(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
(実施の形態の要約)
実施の形態に係るMEMS装置の製造方法は、第1の犠牲層が形成された第1の基板、及び第2の犠牲層が形成された第2の基板を準備し、第1のレジストの塗布、露光及び現像を繰り返し、他の部分と独立する独立部材を有する第1の構造体を形成するための第1の露光領域と第1の非露光領域を第1の犠牲層上に形成し、独立部材の周囲の第1の露光領域又は第1の非露光領域の一部の領域を残して他の領域を除去し、第2のレジストの塗布、露光及び現像を繰り返して第2の構造体を形成するための第2の露光領域と第2の非露光領域を第2の犠牲層上に形成し、第2の露光領域又は第2の非露光領域を除去すると共に第2の犠牲層を除去して第2の構造体を第2の基板から分離し、分離した第2の構造体を第1の構造体に接合して接合体を形成し、残っている一部の領域、及び第1の犠牲層を除去して接合体を第1の基板から分離することを含む。
【0011】
このMEMS装置の製造方法は、第1の犠牲層の一部が除去されて位置がずれる可能性がある独立部材の周囲の一部の領域を残した状態で第1の構造体と第2の構造体を接合するので、この方法を採用しない場合と比べて、接合するまで独立部材の下の第1の犠牲層が除去されることがなく、現像による部材の位置ずれを抑制することができる。
【0012】
[第1の実施の形態]
(触覚呈示装置1の概要)
図1(a)は、第1の実施の形態に係る触覚呈示装置の一例を示す概略図であり、
図1(b)は、1つのアクチュエータ素子の一例を示す概略図である。
図2(a)は、第1の実施の形態に係る触覚呈示装置のアクチュエータ層の全体像の一例を示す概略図であり、
図2(b)は、1つのアクチュエータ素子のヒータ層の一例を示す概略図であり、
図2(c)は、このヒータ層の一例の断面図であり、
図2(d)は、スプリング層の一例を示す概略図である。
図3(a)は、第1の実施の形態に係る触覚呈示装置の基準状態の一例を示す要部断面図であり、
図3(b)は、触覚呈示装置の垂直駆動状態の一例を示す要部断面図であり、
図3(c)は、触覚呈示装置の傾き駆動状態の一例を示す要部断面図である。なお、以下に記載する実施の形態に係る各図において、図形間の比率は、実際の比率とは異なる場合がある。
【0013】
MEMS装置としての触覚呈示装置1は、
図1(a)に示すように、本体10と、プリント基板12と、MEMSであるアクチュエータアレイ2と、を備えて概略構成されている。この本体10は、一例として、合成樹脂によって形成されている。またプリント基板12は、表面120にアクチュエータアレイ2が設けられ、またアクチュエータアレイ2を囲むように複数の電極14が設けられている。この触覚呈示装置1は、一例として、指示された触覚の呈示が行われるようにアクチュエータアレイ2に電流を供給するための駆動回路が電極14を介して電気的に接続される。
【0014】
この触覚呈示装置1は、
図1(a)に示すように、アクチュエータ素子3が格子状に高密度で並んで配置されてアクチュエータアレイ2を形成している。このアクチュエータアレイ2は、一例として、5×5個のアクチュエータ素子3が並んでいる。このアクチュエータ素子3は、独立して駆動される。なおアクチュエータ素子3の数や配列は、これに限定されない。
【0015】
この触覚呈示装置1は、アクチュエータ素子3の開口360からピン345のピン上部347を突出させ、操作者の操作指に触覚を呈示するように構成されている。触覚呈示装置1は、開口360が作る面の法線方向、言い換えるなら開口360に対して垂直方向にピン345を突出させる(垂直駆動)と共に垂直方向から傾いた方向に突出させ(傾き駆動)、この組み合わせによって操作者に多様な触覚を呈示する。この多様な触覚とは、一例として、布や革の表面などのテクスチャー、操作指の誘導、操作に対するフィードバックなどである。
【0016】
アクチュエータ素子3は、
図1(b)に示すように、キャップ層36と、キャップ層36の下に配置されたスプリング層34と、スプリング層34の下に配置されたアクチュエータ層32と、アクチュエータ層32の下に配置された基板層30と、を備えて概略構成されている。
【0017】
アクチュエータ素子3のピッチPは、一例として、1mm以下である。このピッチPは、皮膚の2点弁別閾に基づいて定められている。この2点弁別閾とは、先端の尖った2つの物で皮膚を刺激した場合、この2点の刺激の強さや性質を区別し感じうる刺激差の最小の精度を示している。なお指先の2点弁別閾は、およそ2mm程度である。
【0018】
また
