(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6703663
(24)【登録日】2020年5月13日
(45)【発行日】2020年6月3日
(54)【発明の名称】ポリエステルマルチフィラメント混繊糸、布帛、ポリエステルマルチフィラメント混繊糸の製造方法及び布帛の製造方法
(51)【国際特許分類】
D02G 3/04 20060101AFI20200525BHJP
D02J 1/00 20060101ALI20200525BHJP
D03D 15/04 20060101ALI20200525BHJP
【FI】
D02G3/04
D02J1/00 K
D02J1/00 M
D03D15/04 A
D03D15/04 102
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2019-194837(P2019-194837)
(22)【出願日】2019年10月28日
【審査請求日】2019年11月1日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】519384507
【氏名又は名称】村昭繊維興業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100154966
【弁理士】
【氏名又は名称】海野 徹
(72)【発明者】
【氏名】市村 昭都史
【審査官】
相田 元
(56)【参考文献】
【文献】
特開平09−250036(JP,A)
【文献】
特開平10−219531(JP,A)
【文献】
特開平07−331543(JP,A)
【文献】
特開平04−057931(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D02G 1/00− 3/48
D02J 1/00−13/00
D03D 15/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱収縮率が異なる少なくとも2種類のポリエステルマルチフィラメント糸が交絡して成るポリエステルマルチフィラメント混繊糸において、
前記2種類のポリエステルマルチフィラメント糸が仮撚加工糸と部分延伸糸であり、
前記仮撚加工糸と前記部分延伸糸が乾熱収縮していることを特徴とするポリエステルマルチフィラメント混繊糸。
【請求項2】
請求項1に記載のポリエステルマルチフィラメント混繊糸を含むことを特徴とする布帛。
【請求項3】
熱収縮率が異なる少なくとも2種類のポリエステルマルチフィラメント糸が交絡して成るポリエステルマルチフィラメント混繊糸の製造方法において、
前記2種類のポリエステルマルチフィラメント糸が仮撚加工糸と部分延伸糸であり、
前記仮撚加工糸と前記部分延伸糸とを交絡させるステップと、
交絡させた前記仮撚加工糸と前記部分延伸糸に対してヒーターの乾熱による熱処理を施すステップとを備えることを特徴とするポリエステルマルチフィラメント混繊糸の製造方法。
【請求項4】
前記乾熱による熱処理を施す際の前記ヒーターの出口直後の前記仮撚加工糸と前記部分延伸糸の温度が130℃以上であることを特徴とする請求項3に記載のポリエステルマルチフィラメント混繊糸の製造方法。
【請求項5】
熱収縮率が異なる少なくとも2種類のポリエステルマルチフィラメント糸が交絡して成るポリエステルマルチフィラメント混繊糸を用いた布帛の製造方法において、
前記2種類のポリエステルマルチフィラメント糸が仮撚加工糸と部分延伸糸であり、
前記仮撚加工糸と前記部分延伸糸とを交絡させるステップと、
交絡させた前記仮撚加工糸と前記部分延伸糸に対してヒーターの乾熱による熱処理を施してポリエステルマルチフィラメント混繊糸を得るステップと、
前記ポリエステルマルチフィラメント混繊糸を織編物に加工するステップを備えることを特徴とする布帛の製造方法。
【請求項6】
