、を用意するために使用される典型的な測定および取扱手順を通じて、これらの手順における不用意なエラーを通じて、方法を実行するために使用される出発材料または成分の、製造、ソース、または純度における違いを通じて、および同様の考慮事項を通じて、生じ得る数量の変動を称する。「約」という用語は、特定の初期濃度または混合での組成物または配合物の、経年変化に起因して異なる量、および、特定の初期濃度または混合での組成物または配合物の、混合または処理に起因して異なる量も含有する。
【0013】
「随意的な」または「随意的に」とは、続いて説明される事象、状況、または構造が、生じる可能性もあるし、または生じない可能性もあること、さらにその説明が、その事象、状況、または構造が生じる場合と生じない場合とを含むことを意味する。
【0014】
実施形態において「から実質的になる」または「からなる」は、例えば、
スフェロイド細胞培養製品において、
1つまたは複数のチャンバ、例えばウェルを備えた、フレームであって、各チャンバが、
不透明な側壁を有するウェルなど、不透明な側壁表面と、
チャンバへの操作用アクセスのための上部開口と、
気体透過性透明底部表面と、さらに、
随意的にチャンバの内の少なくとも1つの内に、多孔質膜インサートと、
を有し、透明底部の少なくとも一部分が、単一のチャンバ内において、少なくとも1つの凹状弓形表面または複数の凹状弓形表面を含んでいる、スフェロイド細胞培養製品、
上述したスフェロイド細胞培養製品を作製する方法であって、
本書で開示されるいずれかの方法または任意の他の適切な方法で達成される、気体透過性透明弓形底部表面部分と不透明な側壁表面部分との結合によって、製品を形成するステップと、
随意的に少なくとも1つのチャンバ内に多孔質膜ライナを挿入するステップと、
を含む方法、および、
スフェロイドを培養するために製品を使用する方法であって、
開示されるスフェロイド細胞培養製品に培養培地を充填するステップと、
スフェロイド形成細胞を本書で画成されるように培養培地に加えるステップと、
を含む方法、
を称し得る。
【0015】
本開示の製品、この製品を作製する方法、およびこの製品を使用する方法は、請求項に記載される構成要素またはステップに加えて、本開示の組成物、製品、装置、または作製方法および使用方法の基本的性質および新たな性質に実質的に影響を与えない、例えば選択される特定の製品構成、特定の添加物または成分、特定の作用剤、特定の構造材料または部品、特定の照射条件または温度条件、または同様の、構造、材料、またはプロセス変数などの、他の構成要素またはステップを含み得る。
【0016】
本書で使用される単数形は、他に既定がなければ、少なくとも1つ、すなわち1以上を意味する。
【0017】
通常の当業者に周知の略記が使用され得る(例えば、時間に対して「h」または「hrs」、グラムに対して「g」または「gm」、ミリリットルに対して「mL」、室温に対して「rt」、ナノメートルに対して「nm」、および類似の略記)。
【0018】
構成要素、成分、添加物、寸法、条件、および同様の点に対して開示された、具体的な値および好適な値、さらにその範囲は、説明のためのみのものであり、これらは他の定義された値、または定義された範囲内の他の値を排除しない。本開示の装置および方法は、明白または潜在的なその中間値および範囲を含め、本書で説明される、任意の値または値の任意の組合せ、特定の値、より具体的な値、および好適な値を含み得る。
【0019】
例えば均一サイズの腫瘍細胞スフェロイドの形成は、低接着性を有する丸底容器の中で細胞を培養すると促進することができる。英国サットンのインスティテュート・オブ・キャンサー・リサーチ(Institute of Cancer Research in Sutton)の研究者は、コーニング社の超低接着(ULA)コート96ウェル透明、丸底、ポリスチレン製マイクロプレートを使用して、標的検証および薬剤評価を可能にする腫瘍スフェロイドを生成した(Vinci他のBMC Biology、2012、10:29参照)。スフェロイドは腫瘍細胞培養の生物学的関連度を高め、様々な機能分析を容易にした。丸底ウェル形状と重力および超低付着コートすなわちコーティングとにより、単層の細胞を形成するのではなく、細胞が集まって自己組織化しスフェロイド形状となる。
【0020】
透明、丸底、ULAコートウェルの96ウェルプレートを利用すると、構造ポリマーの光学的透明度のために移動分析および浸潤分析で良い結果が得られたが、このプレート内での蛍光検出または発光検出を用いた抗がん剤の評価には、透明な側壁によって検出信号にノイズが加えられるため、あまり適さなかった。腫瘍細胞を不透明な96ウェルプレートに移動させることもできるが、これにはスフェロイドをピペットで取ることが必要となり、これは細心の注意を必要とし、困難であり、かつ多くの時間を必要とし得る。
【0021】
実施形態において本開示はスフェロイド細胞培養製品であって、この製品は、
チャンバ、例えばウェルを備えた、フレームを含み、チャンバは、
不透明な側壁表面と、
上部開口と、
気体透過性透明底部表面と、
を有し、
底部表面の少なくとも一部分は、少なくとも1つの凹状弓形表面、すなわち丸みを帯びたまたは湾曲した表面、を有している製品を提供する。
【0022】
円錐状またはテーパ形状を有するウェルベースを備えた開示されるウェルプレートは、ウェルの不透明な側壁の射出成形にとってより有用であり、というのもこれまで平坦なインサート(すなわちベース)でのオーバーモールドに使用されてきた既存のフラットピンを変える必要がないためである。既存のフラットピンでの射出成形は、全半径(すなわち、半球状すなわちテーパしていないベース)を有するウェル底部形状でも成し遂げることができる。ベースの随意的な変形カラー機能が、ウェル底部形状で遮断を達成するよう既存のフラットピンの能力を高めることができる。
