特許第6703562号(P6703562)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6703562バガスからのポリフェノール組成物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6703562
(24)【登録日】2020年5月12日
(45)【発行日】2020年6月3日
(54)【発明の名称】バガスからのポリフェノール組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07G 1/00 20110101AFI20200525BHJP
【FI】
   C07G1/00
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2018-102472(P2018-102472)
(22)【出願日】2018年5月29日
(65)【公開番号】特開2019-206489(P2019-206489A)
(43)【公開日】2019年12月5日
【審査請求日】2019年11月8日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】501190941
【氏名又は名称】三井製糖株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100176773
【弁理士】
【氏名又は名称】坂西 俊明
(72)【発明者】
【氏名】古田 到真
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 傑
(72)【発明者】
【氏名】中島 寿典
(72)【発明者】
【氏名】栗原 宏征
(72)【発明者】
【氏名】舩田 茂行
(72)【発明者】
【氏名】山田 勝成
【審査官】 市島 洋介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2018−035073(JP,A)
【文献】 特開2009−050196(JP,A)
【文献】 特開2003−180286(JP,A)
【文献】 南方資源利用技術研究会誌,2010年,Vol.26, No.1,pp.23-27
【文献】 “三菱ケミカルのイオン交換樹脂・分離精製用樹脂”, [online], 2018.1.1公開, 三菱ケミカル, [2019.12.17検索], インターネット<URL: https://web.archive.org/web/20180101204756/https://www.diaion.com/products/synthesis_0201.htm>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07G 1/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バガスからのポリフェノール組成物の製造方法であって、
水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、及びアンモニア水溶液からなる群より選ばれる少なくとも1種のアルカリ溶液を用いてバガスを前処理し、前処理液を得る工程と、
前記前処理液のpHを塩酸で4.5以下に調整してからろ過し、ろ液を回収する工程と、
前記ろ液を、比表面積が700m/g以上である、高比表面積化の特殊処理を施した無置換基型の芳香族系樹脂からなる芳香族系合成吸着剤が充填されたカラムに通液し、前記芳香族系合成吸着剤に吸着した成分をエタノール及び水の混合溶媒で溶出して溶出画分をポリフェノール組成物として得る工程と、を備える、製造方法。
【請求項2】
前記アルカリ溶液の温度は60〜100℃である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記アルカリ溶液は水酸化ナトリウム水溶液である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記水酸化ナトリウム水溶液の濃度は、0.1〜1.0質量%である、請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記芳香族系合成吸着剤はスチレン−ジビニルベンゼン系樹脂からなる、請求項1〜4のいずれか一項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バガスからのポリフェノール組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境負荷軽減の観点から、バイオマスの活用が検討されている。その一例として、植物材料からポリフェノール組成物を得る方法がある。特許文献1には、植物材料、特に廃トウモロコシをアルカリ性煮出および/または酵素的処理にかけ、フェルラ酸および多糖類を含む水性液相を回収し、その後フェルラ酸を回収する方法が記載されている。
