特許第6703580号(P6703580)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6703580
(24)【登録日】2020年5月12日
(45)【発行日】2020年6月3日
(54)【発明の名称】乗員保護装置
(51)【国際特許分類】
   B60R 21/207 20060101AFI20200525BHJP
【FI】
   B60R21/207
【請求項の数】4
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2018-185726(P2018-185726)
(22)【出願日】2018年9月28日
(65)【公開番号】特開2020-55368(P2020-55368A)
(43)【公開日】2020年4月9日
【審査請求日】2019年3月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110000383
【氏名又は名称】特許業務法人 エビス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長澤 勇
【審査官】 内山 隆史
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−18378(JP,A)
【文献】 特開平7−232615(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 21/207
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の作動信号によりガスを発生させるインフレータと、
折り畳まれた状態から前記インフレータによりガスが導入されることにより展開するエアバッグ袋体と、
を備え、
前記エアバッグ袋体は、所定部位に接着剤が塗布され、展開時に所定の被接着位置に接着されることにより、乗員を拘束し、展開後に所定の動作で切断される、
ことを特徴とする車両の乗員保護装置。
【請求項2】
前記エアバッグ袋体は、前記エアバッグ袋体が展開する方向とは異なる方向に切断容易な脆弱部を有する、
ことを特徴とする請求項1に記載の車両の乗員保護装置。
【請求項3】
前記エアバッグ袋体は、前記展開後、前記エアバッグ袋体が展開する方向とは異なる所定の方向への動作により、一部が切断され、前記拘束が解除される、
ことを特徴とする請求項1に記載の車両の乗員保護装置。
【請求項4】
前記エアバッグ袋体は、前記展開後、所定方向への繰り返し動作により、一部が切断され、前記拘束が解除される、
ことを特徴とする請求項1に記載の車両の乗員保護装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗員保護装置に関する。
【背景技術】
【0002】
衝突等から乗員を保護するため、自動車などの車両では、エアバッグ装置が用いられている。
このようなエアバッグ装置として、乗員の前側から後ろ向きに展開するフロントエアバッグがある。このフロントエアバッグは、例えば、車両が前方から衝突する場合に展開され、前方衝突の際に前に移動しようとする乗員を受け止めて支え、保護するものである。
【0003】
また、車両の側方からの衝突に備えるため、サイドエアバッグやカーテンエアバッグの装着も増加してきている。このようなカーテンエアバッグにおいては、乗員の頭部への衝撃を吸収するため、車両が横転している数秒間という長時間にわたっての内圧保持が必要となり、エアバッグの気密性を高め、膨張持続時間を長くすることが求められた。このような要求に対して、接着剤を用いた接合部の強度および気密性に優れたエアバッグが提案されている(特許文献1参照)。
また、エアバッグ内圧を目標値に設定しやすいエアバッグ装置として、接着剤を利用したものも提案されている。このエアバッグ装置は、ベントホールと重なる開口を有したシートを、ベントホールの周縁部に結合し、シートの開口を挟んだ一半側と他半側とを結合し、エアバッグ内圧が所定値以上になったときに結合を解除するように構成している。そして、この結合を接着剤により行うようにしている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−047182号公報
