【実施例】
【0012】
まず、移動棚の実施例の概要を説明する。
図1において、移動棚1は、紙面に直交する方向に広がった物品の収納、取り出し面を有している。物品の収納、取り出し面を間口面という場合もある。本明細書では、上記間口面を正面とする。
図1は移動棚1の側面を示している。
【0013】
移動棚1は側面に側パネル10を有し、側パネル10によって回転操作可能なリング状のハンドル20が側パネル10の外側に突出させて設けられている。移動棚1の底部には走行車輪2が回転可能に支持されている。走行車輪2はレール3の上に載せられ、レール3上で走行車輪2が転がることにより、移動棚1はレール3に沿って移動することができる。移動棚1の移動方向は上記間口面に対し直交する方向である。
【0014】
ハンドル20は複数本のスポーク21を有し、スポーク21は、ハンドル20の中心部においてハブ22に集合している。ハンドル20と走行車輪2との間には、後で詳細に説明する動力伝達機構が介在している。上記動力伝達機構は減速機構になっていて、手動力によるハンドル20の回転操作で、移動棚1を軽快に移動させることができる。ハンドル20には取っ手23が取り付けられていて、取っ手23をつかんでハンドル20を回転操作するようになっている。
【0015】
通常、移動棚1は複数台がレール3の上に載せられ、物品の出し入れをしようとする移動棚1の前面に、作業に必要な空間を設け、他の移動棚1は収束させることができる。したがって、複数台の移動棚1を設置することにより、限られた空間を物品収納空間として利用することができる。上記移動棚1の前面に形成される作業に必要な空間を「作業通路」という。以下、本発明に係る移動棚の実施例をより詳細に説明する。
【実施例1】
【0016】
図2乃至
図6に第1の実施例を示す。
図2に示すように、移動棚1は、間口方向すなわち
図1において左右方向両端部にそれぞれ3本の支柱70を有している。各支柱70は、下端部が移動棚1の底部の台枠に固定され、上記台枠から垂直に立ち上がっている。各支柱70はチャンネル状の部材で、横断面が、正方形の一面を解放したU字状である。移動棚1の上記左右方向両端部の3本の支柱70のうち、移動棚1の前後に位置する支柱70は、上記解放した面を互いに内側に向けて配置されている。移動棚1のハンドル20を取り付けた側の3本の支柱70のうち、中央の支柱70は、上記解放した面を側パネル10側に向けて配置されている。
【0017】
移動棚1を正面から見て左右両側の前後の支柱70にまたがって棚受けが掛け止められ、左右両側の棚受けによって棚板74が支持されている。図示の例では、移動棚1の前後にそれぞれ棚板74が支持されている。
【0018】
ハンドル20が取り付けられた側の上記中央の支柱70の上記解放した面に近接して、ハンドル支持部材40が配置されている。換言すると、ハンドル支持部材40の背後に上記支柱70がある。
【0019】
図2乃至
図6において、側パネル10の内面側にはハンドル支持部材40が固定されている。
図1に示すように、ハンドル20は、人が立った姿勢で回転操作するのに適した移動棚1の高さ位置に設けられており、ハンドル20の高さ位置に対応した高さ位置にハンドル支持部材40が固定されている。
図2乃至
図4に示すように、ハンドル支持部材40は、金属板の両側縁部が折り曲げられ、この折り曲げ部が側パネル10にボルト等で結合されることにより、側パネル10の内面との間に適宜の空間をおいて固定されている。
【0020】
側パネル10とハンドル支持部材40を管状の軸(以下「管軸」という)24が貫通している。管軸24は、側パネル10の外側面側に配置された軸受26の内輪と、ハンドル支持部材40と側パネル10との間の上記空間に配置された軸受28の内輪とに結合されている。軸受26の外輪は側パネル10に結合され、軸受28の外輪はハンドル支持部材40の内面側に結合されている。したがって、管状の軸24は軸受26,28によって回転可能に支持されている。軸受26がメインの軸受けであり、これを第1の軸受けとし、軸受28を第2の軸受けとする。
【0021】
管軸24の側パネル10側の端部はハンドル20のハブ22の中心部に結合されている。リング状のハンドル20の内周部からは複数本(
図1に示す例では2本)のスポーク21が中心に向かって延び、各スポーク21はハブ22に集合しハブ22と結合している。側板10とハンドル支持部材40との間において、スプロケット60とロック板35が管軸24の外周に嵌められ、スプロケット60とロック板35は管軸24と一体に結合されている。したがって、ハンドル20と各スポーク21とハブ22と管軸24とスプロケット60とロック板35は、一体となって回転可能である。スプロケット60は側パネル10側にあり、スプロケット60と第2の軸受け28との間にロック板35がある。
