特許第6703726号(P6703726)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6703726
(24)【登録日】2020年5月13日
(45)【発行日】2020年6月3日
(54)【発明の名称】アンテナ装置
(51)【国際特許分類】
   H01Q 5/50 20150101AFI20200525BHJP
   H01Q 1/48 20060101ALI20200525BHJP
   H01Q 5/25 20150101ALI20200525BHJP
【FI】
   H01Q5/50
   H01Q1/48
   H01Q5/25
【請求項の数】10
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2020-504424(P2020-504424)
(86)(22)【出願日】2018年8月10日
(86)【国際出願番号】JP2018030022
【審査請求日】2020年1月28日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】506428230
【氏名又は名称】森田テック 株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085660
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 均
(72)【発明者】
【氏名】森田 治
(72)【発明者】
【氏名】佐伯 明徳
(72)【発明者】
【氏名】岡本 慶
(72)【発明者】
【氏名】小倉 聰
【審査官】 久々宇 篤志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−280009(JP,A)
【文献】 特開2011−61758(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/018230(WO,A1)
【文献】 特開2011−66865(JP,A)
【文献】 特開2009−159291(JP,A)
【文献】 米国特許第6573867(US,B1)
【文献】 特開2009−77238(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01Q 5/50
H01Q 1/48
H01Q 5/25
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
周縁部の少なくとも一部に円弧周縁部を備えると共に、該円弧周縁部の一部に給電部を備えたアンテナエレメントと、
前記アンテナエレメントの裏面側に絶縁された状態で対向配置され、前記アンテナエレメントの最大径よりも長尺な薄板状の導電体により構成されると共に、前記アンテナエレメントの裏面と対向する領域を容量結合部とする同調板と、
前記同調板の前記容量結合部の裏面側に配置されて、前記アンテナエレメントの裏面側から輻射される電波を吸収する電波吸収体と、
前記電波吸収体の側面部を経て該電波吸収体の裏面側に折り返される前記同調板の余長部分と、
前記電波吸収体の裏面側に配置されて、表面に金属メッキ膜が形成されると共に、前記同調板の余長部分に設けたアース部と電気的に接続する同調メッキ板と、
前記同調メッキ板と電気的に接続するアース部材と、を備えることを特徴とするアンテナ装置。
【請求項2】
前記同調板の前記容量結合部の面積を可変させることにより、前記アンテナエレメントとの同調周波数を調整することを特徴とする請求項1に記載のアンテナ装置。
【請求項3】
前記同調板の同調周波数は、1.3GHz〜4.5GHzであることを特徴とする請求項1又は2に記載のアンテナ装置。
【請求項4】
前記アンテナエレメントと前記同調メッキ板とは、前記同調板を介して容量結合していることを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項に記載のアンテナ装置。
【請求項5】
前記同調メッキ板の同調周波数は、600MHz〜1.5GHzであることを特徴とする請求項1乃至4の何れか一項に記載のアンテナ装置。
【請求項6】
軸方向一端部が前記給電部に電気的に接続された中心導体、及び、絶縁体を介して前記中心導体の軸方向他端部を包囲する外導体を備えた信号入力部材と、
少なくとも外周部に導電体を有し、前記外導体を挟持する弾性的に変形可能な導電性クッションと、を備えることを特徴とする請求項1乃至5の何れか一項に記載のアンテナ装置。
【請求項7】
前記導電性クッションは、長手方向が前記信号入力部材の軸方向と交差する方向に伸びるように配置されており、前記導電性クッションの長手方向長を調整することにより前記アンテナエレメントとの同調周波数を調整することを特徴とする請求項6に記載のアンテナ装置。
【請求項8】
前記導電性クッションの同調周波数は、4.5GHz〜6GHzであることを特徴とする請求項6又は7に記載のアンテナ装置。
【請求項9】
前記アース部材は、前記信号入力部材の前記外導体と導通する
ことを特徴とする請求項6乃至8の何れか一項に記載のアンテナ装置。
【請求項10】
前記アンテナエレメントの表面側にNFC基板が配置されていることを特徴とする請求項1乃至9の何れか一項に記載のアンテナ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンテナ装置に関し、特に第5世代移動体通信にて使用される周波数600MHz〜6GHz(通称サブ6)において、他の無線装置と相互に通信し、他の無線装置に関する通信試験を実施することが可能なアンテナ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話機やスマートフォン等の移動体通信端末においては、電波の送受信周波数が複数の帯域に及んでいる。これらの移動体通信端末の通信試験を実施する際には、特定の測定対象となる周波数帯毎にその周波数帯に整合されているアンテナを用意し、周波数帯毎にアンテナを切り替える必要があった。
1つの無線局が数百MHz〜数GHzに亘る超広帯域な周波数帯を利用する無線システムとして、UWB(Ultra Wide Band)無線システムが知られている。