前記乾熱による熱処理を施す際の前記ヒーターの出口直後の前記仮撚加工糸と前記部分延伸糸の温度が130℃以上であることを特徴とする請求項5に記載の布帛の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天然繊維のような膨らみ感や柔らかさを出現させることができるポリエステルマルチフィラメント混繊糸、布帛、ポリエステルマルチフィラメント混繊糸の製造方法及び布帛の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
合成繊維の長繊維の紡糸はポリエチレンテレフタレート(PET)を原料とする溶融紡糸が一般的である。
紡糸工程で作られる糸は引き取り速度の違いや延伸の有無等により延伸糸(又は配向糸 Fully Drawn Yarn :FDY)、部分延伸糸(又は部分配向糸 Partially Oriented Yarn : POY)、未延伸糸(Undrawn Yarn : UDY)に分けられる。
紡糸工程において延伸糸及び部分延伸糸はPETを多数の微細な孔が空いた紡糸口金から押し出し、冷却器で冷却することで多数のフィラメントを形成し、これを複数のローラで引き取り、延伸しながら巻取機で巻き取ることでマルチフィラメントと呼ばれる1本の糸に成形される。
【0003】
延伸糸はフィラメントを十分に延伸させるが、部分延伸糸はフィラメントの性状が安定する程度に延伸を留めておく。「フィラメントの性状が安定する」とは搬送時等に加わる弱い外力や環境変化では糸の物性が変化しない(糸が伸びたり変形したりしない)程度に安定した状態であることを指す。
延伸糸は紡糸工程で延伸及び熱処理を行ってフィラメントの性状を十分に安定させるため織りや編みに直接使用することができる。部分延伸糸は紡糸後の加工でフィラメントの性状を変化させて使用する。
未延伸糸は紡糸工程において延伸を行わずに成形した糸であり、部分延伸糸と同様に紡糸後の加工でフィラメントの性状を変化させて使用する。
紡糸後の加工で仮撚加工された糸を得る方法としては、延伸糸に仮撚加工を施すことで仮撚加工糸(Textured Yarn : TY)とする方法や、部分延伸糸に延伸仮撚加工を施すことで延伸・仮撚加工糸(Draw Textured Yarn : DTY)とする方法がある。
【0004】
ポリエステル長繊維を仮撚加工して得られるポリエステル仮撚加工糸は嵩高で捲縮性に優れており天然繊維に似た風合い・色合いを出現させることができる。ポリエステル仮撚加工糸の風合い等を高めるための技術として異形断面技術、異収縮混繊技術、異繊度混繊技術等が知られている。
例えば特許文献1には、マルチフィラメント糸から成る第1の糸を仮撚加工する際の延伸率及びヒーター温度と、マルチフィラメント糸から成る第2の糸を仮撚加工する際の延伸率及びヒーター温度をそれぞれ異なる値に設定し、各々を仮撚加工した後に合糸して特殊仮撚加工糸を製造する技術が開示されている。各糸の伸縮度や捲縮度に差が生じて長手方向に不均一なムラを発現できるので、同じ色に染色した場合でも不均一で自然なゆらぎ調の色合いに染色できる。
特許文献2には、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)からなる仮撚捲縮を有しないフィラメントと、ポリエステルからなる仮撚捲縮を有するフィラメントの少なくとも2種が交絡して成る混繊糸が開示されている。ポリトリメチレンテレフタレートはポリエステルと比較して風合いが柔らかくストレッチ性が高いことに特徴を持っており、ポリエステルの仮撚加工糸と混繊することでバルキー性、ソフトな風合いならびにストレッチ性を付与することができる。
特許文献3には、ポリエステルマルチフィラメント仮撚加工糸と、仮撚捲縮を有しないポリエステルマルチフィラメント糸(延伸糸)とを含み、沸水収縮率において後者のほうが前者よりも5%以上大きい混繊糸が開示されている。仮撚加工糸は個々のフィラメントが捲縮を有しており微少区間において平行に配列されない状態になっている。仮撚加工糸と沸水収縮率の高い延伸糸を混繊することで仮撚加工糸を混繊糸の鞘糸、延伸糸を芯糸とし、染色加工時の熱履歴による異収縮効果を利用して、捲縮を有する個々のフィラメントを混繊糸の表面に浮き出させるので繊細なソフトタッチを得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2016−216869号公報
