特許第6703751号(P6703751)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 6703751-正極活物質及び溶剤を含む組成物 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6703751
(24)【登録日】2020年5月13日
(45)【発行日】2020年6月3日
(54)【発明の名称】正極活物質及び溶剤を含む組成物
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/131 20100101AFI20200525BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20200525BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20200525BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20200525BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20200525BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20200525BHJP
   H01M 4/136 20100101ALI20200525BHJP
   H01M 4/1391 20100101ALI20200525BHJP
   H01M 4/1397 20100101ALI20200525BHJP
【FI】
   H01M4/131
   H01M4/505
   H01M4/525
   H01M4/58
   H01M4/36 C
   H01M4/36 E
   H01M4/62 Z
   H01M4/136
   H01M4/1391
   H01M4/1397
【請求項の数】7
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2016-204743(P2016-204743)
(22)【出願日】2016年10月18日
(65)【公開番号】特開2018-67434(P2018-67434A)
(43)【公開日】2018年4月26日
【審査請求日】2019年7月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】特許業務法人 共立
(72)【発明者】
【氏名】金田 潤
(72)【発明者】
【氏名】磯村 直彦
【審査官】 冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−212621(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/046077(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/132809(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00−4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式:LiNiCoMn(0.2≦a≦2、b+c+d+e=1、0<b<1、0<c<1、0<d<1、0≦e<1、DはW、Mo、Re、Pd、Ba、Cr、B、Sb、Sr、Pb、Ga、Al、Nb、Mg、Ta、Ti、La、Zr、Cu、Ca、Ir、Hf、Rh、Fe、Ge、Zn、Ru、Sc、Sn、In、Y、Bi、S、Si、Na、K、P、Vから選ばれる少なくとも1の元素、1.7≦f≦3)で表される第1正極活物質、一般式:LiMPO(MはMn、Fe、Co、Ni、Cu、Mg、Zn、V、Ca、Sr、Ba、Ti、Al、Si、B、Te及びMoから選ばれる少なくとも1の元素、0<h<2)で表される化合物を炭素で被覆してなる第2正極活物質、(CH−CH(OH))で表される第1モノマー単位及び(CH−CH(O−C(=O)R))(Rはアルキル基)で表される第2モノマー単位からなる重合体、並びに、溶剤を含む組成物であって、
前記組成物に含まれる固形分に対する前記第2正極活物質の質量比が20〜35質量%であり、
前記重合体において、第1モノマー単位の構成数mと、第2モノマー単位の構成数nとの関係が、下記関係式(1)及び関係式(2)を満足することを特徴とする組成物。
関係式(1):85<100×m/(m+n)<90
関係式(2):400<m+n<600
【請求項2】
前記組成物が導電助剤及び/又は結着剤を含む請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
一般式:LiNiCoMn(0.2≦a≦2、b+c+d+e=1、0<b<1、0<c<1、0<d<1、0≦e<1、DはW、Mo、Re、Pd、Ba、Cr、B、Sb、Sr、Pb、Ga、Al、Nb、Mg、Ta、Ti、La、Zr、Cu、Ca、Ir、Hf、Rh、Fe、Ge、Zn、Ru、Sc、Sn、In、Y、Bi、S、Si、Na、K、P、Vから選ばれる少なくとも1の元素、1.7≦f≦3)で表される第1正極活物質、一般式:LiMPO(MはMn、Fe、Co、Ni、Cu、Mg、Zn、V、Ca、Sr、Ba、Ti、Al、Si、B、Te及びMoから選ばれる少なくとも1の元素、0<h<2)で表される化合物を炭素で被覆してなる第2正極活物質、並びに、(CH−CH(OH))で表される第1モノマー単位及び(CH−CH(O−C(=O)R))(Rはアルキル基)で表される第2モノマー単位からなる重合体を含む正極活物質層であって、