特許文献1には、平面視左右線対称で略ホームベース型の平板状のアンテナ部と、アンテナ部と同一基板面に配置されてアンテナ部と容量結合される概略平板矩形状のグランド部とを備えたUWBアンテナ装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−199371号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記載されたアンテナ装置において、VSWR(Voltage Standing Wave Ratio)が2.0以下となる帯域は3.1GHz〜5GHzであり、当該アンテナ装置は、携帯電話機やスマートフォンで使用される比較的低い周波数である800MHz帯、1.5GHz帯等には対応(整合)していないという問題がある。
本発明は上述の事情に鑑みてなされたものであり、1つのアンテナ装置で600MHz〜6GHzの周波数帯域全体に連続的に整合させることにより、アンテナ装置を切り替えることなく、使用周波数帯域が異なる複数種類の通信装置との通信を可能とするアンテナ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するために、本発明は、周縁部の少なくとも一部に円弧周縁部を備えると共に、該円弧周縁部の一部に給電部を備えたアンテナエレメントと、前記アンテナエレメントの裏面側に絶縁された状態で対向配置され、前記アンテナエレメントの最大径よりも長尺な薄板状の導電体により構成されると共に、前記アンテナエレメントの裏面と対向する領域を容量結合部とする同調板と、前記同調板の前記容量結合部の裏面側に配置されて、前記アンテナエレメントの裏面側から輻射される電波を吸収する電波吸収体と、前記電波吸収体の側面部を経て該電波吸収体の裏面側に折り返される前記同調板の余長部分と、前記電波吸収体の裏面側に配置されて、表面に金属メッキ膜が形成されると共に、前記同調板の余長部分に設けたアース部と電気的に接続する同調メッキ板と、前記同調メッキ板と電気的に接続するアース部材と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、1つのアンテナ装置で600MHz〜6GHzの周波数帯域全体に連続的に整合させることにより、アンテナ装置を切り替えることなく、使用周波数帯域が異なる複数種類の通信装置との通信を可能とするアンテナ装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】(a)、(b)は、本発明の第一の実施形態に係るアンテナ装置の外観を示した斜視図である。
図2】本発明の第一の実施形態に係るアンテナ装置の分解斜視図である。
図3】アンテナ装置を信号入力部材に沿って切断した断面を示す斜視図である。
図4】アンテナ装置を信号入力部材に沿った面とこれに直交する面とによって切断した断面を示す斜視図である。
図5】アンテナ装置に組み付けられたアンテナエレメントを裏面側から観察した斜視図である。
図6】(a)、(b)は、本発明の第二の実施形態に係るアンテナ装置の外観を示した斜視図である。
図7】本発明の第二の実施形態に係るアンテナ装置の分解斜視図である。
図8】(a)は本発明の一実施形態に係るアンテナ装置を用いたアンテナシステム、及び計測システムを示すブロック図、(b)は当該計測システムの校正に用いるキャリブレーションキットを示す斜視図である。
図9図8に示す計測システムのキャリブレーション手順を示すフローチャートである。詳しくは、アンテナ装置の反射減衰量特性、結合特性の測定に先だって行う、計測システムのキャリブレーション手順を示している。
図10図8に示す計測システムにおいて行う反射減衰量測定手順を示すフローチャートである。
図11図8に示す計測システムにおいて行われる結合損失特性の測定手順を示すフローチャートである。
図12】第一の実施形態において構成された第一アンテナ装置がノーマルモデルである場合の反射減衰量の標準特性を示すグラフ図である。
図13】第二の実施形態において構成された第一アンテナ装置がNFCモデルである場合の反射減衰量の標準特性を示すグラフ図である。
図14】第一アンテナ装置の同調板による効果を表す比較特性を示すグラフ図である。
図15】第一アンテナ装置の同調メッキ板による効果を表す比較特性を示すグラフ図である。
図16】第一アンテナ装置の導電性クッションによる効果を表す比較特性を示すグラフ図である。
図17】アンテナ装置のインピーダンス整合をとるために用いるインピーダンスチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を図に示した実施形態を用いて詳細に説明する。但し、この実施形態に記載される構成要素、種類、組み合わせ、形状、その相対配置などは特定的な記載がない限り、この発明の範囲をそれのみに限定する主旨ではなく単なる説明例に過ぎない。
【0009】
〔第一の実施形態:ノーマルモデル〕
図1(a)、(b)は、本発明の第一の実施形態に係るアンテナ装置の外観を示した斜視図である。図2は、本発明の第一の実施形態に係るアンテナ装置の分解斜視図である。図3は、アンテナ装置を信号入力部材に沿って切断した断面を示す斜視図である。図4は、アンテナ装置を信号入力部材に沿った面とこれに直交する面とによって切断した断面を示す斜視図である。
本実施形態に係るアンテナ装置は、アンテナエレメントと同調板との間に絶縁体が挿入されている点に特徴がある。
以下の説明においては、電磁波が輻射される側を上側(上面)又は表側(表面)とし、その反対側を下側(下面)又は裏側(裏面)として説明する。また、同軸コネクタの延在方向を奥行き方向とし、上下方向及び奥行き方向と直交する方向を幅方向として説明する。
【0010】
<アンテナエレメント周辺の概要>
アンテナ装置1は、各構成部材を収容する中空の収容部を形成するケース10を備え、ケース10は、概略矩形状のベース11と、ベース11にネジ止め固定される上カバー12とを備える。上カバー12の幅方向に伸びる一の側面板13には、同軸コネクタ60の信号入力部材61を挿通する同軸部材挿通穴14と、同軸コネクタ60を側面板13にネジ止め固定するための挿通穴15が貫通形成されている。
ケース10の内部には、半円板状(或いは弓形状)のアンテナエレメント30が収容される。アンテナエレメント30の下方(裏面側)には、アンテナエレメント30と他の部材とを絶縁する第一絶縁板40と、ショートスタブとして機能する同調板45と、所定の厚さtを有した電波吸収体50と、同調メッキ板55と、が順次積層される。なお、図中符号16は、アンテナエレメント30をケース10内で位置決めするエレメントガイドである。
