特許第6703715号(P6703715)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6703715
(24)【登録日】2020年5月13日
(45)【発行日】2020年6月3日
(54)【発明の名称】複合容器
(51)【国際特許分類】
   F17C 1/06 20060101AFI20200525BHJP
【FI】
   F17C1/06
【請求項の数】5
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2017-547641(P2017-547641)
(86)(22)【出願日】2016年6月17日
(86)【国際出願番号】JP2016068088
(87)【国際公開番号】WO2017073108
(87)【国際公開日】20170504
【審査請求日】2019年5月16日
(31)【優先権主張番号】特願2015-209593(P2015-209593)
(32)【優先日】2015年10月26日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】593166462
【氏名又は名称】サムテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114030
【弁理士】
【氏名又は名称】鹿島 義雄
(72)【発明者】
【氏名】西脇 秀晃
(72)【発明者】
【氏名】東條 千太
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 純三
(72)【発明者】
【氏名】眞田 誠
【審査官】 佐藤 正宗
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−101397(JP,A)
【文献】 特公昭44−1759(JP,B1)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0118857(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F17C 1/06
B29C 70/16
F16J 12/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状の胴部を挟んで左右両端に椀状のドーム部を有するライナの外周面に、FRPを巻き付けた複数のFRP層を積層した構造の複合容器であって、
前記FRP層には、前記胴部全体に前記FRPがフープ巻で巻き付けられるフープ層と、前記ドーム部および少なくとも前記ドーム部近傍の胴部に前記FRPが巻き付けられるドーム部補強層とが含まれ、
前記ドーム部補強層は、前記ドーム部で前記FRPが螺旋状に巻き付けられるとともに、前記ライナの軸線方向に対する前記FRPの配向角が前記胴部上において前記胴部中央に向かって進むにつれて連続的に変化するように巻き付けられることを特徴とする複合容器。
【請求項2】
前記ドーム部補強層は、前記FRPが前記左右のドーム部および前記胴部全体にわたって連続して巻き付けられ、前記ライナの軸線方向に対する前記胴部上での配向角が、前記胴部中央に向かって進むにつれて連続的に小さくなる請求項1に記載の複合容器。
【請求項3】
前記ドーム部補強層は、前記FRPが前記胴部中央には巻き付けられずに前記胴部上で左右に分離するように巻き付けられ、前記FRPが巻き付けられた胴部上の領域での前記ライナの軸線方向に対する配向角が前記胴部中央に向かって進むにつれて連続的に大きくなり、最も中央寄りの位置で配向角が最大になる請求項1に記載の複合容器。
【請求項4】
前記FRPはトウプリプレグである請求項1〜請求項3のいずれかに記載の複合容器。
【請求項5】
前記FRP層には前記フープ巻層と前記ドーム部補強層とともに、少なくとも1層のヘリカル巻層が含まれる請求項1〜請求項4のいずれかに記載の複合容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属製またはプラスチック製の筒状ライナに、樹脂含浸繊維(FRPとも称する)を巻き付けた繊維強化プラスチック層(FRP層とも称する)を形成して強度補強した複合容器に関する。
【背景技術】
【0002】
ライナの外周面をFRP層で補強した複合容器は種々の分野で使用されている。例えば燃料電池車では、水素ガスを充填する車載用の細長い筒状の高圧タンクとして、絶縁塗装がなされたアルミ合金製の軽量な金属ライナの外周面にFRP層を形成した複合容器が使用されている。
【0003】
