特許第6703669号(P6703669)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6703669
(24)【登録日】2020年5月13日
(45)【発行日】2020年6月3日
(54)【発明の名称】リュープロレリンの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07K 7/06 20060101AFI20200525BHJP
   C07K 14/59 20060101ALI20200525BHJP
   C07K 1/10 20060101ALI20200525BHJP
   C07K 1/06 20060101ALI20200525BHJP
【FI】
   C07K7/06ZNA
   C07K14/59
   C07K1/10
   C07K1/06
【請求項の数】21
【全頁数】67
(21)【出願番号】特願2019-548093(P2019-548093)
(86)(22)【出願日】2019年4月13日
(86)【国際出願番号】JP2019016069
(87)【国際公開番号】WO2019198834
(87)【国際公開日】20191017
【審査請求日】2019年9月3日
(31)【優先権主張番号】特願2018-77502(P2018-77502)
(32)【優先日】2018年4月13日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】505354464
【氏名又は名称】JITSUBO株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102015
【弁理士】
【氏名又は名称】大澤 健一
(72)【発明者】
【氏名】嶋 一郎
(72)【発明者】
【氏名】岩永 なつみ
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 康介
(72)【発明者】
【氏名】藤田 秀司
【審査官】 池上 京子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2016/140232(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0060004(US,A1)
【文献】 Organic Process Research and Development,2003年,vol.7,p.28-37
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 7/00−7/66
C07K 1/00−1/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の配列: H−Pyr−His―Trp−Ser−Tyr−dLeu−Leu−Arg−Pro−NHEt(配列番号1)からなるリュープロレリンの製造方法であって、以下の工程a〜d:
a.有機溶媒又は有機溶媒の混合液中で、液相ペプチド合成用担体で保護された(担体保護)アミノ酸、担体保護アミノ酸アミド又は担体保護ペプチドと、9−フルオレニルメチルオキシカルボニル基(Fmoc基)でアミノ基が保護された(N−Fmoc保護)アミノ酸又はN−Fmoc保護ペプチドとを縮合して、N−Fmoc−担体保護ペプチドを得る工程、
b.縮合反応後の反応液に2価以上の水溶性アミンを添加してアミノ酸活性エステルをスカベンジする工程、
c.2価以上の水溶性アミンの存在下で脱Fmoc試薬を添加し保護されたアミノ基からFmoc基を脱保護する工程、及び
d.反応液に酸を添加して中和し、さらに酸性水溶液を添加して洗浄した後、分液し、水層を除去し、有機層を得る工程
を含む製造方法
ここで、
前記液相ペプチド合成用担体は、アミノ酸又はペプチドに直接結合して、それらを水に不溶性にする化合物であって分子量300以上の化合物であり、
前記担体保護アミノ酸、アミノ酸アミド又はペプチドは、アミノ酸又はペプチドが有するカルボキシル末端に該担体が結合しているアミノ酸又はペプチドであり、かつ、
工程b及び工程cにおける2価以上の水溶性アミンは、同じでも異なってもよい。
【請求項2】
工程dの後にさらに、
工程e:工程dで得られた有機層に、pHが8〜12である弱塩基性水溶液を添加して洗浄した後、分液し、水層を除去し、担体保護ペプチドを含む有機層を得る工程、を含む請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記液相ペプチド合成用担体が、下記の構造を有する化合物:
【化1】
(式中、R2、R4及びR5は、水素原子であり、R1及びR3は、炭素数が12〜30のアルコキシル基であり、RYは、−CH2OH又は−CH2NHEtである)、又は
下記の構造を有する化合物:
【化2】
(式中、Xは、−CH2OH又は−CH2NHEtであり;R2、R4及びR5は、水素原子であり、R1及びR3のうち少なくとも一つは、以下の式:
−O−R6−Xa−A
で表される基を示し、残余の基は、炭素数1〜4のアルキル基又は炭素数1〜4のアルコキシ基を示し;R6は、炭素数1〜16の直鎖又は分岐鎖のアルキレン基を示し、Xaは、O又はCONRc(ここで、Rcは、水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を示す)を示し、
Aは、式(1)〜式(11)のいずれかを表し、
【化3】
(ここで、R7、R8及びR9は、同じでも異なってもよく、炭素数1〜6の直鎖又は分岐鎖のアルキル基、又は置換基を有してもよいアリール基を示し、R10は、単結合又は炭素数1〜3の直鎖又は分岐鎖のアルキレン基を示し、R11、R12及びR13は、同じでも異なってもよく、炭素数1〜3の直鎖又は分岐鎖のアルキレン基を示す)
(なお、上記各式は、アミノ酸又はペプチドのカルボキシル基に結合する前の状態で示している)、
に由来する担体である請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
前記液相ペプチド合成用担体が、下記の構造:
一般式(V):
【化4】
[式中、環Aは芳香族環を示し;Yはヒドロキシル基、ブロモ基、クロロ基であり;Ra、Rb及びRcは独立してそれぞれ脂肪族炭化水素基を有する有機基、水素原子又は電子吸引性基を示し、かつRa、Rb及びRcの少なくとも1つは脂肪族炭化水素基を有する有機基であり;環A、B及びCは独立してそれぞれ電子吸引性基を有していてもよい]、又は
一般式(V’):
【化5】
[式中、環Aは芳香族環を示し;Yはヒドロキシル基、ブロモ基又はクロロ基であり;nは1〜19の整数を表し;Rc’は脂肪族炭化水素基を有する2価の有機基であり;環A,B及びCは独立してそれぞれ脂肪族炭化水素基を有する有機基及び電子吸引性基から選ばれる1種以上を有してもよく;環Aが複数存在する場合の各環Aはそれぞれ同一でも異なっていてもよく;Yが複数存在する場合の各Yはそれぞれ同一でも異なっていてもよく;Rc’が複数存在する場合の各Rc’はそれぞれ同一でも異なっていてもよい]、ここで、脂肪族炭化水素基を有する2価の有機基は、式(a):
【化6】
(式中、Xaは存在しないか、又は−O−、−S−、−NHCO−あるいは−CONH−を示し;Rdは炭素数5以上の脂肪族炭化水素基を示し;K1は1〜10の整数を示し;Rdが複数存在する場合の各Rdはそれぞれ同一でも異なっていてもよく;Xaが複数存在する場合の各Xaはそれぞれ同一でも異なっていてもよい)で表される基であり、
脂肪族炭化水素基を有する有機基は、フルオレン化合物の2位及び/又は7位に存在する、式(b):
【化7】
(式中、*は結合位置を示し;X1が−O−であり;R1が炭素数5〜60の脂肪族炭化水素基であり;m1が1である)で表される基、
式(c):
【化8】
(式中、*は結合位置を示し;X2、X2’、X2’’及びX2’’’が−O−であり;R2及びR4は独立してそれぞれ炭素数5〜60の脂肪族炭化水素基であり;R3は炭素数5〜60の脂肪族炭化水素基を有する有機基であり;n1、n2、n3及びn4が1であり;m2が1である)で表される基、及び
式(d):
【化9】
(式中、*は結合位置を示し;X8が−O−を示し;m3が2又は3であり;n5が1であり;n6が3であり;X7が−O−であり;m3個のR12が独立してそれぞれ炭素数4〜30のアルキル基である)で表される基からなる群より選ばれる1種以上の基である、
で表されるフルオレン化合物、
(なお、上記各式は、アミノ酸又はペプチドのカルボキシル基に結合する前の状態で示している)
に由来する担体である請求項1に記載の製造方法。
【請求項5】
前記液相ペプチド合成用担体が、下記の構造:
一般式(W)
【化10】
[式中、Yはヒドロキシル基又は−NHEt基を示し;Raは、
式(a):
【化11】
[式中、*は、結合位置を示し;m1は、1〜10の整数を示し;m1個のX1は、独立してそれぞれ、単結合を示すか、あるいは−O−、−S−、−COO−、−OCONH−、−NHCO−又は−CONH−を示し;R1及びm1個のR2は、独立してそれぞれ、炭素数5以上の2価の脂肪族炭化水素基を示し;かつR3は、水素原子、又は式(W’):
【化12】
(式中、Yはヒドロキシル基又は−NHEt基を示し;*は、結合位置を示し;n個のRbは、独立してそれぞれ、炭素数1〜6のアルコキシ基、ハロゲン原子、又は1個以上のハロゲン原子で置換されてもよい炭素数1〜6のアルキル基を示し;かつnは、0〜4の整数を示す)で表される基である]で表される基;
式(b):
【化13】
(式中、*は結合位置を示し;m2は、1又は2を示し;n1、n2、n3及びn4は、独立してそれぞれ、0〜2の整数を示し;m2個のX2、m2個のX2’及びm2個のX2’’は、独立してそれぞれ、単結合を示すか、あるいは−O−、−S−,−COO−,−OCONH−、−NHCO−又は−CONH−を示し;m2個のR4及びm2個のR6は、独立してそれぞれ、炭素数5以上の脂肪族炭化水素基を示し;R5は、炭素数5以上の脂肪族炭化水素基を示す)で表される基;
式(c):
【化14】
(式中、*は結合位置を示し;m3は、0〜15の整数を示し;n5は0〜11の整数を示し;n6は0〜5の整数を示し;m3個のX3は、独立してそれぞれ、単結合を示すか、あるいは−O−、−S−,−COO−,−OCONH−、−NHCO−又は−CONH−を示し;かつm3個のR7は、独立してそれぞれ、水素原子、メチル基又は炭素数5以上の脂肪族炭化水素基を示す)で表される基;及び
式(d):
【化15】
[式中、*は、結合位置を示し;n7個のX4は、独立してそれぞれ、単結合を示すか、あるいは−O−,−S−、−COO−、−OCONH−、−NHCO−又は−CONH−を示し;R8は、2価の脂肪族炭化水素基を示し;n7個のR9は、独立してそれぞれ、1価の脂肪族炭化水素基を示し;n7は、1〜5の整数を示し;かつArは、アリーレン基を示す。)で表される基からなる群より選ばれる脂肪族炭化水素基を有する有機基を示し、当該有機基中の総炭素数が30以上であり;n個のRbは、独立してそれぞれ、炭素数1〜6のアルコキシ基、ハロゲン原子、又は1個以上のハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1〜6のアルキル基を示し;かつnは、0〜4の整数を示す]
で表されるベンジル化合物、
(なお、上記式は、アミノ酸又はペプチドのカルボキシル基に結合する前の状態で示している)
に由来する担体である請求項1に記載の製造方法。
【請求項6】
前記液相ペプチド合成用担体が、下記の構造:
一般式(X)
【化16】
[式中、Yは、ヒドロキシル基又は−NHEt基を示し;k及びlは、独立してそれぞれ、0〜5の整数を示し、ただし、k+lは0ではなく;k個のRa及びl個のRbは、独立してそれぞれ、
式(a):
【化17】
(式中、*は結合位置を示し;m1は、1〜10の整数を示し;m1個のX1は、独立してそれぞれ、存在しないか、あるいは−O−、−S−,−COO−,−OCONH−又は−CONH−を示し;m1個のR1は、独立してそれぞれ、炭素数5以上の2価の脂肪族炭化水素基を示す)で表される基、
式(b):
【化18】
(式中、*は結合位置を示し;m2は、1〜2の整数を示し;m2個のn1、n2、n3及びn4は、独立してそれぞれ、0〜2の整数を示し;m2個のX2、m2個のX2’、m2個のX2’’’及びm2個のX2’’は、独立してそれぞれ、存在しないか、あるいは−O−、−S−,−COO−,−OCONH−又は−CONH−を示し;m2個のR2及びR4は、独立してそれぞれ、水素原子、メチル基又は炭素数5以上の脂肪族炭化水素基を示し;R3は、炭素数5以上の脂肪族炭化水素基を示す)で表される基、及び
式(e):
【化19】
(式中、*は結合位置を示し;m3は0〜15の整数を示し;n5は0〜11の整数を示し;n6は0〜5の整数を示し;X2は存在しないか、あるいは−O−、−S−、−NHCO−若しくは−CONH−を示し;m3個のX7は、独立してそれぞれ、存在しないか、あるいは−O−、−S−,−COO−,−OCONH−、−NHCO−又は−CONH−を示し;m3個のR12は、独立してそれぞれ、水素原子、メチル基又は炭素数5以上の脂肪族炭化水素基を示す)で表される基
からなる群より選ばれる炭素数5以上の脂肪族炭化水素基を有する有機基を示し、ここで、k+l個の脂肪族炭化水素基を有する有機基における、全脂肪族炭化水素基の合計の炭素数が16以上であり;
環AはRaに加えてさらに置換基を有していてもよく;
環BはRbに加えてさらに置換基を有していてもよい。]
で表されるジフェニルメタン化合物;
又は、
一般式(Y)
【化20】

[式中、k個のQは、独立してそれぞれ、単結合を示すか、あるいは−O−、−S−、−C(=O)O−,−C(=O)NH−又は−NH−を示し;k個のRaは、独立してそれぞれ、分岐鎖を1以上有する脂肪族炭化水素基を少なくとも1つ有し、総分岐鎖数が3以上であって、かつ総炭素数14以上300以下である有機基を示し;kは、1〜4の整数を示し;R1は、水素原子であるか、あるいはZが下記式(a)で表される基である場合には、R2と一緒になって単結合を示して、環Bとともにフルオレン環を形成していてもよく;環Aは、R1,k個のQRa、及びC(X)(Y)Zに加えて、さらにハロゲン原子、1個以上のハロゲン原子により置換されていてもよいC1−6アルキル基、及び1個以上のハロゲン原子により置換されていてもよいC1−6アルコキシ基からなる群より選ばれる1以上の置換基を有していてもよく;Xは、水素原子又はフェニル基を示し;
Yはヒドロキシル基又は−NHEt基を示し;かつZは、水素原子又は式(a):
【化21】
(式中、*は結合位置を示し;mは、0〜4の整数を示し;m個のQは、独立してそれぞれ、単結合を示すか、あるいは−O−、−S−、−C(=O)O−,−C(=O)NH−又は−NH−を示し;m個のRbは、独立してそれぞれ、分岐鎖を1以上有する脂肪族炭化水素基を少なくとも1つ有し、総分岐鎖数が3以上であって、かつ総炭素数14以上300以下である有機基を示し;R2は、水素原子を示すか、又はR1と一緒になって単結合を示して、環Aと共にフルオレン環を形成してもよく;かつ環Bは、m個のQRb、及びR2に加えて、さらにハロゲン原子、1個以上のハロゲン原子により置換されていてもよいC1−6のアルキル基、及び1個以上のハロゲン原子により置換されていてもよいC1−6のアルコキシ基からなる群より選ばれる1以上の置換基を有していてもよい)で表される基を示し;
前記Ra及びRbにおける分岐鎖を1以上有する脂肪族炭化水素基を少なくとも1つ有し、総分岐鎖数が3以上であって、かつ総炭素数14以上300以下である有機基が、式(b):
【化22】
