特許第6703485号(P6703485)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6703485半導体ウエハ加工用シート用基材、半導体ウエハ加工用シート、および半導体装置の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6703485
(24)【登録日】2020年5月12日
(45)【発行日】2020年6月3日
(54)【発明の名称】半導体ウエハ加工用シート用基材、半導体ウエハ加工用シート、および半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/301 20060101AFI20200525BHJP
   B23K 26/53 20140101ALI20200525BHJP
   C09J 7/29 20180101ALI20200525BHJP
【FI】
   H01L21/78 M
   H01L21/78 Q
   B23K26/53
   C09J7/29
【請求項の数】5
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2016-552028(P2016-552028)
(86)(22)【出願日】2015年9月28日
(86)【国際出願番号】JP2015077397
(87)【国際公開番号】WO2016052444
(87)【国際公開日】20160407
【審査請求日】2018年6月29日
(31)【優先権主張番号】特願2014-199400(P2014-199400)
(32)【優先日】2014年9月29日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000102980
【氏名又は名称】リンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108833
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 裕司
(74)【代理人】
【識別番号】100162156
【弁理士】
【氏名又は名称】村雨 圭介
(74)【代理人】
【識別番号】100201606
【弁理士】
【氏名又は名称】田岡 洋
(72)【発明者】
【氏名】中村 優智
(72)【発明者】
【氏名】山下 茂之
【審査官】 宮久保 博幸
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−231700(JP,A)
【文献】 特開2012−062405(JP,A)
【文献】 特開2011−139042(JP,A)
【文献】 特開2014−165462(JP,A)
【文献】 特開2005−109043(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/301
B23K 26/53
C09J 7/29
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体ウエハ加工用シートを用いる半導体装置の製造方法であって、
前記半導体ウエハ加工用シートは、
樹脂層(A)と、前記樹脂層(A)の一方の面上に積層された樹脂層(B)とを備える半導体ウエハ加工用シート用基材と、粘着剤層とを備え、
前記半導体ウエハ加工用シート用基材の一方の面は前記樹脂層(B)の面からなり、
前記樹脂層(A)は、ビカット軟化点が50℃以上87℃以下の熱可塑性エラストマーを含有し、
前記樹脂層(B)は、ビカット軟化点が91℃以上220℃以下の熱可塑性エラストマーを含有し、
前記半導体ウエハ加工用シート用基材の厚さtおよび前記樹脂層(A)の厚さtは、下記式(1)および(2)を満たし、
t≦150μm (1)
/t≧78% (2)
前記粘着剤層は、前記半導体ウエハ加工用シート用基材における前記樹脂層(B)からなる前記一方の面とは反対側の面に積層され、
前記半導体装置の製造方法は、
前記半導体ウエハ加工用シートの前記粘着剤層側の面を、半導体ウエハの一の面に貼付するマウント工程、
前記半導体ウエハに貼着している前記半導体ウエハ加工用シートにおける前記樹脂層(B)からなる前記一方の面が接触面になるように前記半導体ウエハ加工用シートをテーブル上に載置し、前記半導体ウエハにおける前記半導体ウエハ加工用シートに対向する面と反対側の面に、感熱性接着用フィルムを加熱積層する熱ラミネート工程、
前記半導体ウエハ加工用シートを伸長して、前記感熱性接着用フィルムが積層された前記半導体ウエハを分割することにより、前記感熱性接着用フィルムが積層された前記半導体ウエハの分割体を備えるチップを得るエキスパンド工程、
前記半導体ウエハ加工用シートにおける前記チップが貼付された領域よりも外周側に位置する領域である周縁領域を加熱して、前記周縁領域に位置する前記半導体ウエハ加工用シート用基材を収縮させるシュリンク工程、および
前記シュリンク工程を経た前記半導体ウエハ加工用シートから、前記チップを個別に分離して前記チップを半導体装置として得るピックアップ工程を備え、
前記エキスパンド工程が開始されるまでに、前記半導体ウエハの内部に設定された焦点に集束されるように赤外域のレーザー光を照射して、前記半導体ウエハ内部に改質層を形成する改質層形成工程が行われること
を特徴とする、半導体装置の製造方法。
【請求項2】
前記半導体ウエハ加工用シート用基材は、前記樹脂層(A)の他方の面上に積層された樹脂層(C)を備え、前記樹脂層(C)は、ビカット軟化点が91℃以上220℃以下の熱可塑性エラストマーを含有する、請求項に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項3】
前記樹脂層(C)は、前記樹脂層(B)と同一材料から構成される、請求項に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項4】
前記樹脂層(C)の厚さtは3μm以上15μm以下である、請求項またはに記載の半導体装置の製造方法。
【請求項5】
前記半導体ウエハ加工用シート用基材における前記樹脂層(B)からなる前記一方の面の算術平均粗さRaは1.0μm以下である、請求項からのいずれかに記載の半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウエハ加工用シート用基材、半導体ウエハ加工用シート、および半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体ウエハなどのワークからチップ状の半導体装置を製造する際に、従来は、ワークに洗浄等を目的とした液体を吹き付けながら回転刃でワークを切断してチップを得るブレードダイシング加工が行われることが一般的であった。しかしながら、近年は、乾式でチップへの分割が可能なステルスダイシング(登録商標)加工が採用されてきている。ステルスダイシング(登録商標)加工では、ワークの表面近傍が受けるダメージを最小限にしながらワーク内部に予備的に改質層が形成されるように、開口度(NA)の大きなレーザー光を照射し、その後エキスパンド工程等において、ワークに力を加えてチップを得る。