【0023】
開示されるテーパ形状または山形形状(例えば、側壁からアール頂点に向かって45°の角度)のウェル底部形状を有するウェルプレートを細胞スフェロイドの形成に使用すると、成功することが立証された。テーパしたウェルベースまたはウェル底部の形状は、平坦なインサートでのオーバーモールドに通常使用されていた既存のフラットピンを用いて、テーパ形状で事前形成されたインサート(ベース)上に不透明なウェル壁をオーバーモールドすることも可能にする。インサート(ベース)に一体化した、あるいはこれに取り付けられた、随意的な変形カラー機能が、射出成形ピンによる樹脂の流れの遮断を助けることができる。代わりにウェル底部形状を、オーバーモールド前にポリマーフィルムを熱的に形成することによって、あるいはオーバーモールド後に熱再成形プロセスを用いて、生み出すことができる。熱再成形によると、代わりの多数の型でウェル形状を生み出すよう、素早く切り替えることが可能になる。
【0024】
テーパ形状または山形形状のベース(例えば略45°の角度)を有する開示されるウェルプレートは、例えば、平坦なインサートでのオーバーモールドと同じピン設備を用いてインサートでオーバーモールドすることができることで有利になる。このオーバーモールドは、ピンがポリマー流を遮断することができるよう曲がることができる、変形カラーを加えることによって、助けることができる。成形にフラットピンを用いると、様々なウェル形状または様々なウェル総数の型に対して成形キャビティのピンを変更する必要がないため、このウェルプレート製品を作り出すための時間の節約になり、またコストの削減になる。
【0025】
熱再成形は、多くの異なるウェル型に対してウェル形状を生成するよう、素早く切り替えることができる。さらに熱再成形は、各型での様々なウェル形状を評価するために設計を柔軟にすることができ、また顧客の評価または仕様のために試作品または製品サンプルを素早く生成する能力を可能にする。
【0026】
略45°のテーパ角を有するウェルベースによれば、重力によって沈んだ細胞の集まりを、細胞スフェロイドを形成するように中心に寄せ、また光学イメージングを高める、アール頂点をより小さくすることもできる。
【0027】
図面を参照すると、図4は、チャンバ410と、吸引ピペット440を受け入れるためのチャンバ分室420と、さらに随意的には、チャンバを上方チャンバ410aおよび下方チャンバ410bに、すなわち上方チャンバ容積および下方チャンバ容積に分割するための、例えば高スループットの遮蔽膜インサートまたはライナである多孔質膜480とを有する、例示的な製品400を断面図で示している。チャンバ分室420すなわちチャンバ拡張部は、メインチャンバ410の空間から物理的に分離されたものではなく、むしろメインチャンバの空間的拡張部すなわち拡大部分である。従って点線425は、メインチャンバとチャンバ分室との間の非物理的境界を表している。チャンバ分室および随意的な多孔質膜は、スフェロイド450の塊を吸引することなくウェルチャンバから培地を吸引することを可能にする、優れた配置を提供する。随意的な第2の底部430すなわち停止レッジを有するチャンバ分室420は、下方チャンバ410bの透明で弓形の丸みを帯びた底部表面領域および容積460内のスフェロイド450を著しく乱すことなく液体培地を交換するために、ピペットのピペット先端440を収容する空間を提供する。停止レッジ430は、ピペット先端が下方のスフェロイドのチャンバに入るのを防ぐ。
【0028】
図5は、図4の例示的製品のいくつかの態様を示している。吸引ピペット440を受け入れるためのチャンバ分室420を各チャンバが有している複数のチャンバ410を含む図5では、ウェルエリアA1に、図4の例示的製品の一部上面または平面図500が示されている。さらにまたは代わりに、図5のウェルエリアB1には、チャンバを上方チャンバおよび下方チャンバ(夫々410aおよび410b、図示なし)に分割するための随意的な多孔質膜480またはライナを備えているチャンバ410が示されており、この多孔質膜480は、下にあるすなわち隠れているスフェロイド450を覆っている。エリアB1に示されているように構成された、多孔質膜480を含むウェルを備えた製品は、入子にされる96ウェルのHTSトランズウェル(Transwell(登録商標))スフェロイドプレートの機能を提供する。
【0029】
不透明な側壁と透明な窓を有する気体透過性丸底ウェルとを含むウェルプレートが提供し得る著しい利点としては、例えば、例として薬剤化合物を評価する分析を行うために、1つのマルチウェルプレート(この中でスフェロイドを形成および可視化することができる)から別のプレートにスフェロイドを移動させる必要がないこと、スフェロイドの移動ステップを回避することで、時間を節約でき、かつスフェロイドの損失または崩壊の可能性を回避できること、さらに所与の壁厚で気体透過特性を有するポリマーから作製されたウェル底部で、スフェロイドが優れた酸素供給を受けることができることが挙げられる。スフェロイド培養物内の細胞の、酸素の利用可能性が増加すると、肝細胞など酸素需要が高い細胞にとって特に有用である。
【0030】
実施形態において、少なくとも1つの凹状弓形表面を有するチャンバを備えた製品は、例えば、同じチャンバの底部に例えば1から約1,000の凹状弓形表面を含む、複数の隣接する凹状弓形表面を含み得る。例えば図7および8を参照されたい。
【0031】