【0011】
<アンテナエレメント>
図5は、アンテナ装置に組み付けられたアンテナエレメントを裏面側から観察した斜視図である。
アンテナエレメント30は、円形の銅板から一つの弦31で銅板を二つに切り分けたときできる2つの弓形状部分のうち、小さい方の弓形状部分を除去した形状を有する。アンテナエレメント30は、周縁部の少なくとも一部に円弧周縁部32を備えると共に、この円弧周縁部32の一部に給電部33を備える。アンテナエレメント30は、周縁部の他部に円弧周縁部32の端点間を接続する弦31を備える。
【0012】
アンテナエレメント30は厚さ0.8mmの銅板から構成され、その大きさは半径r=35mm、中心Oから弦31までの距離L1=19mmである。また、弦31の長さは約59mmである。アンテナエレメント30の中心角(円弧周縁部32に対する中心角)は180度よりも大きく、約245度である。円形の銅板から中心角が小さい方の弓形部分を除去した形状とすることにより、除去しない場合に比べてVSWR特性を大幅に改善できる。なお、アンテナエレメント30から輻射される電磁波は直線偏波である。
アンテナエレメント30は、円弧周縁部32の適所、より詳しくは円弧周縁部32の中心部に給電部33を有する。
アンテナエレメント30の大きさは、電波吸収体の誘電率による波長短縮の影響を考慮して決定した。電波吸収体がポリウレタンと仮定して誘電率5の時の波長短縮係数0.45を600MHzのλ/4に反映させると、短縮波長が56mmとなるため、直径56mmの円を初期形状とした。この円から徐々に直径を大きくして実験した結果から、最終的な円の直径を70mmとした。さらに600MHz付近で整合を取るために弓形状部分を除去して直線縁(弦31)を配する形状とし、弦31の寸法も、概ね600MHzのλ/4に短縮係数を反映したサイズが実験からもっとも良好な特性であったことから、弦31の寸法として約59mmを採用した。
【0013】
<第一絶縁板>
図2に戻り、第一絶縁板40は、アクリル板や塩ビ板等、絶縁性を有する合成樹脂により構成される。第一絶縁板40は、アンテナエレメント30と電波吸収体50とを絶縁する役割を果たす。第一絶縁板40は、アンテナエレメント30と同調板45とが電気的に接続せず、確実に絶縁状態を保持できる大きさに設定される。
【0014】
<同調板>
同調板45は、アンテナエレメント30との対向面積に応じてアンテナエレメント30と容量結合してインピーダンス整合をとるスタブ(ショートスタブ)として機能する。
同調板45は、アンテナエレメント30の裏面側に絶縁された状態で対向配置される。同調板45は、アンテナエレメント30の最大径(最大幅)よりも長尺な薄板状の導電体により構成される。具体的には、同調板45は、概略帯板形状であり、長手方向長115mm、幅方向長25mm、厚さ0.05mmの黄銅箔(真鍮箔、導電体)により構成される。
【0015】
同調板45のうち、アンテナエレメント30の裏面と第一絶縁板40を介して対向する領域が容量結合部45aである。また、同調板45の余長部分(45b,45c)は、電波吸収体50の側面部を経て電波吸収体50の裏面側に折り返される。電波吸収体50の裏面側に折り返された余長部分には、同調メッキ板55と電気的に接続するアース部45bが設けられる。アース部45bは、電波吸収体50の裏面と対向する。容量結合部45aとアース部45bとの間には両者を連接する連接部45cが配置される。
同調板45は、J字状、U字状に湾曲変形されるか、又は角U字状に折り曲げられることにより、容量結合部45aとアース部45bとが電波吸収体50の表面側と裏面側に夫々添設されて、電波吸収体50を厚さ方向に挟む構成である。この構成により、容量結合部45aがアンテナエレメント30の裏面と第一絶縁板40を介して対向し、長手方向の他端部に設けたアース部45bが同調メッキ板55の表面と直接に対向する。
【0016】
容量結合部45aは、アンテナエレメント30と容量結合する。容量結合部45aの面積を可変させることにより、同調板45とアンテナエレメント30の間の容量結合量(同調周波数、或いは共振周波数)を調整することができる。
本例において、容量結合部45aは、アンテナエレメント30の幅方向の全域に亘ってアンテナエレメント30と対向している。言い換えれば、容量結合部45aの長手方向長は、アンテナエレメント30の直径と略同等の長さかこれ以上の長さを有するように設定される。従って、アンテナエレメント30との容量結合量は、容量結合部45aの短手方向長(アンテナ装置1の奥行き方向における長さ)によって調整される。
ここで、アンテナエレメント30と容量結合部45aの間に形成される結合容量C1、容量結合部45aの長手方向長により形成されるインダクタンスL1をそれぞれ調整する際、インピーダンスチャート(図17参照)を用いた周知の整合戦略手法に従って、50Ωの同軸ケーブルにインピーダンス整合をとる。
例えば、本例に係る同調板45の同調周波数を1.3GHz〜4.5GHzに設定した場合、同調板45の長手方向長は115mm、容量結合部45aの長手方向長は74mm、幅方向長は25mmのように設定することができる。
【0017】
<電波吸収体>
電波吸収体50は、同調板45の容量結合部45aの裏面側に配置される。電波吸収体50は、アンテナエレメント30の裏面側から輻射される電波を吸収し、減衰させる。
電波吸収体50は、炭素粉末を分散し発泡させた発泡ポリウレタンにより構成される。電波吸収体50は、アンテナエレメント30の全面を覆う大きさ(面積)を有する。電波吸収体50の電波吸収特性はその厚さtによって決定される。
電波吸収体50は、アンテナ装置1が対応する(整合可能な)周波数の全域において電波を吸収する性能を有していればよい。本例において、電波吸収体50にはE&Cエンジニアリング株式会社製のECOSORB AN74(厚さ19mm、対応周波数500MHz〜9GHz)を採用することができる。
【0018】
電波吸収体50をアンテナエレメント30に近接させて配置することにより、電波吸収体50はアンテナ装置1が対応する(整合可能な)周波数の全域においてアンテナ装置1の反射減衰量(リターンロス)特性を改善する役割を果たす。また、電波吸収体50は、ある程度の弾力性を有しているため、組み付け時にアンテナ装置1の上下方向に圧縮されることにより、ケース10の内部に組み付けた各部材の位置ずれを防止する役割を果たす。例えば、厚さ20mm程度の発泡体からなる電波吸収体50を2mm程度圧縮してケース10内に組み付けることで、ケース10の内部に組み込んだ他の各部材の位置ずれを効果的に防止することができる。
