(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6703728
(24)【登録日】2020年5月13日
(45)【発行日】2020年6月3日
(54)【発明の名称】近接触覚センサ
(51)【国際特許分類】
G01D 21/02 20060101AFI20200525BHJP
G01L 1/12 20060101ALI20200525BHJP
G01L 5/00 20060101ALI20200525BHJP
G01B 7/00 20060101ALN20200525BHJP
【FI】
G01D21/02
G01L1/12
G01L5/00 Z
!G01B7/00 101C
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2016-136574(P2016-136574)
(22)【出願日】2016年7月11日
(65)【公開番号】特開2018-9792(P2018-9792A)
(43)【公開日】2018年1月18日
【審査請求日】2019年7月3日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業 大学発新産業創出プログラム、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】899000068
【氏名又は名称】学校法人早稲田大学
(74)【代理人】
【識別番号】100114524
【弁理士】
【氏名又は名称】榎本 英俊
(72)【発明者】
【氏名】シュミッツ アレクサンダー
(72)【発明者】
【氏名】ソムロア ソフォン
(72)【発明者】
【氏名】トモ ティト プラドノ
(72)【発明者】
【氏名】クリスタント ハリス
(72)【発明者】
【氏名】黄 振善
(72)【発明者】
【氏名】菅野 重樹
【審査官】
菅藤 政明
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭63−238502(JP,A)
【文献】
特開2003−216318(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2012/0274599(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01D 21/00−21/02
G01L 1/12
G01L 5/00− 5/28
G01B 7/00− 7/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
物体と電極の間に生じる静電容量の変化に基づき、非接触で前記物体の接近距離を検出する静電容量型近接センサとしての機能と、外力に応じた磁性体の変位による磁界の変化を磁気センサで検知することで、前記外力の大きさを検出する磁気式触覚センサとしての機能とを有する近接触覚センサであって、
前記電極は、導電性を有する剛体により形成され、
前記磁性体は、前記磁界の変化を前記磁気センサで検知可能に前記電極に一体的に取り付けられ、
前記電極及び前記磁性体の外側に配置され、前記磁気センサでの磁界の変化の検知を阻止しない材料からなる弾性体により形成されるフォームを備えたことを特徴とする近接触覚センサ。
【請求項2】
前記フォームは、その弾性変形に伴って前記電極及び前記磁性体が変位可能になるように、これら電極及び磁性体を内包することを特徴とする請求項1記載の近接触覚センサ。
【請求項3】
物体との間に生じる静電容量の変化に基づき、非接触で前記物体の接近距離を検出する静電容量型近接センサとしての機能と、外力に応じた磁界の変化に基づき、前記外力の大きさを検出する磁気式触覚センサのとしての機能とを有する近接触覚センサであって、
前記接近距離や前記外力の大きさに対応して電気信号を発生させる本体部と、前記電気信号から前記接近距離や前記外力の大きさを求める検出部とを備え、
前記本体部は、導電性を有する剛体により形成された電極と、当該電極に一体的に取り付けられた磁性体と、これら電極と磁性体の外側に配置されたフォームと、前記磁性体との間の磁界の変化を検知可能に配置された磁気センサとを備え、
前記フォームは、前記磁気センサでの磁界の変化の検知を阻止しない材料からなる弾性体により形成され、
前記検出部は、前記電極の静電容量の変化から前記接近距離を求める近接センシング部と、前記磁気センサの検知に基づいて、前記フォームに作用した前記外力を求める外力センシング部とを備えたことを特徴とする近接触覚センサ。
【請求項4】
前記近接センシング部では、前記物体が前記フォームに非接触のときに、前記接近距離が検出される一方、前記外力センシング部では、前記フォームに外力が作用したときに、当該フォームの弾性変形に伴って前記電極と一体的に移動する前記磁性体の変位に基づいて、前記外力の大きさが検出されることを特徴とする請求項3記載の近接触覚センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、近接センサ及び触覚センサの双方の機能を有し、必要最小限のセンサ数で広範囲における物体との近接状況と作用した外力の双方の検知を可能にする近接触覚センサに関する。