前記正極活物質層に対する前記第2正極活物質の質量比が20〜35質量%であり、
前記重合体において、第1モノマー単位の構成数mと、第2モノマー単位の構成数nとの関係が、下記関係式(1)及び関係式(2)を満足することを特徴とする正極活物質層。
関係式(1):85<100×m/(m+n)<90
関係式(2):400<m+n<600
【請求項4】
請求項3に記載の正極活物質層を具備する正極。
【請求項5】
請求項4に記載の正極を具備するリチウムイオン二次電池。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の組成物を集電体に塗布する工程、を含む正極の製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の製造方法で製造された正極を配置する工程、を含むリチウムイオン二次電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正極活物質及び溶剤を含む組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
正極活物質としてLiNi1/3Co1/3Mn1/3やLiNi5/10Co2/10Mn3/10を用いたリチウムイオン二次電池が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1及び特許文献2には、正極活物質としてLiNi1/3Co1/3Mn1/3を用いたリチウムイオン二次電池が具体的に開示されている。特許文献3には、正極活物質としてLiNi5/10Co2/10Mn3/10を用いたリチウムイオン二次電池が具体的に開示されている。
【0004】
また、リチウムイオン二次電池の正極活物質には種々の材料が用いられることが知られており、さらに、正極活物質として複数の材料を採用したリチウムイオン二次電池も知られている。
【0005】
例えば、特許文献4及び特許文献5には、正極活物質としてLiNi1/3Co1/3Mn1/3及びLiFePOを採用したリチウムイオン二次電池が具体的に開示されている。特許文献6には、正極活物質としてLiNi0.8Co0.1Mn0.1及びLiV2/3POを採用したリチウムイオン二次電池が具体的に開示されている。
【0006】
一般的にリチウムイオン二次電池の正極は、集電体と、該集電体上に形成された正極活物質層からなる。通常、正極活物質層は、集電体上に正極活物質及び溶剤を含む組成物(スラリー)を塗布し、該組成物から該溶剤を除去する製造方法により製造される。
【0007】
実際に、特許文献1〜3に記載の正極活物質層は、いずれも、正極活物質及び溶剤を含む組成物を集電体に塗布し、そして、該組成物から該溶剤を除去する製造方法により製造されている(いずれも実施例1を参照。)。
【0008】
同様に、特許文献4〜6に記載の正極活物質層はいずれも、2種の正極活物質、導電助剤、結着剤及び溶剤を含む組成物を集電体に塗布し、そして、該組成物から該溶剤を除去する製造方法により製造されている(いずれも実施例1を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2015−125950号公報
【特許文献2】特開2015−35400号公報
【特許文献3】特開2014−162700号公報
【特許文献4】特開2011−228293号公報
【特許文献5】特開2013−178935号公報
【特許文献6】特開2013−77421号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
通常、実験室においては、正極活物質及び溶剤を含む組成物を作成後、直ちに、この組成物を集電体に塗布する塗布工程を実施する。しかしながら、製造スケールが大きくなる実生産においては、上記組成物を作成後、直ちに塗布工程を実施することが常に可能ではない。そのため、正極活物質及び溶剤を含む組成物には、ある程度の期間における安定性が求められる。
【0011】
本発明者が、2種類の正極活物質を採用したリチウムイオン二次電池を提供することを志向して、LiNi5/10Co2/10Mn3/10で表される正極活物質、LiFePOを炭素で被覆してなる正極活物質、及び溶剤を含む組成物について、その安定性を評価したところ、組成物はゲル化し、塗布工程に使用できないものとなった。
【0012】
本発明は、かかる事情に鑑みて為されたものであり、ゲル化を一定期間抑制できる、すなわち経時安定性に優れる、2種類の正極活物質及び溶剤を含む組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、一般式:LiNiCoMn(0.2≦a≦2、b+c+d+e=1、0<b<1、0<c<1、0<d<1、0≦e<1、DはW、Mo、Re、Pd、Ba、Cr、B、Sb、Sr、Pb、Ga、Al、Nb、Mg、Ta、Ti、La、Zr、Cu、Ca、Ir、Hf、Rh、Fe、Ge、Zn、Ru、Sc、Sn、In、Y、Bi、S、Si、Na、K、P、Vから選ばれる少なくとも1の元素、1.7≦f≦3)で表される第1正極活物質と、一般式:LiMPO(MはMn、Fe、Co、Ni、Cu、Mg、Zn、V、Ca、Sr、Ba、Ti、Al、Si、B、Te及びMoから選ばれる少なくとも1の元素、0<h<2)で表される化合物を炭素で被覆してなる第2正極活物質とを併用し、かつ、特定の比率で第2正極活物質を含む組成物を提供することを志向した。
【0014】
そして、本発明者が鋭意検討した結果、特定の化学構造の重合体を添加した組成物は粘度上昇が抑制されること、及び、上記重合体のうち、特定の条件を満足する重合体を添加した組成物は、粘度上昇が著しく抑制されることを見出した。
【0015】