(式中、*は、隣接原子との結合位置を示し;R3及びR4は、独立してそれぞれ、水素原子又はC1−4アルキル基を示し;X1は、単結合、C1−4アルキレン基又は酸素原子を示す。但し、R3及びR4がともに水素原子であることはない。)で表される同一又は異なる2価の基を3以上有する基である。]
で表される分岐鎖含有芳香族化合物;
(なお、上記各式は、アミノ酸又はペプチドのカルボキシル基に結合する前の状態で示している)
に由来する担体である請求項1に記載の製造方法。
【請求項7】
前記液相ペプチド合成用担体が、下記の構造を有する化合物:
【化23】
(式中、R2、R4及びR5は、水素原子であり、R1及びR3は、炭素数が12〜30のアルコキシル基であり、RYは、−CH2OHである)
(なお、上記式は、アミノ酸又はペプチドのカルボキシル基に結合する前の状態で示している)
に由来する担体である請求項1又は請求項2に記載の製造方法。
【請求項8】
前記液相ペプチド合成用担体が、下記の構造を有する化合物:
【化24】
(2,4−ジドコシルオキシベンジルアルコール)、
(なお、上記式は、アミノ酸又はペプチドのカルボキシル基に結合する前の状態で示している)
に由来する担体である、請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
前記液相ペプチド合成用担体が、
【化25】
(2,4−ジ(11’−トリイソプロピルシリルオキシウンデシルオキシ)ベンジルアルコール)、
【化26】
(2,4−ジ(11’−t−ブチルジフェニルシリルオキシウンデシルオキシ)ベンジルアルコール)、
【化27】
(式中、Xは、F又はClである)、
【化28】
(2−(3’,4’,5’−トリオクタデシルオキシベンジル)−4−メトキシベンジルアルコール)、及び
【化29】
(2,4−ジ(2’,3’−ジヒドロフィチルオキシ)ベンジルアルコール)
(なお、上記各式は、アミノ酸又はペプチドのカルボキシル基に結合する前の状態で示している)
からなる群より選ばれる化合物に由来する担体である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項10】
上記工程を繰り返すことにより、Pyr−His―Trp−Ser−Tyr−dLeu−Leu−Arg(配列番号2)からなる配列を含む担体保護ペプチドを製造する、請求項7〜9のいずれか一つに記載の製造方法。
【請求項11】
前記Pyr−His―Trp−Ser−Tyr−dLeu−Leu−Arg(配列番号2)からなる配列を含む担体保護ペプチドから担体を脱保護して得られるペプチドと、H−Pro−NHEt(L−プロリンエチルアミド)とを縮合させた後、側鎖保護基を脱保護してリュープロレリンを製造する、請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
前記液相ペプチド合成用担体が、下記の構造を有する化合物:
【化30】
(式中、R2、R4及びR5は、水素原子であり、R1及びR3は、炭素数が12〜30、好ましくは18〜22のアルコキシル基であり、RYは、−CH2NHEtである)
(なお、上記式は、アミノ酸又はペプチドのカルボキシル基に結合する前の状態で示している)
に由来する担体である請求項1又は請求項2に記載の製造方法。
【請求項13】
前記液相ペプチド合成用担体が、
【化31】
(N−エチル−2,4−ジドコシルオキシベンジルアミン)、
【化32】
(N−エチル−2,4−ジ(11’−トリイソプロピルシリルオキシウンデシルオキシ)ベンジルアミン)、
【化33】
(N−エチル−2,4−ジ(11’−t−ブチルジフェニルシリルオキシウンデシルオキシ)ベンジルアミン)、
【化34】
(N−エチル−2−(3’,4’,5’−トリオクタデシルオキシベンジルオキシ)−4−メトキシベンジルアミン)、
【化35】
(N−エチル−ビス(4−ドコシルオキシフェニル)メチルアミン)、
【化36】
(N−エチル−2,4−ジ(2’,3’−ジヒドロフィチルオキシ)ベンジルアミン)、及び
【化37】
(N−エチル−ビス[4−(2’,3’−ジヒドロフィチルオキシ)フェニル]メチルアミン)
(なお、上記各式は、アミノ酸又はペプチドのカルボキシル基に結合する前の状態で示している)
からなる群より選ばれる化合物に由来する担体である、請求項1又は請求項2に記載の製造方法。
【請求項14】
上記工程を繰り返すことにより、Pyr−His―Trp−Ser−Tyr−dLeu−Leu−Arg−Pro(配列番号3)からなる配列を含む担体保護ペプチドを製造する、請求項12又は13に記載の製造方法。
【請求項15】
前記Pyr−His―Trp−Ser−Tyr−dLeu−Leu−Arg−Pro(配列番号3)からなる配列を含む担体保護ペプチドから担体及び側鎖保護基を脱保護してリュープロレリンを製造する、請求項14に記載の製造方法。
【請求項16】
工程aにおいて、担体保護アミノ酸、担体保護ペプチド又は担体保護アミノ酸アミドと、N−Fmoc保護アミノ酸又はN−Fmoc保護ペプチドとの縮合を縮合剤の存在下で行う、請求項1〜15のいずれか一つに記載の製造方法。
【請求項17】
前記2価以上の水溶性アミンが、1−メチルピペラジン、4−アミノピペリジン、ジエチレントリアミン、トリアミノエチルアミン、1−エチルピペラジン、N,N−ジメチルエチレンジアミン、エチレンジアミン及びピペラジンからなる群より選ばれる、請求項1〜16のいずれか一つに記載の製造方法。
【請求項18】
工程bにおける2価以上の水溶性アミンのアミン当量が、工程aの縮合反応後に理論上残存するアミノ酸当量に対して1〜10当量の量である、請求項1〜17のいずれか一つに記載の製造方法。
【請求項19】
工程cにおける2価以上の水溶性アミンのアミン当量が、系に存在するFmoc基の量に対して、5〜30当量である、請求項1〜18のいずれか一つに記載の製造方法。
【請求項20】
工程dの酸性水溶液のpHが1〜5である、請求項1〜19のいずれか一つに記載の製造方法。
【請求項21】
前記工程をワンポットで行う、請求項1〜20のいずれか一つに記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リュープロレリンの新規製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リュープロレリン酢酸塩は、LH−RH(GnRH)アゴニストであり、子宮内膜症、子宮筋腫、閉経前乳癌、前立腺癌、中枢性思春期早発症等に適用される医薬である。
【0003】
LH−RHの誘導体であるペプチド又はその塩の製造法としては、特開昭50−59370号公報(米国特許第4,008,209号公報に対応)(特許文献1)には、一般式(Pyr)Glu−His−Trp−Ser−Tyr(又はPhe)−X−Leu(又はIle又はNle)−Arg−Pro−NH−R〔式中、アミノ酸は特に明記しないものはL体を示し、XはD−Leu,D−Nle,D−NVal,D−Ser,D−Abu,D−Phg,D−Phe又はα−Aibuを、Rは水酸基を有してもよいアルキル基を示す〕で表されるペプチドの製造法として、下記の液相合成方法が記載されている。
式、
【0004】
【化1】

〔式中の記号は前記と同意義を示す〕。
【0005】
また、WO97/48726号公報(特許文献2)には、一般式:5−oxo−Pro−R1−Trp−Ser−R2−R3−OH(II)〔式中、R1はHis,Tyr,Trp又はp−NH2−Pheを、R2はTyr又はPheを、R3はそれぞれ置換基を有していてもよいGly又はα−D−アミノ酸残基を示す。〕で表わされるペプチド又はその塩と、一般式:H−R4−R5−Pro−R6(III)〔式中、R4はLeu,Ile又はNleを、R5は保護されたArgを、R6は式Gly−NH−R7(式中、R7は水素原子又は水酸基を有していてもよいアルキル基を示す)又は式NH−R8(式中、R8は水素原子、水酸基を有していてもよいアルキル基又はウレイド基(−NH−CO−NH2)をそれぞれ示す)で表わされる基を示す〕で表わされるペプチド又はその塩と反応させ、一般式5−oxo−Pro−R1−Trp−Ser−R2−R3−R4−R5−Pro−R6(I’)〔式中の記号は前記と同意義を示す〕で表わされるペプチド又はその塩を得、ついで、得られたペプチド(I’)を脱保護基反応に付すことを特徴とする一般式5−oxo−Pro−R1−Trp−Ser−R2−R3−R4−Arg−Pro−R6(I)〔式中の記号は前記と同意義を示す〕で表わされるペプチド又はその塩の製造法が記載されている。
【0006】
さらに、非特許文献1には、以下の工程からなる、PyroGlu−His―Trp−Ser−Tyr−dLeu−Leu−Arg−Pro−NHEt(化合物I)の液相合成方法が記載されている。
【0007】
【化2】
【0008】
また、中国特許公開公報CN106146622号公報(特許文献3)には、パラ(オキシメチル)フェニルアセタミド樹脂(PAM樹脂)を用いた固相合成法によるリュープロレリンの製造方法が開示されている。
【0009】
上記の液相合成方法では、単位工程の反応時間が長いために製造期間が長くなるという問題に加えて、SnCl2及びPd/Cなどの金属触媒を使用した還元反応を実施しており、医薬品として使用する場合に元素不純物の残存量を厳格に管理する必要がある。
また、リュープロレリンまでの収率が低く、特許文献1に記載に方法では56.8%、非特許文献1に記載の方法では20.3%と低いものとなっている。非特許文献1に記載の方法にて得られているリュープロレリン粗生成物の純度は63.3%と低くなっている。
【0010】
一方、固相合成法では単位工程の反応時間は液相合成と比べて短くなる。特許文献3の方法では、縮合・樹脂からの切り出し工程までの収率は純度換算値で92.5%と高いものであるが、精製工程を含む合計収率が36%と低く、粗生成物の精製時の回収率が低いことが記載されている。これは粗生成物に含まれる不純物が除去困難であり、高純度のリュープロレリンを得る場合には精製時に目的物を含む溶出液を廃棄する必要があることを示唆している。
このように、既存のリュープロレリンの製造方法では、短時間で製造可能であり、かつ高純度、高収率で目的物を得ることができるものは存在していなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開昭50−59370号公報
【特許文献2】WO97/48726号公報
【特許文献3】CN106146622号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】A.N.Balaevら、Pharmaceutical Chemistry Journal, Vol. 48, No. 3, June, 2014
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、リュープロレリンの液相ペプチド合成方法であって、従来の製造方法に比べ、製造期間が短くかつ高純度の粗生成物を得ることができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討を行った結果、ペプチドの液相合成方法であって、担体(Tag)を用いたFmoc法において、特定の担体を用いるとともに、Tag−ペプチド成分の固液分離(濃縮、固液分離、及び乾燥操作)を行わずに不純物を除去することにより、工程時間の短縮を行うことができることを見いだし、本発明を完成した。本発明は以下のものを含む。
【0015】
[1]以下の配列: H−Pyr−His―Trp−Ser−Tyr−dLeu−Leu−Arg−Pro−NHEt からなるリュープロレリンの製造方法であって、以下の工程a〜d:
a.有機溶媒又は有機溶媒の混合液中で、液相ペプチド合成用担体で保護された(担体保護)アミノ酸又は担体保護ペプチドと、9−フルオレニルメチルオキシカルボニル基(Fmoc基)でアミノ基が保護された(N−Fmoc保護)アミノ酸又はN−Fmoc保護ペプチドとを縮合して、N−Fmoc−担体保護ペプチドを得る工程、
b.縮合反応後の反応液に水溶性アミンを添加する工程、
c.水溶性アミンの存在下で保護されたアミノ基からFmoc基を脱保護する工程、及び
d.反応液に酸を添加して中和し、さらに酸性水溶液を添加して洗浄した後、分液し、水層を除去し、有機層を得る工程
を含む製造方法
ここで、
前記液相ペプチド合成用担体は、アミノ酸又はペプチドに直接結合して、それらを水に不溶性にする化合物であって分子量300以上の化合物であり、
前記担体保護アミノ酸又はペプチドは、アミノ酸又はペプチドが有するカルボキシル末端に該担体が結合しているアミノ酸又はペプチドであり、かつ、
工程b及び工程cにおける水溶性アミンは、同じでも異なってもよい。
[2]工程dの後にさらに、
工程e:工程dで得られた有機層に、pHが、8〜12、好ましくは8〜10である弱塩基性水溶液を添加して洗浄した後、分液し、水層を除去し、担体保護ペプチドを含む有機層を得る工程、を含む上記[1]に記載の製造方法。
[3]前記液相ペプチド合成用担体が、下記の構造を有する化合物:
【0016】
【化3】
(式中、R2、R4及びR5は、水素原子であり、R1及びR3は、炭素数が12〜30、好ましくは18〜22のアルコキシ基であり、RYは、−CH2OH又は−CH2NHEtである)、又は
下記の構造を有する化合物:
【0017】
【化4】
(式中、Xは、−CH2OH又は−CH2NHEtであり;R2、R4及びR5は、水素原子であり、R1及びR3のうち少なくとも一つは、以下の式:
−O−R6−Xa−A
で表される基を示し、残余の基は、炭素数1〜4のアルキル基又は炭素数1〜4のアルコキシ基を示し;R6は、炭素数1〜16の直鎖又は分岐鎖のアルキレン基を示し、Xaは、O又はCONRc(ここで、Rcは、水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を示す)を示し、
Aは、式(1)〜式(11)のいずれかを表し、
【0018】
【化5】
(ここで、R7、R8及びR9は、同じでも異なってもよく、炭素数1〜6の直鎖又は分岐鎖のアルキル基、又は置換基を有してもよいアリール基を示し、R10は、単結合又は炭素数1〜3の直鎖又は分岐鎖のアルキレン基を示し、R11、R12及びR13は、同じでも異なってもよく、炭素数1〜3の直鎖又は分岐鎖のアルキレン基を示す)
(なお、上記各式は、アミノ酸又はペプチドのカルボキシル基に結合する前の状態で示している)、
に由来する担体である上記[1]に記載の製造方法。
[4]前記液相ペプチド合成用担体が、下記の構造:
一般式(V):
【0019】
【化6】
[式中、環Aは芳香族環を示し;Yはヒドロキシル基、ブロモ基、クロロ基であり;Ra、Rb及びRcは独立してそれぞれ脂肪族炭化水素基を有する有機基、水素原子又は電子吸引性基を示し、かつRa、Rb及びRcの少なくとも1つは脂肪族炭化水素基を有する有機基であり;環A、B及びCは独立してそれぞれ電子吸引性基を有していてもよい]、又は
一般式(V’):
【0020】
【化7】
[式中、環Aは芳香族環を示し;Yはヒドロキシル基、ブロモ基又はクロロ基であり;nは1〜19の整数を表し;Rc’は脂肪族炭化水素基を有する2価の有機基であり;環A,B及びCは独立してそれぞれ脂肪族炭化水素基を有する有機基及び電子吸引性基から選ばれる1種以上を有してもよく;環Aが複数存在する場合の各環Aはそれぞれ同一でも異なっていてもよく;Yが複数存在する場合の各Yはそれぞれ同一でも異なっていてもよく;Rc’が複数存在する場合の各Rc’はそれぞれ同一でも異なっていてもよく、ここで
脂肪族炭化水素基を有する2価の有機基は、式(a):
【0021】
【化8】
(式中、Xaは存在しないか、又は−O−、−S−、−NHCO−あるいは−CONH−を示し;Rdは炭素数5以上の脂肪族炭化水素基を示し;k1は1〜10の整数を示し;Rdが複数存在する場合の各Rdはそれぞれ同一でも異なっていてもよく;Xaが複数存在する場合の各Xaはそれぞれ同一でも異なっていてもよい)で表される基であり、