実施形態において、この製品は、各ウェルの底部またはベースに複数の窪みまたは凹みなどの多数の「スフェロイドウェル」を有する、例えば単一ウェルまたはマルチウェルプレート構成でもよい。チャンバ当たりの複数のスフェロイドまたはスフェロイドウェルは、スフェロイドウェル毎に例えば単一すなわち1つのスフェロイドを収容することが好ましいであろう。
【0032】
実施形態において、少なくとも1つの凹状弓形表面すなわち「カップ」を有する、気体透過性透明ウェル底部は、例えば、半球状表面、丸底を有する円錐状表面、および類似の表面形状、またはこれらの組合せでもよい。ウェルおよびウェル底部は、例えば窪み、凹み、および類似の凹状円錐台形起伏面、またはこれらの組合せなど、スフェロイドが「なじみやすい」丸みを帯びたまたは湾曲した表面で、最終的に終端する、途切れる、または最も低い位置になる。
【0033】
実施形態において、不透明な側壁表面(すなわち、取り囲むもの)は、例えば、鉛直のシリンダまたはシャフトでもよいし、チャンバ上部からチャンバ底部へと直径が減少する鉛直円錐の一部分でもよいし、円錐状の推移を有する鉛直四角シャフトまたは鉛直長円形シャフトであって、すなわちウェル上部での四角または長円形が円錐状に推移して少なくとも1つの凹状弓形表面を有する、すなわち丸みを帯びたまたは湾曲した底部で終端するものでもよいし、あるいはその組合せでもよい。他の実例となる幾何学的な例として、孔の空いた円筒、孔の空いた円錐円筒、円筒から円錐状になるもの、および他の類似する形状、またはこれらの組合せが挙げられる。
【0034】
実施形態において、この製品はさらに、少なくとも1つの凹状弓形表面などのチャンバの一部分に、例えば低接着または非接着コーティングを含み得る。
【0035】
実施形態において、この製品はさらに、吸引用のピペット先端を受け入れるための例えばチャンバ分室、チャンバ拡張部領域、または補助的なサイドチャンバを含んでもよく、チャンバ分室またはチャンバ拡張部(例えば、サイドポケット)は、例えばチャンバに隣接しかつチャンバと流体連通している、一体表面でもよい。チャンバ分室は、気体透過性透明底部から間隔を空けて配置された第2の底部を有し得る。チャンバ分室およびチャンバ分室の第2の底部は、例えば気体透過性透明底部から間隔を空けて、より高い高度または相対的に高い位置などに配置され得る。チャンバ分室の第2の底部は、ピペットから分注された流体を透明底部から離れるように偏向させて、スフェロイドを崩壊したり、または乱したりすることを防ぐ。
【0036】
実施形態において、この製品はさらに、チャンバの一部分の内部に位置する、またはチャンバ分室の一部分の内部に位置する、あるいはチャンバおよびチャンバ分室部分の両方に位置する、ライナまたは膜インサートなどの多孔質膜を含み得る。多孔質膜は、一方または両方のチャンバの下方部分内の、透明底部近くの第1の細胞材料から、チャンバの上方部分内、または多孔質膜により形成されたチャンバの上方部分内、あるいは両方のチャンバ内に位置している、異なる細胞型または異なる細胞状態などの第2の細胞材料を、隔離または分離することができる。
【0037】
実施形態において、少なくとも1つの凹状弓形表面は、例えば半球でもよいし、あるいは、半球の水平部分または半球を薄く切断したものなど半球の一部分でもよく、その直径は、例えば選択されるウェル形状、各ウェル内の凹状弓形表面の数、プレート内のウェルの数、および類似する考慮事項次第で、中間の値および範囲を含め例えば約250から約5,000μm(すなわち、0.010から0.200インチ)でもよい。他の凹状弓形表面としては、例えば、放物線形状、双曲線形状、山形形状、および類似する断面形状、またはその組合せが挙げられる。
【0038】
実施形態において、スフェロイドは例えば実質的に球状でもよく、その直径は、例えばスフェロイドにおける細胞の型次第で、中間の値および範囲を含め例えば約100から約500μm、より好適には約150から約400μm、さらに好適には約150から約300μm、最も好適には約200から約250μmとすることができる。スフェロイドの直径は、例えば約200から約400μmでもよく、これらの高い方の直径は拡散を考慮して制約される(スフェロイドおよびスフェロイド容器の説明として、Achilli,T−M他のExpert Opin. Biol. Ther.(2012)12(10)参照)。
【0039】
実施形態において、本開示は灌流プレート装置を提供し、この装置は、
少なくとも1つの細胞培養製品であって、
チャンバ、例えばウェルを備えた、フレームを含み、チャンバが、
不透明な側壁表面と、
上部開口と、
気体透過性透明底部表面と、
随意的にチャンバ分室表面と、
を有し、
底部の少なくとも一部分が、少なくとも1つの凹状弓形表面、すなわち丸みを帯びたまたは湾曲した表面を有している、少なくとも1つの細胞培養製品、
少なくとも1つのチャンバに新たな培地のソースを制御可能に提供する、細胞培養製品の少なくとも1つのチャンバに流体連通している、培地ソースウェル、および、
少なくとも1つのチャンバにおける細胞代謝から廃棄培地を制御可能に受け入れる、細胞培養製品の少なくとも1つのチャンバに流体連通している、廃棄ウェル、
を含む。
【0040】
図6は、例示的な灌流プレート装置600の態様を透視図で示したものである。実施形態において、前述の灌流プレート装置は、チャンバ610の一部分の内部に位置する、またはチャンバ分室(図示なし)の一部分の内部に位置する、あるいはチャンバおよびチャンバ分室の両方に位置する、多孔質ライナ480をさらに含んでもよく、この多孔質ライナは、チャンバまたはチャンバ分室の下方部分内の、透明底部領域460近くに位置するスフェロイド450などの第1の細胞材料から、チャンバの上方部分、またはチャンバ分室の上方部分、あるいはチャンバおよびチャンバ分室の両方の上方部分内の、Caco−2細胞などの第2の細胞材料660を、隔離または分離することができる。
