(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6703598
(24)【登録日】2020年5月12日
(45)【発行日】2020年6月3日
(54)【発明の名称】多層の電磁カプラ配置
(51)【国際特許分類】
H04B 5/02 20060101AFI20200525BHJP
H01Q 7/00 20060101ALI20200525BHJP
H01P 5/10 20060101ALI20200525BHJP
【FI】
H04B5/02
H01Q7/00
H01P5/10 A
【請求項の数】16
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2018-511235(P2018-511235)
(86)(22)【出願日】2015年11月27日
(65)【公表番号】特表2018-538707(P2018-538707A)
(43)【公表日】2018年12月27日
(86)【国際出願番号】EP2015077931
(87)【国際公開番号】WO2017088933
(87)【国際公開日】20170601
【審査請求日】2018年5月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000130581
【氏名又は名称】サトーホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000165
【氏名又は名称】グローバル・アイピー東京特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】フランク,マルクス
(72)【発明者】
【氏名】ヘドベリ,マッツ
【審査官】
対馬 英明
(56)【参考文献】
【文献】
特表2015−524191(JP,A)
【文献】
国際公開第2006/022046(WO,A1)
【文献】
特開2013−015901(JP,A)
【文献】
特開2011−254413(JP,A)
【文献】
特開2011−053898(JP,A)
【文献】
特開2008−219081(JP,A)
【文献】
特表2013−511098(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 5/00−5/06
H01Q 7/00
H01P 5/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リアクティブ近傍界カップリングの手段によって、電磁的電力を任意の幾何学的形状のRFIDタグの電流ループにカップリングするための多層の電磁カプラ配置であって、
前記電磁的電力がカップリングされる対象となるRFIDタグに最も近接して配置される前記電磁カプラ配置の上面を形成する上面層と、
金属のグランドプレーン層と、
バラン要素を含むフィード層と、
を備え、
前記上面層は、前記RFIDタグの電流ループとの誘導性カップリングにより電磁結合を実現する伝送線路ループを備え、当該伝送線路ループは、当該伝送線路ループの2個の端子が互いに近付くように環状に形成された有限長の連続的な伝送線路であって、
前記バラン要素は、入力信号を、同一の振幅で互いに180度位相がずれた2つの部分に分けることによって得られる電流信号を、前記伝送線路ループの差動入力を形成する前記2個の端子にフィードし、それによって前記伝送線路ループから差動伝送線路ループを形成し、
前記バラン要素は、外部のフィードシステムインタフェースのインピーダンスを、前記伝送線路ループの差動入力インピーダンスと整合させるための内在的なインピーダンス変換手段をさらに含む、
多層の電磁カプラ配置。
【請求項2】
前記上面層と前記金属のグランドプレーン層は、マイクロストリップ技術によって実現されている、
請求項1に記載された多層の電磁カプラ配置。
【請求項3】
前記フィード層はマイクロストリップ層である、
請求項1または2に記載された多層の電磁カプラ配置。
【請求項4】
前記フィード層はストリップライン層である、
請求項1または2に記載された多層の電磁カプラ配置。
【請求項5】
前記上面層に1次元配列または2次元配列のいずれかの配列によって配置された複数の伝送線路ループをさらに備える、
請求項1から4のいずれか1項に記載された多層の電磁カプラ配置。
【請求項6】
前記フィード層において、前記複数の伝送線路ループの各々に対して個別のバランが設けられている、
請求項5に記載された多層の電磁カプラ配置。
【請求項7】
前記フィード層において、前記複数の伝送線路ループは、単一のバランを通してフィードされる、
請求項5に記載された多層の電磁カプラ配置。
【請求項8】
前記上面層に沿って定位相の磁界が形成されている、
請求項5から7のいずれか1項に記載された多層の電磁カプラ配置。
【請求項9】
前記配列は1次元配列であって、
前記定位相の磁界は、前記伝送線路において導かれる波長をλとしたときに、前記伝送線路ループのうち各2ループ間にλ/2の電気長を有する伝送線路部分を含むことによる、位相補償の手段によって得られる、
請求項8に記載された多層の電磁カプラ配置。
【請求項10】
前記配列は2次元配列であって、
前記配列の列間の位相補償は、前記伝送線路ループの間の伝送線路部分の選択された電気長に従って、集中素子または分布素子のネットワークを提供することによって得られる、
請求項8に記載された多層の電磁カプラ配置。
【請求項11】
前記伝送線路ルー
プは、以下のパラメトリック表示に従った超楕円形状のジオメトリを有する、請求項1から10のいずれか1項に記載された多層の電磁カプラ配置。
【数1】
ここで、xおよびyはカーテシアン座標である。
【請求項12】
前記入力信号は、50Ωの同軸ケーブルシステムによって提供される標準的に導かれる波形の入力信号である、
請求項1から11のいずれか1項に記載された多層の電磁カプラ配置。