【特許文献2】特開2007−022306号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、車両への衝突は、前方や側方からに限られず、斜めからの衝突等、あらゆる方向から様々な衝突形態が考えられ、衝突形態ごとに対応するエアバッグを用意すると、コストがかかるとともに、対処しきれなくなってしまう虞がある。
例えば、上記のように、衝突形態に応じて複雑な乗員挙動が発生するため、エアバッグが最も衝突エネルギーを吸収できる部分から、乗員が逸れて接触してしまい、十分な乗員保護を行うことができないという虞がある。
【0006】
本発明は、このような従来の問題を解決するためになされたもので、衝突形態の違いにより発生する複雑な乗員挙動に左右されることなく、乗員を確実に拘束し、保護機能を高めるとともに、エアバッグによる乗員拘束の後、すなわち、車両に対する衝突の衝撃の収束後に、素早く脱出を可能とすることができる乗員保護装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る車両の乗員保護装置は、所定の作動信号によりガスを発生させるインフレータと、折り畳まれた状態から前記インフレータによりガスが導入されることにより展開するエアバッグ袋体と、を備え、前記エアバッグ袋体は、所定部位に接着剤が塗布され、展開時に所定の被接着位置に接着されることにより、乗員を拘束し、展開後に所定の動作で切断される、ことを特徴とする。
【0008】
また、前記エアバッグ袋体は、前記エアバッグ袋体が展開する方向とは異なる方向に切断容易な脆弱部を有する、ようにしてもよい。
【0009】
さらに、前記エアバッグ袋体は、前記展開後、前記エアバッグ袋体が展開する方向とは異なる所定の方向への動作により、一部が切断され、前記拘束が解除される、ようにしてもよい。
【0010】
さらに、前記エアバッグ袋体は、前記展開後、所定方向への繰り返し動作により、一部が切断され、前記拘束が解除される、ようにしてもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、車両の衝突時に、乗員を確実に拘束し、保護機能を高めるとともに、衝撃の収束後に、素早く脱出を可能とすることができる乗員保護装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施の形態における乗員保護装置を備えた車両の概略を示す断面図である。
図2】本実施の形態の乗員保護装置において、エアバッグ袋体が展開した際の上面図および正面図である。
図3】本実施の形態の乗員保護装置において、エアバッグ袋体が展開した際のそれぞれの上面図および正面図である。
図4】切断されたエアバッグ袋体を示す上面図および正面図である。
図5】エアバッグ袋体の脆弱部の一例を示す概略模式図である。
図6】エアバッグ袋体が乗員の片方向のみから展開する乗員保護装置を備えた車両の概略を示す断面図である。
図7】接着剤塗布領域の周辺に脆弱部を設けた第1エアバッグ袋体の正面図である。
図8】切断されたエアバッグ袋体を示す上面図および正面図である。
図9】繰り返し動作により切断するエアバッグ袋体を示す上面図および正面図である。
図10】根元部分で切断されるエアバッグ袋体を示す上面図および正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
図1は、本発明の実施の形態における乗員保護装置を備えた車両の概略を示す断面図である。また、図2は、本実施の形態の乗員保護装置が作動し、エアバッグ袋体が展開した際の図である。なお、図2(a)は、エアバッグ袋体が展開した際の上面図であり、図2(b)は、エアバッグ袋体が展開した際の正面図である。
【0014】
(車両1の構成)
図1に示すように、車両1の床面2(アンダーボディのフロアパネルが設けられた部分)には、座席シート10が配備されている。また、床面2の車幅方向外側(車外側)には、車体内側壁を構成する左右のセンターピラーが対向して配備され、センターピラーの上端はルーフサイドレール4に、下端はサイドシル5に一体結合されている。センターピラーの前方には、フロントドア6が配備され、フロントドア6の上部には、フロントドアウィンドウ7が設けられている。また、ルーフサイドレール4の上部には、ルーフ8がほぼ水平に設けられている。
【0015】
そして、各座席シート10には、それぞれ乗員保護装置30が設けられている。また、右の座席シート10の乗員保護装置30と、左の座席シート10の乗員保護装置30とは、左右対称に設けられている。