【0041】
実施形態において、前述の灌流プレート装置は、例えば、原液(図示なし)、または灌流プラグ655、すなわち装置600のソースウェル630と細胞培養丸底ウェルとの間の管などの液体接続部材635内に位置している液体透過材料、または細胞培養丸底ウェルと廃棄ウェル640との間の液体接続部材645内に位置している灌流プラグ655、あるいはこれら両方の状態をさらに含み得る。廃棄ウェル640は好適には弓形の底部表面を備えて、廃棄する液体培地(図示なし)を例えばピペット、真空ポンプ、または類似する液体除去設備を用いて除去するのを助けることができる。
【0042】
関連するが別個の細胞培養製品(すなわち、FloWell(商標)プレート)が、「自動連続灌流細胞培養マイクロプレート消耗品(Automatic continuous perfusion cell culture microplate consumables)」と題される、Goral他への2012年2月2日に出願された本出願人が所有する譲渡された同時係属出願である、米国仮特許出願第61/594,039号明細書、現在では国際特許出願第PCT/US13/24030号に開示されている。この関連出願は、液体培地の自動的な連続的灌流を用いて細胞を培養するための、例えばマイクロプレートについて言及しており、これは例えば、複数の貫通するキャビティを画成するウェルフレームを含み得る。マイクロプレートはさらに、ウェルフレームに接続された平面基板を含み得る。平面基板は複数のキャビティに底部表面を提供して、複数のウェルを形成することができる。複数のウェルは、第1のウェルと、第1のウェルに流体接続された第2のウェルと、第1のウェルに流体接続された第3のウェルとを含み得る。第1のウェルは、液体培地で細胞を培養するために採用され得る。第2のウェルは、第1のウェルに、液体培地を流出できるように、または液体培地のソースを提供するために採用され得る。第3のウェルは、第1のウェルから、液体培地の流入を受け入れるために、または液体培地の廃棄流を受け入れるために採用され得る。第2のウェルは第1のウェルに第1の灌流膜(perfusion membrane)で流体接続され得る。第1の灌流膜はウェルフレームと平面基板との間に配置され得、かつ第2のウェルの出口部分から第1のウェルの入口部分へと延在し得る。第3のウェルは第1のウェルに第2の灌流膜で流体接続され得る。第1の灌流膜および第2の灌流膜は、例えば約0.2から約200μmの孔を多数有し得る。第2の灌流膜はウェルフレームと平面基板との間に配置され得、かつ第1のウェルの出口部分から第3のウェルの入口部分へと延在し得る。灌流開始量の液体培地を第2のウェルに導入すると、液体培地は第2のウェルから第1の灌流膜を通って第1のウェルに流れ、さらに第1のウェルから第2の灌流膜を通って第3のウェルに流れる(例えば当該文献の図5参照)。この関連出願はさらに、マイクロプレートを製造する方法および細胞を培養する方法に言及している。
【0043】
図7は、図4の態様に類似している例示的なマルチスフェロイドウェル製品700の態様を示している。このマルチスフェロイドウェル製品700は、例えば1以上のチャンバ410を含み、各チャンバは吸引ピペット(図示なし)を受け入れるための、ライン425と停止レッジ430とで境界付けられるチャンバ分室420領域を有する。図4とは異なり、図7の各チャンバ410の底部は複数の弓形窪み465を含み得、これらの窪みは透明および気体透過性のいずれか一方または両方でもよく、かつこれらの窪みは夫々単一のスフェロイド450を受け入れまたは培養してもよい。細胞を装置のウェル内に低密度で播種すると、隣接する分離されたカップ内で単一のスフェロイドを形成および培養することができる。マルチスフェロイドウェル製品700は、チャンバを上方チャンバ410aと下方チャンバ410bとに分割するための、随意的な多孔質膜480またはライナインサートを含み得る。
【0044】
図8は、図7のマルチスフェロイドウェル製品700の例示的製品の態様を示している。吸引ピペット(図示なし)を受け入れるためのチャンバ分室420を各チャンバが有している複数のチャンバ410を含む図8では、ウェルエリアA1に、図7の例示的製品の上面図800が示されている。各チャンバ410の底部は複数の弓形窪み465を含み、これらの窪んだ表面が、複数のスフェロイド450を受け入れまたは培養することができる。さらにまたは代わりに、図8はウェルエリアB1に、チャンバを上方チャンバと下方チャンバ(夫々410aおよび410b、図示なし)とに分割するための随意的な多孔質膜480またはライナインサートを含んだ、チャンバ410を示している。膜480またはライナインサートは、液体培地の追加または除去の際などに、その下にあるスフェロイド450およびスフェロイドウェル465を膜上方の力または作業によって乱したりまたは崩壊させたりしないよう隠して保護する。
【0045】
実施形態において、チャンバを有するこの製品は、中間の値および範囲を含め例えば1から約2,000のチャンバ、10から約1,500のチャンバを含んでもよく、また各チャンバは他のいずれのチャンバからも物理的に分離されており、かつ各チャンバは単一の凹状弓形表面を有している。実施形態において、このようなマルチウェルプレート製品構成は、例えばチャンバ毎に1つのスフェロイドを含み得る。
【0046】
実施形態において、少なくとも1つの凹状弓形表面は、同じウェル内に例えば複数の隣接する凹状弓形底部表面を含み得る。実施形態において、単一ウェルまたはマルチウェルプレート構成は、各ウェルの底部またはベースに、多くの窪みまたは凹みなどのスフェロイドウェルを有し得る。実施形態においてこの製品は、単一のチャンバ内の分離されたスフェロイドウェル内に複数のスフェロイドを隔離して収容することができ、例えばスフェロイドウェル毎に1つのスフェロイドを含むことが好ましい。