【背景技術】
【0002】
人間と共存しながら作業するロボットの動作制御においては、安全性等の観点から、ロボットの周囲の環境中に存在する人間等の物体との接近距離の把握が必要であるとともに、当該物体が接触した際の外力を検知する必要がある。例えば、ロボットのアーム等の可動部とその周囲に存在する人間との接近距離を検知し、当該人間への衝突を事前に回避するロボットの動作制御が考えられる。また、人間が不意にロボットに衝突した場合に、その外力を検出し、当該外力の大きさに応じて人間に与える衝撃を軽減するロボットの動作制御も考えられる。
【0003】
ところで、物体との近接状況を検知する近接センサとしては、物体と電極の静電容量の変化に基づき、物体との接近距離を非接触で検出する静電容量型近接センサが知られている(例えば、特許文献1,2参照)。
【0004】
また、外力を検知する触覚センサとしては、外力の作用による磁界の変化を利用した磁気式触覚センサが知られている(例えば、特許文献3参照)。この磁気式触覚センサは、内部に磁石が設けられた弾性体と、磁石によって発生する磁界の状態を検知する磁気センサとを備え、弾性体に外力が付与されると、弾性体の変形に伴って磁石が変位することによる磁気センサとの間の磁界の状態変化から、作用した外力の大きさを検出するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014−167415号公報
【特許文献2】特開2015−94598号公報
【特許文献3】特開2004−325328号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述のように、人間と共存するロボットの動作制御を行うためには、安全性等の観点から、ロボットの表出部分の全てに前記近接センサや前記触覚センサを配置する必要がある。しかも、物体との近接状況や外力を精度良く検出するには、センサを構成する素子や基板の数がどうしても増大してしまい、ロボットの軽量化を阻害する要因となる。また、特許文献1,2の構造の静電容量型近接センサが配置されたロボットの表出部分には、特許文献3の構造の磁気式触覚センサを配置することができず、逆に、当該磁気式触覚センサが配置されたロボットの表出部分には、前記静電容量型近接センサを配置することができない。このため、センサが配置されるロボットの表出部分のうち、近接状況を検知できない領域と外力を検知できない領域とが交互に生じることになり、安全性を考慮したロボットの動作制御を正確に行うための状態計測が不十分となる。
【0007】
本発明は、このような課題に着目して案出されたものであり、その目的は、センサを構成する素子や基板を最小限とし、同一の設置領域において、物体との近接状況を非接触で検出できるとともに、物体が接触した際の外力を検出することができる近接触覚センサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するため、本発明は、主として、物体と電極の間に生じる静電容量の変化に基づき、非接触で前記物体の接近距離を検出する静電容量型近接センサとしての機能と、外力に応じた磁性体の変位による磁界の変化を磁気センサで検知することで、前記外力の大きさを検出する磁気式触覚センサとしての機能とを有する近接触覚センサであって、前記電極は、導電性を有する剛体により形成され、前記磁性体は、前記磁界の変化を前記磁気センサで検知可能に前記電極に一体的に取り付けられ、前記電極及び前記磁性体の外側に配置され、前記磁気センサでの磁界の変化の検知を阻止しない材料からなる弾性体により形成されるフォームを備える、という構成を採っている。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、静電容量型近接センサ及び磁気式触覚センサの機能を兼ね備え、同一の設置領域において、物体との近接状況を非接触で検出できるとともに、物体が接触した際の外力を検出することができる。また、静電容量型近接センサでの検知に利用される電極が、磁性体の支持部材としても利用され、柔軟性を有する表層部分のフォームに外力が作用したときに、フォームの弾性変形を伴って電極のどこかの部分に外力が伝達される。このため、電極の一領域に磁性体を配置し、当該磁性体と外力の伝達部分とが離れた場所にあっても、電極の剛性による変位を利用して、磁性体を変位させることができ、フォーム内での外力の吸収による磁性体の変位の影響を軽減することができる。従って、磁性体や磁気センサを含む基板等の構成数やサイズを最小限にして、広範囲の外力の検出が可能になり、本センサが搭載されるロボット全体の軽量化に寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本実施形態に係る近接触覚センサの概略構成図。