【0003】
このエキスパンド工程では、一具体例において、次のようにして行われる。あらかじめ、半導体ウエハ加工用シートは、レーザー光が照射されその内部に改質層が形成されたワーク(本明細書において、「改質ワーク」ともいう。)が貼着し改質ワークの周囲にリングフレームが貼着した状態とされる。この半導体ウエハ加工用シートにおける、改質ワークが貼着した領域とリングフレームが貼着した領域との間に位置する領域にリング状の部材を当接させ、リング状の部材とリングフレームとの鉛直方向の相対位置を変動させる。この相対位置の変動により、半導体ウエハ加工用シートへの張力付与が行われる。通常、上記の鉛直方向の相対位置の変動は、リング状部材に対してリングクレームを引き落とすことによって行われている。
【0004】
このようにエキスパンド工程において半導体ウエハ加工用シートに張力が付与されると、半導体ウエハ加工用シートにはその後の工程に影響を及ぼすほど弛みが発生する場合がある。具体的には、半導体ウエハ加工用シートへの張力付与に起因する弛み量(半導体ウエハ加工用シートにおけるリングフレームに貼着する部分の下側面を基準とする、半導体ウエハ加工用シートの底面の鉛直方向の離間距離)が過度に多いと、搬送時に、半導体ウエハ加工用シートの弛んだ底面またはその近傍が異物に衝突しやすくなって、半導体ウエハ加工用シートの使用時における取扱い性が低下する。そこで、半導体ウエハ加工用シートの弛み量が多い場合には、その半導体ウエハ加工用シートを部分的に加熱して、半導体ウエハ加工用シートが備える半導体ウエハ加工用シート用基材を熱収縮させて、半導体ウエハ加工用シートの弛み量を低減させることが行われることもある。本明細書において、上記の基材の熱収縮に基づき半導体ウエハ加工用シートの弛み量が低減する現象を「復元」ともいい、この復元が生じやすい性質および復元量(弛み量の低減量)が大きい性質の少なくとも一方を有する半導体ウエハ加工用シートを与えることが可能な半導体ウエハ加工用シート用基材を、「復元性を有する半導体ウエハ加工用シート用基材」ともいう。
【0005】
特許文献1には、復元性に優れる半導体ウエハ加工用シート用基材として、熱伝導率が0.15W/m・K以上の熱可塑性架橋樹脂からなる半導体ウエハ加工用シート用基材を用いることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−229040号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、近年、上記のようにして製造したチップに対して別のチップを積層したり、チップをフィルム基板上に接着したりすることが求められている。そして、チップの回路と別のチップまたは基板上の回路とをワイヤーにより接続するフェースアップタイプの実装から、突起状の電極が設けられたチップの電極形成面と、別のチップまたは基板上の回路とを対向させ、その電極により直接接続をするフリップチップ実装や、Through
Silicon Via(TSV)への移行が一部の分野では行われている。こうしたフリップチップ実装等におけるチップの積層・接着への要求に応えて、他のチップやフィルム基板に対して、接着剤を用いて電極付きチップを固定する方法が提案されている。
【0008】
そして、このような用途に適用しやすいように、上記の製造方法の過程で、電極形成面とは逆の面にダイシングシートが貼付された電極付きワークまたは電極付き改質ワークに対して、その電極形成面にフィルム状の接着剤を積層し、エキスパンド工程により分割された電極付きチップが、その電極形成面に接着剤層を備えるようにすることが提案されてきている。この用途で使用される接着剤層を与えるフィルム状の接着剤は、異方導電性フィルムや、非導電性のものが用いられ、非導電性のものは「非導電性接着フィルム」(Nonconductive film)とも称され、「NCF」と略称される場合もある。
【0009】
ワークまたは改質ワークに対してこのようなフィルム状の接着剤を積層する方法として、最も一般的かつ簡便な方法は、フィルム状の接着剤に感熱性接着剤を含有させて、加熱積層、すなわち熱ラミネートする方法である。この熱ラミネートは、通常、半導体ウエハ加工用シートとワークまたは改質ワークとを備える積層体を作業テーブル上に載置し、この積層体のワークまたは改質ワークの面に対してフィルム状の接着剤を加熱しながら融着させることによって行われる。
【0010】
ところが、このフィルム状の接着剤の熱ラミネートの際にワークまたは改質ワークに対して加えられた熱の影響で、ワークまたは改質ワークに貼付している半導体ウエハ加工用シートの基材(以下、「基材」と略記する場合もある。)が作業用テーブルに融着してしまう場合があった。本明細書において、このような半導体ウエハ加工用シートの加熱に起因して基材が作業用テーブルに融着する現象を「融着」ともいう。基材の融着が生じると、フィルム状の接着剤がラミネートされたワークまたは改質ワークを備える積層体を、作業用テーブルから分離することが困難となり、最悪の場合には、ワークまたは改質ワークが破損してしまうことがあった。
【0011】
このような問題は、前述のように、エキスパンド作業後の弛み量を低減させるべく、復元性を有する半導体ウエハ加工用シート用基材を用いた場合には特に顕著となることが、本発明者らの検討により明らかになった。
【0012】
本発明は、復元性を有するとともに、半導体ウエハ加工用シートとして使用されたときにフィルム状の接着剤の熱ラミネートなど半導体ウエハ加工用シートが加熱されるようなことがあっても、基材の融着が生じにくい、半導体ウエハ加工用シート用基材、およびかかる基材を用いてなる半導体ウエハ加工用シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、本発明者らは次のような検討を行った。復元性を有する基材は、加熱により収縮可能な熱可塑性エラストマーを用いることにより実現可能である。しかしながら、本発明者らが確認したところ、作業テーブルに接する基材の加熱変形が、作業テーブルに対して基材が融着することに大きく影響していることが明らかになった。すなわち、NCFの熱ラミネートなどにより半導体ウエハ加工用シートが加熱されたときに、半導体ウエハ加工用シートにおける作業テーブルに接する基材は、作業テーブルの面の凹凸に倣うように変形し、その結果、作業テーブルに接する基材の密着性が過度に高まって、基材の融着に至っている可能性がある。したがって、基材における、半導体ウエハ加工用シートとして用いられた際に作業テーブルに対向する側の面を、加熱されても変形しにくい材料から構成すれば、基材の融着を生じにくくすることが可能である。
【0014】
以上の検討に基づき、本発明者らは、半導体ウエハ加工用シート用基材を多層構造とし、各層に含有される熱可塑性エラストマーのビカット軟化点を相違させることによって、半導体ウエハ加工用シート用基材としては熱収縮可能であるため復元性を有するが、作業テーブルに接した状態で加熱されても容易には変形しにくい半導体ウエハ加工用シート用基材とすることが可能であるとの新たな知見を得た。