【0047】
実施形態において、本開示は製品であって、
チャンバ、例えばウェルを備えた、フレームを含み、チャンバは、
不透明な側壁表面と、
上部開口と、
気体透過性透明底部表面と、
随意的には、透明底部表面から離れている第2の底部を有する、チャンバ分室表面と、
を有し、かつ、
透明底部の少なくとも一部分が、少なくとも1つの凹状弓形表面、すなわち透明で丸みを帯びたまたは湾曲した表面を含むものである製品を作製する方法において、
気体透過性透明弓形底部表面部分と不透明な側壁表面部分とを結合して、この製品を形成するステップを含む方法を提供する。
【0048】
この製品を作製する方法は、例えば、少なくとも1つのチャンバ内に多孔質膜を挿入するステップをさらに含んでもよい。
【0049】
不透明な側壁と透明な窓を備えたベースとを含む、不透明な丸底マルチウェルプレートを作製するために使用することができる方法がいくつか存在する。実施例1または2で作製されるマルチウェルプレートは、平坦なウェル底部形状を有したものであり、これを続いて熱再成形して、代わりのウェル底部形状を作り出すことができる。平坦なウェル底部形状を有するマルチウェルプレートを、例えば、ウェル型と略同じ寸法の円形外周を有しかつその各ウェル底部位置の領域が取り除かれている、入子内に位置付けてもよいし、あるいはこの入子は、ウェルのまさに底部で頂点の丸み部すなわち丸みを帯びたものへと変化する、例えば40から50°、および45°などの、中間の値および範囲を含め例えば約30から約60°のテーパ角を有するものでもよい。頂点の丸み部へと傾斜している側壁から例えば一致する45°のテーパ角を有するピンのアレイを備えたプラテンを、例えば華氏180から400度(摂氏82から204℃)、より好適には華氏250から400度(摂氏121から149℃)に加熱し、この加熱されたプラテンを、ピンが各ウェルの上に位置付けられた状態で静止させて保持する。このピンプラテンを、ピンがマルチウェルプレートのウェル内に下降して透明で平坦なウェル底部表面に接触するように作動させる。ピンが前進すると、再成形されるウェル底部材料が一致する入子の形状に合うまで、時間、温度、および圧力によって、ウェル底部材料の形状を変化させることができる。再成形されたウェル底部形状が加熱されたピンに付着してしまうことのないように、ピンのアレイをPTFEなどの離型剤でコーティングしてもよい。あるいはピンはコーティングしなくてもよい。入子は、ポリマーをウェル形状に引き込むのを助けるために、真空補助を入子にさらに備えてもよい。加熱されたピンの上方で冷却空気をウェルの上部へと注入して高温のピンを若干冷却し、再成形されたウェル底部形状のポリマーからピンを解除するのを助けてもよい。ピンアレイを備えたプラテンと一致する形状を備えた入子とを素早く交換して、384ウェルおよび1536ウェルなど、多くのマルチウェル型に適合させることができる。任意の数のウェルを同時に再成形することができる。いくつかの実施形態では、ピンプラテンを静止させて保持し、一方でインサートを保持している入子を作動させて、静止しているピンプラテンに接触させてもよい。いくつかの実施形態では、ピンプラテンとインサートを保持している入子との両方を作動させて、ピンとインサートのウェルとの間に接触および閉鎖をもたらす、相対運動を提供してもよい。
【0050】
ウェル側壁から頂点の丸み部まで傾斜している例えば45度のテーパ角を有するv字状のウェルベース形状は、半球状のウェル底部形状に比べて、スフェロイド形成および光学的測定に関して優れている。v字状のウェルベース形状によれば、不透明ポリマーを平坦なインサート上にオーバーモールドするために使用され得る同じフラットピンを用いて、ウェルベース形状にオーバーモールドすることもできる。ウェルベースの45°のテーパ角により、ピンは各ウェルベースの底部のテーパした側壁に接触することができる。これは半球状形状でも成すことができるが、より困難である。ピンが側壁で遮断できない場合、不透明ポリマーが透明なウェル底部内またはウェル底部上へと漏れる可能性がある。あるいはピンが側壁で遮断を実現できない場合には、ピンをウェルよりも大きく作成して、インサート上端の各ウェルを包囲している平坦な領域で遮断を実現することがある。代わりのこの解決策は、細胞が沈殿し得る各ウェル内に、平坦なレッジを生成してしまう可能性があるため望ましくない。細胞がレッジ上に沈殿すると、ウェル底部の中心に位置するスフェロイドに寄与することができず、実験結果を大きく変動させる可能性がある。
【0051】
実施形態において後成形設備は、例えば単一のピン、ピンの列、またはピンアレイなどの加熱されたピンを含み得、これらのピンは、射出成形されるマイクロウェルプレートの、例えば単一のウェル、あるいはウェルの列またはアレイ内の複数のウェルの、数およびアラインメントに一致し得る。各ピンの端部の形状は、例えば側壁から45°の角度すなわちテーパを有し得、かつ頂点の位置または付近に丸み部を有し得る。
【0052】
実施形態においては、平坦なウェル底部形状を有する射出成形されるプレートを、後成形ステップのために入子内に位置させて固定してもよく、ここで加熱されたピンまたはピンアレイアセンブリを、例えば射出成形されるマイクロプレートの平坦なウェル底部内に押し込む。入子は、ピンの形状に合わせかつピンを受け入れるために、各ウェルの位置で一致する45°の角度を有し得る。実施形態において、プラテンは加熱された1つまたは複数のピンを保持することができ、入子は一致するウェル底部形状を保持する。ピンプラテンの平面と入子の平面とを平行に位置合わせしてもよく、またこの両方を、適切な可逆のおよび再現可能な押圧のために共通の軸に対して垂直にしてもよい。