【請求項13】
前記上面層、前記グランドプレーン層、および、前記フィード層の間にそれぞれ配置された2つの誘電体層をさらに備え、
前記フィード層と前記上面層はビアを通して接続されている、
請求項1から12のいずれか1項に記載された多層の電磁カプラ配置。
【請求項14】
電磁的電力をカップリングすることによって前記RFIDタグをエンコードするのに適応されている、
請求項1から13のいずれか1項に記載された多層の電磁カプラ配置。
【請求項15】
エンコードされるべき複数のRFIDタグが媒体通路に沿ってプリンタ内で導かれる媒体上に配列されている前記プリンタに用いられるのに適しており、
前記多層の電磁カプラ配置の形状が柔軟に適応可能であり、それによって、前記上面層のすべての位置において前記上面層と前記プリンタの前記媒体通路の間の一定の距離が得られる、
請求項14に記載された多層の電磁カプラ配置。
【請求項16】
請求項14または15に記載された多層の電磁カプラ配置を備えたRFIDプリンタ/エンコーダ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、広くは電磁結合技術に関する。具体的には、本発明の限定しない実施形態は、エンコードするRFIDインレイに対するプリンタの使用、または他の近傍界でエンコードするアプリケーションに適した電磁カプラ配置に関する。
【背景技術】
【0002】
RFID(Radio Frequency Identification)は、電子タグ(RFIDタグまたはRFIDインレイとして知られる)からデータを伝達するための無線波を使用する技術である。情報がタグの中に電気的に格納されている。当該情報を読み出すために、RFIDリーダは、タグに問合せを行うためのエンコードされた無線信号を送信する。そのため、RFIDタグは、アンテナを備える。さらに、各RFIDタグは、誘導性カップリングに適した電流ループを含む。同一のアンテナおよび/または電流ループもまた、電磁結合によってRFIDタグをエンコードするために使用可能である。
【0003】
アンテナを含むRFIDデバイスは通常、インレイとして言及される。特に、インレイは、フレキシブル基板上に支持される柔軟性のある金属製アンテナフィルムを含むRFIDデバイスである。フレキシブル基板は、トランスポンダに接続される。トランスポンダは、電流ループに含まれており、インレイに対して送信されアンテナによって受信された信号を解読し、さらにアンテナに対して信号を送信する集積回路である。アンテナに対して送信された信号は、その後アンテナによって送信される。インレイのアンテナは、特定の目標周波数で送信器と通信を行うために調整されうる(すなわち、アンテナの大きさが決められうる)。当該送信器は、ときどき質問器として言及される。質問器は典型的に、RFIDインレイと通信を行うためのアンテナを含む。インレイは、アクティブでもパッシブでもよい。アクティブインレイはバッテリのような自身の電源を含み、パッシブインレイは、質問器などの外部電源から電力を受け取る。
【0004】
近年、紙のシートのような媒体上においてRFIDインレイの位置を変えることを可能にするとともに、印刷工程中に所望の情報によってRFIDインレイをエンコードすることを可能にするプリンタが知られている。エンコードは電磁結合によって行われ、好ましくはリアクティブ近傍界において行われる。この目的のために、RFIDプリンタ/エンコーダは、プリンタの空洞(キャビティ)内に適合する電磁カプラ配置が設けられ、それによって、コード情報を有する電磁的電力を、媒体上に配置されているRFIDインレイにカップリングさせる。媒体は、媒体通路に沿ってプリンタ/エンコーダを通して案内される。
【0005】
従来、リアクティブ近傍界においてRFIDタグ(インレイ)をエンコードするための2種類の技術が知られている。当該近傍界は、原理上はプリンタの空洞内に適合させるのに適している。
【0006】
静的カプラの設計は、PCB(印刷回路基板)上の伝送線路回路のような固定の電気的RF(無線)回路を備える。当該回路は固定であり、インレイのジオメトリは一般的にフォームファクタにおいて非常に高い変動性を有していることから、カプラとインレイの間のRFカップリングの振る舞いもまた、高い変動性を有している。そのため、各インレイのタイプに対してRFウィンドウプロファイルが一意に特定可能である。
【0007】
代替的に、外部制御を備えた適応型カプラ設計(準適応型カプラとも呼ばれる)は、当該技術分野において知られている。この技術では、カプラの構造は、配列のようないくつかの「カップリングセル」に分かれている。各セルは、外部の回路およびソフトウェアによって個別に制御される。このことは、インレイの各タイプに対して、そのジオメトリに関わらず、最適なカップリングを達成するために、その特定のインレイフォームファクタに対するセルのみが活性化されるといった適応が実行可能であることを意味している。理想的な場合において、インレイフォームファクタに関わらず最適なカップリングは、どのセルを活性化させるかについての過去の知識を有することによって達成可能である。いずれのセルを活性化することが必要であるかについての情報を得るために、インレイプロファイルの知識が必要となる。そのため、未知のインレイのジオメトリの走査プロセスが必要である。各インレイのタイプについて一度だけの走査が必要となるだけで済むように、走査により得られる情報をメモリ内に格納可能である。それでもなお、それぞれの新規インレイタイプに対しては当該プロセスを繰り返す必要がある。そのため、当該タイプの適応型カプラは、スタンドアローンのコンポーネントとして動作可能ではなく、活性化されるべきセルに対する外部制御に必要となる走査プロセスのための必要なアルゴリズムを含むソフトウェアソリューションによって達成されなければならず、それは場合によっては全体のプリンタシステムを含む。
