特許第6703639号(P6703639)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6703639塗料の製造方法及び色彩データを予測する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6703639
(24)【登録日】2020年5月12日
(45)【発行日】2020年6月3日
(54)【発明の名称】塗料の製造方法及び色彩データを予測する方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 201/00 20060101AFI20200525BHJP
   G06N 20/00 20190101ALI20200525BHJP
   B05D 3/00 20060101ALI20200525BHJP
   C09D 7/80 20180101ALI20200525BHJP
【FI】
   C09D201/00
   G06N20/00 130
   B05D3/00 D
   C09D7/80
【請求項の数】13
【全頁数】37
(21)【出願番号】特願2019-238855(P2019-238855)
(22)【出願日】2019年12月27日
【審査請求日】2019年12月27日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001409
【氏名又は名称】関西ペイント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100214363
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 達也
(72)【発明者】
【氏名】清水 博
(72)【発明者】
【氏名】東谷 智章
(72)【発明者】
【氏名】赤羽 準治
(72)【発明者】
【氏名】長野 千尋
(72)【発明者】
【氏名】永見 睦
【審査官】 菅野 芳男
(56)【参考文献】
【文献】 特表2008−509486(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00−201/00
B05D 3/00
G06N 20/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1種類以上の色材を含有する組成物の配合組成データY及び対応する色彩データXが少なくとも登録されたデータベースと、該データベースに登録されたデータを利用した色合わせ計算ロジックが作動するコンピュータと、を備える装置を用いるコンピュータ調色に基づく塗料の製造方法であって、下記S101〜S111工程を含む、前記塗料の製造方法。
(S101)前記データベースに登録されたデータを用い、学習用データを前記コンピュータに入力する工程
(S102)前記学習用データを機械学習させ、配合組成データYから色彩データXを推定する人工知能モデルの少なくとも1種を生成する工程
(S103)目標とする色彩の目標色彩データXを得る工程
(S104)前記目標色彩データXを、前記コンピュータに入力する工程
(S105)コンピュータを用いた検索により、前記目標色彩データXに近似する検索色彩データXn1及び検索色彩データXn1に対応する近似配合組成データYn1を得るとともに、前記目標色彩データXと前記検索色彩データXn1とを比較し合否を判定する工程
(S106)前記S105工程において合格しない場合に、コンピュータを用いて目標色彩データXを与えると予測される候補配合組成データYniを得た後、前記少なくとも1種の学習した人工知能モデル及び/又は前記人工知能モデル以外の予測式を用いて、候補配合組成データYniから予測される予測色彩データXniを得るとともに、前記色彩データXと前記予測色彩データXniとを比較し、合否を判定する工程
(S107)前記S106工程において合格しない場合に、コンピュータを用いて目標色彩データXを与えると予測される候補配合組成データYniを得た後、前記少なくとも1種の学習した人工知能モデル及び/又は前記人工知能モデル以外の予測式を用いて、候補配合組成データYniから予測される予測色彩データXniを得るとともに、前記色彩データXと前記予測色彩データXniとを比較し、合否を判定する工程を、合格するまで繰り返す工程
(S108)前記S105〜S107工程のいずれかで合格した際の、合格配合組成データYC1を得る工程
(S109)前記合格配合組成データYC1に基づき、実候補塗料CMCiを調製し、該実候補塗料CMCiの塗装板を得て、実測色彩データXCiを取得する工程
(S110)前記色彩データXと前記実測色彩データXCiとの比較、及び/又は、前記目標とする色彩と前記実候補塗料CMCiの塗装板の色彩との比較により、合否を判定する工程
(S111)前記S110工程において合格しない場合に、前記S106〜S110工程を繰り返す工程
【請求項2】
前記S103工程において、目標色彩データXが、光輝性顔料を含む塗膜の色彩データである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記S111工程において合格しない場合において、前記予測色彩データXniと前記実測色彩データXCiの差分Δを補正係数αとしてコンピュータに入力した後に、前記S106〜S111工程が繰り返される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
1種類以上の色材を含有する組成物の配合組成データY及び対応する色彩データXが少なくとも登録されたデータベースと、該データベースに登録されたデータを利用した色合わせ計算ロジックが作動するコンピュータと、を備える装置を用いる塗膜の色彩データを予測する方法であって、下記S201〜S209工程を含む、前記方法。
(S201)前記データベースに登録されたデータを用い、学習用データを前記コンピュータに入力する工程
(S202)前記学習用データを機械学習させ、配合組成データYから色彩データXを推定する人工知能モデルの少なくとも1種を生成する工程
(S203)塗膜の色彩データを予測する塗料CMの配合組成データYCMを得る工程
(S204)前記配合組成データYCMを、前記コンピュータに入力する工程
(S205)必要に応じて、コンピュータを用いた検索により、前記配合組成データYCMに対応する検索色彩データXn1を取得する工程
(S206)前記S205工程で対応する検索色彩データXn1が検索されなかった場合、又は、前記S205工程を行わなかった場合において、前記配合組成データYCMから、前記少なくとも1種の学習した人工知能モデル、又は、前記少なくとも1種の学習した人工知能モデルと前記人工知能モデル以外の予測式とを用いて、予測色彩データXm1を得る工程
(S207)必要に応じて、前記塗料CMを塗装した塗装板の実測色彩データXCMを取得し、前記予測色彩データXm1と比較する工程
【請求項5】
前記人工知能モデルの少なくとも1種を生成する工程が、
(i)光輝性顔料を含まない組成物の1種類以上に係る、各配合組成データY及び各色彩データXを学習用データとして用い、人工知能モデルを学習させる工程と、
(ii)光輝性顔料を含む組成物の1種類以上に係る、各配合組成データY及び各色彩データXを学習用データとして用い、人工知能モデルを学習させる工程と、
を含む、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記人工知能モデルの少なくとも1種を生成する工程が、
組成物中の光反射性顔料の含有量、光干渉性顔料の含有量、配向制御剤の含有量、組成物中の光反射性顔料の各色相別の含有量、光干渉性顔料の各色相別の含有量、着色剤の各色相別の含有量、及び、それらの含有量の2つ以上の合計から選ばれる1種類以上のデータ、及び/又は、
組成物に含まれる色材の形状データ、
を学習用データとして用い、人工知能モデルを学習させる工程を含む、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記判定する工程で合格しない場合において、人工知能モデル以外の予測式を用いるように切り替える工程が前記繰り返す工程に含まれる、請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記データベースに登録された1種類以上の色材を含有する組成物の配合組成データY及び対応する色彩データXは、実測データ、又は、実測データと実測データに基づき算出されたデータとを含む、請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
車両の補修塗装を行う際に用いられる、請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
1種類以上の色材を含有する組成物の配合組成データY及び対応する色彩データXが少なくとも登録されたデータベースと、該データベースに登録されたデータを利用した色合わせ計算ロジックが作動するコンピュータと、を備えるコンピュータ調色システムであって、下記手段S301〜S311を含む、前記システム。
(S301)前記データベースに登録されたデータを用い、学習用データを前記コンピュータに入力する手段
(S302)前記学習用データを機械学習させ、配合組成データYから色彩データXを推定する人工知能モデルの少なくとも1種を生成する手段
(S303)目標とする色彩の目標色彩データXを得る手段
(S304)前記目標色彩データXを、前記コンピュータに入力する手段
(S305)コンピュータを用いた検索により、前記目標色彩データXに近似する検索色彩データXn1及び検索色彩データXn1に対応する近似配合組成データYn1を得るとともに、前記目標色彩データXと前記検索色彩データXn1とを比較し合否を判定する手段
(S306)前記手段S305において合格しない場合に、コンピュータを用いて目標色彩データXを与えると予測される候補配合組成データYniを得た後、前記少なくとも1種の学習した人工知能モデル及び/又は前記人工知能モデル以外の予測式を用いて、候補配合組成データYniから予測される予測色彩データXniを得るとともに、前記色彩データXと前記予測色彩データXniとを比較し、合否を判定する手段
(S307)前記手段S306において合格しない場合に、コンピュータを用いて目標色彩データXを与えると予測される候補配合組成データYniを得た後、前記少なくとも1種の学習した人工知能モデル及び/又は前記人工知能モデル以外の予測式を用いて、候補配合組成データYniから予測される予測色彩データXniを得るとともに、前記色彩データXと前記予測色彩データXniとを比較し、合否を判定する手段を、合格するまで繰り返す手段
(S308)前記手段S305〜S307のいずれかで合格した際の、合格配合組成データYC1を得る手段
(S309)前記合格配合組成データYC1に基づき、実候補塗料CMCiを調製し、該実候補塗料CMCiの塗装板を得て、実測色彩データXCiを取得する手段
(S310)前記色彩データXと前記実測色彩データXCiとの比較、及び/又は、前記目標とする色彩と前記実候補塗料CMCiの塗装板の色彩との比較により、合否を判定する手段
(S311)前記手段S310において合格しない場合に、前記手段S306〜S310を繰り返す手段
【請求項11】
1種類以上の色材を含有する組成物の配合組成データY及び対応する色彩データXが少なくとも登録されたデータベースと、該データベースに登録されたデータを利用した色合わせ計算ロジックが作動するコンピュータと、を備える装置を用いる塗膜の色彩データを予測するシステムであって、下記手段S401〜S409を含む、前記システム。
(S401)前記データベースに登録されたデータを用い、学習用データを前記コンピュータに入力する手段
(S402)前記学習用データを機械学習させ、配合組成データYから色彩データXを推定する人工知能モデルの少なくとも1種を生成する手段
(S403)塗膜の色彩データを予測する塗料CMの配合組成データYCMを得る手段
(S404)前記配合組成データYCMを、前記コンピュータに入力する手段
(S405)必要に応じて、コンピュータを用いた検索により、前記配合組成データYCMに対応する検索色彩データXn1を取得する手段
(S406)前記手段S405で対応する検索色彩データXn1が検索されなかった場合、又は、前記手段S405を行わなかった場合において、前記配合組成データYCMから、前記少なくとも1種の学習した人工知能モデル、又は、前記少なくとも1種の学習した人工知能モデルと前記人工知能モデル以外の予測式とを用いて、予測色彩データXm1を得る手段
(S407)必要に応じて、前記塗料CMを塗装した塗装板の実測色彩データXCMを取得し、前記予測色彩データXm1と比較する手段
【請求項12】
前記システムが、得られた配合組成データに基づき自動調合して調色配合を行う自動調合手段を備えている、請求項10又は11に記載のシステム。
【請求項13】
請求項10〜12のいずれかに記載のシステムを制御し動作させるためのアプリケーションソフトウェア。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗料の製造方法及び色彩データを予測する方法に関する。詳しくは、コンピュータ調色に基づく塗料の製造方法及び塗膜の色彩データを予測するシステムに関する。また、本発明は、コンピュータ調色システム、塗膜の色彩データを予測するシステム、及び、これらのシステムを制御し動作させるためのアプリケーションソフトウェアに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、個人の好みの多様化、美粧性の向上の点等から、各種の工業製品、特に、自動車の色彩として、金属粉や光輝性マイカ等の光輝性顔料に基づく光輝性の色彩が増加している。このような光輝性の色彩に対して補修等を行う際には、光輝性顔料を含む補修用塗料を補修部分に塗布することが一般的に行われている。
【0003】
光輝性の色彩の補修に際しては、色調だけではなく、光輝感も調整することで、補修箇所等が目立たないようにする必要がある。しかし、色調と光輝感の両方を満たす光輝性の色彩の補修用塗料を調製する際には、熟練の作業者であっても、試行錯誤を繰り返して多数の補修用塗料を試作する必要が生じる場合もあった。さらに、経験の少ない作業者にとっては、熟練の作業者以上に試行錯誤を繰り返して多数の補修用塗料を試作する必要があり、非常に困難な作業となっていた。
作業者が試行錯誤を繰り返すことにより、作業時間が長時間となり、補修期間の長期化、効率の低下といった問題に加え、試作したものの使用できない補修用塗料に基づくコストや廃棄の問題等も生じる。
【0004】
