特許第6703673号(P6703673)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6703673-電力貯蔵用フライホイール装置 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6703673
(24)【登録日】2020年5月13日
(45)【発行日】2020年6月3日
(54)【発明の名称】電力貯蔵用フライホイール装置
(51)【国際特許分類】
   H02K 21/24 20060101AFI20200525BHJP
【FI】
   H02K21/24 G
【請求項の数】6
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-98457(P2016-98457)
(22)【出願日】2016年5月17日
(65)【公開番号】特開2017-208894(P2017-208894A)
(43)【公開日】2017年11月24日
【審査請求日】2019年4月26日
【権利譲渡・実施許諾】特許権者において、権利譲渡・実施許諾の用意がある。
(73)【特許権者】
【識別番号】306037229
【氏名又は名称】株式会社 空スペース
(72)【発明者】
【氏名】河島壯介
【審査官】 佐藤 彰洋
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−247822(JP,A)
【文献】 特開2014−090644(JP,A)
【文献】 特開2011−091973(JP,A)
【文献】 特開平5−248437(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 21/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
減圧容器と、前記減圧容器内に回転自在に支持されたフライホイールと、前記フライホイールの外表面に回転中心に対して回転対称に配置された永久磁石と、前記永久磁石の位相角を検出する位相検出手段、とを具備したロータユニット、及び前記永久磁石の配列に対応して巻回された複数のコイルにより構成されたステータユニット、及び前記位相検出手段からの前記永久磁石の位相角情報を基にステータユニットの複数のコイルに通電してロータユニットを回転させる、あるいはロータユニットの回転に応じてステータユニットのコイルに発生した電力を電源に戻す電動発電機制御ユニット、及び前記ロータユニットと前記ステータユニットの相対位置を設定するトラバースユニットからなり、トラバースユニットが設定する第一の相対位置は、前記コイルへの交流電圧の印加により生成される回転磁界の回転中心を、前記永久磁石の回転中心に略一致させると共に、前記永久磁石と前記コイルを前記減圧容器の壁面を介して接近させた位置とし、第二の相対位置は、第一の相対位置に対して前記永久磁石と前記コイルとの間を遠ざける方向に、空間の6自由度の内のフライホイール回転方向を除き、ギャップ間隔方向を含む少なくとも2方向を変えたことを特徴とする電力貯蔵用フライホイール装置。
【請求項2】
前記ロータユニット及び前記ステータユニットの少なくとも一方が複数個あることを特徴とする請求書1に記載の電力貯蔵用フライホイール装置。
【請求項3】
前記減圧容器の少なくとも前記永久磁石を配置した面を導電率の低い材料とすることを特徴とする請求書1に記載の電力貯蔵用フライホイール装置。
【請求項4】
前記ロータユニットのフライホイールを回転自在に支持する手段として自律分散式転がり軸受を使用したことを特徴とする請求書1に記載の電力貯蔵用フライホイール装置。
【請求項5】
前記軸受は、内輪を減圧容器中央に通す固定軸に嵌合し、外輪を回転させたことを特徴とする請求書1に記載の電力貯蔵用フライホイール装置。
【請求項6】
前記軸受の内輪に連通する給脂穴を前記固定軸に形成し、前記給脂穴の他端を封止弁を経由して減圧容器外部に開口したことを特徴とする請求書1に記載の電力貯蔵用フライホイール装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電力貯蔵用フライホイール装置の改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、電力貯蔵用フライホイール装置の従来例である。
FWロータ2は回転軸1の上部と下部で軸受3,3により支持され、FWロータ下面の永久磁石7と対抗する超電導磁石8との間で生じる磁気反発力によりFWロータのスラスト方向荷重が支持されている。
【0003】