【0008】
カップリング要素は、それが全体のカプラを形成する単一の構成内にある場合と、それが配列構成内にある場合とに関わらず、インレイのジオメトリについて極めて多くの変形が存在するために、概して最適ではない設計となっている。多くの場合、伝送線路(TRL)技術は、異なるTRLジオメトリからの漏れ磁場のカップリングに使用される。他の場合、よりアンテナに類似した放射構造が、無線(RF)の絶縁のための広範なシールドのコストを伴って使用される。上述したいずれの構成が使用されようとも最適なカップリングは得られない。そのため、ジオメトリ上の適応に対する1つの解決方法は、最適化されたRFカップリングの場のための個々の要素に対して制御された励磁を伴った、配列構成であってもよく、個々の要素の不完全性が克服される。
【0009】
上述した内容からわかるように、エンコードされるべき特定のインレイに対してカップリング配置を適応させるため、実際のエンコードが実行される前にキャリブレーションが必要となることは、上述した従来のカプラのタイプの欠点である。最適なカップリングに対するインレイのいずれか(静的カプラ)の位置決めが既知であるか、あるいはインレイのプロファイル構成(外部制御を伴う適応型カプラ)が取得されて格納されていなければならない。
【0010】
静的カプラの場合には、各インレイタイプは、個々の一意に定まる必要な位置決めを備えており、当該位置決めは固定カプラのために変更することができない。そのため、上述した静的カプラの設計は、所望の位置が達成できない特定のアプリケーションに適したものではない。また、ジオメトリ上の関係のために、カップリング性能が弱すぎて如何なるエンコードをも対処できない場合が生じうる。
【0011】
外部で制御される適応型カプラの場合には、インレイプロファイルを把握するために走査機能が必要となる。さらに、カップリングセルアレイの分解能が十分に高くない場合には、エンコードできないインレイのタイプが存在し、将来のインレイタイプに対して、必要な分解能を決定することが困難となりうる。外部制御を伴う適応型カプラは、セル配列が所定のインレイタイプに対して如何にして活性化される必要があるかについての情報なしに実時間で「空の状態」において使用できない。さらに、適応型カプラは、それが属するシステムから独立して分離されるスタンドアローンのコンポーネントとして提供されることができず、ソフトウェアおよび周辺のハードウェアと一体化されなければならない。また、分解能が粗過ぎて、すべてのインレイタイプに対処できない場合がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、キャリブレーションや外部制御を必要とすることなく、電磁的電力を任意の形状のインレイに対して効率的にカップリングすることに適用可能な、改善された電磁カプラ配置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この目的は、請求項1の特徴によって実現される。
第1の観点によれば、リアクティブ近傍界カップリングによって、電磁的電力を任意の幾何学的形状のRFIDタグの電流ループにカップリングするための多層の電磁カプラ配置が提供される。この多層の電磁カプラ配置は、電磁的電力がカップリングされる対象となるRFIDタグに最も近接して配置される電磁カプラ配置の上面を形成する上面層を備える。上面層は、RFIDタグの電流ループとの誘導性カップリングにより電磁結合を実現する伝送線路ループを備える。伝送線路ループは、当該伝送線路の2個の端子が互いに近付くように環状に形成された有限長の連続的な伝送線路である。この多層の電磁カプラ配置は、金属のグランドプレーン層を備える。さらに、この多層の電磁カプラ配置は、フィード層を備える。フィード層は、入力信号を、同一の振幅で互いに180度位相がずれた2つの部分に分けることによって得られる電流信号を、伝送線路ループの差動入力を形成する上記2個の端子にフィードするためのバラン要素を含む。それによって、伝送線路ループから差動伝送線路ループが形成される。バラン要素は、外部のフィードシステムインタフェースのインピーダンスを、伝送線路ループの差動入力インピーダンスと整合させるための内在的なインピーダンス変換手段をさらに含む。
【0014】
本発明の限定されない実施形態のアプローチは、差動的にフィードされる伝送線路ループ(TRLループ)とエンコードされるべきRFIDタグ(RFIDインレイ)の電流ループの間の直接的かつ誘導性のカップリングを可能とする、電磁カプラ配置を提供することである。TRLループの差動フィードによって、高効率のリアクティブ近傍界カップリングが達成される。インレイループに近接して配置される金属のグランドプレーン層と結合(カップル)ループが効率的な2次元シールドとして機能し、外部へのRFエネルギーの放射を防止する。インピーダンス整合のための如何なるディスクリートの(個別の)電子コンポーネントとは無関係に、連続的TRLループの形態でのカップリング要素の構造がそのジオメトリの最適化を可能とする。純粋な場の理論上の問題に関連して、分布素子(コンポーネント)が1つの分離したコンポーネントサブグループ内に集約され、コンポーネント値の問題に関連して、ディスクリートのコンポーネントが別の分離したコンポーネントサブグループ内に集約される場合に、設計の柔軟性が提供される。この場合、分布素子(コンポーネント)の側(上面層の側)をディスクリートのコンポーネントの側(フィード層においてグランドプレーンの下側)から分離する可能性がグランドプレーンによって提供される。
【0015】
好ましくは、上面層と金属のグランドプレーン層は、マイクロストリップ技術によって実現されている。また好ましくは、フィード層はマイクロストリップ層である。この観点において、マイクロストリップ技術は、ストリップライン技術と比較して、単一のグランドプレーン層で足りるため、層の総数が少なくて済むという利点がある。