このため、作業者の熟練度等の要因によらずに、補修用塗料を迅速かつ効率よく作製するために多数の検討がなされてきた。その中の一つとして、測色計での測色により得られた目標とする色彩の色彩データと、配合組成が既知である色見本の色彩データとから、コンピュータを用いて目標とする色彩の配合組成を得るコンピュータ・カラーマッチング(CCM)システムを用いる検討がなされてきた。しかし、光輝性の色彩、例えば、光輝性顔料を含むメタリック塗色は、分光反射率の角度依存性を有しており、従来のCCMにおいて対応することが困難であった。
また、これまでの補修用塗料の調色においては、近似する塗料調色配合(近似配合と略す場合がある)を得た後に、これを出発点としてさらに微調色を行なう必要が生じることが多く、特に、光輝性の色彩となる補修用塗料の調製にあたっては、従来のCCMでは最近似配合の精度、再現性に限界があり、作業者による調色の試行錯誤を繰り返す工数が依然として多く発生しており、補修用塗料を迅速かつ効率よく作製することに問題があった。
【0005】
特許文献1には、コンピュータ利用による色合わせシステムにおいて、未知の色パネルの全スペクトル反射率を分光光度計によって決定し、この反射率データをコンピュータに送り、コンピュータは顔料のK値(光吸収係数)及びS値(光散乱係数)を表す予め記録されたデータを数学的に処理し、論理的色合わせを行う方法が開示されている。
特許文献2には、測色計と、ミクロ光輝感測定器と、複数の塗料配合、該各塗料配合に対応した色データとミクロ光輝感データ、複数の原色塗料の色特性データとミクロ光輝感特性データが登録されており、色合わせ計算ロジックが作動するコンピュータと、から構成されてなるコンピュータ調色装置及びそれを用いた調色方法が開示されている。
特許文献3には、測色計と、ミクロ光輝感見本色票と、複数の塗料配合、該各塗料配合に対応した色データとミクロ光輝感データ、複数の原色塗料の色特性データとミクロ光輝感特性データが登録されており、色合わせ計算ロジックが作動するコンピュータと、から構成されてなるコンピュータ調色装置を用いた調色方法が開示されている。
【0006】
特許文献4には、補修用塗料の最終微調色として有用なメタリック系塗色の調色方法として、正面色とスカシ色とを目視で比較した際の違いに基づいて、メタリック塗料の調色配合を変更する際に、塗色の正面色とスカシ色との尺度に基づく特徴と、正面色の明度が変化しない各メタリック原色塗料の配合変換指数を用いることが記載されている。
特許文献5には、塗料の視覚的質感パラメータを、塗料配分組成に使用される色成分に基づく人工ニューラルネットワークによって決定又は予測することが記載されている。しかし、分光反射特性等の光学特性については、既知の塗料配分組成に対する物理モデルによって決定又は予測するものである。光学特性の予測が難しい光輝性の色彩に対する補修用塗料を調製する際には、多くの試行錯誤を要することが予測される。
特許文献6には、光輝性塗膜等において、所望の質感を有する塗色又は所望の色カテゴリに属する塗色を決定するために、塗色の分光反射率やミクロ光輝感等のデータを用いてニューラルネットワークを学習させるステップを含む、塗色データベース作成方法及び該データベースを用いた塗色の検索方法が記載されている。しかし、光学特性の予測が難しい光輝性の色彩に対する補修用塗料を調製する際の具体的操作等については、何ら開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公昭50−28190号公報
【特許文献2】特開2001−221690号公報
【特許文献3】国際公開第2002/004567号
【特許文献4】特開2004−224966号公報
【特許文献5】特表2019−500588号公報
【特許文献6】国際公開第2008/156147号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、光学特性の予測が難しい光輝性の色彩を含む、多種多様な色彩の塗色を得るための塗料の製造方法であって、作業者の熟練度によらず、少ない試作回数で調色を終了させることができるコンピュータ調色に基づく塗料の製造方法を提供することである。
本発明の目的は、光輝性顔料等を含む多種多様な組成の塗料の塗膜について、その色彩データを高精度で予測できる塗膜の色彩データを予測する方法を提供することである。
本発明の目的は、光学特性の予測が難しい光輝性の色彩を含む、多種多様な色彩の塗色を得るための塗料を調製するためのコンピュータ調色システムであって、作業者の熟練度によらず、少ない試作回数で調色を終了させることができるコンピュータ調色システムを提供することである。
本発明の目的は、光輝性顔料等を含む多種多様な組成の塗料の塗膜について、その色彩データを高精度で予測できる塗膜の色彩データを予測するシステムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行い、以下のような構成とすることで、上記の課題を解決することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
具体的には、以下のとおりである。
[項1]
1種類以上の色材を含有する組成物の配合組成データY及び対応する色彩データXが少なくとも登録されたデータベースと、該データベースに登録されたデータを利用した色合わせ計算ロジックが作動するコンピュータと、を備える装置を用いるコンピュータ調色に基づく塗料の製造方法であって、下記S101〜S111工程を含む、前記塗料の製造方法。
(S101)前記データベースに登録されたデータを用い、学習用データを前記コンピュータに入力する工程
(S102)前記学習用データを機械学習させ、配合組成データYから色彩データXを推定する人工知能モデルの少なくとも1種を生成する工程
(S103)目標とする色彩の目標色彩データXを得る工程
(S104)前記目標色彩データXを、前記コンピュータに入力する工程
(S105)コンピュータを用いた検索により、前記目標色彩データXに近似する検索色彩データXn1及び検索色彩データXn1に対応する近似配合組成データYn1を得るとともに、前記目標色彩データXと前記検索色彩データXn1とを比較し合否を判定する工程
(S106)前記S105工程において合格しない場合に、コンピュータを用いて目標色彩データXを与えると予測される候補配合組成データYniを得た後、前記少なくとも1種の学習した人工知能モデル及び/又は前記人工知能モデル以外の予測式を用いて、候補配合組成データYniから予測される予測色彩データXniを得るとともに、前記色彩データXと前記予測色彩データXniとを比較し、合否を判定する工程
(S107)前記S106工程において合格しない場合に、コンピュータを用いて目標色彩データXを与えると予測される候補配合組成データYniを得た後、前記少なくとも1種の学習した人工知能モデル及び/又は前記人工知能モデル以外の予測式を用いて、候補配合組成データYniから予測される予測色彩データXniを得るとともに、前記色彩データXと前記予測色彩データXniとを比較し、合否を判定する工程を、合格するまで繰り返す工程
(S108)前記S105〜S107工程のいずれかで合格した際の、合格配合組成データYC1を得る工程
(S109)前記合格配合組成データYC1に基づき、実候補塗料CMCiを調製し、該実候補塗料CMCiの塗装板を得て、実測色彩データXCiを取得する工程
(S110)前記色彩データXと前記実測色彩データXCiとの比較、及び/又は、前記目標とする色彩と前記実候補塗料CMCiの塗装板の色彩との比較により、合否を判定する工程
(S111)前記S110工程において合格しない場合に、前記S106〜S110工程を繰り返す工程
【0010】
[項2]
前記S103工程において、目標色彩データXが、光輝性顔料を含む塗膜の色彩データである、項1に記載の方法。
[項3]
前記S111工程において合格しない場合において、前記予測色彩データXniと前記実測色彩データXCiの差分Δを補正係数αとしてコンピュータに入力した後に、前記S106〜S111工程が繰り返される、項1又は2に記載の方法。
【0011】
[項4]
1種類以上の色材を含有する組成物の配合組成データY及び対応する色彩データXが少なくとも登録されたデータベースと、該データベースに登録されたデータを利用した色合わせ計算ロジックが作動するコンピュータと、を備える装置を用いる塗膜の色彩データを予測する方法であって、下記S201〜S209工程を含む、前記方法。
(S201)前記データベースに登録されたデータを用い、学習用データを前記コンピュータに入力する工程
(S202)前記学習用データを機械学習させ、配合組成データYから色彩データXを推定する人工知能モデルの少なくとも1種を生成する工程
(S203)塗膜の色彩データを予測する塗料CMの配合組成データYCMを得る工程
(S204)前記配合組成データYCMを、前記コンピュータに入力する工程
(S205)必要に応じて、コンピュータを用いた検索により、前記配合組成データYCMに対応する検索色彩データXn1を取得する工程
(S206)前記S205工程で対応する検索色彩データXn1が検索されなかった場合、又は、前記S205工程を行わなかった場合において、前記配合組成データYCMから、前記少なくとも1種の学習した人工知能モデル、又は、前記少なくとも1種の学習した人工知能モデルと前記人工知能モデル以外の予測式とを用いて、予測色彩データXm1を得る工程
(S207)必要に応じて、前記塗料CMを塗装した塗装板の実測色彩データXCMを取得し、前記予測色彩データXm1と比較する工程
【0012】
[項5]
前記人工知能モデルの少なくとも1種を生成する工程が、
(i)光輝性顔料を含まない組成物の1種類以上に係る、各配合組成データY及び各色彩データXを学習用データとして用い、人工知能モデルを学習させる工程と、
(ii)光輝性顔料を含む組成物の1種類以上に係る、各配合組成データY及び各色彩データXを学習用データとして用い、人工知能モデルを学習させる工程と、
を含む、項1〜4のいずれかに記載の方法。
[項6]
前記人工知能モデルの少なくとも1種を生成する工程が、
組成物中の光反射性顔料の含有量、光干渉性顔料の含有量、配向制御剤の含有量、組成物中の光反射性顔料の各色相別の含有量、光干渉性顔料の各色相別の含有量、着色剤の各色相別の含有量、及び、それらの含有量の2つ以上の合計から選ばれる1種類以上のデータ、及び/又は、
組成物に含まれる色材の形状データ、
を学習用データとして用い、人工知能モデルを学習させる工程を含む、項1〜5のいずれかに記載の方法。
[項7]
前記判定する工程で合格しない場合において、人工知能モデル以外の予測式を用いるように切り替える工程が前記繰り返す工程に含まれる、項1〜6のいずれかに記載の方法。
[項8]
前記データベースに登録された1種類以上の色材を含有する組成物の配合組成データY及び対応する色彩データXは、実測データ、又は、実測データと実測データに基づき算出されたデータとを含む、項1〜7のいずれかに記載の方法。
[項9]
車両の補修塗装を行う際に用いられる、項1〜8のいずれかに記載の方法。
【0013】
[項10]
1種類以上の色材を含有する組成物の配合組成データY及び対応する色彩データXが少なくとも登録されたデータベースと、該データベースに登録されたデータを利用した色合わせ計算ロジックが作動するコンピュータと、を備えるコンピュータ調色システムであって、下記手段S301〜S311を含む、前記システム。
(S301)前記データベースに登録されたデータを用い、学習用データを前記コンピュータに入力する手段
(S302)前記学習用データを機械学習させ、配合組成データYから色彩データXを推定する人工知能モデルの少なくとも1種を生成する手段
(S303)目標とする色彩の目標色彩データXを得る手段
(S304)前記目標色彩データXを、前記コンピュータに入力する手段
(S305)コンピュータを用いた検索により、前記目標色彩データXに近似する検索色彩データXn1及び検索色彩データXn1に対応する近似配合組成データYn1を得るとともに、前記目標色彩データXと前記検索色彩データXn1とを比較し合否を判定する手段
(S306)前記手段S305において合格しない場合に、コンピュータを用いて目標色彩データXを与えると予測される候補配合組成データYniを得た後、前記少なくとも1種の学習した人工知能モデル及び/又は前記人工知能モデル以外の予測式を用いて、候補配合組成データYniから予測される予測色彩データXniを得るとともに、前記色彩データXと前記予測色彩データXniとを比較し、合否を判定する手段
(S307)前記手段S306において合格しない場合に、コンピュータを用いて目標色彩データXを与えると予測される候補配合組成データYniを得た後、前記少なくとも1種の学習した人工知能モデル及び/又は前記人工知能モデル以外の予測式を用いて、候補配合組成データYniから予測される予測色彩データXniを得るとともに、前記色彩データXと前記予測色彩データXniとを比較し、合否を判定する手段を、合格するまで繰り返す手段
(S308)前記手段S305〜S307のいずれかで合格した際の、合格配合組成データYC1を得る手段
(S309)前記合格配合組成データYC1に基づき、実候補塗料CMCiを調製し、該実候補塗料CMCiの塗装板を得て、実測色彩データXCiを取得する手段
(S310)前記色彩データXと前記実測色彩データXCiとの比較、及び/又は、前記目標とする色彩と前記実候補塗料CMCiの塗装板の色彩との比較により、合否を判定する手段
(S311)前記手段S310において合格しない場合に、前記手段S306〜S310を繰り返す手段
【0014】
[項11]
1種類以上の色材を含有する組成物の配合組成データY及び対応する色彩データXが少なくとも登録されたデータベースと、該データベースに登録されたデータを利用した色合わせ計算ロジックが作動するコンピュータと、を備える装置を用いる塗膜の色彩データを予測するシステムであって、下記手段S401〜S409を含む、前記システム。
(S401)前記データベースに登録されたデータを用い、学習用データを前記コンピュータに入力する手段
(S402)前記学習用データを機械学習させ、配合組成データYから色彩データXを推定する人工知能モデルの少なくとも1種を生成する手段
(S403)塗膜の色彩データを予測する塗料CMの配合組成データYCMを得る手段
(S404)前記配合組成データYCMを、前記コンピュータに入力する手段
(S405)必要に応じて、コンピュータを用いた検索により、前記配合組成データYCMに対応する検索色彩データXn1を取得する手段