【0022】
ハンドル支持部材40には、スプロケット60の斜め下方においてテイクアップ用のスプロケット80が支持されている。スプロケット60は、回転操作されるハンドル20の回転力を走行車輪2に伝達する動力伝達機構の一部を構成している。スプロケット80は、動力伝達機構を構成するチェーンの張力を調整するものである。ハンドル20の外周部には、ハンドル20を回転操作するときに使用することができる取っ手23が設けられている。動力伝達機構については後で詳細に説明する。
【0023】
上記ハブ22には、側パネル10との対向面側に円形の凹部25が形成されている。この凹部25に第1の軸受26が進入し、軸受26はハブ22で囲まれている。第1の軸受26は、従来は側パネル10の内面側に配置されていた。したがって、従来の移動棚は側パネル10とハンドル支持部材40との間の空間の幅が大きくなり、物品の収納効率を高めることができなかった。
図2乃至
図6に示す実施例によれば、側パネル10とハンドル支持部材40との間の空間の幅を小さくすることができ、物品の収納効率を高めることができる。
【0024】
前記ロック板35は、移動棚1を移動不能にロックするロック機構30の構成部材の一つである。ロック機構30は、ロック操作ノブ31と、ロック操作軸32と、腕33と、係合突起34と、ロック板35を有してなる。ロック操作軸32は管軸24を貫通している。ロック操作軸32の前端部は管軸24から突出し、ハブ22の前端側に形成されている窪み内にある。管軸24の前端から突出しているロック操作軸32の前端部に、ロック操作ノブ31の後端に形成されている中心孔が圧入されている。ロック操作ノブ31の前端部は、ハンドル20の前端よりも僅かに前方に突出している。ロック操作ノブ31を摘まんで引っ張り、また、ロック操作ノブ31を押すことによって、ロック操作軸32は管軸24に沿って摺動することができる。
【0025】
ロック操作軸32の後端部は管軸24およびハンドル支持部材40の背後に突出し、前記中央の支柱70の解放面から上記支柱70内に進入している。ロック操作軸32の後端には板状の腕33の基端部が結合されている。腕33は、ロック操作軸32からハンドル支持部材40と平行に横方向に伸びている。腕33の先端寄りの位置には係合突起34が固着されている。係合突起34は側パネル10の方に向かって延びていて、ハンドル支持部材40の孔を貫通している。係合突起34はロック板35の外周縁部に対向する位置にあり、
図3、
図4に示す態様では、係合突起34の先端とロック板35とが離間している。ロック操作ノブ31、ロック操作軸32、腕33、係合突起34を含む構成部分を「ロック操作部材」という。
【0026】
ロック板35は、
図5に示すように、円板の外周縁部に複数の切欠き351が等間隔で形成された歯車に似た形の部材である。ロック板35の切欠き351が形成されている外周縁部に対向して上記係合突起34が位置している。係合突起34がロック板35から離間している
図2、
図3に示す態様ではハンドル20を回転操作することができ、ハンドル20の回転操作によって移動棚1を移動させることができる。
【0027】
移動棚への物品の出し入れ作業を行う場合など、移動棚1が妄りに移動すると不都合が生じる場合には、ロック操作ノブ31を引き、上記「ロック操作部材」を移動させ、係合突起34をロック板35の切欠き351の一つに係合させる。この態様ではロック板35の回転が阻止されるため、ハンドル20もスプロケット60も回転することができず、前記走行車輪2への動力伝達機構も動作することができず、走行車輪2も回転することができない。よって、移動棚1は移動不能にロックされる。ロック操作ノブ31を押し込めば、係合突起34がロック板35から離間し、移動棚1のロックが解除される。
【0028】
このように、ロック機構30を構成するロック板35に対し、ロック機構30を構成する係合突起34を係合させ、また、離脱させることによって、移動棚1を移動不能にロックし、また、ロックを解除することができる。
【0029】
上記中央の支柱70には、
図6に示すように、「ロック操作部材」を構成するロック操作軸32およびこのロック操作軸32と一体の腕33に対する逃げとなる切り欠き71が形成されている。切り欠き71は、ロック機構30による上記ロックおよびロック解除動作時に、「ロック操作部材」の一部との干渉、図示の例ではロック操作軸32と支柱70との干渉を回避するために設けられている。
