特許第6703671号(P6703671)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6703671有機物分解処理用イオン生成装置及び有機物分解処理装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6703671
(24)【登録日】2020年5月13日
(45)【発行日】2020年6月3日
(54)【発明の名称】有機物分解処理用イオン生成装置及び有機物分解処理装置
(51)【国際特許分類】
   B09B 3/00 20060101AFI20200525BHJP
   H01T 19/04 20060101ALI20200525BHJP
   H01T 23/00 20060101ALI20200525BHJP
【FI】
   B09B3/00 304Z
   B09B3/00ZAB
   H01T19/04
   H01T23/00
【請求項の数】4
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2018-12755(P2018-12755)
(22)【出願日】2018年1月29日
(65)【公開番号】特開2019-129902(P2019-129902A)
(43)【公開日】2019年8月8日
【審査請求日】2020年1月21日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】514134941
【氏名又は名称】グレンカル・テクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002675
【氏名又は名称】特許業務法人ドライト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中石 雅仁
(72)【発明者】
【氏名】入江 紘司
【審査官】 杉山 健一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−167318(JP,A)
【文献】 特開2016−009674(JP,A)
【文献】 特開2004−066196(JP,A)
【文献】 特開2011−230082(JP,A)
【文献】 特開2017−189413(JP,A)
【文献】 特開2007−000864(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B09B 3/00
H01T 19/04
H01T 23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
格納槽内に格納された有機物を分解処理するためのイオンを生成する有機物分解処理用イオン生成装置であって、
対向配置された針電極及び平板電極と、
正極性の直流電圧を前記針電極に印加する直流電源部と、
を備え、
前記直流電源部は
前記直流電圧の電圧値を5〜30kVに設定し、かつ、電界強度を0.25〜1.5kV/mmとし、気中で前記針電極及び前記平板電極の間に正極性コロナ放電を発生させる電圧制御部を有
前記正極性コロナ放電を発生させることで、オキソニウムイオンを生成する、有機物分解処理用イオン生成装置。
【請求項2】
前記針電極及び前記平板電極を支持する筒状の電極支持部材を備え、
前記電極支持部材は、筒状内壁部で囲われた中空空間で前記針電極及び前記平板電極を対向配置させて、前記中空空間内で前記正極性コロナ放電を発生させる、請求項1に記載の有機物分解処理用イオン生成装置。
【請求項3】
前記電極支持部材が内部に設置された筐体を備え、
前記筐体には、送風機から排出された気体を導入する導入口と、前記格納槽内に前記気体を排出する排出口と、が設けられており、
前記電極支持部材は、前記中空空間の中心軸上に前記排出口が位置するように配置され、
前記筐体は、前記導入口から導入された前記気体を、前記中空空間を通過させ直線的に前記排出口に向けて送出する、請求項2に記載の有機物分解処理用イオン生成装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の有機物分解処理用イオン生成装置が、前記格納槽に設けられた、有機物分解処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機物分解処理用イオン生成装置及び有機物分解処理装置に関し、例えば野菜くず等の生ごみを分解処理する有機物分解処理装置に適用して好適なものである。