図3(b)に示すピン345の突出量Lは、一例として、20μmである。またアクチュエータ素子3は、周期的に駆動される。この駆動の周波数は、一例として、30Hzである。そして突出させる力(発生力)は、一例として、5mNである。この突出量Lと発生力は、垂直駆動状態の際の値である。
【0019】
突出量Lと駆動の周波数は、操作指のマイスナー小体の最小検出変位量と感度により定められている。また発生力は、皮膚が検出できる最小の力(およそ1mN)に基づいて定められている。
【0020】
上述の傾き駆動では、ピン345は、円弧を描きながら操作指を刺激する。この傾き駆動は、水平成分を有する駆動であるので、平行にスライドする方向(せん断方向)の刺激を操作指に与える。なお平行とは、垂直方向に直行する方向を示している。なおマイスナー小体は、表面の粗さのような細かい凹凸の知覚に関与し、水平変位、つまりせん断方向の駆動に敏感に応答する。従って触覚呈示装置1は、せん断方向にピン345を駆動することにより、マイスナー小体に効果的に刺激を与えることができる。
【0021】
(基板層30の構成)
基板層30は、一例として、銅(Cu)を加工して形成されている。この基板層30は、格子状に並んだ複数のアクチュエータ素子3に対応して同じ構成が並んで形成されている。基板層30は、
図1(b)に示すように、外枠300に囲まれて形成された凹部301を有している。この外枠300上には、アクチュエータ層32が配置される。
【0022】
凹部301は、
図3(a)に示すように、ピン345の下部(ピン下部346)の押し付け、つまりスプリング層34のバイアス力によるアクチュエータ層32の湾曲の逃げとして形成されている。このバイアス力は、組み付け後のスプリング層34の弾性力によるものであり、アクチュエータ層32に常時付加されている。
【0023】
(アクチュエータ層32の構成)
アクチュエータ層32は、
図2(a)に示すように、格子状に並んだ複数のアクチュエータ素子3に対応して同じ構成が並んで形成されている。この格子状に並んだ同じ構成の周囲には、縦に複数のパッド40、横に複数のパッド41が形成されている。このパッド40及びパッド41は、
図1(a)に示すプリント基板12の上に配置された電極14と電気的に接続されている。以下では、1つのアクチュエータ素子3のアクチュエータ層32について説明する。
【0024】
なおアクチュエータ層32は、基板層30と共に形成される。この製造方法については、後述する。
【0025】
アクチュエータ層32は、
図2(c)に示すように、形状記憶合金層としてのSMA(Shape memory alloy)層320、ヒータ層321の順に積層されている。なおアクチュエータ層32は、さらにヒータ層321の上に縦配線410、及び縦配線410の上に絶縁層329を備えている。
【0026】
そしてアクチュエータ層32は、ピン345の下部(ピン下部346)が接触する接触領域325を介して対向する第1の加熱領域323c及び第2の加熱領域323dが加熱されたことによる第1の加熱領域323c及び第2の加熱領域323dの下方のSMA層320の形状回復によって垂直方向に開口360からピン345を突出させるように構成されている。
【0027】
またアクチュエータ層32は、第1の加熱領域323c又は第2の加熱領域323dが加熱されたことによる第1の加熱領域323c又は第2の加熱領域323dの下方のSMA層320の形状回復によって垂直方向から傾いて開口360からピン345を突出させるように構成されている。
【0028】
このSMA層320は、一例として、TiNiCu合金などの形状記憶合金によって形成された層である。SMA層320は、
図2(c)に示す湾曲のない形状、つまり直線的な形状が記憶されている。本実施の形態における形状回復とは、SMA層320が温度の上昇によって形状回復温度に到達し、湾曲のない形状に復帰することを示している。このSMA層320の厚みは、一例として、10μmである。このSMA層320の形状回復温度は、一例として、60〜65℃程度である。
【0029】
ヒータ層321は、絶縁層322及び絶縁層324によって配線層323を挟んで形成されている。この絶縁層322及び絶縁層324は、一例として、絶縁性を有するポリイミドなどの合成樹脂材料を用いて形成されている。
【0030】
配線層323は、一例として、プラチナ(Pt)によって形成されている。この配線層323には、例えば、
図2(b)に示すように、第1のヒータ配線323aと、第2のヒータ配線323bと、横配線400と、パッド401と、が形成されている。
【0031】
第1のヒータ配線323aは、第1の加熱領域323cのSMA層320を加熱して形状回復させるものである。この第1のヒータ配線323aは、
