(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6703799
(24)【登録日】2020年5月13日
(45)【発行日】2020年6月3日
(54)【発明の名称】レーダ装置及び航跡表示方法
(51)【国際特許分類】
G01S 7/12 20060101AFI20200525BHJP
【FI】
G01S7/12 200
【請求項の数】11
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2018-507138(P2018-507138)
(86)(22)【出願日】2017年2月21日
(86)【国際出願番号】JP2017006317
(87)【国際公開番号】WO2017163716
(87)【国際公開日】20170928
【審査請求日】2018年8月31日
(31)【優先権主張番号】特願2016-59000(P2016-59000)
(32)【優先日】2016年3月23日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000166247
【氏名又は名称】古野電気株式会社
(72)【発明者】
【氏名】冨士川 巧
(72)【発明者】
【氏名】久保田 有吾
【審査官】
山下 雅人
(56)【参考文献】
【文献】
特開平01−202682(JP,A)
【文献】
特開平11−023707(JP,A)
【文献】
特開2010−197263(JP,A)
【文献】
特開2008−209199(JP,A)
【文献】
特開2008−039557(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00− 7/42
G01S 13/00−13/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信した電磁波の物標からの反射波に基づいてエコーを取得する取得部と、
前記エコーに基づいて、少なくとも物標の位置を示すエコーデータを作成するエコーデータ作成部と、
前記エコーに基づいて、物標の移動軌跡を示す航跡データを新たに作成するか否かが所定の表示領域毎に設定された判定用データを作成する判定用データ作成部と、
前記エコーと、前記判定用データと、に基づいて、前記航跡データを作成する航跡データ作成部と、
前記エコーデータ及び前記航跡データを表示する表示部と、
を備えることを特徴とするレーダ装置。
【請求項2】
請求項1に記載のレーダ装置であって、
前記航跡データ作成部は、前記航跡データを新たに作成しない領域に、以前に作成した前記航跡データが存在するときは、当該航跡データの存在を維持することを特徴とするレーダ装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のレーダ装置であって、
前記判定用データが所定スキャン毎に更新されることを特徴とするレーダ装置。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のレーダ装置であって、
前記判定用データが所定スイープ毎に更新されることを特徴とするレーダ装置。
【請求項5】
請求項1から4までの何れか一項に記載のレーダ装置であって、
前記判定用データでは、物標の移動軌跡を示す航跡データを新たに作成するか否かが前記表示部の画素毎に設定されていることを特徴とするレーダ装置。
【請求項6】
請求項1から5までの何れか一項に記載のレーダ装置であって、
前記判定用データでは、物標の種類に応じて、前記航跡データを新たに作成するか否かが定められていることを特徴とするレーダ装置。
【請求項7】
請求項6に記載のレーダ装置であって、
前記判定用データでは、前記航跡データを新たに作成しない領域として、陸地のエコーが存在する領域が特定されていることを特徴とするレーダ装置。
【請求項8】
請求項6に記載のレーダ装置であって、
前記判定用データでは、前記航跡データを新たに作成する領域として、移動物標のエコーが存在する領域が特定されていることを特徴とするレーダ装置。
【請求項9】
請求項1から8までの何れか一項に記載のレーダ装置であって、
前記判定用データでは、エコーの性質に応じて、前記航跡データを新たに作成するか否かが定められていることを特徴とするレーダ装置。
【請求項10】
請求項1から9までの何れか一項に記載のレーダ装置であって、
前記航跡データが、自機に対するエコーの相対的な位置変化を示すことを特徴とするレーダ装置。
【請求項11】
送信した電磁波の物標からの反射波に基づいてエコーを取得する取得工程と、