【0015】
かかる知見に基づき完成された本発明は次のとおりである。
(1)樹脂層(A)と、前記樹脂層(A)の一方の面上に積層された樹脂層(B)とを備える半導体ウエハ加工用シート用基材であって、前記半導体ウエハ加工用シート用基材の一方の面は前記樹脂層(B)の面からなり、前記樹脂層(A)は、ビカット軟化点が50℃以上87℃以下の熱可塑性エラストマーを含有し、前記樹脂層(B)は、ビカット軟化点が91℃以上220℃以下の熱可塑性エラストマーを含有し、前記半導体ウエハ加工用シート用基材の厚さtおよび前記樹脂層(A)の厚さtは、下記式(i)および(ii)を満たすことを特徴とする半導体ウエハ加工用シート用基材。
t≦150μm (i)
/t≧78% (ii)
【0016】
(2)前記樹脂層(B)の厚さtは3μm以上15μm以下である、上記(1)に記載の半導体ウエハ加工用シート用基材。
【0017】
(3)前記樹脂層(A)の他方の面上に積層された樹脂層(C)を備え、前記樹脂層(C)は、ビカット軟化点が91℃以上220℃以下の熱可塑性エラストマーを含有する、上記(1)または(2)に記載の半導体ウエハ加工用シート用基材。
【0018】
(4)前記樹脂層(C)は、前記樹脂層(B)と同一材料から構成される、上記(3)に記載の半導体ウエハ加工用シート用基材。
【0019】
(5)前記樹脂層(C)の厚さtは3μm以上15μm以下である、上記(3)または(4)に記載の半導体ウエハ加工用シート用基材。
【0020】
(6)上記(1)から(5)のいずれかに記載される半導体ウエハ加工用シート用基材と、前記半導体ウエハ加工用シート用基材における前記樹脂層(B)からなる面と反対側の面に積層された粘着剤層とを備える半導体ウエハ加工用シート。
【0021】
(7)半導体装置の製造方法であって、上記(6)に記載される半導体ウエハ加工用シートの前記粘着剤層側の面を、半導体ウエハの一の面に貼付するマウント工程、前記半導体ウエハに貼着している前記半導体ウエハ加工用シートにおける前記樹脂層(B)からなる面が接触面になるように前記半導体ウエハ加工用シートをテーブル上に載置し、前記半導体ウエハにおける前記半導体ウエハ加工用シートに対向する面と反対側の面に、感熱性接着用フィルムを加熱積層する熱ラミネート工程、前記半導体ウエハ加工用シートを伸長して、前記感熱性接着用フィルムが積層された前記半導体ウエハを分割することにより、前記感熱性接着用フィルムが積層された前記半導体ウエハの分割体を備えるチップを得るエキスパンド工程、前記半導体ウエハ加工用シートにおける前記チップが貼付された領域よりも外周側に位置する領域である周縁領域を加熱して、前記周縁領域に位置する前記半導体ウエハ加工用シート用基材を収縮させるシュリンク工程、および前記シュリンク工程を経た前記半導体ウエハ加工用シートから、前記チップを個別に分離して前記チップを半導体装置として得るピックアップ工程を備え、前記エキスパンド工程が開始されるまでに、前記半導体ウエハの内部に設定された焦点に集束されるように赤外域のレーザー光を照射して、前記半導体ウエハ内部に改質層を形成する改質層形成工程が行われることを特徴とする、半導体装置の製造方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、復元性を有するとともに、半導体ウエハ加工用シートとして使用されたときに半導体ウエハ加工用シートが加熱されるようなことがあっても融着が生じにくい、半導体ウエハ加工用シート用基材が提供される。また、本発明によれば、上記の基材を用いてなる半導体ウエハ加工用シートが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の一実施形態に係る半導体ウエハ加工用シートの概略断面図である。
図2】本発明の一実施形態の他の一例に係る半導体ウエハ加工用シートの概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について説明する。
1.半導体ウエハ加工用シート
図1に示されるように、本発明の一実施形態に係る半導体ウエハ加工用シート1は、半導体ウエハ加工用シート用基材(基材)2および粘着剤層3を備える。本発明の一実施形態に係る半導体ウエハ加工用シート1の具体的な適用例として、ダイシングシートが挙げられる。本明細書において、「ダイシングシート」には、ダイシング・ダイボンディングシート、半導体ウエハの裏面を保護するためのフィルムを粘着剤層3の基材2に対向する面と反対側の面上に有するもの、リングフレームを貼付するための別の基材および粘着剤層を有するものも含まれるものとする。本明細書において「ダイシング」には、ブレードダイシングのほか、ステルスダイシング(登録商標)のようなブレードを用いることなく半導体ウエハを個片化する場合も含まれるものとする。本明細書における「シート」には「テープ」の概念も含まれるものとする。
【0025】
(1)基材
本実施形態に係る半導体ウエハ加工用シート1の基材2は、少なくとも2層の積層構造を有する。図1に示される基材2は、もっとも簡単な例として、樹脂層(A)および樹脂層(B)からなる2層構造となっている。
【0026】
具体的に説明すれば、図1に示される基材2は、樹脂層(A)と、樹脂層(A)の一方の面上に積層された樹脂層(B)とを備える半導体ウエハ加工用の基材である。樹脂層(A)は、樹脂層(B)に比べて、粘着剤層3に対して近位になるように配置されている。一方、半導体ウエハ加工用シート1の一方の面は樹脂層(B)の面からなる。すなわち、半導体ウエハ加工用シート1の基材2において、樹脂層(B)は、粘着剤層3から最も遠位な位置にある。
【0027】
樹脂層(A)は、ビカット軟化点が相対的に低い熱可塑性エラストマーを含有し、樹脂層(B)ビカット軟化点が相対的に高い熱可塑性エラストマーを含有する。このように両者が含有する熱可塑性エラストマーのビカット軟化点に格差があることで、熱収縮性が大きい前者の作用により復元性を有するとともに、加熱変形の小さい後者の作用により、半導体ウエハ加工用シートとして使用されたときに半導体ウエハ加工用シートが加熱されるようなことがあっても作業テーブルへの融着が生じにくいという本発明の効果を発現する。このような熱可塑性エラストマーのビカット軟化点の格差を生じさせる、それぞれの熱可塑性エラストマーのビカット軟化点の範囲としては、少なくとも後述する範囲であれば本発明の作用効果が奏功される。
【0028】
(1−1)樹脂層(A)
樹脂層(A)は、ビカット軟化点が50℃以上87℃以下の熱可塑性エラストマーを含有する。本明細書において、ビカット軟化点は、JIS K6922−2:2010に準拠して測定された温度を意味する。
【0029】