【特許文献2】特開2002−20936号公報
【特許文献3】特開平7−102436号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記特許文献の技術では次のような問題がある。
特許文献1及び2の技術では風合いが仮撚加工糸と同等にとどまり、天然繊維特有の膨らみ感や柔らかさを充分に表現することができないという問題がある。
特許文献3では延伸糸が芯糸として糸の中に入って外から見えにくくなることから天然繊維特有の長手方向の不均一なムラ感を表現できない。また仮撚加工糸を外に膨らませてよりソフトなタッチを現出しているが、天然繊維のような膨らみ感や柔らかさを表現することができないという問題がある。
【0007】
本発明は、上記のような問題を考慮して、天然繊維のような膨らみ感や柔らかさを出現させることができるポリエステルマルチフィラメント混繊糸、布帛、ポリエステルマルチフィラメント混繊糸の製造方法及び布帛の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のポリエステルマルチフィラメント混繊糸は、熱収縮率が異なる少なくとも2種類のポリエステルマルチフィラメント糸が交絡して成るポリエステルマルチフィラメント混繊糸において、前記2種類のポリエステルマルチフィラメント糸が仮撚加工糸と部分延伸糸であり、前記仮撚加工糸と前記部分延伸糸が乾熱収縮していることを特徴とする。
本発明の布帛は、上記ポリエステルマルチフィラメント混繊糸を含むことを特徴とする。
本発明のポリエステルマルチフィラメント混繊糸の製造方法は、熱収縮率が異なる少なくとも2種類のポリエステルマルチフィラメント糸が交絡して成るポリエステルマルチフィラメント混繊糸の製造方法において、前記2種類のポリエステルマルチフィラメント糸が仮撚加工糸と部分延伸糸であり、前記仮撚加工糸と前記部分延伸糸とを交絡させるステップと、交絡させた前記仮撚加工糸と前記部分延伸糸に対してヒーターの乾熱による熱処理を施すステップとを備えることを特徴とする。
また、前記乾熱による熱処理を施す際の前記ヒーターの出口直後の前記仮撚加工糸と前記部分延伸糸の温度が130℃以上であることを特徴とする。
本発明の布帛の製造方法は、熱収縮率が異なる少なくとも2種類のポリエステルマルチフィラメント糸が交絡して成るポリエステルマルチフィラメント混繊糸を用いた布帛の製造方法において、前記2種類のポリエステルマルチフィラメント糸が仮撚加工糸と部分延伸糸であり、前記仮撚加工糸と前記部分延伸糸とを交絡させるステップと、交絡させた前記仮撚加工糸と前記部分延伸糸に対してヒーターの乾熱による熱処理を施してポリエステルマルチフィラメント混繊糸を得るステップと、前記ポリエステルマルチフィラメント混繊糸を織編物に加工するステップを備えることを特徴とする。
また、前記乾熱による熱処理を施す際の前記ヒーターの出口直後の前記仮撚加工糸と前記部分延伸糸の温度が130℃以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明のポリエステルマルチフィラメント混繊糸は熱収縮により全体では大きく縮みながらも局所的には縮み量が異なる箇所が混在し、更に部分延伸糸と仮撚加工糸が不均一に外部に露出した状態になっている。また、部分延伸糸は交絡度が大きい箇所は乾熱による熱が届き
にくく、交絡度が小さい箇所は乾熱による熱が届き
やすいので長手方向に熱履歴が異なる箇所が混在した状態になっている。乾熱による熱処理を施した後の混繊糸を布帛に加工して染色すると、部分延伸糸は沸水収縮により全体として収縮するが、熱履歴の差異に応じて相対的に大きく収縮する箇所と小さく収縮する箇所が生じる。また、部分延伸糸は低配向で非結晶部が多いため染まり易く、仮撚加工糸は高配向で非結晶部が少ないために染まりにくい。このように混繊糸の長手方向における縮み量の違いに起因した染色度合いの不均一さと、部分延伸糸と仮撚加工糸の配向度の違いに起因した染色度合いの不均一さとが合わさることで染色後の混繊糸の長手方向には不均一な杢感が形成され、布帛に天然繊維のような色合いや風合いを出現させることができる。