【0053】
プラテン、入子、またはこの両方を素早く交換して、384ウェルプレートおよび1536ウェルプレートなどの他のマルチウェルプレート型に適応することができる。加熱されたピンを支持しているプラテンを、マルチウェルプレートの一致するウェルへと押し込んで、ウェルの透明なベースに、ピンの先端の形状または断面により画成される選択された形状、例えば、半球状、円錐状、v字状、w字状、ウェッジ状、および類似する形状、またはこれらの組合せの形状を、形成することができる。
【0054】
実施形態において、本開示はスフェロイドを培養する方法を提供し、この方法は例えば、
前述の製品のいずれかに培養培地を充填するステップ、および、
スフェロイド形成細胞を培養培地に加えるステップ、
を含む。
【0055】
材料および方法
開示される1つまたは複数の製品を作製するために使用され得る方法がいくつか存在する。実施形態において、開示される製品は、例えば、不透明なウェルの側壁と弓形すなわち凹状の丸みを帯びたベースまたは底部表面とを有するマルチウェルプレートでもよく、このベースまたは底部表面は、気体透過性で可視光を透過するまたは可視光に対して透明なものでもよい。
【0056】
本出願人が所有する譲渡された米国特許第7,674,346号明細書は、ポリマー孔空きプレートをガラスまたはポリマーのベースに接合し、さらに例えば熱または放射を用いて気体透過性薄フィルムを孔空きプレートに溶接してマイクロプレートの底部を形成するものなど、ウェルプレートを作製する方法に言及している(例えば、欄2、行4から44参照)。
【0057】
本出願人が所有する譲渡された米国特許第5,759,494号明細書は、クロストークを防ぐために、例えばインサートをオーバーモールドすることによって不透明な側壁を有するウェルプレートを作製する方法に言及している。ポリメチルペンテン(TPX)のここで開示される気体透過性スフェロイドプレートを、適切なベースまたは壁の材料として選択してもよく、これを’494特許および本開示の作製方法に使用してもよい。
【0058】
実施形態において本開示の気体透過性スフェロイドプレートの構造は、クロストークをさらに低減する、または防ぐように、’494特許の例えば欄4、30行から欄5、54行に開示されているような1以上の格子パターンで配置された1以上の隆起部をさらに含み得る。格子を含まないオーバーモールドされたプレートでは、ウェルの外周すなわちフィルムが、成形されたプレート本体から剥がれてしまう傾向にあった。格子はフィルムを、これが再成形されるときにプレート本体から剥がれないようにするように見える。格子はさらにストレスマークがフィルムに現れるのを防ぐようにも見え、というのも格子がないとプレートにストレスマークが現れるためである。
【0059】
米国特許第6,811,752号明細書は、マイクロチャンバおよびマイクロフルイディクス流と、気体透過性の液体不浸透性膜とを含む、デバイスを作製する方法に言及している。
【0060】
1つの方法では(インサート成形)、ベース内に、少なくとも1つの丸みを帯びた、またはカップ状の、あるいは窪みのある陥凹を有する、マルチウェルプレートの底部またはベース部分が、透明ポリマーを用いて射出成形または熱成形される。次に、成形または熱成形された透明なマルチウェル底部プレートを縦型プレス内に挿入し、次いで不透明ポリマーを注入して、透明な丸みを帯びたウェル底部上にマルチウェルプレートの残りの部分を形成する。インサート成形に代えて、2ショット成形プロセスが用いられる。
【0061】
再び図面を参照すると、図1は事前形成または成形された構成要素を結合させる方法を概略的に示している。射出成形または熱成形されたマルチウェルプレートの不透明な孔空きプレート部分110(すなわち、ウェル底部がないもの)を、射出成形または熱成形された透明で丸みを帯びたウェル底部プレート部分120に結合させる。製品130を形成するためのこの結合は、任意の適切な方法、例えば、ウェル底部プレート120(すなわち「インサート」)を縦型プレス内に置き、かつウェル底部プレート部分上に不透明な孔空きプレート部分110を成形することによって、達成することができる。代わりの作製方法は、例えば、2ショット成形プロセスを用いてマルチウェルプレート全体を射出成形するものとし得る。これらの方法は、透明で丸みを帯びたウェル底部と不透明な側壁とを有する、一体的なマルチウェルプレートを形成する。任意の結合方法を用いて、事前形成された部分110および120を取り付けることができ、これには例えば、接着剤、超音波、熱、IR、レーザ溶接、および類似する方法、またはこれらの組合せが含まれる。例えば超低付着性材料での続く随意的なウェルコーティングと重力の力とで、細胞のスフェロイドへの自己組織化を助けることができる。マルチウェルプレートの少なくとも透明で丸みを帯びたまたはカップ状のウェル底部部分に、適切な厚さの気体透過性材料を用いると、スフェロイド内の細胞の、酸素の利用可能性が高まる。
【実施例】
【0062】
以下の実施例は、上述の開示の使用の仕方をより十分に説明し、さらに本開示の種々の態様を実行するために意図されているベストモードを明記する役割を果たす。これらの実施例は、本開示の範囲を限定するものではなく、むしろ説明のために示される。実施例は、開示される細胞培養ウェル製品の準備の仕方をさらに説明する。
【0063】
実施例1:射出成形または熱成形法