ビカット軟化点が50℃以上87℃以下の熱可塑性エラストマーを樹脂層(A)が含有することにより、基材2として復元性を有することが可能となる。基材2として優れた復元性を有する観点から、樹脂層(A)は、55℃以上80℃以下の熱可塑性エラストマーを含有することが好ましく、60℃以上75℃以下の熱可塑性エラストマーを含有することがより好ましい。本明細書において、基材2の復元性を発現させるために樹脂層(A)に含有される上記の熱可塑性エラストマーを、「熱可塑性エラストマー(A)」ともいう。
【0030】
上記のビカット軟化点に関する規定を満たすことができる限り、熱可塑性エラストマー(A)の具体的な種類は限定されない。熱可塑性エラストマー(A)を構成する材料として、オレフィン系エラストマー、スチレン系エラストマー、ウレタン系エラストマー、エステル系エラストマーなどが例示される。ポリ塩化ビニルが用いられていてもよい。これらのうちでも、オレフィン系エラストマーが、環境負荷が低く、上述した物理特性を得られやすい観点から好ましい。
【0031】
上記のオレフィン系エラストマーとして、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン(LDPE、VLDPE、LLDPE等が具体例として挙げられる)、プロピレンとαオレフィンとの共重合体;αオレフィン重合体(αオレフィンを重合してなる重合体であって、単独重合体および共重合体のいずれであってもよい。);エチレン−プロピレンゴム(EPM)、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)等のエチレン−プロピレン系ゴム;クロロスルホン化ポリエチレン(CSM)などが例示される。ここで、本明細書における「(メタ)アクリル酸」は、アクリル酸およびメタクリル酸の両方を意味する。他の類似用語も同様である。
【0032】
熱可塑性エラストマー(A)は1種類の重合体から構成されていてもよいし、複数種類の重合体の混合物であってもよい。
【0033】
樹脂層(A)における熱可塑性エラストマー(A)の含有量は、樹脂層(A)が熱可塑性エラストマー(A)を含有することにより基材2として復元性を有することが実現されている限り、限定されない。
【0034】
樹脂層(A)は、熱可塑性エラストマー(A)以外に、顔料、難燃剤、可塑剤、帯電防止剤、滑剤、フィラー等の各種添加剤を含有していてもよい。顔料としては、例えば、二酸化チタン、カーボンブラック等が挙げられる。また、フィラーとして、メラミン樹脂のような有機系材料、ヒュームドシリカのような無機系材料およびニッケル粒子のような金属系材料が例示される。こうした添加剤の含有量は特に限定されないが、基材2が適切な復元性を有し、所望の平滑性や柔軟性を失わない範囲に留めるべきである。
【0035】
(1−2)樹脂層(B)
樹脂層(B)は、ビカット軟化点が91℃以上220℃以下の熱可塑性エラストマーを含有する。ビカット軟化点が91℃以上220℃以下の熱可塑性エラストマーを樹脂層(B)が含有することにより、半導体ウエハ加工用シート1が加熱されたときに基材2が作業テーブルなどに融着する現象を生じにくくすることができる。
【0036】
基材2の融着をより生じにくくする観点から、樹脂層(B)は、ビカット軟化点が103℃以上の熱可塑性エラストマーを含有してもよい。本明細書において、このように基材2の融着を生じにくくするために樹脂層(B)に含有される熱可塑性エラストマーを、「熱可塑性エラストマー(B)」ともいう。熱可塑性エラストマー(B)のビカット軟化点は200℃以下であることが好ましく、さらに、後述する基材2の厚さt、樹脂層(B)の厚さtおよび樹脂層(C)の厚さtについて、(t+t)/t(基材2が樹脂層(C)を有しない場合には、t/t)が大きい場合(例えば、15%以上)であっても、高い復元性が得られやすくなる観点から、熱可塑性エラストマー(B)のビカット軟化点を108℃以下としてもよい。
【0037】
上記のビカット軟化点に関する規定を満たすことができる限り、熱可塑性エラストマー(B)の具体的な種類は限定されない。熱可塑性エラストマー(B)を構成する材料として、オレフィン系エラストマー、スチレン系エラストマー、ウレタン系エラストマー、エステル系エラストマーなどが例示される。さらに具体的に例示すれば、高密度ポリエチレン(HDPE)、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリブチレンテレフタラートなどが挙げられる。基材2の製造のしやすさの観点、樹脂層(A)と樹脂層(B)との間で剥離が生じる可能性を低減させる観点から、熱可塑性エラストマー(A)と熱可塑性エラストマー(B)とは同種のエラストマーであることが好ましい。また、環境負荷が低い観点及び基材全体の柔軟性を維持し、エキスパンド適性やチップのピックアップ性能を所定のレベルに保つことが容易である観点から、熱可塑性エラストマー(B)はオレフィン系エラストマーであることが好ましい。
【0038】
熱可塑性エラストマー(B)は1種類の重合体から構成されていてもよいし、複数種類の重合体の混合物であってもよい。
【0039】
樹脂層(B)における熱可塑性エラストマー(B)の含有量は、樹脂層(B)が熱可塑性エラストマー(B)を含有することにより基材2の融着が生じにくくなることが実現されている限り、限定されない。
【0040】
樹脂層(B)は、熱可塑性エラストマー(B)以外に、顔料、難燃剤、可塑剤、帯電防止剤、滑剤、フィラー等の各種添加剤を含有していてもよい。顔料としては、例えば、二酸化チタン、カーボンブラック等が挙げられる。また、フィラーとして、メラミン樹脂のような有機系材料、ヒュームドシリカのような無機系材料およびニッケル粒子のような金属系材料が例示される。こうした添加剤の含有量は特に限定されないが、樹脂層(B)により基材2の融着が生じにくくなることが達成され、所望の平滑性や柔軟性を失わない範囲に留めるべきである。
【0041】
(1−3)樹脂層(C)
本発明の一実施形態に係る基材2は、図2に示されるように、樹脂層(A)における樹脂層(B)に対向する面と反対側の面に樹脂層(C)を有していることが好ましい。
【0042】
樹脂層(C)は、樹脂層(B)と同様に、ビカット軟化点が91℃以上220℃以下の熱可塑性エラストマーを含有する。ビカット軟化点が91℃以上220℃以下の熱可塑性エラストマーを樹脂層(C)(以下「熱可塑性エラストマー(C)」ともいう。)が含有することにより、基材2の製造の段階や、半導体ウエハ加工用シート1を使用する際に、基材2または半導体ウエハ加工用シート1にカールなどの問題が生じにくくなる。半導体ウエハ加工用シート1にカールが生じると、シートの貼付性やウエハ支持性に支障をきたすおそれがある。半導体ウエハ加工用シート1の基材2または半導体ウエハ加工用シート1におけるカールの発生をより安定的に抑制する観点から、熱可塑性エラストマー(B)のビカット軟化点と熱可塑性エラストマー(C)のビカット軟化点の差は、4℃以下であることが好ましく、2℃以下であることがさらに好ましい。樹脂層(C)は、樹脂層(B)と同種の材料から構成されていることが好ましく、同一材料から構成されていることがさらに好ましい。後述する基材2の厚さt、樹脂層(B)の厚さtおよび樹脂層(C)の厚さtについて、(t+t)/tが大きい場合(例えば、15%以上)であっても、高い復元性が得られやすくなる観点から、熱可塑性エラストマー(C)のビカット軟化点を108℃以下としてもよい。