また、乾熱による熱処理を施す際のヒーターの出口直後の仮撚加工糸と部分延伸糸の温度を130℃以上にすると糸の表面が変化し始めて細かい杢感が出現し始め、140℃以上になるにつれてぼやけた流れ杢に変わり、より天然繊維のような色合いや風合いを出現させることができる。また、140℃以上になるにつれて布帛の膨らみが増しており、より天然繊維のような膨らみ感や柔らかさを出現させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】交絡前の仮撚加工糸と部分延伸糸を模式的に示す図
【
図3】仮撚加工糸と部分延伸糸を交絡させる前の図(a)及び交絡させた後の図(b)
【
図4】ポリエステルマルチフィラメント混繊糸の製造方法を概念的に示す図
【
図5】単体の仮撚加工糸に対して乾熱による熱処理を施す前と後の図(a)及び単体の部分延伸糸に対して乾熱による熱処理を施す前と後の図(b)
【
図6】仮撚加工糸と部分延伸糸を交絡させた状態で乾熱による熱処理を施す前と後の図
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のポリエステルマルチフィラメント混繊糸の実施の形態について説明する。なお、以下の説明においてポリエステルマルチフィラメント混繊糸を単に「混繊糸」と表記する場合がある。
混繊糸は熱収縮率が異なる少なくとも2種類のポリエステルマルチフィラメント糸が交絡して成るものであり、
図1に示すように1種類のポリエステルマルチフィラメント糸が仮撚加工糸10であり、他の1種類のポリエステルマルチフィラメント糸が部分延伸糸20である。詳細は後述するが仮撚加工糸10と部分延伸糸20は交絡後に乾熱処理されることで収縮して混繊糸1になる。
【0012】
図2の仮撚加工の工程図に示すとおり、仮撚加工糸(Textured Yarn : TY)は未延伸糸(Undrawn Yarn : UDY)を延伸して成る延伸糸(Fully Drawn Yarn :FDY)に仮撚加工を施したものである。仮撚加工は延伸糸に加撚した状態で熱を加えることで一旦撚りを固定し(熱固定)、その後に解撚する。仮撚加工糸はS撚仮撚加工糸とZ撚仮撚加工糸のいずれでもよく、また、S撚仮撚加工糸とZ撚仮撚加工糸を合糸したノントルク仮撚加工糸でもよい。
本発明の混繊糸で使用する仮撚加工糸10としては延伸糸に仮撚加工を施した仮撚加工糸と、部分延伸糸(Partially Oriented Yarn : POY)に延伸仮撚加工を施した延伸・仮撚加工糸(Draw Textured Yarn : DTY)のいずれでもよい。
【0013】
部分延伸糸20は上述の通り溶融紡糸の際にフィラメントの性状が安定する程度に延伸を留めた糸であり、紡糸後の加工によってその性状は大きく変化する。
【0014】
次に、ポリエステルマルチフィラメント混繊糸1の製造方法について説明する。
まず、
図3(a)及び(b)に示すように仮撚加工糸10と部分延伸糸20を交絡させる。交絡の手順としては例えば
図4(a)に示すように一方の給糸パッケージ100から引き出した延伸糸30をローラ101、仮撚ヒーター102、仮撚具103、引取りローラ104を介して仮撚加工することで仮撚加工糸10にすると同時に、他方の給糸パッケージ105から部分延伸糸20を引き出し、両糸10,20を交絡ノズル106から噴出する圧縮空気で交絡させる方法が挙げられる。他には例えば
図4(b)に示すように予め別工程で仮撚加工糸10を製造し、これを給糸パッケージ107に格納しておき、この給糸パッケージ107から引き出した仮撚加工糸10と、他方の給糸パッケージ108から引き出した部分延伸糸20を交絡ノズル106で交絡させる方法が挙げられる。圧縮空気を吹き付けることで仮撚加工糸10と部分延伸糸20のフィラメント同士が複雑に絡まり合う。
次に、交絡させた仮撚加工糸10と部分延伸糸20に対して周知のヒーター109を用いて乾熱による熱処理を施すことで乾熱収縮させる。