脂肪族炭化水素基を有する有機基は、フルオレン化合物の2位及び/又は7位に存在する、式(b):
【0022】
【化9】
(式中、*は結合位置を示し;X1が−O−であり;R1が炭素数5〜60の脂肪族炭化水素基であり;m1が1である)で表される基、
式(c):
【0023】
【化10】
(式中、*は結合位置を示し;X2、X2’、X2’’及びX2’’’が−O−であり;R2及びR4は独立してそれぞれ炭素数5〜60の脂肪族炭化水素基であり;R3は炭素数5〜60の脂肪族炭化水素基を有する有機基であり;n1、n2、n3及びn4が1であり;m2が1である)で表される基、及び
式(d):
【0024】
【化11】
(式中、*は結合位置を示し;X8が−O−を示し;m3が2又は3であり;n5が1であり;n6が3であり;X7が−O−であり;m3個のR12が独立してそれぞれ炭素数4〜30のアルキル基である)で表される基からなる群より選ばれる1種以上の基である]
で表されるフルオレン化合物、
(なお、上記各式は、アミノ酸又はペプチドのカルボキシル基に結合する前の状態で示している)
に由来する担体である上記[1]に記載の製造方法。
[5]前記液相ペプチド合成用担体が、下記の構造:
一般式(W)
【0025】
【化12】
[式中、Yはヒドロキシル基又はNHEt基を示し;Raは、
式(a):
【0026】
【化13】
[式中、*は、結合位置を示し;m1は、1〜10の整数を示し;m1個のX1は、独立してそれぞれ、単結合を示すか、あるいは−O−、−S−、−COO−、−OCONH−、−NHCO−又は−CONH−を示し;R1及びm1個のR2は、独立してそれぞれ、炭素数5以上の2価の脂肪族炭化水素基を示し;かつR3は、水素原子、又は式(W’):
【0027】
【化14】
(式中、*は、結合位置を示し;n個のRbは、独立してそれぞれ、炭素数1〜6のアルコキシ基、ハロゲン原子、又は1個以上のハロゲン原子で置換されてもよい炭素数1〜6のアルキル基を示し;かつnは、0〜4の整数を示す)で表される基である]で表される基;
式(b):
【0028】
【化15】
(式中、*は結合位置を示し;m2は、1又は2を示し;n1、n2、n3及びn4は、独立してそれぞれ、0〜2の整数を示し;m2個のX2、m2個のX2’及びm2個のX2’’は、独立してそれぞれ、単結合を示すか、あるいは−O−、−S−,−COO−,−OCONH−、−NHCO−又は−CONH−を示し;m2個のR4及びm2個のR6は、独立してそれぞれ、炭素数5以上の脂肪族炭化水素基を示し;R5は、炭素数5以上の脂肪族炭化水素基を示す)で表される基;
式(c):
【0029】
【化16】
(式中、*は結合位置を示し;m3は、0〜15の整数を示し;n5は0〜11の整数を示し;n6は0〜5の整数を示し;m3個のX3は、独立してそれぞれ、単結合を示すか、あるいは−O−、−S−,−COO−,−OCONH−、−NHCO−又は−CONH−を示し;かつm3個のR7は、独立してそれぞれ、水素原子、メチル基又は炭素数5以上の脂肪族炭化水素基を示す)で表される基;及び
式(d):
【0030】
【化17】
(式中、*は、結合位置を示し;n7個のX4は、独立してそれぞれ、単結合を示すか、あるいは−O−,−S−、−COO−、−OCONH−、−NHCO−又は−CONH−を示し;R8は、2価の脂肪族炭化水素基を示し;n7個のR9は、独立してそれぞれ、1価の脂肪族炭化水素基を示し;n7は、1〜5の整数を示し;かつArは、アリーレン基を示す)で表される基からなる群より選ばれる脂肪族炭化水素基を有する有機基を示し、当該有機基中の総炭素数が30以上であり;n個のRbは、独立してそれぞれ、炭素数1〜6のアルコキシ基、ハロゲン原子、又は1個以上のハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1〜6のアルキル基を示し;かつnは、0〜4の整数を示す]
で表されるベンジル化合物、
(なお、上記各式は、アミノ酸又はペプチドのカルボキシル基に結合する前の状態で示している)
に由来する担体である上記[1]に記載の製造方法。
[6]前記液相ペプチド合成用担体が、下記の構造:
一般式(X)
【0031】
【化18】
[式中、Yは、ヒドロキシル基又は−NHEt基を示し;k及びlは、独立してそれぞれ、0〜5の整数を示し、ただし、k+lは0ではなく;k個のRa及びl個のRbは、独立してそれぞれ、
式(a):
【0032】
【化19】
(式中、*は結合位置を示し;m1は、1〜10の整数を示し;m1個のX1は、独立してそれぞれ、存在しないか、あるいは−O−、−S−,−COO−,−OCONH−又は−CONH−を示し;m1個のR1は、独立してそれぞれ、炭素数5以上の2価の脂肪族炭化水素基を示す。)で表される基、
式(b):
【0033】
【化20】
(式中、*は結合位置を示し;m2は、1〜2の整数を示し;m2個のn1、n2、n3及びn4は、独立してそれぞれ、0〜2の整数を示し;m2個のX2、m2個のX2’、m2個のX2’’’及びm2個のX2’’は、独立してそれぞれ、存在しないか、あるいは−O−、−S−,−COO−,−OCONH−又は−CONH−を示し;m2個のR2及びR4は、独立してそれぞれ、水素原子、メチル基又は炭素数5以上の脂肪族炭化水素基を示し;R3は、炭素数5以上の脂肪族炭化水素基を示す。)で表される基、及び
式(e):
【0034】
【化21】
(式中、*は結合位置を示し;m3は0〜15の整数を示し;n5は0〜11の整数を示し;n6は0〜5の整数を示し;X2は存在しないか、あるいは−O−、−S−、−NHCO−若しくは−CONH−を示し;m3個のX7は、独立してそれぞれ、存在しないか、あるいは−O−、−S−,−COO−,−OCONH−、−NHCO−又は−CONH−を示し;m3個のR12は、独立してそれぞれ、水素原子、メチル基又は炭素数5以上の脂肪族炭化水素基を示す)で表される基
からなる群より選ばれる炭素数5以上の脂肪族炭化水素基を有する有機基を示し、ここで、k+l個の脂肪族炭化水素基を有する有機基における、全脂肪族炭化水素基の合計の炭素数が16以上であり;
環AはRaに加えてさらに置換基を有していてもよく;
環BはRbに加えてさらに置換基を有していてもよい]
で表されるジフェニルメタン化合物;
又は、
一般式(Y)
【0035】
【化22】
[式中、k個のQは、独立してそれぞれ、単結合を示すか、あるいは−O−、−S−、−C(=O)O−,−C(=O)NH−又は−NH−を示し;k個のRaは、独立してそれぞれ、分岐鎖を1以上有する脂肪族炭化水素基を少なくとも1つ有し、総分岐鎖数が3以上であって、かつ総炭素数14以上300以下である有機基を示し;kは、1〜4の整数を示し;R1は、水素原子であるか、あるいはZが下記式(a)で表される基である場合には、R2と一緒になって単結合を示して、環Bとともにフルオレン環を形成していてもよく;環Aは、R1,k個のQRa、及びC(X)(Y)Zに加えて、さらにハロゲン原子、1個以上のハロゲン原子により置換されていてもよいC1−6アルキル基、及び1個以上のハロゲン原子により置換されていてもよいC1−6アルコキシ基からなる群より選ばれる1以上の置換基を有していてもよく;Xは、水素原子又はフェニル基を示し;
Yはヒドロキシル基又は−NHEt基を示し;かつZは、水素原子又は式(a):
【0036】
【化23】
(式中、*は結合位置を示し;mは、0〜4の整数を示し;m個のQは、前記と同意義を示し;m個のRbは、独立してそれぞれ、分岐鎖を1以上有する脂肪族炭化水素基を少なくとも1つ有し、総分岐鎖数が3以上であって、かつ総炭素数14以上300以下である有機基を示し;R2は、水素原子を示すか、又はR1と一緒になって単結合を示して、環Aと共にフルオレン環を形成してもよく;かつ環Bは、m個のQRb、及びR2に加えて、さらにハロゲン原子、1個以上のハロゲン原子により置換されていてもよいC1−6のアルキル基、及び1個以上のハロゲン原子により置換されていてもよいC1−6のアルコキシ基からなる群より選ばれる1以上の置換基を有していてもよい)で表される基を示し;
前記Ra及びRbにおける分岐鎖を1以上有する脂肪族炭化水素基を少なくとも1つ有し、総分岐鎖数が3以上であって、かつ総炭素数14以上300以下である有機基が、式(b):
【0037】
【化24】
(式中、*は、隣接原子との結合位置を示し;R3及びR4は、独立してそれぞれ、水素原子又はC1−4アルキル基を示し;X1は、単結合、C1−4アルキレン基又は酸素原子を示す。但し、R3及びR4がともに水素原子であることはない。)で表される同一又は異なる2価の基を3以上有する基である。]
で表される分岐鎖含有芳香族化合物;
(なお、上記各式は、アミノ酸又はペプチドのカルボキシル基に結合する前の状態で示している)
に由来する担体である上記[1]に記載の製造方法。
[7]前記液相ペプチド合成用担体が、下記の構造を有する化合物:
【0038】
【化25】
(式中、R2、R4及びR5は、水素原子であり、R1及びR3は、炭素数が12〜30、好ましくは18〜22のアルコキシ基であり、RYは、−CH2OHである。)
(なお、上記式は、アミノ酸又はペプチドのカルボキシル基に結合する前の状態で示している)
に由来する担体である上記[1]に記載の製造方法。
[8]前記液相ペプチド合成用担体が、下記の構造を有する化合物:
【0039】
【化26】
(2,4−ジドコシルオキシベンジルアルコール)、
(なお、上記式は、アミノ酸又はペプチドのカルボキシル基に結合する前の状態で示している)
に由来する担体である、上記[7]に記載の製造方法。
[9]前記液相ペプチド合成用担体が、
【0040】
【化27】
(2,4−ジ(11’−トリイソプロピルシリルオキシウンデシルオキシ)ベンジルアルコール)、
【0041】
【化28】
(2,4−ジ(11’−t−ブチルジフェニルシリルオキシウンデシルオキシ)ベンジルアルコール)、
【0042】
【化29】


(式中、Xは、F又はClである)、
【0043】
【化30】
(2−(3’,4’,5’−トリオクタデシルオキシベンジル)−4−メトキシベンジルアルコール)、及び
【0044】
【化31】
(2,4−ジ(2’,3’−ジヒドロフィチルオキシ)ベンジルアルコール)
(なお、上記各式は、アミノ酸又はペプチドのカルボキシル基に結合する前の状態で示している)
からなる群より選ばれる化合物に由来する担体である、上記[1]に記載の製造方法。
[10]上記工程を繰り返すことにより、Pyr−His−Trp−Ser−Tyr−dLeu−Leu−Arg(配列番号2)からなる配列を含む担体保護ペプチドを製造する、上記[7]〜[9]のいずれか一つに記載の製造方法。
[11]前記Pyr−His−Trp−Ser−Tyr−dLeu−Leu−Arg(配列番号2)からなる配列を含む担体保護ペプチドから担体を脱保護して得られるペプチドと、H−Pro−NHEt(L−プロリンエチルアミド)とを縮合させた後、側鎖保護基を脱保護してリュープロレリンを製造する、上記[10]に記載の製造方法。
[12]前記液相ペプチド合成用担体が、下記の構造を有する化合物:
【0045】
【化32】
(式中、R2、R4及びR5は、水素原子であり、R1及びR3は、炭素数が12〜30、好ましくは18〜22のアルコキシ基であり、RYは、−CH2NHEtである)
(なお、上記式は、アミノ酸又はペプチドのカルボキシル基に結合する前の状態で示している)
に由来する担体である上記[1]又は[2]に記載の製造方法。
[13]前記液相ペプチド合成用担体が、
【0046】
【化33】
(N−エチル−2,4−ジドコシルオキシベンジルアミン)、
【0047】
【化34】
(N−エチル−2,4−ジ(11’−トリイソプロピルシリルオキシウンデシルオキシ)ベンジルアミン)、
【0048】
【化35】
(N−エチル−2,4−ジ(11’−t−ブチルジフェニルシリルオキシウンデシルオキシ)ベンジルアミン)、
【0049】
【化36】
(N−エチル−2−(3’,4’,5’−トリオクタデシルオキシベンジルオキシ)−4−メトキシベンジルアミン)、
【0050】
【化37】
(N−エチル−ビス(4−ドコシルオキシフェニル)メチルアミン)、
【0051】
【化38】
(N−エチル−2,4−ジ(2’,3’−ジヒドロフィチルオキシ)ベンジルアミン)、及び
【0052】
【化39】
(N−エチル−ビス[4−(2’,3’−ジヒドロフィチルオキシ)フェニル]メチルアミン)
(なお、上記各式は、アミノ酸又はペプチドのカルボキシル基に結合する前の状態で示している)
からなる群より選ばれる化合物に由来する担体である、上記[1]又は[2]に記載の製造方法。
[14]上記工程を繰り返すことにより、Pyr−His−Trp−Ser−Tyr−dLeu−Leu−Arg−Pro(配列番号3)からなる配列を含む担体保護ペプチドを製造する、上記[12]又は[13]に記載の製造方法。
[15]前記Pyr−His−Trp−Ser−Tyr−dLeu−Leu−Arg−Pro(配列番号3)からなる配列を含む担体保護ペプチドから担体及び側鎖保護基を脱保護してリュープロレリンを製造する、上記[14]に記載の製造方法。
[16]前記水溶性アミンが、1級又は2級のアミノ基を少なくとも1つ持つ2価以上の水溶性アミンであり、好ましくはエチレンジアミン、1−メチルピペラジン、4−アミノピペリジン、ジエチレントリアミン、トリアミノエチルアミン、1−エチルピペラジン、N,N−ジメチルエチレンジアミン及びピペラジン、より好ましくは、1−メチルピペラジン、4−アミノピペリジン、及びジエチレントリアミンからなる群より選ばれる、上記[1]〜[15]のいずれか一つに記載の製造方法。
[17]工程bにおける水溶性アミンのアミン当量が、工程aの縮合反応後に理論上残存するアミノ酸当量に対して1〜10当量(好ましくは1〜6当量、より好ましくは1〜4当量)の量である、上記[1]〜[16]のいずれか一つに記載の製造方法。
[18]工程cにおける水溶性アミンのアミン当量が、系に存在するFmoc基の量に対して、5〜30当量(好ましくは5〜20当量、より好ましくは10〜20当量)である、上記[1]〜[17]のいずれか一つに記載の製造方法。
[19]工程dの酸性水溶液のpHが1〜5(好ましくは1〜4、さらに好ましくは1〜3)である、上記[1]〜[18]のいずれか一つに記載の製造方法。
[20]前記工程をワンポットで行う、上記[1]〜[19]のいずれか一つに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0053】
本発明のリュープロレリンの製造方法によれば、ペプチド伸長工程を短時間で行うことができ、かつ高純度の粗体が得られるので、従来技術よりも経済性の高いリュープロレリンの製造技術を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0054】
以下、本発明を、例示的な実施態様を例として、本発明の実施において使用することができる好ましい方法及び材料とともに説明する。
なお、文中で特に断らない限り、本明細書で用いるすべての技術用語及び科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者に一般に理解されるのと同じ意味をもつ。また、本明細書に記載されたものと同等又は同様の任意の材料及び方法は、本発明の実施において同様に使用することができる。
また、本明細書に記載された発明に関連して本明細書中で引用されるすべての刊行物及び特許は、例えば、本発明で使用できる方法や材料その他を示すものとして、本明細書の一部を構成するものである。
【0055】
本明細書中で、「X〜Y」という表現を用いた場合は、下限としてXを、上限としてYを含む意味で用いる。本明細書において「約」とは、±10%を許容する意味で用いる。