【
図2】前記近接触覚センサの本体部の概略分解斜視図。
【
図3】(A)、(B)は、外力伝達の補助部材として電極を利用した本発明の効果を説明するための模式図。
【
図4】前記近接触覚センサが複数設置された状態を表す概略構成図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0012】
図1には、本実施形態に係る近接触覚センサの概略構成図が示され、
図2には、前記近接触覚センサの本体部の概略分解斜視図が示されている。これらの図において、前記近接触覚センサ10は、図示しないロボットアームの表面部位等の検出対象部位について、人間等の物体との接近状態を非接触で検出可能な近接センサとしての機能と、検出対象部位に外力が作用したときに、当該外力の作用状態を検出可能な触覚センサとしての機能とを有している。
【0013】
すなわち、この近接触覚センサ10は、前記検出対象部位に取り付けられて物体との接近距離や前記外力の大きさに対応した電気信号を発生させる本体部11と、本体部11にデジタルバス等を介して電気的に繋がり、前記電気信号から前記接近距離や前記外力の大きさを求める検出部12とを備えている。
【0014】
前記本体部11は、導電性を有する剛体により形成された平面視ほぼ方形板状の電極14と、電極14の
図1中下面のほぼ中央となる一領域に固定された磁性体15と、電極14と磁性体15の外側に配置されるフォーム16と、磁性体15の
図1中下方に配置され、磁性体15との間の磁界の変化を検知する磁気センサ17とを備えている。
【0015】
前記磁性体15は、特に限定されるものではないが、直方体状若しくは立方体状をなす永久磁石によって構成されている。なお、この磁性体15としては、磁気センサ17との間に所定の大きさの磁界を発生させることができる限りにおいて、種々の磁性体や磁界発生装置を用いることもできる。
【0016】
前記フォーム16は、磁気センサ17での磁界の変化の検知を阻止しない材料からなる導電性をほぼ有しない弾性体によって形成されており、
図1中上下方向に積層された第1及び第2のフォーム16A,16Bからなる。これらフォーム16A,16Bは、特に限定されるものではないが、ウレタンフォームやシリコンフォーム等により形成されている。同図中上側に位置する第1のフォーム16Aは、直方体状若しくは立方体状の外形をなし、電極14及び磁性体15を内包するようになっている。すなわち、第1のフォーム16Aの中央部分には、その平面サイズよりもやや小さい平面サイズを有する電極14と、電極14に一体的に取り付けられた磁性体15とが埋設されている。
図1中下側に位置する第2のフォーム16Bは、磁気センサ17の外側を囲むように配置されている。なお、本実施形態では、第1のフォーム16Aの
図1中上下方向の高さである厚みが、第2のフォーム16Bよりも大きく設定されているが、逆に、第1のフォーム16Aよりも第2のフォーム16Bの方を厚く設定しても良い。また、第1のフォーム16Aのうち、電極14を挟んで上側部分と下側部分の厚みや材料を相互に変えても良い。また、同上側部分を磁性体15よりも薄く設定することも可能である。つまり、後述する作用を奏する限りにおいて、磁性体15及び第1のフォーム16A,16Bの厚みを含むサイズは、図示例に限定されず、種々のバリエーションを採ることができる。
【0017】
前記磁気センサ17は、ホール素子や磁気抵抗素子等からなる磁気検出用素子19と、磁気検出用素子19が電気的に接続された基板20とを含む公知の構成のものが採用されており、第1のフォーム16Aを介した磁性体15との間の磁界の大きさに対応する電気信号に変換する構造となっている。なお、磁気検出用素子19は、後述するように、本体部11に作用した直交3軸方向(
図2中x、y、z軸方向)の外力の大きさをそれぞれ検出可能にするため、3箇所以上に設けられており、
図1及び
図2等においては、それらをまとめて1つの立方体で図示している点、了承されたい。
【0018】
前記検出部12は、電極14に電気的に接続され、非接触の物体との接近距離を求めて当該接近距離に対応する電気信号を生成する近接センシング部22と、磁気センサ17に電気的に接続され、磁気センサ17からの電気信号に基づいて、第1のフォーム16Aに作用した外力を求めて当該外力に対応する電気信号を生成する外力センシング部23とを備えている。
【0019】
前記近接センシング部22では、電極14と非接触の物体との間に生じる静電容量の変化に基づき、当該物体の接近距離を検出可能な静電容量型近接センサによる公知の手法によって、非接触の物体との接近距離が検出される。
【0020】
