【実施例】
【0066】
以下、実施例により、本発明に係る硫酸銅水溶液の製造方法及び製造装置について、その効果をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の具体的形態に限定されるものではない。
【0067】
<参考例1:陽イオン交換膜を用いた電気透析>
陽イオン交換膜(強酸性型陽イオン交換膜 SELEMION CMV、AGCエンジニアリング社製)を用いて、ナトリウムイオンとマグネシウムイオンとが混在した溶液に対し電気透析を行った。溶液に含まれるナトリウムイオン濃度(C
Na)とマグネシウムイオン濃度(C
Mg)との関係は、C
Na+2C
Mg=90(mol/m
3)、C
Na/(C
Na+2C
Mg)=0.4とし、電流密度は20A/m
2一定条件として実験を行った。結果を
図9に示す。
【0068】
図9に示すように、電気透析により、ナトリウムイオン、マグネシウムイオンともに、陽イオン交換膜を透過しており、陽イオン交換膜を用いた場合は、1価の陽イオンと多価の陽イオンとで、選択透過性は認められなかった。
【0069】
<参考例2:バイポーラ膜を用いた電気透析>
一面側表面に正荷電層を備えるとともに他面側表面に負荷電層を備えるバイポーラ膜(NEOSEPTA CIMS、アストム社製)を用いて、ナトリウムイオンとマグネシウムイオンとが混在した溶液に対し電気透析を行った。溶液に含まれるナトリウムイオン濃度(C
Na)とマグネシウムイオン濃度(C
Mg)や、電流密度は上記と同様の条件とした。結果を
図10に示す。
【0070】
図10に示すように、電気透析により、ナトリウムイオンはバイポーラ膜を透過する一方、マグネシウムイオンの透過は抑制されており、バイポーラ膜を用いた場合は、1価の陽イオンと多価の陽イオンとで、選択透過性が認められた。
【0071】
以上の予備実験1の結果から、水溶液に含まれる1価の陽イオンと多価の陽イオンとを選択分離する場合は、正荷電層と負荷電層とを組み合わせた膜を用いた電気透析が有効であることが分かった。
【0072】
<参考例3:バイポーラ膜を用いた電気透析によるカチオンの選択分離の検討>
上記のバイポーラ膜(NEOSEPTA CIMS、アストム社製)を用いて、ナトリウムイオンと銅イオンとが混在した溶液に対し電気透析を行った。溶液に含まれるナトリウムイオン濃度(C
Na)と銅イオン濃度(C
Cu)との関係は、C
Na+2C
Cu=60(mol/m
3)、C
Na/(C
Na+2C
Cu)=0.5とし、電流密度は20A/m
2一定条件として実験を行った。結果を
図11に示す。
【0073】
図11に示すように、電気透析により、ナトリウムイオンはバイポーラ膜を透過する一方、銅イオンの透過は抑制されており、正荷電層と負荷電層とを組み合わせた場合は、1価の陽イオンと銅イオンとで、選択透過性が確認できた。
【0074】
以上の結果を踏まえて、水溶液に含まれる1価の陽イオンをバイポーラ膜の一面側から他面側へと透過させるとともに、一面側において金属銅を水溶液に銅イオンとして溶出させて、銅イオン含有水溶液を製造することについて検討した。
【0075】
<参考例4:銅キレート錯体からの金属銅及びキレート剤の再生(その1)>
陽イオン透過膜1に替えて上記のバイポーラ膜を設置したこと以外は、
図6及び
図8に示すような方法(及び装置)により、第1室内で、銅キレート錯体(EDTA−Cu)を含む溶液の電気分解実験を行った。尚、第2室には硫酸ナトリウム水溶液(40mol/m
3)を供給するものとした。溶液の初期条件はpH3.5、EDTA−Cu濃度60mol/m
3であり、電気分解における電流密度は16.1A/m
2一定条件として実験を行った。
【0076】