(S406)前記手段S405で対応する検索色彩データXn1が検索されなかった場合、又は、前記手段S405を行わなかった場合において、前記配合組成データYCMから、前記少なくとも1種の学習した人工知能モデル、又は、前記少なくとも1種の学習した人工知能モデルと前記人工知能モデル以外の予測式とを用いて、予測色彩データXm1を得る手段
(S407)必要に応じて、前記塗料CMを塗装した塗装板の実測色彩データXCMを取得し、前記予測色彩データXm1と比較する手段
[項12]
前記システムが、得られた配合組成データに基づき自動調合して調色配合を行う自動調合手段を備えている、項10又は11に記載のシステム。
[項13]
項10〜12のいずれかに記載のシステムを制御し動作させるためのアプリケーションソフトウェア。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、光学特性の予測が難しい光輝性の色彩を含む、多種多様な色彩の塗色を得るための塗料の製造方法であって、作業者の熟練度によらず、少ない試作回数で調色を終了させることができるコンピュータ調色に基づく塗料の製造方法が提供される。
本発明によれば、光輝性顔料等を含む多種多様な組成の塗料の塗膜について、その色彩データを高精度で予測できる塗膜の色彩データを予測する方法が提供される。
本発明によれば、光学特性の予測が難しい光輝性の色彩を含む、多種多様な色彩の塗色を得るための塗料を調製するためのコンピュータ調色システムであって、作業者の熟練度によらず、少ない試作回数で調色を終了させることができるコンピュータ調色システムが提供される。
本発明によれば、光輝性顔料等を含む多種多様な組成の塗料の塗膜について、その色彩データを高精度で予測できる塗膜の色彩データを予測するシステムが提供される。
これらにより、作業時間の減少や調色回数等の工数削減による作業者の負担軽減、作製する塗料数の削減による廃棄物の低減や省エネルギー化、作業者のスキルに左右されずに安定した調色や色調予測が実施できることによる作業性の向上等の効果を得ることができ、産業上極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明に係る方法に用いる装置の実施形態を示す概略構成図
図2】本発明に係る方法に用いる装置の別の実施形態を示す概略構成図
図3】本発明の人工知能モデルにおけるニューラルネットワークの概略構成図
図4】本発明の多角度分光光度計による変角測色の実施形態を示す概略構成図
図5】本発明の多角度分光光度計による変角測色の別の実施形態を示す概略構成図
図6】本発明に係るコンピュータ調色に基づく塗料の製造方法の実施形態を示すフローチャート
図7】本発明に係る塗膜の色彩データを予測する方法の実施形態を示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の方法、システム及びアプリケーションソフトウェアの構成及び動作を、図1図7を用い、以下に例示される実施形態により詳細に説明する。本明細書中における手段および工程は、それら手段および工程について説明した動作、機能または工程を果たすことができる限り何ら限定されない。また、本発明は、本発明の要旨を逸脱しない限り以下に例示される実施形態により何ら制限されない。
【0018】
[装置]
本発明のコンピュータ調色に基づく塗料の製造方法及び塗膜の色彩データを予測する方法は、1種類以上の色材を含有する組成物の色彩データX及び配合組成データYが少なくとも登録されたデータベースと、該データベースに登録されたデータを利用した色合わせ計算ロジックが作動するコンピュータと、を備える装置を用いる。
また、本発明のコンピュータ調色システム及び塗膜の色彩データを予測するシステムは、前記データベースと、前記色合わせ計算ロジックが作動するコンピュータと、を備える装置を有する。
【0019】
図1及び図2は、本発明のコンピュータ調色に基づく塗料の製造方法及び塗膜の色彩データを予測する方法で用いられる装置の実施形態を示す概略構成図である。この装置は、本発明のコンピュータ調色システム及び塗膜の色彩データを予測するシステムが備える装置としても用いられる。
図1及び図2に示すように、装置Dは、データベース1と、コンピュータ2とを備えている。
本発明において、装置Dは、データベース1を2つ以上備えていてもよく、また、コンピュータ2を2つ以上備えていてもよい。また、データベース1とコンピュータ2とが一体化されていてもよい。
さらに、本発明で用いられる装置Dは、必要に応じて、入力装置31(32)、出力装置41(42)、表示装置51(52)、測色計61(62)、撮像機器71(72)、(自動)調合機81(82)等の機能の1つ以上を有する機器を1つ以上備えていてもよい。また、これらの機器の1つ以上とデータベース及び/又はコンピュータとが一体化されていてもよい。
【0020】
ここで、データベース1は、例えば、公知の記録装置やサーバ等を用いることができる。また、コンピュータ2は、市販のパーソナルコンピュータ、携帯端末、スマートフォン等を用いることができる。
入力装置31(32)は、キーボード、タッチパネル、読取装置等の公知の入力装置を、出力装置41(42)としては、印刷装置、データ書込装置等の公知の出力装置を、表示装置51(52)としては、ディスプレイ等の公知の表示装置を、それぞれ用いることができる。
測色計61(62)としては、(多角度)分光光度計、色彩計、色差計等の公知の測色計を、撮像機器71(72)としては、CCDカメラ、固体撮像装置、(近)赤外線分光撮像装置等の公知の撮像装置を、(自動)調合機としては、電子天秤装置等を含む公知の(自動)調合機を、それぞれ用いることができる。
本発明で用いられる装置において、データベース、コンピュータ及び前記機器は、有線、無線又はこれらの組み合わせの通信手段や、記録媒体を介した手段により、互いにデータを送受信することができるように接続されている。通信手段としては、例えば、LAN(ローカルエリアネットワーク)、WAN(ワイドエリアネットワーク)、インターネット、電話網等の様々な通信ネットワークの1つ以上の組み合わせがあげられる。
【0021】
図1は、1つのデータベース1と、1つのコンピュータ2とが、互いにデータを送受信することができるように接続されている装置の例である。データベース1には、入力装置31、出力装置41、表示装置51、測色計61、撮像機器71及び(自動)調合機81のいずれか1つ以上の機器が接続されていてもよく、コンピュータ2にも、入力装置32、出力装置42、表示装置52、測色計62、撮像機器72及び(自動)調合機82のいずれか1つ以上の機器が接続されていてもよい。データベース1又はコンピュータ2と接続している測色計61、62、撮像機器71、72及び(自動)調合機81、82の1つ以上は、データベース1又はコンピュータ2からの指令により、測定や調合等を行うものである。また、測定したデータ等をデータベース1又はコンピュータ2に送信し、最終的にデータベースにデータを登録することができる。
図1の装置において、データベース1は、コンピュータ2内の記録装置に形成されたものでもよく、このような場合には、データベース1との通信を行うことなく、この装置単独で、独立してコンピュータ調色及び塗膜の色彩データの予測を行うことができる。また、必要に応じて、データベースに登録されたデータを適当なタイミングで更新(アップデート)することで、データベースのメンテナンスを行うことができ、これにより作業者は最新のデータに基づいて作業を行うことができる。
【0022】
図2は、1つのデータベース1に対して、2つ以上のコンピュータ21〜2Xが接続されている装置の例である。図2においては、4つのコンピュータ21〜24が接続された例が示されている。データベース1は、2つ以上のデータベース1が通信可能に接続されたものであってもよい。データベース1の数を増やすことにより、通信可能に接続できるコンピュータの数を増やすことが可能である。
図2において、データベース1には、入力装置31、出力装置41及び表示装置51が接続されていてもよく、図示していない測色計、撮像機器及び(自動)調合機のいずれか一つ以上の機器が接続されていてもよい。
図2において、コンピュータ21〜24には、入力装置32、出力装置42、表示装置52、測色計62、撮像機器72及び(自動)調合機82のいずれか一つ以上の機器が接続されていてもよい。
図2の装置は、データベース1をサーバとして、複数のコンピュータ2を接続したものに相当する。例えば、塗料会社等が管理するデータベース1に、作業者(ユーザー)のコンピュータ2が通信回線(例えば、インターネット回線、電話回線等)を通じて接続され、データ通信し得るように構成することができる。
【0023】
図3は、配合組成データYから色彩データXを推定する人工知能モデルにおけるニューラルネットワーク9(脳の神経細胞の働きをプログラムで再現したもの)を示す概略構成図である。人工知能モデルは、データベースに登録されたデータを用い、学習用データをコンピュータに入力するとともに学習用データを機械学習させることで生成される。図3に示すように、ニューラルネットワーク9は、入力層91、隠れ層92及び出力層93の3つの処理層(3つのニューロン層)を含むものとして構成されている。
入力層91は、入力ノード911〜91iと呼ばれる少なくとも1〜i個の処理要素を含有し、ネットワークの隠れ層の隠れノード921〜92jに結合されている。入力層91の各ユニットは、配合組成データYに係る1種類以上の特徴量に対応している。
隠れ層92は、隠れノード921と呼ばれる少なくとも1〜j個の処理要素を有し、ネットワークの出力層93の出力ノード931に結合されている。各隠れ層92(隠れノード921〜92j)は、入力層91(入力ノード911〜91i)と出力層93(出力ノード931〜93k)との間に存在する。隠れノード921〜92jの数は、入出力関係の複雑さをモデル化するために、ネットワーク機能に加えられた隠れノードの数を増やすことにより変えることができる。
出力層93は、出力ノード931〜93kと呼ばれる少なくとも1〜k個の処理要素を有するように組織されている。処理要素又はノードは、ネットワーク実行時に配合組成データと色彩データとの間の関係を計算できるように相互結合されている。出力層93の各ユニットは、色彩データXに係る1種類以上の各成分量に対応している。
なお、ニューラルネットワーク9内ではデータは1方向にのみ流れることとなり、各ノードは信号を1つ以上のノードへ送信するだけでフィードバックを受け取ることはない。
【0024】
人工知能モデルにおいて、入力層91における入力ノード911〜91iは、各配合組成データにおける1つの入力変数(入力要素;パラメータ)に対し1個の入力ノードが対応する。また、出力層93における出力ノード931〜93kは、各色彩データにおける1つの出力変数(出力要素;パラメータ)に対して1個の出力ノードが対応する。
人工知能モデルにおいて、隠れ層92における隠れノード921〜92jの数は、入出力関係の複雑さに応じて増減させることができる。入力層91の各入力ノード間、入力ノードと隠れノード間、隠れノードと出力ノード間、出力層93の各出力ノード間のそれぞれの結合は、それに関連する結合重みを有しており、さらに、隠れノード92及び出力ノード93のそれぞれについては、一つ以上の追加の閾値重みを有していてもよい。
ニューラルネットワーク9を使用する人工知能は、分析が複雑であり、かつコンピュータ専門システムで使用するために人間の知識からモデルを導き出すことが面倒な仕事になる複雑なシステムまたは現象において特に有利である。
なお、ニューラルネットワーク9は、例えば図2のような装置においては、データベースを構成するサーバコンピュータ側に生成させることができる。これにより、接続した作業者(ユーザー)は、地理的要件等に左右されることなく、いつでも高品質のデータの提供を受けることができる。また、サーバコンピュータのセキュリティを向上させることにより、不正アクセスによるデータの改変・ニューラルネットワークの破壊等を防止することができる。
【0025】
<データベース>
本発明におけるデータベースは、色彩データと配合組成データとを対応させて登録(記録)することで構成される。本発明のデータベースには、色彩データ、配合組成データに加えて、色彩又は組成に関係する各種データを対応させて登録することができる。本発明においては、データベースに登録されるデータは、非常に多数のデータ(いわゆる、ビッグデータ)であることが好ましい。具体的には、5千組以上、1万組以上、より好ましくは2万組以上である。これらのデータは、任意に、追加・変更・削除が可能である。
データベースに登録された1種類以上の色材を含有する組成物の配合組成データY及び対応する色彩データXは、実測データ、又は、実測データと実測データに基づき算出されたデータとを含む。実測データに基づき算出されたデータとしては、実測データを用い所定の数式等を用いて算出される各種パラメータ値、実測データに基づき算出できる予測値等があげられる。
データベースは、単一のデータベースであってもよく、また、少なくとも一つの共通情報要素により互いに関連付けられた複数のデータベース又は関連付けられていない複数のデータベースであってもよい。
データベースは、コンピュータと通信可能で遠隔操作できるサーバに設けることができる。また、データベースは、その少なくとも一部が、コンピュータや、測色計、ミクロ光輝感測定装置、自動調合機、その他データベースに登録されるデータを取得または使用する装置における記録部(メモリ等)に設けることができる。
データベースが複数ある場合には、各データベースは有線又は無線により接続されていてもよい。また、データベースは、コンピュータ、測色計、ミクロ光輝感測定装置、自動調合機、その他データベースに登録されるデータを取得または使用する装置の一つ以上と、有線又は無線により接続されていてもよい。
【0026】
(1種類以上の色材を含有する組成物)
本発明の1種類以上の色材を含有する組成物に含まれる色材は、例えば、着色顔料、染料、光輝性顔料(光反射性顔料、光干渉性顔料等)等、組成物を発色させる機能を有する材料である。
本発明の組成物は、1つ以上の原色塗料を含む原材料を混合して所望の色に色合わせされた塗料であってもよい。また、本発明の組成物は、着色顔料ペースト、光輝性顔料ペースト、配向制御剤、艶制御剤及びその他塗料分野等で用いられている各種の添加剤等を含有していてもよい。
【0027】
(色彩データ)
本発明において、データベースに登録される色彩データは、色に係るデータや、質感、光輝感、光沢等の外観特性に係るデータを含む。これらのデータは、1種類以上の色材を含有する組成物から得られる塗膜を、測色計等の機器を用い測定して取得できる。また、測定により得られた各種の色彩データの少なくとも一部を、演算処理して算出されたものでもよい。なお、機器を用いて測定して得られたデータは、必要に応じて、測定機器間又は測定変動等に起因する誤差等を補正したものであってもよい。