すなわち、本発明の組成物は、一般式:LiNiCoMn(0.2≦a≦2、b+c+d+e=1、0<b<1、0<c<1、0<d<1、0≦e<1、DはW、Mo、Re、Pd、Ba、Cr、B、Sb、Sr、Pb、Ga、Al、Nb、Mg、Ta、Ti、La、Zr、Cu、Ca、Ir、Hf、Rh、Fe、Ge、Zn、Ru、Sc、Sn、In、Y、Bi、S、Si、Na、K、P、Vから選ばれる少なくとも1の元素、1.7≦f≦3)で表される第1正極活物質、一般式:LiMPO(MはMn、Fe、Co、Ni、Cu、Mg、Zn、V、Ca、Sr、Ba、Ti、Al、Si、B、Te及びMoから選ばれる少なくとも1の元素、0<h<2)で表される化合物を炭素で被覆してなる第2正極活物質、(CH−CH(OH))で表される第1モノマー単位及び(CH−CH(O−C(=O)R))(Rはアルキル基)で表される第2モノマー単位からなる重合体、並びに、溶剤を含む組成物であって、
前記組成物に含まれる固形分に対する前記第2正極活物質の質量比が20〜35質量%であり、
前記重合体において、第1モノマー単位の構成数mと、第2モノマー単位の構成数nとの関係が、下記関係式(1)及び関係式(2)を満足することを特徴とする。
関係式(1):85<100×m/(m+n)<90
関係式(2):400<m+n<600
【発明の効果】
【0016】
特定の条件を満足する重合体を添加した本発明の組成物は、時間の経過に伴う粘度上昇を抑制することができる。そのため、上記重合体を含有しない組成物と比較して、組成物の使用可能時間を延長することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施例及び比較例の組成物における、1週間後の粘度上昇率(%)のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明を実施するための形態を説明する。なお、特に断らない限り、本明細書に記載された数値範囲「x〜y」は、下限x及び上限yをその範囲に含む。そして、これらの上限値及び下限値、並びに実施例中に列記した数値も含めてそれらを任意に組み合わせることで新たな数値範囲を構成し得る。更に、上記の何れかの数値範囲内から任意に選択した数値を新たな数値範囲の上限、下限の数値とすることができる。
【0019】
本発明の組成物は、一般式:LiNiCoMn(0.2≦a≦2、b+c+d+e=1、0<b<1、0<c<1、0<d<1、0≦e<1、DはW、Mo、Re、Pd、Ba、Cr、B、Sb、Sr、Pb、Ga、Al、Nb、Mg、Ta、Ti、La、Zr、Cu、Ca、Ir、Hf、Rh、Fe、Ge、Zn、Ru、Sc、Sn、In、Y、Bi、S、Si、Na、K、P、Vから選ばれる少なくとも1の元素、1.7≦f≦3)で表される第1正極活物質、一般式:LiMPO(MはMn、Fe、Co、Ni、Cu、Mg、Zn、V、Ca、Sr、Ba、Ti、Al、Si、B、Te及びMoから選ばれる少なくとも1の元素、0<h<2)で表される化合物を炭素で被覆してなる第2正極活物質、(CH−CH(OH))で表される第1モノマー単位及び(CH−CH(O−C(=O)R))(Rはアルキル基)で表される第2モノマー単位からなる重合体、並びに、溶剤を含む組成物であって、
前記組成物に含まれる固形分に対する前記第2正極活物質の質量比が20〜35質量%であり、
前記重合体において、第1モノマー単位の構成数mと、第2モノマー単位の構成数nとの関係が、下記関係式(1)及び関係式(2)を満足することを特徴とする。
関係式(1):85<100×m/(m+n)<90
関係式(2):400<m+n<600
【0020】
本発明の組成物は、溶剤及び溶剤以外の固形分からなる。溶剤以外の固形分とは、正極活物質、重合体、並びに、必要に応じて用いられる導電助剤及び結着剤等の添加剤をいう。本発明の組成物において、溶剤以外の固形分(以下、単に「固形分」ということがある。)の配合量は、30〜90質量%の範囲内が好ましく、50〜80質量%の範囲内が好ましく、60〜70質量%の範囲内がより好ましい。
【0021】
第1正極活物質は、Li、Ni、Co及びMnを必須の構成金属とする金属酸化物である。一般式:LiNiCoMn(0.2≦a≦2、b+c+d+e=1、0<b<1、0<c<1、0<d<1、0≦e<1、DはW、Mo、Re、Pd、Ba、Cr、B、Sb、Sr、Pb、Ga、Al、Nb、Mg、Ta、Ti、La、Zr、Cu、Ca、Ir、Hf、Rh、Fe、Ge、Zn、Ru、Sc、Sn、In、Y、Bi、S、Si、Na、K、P、Vから選ばれる少なくとも1の元素、1.7≦f≦3)において、b、c、dの値は、上記条件を満足するものであれば特に制限はないが、b、c、dの少なくともいずれか一つが10/100<b<90/100、10/100<c<90/100、5/100<d<70/100の範囲であることが好ましく、20/100<b<80/100、15/100<c<70/100、10/100<d<50/100の範囲であることがより好ましく、30/100<b<70/100、20/100<c<50/100、12/100<d<30/100の範囲であることがさらに好ましく、40/100<b<60/100、25/100<c<35/100、15/100<d<25/100の範囲であることがさらに好ましい。
【0022】
aは、0.5≦a≦1.5の範囲内が好ましく、0.7≦a≦1.3の範囲内がより好ましく、0.9≦a≦1.2の範囲内がさらに好ましく、1≦a≦1.1の範囲内が特に好ましい。
【0023】
e、fについては一般式で規定する範囲内の数値であればよく、好ましくは0≦e<0.2、1.8≦f≦2.5、より好ましくは0≦e<0.1、1.9≦f≦2.1を例示することができる。
【0024】