【0019】
<同調メッキ板>
同調メッキ板55は、電波吸収体50の裏面側に配置される。同調メッキ板55の上面の一部は電波吸収体50の裏面と直接に対向して接触し、他部は同調板45のアース部45b及び後述するアース板(アース部材)85の長手方向の一端部85aを介して電波吸収体50の裏面と対向する。同調メッキ板55は、同調板45のアース部45bと面接触することにより電気的に接続し、アース板85の長手方向の一端部85aと面接触することにより電気的に接続する。
【0020】
同調メッキ板55は、合成樹脂であるABS樹脂からなる矩形状平板の上面に金属メッキ膜が形成されている。この金属メッキ膜は、真空ニッケル蒸着メッキ膜である。同調メッキ板55は、一辺が48mmの正方形状であり、厚さは1mmである。
同調メッキ板55は同調板45を介して、アンテナエレメント30と容量結合して、主に比較的低い周波数帯である600MHz〜1.5GHz帯域の電磁波の同調を取る役割を果たす。なお、同調メッキ板55は、実験の結果から、その面積の85%以上がアンテナエレメント30の直下に位置するように配置されていれば、上記役割を果たすには十分である。
また、同調メッキ板55は、アンテナ装置1の下面から外部への電波漏洩を防止するシールドの役割を果たす。
【0021】
<給電、アース部周辺の概要>
アンテナエレメント30に給電すると共に、アンテナ装置1の各部をアースする信号入力部材周辺の構成について説明する。
アンテナ装置1は、中心導体64がアンテナエレメント30の給電部33に電気的・機械的に固定された信号入力部材61を有する同軸コネクタ60と、少なくとも外周部(外面)に布状の導電体を有し、信号入力部材61の外導体62を挟持する弾性的に変形可能な導電性クッション80(80a,80b)と、信号入力部材61の外導体62と導通すると共に、一部が同調板45のアース部45bと接触するアース板(アース部材)85と、を備える。
導電性クッション80とアンテナエレメント30との間には両者を絶縁する第二絶縁板81が挿入される。第二絶縁板81には、信号入力部材61の中心導体64を側面板13側からアンテナエレメント30側に向けて通過させるスリット81aが上下方向に形成されている。
【0022】
<同軸コネクタ>
同軸コネクタ60は、軸方向一端部に配置された信号入力部材61と、軸方向中間部に配置されて信号入力部材61の外導体62と導通したフランジ部67と、軸方向他端部に配置されて信号入力部材61の各導体と導通し、伝送ケーブルを着脱自在に接続するコネクタ部71(同軸レセプタクル)と、を備える。
【0023】
信号入力部材61は、セミリジッドの同軸部材であり、同軸部材挿通穴14を介してケース10内に挿入される。信号入力部材61の外導体62はシームレスな金属製の円筒体により構成される。外導体62の中空部内には、フッ素樹脂やポリイミド等の絶縁体63を介して中心導体64が収容される。本例において、信号入力部材61の外導体62は銅製であり、中心導体64は銀メッキ銅覆鋼線である。
中心導体64の軸方向一端部64aは、外導体62の軸方向一端縁を超えて外方に突出している。言い換えれば、外導体62は、中心導体64を軸方向の他端部において包囲する。外部に露出した中心導体64の軸方向一端部64aは、アンテナエレメント30の裏面に設けた給電部33に対して、はんだにより固定されている。信号入力部材61の軸方向は、アンテナ装置1を基準としてその奥行き方向に伸びており、アンテナエレメント30に対しては円弧周縁部32の接線に沿った方向、即ち、弦31と直交する方向に伸びている。
【0024】
フランジ部67の適所には、ネジ77の軸部を挿通する挿通穴68が貫通形成されている。フランジ部67は上カバー12の側面板13に固定される。側面板13の内側面には、ネジ山が形成されたネジ穴74を有するコネクタプレート73が添設される。また、コネクタプレート73の面内適所には、信号入力部材61を通過させるケーブル挿通部75が形成されている。フランジ部67及びコネクタプレート73は鉄等の導体により構成されている。
同軸コネクタ60は、コネクタプレート73のネジ穴74と、側面板13及びフランジ部67に夫々形成された挿通穴15,68とを連通させた状態にて、ネジ77の軸部を各穴内に挿入してネジ穴74に螺着することにより、上カバー12の側面板13に固定される。コネクタプレート73は、導電性のネジ77を介してフランジ部67と導通するため、コネクタプレート73は信号入力部材61の外導体62とも導通する。
【0025】
コネクタ部71は、SMA(Sub Miniature Type A)型の50Ωコネクタであり、高周波信号を伝送する同軸型のケーブルである伝送ケーブルを着脱自在に接続する。伝送ケーブルをコネクタ部71に接続することにより、伝送ケーブルの内導体と信号入力部材61の中心導体64とが導通し、伝送ケーブルの外導体と信号入力部材61の外導体62とが導通する。
【0026】
<アース板>
アース板85は、本実施形態に係るアンテナ装置1が対応する全ての周波数帯域(600MHz〜6GHz)において、VSWR(Voltage Standing Wave Ratio)特性を改善する手段である。
アース板85は、概略矩形形状であり、厚さ0.05mmの黄銅箔(真鍮箔)から構成される。アース板85の幅方向長は45mmで導電性クッション80の幅方向長と同一である。アース板85の幅方向と直交する方向における長さ(長手方向長)は、アース板85が導電性クッション80と同調メッキ板55と同調板45を、直接的に又は間接的にアース可能な長さに設定される。
【0027】
アース板85は、一部(本例では長手方向の中間部)が側面板13の内側面とコネクタプレート73との間に配置され、ねじ77によって側面板13とフランジ部67と共にコネクタプレート73に共締めされることによりケース10内に位置固定される。また、アース板85はコネクタプレート73と密着することにより、ネジ77を介して信号入力部材61の外導体62と導通する。アース板85は組み付け時に長手方向の適所を屈曲又は湾曲変形されることにより、ケース10内で概略J字状、L字状、U字形状、又は角U字形状に変形された姿勢となる。本例においてはアース板85の長手方向の一端部85aは同調メッキ板55の表面及び同調板45のアース部45bの適所と面接触し、長手方向の他端部85bは導電性クッション80と面接触して各部材をアースする。