【0043】
(1−4)厚さ、表面粗さ
基材2の厚さt(単位:μm)は150μm以下である。一般に、半導体加工用シートの基材が厚い場合には、基材を収縮させるために要する熱量が多くなる。このため、基材が過度に厚い場合には基材が適切な復元性を有することが困難となることがある。本発明の一実施形態に係る半導体加工用シート1の基材2はその厚さが150μm以下であることから、基材2を過度に加熱することなく基材2を収縮させることが可能である。この基材2の加熱による収縮性を高める観点から、基材2の厚さt(単位:μm)は、140μm以下であることが好ましく、130μm以下であることがより好ましく、120μm以下であることが特に好ましい。
【0044】
基材2の厚さtの下限は、基材2を備える半導体加工用シートに求められる特性に応じて適宜設定される。基材2の厚さtは、通常、10μm以上であり、20μm以上であることが好ましく、30μm以上であることがより好ましく、50μm以上であることが特に好ましい。
【0045】
本発明の一実施形態に係る基材2は、基材2の厚さtおよび樹脂層(A)の厚さtが下記式(1)を満たす。
/t≧78% (1)
【0046】
基材2が厚さに関し上記式(1)を満たすことによって、基材2が復元性を有することが可能となる。基材2が優れた復元性を有することを可能とする観点から、基材2の厚さtおよび樹脂層(A)の厚さtは、下記式(2)を満たすことが好ましく、下記式(3)を満たすことがより好ましい。
/t≧80% (2)
/t≧83% (3)
/tの上限としては、97%以下であることが好ましく、95%以下であることがさらに好ましい。また、基材2の性能を安定的に得る観点から、t/tを85%未満としてもよい。
【0047】
樹脂層(B)の厚さtは限定されない。基材2が復元性を有すること、および基材2の融着が生じにくくなることを容易にする観点から、樹脂層(B)の厚さtは、3μm以上15μm以下であることが好ましく、5μm以上12μm以下であることがさらに好ましい。
【0048】
樹脂層(C)の厚さtは限定されない。基材2にカールが生じにくくなることを容易にする観点から、樹脂層(C)の厚さtは、樹脂層(B)の厚さtと同様に、3μm以上15μm以下であることが好ましい。
【0049】
本発明の一実施形態に係る基材2は、基材2の厚さt、樹脂層(B)の厚さtおよび樹脂層(C)の厚さtが下記式(4)を満たすことが好ましい。
3%<(t+t)/t<22% (4)
また、基材2の性能を安定的に得る観点から、(t+t)/tを15%以上としてもよい。なお、基材2が樹脂層(C)を有しない場合は、t/tについて、同様のことが言える。
【0050】
本発明の一実施形態に係る半導体ウエハ加工用シート1の基材2は、粘着剤層3に対向する側の面(本明細書において「粘着剤加工面」ともいう。)と反対側の面(本明細書において「基材背面」ともいう。)について、JIS B0601:2013(ISO 4287:1997)に規定される算術平均粗さRa(以下、ことわりのない「算術平均粗さRa」はこの意味で用いる。)が1.0μm以下であることが好ましい。基材背面の算術平均粗さRaが1.0μm以下であることにより、半導体ウエハ加工用シート1の基材背面側からレーザーが入射したときに、半導体ウエハ加工用シート1が貼付された半導体ウエハに、入射したレーザー光が効率的に到達しやすい。上記の入射レーザー光の効率的到達を高める観点から、基材背面の算術平均粗さRaは、0.5μm以下であることがより好ましく、0.3μm以下であることがさらに好ましい。基材背面の算術平均粗さRaがこのように低い範囲にあると、基材の作業用テーブルへの融着が生じやすくなることがあるが、本発明の一実施形態に係る半導体加工用シート1は、樹脂層(B)が、所定の範囲のビカット軟化点を有する熱可塑性エラストマーを含有しており、基材の融着を抑制することができる。粘着剤加工面の算術平均粗さRaは、基材背面の算術平均粗さRaほどにはレーザー光の効率的到達に影響しないが、3.0μm以下程度であることが好ましい。入射したレーザー光を効率的に到達させる観点からは、粘着剤加工面および基材背面の双方について、算術平均粗さRaの下限は限定されない。製造安定性を維持する観点などから、これらの面の算術平均粗さRaは0.01μm以上とすることが好ましい。
【0051】
(1−5)基材のその他の構成
基材2を構成する上記の樹脂層(A)および樹脂層(B)さらに必要に応じて設けられる樹脂層(C)(以下、これらの層を総称する際には、「樹脂層(A)等」という。)の各層の層間には樹脂層(A)等以外の層が別途設けられていてもよく、基材2における最外層は樹脂層(A)等以外の層から構成されていてもよい。たとえば、樹脂層(A)と樹脂層(B)との間に類似の材質の層を配置することで各層間の密着性を向上させたり、基材2の生産性を向上させたりすることが可能となる。また、基材2に帯電防止性を付与することを目的として帯電防止性を有する層を設けたり、基材2と粘着剤層3との密着性を向上させるために粘着剤層3との隣接面に密着性のよい層を設けたりすることができる。このように、樹脂層(A)等の層以外の層を基材2が備える際には、樹脂層(A)等に基づく機能が阻害されないように、当該層は樹脂層(A)等を構成する材料から構成されていることが好ましい場合もある。基材2には表面処理が施されていてもよい。基材2に表面処理が施されていることにより、粘着剤層3に対する密着性の向上などの効果が得られる場合がある。表面処理の種類は目的に応じて適宜設定される。表面処理の具体例として、コロナ処理、プラズマ処理、プライマー処理などが挙げられる。
【0052】
(1−6)基材の製造方法
基材2の製造方法は特に限定されない。Tダイ法、丸ダイ法、インフレーション法等の溶融押出法;カレンダー法;乾式法、湿式法等の溶液法などが例示され、いずれの方法でもよい。生産性高く基材2を製造する観点から、溶融押出法またはカレンダー法を採用することが好ましい。これらのうち、溶融押出法により製造する場合には、樹脂層(A)を形成するための樹脂組成物および樹脂層(B)を形成するための樹脂組成物、さらには必要に応じ樹脂層(C)を形成するための樹脂組成物を用いて、共押出成形により、積層構造を有する基材を製造すればよい。得られた基材2に対して、必要に応じ、前述のコロナ処理などの表面処理が施されてもよい。
【0053】
(2)半導体ウエハ加工用シートにおけるその他の構成要素
半導体ウエハ加工用シート1における基材2以外の構成要素として、基材2の一方の面上に配置された粘着剤層3、およびこの粘着剤層3の基材2に対向する側と反対側の面、つまりワークまたは改質ワークに貼付されるための面を保護するための剥離シートが例示される。
【0054】
(2−1)粘着剤層3
