【実施例】
【0035】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。実施例において使用した、近赤外線遮蔽剤の詳細を表1に記載し、紫外線吸収剤の詳細を表2に記載する。実施例(試験例)となるチオウレタン樹脂(眼鏡レンズ素材)の配合を表3に記載する。
【0036】
【表1】
【0037】
表1に記載の平均粒子径は、メジアン径(d50)である。表1に記載の分散媒は、MIBKがメチルイソブチルケトン、MeOHがメタノールである。
【0038】
【表2】
【0039】
【表3】
【0040】
表3に記載の有機ガラス基材(眼鏡レンズ素材)は、樹脂A,Bごとに以下のように調整した。なお、調整の際に近赤外線遮蔽剤の分散性を目視で確認した。
【0041】
樹脂Aは、2,5(又は2,6)-ビシクロ[2,2,1]ヘプタンビス(メチルイソシアネート)を含有するポリイソシアネート組成物49.7質量部に、硬化触媒としてジブチルチンジクロライド0.05質量部、内部離型剤としてアルキルリン酸エステル(アルコールC8〜C12)塩0.1質量部に、調色のためソルベントブルー33を30ppm、ソルベントレッド117を1.5ppm加え、表3に記載の近赤外線遮蔽剤と紫外線吸収剤を規定量添加し、液温20℃、窒素ガス雰囲気下で1時間充分に撹拌した。その後に4,7(5,7又は4,8)-ビス(メルカプトメチル)-3,6,9-トリチオ-1,11-ウンデカンジチオールを含有するポリチオール組成物25.9質量部と、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート)24.4質量部を添加し、液温20℃、窒素ガス雰囲気下で1時間充分に撹拌した。そして、真空ポンプを用いて液温20℃、1.33×10
2 Pa (1 Torr)で撹拌しながら1時間脱気し、5μmフィルターでろ過して屈折率1.60のポリチオウレタン系レンズ樹脂Aを調製した。
【0042】
樹脂Bは、m-キシリレンジイソシアネート50.6質量部に、硬化触媒としてジブチルチンジクロライド0.003質量部、内部離型剤としてアルキルリン酸エステル(アルコールC8〜C12)塩0.1質量部に、調色のためソルベントブルー33を65ppm、ソルベントレッド117を3ppm加え、表3に記載の近赤外線遮蔽剤と紫外線吸収剤を規定量添加し、液温20℃、窒素ガス雰囲気下で1時間充分に撹拌した。その後に4,7(5,7又は4,8)-ビス(メルカプトメチル)-3,6,9-トリチオ-1,11-ウンデカンジチオールを含有するポリチオール組成物49.4質量部添加し、液温20℃、窒素ガス雰囲気下で30分間充分に撹拌した。そして、真空ポンプを用いて液温20℃、1.33×10
2 Pa (1 Torr)で撹拌しながら30分脱気し、5μmフィルターでろ過して屈折率1.67のポリチオウレタン系レンズ樹脂Bを調製した。
【0043】
有機ガラス基材の成形は、注型成形法で行い、成形型は、凸面側モールドと凹面側モールドとをレンズの中心の間隔が2.0mmとなるように粘着テープ(PET)でテーピングをして、有機ガラス基材成形用のキャビティを有する成形型を作成した。
【0044】
眼鏡レンズ素材となるチオウレタン樹脂は、表3の配合で混合されたものが成形型に注入され、加熱硬化させることによって成形した。加熱条件は、樹脂Aが25℃から130℃まで16時間かけて昇温させ130℃で2時間保持した後に室温まで冷却する、樹脂Bが25℃から120℃まで16時間かけて昇温させ120℃で4時間保持した後に室温まで冷却するとした。
【0045】
脱型した後、有機ガラス基材は、凹面と外周とが切削・研磨され、直径70mmのSPH(球面(D))が−8.00の眼鏡用素材(眼鏡レンズ)とした。これらについて、光学特性評価性能として、視感透過率(380〜780nm)、平均分光透過率(380〜400nm)及び日射透過率(780〜2500nm)を測定し、耐久性の評価として、耐熱性試験及び耐UV性試験による評価を行った。これらの評価方法と近赤外線遮蔽剤の分散性の評価方法を以下に記載する。
【0046】
<分散性>