なお、長手方向の他端部85b側は、第二絶縁板81を超えてアンテナエレメント30側には突出しない長さに設定される。即ち、アース板85は、アンテナエレメント30の上面とは対向しない。
【0028】
<導電性クッション>
導電性クッション80(80a,80b)は、信号入力部材61の外導体62を上下方向から間に挟んで保持することにより外導体62と導通する。また、導電性クッション80は、外導体62に押圧されて変形することで、アンテナ装置1の内部で信号入力部材61の上下方向位置を安定させる役割を果たす。
導電性クッション80は、弾性的に変形可能な発泡体を芯材として、その外周部に導電性の布材を一体化させることにより構成されている。発泡体は、発泡ポリウレタン、発泡クロロプレンゴム、ゴムスポンジ等の絶縁体から構成されることが望ましい。発泡体には導電性のウレタンウォーム等を用いることも可能である。導電性の布材は例えば金属繊維を織るか又は編むこと等により形成されたメッシュ状の導電体であり、例えば銅にニッケルメッキを施した金属線材等からメッシュ形成することができる。なお、導電性の布材は不織布でもよい。
【0029】
導電性クッション80は、その長手方向が信号入力部材61の軸方向と交差する方向(概ね直交する方向)、即ちアンテナ装置1の幅方向に沿って伸びるように配置される。導電性クッション80の同調周波数は、アンテナ装置1の幅方向における導電性クッション80の長さにより調整できる。
ここで、導電性クッション80とアース板85の間に形成される結合容量C2、導電性クッション80の長さにより形成されるインダクタンスL2をそれぞれ調整する際、インピーダンスチャート(図17参照)を用いた周知の整合戦略手法に従って、50Ωの同軸ケーブルにインピーダンス整合をとる。
例えば、信号入力部材61の上側に配置される導電性クッション80aは、厚さ(上下方向長)4mm×幅(奥行方向長)10mm×長さ45mmとすることができ、信号入力部材61の下側に配置される導電性クッション80bは、厚さ8mm×幅10mm×長さ45mmとすることができる。本例において導電性クッション80の同調周波数は、4.5GHz〜6GHzである。
【0030】
<電気の流れ>
アンテナ装置1が受信状態にある場合、外部から到来した電波は、アンテナエレメント30で拾われ、信号入力部材61を通じてコネクタ部71へと誘導される。
一方、アンテナ装置1が送信状態にある場合、コネクタ部71へ供給された電波は、信号入力部材61を通じてアンテナエレメント30に供給され、空間に電波が放射される。
【0031】
<効果>
以上のように、本実施形態によれば、アンテナ装置1が対応する(整合可能な)周波数(600MHz〜6GHz)の波長/4(125mm〜12.5mm)に波長短縮を考慮した波長に対して十分に大きなアンテナエレメント30を採用し、各周波数帯に応じてリターンロス特性を改善する部材を取り付けた。具体的には、同調メッキ板55は、主として600MHz〜1.5GHz帯域のリターンロス特性を改善し、同調板45は主として1.3GHz〜4.5GHz帯のリターンロス特性を改善し、導電性クッション80は主として4.5〜6GHz帯域のリターンロス特性を改善する。また、電波吸収体50は、500MHz〜9GHz帯域においてリターンロス特性を改善する。
このように、各周波数帯に応じてリターンロス特性を改善する部材を取り付けたことにより、広範囲の周波数帯域における電波計測を一つのアンテナ装置にて実施することが可能となる。また、誘電率を活用した整合を図ることにより波長が短縮化され、アンテナ装置を小型化することが可能となる。
【0032】
〔第二の実施形態:NFCモデル〕
図6(a)、(b)は、本発明の第二の実施形態に係るアンテナ装置の外観を示した斜視図である。図7は、本発明の第二の実施形態に係るアンテナ装置の分解斜視図である。
本実施形態に係るアンテナ装置は、NFC(Near Field Communication)に基づく無線通信を行うNFC基板を備えた点に特徴がある。以下、第一の実施形態と同一の構成については同一の符号を付してその説明を省略する。
【0033】
アンテナ装置2は、アンテナエレメント30の上方(表面側)に配置されたNFC基板90を備える。NFC基板90は、エレメントガイド16と上カバー12の上面板17との間に挟持されることにより、アンテナエレメント30とは非接触状態でケース10内に収容される。NFC基板90は、端縁部の適所に有線通信用の接続端子としてUSB(Universal Serial Bus)端子91を備えている。USB端子91は上カバー12の任意の側面板18に貫通形成されたUSB端子穴19を介して外部に露出する。
【0034】
NFCは、13.56MHzの周波数を利用する通信距離10cm程度の近距離無線通信規格である。即ち、NFC基板90は、アンテナエレメント30が輻射する周波数帯とは異なる周波数帯にて近距離無線通信を行う通信基板である。NFC基板90は、USB端子91に接続可能なパーソナルコンピュータ等の情報処理装置と、NFCによる通信が可能な無線通信端末との間に介在して、情報処理装置と無線通信端末との間の双方向通信を実現する。ここで、無線通信端末とは、例えば携帯電話機やスマートフォン、Wi−Fiルータ等、無線により情報の送受信を行う装置であり、アンテナ装置2を用いた各周波数帯(600MHz〜6GHzに含まれる何れかの周波数範囲)における通信試験の対象となる試験対象物である。
【0035】
本実施形態によれば、アンテナ装置2を用いて各周波数帯(600MHz〜6GHzの範囲内に何れかの帯域)における通信試験を行う際に、情報処理装置が無線通信端末からNFCにより通信結果を取得すること、及び情報処理装置から無線通信端末に対してNFCにより試験内容に応じた電波を発生するように命令を送信することが可能となる。
【0036】
〔グラフの説明〕
<アンテナシステム、及び計測システム>
図8(a)は本発明の一実施形態に係るアンテナ装置を用いたアンテナシステム、及び計測システムを示すブロック図、図8(b)は当該計測システムの校正に用いるキャリブレーションキットを示す斜視図である。
図8(a)に示すアンテナシステム300は、1対のアンテナ装置を備え、各アンテナ装置を第一アンテナ装置301及び第二アンテナ装置303とし、第一アンテナ装置301から放射された電波を、第一アンテナ装置301の放射方向に対向して配置された第二アンテナ装置303により受信する。