【背景技術】
【0002】
従来、生ごみ等の有機物を分解する際に活性酸素種を用いる、生ごみ処理装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1には、例えば、活性酸素種として、スーパーオキシド(O・−)や、ヒドロキシラジカル(・OH)、過酸化水素(H)、一重化酸素()、オゾン(O)等を使用して、格納槽内に投入された生ごみを分解処理することが開示されている。
【0003】
このような、活性酸素種を使用した生ごみ処理装置は、バクテリアを使用する生ごみ処理装置に比べて、分解処理時にメタンガスが発生し難く、腐敗臭を抑制できる等の利点を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017−189413号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、このような生ごみ処理装置に投入される生ごみの中には、紙材等の生ごみ以外の他の種々の有機物が混入している恐れもあるため、分別等の手間を考慮すると、従来よりも分解処理能力が高い有機物分解処理装置の開発が望まれる。また、分解処理に要する時間の更なる短縮化等の観点からも、分解処理能力の向上が望まれている。
【0006】
そこで、本発明は、有機物の分解処理能力を、従来よりも一段と向上させることができる有機物分解処理用イオン生成装置及び有機物分解処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る有機物分解処理用イオン生成装置は、格納槽内に格納された有機物を分解処理するためのイオンを生成する有機物分解処理用イオン生成装置であって、対向配置された針電極及び平板電極と、正極性の直流電圧を前記針電極に印加する直流電源部と、を備え、前記直流電源部には、前記直流電圧を所定の電圧値に設定し、大気圧中で前記針電極及び前記平板電極の間に正極性コロナ放電を発生させる電圧制御部を有する、ものである。
【0008】
また、本発明に係る有機物分解処理装置は、上述した有機物分解処理用イオン生成装置が、前記格納槽に設けられたものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、有機物の分解処理能力が高いオキソニウムイオンを生成できることから、当該オキソニウムイオンを使用することで、有機物の分解処理能力を、従来よりも一段と向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明による有機物分解処理装置の全体構成を示した概略図である。
図2図2Aは、電極構造体の構成を示す概略図であり、図2Bは、電極構造体の正面構成を示す概略図である。
図3】電子親和力の説明に供するグラフである。
図4】蒸発速度vと気化熱Lとの関係を説明する際に用いるグラフである。
図5】オキソニウムイオンの発生位置から距離x離れた位置でのオキソニウムイオンの個数密度を示したグラフである。
図6】オキソニウムイオンを照射した場合と、マイナスイオン及びオゾンを照射した場合と、マイナスイオンのみを照射した場合と、イオン等を照射しなかった場合とについて、それぞれ含有高分子吸収体の蒸発質量を測定した測定結果を示すグラフである。
図7】オキソニウムイオンを照射した場合と、マイナスイオン及びオゾンを照射した場合と、マイナスイオンのみを照射した場合と、イオン等を照射しなかった場合とについて、それぞれ含有高分子吸収体の残存質量を測定した測定結果を示すグラフである。
図8】含有高分子吸収体から50cm離れた位置からオキソニウムイオンを照射した場合と、イオン等を照射しなかった場合とについて、それぞれ含有高分子吸収体の蒸発質量を測定した測定結果を示すグラフである。
図9】含有高分子吸収体から50cm離れた位置からオキソニウムイオンを照射した場合と、イオン等を照射しなかった場合とについて、それぞれ含有高分子吸収体の残存質量を測定した測定結果を示すグラフである。
図10】オキソニウムイオンを照射した場合と、イオン等を照射しなかった場合とについて、それぞれ水の蒸発質量を測定した測定結果を示すグラフである。