複合容器では、金属ライナ等にFRPを巻き付ける際に、フィラメントワインディング法が用いられる。後記特許文献1では、FRPに炭素繊維やガラス繊維にエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂を含浸させたものを使用し、フィラメントワインディング法により金属ライナの長尺方向のライナ軸に沿ってフープ巻のFRP層(フープ層という)とヘリカル巻のFRP層(ヘリカル層という)を積層するように巻き付けることで補強した複合容器が開示されている。
【0004】
ここで、フープ巻とは、ライナの胴部にFRPを周方向に巻回する巻付方法をいい、具体的にはライナの(胴部の)軸線方向に対する巻き付け角(以下、配向角と称する)が86−90度で巻回する巻付方法をいう。フープ巻は、隣接するFRPが互いに接してFRP間に隙間なく巻き付けられる。また、ヘリカル巻とは、ライナの一方のドーム部(鏡部ともいう)から胴部を経て他方のドーム部まで螺旋状に配向角が85度以下の一定角度で巻回する巻付方法をいう。ヘリカル巻では隣接するFRP間に隙間が形成されている。
【0005】
図8は従来の複合容器の断面構造の一例を示す図である。車載用のような細長い複合容器では、ライナ1の外表面に、少なくとも一層のフープ層2と、少なくとも1層のヘリカル層3とを積層することにより、圧力容器としての強度を補強するようにしている。図8の例では、補強強度を高めるためにフープ層2とヘリカル層3とを交互に3層ずつ積層してある。
これらのうち、フープ層2は専ら胴部4の強度補強を目的として巻き付けられ、ヘリカル層3は左右のドーム部5,6の周囲の補強およびライナ1の軸方向強度の補強を主目的として巻き付けられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−236587号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
図9は、図8のヘリカル層3の巻付方法を示す正面図である。ヘリカル層3は、一端側のドーム部5に形成された口金7の近傍を(一周目の)始点としてFRPが巻き始められ、胴部4では螺旋状に巻き付けられる。続いて他端側のドーム部6に形成された口金8の周りを周回して再び胴部4に螺旋状に巻き付けられ、ドーム部5の口金7まで戻って周回し、(一周目の)始点から口金7周囲で少し移動した位置(二周目の始点となる位置)まで巻き付けられる。続いて、この二周目の始点からFRPが巻き始められ、再び胴部4に螺旋状に巻き付けられる。このとき、一周目のFRPからは少し離れて並行するように二周目のFRPが巻き付けられ、口金8の周りを周回して再び胴部4に螺旋状に巻き付けられ、ドーム部5の口金7まで戻って周回し、(二周目の)始点から少し移動した位置(三周目の始点となる位置)まで巻き付けられる。その後、FRPは口金7の周りで始点の位置を少しずつ移動しながら複数回同様に巻き付けられて、少なくとも、再び始点が最初の始点に戻るまで同様のヘリカル巻が繰り返されるようにしてライナ1の全面を完全に覆うように巻き付けられる。
【0008】
このようにして巻き付けられたヘリカル層3は、胴部4を覆うFRPがほぼ一定の配向角で網目状の模様をなすように巻かれている。
【0009】
ところで、ヘリカル層3は、ドーム部5と口金7の周囲の補強およびライナ1の軸方向強度の補強が主目的であるが、細長い胴部4についてはFRPが(斜めに)螺旋状に巻き付けられることから、胴部4に対しても補助的に補強していることになる。
【0010】
しかしながら、胴部4については、図8に示すようにフープ層2によって十分に補強されているので、フープ層2とヘリカル層3とにより重複して補強していることになる。その結果、胴部4の補強という点では望ましい面もあるが、胴部4の補強についてはフープ層2で補強する方がより効率的である。むしろヘリカル層3によって胴部4に巻き付けられるFRPの重量が増すことにより、容器重量が増えるとともに外径が太くなるという弊害が生じていた。
【0011】
特に、複合容器では安全性および耐圧性の観点から、フープ層2とヘリカル層3とを、交互に多重層をなすように積層することが一般的に行われているが、その場合、ヘリカル層3の層数が増えるほど胴部4の重量増加が顕著になっており、特に胴部4が細長い形状ほどその傾向が顕著になっていた。
【0012】