第1正極活物質は、層状岩塩型の結晶構造を有するものが好ましい。
【0025】
第1正極活物質はその形状が特に制限されるものではないが、平均粒子径でいうと、100μm以下が好ましく、0.1μm以上50μm以下がより好ましく、0.5μm以上20μm以下がさらに好ましく、1μm以上10μm以下が特に好ましい。0.1μm未満では、電極を製造した際に集電体との密着性が損なわれやすいなどの不具合を生じることがある。100μmを超えると電極の大きさに影響を与えたり、二次電池を構成するセパレータを損傷するなどの不具合を生じることがある。なお、本明細書における平均粒子径は、一般的なレーザー回折式粒度分布測定装置で計測した場合のD50の値を意味する。
【0026】
第2正極活物質は、一般式:LiMPO(MはMn、Fe、Co、Ni、Cu、Mg、Zn、V、Ca、Sr、Ba、Ti、Al、Si、B、Te及びMoから選ばれる少なくとも1の元素、0<h<2)で表される化合物を炭素で被覆してなるものである。
【0027】
第2正極活物質としては、LiMPOの一部が炭素で被覆されたものであってもよいし、LiMPOの表面全部が炭素で被覆されたものであってもよい。また、LiMPOはオリビン型の結晶構造を有するものが好ましい。
【0028】
上記LiMPOのMは、Mn、Fe、Co、Ni、Mg、V、Teから選ばれる少なくとも1の元素であるのが好ましく、また、hは0.6<h<1.1であるのが好ましい。当該Mは、Mn及び/又はFeであるのがより好ましく、また、h=1であるのがより好ましい。第2正極活物質の一般式の具体例としては、例えば、LiFePO、LiCoPO、LiNiPO、LiMnPO、LiVPO、LiTePO、LiV2/3PO、LiFe2/3PO、LiMn7/8Fe1/8POが挙げられる。
【0029】
第2正極活物質は形状が特に制限されるものではないが、第1正極活物質よりも平均粒子径が小さいものが好ましい。平均粒子径でいうと、50μm以下が好ましく、0.01μm以上30μm以下がより好ましく、0.1μm以上10μm以下がさらに好ましく、0.5μm以上5μm以下が特に好ましい。
【0030】
本発明の組成物に含まれる固形分に対する第2正極活物質の質量比は20〜35質量%の範囲内である。当該範囲内で第2正極活物質が存在することにより、本発明の組成物を原材料として製造されるリチウムイオン二次電池は、高い水準での熱安定性を示すことができる。上記質量比として、21〜30質量%の範囲内、23〜28質量%の範囲内、24〜26質量%の範囲内を例示できる。
【0031】
本発明の組成物の固形分に対する、正極活物質の配合量は、60〜99.9質量%の範囲内が好ましく、70〜99質量%の範囲内がより好ましく、80〜98質量%の範囲内がさらに好ましく、90〜97質量%の範囲内が特に好ましい。また、本発明の組成物における第1正極活物質と第2正極活物質の配合質量比は、80:20〜60:40の範囲内が好ましく、77:23〜65:35の範囲内がより好ましく、75:25〜70:30の範囲内がさらに好ましい。
【0032】
次に、重合体について説明する。重合体は、本発明の組成物の粘度上昇を抑制する役割に加えて、正極活物質などを好適に分散する役割を担っていると推定される。
【0033】
本発明の組成物には、(CH−CH(OH))で表される第1モノマー単位及び(CH−CH(O−C(=O)R))(Rはアルキル基)で表される第2モノマー単位からなる重合体が含まれる。第2モノマーのアルキル基としては、炭素数1〜6のものが好ましく、炭素数1〜3のものがより好ましい。
【0034】
前記重合体において、第1モノマー単位の構成数mと、第2モノマー単位の構成数nとの関係は、下記関係式(1)及び関係式(2)を満足する。
関係式(1):85<100×m/(m+n)<90
関係式(2):400<m+n<600
以下、関係式(1)における100×m/(m+n)の値を「ケン化度」という場合があり、関係式(2)におけるm+nの値を「重合度」という場合がある。
【0035】
重合体のケン化度が高すぎると、溶剤に対する重合体の溶解度が低下する場合がある。実際に、溶剤としてN−メチル−2−ピロリドンを用いた場合、ケン化度が92程度の重合体を溶剤に溶解させることは困難であった。重合体のケン化度が低すぎると、組成物の粘度が上昇しやすくなる。なお、ケン化度については、JIS K 6726に記載の方法で測定すればよい。
【0036】
関係式(1)の態様として、以下の関係式を例示できる。
関係式(1−1):86≦100×m/(m+n)≦89
関係式(1−2):87≦100×m/(m+n)≦89
【0037】
また、重合体の重合度が高すぎる場合、若しくは、低すぎる場合には、組成物の粘度が上昇しやすくなる。
【0038】
関係式(2)の態様として、以下の関係式を例示できる。
関係式(2−1):450≦m+n≦550
関係式(2−2):470≦m+n≦530
【0039】
上記重合体は、市販のものを購入して用いてもよいし、公知の方法で製造したものを用いてもよい。一般的には、第2モノマー単位の重合体を製造し、そのエステル部分を塩基性条件下で加水分解することで、各ケン化度の上記重合体を製造することができる。
【0040】
本発明の組成物における重合体の配合量は、正極活物質の配合量又は固形分に対し、0.01〜1質量%の範囲内が好ましく、0.05〜0.7質量%の範囲内がより好ましく、0.07〜0.5質量%の範囲内がさらに好ましく、0.1〜0.3質量%の範囲内が特に好ましい。重合体の配合量が少なすぎると組成物における正極活物質の好適な分散を維持できない場合があり、経時的に正極活物質同士の凝集やそれによる沈殿を生じるおそれがある。また、重合体の配合量が多すぎると、組成物における正極活物質の分散には好適であるものの、該組成物から製造した正極活物質層において、多量の重合体の存在が抵抗となり充放電の妨げとなるおそれがある。