図11】オキソニウムイオンを照射した場合と、イオン等を照射しなかった場合とについて、それぞれ水の残存質量を測定した測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0012】
<本発明の有機物分解処理装置の構成>
図1は、本発明による有機物分解処理装置1の全体構成を示す概略図である。有機物分解処理装置1は、野菜くず等の生ごみの他、高分子体や紙材等の様々な有機物を、オキソニウムイオンを用いて分解処理できる構成を有する。オキソニウムイオンは、例えばヒドロニウムイオン、オキサトリキナン、オキサトリキナセン等であり、プラスのイオンである。この場合、有機物分解処理装置1は、有機物が投入される格納槽2と、送風機3と、有機物分解処理用イオン生成装置4と、を備えている。
【0013】
分解処理対象となる有機物は、格納槽2の投入口2aから内部に投入されて、格納槽2内に格納される。分解処理後の有機物は、格納槽2の排出口2bから外部に排出することができる。この場合、有機物分解処理装置1は、図示しない加熱器及び攪拌機を内部に備えており、有機物分解処理用イオン生成装置4で生成されたオキソニウムイオンを格納槽2内の有機物に照射しつつ、有機物を加熱及び攪拌することで有機物の水分を蒸発させて分解処理する。
【0014】
送風機3及び有機物分解処理用イオン生成装置4は格納槽2の所定位置にそれぞれ設置されており、これら送風機3及び有機物分解処理用イオン生成装置4は配管5により接続されている。送風機3は、外気を吸引し、吸引した気体を、配管5を介して有機物分解処理用イオン生成装置4に送出する。送風機3から有機物分解処理用イオン生成装置4内に送出された気体は、有機物分解処理用イオン生成装置4の内部を通過して格納槽2内に送出される。
【0015】
有機物分解処理用イオン生成装置4は、後述する電極構造体が内部に設置された筐体8と、直流電源部9と、を備えている。筐体8には、配管5に接続され、かつ送風機3から排出された気体を筐体8内に導入する導入口(図示せず)が設けられている。また、筐体8には、格納槽2と連通し、かつ送風機3からの気体を格納槽2内に排出する排出口(図示せず)が設けられている。
【0016】
筐体8は、内部に密封空間を形成しており、この密閉空間に送風機3からの気体が導入されることで、導入口から電極構造体(後述する)を経由して排出口に向けて気体が流れる気流を形成する。これにより、筐体8は、内部で生成されているオキソニウムイオンを排出口から格納槽2内に送出させる。
【0017】
直流電源部9は、正極性の直流電圧を生成し、これを筐体8内の電極構造体に印加する。直流電源部9は、直流電圧の電圧値を制御可能な電圧制御部10を有しており、電圧制御部10によって直流電圧を所定の電圧値に設定する。これにより、電圧制御部10は、電極構造体にて正極性コロナ放電を発生させ、電極構造体でオキソニウムイオンを生成させることができる。この際、電圧制御部10は、有機物の分解処理能力が高いオキソニウムイオンを生成するために、直流電圧の電圧値を最適な値に設定している。
【0018】
<電極構造体について>
次に、有機物分解処理用イオン生成装置4の筐体8内に設置される電極構造体について以下説明する。図2Aに示すように、電極構造体11は、針電極12と平板電極13と電極支持部材14とを備えている。電極支持部材14は、例えばポリ塩化ビニール等の絶縁材料からなり、円筒状に形成されており、針電極12及び平板電極13を支持している。
【0019】
なお、本実施形態では、筒状でなる電極支持部材として、円筒状でなる電極支持部材14を適用した場合について述べたが、本発明はこれに限らず、例えば四辺や多角等の角筒状でなる電極支持部材を適用してもよい。
【0020】
電極支持部材14は、筒状内壁部14aに囲まれた中空空間ER1内で針電極12及び平板電極13が対向配置されるように支持している。電極支持部材14は、筐体8(図1)の、図示しない導入口及び排出口の間に配置されている。これにより、送風機3からの気体が導入口から筐体8内に導入されると、中空空間ER1内の中心軸Xに沿って一方向(例えば、中心軸Xの矢印方向)に流れる気流が、中空空間ER1内に形成される。
【0021】