乾熱は沸水と比較して温度幅を広くすることができるので糸の熱履歴を調整し易いというメリットがある。熱処理後の混繊糸1は巻取りローラ110を介して巻取りパッケージ111に巻き取る。
【0015】
上述の通り仮撚加工糸10は延伸糸30を加撚した状態で熱を加えて一旦撚りを固定する熱固定を行っている。したがって、
図5(a)に示すように仮に単独の仮撚加工糸10に対して乾熱による熱処理を施しても、仮撚加工糸10は長手方向にほとんど熱収縮せず、変形しない。一方、部分延伸糸20はフィラメントの性状が安定する程度に延伸を留めている。したがって、
図5(b)に示すように単独の部分延伸糸20に対して乾熱による熱処理を施した場合、全体的に長手方向に大きく収縮する。
【0016】
図6に一本の部分延伸糸20と一本の仮撚加工糸10を交絡させ、乾熱で熱収縮させた状態を示す。熱収縮させる前は部分延伸糸20が芯糸、仮撚加工糸10が鞘糸となり、交絡度が相対的に大きい箇所Aと小さい箇所Bとが混在した芯鞘構造になっている。この状態で乾熱による熱処理を施すと次に述べる2つの効果が生じる。
1つ目の効果は、交絡度が大きい箇所Aでは部分延伸糸20の熱収縮をその周囲に絡まっている仮撚加工糸10が妨げるので結果として相対的にあまり収縮せず(符号A'の範囲)、反対に交絡度が小さい箇所Bでは部分延伸糸20の熱収縮はその周囲に絡まっている仮撚加工糸10の影響を受けにくいので相対的に大きく収縮する(符号B'の範囲)という効果である。
2つ目の効果は、交絡度が大きい箇所Aでは鞘糸となる仮撚加工糸10が多く表面に露出しており、芯糸となる部分延伸糸20は仮撚加工糸10によって内部に隠された状態になっている。したがって乾熱による熱が内部の部分延伸糸20まで届きにくく、結果として相対的にあまり収縮せず(符号A'の範囲)、反対に交絡度が小さい箇所Bでは芯糸となる部分延伸糸20の一部が外部に露出した状態であり、乾熱による熱が部分延伸糸20まで届きやすいので結果として相対的に大きく収縮する(符号B'の範囲)という効果である。
このような2つの異収縮効果によって交絡度が相対的に大きい箇所Aと比較して交絡度が相対的に小さい箇所Bが大きく収縮して嵩高性が増す。乾熱による熱処理が終了した状態の混繊糸を見ると交絡が解けた箇所が多く存在し、芯鞘構造になっておらず、部分延伸糸20と仮撚加工糸10の両者が不均一に外部に露出した状態になっている。
【0017】
このように一本の混繊糸1全体では大きく縮みながらも局所的には縮み量が異なる箇所が混在し、更に部分延伸糸20と仮撚加工糸10が不均一に外部に露出した状態になっている。また、上述のとおり部分延伸糸20は交絡度が大きい箇所Aは乾熱による熱が届きにくく、交絡度が小さい箇所Bは乾熱による熱が届きやすいので熱収縮後は長手方向に熱履歴が異なる箇所が混在した状態になっている。
乾熱による熱処理を施した後の混繊糸を布帛に加工して染色すると、部分延伸糸20は沸水収縮により全体として収縮するが、熱履歴の差異に応じて相対的に大きく収縮する箇所と小さく収縮する箇所が生じる。また、部分延伸糸20は低配向で非結晶部が多いため染まり易く、仮撚加工糸10は高配向で非結晶部が少ないために染まりにくい。このように混繊糸1の長手方向における縮み量の違いに起因した染色度合いの不均一さと、部分延伸糸20と仮撚加工糸10の配向度の違いに起因した染色度合いの不均一さとが合わさることで染色後の混繊糸1の長手方向には不均一な杢感が形成され、布帛に天然繊維のような色合いや風合いを出現させることができる。また、布帛に凹凸感が生まれ、ウールや綿などの天然繊維のような膨らみ感や柔らかさを出現させることができる。
布帛としては織物、編み物のいずれの場合も目が粗いほうが好ましい。目が粗いほうが沸水収縮の際に部分延伸糸20が収縮しやすい(動きやすい)ので杢感をより不均一に生じさせることができるからである。
【実施例】
【0018】
本発明の布帛の製造方法において、乾熱による熱処理を行う際のヒーター(2NDヒーター)の温度条件を変化させて染色後の布帛の変化の程度を調査した。
<加工条件>