図2(b)に示すように、効率よく広い範囲を加熱できるように折返し形状を有している。第1のヒータ配線323aは、一端がパッド401と電気的に接続され、他端が横配線400と電気的に接続されている。第1の加熱領域323cは、例えば、
図2(b)において点線で示され、大小の矩形を組み合わせた形状を有する。
【0032】
第2のヒータ配線323bは、第2の加熱領域323dのSMA層320を加熱して形状回復させるものである。この第2のヒータ配線323bは、
図2(b)に示すように、第1のヒータ配線323aと同様に、効率よく広い範囲を加熱できるように折返し形状を有している。第2のヒータ配線323bは、一端がパッド401と電気的に接続され、他端が横配線400と電気的に接続されている。第2の加熱領域323dは、例えば、
図2(b)において点線で示され、第1の加熱領域323cと同様に大小の矩形を組み合わせた形状を有する。
【0033】
図2(b)に示すように、この第1の加熱領域323cと第2の加熱領域323dを挟むように対向して開口326が形成されている。開口326は、例えば、第1の加熱領域323cと第2の加熱領域323dの側面に沿って長く形成され、端部と中央が第1の加熱領域323cと第2の加熱領域323d方向に突出している。
【0034】
この開口326は、第1の加熱領域323cと第2の加熱領域323dにおけるSMA層320の形状回復を容易にするために形成されている。従って第1の加熱領域323cと第2の加熱領域323dの下方のSMA層320は、パッド401側の幅が中央側よりも狭く形成されている。
【0035】
また第1の加熱領域323c及び第2の加熱領域323dには、それぞれ開口327が形成されている。この開口327は、例えば、T字形状を有している。開口326及び開口327は、ヒータ層321及びSMA層320を貫通する開口である。
【0036】
図2(b)に示すように、アクチュエータ層32には、第1の加熱領域323c及び第2の加熱領域323dを連結するような連結部323eが設けられている。ピン345のピン下部346は、この連結部323eを中心とする接触領域325に接触する。
【0037】
縦配線410は、
図2(b)に示すように、ヒータ層321に設けられたスルーホール411を介して配線層323のパッド401と電気的に接続されると共に、パッド41と電気的に接続されている。
【0038】
(スプリング層34の構成)
スプリング層34は、キャップ層36の下に配置され、開口360を移動するピン345を有している。このスプリング層34のばね定数は、一例として、250N/mである。
【0039】
スプリング層34は、一例として、ネガティブレジストであるSU−8(登録商標:MicroChem社)を用いてキャップ層36と共に形成されている。スプリング層34及びキャップ層36は、このネガティブレジストを用いたフォトリソグラフィ法によって露光されて架橋した部分である。この架橋した部分は、エポキシ樹脂となっている。なおスプリング層34は、例えば、ポジティブレジストなどの他のレジストを用いても良い。
【0040】
スプリング層34は、
図2(d)に示すように、外枠340と、S字スプリング部341と、ピン345と、を備えて概略構成されている。S字スプリング部341は、薄い板形状を有している。そしてS字スプリング部341は、両端部(端部342及び端部343)が外枠340に支持され、ピン345の移動方向と逆向きの弾性力を生成する。この端部342及び端部343は、外枠340と一体とされている。
【0041】
ピン345は、S字スプリング部341の中央に形成されている。このピン345の下部であるピン下部346は、アクチュエータ層32と接触する。またピン345の上部であるピン上部347が駆動によりキャップ層36の開口360から突出する。
【0042】
外枠340及びピン下部346は、アクチュエータ層32に接着剤を介して接合されている。この接着剤は、一例として、エポキシ樹脂系の接着剤である。
【0043】
(キャップ層36の構成)
キャップ層36は、上述のようにスプリング層34と同じ材料を用いてスプリング層34と共に形成される。キャップ層36は、開口360を有し、この開口360をピン345が移動する。以下では、キャップ層36及びスプリング層34の製造方法の一例について説明する。
【0044】
(キャップ層36及びスプリング層34の製造方法)
図4(a)〜
図4(e)は、第1の実施の形態に係る触覚呈示装置の第1の構造体の製造方法の一例を示す概略図である。
図5(a)〜
図5(f)は、第1の実施の形態に係る触覚呈示装置の第2の構造体の製造方法の一例を示す概略図である。
図6(a)及び
図6(b)は、第1の実施の形態に係る触覚呈示装置の第1の構造体と第2の構造体の接合の一例を示す概略図である。