前記エコーに基づいて、少なくとも物標の位置を示すエコーデータを作成するエコーデータ作成工程と、
前記エコーに基づいて、物標の移動軌跡を示す航跡データを新たに作成するか否かが所定の表示領域毎に設定された判定用データを作成する判定用データ作成工程と、
前記エコーと、前記判定用データと、に基づいて、前記航跡データを作成する航跡データ作成工程と、
前記エコーデータ及び前記航跡データを表示する表示工程と、
を含むことを特徴とする航跡表示方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として、取得したエコーの航跡を表示可能なレーダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば他の移動体との衝突の回避を目的として、自機の周囲に存在する物標を検出して表示するレーダ装置が知られている。また、特許文献1のレー ダ装置では、レーダ映像上に、他の移動体の航跡が表示される。そして、航跡の表示方式としては、真航跡モードと相対航跡モードがある。真航跡モードでは、 取得したエコーの絶対位置に基づいてエコーの航跡を表示する。そのため、真航跡モードには、表示された航跡から他の物標の挙動を把握し易いという利点があ る。また、相対航跡モードでは、自機との相対的な位置関係に基づいてエコーの航跡を表示する。そのため、相対航跡モードには、自機に対して相対的に接近し ている危険物標を把握し易いという利点がある。このように他の移動体の航跡が表示されることで、他の移動体の移動方向が分かり易くなるため、衝突をより確 実に回避することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−59019号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来のレーダ装置では、取得した全てのエコーについて航跡が表示されてしまうため、例えば陸地のエコーについても航跡が表示される。特に、相対航 跡モードで航跡を表示させる場合、陸地のエコーについても航跡が表示される。また、真航跡モードで航跡を表示させる場合においても、自船位置及び船首方位 等の自船情報の誤差又は遅延により、陸地の航跡が表示される。一般的に陸地のエコーは大きいため、表示画面の多くの領域が陸地の航跡に覆われてしまう。そ のため、他のエコー及び航跡の視認性が低下する。また、表示画面に多数の物標が表示されている場合において、全ての物標について航跡を表示すると、エコー 及び航跡の視認性が低下する。
【0005】
本発明は以上の事情に鑑みてされたものであり、その主要な目的は、必要な航跡データのみを作成して表示可能なレーダ装置を提供することにある。
【0006】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0007】
本発明の第1の観点によれば、以下の構成のレーダ装置が提供される。即ち、このレーダ装置は、取得部と、エコーデータ作成部と、記憶部と、航跡データ作成 部と、表示部と、を備える。前記取得部は、送信した電磁波の物標からの反射波に基づいてエコーを取得する。前記エコーデータ作成部は、前記エコーに基づい て、少なくとも物標の位置を示すエコーデータを作成する。前記記憶部は、前記エコーに基づいて、物標の移動軌跡を示す航跡データを新たに作成するか否かが 所定の表示領域毎に設定された判定用データを記憶する。前記航跡データ作成部は、前記エコーと、前記判定用データと、に基づいて、前記航跡データを作成す る。前記表示部は、前記エコーデータ及び前記航跡データを表示する。
【0008】
これにより、一部のエコーのみについて航跡データを作成できるので、例えば必要な航跡データのみを作成して表示することができる。
【0009】
前記のレーダ装置においては、前記航跡データ作成部は、前記航跡データを新たに作成しない領域に、以前に作成した前記航跡データが存在するときは、当該航跡データの存在を維持することが好ましい。
【0010】
これにより、必要な航跡データが途中で消されることを防止できる。
【0011】
前記のレーダ装置においては、前記判定用データが所定スキャン毎に更新されることが好ましい。
【0012】
これにより、判定用データが所定スキャン毎に更新されるので、判定の精度を一層向上させることができる。
【0013】
前記のレーダ装置においては、前記判定用データが所定スイープ毎に更新されることが好ましい。
【0014】
これにより、判定用データが所定スイープに更新されるので、判定の精度を一層向上させることができる。
【0015】
前記のレーダ装置においては、前記判定用データでは、物標の移動軌跡を示す航跡データを新たに作成するか否かが前記表示部の画素毎に設定されていることが好ましい。