本発明は、上記課題を解決し、ヘリカル層は必要最小限(あるいは不要)とし、ドーム部の補強は従来と同様に行いつつ、胴部でのFRPの使用量を抑えるようにした複合容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するためになされた本発明の複合容器は、筒状の胴部を挟んで左右両端に椀状のドーム部を有するライナの外周面に、FRPを巻き付けた複数のFRP層を積層した構造の複合容器であって、前記FRP層には、前記胴部全体に前記FRPがフープ巻で巻き付けられるフープ層と、前記ドーム部および少なくとも前記ドーム部近傍の胴部に前記FRPが巻き付けられるドーム部補強層とが含まれ、前記ドーム部補強層は、前記ドーム部で前記FRPが螺旋状に巻き付けられるとともに、前記ライナの軸線方向に対する前記FRPの配向角が前記胴部上において前記胴部中央に向かって進むにつれて連続的に変化するように巻き付けられている。
【0014】
本発明によれば、ライナ外周面に積層する複数層のFRP層のうち、ヘリカル層の層数を減らして、ドーム部補強層に置き換える。ドーム部補強層では胴部における配向角を連続的に変化させるように巻き付けることにより、胴部中央付近に巻き付けられるFRPの重量が低減する。
具体的には、FRPを左右のドーム部から胴部全体にわたって連続して巻き付けるとともに、ライナの軸線方向に対する胴部上でのFRPの配向角が、胴部中央に向かって進むにつれて連続的に小さくなるようにして、胴部中央で配向角が最も小さくなるようにする(請求項2)。
あるいは、FRPを胴部中央には巻き付けずに胴部上で左右に分離するように巻き付け、FRPを巻き付けた胴部上の領域でのライナの軸線方向に対するFRPの配向角が胴部中央に向かって進むにつれて連続的に大きくなり、最も中央寄りの位置で配向角が最大になるようにして、この位置で巻き付ける方向を反転させるようにする(請求項3)。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ヘリカル巻で巻き付けたFRP層に比して、胴部中央付近のFRPの巻き付け量を実質的に減らすことができるので、FRP層の重量を低減させつつドーム部を補強することができる。なお、胴部の補強はフープ巻のFRP層で別途補強されるので、ヘリカル層をドーム部補強層に置き換えても胴部の強度についての支障は生じない。
【0016】
上記発明においてFRPには、巻き付ける前に、予め繊維(炭素繊維等)に樹脂(エポキシ樹脂等)を含浸させてあるトウプリプレグを使用するのが好ましい。トウプリプレグは粘着性を有するので、配向角を変化させながら巻き付ける場合でも、緩むことなくしっかりと巻き付けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施例である複合容器の断面構造を示す図。
図2図1におけるドーム部補強層9aのFRP巻付方法の一例を示す図。
図3図2同様のドーム部補強層9aのFRP巻付方法の他の一例を示す図。
図4図1におけるドーム部補強層9bのFRP巻付方法の一例を示す図。
図5】ドーム部補強層9aの厚さ分布の一例を示す図。
図6】ドーム部補強層9bの巻付範囲の一例を示す図。
図7】ドーム部補強層を有する複合容器の多層構造の一例を示す図。
図8】従来の複合容器の断面構造を示す図。
図9図8におけるヘリカル層の巻付方法を示す正面図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下において本発明に係る複合容器の構成について図面に基づいて説明する。図1は本発明の一実施例である複合容器の断面構造を示す図である。なお、以下の説明において、図8で示した従来例の複合容器と同じ構成部分については、同符号を付すことにより説明の一部を省略する。
【0019】
この複合容器Aは、絶縁塗装がなされたアルミ合金製のライナ1の外表面に、炭素繊維にエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂を含浸させたFRPを巻き付けて多層のFRP層を積層してある。なお、FRPには、巻き付ける前に、予め、熱硬化樹脂を含浸させたトウプリプレグが用いられる。FRP層は、内側からフープ層2、ヘリカル層3、フープ層2を積層し、その外側にドーム部補強層9a、フープ層2、ドーム部補強層9bをさらに積層してある。すなわち、ヘリカル層3あるいはドーム部補強層9a,9bと、フープ層2とが、交互に積層するようにしてある。
【0020】
ドーム部補強層9a,9bは、従来のヘリカル層3に代えてドーム部5,6を補強するための層であり、本実施例では二つのドーム部補強層9a,9bに対して異なる種類の巻付方法を採用している。まず、第一のドーム部補強層9aの構造について説明する。
図2はドーム部補強層9aのFRPの巻付方法の一例を示す図である。ドーム部補強層9aは、一端側のドーム部5に形成された口金7近傍を(一周目の)始点として、FRPがドーム部5上に螺旋状に巻き付けられ、筒状の胴部4に至る。そして胴部4上では、ライナ1の軸線方向L(ライナ1の両端中心を結んだ測地線と同じ方向)に対して、FRPが巻き付けられる配向角が、胴部中央Cに向かって進むにつれて連続的に小さく変化するように巻き付けられる。すなわち胴部中央Cでの配向角αと、胴部左端部Dでの配向角βとが、