図4(a)〜
図5(f)は、上が平面図、下が平面図を図面中の一点鎖線で切断した断面を矢印方向から見た断面図である。
【0045】
キャップ層36及びスプリング層34の製造方法は、まず
図4(a)及び
図5(a)に示すように、第1の犠牲層51が形成された第1の基板50、及び第2の犠牲層61が形成された第2の基板60を準備する。この第1の犠牲層51及び第2の犠牲層61は、一例として、ノボラック樹脂系レジスト(例えば、東京応化工業社製 OFPR800−LB)である。そして第1の犠牲層51及び第2の犠牲層61の厚みは、一例として、2μmである。続いてまず第1の構造体58の形成の一例について説明する。
【0046】
第1のレジスト52の塗布、露光及び現像を繰り返し、他の部分と独立する独立部材55を有する第1の構造体58を形成するための第1の露光領域53と第1の非露光領域54を第1の犠牲層51上に形成する。
【0047】
具体的には、
図4(b)に示すように、スピンコート法によって第1の犠牲層51上に一層目の第1のレジスト52を塗布する。この第1のレジスト52は、上述のネガティブレジストである。また第1のレジスト52の厚みは、一例として、200μmである。次に
図4(c)に示すように、フォトマスクを介した露光を行って一層目の第1のレジスト52に第1の露光領域53と第1の非露光領域54を形成する。次に第1の露光領域53と第1の非露光領域54の上に二層目の第1のレジスト52を塗布する。次に
図4(d)に示すように、フォトマスクを介した露光を行って二層目の第1のレジスト52に第1の露光領域53と第1の非露光領域54を形成する。この二層目の第1のレジスト52の厚みは、一例として、200μmである。
【0048】
そして独立部材55として
図4(d)の中央の第1の露光領域53が形成される。この独立部材55の周囲の第1の露光領域53からなる第1の枠部材56は、4方向に隣接する他の第1の枠部材56と一体となっている。しかし独立部材55は、隣接する他の独立部材55とは独立している。
【0049】
次に独立部材55の周囲の第1の露光領域53又は第1の非露光領域54の一部の領域を残して他の領域を除去する。本実施の形態の第1のレジスト52は、ネガティブレジストであるので、
図4(e)に示すように、第1の非露光領域54の一部の領域(残領域57)を残して他の領域が除去され、第1の犠牲層51上に第1の構造体58が形成される。
【0050】
この第1の構造体58は、独立部材55と第1の枠部材56から構成されている。この独立部材55は、ピン345のピン上部347となる。
図4(e)に示す第1の枠部材56の下部は、キャップ層36となる。また
図4(e)に示す第1の枠部材56の上部は、スプリング層34の外枠340の一部となる。
【0051】
ここで独立部材55の周囲の残領域57は、
図4(e)に示すように、第1の犠牲層51上に最初に形成された構造体、つまり一層目の構造体の厚みよりも薄くなるように残される。このように薄く残されることによって接合後の残領域57の除去が容易となる。続いて第2の構造体68の形成の一例について説明する。
【0052】
図5(b)に示すように、第2のレジスト62の塗布、露光及び現像を繰り返して第2の構造体68を形成するための第2の露光領域63と第2の非露光領域64を第2の犠牲層61上に形成する。
【0053】
具体的には、
図5(b)に示すように、スピンコート法によって第2の犠牲層61上に一層目の第2のレジスト62を塗布する。この第2のレジスト62は、第1のレジスト52と同じレジストである。また第2のレジスト62の厚みは、一例として、50μmである。次に
図5(c)に示すように、フォトマスクを介した露光を行って一層目の第2のレジスト62に第2の露光領域63と第2の非露光領域64を形成する。
【0054】
次に第2の露光領域63と第2の非露光領域64の上に二層目の第2のレジスト62を塗布する。次に
図5(d)に示すように、フォトマスクを介した露光を行って二層目の第2のレジスト62に第2の露光領域63と第2の非露光領域64を形成する。この二層目の第2のレジスト62の厚みは、一例として、200μmである。
【0055】
次に第2の露光領域63と第2の非露光領域64の上に三層目の第2のレジスト62を塗布する。次に
図5(e)に示すように、フォトマスクを介した露光を行って三層目の第2のレジスト62に第2の露光領域63と第2の非露光領域64を形成する。この三層目の第2のレジスト62の厚みは、一例として、200μmである。
【0056】