【0041】
溶剤としては、具体的にN−メチル−2−ピロリドン(以下、「NMP」と略す場合がある。)、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メタノール、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、酢酸エチル、及びテトラヒドロフランを例示できる。これらの溶剤は、1種類を単独で本発明の組成物に用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。汎用性、除去容易性、重合体の溶解性などの観点から、溶剤としては、NMPが最も好ましい。
【0042】
本発明の組成物には、必要に応じ、導電助剤及び/又は結着剤を配合してもよい。
【0043】
導電助剤は、電極の導電性を高めるために添加される。導電助剤としては化学的に不活性な電子伝導体であれば良く、炭素粒子であるカーボンブラック、黒鉛、気相法炭素繊維(Vapor Grown Carbon Fiber)、および各種金属粒子などが例示される。カーボンブラックとしては、アセチレンブラック、ケッチェンブラック(登録商標)、ファーネスブラック、チャンネルブラックなどが例示される。これらの導電助剤を単独または二種以上組み合わせて用いることができる。
【0044】
導電助剤はその形状が特に制限されるものではないが、その役割からみて、その平均粒子径は小さいほうが好ましい。第1正極活物質よりも平均粒子径が小さいものが好ましく、第1正極活物質及び第2正極活物質の両者よりも平均粒子径が小さいものがより好ましい。導電助剤の平均粒子径を挙げると、10μm以下が好ましく、0.01〜5μmの範囲内がより好ましく、0.02〜3μmの範囲内がさらに好ましく、0.03〜1μmの範囲内が特に好ましい。
【0045】
本発明の組成物における導電助剤の配合量は、正極活物質の配合量又は固形分に対し、0.5〜20質量%の範囲内が好ましく、1〜10質量%の範囲内がより好ましく、2〜5質量%の範囲内が特に好ましい。
【0046】
結着剤は、正極活物質や導電助剤を集電体の表面に繋ぎ止め、電極中の導電ネットワークを維持する役割を果たすものである。結着剤としては、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、ポリイミド、ポリアミドイミド等のイミド系樹脂、アルコキシシリル基含有樹脂を例示することができる。また、結着剤として、親水基を有するポリマーを採用してもよい。親水基を有するポリマーの親水基としては、カルボキシル基、スルホ基、シラノール基、アミノ基、水酸基、リン酸基が例示される。親水基を有するポリマーの具体例として、ポリアクリル酸、カルボキシメチルセルロース、ポリメタクリル酸、ポリ(p−スチレンスルホン酸)を挙げることができる。
【0047】
本発明の組成物における結着剤の配合量は、正極活物質及び導電助剤の合計配合量又は固形分に対し、0.5〜20質量%の範囲内が好ましく、1〜10質量%の範囲内がより好ましく、2〜5質量%の範囲内が特に好ましい。結着剤の配合量が少なすぎると組成物を正極活物質層とした場合に当該層の成形性が低下するおそれがある。また、結着剤の配合量が多すぎると、正極活物質層における正極活物質の量が減少するため、好ましくない。
【0048】
なお、本発明の組成物には、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、他の添加剤を配合してもよい。
【0049】
また、本発明の組成物に水が多量に存在すると、組成物の粘度が上昇する場合がある。そのため、本発明の組成物においては、水の存在が制限されるのが好ましい。概ね、本発明の組成物に対する水の濃度が2500ppm以下であれば、組成物の著しい粘度上昇は抑制される。本発明の組成物に対する水の濃度は、2500ppm以下が好ましく、2000ppm以下がより好ましく、1500ppm以下がさらに好ましい。水の濃度の下限としては、100ppm、200ppm、500ppmを例示できる。
【0050】
本発明の組成物を製造するには、各成分を同時に又は順に加えて混合装置で混合すればよい。
【0051】
好適な本発明の組成物の製造方法としては、重合体と溶剤を含む混合液に、導電助剤及び正極活物質を、平均粒子径の小さいものから順番に加えていく方法を挙げることができる。一般に粒子の凝集は、平均粒子径が小さいものほど、速やかに進行する。例えば、第1正極活物質、該第1正極活物質よりも平均粒子径が小さい第2正極活物質、該第2正極活物質よりも平均粒子径が小さい導電助剤を含む組成物においては、導電助剤及び第2正極活物質の凝集が第1正極活物質の凝集に優先して生じる。しかし、先に平均粒子径が小さいものを分散しておくことで、本発明の組成物における各成分の分散性が好適化し、その結果、本発明の製造方法で得られた組成物を用いて製造された正極においても、導電助剤が好適に分散した状態となるため、正極の抵抗が好適に抑制されると推定される。
【0052】
他の好適な本発明の組成物の製造方法としては、重合体と結着剤と溶剤を含む混合液に、導電助剤及び正極活物質を加えていく方法を挙げることができる。あらかじめ結着剤、重合体及び溶剤を混合した混合液とすることで、結着剤が有する分散性能と重合体が有する分散性能とを総合した分散性能を、導電助剤に好適に付与できると推定される。
【0053】