より具体的には、中空空間ER1の中心軸X上に、筐体8の導入口及び排出口が配置されるように、電極支持部材14が筐体8内に配置されることが望ましい。特に、電極支持部材14の中空空間ER1における開口端部を筐体8の排出口に向けることで、中空空間ER1から排出口を直線的に結ぶ気流を形成できる。これにより、中空空間ER1内で生成されたオキソニウムイオン(後述する)が、筐体8の内壁等に当たることを抑制でき、オキソニウムイオンを排出口に向けて直接導くことができる。
【0022】
電極支持部材14は、図2Bに示すように、例えば、筒状内壁部14a間の内部直径Yは、25±5mm、外部直径Yは、32±5mmに選定されている。
【0023】
針電極12と平板電極13は、図2Bに示すように、中空空間ER1の中心軸Xに対し直交する1つの直交線Y上に対向配置されており、針電極12の針状先端部12aの直下に平板電極13の平板部13bが配置されている。針電極12は、例えばタングステン等の金属材料により形成され、直径が0.1〜2mmに選定されている。針電極12は、電極支持部材14の筒状内壁部14aを貫通するように設けられており、針状先端部12aが中空空間ER1内に露出している。
【0024】
平板電極13は、例えば、ステンレス等の金属材料により形成されており、棒状に形成された支持部13aと、支持部13aの端部に形成された平板部13bとを備えている。平板部13bは、直径5〜20mm、厚さ1.5±1mmの円盤状に形成されている。支持部13aは、電極支持部材14の筒状内壁部14aを貫通するように設けられており、平板部13bを中空空間ER1内に露出させる。
【0025】
なお、本実施形態においては、針電極12と、平板電極13の支持部13aとを、筒状内壁部14aを貫通するように設けた場合について述べたが、本発明はこれに限らない。例えば、針電極12の根本部先端を筒状内壁部14aの表面に固定し、針電極12を筒状内壁部14aに対して非貫通で設けるようにしても良い。また、平板電極13についても、支持部13a又は平板部13bを筒状内壁部14aの表面に固定し、筒状内壁部14aに対して非貫通で設けるようにしても良い。
【0026】
針電極12の針状先端部12aと、この針状先端部12aに対向した平板電極13の平板部13bとの電極間距離Yは、例えば20mmに選定されている。なお、電極間距離Yは、20mmには限らず、後述する正極性の直流電圧の電圧値(kV)と、電界強度(kV/mm)とで基本的に規定される。
【0027】
ここで、図2Aに示すように、電極支持部材14の外部に露出した針電極12の根元部は、電圧制御部10に接続されている。また、この実施形態の場合、平板電極13はアースに接続されている。なお、平板電極13についてはアースに接続せずに、電圧制御部10に接続し、負極性の直流電圧が印加されて負極として機能させてもよい。
【0028】
平板電極13をアースに接続した構成の場合、電圧制御部10が針電極12に印加する正極性の直流電圧として、電界強度が0.25〜1.5kV/mmであり、かつ電圧値が5〜30kVであることが望ましい。正極性の直流電圧の電界強度を0.25〜1.5kV/mmとすることで、電極間距離Yにおいて正極性コロナ放電を安定して発生させることができる。
【0029】
直流電圧の電界強度を0.25〜1.5kV/mmとしたときでも、正極性の直流電圧の電圧値が5kV未満のときには、有機物を分解処理するのに必要となる充分なオキソニウムイオンを生成し難い。また、正極性の直流電圧の電圧値が30kV超のときには、放電の安定性を保つための条件が、電圧値が30kV以下の時よりも非常に厳しくなり、メンテナンス等の観点から、実用性が低下する恐れがある。よって、直流電圧の電界強度を0.25〜1.5kV/mmとしつつ、正極性の直流電圧の電圧値を5〜30kVとすることが望ましい。
【0030】
このように、上述した電圧値の直流電圧が針電極12に印加されることで、大気圧中にある針電極12及び平板電極13の間には定常不平等電界が発生し、正極性コロナ放電が発生する。これにより、放電空間となる中空空間ER1内にオキソニウムイオンを生成させることができる。
【0031】