【0037】
計測システム310は、ネットワークアナライザ315、モニタ313を備えており、ネットワークアナライザ305の端子P1と第一アンテナ装置301のコネクタとの間に同軸ケーブル307を接続し、端子P2と第二アンテナ装置303のコネクタとの間に同軸ケーブル309を接続している。
さらに、ネットワークアナライザ315のモニタ端子305mとモニタ313の端子313mとの間にモニタケーブル311を接続している。なお、ネットワークアナライザ315には、例えばアンリツ株式会社製のMS46322Bを用いている。
アンテナ装置は、被測定物に対して近接(密着)して配置しておき、例えば被測定物から放射される電波を測定するために用いる。被測定物としては、携帯電話器、モバイル端末等の電磁波を発生するものを対象としており、例えば、600MHz〜6GHzの周波数帯を利用する通信機器(サブ6)を対象としている。
計測システム310は、アンテナシステム300に備えられた第一アンテナ装置301と第二アンテナ装置303との間の結合特性、反射減衰量特性を測定することに適している。
【0038】
このように、アンテナ装置1は被測定物に対して所望の位置に配置、または密接配置され、被測定物から放射される電波を受信する。
さらに、第一アンテナ装置301と第二アンテナ装置303との間に、被測定物を配置することで、被測定物から放射される電波、又は、被測定物で受信された場合に、被測定物による影響度合いを測定することができる。
【0039】
図8(a)に示す計測システム310では、図8(b)に示すキャリブレーションキット320を校正に用いる。
キャリブレーションキット320には、コネクタ320S(SHORT)、コネクタ320o(OPEN)、コネクタ320L(LOAD)、コネクタ320T(THRU)という4つのコネクタを備えている。なお、キャリブレーションキット320には、例えばアンリツ株式会社製のTOSLKF50A−40を用いている。
【0040】
<計測システムのキャリブレーション手順>
図9は、図8に示す計測システムのキャリブレーション手順を示すフローチャートである。詳しくは、アンテナ装置1の反射減衰量特性、結合特性の測定に先だって行う、計測システム310のキャリブレーション手順を示している。
ステップS5では、ネットワークアナライザ315に対して測定周波数(例えば500MHz〜6.2GHz)を入力する。
ステップS10では、ネットワークアナライザ315に対してキャリブレーションCALモードに設定する。
ステップS15では、ネットワークアナライザ315の端子P1に接続されている同軸ケーブル307の先端にキャリブレーションキットのコネクタ320Sを接続して、同軸ケーブル307の先端を短絡状態(SHORT)にする。
ステップS20では、ユーザの操作に応じてネットワークアナライザ315が測定器内演算を行う。
ステップS25では、ネットワークアナライザ315の端子P1に接続されている同軸ケーブル307の先端にキャリブレーションキットのコネクタ320oを接続して、同軸ケーブル307の先端を開放状態(OPEN)にする。
ステップS30では、ユーザの操作に応じてネットワークアナライザ315が測定器内演算を行う。
ステップS35では、ネットワークアナライザ315の端子P1に接続されている同軸ケーブル307の先端にキャリブレーションキットのコネクタ320Lを接続して、同軸ケーブル307の先端に負荷(例えば50Ω)が接続された負荷状態(LOAD)にする。
ステップS40では、ユーザの操作に応じてネットワークアナライザ315が測定器内演算を行う。
【0041】
ステップS45では、ネットワークアナライザ315の端子P2に接続されている同軸ケーブル309の先端にキャリブレーションキットのコネクタ320Sを接続して、同軸ケーブル309の先端を短絡状態(SHORT)にする。
ステップS50では、ユーザの操作に応じてネットワークアナライザ315が測定器内演算を行う。
ステップS55では、ネットワークアナライザ305の端子P2に接続されている同軸ケーブル309の先端にキャリブレーションキットのコネクタ320oを接続して、同軸ケーブル309の先端を開放状態(OPEN)にする。
ステップS60では、ユーザの操作に応じてネットワークアナライザ315が測定器内演算を行う。
ステップS65では、ネットワークアナライザ315の端子P2に接続されている同軸ケーブル309の先端にキャリブレーションキットのコネクタ320Lを接続して、同軸ケーブル309の先端に負荷(例えば50Ω)が接続された負荷状態(LOAD)にする。
ステップS70では、ユーザの操作に応じてネットワークアナライザ315が測定器内演算を行う。
【0042】
ステップS75では、ネットワークアナライザ315の端子P1、P2に接続されている同軸ケーブル307、309の先端にキャリブレーションキットのコネクタ320Tを接続して、同軸ケーブル307、309の先端同士を通過状態(THRU)にする。
ステップS70では、ユーザの操作に応じてネットワークアナライザ315が測定器内演算を行う。
この結果、ネットワークアナライザ315、同軸ケーブル307、309を含む計測システムに対して、設定された周波数帯において振幅特性、反射減衰量特性、位相特性等をフラットな状態に校正することができる。
【0043】
<反射減衰量測定手順>
図10は、図8に示す計測システムにおいて行う反射減衰量測定手順を示すフローチャートである。
ステップS105では、ネットワークアナライザ315の端子P1に接続されている同軸ケーブル307の先端に第一アンテナ装置301のコネクタを接続して、測定可能状態にする。
ステップS110では、ユーザの操作に応じてネットワークアナライザ315が測定器内演算を行い、モニタ313に反射減衰量を表示する。この際、ネットワークアナライザ315の端子P1から出力された周波数帯のスイープ中の電力が、第一アンテナ装置301で反射され、第一アンテナ装置301から帰ってきた電力を測定する。
【0044】
<結合損失特性の測定手順>
図11は、図8に示す計測システムにおいて行われる結合損失特性の測定手順を示すフローチャートである。
ステップS155では、ネットワークアナライザ315の端子P1に接続されている同軸ケーブル307の先端に第一アンテナ装置301のコネクタを接続して、測定可能状態にする。
ステップS160では、ネットワークアナライザ315が測定器内演算を行い、モニタ313に第一アンテナ装置301の反射減衰量を表示する。