本発明の組成物の特に好適な製造方法としては、重合体と結着剤と溶剤を含む混合液に、導電助剤及び正極活物質を、平均粒子径の小さいものから順番に加えていく方法を挙げることができる。平均粒子径の小さい粒子の周りに優先的に重合体、結着剤及び溶剤を存在させることで、当該粒子の凝集を好適に抑制できるため、該凝集に伴う組成物の粘度増加及び不均一化を抑制することができる。
【0054】
混合装置としては、混合攪拌機、ボールミル、サンドミル、ビーズミル、分散機、超音波分散機、ホモジナイザー、ホモミキサー、プラネタリーミキサー、遊星式攪拌脱泡装置を例示できる。具体的な混合装置としては、商品名ディスパーミキサー(プライミクス株式会社)、商品名クレアミックス(エム・テクニック株式会社)、商品名フィルミックス(プライミクス株式会社)、商品名ペイントコンディショナー(レッドデビル社)、商品名DYNO-MILL(株式会社シンマルエンタープライゼス)、商品名アイリッヒ インテンシブ ミキサー(日本アイリッヒ株式会社)、商品名脱泡機DP-200(エム・テクニック株式会社)、商品名あわとり練太郎(株式会社シンキー)、商品名スターミル(アシザワファインテック株式会社)、商品名ホモディスパー(プライミクス株式会社)を挙げることができる。混合装置における混合速度は、組成物の各成分が好適に分散若しくは溶解できる速度を適宜設定すればよい。
【0055】
本発明の組成物は、特定の重合体の存在に因り、正極活物質及び導電助剤が好適に分散しているといえる。しかも、本発明の組成物は、比較的、経時安定性に優れる。よって、本発明の組成物を用いて正極活物質層を製造する間においても、本発明の組成物は正極活物質の凝集や沈降を起こさずに安定に物性を維持しているといえる。従って、本発明の組成物を用いて製造した正極活物質層においては、バッチ内、ロット内、バッチ間及びロット間のバラツキが抑えられ、一定の品質を確保できるといえる。
【0056】
また、本発明の組成物においては各成分が好適に分散されているといえることから、本発明の組成物を用いて製造した正極活物質層においても各成分が好適に分散されているといえる。各成分の好適な分散状態が、正極の低抵抗化や長寿命化、高出力化に寄与すると推定される。
【0057】
本発明の組成物を用いて正極活物質層を製造でき、さらに、該正極活物質層を具備する正極、及び該正極を具備するリチウムイオン二次電池を製造できる。
【0058】
正極は、集電体と、集電体の表面に結着させた正極活物質層で構成される。
【0059】
集電体は、リチウムイオン二次電池の放電又は充電の間、電極に電流を流し続けるための化学的に不活性な電子伝導体をいう。集電体としては、銀、銅、金、アルミニウム、マグネシウム、タングステン、コバルト、亜鉛、ニッケル、鉄、白金、錫、インジウム、チタン、ルテニウム、タンタル、クロム、モリブデンから選ばれる少なくとも一種、並びにステンレス鋼などの金属材料を例示することができる。集電体は公知の保護層で被覆されていても良い。
【0060】
集電体は箔、シート、フィルム、線状、棒状などの形態をとることができる。そのため、集電体として、例えば銅箔、ニッケル箔、アルミニウム箔、ステンレス箔などの金属箔を好適に用いることができる。集電体が箔、シート、フィルム形態の場合は、その厚みが10μm〜100μmの範囲内であることが好ましい。
【0061】
集電体の表面に正極活物質層を形成させる方法としては、ロールコート法、ディップコート法、ドクターブレード法、スプレーコート法、カーテンコート法などの従来から公知の方法を用いて、集電体の表面に本発明の組成物を塗布すればよい。具体的には、本発明の組成物を集電体の表面に塗布する塗布工程後、乾燥により溶剤を除去して正極活物質層を形成させ、正極とする。必要に応じて電極密度を高めるべく、乾燥後の正極を圧縮しても良い。なお、本発明の組成物は、経時安定性に優れているので、その調製直後に塗布工程に用いる必要はない。
【0062】
リチウムイオン二次電池は、電池構成要素として、正極、負極、セパレータ及び電解液を含む。
【0063】
負極は、集電体と、集電体の表面に結着させた負極活物質層を有する。
【0064】
負極活物質層は負極活物質、並びに必要に応じて結着剤及び/又は導電助剤を含む。
【0065】
集電体、結着剤及び導電助剤は、正極又は本発明の組成物で説明したものを採用すればよい。また、負極活物質層用の結着剤としてスチレン−ブタジエンゴムを採用しても良い。
【0066】
負極活物質としては、リチウムを吸蔵及び放出可能な炭素系材料、リチウムと合金化可能な元素、リチウムと合金化可能な元素を有する元素化合物、あるいは高分子材料などを例示することができる。
【0067】
炭素系材料としては、難黒鉛化性炭素、天然黒鉛、人造黒鉛、コークス類、グラファイト類、ガラス状炭素類、有機高分子化合物焼成体、炭素繊維、活性炭あるいはカーボンブラック類が例示できる。ここで、有機高分子化合物焼成体とは、フェノール類やフラン類などの高分子材料を適当な温度で焼成して炭素化したものをいう。
【0068】
リチウムと合金化可能な元素としては、具体的にNa、K、Rb、Cs、Fr、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Ra、Ti、Ag、Zn、Cd、Al、Ga、In、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、Biが例示でき、特に、Si又はSnが好ましい。
【0069】
リチウムと合金化可能な元素を有する元素化合物としては、具体的にZnLiAl、AlSb、SiB、SiB、MgSi、MgSn、NiSi、TiSi、MoSi、 CoSi、NiSi、CaSi、CrSi、CuSi、FeSi、MnSi、NbSi、TaSi、VSi、WSi、ZnSi、SiC、Si、SiO、SiO(0<v≦2)、SnO(0<w≦2)、SnSiO、LiSiO あるいはLiSnOを例示でき、特に、SiO(0.3≦x≦1.6)が好ましい。また、リチウムと合金化反応可能な元素を有する元素化合物として、スズ合金(Cu−Sn合金、Co−Sn合金等)などの錫化合物を例示できる。