【0016】
他の好適な限定されない実施形態によれば、フィード層はストリップライン層である。
【0017】
好適な限定されない実施形態によれば、上面層に1次元配列または2次元配列のいずれかの配列によって配置された複数の伝送線路ループを備える。また好ましくは、フィード層において、複数の伝送線路ループの各々に対して個別のバランが設けられる。他の好適な限定されない実施形態によれば、複数の伝送線路ループは単一のバランを通してフィードされ、その場合、複数のループは、当該バランの出力に対する一定のインピーダンスを示すような方法で配置され、相互に接続される。
【0018】
また好ましくは、定位相の磁界が上面層に沿って形成される。それによって、配列(アレイ)を形成する複数の伝送線路ループ(カップリングセル)を備えた電磁的カプラ配置では、任意の形状のインレイ構造が、専用のソフトウェアおよび/またはハードウェアによる外部制御の必要無しに、エンコード可能である。好ましくは、1次元配列の場合には、上記定位相の磁界は、伝送線路ループ間にそれぞれλ/2の電気長を有する伝送線路部分を含むことによる、位相補償の手段によって得られる。ここで、λは、伝送線路において導かれる波長である。2次元配列の場合には、配列の列間の位相補償は、伝送線路ループの間の伝送線路部分の選択された電気長に従って、集中素子または分布素子(コンポーネント)のネットワーク(80)を提供する手段によって好ましくは得られる。
【0019】
好ましくは、超楕円形状のジオメトリとしての伝送線路ループは、以下のパラメトリック表示に従っている(カーテシアン座標xおよびyにおいて)。
【数1】
ここで、パラメータa(長さ)およびb(高さ)はループのサイズを決定する。パラメータmおよびnは曲率を決定する。
【0020】
好ましくは、入力信号は、50Ωの同軸ケーブルシステムによって提供される標準的に導かれる波形の入力信号である。
【0021】
好ましくは、2つの誘電体層が、上面層、グランドプレーン層、および、フィード層の間にそれぞれ配置され、フィード層と上面層はビアを通して接続されている。結果的に、各々の2つの金属層(信号層)の間に、誘電体基板材層が配置され、電気的に金属層間を絶縁する。
【0022】
好ましくは、多層の電磁カプラ配置は、電磁的電力をカップリングすることによってRFIDタグをエンコードするのに使用される。
【0023】
さらに好ましくは、カプラ配置がプリンタ内で用いられ、プリンタ内では、エンコードされるべき複数のRFIDインレイが、媒体通路に沿ってプリンタ内で導かれる媒体上に配列されている。多層の電磁カプラ配置の形状が好ましくは柔軟に適応可能であり、それによって、上面層のすべての位置において上面層とプリンタの媒体通路の間の一定の距離が得られる。
【0024】
本発明の限定されない実施形態によれば、第1の観点に係る多層の電磁カプラ配置を備えたRFIDプリンタ/エンコーダが提供される。コーディング情報をRFIDインレイに伝送するための電磁的カップリングがリアクティブ近傍界において生じるため、多層の電磁カプラ配置は、媒体通路に近接した、プリンタの空洞内に容易に適合可能である。
【0025】
本発明は広くは、キャリブレーションや外部制御の必要性無しに効率的に任意の形状のインレイに電磁的電力をカップリングすることを適用可能とする、改善された電磁カプラ配置を提供することを目的とする。
【0026】
限定されない実施形態の、これらの、そして他の観点および特徴は、添付されている図面と併せて、特定の限定されない実施形態についての以下の記述を考察することにより当業者に明らかになるだろう。
【図面の簡単な説明】
【0027】
本発明の限定されない実施形態の特徴と利点は、添付されている図面に図示された以下の記載から明らかになろう。
【
図1】
図1は、本発明の限定されない実施形態に係る多層の電磁カプラ配置のブロック図である。
【
図2】
図2は、本発明の限定されない実施形態において設けられる異なる伝送線路ループの単純化された機能についての図である。
【
図3】
図3は、本発明の限定されない実施形態に従った、エンコードされるべきインレイとともに多層の電磁カプラ配置の例示的な層構造の図である。
【
図4】
図4は、インレイジオメトリの例を示す図である。
【
図5】
図5は、超楕円の方程式に基づく複数の例示的なループジオメトリを示す図である。
【
図6】
図6は、本発明の限定されない実施形態に従った異なる伝送線路ループの1次元配列の例を示す図である。
【
図7】
図7は、本発明の限定されない実施形態に従った異なる伝送線路ループの2次元配列の例を示す図である。
【
図8】
図8は、2次元配列の列間の位相補償を実現するための例示的な配置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
ここに開示される限定されない実施形態は、標準の入力信号(例えば、50Ωシステムにおける信号)を、RFIDインレイに向かうカップリングのための如何なる波形現象(伝播)なしに、改善された近傍界に変換する。本発明の限定されない実施形態に従ったカップリングは、基本的に磁気(誘導性)カップリングである。インレイは、大きな距離での伝播のために(または少なくとも放射近傍界のために)遠方界で調整されるデバイスであることから、本発明の限定されない実施形態は、放射ベースのカップリングを制限し、その代わりに、リアクティブ近傍界においてカプラからインレイ(具体的には、インレイのトランスポンダチップ)に向けてエネルギーと情報をカップリングするようにしてなされる。結果的に、インレイは、もはや場の放射デバイスとみなされず、受信器としてのインレイのトランスポンダチップとともに信号伝達チェーンとみなされる。そのため、本発明の限定されない実施形態は、破壊的なキャビティ妨害と、RFID可能なプリンタにおける厳しい要求特性である、エンコードされるべきインレイに隣接するインレイとの間の無線周波数(RF)における絶縁の問題を限定的なものにする。