また、組成物自体のK値(光吸収係数)及びS値(光散乱係数)を、色彩データとして用いてもよい。K値及びS値は、例えば、組成物及び組成物を薄めた色の測色データを数値処理して得ることができる。
色に係るデータ及び/又は外観特性に係るデータは、例えば、色彩計、多角度分光光度計、レーザー式メタリック感測定機器、変角分光光度計、光沢計、ミクロ光輝感測定器等の測定機器を用いた測定により直接取得されたものであるか、測定により取得されたデータから算出されたものである。
また、色に係るデータ及び/又は外観特性に係るデータは、1つ又は複数の照明角度、1つ又は複数の観察角度、又はこれらの組合せに関係したデータを含むことができる。
【0028】
データベースに登録される色彩データのうち、色に係るデータとしては、明度、彩度、色相を表すもの又は計算によって色を特定できるものがあげられる。例えば、XYZ表色系(X、Y、Z値)、RGB表色系、L*a*b*表色系(L*、a*、b*値)、ハンターLab表色系(L、a、b値)、CIE(1994)に規定されるL*C*h表色系(L*、C*、h値)、マンセル表色系(H、V、C値)等の表色系に基づくものとすることができる。本発明において、データベースに登録される色彩データのうち色に係るデータは、これらのうち任意の1以上の表色系に基づくデータとすることができる。好ましくは、補修塗装分野を含む各種の分野において広く用いられている、L*a*b*表色系又はL*C*h表色系に基づくデータである。
データベースに登録される色彩データのうち、外観特性に係るデータとしては、例えば、光輝性顔料を含む塗膜等の被測色表面を観察した際に感じられる質感であって、巨視的な観察で知覚される質感であるマクロ光輝感、微視的な観察で知覚される質感であるミクロ光輝感、奥行感覚(深み感)、鮮明度等があげられる。
【0029】
−マクロ光輝感−
マクロ光輝感としては、被測色表面を均一な光で照射し、反射する光を角度毎に受光して色を測定することによって得られる多角度分光反射率があげられる。また、測色表面を遠距離から観察した際に、照明と観察角度の加減で色(明度、彩度、色相)が変化するフリップフロップ現象を表すFF値(フリップフロップ値)、入射光の反対側に現れる正反射光からの開き角度10度から25度の間におけるハイライト側の目視での明るさを表すIV値(intensity value値)、ハイライト側の正面の明度を示すSV値(scatter value値)、cFF値、メタル感指数、深み感指数、鮮明度、光沢を表す光沢値等があげられる。
マクロ光輝感は、例えば、多角度分光光度計、レーザー式メタリック感測定機器、変角分光光度計、光沢計等を用いることで直接取得でき、また、これらから算出することができる。例えば、多角度分光光度計としては、BYK−Mac i(商品名、BYK社製)、MA−68II(商品名、X−Rite社製)等を用いることができる。レーザー式メタリック感測定装置アルコープ(登録商標)LMR−200(商品名、関西ペイント社製)を用いることで、FF値、IV値及びSV値を求めることもできる。
【0030】
多角度分光反射率は、多角度測色可能な分光光度計で測定した分光反射率であって、R(x,λ)で表される。ここで、Rは分光反射率(Reflectance)であり、測定機付属の校正板で校正した分光反射率%で表される。xは受光角度であり、正反射光からの偏角で表す。λは波長であり、可視光範囲400〜700nmを10nm間隔(波長数31個)で測定する。入射角度としては、一般に標準とされる−45度である。
本発明において、受光角度xは、入射角度を45度とした際に、ハイライト(high−light)(25度、15度、−15度)、フェース(face)(45度)からシェード(shade)(75度、110度)のいずれか1角度以上、好ましくは3角度以上である。好ましくは、図4で表されるように、受光角度−15度、15度、25度、45度、75度及び110度の6角度とすることができる。また、図5で表されるように、受光角度15度、25度、45度、75度及び110度の5角度とすることができる。
【0031】
FF値(フリップフロップ値)は、観察角度(受光角)によるL値(明度)の変化の程度を示すものである。フリップフロップは、ハイライト方向(光の正反射方向に近い方向)とシェード方向(光の正反射方向から離れた方向)における明度差に相応する。FF値が大きいほど、観察角度(受光角)によるL値(明度)の変化が大きく、フリップフロップ性に優れていることを示す。
FF値は、被測色表面について、多角度分光測色計を用いて、45度の角度から光を照射し、受光角15度及び受光角110度のL値(明度)を測定し、下記の式によって求めることができる。
FF値=受光角15度のL値/受光角110度のL値。
【0032】
IV値は、偏角が15度の方向から測定した分光反射率から求めたXYZ表色系におけるY値である。
SV値は、偏角が45度の方向から測定した分光反射率から求めたXYZ表色系におけるY値である。
FF値は、偏角が15度の方向から測定した分光反射率から求めたXYZ表色系におけるY値をY15とし、偏角が45度の方向から測定した分光反射率から求めたXYZ表色系におけるY値をY45として、2×(Y15−Y45)/(Y15+Y45)によって求められる。
cFF値は、偏角が15度の方向から測定した分光反射率から求めたL*c*h表色系におけるc*値をc*15とし、偏角が45度の方向から測定した分光反射率から求めたL*c*h表色系におけるc*値をc*45として、2×(c*15−c*45)/(c*15+c*45)によって求められる。
メタル感指数は、前記Y15及びFFから、Y15×FFによって求められる。
深み感指数は、光輝性顔料によって付与される奥行感覚を表し、代表角度での分光反射率から求めたL*c*h表色系におけるL*値及びc*値をそれぞれL*R及びc*Rとし、これらを用いてc*R/L*Rによって求められる。例えば、多角度分光測色計を用い、45度の角度から光を照射し、受光角75度におけるc*値であるc*75と、受光角75度におけるL*値であるL*75を測定し、下記の式によって求められるシェードの深み感を用いることができる。
シェードの深み感=C*75/L*75
鮮明度は、前記L*R及びc*Rを用いてsqrt(L*R2+c*R2)によって求められる。
【0033】
−ミクロ光輝感−
ミクロ光輝感は、測色表面を近距離から観察した際に、被測色表面中の光輝性顔料によって発現する、キラキラ感や粒子感といった二次元的な輝度の不均一に関する感性である。
【0034】
ミクロ光輝感は、ミクロ光輝感測定器を用いて取得することができる。ミクロ光輝感測定器としては、例えば、光輝塗膜面に光を照射する光照射装置、光照射された塗膜面を照射光が入射しない角度にて撮影して画像を形成するCCDカメラ、該CCDカメラに接続され該画像を解析する画像解析装置を具備したミクロ光輝感測定器があげられる。
【0035】
ミクロ光輝感測定器を用いて被測色表面のミクロ光輝感を測定するには、まず被測色表面に疑似(人工)太陽光を照射する。被測色表面への光照射角度は被測色表面の鉛直線に基づいて、通常5〜60度、好ましくは10〜20度の範囲内が適しており、特に鉛直線に対して15度程度が好適である。また、光の照射領域の形状は特に限定されるものではないが、通常、円形であり、被測色表面上における照射面積は通常、被測色表面の1〜10,000mmの範囲内が適しているが、この範囲に制限されるものではない。照射光の照度は、通常、100〜2,000ルクス(lux)の範囲内が好ましい。
【0036】
被測色表面に光照射し、それに基づく反射光のうち、正反射光が入射しない角度で、光が照射されている被測色表面をCCD(Charge Couple Device)カメラで撮影する。この撮影角度は正反射光が入射しない角度であればよいが、被測色表面に対して鉛直方向が特に好適である。また、CCDカメラの撮影方向と正反射光との角度は10〜60度の範囲内にあることが好ましい。光照射された被測色表面におけるCCDカメラでの測定範囲は、均一に光が照射されている範囲であれば特に限定されるものではないが、通常、照射部分の中央部を含み、測定面積が1〜10,000mm、好ましくは10〜600mmの範囲内であることが適当である。
【0037】
上記CCDカメラで撮影された画像は、2次元画像であり、多数(通常10,000〜1,000,000個)の区画(ピクセル、画素)に分割され、それぞれの区画における輝度を測定する。本発明において、「輝度」とは、「CCDカメラによって撮影して得られた2次元画像の区画毎の濃淡値を示すデジタル階調であり、被写体の明るさに対応するデジタル量」を意味する。8ビット分解能のCCDカメラから出力される区画毎の輝度を意味するデジタル階調は0〜255の値を示す。
【0038】
上記CCDカメラで撮影された2次元画像において、光輝性顔料の反射光が強い部分に相当する区画はキラキラ感が強いので輝度が高く、そうでない部分に相当する区画では輝度は低くなる。また光輝性顔料の反射光が強い部分に相当する区画であっても、光輝性顔料の大きさ、形状、角度、材質などによって輝度が変化する。つまリ区画ごとに輝度を表示でき、本発明ではそれぞれの区画における輝度に基づいてCCDカメラで撮影した2次元画像の輝度分布を三次元に表示することが可能である。この輝度の三次元分布図は、山、谷および平地の部分に分けられ、山の高さや大きさは光輝性顔料による光輝感の程度を示し、山が高くなるほど光輝感が顕著であることを示し、谷及び平地部分は光輝感が無いか小さいことを示し、主として着色顔料又は素地による光の反射を示す。
【0039】
上記CCDカメラで撮影された画像の解析は、CCDカメラに接続された画像解析装置によって行うことができる。この画像解析装置に用いられる画像解析ソフトとしては、例えばWinRoof(商品名:三谷商事社製)などが好適である。
画像の解析においては、「キラキラ感」(被測色表面の中の光輝性顔料から正反射された光によって生じる不規則で微細な輝きの知覚)と「粒子感」(できるだけキラキラ感が発現しにくい照明条件下において被測色表面を観察したときに、光輝材含有被測色表面中の光輝性顔料の配向・重なりで起きる不規則・無方向性の模様(ランダムパターン)から発する知覚)とをそれぞれ別々に定量的に評価することが目視観察における官能評価との相関も高く、測定時の個人差によるバラツキが小さいことから好適である。
【0040】
キラキラ感を定量的に測定する好適な方法としては、例えば、下記の測定方法を挙げることができる。光照射された被測色表面をCCDカメラで撮影してなる2次元画像を多数の区画に分割し、該区画のそれぞれの輝度を該区画の全てにわたり合計して総計値を得て、この総計値を全区画数で割り算して平均輝度xを求め、この平均輝度x以上の値に閾値αを設定する。閾値αは、通常、平均輝度xとy(yは、24〜40の数、好ましくは28〜36、さらに好ましくは32)との和であることが適当である。
【0041】
ついで、上記区画のそれぞれの輝度から閾値αの値を減算し、その減算値が正の値である該減算値を総計し、その総和である総体積Vを得る。また、閾値α以上の輝度を有する区画の総数(閾値αで2値化を行うことによって得られる上記閾値α以上の区画の総数)である総面積Sを得る。輝度ピークの平均高さPHavαは、輝度ピークが円錐、角錐に近似できると考えられることから、総体積Vを総面積Sで割った値を3倍すること、すなわち下記式
PHavα=3V/S
によって得られる値とする。
また、上記平均輝度x以上であり上記閾値α以下である閾値βを設定する。閾値βは、閾値α以下であり通常、平均輝度xとz(zは、16〜32の数、好ましくは20〜28、さらに好ましくは24)との和であることが適当である。
【0042】
ついで、上記区画のそれぞれの輝度から閾値βの値を減算し、その減算値が正の値である該減算値を総計し、その総和である総体積Wを得る。また、閾値β以上の輝度を有する区画の総数(閾値βで2値化を行うことによって得られる上記閾値β以上の区画の総数)である総面積Aを得る。閾値βでの輝度ピークの平均高さPHavβは、輝度ピークが円錐、角錐に近似できると考えられることから、総体積Wを総面積Aで割った値を3倍すること、すなわち下記式
PHavβ=3W/A
によって得られる値とすることができる。
【0043】
また、閾値βでの総面積Aと閾値β以上の輝度を示す光学粒子の個数Cとから光学粒子の平均粒子面積を求めることができる。本発明において、「光学粒子」とは、「2次元画像上で輝度が閾値以上である独立した連続体」を意味するものとする。上記光学粒子の形状を円と仮定し、平均粒子面積と同じ面積を有する円の直径Dを、下記式
【0044】
【数1】
【0045】
によって求め、上記PHavβとLとから輝度ピークの平均裾広がり率PSavを下記式
PSav=D/PHavβ
によって得る。
【0046】
前記のようにして求めた輝度ピーク平均高さPHavαと上記のようにして求めた輝度ピークの平均裾広がり率PSavとから輝き値BVを下記式
BV=PHavα+a・PSav
(式中、aは、PHavαが25未満の場合には300であり、PHavαが45を超える場合には1050であり、PHavαが25〜45の数である場合には、下記式
a=300+37.5×(PHavα−25)
で示される値である)
によって近似的に算出することができる。
【0047】
本発明の好適な方法において、上記のようにして求めた輝き値BVによって、光輝塗膜の「キラキラ感」を定量的に測定することができ、輝き値BVと目視観察による「キラキラ感」の官能評価結果との相関性は、塗膜における光輝材の濃度差、明度差が大きい場合においても高いものである。
【0048】
粒子感は、MGR値によって表される。MGR値は、微視的に観察した場合における質感であるミクロ光輝感の尺度の一つで、ハイライト(複層塗膜を入射光に対して正反射近傍から観察)における粒子感を表わすパラメータである。MGR値は、複層塗膜を入射角15度/受光角0度にてCCDカメラで塗膜を撮像し、得られたデジタル画像データ、すなわち2次元の輝度分布データを2次元フーリエ変換処理し、得られたパワースペクトル画像から、粒子感に対応する空間周波数領域のみを抽出し、算出した計測パラメータを、さらに0から100の数値を取り且つ粒子感との間に直線的な関係が保たれるように変換して得られる測定値である。粒子感のないものは0とし、最も粒子感のあるものはほぼ100となる。
【0049】
「粒子感」を定量的に測定する好適な方法としては、前記のようにして、光照射された光輝塗膜面をCCDカメラで撮影して2次元画像を得て、この2次元画像を2次元フーリエ変換してなる空間周波数スペクトルから低空間周波数成分のパワーを積分及び直流成分で正規化して得られる2次元パワースペクトル積分値を得て、この2次元パワースペクトル積分値から塗膜の粒子感を定量的に評価する方法があげられる。