粘着剤層3を構成する粘着剤としては、特に限定されない。例えば、ゴム系、アクリル系、シリコーン系、ポリビニルエーテル系等の粘着剤が用いられ、また、エネルギー線硬化型(紫外線硬化型を含む)や加熱発泡型や加熱硬化型の粘着剤であってもよい。このような粘着剤としては、例えば、特開2011−139042号公報に記載されているものを用い得る。また、本発明の一実施形態に係る半導体加工用シート1がダイシング・ダイボンディングシートとして使用される場合には、ウエハ固定機能とダイ接着機能とを同時に兼ね備えた粘接着剤、熱可塑性接着剤、Bステージ接着剤等が用いられる。
【0055】
粘着剤層3の厚さは、通常は3μmから60μm、好ましくは5μmから50μm程度である。このような厚さとすることで、基材2の温度が上昇するために必要な熱量を少なく抑えることが容易となる。
【0056】
(2−2)剥離シート
粘着剤層3を保護するための剥離シートは任意である。
剥離シートとして、例えば、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリブテンフィルム、ポリブタジエンフィルム、ポリメチルペンテンフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、塩化ビニル共重合体フィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリブチレンテレフタレートフィルム、ポリウレタンフィルム、エチレン酢酸ビニルフィルム、アイオノマー樹脂フィルム、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体フィルム、エチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体フィルム、ポリスチレンフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリイミドフィルム、フッ素樹脂フィルム等を用いることができる。また、これらの架橋フィルムを用いてもよい。さらに、これらのフィルムの複数が積層された積層フィルムであってもよい。
【0057】
上記剥離シートの剥離面(特に粘着剤層3と接する面)には、剥離処理が施されていることが好ましい。剥離処理に使用される剥離剤としては、例えば、アルキッド系、シリコーン系、フッ素系、不飽和ポリエステル系、ポリオレフィン系、ワックス系の剥離剤が挙げられる。
【0058】
なお、剥離シートの厚さについては特に限定されず、通常、20μmから150μm程度である。
【0059】
(3)ヘイズ
本発明の一実施形態に係る半導体ウエハ加工用シート1は、JIS K7136:2000(ISO 14782:1999)に規定されるヘイズが、粘着剤層よりも基材に近位な面を入射面としたときに、0.01%以上15%以下であることが好ましい。当該ヘイズが15%以下であることにより、半導体ウエハ加工用シート1にレーザー光が入射された場合に、その入射されたレーザー光の有効活用が可能となる。半導体ウエハ加工用シート1に入射されたレーザー光を有効に活用することをより安定的に実現する観点から、上記のヘイズは、10%以下であることがより好ましい。半導体ウエハ加工用シート1に入射されたレーザー光の有効活用の観点からは、上記のヘイズの下限は設定されない。製造安定性を高める観点などから、上記のヘイズは0.01%以上程度とすることが好ましい。
【0060】
2.半導体ウエハ加工用シートの製造方法
上記の基材2および粘着剤層3を備える半導体ウエハ加工用シート1の製造方法は特に限定されない。
【0061】
半導体ウエハ加工用シート1の製造方法についていくつかの例を挙げれば、次のようになる。
【0062】
(i)剥離シート上に粘着剤層3を形成し、その粘着剤層3上に基材2を圧着して積層する。このとき、粘着剤層3の形成方法は任意である。
【0063】
粘着剤層3の形成方法の一例を挙げれば次のようになる。粘着剤層3を形成するための粘着剤組成物と、所望によりさらに溶媒とを含有する塗布剤を調製する。ロールコーター、ナイフコーター、ロールナイフコーター、エアナイフコーター、ダイコーター、バーコーター、グラビアコーター、カーテンコーター等の塗工機によって、基材2の面のうち、樹脂層(B)よりも樹脂層(A)に近位な方の主面に塗布する。基材2上の塗布剤からなる層を乾燥させることにより、粘着剤層3が形成される。
【0064】
(ii)基材2を形成し、その上に粘着剤層3を形成し、必要に応じさらに剥離シートを積層する。このときの粘着剤層3の形成方法は上記のとおり任意である。
【0065】
上記(i)、(ii)の方法以外の例として、別途シート状に形成した粘着剤層3を基材2に貼付してもよい。
【0066】
3.半導体装置の製造方法
本発明の一実施形態に係る半導体ウエハ加工用シート1を用いる半導体装置の製造方法の一例について、以下説明する。
【0067】
(1)マウント工程
まず、本発明の一実施形態に係る半導体ウエハ加工用シート1の粘着剤層3側の面を、半導体ウエハの一の面に貼付するマウント工程を行う。本発明の一実施形態に係る半導体ウエハ加工用シート1を用いる半導体装置の製造方法は、フリップチップ用、TSV用などの表面に電極を有する半導体ウエハから、半導体装置を製造する場合に適している。マウント工程の実施は、いわゆる貼付装置を使用すればよい。マウント工程の際に、半導体ウエハ加工用シート1の粘着剤層3側の面における、半導体ウエハが貼着している領域の外周側の領域には、リングフレームが貼付される。平面視で、リングフレームと半導体ウエハとの間には粘着剤層3が露出した領域が、周縁領域として存在する。
【0068】
(2)熱ラミネート工程
熱ラミネート工程では、まず、半導体ウエハ加工用シート1における樹脂層(B)からなる面が接触面になるように半導体ウエハ加工用シート1をテーブル上に載置する。次に、半導体ウエハ加工用シート1の粘着剤層3の面が貼付された半導体ウエハにおける、半導体ウエハ加工用シート1に対向する面と反対側の面に、感熱性を有するフィルム状の接着剤を加熱積層(熱ラミネート)する。半導体ウエハが表面に電極を有する場合、通常、半導体ウエハにおける、半導体ウエハ加工用シート1に対向する面と反対側の面には、電極が存在する。
【0069】
フィルム状の接着剤は、適切な感熱接着性を有している限り、その具体的な種類は限定されない。ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂といった耐熱性の樹脂材料と、硬化促進剤とを含有する接着剤組成物から形成されたフィルム状部材が具体例として挙げられる。
【0070】