なお、以下では、右の座席シート10(図1において左側)に設けられた乗員保護装置30を例に説明する。
【0016】
座席シート10は、乗員Pの臀部から大腿部を支えるシートクッション11(座部)と、リクライニング可能に設けられたシートバッグ12(背もたれ部)と、乗員Pの頭部を支えるヘッドレスト13(ヘッド部)と、を備えている。
【0017】
(乗員保護装置30の構成)
乗員保護装置30は、車両1の衝突検知および衝突予測を行う衝突検知装置による検知信号に基づいて、エアバッグ展開制御ユニット(ACU)や、車両制御装置(ECU)等によって制御されるものである。
また、乗員保護装置30は、インフレータ50と、エアバッグ袋体100と、を備えている。
【0018】
(インフレータ50)
インフレータ50は、衝突検知装置による車両1の衝突検知または衝突予測に基づく作動信号により、火薬に点火し、燃焼による化学反応でガスを発生させるものである。また、インフレータ50に発生されたガスは、エアバッグ袋体100に圧入される。
なお、インフレータ50は、後述する第1インフレータ51aと、第2インフレータ51bと、を有している。
【0019】
(エアバッグ袋体100)
エアバッグ袋体100は、インフレータ50によってガスが圧入される袋体であって、非作動時は小さく折り畳まれている。また、エアバッグ袋体100は、作動時には、折り畳まれた状態からインフレータ50によりガスが導入され、乗員Pの着座位置の周りを取り囲むように展開される。例えば、エアバッグ袋体100は、展開時に乗員P側となる生地が短く、乗員Pから離れた側の生地が長くなっていることにより、乗員Pを取り囲むように展開する。
さらに、エアバッグ袋体100は、乗員Pに面する側の乗員側基布面と、乗員側基布面と略対向する非乗員側基布面と、乗員側基布面と非乗員側基布面それぞれにおいてガスが圧入される側の基端部側と、生地の先端側となる先端部側と、を有し、乗員側基布面の基端部側と先端部側を、エアバッグ袋体100の外側において、一部同士を、長さを調節したテザーで縫着することにより、乗員Pを取り囲むように展開させることができる。
また、エアバッグ袋体100は、内部において、乗員側基布面と非乗員側基布面との間に幅規制用のテザーを設ける。そして、エアバッグ袋体100は、乗員側基布面の基端部側と、非乗員側基布面の先端部側と、をテザーで縫着する構成Aとともに、構成Aよりも先端部側において、構成Aと同様に、乗員側基布面の基端部側と、非乗員側基布面の先端部側と、をテザーで縫着する構成Bと、を有する。さらにテザーは、テザーを縫着しない場合のエアバッグ袋体100の展開形態時の、非乗員側基布面の、テザーの基端部側縫着部と対向する基点から、テザーの先端部側縫着部までの長さよりも短くする。これにより、エアバッグ袋体100は、乗員Pを取り囲むように展開させることができる。
その場合、乗員側基布面の長さは、非乗員側基布面よりも短くしても良い。また、構成Aのみで屈曲しても良く、構成A、Bを更に増やすことで、多段的に屈曲しても良い。
なお、エアバッグ袋体100は、後述する第1エアバッグ袋体101と、第2エアバッグ袋体102と、を有している。
【0020】
また、乗員保護装置30は、非作動時には、第1収納ケース41aおよび第2収納ケース41bに収納されている。
第1収納ケース41aは、車両1の進行方向で座席シート10の左側(図1中では乗員Pの右側)に設けられ、第2収納ケース41bは、車両1の進行方向で座席シート10の右側(図1中では乗員Pの左側)に設けられている。第1収納ケース41aには、第1インフレータ51aおよび第1エアバッグ袋体101が収納されている。また、第2収納ケース41bには、第2インフレータ51bおよび第2エアバッグ袋体102が収納されている。
【0021】
図3は、本実施の形態の乗員保護装置が作動し、エアバッグ袋体が展開した際のそれぞれの図である。なお、図3(a)は、第1エアバッグ袋体101が展開した際の上面図であり、図3(b)は、第1エアバッグ袋体101が展開した際の正面図である。また、図3(c)は、第2エアバッグ袋体102が展開した際の上面図であり、図3(d)は、第2エアバッグ袋体102が展開した際の正面図である。
【0022】
(第1インフレータ51a)
第1インフレータ51aは、衝突検知装置による検知に基づく作動信号により、ガスを発生させるものであり、発生させたガスを、第1エアバッグ袋体101に供給し、第1エアバッグ袋体101を膨張展開させるものである。