【0056】
本発明の方法で合成されるリュープロレリンの構成単位となるアミノ酸の略記は以下の意味である。
Pyr:L−ピログルタミン酸
His:L−ヒスチジン
Trp:L−トリプトファン
Ser:L−セリン
Tyr:L−チロシン
dLeu:D−ロイシン
D−Leu:D−ロイシン
Leu:L−ロイシン
Arg:L−アルギニン
Pro−NHEt:L−プロリンエチルアミド
【0057】
本発明の製造方法を以下に説明する。
1.N−Fmoc保護アミノ酸
9−フルオレニルメチルオキシカルボニル(Fmoc)基でアミノ基が保護されたアミノ酸(N−Fmoc保護アミノ酸)とは、アミノ酸のα−アミノ基がFmoc基で保護されており、一方、カルボキシル基は保護されておらず反応性であるアミノ酸を意味する。アミノ酸が1以上のアミノ基を有する場合は、α位のアミノ基がFmoc基で保護され、その他のアミノ基が他の保護基で保護されていればよい。
なお、N−Fmoc保護アミノ酸が、水酸基、α位以外のアミノ基、グアニジル基、α位以外のカルボキシル基、チオール基、インドール基、イミダゾール基等の反応性に富む官能基を有する場合、これらの官能基にペプチド合成で用いられる一般的な保護基を導入するのが好ましく、反応終了後の任意の時点、好ましくは、リュープロレリンの製造の最終工程で、保護基を除去することで目的物を得ることができる。
水酸基の保護基としてはtBu基、Trt基、Bz基、アセチル基、シリル基等が挙げられ、好ましくはtBu基であり、α位以外のアミノ基の保護基としては、Boc基、Fmoc基、Cbz基、Trt基、Mmt基、ivDde基等が挙げられ、好ましくは、Boc基又はTrt基であり、グアニジル基の保護基としては、Pbf基、Pmc基、ニトロ基等が挙げられ、好ましくはPbf基であり、カルボキシル基の保護基としてはtBu基、メチル基、エチル基、Bz基等が挙げられ、チオール基の保護基としては、Trt基、Acm基、tBu基、S−tBu基等が挙げられ、インドール基の保護基としてはBoc基等が挙げられ、イミダゾール基の保護基としては、Boc基、Bom基、Bum基、Trt基を挙げることができる。
【0058】
2.担体保護アミノ酸、ペプチド及びアミノ酸アミド
担体で保護されたアミノ酸(担体保護アミノ酸)又は担体保護ペプチドとは、アミノ酸又はペプチドのカルボキシル末端が以下に記載の担体で保護されており、アミノ酸又はペプチドのアミノ末端が反応性の状態であるアミノ酸又はペプチドをいう。
担体保護アミノ酸アミドとは、アミノ酸アミドの少なくとも一つのアミド基が以下に記載の液相ペプチド合成用担体により保護され、少なくとも一つのアミノ基は保護されておらず反応性であるアミノ酸アミドをいう。
なお、担体保護アミノ酸又は担体保護ペプチドが、水酸基、α位以外のアミノ基、グアニジル基、カルボキシル基、チオール基、インドール基、イミダゾール基等の反応性に富む官能基を有する場合、これらの官能基にペプチド合成で用いられる一般的な保護基が導入されていてもよく、反応終了後に、必要に応じて保護基を除去することで目的化合物を得ることができる。
水酸基の保護基としてはtBu基、Trt基、Bz基、アセチル基、シリル基等が挙げられ、好ましくはtBu基であり、アミノ基の保護基としては、Boc基、Fmoc基、Cbz基、Trt基、Mmt基、ivDde基等が挙げられ、好ましくは、Boc基又はTrt基であり、グアニジル基の保護基としては、Pbf基、Pmc基、ニトロ基等が挙げられ、好ましくはPbf基であり、カルボキシル基の保護基としてはtBu基、メチル基、エチル基、Bz基等が挙げられ、チオール基の保護基としては、Trt基、Acm基、tBu基、S−tBu基等が挙げられ、インドール基の保護基としてはBoc基等が挙げられ、イミダゾール基の保護基としては、Boc基、Bom基、Bum基、Trt基を挙げることができる。
【0059】
3.液相ペプチド合成用担体
本発明の製造方法で用いる担体とは、アミノ酸又はペプチドに直接結合して、それらを水に不溶性にする化合物であって分子量300以上の化合物である。本発明で用いる担体は、担体が溶解している溶媒の組成変化により、溶解状態と不溶化(結晶化又はオイル化)状態とが可逆的に変化する特性を有する化合物である。なお、本発明の製造方法の実施態様においては担体が不溶化することは必須ではなく、また、担体が不溶化するような溶媒の組成変化を行うことも必須ではない。このような担体は、例えば、本発明者らにより提案されている長鎖脂肪酸を導入したベンジル化合物(特開2003−183298号公報、特開2004−059509号公報、WO2007/034812号公報、WO2007/122847号公報)、さらに長鎖脂肪酸の末端にケイ素を導入し有機溶媒への溶解性を向上させたベンジル化合物(WO2017/038650号公報)、あるいは、長鎖脂肪酸を導入したフルオレン化合物(WO2010/104169号公報)、長鎖脂肪酸を導入したジフェニルメタン化合物(WO2010/113939号公報)、ベンジル型の化合物(WO2011/078295号公報)、分岐型の化合物(WO2012/029794号公報)を挙げることができる。
これに限定されないが、本発明の製造方法の工程aにおいて用いる担体保護アミノ酸又は担体保護ペプチドを調製する工程において、担体を不溶化(結晶化又はオイル化)してもよいし、また、本発明の製造方法の最終工程において得られた有機層(有機溶媒又は有機溶媒の混合物の層)に溶解した担体保護ペプチドを回収する工程において、担体保護ペプチドを不溶化(結晶化又はオイル化)してもよい。
本発明で用いる担体は、以下に記載の担体化合物から由来する。以下、本発明で用いる担体が由来する化合物の構造を、アミノ酸又はペプチドのカルボキシル基に結合する前の状態で説明する。
【0060】
3−1:担体化合物A
下記の構造を有する化合物(本願明細書中では「Kb」という場合がある):
【0061】
【化40】
(式中、R2、R4及びR5は、水素原子であり、R1及びR3は、炭素数が12〜30のアルコキシ基である。また、式中、RYは、−CH2OH又は−CH2NHEtであり、アミノ酸又はペプチドのカルボキシル基に結合する基である)。
上記式中、R1及びR3は、好ましくは炭素数が18〜22のアルコキシ基である。
上記式に含まれる具体的化合物で、好ましいものは下記式で表される2,4−ジドコシルオキシベンジルアルコール、
【0062】
【化41】
又は、下記式で表されるN−エチル−2,4−ジドコシルオキシベンジルアミンである。
【0063】
【化42】
【0064】
3−2:担体化合物B
下記の構造を有する化合物(本願明細書中では「KS」という場合がある):
【0065】
【化43】
(式中、Xは、−CH2OH又は−CH2NHEtであり;R2、R4及びR5は、水素原子であり、R1及びR3のうち少なくとも一つは、以下の式:
−O−R6−Xa−A
で表される基を示し、残余の基は、炭素数1〜4のアルキル基又は炭素数1〜4のアルコキシ基を示し;R6は、炭素数1から16の直鎖又は分岐鎖のアルキレン基を示し、Xaは、O又はCONRc(ここで、Rcは、水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を示す)を示し、
Aは、式(1)〜式(11)のいずれかを表し、
【0066】
【化44】
(ここで、R7、R8及びR9は、同じでも異なってもよく、炭素数1〜6の直鎖又は分岐鎖のアルキル基、又は置換基を有してもよいアリール基を示し、R10は、単結合又は炭素数1〜3の直鎖又は分岐鎖のアルキレン基を示し、R11、R12及びR13は、同じでも異なってもよく、炭素数1〜3の直鎖又は分岐鎖のアルキレン基を示す)。
上記式に含まれる具体的化合物で、好ましいものは下記式で表される、
【0067】
【化45】
(N−エチル−2,4−ジ(11’−トリイソプロピルシリルオキシウンデシルオキシ)ベンジルアミン)、
【0068】
【化46】
(2,4−ジ(11’−トリイソプロピルシリルオキシウンデシルオキシ)ベンジルアルコール)、
【0069】
【化47】
N−エチル−2,4−ジ(11’−t−ブチルジフェニルシリルオキシウンデシルオキシ)ベンジルアミン、及び
【0070】
【化48】
(2,4−ジ(11’−t−ブチルジフェニルシリルオキシウンデシルオキシ)ベンジルアルコール)である。
【0071】
3−3:担体化合物C
下記の構造を有する化合物(本願明細書中では「KJ1」という場合がある):
一般式(V):
【0072】
【化49】

[式中、環Aは芳香族環を示し;Yはヒドロキシル基、ブロモ基、クロロ基であり;Ra、Rb及びRcは独立してそれぞれ脂肪族炭化水素基を有する有機基、水素原子又は電子吸引性基を示し、かつRa、Rb及びRcの少なくとも1つは脂肪族炭化水素基を有する有機基であり;環A、B及びCは独立してそれぞれ電子吸引性基を有していてもよい]、又は
一般式(V’):
【0073】
【化50】
[式中、環Aは芳香族環を示し;Yはヒドロキシル基、ブロモ基又はクロロ基であり;nは1〜19の整数を表し;Rc’は脂肪族炭化水素基を有する2価の有機基であり;環A,B及びCは独立してそれぞれ脂肪族炭化水素基を有する有機基及び電子吸引性基から選ばれる1種以上を有してもよく;環Aが複数存在する場合の各環Aはそれぞれ同一でも異なっていてもよく;Yが複数存在する場合の各Yはそれぞれ同一でも異なっていてもよく;Rc’が複数存在する場合の各Rc’はそれぞれ同一でも異なっていてもよく、ここで
脂肪族炭化水素基を有する2価の有機基は、式(a):
【0074】
【化51】
(式中、Xaは存在しないか、又は−O−、−S−、−NHCO−あるいは−CONH−を示し;Rdは炭素数5以上の脂肪族炭化水素基を示し;K1は1〜10の整数を示し;Rdが複数存在する場合の各Rdはそれぞれ同一でも異なっていてもよく;Xaが複数存在する場合の各Xaはそれぞれ同一でも異なっていてもよい)で表される基であり、
脂肪族炭化水素基を有する有機基は、フルオレン化合物の2位及び/又は7位に存在する、式(b):
【0075】
【化52】
(式中、*は結合位置を示し;X1が−O−であり;R1が炭素数5〜60の脂肪族炭化水素基であり;m1が1である)で表される基、
式(c):
【0076】
【化53】
(式中、*は結合位置を示し;X2、X2’、X2’’及びX2’’’が−O−であり;R2及びR4は独立してそれぞれ炭素数5〜60の脂肪族炭化水素基であり;R3は炭素数5〜60の脂肪族炭化水素基を有する有機基であり;n1、n2、n3及びn4が1であり;m2が1である)で表される基、及び
式(d):
【0077】
【化54】
(式中、*は結合位置を示し;X8が−O−を示し;m3が2又は3であり;n5が1であり;n6が3であり;X7が−O−であり;m3個のR12が独立してそれぞれ炭素数4〜30のアルキル基である)で表される基からなる群より選ばれる1種以上の基である]
で表されるフルオレン化合物。
【0078】
3−4:担体化合物D
下記の構造を有する化合物(本願明細書中では「KJ2」という場合がある):
一般式(W):
【0079】
【化55】
[式中、Yはヒドロキシル基又は−NHEt基を示し;Raは、
式(a):
【0080】
【化56】
[式中、*は、結合位置を示し;m1は、1〜10の整数を示し;m1個のX1は、独立してそれぞれ、単結合を示すか、あるいは−O−、−S−、−COO−、−OCONH−、−NHCO−又は−CONH−を示し;R1及びm1個のR2は、独立してそれぞれ、炭素数5以上の2価の脂肪族炭化水素基を示し;かつR3は、水素原子、又は式(W’):
【0081】
【化57】
(式中、*は、結合位置を示し;n個のRbは、独立してそれぞれ、炭素数1〜6のアルコキシ基、ハロゲン原子、又は1個以上のハロゲン原子で置換されてもよい炭素数1〜6のアルキル基を示し;かつnは、0〜4の整数を示す)で表される基である。]で表される基;
式(b):
【0082】
【化58】
(式中、*は結合位置を示し;m2は、1又は2を示し;n1、n2、n3及びn4は、独立してそれぞれ、0〜2の整数を示し;m2個のX2、m2個のX2’及びm2個のX2’’は、独立してそれぞれ、単結合を示すか、あるいは−O−、−S−,−COO−,−OCONH−、−NHCO−又は−CONH−を示し;m2個のR4及びm2個のR6は、独立してそれぞれ、炭素数5以上の脂肪族炭化水素基を示し;R5は、炭素数5以上の脂肪族炭化水素基を示す。)で表される基;
式(c):
【0083】
【化59】
(式中、*は結合位置を示し;m3は、0〜15の整数を示し;n5は0〜11の整数を示し;n6は0〜5の整数を示し;m3個のX3は、独立してそれぞれ、単結合を示すか、あるいは−O−、−S−,−COO−,−OCONH−、−NHCO−又は−CONH−を示し;かつm3個のR7は、独立してそれぞれ、水素原子、メチル基又は炭素数5以上の脂肪族炭化水素基を示す)で表される基;及び
式(d):
【0084】
【化60】
[式中、*は、結合位置を示し;n7個のX4は、独立してそれぞれ、単結合を示すか、あるいは−O−,−S−、−COO−、−OCONH−、−NHCO−又は−CONH−を示し;R8は、2価の脂肪族炭化水素基を示し;n7個のR9は、独立してそれぞれ、1価の脂肪族炭化水素基を示し;n7は、1〜5の整数を示し;かつArは、アリーレン基を示す。)で表される基からなる群より選ばれる脂肪族炭化水素基を有する有機基を示し、当該有機基中の総炭素数が30以上であり;n個のRbは、独立してそれぞれ、炭素数1〜6のアルコキシ基、ハロゲン原子、又は1個以上のハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1〜6のアルキル基を示し;かつnは、0〜4の整数を示す]
で表されるベンジル化合物。
上記式に含まれる具体的化合物で、好ましいものは下記式で表される、
【0085】
【化61】
(N−エチル−2−(3’,4’,5’−トリオクタデシルオキシベンジルオキシ)−4−メトキシベンジルアミン)、及び
【0086】
【化62】
((2−(3’,4’,5’−トリオクタデシルオキシベンジル)−4−メトキシベンジルアルコール)である。
【0087】
3−5:担体化合物E
下記の構造を有する化合物(本願明細書中では「KJ3」という場合がある):
【0088】
【化63】
(式中、Yは、ヒドロキシル基又は−NHEt基を示し;k及びlは、独立してそれぞれ、0〜5の整数を示し、ただし、k+lは0ではなく;k個のRa及びl個のRbは、独立してそれぞれ、
式(a):
【0089】
【化64】
(式中、*は結合位置を示し;m1は、1〜10の整数を示し;m1個のX1は、独立してそれぞれ、存在しないか、あるいは−O−、−S−,−COO−,−OCONH−又は−CONH−を示し;m1個のR1は、独立してそれぞれ、炭素数5以上の2価の脂肪族炭化水素基を示す)で表される基、
式(b):
【0090】
【化65】
(式中、*は結合位置を示し;m2は、1〜2の整数を示し;m2個のn1、n2、n3及びn4は、独立してそれぞれ、0〜2の整数を示し;m2個のX2、m2個のX2’、m2個のX2’’’及びm2個のX2’’は、独立してそれぞれ、存在しないか、あるいは−O−、−S−,−COO−,−OCONH−又は−CONH−を示し;m2個のR2及びR4は、独立してそれぞれ、水素原子、メチル基又は炭素数5以上の脂肪族炭化水素基を示し;R3は、炭素数5以上の脂肪族炭化水素基を示す。)で表される基、及び
式(e):
【0091】
【化66】
(式中、*は結合位置を示し;m3は0〜15の整数を示し;n5は0〜11の整数を示し;n6は0〜5の整数を示し;X2は存在しないか、あるいは−O−、−S−,−NHCO−若しくは−CONH−を示し;m3個のX7は、独立してそれぞれ、存在しないか、あるいは−O−、−S−,−COO−,−OCONH−、−NHCO−又は−CONH−を示し;m3個のR12は、独立してそれぞれ、水素原子、メチル基又は炭素数5以上の脂肪族炭化水素基を示す)で表される基