【0003】
非特許文献1〜3には、バガス等をアルカリ溶液で処理することによって、ポリフェノール類を得る方法が記載されている。非特許文献1には、サトウキビ外皮にアルカリ処理を行うと、多糖類とのエステル結合が加水分解を受け、フェルラ酸又はp−クマル酸が遊離することが開示されている。非特許文献2及び非特許文献3には、クマル酸及びフェルラ酸抽出のためのアルカリ処理として、バガスを水酸化ナトリウム水溶液で処理することにより、クマル酸が遊離することが開示されている。
【0004】
一方、バイオマスの活用に関する他の例として、主生産物として絶対量が多く回収率も高いことから、植物材料から糖を回収することも行われており、植物材料の加水分解方法が広く検討されている。例えば、特許文献2及び特許文献3には、バガス等のセルロース含有バイオマスについて糸状菌由来セルラーゼによる加水分解を行う工程を含む、糖液の製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2016−520093号公報
【特許文献2】国際公開第2015/025927号
【特許文献3】国際公開第2015/099109号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】南方資源利用技術研究会誌,Vol.26 No.1,pp23〜27,2010
【非特許文献2】化学工学論文集,第42巻,第3号,pp131−135,2016
【非特許文献3】Innovative Food Science and Emerging Technologies, 10, 253−259, 2009
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
植物材料から糖を得るためには、植物材料の細胞壁を、セルロース、マトリックス多糖類(ヘミセルロース及びβ-グルカン)、及びリグニンの各構造に分離する必要がある。細胞壁をある程度分離した後で、セルロース及びマトリックス多糖類を加水分解(酵素処理)することで、糖を得ることができる。
【0008】
特許文献2及び3に記載されている糖液の製造工程では、バガスを加水分解する前に、アルカリ溶液による前処理が行われる。前処理により得られる固形分にはセルロース及びヘミセルロースが含まれるため、これらを加水分解する糖化工程により糖液を得ることができる。しかし、前処理後の液分(前処理液)は糖液を得る上では不要であるために、これまで廃棄されていた。
【0009】
本発明は、バガスからポリフェノール組成物を製造するための新規な方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、糖液の製造工程で発生する前処理液にクマル酸、フェルラ酸等のポリフェノール類が含まれていることを見出し、更に、この前処理液を所定の方法で処理することにより、前処理液中のポリフェノール組成物を極めて効率的に製造できることを見出した。
【0011】
すなわち本発明は、バガスからのポリフェノール組成物の製造方法であって、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、及びアンモニア水溶液からなる群より選ばれる少なくとも1種のアルカリ溶液を用いてバガスを前処理し、前処理液を得る工程と、前処理液のpHを塩酸で酸性に調整してからろ過し、ろ液を回収する工程と、ろ液を、芳香族系合成吸着剤が充填されたカラムに通液し、芳香族系合成吸着剤に吸着した成分をエタノール及び水の混合溶媒で溶出して溶出画分をポリフェノール組成物として得る工程と、を備える、製造方法を提供する。
【0012】
アルカリ溶液の温度は、好ましくは60〜100℃である。
【0013】
アルカリ溶液は、好ましくは水酸化ナトリウム水溶液である。水酸化ナトリウム水溶液の濃度は、0.1〜1.0質量%であってよい。
【0014】
溶出工程における芳香族系合成吸着剤は、好ましくはスチレン−ジビニルベンゼン系合成吸着剤である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、バガスからポリフェノール組成物を製造するための新規な方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施例1に係るポリフェノール組成物のHPLCによる分析によって得られたチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0018】