【0023】
(第2インフレータ51b)
第2インフレータ51bは、第1インフレータ51aと同様に、衝突検知装置による検知に基づく作動信号により、ガスを発生させるものであり、発生させたガスを、第2エアバッグ袋体102に供給し、第2エアバッグ袋体102を膨張展開させるものである。
【0024】
(第1エアバッグ袋体101)
第1エアバッグ袋体101は、第1インフレータ51aによってガスが圧入され、膨張展開される袋体であって、一端(固定側)が、第1収納ケース41aに支持され、作動時には他端(展開側)が乗員Pの着座位置の周りを取り囲むように展開される。
【0025】
また、第1エアバッグ袋体101は、展開側の先端部の近傍で、乗員P側(車両1の後方側)の面に、接着剤塗布領域101aが設けられ、接着剤が塗布されている。すなわち、第1エアバッグ袋体101は、接着剤が所定部位に塗布されており、展開時に被接着位置に接着されるようになっている。
この接着剤は、常温では接着力がなく、あるいは、接着力が弱く、高温になると、より高い接着力を発揮するものとなっている。
【0026】
さらに、第1エアバッグ袋体101は、一部が所定の方向には切断が容易な脆弱部101bが設けられている。この脆弱部101bは、第1エアバッグ袋体101が展開する方向、すなわち、乗員Pを拘束する方向には、十分な強度を有しているが、第1エアバッグ袋体101が展開する方向と垂直の方向、すなわち、乗員Pを拘束する方向とは異なる方向には、小さな力で切断が容易となっている。
【0027】
例えば、脆弱部101bは、第1エアバッグ袋体101が展開する方向の繊維は強く、あるいは、多く、第1エアバッグ袋体101が展開する方向と垂直の方向の繊維は弱く、あるいは、少なくなっている。
なお、本実施の形態では、脆弱部101bの切断容易な方向を、第1エアバッグ袋体101が展開する方向と垂直の方向としたが、これに限らず、乗員Pを拘束する方向とは異なる方向であれば、どの方向であっても構わない。
【0028】
(第2エアバッグ袋体102)
第2エアバッグ袋体102は、第2インフレータ51bによってガスが圧入され、膨張展開される袋体であって、一端(固定側)が、第2収納ケース41bに支持され、作動時には他端(展開側)が乗員Pの着座位置の周りを取り囲むように展開される。
【0029】
また、第2エアバッグ袋体102は、展開側の先端部の近傍で、乗員Pとの反対側(車両1の前方側)の面に、接着剤塗布領域102aが設けられ、接着剤が塗布されている。すなわち、第2エアバッグ袋体102も、第1エアバッグ袋体101と同様に、接着剤が所定部位に塗布されており、展開時に被接着位置に接着されるようになっている。
【0030】
この接着剤は、第1エアバッグ袋体101の接着剤と同様に、常温では接着力がなく、あるいは、接着力が弱く、高温になると、より高い接着力を発揮するものとなっている。
また、第1エアバッグ袋体101に塗布した接着剤と、第2エアバッグ袋体102に塗布した接着剤と、を別の特性のものとしてもよい。例えば、第1エアバッグ袋体101に塗布する接着剤は、より高温で接着力を発揮するものとし、第2エアバッグ袋体102に塗布する接着剤は、第1エアバッグ袋体101に塗布する接着剤よりも低温で接着力を発揮するものとしてもよい。
【0031】
また、第2エアバッグ袋体102に、第1エアバッグ袋体101と同様の脆弱部を設けるようにしてもよい、また、第2エアバッグ袋体102に脆弱部を設け、第1エアバッグ袋体101には脆弱部101bを設けない構成としてもよい。
【0032】
なお、第1インフレータ51aよりも第2インフレータ51bを若干早く作動させることにより、第1エアバッグ袋体101よりも第2エアバッグ袋体102の方が早く展開して、第1エアバッグ袋体101と第2エアバッグ袋体102とが所望の位置で確実に接着できるようにしている。
【0033】
また、本実施の形態では、第1エアバッグ袋体101と第2エアバッグ袋体102の双方に、接着剤塗布領域を設けて接着剤を塗布するようにしているが、これに限らず、第1エアバッグ袋体101または第2エアバッグ袋体102の一方に、接着剤塗布領域を設け、他方には接着剤塗布領域を設けずに接着剤を塗布しないようにしてもよい。また、この場合、接着剤を塗布しない方のエアバッグ袋体100の接着剤塗布領域に相当する領域を、接着剤が塗布された他方の接着剤塗布領域と接着しやすい材質や形態とすることにより、より接着を確実なものとすることができる。