FWロータ2の上面には、電動発電機(電動機と発電機を兼用)のロータ4が、ロータ4の上方にはステータ5が、ロータとのギャップを調整可能に備えられ、FWロータの速度に応じてギャップを調整することにより、弱め界磁電流による無効電流を抑えている。またFW装置内部を真空状態として、FWロータ2の回転に伴う風損を減らしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−247822号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、この装置では以下のような問題があった。電動発電機のステータは、ロータとのアキシャルギャップを調整する機構を備えているものの、その移動量は軸受や軸受を固定するFW支持体によって制限されるため、ロータが生成する回転磁界からの電磁誘導を弱める程にはギャップを拡大できず、エネルギー非授受時に鉄損によるエネルギー損失を生じる。
【0006】
また、貯蔵エネルギー量を決めるFWロータサイズと、発電出力を決める電動発電機が一体化されているため、各々の需要変化に効率よく対応できない。すなわち貯蔵エネルギー量のみを2倍にしたい場合でも、同一装置の増設によって発電出力も2倍にする、もしくは現状設備を廃棄してFWロータのみを2倍容量とした装置を新設する必要があった。
さらに、電動発電機の点検時は、安全上貯蔵エネルギーを廃棄する必要があった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで本発明の目的は、エネルギー授受時、及びエネルギー非授受時に関わらず、エネルギー変換に伴う損失の最小化を実現するものである。
さらに、貯蔵エネルギー量と発電出力を個別に選択、変更できる構成とすることにより、ミニマムコストでニーズに対応する電力貯蔵用フライホイール装置を提供することにある。
【0008】
詳しくは、減圧容器と、減圧容器内に回転自在に支持されたフライホイールと、フライホイールの外表面に回転中心に対して回転対称に配置された永久磁石と、永久磁石の位相角を検出する位相検出手段、とを具備したロータユニット、及び前記永久磁石の配列に対応して巻回された複数のコイルにより構成されたステータユニット、及び位相検出手段からの永久磁石の位相角情報を基にステータユニットの複数のコイルに通電してロータユニットを回転させる、あるいはロータユニットの回転に応じてステータユニットのコイルに発生した電力を電源に戻す電動発電機制御ユニット、及びロータユニットとステータユニットの相対位置を設定するトラバースユニットからなり、トラバースユニットが設定する第一の相対位置は、コイルへの交流電圧の印加により生成される回転磁界の回転中心を、永久磁石の回転中心に略一致させると共に、永久磁石とコイルを減圧容器の壁面を介して接近させた位置とし、第二の相対位置は、第一の相対位置に対して永久磁石とコイルとの間を遠ざける方向に、空間の6自由度の内のフライホイール回転方向を除き、ギャップ間隔方向を含む少なくとも2方向を変えたことを特徴とする電力貯蔵用フライホイール装置を提供することにある。
【0009】
また、ロータユニット及び前記ステータユニットの少なくとも一方が複数個あることを特徴とする。
また、少なくとも永久磁石を配置した側の減圧容器側板を導電率の低い材料とすることを特徴とする。
また、ロータユニットのフライホイールを回転自在に支持する手段として自律分散式転がり軸受を使用したことを特徴とする。
【0010】
また軸受は内輪を減圧容器中央に通す固定軸に嵌合し、外輪を回転させたことを特徴とする。
また軸受の内輪に連通する給脂穴を固定軸に形成し、給脂穴の他端を封止弁を経由して減圧容器外部に開口したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、エネルギー貯蔵体であるロータとエネルギー授受体であるステータを別ユニットとして分離したので、エネルギー非授受時に両ユニットを遠ざけることによりロータユニットの回転により生成する回転磁界がステータユニットに及ぼす電磁誘導の強さを弱めて、鉄損の発生を抑制できると同時に、電動発電機制御ユニットのステータユニットへの励磁を停止出来る。
【0012】
さらに、エネルギー貯蔵体であるロータユニットとエネルギー授受体であるステータユニットを、需要変動に応じた数量とすることにより、必要十分な貯蔵電力量と最大出力を備えた電力貯蔵用フライホイール装置を構築できるので、全体の低コスト化とロータユニット、ステータユニットの標準化と低コスト化が促進できる。
【0013】
また、減圧容器の永久磁石側を導電率の低い材料とすることにより、永久磁石による電磁誘導で減圧容器が発生する鉄損を抑制できる。
【0014】
さらに、軸受を自律分散式転がり軸受とすることにより、軸受内部の滑り摩擦、及び摩擦による潤滑剤の消費によるエネルギー損失を抑制できる。
【0015】