真空中の放電と大気中の放電の違いについて述べる。同じ針電極12と平板電極13を使用するとし、kV/mmを固定して、電圧と電極間距離を変えた場合について考察する。真空中であれば、電界強度分布は相似形になる。しかしながら、大気中の場合には、微量に存在する正負イオンの影響を受けるため、電界強度分布は相似形になるとは限らない。電極間距離が大きくなるほど、正負イオンの影響を大きく受けるため、放電の安定性を確保することが難しくなる。
【0032】
ここで、放電空間内にイオンを生成させる主な反応の1つとして、分子イオンの生成反応が挙げられる。気体分子Mが電離して、分子イオンMと電子eに分かれるためには、気体分子Mのイオン化エネルギー以上のエネルギーを、気体分子Mに与える必要がある。大気圧下の放電空間において、このエネルギーは、高電界のグロー領域で加速される電子の衝突によって与えられる。
【0033】
放電により生成された一次イオンは、自らの極性に従い電気力線に沿って電界中を進む。平板電極13に向かう一次イオンは、平均自由行程を進むと、放電空間内に存在する気体や中性ラジカル種A・、[M−B]・、B・に由来する放電副生成物と衝突して様々なイオン分子反応を起こし、より長寿命なイオン種に変化する。この過程はドリフト領域を移動しながら継続して起こり、逐次的なイオン分子反応を経て、最終イオンが生成される。
【0034】
大気中での正極性コロナ放電の場合、放電条件に依らずオキソニウムイオンが最終イオンとなる。大気中での正極性コロナ放電におけるオキソニウムイオンの生成とその発展過程は、各素反応の速度定数の実測値に基づいて予測されている。これによると、例えば、オキソニウムイオンのうちヒドロニウムイオンは、グロー領域での電離によって生成されるN+・とO+・を一次イオンとし、主にHOが関与する発展過程を経て生成される。
【0035】
<オキソニウムイオンの酸化力について>
次にオキソニウムイオンの酸化力について説明する。原子は、放出したエネルギーの分だけ安定になる。電子親和力は、最外殻に電子を1つ取り込む際に放出されるエネルギーである。電子親和力が大きいということは、対象物から電子を奪い自身が安定になろうとする傾向が高いということを示す。すなわち、電子親和力が大きいということは、酸化力が強いと言える。
【0036】
図3は、原子番号と電子親和力の関係を示したグラフである。同一周期内で比較すると、フッ素(F)や塩素(Cl)のハロゲン元素の電子親和力が極大になっている。塩素の電子親和力は非常に大きく、3.617eVである。通常イオン化する際は1価の陰イオンとなる。ここで、ある原子の1価の陽イオンの電子親和力について考える。原子の第1イオン化エネルギーとは、その原子の最外殻から電子を1つ奪い取って、1価の陽イオンにするのに必要なエネルギーを示す。すなわち、「ある原子の1価の陽イオンの電子親和力」と「その原子の第1イオン化エネルギー」とは等しいと言える。
【0037】
同一周期では、希ガスの第1イオン化エネルギーは極めて大きいが、例えば放電等では、希ガスをイオン化することは難しい。希ガスを除いて、水素より第1イオン化エネルギーが高い元素は、窒素、酸素、フッ素、塩素しかない。フッ素と塩素は、基本的に単体では存在しない。窒素、酸素は、例えば放電等では1価の陽イオンにはならない。よって、1価の陽イオンの電子親和力としては、水素イオンが最大となる。
【0038】
例えば、オキソニウムイオンのうちヒドロニウムイオンは、HとHOの結合であるから、ヒドロニウムイオンの電子親和力(酸化力)は、水素イオンの電子親和力と等しい約13.6eVであると考えられる。この値から、ヒドロニウムイオンの酸化力は、活性酸素種の酸化還元電位と比べて遥かに高いと言える。
【0039】
次に、オキソニウムイオンの酸化力の強さを確認する検証試験を行った。この検証試験では、図2A及び図2Bに示した電極構造体11を作製し、これを用いてオキソニウムイオンを生成した。ここで、タングステンで形成した直径1mmの針電極12と、ステンレスで形成した直径10mm厚さ1.5mmの円盤状の平板電極13と、内部直径Yが25mm、外部直径Yが32mm、厚さ1.4mmのポリ塩化ビニールで形成した電極支持部材14とを用いて、実施例となる電極構造体11を作製した。
【0040】
この実施例では、電極間距離Yは20mmとし、正極性の直流電圧として針電極12に20kVを印加し、平板電極13はアースに接続した。これにより、針電極12及び平板電極13の間に放電が確認できた。この放電は、針電極12に正極性の直流電圧が印加され、平板電極13をアースに接続させていることから、正極性コロナ放電となる。