ステップS165では、ネットワークアナライザ315の端子P2に接続されている同軸ケーブル309の先端に第二アンテナ装置303のコネクタを接続して、測定可能状態にする。
ステップS170では、ネットワークアナライザ315が測定器内演算を行い、モニタ313に第二アンテナ装置303の反射減衰量を表示する。
ステップS175では、第一アンテナ装置301と第二アンテナ装置303とを対向して近接(密接)する。
ステップS180では、ネットワークアナライザ315が測定器内演算を行い、第一アンテナ装置301と第二アンテナ装置303の間の結合特性、及び反射減衰量をモニタ313に表示する。
【0045】
<ノーマルモデルの標準特性>
図12は、第一の実施形態において構成された第一アンテナ装置301がノーマルモデルである場合の反射減衰量の標準特性を示すグラフ図である。
図12において、(a)は−10.9dBを示すリミットラインであり、(b)は第一アンテナ装置301の標準特性を示す。
第一アンテナ装置301がノーマルモデルである場合、周波数600MHz〜6GHzの帯域において、反射減衰量(リターンロス)が−10.9dB以上(VSWRであると1.8以下)の特性を示している。
【0046】
<NFCモデルの標準特性>
図13は、第二の実施形態において構成された第一アンテナ装置301がNFCモデルである場合の反射減衰量の標準特性を示すグラフ図である。
図13において、(a)は−10.9dBを示すリミットラインであり、(b)は第一アンテナ装置301の標準特性を示す。
第一アンテナ装置301がNFCモデルである場合、NFC基板90が所定の面積を有する両面基板により構成されているため、周波数600MHz〜6GHzの帯域の反射減衰量(リターンロス)に影響を与える。
しかし、(b)に示すように、周波数600MHz〜6GHzの帯域において、反射減衰量(リターンロス)が−10.9dB以上(VSWRであると1.8以下)の特性を示している。
【0047】
<同調板による効果>
図14は、第一アンテナ装置301の同調板による効果を表す比較特性を示すグラフ図である。
図14において、(a)は−10.9dBを示すリミットラインであり、(b)は第一アンテナ装置301の標準特性(同調板45あり)を示し、(c)は同調板45が無い場合の特性を示し、(d)は同調板45が未調整である場合の特性を示している。
同調板が無い場合の特性(c)、同調板45が未調整である場合の特性(d)では、500MHz〜1GHz付近で−10.9dBのリミットライン(a)を超えている。
これに対して、第一アンテナ装置301に設けられた同調板45が調整された標準特性(同調板45あり)(b)では1.9GHz付近に−35dB〜−39dBの強い共振を生じている。
【0048】
<同調メッキ板による効果>
図15は、第一アンテナ装置301の同調メッキ板による効果を表す比較特性を示すグラフ図である。
図15において、(a)は−10.9dBを示すリミットラインであり、(b)は第一アンテナ装置301の標準特性(同調メッキ板55あり)を示し、(c)は同調メッキ板55が無い場合の特性を示し、(d)はベース11の内面を全メッキした場合の特性を示している。
同調メッキ板55が無い場合の特性(c)、同調メッキ板55が未調整である場合の特性(d)では、500MHz〜1.2GHz付近で−10.9dBのリミットライン(a)に接近している。
これに対して、第一アンテナ装置301に設けられた同調メッキ板55が調整された標準特性(同調メッキ板55あり)(b)では1.9GHz付近に−35dB〜−39dBの強い共振を生じている。
【0049】
<導電性クッションによる効果>
図16は、第一アンテナ装置301の導電性クッションによる効果を表す比較特性を示すグラフ図である。
図16は、(a)は−10.9dBを示すリミットラインであり、(b)は第一アンテナ装置301の標準特性(導電性クッション80あり)を示し、(c)は標準特性に対して導電性クッション80が無い場合の特性を示し、(d)は導電性クッション80を装填した場合の特性を示している。
導電性クッション80が無い場合の特性(c)では、500MHz〜6GHzにおいて−10.9dBのリミットライン(a)を超えている。
導電性クッション80を装填した場合の特性(d)では、700MHz〜1.2GHz付近で−10.9dBのリミットライン(a)を超え、一方、3.8GHz〜4GHz付近に−35dB〜−40数dBの強い共振を生じている。
これに対して、第一アンテナ装置301に設けられた導電性クッション80が調整された標準特性(導電性クッションあり)(b)では、1.9GHz〜2GHz付近に−35dB〜−39dBの強い共振を生じている。特に、(b)では、6GHzの高周波域に効果がある。
【0050】
<インピーダンスチャート>
図17は、アンテナ装置1のインピーダンス整合をとるために用いるインピーダンスチャートである。
インピーダンスチャートは、RF(Radio Frequency)やマイクロ波のインピーダンス整合の設計に用いられ、横軸はインピーダンスZの実部(抵抗成分)であり、縦軸が虚部(リアクタンス成分)を表す。左端はZ=0(全透過)、右端はZ=∞(全反射)に相当する。また、周囲に表示している角度は、電圧反射係数の位相θ(ANG:angle)である。中心Z0は、負荷と伝送路が整合した状態に相当し、通常は50Ωであるが、インピーダンスチャートでは、入力インピーダンスを基準に正規化して1.0で表現している。
【0051】
〔本発明の実施態様例と作用、効果のまとめ〕
<第一の実施態様>
本態様に係るアンテナ装置1は、周縁部の少なくとも一部に円弧周縁部32を備えると共に、該円弧周縁部の一部に給電部33を備えたアンテナエレメント30と、アンテナエレメントの裏面側に絶縁された状態で対向配置され、アンテナエレメントの最大径よりも長尺な薄板状の導電体により構成されると共に、アンテナエレメントの裏面と対向する領域を容量結合部45aとする同調板45と、同調板の容量結合部の裏面側に配置されて、アンテナエレメントの裏面側から輻射される電波を吸収する電波吸収体50と、電波吸収体の側面部を経て該電波吸収体の裏面側に折り返される同調板の余長部分(45b、45c)と、電波吸収体の裏面側に配置されて、表面に金属メッキ膜が形成されると共に、同調板の余長部分に設けたアース部45bと電気的に接続する同調メッキ板55と、同調メッキ板と電気的に接続するアース部材(アース板85)と、を備えることを特徴とする。