【0016】
これにより、判定を行う領域を細かくすることができるので、航跡データを詳細に表示することができる。
【0017】
前記のレーダ装置においては、前記判定用データでは、物標の種類に応じて、前記航跡データを新たに作成するか否かが定められていることが好ましい。
【0018】
これにより、所定の種類の物標のみについて航跡データを作成することが可能となる。
【0019】
前記のレーダ装置においては、前記判定用データでは、前記航跡データを新たに作成しない領域として、陸地のエコーが存在する領域が特定されていることが好ましい。
【0020】
あるいは、前記のレーダ装置においては、前記判定用データでは、前記航跡データを新たに作成する領域として、移動物標のエコーが存在する領域が特定されていることが好ましい。
【0021】
陸地の航跡は、表示する必要性が低く、むしろ他のエコーの視認性を低下させる。従って、上記の何れかの処理を行うことで、陸地の航跡データの作成を阻止し、移動物標のエコーの航跡を表示できる。
【0022】
前記のレーダ装置においては、前記判定用データでは、エコーの性質に応じて、前記航跡データを新たに作成するか否かが定められていることが好ましい。
【0023】
これにより、エコーの性質を用いることで物標に関する情報が得られるので、必要なエコーについての航跡データを作成できる。
【0024】
前記のレーダ装置においては、前記航跡データが、自機に対するエコーの相対的な位置変化を示すことが好ましい。
【0025】
エコーの相対位置の変化を表示する場合、移動していない物標についても位置の変化が航跡として表示されるので、不要な航跡が表示される。そのため、一部のエコーにのみ航跡を表示可能という効果をより有効に発揮させることができる。
【0026】
本発明の第2の観点によれば、以下の航跡表示方法が提供される。即ち、この航跡表示方法は、取得工程と、エコーデータ作成工程と、判定用データ作成工程 と、航跡データ作成工程と、表示工程と、を含む。前記取得工程では、送信した電磁波の物標からの反射波に基づいてエコーを取得する。前記エコーデータ作成 工程では、前記エコーに基づいて、少なくとも物標の位置を示すエコーデータを作成する。前記判定用データ作成工程では、前記エコーに基づいて、物標の移動 軌跡を示す航跡データを新たに作成するか否かが所定の表示領域毎に設定された判定用データを作成する。前記航跡データ作成工程では、前記エコーと、前記判 定用データと、に基づいて、前記航跡データを作成する。前記表示工程では、前記エコーデータ及び前記航跡データを表示する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明の一実施形態に係るレーダ装置の構成を示すブロック図。
【
図2】エコー及び航跡が表示されたレーダ映像を示す図。
【
図3】エコーデータ及び航跡データを作成する処理を示すフローチャート。
【
図4】エコーの陸地判定の結果と、エコーの信号レベルと、に基づいて航跡データを作成する処理を説明する表。
【
図5】エコーデータ、判定用データ、航跡データ、表示データの推移を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
次に、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
図1は、本実施形態に係る船舶用のレーダ装置1の主要構成を示すブロック図である。
図2は、エコー及び航跡が表示されたレーダ映像を示す図である。
【0029】
本実施形態のレーダ装置1が備えるレーダアンテナ10は、マグネトロンにより生成されたパルス状の送信波(電磁波)を送信可能であるとともに、当該送信波 の反射波を受信信号として受信する。なお、レーダ装置1が送信する送信波は、パルス状に限られず、連続波であっても良い。また、送信波は、マグネトロンで はなく半導体素子等によって生成されていても良い。
【0030】
また、レーダアンテナ10は、水平面内を所定の回転周期で回転しなが ら、送信波の送受信を繰り返し行う。これにより、水平面内を、自船を中心として、360°にわたって探知可能である。レーダアンテナ10が探知することで 得られた受信信号は、レーダ制御装置20へ出力される。
【0031】
レーダ制御装置20は、図略のマグネトロン及び送信回路等により 送信波を生成するとともに、レーダアンテナ10から入力された受信信号を処理する。また、レーダ制御装置20の各部(特に、取得部21、エコーデータ作成 部24、判定部28、及び航跡データ作成部29)は、具体的には、レーダ制御装置20が備える図示しないFPGA、ASIC、又はCPU等の演算処理部に より実現される。