【0034】
(乗員保護装置30の動作)
このような乗員保護装置30において、衝突検知装置が車両1の衝突検知または衝突予測を行うと、まず、第2インフレータ51bに対して作動信号を送信し、第2インフレータ51bを作動させ、次に、第1インフレータ51aに対して作動信号を送信し、第1インフレータ51aを作動させる。
【0035】
第2インフレータ51bは、衝突検知装置による衝突検知または衝突予測により作動信号が送られてくると、ガスを発生させ、第2エアバッグ袋体102にガスを供給する。
第2エアバッグ袋体102は、第2インフレータ51bからガスが供給されると、膨張展開し、第2収納ケース41bから飛び出す。第2収納ケース41bから飛び出した第2エアバッグ袋体102は、乗員Pを右側から取り囲むように展開し、乗員Pの正面まで拡がる。
【0036】
続いて、第1インフレータ51aは、衝突検知装置による衝突検知または衝突予測により作動信号が送られてくると、ガスを発生させ、第1エアバッグ袋体101にガスを供給する。
第1エアバッグ袋体101は、第1インフレータ51aからガスが供給されると、膨張展開し、第1収納ケース41aから飛び出す。第1収納ケース41aから飛び出した第1エアバッグ袋体101は、乗員Pを左側から取り囲むように展開し、乗員Pの正面まで拡がる。
【0037】
そして、第2エアバッグ袋体102の接着剤塗布領域102aに塗布された接着剤が、第2インフレータ51bに入力されたガスの熱によって溶解し、第2エアバッグ袋体102の接着剤塗布領域102aが、第1エアバッグ袋体101の車両1の後方側の面に接着する。また、第1エアバッグ袋体101の接着剤塗布領域101aに塗布された接着剤も、第1インフレータ51aに入力されたガスの熱によって溶解し、第1エアバッグ袋体101の接着剤塗布領域101aが、第2エアバッグ袋体102の車両1の前方側の面に接着する。
【0038】
以上のように、本実施の形態における乗員保護装置30は、インフレータ50のガスの熱によって接着剤が接着機能を発揮し、第1エアバッグ袋体101と第2エアバッグ袋体102とが接着するので、乗員Pを座席シート10に確実に保持し、あらゆる方向からの衝突形態に対応することができ、車両1の衝突時に、乗員Pを確実に拘束し、保護機能を高めることができる。
【0039】
次に、図4に示すように、車両1に対する衝突の衝撃が収束すると、乗員Pは、接着された第1エアバッグ袋体101と第2エアバッグ袋体102を、上下方向に引き離す動作を行う。すると、第1エアバッグ袋体101の脆弱部101bは、上下方向には力には弱いため、切断することができ、第1エアバッグ袋体101と第2エアバッグ袋体102とを分離させることができる。
【0040】
したがって、衝突の衝撃の収束後に、乗員Pが自ら乗員保護装置の拘束を解除することができる。
すなわち、車両1の衝突時には、乗員Pを確実に拘束し、保護機能を高めるとともに、衝撃の収束後には、素早く乗員Pを脱出させることができる。
【0041】
なお、本実施の形態における乗員保護装置30においては、第1エアバッグ袋体101の乗員P側と、第2エアバッグ袋体102の乗員Pと逆側と、に接着剤を塗布する構成としたが、これに限らず、第1エアバッグ袋体101の乗員Pと逆側と、第2エアバッグ袋体102の乗員P側と、に接着剤を塗布する構成としてもよい。この場合、第1エアバッグ袋体101を先に展開させ、第2エアバッグ袋体102を後に展開させるようにするとよい。
また、第1エアバッグ袋体101および第2エアバッグ袋体102の双方ともに、乗員P側と、乗員Pと逆側と、に接着剤を塗布する構成としてもよい。この場合、第1エアバッグ袋体101と第2エアバッグ袋体102のどちらを先に展開させてもよいし、同時に展開させるようにしてもよい。
【0042】
(脆弱部の一例)
ここで、脆弱部の他の一例について、説明する。
図5は、脆弱部の一例を示す概略模式図である。
【0043】
図5に示すように、脆弱部101bは、テザー101cと、横糸101dと、横糸101eと、を有している。
テザー101cは、第1エアバッグ袋体101の展開方向と垂直方向、すなわち、縦方向に設けられた紐状に繊維である。
【0044】
横糸101dは、第1エアバッグ袋体101の展開方向、すなわち、横方向に設けられた複数の繊維である。また、横糸101dは、第1エアバッグ袋体101の根元方向からテザー101cを周回して根元方向に戻るように配置されている。