さらに、軸受の内輪を減圧容器中央に通す固定軸に嵌合し、外輪を回転させる構成としたので、大気圧による荷重に対し減圧容器の側板のたわみを防ぎ、側板の平板化、薄肉化によりロータユニットの低コスト化が進む。
【0016】
また、軸受の内輪に連通する給脂穴を前記固定軸に形成し、前記給脂穴の他端を封止弁を経由して減圧容器外部に開口したので、給脂時に減圧容器の開閉が不要となり、ロータユニットの開閉機構の簡素化による低コスト化が進む。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の電力貯蔵用フライホイール装置の実施例。
図2図1のロータユニット詳細。
図3】本発明の電力貯蔵用フライホイール装置の第二実施例。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施例を説明する。ただし、図面はもっぱら解説のためであって、本発明の記述的範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0019】
図1は本発明の電力貯蔵用フライホイール装置の実施例、図2はそのロータユニットである。
軸16は円筒形状のフライホイール11の貫通穴11aに相通され、両端に自律分散式転がり軸受15が組み込まれている。軸16の両端は自律分散式転がり軸受15の内輪内径から突出し、この部分を円筒形状の減圧容器10の側板10a、10bに形成された凹部10cに嵌合させることにより、フライホイール11を減圧容器10に対し回転自在に支持している。同時に軸16は、減圧容器10が減圧された時に両側板が受ける大気圧に抗する作用も有している。
【0020】
フライホイール11の片端面にリング状の短絡コア14が固着その上に軸16方向の磁束密度の高いハルバッハ配列の複数極の永久磁石12が固着されている。減圧容器の永久磁石側側板10aは導電率の低い樹脂材料としている。
軸16の一端は逆止弁17が設けられ、そこから両端の自律分散式転がり軸受近傍に給油穴18が連通している。減圧容器10の側板10aは外部から逆止弁を開放して自律分散式転がり軸受に潤滑剤を補給するための穴19が開口している。減圧容器内の気密は、減圧時に永久磁石側側板10aが大気圧により軸16の一端に押し付けられることによって確保される。
【0021】
位相検出手段13はフライホイールの角度位相を随時無線手段により電動発電機制御ユニット3に出力している。ロータユニット1は2列4個あり、右列が1Raと1Rb、左列が1Laと1Lbとなっている。ステータユニット2の複数のコイル21は、ロータユニット1の永久磁石12の配列に対応して配置されている。
【0022】
電動発電機制御ユニット3は、ロータユニットとステータユニットをフライホイールへのエネルギー蓄積時は電動機として、エネルギー放出時は発電機として機能させるべく、位相検出手段13から得られるロータ位相に同期させてコイル21への通電切替えを行う。トラバースユニット4は伸縮軸41と反転軸42からなり先端にステータユニットがセットされる。
【0023】
次に作用を説明する。図1に示す第一の相対位置Aは、ステータユニット2のコイルへの交流電圧の印加により生成される回転磁界の中心を、ロータユニット1Raの永久磁石12の回転中心と略一致させると共に、コイル21と永久磁石12のギャップを縮小して電磁誘導を強めた位置である。この位置からエネルギーを蓄積する場合、電動発電機制御ユニット3は、供給される電力に応じてステータユニット2への励磁周波数を増加させることによりロータユニット1Raのフライホイール11を加速させる。
【0024】
速度上昇によって所定エネルギーが蓄積されたらトラバースユニット4は第二の相対位置B(エネルギー非授受時の定位置)に移動する。即ち、トラバースユニットの伸縮軸41を縮め(図示aの動作)ステータユニット2とロータユニット1Ra間のギャップを拡大して電磁誘導を弱めた後、ステータユニットの永久磁石面が上面となるまで、反転軸42を90°回転(図示bの中間)させコイル21と永久磁石12の電磁誘導を最小化する。
ハルバッハ配列の磁石は軸方向の磁束密度を高くしているので、ギャップ拡大動作のみでの電磁誘導の最小化は、伸縮軸41やその占有スペースの大型化を招くが反転軸42によりコイルの巻回面を永久磁石の磁力線方向と平行にすることにより効果的に電磁誘導を最小化している。これによりロータユニットが作る回転磁界による鉄損、ロータユニットの速度低下を最小限とする。電動発電機制御ユニット3はこの状態でステータユニットの回転磁界生成を休止することが出来る。
【0025】