【0032】
レーダアンテナ10から入力された受信信号(エコーを含む信号)は、レーダ制御装置20の取得部21に よって取得される。取得部21によって取得された受信信号は、A/D変換部22に入力される。A/D変換部22は、この信号をサンプリングし、複数ビット のデジタルデータに変換してスイープメモリ23に出力する。
【0033】
スイープメモリ23は、受信信号を1スイープ分リアルタイム で記憶することができる。なお、「スイープ」とは、送信波を送信してから次の送信波を送信するまでの一連の動作をいい、「1スイープ分の受信信号」とは、 送信波を送信した後、次の送信波を送信するまでの期間に取得された受信信号をいう。また、「スキャン」とは、レーダ装置1が自船周辺の一連の受信信号を取 得する動作をいう。
【0034】
エコーデータ作成部24は、受信信号に含まれるエコーに基づいて、物標の位置及びエコーの信号レベル 等を示すデータであるエコーデータを作成する。ここで、送信波を送信してからエコーが返ってくるまでに掛かる時間は、レーダアンテナ10から物標までの距 離に比例する。従って、送信波を送信してから受信信号を受信するまでの時間に基づいて物標までの距離を求めることができる。また、送信波を送信したときの アンテナ角度に基づいて物標が存在する方位を求めることができる。以上のようにして、エコーデータ作成部24は、受信信号に含まれるエコーに基づいてエ コーについて、物標の位置を求める。
【0035】
また、エコーデータ作成部24は、受信信号の振幅に基づいて、エコーの信号レベルを
求める。エコーデータ作成部24は、物標の位置及びエコーの信号レベルを求めて、エコーデータを作成する。エコーデータ作成部24は、作成したエコーデー タを、エコーデータ用画像メモリ25、判定用データ作成部26、及び航跡データ作成部29へ出力する。なお、エコーデータ作成部24は、受信信号が入力さ れる度にエコーデータを作成し、各部へ出力する。
【0036】
エコーデータ用画像メモリ25は、エコーデータ作成部24が作成したエコーデータを表示するために用いられる画像メモリである。エコーデータ用画像メモリ25に保存されたエコーデータを示す画像は、表示部31へ出力される。
【0037】
表示部31は、液晶等のディスプレイであり、ラスタスキャン式の表示装置である。上記のようにして作成されたエコーデータは、表示部31に表示される。図 2は、レーダ映像の例であり、中央の印は自船の位置を示している。エコー41は、他船のエコーである。エコー42は、陸地のエコーである。なお、自船の位 置は中央からズレた位置であっても良い。表示部31は、エコーデータが入力される度に表示内容を更新する。
【0038】
航跡データ作 成部29は、エコーデータ作成部24から入力されたエコーデータに基づいて、航跡データを作成する。航跡とは、物標の移動軌跡(位置変化)である。航跡 データとは、物標の移動軌跡を画面に表示するためのデータである。なお、航跡データ作成部29は、新たなエコーデータが入力される度に航跡データを作成 し、航跡データ用画像メモリ30へ出力する。
【0039】
ここで、航跡の表示方式としては、自船(自機)に対する物標の相対的な位置 変化を航跡として表示する相対航跡モードと、物標の絶対的な位置変化を航跡として表示する真航跡モードと、が存在する。相対航跡モードでは、自船に対する 物標の相対的な位置変化が航跡として画面上に表示される。真航跡モードでは、自船の動きとは無関係に、物標の現実の位置変化が航跡として画面上に表示され る。本実施形態では、相対航跡モードを用いて航跡を表示する例を説明するが、本発明は、真航跡モードに適用することもできる。
【0040】
航跡データ作成部29が出力する航跡データは、航跡データ用画像メモリ30へ出力される。航跡データ用画像メモリ30は、航跡データ作成部29が作成した 航跡データを表示するために用いられる画像メモリである。航跡データ用画像メモリ30に保存された航跡データを示す画像は、表示部31へ出力される。
図2 のレーダ映像では、エコー41について航跡45が表示されている。
【0041】
航跡45は、エコー41に近いほど色が濃くなるように (即ち透明度が低くなるように)表示されている。これにより、新しい航跡を古い航跡よりも強調して表示することができる。なお、この表示は一例であり、エ コー41に近いほど色相が変わるように表示しても良い。また、新しい航跡と古い航跡を区別せずに同じ色(即ち、色相、彩度、及び明度が同じ)で表示しても 良い。
【0042】