から選ばれる炭素数5以上の脂肪族炭化水素基を有する有機基を示し、ここで、k+l個の脂肪族炭化水素基を有する有機基における、全脂肪族炭化水素基の合計の炭素数が16以上であり;
環AはRaに加えてさらに置換基を有していてもよく;
環BはRbに加えてさらに置換基を有していてもよい]
で表されるジフェニルメタン化合物。
上記式(X)で表される化合物を担体として用いる場合、上記式(X)で表される化合物から、N−[α−(p−セチルオキシフェニル)−ベンジル]−1−ヒドロキシ−4−フルオロスルホニル−2−ナフタミドやテトラウンデシルベンズヒドロール−3,3’,4,4’−テトラカルボキシレートを除いたものを選んで用いてもよい。
上記式に含まれる具体的化合物で、好ましいものは下記式で表されるN−エチル−ビス(4−ドコシルオキシフェニル)メチルアミンである。
【0092】
【化67】
【0093】
3−5:担体化合物F
下記の構造を有する化合物(本願明細書中では「KJ4」という場合がある):
【0094】
【化68】
[式中、k個のQは、独立してそれぞれ、単結合を示すか、あるいは−O−、−S−、−C(=O)O−,−C(=O)NH−又は−NH−を示し;k個のRaは、独立してそれぞれ、分岐鎖を1以上有する脂肪族炭化水素基を少なくとも1つ有し、総分岐鎖数が3以上であって、かつ総炭素数14以上300以下である有機基を示し;kは、1〜4の整数を示し;R1は、水素原子であるか、あるいはZが下記式(a)で表される基である場合には、R2と一緒になって単結合を示して、環Bとともにフルオレン環を形成していてもよく;環Aは、R1,k個のQRa、及びC(X)(Y)Zに加えて、さらにハロゲン原子、1個以上のハロゲン原子により置換されていてもよいC1−6アルキル基、及び1個以上のハロゲン原子により置換されていてもよいC1−6アルコキシ基からなる群より選ばれる1以上の置換基を有していてもよく;Xは、水素原子又はフェニル基を示し;
Yはヒドロキシル基又は−NHEt基を示し;かつZは、水素原子又は式(a):
【0095】
【化69】
(式中、*は結合位置を示し;mは、0〜4の整数を示し;m個のQは、前記と同意義を示し;m個のRbは、独立してそれぞれ、分岐鎖を1以上有する脂肪族炭化水素基を少なくとも1つ有し、総分岐鎖数が3以上であって、かつ総炭素数14以上300以下である有機基を示し;R2は、水素原子を示すか、又はR1と一緒になって単結合を示して、環Aと共にフルオレン環を形成してもよく;かつ環Bは、m個のQRb、及びR2に加えて、さらにハロゲン原子、1個以上のハロゲン原子により置換されていてもよいC1−6のアルキル基、及び1個以上のハロゲン原子により置換されていてもよいC1−6のアルコキシ基からなる群より選ばれる1以上の置換基を有していてもよい)で表される基を示し;
前記Ra及びRbにおける分岐鎖を1以上有する脂肪族炭化水素基を少なくとも1つ有し、総分岐鎖数が3以上であって、かつ総炭素数14以上300以下である有機基が、式(b):
【0096】
【化70】
(式中、*は、隣接原子との結合位置を示し;R3及びR4は、独立してそれぞれ、水素原子又はC1−4アルキル基をしめし;X1は、単結合、C1−4アルキレン基又は酸素原子を示す。但し、R3及びR4が共に水素原子であることはない)で表される同一又は異なる2価の基を3以上有する基である]
で表される分岐鎖含有芳香族化合物。
上記式(Y)で表される化合物を担体として用いる場合、4−(3,7,11−トリメチルドデシルオキシ)ベンジルアルコールや3,4,5−トリス[4−(3,7,11−トリメチルドデシルオキシ)ベンジルオキシ]ベンジルアルコールを除いたものを選んで用いてもよい。
上記式に含まれる具体的化合物で、好ましいものは下記式で表される、
【0097】
【化71】
(N−エチル−2,4−ジ(2’,3’−ジヒドロフィチルオキシ)ベンジルアミン)、
【0098】
【化72】
(2,4−ジ(2’,3’−ジヒドロフィチルオキシ)ベンジルアルコール)、及び
【0099】
【化73】
(N−エチル−ビス[4−(2’,3’−ジヒドロフィチルオキシ)フェニル]メチルアミン)である。
【0100】
上記担体化合物A、担体化合物B、担体化合物C、担体化合物D、担体化合物E及び担体化合物Fのカルボキシル基への結合は、ペプチド合成において一般的に用いられる方法を本発明においても制限なく用いることができ、例えば、COMUを用いたアミド化やDIPCIを用いたエステル化により行うことができる。
4.溶媒
本発明の製造方法において用いる溶媒は、特に制限されず、液相ペプチド合成において用いられる溶媒を用いることができる。溶媒としては、これに限定されないが、例えば、THF、DMF、シクロヘキサン、CPME,MTBE、2−メチルTHF、4−メチルTHP、酢酸イソプロピル、クロロホルム、ジクロロメタン、N−メチルピロリドンを挙げることができ、好ましくは、THF、DMF、シクロヘキサン、CPME,MTBE、2−メチルTHF、4−メチルTHP、酢酸イソプロピル、及びN−メチルピロリドンである。さらに、上記溶媒の2種以上の混合溶媒でもよい。
【0101】
本発明の製造法に用いる出発物質の調製のために、又は、本発明の製造方法を用いて製造した担体保護ペプチドを最後に回収するために、担体保護ペプチドを不溶化(結晶化又はオイル化)する場合は、極性溶媒を用いる。用いる極性溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトニトリル、プロピオニトリル、DMF、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、水等、ならびにこれら2種以上の混合溶媒が挙げられる。中でも、メタノール又はアセトニトリルが好適に使用される。
【0102】
6.本発明の製造方法における伸長反応
本発明の製造方法は、縮合工程、Fmoc基の脱保護工程、及び担体保護ペプチドの回収工程までの一連の工程を、固液分離操作を行うことなく連続して行うことができる、さらに、合成工程で発生する不純物を分液分離により軽減又は除去することができる。そのため、リュープロレリンの製造において、連続してペプチド伸長を行うことができる。
本発明のリュープロレリンの製造方法によるペプチドの合成は以下の工程を含む。
(a)縮合反応工程
有機溶媒又は有機溶媒の混合液中で、担体で保護された(以下、「担体保護」という)アミノ酸、担体保護アミノ酸アミド又は担体保護ペプチドと、9−フルオレニルメチルオキシカルボニル基でアミノ基が保護された(以下、「N−Fmoc保護」という)アミノ酸とを縮合して、N−Fmoc−担体保護ペプチドを得る工程
(b)スカベンジ反応工程
縮合反応後の反応液に、水溶性アミン(以下、アミンスカベンジャーと呼ぶ場合がある)を添加して、アミノ酸活性エステルのスカベンジ体を形成する工程、
(c)脱Fmoc工程
水溶性アミンの存在下で保護されたN末端からFmoc基を脱保護する工程、
及び、
(d)酸性水溶液洗浄工程
反応液に酸を添加して中和し、さらに酸性水溶液を添加し洗浄した後、分液し、水層を除去する工程。
本発明のペプチド合成は、場合により、上記工程(d)の後にさらに以下の工程を追加することができる。
(e)塩基性水溶液洗浄工程
弱塩基性水溶液を添加して洗浄した後、分液し、水層を除去し、有機層を得る工程。
【0103】
上記工程は、担体保護ペプチドの不溶化(結晶化又はオイル化)を伴う固液分離操作を必要としないので、ワンポットで行うことができる。
さらに、上記工程を行うことにより、合成反応の開始時に比べアミノ酸が付加された担体保護ペプチドが有機層に溶解された状態で回収できる。また、担体保護ペプチドが溶解した有機層からは不純物が軽減又は除去されているので、そのままの状態で、次のペプチド合成反応(ペプチド伸長反応)を続けて行うことができる。
よって、本発明の製造方法の一態様は、上記工程(a)〜(d)の工程を必要回数繰り返すことを含むリュープロレリンの製造方法である。連続して繰り返し行う工程もワンポットで行うことができる。
本発明の製造方法においては、それぞれの合成サイクルにおいて、上記工程(e)を追加してもよい。
また、上記工程(a)〜(d)の工程を必要回数繰り返すことを含むリュープロレリンの製造方法においては、最終工程において、工程(a)と同様にしてN末端のアミノ酸であるPyrを縮合した後、脱Fmoc工程に該当する工程(c)を行わず、工程(d)と同様の酸性水溶液洗浄を行い、担体保護ペプチドを得ることもでき、このような態様も本発明に含まれる。
【0104】
本発明の製造方法の工程(a)における担体保護アミノ酸は、ペプチド合成において用いられる公知の方法を適宜参照して作製することができる。これに限定されないが、RYが−CH2−OHである担体化合物Kbを用いた Arg−OKbは、以下のようにして調製できる。例えば、担体化合物をTHF等の溶媒に溶解し、N−Fmoc保護アミノ酸、及び縮合剤、例えば、DIPCIを添加して縮合を行い、アミノ酸のカルボキシル基に担体が結合した中間体であるN−Fmoc−担体保護アミノ酸を作製できる。
【0105】
作製されたN−Fmoc−担体保護アミノ酸は、好ましくは、結晶化させて回収することにより、高純度で得ることができる。例えば、これに限定されないが、上記担体保護アミノ酸を含んだ反応液を、減圧下で留去し、次いで、残渣に、N−Fmoc−担体保護アミノ酸が固形化(結晶化)する溶媒、例えば、メタノールやアセトニトリルを添加して析出させ、沈殿物をろ過した後、溶媒で懸洗を行い、得られた固形物を乾燥して最終物として得ることができる。
【0106】
このようにして得られたN−Fmoc−担体保護アミノ酸はペプチド合成において用いられる、公知の方法を適宜参考にしてN末端保護基を除去することで、担体保護アミノ酸を作製することができる。例えば、これに限定されないが、N−Fmoc−担体保護アミノ酸をTHF等の溶媒に溶解し、DBU、ピペラジン等の脱Fmoc試薬を添加して脱Fmoc反応を行い、作製できる。
【0107】
本発明の製造方法の工程(a)における担体保護アミノ酸アミドはまた、本発明の製造方法の工程(a)において、担体保護アミノ酸に代えて担体化合物を用い、工程(a)〜(d)、場合によりさらに工程(e)を行うことにより得ることもできる。例えば、工程(a)において、RYが−CH2−NHEtである担体化合物 H−EtN−Kb及びFmoc−Pro−OHを用い、各工程を行うことにより、担体保護アミノ酸アミドであるH−Pro−EtN−Kbを得ることができる。
【0108】
このようにして得た担体保護アミノ酸、又は担体保護アミノ酸アミドを出発物質として、本発明の製造方法に用いることができる。
よって、本発明の製造方法の一つの態様として、上記工程(a)の前に、担体保護ペプチドの調製工程を含むペプチド合成方法を挙げることができる。
【0109】
本発明の製造方法を用いて得た担体保護ペプチドは、ペプチド合成分野で用いられている公知の方法を用いて回収できる。例えば、結晶化させることにより溶媒中から回収できる。例えば、これに限定されないが、得られた担体保護ペプチドを含んだ有機層を、減圧下で溶媒留去し、次いで、残渣に、貧溶媒、例えば冷アセトニトリルを添加して析出させ、沈殿物をろ過した後、溶媒で懸洗を行い、得られた固形物を乾燥して合成した担体保護ペプチドを得ることができる。
よって、本発明の製造方法の一つの態様として、上記工程(a)〜(d)、場合によりさらに工程(e)の後に、担体保護ペプチドを晶析・分離する工程を含む製造方法を挙げることができる。
【0110】
以下、それぞれの工程について説明する。
【0111】
6−1.縮合反応工程
本工程では、溶媒中において、担体保護アミノ酸、アミノ酸アミド又はペプチドと、N−Fmoc保護アミノ酸と、縮合剤(好ましくは縮合剤及び活性化剤)とを混合することによって、アミノ酸残基数が伸長したN−Fmoc−担体保護ペプチドが得られる。
各成分の添加の方法や順序は、特に制限なく行うことができ、ペプチド合成における縮合工程において通常用いられている方法を用いることができる。
【0112】
担体保護アミノ酸、アミノ酸アミド又はペプチドに対する、N−Fmoc保護アミノ酸の使用量は、担体保護アミノ酸、アミノ酸アミド又はペプチドに対して、通常1.01〜4当量、好ましくは1.03〜4当量、より好ましくは1.05〜2当量、さらに好ましくは1.1〜1.5当量である。この範囲より少ないと、未反応の担体保護ペプチドが残りやすく、アミノ酸の欠落を起こし易くなる。本発明の製造方法では、未反応のアミノ酸の活性エステルをその後に添加する水溶性アミンでスカベンジして(捕獲して)不活性化することができる。そのため、より多くのN−Fmoc保護アミノ酸を用いても、従来の方法に比べ残存の問題が生じない。
【0113】
縮合剤としては、ペプチド合成において一般的に用いられる縮合剤が、本発明においても制限なく用いることができ、これに限定されないが、例えば、4−(4,6−ジメトキシ−1,3,5−トリアジン−2−イル)−4−メチルモルホニウムクロリド(DMT−MM)、O−(ベンゾトリアゾール−1−イル)−1,1,3,3−テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェート(HBTU)、O−(7−アザベンゾトリアゾール−1−イル)−1,1,3,3−テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェート(HATU)、O−(6−クロロベンゾトリアゾール−1−イル)−1,1,3,3−テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェート(HBTU(6−Cl))、O−(ベンゾトリアゾール−1−イル)−1,1,3,3−テトラメチルウロニウムテトラフルオロボレート(TBTU)、O−(6−クロロベンゾトリアゾール−1−イル)−1,1,3,3−テトラメチルウロニウムテトラフルオロボレート(TCTU)、(1−シアノ−2−エトキシ−2−オキソエチリデンアミノオキシ)ジメチルアミノ−モルホリノ−カルベニウムヘキサフルオロリン酸塩(COMU)、ジイソプロピルカルボジイミド(DIPCI)、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、及び1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(WSC)を挙げることができ、好ましくは、DMT−MM、HBTU、HATU、又はCOMUである。縮合剤の使用量は、担体保護ペプチドに対して、通常1〜4当量、好ましくは1〜2当量、より好ましくは1.05〜1.3当量である。
【0114】
縮合工程において、活性化剤が添加されてもよい。ここで活性化剤とは、縮合剤との共存化で、アミノ酸を、対応する活性エステル、対称酸無水物などに導いて、ペプチド結合(アミド結合)を形成させやすくする試薬である。活性化剤としては、ペプチド合成において一般的に用いられる活性化剤が、本発明においても制限なく用いることができ、例えば、HOBt、HOCt、HOAt、HOOBt、HOSu、HOPht、HONb、ペンタフルオロフェノール、シアノ(ヒドロキシイミノ)酢酸エチル(Oxyma)等を挙げることができ、好ましくは、HOBt、HOOBt、HOCt、HOAt、HONb、HOSu、Oxymaである。活性化剤の使用量は、担体保護ペプチドに対して、通常1〜4当量、好ましくは1〜2当量、より好ましくは1.05〜1.3当量である。
縮合工程で使用する溶媒は、ペプチド合成において一般的に用いられる溶媒が、本発明においても制限なく用いることができ、これに限定されないが、例えば、前記した溶媒が例示される。溶媒の使用量は、担体保護ペプチド等を溶解した濃度が、通常0.1mM〜1Mとなる量であり、好ましくは1mM〜0.5Mとなる量である。