上述の一層目により、S字スプリング部341となる弾性部材65が形成される。また弾性部材65の端部が繋がる第2の枠部材67の一部が形成される。そして三層目が形成されることにより、この弾性部材65上には、ピン345のピン下部346となるピン部材66が形成される。
【0057】
ここで第2の構造体58は、第2の枠部材67と、第2の枠部材67と一体となって弾性力を生成する弾性部材65と、を有している。また第1の構造体58は、上述のように、第2の枠部材67と接合される第1の枠部材56を有している。そして第1の構造体58の独立部材55は、後述するように弾性部材65に接合される。
【0058】
次に
図5(f)に示すように、第2の露光領域63又は第2の非露光領域64を除去すると共に第2の犠牲層61を除去して第2の構造体68を第2の基板60から分離する。本実施の形態の第2のレジスト62は、ネガティブレジストであるので、第2の非露光領域64が除去される。
【0059】
次に
図6(a)に示すように、分離した第2の構造体68を第1の構造体58に接合して接合体7を形成する。この接合は、一例として、エポキシ樹脂系の接着剤によって行われる。
【0060】
次に
図6(b)に示すように、残っている残領域57、及び第1の犠牲層51を除去して接合体7を第1の基板50から分離する。この分離した接合体7がスプリング層34及びキャップ層36となる。
【0061】
続いて以下に基板層30及びアクチュエータ層32の製造方法の一例について説明する。
【0062】
(基板層30及びアクチュエータ層32の製造方法)
図7(a)〜
図7(f)は、第1の実施の形態に係る触覚呈示装置の基板層及びアクチュエータ層の製造方法の一例を示す概略図である。
図7(a)〜
図7(f)は、上が平面図、下が
図7(b)に示す一点鎖線で切断した断面を矢印方向から見た断面図である。
【0063】
図7(a)に示すように、フラッシュ蒸着法により、銅(Cu)からなる基板層30の表面に、TiNiCu合金からなるSMA層320を形成する。そしてSMA層320に形状を記憶させるため、500℃で3時間、アニールを行う。この基板層30の厚みは、一例として、300μmである。SMA層320の厚みは、一例として、10μmである。
【0064】
次に
図7(b)に示すように、SMA層320の表面に感光性の絶縁材料を塗布し、フォトリソグラフィ法により、開口パターン322aを有する絶縁層322を形成する。絶縁材料の厚みは、一例として、2μmである。この感光性の絶縁材料は、一例として、ポリイミドである。
【0065】
次に
図7(c)に示すように、スパッタ法及びリフトオフ法に基づいて横配線400、パッド401、第1のヒータ配線323a及び第2のヒータ配線323bを有する配線層323を形成する。配線層323の厚みは、一例として、2μmである。
【0066】
次に
図7(d)に示すように、配線層323を保護するため、フォトリソグラフィ法により、開口パターン322a及びスルーホール411を有する絶縁層324を形成する。
【0067】
次にスパッタ法及びリフトオフ法に基づいて絶縁層324上に縦配線410を形成し、さらに縦配線410を保護するため、フォトリソグラフィ法によって絶縁層329を形成する。この絶縁層329は、一例として、ポリイミドである。縦配線410を形成する際、スルーホール411に配線材料が充填され、縦配線410とパッド401とが導通することにより、縦配線410と第2のヒータ配線323bとが導通する。
【0068】
次に
図7(e)に示すように、開口パターン322aに基づくレジストパターン328aを有するレジスト328を形成した後、LiCl−エタノール電解液を用いた電解エッチング法により、開口パターン322aに応じてSMA層320をエッチングする。
【0069】
次に
図7(f)に示すように、ウエットエッチング法により、第1の加熱領域323c及び第2の加熱領域323dの下方の基板層30を等方エッチングによりサイドエッチング(アンダーエッチング)を行って中空化し、その後レジスト328を除去して基板層30及びアクチュエータ層32を得る。
【0070】
なお変形例として上述の基板層30の中空化は、基板層30の裏面305に新たにレジストパターンを設け、裏面305側からウエットエッチング法あるいはドライエッチング法によって基板層30を貫通させて行われても良い。この中空化が行われた後、当該レジストパターンを除去して基板層30及びアクチュエータ層32を得る。
【0071】
続いて以下に触覚呈示装置1の製造方法の一例について説明する。
【0072】
(触覚呈示装置1の製造方法)
触覚呈示装置1の製造方法は、接合体7を形成し、接合体7の弾性力に抗して独立部材55を駆動するアクチュエータ層32を形成し、接合体7とアクチュエータ層32を接合する工程を含んでいる。この接合体7は、スプリング層34及びキャップ層36である。また独立部材55は、ピン345のピン上部347である。