α<β
の関係になるように巻き付けられている。
【0021】
そして、胴部中央Cから他端の胴部右端部Eに向かうにつれ、再び配向角が増加して胴部右端部Eで配向角βとなり、続いてドーム部6に螺旋状に巻き付けられ、口金8部分を周回して再び胴部4に至る。胴部4上では、先ほどと同様に、ライナ1の軸線方向Lに対して、FRPが巻き付けられる配向角が、胴部中央Cに向かって進むにつれて連続的に小さく変化するように巻き付けられ、胴部中央Cでの配向角αと、胴部右端部Eでの配向角βとが、
α<β
の関係になるように巻き付けられている。
【0022】
そして、胴部中央Cから胴部左端部Dに向かうにつれ、再び配向角が増加して胴部左端部Dで配向角βとなり、続いてドーム部5で螺旋状に巻き付けられ、口金7部分を周回し、(一周目の)始点から口金7周囲の少し移動した位置(二周目の始点となる位置)まで巻き付けられる。続いて、この位置を二周目の始点として、FRPがドーム部5上に螺旋状に巻き付けられ、筒状の胴部4に至る。このとき、一周目のFRPからは少し離れて並行するように二周目のFRPが巻き付けられる。以下同様に口金7と口金8の間を往復するように巻き付けられ、再び始点が最初の始点に戻るまで同様の巻付方法が繰り返され、ライナ1の全周を完全に覆うまで巻き付けられる。
【0023】
このような巻付方法を採用することにより、従来のヘリカル層3に比べて胴部中央C付近でのFRPの平均厚さが小さくなり、FRPの重量を大きく低減することができる。
【0024】
なお、図3は胴部中央CでのFRPの配向角αを0度にしたときのドーム部補強層9aの正面図である。胴部中央Cでの配向角を0度とすることにより、図2に示した巻付方法における胴部中央CでのFRPの重量を最も低減することができる。
【0025】
次に、第二のドーム部補強層9bの構造について説明する。図4は、ドーム部補強層9bのFRPの巻付方法の一例を示す図である。ドーム部補強層9bは、ドーム部補強層9aとは異なり、図4に示す通りFRPが胴部中央C付近には巻き付けられずに、胴部4上のドーム部5,6に近い領域へ左右に分離するように巻き付けられる。
【0026】
すなわち、ドーム部補強層9bは、一端側のドーム部5に形成された口金7近傍を(一周目の)始点として、FRPがドーム部5上に螺旋状に巻き付けられ、筒状の胴部4に至る。そして、胴部4上ではライナ1の軸線方向Lに対して、FRPが巻き付けられる配向角が、胴部左端部Dから胴部中央C側に向かって進むにつれて連続的に大きく変化するように巻き付けられ、最も中央寄りの反転位置Fでの配向角γが最大(約90度)になり、ここで巻き付け方向が反転し、再び配向角が小さく変化するように巻き付けられる。したがって胴部左端部Dの配向角βと反転位置Fでの配向角γとは、
β<γ
の関係になるように巻き付けられる。
【0027】
続いて、胴部左端部Dから再びドーム部5に螺旋状に巻き付けられ、口金7部分を周回し、(一周目の)始点から口金7周囲の少し移動した位置(二周目の始点となる位置)まで巻き付けられる。続いてこの位置を二周目の始点としてドーム部5上を螺旋状にFRPが巻き付けられ、筒状の胴部4に至る。このとき一周目のFRPからは少し離れて並行するように二周目のFRPが巻き付けられる。以下同様に口金7と反転位置Fの間を往復するように巻き付けられ、再び始点が最初の始点に戻るまで同様の巻付方法が繰り返されてライナ1のドーム部5から反転位置Fまでの全周を完全に覆うまで巻き付けられる。
【0028】
その後、ドーム部6側についても同様に巻き付けられ、ドーム部6から反転位置Gまでの全周を完全に覆うまで巻き付けられるようにしてある。
【0029】
このような巻付方法を採用することにより、反転位置F付近の平均厚さは増大する(局所的に巻き付け重量が増大する)が、胴部全体としては、ヘリカル層3に比べて胴部中央C付近でのFRPの重量をさらに大きく低減することができるようになる。
【0030】
(変形例)
上記実施例では、ドーム部補強層9aとドーム部補強層9bとを混合した巻付方法にしたが、2層とも上述したドーム部補強層9a、あるいはドーム部補強層9bとしてもよい。
また、上記実施例ではドーム部補強層を2層形成したが、1層だけ形成した場合でも同様の効果を奏することができる。また、逆に、ドーム部補強層9aやドーム部補強層9bの層数を増やしてもよい。いずれの場合も、同数のヘリカル層3を巻き付ける場合に比して、重量を低減させつつ、同等の補強効果を得ることができる。