図2Aから2Cは、不透明な「スリーブ」を生成する、代わりの方法を示している。図2Aは、透明ポリマーを用いて作製された、丸みを帯びたまたはカップ状のウェル底部を有する、射出成形または熱成形されたマルチウェルプレート(スカートなし)のウェル部分210を示している。図2Bは、不透明ポリマーを用いて作製された、ウェル底部を備えていない、射出成形または熱成形された、スカートを含む第2のマルチウェルプレート220を示している。不透明プレート220のウェル直径は、透明プレート210のウェル直径よりも若干大きくなるように成形されている。透明部分を不透明部分内へ滑り込ませて、透明部分を、例えば接着剤、超音波溶接、IR溶接、熱溶接、レーザ溶接、および類似する方法を含む、いくつかの適切な方法によって恒久的に取り付けてもよい。図2Cは、透明プレートを不透明プレート内に圧縮嵌合して提供される、組み立てられたプレート製品230を示している。不透明プレート220はスリーブ構造として機能して透明プレート構造を受け入れ、この組合せによって、不透明な側壁と弓形または丸みを帯びたウェルのベースに透明な窓とを有するウェルを備えた製品が形成される。
【0064】
図3は、開示される製品を歪み印刷を用いて作製する、別の代わりの方法を示している。透明ポリマーシート310を不透明材料で選択的に印刷して、透明な窓領域またはゾーン330を含む印刷シート315を形成する。このシートを選択的に熱成形して、印刷シート315の透明ゾーン330がウェル底部の中心になるように、印刷の前または後にカップ(すなわち、歪み)を生じさせることができる。実施形態においては、二つの部分、すなわち例えば透明な底部を有する孔空きプレート350と型のシート315とを用いて、歪み印刷されたポリマーシートによる完成したマルチウェルプレート340が形成される。一旦マルチウェルプレート360に熱成形されると、ウェル底部での、またはウェル底部からの、光学的観察用の窓を形成している、カップ状に成形されたウェル底部の透明ゾーン370を除いて、プレート全体は不透明に見える。
【0065】
実施例2
別の作製方法においては、ウェル底部を有していない不透明なマルチウェルプレートを成形または熱成形してもよく(すなわち、不透明な「孔空きプレート」を作製する)、次にマルチウェルプレートの底部またはベース部分を、透明ポリマーを用いて射出成形または熱成形してもよい。その後、この孔空きプレートおよびベースの要素を、例えば接着剤、超音波、IR、熱、レーザ溶接、および類似するプロセスを含む、種々のアセンブリプロセスのいずれかを用いて共に取り付けてもよい。
【0066】
実施例3
別の作製方法においては、マルチウェルプレート(スカートなし)のウェル全体を、透明ポリマーを用いて射出成形または熱成形してもよく、次に不透明ポリマーを用いて別のマルチウェルプレート(スカートを含む)を、ウェル底部を備えずに射出成形または熱成形してもよい。不透明プレートのウェルの直径を、透明プレートのウェルの直径よりも若干大きくなるように成形する。不透明プレートは透明プレートを受け入れるスリーブとして機能し、従ってウェルのベースに透明な窓を備えた状態で、不透明プレートは不透明な側壁を形成する。
【0067】
実施例4
別の作製方法においては、例えば1つまたは多数のカップまたは窪みが熱成形される、ウェル底部の中心になる領域に透明ゾーンを残して、透明ポリマーシートの外側に不透明コーティングを歪み印刷してもよい。一旦マルチウェルプレートに熱成形されると、光学的観察用の窓を形成している透明ゾーンを除いて、プレート全体は不透明に見える。
【0068】
実施例5:非接着性コーティング
内側ウェル底部表面、壁、またはこの両方の表面を、例えばパーフルオロポリマー、オレフィン、または類似のポリマー、およびこれらの混合物などの、細胞の付着を促進する特性を少しも有していないポリマーでコーティングすることにより、随意的に細胞に対して非接着性にすることができる。あるいは不透明なマルチウェルプレートの、透明で丸みを帯びたまたはカップ状のウェル底部とのアセンブリに続き、内側ウェル底部を例えば超低付着性材料、アガロース、非イオン性ヒドロゲル、または類似する材料などの、細胞の付着を抑制することができる非結合性材料でコーティングしてもよい。またコーティングを、マルチウェルプレートの透明なウェル底部部分に、不透明な部分と結合させる前に塗布してもよい。例えば低付着性基板と、ウェルの本体部分およびベース部分の湾曲と、重力との組合せで、細胞のスフェロイドへの自己組織化を誘起することができ、この細胞集合は、より生体内に似た応答を示す分化した細胞の機能を維持すると知られている(Messner他の、Archives of Toxicology、2012年11月11日参照)。パーフルオロポリマーまたはポリ4−メチルペンテンなどのポリマーは、成形プロセスで通常用いられる厚さで気体透過性も提供し、この気体透過性は代謝的に活性な細胞型にとって有益になり得る。気体透過性ポリマーの代表的な厚さおよび範囲は、中間の値および範囲を含め例えば約0.001インチ(25.4μm)から約0.025インチ(635μm)、0.0015インチ(38.1μm)から約0.03インチ(762μm)とすることができる(ここで1インチ=25,400μm、すなわち0.000039インチ=1μm)。さらにまたは代わりに、ポリジメチルシロキサンポリマーなどの高気体透過性を有する他の材料が、例えば約1インチ(2.54cm)までの厚さで十分な気体拡散を提供し得る。
【0069】
図9Aおよび9Bは、異なる形状(9Aはv字状、9Bは半球状)を有するウェル底部と接触して遮断している、射出成形ピンの組合せ900の断面図を示している。図9Aは、ウェルの内部に合ったピン910が、45°の角度のv字状ウェル底部形状915でどのように遮断912できるかを概略的に明示している。図9Bは、半球状のウェル底部形状920で遮断912を実現する潜在的難しさに、ピン910がどのように直面し得るかを概略的に明示している。