【0070】
高分子材料としては、具体的にポリアセチレン、ポリピロールを例示できる。
【0071】
また、負極活物質として、CaSiと酸とを反応させてCaを除去したポリシランを主成分とする層状シリコン化合物を合成し、当該層状シリコン化合物を300℃以上で加熱して水素を離脱させる方法で製造されるシリコン材料を挙げることができる。当該シリコン材料は、複数枚の板状シリコン体が厚さ方向に積層されてなる構造を有する。この構造は、走査型電子顕微鏡などによる観察で確認できる。当該シリコン材料を、リチウムイオン二次電池の活物質として使用することを考慮すると、リチウムイオンの効率的な挿入及び脱離反応のためには、板状シリコン体は厚さが10nm〜100nmの範囲内のものが好ましく、20nm〜50nmの範囲内のものがより好ましい。また、板状シリコン体の長軸方向の長さは、0.1μm〜50μmの範囲内のものが好ましい。また、板状シリコン体は、(長軸方向の長さ)/(厚さ)が2〜1000の範囲内であるのが好ましい。
【0072】
当該シリコン材料には、アモルファスシリコン及び/又はシリコン結晶子が含まれるのが好ましい。シリコン結晶子のサイズは、0.5nm〜300nmの範囲内が好ましく、1nm〜100nmの範囲内がより好ましく、1nm〜50nmの範囲内がさらに好ましく、1nm〜10nmの範囲内が特に好ましい。なお、シリコン結晶子のサイズは、シリコン材料に対してX線回折測定(XRD測定)を行い、得られたXRDチャートのSi(111)面の回折ピークの半値幅を用いたシェラーの式から算出される。
【0073】
一般的なレーザー回折式粒度分布測定装置で測定した場合における、シリコン材料の好ましい粒度分布としては、平均粒子径(D50)が1〜30μmの範囲内であることを例示でき、より好ましくは平均粒子径(D50)が1〜10μmの範囲内であることを例示できる。
【0074】
必要に応じ、負極活物質には炭素被覆が施されてもよい。
【0075】
セパレータは、正極と負極とを隔離し、両極の接触による短絡を防止しつつ、リチウムイオンを通過させるものである。セパレータとしては、例えばポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレン若しくはポリエチレンなどの合成樹脂を1種又は複数用いた多孔質膜、又はセラミックス製の多孔質膜が例示できる。
【0076】
電解液は、非水溶媒とこの非水溶媒に溶解された電解質とを含んでいる。
【0077】
非水溶媒としては、環状エステル類、鎖状エステル類、エーテル類等が使用できる。環状エステル類としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ガンマブチロラクトン、ビニレンカーボネート、2−メチル−ガンマブチロラクトン、アセチル−ガンマブチロラクトン、ガンマバレロラクトンを例示できる。鎖状エステル類としては、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジブチルカーボネート、ジプロピルカーボネート、メチルエチルカーボネート、プロピオン酸アルキルエステル、マロン酸ジアルキルエステル、酢酸アルキルエステル等を例示できる。エーテル類としては、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、1,2−ジブトキシエタンを例示できる。また、溶媒として、上記の具体的な溶媒の化学構造を構成する水素の一部又は全部がフッ素で置換された溶媒を採用しても良い。電解液には、これらの非水溶媒を単独で用いてもよいし、又は、複数を併用してもよい。
【0078】
電解質としては、LiClO、LiAsF、LiPF、LiBF、LiCFSO、LiN(CFSO等のリチウム塩を例示できる。
【0079】
電解液としては、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、プロピレンカーボネート、ジエチルカーボネートなどの非水溶媒に、LiClO、LiPF、LiBF、LiCFSOなどのリチウム塩を0.5mol/lから1.7mol/l程度の濃度で溶解させた溶液を例示できる。
【0080】
リチウムイオン二次電池の製造方法としては、本発明の組成物を用いて製造された正極を配置する工程を有していればよい。以下、リチウムイオン二次電池の具体的な製造方法を例示する。正極と負極とでセパレータを挟持して電極体とする。電極体は、正極、セパレータ及び負極を重ねた積層型、又は、正極、セパレータ及び負極の積層体を捲いた捲回型のいずれの型にしても良い。正極の集電体および負極の集電体から外部に通ずる正極端子および負極端子までを、集電用リード等を用いて接続した後に、電極体に電解液を加えてリチウムイオン二次電池とするとよい。
【0081】
リチウムイオン二次電池は車両に搭載することができる。リチウムイオン二次電池は、大きな充放電容量を維持し、かつ優れたサイクル性能を有するため、これを搭載した車両は、高性能の車両となる。
【0082】
車両としては、電池による電気エネルギーを動力源の全部または一部に使用する車両であればよく、例えば、電気自動車、ハイブリッド自動車、プラグインハイブリッド自動車、ハイブリッド鉄道車両、電動フォークリフト、電気車椅子、電動アシスト自転車、電動二輪車が挙げられる。
【0083】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良等を施した種々の形態にて実施することができる。
【実施例】
【0084】