図12に、第1室におけるEDTA−Cu及びEDTAの濃度変化を示す。電流を流すことで時間の経過とともに溶液中のEDTA−Cuが減少し、EDTA濃度が上昇している。また、この他に陽極側でのナトリウムイオンの減少、並びに、目視で陰極板上での金属銅の析出が観察できた。
【0077】
<参考例5:金属銅及び硫酸ナトリウム水溶液からの硫酸銅水溶液の製造(その1)>
参考例4に引き続き、電気分解時とは極性を反転させたうえで、第1室内に硫酸ナトリウム水溶液を供給しつつ、電気透析を行った。バイポーラ膜としては、予備実験と同様にアストム社製NEOSEPTA CIMSを用いた。硫酸ナトリウム水溶液の濃度は40mol/m
3とし、供給源から第1室へ水溶液の供給速度を0.85L/minとした。第1室の内部に析出した金属銅を1.309g設置した。第2室には硫酸ナトリウム水溶液(40mol/m
3)を供給するものとした。また、電気透析における電流密度は16.1A/m
2一定条件として実験を行った。
【0078】
図13に第1室(anode)におけるナトリウムイオン及び銅イオンの濃度変化と、第2
室(cathode)におけるナトリウムイオン及び銅イオンの濃度変化とを示す。
図13に示
すように、第1室から第2室へとナトリウムイオンが透過するとともに、第1室で銅イオ
ンが溶出し硫酸銅が生成していることが分かる。また、第2室の銅イオン濃度の上昇は認
められず、硫酸銅の収率は99%以上となった。
【0079】
<参考例6:金属銅及び硫酸ナトリウム水溶液からの硫酸銅水溶液の製造(その2)>
陽イオン透過膜1に替えて上記のバイポーラ膜を設置したこと以外は、
図3及び
図8に示すような方法及び装置により、第1室内に硫酸ナトリウム水溶液を供給しつつ、電気透析を行った。バイポーラ膜としては、予備実験と同様にアストム社製NEOSEPTA CIMSを用い、陽極側(第1室側)に正荷電層を、陰極側(第2室側)に負荷電層を配置した。硫酸ナトリウム水溶液の濃度は260mol/m
3とし、供給源から第1室へ水溶液の供給速度を1.6L/minとした。第1室には銅板を設置し、当該銅板を電極として併用するものとした。第2室には硫酸ナトリウム水溶液(260mol/m
3)を供給するものとした。また、電気透析における電流密度は18A/m
2一定条件として実験を行った。
【0080】
図14(A)に第1室(anode)における(a)pHの変化、(b)金属銅量の変化、(c)ナトリウムイオン及び銅イオンの濃度変化を、
図14(B)に第2室(cathode)における(a)pHの変化、(b)電圧の変化、(c)ナトリウムイオン及び銅イオンの濃度変化を示す。
図14(A)に示すように、第1室における水溶液のpHは、ごくわずかに低下しているもののほぼ一定(pH7)である(a)。すなわち、水溶液のpHの低下を抑えつつ、銅イオン含有水溶液を製造できている。また、第1室において、電気透析が進むにつれ、金属銅量が減少し、銅イオン濃度が上昇する一方、ナトリウムイオン濃度が低下している(b、c)。
図14(B)に示すように、第2室における水溶液のpHはわずかに上昇しているもののほぼ一定(pH13)である(a)。また、第2室において、電気透析が進むにつれ、ナトリウムイオン濃度が上昇する一方、銅イオン濃度は0のまま変化していない。
したがって、第1室から第2室へとナトリウムイオンが透過するとともに、第1室で銅イオンが溶出し硫酸銅が生成しており、得られる硫酸銅水溶液のpHの低下も認められず、硫酸銅の収率は99%以上となった。
【0081】
<比較例1:金属銅及び硫酸ナトリウム水溶液からの硫酸銅水溶液の製造(その3)>
バイポーラ膜の向きを逆(陰極側に正荷電層、陽極側に負荷電層)にして運転を行った場合に、銅イオン含有水溶液が製造可能かどうか実験を行った。すなわち、陽イオン透過膜1に替えて上記のバイポーラ膜を設置したこと以外は、
図3及び