【0070】
図10Aおよび10Bは、ピンによる遮断の代わりの設計の断面図を示している。図10Aおよび10Bは、随意的な変形カラー1010の有用性を明示している。変形カラー1010の壁厚は、例えば約0.005から0.020インチ(127から508μm)でもよく、例えばポリマーの弾性率、およびマルチウェルプレートの幾何学的制約によって決定され得る。変形カラーはウェルを包囲し、またはブラケットで囲うように取り囲み、射出成形ピン910の圧力下で歪む、すなわち弾性的に曲がりかつ伸縮することができ、透明なベース部分の輪郭を、注入される側壁用の不透明樹脂から遮断、すなわちシールまたは密封することができる。図10Aは、ウェル内の中心に、ピンとの共通軸1011上に置かれているピン910を示している。図10Bは、ピンの軸1012が例えば図示のように中心の左側へと元の共通軸1011から若干ずれている1015、ピンを示している。変形カラーにより、ピンはさらに適切に遮断またはシールして、不透明な側壁のポリマー流が透明なウェル底部に流入するのを防ぐことができる。変形カラーは、力ベクトル矢印1016、1017で夫々図示されているように、左側により大きく押し出され、右側でより小さく押し出される。
【0071】
実施例6:後成形法
本開示のウェルプレート製品を作製する別の方法は、熱再成形によって実現される。熱再成形法では、例えば標準的な黒い(不透明な)側壁と透明で平坦なプラスチックの底部とを有する市販されているプレートが選択される。外側での真空と、プレートの反対側でウェルの内部へ、さらにはウェルの底部へと押し込まれる、全半径を有する高温成形具により供給される圧力とを組み合わせて用いて、丸みを帯びた底部丸み部を有する、凹状弓形ベースまたはテーパベースをウェル底部に形成する。外側底部領域を、例えばIR放射で事前に加熱して、カップ状または内側凹状弓形底部丸み部、またはテーパベースの、形成を助けてもよい。
【0072】
実施例7:使用方法、すなわち細胞の培養
図11Aから11Dは、異なるウェル底部形状内の細胞スフェロイドの画像を示している。これらの画像を光学顕微鏡で、倍率20倍で取り込んだ(参照スケールは1,000μmと同等)。
【0073】
画像11Aは、完全半球ウェル底部形状を有している全て透明な対照群の96ウェルプレート(すなわち、この比較プレートの壁は透明)内の、スフェロイドを示している。
【0074】
画像11Bは、v字状または45°のテーパしたウェル底部形状を有している、試作品の熱的に再成形された96ウェルプレート内のスフェロイドを示している。
【0075】
画像11Cは、v字状または45°のウェル底部形状を有している、射出成形された単一ウェル内のスフェロイドを示している。
【0076】
画像11Dは、完全半球ウェル底部形状を有している、射出成形された単一ウェル内のスフェロイドを示している。
【0077】
比較ウェル(11A)と、本発明のv字状ウェル(11Bおよび11C)および半球状ウェル(11D)とを含むウェル内に、HT29細胞をウェル当たり10,000細胞の濃度で播種し、CO2が5%かつ湿度85%の培養器内で、37℃で96時間培養した。96時間の培養の後に光学顕微鏡で、図11Aから11Dの画像を倍率20倍で取り込んだ。
【0078】
細胞播種手順は一般に、以下のステップ、すなわち、トリプシン処理するステップ、細胞をカウントするステップ、遠心分離機にかけて細胞から培地を除去するステップ、および細胞を再び浮遊させるステップ、を含むものであった。播種密度は、例えばウェル当たり10k、20k、または30k細胞としてもよい。播種量は、例えばウェル当たり200マイクロリットルでもよい。監視画像を、中間の値および範囲を含め例えば播種後30分、24時間、および96時間で記録してもよい。
【0079】
画像11Bおよび11Cにおいてスフェロイドは、v字状ウェルベースの中心に位置している。画像11Aおよび11Dにおいてスフェロイドは、半球の中心ではない。v字状ベース形状はスフェロイドをウェルベースの中心にセンタリングするのを促進するように見え、このセンタリングは光学的可視化を助ける。
【0080】
実施形態では、丸みを帯びた気体透過性ウェル底部を、熱再成形プロセスを用いて形成することができる。既存の方法においてプレートは、例えば0.005インチ(127μm)の厚さのポリスチレンの平坦なインサートで成形され得、この厚さは気体透過性ではないと考えられる。しかしながらこの熱再成形プロセスの際に、インサートのアール頂点での厚さを例えば約0.003インチ(76.2μm)に減少させることができ(写真は含まれていない)、これによりウェル底部はHYPER−productフィルム(これも厚さ0.003インチ(76.2μm)のポリスチレン)と同程度の気体透過性となる。
【0081】
本開示を種々の特定の実施形態および技術を参照して説明した。しかしながら、本開示の範囲内で、多くの変形および改変が可能であることを理解されたい。
【符号の説明】
【0082】
110 不透明孔空きプレート部分
120 ウェル底部プレート部分
130、230、400 製品
210 透明プレート
220 不透明プレート
410 チャンバ
410a 上方チャンバ
410b 下方チャンバ
420 チャンバ分室
430 第2の底部
440 吸引ピペット
450 スフェロイド
460 透明底部領域
465 スフェロイドウェル
480 多孔質膜
図1
図2A
図2B
図2C
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9A
図9B
図10A
図10B
図11A
図11B
図11C
図11D