前記外力センシング部23では、第1のフォーム16Aに外力が付与されたときに、外力の大きさに応じた第1のフォーム16Aの弾性変形により、電極14に一体化された磁性体15が変位し、その変位状態に応じて前記直交3軸方向の外力を求めるようになっている。すなわち、ここでは、3箇所以上に設けられた磁気検出用素子19により、磁性体15との離間距離に対応してそれぞれ検知される磁界の大きさから、予め記憶された数式等からなる公知のアルゴリズムを利用して、
図2中x、y軸方向の外力であるせん断力と同図中z軸方向の外力である押圧力とを算出するようになっている。
【0021】
以上の構成によれば、前記近接触覚センサ10は、物体が第1のフォーム16Aに接触していない状態では、静電容量型近接センサとして機能し、物体との接近(離間)距離を非接触で検出でき、人間を含めた何等かの物体が第1のフォーム16Aに接触して外力が付与されると、磁気式触覚センサとして機能し、前記直交3軸方向の外力の大きさを検出することができる。その結果、前記本体部11が設置された前記検出対象部位においては、物体の非接触時における接近状態と物体の接触時における外力の作用状態の双方を検知することができ、接近状態及び外力の作用状態の何れかの非検知領域を無くすことができる。
【0022】
また、電極14は、近接センサとして利用する際の検出用電極として機能する他に、触覚センサとして利用する際に、磁気センサ17に相対配置される磁性体15の支持体としても利用され、外力の大きさに対応した第1のフォーム16Aの変形を磁性体15に伝達し易くする外力伝達補助部材として機能させることができる。すなわち、電極14は、所定の剛性を有しているため、電極14のない
図3(A)の構成に比べ、同図(B)に示されるように、例えば、第1のフォーム16Aの表面の周縁側に外力(
図3各図中の矢印部分参照)が作用したような場合に、電極14の変位を利用して第1のフォーム16Aの中央側に位置する磁性体15を変位させ易くすることができる。従って、僅かな大きさの外力が作用した場合や、磁性体15から離れた位置で外力が作用した場合でも、
図3(A)の構成に比べ、磁性体15の変位が発生し易くなり、外力の大きさを検出し易くなる。その結果、磁性体15や磁気センサ17の数やサイズを最小限にすることができ、少ないセンサ数で、より広範な領域の検出が可能になり、近接触覚センサ10が設置されるロボット等の軽量化に寄与することができる。
【0023】
なお、近接触覚センサ10を複数の検出対象部位に設置する場合には、
図4に示されるように、検出部12が一つのままで本体部11を複数連結すればよい。この場合、各電極14が電気的に接続されるとともに、各基板20がデジタルバス等で電気的に接続されることになる。この設置例によれば、少ない配線で、より広範囲における物体の接近状態と外力の作用状態の検出が可能である。なお、
図4では、図面の錯綜を回避するため、隣り合う本体部11間に隙間が存在する状態になっているが、当該隙間を殆ど設けずに、隣り合う本体部11同士をほぼぴったり接触させた状態で連結することもできる。
【0024】
また、前記電極14は、前記実施形態の形状及び構成に限らず、所定の剛性を有し、且つ、静電容量型近接センサの電極として機能させることができる限り、種々の形状及び構成を採用することができる。例えば、静電容量の検出精度を高めるために電極14の表面を凹凸形状にすることができる。また、ノイズや浮遊容量を低減させる構成を採用しても良い。この構成としては、
図5に示されるように、検出用電極として機能する前記電極14の同図中下方に対向配置されるシールド電極25を設け、近接センシング部22の基板構成を変えることで、ノイズ軽減等の対策を行うことができる。この場合、シールド電極25をグランドに接続する公知の態様や、電極14とシールド電極25に同相の交流電圧を印加することで各電極間での電位差を無くす公知の態様を例示できる。なお、
図5においては、検出用電極として機能する電極14とシールド電極25との間に第1のフォーム16Aが介在しているが、この態様に限らず、導電性を有しない他の材料からなる部材を介在させることもできる。
【0025】
更に、前記実施形態では、直交3軸方向の外力の大きさの検出を行う場合を図示説明したが、本発明はこれに限らず、最低限、1軸方向の外力の大きさの検出を行えるように、磁気センサ17や外力センシング部23を構成することも可能である。
【0026】
また、前記基板20に、温度センサや加速度センサ等の他のセンサを更に配置することもでき、近接触覚センサ10をマルチモーダルセンサとして機能させることも可能である。
【0027】
その他、本発明における装置各部の構成は図示構成例に限定されるものではなく、実質的に同様の作用を奏する限りにおいて、種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0028】
10 近接触覚センサ
11 本体部
12 検出部
14 電極
15 磁性体
16 フォーム
22 近接センシング部
23 外力センシング部