【0029】
本発明の限定されない実施形態に係る多層の電磁カプラ配置の一要素(実際には、カップリング要素)は、差動伝送線路ループ(以下では、差動TRLまたはDTLLと略記する。)である。差動伝送線路ループは、隣接した(あるいは近接した)入出力端と差動フィード信号により1つのループジオメトリに形成された有限長の伝送線路(TRL)の組合せである。差動フィード信号は、振幅が等しく、かつ時間において180度の位相差がある2つの信号部分に入力信号を分割する装置によって生成される。この装置は、バランとして知られている(「バラン」という語は、平衡(balanced)と不平衡(unbalanced)の意味である。)。信号部分は、各DTLLの1つの端子をフィードする。そのため、TRLの2つの端子は、単一の差動ポートとして考えることができる。
【0030】
ループの目的は、RFIDインレイ、またはより一般的に言えばタグの誘導性ループに向かって、リアクティブ近傍界の磁気誘導によってRFエネルギーをカップリングすることである。そのため、ループは、基板の露出された上面層に配置される。グランドプレーン(グランドに接続される金属プレーン)の形をとる分布したグランドリファレンスは、基板の反対側にある中間層である。
【0031】
バランは多くの方法で実現されてもよい。一例は、集中定数素子のトポロジーである。実現性の如何にかかわらず、適切な位置は、ループが配置されている上面側に対してグランドプレーンの反対側である。バランの差動出力とループの差動入力との間の接続は、好ましくは、バラン層をループ層に接続するビアを通して確立される。
【0032】
これら2つの間のループ層、グランドプレーン、および基板がマイクロストリップ技術によって構成され、グランドプレーンの反対側の1または複数の対向する層が形成されており、限定するものではないがマイクロストリップ技術によって構成される。唯一の共通の要件は、差動信号の生成である。
【0033】
図1は、DTLLを含む、本発明の限定されない実施形態に係る電磁カプラ配置10の単純化されたブロック図を示す。
【0034】
当該配置は、入力端子1、バラン2、グランドプレーン4、基板5、および、TRLループ6を備える。ループ6は、上面層に配置されている。基板5は、上面層とグランドプレーン4の間に配置されている。
【0035】
デフォルトの50Ω同軸ケーブルシステムからの入力信号は、入力端子1において入力される。バラン2は当該入力信号を、TRLループ6の2つの端子(図示せず)にフィードされる2つの信号7,8に分割する。具体的には、バラン2は、入力信号を同じ振幅で互いに180度位相シフトがなされた2つの信号に分割するように動作する。そのような信号の組合せ(7,8)は「差動信号」とみなされる。グランドプレーン4および基板5を通して信号7,8をループ6にフィードするために、ビア3が想定される。
【0036】
グランドプレーン4は、一方ではループ内のエネルギーを集中させて放射損失を回避するために役立つシールド(遮蔽)特性を提供し、他方では、隣接するインレイ(例えば、プリンタのキャビティを通して媒体通路に沿って案内される紙片上の、現在エンコードされているインレイに先立つインレイと、現在エンコードされているインレイに続くインレイ)が同時にカップリングされないようにカプラ配置をシールドするために提供される。
【0037】
さらに、本発明の限定されない実施形態に従って、バランは電気的要素を含む。当該電気的要素は、その出力インピーダンスを、外部のフィードシステムのインタフェースのインピーダンスと整合をとるとともに、伝送線路ループのインダクタンスを補償するためのものである。
【0038】
図2は、簡略化された差動伝送線路ループ、すなわち、本発明の限定されない実施形態のカップリング要素の機能図である。カップリング要素は、連続的な伝送線路(マイクロストリップ技術によるもの)であり、(概ね)閉ループ6を形成するように形作られている。ループ6の開放端は、端子21および端子22を構成し、それらに信号7および信号8(破線で図示されている)がフィードされる。信号7および信号8は、互いに180度の位相差がある。
図1を参照して上述したように、信号7および信号8は、同一振幅で反転された位相の2つの信号に入力信号が分割された結果として、バランにより出力される。
【0039】
差動フィードの結果として、ループ6の電流の方向は、ループにおいて矢印で図示されており、ループを通して(所定の時間において)同じ向きでありうる。
【0040】
分布した場における理論的なコンポーネントを代表する、連続的な伝送線路ループとしてのカップリング要素の設計は、整合(マッチング)を考慮することなく実行可能である。逆に、入力の整合の目的のためにループ構成内の中間地点にディスクリートのコンポーネントが含まれていたならば、場のカップリングの最適化とコンポーネント値の最適化の間で不必要な繰り返しが必要となっていたであろう。そのため、連続的な伝送線路ループは、カップリング構成の内部においてディスクリートの分布素子(コンポーネント)を組み合わせることと比較して相当な設計上の利点を提供する。本発明の限定されない実施形態によれば、すべてのディスクリートのコンポーネントは、本実施形態の配置のフィード側またはバラン側、すなわち、カップリング要素に対してグランドプレーンの反対側に配置されている。
【0041】