以下に、実施例および比較例を示し、本発明をより具体的に説明する。なお、本発明は、これらの実施例によって限定されるものではない。
【0085】
(実施例1)
結着剤としてのポリフッ化ビニリデン(ポリフッ化ビニリデン8質量%含有のNMP溶液(株式会社クレハ・バッテリー・マテリアルズ・ジャパン製のL#7208)を使用)、重合体としてのJP−05(日本酢ビ・ポバール株式会社)、及び、溶剤としてのNMPを混合装置で混合して混合液とした。JP−05は、ケン化度88、重合度500であり、関係式(1)及び関係式(2)を共に満足する。
【0086】
上記混合液に導電助剤としてのアセチレンブラック(電気化学工業株式会社製のデンカブラック粒状品:一次粒径35nm)を加え、混合装置で混合して第1分散液を製造した。第1分散液に、第2正極活物質として、表面をカーボンコートしたLiFePOを添加して、混合装置で混合し、第2分散液とした。使用した第2正極活物質のD50は2.6μmであった。第2分散液に、第1正極活物質として、層状岩塩構造のLiNi5/10Co3/10Mn2/10を添加して、混合装置で混合し、実施例1の組成物を製造した。使用した第1正極活物質のD50は6μmであった。
【0087】
実施例1の組成物における、溶剤以外の固形分の配合量は64質量%であった。また、実施例1の組成物における、第1正極活物質と第2正極活物質と導電助剤と結着剤と重合体との質量比は、第1正極活物質:第2正極活物質:導電助剤:結着剤:重合体=69:25:2.86:3:0.14であり、第1正極活物質と第2正極活物質との質量比は、第1正極活物質:第2正極活物質=73:27であった。
【0088】
(実施例2)
第1正極活物質として、D50が6μmであり、層状岩塩構造のLiNi5/10Co2/10Mn3/10を用いたこと、及び、組成物において溶剤以外の固形分の配合量を63質量%としたこと以外は、実施例1と同様の方法で、実施例2の組成物を製造した。
【0089】
(比較例1)
重合体としてPVA203(株式会社クラレ)を用いた以外は、実施例1と同様の方法で、比較例1の組成物を製造した。PVA203は、ケン化度88、重合度300であり、関係式(1)を満足するものの、関係式(2)を満足しない。
【0090】
(比較例2)
重合体としてPVA210(株式会社クラレ)を用いた以外は、実施例1と同様の方法で、比較例2の組成物を製造した。PVA210は、ケン化度88、重合度1000であり、関係式(1)を満足するものの、関係式(2)を満足しない。
【0091】
(比較例3)
重合体としてPVA405(株式会社クラレ)を用いた以外は、実施例1と同様の方法で、比較例2の組成物を製造した。PVA405は、ケン化度82、重合度500であり、関係式(1)を満足せず、関係式(2)を満足する。
【0092】
(比較例4)
重合体としてPVA203(株式会社クラレ)を用いた以外は、実施例2と同様の方法で、比較例4の組成物を製造した。
【0093】
(比較例5)
重合体としてPVA210(株式会社クラレ)を用いた以外は、実施例2と同様の方法で、比較例5の組成物を製造した。
【0094】
(比較例6)
重合体としてPVA706(株式会社クラレ)を用いた以外は、実施例1と同様の方法で、比較例6の組成物を製造しようとしたが、NMPにPVA706を溶解させることができなかった。PVA706は、ケン化度91.5、重合度600であり、関係式(1)及び関係式(2)を共に満足しない。
【0095】
(参考例1)
重合体を含有しない参考例1の組成物を以下のとおり製造した。
結着剤としてのポリフッ化ビニリデン(ポリフッ化ビニリデン8質量%含有のNMP溶液(株式会社クレハ・バッテリー・マテリアルズ・ジャパン製のL#7208)を使用)、及び、溶剤としてのNMPを混合装置で混合して混合液とした。
【0096】
上記混合液に導電助剤としてのアセチレンブラック(電気化学工業株式会社製のデンカブラック粒状品:一次粒径35nm)を加え、混合装置で混合して第1分散液を製造した。第1分散液に、第2正極活物質として、表面をカーボンコートしたLiFePOを添加して、混合装置で混合し、第2分散液とした。使用した第2正極活物質のD50は2.6μmであった。第2分散液に、第1正極活物質として、層状岩塩構造のLiNi5/10Co2/10Mn3/10を添加して、混合装置で混合し、参考例1の組成物を製造した。使用した第1正極活物質のD50は6μmであった。
【0097】
参考例1の組成物における、溶剤以外の固形分の配合量は64質量%であった。
また、参考例1の組成物における、第1正極活物質と第2正極活物質と導電助剤と結着剤との質量比は、第1正極活物質:第2正極活物質:導電助剤:結着剤=74:20:3:3であり、第1正極活物質と第2正極活物質との質量比は、第1正極活物質:第2正極活物質=79:21であった。
【0098】
(評価例1)
実施例1〜2、比較例1〜5及び参考例1の組成物につき、製造直後の粘度を測定した。さらに、室温密閉状態で製造から1週間経過後の組成物につき、粘度を測定した。粘度は、ブルックフィールドB型粘度計DV−II +Proにて、スピンドル64を用い、スピンドル回転速度20rpm、室温の条件で測定した。実施例1〜2、比較例1〜5及び参考例1の組成物の結果を表1に示す。また、実施例1及び比較例1〜3の組成物における、1週間後の粘度上昇率 (%)のグラフを図1に示す。
【0099】
【表1】
【0100】
実施例1及び実施例2の組成物は、比較的初期粘度が低く、また、比較例1〜比較例5の組成物と比較して、1週間後の組成物の粘度上昇率が好適に抑制されているといえる。関係式(1)と関係式(2)の両者を満足する本発明の組成物は粘度上昇を好適に抑制できることが裏付けられた。
図1