本発明において製造されるポリフェノール組成物は、1種以上のポリフェノールを含む組成物である。本明細書におけるポリフェノールは、フォーリン−チオカルト法で測定できるフェノール性化合物である。ポリフェノールは、より具体的には、p−クマル酸又はフェルラ酸のようなフェニルプロパノイド、カテキン又はアントシアニンのようなフラボノイド等であってよい。
【0019】
本発明の一実施形態に係る製造方法では、まず、アルカリ溶液を用いてバガスを前処理し、前処理液を得る(前処理工程)。
【0020】
本明細書において、バガスとは甘蔗の搾りかすであり、典型的には製糖工場における製糖過程で排出されるバガスをいう。なお、製糖工場における製糖過程で排出されるバガスには、最終圧搾機を出た最終バガスだけではなく、第1圧搾機を含む以降の圧搾機に食い込まれた細裂甘蔗も含まれる。好ましくは、製糖工場において圧搾工程により糖汁を圧搾した後に排出されるバガスを用いる。圧搾工程より排出されるバガスは、甘蔗の種類、収穫時期等により、その含まれる水分、糖分、及びその組成比が異なるが、これらのバガスを任意に用いることができる。バガスは、黒糖工場において排出される甘蔗圧搾後に残るバガスであってもよい。また、実験室レベルの小規模な実施では、甘蔗から糖液を圧搾した後のバガスを用いてもよい。
【0021】
アルカリ溶液を用いた前処理は、一実施形態において、アルカリ溶液をバガスに接触させる処理であってよい。アルカリ溶液を接触させる方法としては、例えば、アルカリ溶液をバガスに振りかける方法、バガスをアルカリ溶液に浸漬させる方法等が挙げられる。バガスをアルカリ溶液に浸漬させる方法においては、バガス及びアルカリ溶液の混合物を撹拌しながら浸漬させてもよい。
【0022】
アルカリ溶液は、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、及びアンモニア水溶液からなる群より選ばれる少なくとも1種であってよい。アルカリ溶液は、安価であり、食品製造工程で用いられる観点から、好ましくは水酸化ナトリウム水溶液である。
【0023】
アルカリ溶液の濃度は、使用するアルカリ溶液の種類によって適宜設定してよいが、前処理の処理時間を短縮する観点から、好ましくは0.1質量%以上であり、より好ましくは0.2質量%以上であり、更に好ましくは0.3質量%以上である。アルカリ溶液の濃度は、抽出効率を向上させる観点から、好ましくは10質量%以下であり、より好ましくは5質量%以下であり、更に好ましくは1.0質量%以下である。
【0024】
前処理工程時におけるアルカリ溶液は加熱されていることが好ましい。アルカリ溶液の温度(液温)は、前処理の処理時間を短縮する観点から、好ましくは50℃以上であり、より好ましくは60℃以上であり、更に好ましくは80℃以上である。アルカリ溶液の温度は、前処理液に多糖類を残存させないようにする観点から、好ましくは110℃以下であり、より好ましくは105℃以下であり、更に好ましくは100℃以下である。
【0025】
アルカリ溶液の添加量は、バガス100質量部に対して、50質量部以上、100質量部以上、又は1000質量部以上であってよく、また、前処理工程における処理時間は、アルカリ溶液の種類、温度及び添加量によって適宜調整してよいが、例えば、1〜5時間であってよい。
【0026】
前処理液のpHは、8以上、又は9以上であってよく、13以下、又は12以下であってよい。
【0027】
本実施形態に係る前処理工程では、上述したアルカリ処理を行った後、不溶分と液分を分離してもよい。その場合、分離後の液分を前処理液とすることができる。不溶分と液分を分離する方法は、ストレーナー、ろ過、遠心分離、デカンテーション等による分離であってよい。
【0028】
前処理工程の後、得られた前処理液のpHを塩酸で酸性に調整してからろ過し、ろ液を回収する(ろ過工程)。
【0029】
ろ過工程では、まず、前処理液に塩酸を添加して前処理液のpHを酸性に調整する。塩酸の濃度は、pHが調整できれば適宜設定されてよく、例えば0.1〜35質量%であってよい。pHの調整のために塩酸を用いることにより、製造したポリフェノール組成物を食品工業分野において利用することができる。
【0030】