【0073】
具体的には、上述のスプリング層34及びキャップ層36の製造方法によって接合体7を形成する。
【0074】
次に上述の基板層30及びアクチュエータ層32の製造方法によって基板層30が接合されたアクチュエータ層32を形成する。
【0075】
次にアクチュエータ層32に接合されるアクチュエータ層32の端部にステンシルマスクを介して常温硬化型接着剤を塗布する。このステンシルマスクは、例えば、厚みが20μmの銅箔であり、接着剤を塗布する位置に開口が設けられている。常温硬化型接着剤は、一例として、エポキシ樹脂系の接着剤である。
【0076】
次にキャップ層36が一体となったスプリング層34をアクチュエータ層32に接着する。この際、
図6(b)に示すように、スプリング層34の外枠340よりもピン下部346が突出しているので、接着によりアクチュエータ層32が湾曲して触覚呈示装置1のアクチュエータアレイ2が形成される。
【0077】
次に本体10、プリント基板12及びアクチュエータアレイ2を組み付けて必要な配線などを行って触覚呈示装置1を得る。
【0078】
続いて、以下に本実施の形態の触覚呈示装置1の動作の一例について説明する。
【0079】
(動作)
・垂直駆動について
触覚呈示装置1は、第1のヒータ配線323a及び第2のヒータ配線323bに電流が供給されると、この配線の温度が上昇すると共に、第1の加熱領域323c及び第2の加熱領域323dの下方のSMA層320の温度が上昇する。この電流は、周期的に供給される。この供給の周波数は、上述のように、一例として、30Hzである。
【0080】
第1の加熱領域323c及び第2の加熱領域323dの下方のSMA層320は、形状回復温度に達すると、
図3(a)に示す基準状態における湾曲した状態から
図3(b)に示す垂直駆動状態における記憶された湾曲が少ない状態へと形状回復を行う。この形状回復の結果、
図3(b)に矢印で示すように、ピン345が開口360から垂直方向に突出するように駆動され、操作指9に刺激を与える。
【0081】
そして触覚呈示装置1は、電流の供給が停止すると、SMA層320の温度が低下してスプリング層34の弾性力によってアクチュエータ層32が湾曲して基準状態へと移行する。触覚呈示装置1は、電流の供給が周期的に行われることにより、
図3(a)に示す基準状態と
図3(b)に示す垂直駆動状態とを繰り返し、操作指9に垂直方向の触覚を呈示する。
【0082】
・傾き駆動について
次に傾き駆動について説明する。この傾き駆動における電流の周波数は、垂直駆動と同じように、一例として、30Hzである。
【0083】
触覚呈示装置1は、第1のヒータ配線323aに電流が供給されると、第1のヒータ配線323aの温度が上昇すると共に、第1の加熱領域323cの下方のSMA層320の温度が上昇する。
【0084】
第1の加熱領域323cの下方のSMA層320は、形状回復温度に達すると、
図3(a)に示す基準状態における湾曲した状態から
図3(c)に示す傾き駆動状態における記憶された湾曲が少ない状態へと形状回復を行う。
【0085】
図3(c)に示すように、第2の加熱領域323dの下方のSMA320は、加熱されていないので、スプリング層34の弾性力によって湾曲したままであり、この状態で第1の加熱領域323cの下方のSMA層320が形状回復を行うと、ピン345が垂直に駆動されず、
図3(c)の矢印で示すせん断方向に、傾いて駆動される。従って操作指には、せん断方向の刺激が与えられる。このせん断方向は、例えば、
図3(c)の紙面右方向である。
【0086】
そして触覚呈示装置1は、電流の供給が停止すると、第1の加熱領域323cの下方のSMA層320の温度が低下してスプリング層34の弾性力によってアクチュエータ層32が湾曲して基準状態へと移行する。触覚呈示装置1は、電流の供給が周期的に行われることにより、
図3(a)に示す基準状態と
図3(c)に示す傾き駆動状態とを繰り返し、操作指9にせん断方向の触覚を呈示する。
【0087】
また触覚呈示装置1は、第2のヒータ配線323bに電流が供給されると、第2のヒータ配線323bの温度が上昇すると共に、第2の加熱領域323dの下方のSMA層320の温度が上昇する。
【0088】
第2の加熱領域323dの下方のSMA層320は、形状回復温度に達すると、基準状態における湾曲した状態から傾き駆動状態における記憶された湾曲が少ない状態へと形状回復を行う。ピン345は、第2の加熱領域323dが形状復帰した場合、
図3(c)に示す方向とは逆の方向(左方向)に傾き駆動される。
【0089】