2次元フーリエ変換後の空間周波数スペクトルの画像から低空間周波数成分を抽出して、積分及び直流成分での正規化を行なって得られる2次元パワースペクトル積分値を測定するにあたり、空間周波数スペクトルの画像から抽出する低空間周波数成分の抽出領域を、解像度を表す線密度が、下限値0本/mm〜上限値が2〜13.4本/mmの範囲のいずれかの数値である領域、好ましくは0本/mm〜4.4本/mmの領域とすることが、目視観察による「粒子感」の官能評価結果との相関性を高いものとする観点から適している。2次元パワースペクトル積分値が大きいほど粒子感が大きくなる。
【0050】
2次元パワースペクトル積分値(以下、「IPSL」と略称することがある)は次式によって求めることができる。
【0051】
【数2】
【0052】
(式中、νは空間周波数、θは角度、Pはパワースペクトル、0〜Lは抽出した低空間周波数領域であり、Lは抽出した周波数の上限を意味する)
また、前記輝き値BVをもとに、下記一次式
MBV=(BV−50)/2
により計算したMBVの値により「キラキラ感」を評価することもできる。
MBVの値は、キラキラ感のないものは0とし、最もキラキラ感のあるものはほぼ100とした値であって、「キラキラ感」のあるものほど大きな数値を示す。MBVの値はHB値(Hi−light Brilliant値)と称されることもある。
【0053】
また、前記2次元パワースペクトル積分値(IPSL)をもとに、下記一次式により計算したMGRの値により「粒子感」を評価することもできる。
IPSLの値が、0.32以上の場合は、
MGR=[(IPSL×1000)−285]/2とし、
IPSLの値が、0.15<IPSL<0.32の範囲内にある場合は、
MGR=[IPSL×(35/0.17)−(525/17)]/2とし、
IPSLの値が、0.15以下の場合は、MGR=0とする。
上記MGRの値は、光輝材の粒子感のないものを0とし、最も光輝材の粒子感のあるものをほぼ100とした値であって、「粒子感」のあるものほど大きな数値を示す。MGRの値はHG値(Hi−light Graininess値)と称されることもある。
【0054】
また、さらに上記MBV及びMGRの値に基づいて総合的にミクロ光輝感を表す、下記式により計算したミクロ光輝感を指数化した数値(ミクロ光輝感指数)によってミクロ光輝感を評価することができる。
ミクロ光輝感指数=(MGR+α・MBV)/(1+α)
多くの光輝感を有する被測色表面についての検討から、上記αの値としては、好ましくは1.80〜1.40、より好ましくは1.63とすると、目視でのミクロ光輝感とよく合致した結果を得ることができる。ミクロ光輝感指数は、光輝感のないもの(キラキラ感も粒子感もない)場合は0となり、光輝感の最もある(キラキラ感も粒子感も最もある)ものはほぼ100となる値である。
【0055】
(配合組成データ)
前記データベースには、1種類以上の色材を含有する組成物の配合組成データが登録されている。
配合組成データは、前記組成物に含有される1種類以上の色材、バインダー、添加剤等の各配合成分及びそれぞれの配合量に係るデータが含まれる。また、組成物として市販品を用いる場合等において、商品名(品番)を配合組成データとして用いることができる。例えば、配合組成データが不明の市販品を用いる場合や、組成物を品番で管理している場合等の場合に用いることができる。
本発明では、組成物に含有される1種類以上の色材、バインダー、添加剤等の各成分について、その形状、化学的特性等についても配合組成データとして登録することができる。形状としては、色材等の形状(球状、鱗片状、繊維状等)、平均一次粒子径、平均二次粒子径、平均分散粒子径、粒子径分布、アスペクト比、厚さ等があげられる。化学的特性としては、分子量、分子量分布、変色温度、反応性等があげられる。
【0056】
本発明においては、前記組成物に光反射性顔料や光干渉性顔料といった光輝性顔料が含まれる場合、光反射性顔料の含有量、光干渉性顔料の含有量、光輝性顔料の配向を制御する配向制御剤の含有量についても、配合組成データとしてデータベースに登録される。
さらに、前記組成物に含まれる、着色剤の各色相別の含有量、光反射性顔料の各色相別の含有量、光干渉性顔料の各色相別の含有量についても、配合組成データとしてデータベースに登録される。
ここで、各色相の定義は、1976年に国際照明委員会で規定されJIS Z 8729にも採用されている、L*a*b*表色系をベースに考案されたL*C*h表色系において行うことができる。
例えば、塗膜に対して45度から照射した光を正反射光に対して45度で受光したときの分光反射率に基づいて計算されたL*C*h表色系色度図において、赤系の色は、色相角度hがa*赤方向を0度とした場合に−45度以上、45度未満の範囲内である色として定義される。同様に、橙系の色は、色相角度hがa*赤方向を0度とした場合に45度以上、67.5度未満の範囲内である色として、黄系の色は、色相角度hがa*赤方向を0度とした場合に67.5度以上、135度未満の範囲内である色として、緑系の色は、色相角度hがa*赤方向を0度とした場合に135度以上、−135度未満の範囲内である色として、青系の色とは、色相角度hがa*赤方向を0度とした場合に−135度以上、−45度未満の範囲内である色として、それぞれ定義される。
【0057】
(塗装条件データ)
前記データベースには、さらに塗装条件データKが登録されていてもよい。
塗装条件データKは、塗装に関するあらゆるデータであり、例えば、塗装に使用する塗装器具情報(塗装器具の種類、塗装器具のメーカー、型番等)、塗装条件情報(塗装温度、塗装時湿度、乾燥膜厚、塗料固形分、塗装距離、塗装速度等)、塗装者情報(氏名、塗装スキル、塗装傾向、癖等)、乾燥条件情報(乾燥温度、乾燥湿度、乾燥装置メーカー、乾燥装置型番)等があげられる。
【0058】
<コンピュータ>
本発明で用いられる装置が備えているコンピュータは、スーパーコンピュータ(スパコン)、デスクトップコンピュータ、ラップトップコンピュータ、モバイルコンピュータ等のパソコン、タブレット端末、スマートフォン等の演算機能及び情報処理機能を有する電子装置を意味している。コンピュータは、作業現場を含む任意の場所に設置されていてもよく、作業者等が携帯するものであってもよい。
【0059】
コンピュータは、記録部、演算部、制御部を備えており、さらに、入出力部、通信部等を備えていてもよい。また、本発明においては、記録、演算、制御、入出力機能などを備える測色計等に組み込むことにより、測色計等と一体として実現することも可能である。また、コンピュータの記録部に色彩データ及び配合組成データを記録し、記録部にデータベースを設けることもできる。
データベースがコンピュータの外部に設けられている場合、コンピュータは、データベースと有線又は無線で接続されている。
コンピュータは、さらに、色に係るデータ及び/又は外観特性に係るデータを測定するための各種装置、自動調合機、他の演算装置、キーボード、マウス、バーコードリーダ、タッチパネル、画像認識装置等の入力装置、モニタ画面や印刷装置等の出力装置等と有線又は無線で接続されていてもよい。
コンピュータには、必要に応じて、本発明の方法を実行するための又は本発明のシステムを制御し動作させるためのアプリケーションソフトウェア(プログラム)がインストールされ、必要な制御や動作が行われるようにされていてもよい。
【0060】
<自動調合機>
前記装置は、配合組成データに基づいて各配合成分を自動調合して調色を行う自動調合機を備えていてもよい。自動調合機は、前記コンピュータ又はデータベースと、有線又は無線で接続することができる。
自動調合機は、各色材等配合成分の重量又は容量を自動秤量する電子天秤と、秤量された各配合成分を調合機に注入する注入器を少なくとも有している。
前記自動調合機を用いることで、高精度の秤量を自動で行うことが可能となり、調合に際しての人的エラーを減少することができ、迅速に調合を行うことができ、任意の量の調色済み塗料を容易に調製することができる。また、調合作業の記録により生産管理を容易にすることができる。自動調合機は、調合に係るすべての作業を自動化するものでもよく、また、微調色等の一部を作業者が行えるようになっていてもよい。
【0061】
[コンピュータ調色に基づく塗料の製造方法]
図6は、本発明のコンピュータ調色に基づく塗料の製造方法を実行する際のフローチャートである。なお、図6に示されるフローは、本発明の一実施の形態にすぎない。
本発明のコンピュータ調色に基づく塗料の製造方法は、1種類以上の色材を含有する組成物の色彩データX及び配合組成データYが少なくとも登録されたデータベースと、該データベースに登録されたデータを利用した色合わせ計算ロジックが作動するコンピュータと、を備えるコンピュータ調色装置を用い、下記S101〜S111工程を含む方法である。
以下、S101〜S111工程について、詳細に説明する。
【0062】
<S101工程>
S101工程は、前記データベースに登録されたデータを用い、学習用データを前記コンピュータに入力する工程である。
【0063】
本発明においては、1種類以上の色材を含有する組成物であって光輝性顔料を含まない組成物の配合組成データ及び色彩データを用いた学習用データと、1種類以上の色材と1種類以上の光輝性顔料とを含有する組成物の配合組成データ及び色彩データを用いた学習用データとを、別々に作成するとともに、これらを別々に入力することが好ましい。
本発明者は、光輝性顔料の有無に基づいて、別々の学習用データを作成し、これらを別々に入力することで、コンピュータ調色における適合率が格段に向上することを見出した。
【0064】
本発明においては、1種類以上の色材と1種類以上の光輝性顔料とを含有する組成物の配合組成データを学習用データとする際、光反射性顔料の含有量、光干渉性顔料の含有量、配向制御剤の含有量及びそれらの一つ以上の合計から選ばれる1種類以上のデータを学習用データとして用いることが好ましい。
【0065】
本発明においては、1種類以上の色材と1種類以上の光輝性顔料とを含有する組成物の配合組成データを学習用データとする際、光輝性顔料の色相別の含有量のデータを学習用データとすることが好ましい。具体的には、組成物中の光反射性顔料の各色相別の含有量、光干渉性顔料の各色相別の含有量及び着色剤の各色相別の含有量から選ばれる1種類以上のデータを学習用データとして用いることが好ましい。
光輝性顔料の色の定義は、1976年に国際照明委員会で規定されJIS Z 8729にも採用されている、L*a*b*表色系をベースに考案されたL*C*h表色系において行うことができる。
【0066】
例えば、塗膜に対して45度から照射した光を正反射光に対して45度で受光したときの分光反射率に基づいて計算されたL*C*h表色系色度図において、赤系の色は、色相角度hがa*赤方向を0度とした場合に−45度以上、45度未満の範囲内である色として定義される。同様に、橙系の色は、色相角度hがa*赤方向を0度とした場合に45度以上、67.5度未満の範囲内である色として、黄系の色は、色相角度hがa*赤方向を0度とした場合に67.5度以上、135度未満の範囲内である色として、緑系の色は、色相角度hがa*赤方向を0度とした場合に135度以上、−135度未満の範囲内である色として、青系の色とは、色相角度hがa*赤方向を0度とした場合に−135度以上、−45度未満の範囲内である色として、それぞれ定義される。
【0067】
本発明においては、1種類以上の色材を含有する組成物の配合組成データを学習用データとする際、組成物に含まれる色材の形状データを学習用データとすることが好ましい。具体的には、着色顔料や光輝性顔料等の色材の形状(球状、鱗片状、繊維状等)、色材の平均一次粒子径、平均二次粒子径、平均分散粒子径、粒子径分布、アスペクト比、厚さ等の形状データを学習用データとして用いることが好ましい。
【0068】
コンピュータへの入力は、有線、無線又はこれらの組み合わせの通信手段や、記録媒体を介した手段により、データを送信することで行うことができる。通信手段を用いた入力としては、例えば、LAN(ローカルエリアネットワーク)、WAN(ワイドエリアネットワーク)、インターネット、電話網等の様々な通信ネットワークの1つ以上の組み合わせがあげられる。記録媒体を介した手段による入力としては、磁気記録媒体、光学式記録媒体、紙記録媒体等の記録媒体を、適当な読取手段を用いてデータを読み込むことにより行うことができる。
【0069】
<S102工程>
S102工程は、前記学習用データを機械学習させ、組成データYから色彩データXを推定する人工知能モデルの少なくとも1種を生成する工程である。本発明における人工知能モデルとしては、例えば、勾配ブースティングを用いた決定木、線形回帰、ロジスティック回帰、単純パーセプトロン、MLP、ニューラルネットワーク、サポートベクターマシン、ランダムフォレスト、ガウス過程、ベイジアンネットワーク、k近傍法、その他機械学習で用いられるモデルで構成することができる。本発明においては、ニューラルネットワークを使用した人工知能モデルであることが好ましい。
本発明においては、ニューラルネットワークを構成し、S101工程で入力された学習用データを用いてニューラルネットワークを学習させることにより、組成データYから色彩データXを推定する人工知能モデルの少なくとも1種を生成することができる。
【0070】
人工知能モデル(ニューラルネットワーク)の学習は、S101工程でコンピュータに入力された学習用データを用いて行われる。学習用データは、1種類以上の色材を含有する組成物に係る色彩データXと組成配合データYとが少なくとも用いられる。ニューラルネットワークのアルゴリズムとして、教師付き学習方法の一つである公知の誤差逆伝播法を使用することができる。学習速度を表すパラメータである学習率(0〜1の間の実数値)、学習における出力値の誤差の許容値である許容誤差(0〜1の間の実数値)を設定して、ニューラルネットワークを学習させる。これにより、配合組成データYに係る1種類以上の特徴量と、当該配合組成データYに基づく塗料の塗膜の色彩データXに係る1種類以上の特徴量とを関連付けることができる。学習されたネットワークを用いて、フィードフォワード計算により、色彩データを満たす組成配合データ、組成配合データに基づく色彩データを予測することができる。学習されたネットワークは、費用や時間等の工数のかかる実験的な確認を行わずにこれらの予測を行うことができる。
【0071】