また、上記実施例では両端に口金7,8を有しているが、片側だけに口金を設けた場合でも、ダミーの口金を設けて同様の巻付方法を実施することができる。
さらに、上記実施例ではヘリカル層3を一層残したが、ヘリカル層3を設けず、3層ともをいずれかのドーム部補強層にしてもよい。
また、上記実施例ではフープ層2をドーム部補強層9a、ドーム部補強層9b、ヘリカル層3の間に交互に積層するようにしたが、一部を省略してもよい。例えばドーム部補強層9aとドーム部補強層9bとは巻き方が異なるので、これらの間のフープ層2を省略するようにしてもよい。
【0031】
(実施例)
本発明のドーム部補強層9a,9bを採用した複合容器による重量低減の効果について確認するために、上述した二種類のドーム部補強層9a,9bの両方を有する多層構造の複合容器を形成した。
このうち、ドーム部補強層9aについては、巻き付けるFRPの配向角によってFRP層の平均的な厚み、すなわちFRP層の重量が変化する。ここでは図5に示すように、胴部右端部Eあるいは胴部左端部D(鏡部との境界)での平均厚さをhとしたときに、胴部中央Cでの平均厚さが(3/8)hとなるように配向角を調整した。このときの配向角は緩みにくい安定した巻き付け状態となるものである。
なお、後述するハイアングルヘリカル層3aは、このときの胴部右端部E(胴部左端部D)の配向角のまま胴部4全体をヘリカル層3としたものであり、具体的には胴部右端部E(胴部左端部D)での配向角を70度としている。
【0032】
また、ドーム部補強層9bについては、胴部4においてFRPの配向角が最も大きくなる位置、すなわちFRPの最も中央寄りの反転位置Fによって、巻き付けるFRPの重量が変化する。ここでは図6に示すように、胴部右端部Eと胴部左端部Dとの範囲Lに対し、左右それぞれの(1/10)Lとなる位置で巻き付け方向が反転するようにドーム部補強層9bを形成した。なお、胴部右端部Eと胴部左端部Dでの配向角は70度としている。また、範囲Lは具体的には5mにしてある。
【0033】
図7は、図5のドーム部補強層9aおよび図6のドーム部補強層9bによる重量低減の効果を確認するために形成した複合容器のFRP層の多層構造を示す図である。
この複合容器のFRP層は、(比較例である)従来からの複合容器で採用されているヘリカル層3(ハイアングルヘリカル層3aを含む)およびフープ層2からなる多層構造のFRP層の一部のヘリカル層3(あるいはハイアングルヘリカル層3a)を、ドーム部補強層9a,9bに置換したものである。ここで、ハイアングルヘリカル層3aは、上述したように胴部左右端部D,Eの配向角が70度であり、ハイアングルヘリカル層3a以外のヘリカル層3は配向角を20度としてある。
具体的には、ライナ1に内側から、ヘリカル層3、フープ層2、ヘリカル層3、フープ層2、ドーム部補強層9a、フープ層2、ドーム部補強層9a、フープ層2、ヘリカル層3、フープ層2、ドーム部補強層9a、フープ層2、ドーム部補強層9a、ドーム部補強層9bをこの順で積層した。
なお、比較対象となる従来の複合容器は、ライナ1に内側から、ヘリカル層3、フープ層2、ヘリカル層3、フープ層2、ハイアングルヘリカル層3a、フープ層2、ハイアングルヘリカル層3a、フープ層2、ヘリカル層3、フープ層2、ハイアングルヘリカル層3a、フープ層2、ハイアングルヘリカル層3a、ヘリカル層3をこの順で積層したものである。
【0034】
その結果、比較対象となる従来の複合容器の重量が445Kgであったものが、上記のように4層のハイアングルヘリカル層3aをドーム部補強層9aとし、1つのヘリカル層3をドーム部補強層9bとしたことにより、397Kgまで重量を低減することができ、重量が10.8%低減できた。
そして、複数のフープ層2によって、これまでと同様に胴部4を十分に補強できるので、ドーム部補強層9a,9bに置換したことによる影響はほとんど生じない。
【0035】
以上、本発明について説明したが、本発明は必ずしも上記の実施形態に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜修正および変形実施できることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明はFRP層で補強した複合容器の製造に利用される。
【符号の説明】
【0037】
A 複合容器
C 胴部中央
D 胴部左端部
E 胴部右端部
F 反転位置
G 反転位置
1 ライナ
2 フープ層
3 ヘリカル層
4 胴部
5 ドーム部(左側)
6 ドーム部(右側)
7 口金
8 口金
9a ドーム部補強層
9b ドーム部補強層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9