そのため、本発明の限定されない実施形態は、まず第1に(そして独立に)伝送線路ループのジオメトリを最適化することを促進し、第2に、伝送線路ループのジオメトリが最適化された後に、適切な電子コンポーネントを選択することによって、バラン側のインピーダンス整合を実行することを促進する。バランは3つの機能的特性を備えている。第1の特性は、同一の振幅の2つの部分に入力信号を分割することである。第2の特性は、当該2つの部分を、180度位相をずらすことである。第3の特性は、ループの入力で見られるように、例えば50Ωのシステム等の外部のフィードシステムインタフェースの非差動インピーダンスから異なるインピーダンスレベルへのインピーダンス変更を構成する。言い換えれば、インピーダンス変換の第3の機能をも実行することから、本発明の限定されない実施形態のバランは変換器としてみなされてもよく、「バラン変換器」として示されてもよい。インピーダンス変換は一般的に、インピーダンス伝達比率(impedance transmission ratio)kによって特徴付けられる。非差動インピーダンスが差動インピーダンスに変換される本発明の限定されない実施形態の場合には、kは(DTLLの入力における)差動インピーダンス値と(外部のフィードシステムインタフェースの)非差動インピーダンス値の比率の2倍に等しい。50Ωの外部フィードシステムの場合、ループの入力における差動インピーダンスレベルが50Ωであると想定すると、インピーダンス伝達比率はk=5である。
【0042】
一般的に、バランから「みた」ときには、その出力において高いリアクティブインピーダンス(または高いQ値)であるが、それは、TRLループの誘導的特性とグランドプレーンの存在のためである。各電子コンポーネントを含むことによって、当該インピーダンスは、フィード側のインピーダンスと整合がとられる。
【0043】
高いQ値(高い値のQファクタあるいは品質係数)では、Qファクタが一般的に回路の共振周波数のバンド幅(半分の電力のバンド幅)に対する関係を表すことから、高効率の誘導カップリングとなるがハンド幅は減少する。このことは、高効率で電力の伝達を可能とする周波数の幅が限定されていることを意味する。そのため、マッチングは好ましくは、Q値を特定の許容可能な範囲まで低減させる方法で行われる。これは、例えば、バランの出力において内部抵抗を含ませることによって行われる。これが可能となるのは、差動的にフィードされる伝送線路ループと単一周波数におけるインレイの誘導ループの間で達成可能な、潜在的に非常に高いカップリングファクタを考慮すると、所望のバンド幅に亘ってDTLLによって示される全体的なカップリングファクタにより、トランスポンダチップに伝達される電力の低下が受け入れられる場合である。
【0044】
図3は、本発明の限定されない実施形態に係る多層の電磁カプラ配置の多層構造のより一般的な図である。
【0045】
そこで見られるように、(金属の)3層(すなわち、上面層、グランド層、フィード層)が存在するが、本発明の限定されない実施形態は3層より多くの層を含んでもよい。
【0046】
図3において限定されない実施形態を参照すると、6層の金属の信号層(s1,s2,s3,s4,s5,s6)を有する多層構造がある。複数、つまり5個の誘電体基板層(d1,d2,d3,d4,d5)が2層の隣接する金属層の間に配置され、それによって隣接する金属層に「挟持」されている。そのため、信号層は電気的に絶縁されている。
【0047】
多層構造は、底面と上面を含み、それぞれ金属層s1,s6によって形成されている。図示された構造では、層s6は、差動TRLループを含む上面層に相当する。
図3はさらに、エンコードされるべきRFIDタグ30を示しており、それは上面層s6に近接して配置されている。言い換えれば、プリンタにおいて、上面層s6は、エンコードされるべきRFIDタグが案内されるプリンタの媒体通路の近くに配置されている。概して、多層構造は平面的であってもよく、あるいは、より先進的な機械配置においては、媒体通路に対して湾曲し、平行であって、一致していてもよい。
【0048】
誘電体特性および厚さに関して、誘電体層d1,d2,d3,d4は同じ型であるのに対して、誘電体層d5は異なる型であってもよい。誘電体層d5の誘電体特性および厚さは、ループジオメトリとともにカップリング特性に影響を与えるため、その決定は、最適化の一部分を構成する。異なる層の積み重ね、すなわち、異なる層の間の距離は、表面の如何なる位置においても一定である。さらに、底面と上面の間の距離は、最も高い直接的な定数を有する誘電体層と同一の誘電体特性を有する同種の媒体の自由空間の無線波長と比較して非常に短い。
【0049】
図示された限定されない実施形態では、層s1,s3およびs5は、グランドプレーン層である。層s2およびs4は、ストリップライン層であり、フィードのために機能する。層s6はマイクロストリップ層、すなわち、カップリング層(DTLLを含む)である。
【0050】
より具体的には、図示された限定されない実施形態では、s2およびs4は、ストリップライン技術において実現された、平衡されたフィード網(ネットワーク)を構成し、s1およびs6に配置された平衡されたコンポーネントのフィードに使用される。s6は単に、マイクロストリップ技術において実現された、分布素子(コンポーネント)を有する。
【0051】
単に3つの金属の信号層を有する限定されない実施形態では、上面層、グランド層およびフィード層は、それぞれ
図3の層s6、s5およびs4に相当する。
【0052】
差動伝送線路ループは、以下の式として与えられる周波数依存インダクタンスを示す。
【数2】
【0053】
ここで、Z
c,loopは、TRLの特性インピーダンスである。θは以下の式として与えられる電気長である。
【数3】
【0054】
ここで、cは光速であり、ε
effはTRLの実効誘電率であり、fは動作周波数であり、Lはループの物理長である。ループの幅および物理長は、所定の動作周波数における上記示されたインダクタンスを決定する。
【0055】