本発明において、前記人工知能モデルの少なくとも1種を生成する工程は、(i)光輝性顔料を含まない組成物の1種類以上に係る、各配合組成データY及び各色彩データXを学習用データとして用い、人工知能モデルを学習させる工程と、(ii)光輝性顔料を含む組成物の1種類以上に係る、各配合組成データY及び各色彩データXを学習用データとして用い、人工知能モデルを学習させる工程と、を含むことが好ましい。その際、工程(ii)は、組成物中の光反射性顔料の含有量、光干渉性顔料の含有量、配向制御剤の含有量及びそれらの1つ以上の合計から選ばれる1種類以上のデータを学習用データとして用い、人工知能モデルを学習させる工程を含むことが好ましい。
人工知能モデルを学習させる工程において、前記工程(i)と工程(ii)の順序は、特に制限されず、工程(i)の後に工程(ii)を行ってもよく、工程(ii)の後に工程(i)を行ってもよい。本発明においては、学習用データを組成物が光輝性顔料を含むか否かとの観点で別個のものとして作成し、これを学習させることで、より高精度の予測を行うことができる人工知能モデルを生成することができる。
【0072】
本発明においては、前記人工知能モデルの少なくとも1種を生成する工程が、組成物中の光反射性顔料の含有量、光干渉性顔料の含有量、不定形シリカ等の配向制御剤の含有量及びそれらの1つ以上の合計から選ばれる1種類以上のデータを学習用データとして用い、人工知能モデルを学習させる工程を含むことが好ましい。これにより、特に光輝性顔料を含む被測色表面の色彩データに、精度よく適合させることができる配合組成データを得ることができる。
【0073】
本発明においては、前記人工知能モデルの少なくとも1種を生成する工程が、組成物中の光反射性顔料の各色相別の含有量、光干渉性顔料の各色相別の含有量及び着色剤の各色相別の含有量から選ばれる1種類以上のデータを学習用データとして用い、人工知能モデルを学習させる工程を含むことが好ましい。これにより、特に光輝性顔料を含む被測色表面の色彩データに、より精度よく適合させることができる配合組成データを得ることができる。
【0074】
本発明においては、前記人工知能モデルの少なくとも1種を生成する工程が、組成物に含まれる色材の形状データを学習用データとして用い、人工知能モデルを学習させる工程を含むことが好ましい。これにより、被測色表面の色彩データにおける粒子に起因する感性を、より精度よく適合させることができる。
本発明において、色材は、無機着色顔料や有機着色顔料等の通常の着色剤だけでなく、粒子状やフレーク状(鱗片状)のガラス、金属、シリカ、アルミナ等の光輝性顔料や、フレーク状であり干渉性を有するガラス(例えば、シリカ被覆ガラスフレーク等)、シリカ、アルミナ等の光干渉性顔料を含む。また、形状データは、球状、フレーク状、繊維状等の形状外観、粒子径、粒度分布、厚み、アスペクト比、繊維長、繊維径等のデータを含む。
【0075】
<S103工程>
S103工程は、目標とする色彩の目標色彩データXを得る工程である。
目標色彩データXとしては、塗装物、成形品、自然構造物等が有しているあらゆる色彩についての色彩データがあげられる。特に、塗装物の色彩データとすることが好ましい。
本発明は、これまでコンピュータ調色が困難であった、光輝性顔料を含む塗膜の色彩データを目標色彩データXとしても、精度よく調色を行うことができる。このため、S103工程における目標色彩データXは、光輝性顔料を含む塗膜の色彩データであることが好ましい。もちろん、S103工程における目標色彩データXは、光輝性顔料を含まない塗膜の色彩データであってもよい。
【0076】
目標色彩データを構成する要素は、データベースに登録されている色彩データを構成する要素と同様のものにすることができる。例えば、計器により測定された色彩データや、そこから算出された色彩データとすることができる。
色彩データを得るための計器としては、光輝塗膜(メタリック塗膜、パールカラー塗膜等)、ソリッドカラー塗膜等の色彩を測定し、色彩データを取得することができる計器であれば、測定原理、測定値を用いた色彩データの算出方法等に特に制限はなく、従来公知のものを使用することができる。例えば、被測色表面を照射する光源を備えている、単角度分光光度計、多角度分光光度計、色彩計、色差計、変角分光光度計等の測色計、撮像装置、ミクロ光輝感測定器等の測定機器、色見本板等の計器の1つ以上を用いることができる。また、それらの計器から得られた各種の色彩データを処理するデータ処理装置を任意に用いることができる。
【0077】
目標色彩データXは、作業者が各種計器を用いることで、被測色物を直接測定して得ることができる。また、各種計器がプログラム等に基づき自動的に取得したものであってもよい。さらに、これらの測色データに基づいて算出されたものでもよい。
本発明においては、多角度分光光度計を用いて被測色表面の測定を行い、目標色彩データXを取得することが好ましい。
【0078】
また、目標色彩データXが、被測色物を直接測定して得られないものである場合、被測色物の商品名等から得られる色彩データを、目標色彩データXとして用いることができる。例えば、目標色彩データXが自動車に関係する色彩データである場合には、自動車の商品名、型番、年式、製造番号等から得られる塗料データに基づいて目標色彩データを設定することができる。
【0079】
<S104工程>
S104工程は、前記目標色彩データXを、前記コンピュータに入力する工程である。
コンピュータへの入力は、有線、無線又はこれらの組み合わせの通信手段や、記録媒体を介した手段により、色彩データXを測定及び/又は算出する各種装置からデータを送信しコンピュータに受信させることで行うことができる。通信手段を用いた入力としては、例えば、LAN(ローカルエリアネットワーク)、WAN(ワイドエリアネットワーク)、インターネット、電話網等の様々な通信ネットワークの1つ以上の組み合わせがあげられる。記録媒体を介した手段による入力としては、磁気記録媒体、光学式記録媒体、紙記録媒体等の記録媒体を、適当な読取手段を用いてデータを読み込むことにより行うことができる。
また、キーボード、マウス、バーコードリーダ、タッチパネル、音声入力装置、画像認識装置等の、前記コンピュータと接続又はコンピュータが備えている入力手段を用い入力することができる。
【0080】
<S105工程>
S105工程は、コンピュータを用いた検索により、前記目標色彩データXに近似する検索色彩データXn1及び検索色彩データXn1に対応する近似配合組成データYn1を得るとともに、前記目標色彩データXと前記検索色彩データXn1とを比較し合否を判定する工程である。
【0081】
S105工程は、コンピュータカラーサーチ(CCS)に相当する工程とすることができ、データベースに登録されている多数の色彩データの中から、目標色彩データXと近似する色彩データを検索し、検索色彩データXn1として取得するものである。
ここで、データベースに登録されている色彩データは、例えば、公知の色見本帳の色彩データ、過去作製した塗板の色彩データ等で、いずれも色彩データと対応する配合組成データとが関連付けられている。したがって、検索色彩データXn1を得ることで、対応する配合組成データである近似配合組成データYn1も容易に得ることができる。
【0082】
検索色彩データXn1は、色彩データを構成する要素の1つ以上(例えば、L*a*b*表色系における各値等)のそれぞれについて、目標色彩データXを構成する対応する要素と対比し、値の差分、一致度、誤差率等が一定の範囲内であるものを検索して得ることができる。前記一定の範囲は、作業者が経験等を踏まえて設定してもよく、また、コンピュータにより設定することもできる。
【0083】
S105工程において、目標色彩データXと前記検索色彩データXn1とを比較して合否の判定を行う際には、検索色彩データXn1を構成する要素の1つ以上と、目標色彩データXを構成する要素の1つ以上とに着目し、それぞれ対応する各構成要素を比較することで行うことができる。合否の判定に際しては、例えば、各構成要素における差分、一致度、誤差率等について閾値を設け、これを参考にして機器又は作業者により合否の判定を行うようにしてもよい。その際、熟練作業者の観点等を反映させて、各構成要素間で重みづけを行ってもよい。
【0084】
<S106工程>
S106工程は、前記S105工程において合格しない場合に、コンピュータを用いて目標色彩データXを与えると予測される候補配合組成データYniを得た後、前記少なくとも1種の学習した人工知能モデル及び/又は前記人工知能モデル以外の予測式を用いて、候補配合組成データYniから予測される予測色彩データXniを得るとともに、前記色彩データXと前記予測色彩データXniとを比較し、合否を判定する工程である。
【0085】
コンピュータを用いて目標色彩データXを与えると予測される候補配合組成データYniを得る方法としては、例えば、コンピュータ・カラーマッチング(CCM)として知られている手法であって、コンピュータを用いる色合わせ計算ロジックに基づく算出や、数理最適化による算出があげられる。
コンピュータを用いる色合わせ計算ロジックに基づく算出は、例えば、前記データベースに登録された各種色彩データ及びそれと対応した組成配合データに基づき、目標色彩データXと前記各種色彩データとを比較して、差分、一致度等が一定の範囲となるように計算することで、最も合理的と考えられる一つ以上の配合組成を候補配合組成データYniと決定するものである。計算ロジックを構成する各種の関数を利用し、任意の配合組成や近似配合組成を小さな反復工程で修正することで行うことができる。その際に、規則の形での論理的指令を作成して、計算速度や調整アルゴリズムの精度を補助することができる。
【0086】
数理最適化による算出は、候補配合組成データYniは、例えば、データベースに記録されている色彩データを参照して、近似配合組成により得られる色彩データを構成する座標軸ごとに、誤差を減らす方向に作用する特性情報を有する成分を検索し得ることができる。例えば、L*a*b*表色系において、誤差をΔL*=L*−L*、Δa*=a*−a*、Δb*=b*−b*とした場合に、L*軸上の誤差ΔL*が正の値である場合にはL*2の値を減少させる方向に作用する特性情報を有する成分を検索し、L*軸上の誤差ΔL*が負の値である場合にはL*2の値を増加させる特性情報を有する成分を検索する。同様に、a*軸上の誤差Δa*が正の値である場合にはa*の値を減少させる特性情報(緑)を有する成分を、a*軸上の誤差Δa*が負の値である場合にはa*の値を増加させる特性情報(赤)を有する成分を、b*軸上の誤差Δb*が正の値である場合にはb*の値を減少させる特性情報(青)を有する成分を、b*軸上の誤差Δb*が負の値である場合にはb*の値を増加させる特性情報(黄)を有する成分を、それぞれ検索する。これにより、近似配合組成において、色空間を構成する表色系の座標軸ごとに、誤差を減らす方向に作用させる、すなわち、所定の特性情報を付与するための成分を追加することにより、目標とする色彩に近付けた候補配合組成データYniを得ることができる。
仮に、誤差を減らす方向に作用する特性情報を有する成分が検索されない場合には、目標色彩データXに基づいて、より適切な新たな近似配合組成を得た後に、候補配合組成データを得ることができる。
【0087】
また、候補配合組成データYniは、CCMにより得られた配合組成データに、作業者による修正(例えば、公知の色見本帳の色彩データ、過去作製した塗板の色彩データ、自らの経験等を参考にして行う作業者による修正)、前記コンピュータによる修正、人工知能モデルによる修正等を行うことで得ることもできる。
さらに、自動車修理工場等の作業現場において、使用可能な色材又は組成物が制限されている場合等においては、作業現場において使用可能な色材又は組成物のみに基づいて、候補配合組成データYniを得ることもできる。
【0088】
候補配合組成データYniは、表示手段や印刷手段等により出力することができる。また、出力することなく、コンピュータから次の工程を実施する機器等に送信することができる。
【0089】
S106工程において予測色彩データXniを得る際には、人工知能モデル及び/又は人工知能モデル以外の予測式が用いられる。本発明においては、人工知能モデルを用いるか、人工知能モデル以外の予測式を用いるかを切り替え可能とすることができる。
本発明においては、S106工程を、少なくとも1種の人工知能モデルのみを用いて、予測色彩データXniを得る工程とすることができる。また、2回目以降のS106工程においては、人工知能モデルを用いることなく、予測色彩データXniを得る工程とすることができる。
S106工程で得ることができる予測色彩データXniとしては、前記データベースに記録させた多種多様な色彩データが挙げられる。本発明において、予測色彩データXniは、多角度の分光反射率及び/又は光輝感パラメータを含むものであることが好ましい。予測色彩データXniが多角度の分光反射率及び/又は光輝感パラメータを含むことで、光学特性の予測が難しい光輝性の色彩に対しても、より精度の高い調色を行うことができる。
【0090】
S106工程において、学習された人工知能モデルを用いて予測色彩データXniを得る方法としては、学習された人工知能モデルのニューラルネットワークにおける入力層の各ユニットに、候補配合組成データYniの特徴量を入力すればよい。入力層に入力された候補配合組成データYniは、各ノード及び各層の間を重みづけされながら送信され、出力層の各ユニットから色彩データとして出力されることとなる。
【0091】
S106工程において、学習された人工知能モデル以外の予測式を用いて予測色彩データXniを得る方法としては、CCMによる調色の分野で公知の各種の予測式を用いることができる。このような予測式としては、例えば、クベルカ・ムンクの光学濃度式と、ダンカンの混色理論式による2定数法の予測式を用いる方法、ファジィ推論を用いる方法、その他、色彩データ又は配合組成データをコンピュータにて比較し、それぞれの整合の度合いを指数化する方法等があげられる。
【0092】
クベルカ・ムンクの光学濃度式と、ダンカンの混色理論式とを用いる方法は、以下のようなものである。1種類以上の色材を含有する組成物に含まれる各色材それぞれの光散乱係数及び光吸収係数と、各色材の配合比率を求め、クベルカ・ムンクの光学濃度式から「混色後の光吸収係数/混色後の光散乱係数」を算出し、この値を用いてダンカンの混色理論式を用いて分光反射率を求めることができる。また、目標とする色彩の分光反射率から「光吸収係数/光散乱係数」を算出し、これに色を合わせるために必要な色材や組成物等各原色塗料の配合比を求めることができる。この計算を可視スペクトルの各波長について行なうことで、目標とする色彩にするための顔料配合比を決定することができる。
【0093】
ここで、クベルカ・ムンクの光学濃度式は、以下のとおりである。
【数3】
【0094】
(K/S)λ:波長λにおけるクベルカ・ムンクの光学濃度関数