【0041】
そして、複数本の鉄釘を用意し、鉄釘に電極支持部材14の開口端部を近づけ、約48時間、正極性コロナ放電を発生させ続けた。また、これとは別に、比較例として、マイナスイオン・オゾン発生器(村田製作所製マイナスイオン発生器MHM305、及び村田製作所製マイナスイオン/オゾン発生器MHM306)を用意し、同様に、複数本の鉄釘に約48時間、マイナスイオン及びオゾンを照射し続けた。マイナスイオン及びオゾンを照射する際の設定条件は、同様に、複数本の鉄釘に約48時間、マイナスイオン及びオゾンを照射し続けた。印可電圧は、製品の仕様で2kVとした。
【0042】
その結果、実施例では、鉄釘の表面全体が黒く変色して錆が生じていることを目視で確認した。一方、比較例では、鉄釘の表面がほぼ当初の銀色のままであり、ほとんど錆が生じていないことを目視で確認した。このように、実施例では、活性酸素種を用いた比較例に比べて、酸化力が強いことが確認できた。
【0043】
<オキソニウムイオンの酸化力と乾燥能力の関係について>
ここで、水の沸点は100℃、気化熱は2250kJ/kgである。エタノールの沸点は80.3℃、気化熱は393kJ/kgである。エーテルの沸点は34.5℃、気化熱は327kJ/kgである。このように、水が極めて大きな気化熱を持つことが分かる。これは、水分子が極性を持つことにより、水素結合が働き、クラスターといわれる塊を作っていることが原因と考えられる。
【0044】
水の気化熱である2250kJ/kgを、水1分子当たりに換算すると、0.4eV程度である。クラスターとなっている水分子に、例えばヒドロニウムイオンが近づくと、13.6eVの酸化力(電子親和力)が働き、水素結合を形成している電子を剥ぎ取り、その電子を高エネルギー(13eV程度)の自由電子に変えることが期待される。高エネルギーの自由電子は、水素結合を形成している電子に衝突し、さらにその電子を高エネルギーの自由電子に変えることも期待できる。
【0045】
オキソニウムイオンを照射すると、酸化反応の連鎖が起こり、クラスター分子の大きさが小さくなることが期待できる。水クラスターの構造や安定性については、近年、実験及び計算により研究されている。計算化学では、環状のクラスター(HO)について、nを3から60までのものの構造が検討されている。環が大きくなるにつれて、酸素原子間の距離は縮まるという計算結果が得られている。
【0046】
これは、水素結合により水素を受容した分子は電荷の分布が変わり水素を供与する力も増えるため、水の集合体が大きくなると、協同的に水素結合が強められるためと考えらえている。このことは、クラスターの大きさが小さくなると、気化熱が小さくなることを意味する。水分子の六量体にはいくつかの異性体が予想されており、環状、冊子型、バッグ型、かご型、プリズム型のものがほぼ同程度の安定性を持つと算出されている。七量体についても2種類のかご型の異性体が計算で得られており、八量体では環状のものと立方体型のものが算出されている。さらに巨大なクラスターとして、フラーレン型の28量体「bucky water」や、280個の水分子が正二十面体状に集まったものが、エネルギーの極小値を持つものとして計算されている。近年は ab initio法(非経験的方法)による水クラスターの解析もなされている。
【0047】
ここで、水の蒸発速度をvとし、気化熱をLとすると、これら蒸発速度v及び気化熱Lの関係については、クラペイロン(Clapeyron)−クラウジウス(Clausius)の式により下記のように表すことができる。
【0048】
v=v・exp(−L/kT) …(1)
ここで、vは、積分定数を示し、kBは、ボルツマン定数を示し、Tは温度を示す。
【0049】
図4は、v/vの値を、気化熱Lの関数として表したものである。図4から、気化熱Lが小さくなると、蒸発速度vが大きくなることが分かる。よって、オキソニウムイオンを照射することで、酸化反応の連鎖が起こり、クラスター分子の大きさが小さくなって気化熱が小さくなると、蒸発速度が大きくなる。よって、オキソニウムイオンを有機物に照射した場合、同じエネルギーで、より多くの水を蒸発させることが期待できる。なお、オキソニウムイオンを用いた乾燥能力の検証試験については「実施例」にて後述する。
【0050】