エネルギー蓄積を継続する場合、トラバースユニット4は反転軸42をさらに90°回転させた後、電動発電機制御ユニット3がロータユニット1Laの位相検出手段13の情報によりコイル21への印加電圧の周波数と位相を調節してロータユニット1Laの永久磁石と同期させつつ、トラバースユニット4の伸縮軸41を伸ばし(図示cの動作)ステータユニット2とロータユニット1Laのギャップを縮小して電磁誘導を強め、供給される電力に応じて電動発電機制御ユニット3からの指令によりロータユニット1Laのフライホイールの速度を上げる。
ロータユニット1Raは蓄積エネルギーを放出するときまでコンベア(図中不記)により図の上方へ移動し、代わってエネルギーが放出されているロータユニット1Rbがこの位置に待機する。
【0026】
エネルギーを放出する場合は、トラバースユニットがステータユニットを、エネルギー蓄積済みのロータユニットに近接して電磁誘導を強めることにより、永久磁石が作る回転磁界によりステータユニットのコイルが発電する。
また、エネルギー蓄積中の一時的なエネルギー放出をおこなう場合、ロータユニットを切り替えず、電動発電機制御ユニット3の回路切り替え(ステータユニットを電動機から発電機に切り替え)で対応する。これは公知の短周期蓄電用フライホイール装置の作用である。
【0027】
なお、待機状態に入る際に、ステータユニットのコイル21に永久磁石を減磁させるタイミングで大電流を流す、あるいは外部から永久磁石12にレーザーを照射する、等の手段によって永久磁石12を減磁して、待機中の鉄損をより減らすことも可能である。この場合はエネルギー授受開始時にコイル21に永久磁石を着磁させるタイミングと極性の大電流を流すことで永久磁石12の磁力を回復させる。
【0028】
また、トラバース操作の間ステータユニットはロータユニットと結合されないためにエネルギー授受が出来ないが、系統電力等のニーズによりこれが不都合である場合は、別途トラバース操作中の電力を蓄えるキャパシタ等の小型蓄電ユニット(図中不記)へ回路を切り変える機能を電動発電機制御ユニット3に追加することができる。
【0029】
エネルギー蓄積体であるフライホイール11を含まないステータユニット2は小型軽量であるので、ロータユニット1Raから1Laへ電磁誘導対象の切り換えを比較的短時間で行うことができる。よって前記小型蓄電ユニットはロータユニットよりも小規模なもので良い。
一方コンベア(図中不記)によるロータユニット1の入替えは、重量物であるフライホイールを含むので時間を要するが、ロータユニット1Raから1Rbへの入替えでは、反対側のロータユニット1Laの蓄積エネルギーがゼロになるまでの間に完了すれば良いので、この入替え装置は汎用コンベアーが適用できる。
【0030】
図3は本発明の電力貯蔵用フライホイール装置の第二実施例である。図1との相違点を以下に列挙する。このロータユニット1のフライホイール11は回転軸を鉛直方向としている。10個のロータユニットはトラバースユニット4の周囲に配置されているが、通常第二の相対位置B(エネルギー非授受時の定位置)は空きスペースとしており、エネルギー非授受時のステータユニットは通常ここに位置する。トラバースユニットは2つのアーム4Ra、4Rbを持ち、その各々に伸縮軸4Za,4Zbを持つ。伸縮軸の先端にはロータユニット1との電磁誘導において、発電機での効率を最大化したステータユニット2a、及び電動機での効率を最大化したステータユニット2bが装着されている。
【0031】
本構成によれば、通常時のエネルギー放出時は発電機での効率を最大化したステータユニット2aを使用し、通常時のエネルギー蓄積時は電動機での効率を最大化したステータユニット2bを使用することによりエネルギー授受における損失を低く抑えられる。また時間当たりエネルギー授受量をより大きくしたい場合はこれら2種類のステータユニットを同時にエネルギー蓄積、またはエネルギー放出に使用することで達成される。
【0032】
また、2個のステータユニットの定格出力は同じである必要はない。例えば放電出力を急峻に変化させたい場合は発電機として最適化されたステータユニット2aのみ大型とすることが出来る。その場合、電動機用である小型のステータユニット2bは小電力用としてロータユニット駆動を効率化することが出来る。
さらに緊急的な時間当たりエネルギー放出量の増大対策として、既設のトラバースユニット4とは別に、予備のステータユニット2をフォークリフト(図中不記)等によってロータユニットと電磁誘導させるとも可能である。その際のフォークリフトはトラバースユニット4である。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明は、電力貯蔵用フライホイール装置の構造に関するものである。
【符号の説明】
【0034】
1 ロータユニット
2 ステータユニット
3 電動発電機制御ユニット
4 トラバースユニット
図1
図2
図3