【0030】
支柱70の上記切り欠き71がないとすれば、ロック操作軸32および腕33と支柱70との干渉を回避するために、上記支柱70とハンドル支持部材40との間にロック操作軸32と腕33の動作に必要な空間を設ける必要がある。そのため、物品収容空間として機能しない無駄なスペースが生じ、移動棚の物品収容効率が低下する。
【0031】
その点、上記本発明の実施例によれば、支柱70に切り欠き71を設けたことによってロック操作軸32および腕33を支柱70内に侵入させることができ、支柱70とハンドル支持部材40とを密着させることができる。よって、物品収容空間として機能しない無駄なスペースがなくなり、移動棚1の物品収容効率を高めることができる。
【0032】
[ロック解除機構]
図5は、上記実施例にロック解除機構が付加された例を示す。
図5において、ハンドル支持部材40の背面側には、左上部において振り子82の上端部が水平方向の軸83によって吊り下げられている。振り子82の下端には錘84が固着されている。振り子82は、平常時は重力に沿って垂下しているが、地震によって移動棚1が揺れると、錘84とともに軸83を中心に揺動する。振り子82の上下の長さ方向の途中に、ロック操作軸32から横に伸びている上記腕33の一部が重なり、振り子82の上記揺動によって上記腕33に振り子82が当接する。したがって、地震によって振り子82が揺動すると、振り子82は腕33を移動させ、移動棚1のロックを解除する。
【0033】
移動棚1は、レール3の上を移動可能な状態にあるときは、地震エネルギーが移動棚1に伝達されず、免震効果があることが知られている。移動棚1への物品出し入れなどのために、ロック機構30によって移動棚1が移動不能にロックされているとき地震が起こると、上記ロック解除機構によってロックが解除され、移動棚1の免震機能が発揮される。
【実施例2】
【0034】
本発明に係る移動棚の第2の実施例について、
図7乃至
図9を参照しながら説明する。第2の実施例が前記実施例と異なる点は、ロック操作部材の構成と、ロック操作部材の一部と支柱との干渉を回避するための構成にあるので、この点について重点的に説明し、他の構成部分には共通の符号を付して説明は簡略化する。
【0035】
図7乃至
図9において、ロック操作軸32の後端部は、移動棚1の側パネル10側の前後3本の支柱70のうち、中央の支柱70の開放面72から上記支柱70内に進入している。ロック操作軸32の後端部には、上記支柱70内において腕38が固着されている。腕38は、支柱70と干渉することなく動作するように、支柱70の長さ方向に沿って垂下し、支柱70の内部空間にある。換言すれば、腕38は、支柱70の開放面から支柱70内に進入し、ロック操作軸32から支柱70内を縦方向に伸びている。腕38の先端部すなわち図において下端部からは、ロック板35の方に向かって係合突起39が突出している。
【0036】
係合突起39は、ハンドル支持部材40に設けられている孔を貫通し、係合突起39の先端がロック板35の周縁部に対向している。ロック操作ノブ31が押し込まれているときは係合突起39がロック板35から離間し、前述の通り、ハンドル20の回転操作によって移動棚1を移動させることができる。ロック操作ノブ31が引っ張られるとロック操作軸32、腕38を含むロック操作部材が移動し、係合突起39がロック板35の外周縁部の切欠き351の一つに係合し、前述の通り、移動棚1が移動不能にロックされる。
【0037】
第2の実施例によれば、ロック操作軸32および腕38を支柱70内に侵入させることができ、支柱70とハンドル支持部材40とを密着させることができる。よって、物品収容空間として機能しない無駄なスペースがなくなり、移動棚1の物品収容効率を高めることができる。支柱70に切り欠き71を設ける必要もない。
【0038】
[比較例]
本発明に係る移動棚の各実施例の効果を明確にするために、本発明の特徴的な構成を備えていない旧来の移動棚の例について説明する。前記実施例の構成部分と同じ構成部分には共通の符号を付している。
【0039】
図10乃至
図12において、移動棚100は、側パネル10の外側においてハンドル120が取り付けられている。ハンドル120は複数本のスポーク121を有し、各スポーク121はハンドル120の中心部のハブ122に結合されている。ハブ122の中心には管軸124が圧入されている。管軸124は、側パネル10の内面側に外輪が固定された第1の軸受26の内輪と、ハンドル支持部材40に外輪が固定された第2の軸受28の内輪に結合されている。もって、ハンドル120およびその管軸124は、回転自在に支持されている。