【0115】
反応温度は、ペプチド合成において一般的に用いられる温度が、本発明においても用いられ、例えば、通常−20〜40℃、好ましくは0〜30℃の範囲内である。反応時間(1サイクルの時間)は、通常0.5〜30時間である。
【0116】
6−2.スカベンジ反応工程
本発明の製造方法は、アミノ酸の縮合反応工程の後に、水溶性アミンを反応系に添加して、未反応のアミノ酸活性エステルをスカベンジ(捕獲)する。水溶性アミンはアミノ酸活性エステルと結合してスカベンジ体を形成し、活性エステルを不活性化する。本明細書においては、本発明で用いる水溶性アミンを、アミンスカベンジャーと称する場合がある。
本発明において用いることができるスカベンジャーとしての水溶性アミンは、好ましくは、1級又は2級のアミノ基を少なくとも1つ持つ2価以上の水溶性アミンであり、例えば、1−メチルピペラジン、4−アミノピペリジン、ジエチレントリアミン、トリアミノエチルアミン、1−エチルピペラジン、N,N−ジメチルエチレンジアミン、エチレンジアミン及びピペラジンを挙げることができ、好ましくは、1−メチルピペラジン、4−アミノピペリジン、ジエチレントリアミンであり、より好ましくは、1−メチルピペラジンである。
工程(b)における水溶性アミンの添加量は、理論上残存するアミノ酸当量に対して、通常1〜10当量、好ましくは1〜6当量、より好ましくは1〜4当量である。アミンの添加量がこの範囲より少ないと、アミノ酸活性エステルのスカベンジ(捕獲)が不充分となり、残存したアミノ酸活性エステルと次工程(c)の際に再生したアミノ基と反応するダブルヒットが起こり、純度、収率を低下させ、一方、この範囲より多いと、同時に脱Fmoc反応が進行し、残存しているアミノ酸活性エステルが再生したアミノ基と反応するダブルヒットが起こり、純度、収率を低下させる。
本発明の製造方法においては、次の工程であるN−Fmoc−担体保護ペプチドからのFmoc基の除去を、反応系中のアミノ酸活性エステルをアミンスカベンジャーによりスカベンジ(捕獲)してスカベンジ体を形成させた後に行う。これにより、脱Fmoc反応時においては、反応液中のアミノ酸活性エステルが不活性化されており、それらを反応系から取り除かなくても脱保護時にアミノ酸のダブルヒットを防ぐことができる。また、水溶性アミンに捕捉されたアミノ酸活性エステルは、後の洗浄工程において容易に除去できる。
【0117】
6−3.脱Fmoc工程
本発明の製造方法においては、水溶性アミンの存在下で、N−Fmoc−担体保護ペプチドからのFmoc基の除去を行う。本工程においては、水溶性アミンを反応系に追加で添加する。本工程において用いることができる水溶性アミンは、好ましくは、1級又は2級のアミノ基を少なくとも1つ持つ2価以上の水溶性アミンであり、例えば、1−メチルピペラジン、4−アミノピペリジン、ジエチレントリアミン、トリアミノエチルアミン、1−エチルピペラジン、N,N−ジメチルエチレンジアミン、エチレンジアミン、ピペラジンを挙げることができ、好ましくは、1−メチルピペラジン、4−アミノピペリジン、ジエチレントリアミンであり、より好ましくは、1−メチルピペラジンである。本工程における水溶性アミンの種類は、工程(b)のスカベンジ反応工程で添加した水溶性アミンと同じでも異なってもよい。
本工程(c)において添加する水溶性アミンの当量は、系に存在するFmoc基の量に対して、5〜30当量、好ましくは5〜20当量、より好ましくは10〜20当量である。アミンの添加量がこの範囲より少ないと、脱Fmoc反応により生じるDBFのスカベンジ(捕獲)が不充分となり、不純物を後の酸性水溶液洗浄工程で除去しにくくなり、一方、この範囲より多いと、中和に要する酸の量が増大し、それに伴う中和工程によって副反応(分解、ラセミ化)が起き、純度低下、収率減少の原因となる。
本工程は水溶性アミンの存在下で脱Fmoc反応を行うが、系に存在する水溶性アミンが脱Fmoc試薬としての機能を有する場合は、他の脱Fmoc試薬を系に添加しなくてもよい。一方、効率よく脱Fmoc反応を行うために他の脱Fmoc試薬を系に添加してもよい。脱Fmoc試薬としての機能を有する水溶性アミンとして、例えば、上記で例示した水溶性アミンを挙げることができる。好ましくは、本工程では、水溶性アミンとともに脱Fmoc試薬が添加される。
本工程において水溶性アミンとともに脱Fmoc試薬を反応系に添加する場合は、水溶性アミンと脱Fmoc試薬の添加は、同時に系に添加してもよく、あるいは、水溶性アミンを系に添加した後、脱Fmoc試薬を添加してもよい。ここでいう、同時とは、本技術分野における反応において同時と考えられる範囲内で前後して添加することを含む意味である。なお、水溶性アミンを系に添加した後に脱Fmoc試薬を添加する場合、添加間隔の時間は、操作やその他の要因を考慮して、適宜調整できる。
N末端からのFmoc基の除去は、ペプチド合成において一般的に用いられる除去方法が、必要に応じて適宜変更して本発明において用いることができる。本発明において用いることができる脱Fmoc試薬としては、これに限定されないが、例えば、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセン(DBU)、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]−5−ノネン(DBN)、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]−オクタン(DABCO)、トリエチルアミン、トリブチルアミンを挙げることができ、好ましくは、DBUである。
脱Fmoc反応時には、ジベンゾフルベン(DBF)が生じるが、本工程で添加した水溶性アミンは、これらの不純物をスカベンジ(捕捉)することができる。水溶性アミンに捕捉されたDBFは、後の酸性水溶液洗浄工程において容易に除去できる。
【0118】
6−4.酸性水溶液洗浄工程
工程(d)の中和工程により、系に存在する有機塩基を中和することができる。中和に使用する酸としては、反応液中の塩基を中和できるものであれば特に限定されないが、例えば、塩化水素、リン酸、酢酸、硫酸等の水溶液が挙げられる。例えば、塩酸を用いる場合は、これに限定されないが、1N〜12N、好ましくは2N〜12N、より好ましくは5N〜12Nの塩酸を添加する。
ここでいう中和とは、反応液が中性のpHになればよく、pHが7.0以下になってもよい。
工程(d)においては、酸で中和した反応中和液に、さらに、酸性水溶液を加え、洗浄し、次いで、分液して、水層を廃棄し、有機層を回収する。これにより、酸性水溶液に溶解性の不純物を除くことができる。
用いる酸性水溶液は、特に限定されないが、例えば、希塩酸、希硫酸、リン酸水溶液、酢酸水溶液が挙げられ、好ましくは、希塩酸である。酸性水溶液のpHは、1〜5、好ましくは1〜4、より好ましくは1〜3である。
洗浄に用いる酸性水溶液は、添加量は洗浄効果を示す限り特に制限がないが、反応液に対して、0.1〜3倍量、好ましくは0.5〜2倍量、より好ましくは0.8〜1.5倍量で用いることができる。
洗浄、分液、水層の廃棄工程は、回数に制限なく、1回でもよくまた複数回行ってもよい。回数は、反応系中の化合物の種類や不純物の量、及び目的に応じて、適宜選択される。
【0119】
本発明においては、工程(d)の酸性水溶液の洗浄により不純物を除くことができる。酸性水溶液の分液操作により、例えば、H2N−AAx−アミン(スカベンジャー)結合体、縮合剤分解物、pH調整塩基、DBF−アミン(スカベンジャー)結合体、アミン(スカベンジャー)、脱Fmoc試薬などの不純物を除去することができ、不純物が軽減又は除去された反応系に溶解した担体保護ペプチドを得ることができる。
また、水溶液を用いた分液操作は、簡便であり、工程時間の短縮に寄与する。更には、固液分離操作が必要でなく担体の固形化のための貧溶媒の使用を削減できる。
なお、本発明の方法を用いた連続するペプチド合成では、最後のサイクルにおいて、脱Fmoc工程後に、酸で中和した後、担体保護ペプチドを固形化(結晶化)して、固液分離操作を用いて担体保護ペプチドを回収してもよいが、不純物のより完全な除去の観点より、酸性水溶液による洗浄を行うのが好ましい。
【0120】
6−5.塩基性水溶液洗浄工程
本発明のペプチド合成は、場合により、さらに以下の工程を追加することができる。
工程(e)においては、弱塩基性水溶液を加え、洗浄し、次いで、分液して、水層を廃棄し、有機層を回収する。これにより、弱塩基性水溶液に溶解性の不純物を除くことができる。
用いる弱塩基性水溶液は、特に限定されないが、例えば、炭酸水素ナトリウム水溶液、炭酸ナトリウム水溶液、炭酸カリウム水溶液が挙げられ、好ましくは、炭酸水素ナトリウム水溶液である。弱塩基性水溶液のpHは、8〜12、好ましくは8〜10である。
洗浄に用いる弱塩基性水溶液の添加量は洗浄効果を示す限り特に制限がないが、反応液に対して、0.1〜3倍量、好ましくは0.5〜2倍量、より好ましくは0.8〜1.5倍量で用いることができる。
洗浄、分液、水層の廃棄工程は、回数に制限なく、1回でもよくまた複数回行ってもよい。回数は、反応系中の化合物の種類や不純物の量、及び目的に応じて、適宜選択される。
工程(e)の弱塩基性水溶液の洗浄により、弱塩基性水溶液に溶解性の不純物を除くことができる
なお、本発明の方法における連続するペプチド合成では、最後のサイクルにおいて、工程(d)の後、工程(e)を行わず、得られた有機層に溶解している担体保護ペプチドを固形化(結晶化)して、固液分離操作を用いて担体保護ペプチドを回収してもよい。
【0121】
工程(d)又は工程(e)の後に、必要に応じて工程(f)の水分除去工程をくわえてもよい。水分除去工程は、塩溶液を加えることにより、塩効果を生じさせ、水分を効率良く除去する方法と、脱水剤を用いて水分を除去する方法がある。塩溶液としては、これに限定されないが、例えば、食塩水を挙げることができる。また、脱水剤としては、これに限定されないが、無水硫酸ナトリウムを挙げることができる。
【0122】
7.担体保護ペプチドの晶析・分離工程
本発明の方法で合成した担体保護ペプチドは、工程(d)、工程(e)又は工程(f)の後に、不溶化して(例えば、結晶化させて)分離することができる。不溶化は、担体が溶解している溶媒の組成変化により溶解状態と不溶化(結晶化)状態とが可逆的に変化する特性を有する担体を用いるペプチド合成分野において、公知の方法を適宜参考にして行うことができ、例えば、担体保護ペプチドが溶解している溶液の組成を変化させることにより行うことができる。不溶化させるための条件は、用いる担体の種類や合成された担体保護ペプチドの種類や長さに応じて、適宜選択できる。例えば、これに限定されないが、以下のような溶媒組成変化手段を挙げることができる。
【0123】
溶液組成を変化させる手段としては、担体保護ペプチドが溶解している溶液の組成を変化させることのできる手段であれば、特に制限されるものではない。溶液組成を変化させる好ましい手段としては、例えば、担体保護ペプチドが溶解している溶液にそのまま、又は溶液の溶媒を濃縮した後、貧溶媒を加えて晶析する手段が挙げられる。ここで、濃縮とは、溶媒の一部又は全部を留去、例えば減圧下で溶媒留去することをいう。その後、析出した結晶を、例えばろ過や遠心分離により分離することができる。分離した結晶は、好ましくは、有機溶媒で洗浄することにより、場合により結晶と一緒に分離された不純物等を結晶化した担体保護ペプチドから除去できる。本発明の方法で合成した担体保護ペプチドは不純物が十分に除去されているが、さらにこれらの操作をすることによりさらに不純物を除去できる。
本発明における貧溶媒は、担体保護ペプチドが貧溶、すなわち、担体保護ペプチドが溶解しにくい、又は溶解しない溶媒をいう。担体保護ペプチドが溶解しにくい又は溶解しないとは、担体保護ペプチドの溶解度が25℃において1質量%未満となる常温で液状の溶媒であればよく、アセトニトリル、任意割合の含水アセトニトリル、メタノール、任意割合の含水メタノール、水であることが好ましい。
本発明の方法を用いた連続ペプチド合成の最後のサイクルにおいては、工程(d)、工程(e)、又は工程(f)の後に、本晶析・分離工程を行うことができ、それにより合成した担体保護ペプチドを回収できる。
【0124】
8.担体脱保護工程
本発明の方法で合成した担体保護ペプチドの担体脱保護は、ペプチドのカルボキシル基に結合した担体を除去(脱保護)することによって行うことができる。
担体の除去の方法は特に限定はなく、公知の脱保護法を使用すればよいが、好ましくは酸処理により行われる。例えば、TFAを用いた脱保護法を用いることができ、より具体的には、Kbを用いた場合は1〜100%トリフルオロ酢酸で、KSを用いた場合は1〜100%トリフルオロ酢酸で、担体KJ1及び担体KJ2を用いた場合は1〜100%トリフルオロ酢酸で、担体KJ3を用いた場合は95〜100%トリフルオロ酢酸で、担体KJ4を用いた場合は1〜100%トリフルオロ酢酸で脱保護するのが好ましい。
【0125】
本発明の製造方法を用いて得られたペプチド(リュープロレリン)は、ペプチド合成で常用される方法に従って、単離精製することができる。例えば、反応混合物を抽出洗浄、晶析、クロマトグラフィーなどによって、目的物であるペプチドを単離精製することができる。
【実施例】
【0126】
本明細書中、並びに以下の実施例及び比較例においては、下記の略号を用いた。
AAs:1以上の任意のアミノ酸残基
AAx:任意のアミノ酸残基
Boc:tert−ブトキシカルボニル
COMU:(1−シアノ−2−エトキシ−2−オキソエチリデンアミノオキシ)ジメチルアミノ−モルホリノ−カルベニウムヘキサフルオロリン酸塩
CPME:シクロペンチルメチルエーテル
DBU:1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセン
DCM:ジクロロメタン
DIPCI:ジイソプロピルカルボジイミド
DIPEA:N,N−ジイソプロピルエチルアミン
DMAP:N,N−ジメチル−4−アミノピリジン
DMF:N,N−ジメチルホルムアミド
DMT−MM:4−(4,6−ジメトキシ−1,3,5−トリアジン−2−イル)−4−メチルモルホニウム クロリド
DTT:ジチオトレイトール
Fmoc:9−フルオレニルメチルオキシカルボニル
Kb:2,4−ジドコシルオキシベンジル
MTBE:メチルtert−ブチルエーテル
Oxyma:シアノ(ヒドロキシイミノ)酢酸エチル
Pbf:2,2,4,6,7−ペンタメチルジヒドロベンゾフラン−5−スルホニル
Pyr:ピログルタミン酸
tBu:tert−ブチル
TFA:トリフルオロ酢酸
TFE:2,2,2−トリフルオロエタノール
THF:テトラヒドロフラン
THP:テトラヒドロピラン
TIS:トリイソプロピルシラン
Trt:トリフェニルメチル
【0127】
以下に本実施例で用いた一般合成法を示す。担体化合物としてKbを用いた場合を例として記載するが、KS、KJ1、KJ2、KJ3及びKJ4も同様に用いることができる。また、各試薬の添加量も、一例を示しているに過ぎず、これに限定されるものではない。
(1)脱Fmoc一般合成法
【0128】
【化74】
出発原料をTHF:DMF(9/1)の混合液に18v/wになるよう溶解し、ピペリジン(1.5equiv)及びDBU(1.0equiv)を加えて室温で10分間攪拌した。氷冷しながら6N塩酸(3.50equiv)を加えて減圧下溶媒を留去した。残渣にアセトニトリルを加えて析出した沈殿物をろ過し、さらにアセトニトリル懸洗を行い、得られた固形物を減圧乾燥し、脱Fmoc体を得た。
【0129】