本態様によれば、1つのアンテナ装置で600MHz〜6GHzの周波数帯域全体に連続的に整合させることにより、アンテナ装置を切り替えることなく、使用周波数帯域が異なる複数種類の通信装置との通信を可能とするアンテナ装置を提供することができる。
即ち、アンテナエレメント30から輻射される周波数の反射減衰量特性を全周波数帯域において改善する部材として電波吸収体を配置し、周波数特性を各周波数帯域において改善する部材として、同調板と同調メッキ板を配置することによって、600MHz〜6GHzの周波数帯域全体においてインピーダンス整合が取れ、VSWRが1.8以下とすることができる。
【0052】
<第二、第三の実施態様>
本態様に係るアンテナ装置1は、同調板45の容量結合部45aの面積を可変させることにより、アンテナエレメント30との同調周波数を調整することを特徴とする。
また、同調板の同調周波数は、1.3GHz〜4.5GHzであることを特徴とする。
本態様によれば、アンテナエレメントと同調板とを容量結合させることにより、特定の周波数帯域、具体的には中間の周波数1.3GHz〜4.5GHzにおける反射減衰量特性を改善し整合できる。
【0053】
<第四、五の実施態様>
本態様に係るアンテナ装置1において、アンテナエレメント30と同調メッキ板55とは、同調板45を介して容量結合していることを特徴とする。
また、同調メッキ板の同調周波数は、600MHz〜1.5GHzであることを特徴とする。
本態様によれば、アンテナエレメントと同調メッキ板とを容量結合させることにより、特定の周波数帯域、具体的には比較的低い周波数600MHz〜1.5GHzにおける反射減衰量特性を改善し整合できる。
【0054】
<第六の実施態様>
本態様に係るアンテナ装置1は、軸方向一端部64aが給電部33に電気的に接続された中心導体64、及び、絶縁体63を介して中心導体の軸方向他端部を包囲する外導体62を備えた信号入力部材61と、少なくとも外周部に導電体を有し、外導体を挟持する弾性的に変形可能な導電性クッション80a,80bと、を備えることを特徴とする。
本態様においてはアンテナエレメント30に対して信号入力部材により給電するが、信号入力部材を導電性クッションによって挟むことにより、比較的高い周波数帯域の周波数特性を改善できる。
【0055】
<第七、八の実施態様>
本態様に係るアンテナ装置1において、導電性クッション80は、長手方向が信号入力部材61の軸方向と交差する方向に伸びるように配置されており、導電性クッションの長手方向長を調整することによりアンテナエレメント30との同調周波数を調整することを特徴とする。
また、導電性クッションの同調周波数は、4.5GHz〜6GHzであることを特徴とする。
本態様によれば、導電性クッションにより4.5GHz〜6GHzの反射減衰量特性を改善できる。
【0056】
<第九の実施態様>
本態様に係るアンテナ装置1において、
アース部材(アース板85)は信号入力部材61の外導体62と導通することを特徴とする。
本態様によれば、アース部材を介して、同調板45と同調メッキ板55とがアースされ、必要な周波数帯域での反射減衰量特性の改善に寄与し整合する。
【0057】
<第十の実施態様>
本態様に係るアンテナ装置2は、アンテナエレメント30の表面側にNFC基板90が配置されていることを特徴とする。
ここで、NFC基板は、NFC基板に設けたUSB端子等の有線通信用の接続端子を介して接続可能なパソコン等の情報処理装置と、NFC通信規格に基づく通信が可能な無線通信端末との間における双方向通信を可能にする基板である。
本態様によれば、アンテナ装置を用いて無線通信端末に係る通信試験を行う際に、情報処理装置が無線通信端末からNFCにより通信結果を取得すること、及び情報処理装置から無線通信端末に対してNFCにより試験内容に応じた電波を発生するように命令を送信することが可能となる。
【符号の説明】
【0058】
1、2…アンテナ装置、10…ケース、11…ベース、12…上カバー、13…側面板、14…同軸部材挿通穴、15…挿通穴、16…エレメントガイド、17…上面板、18…側面板、19…USB端子穴、30…アンテナエレメント、31…弦、32…円弧周縁部、33…給電部、40…第一絶縁板、45…同調板、45a…容量結合部、45b…アース部、45c…連接部、50…電波吸収体、55…同調メッキ板、60…同軸コネクタ、61…信号入力部材、62…外導体、63…絶縁体、64…中心導体、64a…軸方向一端部、67…フランジ部、68…挿通穴、71…コネクタ部、73…コネクタプレート、74…ネジ穴、75…ケーブル挿通部、77…ネジ、80…導電性クッション、80a…導電性クッション、80b…導電性クッション、81…第二絶縁板、81a…スリット、85…アース板、85a…一端部、85b…他端部、90…NFC基板、91…USB端子、300…アンテナシステム、301…第一アンテナ装置、303…第二アンテナ装置、305…ネットワークアナライザ、305m…モニタ端子、307…同軸ケーブル、309…同軸ケーブル、310…計測システム、311…モニタケーブル、313…モニタ、313m…端子、320…キャリブレーションキット、320L…コネクタ、320S…コネクタ、320T…コネクタ、320o…コネクタ
【要約】
1つのアンテナ装置で600MHz〜6GHzの周波数帯域全体に連続的に整合させることにより、アンテナ装置を切り替えることなく、使用周波数帯域が異なる複数種類の通信装置との通信を可能とする。
銅製の円板から弓形形状部分を除去した形状のアンテナエレメント30の下方に、第一絶縁板40、同調板45の容量結合部45a、電波吸収体50、電波吸収体50の裏側に折り返された同調板45のアース部45b、表面に金属メッキ膜が形成された同調メッキ板55が順次積層されている。
アンテナエレメント30の円弧周縁部32の一部に設けた給電部33に対しては、セミリジッドの信号入力部材61の中心導体64から給電される。信号入力部材61の外導体62は、弾性的に変形可能な導電性クッション80a、80bにより挟持される。アース板85は外導体62と導通して、アース部45bと同調メッキ板55をアースする。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
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図14
図15
図16
図17