横糸101eは、第1エアバッグ袋体101の展開方向、すなわち、横方向に設けられた複数の繊維である。また、横糸101eは、第1エアバッグ袋体101の先端方向からテザー101cを周回して先端方向に戻るように配置されている。
【0045】
このような構成により、第1エアバッグ袋体101は、通常時には、テザー101cを、横糸101dと横糸101eとが、根元方向と先端方向とから双方に引き合うため、切れることなく、乗員Pを拘束することができる。
【0046】
一方、図5(b)に示すように、第1エアバッグ袋体101からテザー101cを引き抜くと、横糸101dと横糸101eとが、互いに引き合うことができなくなり、脆弱部101bを容易に切断することができるようになる。
【0047】
したがって、車両1に対する衝突の衝撃の収束後に、乗員Pがテザー101cを抜くことにより、第1エアバッグ袋体101を容易に切断することができ、第1エアバッグ袋体101と第2エアバッグ袋体102とを分離させることができる。
すなわち、車両1の衝突時には、乗員Pを確実に拘束し、保護機能を高めるとともに、衝撃の収束後には、素早く乗員Pを脱出させることができる。
【0048】
(片方向エアバッグ)
また、上記実施の形態における乗員保護装置30においては、乗員Pの左右に第1エアバッグ袋体101および第2エアバッグ袋体102を設ける構成としたが、これに限らず、エアバッグ袋体を、一方向のみに設ける構成としてもよい。
具体的には、図6に示すように、座席シート10の左側(図6中では乗員Pの右側)にのみ乗員保護装置31を設け、ここに、インフレータと、エアバッグ袋体110と、を備える。
【0049】
インフレータは、衝突検知装置による検知に基づく作動信号により、エアバッグ袋体110にガスを供給する。
エアバッグ袋体110は、非作動時には小さく折り畳まれており、先端部近傍に、接着剤塗布領域が設けられ、接着剤が塗布されている。また、エアバッグ袋体110には、上記実施の形態と同様の脆弱部110bが設けられている。そして、エアバッグ袋体110は、インフレータによりガスが供給されると、乗員Pの着座位置の周りを取り囲むように展開され、接着剤がインフレータのガスの熱で溶解し、接着剤塗布領域がフロントドア6に接着する。
【0050】
これにより、乗員保護装置31は、インフレータのガスの熱によって接着剤が接着機能を発揮し、エアバッグ袋体110が、乗員Pを座席シート10に確実に保持し、保護機能を高めることができる。また、エアバッグ袋体110は、エアバッグの展開後、すなわち、衝突による衝撃の収束後に、上方に引き上げることによって、脆弱部110bが切断され、乗員Pの拘束を解くことができる。
したがって、車両1の衝突時には、乗員Pを確実に拘束し、保護機能を高めるとともに、衝撃の収束後には、素早く乗員Pを脱出させることができる。
【0051】
(接着剤塗布領域の周辺に脆弱部)
次に、接着剤塗布領域の周辺に脆弱部を設けた例について、説明する。
図7は、接着剤塗布領域の周辺に脆弱部を設けた第1エアバッグ袋体の正面図である。また、図8は、切断されたエアバッグ袋体を示す上面図および正面図である。なお、図7(a)は、縦方向に脆弱部を設けた第1エアバッグ袋体の正面図であり、図7(b)は、横方向に脆弱部を設けた第1エアバッグ袋体の正面図である。また、図8(a)は、縦方向脆弱部の切断されたエアバッグ袋体を示す上面図であり、図8(b)は、縦方向脆弱部の切断されたエアバッグ袋体を示す正面図であり、図8(c)は、横方向脆弱部の切断されたエアバッグ袋体を示す上面図である。
【0052】
縦方向に脆弱部を設けたエアバッグ袋体
(第1エアバッグ袋体121)
図7(a)に示すように、第1エアバッグ袋体121は、接着剤塗布領域121aが設けられており、この接着剤塗布領域121aの周辺に、脆弱部121bが設けられている。
脆弱部121bは、接着剤塗布領域121aを取り囲むように設けられ、さらに、接着剤塗布領域121aの両サイドから上部に抜ける位置まで拡がっている。
【0053】
なお、本実施の形態では、脆弱部121bを、接着剤塗布領域121aの両サイドから上部に抜ける位置まで拡がるようにしているが、下部に抜けるように広がるようにしてもよい。また、脆弱部121bを、第1エアバッグ袋体121に設けるようにしているが、第2エアバッグ袋体122に設けるようにしてもよい。また、第1エアバッグ袋体121と、第2エアバッグ袋体122の双方に、脆弱部を設けるようにしてもよい。