以下に本発明の方法で用いた縮合脱保護法を示す。担体化合物としてKb−OHを用いた場合を例として記載するが、Kb−NHEt、KS、KJ1、KJ2、KJ3及びKJ4も同様に用いることができる。また、各試薬の添加量も、一例を示しているに過ぎず、これに限定されるものではない。
(2)アミンスカベンジャー(水溶性アミン)を用いた1pot縮合脱保護法
【0130】
【化75】

出発原料をTHF:DMF(9/1)の混合液に18v/wになるように溶解し、Fmoc−AAx−OH(1.30equiv)、COMU(1.25equiv)、及びDIPEA(2.30equiv)を加えて室温で30分間攪拌した。水溶性アミンとして、1−メチルピペラジン(0.45equiv)を加えて室温で30分間撹拌した。1−メチルピペラジン(20.0equiv)及びDBU(7.0equiv)を加えて室温で10分間撹拌した。6N塩酸(49.50equiv)を加えた反応液に、THF(0.8v/w)、0.1N塩酸(18v/w)を加え、洗浄、分液し、水層を廃棄した。さらに、0.5N炭酸水素ナトリウム水溶液(18v/w)を加え、洗浄、分液し、水層を廃棄し、アミノ酸縮合物を溶液で得た。
【0131】
以下に本発明の方法で用いた担体をペプチドから脱保護する(切り離す)方法を示す。担体化合物としてKbを用いた場合を例として記載するが、KS、KJ1、KJ2、KJ3及びKJ4も同様に用いることができる。また、各試薬の添加量も、一例を示しているに過ぎず、これに限定されるものではない。
(3)Kb保護基一般脱保護法
【0132】
【化76】
原料をDCM:TFE:TFA(90/9/1)の混合液に19.75v/wになるよう溶解し、室温で30分間攪拌した。沈殿物をろ過し、ろ液にDIPEAをTFAの1.0equivになるように加え、0.01N塩酸(18v/w)を加え、洗浄、分液し、水層を廃棄した。得られた有機層にジイソプロピルエーテルを加え減圧下留去した。残渣にジイソプロピルエーテルを加えて析出した沈殿物を懸洗し、得られた固形物を減圧乾燥し、脱Kb保護体を得た。
【0133】
以下、本発明の方法を用いたペプチド合成を示す。
以下の明細書の記載における「v/w」なる表現は、一連のペプチド合成反応において、出発原料を基準にした場合の添加する溶媒の量を示している。
実施例1:Kb−OHを用いた、H−Pyr−His−Trp−Ser−Tyr−dLeu−Leu−Arg−Pro−NHEt(配列番号1)の合成
化合物1の合成
【0134】
【化77】
2,4−ジドコシルオキシベンジルアルコール(「Kb−OH」と表記する)(10.0g,13.20mmol)を脱水THF(132mL)に溶解し、Fmoc−Arg(Pbf)−OH (12.85g,19.80mmol,1.50equiv)、DIPCI (3.06ml,19.80mmol,1.5equiv)、及びDMAP(80.7mg,0.66mmol,0.05equiv)を加えて室温で30分間攪拌した。反応液を減圧下留去した。残渣にメタノールを加えて析出した沈殿物をろ過し、メタノール懸洗を行い、さらにアセトニトリル懸洗を2回行った。得られた固形物を減圧乾燥し、化合物1(18.33g, quant)を得た。
【0135】
化合物2の合成
【0136】
【化78】
化合物1に対し脱Fmoc一般合成法を行い、化合物2(19.85g,quant)を得た。
【0137】
化合物3(H−His(Trt)−Trp(Boc)−Ser(tBu)−Tyr(tBu)−dLeu−Leu−Arg(Pbf)−OKb:配列番号4)の合成
【0138】
【化79】
化合物2に対し、以下のアミノ酸を、アミンスカベンジャー(水溶性アミン)を用いた1pot縮合脱保護法を繰り返す方法で導入し、化合物3を溶液で得た。
1残基目:Fmoc−Leu−OH
2残基目:Fmoc−dLeu−OH
3残基目:Fmoc−Tyr(tBu)−OH
4残基目:Fmoc−Ser(tBu)−OH
5残基目:Fmoc−Trp(Boc)−OH
6残基目:Fmoc−His(Trt)−OH
【0139】
化合物4(Pyr−His(Trt)−Trp(Boc)−Ser(tBu)−Tyr(tBu)−dLeu−Leu−Arg(Pbf)−OKb:配列番号5)の合成
【0140】
【化80】
得られた化合物3溶液にDMFを理論収量に対し1.8v/wになるように加えた。H−Pyr−OH(3.30g,25.55mmol)、COMU(7.0g,16.26mmol,1.25equiv)、DIPEA(5.10ml,29.28mmol,2.25equiv)を加えた。得られた混合液を室温で30分間攪拌した。得られた反応液に1−メチルピペラジン(0.45equiv)を加えて室温で5分間撹拌した。0.01N塩酸(18v/w)を加え、洗浄、分液し、水層を廃棄した。得られた有機層を減圧下で溶媒留去した。残渣にアセ卜ニ卜リルを加えて析出した沈殿物をろ過し、さらにアセ卜ニ卜リル懸洗を行い、得られた固形物を減圧乾燥し、化合物4(28.78g, 87.50%)を得た。
【0141】
化合物5(Pyr−His(Trt)−Trp(Boc)−Ser(tBu)−Tyr(tBu)−dLeu−Leu−Arg(Pbf)−OH:配列番号6)の合成
【0142】
【化81】
化合物4(20.0g,7.90mmol)をKb保護基一般脱保護法に供し、化合物5(14.39g,quant)を得た。
【0143】
化合物6(Pyr−His(Trt)−Trp(Boc)−Ser(tBu)−Tyr(tBu)−dLeu−Leu−Arg(Pbf)−Pro―NHEt:配列番号7)の合成
【0144】
【化82】
化合物5(6.20g,3.45mmol)をTHFに16.2v/wになるように溶解し、DMF1.8v/wに溶解させたH−Pro−NHEt・HCl(0.80g,4.5mmol,1.3equiv)を加えた。DMT−MM・2H2O(1.84g,6.05mmol,1.75equiv)、DIPEA (2.41ml,13.83mmol,4.0equiv)を加えた。得られた混合液を氷冷しながら60分間攪拌した。得られた反応液にシクロヘキサン(18v/w)、0.01N塩酸(18v/w)を加え、洗浄、分液し、水層を廃棄した。得られた有機層を減圧下で溶媒留去した。残渣にジイソプロピルエーテルを加えて析出した沈殿物をろ過し、さらにジイソプロピルエーテルで懸洗を行い、得られた固形物を減圧乾燥し、化合物6(5.33g, 80.51%)を得た。
【0145】
化合物7(Pyr−His−Trp−Ser−Tyr−dLeu−Leu−Arg−Pro−NHEt:配列番号1)の合成
【0146】
【化83】
化合物6(5.33g,2.78mmol)をTFA/TIS/水(90/1/9)の混合液92mlに溶解し、DTT(3.70g,40mg/ml)を加え、3時間室温で撹拌した。反応液を、セライ卜を用いてろ過し、ろ過残渣をメタノールで洗浄、ろ過し、得られたろ液にトルエン(混合液量)を加え、減圧下で溶媒留去した。残渣に冷MTBEを加えて析出した沈殿物をろ過し、さらにMTBE懸洗、ヘキサン懸洗を行い、得られた固形物を減圧乾燥し、化合物7(4.21g, quant,HPLC純度76.28%)を得た。
【0147】
実施例2:Kb−NHEt担体を用いた、H−Pyr−His−Trp−Ser−Tyr−dLeu−Leu−Arg−Pro−NHEt(配列番号1)の合成
化合物8の合成
【0148】
【化84】
N−エチル−2,4−ジドコシルオキシベンジルアミン(「EtNKb」と表記する)(12.5g,15.23mmol)をTHF/DMF(9/1)に18v/wとなるように溶解し、Fmoc−Pro−OH/H2O(7.04g,19.80mmol,1.30equiv)、COMU(8.15g,19.04mmol,1.25equiv)、及びDIPEA(8.62ml,49.49mmol,3.30equiv)を加えて室温で15分間攪拌した。1−メチルピペラジン(0.45equiv)を加えて室温で10分間撹拌した。1−メチルピペラジン(20.0equiv)及びDBU(7.0equiv)を加えて室温で10分間攪拌した。氷冷しながら6N塩酸(50.70equiv)を加えた反応液にシクロヘキサン(4.5v/w)、0.1N塩酸(18v/w)を加え、洗浄、分液し、水層を廃棄した。さらに0.5N炭酸水素ナトリウム水溶液(18v/w)を加え、洗浄、分液し、水層を廃棄し、化合物8を溶液で得た。
【0149】
化合物9(H−His(Trt)−Trp(Boc)−Ser(tBu)−Tyr(tBu)−dLeu−Leu−Arg(Pbf)−Pro−EtNKb:配列番号8)の合成
【0150】
【化85】
化合物8に対し、以下のアミノ酸を、アミンスカベンジャー(水溶性アミン)を用いた1pot縮合脱保護法を繰り返す方法で導入し、化合物9を溶液で得た。
1残基目:Fmoc−Arg(Pbf)−OH
2残基目:Fmoc−Leu−OH
3残基目:Fmoc−dLeu−OH
4残基目:Fmoc−Tyr(tBu)−OH
5残基目:Fmoc−Ser(tBu)−OH
6残基目:Fmoc−Trp(Boc)−OH
7残基目:Fmoc−His(Trt)−OH
【0151】
化合物10(Pyr−His(Trt)−Trp(Boc)−Ser(tBu)−Tyr(tBu)−dLeu−Leu−Arg(Pbf)−Pro−EtNKb:配列番号9)の合成
【0152】
【化86】
得られた化合物9溶液にH−Pyr−OH(2.95g,22.84mmol,1.50equiv)、COMU(9.46g,22.08mmol,1.45equiv)、DIPEA(6.50ml,37.31mmol,2.50equiv)を加えた。得られた混合液を室温で15分間攪拌した。得られた反応液に1−メチルピペラジン(0.65equiv)を加えて室温で10分間撹拌した。氷冷しながら6N塩酸(3.10equiv)を加え中和し、次いで0.1N塩酸(18v/w)を加え、洗浄、分液し、水層を廃棄した。さらに0.5N炭酸水素ナトリウム水溶液(18v/w)を加え、洗浄、分液し、水層を廃棄した。得られた有機層を減圧下で溶媒留去した。残渣に冷アセ卜ニ卜リルを加えて析出した沈殿物をろ過し、さらにアセ卜ニ卜リル懸洗を行い、得られた固形物を減圧乾燥し、化合物10(36.93g, 90.83%)を得た。
【0153】
化合物7(Pyr−His−Trp−Ser−Tyr−dLeu−Leu−Arg−Pro−NHEt:配列番号1)の合成
【0154】
【化87】
化合物10(5.00g)をTFA/TIS/水(90/1/9)の混合液93.6mlに溶解し、DTT(1.87g,20mg/ml)を加え、3時間室温で撹拌した。反応液をセライ卜でろ過し、ろ過残渣をメタノールで洗浄、ろ過し、得られたろ液の濃縮残渣に冷MTBEを加えて析出した沈殿物をろ過し、さらにMTBE懸洗を2回、ヘキサン懸洗を行い、得られた固形物を減圧乾燥し、化合物7(2.45g,93.0%,HPLC純度95.18%)を得た。
【0155】
比較例1:H−Pyr−His−Trp−Ser−Tyr−dLeu−Leu−Arg−Pro−NHEt(配列番号1)の合成
非特許文献1(Phermaceutical Chemistry Journal Vol48 No.3 June 2014)に記載の方法に従って、上記配列のペプチドを合成できる。
合成スキームを以下に示す。
【0156】
【化88】
【0157】
以下に、非特許文献1にて報告されている具体的方法を記載する。
化合物IV(H−Arg(ωNO2)−Pro−NHEt)の合成
Boc−Arg(ωNO2)−OH(298g,1.67mol)、HCl・H−Pro−NHEt(260g,1.7mol)、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール・一水和物(260g,1.7mol)とN−メチルモルホリン(213g,2.11mol)をTHF(3L)に撹拌しながら溶解した。反応液を−5℃に冷却し、ジシクロヘキシルカルボジイミド(400g,1.94mol)を添加した。反応を室温にて16時間実施し、TLCにて反応終了を確認した。析出物を濾別し、THF(300ml)にて2回洗浄した。THF溶液を合一し、濃縮乾固した。残渣にクロロホルム(4.5L)を加え、5%の炭酸ナトリウムを含む飽和食塩水(2L)で2回洗浄し、5%のクエン酸を含む飽和食塩水(2L)で1回洗浄した。有機層を硫酸ナトリウムで脱水した後、濃縮乾固した。得られた残渣を1,4−ジオキサン(1.5L)に溶解し、10℃に冷却した。12%HCl−1,4−ジオキサン溶液(5L)を撹拌しながら添加した。15℃にて30分間撹拌した後、室温にて1.5時間撹拌した。析出物をろ過した後、ジエチルエーテル(1L)で2回、アセトン(1L)で2回洗浄した後、減圧乾燥した。白色粉体として440g(収率63.6%)にて化合物IVを得た。
【0158】
化合物VI(Boc−D−Leu−Leu−Arg(ωNO2)−Pro−NHEt:配列番号10)の合成
化合物IV(225g,0.54mol)とBoc−D−Leu−Leu−OH(190g,0.55mol)、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール・一水和物(113g,0.74mol)とN−メチルモルホリン(169g,1.67mol)をDMF(1.5L)に撹拌しながら溶解した。反応液を0−3℃に冷却し、ジシクロヘキシルカルボジイミド(134g,0.65mol)を添加した。反応を0℃にて1時間、5℃にて215時間実施し、TLCにて反応終了を確認した。反応液を水(1.5L)に希釈した。析出物を濾別し、酢酸エチル(1L)にて洗浄した。ろ過溶液に酢酸エチル(2L)と炭酸ナトリウム飽和溶液(3L)を添加した。分液した後に有機層を炭酸ナトリウム飽和溶液(1L)、5%の炭酸ナトリウム水溶液(1L)、5%のクエン酸水溶液(1L)、水(1L)にて洗浄した。有機層にジエチルエーテル(3L)を添加し、デカンテーションをし、ジエチルエーテル(1L)を加え、5℃にて12時間静置した。析出物をろ過した後、減圧乾燥した。白色粉体として283g(収率78.2%)にて化合物VIを得た。
【0159】
化合物VII(H−D−Leu−Leu−Arg(ωNO2)−Pro−NHEt:配列番号11)の合成
化合物VI(215g,0.32mol)を0℃にて撹拌しながら12%HCl−1,4−ジオキサン溶液(600mL)に添加した。反応液を30分以上かけて室温まで昇温した。溶液層をデカンテーションにより除去した後、12%HCl−1,4−ジオキサン溶液(300mL)を加え、30分間撹拌した。溶液層を除き、残渣にジエチルエーテルを加え、デカンテーションすることによる結晶化を3回繰り返し、アセトン(800ml)加え、デカンテーションを行い、再度同量のアセトンを加えた。析出物をろ取し、ジエチルエーテル(400ml)で2回洗浄し、減圧乾燥した。白色微細結晶として化合物VII68g(収率81.4%,HPLC純度97.7%)を得た。
【0160】
化合物IX(Z−Ser−Tyr−D−Leu−Leu−Arg(ωNO2)−Pro−NHEt:配列番号12)の合成
化合物VII(168g,0.26mol)とZ−Ser−Tyr−OH(105g,0.26mol)。1−ヒドロキシベンゾトリアゾール・一水和物(53g,0.35mol)とN−メチルモルホリン(78g,0.77mol)をDMF(0.8L)に撹拌しながら逐次溶解した。完溶確認後に反応液を0℃に冷却し、ジシクロヘキシルカルボジイミド(65g,0.35mol)を添加した。反応を0℃にて1時間、5℃にて24時間実施し、TLCにて反応終了を確認した。反応液を水(3L)と酢酸エチル(3L)に添加し、炭酸水素ナトリウムにてpH8に調整した。析出物を濾別し、有機層を単離した後、有機層を炭酸ナトリウム飽和溶液(1.5L)で2回、5%のクエン酸水溶液(1L)、水(1L)にて洗浄した。有機層を0.7Lになるまで濃縮し、ジエチルエーテル(3L)を添加した。析出物をろ取した後、ジエチルエーテル(300ml)で2回洗浄し、減圧乾燥した。白色粉体として221g(収率89%、HPLC純度97.9%)にて化合物IXを得た。