図8に示すような方法及び装置により、第1室内に硫酸ナトリウム水溶液を供給しつつ、電気透析を行った。バイポーラ膜としては、予備実験と同様にアストム社製NEOSEPTA CIMSを用い、陰極側(第2室側)に正荷電層を、陽極側(第1室側)に負荷電層を配置した。硫酸ナトリウム水溶液の濃度は253mol/m
3とし、供給源から第1室へ水溶液の供給速度を1.6L/minとした。第1室には銅板を設置し、当該銅板を電極として併用するものとした。第2室には硫酸ナトリウム水溶液(253mol/m
3)を供給するものとした。また、電気透析における電流密度は19.2A/m
2一定条件として実験を行った。
【0082】
図15(A)に第1室(anode)における(a)pHの変化、(b)金属銅量の変化、(c)ナトリウムイオン及び銅イオンの濃度変化を、
図15(B)に第2室(cathode)における(a)pHの変化、(b)電圧の変化、(c)ナトリウムイオン及び銅イオンの濃度変化を示す。
図15(A)に示すように、第1室における水溶液のpHは、ごくわずかに低下しているもののほぼ一定(pH7)である(a)。すなわち、水溶液のpHの低下を抑えつつ、銅イオン含有水溶液を製造できている。また、第1室において、電気透析が進むにつれ、金属銅量が減少し、銅イオン濃度が上昇する一方、ナトリウムイオン濃度が低下している(b、c)。
図15(B)に示すように、第2室における水溶液のpHはわずかに上昇しているもののほぼ一定(pH13)である(a)。また、第2室において、電気透析が進むにつれ、ナトリウムイオン濃度が上昇する一方、銅イオン濃度は0のまま変化していない。すなわち、第1室から第2室へとナトリウムイオンが透過するとともに、第1室で銅イオンが溶出し硫酸銅が生成しており、得られる硫酸銅水溶液のpHの低下も認められず、硫酸銅の収率は99%以上となった。
ただし、
図14(B)(b)とは異なり、時間の経過とともに電圧が大きく増加していることから(
図15(B)(b))、電気透析を安定して行うためには、陽極側にバイポーラ膜の正荷電層1aを存在させたほうが好ましいことが分かった。
【0083】
図14及び15の結果から、電気透析時、陽極側にバイポーラ膜1の正荷電層1aを存在させることで、電圧の上昇を抑えつつ、より安定的に銅イオン含有水溶液を製造できるといえる。このことに鑑みると、バイポーラ膜を正荷電層1a/負荷電層1c/正荷電層1bの3層構成とすることで、電気透析時、常に陽極側にバイポーラ膜の正荷電層1aを存在させることが可能となることから、極性反転時にバイポーラ膜の入れ替えが不要となると考えられる。
【0084】
以下、上記の3層構成を備えたイオン透過膜を用いた場合に、金属銅及び硫酸ナトリウム水溶液から硫酸銅水溶液を製造できること、並びに、銅キレート錯体溶液の電気分解によって金属銅の析出及びキレート剤の再生を行うことができることを確認した。
【0085】
<参考例7:銅キレート錯体からの金属銅及びキレート剤の再生(3層膜)>
図16に示すような装置により、第1室内で、銅キレート錯体(EDTA−Cu)を含む溶液の電気分解実験を行った。実験に際して、各室内に供給される溶液は、排出口から室外に排出させた後、再び供給口から室内に戻す(循環させる)ようにした。陽イオン透過膜における正荷電層及び負荷電層の構成(材質)は、アストム社製NEOSEPTA CMSの正荷電層及び負荷電層と同等のものとした。第2室には炭酸ナトリウム水溶液(30mol/m
3)を供給するものとした。溶液の初期条件はpH3.5、EDTA−Cu濃度60mol/m
3であり、電気分解における電流密度は30.2A/m
2一定条件として実験を行った。
【0086】
図17(A)に第1室(cathode)における(a)pHの変化、(b)金属銅量の変化、(c)銅キレート錯体及び再生キレート剤の濃度変化を、
図17(B)に第2室(anode)における(a)pHの変化、(b)電圧の変化、(c)ナトリウムイオンの濃度変化を示す。