電気回路の観点から見ると、RFIDインレイは常に、ジオメトリ上の電流ループの形状は相当異なるものの、電流ループを有する。このループはまた、インレイの誘導ループ(インレイループ)として知られており、遠方界の放射コンポーネントである放射素子と統合されるリアクティブ近傍界のコンポーネントである。電流ループの存在は、インレイのトランスポンダチップが非常に容量性であり、無線電力の効率的なカップリングのためにインダクタンスを必要とするという事実によって実現される。電流ループは等価的にインダクタンスとしてとらえることが可能である。電流ループ内には磁場が存在し、この磁場の近くに差動TRLループを配置することによって、TRLループ(カプラループ)とインレイの電流ループの間に相互カップリングが示される。そのため、非常に効率的なリアクティブ近傍界カップリング回路が生成される。カップリングにおける高い効率性は主として、TRLループの差動フィードを通して達成される。
【0056】
高いリアクティブ近傍界カップリングが達成されるのと同時に、インレイによる外へのRFエネルギーの放射がないことを確実にする必要がある。そのような放射は、目的とするインレイに近接して配置されている隣接インレイと相互作用するようになってしまう場合がある。そこで、グランドプレーン層s5は、効率的な2次元シールドとして作用する。
【0057】
グランドプレーンは、カプラループとインレイループとの間で近傍界の相互作用を隠蔽するのに十分は広さの平面を有するように考慮されているため、カプラループと、当該カプラループのインレイとの間の相互作用とは、個別の回路として取り扱うことが可能である。当該個別の回路は、差動フィードデバイスとは独立しており、グランドプレーンによって遮蔽されているとみなすことができる。カプラループとインレイループの間の相互作用は、当該2つのループのジオメトリに大きく依存している。注意しなければならないことは、インレイループもまた、インレイのアンテナ特性によって、自由空間内に配置された差動デバイスである、ということである。しかしながら、グランドプレーンはインレイとカプラループに近接して配置されているため、放射は無視できると考えてよい。そのため、本発明の限定されない実施形態は、リアクティブ近傍界カップリング構成を提供する。
【0058】
本発明の限定されない実施形態に係る、ループジオメトリとその最適化/改善について、
図4および
図5に関連付けて説明する。
【0059】
図4は、インレイのジオメトリの例を図示している。既に説明されたように、図示されたインレイのジオメトリは、誘導性のループを含む共通の特徴を備えている。当該ループは、図面において閉じられた点線でそれぞれ示されている。
【0060】
カプラループのジオメトリは、インレイの多様なジオメトリに対する効率的なカップリング特性を実現するために構成されてもよい。すべてのRFIDインレイの共通の特徴は、誘導性の電流インレイループの存在である。
【0061】
すべてのインレイは誘導性ループを含むため、固定のカプラループのジオメトリは、如何なる可能なインレイループのジオメトリに対する効率的なカップリングを達成しうる。無論、カップリングのレベルは、当該固定のカプラループのジオメトリのためのインレイループのジオメトリに依存して相違するが、トランスポンダチップの高い感度は、これらの相違に対する余裕度(マージン)をもたらす。そのため、「効率的」とは、閾値レベルに対する余裕度に対する隔たりとして理解されるべきである。ここで、差動でのシグナリングもまた重要であり、非差動でフィードされたカプラにおける場合よりも強いカップリングレベルの結果となる。
【0062】
カプラループのジオメトリの具体的な例として、異なるパラメータの超楕円形状を備えた複数のカプラが
図5に示される。本発明の限定されない実施形態に好適な超楕円形状は、以下の式に従い、カーテシアン座標xおよびyにおいてパラメトリックに定義される。
【数4】
【0063】
これらの方程式において、a(長さ)およびb(高さ)は長さの次元であり、それぞれx座標、y座標における超楕円の大きさを規定するのに対し(そのため、通常の楕円の半径(half axes)の一般化である)、パラメータnおよびmは曲率、すなわち、通常の楕円(n=m=2)から長方形(n,m>2)への偏差(逸脱度合い)を規定する。θは曲線のパラメータ表現での変数パラメータである。
【0064】
図5において、a=7.5mm(ミリメートル)(上側の例)のパラメータ値と、a=15.5mm(ミリメートル)(下側の例)のパラメータ値とが図示されている。bは、すべての例においてb=4.6mmに設定されている。nおよびmに対して、n=m=2の値(左側の例)と、n=m=20の値(右側の例)とが使用された。破線は、対称軸を示している。2つの対称軸は、超楕円形状に対して共通である。
【0065】
電気的なTRLの観点から、強く抑圧された電磁界のために、カプラループの入力は端子において、ループの形状ではなくループの長さと軌道のみに依存する機能によってよく近似される。そのため、この特定のジオメトリ上の形態によってカバーされない他の非対称形状が存在し、それは、効率的な近傍界のカップリングの可能性のある候補である。ループは、
図5に示された特定のジオメトリ上の形状に限定されない。
【0066】
シミュレーションが示すように、仮に、カプラのTRLループもカプラに近付けられたRFIDタグのインレイアンテナ(放射体)をカバーするように、ループの長さ寸法(
図5のx軸)が大きいとしたならば、インレイの電流ループとのカップリングに加えて、インレイアンテナとのカップリングも重要になる。このことは、破壊的な干渉をもたらしうる。
【0067】
上面層(
図3の層s6)は、単一のループ要素を含むものに限定されず、当該上面層s6(
図3の層s6)は、1次元または2次元に配列された複数の差動伝送線路ループを含むように構成されていてもよい。アレイ(配列)配置の場合には、複数のループを通して、定常的な位相の磁場分布が達成可能であり、それによって、任意の形状のインレイ構造が、外部制御の必要性なしにエンコード可能である。
【0068】