【0054】
そして、図8(a)、図8(b)に示すように、車両1に対する衝突の衝撃の収束後には、乗員Pが第1エアバッグ袋体121と第2エアバッグ袋体122とを引き離す動作を行う。すると、第1エアバッグ袋体121の接着剤塗布領域121aが、第2エアバッグ袋体122に接着されたまま、第1エアバッグ袋体121の脆弱部121bから切り離されて、第1エアバッグ袋体121と、第2エアバッグ袋体122とが分離することとなる。
【0055】
したがって、車両1に対する衝突の衝撃の収束後に、第1エアバッグ袋体121を容易に切断することができ、第1エアバッグ袋体121と第2エアバッグ袋体122とを分離させることができる。
すなわち、車両1の衝突時には、乗員Pを確実に拘束し、保護機能を高めるとともに、衝撃の収束後には、素早く乗員Pを脱出させることができる。
【0056】
横方向に脆弱部を設けたエアバッグ袋体
(第1エアバッグ袋体131)
図7(b)に示すように、第1エアバッグ袋体131は、接着剤塗布領域131aが設けられており、この接着剤塗布領域131aの周辺に、脆弱部131bが設けられている。
脆弱部131bは、接着剤塗布領域131aを取り囲むように設けられ、さらに、接着剤塗布領域131aの上下から横方向に抜ける位置まで拡がっている。
【0057】
なお、本実施の形態では、脆弱部131bを、第1エアバッグ袋体131に設けるようにしているが、第2エアバッグ袋体132に設けるようにしてもよい。また、第1エアバッグ袋体131と、第2エアバッグ袋体132の双方に、脆弱部を設けるようにしてもよい。
【0058】
そして、図8(c)に示すように、車両1に対する衝突の衝撃の収束後には、乗員Pが第1エアバッグ袋体131と第2エアバッグ袋体132とを引き離す動作を行う。すると、第1エアバッグ袋体131の接着剤塗布領域131aが、第2エアバッグ袋体132に接着されたまま、第1エアバッグ袋体131の脆弱部131bから切り離されて、第1エアバッグ袋体131と、第2エアバッグ袋体132とが分離することとなる。
なお、第1エアバッグ袋体131と第2エアバッグ袋体132とが完全に分離しなくても、第1エアバッグ袋体131と第2エアバッグ袋体132とで形成される周長が伸びれば、乗員Pがくぐり抜けることが容易となる。
【0059】
したがって、車両1に対する衝突の衝撃の収束後に、第1エアバッグ袋体131および第2エアバッグ袋体132から容易に離脱することができる。
すなわち、車両1の衝突時には、乗員Pを確実に拘束し、保護機能を高めるとともに、衝撃の収束後には、素早く乗員Pを脱出させることができる。
【0060】
また、上記実施の形態においては、1回の操作や、単純な操作で、エアバッグ袋体が切断されるものとしたが、図9に示すように、乗員Pによる所定方向への繰り返し動作や、複雑な動作、複数の操作等で、エアバッグ袋体が切断されるものとしてもよい。
さらに、上記実施の形態においては、エアバッグ袋体の途中の部分で切断されるものとしたが、図10に示すように、エアバッグ袋体の根元の部分等で切断されるものであってもよい。
【0061】
以上のように、本実施の形態における乗員保護装置は、インフレータのガスの熱によって接着剤が接着機能を発揮し、第1エアバッグ袋体と第2エアバッグ袋体とが接着するので、乗員Pを座席シート10に確実に保持し、あらゆる方向からの衝突形態に対応することができ、車両1の衝突時に、乗員Pを確実に拘束し、保護機能を高めることができるとともに、衝撃の収束後には、素早く脱出を可能とすることができる。
【符号の説明】
【0062】
1 車両、2 床面、4 ルーフサイドレール、5 サイドシル、6 フロントドア、7 フロントドアウィンドウ、8 ルーフ、10 座席シート、11 シートクッション、12 シートバッグ、13 ヘッドレスト、30、31 乗員保護装置、41a 第1収納ケース、41b 第2収納ケース、50 インフレータ、51a 第1インフレータ、51b 第2インフレータ 、100、110 エアバッグ袋体、101、121、131 第1エアバッグ袋体、102、122、132 第2エアバッグ袋体、101a、102a、121a、131a 接着剤塗布領域、101b、110b、121b、131b 脆弱部、101c テザー、101d、101e 横糸
図1
図2
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図5
図6
図7
図8
図9
図10