分散性は、近赤外線遮蔽剤の分散性を目視で確認し、以下のように評価した。○:全ての粒子が均一に分散している、△:分散していない“ままこ”が存在(20%以下)し、“ままこ”の全てがフィルターでろ過できる、×:分散していない“ままこ”が存在(20%を超える)し、“ままこ”がフィルターでろ過できない。
【0047】
<視感透過率(380〜780nm)>
分光透過率測定値(眼鏡レンズ素材の波長ごとの光に対する透過率)を以下の装置で測定し、以下の規格に準拠して求めた。なお、測定位置は、光学特性の測定であることから、眼鏡レンズ素材の幾何中心とした。
・装置:分光光度計U−4100(株式会社日立ハイテクサイエンス製)
・規格:屈折補正用眼鏡レンズの透過率の仕様及び試験方法(JIS T 7333:2005)
【0048】
そして、視感透過率(380〜780nm)は、以下のように評価した。○:80%以上、△:70%以上80%未満、×:70%未満。視感透過率は、低いと視界が悪くなるため、視感透過率は、その数値が高い方が良い評価となる。
【0049】
<平均分光透過率(380〜400nm)>
上記の装置と規格を用いて、380〜400nm間の各波長の分光透過率測定し、その平均値を求めた。そして、平均分光透過率(380〜400nm)は、以下のように評価した。○:5%以下、△:5%を超え10%以下、×:10%を超える。紫外線は、目に入ると白内障や黄斑変性症を引き起こすおそれがあるため、平均分光透過率(380〜400nm)は、その数値が低い方が良い評価となる。
【0050】
<日射透過率(780〜2500nm)>
780〜2500nm間の各波長の分光透過率を以下の装置で測定し、以下の規格に準拠して求めた。
・装置:分光光度計U−4100(株式会社日立ハイテクサイエンス製)
・規格:板ガラス類の透過率・反射率・放射率・日射熱取得率の試験方法(JIS R 3106:1998)
【0051】
そして、日射透過率(780〜2500nm)は、以下のように評価した。○:30%以下、△:30%を超え40%以下、×:40%を超える。近赤外線は、目に入ると白内障を引き起こすおそれがあるため、日射透過率(780〜2500nm)は、その数値が低い方が良い評価となる。
【0052】
<耐熱性試験>
有機ガラス基材を130℃で1時間加熱し、加熱前後の色差(ΔE)を以下の規格に準拠して測定した。
・規格:色の表示方法−XYZ表色系及びX
10Y
10Z
10表色系(JIS Z 8701:1999)
【0053】
そして、色差(ΔE)は、以下のように評価した。○:2以下、△:2を超え5以下、×:5を超える。色差(ΔE)は、その数値が大きいほど加熱前後の色の差が大きくなるため、その数値が低い方が良い評価となる。
【0054】
<耐UV性試験>
有機ガラス基材をUV照射(退色試験用水銀ランプ(400W)から300mmの距離で24時間照射)し、照射前後の日射透過率(780〜2500nm)を測定し、その変化率(%)を求めた。
【0055】
そして、変化率(%)は、以下のように評価した。○:10%以下、△:10%を超え20%以下、×:20%を超える。変化率(%)は、その数値が大きいほどUV照射前後の日射透過率(780〜2500nm)の差が大きくなるため、その数値が低い方が良い評価となる。
【0056】
以下に、試験例の結果を記載する。なお、試験例1〜6が実施例であり、試験例7〜9が比較例である。
【0057】
(試験例1)
試験例1は、ベストモードとなる実施例であり、樹脂A(チオウレタン系熱硬化性樹脂)に、複合タングステン酸化物近赤外線遮蔽剤をMIBKに分散させたIRS1とベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤であるUVA1を添加したものである。近赤外線遮蔽剤分散液のIRS1は、MIBKに分散されているため、イソシアネート組成物に均一に分散させることができた。眼鏡レンズ素材は、視感透過率が高いため視界が確保されており、紫外線平均分光透過率が低く紫外線が十分にカットされ、日射透過率が低く近赤外線が十分に遮蔽されていた。また、耐熱性試験の加熱前後の色差は小さく、耐UV性試験にて照射後の近赤外線遮蔽効果に遜色は見られなかった。
【0058】
(試験例2)