【0161】
化合物X(H−Ser−Tyr−D−Leu−Leu−Arg−Pro−NHEt:配列番号13)の合成
化合IX(160g,0.17mol)を氷酢酸(1.2L)に溶解した。20%抱水水酸化パラジウム(1.5g)を加え撹拌を行い、水素化を反応が終了するまで45−48時間実施した。ろ過にて水素化触媒を除去し、減圧濃縮をした。残渣に酢酸エチル(2L)を加え懸洗し、溶媒を除去した。残渣にメタノール(800ml)と12%HCl−1,4−ジオキサン溶液(200mL)を添加した。溶液を濃縮し、アセトン(1L)を添加した。析出物をろ取し、アセトン(300ml)で2回洗浄し、減圧乾燥した。白色無定形固体として化合物Xを105g(収率75%、HPLC純度89.1%)にて得た。
【0162】
最終化合物(リュープロレリン:Pyr−His−Trp−Ser−Tyr−D−Leu−Leu−Arg−Pro−NHEt:配列番号1)の合成
化合物X(85g,0.1mol)とPyr−His−Trp−OH(20g,0.13mol)、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール・一水和物(20g,0.13mol)とN−メチルモルホリン(20g,0.2mol)をDMF(350mL)に撹拌しながら逐次室温にて溶解した。完溶確認後にジシクロヘキシルカルボジイミド(20g,0.1mol)をDMF(100ml)に溶解した溶液を5時間以上かけて滴下した。反応をTLCにて反応終了を確認するまで2時間行い、水(100ml)を添加した。反応液を30分撹拌した後、析出物を濾別し、ろ液を減圧濃縮した。残渣に固化するまで酢酸エチル(1L)を3回処理した。析出物をろ取した後、酢酸エチル(300ml)で2回洗浄し、減圧乾燥した。灰色粉体として129g(収率76.3%、HPLC純度63.3%)にて最終化合物を得た。
【0163】
比較例である非特許文献1で報告されている従来の合成方法では、担体保護ペプチドを固形化し、ろ過、乾燥をいう工程が必要となり、操作が煩雑な上、多量の有機溶媒を必要とし、更には、乾燥工程のために工程時間が長くなる。
【0164】
2,4−ジ(11’−トリイソプロピルシリルオキシウンデシルオキシ)ベンジルアルコール(以下2,4−ジ(11’−トリイソプロピルシリルオキシウンデシルオキシ)ベンジル基をKS1と呼ぶことがある)を用いた化合物13(Pyr−His(Trt)−Trp(Boc)−Ser(tBu)−Tyr(tBu)−dLeu−Leu−Arg(Pbf)−O−KS1:配列番号14)の合成
【0165】
実施例3:化合物11(H−Arg(Pbf)−O−KS1)の合成
【0166】
【化89】
2,4−ジ(11’−トリイソプロピルシリルオキシウンデシルオキシベンジルアルコール(1.00g, 1.26mmol)を用いて、特許第6116782号実施例(1−c)と同様にして(但し、Fmoc−Gly−OHの代わりに、Fmoc−Arg(Pbf)−OHを用いて)、化合物11溶液を得た。得られた溶液を減圧濃縮、乾固し、化合物11(1.515g, 1.26mmol, Quant)を得た。
【0167】
実施例4:化合物12(H−His(Trt)−Trp(Boc)−Ser(tBu)−Tyr(tBu)−dLeu−Leu−Arg(Pbf)−O−KS1:配列番号15)の合成
【0168】
【化90】
実施例3で得られた化合物11に対し、以下のアミノ酸を、アミンスカベンジャー(水溶性アミン)を用いた1pot縮合脱保護法を繰り返す方法で導入し、化合物12を溶液で得た。
1残基目:Fmoc−Leu−OH
2残基目:Fmoc−dLeu−OH
3残基目:Fmoc−Tyr(tBu)−OH
4残基目:Fmoc−Ser(tBu)−OH
5残基目:Fmoc−Trp(Boc)−OH
6残基目:Fmoc−His(Trt)−OH
【0169】
実施例5:化合物13(Pyr−His(Trt)−Trp(Boc)−Ser(tBu)−Tyr(tBu)−dLeu−Leu−Arg(Pbf)−O−KS1:配列番号14)の合成
【0170】
【化91】
得られた化合物12溶液にDMFを理論収量に対し1.8v/wになるように加えた。H−Pyr−OH(0.213g,1.64mmol)、COMU(0.675g,1.58mmol)、DIPEA(0.505ml,2.90mmol)を加えた。得られた混合液を室温で30分間攪拌した。得られた反応液に1−メチルピペラジン(0.45equiv)を加えて室温で5分間撹拌した。6N塩酸を加え、さらに0.1N塩酸を理論収量の18v/wになるように加え、洗浄、分液し、水層を廃棄した。得られた有機層に0.1N塩酸と同量の0.5N重曹水溶液を加え、洗浄、分液し、水層を廃棄した。得られた有機層を減圧下で溶媒留去し、化合物13(1.09g, 33.7%)を得た。
【0171】
2,7−ジドコシルオキシ−9−(3−フルオロフェニル)−9−ブロモフルオレン(以下2,7−ジドコシルオキシ−9−(3−フルオロフェニル)−9−フルオレニル基をFlと呼ぶことがある)を用いた化合物17(Pyr−His(Trt)−Trp(Boc)−Ser(tBu)−Tyr(tBu)−dLeu−Leu−Arg(Pbf)−O−Fl:配列番号16)の合成
【0172】
実施例6:化合物14(Fmoc−Arg(Pbf)−Fl)の合成
【0173】
【化92】
2,7−ジドコシルオキシ−9−(3−フルオロフェニル)−9−ブロモフルオレン(0.90g, 0.91mmol)を用いて、特許第6092513号実施例6と同様にして(但しZ−Ala−OHの代わりに、Fmoc−Arg(Pbf)−OHを用いて)、化合物14(1.03g, 0.663mmol, 73.0%)を得た。
【0174】
実施例7:化合物15(H−Arg(Pbf)−O−Fl)の合成
【0175】
【化93】
化合物14(0.900g, 0.578mmol)に対し、ピペリジンの代わりに1−メチルピペラジンを用いて、脱Fmoc一般合成法を行い、塩酸水、炭酸水素ナトリウム水溶液で洗浄して化合物15の溶液を得た。
【0176】
実施例8:化合物16(H−His(Trt)−Trp(Boc)−Ser(tBu)−Tyr(tBu)−dLeu−Leu−Arg(Pbf)−O−Fl:配列番号17)の合成
【0177】
【化94】
化合物15対し、以下のアミノ酸を、アミンスカベンジャー(水溶性アミン)を用いた1pot縮合脱保護法を繰り返す方法で導入し、化合物16を溶液で得た。
1残基目:Fmoc−Leu−OH
2残基目:Fmoc−dLeu−OH
3残基目:Fmoc−Tyr(tBu)−OH
4残基目:Fmoc−Ser(tBu)−OH
5残基目:Fmoc−Trp(Boc)−OH
6残基目:Fmoc−His(Trt)−OH
【0178】
実施例9:化合物17(Pyr−His(Trt)−Trp(Boc)−Ser(tBu)−Tyr(tBu)−dLeu−Leu−Arg(Pbf)−O−Fl:配列番号16)の合成
【0179】
【化95】
得られた化合物16溶液にDMFを理論収量に対し1.8v/wになるように加えた。H−Pyr−OH(0.097g,0.75mmol)、COMU(0.310g,0.723mmol)、DIPEA(0.232ml,1.33mmol)を加えた。得られた混合液を室温で30分間攪拌した。得られた反応液に1−メチルピペラジン(0.45equiv)を加えて室温で5分間撹拌した。得られた有機層を減圧下で溶媒留去した。残渣にアセ卜ニ卜リルを加えて析出した沈殿物をろ過し、さらにアセ卜ニ卜リル懸洗を行い、得られた固形物を減圧乾燥し、化合物17(0.999g, 0.37mmol, 64.6%)を得た。
【0180】
2,4−ジ(2’,3’−ジヒドロフィチルオキシ)ベンジルアルコール(以下2,4−ジ(2’,3’−ジヒドロフィチルオキシ)ベンジル基をKJ1と呼ぶことがある)を用いた化合物21(Pyr−His(Trt)−Trp(Boc)−Ser(tBu)−Tyr(tBu)−dLeu−Leu−Arg(Pbf)−O−KJ1:配列番号18)の合成
【0181】
実施例10:化合物18(Fmoc−Arg(Pbf)−O−KJ1)の合成
【0182】
【化96】
2,4−ジ(11’−トリイソプロピルシリルオキシウンデシルオキシベンジルアルコール(1.76g, 2.22mmol)を用いて特許第5929756号実施例23と同様に、ただし、Fmoc−Ser(tBu)−OHの代わりにFmoc−Arg(Pbf)−OHを用いて化合物18溶液を得た。得られた溶液を濃縮し、化合物18(1.65g, 2.08mmol, 93.7%)を得た。
【0183】
実施例11:化合物19(H−Arg(Pbf)−O−KJ1)の合成
【0184】
【化97】
化合物BDに対し、ピペリジンの代わりに1−メチルピペラジンを用いて、脱Fmoc一般合成法を行い、塩酸水、炭酸水素ナトリウム水溶液で洗浄して化合物19の溶液を得た。
【0185】
実施例12:化合物20(H−His(Trt)−Trp(Boc)−Ser(tBu)−Tyr(tBu)−dLeu−Leu−Arg(Pbf)−O−KJ1:配列番号19)の合成
【0186】
【化98】
化合物19対し、以下のアミノ酸を、アミンスカベンジャー(水溶性アミン)を用いた1pot縮合脱保護法を繰り返す方法で導入し、化合物20を溶液で得た。
1残基目:Fmoc−Leu−OH
2残基目:Fmoc−dLeu−OH
3残基目:Fmoc−Tyr(tBu)−OH
4残基目:Fmoc−Ser(tBu)−OH
5残基目:Fmoc−Trp(Boc)−OH
6残基目:Fmoc−His(Trt)−OH
【0187】
実施例13:化合物21(Pyr−His(Trt)−Trp(Boc)−Ser(tBu)−Tyr(tBu)−dLeu−Leu−Arg(Pbf)−O−KJ1:配列番号18)の合成
【0188】
【化99】
得られた化合物20溶液にDMFを理論収量に対し1.8v/wになるように加えた。H−Pyr−OH(3.30g,25.55mmol)、COMU(7.0g,16.26mmol,1.25equiv)、DIPEA(5.10ml,29.28mmol,2.25equiv)を加えた。得られた混合液を室温で30分間攪拌した。得られた反応液に1−メチルピペラジン(0.45equiv)を加えて室温で5分間撹拌した。0.01N塩酸(18v/w)を加え、洗浄、分液し、水層を廃棄した。得られた有機層を減圧下で溶媒留去し、化合物21(28.78g, 87.50%)を得た。
【0189】
N−エチル−(Bis(4−ドコシルオキシフェニル))メチルアミン(以下N−エチル−(Bis(4−ドコシルオキシフェニル))メチルアミノ基をNEt−KJ3と称することもある))を用いた化合物7(Pyr−His−Trp−Ser−Tyr−dLeu−Leu−Arg−Pro−NHEt:配列番号1)の合成
【0190】
実施例14:化合物22(Fmoc−Arg(Pbf)−NEt−KJ3)の合成
【0191】
【化100】
Fmoc−Pro−OH(0.354g, 1.05mmol)をトルエン14mLに溶解し、DMF(10.8μL, 0.14mmol)、次いで塩化チオニル(91μL, 1.26mmol)を加え、40℃に加温し、2時間撹拌した。さらに塩化チオニル(45.5μL, 0.63mmol)を加え1時間撹拌した。得られた反応液を減圧濃縮した。残渣にトルエン7mLを加え減圧濃縮することを2回繰り返した。得られた残渣を室温に冷却後、ジクロロメタン14mLを加え溶解させ、DIPEA(244μL, 1.4mmol)を加え溶解させた。得られた混合液にH−NEt−KJ3(0.601g, 0.7mmol)を加え、1時間撹拌した。得られた反応液を減圧濃縮し、アセトニトリル20mLを加え、得られたスラリー液を濾過し、得られたろ液を濃縮乾固し、粗化合物22を得た。得られた粗化合物22をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(移動相ジクロロメタン)に供し、目的物分画を集め濃縮し、化合物22(0.58g, 0.53mmol, 75.1%)を得た。
【0192】
実施例15:化合物23(H−Pro−NEt−KJ3)の合成
【0193】
【化101】
化合物22(0.500g, 0.424mmol)に対し、ピペリジンの代わりに1−メチルピペラジンを用いて、脱Fmoc一般合成法を行い、塩酸水、炭酸水素ナトリウム水溶液で洗浄して化合物23の溶液を得た。
【0194】
実施例16:化合物24(H−His(Trt)−Trp(Boc)−Ser(tBu)−Tyr(tBu)−dLeu−Leu−Arg(Pbf)−Pro−NEt−KJ3:配列番号20)の合成
【0195】
【化102】
化合物23対し、以下のアミノ酸を、アミンスカベンジャー(水溶性アミン)を用いた1pot縮合脱保護法を繰り返す方法で導入し、化合物24を溶液で得た。
1残基目:Fmoc−Arg(Pbf)−OH
2残基目:Fmoc−Leu−OH
3残基目:Fmoc−dLeu−OH
4残基目:Fmoc−Tyr(tBu)−OH
5残基目:Fmoc−Ser(tBu)−OH
6残基目:Fmoc−Trp(Boc)−OH
7残基目:Fmoc−His(Trt)−OH
【0196】
実施例17:化合物25(Pyr−His(Trt)−Trp(Boc)−Ser(tBu)−Tyr(tBu)−dLeu−Leu−Arg(Pbf)−Pro−NEt−KJ3:配列番号21)の合成
【0197】
【化103】
得られた化合物24溶液にDMFを理論収量に対し1.8v/wになるように加えた。H−Pyr−OH(53mg,0.41mmol, 1.45eq)、COMU(171mg,0.40mmol,1.40equiv)、DIPEA(0.12ml,0.69mmol,2.5equiv)を加えた。得られた混合液を室温で30分間攪拌した。得られた反応液に1−メチルピペラジン(0.6equiv)を加えて室温で5分間撹拌した。0.1N塩酸(18v/w)を加え、洗浄、分液し、水層を廃棄した。得られた有機層を減圧下で溶媒留去した。残渣にアセ卜ニ卜リルを加えて析出した沈殿物をろ過し、さらにアセ卜ニ卜リル懸洗を行い、得られた固形物を減圧乾燥し、化合物25(0.998g, 64.6%,HPLC純度86.10%)を得た。
【0198】
実施例18:化合物7(Pyr−His−Trp−Ser−Tyr−dLeu−Leu−Arg−Pro−NHEt:配列番号7)の合成
【0199】
【化104】
化合物25(0.10g,0.037mmol)をTFA/TIS/水(90/1/9)の混合液1.23mlに溶解し、DTT(25mg,20mg/ml)を加え、3時間室温で撹拌した。反応液を、セライ卜を用いてろ過し、ろ過残渣をメタノールで洗浄、ろ過し、得られたろ液にトルエン(混合液量)を加え、減圧下で溶媒留去した。残渣に冷MTBEを加えて析出した沈殿物をろ過し、さらにMTBE懸洗、ヘキサン懸洗を行い、得られた固形物を減圧乾燥し、化合物7(19mg, 47.5%,HPLC純度94.93%)を得た。
【0200】
上記の詳細な記載は、本発明の目的及び対象を単に説明するものであり、添付の特許請求の範囲を限定するものではない。添付の特許請求の範囲から離れることなしに、記載された実施態様に対しての、種々の変更及び置換は、本明細書に記載された教示より当業者にとって明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0201】
本発明の製造方法は、簡便な手段で、ペプチド伸長工程を短時間で行うことができ、かつ高純度の粗体が得られるので、従来技術よりも経済性の高いリュープロレリンの製造技術を提供することができる。リュープロレリンは、医薬として有用である。
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]