塩酸添加後の前処理液(以下、「酸性前処理液」ともいう。)のpHは、ポリフェノールの凝集沈殿の抑制及び合成吸着剤の吸着を両立させる観点から、好ましくは1.5以上であり、より好ましくは2.0以上であり、更に好ましくは2.5以上であり、また、好ましくは4.5以下であり、より好ましくは4.0以下であり、更に好ましくは3.5以下である。酸性前処理液のpHが1.5以上であると、ポリフェノールが凝集沈殿しにくいため、pH調整後にろ過を実施してもポリフェノールがろ過により除去されにくくなる。一方、酸性前処理液のpHが4.5以下であると、後述する溶出工程において、芳香族系合成吸着剤へポリフェノールを吸着させやすくすることができる。すなわち、酸性前処理液のpHが上記の範囲内であると、ポリフェノールの凝集沈殿を抑制しつつ、芳香族系合成吸着剤への吸着を促進させることができる。
【0031】
酸性前処理液のpHを上記の範囲に調整することにより、酸性前処理液に不溶な成分が析出する。ろ過工程では、析出した不溶性成分をろ過により除去する。ろ過は、自然ろ過、減圧ろ過、加圧ろ過、遠心ろ過等により行われてよく、好ましくは加圧ろ過により行われる。加圧ろ過は、加圧ろ過機(フィルタープレス)により行われてよい。
【0032】
ろ過の際には、酸性前処理液にろ過助剤を添加してもよい。ろ過助剤としては、珪藻土、パーライト、及びセルロース等を挙げることができる。ろ過助剤を添加する場合、ろ過助剤の含有量は、酸性前処理液全量を基準として、0.2〜2.0質量%であってよい。
【0033】
ろ過工程の後、得られたろ液を、芳香族系合成吸着剤が充填されたカラムに通液する。芳香族系合成吸着剤に吸着した成分を、エタノール及び水の混合溶媒で溶出して、溶出画分を得ることにより、ポリフェノール組成物を製造することができる(溶出工程)。
【0034】
芳香族系合成吸着剤は、ろ液に含まれるポリフェノール組成物を効率よく吸着させる観点から、芳香族系樹脂からなる合成吸着剤である。芳香族系樹脂としては、スチレン−ジビニルベンゼン系の芳香族樹脂が好ましい。スチレン−ジビニルベンゼン系の芳香族樹脂としては、例えば、疎水性置換基を有する芳香族系樹脂、無置換基型の芳香族系樹脂、無置換基型に特殊処理を施した芳香族系樹脂等の多孔性樹脂等が挙げられる。スチレン−ジビニルベンゼン系の芳香族系樹脂としては、無置換基型の芳香族系樹脂、又は無置換基型に高比表面積化の特殊処理を施した芳香族系樹脂が好ましく、無置換基型に高比表面積化の特殊処理を施した芳香族系樹脂がより好ましい。
【0035】
芳香族系合成吸着剤の比表面積は、吸着率を向上させる観点から、乾燥質量として、好ましくは500m/g以上であり、より好ましくは700m/g以上である。芳香族系合成吸着剤の比表面積は、ガス吸着法の測定値をBETの式に当てはめることより算出することができる。芳香族系合成吸着剤の最頻度細孔直径(最頻細孔径)は、高分離性及び高吸着性の観点から、好ましくは600Å以下であり、より好ましくは300Å以下であり、更に好ましくは200Å以下である。最頻度細孔直径は、ガス吸着法により測定することができる。
【0036】
このような合成吸着剤は市販されており、例えばダイヤイオン(商標)HP−10、HP−20、HP−21、HP−30、HP−40、HP−50(以上、無置換基型の芳香族系樹脂、いずれも商品名、三菱ケミカル株式会社製);SP−825、SP−800、SP−850、SP−875、SP−70、SP−700(以上、無置換基型に特殊処理を施した芳香族系樹脂、いずれも商品名、三菱ケミカル株式会社製);SP−900(芳香族系樹脂、商品名、三菱ケミカル株式会社製);アンバーライト(商標)XAD−2、XAD−4、XAD−16、XAD−18、XAD−2000(以上、芳香族系樹脂、いずれも商品名、株式会社オルガノ製);ダイヤイオン(商標)SP−205、SP−206、SP−207(以上、疎水性置換基を有する芳香族系樹脂、いずれも商品名、三菱ケミカル株式会社製);HP−2MG、EX−0021(以上、疎水性置換基を有する芳香族系樹脂、いずれも商品名、三菱ケミカル株式会社製)などが挙げられる。その中でも、ダイヤイオン(商標)SP−850が好ましい。これらの合成吸着剤は、1種単独でも、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0037】
カラムに充填する芳香族系合成吸着剤の量は、カラムの大きさ、合成吸着剤の種類等によって適宜決定することができる。
【0038】
ろ液をカラムに通液する際、ろ液の温度は、25〜45℃であってよい。ろ液をカラムに通液する時の通液量及び通液速度は、芳香族系合成吸着剤の種類等によって適宜決定することができる。
【0039】