従来のレーダ装置では、全てのエコーについて航跡が表示されていた。従って、陸地のエコーについても航跡が表示さ れてしまい、他のエコー及び航跡の視認性が低下してしまう。この点、本実施形態のレーダ装置1は、
図2に示すように、他船のエコー41については航跡45 を表示しつつ、陸地のエコー42については航跡が表示されないように制御を行っている。
【0043】
以下、陸地以外のエコーにのみ航 跡を表示するための航跡表示方法に係る制御について
図3から
図5を参照して説明する。
図3は、エコーデータ及び航跡データを作成する処理を示すフロー チャートである。
図4は、エコーの陸地判定の結果と、エコーの信号レベルと、に基づいて航跡データを作成する処理を説明する表である。
図5は、エコーデー
タ、判定用データ、航跡データ、表示データの推移を示す図である。
【0044】
レーダ装置1は、陸地以外のエコーにのみ航跡を表示するための構成として、判定用データ作成部26と、記憶部27と、判定部28と、を備える。
【0045】
判定用データ作成部26は、所定の表示領域毎に(詳細には画素毎に)新たに航跡を作成するか否かが設定されているデータである判定用データを作成する。記 憶部27は、判定用データ作成部26が作成した判定用データを記憶する。なお、判定用データは、1画素を表示領域の1単位とする構成に代えて、複数画素を 表示領域の1単位としても良い。判定部28は、記憶部27の判定用データに基づいて、航跡を新たに表示するか否かを表示領域毎に(画素毎に)判定する。
【0046】
次に、
図3のフローチャートに沿って、航跡を作成する処理の流れを説明する。取得部21は、レーダアンテナ10から受信信号を取得する(取得工程)。エ コーデータ作成部24は、取得部21が取得したエコーに基づいて、エコーデータを作成する(S101、エコーデータ作成工程)。エコーデータ作成部24が 作成したエコーデータは、上述のように、エコーデータ用画像メモリ25、判定用データ作成部26、及び航跡データ作成部29へ出力される。ここで、エコー データ作成部24は、
図5のスキャン1回目〜スキャン4回目に示すようなエコーデータを順次作成するものとする。これらのエコーデータには、他船のエコー 41と、陸地のエコー42と、が含まれている。なお、陸地のエコーの位置が画面下方に移動しているのは、自船が画面上方に向かって移動しているからであ る。
【0047】
判定用データ作成部26は、1スキャン前のエコーデータに基づいて、判定用データを更新し、記憶部27に記憶する (S102、判定用データ作成工程)。なお、判定用データ作成部26は、1スキャン前ではなく最新のエコーデータに基づいて判定用データを更新しても良 い。ここで、本実施形態の判定用データは、航跡データを作成する際に、陸地のエコーについては航跡データが新たに作成されないようにするためのデータであ り、具体的には、取得部21が取得したエコーについて、陸地のエコーを示す領域(即ち、航跡データを新たに作成しない領域)を特定したデータである。
【0048】
図5のスキャン2回目の判定用データの欄には、スキャン1回目のエコーデータのうち、陸地のエコー42に相当する領域が特定されている。なお、スキャン2 回目の判定用データでスキャン1回目のエコーデータが用いられるのは、スキャン2回目のレーダ映像で、スキャン1回目の航跡データが初めて表示されるから である。従って、スキャン3回目の判定用データでは、スキャン2回目の陸地のエコーの画素が特定されている。
【0049】
判定用デー タ作成部26は、例えばエコーの大きさを求め、エコーの大きさが所定の閾値を超えている場合に、当該エコーが陸地のエコーと判断する。なお、判定用データ 作成部26は、エコーの大きさに加えて、エコーの移動速度(絶対速度)が所定の閾値以下である場合に、該当するエコーを陸地のエコーと判断する構成であっ ても良い。エコーが陸地のエコーかそれ以外のエコーかを判断する方法は任意であり、例えば地図又は海図の情報と、エコーの絶対位置と、を比較することで上 記の判断を行うこともできる。
【0050】
判定用データ作成部26は、1スキャン前のエコーデータに基づいて新たな判定用データを作 成すると、記憶部27が記憶する判定用データを更新する。判定用データの更新は、1スキャン毎に行われる。なお、判定用データの更新は、航跡データを作成 した後であって、次の航跡データを作成する前に(即ち航跡データの作成毎に)行われることが好ましいが、更新されるのであれば更新タイミングは任意であ る。例えば、判定用データを複数スキャン毎に更新したり、所定の時間間隔で更新しても良い。また、判定用データを所定スイープ(1スイープ又は複数スイー プ)毎に更新しても良い。また、