:光吸収係数
:光散乱係数
λ :波長λにおける反射率
λ :波長
【0095】
また、ダンカンの混色理論式は、以下のとおりである。
【数4】
:混色後の光吸収係数
:混色後の光散乱係数
:着色剤iの光吸収係数
:着色剤iの光散乱係数
:着色剤iの配合比率
【0096】
クベルカ・ムンクの光学濃度式は、光吸収係数と光散乱係数の比を分光反射率から計算して求めるもので、ダンカンの混色理論式を用いて混色計算を行うためには、光吸収係数及び光散乱係数の各々を求めておく必要がある。光吸収係数及び光散乱係数を求める方法としては公知の方法を用いることができ、例えば相対法や絶対法を用いることができる。
この際、より予測精度を向上させるために、塗料を形成する樹脂層と空気層の界面にて生じる内部鏡面反射や屈折率差による、分光反射率の測定に対する影響を補正するため、サンダーソンの式を用いて理想状態の反射率に変換した後、混色計算を行うことができる。また、着色剤の配合を目標色に合致させるために、着色剤の配合比を調整する方法には、ニュートン・ラプソン法による反復計算を用いることができ、目標反射率と予測反射率の色彩一致性の評価には、反射率から計算される色彩値XYZ、L*a*b*等を利用し、目標値と予測値の差を評価しつつニュートン・ラプソン法にて収束計算を行うメタメリック法や、目標反射率と予測反射率の差の2乗和を評価しつつ収束計算を行うアイソメリック法を用いることができる。
【0097】
ファジィ推論は、曖昧性をファジィ集合論におけるメンバーシップ関数を用いることで定義する方法がとられる。ファジィ推論の具体的な方法としては、これまで多数の提案がなされており、本発明においては、いずれの方法を用いてもよい。例えば、マンダーニによって考案されたファジー推論方法を用いることができる。
【0098】
合否の判定は、例えば、色彩データXを構成する各要素と、予測色彩データXniを構成する各要素とを、それぞれ個別に対比して行うことができる。例えば、色彩データX及び予測色彩データXniがL*a*b*表色系を用いた要素及びそれから得られる要素を含む場合、L*、a*及びb*それぞれに加え、色差ΔEについても対比して、合否判定を行うことができる。その際、各構成要素における差分、一致度、誤差率等についての閾値を設け、これを参考にして合否判定を行うようにしてもよい。
本発明において、前記予測色彩データXniが光輝性に係る色彩データである場合には、多角度の分光反射率及び/又は光輝感パラメータを用い、合否判定を行うことが好ましい。
なお、合否の判定に際しては、必要に応じて、合否にかかわらず予測色彩データXniを目標色彩データXに近いものとするための改良点等を作業者に報知するようにしてもよい。
【0099】
<S107工程>
S107工程は、前記S106工程において合格しない場合に、コンピュータを用いて目標色彩データXを与えると予測される候補配合組成データYniを得た後、前記少なくとも1種の学習した人工知能モデル及び/又は前記人工知能モデル以外の予測式を用いて、候補配合組成データYniから予測される予測色彩データXniを得るとともに、前記色彩データXと前記予測色彩データXniとを比較し、合否を判定する工程を、合格するまで繰り返す工程である。
S107工程において、コンピュータを用いて目標色彩データXを与えると予測される候補配合組成データYniを得る方法は、S106工程におけるコンピュータを用いて目標色彩データXを与えると予測される候補配合組成データYniを得る方法と同じものである。
また、S107工程において、合否を判定する方法は、S106工程における合否を判定する方法と同じものである。
【0100】
S107工程において、候補配合組成データYniから予測される予測色彩データXniを得る際には、S106工程において用いたのと同じ、少なくとも1種の学習した人工知能モデル及び/又は人工知能モデル以外の予測式を用いることができる。また、少なくとも1種の学習した人工知能モデル又は人工知能モデル以外の予測式のいずれか一方のみを用いるように、切り替える工程(手段)が設けられていてもよい。本発明においては、不合格となった際に用いられた予測式とは異なる予測式を用いることが好ましい。例えば、S106工程で少なくとも1種の学習した人工知能モデルを用いて得られた予測色彩データXniが合格しなかった場合、次のS107工程では人工知能モデル以外の予測式を用いるように切り替えることが好ましい。
予測式の切り替えは、手動で行うことができ、また、所定の条件を満たした場合に自動で行うように設定することができる。本発明においては、複数回のS107工程のうち少なくとも1回は、人工知能モデル以外の予測式を用いるようにすることが好ましい。
【0101】
<S108工程>
S108工程は、前記S105〜S107工程のいずれかで合格した、合格配合組成データYC1を得る工程である。本発明においては、合格配合組成データYC1を出力してもよく、出力せずにデータを送信してもよい。
合格配合組成データYC1は、調色方法により得られる塗料組成物の配合組成データを含むことができる。例えば、複数の市販の調色用塗料の配合比、顔料等の色材成分と調色用塗料の配合比、1種類以上の色材の配合比等のデータがあげられる。
また、合格配合組成データYC1は、合格配合組成と近似配合組成及び/又は候補配合組成との差分を解消するために必要な、成分及び/又はその配合量に関するデータを含むことができる。例えば、合格配合組成と近似配合組成又は候補配合組成とを対比した際における1以上の配合成分の差分等、近似配合組成と候補配合組成とを対比した際における1以上の配合成分の差分等の1種類以上のデータがあげられる。これらの差分データは、特定の配合組成からの微調色を行う際に用いられる微調色配合組成データに相当し、調色作業を簡略化するのに有用である。
【0102】
合格配合組成データYC1を出力する場合には、モニタ、ディスプレイ、携帯端末装置、スマートフォン等の携帯電話機、信号に基づいて情報又は画像を表示又は出力することができる任意の出力装置を用いることができる。また、信号に基づいて、情報又は画像を紙、プラスチック等の適当な媒体に表示することができる印刷装置等の出力装置を用いることもできる。
合格配合組成データYC1の出力は、コンピュータ内部での出力であってもよく、この場合、コンピュータ内部で出力された合格配合組成データYC1は、自動配合装置、端末装置、データ記録装置、データ記録媒体等に通信手段等を通じて送られる。
また、合格配合組成データYC1は、出力することなく、自動配合装置、端末装置、データ記録装置、データ記録媒体等に通信手段等を通じて送信してもよい。
【0103】
<S109工程>
S109工程は、前記合格配合組成データYC1に基づき、実候補塗料CMCiを調製し、該実候補塗料CMCiの塗装板を得て、実測色彩データXCiを取得する工程である。
【0104】
実候補塗料CMCiの調製方法は、特に限定されず、塗料を調製する際の公知の方法により行うことができる。例えば、実候補塗料CMCiを構成する各成分を調合容器に入れ、必要に応じて攪拌装置や分散装置等により混合し、調製することができる。
本発明においては、コンピュータが算出した合格配合組成のデータを、有線又は無線のネットワークを経由して電子天秤等を備える自動調合機に送信することにより、実候補塗料CMCiを調製してもよい。これにより、作業者が熟練者でなくても、容易に実候補塗料CMCiを調製することができる。
【0105】
実候補塗料CMCiの塗装板を得る方法についても、特に限定されず、塗装板を調製する際の公知の方法により行うことができる。例えば、基材に、1層以上の調色塗料の塗膜を隠ぺい膜厚以上となるように形成し、最上層にクリヤー塗料の塗膜を例えば乾燥膜厚で10〜100μmの膜厚となるように形成して塗装板とする方法等があげられる。各塗膜を形成する際には、必要に応じて加熱することで乾燥・硬化させてもよい。加熱による乾燥・硬化を行う場合は、すべての塗膜を形成した後に一括して行っても、塗膜を形成した際にその都度行ってもよい。実候補塗料CMCiの塗装板は、ロボット等を用いた自動塗装装置を用い全自動で作製してもよく、一部の工程を作業者が行うことで作製してもよい。
【0106】
本発明方法で用いる基材としては、特に限定されず、調色用試験塗板を作製するのに使用されている基材を用いることができる。例えば、金属板、紙、プラスチックフィルム等があげられる。基材の大きさは、測色を行うことができかつ色調を目視で確認できる程度の大きさであれば特に制限されず、例えば、1辺の長さが5〜20cm程度であることが一般的である。
【0107】
実候補塗料CMCiの塗装板を測色して実測色彩データXCiを取得する工程は、色彩計、多角度分光光度計、レーザー式メタリック感測定機器、変角分光光度計、光沢計、ミクロ光輝感測定器等の測定機器を用いた測定により直接取得するか、測定により取得されたデータを用いて算出することで取得できる。
【0108】
<S110工程>
S110工程は、前記色彩データXと前記実測色彩データXCiとの比較、及び/又は、前記目標とする色彩と前記実候補塗料CMCiの塗装板の色彩との比較により、合否を判定する工程である。
【0109】
合否の判定は、目標とする色彩Xと前記実候補塗料CMCiの塗装板の色彩とを、作業者の目視により対比して行うことができる。また、例えば、目標色彩データX又はこれを構成する各要素と、前記実候補塗料CMCiの塗装板を測色計等により測定して得られた色彩データ又はこれを構成する各要素とを、それぞれ個別に対比して行うことができる。その際、S106工程及びS107工程における合否の判定と同様に、各構成要素における差分、一致度、誤差率等についての閾値を設け、これを参考にして機器又は作業者により合否の判定を行うようにしてもよい。
本発明においては、作業者の目視による合否の判定と、色彩データ又はこれを構成する各要素に基づき機器又は作業者により行われる合否の判定とを組み合わせることで、合否の判定を行ってもよい。
なお、合否の判定の際、必要に応じて、合否にかかわらず実候補塗料CMCiの配合組成についての改良点等を作業者に報知するようにしてもよい。
【0110】
S110工程において合格した場合、実候補塗料CMCiの配合組成に基づいて、塗料を調製することができる。また、必要に応じて、コンピュータを用いることなく、作業者による微調色を行う工程を付加し、より目標とする色彩に近づけることができる。
【0111】
<S111工程>
S111工程は、前記S110工程における合否の判定で合格しない場合に、前記S106〜S110工程を繰り返す工程である。
本発明においては、S110工程における合否の判定で2回以上不合格となった場合であっても、前記S106〜S110工程を繰り返し、S110工程における合否の判定で合格するまで繰り返し行うことができる。
【0112】
S106〜S110工程を繰り返す際、S106工程及び/又はS107工程では、前回と同様に、少なくとも1種の学習した人工知能モデル及び/又は人工知能モデル以外の予測式を用いて、予測色彩データXniを得ることができる。また、少なくとも1種の学習した人工知能モデル又は人工知能モデル以外の予測式のいずれか一方のみを用いるように、切り替える工程(手段)が設けられていてもよい。本発明においては、少なくとも1種の学習した人工知能モデルを用いて得られた予測色彩データXniが合格しなかった場合、次は人工知能モデル以外の予測式を用いるように切り替えることが好ましい。
【0113】
S111工程で合格せずS106〜S110工程を繰り返す際、S106工程及び/又はS107工程において予測色彩データXniを得る際には、少なくとも1種の学習した人工知能モデル及び/又は人工知能モデル以外の予測式のうち、前回使用しなかった予測式を用いるように切り替えることができる。予測式の切り替えは、手動で行うことができ、また、所定の条件を満たした場合に自動で行うように設定することができる。本発明においては、複数回のS106工程及び/又はS107工程のうち少なくとも1回は、人工知能モデル以外の予測式を用いるようにすることが好ましい。
また、S111工程において合格しない場合において、予測色彩データXniと実測色彩データXCiの差分Δを補正係数αとしてコンピュータに入力した後に、S105工程〜S111工程を繰り返すことが好ましい。
これらにより、S110工程における実候補塗料CMCiの調製回数を5回以内、好ましくは3回以内、より好ましくは2回以内で、目的とする色彩が得られる塗料を調製することができる。
【0114】
<コンピュータ調色に基づく塗料の製造方法の応用>
本発明のコンピュータ調色に基づく塗料の製造方法は、目的とする色彩を得るために塗料を調製する際に用いることができる。また、塗料の配合組成の際の識別や、配合組成の修正に用いることができる。
特に、本発明のコンピュータ調色に基づく塗料の製造方法は、色彩を有する物品、例えば、自動車、オートバイ等の車両又はその部品、トラック、バス、電車、モノレール等の大型車両又はその部品、その他の工業製品等に塗布する補修用塗料の調製に用いることができる。色彩を有する物品は、特に、単層又は複層の塗膜を有するものであってもよい。特にメタリック塗色、真珠光沢色などの光輝性顔料含有塗膜の上にクリヤー塗膜が設けられた複層塗膜である場合に本発明の効果を最大限に発揮することができる。
【0115】
[塗膜の色彩データを予測する方法]
図7は、本発明の塗膜の色彩データを予測する方法を実行する際のフローチャートである。なお、図7に示されるフローは、本発明の一実施の形態にすぎない。
本発明の塗膜の色彩データを予測する方法は、1種類以上の色材を含有する組成物の色彩データX及び配合組成データYが少なくとも登録されたデータベースと、該データベースに登録されたデータを利用した色合わせ計算ロジックが作動するコンピュータと、を備えるコンピュータ調色装置を用い、下記S201〜S209工程を含む方法である。
ここで、S201工程及びS202工程は、それぞれS101工程及びS102工程と同じものである。以下、S203〜S209工程について、詳細に説明する。
【0116】
<S203工程>
S203工程は、塗膜の色彩データを予測する塗料CMの配合組成データYCMを得る工程である。
塗膜の色彩データを予測する塗料CMは、実際に塗料を調製することなくその色彩又は色彩データを取得したい塗料とすることができる。これにより、例えば、一度に多数の色彩を試作する等の場合において、塗料の調製、塗装による塗膜の調製及び塗膜の色彩データの測定という工程を行うことなく、容易に色彩又は色彩データを取得することができる。
配合組成データYCMは、塗料中に含まれるバインダー、着色顔料、添加剤成分等について、それぞれの種類(商品名、品番等)及び配合量に係るデータである。具体的には、データベースに登録される配合組成データを構成する、組成や配合量に係るデータと同様のものとすることができる。