半導体ウエハに対してフィルム状の接着剤を積層する条件は限定されない。フィルム状の接着剤を構成する材料、フィルム状の接着剤の厚さ、半導体ウエハ加工用シート1の耐熱性の程度などを勘案して適宜設定される。フィルム状の接着剤は、異方導電性のものでも、非導電性のNCFであってもよい。半導体ウエハにおける、半導体ウエハ加工用シート1に対向する面と反対側の面に電極が存在する場合、熱ラミネートによってフィルム状の接着剤が電極の形状に追従して変形し、フィルム状の接着剤の半導体ウエハに対向する面と反対側の面の平滑性が保たれる傾向にある。フィルム状の接着剤の電極の形状に追従した変形を増進させるために、フィルム状の接着剤の貼付は減圧下で行われることもある。通常、この加熱積層によって、半導体ウエハ加工用シート1には、当該シートを60℃程度から100℃程度の範囲の温度とする加熱が、数十秒間から数分間行われる。半導体ウエハ加工用シートの基材はこのような加熱を受けることにより軟質化する。半導体ウエハ加工用シートの基材が復元性を有する場合にはこの傾向が顕著となる。
【0071】
しかしながら、本発明の一実施形態に係る半導体ウエハ加工用シート1の基材2は、前述のように、基材2が積層構造を有する。このため、基材2を構成する層のうち、ビカット軟化点が比較的高い熱可塑性エラストマー(B)を含有する樹脂層(B)がテーブルに接することになる。樹脂層(B)は加熱されてもテーブルに融着しにくいため、本発明の一実施形態に係る半導体ウエハ加工用シート1は、熱ラミネート工程において基材2の融着が生じにくい。
【0072】
(3)エキスパンド工程
エキスパンド工程では、半導体ウエハ加工用シート1を伸長することにより、フィルム状の接着剤が積層された半導体ウエハを分割する。その結果、半導体ウエハ加工用シート1の粘着剤層3上には、半導体ウエハが分割してなるチップが貼着した状態となる。エキスパンド工程における具体的な条件は限定されない。例えば、半導体ウエハ加工用シート1を伸長する際の温度は、常温であってもよいし、低温(具体例として0℃程度が挙げられる。)であってもよい。このエキスパンド工程により、通常、半導体ウエハ加工用シート1の周縁領域(平面視でリングフレームと一群のチップとの間の領域)には弛みが生じる。
【0073】
(4)改質層形成工程
上記のエキスパンド工程が開始されるまでに、半導体ウエハの内部に設定された焦点に集束されるように赤外域のレーザー光を照射して、半導体ウエハ内部に改質層を形成する改質層形成工程が行われる。半導体ウエハに対して改質層形成工程が行われてからマウント工程が行われてもよいし、マウント工程を経て半導体加工用シート1上に積層された状態にある半導体ウエハに対して改質層形成工程が行われてもよい。あるいは、熱ラミネート工程を経て、一方の面上にフィルム状の接着剤が積層された半導体ウエハに対して改質層形成工程が行われてもよい。熱ラミネート工程後に改質層形成工程が実施される場合には、赤外域のレーザー光は、半導体加工用シート1越しに半導体ウエハに照射される。
【0074】
(5)シュリンク工程
シュリンク工程では、半導体加工用シート1の周縁領域を加熱する。ここで、周縁領域は、上記のエキスパンド工程により得られた、フィルム状の接着剤が積層された半導体ウエハの分割体からなるチップが貼着している半導体ウエハ加工用シート1における、チップが貼付された領域よりも外周側に位置する領域と定義されうる。半導体加工用シート1の周辺領域を加熱することにより、この周縁領域に位置する基材2が収縮し、エキスパンド工程で生じた半導体ウエハ加工用シート1の弛み量を低減させることが可能となる。シュリンク工程における加熱方法は限定されない。熱風を吹き付けてもよいし、赤外線を照射してもよいし、マイクロ波を照射してもよい。
【0075】
(6)ピックアップ工程
こうして、シュリンク工程により半導体ウエハ加工用シートを復元させたら、半導体ウエハ加工用シート1に貼着しているチップを個別に半導体ウエハ加工用シート1から分離させて、チップを半導体装置として得るピックアップ工程を行う。
以上の製造方法を実施することにより、本発明の一実施形態に係る半導体ウエハ加工用シート1を用いて、半導体装置を製造することができる。
【0076】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【0077】
例えば、本発明の一実施形態に係る半導体ウエハ加工用シート1は、ダイシングシート以外にも、次のような用途に用いることができる。別の粘着シート上において、研削前の半導体ウエハに上述した改質層形成工程と同じ工程を行い、その後、半導体ウエハを研削すると同時に衝撃を与え、半導体ウエハをチップに分割する。得られた複数のチップを、本発明の一実施形態に係る半導体ウエハ加工用シート1に移し替え、次いで、上述したエキスパンド工程、シュリンク工程、ピックアップ工程を行う。
【0078】
また、上述した半導体装置の製造方法では、加熱を伴う工程として熱ラミネート工程を挙げたが、本発明の一実施形態に係る半導体ウエハ加工用シート1は、例えば、加熱検査を行う工程を含む半導体装置の製造方法に用いてもよい。
【実施例】
【0079】
以下、実施例等により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例等に限定されるものではない。
【0080】
〔実施例1〕
(1)基材の製造
熱可塑性エラストマーの一種であるエチレン−酢酸ビニル共重合体(東ソー社製「ウルトラセン540」、ビカット軟化点72℃、23℃での引張弾性率:80MPa、以下、「熱可塑性エラストマー(A1)」という。)を、樹脂層(A)を形成するための材料として用意した。
【0081】
熱可塑性エラストマーの一種であるポリプロピレン(住友化学社製「エクセレンEP3711E1」、ビカット軟化点114℃、23℃での引張弾性率:400MPa、以下、「熱可塑性エラストマー(B1)」という)を、樹脂層(B)を形成するための材料として用意した。
【0082】
樹脂層(A)を形成するための材料と、樹脂層(B)を形成するための材料とを、小型Tダイ押出機(東洋精機製作所社製「ラボプラストミル」)によって共押出成形し、樹脂層(A)および樹脂層(B)の2層構造を有し、表1に示される総厚および層厚比を有する基材を得た。本例で基材背面に該当する、樹脂層(B)の露出した表面の算術平均粗さRaは、0.09μmであった。
【0083】
(2)粘着剤組成物の調製
ブチルアクリレート/メチルメタクリレート/2−ヒドロキシエチルアクリレート=62/10/28(質量比)を反応させて得られたアクリル粘着性重合体と、該アクリル粘着性重合体100g当たり30gのメタクリロイルオキシエチルイソシアネート(MOI)(2−ヒドロキシエチルアクリレートに対して0.8当量に相当する。)とを反応させて、エネルギー線硬化型粘着性重合体を得た。得られたエネルギー線硬化型粘着性重合体100質量部、光重合開始剤としてイルガキュア184(BASF社製)3質量部、および架橋剤としてコロネートL(日本ポリウレタン工業社製)4.3質量部を溶媒中で混合し、粘着剤組成物を得た。
【0084】
(3)半導体加工用シートの製造
剥離フィルム(リンテック社製「SP−PET3811」)の剥離上に、上記の粘着剤組成物を塗布し、次いで、加熱による粘着剤組成物の乾燥を行い、粘着剤組成物の塗膜と剥離フィルムとの積層体を得た。後に粘着剤層となるこの塗膜の厚さは20μmであった。この積層体における塗膜側の面と、上記の基材の樹脂層(A)側の面とを貼合することで、半導体ウエハ加工シートを得た。