<作用及び効果>
以上の構成において、有機物分解処理用イオン生成装置4では、針電極12及び平板電極13を対向配置し、直流電源部9によって正極性の直流電圧を針電極12に印加する。直流電源部9は、電圧制御部10によって直流電圧を所定の電圧値に設定し、大気圧中で針電極12及び平板電極13の間に正極性コロナ放電を発生させる。
【0051】
これにより、有機物分解処理用イオン生成装置4では、針電極12及び平板電極13の間に発生した正極性コロナ放電により、有機物の分解処理能力が高いオキソニウムイオンを生成できる。かくして、有機物分解処理用イオン生成装置4では、有機物の分解処理にオキソニウムイオンを使用することで、有機物の分解処理能力を従来よりも一段と向上させることができる。
【0052】
また、有機物分解処理用イオン生成装置4では、電極支持部材14の中空空間ER1で針電極12及び平板電極13を対向配置させて正極性コロナ放電を発生させる。これにより、有機物分解処理用イオン生成装置4は、筒状の電極支持部材14の開口端部のみからオキソニウムイオンを排出させることができるので、開口端部の方向を選定することで、意図した方向にのみオキソニウムイオンを集中的に送出させることができる。かくして、有機物分解処理用イオン生成装置4は、筐体8内でオキソニウムイオンが放射状に飛散されることを抑制し、意図した方向に向けて、より遠くまでオキソニウムイオンを飛散させることができる。
【0053】
さらに、有機物分解処理用イオン生成装置4では、中空空間ER1の中心軸X上に筐体8の排出口が位置するように電極支持部材14を配置し、導入口から筐体8内に導入された送風機3からの気体を、中空空間ER1を通過させて直線的に排出口に向けて送出する。これにより、有機物分解処理用イオン生成装置4では、中空空間ER1で生成されたオキソニウムイオンを、直接、排出口から格納槽2内に導くことができる。かくして、オキソニウムイオンが筐体8内で吹き付けられる箇所を限定し、その分、強力な酸化力を有するオキソニウムイオンにより筐体8内が損傷してしまうことを抑制できる。
【0054】
<他の実施形態>
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨の範囲内で適宜変更することが可能である。例えば、電極構造体11を筐体8内の種々の位置に設けてもよい。また、有機物分解処理装置1として、有機物へのオキソニウムイオンの照射に加えて、有機物に対する加熱及び攪拌を同時に行い、有機物を分解処理する場合について述べたが、本発明はこれに限らない。例えば、有機物へのオキソニウムイオンの照射のみを行う有機物分解処理装置や、有機物へのオキソニウムイオンの照射に加えて、有機物に対する加熱又は攪拌のいずれか一方のみを行う有機物分解処理装置であってもよい。
【実施例1】
【0055】
次に、電極構造体11を用いた上述の実施例と同様に、20kVの正極性の直流電圧を針電極12に印加し、平板電極13をアースに接続して、大気圧中で正極性コロナ放電を発生させた。そして、生成されたオキソニウムイオンの個数密度について調べる検証試験を行った。ここでは、電極構造体11から測定位置を離してゆき、所定距離x毎に、電極構造体11で生成されたオキソニウムイオンの個数密度をイオンカウンタ(イオントレーディング社製、商品名イオンカウンタ NKMH-103 (超ワイドレンジ型)で測定した。その結果、図5に示すように結果が得られた。
【0056】
図5中、○はイオンカウンタで測定した測定値を示し、実線は測定値を指数関数でフィッティングしたものである。距離x=0cm近辺では、5000万個/cm程度以上のオキソニウムイオンが生成されていると考えられる。図5に示すように、オキソニウムイオンの個数密度は、距離xを大きくするに従って次第に低下していった。よって、電極構造体11は、分解処理する有機物に近い位置に設置し、オキソニウムイオンを有機物に直接到達させることが望ましいことが確認できた。
【0057】
次に、オキソニウムイオンの乾燥能力を評価する検証試験を行った。ここでは、十分な量の水を吸収させた高分子吸収体(以下、含有高分子吸収体と称する)を100gずつ取り分け、4つの含水高分子吸収体を用意してそれぞれ容器(タッパー)に入れた。そして、電極構造体11を用いた上述の実施例と同様に、20kVの直流電圧を針電極12に印加して正極性コロナ放電を発生させ、生成したオキソニウムイオンを、1つの目の含水高分子吸収体に照射した。