図17(A)に示すように、第1室において、電気分解が進むにつれ、水溶液のpHが上昇している(a)。また、第1室において、電気分解が進むにつれ、銅キレート錯体が減少し、金属銅が析出するとともに、再生キレート剤濃度が増加している(b、c)。陰極板上には目視で金属銅の析出が確認できた。
図17(B)に示すように、第2室において、電気分解が進むにつれ、水溶液のpHが減少している(a)。また、第2室において、電気分解が進むにつれ、ナトリウムイオン濃度が減少している。すなわち、第1室から第2室へとナトリウムイオンが透過している。
以上の通り、3層構成を備えた陽イオン透過膜を用いた電解槽においても、銅キレート錯体溶液を電気分解することで金属銅の析出及びキレート剤の再生を行うことができた。
【0087】
<実施例1:電解槽における電気透析と電気分解との同時実施(3層膜)>
図3に示すように、参考例7に引き続いて、第1室と第2室とで極性を反転させたうえで、第1室内に硫酸ナトリウム水溶液を供給しつつ、電気透析を行うとともに、第2室内に銅キレート錯体溶液を供給しつつ、電気分解を行った。実験に際して、各室内に供給される溶液は、排出口から室外に排出させた後、再び供給口から室内に戻す(循環させる)ようにした。陽イオン透過膜における正荷電層及び負荷電層の構成(材質)は、上記のアストム社製NEOSEPTA CMSの正荷電層及び負荷電層と同等のものとした。硫酸ナトリウム水溶液の濃度は160mol/m
3とし、供給源から第1室へ水溶液の供給速度を0.8L/minとした。銅キレート錯体溶液の濃度は60mol/m
3とし、第2室へ溶液の供給速度を0.8L/minとした。また、電気透析(及び電気分解)における電流密度は30.2A/m
2一定条件として実験を行った。
【0088】
図18(A)に第1室(cathode)における(a)pHの変化、(b)金属銅量の変化、(c)銅キレート錯体及び再生キレート剤の濃度変化を、
図18(B)に第2室(anode)における(a)pHの変化、(b)金属銅量の変化、(c)ナトリウムイオンの濃度変化、(d)銅イオンの濃度変化を示す。
図18(A)に示すように、第1室において、電気分解が進むにつれ、水溶液のpHが上昇している(a)。また、第1室において、電気分解が進むにつれ、銅キレート錯体が減少し、金属銅が析出するとともに、再生キレート剤濃度が増加している(b、c)。陰極板上には目視で金属銅の析出が確認できた。
図18(B)に示すように、第2室における水溶液のpHが低下したものの、ごくわずかであった(a)。すなわち、水溶液のpHの低下を抑えつつ、銅イオン含有水溶液を製造できている。また、第2室において、電気透析が進むにつれ、金属銅量が減少し、ナトリウムイオン濃度が低下する一方、銅イオン濃度が上昇している(b、c、d)。
以上の通り、3層構成を備えた陽イオン透過膜を用いた電解槽では、cathode側(第1室側)において銅キレート錯体溶液を電気分解することで金属銅の析出及びキレート剤の再生を行うと同時に、anode側(第2室側)において電気透析により金属銅を銅イオンとして溶出させて銅イオン含有水溶液を製造することができた。
言うまでもなく、その後、溶液の供給の切り替えと極性の反転とを行うことで、再び、cathode側(第2室側)において銅キレート錯体溶液を電気分解することで金属銅の析出及びキレート剤の再生を行うと同時に、anode側(第1室側)において電気透析により金属銅を銅イオンとして溶出させて銅イオン含有水溶液を製造することができる。
【0089】
<参考例8:銅キレート錯体からの金属銅及びキレート剤の再生(3層膜、スタック)>