【0040】
側パネル10とハンドル支持部材40との間には空間があり、この空間においてスプロケット60とロック板35があり、スプロケット60とロック板35は管軸124の外周に一体に結合されている。スプロケット60にはチェーン61が掛けられ、チェーン61はまた移動棚100の底部に設けられているスプロケット62に掛けられている。チェーン61にはテイクアップ用のスプロケット80が押し当てられ、チェーン61に適宜の張力が与えられている。
【0041】
上記スプロケット62と一体にかつ軸線を共通にして小径のスプロケット63が一体に設けられている。前後の走行車輪のうち一方の走行車輪2の軸にスプロケット65が一体に設けられていて、スプロケット63とスプロケット65にチェーン64が架け渡されている。スプロケット60、チェーン61、スプロケット62,63、チェーン64、スプロケット65は、ハンドル120の回転力を走行車輪2に伝達する動力伝達機構を構成している。この動力伝達機構は減速機構を構成しており、重たい移動棚100であっても、手動によるハンドル120の回転操作によって容易に移動させることができる。
【0042】
図11、
図12に示すように、移動棚100はロック機構を備えている。ロック機構の一部を構成するロック板35は、側パネル10とハンドル支持部材40との間の空間内において、スプロケット60と第1の軸受26との間に配置されている。ロック操作部材は、ロック操作ノブ131と、ロック操作軸32と、腕133と、係合突起134を有してなる。ロック操作軸132と、腕133と、係合突起134は、1本の円柱状の部材を折り曲げることによって形作られている。腕133はハンドル支持部材40の外側面に沿って横方向に折り曲げられている。係合突起134は、ロック板35の外周縁部の切り欠きの一つに係合し、また離間して、移動棚100をロックしまたロックを解除する。
【0043】
図11、
図12は、ロック操作部材の別の構成も併せて示している。ロック操作部材の別の構成は、ロック操作軸132と一体の腕138が下方に折り曲げられている点が異なっている。腕138の先端部分はロック板35の方に向かって折り曲げられて係合突起139となっている。
【0044】
図10乃至
図12に示す移動棚の比較例では、ハンドル120を回転可能に支持する第1、第2の軸受26,28がともに側パネル10とハンドル支持部材40との間に形成される空間に配置されている。したがって、物品の収納に寄与しない側パネル10とハンドル支持部材40との間の空間が広くなり、移動棚の物品収容効率を低下させる。
【0045】
また、
図10乃至
図12に示す移動棚の比較例では、ハンドル支持部材40の背面側に出ているロック操作部材の一部と移動棚の支柱との干渉を避けるための対策は施されていない。したがって、ハンドル支持部材40と支柱との間に、ロック操作部材の作動に支障を来さないだけの空間を設ける必要があり、移動棚の物品収容効率を低下させる。
【0046】
本発明に係る移動棚の前記各実施例によれば、ハンドルのハブに形成した凹部にハンドルの軸受が進入しているため、側パネルとハンドル支持部材との間の空間の幅を小さくすることができ、物品の収納効率を高めることができる。
【0047】
本発明に係る移動棚の前記各実施例によれば、上記の効果のほか、以下のような効果を得ることができる。
側パネルとハンドル支持部材との間の空間の幅を小さくすることができるため、移動棚のハンドルを装着した側の側面に設けられるスペースを広くすることができる。これにより、台車やブックトラックなどを移動させるときの利便性が向上し、物品の出し入れ作業効率を高めることができる。
【0048】
ロック操作部材の一部を支柱内に進入させることができ、支柱とハンドル支持部材とを密着させることができる。よって、物品収容空間として機能しない無駄なスペースがなくなり、移動棚の物品収容効率を高めることができる。
【0049】
移動棚の正面側から見た側パネルの厚さ寸法を小さくすることができ、移動棚の外観がスリムになり、厳つい印象があった従来の移動棚と比較して、スマートな印象を与えることができる。
【0050】
従来のロック軸は、
図11、
図12に示すように、1本の丸棒を折り曲げたものであったが、図示の実施例のように、直線状のロック軸に腕を固着した構造にすることにより、ロック軸の奥行き寸法を小さくすることができる。これによって、ロック機構の奥行き寸法を小さくすることができ、移動棚の物品収容効率を高める要因の一つになっている。