使用原糸: POY SD83d/36f
加工糸: SD125d/72f
機種:TMT製 ATF1500
糸速: 600m/min
DR(ドラフト):1.690
ディスク: 1-6-1
撚方向:Z撚
1ST ヒーター温度(2ゾーン): 400℃−250℃
インターレース圧力:1.5kg/cm2
インターレースノズル:ベバーライン P212
ノズルOF(オーバーフィード): 2%
2NDヒーター温度:条件振り (350℃、400℃、450℃、500℃)
2NDヒーターOF: 4%
<結果>
図7に示すように、染色後の布帛に不均一な杢感が形成され、天然繊維のような色合いや風合いが出現していることが確認できた。また、布帛に凹凸感が生まれ、ウールや綿などの天然繊維のような膨らみ感や柔らかさが出現していることが確認できた。特に、2NDヒーターの温度が350℃で糸の表面が変化し始めて細かい杢感が出現し始め、400℃以上になるにつれてぼやけた流れ杢に変わってきており、より天然繊維のような色合いや風合いが出現していることが確認できた。また、400℃以上になるにつれて布帛の膨らみが増しており、より天然繊維のような膨らみ感や柔らかさが出現していることが確認できた。以上から、乾熱による熱処理を行う際のヒーター(2NDヒーター)の温度条件は350℃以上が好ましく、特に400℃以上が好ましいことが分かった。上限値は布帛に溶融等の不具合が生じない範囲でできるだけ高温が好ましい。本実施例では2NDヒーターの温度が500℃でも天然繊維のような色合いや風合、膨らみ感や柔らかさが出現していることが確認できた。
ヒーターの設定温度とヒーターの出口直後の糸の温度の間には差が生じる。上記の加工条件においてヒーターの設定温度とヒーターの出口直後の糸の温度を調べたところ以下の表1の対応関係にあることが判明した。
【表1】
上述の通り乾熱による熱処理を施す際のヒーターの設定温度は350℃以上が好ましく、特に400℃以上が好ましい。これに対応してヒーターの出口直後の糸の温度は130℃以上が好ましく、特に140℃以上が好ましいことが分かった。
ヒーターの出口直後の糸の温度は一般的な接触式温度計測器(例えば、安立計器(株)製 HD−1100K)を使用すれば測定できる。
【産業上の利用可能性】
【0019】
本発明は、天然繊維のような膨らみ感や柔らかさを出現させることができるポリエステルマルチフィラメント混繊糸、布帛、ポリエステルマルチフィラメント混繊糸の製造方法及び布帛の製造方法であり、産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0020】
A 交絡度が相対的に大きい箇所
A' Aの熱収縮後の範囲
B 交絡度が相対的に小さい箇所
B' Bの熱収縮後の範囲
1 ポリエステルマルチフィラメント混繊糸
10 仮撚加工糸
20 部分延伸糸
30 延伸糸
100 給糸パッケージ
101 ローラ
102 仮撚ヒーター
103 仮撚具
104 引取りローラ
105 給糸パッケージ
106 交絡ノズル
107 給糸パッケージ
108 給糸パッケージ
109 ヒーター
110 巻取りローラ
111 巻取りパッケージ
【要約】 (修正有)
【課題】天然繊維のような膨らみ感や柔らかさを出現させることができるポリエステルマルチフィラメント混繊糸、布帛、ポリエステルマルチフィラメント混繊糸の製造方法及び布帛の製造方法の提供。
【解決手段】熱収縮率が異なる少なくとも2種類のポリエステルマルチフィラメント糸が交絡して成るポリエステルマルチフィラメント混繊糸1において、2種類のポリエステルマルチフィラメント糸が仮撚加工糸10と部分延伸糸20であり、両糸が乾熱収縮している。
【効果】熱収縮により全体では大きく縮みながらも局所的には縮み量が異なる箇所が混在し、更に両糸が不均一に外部に露出する。混繊糸の長手方向における縮み量の違いに起因した染色度合いの不均一さと、両糸の配向度の違いに起因した染色度合いの不均一さとが合わさることで染色後の混繊糸の長手方向には不均一な杢感が形成され、布帛に天然繊維のような色合いや風合いを出現させられる。
【選択図】
図4