【0058】
2つ目の含水高分子吸収体には、比較例1として用意したマイナスイオン・オゾン発生器(村田製作所製マイナスイオン発生器MHM305、及び村田製作所製マイナスイオン/オゾン発生器MHM306)を用い、マイナスイオン及びオゾンを照射した。マイナスイオン及びオゾンを照射する際の設定条件は、同様に、複数本の鉄釘に約48時間、マイナスイオン及びオゾンを照射し続けた。印可電圧は、製品の仕様で2kVである。
【0059】
3つ目の含水高分子吸収体には、比較例2として用意したマイナスイオン発生器(村田製作所製マイナスイオン発生器MHM305、及び村田製作所製マイナスイオン/オゾン発生器MHM306)を用い、マイナスイオンのみを照射した。マイナスイオンを照射する際の設定条件は、製品の仕様で印可電圧は2kVとした。
【0060】
4つ目の含水高分子吸収体は、オキソニウムイオンやマイナスイオン、オゾン等を照射せずに自然乾燥させた。
【0061】
そして、これら4つの含有高分子吸収体について、それぞれ12時間毎に48時間経過時までの蒸発質量と残存質量を測定した。その結果、図6及び図7に示すような結果が得られた。図6及び図7では、実施例の測定結果を「本装置」とし、○で示している。また、比較例1の測定結果は□で示し、比較例2の測定結果は△で示し、無照射時の測定結果は×で示している。
【0062】
ここで、残存質量はタニタのKD-192で測定し、初期質量から残存質量を引くことにより、蒸発質量を求めた。図6及び図7から、マイナスイオン及びオゾンを照射した比較例1や、マイナスイオンのみを照射した比較例2は、蒸発質量及び残存質量が無照射のときとほとんど変わらないことが確認できた。
【0063】
これに対して、実施例である、オキソニウムイオンを照射した場合は、比較例1や比較例2、無照射のときと比較して、蒸発質量が極めて大きくなり、また残存質量が極めて小さくなることが確認できた。
【0064】
次に、上述した検証試験と同じ含水高分子吸収体を用意し、含水高分子吸収体から50cm程離した位置に実施例の電極構造体11を設置した後、含有高分子吸収体に対してオキソニウムイオンを照射した。含有高分子吸収体について、12時間毎に48時間経過時までの蒸発質量と残存質量を測定したところ、図8及び図9に示すような結果が得られた。
【0065】
図8及び図9では、比較例として無照射のときの測定結果を示している。図8及び図9に示すように、電極構造体11を含水高分子吸収体から50cm程離しても、蒸発質量が極めて大きくなり、また残存質量が極めて小さくなることが確認できた。よって、電極構造体11を含水高分子吸収体から50cm離しても、水の蒸発量を十分に確保できることが確認された。
【0066】
次に、2つの容器(タッパー)を用意し、各容器内にそれぞれ水を100ccずつ入れた。そして、1つ目の容器には、容器から5cm程離した斜め上位置に、電極構造体11を設置した。次いで、容器内の水に対して、電極構造体11で生成したオキソニウムイオンを照射した。なお、残りの容器の水はそのまま放置した。そして、12時間毎に48時間経過時までの水の蒸発質量と残存質量をそれぞれ測定したところ、図10及び図11に示すような結果が得られた。
【0067】
実施例として、オキソニウムイオンを照射した場合は、放置したときと比較して(図中、無照射と表記)、蒸発質量が極めて大きくなり、また残存質量が極めて小さくなることが確認できた。
【0068】
以上のように、針電極12及び平板電極13を筒状の電極支持部材14で支持し、かつ20kVという高い直流電圧を針電極12に印加した実施例では、5cmや50cm離れた箇所でも水の蒸発に大きな効果を奏することが確認できた。実施例のような構成とすることで、電極構造体11で生成されたオキソニウムイオンの飛行速度は速くなり、オキソニウムイオンがより遠くまで飛んでいると推定される。
【符号の説明】
【0069】
1 有機物分解処理装置
2 格納槽
3 送風機
4 有機物分解処理用イオン生成装置
8 筐体
9 直流電源部
10 電圧制御部
12 針電極
13 平板電極
14 電極支持部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11