そして触覚呈示装置1は、電流の供給が停止すると、第2の加熱領域323dの下方のSMA層320の温度が低下してスプリング層34の弾性力によってアクチュエータ層32が湾曲して基準状態へと移行する。触覚呈示装置1は、電流の供給が周期的に行われることにより、
図3(a)に示す基準状態と傾き駆動状態とを繰り返し、操作指9にせん断方向の触覚を呈示する。このせん断方向は、例えば、
図3(c)の紙面左方向である。
【0090】
なお触覚呈示装置1は、垂直駆動と傾き駆動とが組み合わされて行われても良い。
【0091】
(第1の実施の形態の効果)
本実施の形態の触覚呈示装置1の製造方法は、第1の犠牲層51の一部が除去されて位置がずれる可能性がある独立部材55の周囲の一部の残領域57を残した状態で第1の構造体58と第2の構造体68を接合するので、この方法を採用しない場合と比べて、接合するまで独立部材55の下の第1の犠牲層51が除去されることがなく、現像による部材の位置ずれを抑制することができる。
【0092】
触覚呈示装置1の製造方法は、現像による部材の位置ずれを抑制することができるので、高い精度でアクチュエータアレイ2を組み立てることができ、精度の高い触覚を呈示することができる。
【0093】
触覚呈示装置1の製造方法は、ピン345、スプリング層34及びキャップ層36が一体となった接合体7を形成することができるので、この構成を採用しない場合と比べて、アクチュエータ素子3を高密度に並べることができ、触覚呈示装置1を小型化することができる。
【0094】
触覚呈示装置1は、垂直方向と垂直方向から傾いた方向のピンの駆動を組み合わせて多様な触覚を呈示することができる。触覚呈示装置1は、第1の加熱領域323c又は第2の加熱領域323dを加熱することによって加熱された加熱領域の下方のSMA層320を形状回復させてピン345を傾き駆動することができるので、垂直駆動のみ行うものと比べて、垂直駆動と傾き駆動とを組み合わせて多様な触覚を呈示することができる。
【0095】
[第2の実施の形態]
第2の実施の形態は、触覚呈示装置1がスプリング層を備えていない点で第1の実施の形態と異なっている。
【0096】
図8(a)は、第2の実施の形態に係る触覚呈示装置の基準状態の一例を示す要部断面図であり、
図8(b)は、触覚呈示装置の垂直駆動状態の一例を示す要部断面図であり、
図8(c)は、触覚呈示装置の傾き駆動状態の一例を示す要部断面図である。なお以下に記載する実施の形態において、第1の実施の形態と同じ機能及び構成を有する部分は、第1の実施の形態と同じ符号を付し、その説明は省略するものとする。
【0097】
本実施形態の触覚呈示装置1は、
図8(a)〜
図8(c)に示すように、スプリング層34を備えていない構成となっている。
【0098】
この触覚呈示装置1の製造方法は、第1の犠牲層が形成された第1の基板を準備し、第1のレジストの塗布、露光及び現像を繰り返し、他の部分と独立する独立部材を有する第1の構造体を形成するための第1の露光領域と第1の非露光領域を第1の犠牲層上に形成し、独立部材の周囲の第1の露光領域又は第1の非露光領域の一部の領域を残して他の領域を除去し、残っている一部の領域、及び第1の犠牲層を除去して第1の構造体を第1の基板から分離することを含んでいる。
【0099】
さらに触覚呈示装置1の製造方法は、独立部材を駆動するアクチュエータ層を形成し、第1の構造体とアクチュエータ層を接合することを含む。
【0100】
以下に触覚呈示装置1の製造方法の一例について上述の
図4(a)〜
図4(e)、及び
図7(a)〜
図7(f)を参照しながら説明する。
【0101】
触覚呈示装置1の製造方法は、まず
図4(a)に示すように、第1の犠牲層51が形成された第1の基板50を準備する。
【0102】
次に、
図4(b)に示すように、スピンコート法によって第1の犠牲層51上に一層目の第1のレジスト52を塗布する。次に
図4(c)に示すように、フォトマスクを介した露光を行って一層目の第1のレジスト52に第1の露光領域53と第1の非露光領域54を形成する。次に第1の露光領域53と第1の非露光領域54の上に二層目の第1のレジスト52を塗布する。次に
図4(d)に示すように、フォトマスクを介した露光を行って二層目の第1のレジスト52に第1の露光領域53と第1の非露光領域54を形成する。
【0103】
そして独立部材55として
図4(d)の中央の第1の露光領域53が形成される。この独立部材55の周囲の第1の露光領域53からなる第1の枠部材56は、4方向に隣接する他の第1の枠部材56と一体となっている。しかし独立部材55は、隣接する他の独立部材55とは独立している。
【0104】