図19に示すように、第1室、陽イオン透過膜及び第2室からなる構成物がバイポーラ電極を介して2つスタックされた装置を用意し、それぞれの装置の第1室内で、銅キレート錯体(EDTA−Cu)を含む溶液の電気分解実験を行った。実験に際して、各室内に供給される溶液は、排出口から室外に排出させた後、再び供給口から室内に戻す(循環させる)ようにした。陽イオン透過膜における正荷電層及び負荷電層の構成(材質)は、上記のアストム社製NEOSEPTA CMSの正荷電層及び負荷電層と同等のものとした。尚、第2室には炭酸ナトリウム水溶液(60mol/m
3)を供給するものとした。溶液の初期条件はpH3.5、EDTA−Cu濃度60mol/m
3であり、電気分解における電流密度は20.0A/m
2一定条件として実験を行った。
【0090】
図20(A)に第1室(cathode)における(a)pHの変化、(b)金属銅量の変化、(c)銅キレート錯体及び再生キレート剤の濃度変化を、
図20(B)に第2室(anode)における(a)pHの変化、(b)電圧の変化、(c)ナトリウムイオンの濃度変化を示す。
図20(A)に示すように、第1室において、電気分解が進むにつれ、水溶液のpHが上昇している(a)。また、第1室において、電気分解が進むにつれ、銅キレート錯体が減少し、金属銅が析出するとともに、再生キレート剤濃度が増加している(b、c)。陰極板上には目視で金属銅の析出が確認できた。
図20(B)に示すように、第2室において、電気分解が進むにつれ、水溶液のpHが減少している(a)。また、第2室において、電気分解が進むにつれ、ナトリウムイオン濃度が減少している。すなわち、第1室から第2室へとナトリウムイオンが透過している。
以上の通り、電解槽をスタックした場合においても、銅キレート錯体溶液を電気分解することで金属銅の析出及びキレート剤の再生を行うことができた。
【0091】
<実施例2:電解槽における電気透析と電気分解との同時実施(3層膜、スタック)>
図21に示すように、参考例8に引き続いて、第1室と第2室とで極性を反転させたうえで、各第1室内に硫酸ナトリウム水溶液を供給しつつ、電気透析を行うとともに、各第2室内に銅キレート錯体溶液を供給しつつ、電気分解を行った。陽イオン透過膜1における正荷電層及び負荷電層の構成(材質)は、上記のアストム社製NEOSEPTA CMSの正荷電層及び負荷電層と同等のものとした。硫酸ナトリウム水溶液の濃度は160mol/m
3とし、供給源から第1室へ水溶液の供給速度を0.4L/minとした。銅キレート錯体溶液の濃度は60mol/m
3とし、第2室へ溶液の供給速度を0.4L/minとした。また、電気透析における電流密度は20.0A/m
2一定条件として実験を行った。
【0092】
図22(A)に第1室(cathode)における(a)pHの変化、(b)金属銅量の変化、(c)銅キレート錯体及び再生キレート剤の濃度変化を、
図22(B)に第2室(anode)における(a)pHの変化、(b)金属銅量の変化、(c)ナトリウムイオンの濃度変化、(d)銅イオンの濃度変化を示す。
図22(A)に示すように、第1室において、電気分解が進むにつれ、水溶液のpHが上昇している(a)。また、第1室において、電気分解が進むにつれ、銅キレート錯体が減少し、金属銅が析出するとともに、再生キレート剤濃度が増加している(b、c)。陰極板上には目視で金属銅の析出が確認できた。
図22(B)に示すように、第2室における水溶液のpHが低下したものの、ごくわずかであった(a)。すなわち、水溶液のpHの低下を抑えつつ、銅イオン含有水溶液を製造できている。また、第2室において、電気透析が進むにつれ、金属銅量が減少し、ナトリウムイオン濃度が低下する一方、銅イオン濃度が上昇している(b、c、d)。
以上の通り、3層構成を備えた陽イオン透過膜を用いた電解槽をスタックした場合でも、cathode側(第1室側)において銅キレート錯体溶液を電気分解することで金属銅の析出及びキレート剤の再生を行うと同時に、anode側(第2室側)において電気透析により金属銅を銅イオンとして溶出させて銅イオン含有水溶液を製造することができた。