溶出工程においては、通液終了後、カラムに吸着された成分を、エタノール及び水の混合溶媒により溶出する。混合溶媒の混合体積比(エタノール/水)は、50/50〜99/1であってよく、溶出効率を向上させる観点からは、好ましくは、50/50〜70/30の範囲内である。溶出速度は、カラムの大きさ、芳香族系合成吸着剤の種類等によって適宜決定することができる。なお、カラムに吸着された成分を効率的に溶出させるために、ろ液をカラムに通液する前に、カラム内を水洗することが好ましい。
【0040】
溶出工程において溶出画分を得ることにより、バガス由来のポリフェノール組成物を製造することができる。
【0041】
溶出工程の後、必要に応じて溶出画分(ポリフェノール組成物)を濃縮する工程(濃縮工程)を更に設けてもよい。濃縮工程は、例えば、遠心式薄膜真空蒸発装置を用いて、5〜20倍に濃縮すればよい。これにより、ポリフェノール組成物を含む濃縮液を得ることができる。
【0042】
本実施形態の方法によって製造できるポリフェノール組成物は、主にクマル酸、フェルラ酸を含有してよい。ポリフェノール組成物がポリフェノールを含有することは、フォーリン−チオカルト法による測定によって確認することができる。また、ポリフェノール組成物の組成は、得られたポリフェノール組成物を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により定性定量分析することによって確認することができる。
【0043】
本実施形態の方法によって得られたポリフェノール組成物は、特に、溶出工程において芳香族系合成吸着剤を用い、エタノール及び水の混合溶媒を使用して溶出することによって得られるため、食品素材として好適に利用することができる。
【0044】
本実施形態の方法は、バガスからポリフェノール組成物を製造する従来の方法とは異なる新たな方法であり、特に、バガスから糖液を製造する工程で発生する前処理液(廃液)からポリフェノール組成物を製造することができる点で、有用な方法である。
【0045】
例えば、上述した特許文献1の方法は、フェルラ酸をバニリンの原料とするために、フェルラ酸の純度を高くし、結晶として回収する方法であるが、廃トウモロコシのアルカリ性煮出として、二軸スクリュー押し出し機及びグラインダー−ホモジナイザーを用い、フェルラ酸及び多糖類が混合された状態の処理液を得ている点で、本実施形態の方法とは異なる。
【0046】
また、非特許文献1〜3に記載の方法は、比較的低温のアルカリ溶液で植物材料を長時間処理する方法であるが、これは、マイルドな条件でアルカリ処理を行った方が、マトリックス多糖類にエステル結合しているモノフェノール類が遊離しやすくなり、クマル酸、フェルラ酸の純度が高くなるためである。しかし、これらの方法を糖化工程で発生する廃液に利用しようとすると、処理時間が長時間になってしまい、バガスから糖液を得る糖化工程に要する時間と、廃液の処理に要する時間とのバランスがとれなくなるおそれがある。本実施形態の方法によれば、糖化工程を優先しつつ、糖化工程で生じる廃液から効率よくポリフェノール組成物を製造することができる。
【0047】
さらに、本実施形態の方法によれば、バガスから糖液を製造する工程において、従来は廃棄されていた前処理液を廃棄することなく有効に活用できるため、糖液の製造工程で発生していた前処理液の廃棄コストを削減することもできる。
【0048】
本実施形態の方法によって製造できるポリフェノール組成物は、ポリフェノール組成物に含まれるポリフェノール類を高い収率で単離、精製するための原料としても用いることができる。ポリフェノール組成物からポリフェノール類を単離、精製する方法は公知の方法であってよい。すなわち、本実施形態の方法は、フェルラ酸、p−クマル酸等のポリフェノール類を単離、精製可能な原料を製造する方法ということもできる。ポリフェノール組成物から単離、精製されたポリフェノール類も、上述したポリフェノール組成物と同様に、食品素材として好適に利用することができる。
【実施例】
【0049】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0050】
[試験例1:ポリフェノール組成物の製造試験]
<実施例1>
(前処理工程)
ステンレス製寸胴鍋に、サトウキビの搾りかすであるバガス3.2kg(含水率50質量%)及び90℃の0.5%(w/w)水酸化ナトリウム水溶液20Lを添加し、2時間混合することによって、前処理を行った。前処理後の混合液を不溶分と液分に分離して、液分を約20L得た。これを2回繰り返し、40Lの液分(前処理液)を得た。