差動TRLループ6−1,6−2,6−3および6−4の1次元配列60を含む限定されない実施形態が
図6に示される。図示された限定されない実施形態では、1次元配置における位相補償は、
図6に示されるように、2つの隣接するループの端子間の「X」のような部分(交差するライン)によって、接続点のスイッチとの組合せにおいてループ間の半波部(λ/2;ここでλは伝送線路において導かれる波長である。)の使用によって達成される。
【0069】
特性インピーダンスZ
C、物理長L、電気長θ=(2π/λ)×Lを有するTRLに接続された、インピーダンスZ
lを有する負荷からみたときの入力インピーダンスは、以下の式で表される。
【数5】
【0070】
そのため、λ/2(θ=180°)の部分を含むことは、実質的に複数のループを並列に接続する。しかしながら、電流の位相は180度ごとに切り替わる。そのため、
図6において交差するラインによって示したように、隣接するループ間で接続点のシフトが必要となる。これが可能となるのは、(例えばストリップラインによって)フィード配置が異なる層に配置されているためである。なお、接続点は第2ループごとに存在する。
【0071】
限定されない実施形態では、バランの変換は、アレイの一端(値0°および180°によりそれぞれ示される。)で達成され、アレイの他端は、適切な負荷によって終端されてもよい。集中素子(コンポーネント)による実現やコンパクトな分布素子による実現等、バランの変換にはいくつかの可能性がある。
【0072】
差動TRLループ7−1,7−2,…,7−nの2次元配列70に対する延長を含む他の限定されない実施形態が
図7に示される。
図7から分かるように、
図6に示される1次元配列は、互いに隣り同士の複数のラインに位置される。
【0073】
2次元配列のライン間の位相補償は、
図8に示されるような集中素子(コンポーネント)の技術によって実現されうる。
図8は、
図7のアレイの隣接する複数のラインに接続し、入力電圧と入力電流(V
1,I
1)を出力電圧と出力電流(V
2,I
2)に変換するセグメント(部分)を示している。
【0074】
複数のループラインに接続するセグメントに対しては位相補償が必要となる。
図8において、特性値Z
Cおよびθ
0(図の左側)によって示されるTRLセグメントと、インダクタL(図の右側)とともに2つの容量C1および容量C2を備えた構成との組合せが模式的に図示されている。特性値Z
Cおよびθ
0はTRLセグメントの電気長に相当する。Z
CはTRLセグメントの特性インピーダンスであり、θ
0は、適用される電気信号の中心周波数に相当する位相角変化である。
【0075】
コンポーネントの値は、以下の式で与えられる。ここで、ω
0は適用される電気信号の中心周波数である。
【数6】
【0076】
より自己適応型のコンセプトに対するさらなる拡張においては、ループ要素とインレイの誘導性ループの相互カップリングは、対象となるループを活性化すると同時に、残りのループを非接続にするか非活性化させ続けるためのスイッチにトリガをかけるのに使用されてもよい。これが達成されるのは、インレイの向きおよび位置と無関係に、それがアレイ上に配置されている限り、誘導性ループに近接することによって他よりも強いカップリングを示す1または多くとも2つのループが常に存在する、という事実からである。これは、スイッチング網を駆動する制御回路に対するトリガ信号として使用されてもよい。なお、これは、高周波のカップリング回路上に載せられた直流(DC)による静的な技術であって、それゆえ独立である。当該技術は、カプラ構造の直流バイアスを必要とする。しかしながら、この追加のバイアスを除けば、カプラの機能は、ハードウェアとソフトウェアが組み込まれたプリンタにおいて、当該ハードウェアとソフトウェアから独立したものである。
【0077】
要約すると、本発明は広くは多層の電磁カプラ配置であって、RFIDタグをエンコードするためのものであり、プリンタに使用されるのに好適である。当該カプラ配置は、多層配置の上面層に配置されるカップリング要素として、差動伝送線路ループを使用する。差動伝送線路ループは、上面層の反対側においてシールドするための金属のグランドプレーン層に近接して配置される。カップリングは、リアクティブ近傍界における誘導性のカップリングによって達成され、それは、各RFIDタグが電流ループそれ自体を有するという事実に基づいている。伝送線路ループの差動特性は、互いに180度位相がずれた信号部分をループの端子にフィードすることによって達成される。フィード用コンポーネントは、電流ループを有する上面層に対してグランドプレーンの反対側に配置される。上面層には、1次元または2次元配列の形態で複数の差動伝送線路ループを配置することが可能である。
【0078】
なお、上述した記載は、より適切ないくつかの限定されない実施形態の概要を述べたものである。開示された限定されない実施形態に対する改変をその精神と範囲から逸脱することなく達成可能であることは当業者にとっては明らかである。そのように、記載された限定されない実施形態は、いくつかのより優れたと特徴と応用に対する単なる例示に過ぎないものとして考慮されるべきである。他の有益な結果は、当該限定されない実施形態を、当該技術分野との親和性が高いものとして知られた方法で、異なる手法により適用し、あるいは当該実施形態を改変することにより実現可能である。これは以下のことを含む。すなわち、様々な限定されない複数の実施形態の間の特徴、要素、および/または、機能の組合せと整合がここで想定されており、それによって、1つの実施形態の特徴、要素、および/または、機能が、上での別段の記載がない限り、他の実施形態に当該技術分野の技術として適宜組み込まれてもよいことが、この開示から当業者が正しく理解するだろう。この記述は、特定の配置および方法に対してなされたものであるが、その意図および概念は、他の配置および応用に対して好適であってもよいし、適用可能であってもよい。