言うまでもなく、その後、溶液の供給の切り替えと極性の反転とを行うことで、再び、cathode側(第2室側)において銅キレート錯体溶液を電気分解することで金属銅の析出及びキレート剤の再生を行うと同時に、anode側(第1室側)において電気透析により金属銅を銅イオンとして溶出させて銅イオン含有水溶液を製造することができる。
【0093】
<実施例3:銅キレート錯体溶液以外の電解液を供給する場合>
図23に示すような装置により、陽極板として銅板を備える第1室内に硫酸ナトリウム水溶液を供給しつつ、電気透析を行うとともに、第2室内に炭酸ナトリウム水溶液を供給しつつ、電気分解を行った。実験に際して、各室内に供給される溶液は、排出口から室外に排出させた後、再び供給口から室内に戻す(循環させる)ようにした。陽イオン透過膜における正荷電層及び負荷電層の構成(材質)は、上記のアストム社製NEOSEPTA CMSの正荷電層及び負荷電層と同等のものとした。硫酸ナトリウム水溶液及び炭酸ナトリウム水溶液の濃度は80mol/m
3とし、第1室及び第2室へ水溶液の供給速度をそれぞれ0.8L/minとした。また、電気透析(及び電気分解)における電流密度は30.0A/m
2一定条件として実験を行った。
【0094】
図24(A)に第1室(anode)における(a)pHの変化、(b)銅板量の変化、(c)ナトリウムイオンの濃度変化、(d)銅イオンの濃度変化を、
図24(B)に第2室(cathode)における(a)pHの変化、(b)電圧の変化、(c)ナトリウムイオンの濃度変化を示す。
図24(A)に示すように、第1室において、電気透析が進んでも、水溶液のpHはほとんど変化していない(a)。すなわち、水溶液のpHの低下を抑えつつ、銅イオン含有水溶液を製造できている。また、第1室において、電気透析が進むにつれ、金属銅が溶出するとともに、ナトリウムイオン濃度が減少する一方、銅イオン濃度が上昇している(b、c、d)。
図24(B)に示すように、第2室において、電気透析が進んでも、水溶液のpHや電圧はほとんど変化していない(a、b)。すなわち、銅イオン含有水溶液を安定して製造できている。また、第2室において、電気透析が進むにつれ、ナトリウムイオン濃度が上昇している(c)。
以上の通り、3層構成を備えた陽イオン透過膜を用いた電気透析を利用することで、銅イオン含有水溶液を効率的且つ安定的に製造できる。ここで、銅イオン含有水溶液を製造する側(銅イオンの溶出を行う側)とは反対側に供給される溶液は、電気を通す電解液であればその種類は問わないことが分かる。すなわち、当該反対側に供給される溶液は、銅キレート錯体溶液に限られないことが分かる。ただし、極性反転によって、銅イオン含有水溶液を連続的に製造するためには、当該反対側において金属銅の析出を伴う電気分解を行うことが好ましい。
【0095】
尚、上記実施例では、水溶液に含まれる1価の陽イオンとしてナトリウムを、陰イオンとして硫酸イオンや炭酸イオンを適用した場合について説明したが、1価の陽イオンとして、ナトリウム以外のアルカリ金属イオンや水素イオンを、陰イオンとして塩化物イオンや硝酸イオン等を適用した場合においても、同様の効果を確認できた。
【0096】
以上、現時点において、もっとも、実践的であり、かつ、好ましいと思われる実施形態に関連して本発明を説明したが、本発明は、本願明細書中に開示された実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲および明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う、銅イオン含有水溶液の製造方法及び製造装置もまた本発明の技術的範囲に包含されるものとして理解されなければならない。