図5に示す4つのデータが作成(更新)されるタイミングは任意であり、それぞれのデータが同期して作成されなくても良い。 なお、記憶部27は、例えば、フラッシュメモリ(フラッシュディスク及びメモリーカード等)、ハードディスク、又は光ディスク等の不揮発性メモリであって も良いし、RAM等の揮発性メモリであっても良い。
【0051】
次に、判定部28は、1スキャン前のエコーデータと、更新後の判定用 データと、に基づいて、新たに航跡データを作成するか否かを領域毎に判定する(S103、判定工程)。具体的には、判定部28は、判定用データで特定した 領域にあるエコーは、陸地のエコーであるとみなす。逆に、判定部28は、判定用データで特定していない領域にあるエコーは、陸地以外のエコーであるとみな す。このようにして、1スキャン前のエコーデータについて、陸地のエコーか陸地以外のエコーか(即ち、新たに航跡データを作成するエコーか否か)を判定す ることができる。
【0052】
航跡データ作成部29は、エコーデータと、判定用データ(本実施形態では判定部28の判定結果)と、に 基づいて、航跡データを作成する(S104、航跡データ作成工程)。本実施形態のように航跡データが古くなるにつれて色を薄くする場合、作成された航跡 データは、スキャン毎に航跡データレベル(航跡データを表示する強さ(色の濃さ等)を示すレベル)を低下させる。つまり、新たに作成された航跡データは、 航跡データレベルが最も高い(色が最も濃い)。その後、スキャン毎に航跡データレベルが低下されていく(色を薄くしていく)。
【0053】
具体的には、航跡データ作成部29は、
図4の表に基づいて、航跡データを作成する。
図4では、「陸地判定」と「エコーの信号レベルが所定以上」の2つが記 載されている。「陸地判定」とは、判定部28が陸地のエコーであるとみなしたエコーである。「エコーの信号レベルが所定以上」は、文字通りエコーの信号レ ベルが所定以上であることを示す。これは、エコーの信号レベルが低い場合に航跡を作成すると、ノイズにも航跡が表示されることがあるため、エコーの信号レ ベルが所定以上の場合に航跡データを作成するとしたものである。なお、この処理は必須ではない。即ち、「エコーの信号レベルが所定以上」に代えて「エコー の有無」としても良い。
【0054】
図4の表の一番上の場合、即ち、陸地のエコーであって、エコーの信号レベルが所定以上の場合、前 回の航跡データレベルから1(所定の値)を減算した値を、新たな航跡データレベルとする。即ち、エコーが陸地と判定部28が判定した場合、エコーの信号レ ベルが所定以上の場合であっても、新たな航跡データは作成されず、前回の航跡データレベルを下げることのみが行われる。なお、該当する領域に前回の航跡 データが含まれていない場合、特に処理は行われない。
【0055】
また、
図4の表の上から2番目の場合、即ち、陸地のエコーであっ て、エコーの信号レベルが所定未満の場合、上記と同様に、前回の航跡データレベルから1を減算した値を、新たな航跡データレベルとする。また、
図4の表の 上から3番目の場合、即ち、陸地のエコーでなく、エコーの信号レベルが所定以上の場合、新たに航跡データを作成する。即ち、エコーが陸地以外のエコーと判 定部28が判定した領域については、新たな航跡データが作成される。
図4の表の上から4番目の場合、即ち、陸地のエコーでなく、エコーの信号レベルが所定 未満の場合、前回の航跡データレベルから1を減算した値を、新たな航跡データレベルとする。
【0056】
このように処理を行うこと で、陸地のエコーについては、航跡データが新たに作成されない。
図5においても、他船のエコー41と陸地のエコー42のうち、陸地のエコー42について は、航跡45は作成されていない。しかし、陸地のエコー42が存在する領域(航跡データを新たに作成しない領域)であっても、以前に作成した航跡データが 存在するときは、航跡データレベルを1減算するだけで、当該航跡データの存在を維持する。
【0057】
図5においても、スキャン4回 目では、他船のエコー41の航跡45が3つ並んでおり、最も古い航跡45は、陸地のエコー42が存在する領域であるが、航跡45の存在が維持されている。 なお、スキャン4回目の表示データにおいて、この最も古い航跡45は陸地のエコー42に重なっているため表示されていないが、時間が経過して陸地のエコー 42の位置が変化した場合は、この航跡45が表示される。
【0058】
図5の表示用データには、表示部31に表示されるデータである。表示用データは、エコーデータと、航跡データと、を重畳したデータである。なお、本実施形態では、エコーデータと航跡データとが重なっている場合はエコーデータが優先して表示される。