次に独立部材55の周囲の第1の露光領域53又は第1の非露光領域54の一部の領域を残して他の領域を除去する。本実施の形態の第1のレジスト52は、ネガティブレジストであるので、
図4(e)に示すように、第1の非露光領域54の一部の領域(残領域57)を残して他の領域が除去され、第1の犠牲層51上に第1の構造体58が形成される。
【0105】
次に、上述の
図7(a)〜
図7(f)で示す基板層30及びアクチュエータ層32の製造方法によって基板層30及びアクチュエータ層32を作成した後、第1の構造体58をアクチュエータ層32に接着する。
【0106】
次に第1の犠牲層51及び残領域57を除去して第1の構造体58を第1の基板50から分離する。次に本体10、プリント基板12及びアクチュエータアレイ2を組み付けて必要な配線などを行って触覚呈示装置1を得る。
【0107】
続いて本実施の形態の触覚呈示装置1の動作の一例について
図8(a)〜
図8(c)を参照しながら説明する。
【0108】
(動作)
・垂直駆動について
触覚呈示装置1は、第1のヒータ配線323a及び第2のヒータ配線323bに電流が供給されると、この配線の温度が上昇すると共に、第1の加熱領域323c及び第2の加熱領域323dの下方のSMA層320の温度が上昇する。
【0109】
第1の加熱領域323c及び第2の加熱領域323dの下方のSMA層320は、形状回復温度に達すると、
図8(a)に示す基準状態における湾曲した状態から
図8(b)に示す垂直駆動状態における記憶された湾曲が少ない状態へと形状回復を行う。この形状回復の結果、
図8(b)に矢印で示すように、ピン345が開口360から垂直方向に突出するように駆動され、操作指9に刺激を与える。
【0110】
そして触覚呈示装置1は、電流の供給が停止すると、SMA層320の温度が低下し、操作指9によって受動的にピン435が押し下げられてアクチュエータ層32が湾曲して基準状態へと移行する。触覚呈示装置1は、電流の供給が周期的に行われることにより、
図8(a)に示す基準状態と
図8(b)に示す垂直駆動状態とを繰り返し、操作指9に垂直方向の触覚を呈示する。
【0111】
・傾き駆動について
触覚呈示装置1は、第1のヒータ配線323aに電流が供給されると、第1のヒータ配線323aの温度が上昇すると共に、第1の加熱領域323cの下方のSMA層320の温度が上昇する。
【0112】
第1の加熱領域323cの下方のSMA層320は、形状回復温度に達すると、
図8(a)に示す基準状態における湾曲した状態から
図8(c)に示す傾き駆動状態における記憶された湾曲が少ない状態へと形状回復を行う。
【0113】
図8(c)に示すように、第2の加熱領域323dの下方のSMA320は、加熱されていないので湾曲したままであり、この状態で第1の加熱領域323cの下方のSMA層320が形状回復を行うと、ピン345が垂直に駆動されず、
図8(c)の矢印で示すせん断方向に、傾いて駆動される。従って操作指には、せん断方向の刺激が与えられる。このせん断方向は、例えば、
図8(c)の紙面右方向である。
【0114】
そして触覚呈示装置1は、電流の供給が停止すると、第1の加熱領域323cの下方のSMA層320の温度が低下し、操作指9によって受動的にピン435が押し下げられてアクチュエータ層32が湾曲して基準状態へと移行する。触覚呈示装置1は、電流の供給が周期的に行われることにより、
図8(a)に示す基準状態と
図8(c)に示す傾き駆動状態とを繰り返し、操作指9にせん断方向の触覚を呈示する。
【0115】
なお左方向の傾き駆動は、第1の実施の形態に示すように、第2のヒータ配線323bに電流が供給することによって行われる。
【0116】
(第2の実施の形態の効果)
本実施の形態の触覚呈示装置1は、スプリング層34を備えないので、製造コストを抑制することができる。
【0117】
以上述べた少なくとも1つの実施の形態の触覚呈示装置1によれば、現像による部材の位置ずれを抑制することが可能となる。
【0118】
以上、本発明のいくつかの実施の形態及び変形例を説明したが、これらの実施の形態及び変形例は、一例に過ぎず、特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。これら新規な実施の形態及び変形例は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更などを行うことができる。また、これら実施の形態及び変形例の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない。さらに、これら実施の形態及び変形例は、発明の範囲及び要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。