【0051】
(ろ過工程)
上記の前処理液全量に対して、35%(w/w)塩酸を475mL添加し、pHを3.0に調整した。これを酸性前処理液とした。酸性前処理液に、ろ過助剤として珪藻土を395g(前処理液全量基準で1%(w/w)になるように)添加し、フィルタープレスでろ過することにより、不溶性成分を除去し、ろ液を38kg得た。
【0052】
(溶出工程)
ろ過工程により得られたろ液を、芳香族系合成吸着剤(ダイヤイオンSP−850、三菱ケミカル株式会社製)383mLを充填したカラム(カラム容量:1L)に、流速7.6L/h(SV=20)の条件で通液した。その後、合成吸着剤の体積の10倍量の水で洗浄し、60%(v/v)エタノール水溶液をSV=2で766g通液して溶出し、溶出画分を得た。溶出画分を、48%(w/w)水酸化ナトリウム水溶液を用いてpH6.7に調整し、ロータリーエバポレーターにより10倍の濃度に濃縮して、ポリフェノール組成物を77g得た。
【0053】
(組成の確認)
得られたポリフェノール組成物について、高速液体クロマトグラフィー(HPLC、Agilent 1260 Infinity LC、アジレント・テクノロジー株式会社製)による分析を行い、組成を確認した。分析条件は次のとおりである。
サンプル注入量:30μL
溶離液流速:0.6mL/min
溶離液:水(6%酢酸)(溶離液A)、メタノール(6%酢酸)(溶離液B)
カラム:LiChroCART(長さ150mm×内径4.6mm、粒子径5μm、メルク株式会社)
カラム温度:60℃
UV−VIS検出器設定波長:260nm
【0054】
HPLCによる分析において、濃度勾配(グラジエント)の条件は表1のとおりである。
【表1】
【0055】
得られたチャートを図1に示す。保持時間(Retention Time:RT)19分のピークとしてクマル酸が、RT25分のピークとしてフェルラ酸の存在が確認された。
【0056】
[試験例2:芳香族系合成吸着剤の検討]
<実施例2〜4>
実施例1と同様の前処理工程及びろ過工程に従って、バガス約3kg(含水率50質量%)からフィルタープレスによるろ液20Lを得た。溶出工程においては、芳香族系合成吸着剤として、ダイヤイオンSP−850(三菱ケミカル株式会社製、実施例2)、アンバーライトXAD−4(株式会社オルガノ製、実施例3)、及び、アンバーライトXAD−18(株式会社オルガノ製、実施例4)をそれぞれ用いた。各吸着剤50mLをそれぞれ充填したカラム(カラム容量100mL)を用意し、流速1000mL/h(SV=20)の条件でろ液を5Lずつ通液した。その後、各カラムにおいて、合成吸着剤の体積の10倍量の水で洗浄し、60%(v/v)エタノール水溶液をSV=2で100mL通液して溶出し、溶出画分を得た。実施例2〜4に係る溶出画分の固形分濃度(質量%、溶出画分全量基準)及びポリフェノール濃度(質量%、溶出画分全量基準)を、表2に示す。
【0057】
【表2】
【0058】
[試験例3:前処理液のpHの影響]
<実施例5〜7、比較例1>
(前処理工程、ろ過工程)
実施例1と同様の前処理工程に従って、バガス約3kg(含水率50質量%)から前処理液20Lを得た。この液分を4つに分け、そのうち3つを、35%(w/w)塩酸により、pH6(実施例5)、pH5.5(実施例6)、pH3(実施例7)にそれぞれ調整した。また、4つに分けた前処理液のうち1つは、pHを調整しなかった(比較例1)。pHを調整していない比較例1の前処理液のpHは10.8であった。これら4種類の前処理液を、実施例1と同様の方法によってろ過した。
【0059】
(溶出工程)
ろ過工程により得られたろ液を、芳香族系合成吸着剤(ダイヤイオンSP−850、三菱ケミカル株式会社製)383mLを充填したカラム(カラム容量:1L)に、流速SV=10、通液量BV=50の条件で通液した。その後、合成吸着剤の体積の10倍量の水で洗浄し、60%(v/v)エタノール水溶液をSV=2、BV=2で通液して溶出した。カラム通液後の通過液(合成吸着剤に吸着しなかった液分)、及び、溶出画分(合成吸着剤に吸着した液分)に含まれる総ポリフェノール、クマル酸、及びフェルラ酸のそれぞれの回収量(g)を測定し、溶出前のろ液中に含まれるポリフェノール量(g)に対する、通過液又は溶出画分に含まれる総ポリフェノール(ポリフェノール組成物)、クマル酸、及びフェルラ酸の質量比(回収率)をそれぞれ求めた。なお、総ポリフェノールの回収量はフォーリン−チオカルト法により測定し、クマル酸及びフェルラ酸の回収量は、HPLCにより測定した。結果を表3に示す。
【0060】
【表3】

図1