【0059】
以上に説明したように、レーダ装置1は、取得部21と、エコーデータ作成部24と、記憶部27と、航跡データ作成部29と、表示部31と、を備える。取得 部21は、送信した電磁波の物標からの反射波に基づいてエコーを取得する(取得工程)。エコーデータ作成部24は、このエコーに基づいて、少なくとも物標 の位置を示すエコーデータを作成する(エコーデータ作成工程)。このエコーに基づいて、物標の移動軌跡を示す航跡データを新たに作成するか否かが所定の表 示領域毎(本実施形態では画素毎)に設定された判定用データが作成され(判定用データ作成工程)、記憶部27に記憶されている。航跡データ作成部29は、 エコーと判定用データとに基づいて、航跡データを作成する(航跡データ作成工程)。表示部31は、エコーデータ及び航跡データを表示する(表示工程)。
【0060】
これにより、一部のエコーのみについて航跡データを作成できるので、例えば必要な航跡データのみを作成して表示することができる。
【0061】
以上に本発明の好適な実施の形態を説明したが、上記の構成は例えば以下のように変更することができる。
【0062】
上記の実施形態では、航跡データを新たに作成しないエコーとして陸地のエコーを例として挙げて説明したが、陸地以外(漁具及び航路ブイ等の移動しない物 標)のエコーにも本発明を適用できる。また、上記の実施形態では、陸地のエコーの位置を特定することで、「陸地のエコーがない領域」を、「航跡データを新 たに作成可能な領域」としている。これに代えて、例えば他船等の移動物標のエコーの位置を特定することで、「移動物標のエコーが存在する領域」を、「航跡 データを新たに作成可能な領域」としても良い。このように、本発明は、物標の種類に応じて、「航跡データを新たに作成可能な領域」を設定可能である。
【0063】
また、物標の種類ではなく、エコーの性質(移動速度、大きさ、位置、又は安定度等)に基づいて所定の条件を設定し、当該条件を満たすエコーが存在する領域 を「航跡データを新たに作成可能な領域」とすることもできる。なお、エコーの安定度とは、エコーの信号レベルの変化が小さいことをいう。また、物標の種類 とエコーの性質との両方に基づいて、航跡データを新たに作成するか否かを判定しても良い。
【0064】
上記実施形態では、記憶部27 には、1画面分の判定用データが記憶されているが、記憶部27には少なくとも判定部28が判定を行う画素について判定用データが記憶されていれば良く、同 時に1画面分の判定用データを記憶していなくても良い。例えば、レーダ装置1がドップラ周波数に基づいて物標のドップラ速度を検出可能である場合、スイー プメモリ23等から順次入力されるドップラ速度及びエコーデータに基づいて、移動物標か否かの判定を順次行う場合であっても、同様の航跡データが作成可能 となる。このような場合であっても、判定用データは、判定の処理のために一時的には記憶されるので、本発明の記憶部が存在することになる。
【0065】
上記の実施形態では、相対航跡モードと真航跡モードのうち、相対航跡モードに本発明を適用する例を説明したが、真航跡モードにも本発明を適用できる。真航 跡モードでは陸地は移動しないため航跡が表示されないと考えられるが、実際は方位センサ又は位置センサ(GPS受信機)等の誤差又は遅延により真航跡モー ドであっても陸地のエコーの航跡が表示され得るので、本発明を用いることで、陸地のエコーの航跡が表示されることをより確実に防止できる。
【0066】
上記の実施形態では、レーダアンテナ10は水平面内を回転させながら送信波を送信するが、レーダアンテナ10を回転させない構成のレーダ装置を用いても良 い。例えば、全周方向にアンテナ素子を有する構成であれば、レーダアンテナ10を回転させる必要がない。また、上記の実施形態では、水平面内を360°に わたって探知可能であるが、前方等の特定の方向のみを探知する構成であっても良い。更には、レーダアンテナ10は、送信用と受信用のアンテナをそれぞれ有 していても良い。
【0067】
上記の実施形態では、本発明を船舶に適用する例を説明したが、船舶以外の移動体(例えば航空機)に搭載されるレーダ装置にも本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0068】
1 レーダ装置
10 レーダアンテナ
20 レーダ制御装置
21 取得部
22 A/D変換部
23 スイープメモリ
24 エコーデータ作成部
25 エコーデータ用画像メモリ
26 判定用データ作成部
27 記憶部
28 判定部
29 航跡データ作成部
30 航跡データ用画像メモリ
31 表示部
41,42 エコー
45 航跡