【0117】
<S204工程>
S204工程は、前記配合組成データYCMを、前記コンピュータに入力する工程である。
データの入力は、前記S104工程において、目標色彩データXをコンピュータに入力する手段と同様の手段を用いて行うことができる。
【0118】
<S205工程>
S205工程は、必要に応じて、コンピュータを用いた検索により、前記配合組成データYCMに対応する検索色彩データXn1を取得する工程である。
S205工程は、コンピュータカラーサーチ(CCS)と同様の工程とすることができ、データベースに登録されている多数の配合組成データの中から、前記配合組成データYCMと近似する配合組成データを検索し、得られた配合組成データに対応する色彩データを、検索色彩データXn1として取得するものである。
ここで、データベースに登録されている配合組成データは、例えば、市販の塗料の配合組成データ、過去作製した塗料の配合組成データ等で、いずれも配合組成データと対応する色彩データとが関連付けられている。したがって、配合組成データYCMに近似する配合組成データを得ることで、対応する色彩データを検索色彩データXn1として容易に得ることができる。
【0119】
配合組成データYCMと近似する配合組成データを、多数の配合組成データから検索する際には、配合組成データを構成する要素の1つ以上(例えば、特定の色の顔料の含有量等)のそれぞれについて、対応する要素と対比し、値の差分、一致度、誤差率等が一定の範囲内であるものを検索して得ることができる。前記一定の範囲は、作業者が経験等を踏まえて設定してもよく、また、コンピュータにより設定することもできる。
本発明において、S205工程は、必要に応じて行われるものであり、行われなくても何ら問題はない。
【0120】
<S206工程>
S206工程は、前記S205工程で対応する検索色彩データXn1が検索されなかった場合、又は、前記S205工程を行わなかった場合において、前記配合組成データYCMから、前記少なくとも1種の学習した人工知能モデル、又は、前記少なくとも1種の学習した人工知能モデルと前記人工知能モデル以外の予測式とを用いて、予測色彩データXm1を得る工程である。
【0121】
本発明においては、少なくとも1種の人工知能モデルを用い、配合組成データYCMから、予測色彩データXm1を得ることができる。また、少なくとも1種の学習した人工知能モデルと人工知能モデル以外の予測式とを併用して、予測色彩データXm1を得ることができる。ここで、人工知能モデルを用いる方法等、人工知能モデル以外の予測式及びそれを用いる方法等は、前記S106工程において記載したのと同様のものとすることができる。
【0122】
<S207工程>
S207工程は、必要に応じて、前記塗料CMを塗装した塗装板の実測色彩データXCMを取得し、前記予測色彩データXm1と比較する工程である。
S207工程を実施し、結果をフィードバックすることにより、より高精度に塗膜の色彩データを予測することが可能となる。
例えば、実測色彩データXCMと予測色彩データXm1とで乖離が大きい場合には、人工知能モデル以外の予測式のみを用い、改めて予測色彩データを得るとともに、実測色彩データXCMと比較して、フィードバックを行うことができる。
また、予測色彩データXm1と実測色彩データXCMとの差分Δを補正係数βとしてコンピュータに入力した後に、S205工程〜S207工程を繰り返すこともできる。
【0123】
<塗膜の色彩データを予測する方法の応用>
本発明の塗膜の色彩データを予測する方法は、例えば、車両塗装等の塗装の際に用いる塗料を調製する際、塗膜の色調を予測するに用いることができる。
本発明塗膜の色彩データを予測する方法を用いることによって、個別の塗料配分組成に関する特定の塗料を生成する必要なしに、指定された多数の塗料配分組成に対する色彩の精度の高い予測が可能となる。また、多数の塗料配分組成候補の中から、指定された色彩からズレが最も小さい塗料配分組成を、多数の塗料配分組成の中から容易に選択することができる。これにより、多数の塗料配分組成についてそれぞれ塗料を調製し、その後、実際に被塗布材に塗布して塗板を作製後に測定を行うことなく、対応する色彩データを取得することが可能となる。
【0124】
[コンピュータ調色システム]
本発明のコンピュータ調色システムは、
1種類以上の色材を含有する組成物の色彩データ(X)及び配合組成データ(Y)が登録されたデータベースと、該データベースに登録されたデータを利用した色合わせ計算ロジックが作動するコンピュータと、を備えるコンピュータ調色システムであって、下記手段S301〜S311を含むものである。
(S301)前記データベースに登録されたデータを用い、学習用データを前記コンピュータに入力する手段
(S302)前記学習用データを機械学習させ、配合組成データYから色彩データXを推定する人工知能モデルの少なくとも1種を生成する手段
(S303)目標とする色彩の目標色彩データXを得る手段
(S304)前記目標色彩データXを、前記コンピュータに入力する手段
(S305)コンピュータを用いた検索により、前記目標色彩データXに近似する検索色彩データXn1及び検索色彩データXn1に対応する近似配合組成データYn1を得るとともに、前記目標色彩データXと前記検索色彩データXn1とを比較し合否を判定する手段
(S306)前記手段S305において合格しない場合に、コンピュータを用いて目標色彩データXを与えると予測される候補配合組成データYniを得た後、前記少なくとも1種の学習した人工知能モデル及び/又は前記人工知能モデル以外の予測式を用いて、候補配合組成データYniから予測される予測色彩データXniを得るとともに、前記色彩データXと前記予測色彩データXniとを比較し、合否を判定する手段
(S307)前記手段S306において合格しない場合に、コンピュータを用いて目標色彩データXを与えると予測される候補配合組成データYniを得た後、前記少なくとも1種の学習した人工知能モデル及び/又は前記人工知能モデル以外の予測式を用いて、候補配合組成データYniから予測される予測色彩データXniを得るとともに、前記色彩データXと前記予測色彩データXniとを比較し、合否を判定する手段を、合格するまで繰り返す手段
(S308)前記手段S305〜S307のいずれかで合格した際の、合格配合組成データYC1を得る手段
(S309)前記合格配合組成データYC1に基づき、実候補塗料CMCiを調製し、該実候補塗料CMCiの塗装板を得て、実測色彩データXCiを取得する手段
(S310)前記色彩データXと前記実測色彩データXCiとの比較、及び/又は、前記目標とする色彩と前記実候補塗料CMCiの塗装板の色彩との比較により、合否を判定する手段
(S311)前記手段S310において合格しない場合に、前記手段S306〜S310を繰り返す手段
【0125】
ここで、「1種類以上の色材を含有する組成物」、「1種類以上の色材を含有する組成物の色彩データ(X)及び配合組成データ(Y)が登録されたデータベース」及び「該データベースに登録されたデータを利用した色合わせ計算ロジックが作動するコンピュータ」は、前記コンピュータ調色に基づく塗料の製造方法で用いられる装置における「データベース」及び「コンピュータ」と実質的に同じものとすることができる。
【0126】
また、前記手段S301〜S311は、本発明のコンピュータ調色に基づく塗料の製造方法におけるS101〜S111工程を実施するための手段に相当するものであるから、実質的にS101〜S112工程に関して説明した手段と同様の手段とすることができる。さらに、自動調合手段についても、本発明のコンピュータ調色に基づく塗料の製造方法で用いられる自動調合機による自動調合手段と同様のものとすることができる。
【0127】
[塗膜の色彩データを予測するシステム]
本発明の塗膜の色彩データを予測するシステムは、1種類以上の色材を含有する組成物の色彩データ(X)及び配合組成データ(Y)が登録されたデータベースと、該データベースに登録されたデータを利用した色合わせ計算ロジックが作動するコンピュータと、を備える塗膜の色彩データを予測するシステムであって、下記手段S401〜S407を含むものである。
(S401)前記データベースに登録されたデータを用い、学習用データを前記コンピュータに入力する手段
(S402)前記学習用データを機械学習させ、配合組成データYから色彩データXを推定する人工知能モデルの少なくとも1種を生成する手段
(S403)塗膜の色彩データを予測する塗料CMの配合組成データYCMを得る手段
(S404)前記配合組成データYCMを、前記コンピュータに入力する手段
(S405)必要に応じて、コンピュータを用いた検索により、前記配合組成データYCMに対応する検索色彩データXn1を取得する手段
(S406)前記手段S405で対応する検索色彩データXn1が検索されなかった場合、又は、前記手段S405を行わなかった場合において、前記配合組成データYCMから、前記少なくとも1種の学習した人工知能モデル、又は、前記少なくとも1種の学習した人工知能モデルと前記人工知能モデル以外の予測式とを用いて、予測色彩データXm1を得る手段
(S407)必要に応じて、前記塗料CMを塗装した塗装板の実測色彩データXCMを取得し、前記予測色彩データXm1と比較する手段
【0128】
ここで、「1種類以上の色材を含有する組成物」、「1種類以上の色材を含有する組成物の色彩データ(X)及び配合組成データ(Y)が登録されたデータベース」及び「該データベースに登録されたデータを利用した色合わせ計算ロジックが作動するコンピュータ」は、本発明の塗膜の色彩データを予測する方法で用いられる装置における「データベース」及び「コンピュータ」と実質的に同じものとすることができる。
【0129】
また、前記手段S401〜S407は、本発明の塗膜の色彩データを予測する方法におけるS201〜S207工程を実施するための手段に相当するものであるから、実質的にS201〜S209工程に関して説明した手段と同様の手段とすることができる。さらに、自動調合手段についても、本発明の塗膜の色彩データを予測する方法で用いられる自動調合機による自動調合手段と同様のものとすることができる。
【0130】
[アプリケーションソフトウェア]
本発明は、前記コンピュータ調色システム及び/又は塗膜の色彩データを予測するシステムを制御し動作させるためのアプリケーションソフトウェアにも関する。
本発明のアプリケーションソフトウェアは、本発明のシステムを制御し動作させるために機能するものであり、それにより、本発明の方法を実行するために機能する。
本発明のアプリケーションソフトウェアは、本発明のシステム又はシステムを構成する各手段を実行する機器等が有しているHDD(Hard Disk Drive)やフラッシュメモリなどの記録装置に、予め格納されていてもよい。また、無線又は有線の通信手段、DVD、CD−ROM、USBメモリなどの着脱可能な記録媒体等を用いることで、機器等にインストールされるものでもよい。
【実施例】
【0131】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。しかし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0132】
[実施例]
レタンPG80、レタンPGハイブリッドエコ、レタンWBエコ EV及びレタンエコフリート(いずれも、関西ペイント社製商品名)シリーズにおける、各カラー原色及びパール原色を86種類選定した。その配合組成データ及び色彩データを取得しデータベースに登録した。色彩データは、多角度分光光度計(入射角度45度、受光角度ハイライト15度、25度、フェース45度、シェード75度、110度)で測定した5角度での400〜700nmにおける155種類の反射スペクトルデータを用いた。データベースに登録されたデータを用いて作成した学習用データを、コンピュータに入力してニューラルネットワークにより機械学習させ、配合組成データYから色彩データXを推定する人工知能モデルを生成した。
配合組成データが不明である塗料が塗布されている塗装板100枚(色彩、塗膜構成の異なる100色、メタリック及び/又はパール塗膜を約14%含む)を準備し、それぞれの色彩データを取得するとともに、学習済の人工知能モデルと人工知能モデル以外の予測式を同時搭載したコンピュータ・カラーマッチング装置(関西ペイント社製)に入力し、人工知能モデルを用いて調色作業を行った。調色作業時の調色負荷を調色精度と削減効果にて評価した。調色精度は調色回数が2回以内で合格となる割合を求め、下記1〜5段階で評価した。また、削減効果は最終合格調色配合を得るまでに要した工数(時間)を、比較例を100としたときの割合で示した。結果を表1に示す。本実施例に示すとおり、従来の調色工数から60%の削減効果があったことを意味する。
5:合格率が85%以上
4:合格率が75%以上85%未満
3:合格率が65%以上75%未満
2:合格率が55%以上65%未満
1:合格率が54%未満
【0133】
[比較例]
実施例で用いたのと同じカラー原色及びパール原色86種類の配合組成データ及び色彩データを取得し、人工知能モデルを搭載していない従来型のコンピュータ・カラーマッチング装置(関西ペイント社製)に登録した。
実施例1で用いたのと同じ100枚の塗装板に対して、上記コンピュータ・カラーマッチング装置を用いて候補配合組成を得て、5年以上の熟練者により合格配合を得るまで調色作業を繰り返し行い、実施例1と同様に調色負荷を評価した。結果を表1に示す。
【0134】
【表1】
【符号の説明】
【0135】
1 データベース
2、21〜24 コンピュータ
31、32 入力装置
41、42 出力装置
51、52 表示装置
61、62 測色計
71、72 撮像機器
81、82 (自動)調合機
9 ニューラルネットワーク
91 入力層
911 入力ノード
92 隠れ層
921 隠れノード
93 出力層
931 出力ノード
【要約】
【課題】光学特性の予測が難しい光輝性の色彩を含む、多種多様な色彩の塗色を得るための塗料の製造方法であって、作業者の熟練度によらず、少ない試作回数で調色を終了させることができるコンピュータ調色に基づく塗料の製造方法を提供すること。
【解決手段】1種類以上の色材を含有する組成物の配合組成データY及び対応する色彩データXが少なくとも登録されたデータベースと、該データベースに登録されたデータを利用した色合わせ計算ロジックが作動するコンピュータと、を備える装置を用いるコンピュータ調色に基づく塗料の製造方法であって、所定のS101〜S111工程を含む、前記塗料の製造方法。
【選択図】図6
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7