【0085】
〔実施例2〕
熱可塑性エラストマーの一種であるエチレン−メタクリル酸共重合体(三井・デュポン社製「ニュクレルN0903HC」、ビカット軟化点82℃、23℃での引張弾性率:140MPa、以下、「熱可塑性エラストマー(A2)」という。)を、樹脂層(A)を形成するための材料として用いたこと以外は、実施例1と同様にして、半導体ウエハ加工シートを得た。
【0086】
〔実施例3〕
熱可塑性エラストマー(B1)からなる樹脂層(B)を形成するための材料、熱可塑性エラストマー(A1)からなる樹脂層(A)を形成するための材料、および熱可塑性エラストマー(B1)からなる樹脂層(B)を形成するための材料を、小型Tダイ押出機(東洋精機製作所社製「ラボプラストミル」)によって共押出成形し、樹脂層(B)、樹脂層(A)および樹脂層(B)の3層構造を有し、表1に示される総厚および層厚比を有する基材を得た。本例で基材背面に該当する、樹脂層(B)の露出した一方の面の算術平均粗さRaは、0.09μmであった。なお、本例は基材2が樹脂層(C)を有し、樹脂層(C)の材料及び厚さが樹脂層(B)と同一である場合に該当し、以下、実施例4〜6、比較例3についても同様である。
【0087】
剥離フィルム(リンテック社製「SP−PET3811」)の剥離上に、実施例1において製造した粘着剤組成物を塗布し、次いで、加熱による粘着剤組成物の乾燥を行い、粘着剤組成物の塗膜と剥離フィルムとの積層体を得た。後に粘着剤層となるこの塗膜の厚さは20μmであった。この積層体における塗膜側の面と、上記の基材における算術平均粗さRaを測定した面とは反対側の面(樹脂層(B)からなる面であった。)とを貼合することで、半導体ウエハ加工シートを得た。
【0088】
〔実施例4〕
樹脂層(B)を形成するための材料を、熱可塑性エラストマーの一種である高密度ポリエチレン(日本ポリエチレン社製「ノバテックHD HJ360」、ビカット軟化点122℃、23℃での引張弾性率:800MPa、以下、「熱可塑性エラストマー(B2)」という。)に変更するとともに、総厚を80μmに変更したこと以外は、実施例3と同様にして、半導体ウエハ加工シートを得た。
【0089】
〔実施例5〕
樹脂層(B)、樹脂層(A)および樹脂層(B)の3層構造における層厚比を表1に示されるように変更したこと以外は、実施例3と同様にして、半導体ウエハ加工シートを得た。
【0090】
〔実施例6〕
樹脂層(B)を形成するための材料を、熱可塑性エラストマーの一種である低密度ポリエチレン(日本ポリエチレン社製「ノバテックLD LC525」ビカット軟化点96℃、23℃での引張弾性率:150MPa、以下、「熱可塑性エラストマー(B3)」という。)に変更したこと以外は、実施例5と同様にして、半導体ウエハ加工シートを得た。
【0091】
〔比較例1〕
熱可塑性エラストマー(A1)からなる樹脂層(A)を形成するための材料を用い、基材を樹脂層(A)単独からなるものとしたこと以外は、実施例1と同様にして、半導体ウエハ加工シートを得た。
【0092】
〔比較例2〕
熱可塑性エラストマー(B1)からなる樹脂層(B)を形成するための材料を用い、基材を樹脂層(B)単独からなるものとしたこと以外は、実施例1と同様にして、半導体ウエハ加工シートを得た。
【0093】
〔比較例3〕
樹脂層(B)、樹脂層(A)および樹脂層(B)の3層構造における層厚比を表1に示されるように変更したこと以外は、実施例3と同様にして、半導体ウエハ加工シートを得た。
【0094】
〔比較例4〕
基材の総厚および樹脂層(A)および樹脂層(B)の2層構造における層厚比を表1に示されるように変更したこと以外は、実施例1と同様にして、半導体ウエハ加工シートを得た。
【0095】
〔試験例1〕<熱ラミネート耐性の評価>
貼付装置(リンテック社製「RAD−2700 F/12」)を用いて、8インチサイズで厚さが50μmのシリコンウエハおよびリングフレームに、実施例および比較例で得られた半導体ウエハ加工シートを貼付した。
【0096】
真空ラミネータ(リンテック社製「RAD3810」)を用いて、加熱温度90℃、気圧0.1MPa、貼付時間90秒間の条件で、フィルム状の接着剤を用いずに、貼付動作を行った。貼付後に半導体ウエハ加工シートをテーブルから剥離して、半導体ウエハ加工シートを搬送が可能であったか否かを目視にて確認した。次の基準により熱ラミネート耐性の評価を行った。
「A」:基材とテーブル間が融着することなく、テーブルから搬送することが可能であった(非常に良好)
「B」:半導体ウエハ加工シートの基材とテーブルの間に軽度の融着があり、搬送する際にテープがテーブルに引っ張られたが、テーブルから引きはがし搬送することが可能であった(良好)
「C」:半導体ウエハ加工シートの基材がテーブルに融着し、搬送できず装置エラー発生(不良)
【0097】
〔試験例2〕<復元性の評価>
実施例および比較例で得られた半導体ウエハ加工シートを、試験例1と同様にして、8インチサイズで厚さが50μmのシリコンウエハおよびリングフレームに貼付した。半導体ウエハ加工シート上のシリコンウエハに、レーザー照射装置(DISCO社製「DFL7360」、レーザー波長:1064nm)を用いて、シリコンウエハ内部で集光するレーザーを、8mm×8mmのチップが形成されるように設定された切断予定ラインに沿って走査させながら照射しシリコンウエハ内部に改質層を形成した。レーザー照射は、半導体ウエハの半導体ウエハ加工シートが貼付されていない面側から行った。
ダイセパレータ(ディスコ社製「DDS2300」)を用いて、引き上げ速度1mm/s、引き上げ量12mmにて、改質層が形成された半導体ウエハ加工シートを面内方向に伸長させて、半導体ウエハ加工シート上のシリコンウエハを分割した。エキスパンド解放後、ドライヤー出力温度220℃、回転速度5mm/°にて熱風により半導体ウエハ加工シートの周辺領域を粘着剤層側から加温し、エキスパンド解放後に生じた弛みが熱収縮によって解消したか否かを目視にて確認した。次の基準により復元性の評価を行った。
「A」:弛みが解消された(非常に良好)
「B」:弛みは完全には解消されなかったが、搬送工程、収納時に装置や器具と接触することはなく、これらの工程の実施が可能であった(良好)
「C」:弛みは解消されず、搬送工程又は収納が不可能であった(不良)
【0098】
【表1】
【0099】
表1から分かるように、本発明の条件を満たす実施例の半導体ウエハ加工用シートは、熱ラミネート耐性および復元性のいずれの評価についても良好であった。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明に係る半導体ウエハ加工用シートは、フィルム状の接着剤が積層される半導体ウエハのダイシングシートなど、使用の際に加熱を含む工程が行われる半導体ウエハ加工用シートとして好適に用いられる。
【符号の説明】
【0101】
1…半導体ウエハ加工用シート
2…基材(半導体ウエハ加工用シート用基材)
(A)…樹脂層(A)
(B)…樹脂層(B)
(C)…樹脂層(C)
3…粘着剤層
図1
図2