試験例2は、試験例1と比較して、樹脂を樹脂B(チオウレタン系熱硬化性樹脂)に変更し、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤をUVA2に変更したものである。分散性、視感透過率、紫外線平均分光透過率、日射透過率及び耐熱性試験は、試験例1同様に良好であったものの、耐UV性試験の照射後の近赤外線遮蔽効果が僅かながら劣るものであった。
【0059】
(試験例3)
試験例3は、試験例1と比較して、紫外線吸収剤を添加しなかったものである。分散性、視感透過率、日射透過率及び耐熱性試験及び耐UV性試験は、試験例1同様に良好であったものの、紫外線吸収剤が含有されていないため、紫外線平均分光透過率がやや高く紫外線が十分にカットされなかった。
【0060】
(試験例4)
試験例4は、試験例1と比較して、複合タングステン酸化物近赤外線遮蔽剤をトルエンに分散させたIRS2に変更したものである。分散性、視感透過率、紫外線平均分光透過率及び日射透過率は、試験例1同様に良好であったものの、トルエンが全て揮発しなかったためか、耐熱性試験の加熱前後の色差がやや大きく、耐UV性試験の照射後の近赤外線遮蔽効果が僅かながら劣るものであった。なお、表中には記載しなかったが、トルエンが全て揮発しなかったためか、試験例4の眼鏡レンズ素材は、耐衝撃性試験などの評価による強度がやや劣るものであった。
【0061】
(試験例5)
試験例5は、試験例1と比較して、複合タングステン酸化物近赤外線遮蔽剤をメタノールに分散させたIRS3に変更したものである。分散性、視感透過率、紫外線平均分光透過率及び日射透過率は、試験例1同様に良好であったものの、メタノールに起因する硬化不良が僅かに確認でき、耐熱性試験の加熱前後の色差がやや大きく、耐UV性試験の照射後の近赤外線遮蔽効果が僅かながら劣るものであった。
【0062】
(試験例6)
試験例6は、試験例1と比較して、複合タングステン酸化物近赤外線遮蔽剤を粉体状のIRS4に変更したものである。IRS4は、イソシアネート組成物に分散可能であるものの、分散性がやや劣り、分散しない“ままこ”が確認できた。なお、“ままこ”の量は少なく、フィルターで除去が可能な量であった。視感透過率及び紫外線平均分光透過率は、試験例1同様に良好であったものの、日射透過率がやや大きく、耐熱性試験の加熱前後の色差がやや大きく、耐UV性試験の照射後の近赤外線遮蔽効果が僅かながら劣るものであった。未分散の複合タングステン酸化物近赤外線遮蔽剤が除去されたことにより、眼鏡レンズ素材に規定量の複合タングステン酸化物近赤外線遮蔽剤が含有されなかったことが原因と考えられる。
【0063】
(試験例7)
試験例7は、試験例1と比較して、複合タングステン酸化物近赤外線遮蔽剤に替えて粉体状の酸化チタンのIRS5を用いたものである。分散性、視感透過率、紫外線平均分光透過率及び日射透過率は、試験例1同様に良好であったものの、耐熱性試験の加熱前後の色差が大きく、耐UV性試験の照射後の近赤外線遮蔽効果が劣るものであった。複合タングステン酸化物近赤外線遮蔽剤と比較して、酸化チタンの近赤外線遮蔽効果が劣ることが原因と考えられる。
【0064】
(試験例8)
試験例8は、試験例1と比較して、複合タングステン酸化物近赤外線遮蔽剤に替えて粉体状のアミニウム塩系化合物のIRS6を用いたものである。分散性、視感透過率及び紫外線平均分光透過率は、試験例1同様に良好であったものの、日射透過率が大きく、耐熱性試験の加熱前後の色差が大きく、耐UV性試験の照射後の近赤外線遮蔽効果が劣るものであった。複合タングステン酸化物近赤外線遮蔽剤と比較して、アミニウム塩系化合物の近赤外線遮蔽効果と耐久性が劣ることが原因と考えられる。なお、アミニウム塩系化合物は、テトラキス(アミノフェニル)フェニレンジアミンの誘導体の一つである。
【0065】
(試験例9)
試験例9は、試験例1と比較して、複合タングステン酸化物近赤外線遮蔽剤に替えて粉体状のフタロシアニン系化合物のIRS7を用いたものである。分散性、視感透過率及び紫外線平均分光透過率は、試験例1同様に良好であったものの、日射透過率が大きく、耐熱性試験の加熱前後の色差が大きく、耐UV性試験の照射後の近赤外線遮蔽効果が劣るものであった。複合タングステン酸化物近赤外線遮蔽剤と比較して、フタロシアニン系化合物の近赤外線遮蔽効果と耐久性が劣ることが原因と考えられる。